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特開2023-91963平版印刷用インキおよび印刷物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091963
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】平版印刷用インキおよび印刷物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/02 20140101AFI20230626BHJP
   C09D 11/101 20140101ALI20230626BHJP
   B41M 1/30 20060101ALI20230626BHJP
   B41M 1/06 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
C09D11/02
C09D11/101
B41M1/30 D
B41M1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206873
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小清水 昇
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 暁人
(72)【発明者】
【氏名】井上 武治郎
【テーマコード(参考)】
2H113
4J039
【Fターム(参考)】
2H113AA03
2H113AA04
2H113BA05
2H113BB02
2H113BB08
2H113BB10
2H113BB22
2H113BC02
2H113CA25
2H113CA46
2H113DA53
2H113DA56
2H113DA57
2H113DA60
2H113DA62
2H113EA02
2H113EA10
2H113FA42
2H113FA43
2H113FA45
4J039AD03
4J039AD09
4J039AD21
4J039BC20
4J039BE01
4J039BE22
4J039EA08
4J039EA18
4J039FA02
4J039GA02
(57)【要約】
【課題】見当精度に優れる印刷物を得ることができる平版印刷用インキおよび印刷物の製造方法を提供すること。
【解決手段】(a)樹脂、(b)反応性基を2つ以上有する化合物を含有し、レオメーターにより測定されるノーマルフォース(法線方向への応力)の積分値が200N・s・s以下である平版印刷用インキ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)樹脂、(b)反応性基を2つ以上有する化合物を含有し、レオメーターにより測定されるノーマルフォース(法線方向への応力)の積分値が200N・s・s以下である平版印刷用インキ。
【請求項2】
-90℃以上100℃以下の範囲にガラス転移点および/または融点をあわせて2点以上有する、請求項1に記載の平版印刷用インキ。
【請求項3】
さらに(c)反応性基が1つ以下である化合物を含有し、前記(b)反応性基を2つ以上有する化合物の溶解度パラメーターと、(c)反応性基が1つ以下である化合物の溶解度パラメーターとの差が3.5以上8.2以下である請求項1または2に記載の平版印刷用インキ。
【請求項4】
前記(c)反応性基が1つ以下である化合物の分子量が250以上1,000以下である、請求項3に記載の平版印刷用インキ。
【請求項5】
前記(c)反応性基が1つ以下である化合物の融点が25℃以上である、請求項3または4に記載の平版印刷用インキ。
【請求項6】
前記(b)反応性基を2つ以上有する化合物が、水酸基および/またはエチレンオキシド変性基を有する多官能(メタ)アクリレートを含み、前記(c)反応性基が1つ以下である化合物が、炭素数13以上22以下の脂肪族骨格を有するアルキル(メタ)アクリレートを含む、請求項3~5のいずれかに記載の平版印刷用インキ。
【請求項7】
前記(c)反応性基が1つ以下である化合物の含有量が、前記(b)反応性基を2つ以上有する化合物100質量部に対して1質量部以上7質量部以下である、請求項3~6のいずれかに記載の平版印刷用インキ。
【請求項8】
白インキである、請求項1~7のいずれかに記載の平版印刷用インキ。
【請求項9】
さらに(d)アニオン性界面活性剤を含む請求項8に記載の平版印刷用インキ。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の平版印刷用インキを基材上に転写する工程および活性エネルギー線を照射する工程を含む、印刷物の製造方法。
【請求項11】
前記活性エネルギー線が電子線である請求項10に記載の印刷物の製造方法。
【請求項12】
請求項8または9に記載の平版印刷用インキを2回以上塗布する工程含む、請求項10または11に記載の印刷物の製造方法。
【請求項13】
ウェットオンウェット印刷方式で印刷される、請求項10~12のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷用インキおよびそれを用いた印刷物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷は、高速、大量、安価に印刷物を供給するシステムとして広く普及している印刷方式である。近年、環境問題への対応から、インキに含まれる揮発成分の低減が求められている。このため、揮発成分を含まず、活性エネルギー線の照射により瞬間硬化する、活性エネルギー線硬化型インキの利用が進められている。活性エネルギー線硬化型インキは、環境面での利点に加えて、乾燥工程を短縮することができるため、平版印刷の生産性を向上させることができる。
【0003】
また、近年、特にフィルム印刷物について、パッケージの多様化のため小ロット対応が求められており、小ロットでは割高なグラビア印刷から平版印刷への転換が進められている。
【0004】
平版印刷を用いたフィルム印刷に関して、例えば、(a)顔料、並びに(b)エチレン性不飽和基および親水性基を有する樹脂を含むことを特徴とする平版印刷用インキと、かかる平版印刷用インキをプラスチックフィルムなどの基材に塗布し、活性エネルギー線を照射する工程を含む印刷物の製造方法(例えば、特許文献1参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/47817号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フィルム印刷物に用いられるフィルムは、厚み10~50μm程度のものが多く、破断しやすく伸びやすいことから、印刷のためにかけることができる張力には限りがある。平版印刷においては、ブランケットに転写されたインキは、インキ層内の開裂によってフィルムへ転移するが、特に印刷面積が大きい場合、フィルム張力が低いと、インキ凝集力によってフィルムの位置ずれが生じ、見当精度が不十分となる課題があった。
【0007】
そこで、本発明は、見当精度に優れる印刷物を得ることができる平版印刷用インキおよび印刷物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、(a)樹脂、(b)反応性基を2つ以上有する化合物を含有し、レオメーターにより測定されるノーマルフォース(法線方向への応力)の積分値が200N・s・s以下である平版印刷用インキである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の平版印刷用インキにより、見当精度に優れる印刷物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、本発明平版印刷用インキについて説明する。
【0011】
前述のとおり、平版印刷においては、ブランケットに転写されたインキは、インキ層内の開裂によってフィルムへ転移する。フィルムへの平版印刷の場合、フィルムに加えられる張力には限りがあり、インキ凝集力によってフィルムの位置ずれが生じやすい。かかる課題は、印刷面積が大きいほど顕著となる。例えば、透明フィルムの印刷において、絵柄の見栄えをよくするために、白インキや、ニスなどの透明インキを、フィルムや絵柄全面に印刷する場合などがあり、このような印刷面積の大きいフィルム印刷において、見当精度の向上が強く求められている。
【0012】
本発明者らは、低張力であっても見当精度を向上させるため、ブランケットからのインキ剥離性に着目し、インキ層内の開裂のしやすさに関係するインキ凝集力の指標として、レオメーターで測定されるノーマルフォース(法線方向への応力)の積分値(以下、「ノーマルフォースの積分値」と記載する場合がある)に着目した。すなわち、本発明の平版印刷用インキ(以下、「インキ」と記載する場合がある)は、ノーマルフォースの積分値が200N・s・s以下であることを特徴とする。ノーマルフォースの積分値は、印刷におけるブランケットからのインキ剥離時の応力(インキ凝集力)を表し、この値が小さいほど、インキ凝集力が小さく、ブランケットから剥離されやすい。ノーマルフォースの積分値が200N・s・sを超えると、インキ凝集力が高く、ブランケットからインキが剥離しにくいことから、フィルムの位置ずれが生じやすく、見当精度が低下する。ノーマルフォースの積分値は、180N・s・s以下が好ましく、150N・s・s以下がさらに好ましい。一方、ノーマルフォースの積分値は、地汚れを抑制する観点から、50N・s・s以上が好ましい。
【0013】
ここで、本発明におけるノーマルフォースの積分値は、レオメーターを用いて、以下の条件により測定する。インキピペットにより秤量した0.35mlのインキについて、直径25mmのパラレルプレートを用いてクリアランスを0.1mmに調整し、プレートからあふれたインキを除去した後、温度25℃で、以下の順番のプログラムにより、ノーマルフォースを測定する。なお、これらの条件は、印刷時における一般的なインキの状態を模するよう選択した。
(1)60秒間静置する。
(2)ひずみ:40%(一定)、角周波数:100rad/s(一定)で60秒間振動運動させる。
(3)60秒間静置する。
(4)クリアランスを0.01mm/sの速度で5秒間狭める。
(5)クリアランスを0.01mm/sの速度で25秒間広げながら、0.05秒間隔でノーマルフォースを測定する。
【0014】
上記(5)において、ノーマルフォースが0N・sに達した時点から測定終了時点(25秒後)までの区間について、ノーマルフォース(単位:N・s)を時間(単位:s)で積分した値の絶対値を、ノーマルフォースの積分値(単位:N・s・s)とする。
【0015】
インキのノーマルフォースの積分値を200N・s・s以下にする手段としては、例えば、ミクロ相分離構造を形成することなどが挙げられる。ミクロ相分離構造を有するインキは、ブランケットからの剥離に際し、ミクロに存在する分離相が開裂を助長するため、インキ凝集力を低減することができると考えられる。インキのノーマルフォースの積分値を前記範囲にする手段として、より具体的には、例えば、後述する好ましい組成とすることなどが挙げられる。
【0016】
ミクロ相分離構造を有するインキは、示差走査熱量分析において、それぞれの相に由来するガラス転移点または融点を発現する。本発明においては、ミクロ相分離構造の指標としてガラス転移点と融点に着目した。本発明のインキは、-90℃以上100℃以下の範囲にガラス転移点および/または融点をあわせて2点以上有することが好ましく、ノーマルフォースの積分値を前述の好ましい範囲に容易に調整し、見当精度をより向上させることができる。前記範囲にガラス転移点を2点以上有してもよいし、融点を2点以上有してもよいし、ガラス転移点と融点をそれぞれ1点以上有してもよい。
【0017】
ここで、本発明におけるインキのガラス転移点および融点は、示差走査熱量計(DSC)を用いて、以下の条件により測定する。5mgのインキをアルミパンに計量し、空のアルミパンをリファレンスとして、液体窒素を冷却用に用い、以下の順番のプログラムにより、熱量を測定する。
(1)30℃に調整した後、30℃から100℃まで昇温速度10℃/分で昇温する。
(2)100℃で5分間保持する。
(3)100℃から-90℃まで降温速度10℃/分で降温する。
(4)-90℃で5分間保持する。
(5)-90℃から100℃まで昇温速度10℃/分で昇温する。
【0018】
上記(5)において、ベースラインシフトが認められる場合は、低温側のベースラインと変曲点における接線との交点の温度をガラス転移点とする。また、吸熱ピークが認められる場合は、そのピークトップの温度を融点とする。
【0019】
ミクロ相分離構造を形成する手段としては、例えば、後述する好ましい組成とすることなどが挙げられる。
【0020】
本発明のインキは、(a)樹脂、(b)反応性基を2つ以上有する化合物を含有する。(a)樹脂を含有することにより、インキに適した流動性を付与することができ、(b)反応性基を2つ以上有する化合物を含有することにより、活性エネルギー線により硬化する特性を付与することができる。
【0021】
(a)樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。これらの中でも、モノマー入手の容易性、合成の容易性、インキ中の他成分との相溶性、顔料の分散性等の点から、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、スチレンマレイン酸樹脂が好ましい。
【0022】
(a)樹脂の重量平均分子量は、40,000以下が好ましく、分子鎖の絡み合いを抑制し、インキ凝集力をより低減して見当精度をより向上させることができる。一方、(a)樹脂の重量平均分子量は、5,000以上が好ましく、顔料分散性を向上させ、インキ凝集力をより低減して見当精度をより向上させることができる。(a)樹脂の重量平均分子量は、15,000以上がより好ましい。
【0023】
ここで、本発明における(a)樹脂の重量平均分子量は、カラムにTSKgel SuperHM-H(東ソー(株)製)、TSKgel SuperHM-H(東ソー(株)製)、TSKgel SuperH2000(東ソー(株)製)の順で連結したものを用い、テトラヒドロフランを移動相としたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定する。
【0024】
(a)樹脂の酸価は、75mgKOH/g以上が好ましく、顔料分散性を向上させ、インキ凝集力をより低減して見当精度をより向上させることができる。一方、(a)樹脂の酸価は、150mgKOH/g以下が好ましく、樹脂同士の相互作用を低減し、インキ凝集力をより低減して見当精度をより向上させることができる。
【0025】
ここで、本発明における(a)樹脂の酸価は、JIS K 0070:1992の試験方法第3.1項の中和滴定法に記載の方法により測定する。
【0026】
インキ中における(a)樹脂の含有量は、6重量%以上が好ましく、粘度を適度に高く保ち、インキのノーマルフォースの積分値を50N・s・s以上に容易に調整することができ、地汚れを抑制することができる。一方、(a)樹脂の含有量は、15重量%以下が好ましく、分子鎖の絡み合いを抑制し、インキ凝集力をより低減して見当精度をより向上させることができる
(b)反応性基を2つ以上有する化合物における反応性基とは、活性エネルギー線によって重合反応を引き起こす官能基を指し、例えば、エポキシ基、エチレン性不飽和基などが挙げられる。エチレン性不飽和基としては、例えば、アクリル基、メタクリル基、ビニル基などが挙げられる。本発明の(b)反応性基を2つ以上有する化合物は、モノマーでもオリゴマーでもよく、オリゴマーの場合、重量平均分子量が5,000以下の重合体である。
【0027】
反応性基を2つ以上有するモノマーとしては、例えば、反応性基を2つ有するモノマーとして、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,11-ウンデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,13-トリデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,14-テトラデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,15-ペンタデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,16-ヘキサデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,17-ヘプタデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,18-オクタデカンジオールジ(メタ)アクリレート、4-メチル-1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、4-エチル-1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、リノール酸、グリシジル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテル、これらのエチレンオキシド付加物、プロピレンオキシド付加物などが挙げられ、反応性基を3つ有するモノマーとして、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、これらのエチレンオキシド付加物、プロピレンオキシド付加物などが挙げられ、反応性基を4つ有するモノマーとして、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、これらのエチレンオキシド付加物、プロピレンオキシド付加物などが挙げられ、反応性基を5つ有するモノマーとして、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、これらのエチレンオキシド付加物、プロピレンオキシド付加物などが挙げられ、反応性基を6つ有するモノマーとして、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、これらのエチレンオキシド付加物、プロピレンオキシド付加物などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。これらの中でも、(a)樹脂の分散性を向上させ、インキ凝集力をより低減して見当精度をより向上させる観点から、(メタ)アクリレートがより好ましい。ここで、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートの総称である。
【0028】
反応性基を2つ以上有するオリゴマーとしては、例えば、上記反応性基を2つ以上有するモノマーとして例示したモノマーの重合体などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0029】
これらの中でも、水酸基および/またはエチレンオキシド変性基を有する多官能(メタ)アクリレートが好ましく、後述する(c)反応性基が1つ以下である化合物として炭素数13以上22以下の脂肪族骨格を有するアルキル(メタ)アクリレートと組み合わせることにより、安定してミクロ相分離構造を形成しやすいことから、ノーマルフォースの積分値を前述の好ましい範囲に容易に調整し、見当精度をより向上させることができる。
【0030】
(b)反応性基を2つ以上有する化合物の水酸基価は、100mgKOH/g以上が好ましく、(a)樹脂や顔料の分散性を向上させ、インキ凝集力をより低減して見当精度をより向上させることができる。一方、(b)反応性基を2つ以上有する化合物の水酸基価は、160mgKOH/g以下が好ましく、反応性基を2つ以上有する化合物同士の相互作用を低減し、インキ凝集力をより低減して見当精度をより向上させることができる。なお、(b)反応性基を2つ以上有する化合物を2種以上含有する場合、少なくとも1種の水酸基価が前記範囲にあることが好ましい。
【0031】
ここで、本発明における(b)反応性基を2つ以上有する化合物の水酸基価は、JIS K 0070:1992の試験方法第7.1項の中和滴定法に記載の方法により測定する。
【0032】
インキ中における(b)反応性基を2つ以上有する化合物の含有量は、35重量%以上が好ましく、(a)樹脂や顔料の分散性を向上させ、インキ凝集力をより低減して見当精度をより向上させることができる。一方、(b)反応性基を2つ以上有する化合物の含有量は、70重量%以下が好ましく、粘度を適度に高く保ち、地汚れを抑制することができる。(b)反応性基を2つ以上有する化合物の含有量は、49重量%以下がより好ましい。
【0033】
本発明のインキは、さらに(c)反応性基が1つ以下である化合物を含有することが好ましい。(c)反応性基が1つ以下である化合物は、インキ凝集力を低減する助剤としての作用を有する。(c)反応性基が1つ以下である化合物における反応性基は、(b)反応性基を2つ以上有する化合物における反応性基と同義であり、反応性基を1つ有してもよいし、有しなくてもよい。
【0034】
(c)反応性基が1つ以下である化合物としては、例えば、反応性基を1つ有する化合物として、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、ヘンイコシル(メタ)アクリレート、ドコシル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、イソヘキシル(メタ)アクリレート、イソヘプチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソウンデシル(メタ)アクリレート、イソドデシル(メタ)アクリレート、イソトリデシル(メタ)アクリレート、イソテトラデシル(メタ)アクリレート、イソペンタデシル(メタ)アクリレート、イソヘキサデシル(メタ)アクリレート、イソヘプタデシル(メタ)アクリレート、イソオクタデシル(メタ)アクリレート、イソノナデシル(メタ)アクリレート、イソエイコシル(メタ)アクリレート、イソヘンイコシル(メタ)アクリレート、イソドコシル(メタ)アクリレート、オレイン酸、ヘキシルグリシジルエーテル、これらのエチレンオキシド付加物、プロピレンオキシド付加物などが挙げられる。これらの中でも、(a)樹脂の分散性を向上させ、インキ凝集力をより低減して見当精度をより向上させる観点から、(メタ)アクリレートがより好ましい。反応性基を有しない化合物として、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、エイコサン、ヘンイコサン、ドコサン、アセトン、テトラヒドロフラン、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンイコサノール、ドコサノール、2-プロパノール、2-ブタノール、2-ペンタノール、2-ヘキサノール、2-ヘプタノール、2-オクタノール、2-ノナノール、2-デカノール、2-ウンデカノール、2-ドデカノール、2-トリデカノール、2-テトラデカノール、2-ペンタデカノール、2-ヘキサデカノール、2-ヘプタデカノール、2-オクタデカノール、2-ノナデカノール、2-エイコサノール、2-ヘンイコサノール、2-ドコサノール、メタン酸、エタン酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘンイコサン酸、ドコサン酸、フェノール、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、安息香酸、2-メチル安息香酸、3-メチル安息香酸、4-メチル安息香酸、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、4-メトキシフェノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、これらのエチレンオキシド付加物、プロピレンオキシド付加物などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0035】
これらの中でも、炭素数13以上22以下の脂肪族骨格を有するアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、前述の(b)反応性基を2つ以上有する化合物として水酸基および/またはエチレンオキシド変性基を有する多官能(メタ)アクリレートと組み合わせることにより、安定してミクロ相分離構造を形成しやすいことから、ノーマルフォースの積分値を前述の好ましい範囲に容易に調整し、見当精度をより向上させることができる。相分離の進行を適度に促進し、安定してミクロ相分離構造を形成しやすいことから、脂肪族骨格の炭素数は14以上がより好ましく、16以上がさらに好ましい。一方、相分離の進行を適度に抑え、安定してミクロ相分離構造を保ちやすいことから、脂肪族骨格の炭素数は21以下がより好ましく、20以下がさらに好ましい。
【0036】
(b)反応性基を2つ以上有する化合物の溶解度パラメーター(以下、「SP値」と記載する場合がある)と、(c)反応性基が1つ以下である化合物のSP値との差は、3.5以上が好ましく、安定的にミクロ相分離構造を形成しやすいことから、ノーマルフォースの積分値を前述の好ましい範囲に容易に調整し、見当精度をより向上させることができる。SP値の差は、3.9以上がより好ましく、4.3以上がさらに好ましい。一方、SP値の差は、8.2以下が好ましく、相分離の進行を適度に抑え、安定的にミクロ相分離構造を保ちやすいことから、ノーマルフォースの積分値を前述の好ましい範囲に容易に調整し、見当精度をより向上させることができる。SP値の差は、7.2以下がより好ましく、6.2以下がさらに好ましい。
【0037】
ここで、本発明における溶解度パラメーターとは、Polymer handbook Third edition(A Wiley-Interscience publication,1989)に記載のFedоrs法で計算される溶解度パラメーター(単位(J/cm1/2)を示す。(b)反応性基を2つ以上有する化合物を2種以上含有する場合、そのSP値は、それぞれの化合物のSP値と含有量から、重量平均により算出する。例えば、(b)反応性基を2つ以上有する化合物として、化合物A(SP値:11.5、含有量:30重量部)と化合物B(SP値:10、含有量:20重量部)の2種を含有する場合、(b)反応性基を2つ以上有する化合物のSP値は、(11.5×30+10×20)÷(30+20)=10.9と算出される。
【0038】
(c)反応性基が1つ以下である化合物を2種以上含有する場合、そのうちの少なくとも1種のSP値と(b)反応性基を2つ以上有する化合物のSP値との差が前記範囲にあることが好ましく、それぞれのSP値と(b)反応性基を2つ以上有する化合物のSP値との差の全てが前記範囲にあることがより好ましい。
【0039】
(c)反応性基が1つ以下である化合物の分子量は、250以上が好ましく、相分離の進行を適度に促進し、安定してミクロ相分離構造を形成しやすいことから、ノーマルフォースの積分値を前述の好ましい範囲に容易に調整し、見当精度をより向上させることができる。分子量は、275以上がより好ましく、300以上がさらに好ましい。一方、(c)反応性基が1つ以下である化合物の分子量は1,000以下が好ましく、相分離の進行を適度に抑え、安定してミクロ相分離構造を保ちやすいことから、ノーマルフォースの積分値を前述の好ましい範囲に容易に調整し、見当精度をより向上させることができる。分子量は、700以下がより好ましく、500以下がさらに好ましい。
【0040】
(c)反応性基が1つ以下である化合物の融点は、25℃以上が好ましく、保管時および印刷時に、相分離の進行を適度に抑え、ミクロ相分離構造を保ちやすいことから、ノーマルフォースの積分値を前述の好ましい範囲に容易に調整し、見当精度をより向上させることができる。融点は、27℃以上がより好ましい。
【0041】
ここで、(c)反応性基が1つ以下である化合物の融点は、前述のインキの融点と同様に測定する。
【0042】
(c)反応性基が1つ以下である化合物の含有量は、(b)反応性基を2つ以上有する化合物100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、相分離の進行を適度に促進し、安定的にミクロ相分離構造を形成しやすいことから、ノーマルフォースの積分値を前述の好ましい範囲に容易に調整し、見当精度をより向上させることができる。(c)反応性基が1つ以下である化合物の含有量は、1.5質量部以上がより好ましく、2質量部以上がさらに好ましい。一方、(c)反応性基が1つ以下である化合物の含有量は、7質量部以下が好ましく、相分離の進行を適度に抑え、安定してミクロ相分離構造を保ちやすいことから、ノーマルフォースの積分値を前述の好ましい範囲に容易に調整し、見当精度をより向上させることができる。(c)反応性基が1つ以下である化合物の含有量は、6質量部以下がより好ましく、5質量部以下がさらに好ましい。
【0043】
本発明のインキは、さらに顔料を含有することが好ましい。顔料としては、有機顔料、無機顔料が挙げられる。有機顔料としては、例えば、フタロシアニン系顔料、溶性アゾ系顔料、不溶性アゾ系顔料、レーキ顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリン系顔料、スレン系顔料、金属錯体系顔料等が挙げられる。より具体的には、例えば、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アゾレッド、モノアゾレッド、モノアゾイエロー、ジスアゾレッド、ジスアゾイエロー、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンダ、イソインドリンイエロー等が挙げられる。無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナホワイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化物被覆ガラス、ケイ酸塩鉱物(マイカ)、酸化物被覆雲母、酸化物被覆金属粒子、カーボンブラック、グラファイト等が挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0044】
本発明のインキは、藍、紅、黄などの有彩色インキ、黒インキ、白インキ、透明インキなどの各色に用いることができる。広い印刷面積が求められることが多いことから、透明インキや白インキに好適に用いることができ、白インキに特に好適に用いることができる。
【0045】
本発明のインキが透明インキである場合、顔料としては、透明性と、耐ミスチング性や地汚れ抑制とのバランスの観点から、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化物被覆ガラス、ケイ酸塩鉱物(マイカ)などのイオン化合物が好ましい。本発明のインキが白インキである場合、顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナホワイトなどのイオン化合物が好ましい。イオン化合物同士の相互作用により、インキ凝集力をより低減し、ノーマルフォースの積分値を前述の好ましい範囲に容易に調整し、見当精度をより向上させることができる。
【0046】
白インキ用の白色顔料の粒子径は、200nm以上300nm以下が好ましい。
【0047】
本発明のインキは、さらに界面活性剤を含有することが好ましく、顔料の分散性をより向上させてインキ凝集力をより低減し、ノーマルフォースの積分値を前述の好ましい範囲に容易に調整し、見当精度をより向上させることができる。
【0048】
界面活性剤としては、例えば、ビックケミー・ジャパン(株)製「“Anti-Terra”(登録商標)-U」、「“Anti-Terra”-203/204」、「“Disperbyk”(登録商標)-101、102、103、106、107、110、111、115、118、130、140、142、145、161、162、163、164、165、166、167、168、170、171、174、180、181、182、184、185、187、190、191、192、193、199、2000、2001、2008、2009、2010、2012、2013、2015、2022、2025、2026、2050、2055、2060、2061、2070、2096、2150、2151、2152、2155、2163、2164、2200、2205、9067、9076」、「“Bykumen”(登録商標)」、「“BYK”(登録商標)-P104、P105」、「P104S、240S」、「“Lactimon”(登録商標)」、EfkaCHEMICALS社製「“EFKA”(登録商標)44、46、47、48、49、54、63、64、65、66、71、701、764、766」、「エフカポリマー100、150、400、401、402、403、450、451、452、453、745」、共栄社化学(株)製「“フローレン”(登録商標)TG-710、「“フローノン”(登録商標)SH-290、SP-1000」、「ポリフローNo.50E、No.300」、楠本化成(株)製「“ディスパロン”(登録商標)325、KS-860、873SN、874、1401、#2150、#7004」花王(株)製「“デモール”(登録商標)RN、N、MS、C、SN-B、EP」、「“ホモゲノール”(登録商標)L-18、「“エマルゲン”(登録商標)920、930、931、935、950、985」、「“アセタミン”(登録商標)24、86」、Lubrizol社製「“ソルスパース”(登録商標)5000、13940、17000、24000GR、32000、33000、39000、41000、53000」、味の素ファインテクノ(株)製「“アジスパー”(登録商標)PB821、822、824」等が挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0049】
本発明のインキが白インキである場合、これらの中でも、(d)アニオン性界面活性剤が好ましく、酸化チタンや、酸化亜鉛、アルミナホワイトなどの白色顔料の分散性を向上させてインキ凝集力をより低減し、ノーマルフォースの積分値を前述の好ましい範囲に容易に調整し、見当精度をより向上させることができる。アニオン性界面活性剤としては、例えば、ビックケミー・ジャパン(株)製「“Disperbyk”(登録商標)111」、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸カリウム、パルミチン酸カリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸カリウム、N-ステアロイル-L-グルタミン酸ナトリウム、N-ステアロイル-N-メチルタウリンナトリウム、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0050】
界面活性剤の含有量は、顔料100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下が好ましい。
【0051】
次に、本発明のインキの製造方法について説明する。本発明のインキは、例えば、(a)樹脂、(b)反応性基を2つ以上有する化合物および必要に応じて(c)反応性基が1つ以下である化合物、顔料、界面活性剤、その他成分を、混合分散することにより得ることができる。混合分散に先立ち、5~100℃で溶解させてもよいし、混合分散の過程および/または混合分散後に、真空または減圧条件下で脱泡してもよい。混合装置としては、例えば、ニーダー、三本ロールミル、ボールミル、遊星式ボールミル、ビーズミル、ロールミル、アトライター、サンドミル、ゲートミキサー、ペイントシェーカー、ホモジナイザー、自公転型撹拌機等の撹拌機や混練機などが挙げられる。
【0052】
次に、本発明の印刷物の製造方法について説明する。本発明の印刷物の製造方法は、前述の本発明のインキを基材上に転写する工程および活性エネルギー線を照射する工程を含む。本発明のインキは活性エネルギー線照射により硬化することから、活性エネルギー線を照射する工程により、インキの硬化膜を有する印刷物を得ることができる。
【0053】
まず、本発明のインキを基材上に転写する工程について説明する。
【0054】
基材としては、例えば、アート紙、コート紙、キャスト紙、合成紙、新聞用紙、プラスチックフィルム、プラスチックフィルムラミネート紙、金属膜、金属蒸着紙、金属蒸着プラスチックフィルムなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタールなどからなるフィルムなどが挙げられる。プラスチックフィルムラミネート紙としては、例えば、紙上に、前述のプラスチックフィルムが積層されたものなどが挙げられる。金属膜としては、例えば、亜鉛、銅などからなる膜などが挙げられる。金属蒸着紙や金属蒸着プラスチックフィルムとしては、例えば、紙やプラスチックフィルム上に、前記金属やその酸化物が蒸着されたものなどが挙げられる。これらの中でも、プラスチックフィルム、プラスチックフィルムラミネート紙、金属膜、金属蒸着紙、金属蒸着プラスチックフィルムは、インキを吸収しないことから、インキの吸収によりインキを固着しないため、活性エネルギー線照射によりインキを硬化させて固着することができる本発明に好適に用いることができる。
【0055】
基材には、易接着処理が施されていてもよく、基材へのインキの転移性を向上させることができる。易接着処理としては、例えば、プライマ塗布、コロナ放電処理やプラズマ処理などの表面処理などが挙げられる。
【0056】
基材の厚は、軟包装用途に用いる場合、10μm以上30μm以下が好ましい。
【0057】
基材としては、枚葉、ロールフィルムのいずれも用いることができる。軟包装用途において薄膜フィルムを用いる場合は、ロールフィルムを用い、ロールトゥロールで転写することが好ましい。
【0058】
本発明のインキの基材への転写方法としては、平版印刷が好ましい。平版印刷の方式としては、水あり印刷、水なし印刷が挙げられる。
【0059】
基材上のインキ転写膜の厚みは、硬化後の厚みが0.1~50μmとなるように設定することが好ましい。これにより、良好な印刷品質とインキ使用量削減を両立することができる。
【0060】
白インキを基材上へ転写する場合、白インキを2回以上転写することが好ましい。これにより、隠蔽率を向上させるとともに、1回あたりのインキ転写量を低減し、見当精度をより向上させることができる。
【0061】
インキを複数回転写する方法としては、例えば、印刷による転写の場合、ウェットオンウェット印刷方式、ドライオンウェット印刷方式などが挙げられる。これらの中でも、生産性の観点から、ウェットオンウェット印刷方式が好ましい。
【0062】
次に、活性エネルギー線を照射する工程について説明する。基材上に転写したインキに活性エネルギー線を照射することにより、インキを瞬時に硬化させることができる。活性エネルギー線としては、例えば、紫外線や電子線などが挙げられ、硬化性を高めて臭気の発生を抑制する観点から、電子線が好ましい。紫外線照射装置としては、例えば、高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、発光ダイオード(LED)などが挙げられる。波長350~420nmの輝線を発する発光ダイオードを光源とする紫外線(LED-UV)を用いることが、省電力の観点から好ましい。電子線としては、100~500eVのエネルギー線が好ましい。
【実施例0063】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0064】
<インキ原料>
(a)樹脂
樹脂:25質量%のメタクリル酸メチル、25質量%のスチレン、50質量%のメタクリル酸からなる共重合体のカルボキシル基に対して0.55当量のグリシジルメタクリレートを付加反応させて、エチレン性不飽和基と親水性基を有する樹脂1を得た。得られた樹脂は重量平均分子量34,000、酸価105mgKOH/g、ヨウ素価2.0mol/kgであった。
(b)反応性基を2つ以上有する化合物
モノマー1:ペンタエリスリトールトリアクリレート65重量%とペンタエリスリトールテトラアクリレート35重量%の混合物(MIWON社製、“Miramer”(登録商標)M340)、水酸基価115mgKOH/g、混合物としてのSP値22.7(J/cm1/2
モノマー2:トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート(MIWON社製、“Miramer”(登録商標)M3190)、水酸基価10mgKOH/g、溶解度パラメーター19.6(J/cm1/2
モノマー3:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(MIWON社製、“Miramer”(登録商標)M600)、水酸基価5mgKOH/g、溶解度パラメーター21.3(J/cm1/2
顔料
顔料1:“タイペーク”(登録商標)CR58-2(石原産業(株)製)
顔料2:カーミン6B 1483LT(大日精化(株)製)
(c)反応性基が1つ以下である化合物
助剤1:オクタデシルアクリレート(東京化成工業(株)製)、分子量325、融点28℃、溶解度パラメーター17.8(J/cm1/2
助剤2:ドデシルアクリレート(東京化成工業(株)製)、分子量240、融点4℃、溶解度パラメーター17.8(J/cm1/2
(d)アニオン性界面活性剤
界面活性剤1:“Disperbyk”(登録商標)111(ビックケミー・ジャパン(株)製)
その他
界面活性剤2:“ソルスパース”(登録商標)54000(Lubrizol社製)、高分子系界面活性剤。
【0065】
<インキ原料の分析方法>
(1)重量平均分子量
樹脂を、濃度0.25質量%となるようにテトラヒドロフランで希釈した希釈溶液を作製し、ミックスローター(MIX-ROTAR VMR-5、アズワン(株)製)を用いて、希釈溶液を回転数100rpmの条件で5分間撹拌して樹脂を溶解させ、0.2μmフィルター(Z227536-100EA、SIGMA社製)を用いてろ過した。得られたろ液を用いて、テトラヒドロフランを移動相としたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、樹脂の重量平均分子量を測定した。GPCはHLC-8220(東ソー(株)製)、カラムはTSKgel SuperHM-H(東ソー(株)製)、TSKgel SuperHM-H(東ソー(株)製)、TSKgel SuperH2000(東ソー(株)製)の順で連結したものを用い、RI検出により測定した。検量線はポリスチレン標準物質を用いて作成した。測定条件は、打ち込み量10μL、分析時間30分、流量0.4mL/分、カラム温度40℃とした。
【0066】
(2)酸価
JIS K 0070:1992の試験方法第3.1項の中和滴定法に記載の方法により、樹脂の酸価を測定した。
【0067】
(3)ヨウ素価
JIS K 0070:1992の試験方法第6.0項に記載の方法により、樹脂のヨウ素価を測定した。
【0068】
(4)水酸基価
JIS K 0070:1992の試験方法第7.1項の中和滴定法に記載の方法により、(b)反応性基を2つ以上有する化合物の水酸基価を測定した。
【0069】
(5)溶解度パラメーター
Polymer handbook Third edition(A Wiley-Interscience publication,1989)に記載されるFedоrs法により、各実施例および比較例に用いた(b)成分および(c)成分のSP値(単位(J/cm1/2)を算出した。ただし、(b)反応性基を2つ以上有する化合物のSP値は、それぞれの化合物のSP値と含有量から、重量平均により算出した。
【0070】
(6)融点
各実施例および比較例に用いた(c)成分の融点は、後述する<評価方法>(2)に記載の方法により測定した。
【0071】
<評価方法>
(1)ノーマルフォース(法線方向への応力)の積分値
アントン・パール(Anton Paar)社製レオメーターMCR301にパラレルプレート(MEASURING PLATE PP25、直径25mm)を装着した。各実施例および比較例により作製したインキを、インキピペットを用いて0.35ml秤量してパラレルプレートにセットし、クリアランスを0.1mmに調整した。プレートからあふれたインキは除去し、温度25℃で、以下の順番のプログラムにより、ノーマルフォースを測定した。
(1)60秒間静置する。
(2)ひずみ:40%(一定)、角周波数:100rad/s(一定)で60秒間振動運動させる。
(3)60秒間静置する。
(4)クリアランスを0.01mm/sの速度で5秒間狭める。
(5)クリアランスを0.01mm/sの速度で25秒間広げながら、0.05秒間隔でノーマルフォースを測定する。
【0072】
上記(5)において、ノーマルフォースが0N・sに達した時点から測定終了(25秒後)までの区間について、ノーマルフォース(単位:N・s)を時間(単位:s)で積分した値の絶対値を、ノーマルフォース(法線方向への応力)の積分値(単位:N・s・s)とした。
【0073】
(2)ガラス転移点および融点
セイコーインスツル(株)製示差走査熱量計:DSC6200を用いて、窒素流量40mL/分とし、冷却に液体窒素を用いて、各実施例および比較例により得られたインキ5mgをアルミパンに計量し、空のアルミパンをリファレンスとして、以下の順番のプログラムにより、熱量を測定した。
(1)30℃に調整した後、30℃から100℃まで昇温速度10℃/分で昇温する。
(2)100℃で5分間保持する。
(3)100℃から-90℃まで降温速度10℃/分で降温する。
(4)-90℃で5分間保持する。
(5)-90℃から100℃まで昇温速度10℃/分で昇温する。
【0074】
上記(5)において、ベースラインシフトが認められる場合は、低温側のベースラインと変曲点における接線との交点の温度をガラス転移点とした。また、吸熱ピークが認められる場合は、そのピークトップの温度を融点とした。
【0075】
(3)見当精度および地汚れ
<平版印刷用紅インキの作製>
前述の樹脂 15質量%、モノマー1 45.0質量%、モノマー2 20.0質量%、モノマー3 2.0質量%をそれぞれ秤量し、ディスパー羽根を用いて、回転数500rpmで撹拌しながら、温度95℃で390分間加熱し、ワニスを得た。得られたワニスに、顔料2 18.0質量%を添加し、三本ロールミル“EXAKT”(登録商標)M-80S(EXAKT社製)を用いて、ギャップ1で5回通し、平版印刷用紅インキを得た。
【0076】
<平版印刷>
横(幅方向):1,070mm、縦(印刷方向):674mmの水なし平版印刷版(TAN-E、東レ(株)製)で、線の太さが0.1mmの見当精度確認用十字(トンボ)マークを印刷方向:中心、幅方向:版の両端からそれぞれ50mmの位置に有する印刷版を、フレキソハイブリッド印刷機(CI-8、COMEXI社)の1胴目に設置した。横(幅方向):1,070mm、縦(印刷方向):674mmの水なし平版印刷版(TAN-E、東レ(株)製)で、100%ベタ、横(幅方向):900mm、縦(印刷方向):500mmの画線部を版の中心に有し、線の太さが0.1mmの見当精度確認用十字(トンボ)マークを印刷方向:中心、幅方向:版の両端からそれぞれ50mmの位置に有する印刷版を、前記フレキソハイブリッド印刷機の6胴目および7胴目にそれぞれ設置した。1胴目に前記方法により得られた平版印刷用紅インキを、6胴目および7胴目に各実施例および比較例により得られた平版印刷用白インキを設置した。
【0077】
基材であるポリエステルフィルムPTM12(ユニチカ(株)製、厚み12μm)上に、1胴目はインキ送り量:5%、6胴目および7胴目はインキ送り量:40%、圧胴用チラー設定温度:25℃、揺動ローラーおよびインキ壺用チラー設定温度:28℃の条件で、ブランケットにT414(金陽社製、厚み1.95mm)を用い、ウェットオンウェット印刷方式により、平版印刷用紅インキおよび平版印刷用白インキを100m/分の速度で印刷した。全インキ印刷後に、印刷機付属の電子線照射装置を用いて、110kV、40kGyの電子線を照射し、インキを硬化させ印刷物を得た。
【0078】
印刷中に各色の見当精度確認用十字(トンボ)マークを同じ位置に合わせた状態から、調整をせずに印刷を続け、30秒後の印刷物について、紅色の十字(トンボ)マークと、紅色の十字(トンボ)マークに対して最も位置が離れている白色の十字(トンボ)マークとの距離(トンボ間距離)を測定し、下記基準により見当精度を評価した。
トンボ間距離0.3mm超:不十分
トンボ間距離0.2mm超0.3mm以下:やや良好
トンボ間距離0.1mm超0.2mm以下:良好
トンボ間距離0.1mm以下:極めて良好
また、120秒後の印刷物の非画線部を目視観察し、白インキによる地汚れの有無を評価した。
【0079】
[実施例1]
<白インキの作製>
表1に記載の(a)成分および(b)成分をそれぞれ秤量し、ディスパー羽根を用いて、回転数500rpmで撹拌しながら、温度95℃で390分間加熱し、ワニスを得た。得られたワニスに、表1に記載の顔料、(c)成分および(d)成分を添加し、三本ロールミル“EXAKT”(登録商標)M-80S(EXAKT社製)を用いて、ギャップ1で5回通し、平版印刷用白インキを得た。得られた平版印刷用白インキを用いて、前述の方法により評価した結果を表1に示す。
【0080】
[実施例2~10、比較例1]
<白インキの作製>
白インキの組成を表1に記載のとおりに変更したこと以外は実施例1と同様にして、平版印刷用白インキを得た。得られた平版印刷用インキを用いて、前述の方法により評価した結果を表1に示す。
【0081】
【表1】