(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091936
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】共鳴器および音響装置
(51)【国際特許分類】
H04R 1/28 20060101AFI20230626BHJP
【FI】
H04R1/28 310D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206825
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111763
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 隆
(72)【発明者】
【氏名】吉田 安住
(72)【発明者】
【氏名】薬師堂 裕明
(57)【要約】
【課題】 少ない数の共鳴器により筐体内に発生する複数種類の定在波を抑圧する。
【解決手段】 第1空間11を内包し、かつ、第1空間11を外部に連通させる第1開口部12が形成された第1筐体16を有する第1共鳴部10と、第2空間21を内包し、かつ、第2空間21を外部に連通させる第2開口部22が形成された第2筐体26を有する第2共鳴部20と、第1共鳴部10と第2共鳴部20とが連通するように接続する連通部30と、を有する共鳴器100であって、第1共鳴部10の共鳴周波数と、第2共鳴部2-の共鳴周波数とが同じである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1空間を内包し、かつ、前記第1空間を外部に連通させる第1開口部が形成された第1筐体を有する第1共鳴部と、
第2空間を内包し、かつ、前記第2空間を外部に連通させる第2開口部が形成された第2筐体を有する第2共鳴部と、
前記第1共鳴部と前記第2共鳴部とが連通するように接続する連通部と、
を有する共鳴器であって、
前記第1共鳴部の共鳴周波数と、前記第2共鳴部の共鳴周波数とが同じである共鳴器。
【請求項2】
前記第1共鳴部および第2共鳴部は、それぞれキャビティおよびネックを有するヘルムホルツ共鳴器であり、
前記第1共鳴部のキャビティ容積、ネック長およびネック面積と、前記第2共鳴部のキャビティ容積、ネック長およびネック面積とが同じである請求項1に記載の共鳴器。
【請求項3】
前記第1共鳴部および第2共鳴部はそれぞれ管共鳴器であり、
前記第1共鳴部の管路長および当該管路長方向の管路断面積分布と、前記第2共鳴部の管路長および当該管路長方向の管路断面積分布とが同じである請求項1に記載の共鳴器。
【請求項4】
スピーカユニットを支持するスピーカ筐体と、
前記スピーカ筐体内に配置された共鳴器と、を有し、
前記共鳴器は、
第1空間を内包し、かつ、前記第1空間を外部に連通させる第1開口部が形成された第1筐体を有する第1共鳴部と、
第2空間を内包し、かつ、前記第2空間を外部に連通させる第2開口部が形成された第2筐体を有する第2共鳴部と、
前記第1共鳴部と前記第2共鳴部とが連通するように接続する連通部と、
を有する共鳴器であって、
前記第1共鳴部の共鳴周波数と、前記第2共鳴部の共鳴周波数とが同じである音響装置。
【請求項5】
前記スピーカ筐体内に発生する前記共鳴器の1次共鳴周波数と同じ周波数の圧力定在波の同相の腹の位置であり、かつ、前記スピーカ筐体内に発生する前記共鳴器の2次共鳴周波数と同じ周波数の圧力定在波の逆相の腹の位置である2つの位置に、前記第1開口部と前記第2開口部が配置された請求項4に記載の音響装置。
【請求項6】
前記スピーカ筐体は、当該スピーカ筐体の内部空間を挟む第1および第2の内壁と、前記第1および第2の内壁と交差し、前記第1および第2の内壁と共通の空間を挟む第3および第4の内壁とを有し、
前記第1の内壁における前記第3の内壁の近傍の位置と前記第4の内壁の近傍の位置に、前記第1開口部と前記第2開口部が配置された請求項4に記載の音響装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、共鳴器および共鳴器を備えた音響装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スピーカ等の音響装置において、筐体内部に発生する定在波を共鳴器により抑圧する技術が知られている。例えば特許文献1に開示されたスピーカでは、スピーカ筐体内に両端開口のJ字形の共鳴管が配置される。ここで、共鳴管の管長は、スピーカ筐体の高さと同じであり、一方の開口端は、スピーカ筐体の天面または底面付近にあり、他方の開口端は、スピーカ筐体において高さが中間となる付近にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した従来の技術は、例えば特許文献1のように高さ方向の定在波と奥行き方向の定在波を抑圧する場合に、各々のための2本の共鳴管が必要になり、音響装置の設計が難しくなるという問題があった。
【0005】
この発明は、以上説明した事情に鑑みてなされたものであり、少ない数の共鳴器により筐体内に発生する複数種類の定在波を抑圧する技術的手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、第1空間を内包し、かつ、前記第1空間を外部に連通させる第1開口部が形成された第1筐体を有する第1共鳴部と、第2空間を内包し、かつ、前記第2空間を外部に連通させる第2開口部が形成された第2筐体を有する第2共鳴部と、前記第1共鳴部と前記第2共鳴部とが連通するように接続する連通部と、を有する共鳴器であって、前記第1共鳴部の共鳴周波数と、前記第2共鳴部の共鳴周波数とが同じである共鳴器を提供する。
【0007】
また、この発明は、スピーカユニットを支持するスピーカ筐体と、前記スピーカ筐体内に配置された共鳴器と、を有し、前記共鳴器は、第1空間を内包し、かつ、前記第1空間を外部に連通させる第1開口部が形成された第1筐体を有する第1共鳴部と、第2空間を内包し、かつ、前記第2空間を外部に連通させる第2開口部が形成された第2筐体を有する第2共鳴部と、前記第1共鳴部と前記第2共鳴部とが連通するように接続する連通部と、を有する共鳴器であって、前記第1共鳴部の共鳴周波数と、前記第2共鳴部の共鳴周波数とが同じである音響装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】この発明の一実施形態である共鳴器の基本構成を示す断面図である。
【
図2】同実施形態の第1具体例のベースとなった共鳴器の構成を示す断面図である。
【
図3】同ベースとなった共鳴器の1次共鳴状態を示す断面図である。
【
図4】同ベースとなった共鳴器の2次共鳴状態を示す断面図である。
【
図5】同第1具体例の1次共鳴状態を示す断面図である。
【
図6】同第1具体例の2次共鳴状態を示す断面図である。
【
図7】同実施形態の第2具体例のベースとなった共鳴器の構成を示す断面図である。
【
図9】同実施形態の第3具体例のベースとなった共鳴器の構成を示す断面図である。
【
図11】同共鳴器を備えた音響装置の一例であるスピーカの構成を示す側面図である。
【
図12】同第1具体例の他の形態を示す断面図である。
【
図13】同第1具体例の他の形態を示す断面図である。
【
図14】同第2具体例の他の形態を示す断面図である。
【
図15】同第2具体例の他の形態を示す断面図である。
【
図16】同第3具体例の他の形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照し、この発明の実施形態を説明する。
【0010】
図1は、この発明の一実施形態である共鳴器100の基本構成を示す断面図である。この共鳴器100は、第1共鳴部10と第2共鳴部20とを有する。ここで、第1共鳴部10は、第1空間11を内包し、かつ、第1空間11を外部に連通させる第1開口部12が形成された第1筐体16を有する。また、第2共鳴部20は、第2空間21を内包し、第2空間21を外部に連通させる第2開口部22が形成された第2筐体26を有する。共鳴器100は、仮想的な平面である対称面40に対して面対称をなしている。共鳴器100内には、この対称面40に沿って、第1共鳴部10と第2共鳴部20との境界をなす壁41が設けられている。連通部30は、例えば中空筒状の部材であり、壁41を貫通している。この連通部30は、第1共鳴部10と第2共鳴部20とが連通するように接続している。そして、共鳴器100では、第1共鳴部10の共鳴周波数と、第2共鳴部20の共鳴周波数とが同じである。
【0011】
本実施形態による共鳴器100によれば、第1共鳴部10の共鳴周波数と、第2共鳴部20の共鳴周波数とが同じであるため、共鳴器100内に1次共鳴が発生する場合に、連通部30を介した第1共鳴部10および第2共鳴部20間の空気粒子の移動が生じない。このため、連通部30は共鳴器100の1次共鳴周波数に影響を与えない。一方、共鳴器100内に2次共鳴が発生する場合には、連通部30を介した第1共鳴部10および第2共鳴部20間の空気粒子の移動が生じる。このため、連通部30の構成を変えることにより、共鳴器100の1次共鳴周波数を変化させることなく、2次共鳴周波数を変化させることができる。なお、この作用については、以下、具体例を挙げて詳細を明らかにする。
【0012】
図2は、本実施形態による共鳴器100のベースとなった共鳴器101の構成を示す断面図である。共鳴器101は、第1共鳴部10aおよび第2共鳴部20aからなる。第1共鳴部10aは、第1空間11aを内包し、かつ、第1空間11aを外部に連通させる第1開口部12aが形成された第1筐体16aを有する。第2共鳴部20aは、第2空間21aを内包し、かつ、第2空間21aを外部に連通させる第2開口部22aが形成された第2筐体26aを有する。この共鳴器101は、対称面40aに対して面対称をなしている。以下では、第1共鳴部10aおよび第2共鳴部20a間の境界に原点を有するxyz直交座標系を想定し、共鳴器101について説明する。ここで、x軸は
図2において第1共鳴部10aから第2共鳴部20aに向かう方向の軸であり、y軸およびz軸は互いに直交し、かつ、x軸に直交する軸である。
図3および
図4にも同様な直交座標系が示されている。
【0013】
図2において、共鳴器101内の任意の位置(x、y、z)および任意の時刻tにおける速度ポテンシャルをφ(x、y、z、t)とすると、共鳴器101内の任意の位置(x、y、z)では次式に示す波動方程式が成立する。
【数1】
ここで、cは音速、pは音圧、ρは空気粒子の体積密度、v
x、v
yおよびv
zはx軸方向、y軸方向およびz軸方向の空気粒子の速度である。
【0014】
この波動方程式に対し、次式に示すように対称面40aにおいて空気粒子の速度が0であるという境界条件を適用する。
【数2】
【0015】
この場合、次式の微分方程式の解となる速度ポテンシャルΦ(x、y、z、t)が共鳴器101内に発生することによりこの境界条件を適用した波動方程式が成立する。
【数3】
【0016】
この式(3)の解となる速度ポテンシャルΦ(x、y、z、t)は、対称面40a(x=0)に対して面対称に分布した速度ポテンシャルである。
図3はこの速度ポテンシャルが分布した共鳴器101の状態を示す図である。
図3に示すように、第1開口部12aに粒子速度定在波の腹(音圧小、速度大)が位置し、第2開口部22aに粒子速度定在波の逆相の腹(音圧小、逆方向の速度大)が位置し、対称面40aに粒子速度定在波の節(音圧大、速度小)が位置する1次共鳴状態において式(2)の境界条件を適用した波動方程式が成立する。
【0017】
次に、上記式(1.1)の波動方程式に対し、次式に示すように対称面40aにおいて音圧が0であるという境界条件を適用する。
【数4】
【0018】
この場合、次式を満たす速度ポテンシャルΦ(x、y、z、t)が共鳴器101内に発生することによりこの境界条件を適用した波動方程式が成立する。
【数5】
【0019】
この式(5)は、対称面40a(x=0)に対して逆面対称に分布した速度ポテンシャルΦ(x、y、z、t)を意味する。
図4はこの速度ポテンシャルが分布した共鳴器101の状態を示す図である。
図4に示すように、第1開口部12aに粒子速度定在波の腹(音圧小、速度大)が位置し、第2開口部22aに粒子速度定在波の同相の腹(音圧小、同方向の速度大)が位置し、対称面40aに粒子速度定在波の逆相の腹(音圧小、逆方向の速度大)が位置する2次共鳴状態において式(4)の境界条件を適用した波動方程式が成立する。
【0020】
以上のように、1次共鳴状態では、第1共鳴部10aおよび第2共鳴部20a間の空気粒子の移動はないが、2次共鳴状態では、第1共鳴部10aおよび第2共鳴部20a間の空気粒子の移動がある。本実施形態では、この点を利用し、共鳴器101の1次共鳴周波数を変化させることなく、2次共鳴周波数を変化させる。
【0021】
図5は本実施形態の第1具体例である共鳴器102の構成を示す断面図である。この共鳴器102は、
図2の共鳴器101に対し、対称面40aに沿って第1共鳴部10aと第2共鳴部20aとの境界をなす壁41aを設け、また、この壁41aを通過する中空筒状の連通部30aが設けたものである。この連通部30aは第1共鳴部10aと第2共鳴部20aとが連通するように接続する。この連通部30aを介して第1共鳴部10aおよび第2共鳴部20a間の空気粒子の移動が可能である。
【0022】
図5に示す共鳴器102において、対称面40aでの粒子速度が0であるという境界条件を波動方程式(式(1.1))に適用した場合、上述した
図3の構成と同様、次式の微分方程式の解となる速度ポテンシャルΦ(x、y、z、t)が共鳴器101内に発生する場合に波動方程式が成立する。
【数6】
【0023】
この場合、共鳴器102は、
図5に示すように、第1開口部12aに粒子速度定在波の腹(音圧小、速度大)が位置し、第2開口部22aに粒子速度定在波の逆相の腹(音圧小、逆方向の速度大)が位置し、対称面40aに粒子速度定在波の節(音圧大、速度小)が位置する1次共鳴状態となる。この1次共鳴状態では、連通部30aを介した空気粒子の移動がないので、共鳴器102の1次共鳴周波数は、
図3に示す共鳴器101の1次共鳴周波数に対して変化しない。
【0024】
次に、共鳴器102において、対称面40aでの音圧が0であるという境界条件を波動方程式に適用する。この場合、
図6に示すように、第1開口部12aに粒子速度定在波の腹(音圧小、速度大)が位置し、第2開口部22aに粒子速度定在波の同相の腹(音圧小、同方向の速度大)が位置し、対称面40aに粒子速度定在波の逆相の腹(音圧小、逆方向の速度大)が位置する2次共鳴状態において、当該境界条件を適用した波動方程式が成立する。この2次共鳴状態では、連通部30aを介した第1共鳴部10aおよび第2共鳴部20a間の空気粒子の移動がある。
【0025】
ここで、連通部30aの開口面積をS
p、軸長をlとし、連通部30a内の空気粒子の位置をu
pとし、連通部30aが対称面40aにおいて2等分されているとすると、連通部30aにおける対称面40aの右側の領域および左側の領域では次式(7.1)および(7.2)の運動方程式が各々成立する。
【数7】
【0026】
従って、連通部30aの開口面積Spおよび軸長lを変化させることにより、共鳴器102の1次共鳴周波数を変化させることなく、2次共鳴周波数を変化させることができる。
【0027】
本実施形態の第2具体例は、第1共鳴部および第2共鳴部をそれぞれヘルムホルツ共鳴器とする共鳴器である。
図7はこの第2具体例のベースとなった共鳴器103の構成を示す断面図である。この共鳴器103は、対称面40bに対して面対称をなしている。この対称面40bは、壁ではなく、仮想的な平面である。共鳴器103において、対称面40bの左側の第1共鳴部10bは、第1開口部12bを有するネック13bと、第1空間であるキャビティ14bとを内包した第1筐体を有する。また、対称面40bの右側の第2共鳴部20bは、第2開口部22bを有するネック23bと、第2空間であるキャビティ24bとを内包した第2筐体を有する。ここで、キャビティ14bおよび24bのキャビティ容積はいずれもV/2である。また、ネック13bおよび23bは、いずれもネック面積がSであり、ネック長がlである。
【0028】
対称面40bにおいて空気粒子速度が0であるという境界条件の下では、第1共鳴部10bおよび第2共鳴部20bは、各々ネックを1個有し、キャビティ容積がV/2であるヘルムホルツ共鳴器として機能する。この場合、2つの共鳴部のネック13bおよび23b内における空気粒子の位置をu
1、u
2とすると、第1共鳴部10bのキャビティ14b内の音圧pは、次式により与えられる。第2共鳴部20bも同様である。
【数8】
【0029】
また、第1共鳴部10bでは、次の運動方程式が成立する。第2共鳴部20bも同様である。
【数9】
【0030】
そして、式(8)を式(9)に代入すると、次式が得られる。
【数10】
【0031】
この式(10)を満足する共鳴周波数f
Nおよび共鳴モード(u
N1、u
N2)は、次式に示すものとなる。
【数11】
ここで、式(11.2)は、第1開口部12bおよび第2開口部22bに粒子速度定在波の同相の腹が位置することを意味している。
【0032】
次に、対称面40bにおいて音圧が0である場合、第1共鳴部10bのネック13bにおける空気粒子の挙動は、次式の運動方程式に従う。第2共鳴部20bのネック23bも同様である。
【数12】
【0033】
この場合、共鳴器103の共鳴周波数f
Nおよび共鳴モード(u
N1、u
N2)は、次式に示すものとなる。
【数13】
ここで、式(13.2)は、共鳴器103が第1開口部12bにおける粒子速度を第2開口部22bにそのまま伝える剛体モードとなることを示している。
【0034】
図8は本実施形態の第2具体例である共鳴器104の構成を示す断面図である。この共鳴器104は、
図7の共鳴器103に対し、対称面40bに沿って壁41bを設け、かつ、この壁41bを貫通する連通部30bを設けたものである。
図7の構成と同様、対称面40bの左側の第1共鳴部10bは、第1開口部12bを有するネック13bと、第1空間であるキャビティ14bとを内包した第1筐体を有する。また、対称面40bの右側の第2共鳴部20bは、第2開口部22bを有するネック23bと、第2空間であるキャビティ24bとを内包した第2筐体を有する。
図7の構成と同様、キャビティ14bおよび24bのキャビティ容積はいずれもV/2である。また、ネック13bおよび23bは、いずれもネック面積がSであり、ネック長がlである。そして、共鳴器104において、壁41bを貫通する連通部30bは、開口面積S
p、軸長l
pを有する中空筒状の部材であり、対称面41bにおいて2等分される。
【0035】
対称面40bにおいて連通部30bを通過する空気粒子速度が0である場合、第1共鳴部10bおよび第2共鳴部20bは、各々ネックを1個有し、キャビティの容積がV/2であるヘルムホルツ共鳴器として機能する。この場合、共鳴周波数f
N、共鳴モード(u
N1、u
N2、u
Np)は次式により与えられる。
【数14】
ここで、式(14.2)は、共鳴器104が、第1開口部12bおよび第2開口部22bに粒子速度定在波の同相の腹が位置し、連通部30に粒子速度定在波の節が位置する1次共鳴状態になることを意味している。そして、式(14.1)は、連通部30を設けても、連通部30がない場合に比べて1次共鳴周波数f
Nが変化しないことを示している。
【0036】
次に、対称面40bにおいて音圧が0である場合、第1共鳴部10bは、ネック面積Sおよびネック長lを有するネック13bと、ネック面積S
pおよびネック長l
p/2を有するネック(連通部30bの半分)と、キャビティ容積V/2のキャビティ14bとからなるヘルムホルツ共鳴器とみなせるので、第1共鳴部10bにおける空気粒子の挙動は、次式の運動方程式に従う。第2共鳴部20bも同様である。
【数15】
【0037】
ここで、式(15.1)を式(15.2)に代入すると、次式が得られる。
【数16】
【0038】
この式(16)の解として、2つの解が得られる。第1の解は、次式に示す剛体モードである。
【数17】
【0039】
式(16)の第2の解は、次式に示す2次共鳴である。
【数18】
式(18.1)は、2次共鳴周波数f
Nに連通部30bの長さl
pが関与することを示している。従って、共鳴器104では、連通部30bの長さlpを変えることにより、1次共鳴周波数を変化させることなく、2次共鳴周波数を変化させることができる。
【0040】
本実施形態の第3具体例は、第1共鳴部10および第2共鳴部20をそれぞれ管共鳴器とする共鳴器である。
図9はこの第3具体例のベースとなった共鳴器105の構成を示す断面図である。この共鳴器105は、対称面40bに対して面対称をなしている。この対称面40bは、壁ではなく、仮想的な平面である。共鳴器105では、第1共鳴部10の管路長および当該管路長方向の管路断面積分布と、第2共鳴部20の管路長および当該管路長方向の管路断面積分布とが同じである。具体的には、共鳴器105において、対称面40bの左側の第1共鳴部10cは、管路長L/2のまっすぐな管共鳴器であり、対称面40bの右側の第2共鳴部20cも、管路長L/2のまっすぐな管共鳴器である。
【0041】
この共鳴器105では、次式の波動方程式が成立する。
【数19】
【0042】
そこで、この波動方程式の解の形を次式のように仮定する。
【数20】
【0043】
この式(20)を式(19.1)に代入すると、次式が得られる。
【数21】
【0044】
この式(21)の解の形は次式のようになる。
【数22】
【0045】
ここで、式(21)の波動方程式に対し、次式に示すように対称面40bにおいて粒子速度が0であるという境界条件を適用する。
【数23】
【0046】
この場合、波動方程式が非自明解を持つための条件は、次式に示す通りとなる。
【数24】
【0047】
従って、共鳴周波数f
n、共鳴モードΦ
nは、次式のようになる。
【数25】
上記式(25.1)および(25.2)において、n=1としたものが、1次共鳴の共鳴周波数および共鳴モードとなる。
【0048】
次に、式(21)の波動方程式に対し、次式に示すように対称面40bにおいて音圧が0であるという境界条件を適用する。
【数26】
【0049】
この場合、波動方程式が非自明解を持つための条件は、次式に示す通りとなる。
【数27】
【0050】
従って、共鳴周波数fn、共鳴モードΦnは、次式のようになる。
【数28】
上記式(28.1)および(28.2)において、n=1としたものが、1次共鳴の共鳴周波数および共鳴モードとなる。
【0051】
図10は本実施形態の第3具体例である共鳴器106の構成を示す断面図である。この共鳴器106は、
図9の共鳴器105に対し、壁41cおよび連通部30cを追加したものである。ここで、壁41cは、共鳴器106内において対称面40bに沿って設けられている。また、連通部30cは、壁41cを貫通している。この連通部30cは、開口面積S
p、軸長l
pを有する中空管状の部材であり、対称面40bにおいて2等分されている。
【0052】
この共鳴器106において、対称面40bにおける粒子速度が0であるという境界条件を適用した場合、共鳴周波数および共鳴モードは、上述した式(26.1)および(26.2)に示す通りである。すなわち、ネックである連通部30cが追加されても、1次共鳴周波数は変化しない。
【0053】
次に、対称面40bにおいて音圧が0であるとする。この場合、共鳴器106では、対称面40b(x=0)にネック面積S
p、ネック長l
p/2を有するネック(すなわち、連通部30cの半分)があり、このネックの開口端の音圧が0になっているとみなすことができる。このネックにおける空気粒子の挙動は、次式に示す波動方程式および境界条件に従う。
【数29】
【0054】
これらの式より、次式に示す解の形および特性方程式が得られる。
【数30】
【0055】
式(30.2)の特性方程式において、k>1の場合の解をk
1、k
2、…とおくと、共鳴周波数f
nおよび共鳴モードφ
nは次式のようになる。
【数31】
【0056】
式(31.1)および(31.2)において、n=1としたものが、2次共鳴の共鳴周波数および共鳴モードとなる。式(30.2)の特性方程式において、解k1は連通部30cの軸長lpが関与する。従って、連通部30cの軸長lpが変化することにより、2次共鳴の共鳴周波数が変化する。
以上が本実施形態の第1~第3具体例の詳細である。
【0057】
図11は、本実施形態による共鳴器100を備えた音響装置の一例であるスピーカ300の構成を示す側面図である。このスピーカ300のスピーカ筐体200は、天面201と、底面202と、スピーカユニット301を支持する前面203と、背面204と、右側面205と、左側面206とにより囲まれた直方体形状を筐体である。
【0058】
図11に示す例では、天面201および底面202が、スピーカ筐体200の内部空間を挟む第1および第2の内壁であり、前面203および背面240が、第1および第2の内壁と交差し、第1および第2の内壁と共通の空間を挟む第3および第4の内壁である。そして、共鳴器100は、第1の内壁(天面201)における第3の内壁(前面203)の近傍の位置と、第4の内壁(背面204)の近傍の位置に、第1開口部12と第2開口部22が配置されている。ここで、内壁の近傍とは、内壁面から抑圧対象の定在波の波長の10%程度離れた位置までの範囲を言うこととする。
【0059】
図11には、スピーカ筐体200内に発生する2種類の定在波が例示されている。1つは、第1の内壁(天面201)および第2の内壁(底面202)間に発生する1次共鳴の圧力定在波Waである。ここで、第1の内壁(天面201)および第2の内壁(底面202)には、圧力定在波Waの互いに逆相の腹が位置している。もう1つは第3の内壁(前面203)および第4の内壁(背面204)間に発生する1次共鳴の圧力定在波Wbである。ここで、第3の内壁(前面203)および第4の内壁(背面204)には、圧力定在波Wbの互いに逆相の腹が位置している。
【0060】
共鳴器100の第1開口部12および第2開口部22には、圧力定在波Waの互いに同相の腹の圧力がそれぞれ与えられる。また、共鳴器100の第1開口部12および第2開口部22には、圧力定在波Wbの互いに逆相の腹の圧力がそれぞれ与えられる。
【0061】
図11において、圧力定在波Waの周波数は、共鳴器100の1次共鳴周波数と同じである。また、圧力定在波Wbの周波数は、共鳴器100の2次共鳴周波数と同じである。従って、共鳴器100により、圧力定在波Waおよび圧力定在波Wbの両方を抑圧することができる。
【0062】
また、本実施形態では、上述したように連通部30の構成を変えることにより、共鳴器100の1次共鳴周波数を変化させることなく、2次共鳴周波数を変化させることができる。従って、第1の内壁(天面201)および第2の内壁(底面202)間の距離と、第3の内壁(前面203)および第4の内壁(背面204)間の距離との比が所定の比でない場合においても、連通部30の調整により、共鳴器100の1次共鳴周波数および2次共鳴周波数を調整し、スピーカ筐体100内に発生する2種類の定在波の両方を抑圧することができる。
【0063】
以上のように、本実施形態によれば、少ない数の共鳴器により筐体内に発生する複数種類の定在波を抑圧することができる。
【0064】
<他の実施形態>
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明には他にも実施形態が考えられる。例えば次の通りである。
【0065】
(1)
図5および
図6に示す例では、第1共鳴部10aと第2共鳴部20aとの境界をなす壁41aを貫通する連通部30aを共鳴器102に設けた。しかし、第1共鳴部10aと第2共鳴部20aと連通部30aの構成は、これに限定されるものではない。例えば
図12に示す共鳴器102’のように、第1共鳴部10aと第2共鳴部20aとを離間させ、両者を繋ぐ連通部30aを設けてもよい。
【0066】
(2)
図5および
図6に示す例では、共鳴器102は対称面40aに対して面対称をなしていた。しかし、第1共鳴部10aと第2共鳴部20aの共鳴周波数が同じになるのであれば、共鳴器102は対称面40aに対して面対称でなくてもよい。例えば
図13に示す共鳴器102’’のように、第2共鳴部20aが第1共鳴部10aに対して曲がっていてもよく、あるいは第2共鳴部20aが第1共鳴部10aに対して捻じれていてもよい。
【0067】
(3)2つの共鳴部がいずれもヘルムホルツ共鳴器である共鳴器についても同様である。
図8に示す例では、ヘルムホルツ共鳴器である第1共鳴部10bと第2共鳴部20bとの境界をなす壁41bを貫通する連通部30bを共鳴器104に設けた。しかし、例えば
図14に示す共鳴器104’のように、第1共鳴部10bと第2共鳴部20bとを離間させ、両者を繋ぐ連通部30bを設けてもよい。
【0068】
(4)
図8に示す例では、共鳴器104は対称面40bに対して面対称をなしていた。しかし、第1共鳴部10bと第2共鳴部20bの共鳴周波数が同じになるのであれば、共鳴器104は対称面40bに対して面対称でなくてもよい。例えば
図15に示す共鳴器104’’のように、第1共鳴部10bのネック13bと第2共鳴部20bのネック23bが面対称でない位置にあってもよい。また、第1共鳴部10bと第2共鳴部20bとで、キャビティ形状が異なっていてもよい。
【0069】
(5)
図10に示す例では、いずれも管共鳴器である第1共鳴部10cと第2共鳴部20cとの境界をなす壁41cを貫通する連通部30cを共鳴器106に設けた。しかし、そのようにする代わりに、例えば
図16に示す共鳴器106’のように、第1共鳴部10cと第2共鳴部20cとを離間させ、両者を繋ぐ連通部30cを設けてもよい。また、第1共鳴部10cと第2共鳴部20cとで、管路断面形状、管路の軌跡(形状)が異なっていてもよい。
【0070】
(6)上記実施形態では、第1共鳴部10および第2共鳴部20間に1個の連通部30を設けたが、2個以上の連通部30を設けてもよい。
【0071】
(7)共鳴器の1次共鳴周波数を変えることなく、2次共鳴周波数を変化させるためには、厳密には次の条件を満たす必要がある。すなわち、第1共鳴部と第2共鳴部とで、1次共鳴の共鳴周波数、減衰比、連通部がない場合の第1共鳴部と第2共鳴部の開口端の空気粒子の体積速度に対する対称面の圧力分布を揃え、対称面の接線方向の粒子速度が無視できる位置に連通部を設けることが必要である。
【0072】
ここで、「連通部がない場合の第1共鳴部と第2共鳴部の開口端の空気粒子の体積速度に対する対称面の圧力分布」について説明する。連通部がない場合の1次共鳴の速度ポテンシャル分布をΦ
N(x、y、z)、開口端の開口面をD
o、対称面の領域をD
m、開口面の法線方向ベクトルをn
oとおくと、開口面の空気粒子の体積速度は次式のようになる。
【数32】
【0073】
対称面の圧力分布をjρωΦ
N(x、y、z)(ただし、x、y、zは領域D
mに含まれる)とすると、「連通部がない場合の第1共鳴部と第2共鳴部の開口端の空気粒子の体積速度に対する対称面の圧力分布」は次式のようになる。
【数33】
【0074】
この圧力分布を第1共鳴部と第2共鳴部とで揃えると、2つの共鳴部の開口端を同じ音圧で励振した時に対称面付近で圧力がつり合い、連通部があってもなくても1次共鳴には影響がなくなる。
【0075】
なお、第1共鳴部および第2共鳴部がヘルムホルツ共鳴器であっても管共鳴器であっても、対称面の断面寸法(あるいは連通部の開口断面寸法)が波長に対して小さい場合は上記圧力分布における圧力の平均値が第1共鳴部と第2共鳴部とで合えば問題ない。
【0076】
また、対称面の断面寸法(あるいは連通部の開口断面寸法)が1次共鳴波の波長に対して小さい場合には、対称面接線方向の粒子速度が無視できない位置に連通部を設けても問題ない。
【符号の説明】
【0077】
100,101,102,102’,102’’,103,104,104’,104’’,105,106……共鳴器、10,10a,10b,10c……第1共鳴部、20,20a,20b,20c……第2共鳴部、12,12a,12b,12c……第1開口部、22,22a,22b,22c……第2開口部、16,16a……第1筐体、26,26a……第2筐体、30,30a,30b,30c……連通部、40,40a,40b,40c……対称面、41,41a,41b,41c……壁、13b,23b……ネック,14b,24b……キャビティ、300……スピーカ、200……スピーカ筐体、201……天面、202……底面、203……前面、204……背面、205……左側面、206……右側面。