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特開2023-92005金属化フィルム及びそれを用いた金属化フィルムコンデンサ
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  • 特開-金属化フィルム及びそれを用いた金属化フィルムコンデンサ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092005
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】金属化フィルム及びそれを用いた金属化フィルムコンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/32 20060101AFI20230626BHJP
【FI】
H01G4/32 511G
H01G4/32 301B
H01G4/32 511K
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206947
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】390022460
【氏名又は名称】株式会社指月電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100044
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 重夫
(74)【代理人】
【識別番号】100205888
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 孝之助
(72)【発明者】
【氏名】小笹 千一
(72)【発明者】
【氏名】清水 和冬
(72)【発明者】
【氏名】小原 和喜
【テーマコード(参考)】
5E082
【Fターム(参考)】
5E082EE07
5E082EE15
5E082EE23
5E082EE37
5E082EE45
5E082FF05
5E082FG06
5E082FG19
5E082FG34
5E082FG56
5E082PP04
(57)【要約】
【課題】コロージョンによる劣化が進行し難いフィルムコンデンサ用の金属化フィルム及びそれを用いた金属化フィルムコンデンサを提供する。
【解決手段】誘電体フィルムの片面に蒸着電極を形成した金属化フィルムであって、蒸着電極が形成された側の面の算術平均高さSaが0.15μm以下であり、且つ山頂点の平均曲率Spcが8.0mm-1以下である。また、蒸着電極が形成された側の面の算術平均高さSaが0.12μm以下であり、及び/又は山頂点の平均曲率Spcが6.5mm-1以下であることが好ましい。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体フィルムの片面に蒸着電極を形成した金属化フィルムであって、
蒸着電極が形成された側の面の算術平均高さSaが0.15μm以下であり、且つ山頂点の平均曲率Spcが8.0mm-1以下である、金属化フィルム。
【請求項2】
蒸着電極が形成された側の面の算術平均高さSaが0.12μm以下であり、及び/又は山頂点の平均曲率Spcが6.5mm-1以下である、請求項1記載の金属化フィルム。
【請求項3】
蒸着電極が形成されていない側の面の算術平均高さSaが0.18μm以上であり、及び/又は山頂点の平均曲率Spcが15.0mm-1以上である、請求項1又は2記載の金属化フィルム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の金属化フィルムを用いた金属化フィルムコンデンサ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、誘電体フィルムに蒸着電極を形成した金属化フィルム及びそれを用いた金属化フィルムコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
誘電体フィルムに蒸着電極を形成した金属化フィルムを巻回又は積層してなる金属化フィルムコンデンサに高い交流電圧を印加し続けると、蒸着電極間でコロナ放電が生じ、蒸着電極が腐食して(コロージョン)、静電容量の減少や損失率の増加を招くことがある。
【0003】
特許文献1、2には、蒸着電極の材質として、自己回復性に優れる一方で腐食し易いアルミニウムではなく、腐食し難い亜鉛や亜鉛合金を用いることが記載されている。
【0004】
また、特許文献3には、製造時に生じた金属化フィルムのシワやヨレによってコロナ放電が発生してコロージョンが引き起こされること及びシワやヨレの発生を抑える製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-080766号公報
【特許文献2】特開平06-112089号公報
【特許文献3】特開平11-288842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、蒸着電極の材質を亜鉛や亜鉛合金とし、シワやヨレの発生を抑える製造方法を採用しても、UPS(無停電電源装置)や太陽光発電のパワーコンディショナー等、高い交流電圧で長時間使用されるものに組み込まれた場合、徐々にコロージョンが生じて劣化が進行する。
【0007】
本発明は、コロージョンによる劣化が進行し難いフィルムコンデンサ用の金属化フィルム及びそれを用いた金属化フィルムコンデンサの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意研究した結果、コロージョンの起点が金属化フィルムの表面に無数に存在する微小な突起であることを突き止めた。すなわち、シワやヨレといったコロナ放電を誘発する具体的な起点が無くても、高い交流電圧をかけ続けると、上記突起が起点となってコロナ放電が生じ、徐々にコロージョンが引き起こされるのである。そして、突起の高さや突起の先端の尖り度合いを低減することによってコロージョンの発生度合いが低減されることを見出し、本発明の完成に至った。本発明の具体的態様は以下の通りである。
【0009】
(1)誘電体フィルムの片面に蒸着電極を形成した金属化フィルムであって、蒸着電極が形成された側の面の算術平均高さSaが0.15μm以下であり、且つ山頂点の平均曲率Spcが8.0mm-1以下である、金属化フィルム。なお、mm-1は(1/mm)を示す。
【0010】
(2)蒸着電極が形成された側の面の算術平均高さSaが0.12μm以下であり、及び/又は山頂点の平均曲率Spcが6.5mm-1以下である、金属化フィルム。
【0011】
(3)蒸着電極が形成されていない側の面の算術平均高さSaが0.18μm以上であり、及び/又は山頂点の平均曲率Spcが15.0mm-1以上である、上記(1)又は(2)記載の金属化フィルム。
【0012】
(4)上記(1)~(3)のいずれかに記載の金属化フィルムを用いた金属化フィルムコンデンサ。
【発明の効果】
【0013】
上記本発明の一態様によれば、金属化フィルムの表面の突起を起点としたコロナ放電の発生を抑制することができ、コロージョンを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る金属化フィルムコンデンサの寿命試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る金属化フィルム及び金属化フィルムコンデンサについて説明する。なお、本発明は以下の形態に限定されるものでは無く、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態で実施することができる。
【0016】
本発明の金属化フィルムは、誘電体フィルムと、誘電体フィルムの片面に形成された蒸着電極とを備える。ただ、蒸着電極は誘電体フィルムの両面に形成してもよい。両面に形成した場合は、「金属化フィルムの蒸着電極が形成されていない側の面」は存在しない。
【0017】
誘電体フィルムは、熱可塑性樹脂を主成分としている。熱可塑性樹脂としては、例えばポリプロピレン、ポリエステル、ポリエーテルイミド、ポリアリレート等が挙げられる。
【0018】
蒸着電極の材質は金属、具体的には亜鉛又は亜鉛合金等である。蒸着電極は、非蒸着部からなるパターンによって分割されていてもよい。蒸着電極は、例えば真空蒸着法によって形成される。具体的には、誘電体フィルムを真空蒸着機内に入れ、コロナ放電処理を施した面に、膜抵抗値が所定の値となるように金属を蒸着する。膜抵抗値は、例えば3~30Ω/□である。交流用途では7~12Ω/□が好ましい。7Ω/□より小さいと自己回復し難くなり、12Ω/□より大きいと通電発熱が大きくなる。亜鉛に約10%のアルミニウムを含んだ合金の場合、蒸着電極の厚みは約15~20nmとなる。蒸着方法については、膜抵抗値が上記値に収まるものであれば、真空蒸着法に限らず、公知の種々の方法を採用し得る。
【0019】
ところで、金属化フィルムの蒸着電極が形成された側の面(以下、単に「蒸着面」)の粗さは、ISO 25178に規定される、算術平均高さSaが0.15μm以下であり、且つ山頂点の平均曲率Spcが8.0mm-1以下である。SaとSpcとが上記値を満たす場合、コロージョンを抑制することができる。また、Saが0.12μm以下であり、山頂点の平均曲率Spcが8.0mm-1以下である場合や、Saが0.15μm以下であり、Spcが6.5mm-1以下である場合は、コロージョンをより抑制することができる。特に、Saが0.12μm以下であり、山頂点の平均曲率Spcが6.5mm-1以下である場合は、コロージョンをより一層抑制することができる。なお、Saは0.01μm以上、Spcは0.1mm-1以上の少なくとも一方の条件を満たすことが好ましい。この値より小さいと、金属化フィルム同士の滑り性が悪くなる可能性がある。なお、上記Sa、Spcの値は、蒸着電極の表面の値である。蒸着面にパターンが形成されている場合、Sa、Spcの測点に、蒸着電極の表面に加えて、非蒸着部の表面(すなわち誘電体フィルムの表面)が含まれることがあるが、蒸着電極の厚みが誘電体フィルムの表面の粗さに対して十分に薄く、誘電体フィルムの表面粗さが略そのまま蒸着電極の表面粗さに反映されるため、数値にほとんど影響を与えない。
【0020】
また、金属化フィルムの蒸着電極が形成されていない側の面(以下、単に「非蒸着面」)の粗さは、ISO 25178に規定される、算術平均高さSaが0.18μm以上であり、及び/又は山頂点の平均曲率Spcが15.0mm-1以上である。このように、非蒸着面に適度な粗さを持たせることによって、フィルムコンデンサの自己回復性が良好に保たれる。非蒸着面のSa、Spcの上限は耐電圧性能等をもとに決めればよい。
【0021】
上記構成の金属化フィルムを巻回し、軸方向両端部に例えば金属を溶射してなるメタリコン電極を形成することで本発明の金属化フィルムコンデンサが製造される。なお、巻回に代えて積層してもよい。上記構成の金属化フィルムコンデンサは、高い交流電圧下でも長時間使用することができる信頼性の高いフィルムコンデンサとなる。
【0022】
次に、寿命試験について説明する。
【0023】
本試験における実施例1は、蒸着面のSaが0.15μmで、Spcが8.0mm-1とされた金属化フィルムを用いて製造したコンデンサである。実施例2は、蒸着面のSaが0.12μmで、Spcが6.5mm-1とされた金属化フィルムを用いて製造したコンデンサである。比較例は、蒸着面のSaが0.18μmで、Spcが8.8mm-1とされた金属化フィルムを用いて製造したコンデンサである(表1参照)。非蒸着面のSaはいずれも0.18μm以上、Spcはいずれも15mm1以上となっている。なお、面粗さの指標であるSa、Spcは、A4サイズの金属化フィルムを採取し、白色干渉計(キーエンス社製、レーザー顕微鏡VK-X3000に搭載)を用いて、1.5mm×1.0mmの方形領域を6点測定した。誘電体フィルムは、実施例1、2及び比較例のいずれも6μm厚のポリプロピレン製のものを使用した。蒸着電極の素材は、実施例1、2及び比較例のいずれも同じものを使用した。具体的には、亜鉛に約10%のアルミニウムを含んだ合金を使用した。膜抵抗値は、いずれも10Ω/□である。
【0024】
【表1】
【0025】
試験方法は、40℃、95%RHの環境下において、各コンデンサに320VACを印加し、容量変化率が-5%に至るまでの時間を測定した(AC耐湿負荷試験)。なお、試験体はそれぞれ6個用意した。
【0026】
図1は、試験結果を表したグラフである。数値は6個の試験体の平均値である。図に示すように、実施例1では静電容量が5%低下するまでの時間が比較例の約1.6倍に、実施例2では約2.3倍に延びていることが分かる。

図1
【手続補正書】
【提出日】2022-11-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
しかし、蒸着電極の材質を亜鉛や亜鉛合金とし、シワやヨレの発生を抑える製造方法を採用しても、力率改善用機器や発電システム用機器等、高い交流電圧で長時間使用されるものに組み込まれた場合、徐々にコロージョンが生じて劣化が進行する。