(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091946
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】複層フィルム、粘着フィルム、半導体製造工程用粘着フィルム、および保護用フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 7/022 20190101AFI20230626BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20230626BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20230626BHJP
C09J 7/24 20180101ALI20230626BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230626BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
B32B7/022
H01L21/78 M
C09J7/38
C09J7/24
B32B27/00 M
B32B27/32 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206838
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】503048338
【氏名又は名称】ダイヤプラスフィルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】川口 祐二
【テーマコード(参考)】
4F100
4J004
5F063
【Fターム(参考)】
4F100AK03A
4F100AK03C
4F100AK04A
4F100AK04C
4F100AK07A
4F100AK07C
4F100AK12A
4F100AK12B
4F100AK12C
4F100AK62A
4F100AK62C
4F100AK70A
4F100AK70C
4F100AL05A
4F100AL05C
4F100AL09A
4F100AL09B
4F100AL09C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA04
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4F100BA10A
4F100BA10D
4F100CB05D
4F100EH20
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4F100GB41
4F100JA04A
4F100JA04C
4F100JK07A
4F100JL13D
4J004AA10
4J004AB01
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4J004DB02
4J004EA06
4J004FA08
5F063AA13
5F063AA18
5F063DD67
5F063EE02
5F063EE07
5F063EE08
5F063EE09
5F063EE27
(57)【要約】
【解決課題】
十分な耐熱性を有し、ブレードダイシングやステルスダイシングといった想定される複数のダイシング工程に適用可能な、ある程度の強度および柔軟性を有する複層フィルムを提供することにある。
【解決手段】
少なくとも表層及び裏層を有し、ポリオレフィン系樹脂を含有する複層フィルムであって、表層及び裏層の少なくとも一方の層の引張弾性率が50MPa以上500MPa以下であり、且つ該表裏層を有する複層フィルムの引張弾性率が500MPa以上900MPa以下であることを特徴とする複層フィルム。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表層及び裏層を有し、ポリオレフィン系樹脂を含有する複層フィルムであって、
表層及び裏層の少なくとも一方の層の引張弾性率が50MPa以上500MPa以下であり、
且つ、該複層フィルムの引張弾性率が500MPa以上900MPa以下であることを特徴とする複層フィルム。
【請求項2】
前記ポリオレフィン系樹脂が、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、オレフィン系エラストマー、及びこれらのいずれか2種以上の組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の複層フィルム。
【請求項3】
複層フィルムの各層を構成する樹脂組成物中に、さらにスチレン系エラストマーを含有する、請求項1又は2に記載の複層フィルム。
【請求項4】
表層、裏層を構成する各々の樹脂組成物中のスチレン系エラストマーの含有量が、表層と裏層の中間に位置する層を構成する樹脂組成物中のスチレン系エラストマーよりも多い、請求項1~3のいずれかに記載の複層フィルム。
【請求項5】
120℃以上の結晶融解ピークを有するポリオレフィン系樹脂を含有する、請求項1~4のいずれかに記載の複層フィルム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の複層フィルムの少なくとも片方の面に粘着層を有する、粘着フィルム。
【請求項7】
請求項6に記載の粘着フィルムを用いた半導体製造工程用粘着フィルム。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載の複層フィルムを用いた半導体製造工程用粘着フィルムの粘着剤層側の保護用フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造工程で使用される粘着フィルム(テープ)、看板、自動車等へ意匠性を付与するために貼り付けされるステッカー、ラベル及びマーキングフィルム等の化粧用粘着フィルム(テープ)、又は化粧シート等の基材として好適に用いられる複層フィルム、当該複層フィルムに粘着剤層を設けた粘着フィルム、及び当該複層フィルムを用いた半導体製造工程用粘着フィルムの粘着層側の保護用フィルム等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造工程で使用される粘着フィルム(テープ)、看板、自動車等へ意匠性を付与するために貼り付けされるステッカー、ラベル及びマーキングフィルム等の化粧用粘着フィルム(テープ)、化粧シート等には、着色性、加工性、耐傷付き性、耐候性等が優れるポリ塩化ビニル樹脂製のフィルム(以下、「PVC系フィルム」ともいう。)が基材として多用されてきた。
【0003】
上記PVC系フィルムは、それ自体剛性を有しているが、粘着フィルムとして機能し得るよう、柔軟性付与の目的で可塑剤が添加される。しかしながら、用いる可塑剤によっては、粘着剤との相溶性が悪く、粘着フィルムとした場合に安定性が悪く、可塑剤のブリードアウトが著しくなるという問題がある。また、可塑剤の使用自体に規制が強まる傾向もある。
そこで、PVC系フィルムに代わる材料として、ポリオレフィン系樹脂フィルムが広く用いられてきている。
【0004】
また、半導体を製造する工程においても、半導体ウエハやパッケージ等を切断する際に半導体ウエハ加工用の粘着フィルムが用いられており、上記のような問題からポリオレフィン系樹脂フィルムが用いられるケースが増加している。
このような半導体製造工程用のフィルムとして、PVC系、ポリオレフィン系樹脂を用いたフィルムが開発されている(例えば特許文献1)。
【0005】
近年、半導体素子の小型化・薄型化が進み、フィルムに取扱い性やエキスパンド時に求められる柔軟性だけでなく、チップの破損やエキスパンド時のチップの紛失を抑制するために、ウエハと粘着フィルムを加熱して貼り合わせてより強固に密着させる、ダイシング後のエキスパンド工程を加熱して行うといった、加熱する工程が想定されることから、半導体製造工程用フィルムに耐熱性も求められるケースがある。
【0006】
また、回転するブレードを用いたブレードダイシング以外にも、レーザー光を照射することで半導体ウエハの一部を改質し、半導体ウエハを引き延ばすことでウエハを分割するステルスダイシングといった工程への適性を求められるケースもある。そのステルスダイシングによるウエハの分割の際には、分割を行うためにウエハにある程度の力を与える必要が生ずるため、粘着フィルムに分割に必要な力が加わるよう、粘着フィルムの基材であるフィルムにもある程度の強度が必要となってくるケースもある。
【0007】
特許文献2には、低温でもエキスパンド性を維持するためにポリエチレン系樹脂を用いたダイシング用基体フィルムが開示されている。
また、特許文献3には、帯電防止性能の付与および柔軟性と耐熱性に優れた、ホモポリプロピレン、高分子型帯電防止剤、及び熱可塑性エラストマーを所定の配合比で含有する樹脂組成物からなる半導体製造工程用基材フィルムが開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載のフィルムには比較的融点の低いポリエチレン系樹脂のみが使用されており、低温のエキスパンド性には優れると思われるものの、耐熱性には改善の余地があると考えられる。また、特許文献3に記載されているフィルムでは、帯電防止性能や耐熱性には優れるものの、フィルムの引張弾性率は十分なものではなく、よりエキスパンド時に強度が求められる用途に対しては改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平09-008111号公報
【特許文献2】特開2018-125521号公報
【特許文献3】特開2020-84143号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題に鑑みて、半導体製造工程に加熱を行う工程が想定される場合でも十分な耐熱性を有し、ブレードダイシングやステルスダイシングといった想定される複数のダイシング工程に適用可能な、ある程度の強度および柔軟性を有する複層フィルムを提供することを目的とする。また、本発明は、該複層フィルムに粘着剤層を設けることで半導体製造工程用に好適に用いることができる粘着フィルムとすることができ、さらに、半導体製造工程用粘着フィルムの粘着剤層側の保護用フィルムとしても用いることのできる複層フィルムを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、各層に特定のポリオレフィン系樹脂を用いることで、耐熱性、強度および柔軟性を有する複層フィルムを鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]
少なくとも表層及び裏層を有し、ポリオレフィン系樹脂を含有する複層フィルムであって、表層及び裏層の少なくとも一方の層の引張弾性率が50MPa以上500MPa以下であり、且つ、該複層フィルムの引張弾性率が500MPa以上900MPa以下である複層フィルム。
[2]
前記ポリオレフィン系樹脂が、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、オレフィン系エラストマー、及びこれらのいずれか2種以上の組み合わせからなる群から選択される、[1]に記載の複層フィルム。
[3]
複層フィルムの各層を構成する樹脂組成物中に、さらにスチレン系エラストマーを含有する、[1]又は[2]に記載の複層フィルム。
[4]
表層、裏層を構成する各々樹脂組成物中のスチレン系エラストマーの含有量が、表層と裏層の中間に位置する層を構成する樹脂組成物中のスチレン系エラストマーよりも多い、請求項[1]~[3]のいずれかに記載の複層フィルム。
[5]
120℃以上の結晶融解ピークを有するポリオレフィン系樹脂を含有する、[1]~[4]のいずれかに記載の複層フィルム。
[6]
[1]~[5]のいずれか1項に記載の複層フィルムの少なくとも片方の面に粘着層を有する、粘着フィルム。
[7]
[6]に記載の粘着フィルムを用いた半導体製造工程用粘着フィルム。
[8]
[1]~[5]のいずれか1項に記載の複層フィルムを用いた半導体製造工程用粘着フィルムの粘着剤層側の保護用フィルム。
【発明の効果】
【0013】
本発明の複層フィルムを用いることで、半導体製造工程に加熱を行う工程が想定される場合でも十分な耐熱性を有し、ブレードダイシングやステルスダイシングといった想定される複数のダイシング工程に適用可能な、ある程度の強度および柔軟性を有する複層フィルムを提供できる。さらに、該フィルムは半導体製造工程用フィルム、半導体製造工程用粘着フィルムの粘着剤層側の保護用フィルムといった用途にも好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明について詳述するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。尚、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0015】
本発明の複層フィルムは、少なくとも表層及び裏層を有し、ポリオレフィン系樹脂を含有する複層フィルムであって、表層及び裏層の少なくとも一方の層の引張弾性率が50MPa以上500MPa以下であり、且つ、該複層フィルムの引張弾性率が500MPa以上900MPa以下であることを特徴とする。
【0016】
本発明の複層フィルムには、ポリオレフィン系樹脂が含有される。ポリオレフィン系樹脂を用いることで、複層フィルムに適度な耐熱性、強度および柔軟性を付与することが可能となる。
ポリオレフィン系樹脂としては、後述するポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、オレフィン系エラストマー、環状オレフィン系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂といったものを挙げることができる。中でもポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、オレフィン系エラストマーが入手のし易さや、各種性能の付与やその調整の容易さの観点で好ましい。
【0017】
ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレンの単独重合体(ホモポリプロピレン)、プロピレンを主成分とするプロピレンと共重合可能な他の単量体との共重合体、これらの混合物等が例示できる。
前記プロピレンを主成分とするプロピレンと共重合可能な他の単量体との共重合体としては、プロピレンとエチレンまたは他のα-オレフィンとのランダム共重合体(ランダムポリプロピレン)やブロック共重合体(ブロックポリプロピレン)、ゴム成分を含むブロック共重合体あるいはグラフト共重合体等が挙げられる。
前記プロピレンと共重合可能な他の単量体として用いられるα-オレフィンとしては、炭素原子数が4~12のものが好ましく、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン、1-デセン等が挙げられ、その1種または2種以上の混合物が用いられる。
【0018】
ポリプロピレン系樹脂の結晶融解ピークとしては、120℃以上を示すことが好ましい。120℃以上の結晶融解ピークを有することで、得られる複層フィルムに十分な耐熱性を付与することが可能となる。より好ましくは125℃以上、さらに好ましくは130℃以上である。
入手のし易さ、耐熱性および柔軟性付与の観点から、上記のポリプロピレン系樹脂の中でもホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレンを用いることが好ましく、ホモポリプロピレンを用いることがより好ましい。
【0019】
ランダムポリプロピレンの市販品としては、例えば、ノバテックPP「FW4BA」、ノバテックPP「FX3B」(以上、日本ポリプロ社製)、PC630A、PC630S(以上、サンアロマー社製)、F-730NV、F-744NP(以上、プライムポリプロ社製)、住友ノーブレン「FL6737」、住友ノーブレン「S131」(以上、住友化学社製)等が挙げられる。
【0020】
ホモポリプロピレンの市販品としては、例えば、ノバテックPP「MA3U」、ノバテックPP「FY6HA」(以上、日本ポリプロ社製)、PC412A、PC600A(以上、サンアロマー社製)、F113G、F-704NP(以上、プライムポリプロ社製)、住友ノーブレン「FLX80E4」、住友ノーブレン「FLX80H5」、住友ノーブレン「WF836DG3」(以上、住友化学社製)等が挙げられる。
上記ポリプロピレン系樹脂は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用して用いてもよい。複層フィルムを得る際の製膜性や、得られるフィルムの強度や柔軟性、取扱い性、エキスパンド性を考慮し、必要に応じて適宜選択することができる。
【0021】
ポリエチレン系樹脂としては、例えば、エチレンの単独重合体、エチレンを主成分とするエチレンと共重合可能な他の単量体との共重合体(低密度ポリエチレン(LDPE)、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、メタロセン系触媒を用いて重合して得られるエチレン系共重合体(メタロセン系ポリエチレン)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の金属イオン架橋樹脂(アイオノマー)等が挙げられる。
中でも入手のし易さや樹脂の取り扱い性、得られるフィルムへの耐熱性や柔軟性の調整が容易であるとの観点から、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)を用いることが好ましく、高密度ポリエチレン(HDPE)および低密度ポリエチレン(LDPE)を用いることがより好ましい。
【0022】
高密度ポリエチレンの市販品としては、例えば、ノバテックHD「HF560」、ノバテックHD「HF562」(以上、日本ポリエチレン社製)、サンテックHD「F371」、サンテックHD「J340」(以上、旭化成社製)等が挙げられる。
【0023】
低密度ポリプロピレンの市販品としては、例えば、ノバテックLD「LC500」、ノバテックLD「LC520」、ノバテックLD「LC720」(以上、日本ポリエチレン社製)、F224N、F324C、F522N(以上、宇部丸善ポリエチレン社製)等が挙げられる。
上記ポリエチレン系樹脂は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用して用いてもよい。熱可塑性樹脂フィルムを得る際の製膜性や、得られるフィルムの柔軟性や取扱い性、エキスパンド性を考慮し、必要に応じて適宜選択することができる。
【0024】
オレフィン系エラストマーとは、ポリオレフィン系樹脂とゴム成分とを含んでなる軟質樹脂であり、ポリオレフィン系樹脂にゴム成分が分散しているものでもよいし、互いが共重合されているものでもよい。
オレフィン系エラストマーの具体例としては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体エラストマー、エチレン-1-ブテン共重合体エラストマー、エチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体エラストマー、エチレン-1-ヘキセン共重合体エラストマー、エチレン-1-オクテン共重合体エラストマー、エチレン-スチレン共重合体エラストマー、エチレン-ノルボルネン共重合体エラストマー、プロピレン-1-ブテン共重合体エラストマー、エチレン-プロピレン-非共役ジエン共重合体エラストマー、エチレン-1-ブテン-非共役ジエン共重合体エラストマー、及びエチレン-プロピレン-1-ブテン-非共役ジエン共重合体エラストマー等のオレフィンを主成分とする無定型の弾性共重合体、その誘導体及び酸変性誘導体等を挙げることができる。
【0025】
オレフィン系エラストマーの市販品としては、例えば、ウェルネクス「RFG4VM」ウェルネクス「RFX4V」、ウェルネクス「RMG02」(以上、日本ポリプロ社製)、タフマー「A-4070S」、タフマー「A-4085S」、タフマー「BL2481M」、タフマー「BL3450M」、タフマー「XM7070」、タフマー「XM7080」、ミラストマー(以上、三井化学社製)等を挙げることができる。
【0026】
前述したポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、オレフィン系エラストマーのメルトフローレートは、その適用する成形方法や用途により適宜選択されるものの、190℃もしくは230℃の温度条件下、荷重2.16kgで測定した値が0.1~50g/10分であることが好ましい。0.1g/10分以上であればフィルムの成形性が良好となり、50g/10分以下であればフィルムの厚み精度を良好に保つことが可能となる。より好ましくは0.5~40g/10分、さらに好ましくは1.0~30g/10分である。
【0027】
ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、オレフィン系エラストマーの強度については、それらの樹脂単独で得られるフィルムの引張弾性率が50~2000MPaの範囲内であることが好ましい。引張弾性率が50~2000MPaの範囲内であれば、本発明のフィルムに適度な強度と柔軟性を付与することが可能となる。より好ましくは50~1500MPaの範囲内、さらに好ましくは50~1000MPaの範囲内である。
【0028】
環状オレフィン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン系重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、環状共役ジエン重合体等が挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系重合体が好ましい。また、ノルボルネン系重合体としては、ノルボルネン系単量体の開環重合体、ノルボルネン系単量体とエチレン等のα-オレフィンを共重合したノルボルネン系共重合体等が挙げられる。また、これらの水素添加物も用いることができる。
【0029】
ポリメチルペンテン系樹脂としては、メチルペンテンをモノマーとする単独重合体またはその他のモノマーとの共重合体を用いることが好ましい。具体例としては、ポリプロピレン系樹脂についてプロピレンと共重合可能な他の単量体として例示したα-オレフィンと4-メチルペンテン-1との共重合体を挙げることができる。
ポリメチルペンテン系樹脂が、共重合体である場合は、共重合に用いられるα-オレフィン成分の含有量が20質量%以下であることが好ましい。20質量%以下とすることで、結晶融解ピークの低下を抑制することが可能となる。より好ましくは10質量%以下である。
【0030】
本発明の複層フィルムには、前述したポリオレフィン系樹脂以外にも各種熱可塑性樹脂を含有させることができる。熱可塑性樹脂の中でもポリオレフィン系樹脂との相溶性やフィルムへの柔軟性付与の観点から、スチレン系エラストマーを用いることが好ましい。
スチレン系エラストマーとしては、下記式(I)または(II)で表されるブロック共重合体であることが好ましい。
X-(Y-X)n …(I)
(X-Y)n …(II)
一般式(I)および(II)におけるXはスチレンに代表される芳香族ビニル重合体ブロック(以下、スチレン成分)で、式(I)においては分子鎖両末端で重合度が同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、Yとしてはブタジエン重合体ブロック、イソプレン重合体ブロック、ブタジエン/イソプレン共重合体ブロック、水添されたブタジエン重合体ブロック、水添されたイソプレン重合体ブロック、水添されたブタジエン/イソプレン共重合体ブロック、部分水添されたブタジエン重合体ブロック、部分水添されたイソプレン重合体ブロックおよび部分水添されたブタジエン/イソプレン共重合体ブロックの中から選ばれた少なくとも1種である。また、nは1以上の整数である。
【0031】
スチレン系エラストマーの具体例としては、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン・エチレン・プロピレン-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエン-ブテン-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体、スチレン-水添ブタジエンジブロック共重合体、スチレン-水添イソプレンジブロック共重合体、スチレン-ブタジエンジブロック共重合体、スチレン-イソプレンジブロック共重合体等が挙げられ、その中でもスチレン-エチレン・ブチレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン・エチレン・プロピレン-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエン-ブテン-スチレン共重合体が好適である。また、スチレン-エチレン・ブチレン-結晶性オレフィン共重合体であるブロック共重合体を用いることもできる。
【0032】
スチレン系エラストマーのメルトフローレート(230℃の温度条件下、荷重2.16kgで測定した値)は、0.1~20g/10分であることが好ましく、0.15~19g/10分であることがより好ましく、0.2~18g/10分であることが特に好ましい。スチレン系エラストマーのメルトフローレートが0.1g/10分以上、20g/10分以下であれば、ポリオレフィン系樹脂との相溶性がよく、フィルムの外観を良好に保つことができる、厚みの調整が容易となるといった製膜性の観点から好ましい。
【0033】
前記スチレン系エラストマーにおけるスチレン成分の含有量は50質量%以下であることが好ましい。スチレン成分の含有量が50質量%以下であれば、得られるフィルムの強度を維持しつつ、柔軟性を付与することが可能となる。好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
スチレン成分の含有量およびそれ以外の成分の含有量は、1H-NMRや13C-NMRを用いることにより測定することができる。ここで、「スチレン成分の含有量」とは、スチレン系エラストマーの質量を基準としてスチレンに代表される芳香族ビニル重合体ブロックの含有割合(質量%)をいう。
【0034】
スチレン成分の含有量が50質量%以下であるスチレン系エラストマーの市販品としては、例えば、タフテックH1221、タフテックH1062、タフテックH1521、タフテックH1052、タフテックH1051、タフテックH1517、タフテックP1083、タフテックP5051(以上、旭化成社製)、セプトン1020、セプトン2002、セプトン2004F、セプトン2063、セプトン8007L、ハイブラー7311、ハイブラー7311F、ハイブラー7125F、ハイブラー5127、ハイブラー5125(以上、クラレ社製)、ダイナロン1320P、ダイナロン4600P、ダイナロン8300P、ダイナロン8903P(以上、JSR社製)等が挙げられる。
上記スチレン系エラストマーは、1種類のエラストマーを単独で用いてもよいし、2種類以上を併用して用いてもよい。熱可塑性樹脂フィルムを得る際の製膜性や、得られるフィルムの柔軟性や取扱い性、エキスパンド性を考慮し、必要に応じて適宜選択することができる。
【0035】
<その他の成分>
本発明の複層フィルムには帯電防止性や耐熱性、耐候性等を付与するために各種添加剤を配合することができる。
具体例としては、例えば、帯電防止剤、酸化防止剤、中和剤、滑剤、アンチブロッキング剤、可塑剤、熱安定剤、光安定剤、染顔料、結晶核剤、紫外線吸収剤、充填剤、剛性を付与する無機フィラー、及び柔軟性を付与するために前述したもの以外のエラストマー等を、本発明の効果を阻害しない範囲において用いてもよい。
【0036】
高分子型帯電防止剤としては公知のものを使用することができ、例えば、疎水性ブロックと親水性ブロックとのブロック共重合体を用いることができる。高分子型帯電防止剤は、疎水性ブロックと親水性ブロックとが、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、イミド結合、ウレタン結合及びウレア結合等によってブロック共重合体を形成している。
【0037】
紫外線吸収剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤等を挙げることができる。
【0038】
光安定剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、ヒンダードアミン系光安定剤等を挙げることができる。
【0039】
滑剤やアンチブロッキング剤としては、前述したポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂等との相溶性に優れ、得られるフィルムの表面へのブリードアウトによる不具合や長期的な耐傷付き性や滑り性の付与を可能にすることから、シリコーン-オレフィン共重合体を用いることが好ましい。
【0040】
<複層フィルム>
本発明のポリオレフィン系樹脂を含有する複層フィルムは、少なくとも表層及び裏層を有し、表層及び裏層の少なくとも一方の層の引張弾性率が50MPa以上500MPa以下であり、且つ、該複層フィルムの引張弾性率が500MPa以上900MPa以下であることを特徴とする複層フィルムである。
【0041】
表層及び裏層の少なくとも一方の層の引張弾性率が50MPa以上500MPa以下であることで、得られる複層フィルムに適度な柔軟性とエキスパンド性を付与することが可能となる。
ここで、「表層及び裏層の少なくとも一方の層の引張弾性率が50MPa以上500MPa以下」とは、表層及び裏層の少なくとも一方の層を構成する樹脂組成物のみからなるフィルムを調製した場合に、当該フィルムの引張弾性率が50MPa以上500MPa以下であることを意味する。
表層、裏層の一方の層のみを上記の引張弾性率の範囲内とするか、表裏の両方の層も上記の引張弾性率の範囲内とするかは適宜選択することができる。また、表裏の両方の層を上記の引張弾性率の範囲内とする場合、表層及び裏層の樹脂組成物の構成は異なっていてもよく、同一のものでもよい。フィルムの製膜性の観点や、用いる樹脂の簡便さの観点から表層及び裏層は同一の樹脂組成物とすることが好ましい。引張弾性率は50MPa以上450MPaの範囲内がより好ましく、50MPa以上400MPaの範囲内であることがさらに好ましい。
【0042】
当該複層フィルムは表裏の引張弾性率に加え、さらに当該複層フィルム自体の引張弾性率が500MPa以上900MPa以下であることが必要である。表裏の少なくとも一方の層の引張弾性率が50MPa以上500MPa以下であり、且つ複層フィルムの引張弾性率が500MPa以上900MPa以下の範囲内にあることで、フィルム全体が適度な強度を維持しつつ、柔軟性のある層を有する複層フィルムとすることが可能となる。複層フィルムの弾性率は500MPa以上850MPaの範囲内であることがより好ましく、500MPa以上800MPa以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0043】
本発明の複層フィルムが含有するポリオレフィン系樹脂は、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、オレフィン系エラストマー、及びこれらのいずれか2種以上の組み合わせからなる群から選択される。ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂及びオレフィン系エラストマーの詳細は、上記で説明した通りである。
本発明の複層フィルムは、表層及び裏層の少なくとも一方、および複層フィルムの引張弾性率の調整を行うために、前述したスチレン系エラストマーを用いることが好ましい。また、スチレン系エラストマーを用いた場合、表層及び裏層を構成する各々の樹脂組成物中のスチレン系エラストマーの含有量が、表層と裏層の中間に位置する層を構成する樹脂組成物中のスチレン系エラストマーよりも多いことが好ましい。表裏層と中間に位置する層を構成する樹脂組成物中のスチレン系エラストマーの含有量を上記の通りとすることにより、表裏層の引張弾性率の調整と、複層フィルムの引張弾性率の調整を容易なものとすることができる。複層フィルムにスチレン系エラストマーを含有する場合、表層及び裏層を構成する各々の熱可塑性樹脂の総量を100質量%とすると、スチレン系エラストマーは10質量%以上50質量%以下であることが好ましい。スチレン系エラストマーを10質量%以上50質量%以下とすることで、表層及び裏層に柔軟性を付与することができ、且つ柔軟になり過ぎることによるフィルム同士のブロッキングや製膜時の搬送不良といった問題を抑制することが可能となる。より好ましくは10質量%以上45質量%以下、さらに好ましくは10質量%以上40質量%以下の範囲内である。また、中間に位置する層を構成する熱可塑性樹脂の総量を100質量%とすると、スチレン系エラストマーは表裏層の含有量よりも少なく、且つ3質量%以上20質量%以下であることが好ましい。1質量%以上20質量%以下とすることで複層フィルム全体が柔軟になり過ぎることを抑制できるため好ましい。より好ましくは1質量%以上17質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上14質量%以下である
【0044】
本発明の複層フィルムの基本的な構成は次の通りである。
(1)引張弾性率が50MPa以上500MPaの層、引張弾性率が500MPa以上900MPa以下の層を備える2層フィルムの構成。
(2)引張弾性率が50MPa以上500MPaの層(表層)、引張弾性率が500MPa以上900MPa以下の層(中間層)、引張弾性率が50MPa以上500MPaの層(裏層)を備える3層フィルムの構成。
ここで、(2)の3層フィルムの構成において、表層と裏層を構成するポリプロピレン系樹脂は、同じ組成であっても、異なる組成であってもよい。
また、(2)の構成においては、中間層が2以上の多層から構成されていてもよい。その場合には、(2)の構成は、3層以上からなるフィルム構成も包含する。
【0045】
本発明の複層フィルムの厚みは、30~250μmであることが好ましい。30μm以上であればフィルムを生産する際の製膜性や得られるフィルムの取り扱い性が良好となり、250μm以下であれば該フィルムに印刷層や粘着層を積層する工程におけるフィルムの取り扱い性や工程通過性を良好に保つことが可能となる。本発明の複層フィルムの厚みは、より好ましくは35~230μm、さらに好ましくは40~210μmである。
【0046】
本発明の複層フィルムの引張破断伸度は、300%以上を示すものであることが好ましい。300%以上を示すものであればフィルムに粘着加工等を施す場合においても破断による不具合が抑制され、さらに半導体製造工程におけるエキスパンド工程においても、エキスパンド時の破断が起きにくくなることから好ましい。より好ましくは400%以上、さらに好ましくは500%以上である。また、印刷層や粘着剤層の保護用フィルムとして用いる際にも、引張破断伸度が300%以上であれば、搬送性や取扱い時の不具合が抑制される。
【0047】
本発明の複層フィルムの成形方法としては、公知の方法を用いることができるが、溶融押出成形法を用いることが好ましい。溶融押出成形法の中でも、Tダイを有する押出機より溶融状態の樹脂を押出し、冷却固化させてフィルムを得るTダイ成形法がより好ましい。
【0048】
複層フィルムを得るためには、複数の押出機を利用した共押出Tダイ成形法とすることが好ましい。複数の押出機を利用した共押出Tダイ成形法を用いることで、複層のフィルムを得ることが可能となり、本発明の表層に用いるのが好ましい樹脂組成物を表裏の一方の面のみとすることも、表裏の両面とすることも可能となる。
【0049】
共押出Tダイ成形法としては、マルチマニホールドダイを用いて、複数の樹脂層をフィルム状としたのち、Tダイ内で接触させて複層化させフィルムを得る方法と、フィードブロックと称する溶融状態の樹脂を合流させる装置を用い、複数の樹脂を合流させ密着した後、複層のフィルムを得る方法が挙げられる。
【0050】
フィルムには必要に応じて、片面または両方の面にプラズマ処理やコロナ処理、オゾン処理および火炎処理等の方法による表面処理を行ってもよい。得られるフィルムの用途に応じて、片面または両方の面に表面処理を行うかを選択することができる。また、前述した印刷層や粘着剤層の保護用フィルムとして用いる場合は、積層後に当該保護用フィルムは剥離する必要があるため、表面処理は行わないことが好ましい。
【0051】
また、表層の厚みが、フィルム全体の厚みの1~50%の範囲内であることが好ましい。1~50%の範囲内とすることで、得られる複層フィルムの柔軟性を損なわずに十分な強度を付与することが可能となる。より好ましくはフィルム全体の厚みの1~40%、さらに好ましくは1~30%の範囲内である。
【0052】
<粘着フィルム>
本発明の複層フィルムには、表裏の少なくとも片方の面に粘着剤層を設けることで、粘着フィルムとすることができる(以下「本発明の粘着フィルム」ともいう)。
【0053】
粘着剤層に用いられる粘着剤は特に限定されないが、例えば、天然ゴム系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂等の各種粘着剤が用いられる。また粘着剤層の上にさらに接着剤層や熱硬化性樹脂層等の機能層を設けてもよい。
【0054】
粘着剤層を設けるには、複層フィルム上に粘着剤を直接コーティングすることにより設けることもできる。また、離型層を有するセパレータ等に粘着剤層を積層し、その粘着剤層側を本発明の複層フィルムの表層に貼り合わせ、粘着剤層を転写することにより設けることもできる。
【0055】
本発明の粘着フィルムにおいて、粘着剤層を設ける前のフィルムの片面もしくは両方の面に、前述した表面処理を行ってもよい。また、フィルムと粘着剤層の間には、必要に応じて、プライマー層を設けてもよい。
粘着剤層やプライマー層の厚さは、必要に応じて適宜決めることができる。
【0056】
<保護用フィルム>
本発明の複層フィルムは、表裏の少なくとも片方の面に印刷層や粘着剤層を設けたフィルムの該印刷層や粘着剤層を保護することを目的とした保護用フィルムとして用いることが可能である。
印刷層や粘着剤層を積層したフィルムをそのまま巻き取った場合、フィルムの背面に印刷や粘着剤が転写してしまうことから、転写を防ぐ、硬化までの時間を十分に設けるといった目的でこれらの塗膜側に保護用フィルムを積層して用いることがある。
本発明の複層フィルムは、表層及び裏層の少なくとも一方の層の引張弾性率が50MPa以上500MPa以下であり、且つ、該複層フィルムの引張弾性率が500MPa以上900MPa以下であることが特徴であり、フィルム表面の柔軟性が高く、塗膜表面にフィルムが追従しやすいことにより塗膜とフィルムの間に気泡が残りにくくなるといった利点が期待できる。また、表面側が柔軟であることから塗膜側の凹凸にもフィルムが追従しやすくなり、ある程度の密着性が確保できることから、再剥離を行う前にフィルムが意図せず剥がれるといった不具合を抑制することが可能となる。
【0057】
本発明の複層フィルムはポリオレフィン系樹脂を含有するため、印刷層や粘着剤層との密着性に乏しく、再剥離が可能であることから、保護用フィルムとしても用いることが可能となる。また、保護用フィルムとして用いる際は、再剥離が可能であることが必要となるため、前述したように表面処理を行わないことが好ましい。
塗膜側への積層はロールtoロールによるラミネート等といった公知の方法を用いて行うことができる。
【0058】
本発明のフィルムは、半導体製造工程に加熱を行う工程が想定される場合でも十分な耐熱性を有し、ブレードダイシングやステルスダイシングといった想定される複数のダイシング工程に適用可能なある程度の強度および柔軟性を有する複層フィルムである。
また、該複層フィルムに粘着剤層を設けることで半導体製造工程用に好適に用いることができる粘着フィルムとすることができ、さらに、印刷層や粘着剤層を設けたフィルムの該印刷層や粘着剤層を保護するために用いられる保護用フィルムとしても好適に用いることができる。
【実施例0059】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して、具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。尚、以下の実施例及び比較例で使用した材料、評価した特性の測定方法等は、次の通りである。
【0060】
[使用材料]
熱可塑性樹脂として以下のポリオレフィン系樹脂(ポリプロピレン系樹脂、オレフィン系エラストマー)およびスチレン系エラストマーを以下に示す通り用いた。
【0061】
<ポリプロピレン系樹脂(A-1)>
日本ポリプロ社製、「MA3U」(ホモポリプロピレン、230℃、2.16kgにおけるメルトフローレート:11g/10分、結晶融解ピーク:160℃、単独フィルムの引張弾性率:1000MPa)
<ポリプロピレン系樹脂(A-2)>
サンアロマー社製、「PC630A」(ランダムポリプロピレン、230℃、2.16kgにおけるメルトフローレート:7.5g/10分、結晶融解ピーク:135℃、単独フィルムの引張弾性率:510MPa)
<オレフィン系エラストマー(B-1)>
日本ポリプロ社製、ウェルネクス「RFX4V」(オレフィン系エラストマー、230℃、2.16kgにおけるメルトフローレート:6.0g/10分、結晶融解ピーク:90℃および131℃、単独フィルムの引張弾性率:250MPa)
<オレフィン系エラストマー(B-2)>
日本ポリプロ社製、ウェルネクス「RFG4VM」(オレフィン系エラストマー、230℃、2.16kgにおけるメルトフローレート:6.0g/10分、結晶融解ピーク:127℃、単独フィルムの引張弾性率:240MPa)
<スチレン系エラストマー>
旭化成社製、「タフテックH1221」(230℃、2.16kgにおけるメルトフローレート:4.5g/10分、スチレン成分含有量:12質量%、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレン共重合体)
【0062】
<樹脂組成物の調製>
上記の熱可塑性樹脂を合計で100質量部となるように配合を行った。また、2種類以上を用いる際はドライブレンドにより混合し、目視にて均一に混合できていることを確認した。
【0063】
<フィルムの製膜方法>
3台の東芝機械製単軸押出機(表層用:35φmm,L/D=25mm、中間層用:50φmm,L/D=32、裏層用:35φmm,L/D=25mm)のそれぞれのホッパーに各樹脂組成物を投入し、各押出機の押出機温度を190~230℃に設定し、フィードブロック部にて、表層/中間層/裏層の3層構成に合流させ、650mm幅Tダイ(温度設定210~230℃、リップ開度0.5mm)から押し出した。厚み構成は、表1に記載の厚みとなるよう各押出機回転数を設定した。
押出された溶融樹脂は、鏡面状の冷却ロールを備えた巻き取り機(冷却ロール700mm幅×φ350mm、ロール温度約30℃)にて冷却固化後、両面にコロナ処理を実施し巻き取りを行い、厚みが約60μmの1種3層もしくは2種3層となる複層のフィルムを得た。
また、本発明では、得られたフィルムの鏡面上の冷却ロール側の面を表層と表現している。
【0064】
[各層の厚み]
各押出機から押し出される樹脂の吐出量から計算し、各層の厚みを設定した。
【0065】
[フィルムの総厚み]
接触式厚み計を用いてフィルムの中央部、両端部の厚みの測定を行い、所定の厚みになっていることを確認した。
【0066】
[引張弾性率(表層のみ)]
2種3層構成の複層フィルムの表層の樹脂組成物のみを用いて、1種3層の実質的に表層の樹脂組成物のみからなるフィルムを前述の製膜方法にて作成した(以下「表層のみフィルム」とも言う)。
そのフィルムからJISK6732に準じて作製されたダンベル「SDK-600」を使用して試験片を採取し、JISK7127を参照した次の条件、23℃、50%RHの雰囲気下、オートグラフ(島津製作所製AGS-X)を用いて、引張速度50mm/分にて引張弾性率(MPa)を測定した。
引張弾性率の測定は、フィルムの押出方向(MD)で測定を行った。
【0067】
[引張弾性率(複層フィルム)]
表1に記載の樹脂組成物および層構成からなる複層フィルムから、JISK6732に準じて作製されたダンベル「SDK-600」を使用して試験片を採取し、JISK7127を参照した次の条件、23℃、50%RHの雰囲気下、オートグラフ(島津製作所製AGS-X)を用いて、引張速度50mm/分にて引張弾性率(MPa)を測定した。
引張弾性率の測定は、フィルムの押出方向(MD)で測定を行った。
【0068】
[引張破断伸度]
表1に記載の樹脂組成物および層構成からなる複層フィルムから、JISK6732に準じて作製されたダンベル「SDK-600」を使用して試験片を採取し、23℃、50%RHの雰囲気下、小型卓上試験機(島津製作所製EZ-L)を用いて、引張速度300mm/分にて引張破断伸度(%)を測定した。
引張破断伸度の測定は、フィルムの押出方向(MD)で測定を行った。
【0069】
[結晶融解ピーク]
示差走査熱量測定装置(メトラー・トレド社製 DSC823e)を用い、実施例、比較例に用いた各原料単独の約5mgを、昇温速度10℃/分で25℃から230℃まで昇温した後、冷却速度10℃/分で25℃まで降温し、再度、昇温速度10℃/分で230℃まで昇温した際に測定されたチャートから結晶融解ピークを算出した。
【0070】
[実施例1]
熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン系樹脂(A-1)、オレフィン系エラストマー(B-1)、スチレン系エラストマーを用い、表1に記載の配合量とし、樹脂組成物を調製した。
表1に記載の表層および裏層用の樹脂組成物と、中間層用の樹脂組成物を用い、前述した製膜方法にて表裏が同一の樹脂組成物からなる2種3層の総厚みが60μmの複層フィルムを得た。各層の厚みは、表層が3μm、中間層が54μm、裏層が3μmとなるよう製膜の条件の調整を行った。
表層のみフィルムの引張弾性率は、表1の表層を構成する樹脂組成物を用いて、1種3層からなる実質的に単層のフィルムを得て評価を行った。
表層を構成する樹脂組成物のみからなるフィルムの引張弾性率は、90MPaを示し、複層フィルムの引張弾性率は630MPaを示した。本複層フィルムは表裏層が90MPaを示し、50MPa以上500MPa以下の範囲内にあり、且つ複層フィルム全体の引張弾性率が500MPa以上900MPa以下の範囲内にあることから、良好な柔軟性と強度を両立できていることが確認された。また、引張破断伸度は770%を示し、300%以上であることから、取扱い時の破断等による不具合の可能性が低いものであることも確認された。
さらに、ホモポリプロピレンに由来する160℃の結晶融解ピーク、オレフィン系エラストマーに由来する131℃および90℃の結晶融解ピークを示しており、120℃以上の結晶融解ピークを有することから良好な耐熱性も確認された。
よって、本フィルムは十分な耐熱性と柔軟性および強度を備えたフィルムであることが確認された。
【0071】
[実施例2]
熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン系樹脂(A-1)、オレフィン系エラストマー(B-2)、スチレン系エラストマーを用い、表1に記載の配合量とし、樹脂組成物を調製した。
表1に記載の表層および裏層用の樹脂組成物と、中間層用の樹脂組成物を用い、前述した製膜方法にて表裏が同一の樹脂組成物からなる2種3層の総厚みが60μmの複層フィルムを得た。各層の厚みは、表層が3μm、中間層が54μm、裏層が3μmとなるよう製膜の条件の調整を行った。
表層のみフィルムの引張弾性率は、表1の表層を構成する樹脂組成物を用いて、1種3層からなる実質的に単層のフィルムを得て評価を行った。
表層を構成する樹脂組成物のみからなるフィルムの引張弾性率は、230MPaを示し、複層フィルムの引張弾性率は650MPaを示した。本複層フィルムは表裏層が230MPaを示し、50MPa以上500MPa以下の範囲内にあり、且つ複層フィルム全体の引張弾性率が500MPa以上900MPa以下の範囲内にあることから、良好な柔軟性と強度を両立できていることが確認された。また、引張破断伸度は740%を示し、300%以上であることから、取扱い時の破断等による不具合の可能性が低いものであることも確認された。
さらに、ホモポリプロピレンに由来する160℃の結晶融解ピーク、オレフィン系エラストマーに由来する127℃の結晶融解ピークを示しており、120℃以上の結晶融解ピークを有することから良好な耐熱性も確認された。
よって、本フィルムは十分な耐熱性と柔軟性および強度を備えたフィルムであることが確認された。
【0072】
[比較例1]
表裏層および中間層に用いる熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン系樹脂(A-1)のみを用いた以外は、実施例1と同様に行った。
1種3層からなる実質的に単層である総厚みが60μmのフィルムが得られ、各層の厚みは、表層が3μm、中間層が54μm、裏層が3μmとなるよう製膜の条件の調整を行った。
本複層フィルムはホモポリプロピレンのみからなるものであり、表層のみおよびフィルム全体の弾性率のいずれもが930MPaであった。表裏層およびフィルムの弾性率が所望の範囲を超えていることから、フィルムは硬く、エキスパンド性や取扱い性の劣るものであると判断された。引張破断伸度は800%であり、結晶融解ピークも160℃を示すものであり、破断による不具合の可能性は低く、耐熱性も良好ではあるものの、弾性率が高く後の工程における加工性や取扱い性の劣るものであった。
【0073】
[比較例2]
熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン系樹脂(A-1)、オレフィン系エラストマー(B-2)、スチレン系エラストマーを用い、表層の樹脂組成物のみからなる、1種3層からなる実質的に単層のフィルムを得た。
各層の厚みは、表層が3μm、中間層が54μm、裏層が3μmとなるよう製膜の条件の調整を行った。
得られたフィルムの引張弾性率は、表層およびフィルム全体のいずれもが230MPaを示した。本フィルムは表層が50MPa以上500MPa以下の範囲内であるものの、フィルム全体の弾性率が500MPa以上900MPa以下の範囲内を下回っており、柔軟性が高くフィルムの強度と柔軟性の両立がなされていないことが確認された。引張破断伸度は730%を示し、結晶融解ピークはホモポリプロピレンに由来する160℃、オレフィン系エラストマーに由来する127℃を示しており、破断による不具合の可能性は低く、耐熱性も良好ではあるものの、弾性率が低く強度と柔軟性のバランスに欠けるものであった。
【0074】
[比較例3]
表裏層および中間層に用いる熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン系樹脂(A-2)のみを用いた以外は、実施例1と同様に行った。
1種3層からなる実質的に単層である総厚みが60μmのフィルムが得られ、各層の厚みは、表層が3μm、中間層が54μm、裏層が3μmとなるよう製膜の条件の調整を行った。
本複層フィルムはランダムポリプロピレンのみからなるものであり、表層のみおよびフィルム全体の弾性率のいずれもが510MPaであった。中間層の弾性率は500MPa以上900MPa以下の範囲内にあるものの、表裏層および弾性率が所望の範囲を僅かに超えていることから、フィルムは柔軟性に劣り、エキスパンド性や取扱い性の劣るものであると判断された。引張破断伸度は710%であり、結晶融解ピークも135℃を示すものであり、破断による不具合の可能性は低く、耐熱性も良好ではあるものの、表裏層の弾性率が僅かに高く、強度と柔軟性のバランスに欠けるものであった。
【0075】
【0076】
[実施例3]
アクリル系粘着剤(綜研化学(株)製SKダイン1502C)をセパレータ上にコンマコート法にて、乾燥後の粘着剤層の厚みが25μmになるように塗工し、80℃の熱風乾燥機にて5分間乾燥させた後、粘着剤層を形成した。
作製したセパレータの粘着剤層側の面を実施例1で得られたフィルムのコロナ処理を施した表層側の面に貼り合わせることで本発明のフィルムと粘着剤層とが積層された粘着フィルムを得た。
また、粘着剤との密着性に優れ、且つ強度と柔軟性を有する本粘着フィルムを半導体製造工程用粘着フィルムとして用いることで、粘着剤がフィルムから剥離することによって発生する不良等を抑制することが可能となると推察される。
【0077】
[実施例4]
実施例3で得られた粘着フィルムの粘着剤層側に、実施例2で作成した複層フィルムのコロナ処理を施してない表層側をラミネートすることにより、粘着剤層上に保護用フィルムを有する粘着フィルムを得た。
本保護用フィルムはコロナ処理を施しておらず、表層が柔軟であることから適度な密着性を有しつつも再剥離が容易であることから、保護用フィルムとしても十分に使用可能であることが確認された。
本発明により、半導体製造工程に加熱を行う工程が想定される場合でも十分な耐熱性を有し、ブレードダイシングやステルスダイシングといった想定される複数のダイシング工程に適用可能な、ある程度の強度および柔軟性を有する複層フィルムを提供することが可能となる。また、本発明は、該複層フィルムに粘着剤層を設けることで半導体製造工程用に好適に用いることができる粘着フィルムとすることができ、さらに、その粘着剤層を保護のために用いられる保護用フィルムとしても用いることのできる複層フィルムを提供することも可能である。