(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092090
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】発想支援システム及び発想支援方法
(51)【国際特許分類】
G06F 16/903 20190101AFI20230626BHJP
【FI】
G06F16/903
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207088
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】淺原 彰規
(72)【発明者】
【氏名】刑部 好弘
(72)【発明者】
【氏名】森田 秀和
(72)【発明者】
【氏名】津田 香林
【テーマコード(参考)】
5B175
【Fターム(参考)】
5B175HB03
(57)【要約】
【課題】
ユーザがアナロジーに基づく発想を広げることを支援する。
【解決手段】
発想支援システム100において、アイディアエンコーダ105による変換は、複数の思考データを変換して得た多変量において、その多変量間の距離の小ささと変換前の思考データの類似性とが相関する特徴を有し、データ選別部(アナロジー想起データ選別部104)は、アイディアエンコーダ105が変換した第1の多変量及び第2の多変量のそれぞれについて、多変量の成分と分野符号との関連性を分析することによって多変量から分野符号に影響される成分を除去し、除去後の第1の多変量と第2の多変量との距離から示される類似性に基づいて、思考データベースに記録された前記思考データのうちからユーザにアナロジーを想起させ得るアナロジー想起情報を選別する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存の思考を情報化した思考データを、その思考の対応する分野を示す分野符号と対応付けて記録した思考データベースと、
ユーザの思考を情報化した思考データであるユーザ思考データを受け取る入力部と、
前記思考データ及び前記ユーザ思考データをそれぞれ多変量に変換するアイディアエンコーダと、
前記ユーザ思考データを前記アイディアエンコーダによって変換して得られる第1の多変量と、前記思考データベースに記録された前記思考データを前記アイディアエンコーダによって変換して得られる第2の多変量とに基づいて、ユーザにアナロジーを想起させ得るアナロジー想起情報を選別するデータ選別部と、
を備え、
前記アイディアエンコーダによる変換は、複数の思考データを変換して得た多変量において、その多変量間の距離の小ささと変換前の思考データの類似性とが相関する特徴を有し、
前記データ選別部は、前記アイディアエンコーダが変換した前記第1の多変量及び前記第2の多変量のそれぞれについて、前記多変量の成分と前記分野符号との関連性を分析することによって当該多変量から当該分野符号に影響される成分を除去し、除去後の前記第1の多変量と前記第2の多変量との距離から示される前記類似性に基づいて、前記思考データベースに記録された前記思考データのうちから前記アナロジー想起情報を選別する
ことを特徴とする発想支援システム。
【請求項2】
前記データ選別部が選別した前記アナロジー想起情報をユーザに提示する情報提示部と、
ユーザからの情報入力とユーザへの情報提示との切替を制御する画面遷移制御部と、
をさらに備え、
前記入力部は、前記情報提示部による前記アナロジー想起情報の提示を受けてユーザの思考が変化した場合に、前記ユーザから入力される、当該変化した後の思考を表す前記ユーザ思考データを受け取り、
前記画面遷移制御部は、前記情報提示部による情報提示と前記入力部によるユーザ思考データの受け取りとを繰り返し実行可能に制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の発想支援システム。
【請求項3】
前記情報提示部による情報提示と前記入力部によるユーザ思考データの受け取りとの記録を履歴情報として保存する履歴保存データベースをさらに備え、
前記情報提示部は、前記履歴保存データベースに保存された前記履歴情報を履歴表示画面に時系列で表示する
ことを特徴とする請求項2に記載の発想支援システム。
【請求項4】
ユーザを引き継ぎながら、ユーザごとに前記情報提示部による情報提示と前記入力部によるユーザ思考データの受け取りとを繰り返し実行可能に構成され、
前記画面遷移制御部は、前記履歴保存データベースに保存された前記ユーザによる前記履歴情報を用いて、引き継ぎ後のユーザに対する前記情報提示部による情報提示を行うよう制御する
ことを特徴とする請求項3に記載の発想支援システム。
【請求項5】
前記情報提示部は、前記アイディアエンコーダによって変換された前記第1の多変量及び前記第2の多変量に基づいて、前記ユーザ思考データと前記アナロジー想起情報との位置関係を視認可能な相関図を生成し提示する
ことを特徴とする請求項3に記載の発想支援システム。
【請求項6】
前記データ選別部は、前記分野符号に影響される成分を除去した後の前記第1の多変量と前記第2の多変量との距離を算出した結果、前記第1の多変量との距離が所定の閾値以下である前記第2の多変量に対応する前記思考データを前記アナロジー想起情報として選別し、
前記情報提示部は、前記所定の閾値を前記相関図に表示する
ことを特徴とする請求項5に記載の発想支援システム。
【請求項7】
前記入力部は前記所定の閾値を変更する入力をユーザから受け付ける
ことを特徴とする請求項6に記載の発想支援システム。
【請求項8】
前記ユーザ思考データには、当該ユーザ思考データの思考の元となった前記ユーザ思考データが関連付けられ、
前記情報提示部は、前記履歴表示画面において、前記履歴情報として示す各前記ユーザ思考データについてその思考の前後関係を表示し、
前記入力部は、前記履歴表示画面に表示された任意の前記ユーザ思考データから分岐して発展させた思考を表す前記ユーザ思考データをユーザから受け取り可能とする
ことを特徴とする請求項3に記載の発想支援システム。
【請求項9】
前記アイディアエンコーダは、事前学習済みの機械学習モデルを用いて、前記多変量への変換を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の発想支援システム。
【請求項10】
前記思考データは、文字列を用いて思考が情報化されたデータであり、
前記アイディアエンコーダは、文字列を多変量に変換する機能を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の発想支援システム。
【請求項11】
前記文字列は数式である
ことを特徴とする請求項10に記載の発想支援システム。
【請求項12】
前記思考データは、画像を用いて思考が情報化されたデータであり、
前記アイディアエンコーダは、画像を多変量に変換する機能を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の発想支援システム。
【請求項13】
ユーザの思考の発展を支援する発想支援システムによる発想支援方法であって、
前記発想支援システムは、
既存の思考を情報化した思考データを、その思考の対応する分野を示す分野符号と対応付けて記録した思考データベースと、
ユーザの思考を情報化した思考データであるユーザ思考データを受け取る入力部と、
前記思考データ及び前記ユーザ思考データを多変量に変換するアイディアエンコーダと、
前記ユーザ思考データを前記アイディアエンコーダによって変換して得られる第1の多変量と、前記思考データベースに記録された前記思考データを前記アイディアエンコーダによって変換して得られる第2の多変量とに基づいて、ユーザにアナロジーを想起させ得るアナロジー想起情報を選別するデータ選別部と、
を有し、
前記アイディアエンコーダによる変換は、複数の思考データを変換して得た多変量において、その多変量間の距離の小ささと変換前の思考データの類似性とが相関する特徴を有し、
前記データ選別部は、前記アイディアエンコーダが変換した前記第1の多変量及び前記第2の多変量のそれぞれについて、前記多変量の成分と前記分野符号との関連性を分析することによって当該多変量から当該分野符号に影響される成分を除去し、除去後の前記第1の多変量と前記第2の多変量との距離から示される前記類似性に基づいて、前記思考データベースに記録された前記思考データのうちから前記アナロジー想起情報を選別する
ことを特徴とする発想支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発想支援システム及び発想支援方法に関し、人の発想を支援するための情報を提示する発想支援システム及び発想支援方法に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
研究開発や企画立案に従事する人は、既知のものと異なる新規な発想をすることが求められる。通常、そのような場合、当該従事者は新たな発想を得るために、自身の思考を深めるとともに、関連する情報を収集することを行うことが多い。
【0003】
一般には、思考の発想の手法として、アイディアの「発散」と「収束」の繰り返しによって発想を広げていくという方策をとることが多い。つまり、情報収集等により、現在考えている思考を実現性等を無視して一旦広げ、しかる後に、現実的な姿に落ち着けていく、という繰り返しを行うことで、より良い発想に広げることができる。このような思考プロセスにおいて、「発散」の部分は特に難易度が高い。一般に用いられる手法としては、ブレインストーミングと呼ばれる、複数人で次々とアイディアを出していき、それに基づいて発想を広げていく手法がある。これは、一人では発想の幅が広がらないため、他の人の発想を借りることでアイディアを広げる方法である。
【0004】
上記のように、一人で発想を広げることは難しいため、複数人で協力する形式が利用されがちであるが、複数人が時間を掛ける必要があることから、協力を得られなかったり、前提知識に差が有ったりする場合もあり、一人でも発想を広げざるを得ない状況も多々存在する。この場合、Webや文献をキーワード検索する等して、参考事例を探すことが想定されるが、検索のためのキーワードを入力すると、同じような情報しか得られず発想を広げるヒントになる情報が得難いという問題があった。
【0005】
そこで、ランダムに情報を提示する等により、偶発的な発想の広がりを進めるシステムが開発されている。しかし、ランダムな情報提示では、現在の発想とはかけ離れている情報も多く表示されてしまう。以上のことから、効率的に有用な情報が提示される仕組みが求められている。
【0006】
例えば特許文献1には、画像からオブジェクトを抽出、多変量にエンコードし、多変量の成分調整によって別のオブジェクトに変換し、画像を提示することで発想を膨らませる方式が示されている。この方法により、画像の一部を書き換えることで未知の画像を作り出し、それを基づく新発想に期待することができる。
【0007】
また例えば特許文献2には、文献のテキスト解析で係り受けなどからテキストの類似度を判定し、ユーザに提示する文章を決定する方法が開示されている。この方法によれば、現在の発想を表現した文に近しい別の文章を検索することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-195957号公報
【特許文献2】特開平6-96118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に開示された方法では、画像の差し替えを行う対象を決め打ちにすると偶発的な発想ができず、画像をランダムに差し替えると無作為すぎて有用性が低い情報しか得られないという問題が残ったままであった。また、特許文献2に開示された方法は、類似する文を検索する方法であり、エンコードした多変量を分別することもないため、発想を拡大する上での偶発性が高くないという問題があった。
【0010】
以上のように、従来技術による発想支援システムには、人に新たな情報を提示することによって新発想を促そうとするものが存在するが、提示される情報は無作為性が高く、提示された情報が発想に繋がりにくい。発想を広げる範囲を広くするほど、発想に繋がらない情報も指数関数的に増加するため、無作為な情報提示を行うと、新発想に繋がる情報が選定され難くなってしまい、システムの利用者(ユーザ)にとって手間が掛かる。一方、発想を広げる範囲を狭めると、元々のアイディアの範疇を大きく超える情報は提示できず、システムを利用する価値が低下してしまうものであった。
【0011】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、ユーザが発想したい分野とは異なる分野からも現在のアイディアに類似する情報を提示して、ユーザがアナロジーに基づく発想を広げることを支援することが可能な発想支援システム及び発想支援方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するため本発明においては、既存の思考を情報化した思考データを、その思考の対応する分野を示す分野符号と対応付けて記録した思考データベースと、ユーザの思考を情報化した思考データであるユーザ思考データを受け取る入力部と、前記思考データ及び前記ユーザ思考データをそれぞれ多変量に変換するアイディアエンコーダと、前記ユーザ思考データを前記アイディアエンコーダによって変換して得られる第1の多変量と、前記思考データベースに記録された前記思考データを前記アイディアエンコーダによって変換して得られる第2の多変量とに基づいて、ユーザにアナロジーを想起させ得るアナロジー想起情報を選別するデータ選別部と、を備え、前記アイディアエンコーダによる変換は、複数の思考データを変換して得た多変量において、その多変量間の距離の小ささと変換前の思考データの類似性とが相関する特徴を有し、前記データ選別部は、前記アイディアエンコーダが変換した前記第1の多変量及び前記第2の多変量のそれぞれについて、前記多変量の成分と前記分野符号との関連性を分析することによって当該多変量から当該分野符号に影響される成分を除去し、除去後の前記第1の多変量と前記第2の多変量との距離から示される前記類似性に基づいて、前記思考データベースに記録された前記思考データのうちから前記アナロジー想起情報を選別することを特徴とする発想支援システムが提供される。
【0013】
また、かかる課題を解決するため本発明においては、ユーザの思考の発展を支援する発想支援システムによる発想支援方法であって、前記発想支援システムは、既存の思考を情報化した思考データを、その思考の対応する分野を示す分野符号と対応付けて記録した思考データベースと、ユーザの思考を情報化した思考データであるユーザ思考データを受け取る入力部と、前記思考データ及び前記ユーザ思考データを多変量に変換するアイディアエンコーダと、前記ユーザ思考データを前記アイディアエンコーダによって変換して得られる第1の多変量と、前記思考データベースに記録された前記思考データを前記アイディアエンコーダによって変換して得られる第2の多変量とに基づいて、ユーザにアナロジーを想起させ得るアナロジー想起情報を選別するデータ選別部と、を有し、前記アイディアエンコーダによる変換は、複数の思考データを変換して得た多変量において、その多変量間の距離の小ささと変換前の思考データの類似性とが相関する特徴を有し、前記データ選別部は、前記アイディアエンコーダが変換した前記第1の多変量及び前記第2の多変量のそれぞれについて、前記多変量の成分と前記分野符号との関連性を分析することによって当該多変量から当該分野符号に影響される成分を除去し、除去後の前記第1の多変量と前記第2の多変量との距離から示される前記類似性に基づいて、前記思考データベースに記録された前記思考データのうちから前記アナロジー想起情報を選別することを特徴とする発想支援方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ユーザがアナロジーに基づく発想を広げることを支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る発想支援システム100の構成例を示すブロック図である。
【
図2】発想支援システム100のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【
図3】第1の実施形態における全体的な動作手順を模式的に示す図である。
【
図6】初期文案受付画面提示処理の処理手順例を模式的に示す図である。
【
図9】アナロジー想起情報提示処理の処理手順例を模式的に示す図である。
【
図11】アナロジー想起画面の一例を示す図である。
【
図12】アナロジー想起データ選別処理の処理手順例を模式的に示す図である。
【
図13】アイディアエンコーダ105による文字列からベクトルデータへの変換の動作を模式的に説明する図である。
【
図14】ベクトルデータから分野成分を除去する方法を模式的に説明する図である。
【
図16】発想履歴相関図生成処理の処理手順例を模式的に示す図である。
【
図17】第2の実施形態における全体的な動作手順を模式的に示す図である。
【
図18】第2の実施形態におけるトピック指定画面の一例を示す図である。
【
図19】第2の実施形態におけるアナロジー想起画面の一例を示す図である。
【
図20】アイディアエンコーダ105による画像からベクトルデータへの変換の動作を模式的に説明する図である。
【
図21】第2の実施形態における発想履歴表示画面の一例を示す図である。
【
図23】第3の実施形態における発想履歴表示画面の一例を示す図である。
【
図24】第3の実施形態におけるユーザ発想データの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳述する。
【0017】
なお、以下の記載及び図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略及び簡略化がなされている。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。本発明が実施形態に制限されることは無く、本発明の思想に合致するあらゆる応用例が本発明の技術的範囲に含まれる。本発明は、当業者であれば本発明の範囲内で様々な追加や変更等を行うことができる。本発明は、他の種々の形態でも実施する事が可能である。特に限定しない限り、各構成要素は複数でも単数でも構わない。
【0018】
以下の説明では、「テーブル」、「表」、「リスト」、「キュー」等の表現にて各種情報を説明することがあるが、各種情報は、これら以外のデータ構造で表現されていてもよい。データ構造に依存しないことを示すために「XXテーブル」、「XXリスト」等を「XX情報」と呼ぶことがある。各情報の内容を説明する際に、「識別情報」、「識別子」、「名」、「ID」、「番号」等の表現を用いるが、これらについてはお互いに置換が可能である。
【0019】
また、以下の説明では、同種の要素を区別しないで説明する場合には、参照符号又は参照符号における共通番号を使用し、同種の要素を区別して説明する場合は、その要素の参照符号を使用又は参照符号に代えてその要素に割り振られたIDを使用することがある。
【0020】
また、以下の説明では、プログラムを実行して行う処理を説明する場合があるが、プログラムは、少なくとも1以上のプロセッサ(例えばCPU)によって実行されることで、定められた処理を、適宜に記憶資源(例えばメモリ)及び/又はインターフェースデバイス(例えば通信ポート)等を用いながら行うため、処理の主体がプロセッサとされてもよい。同様に、プログラムを実行して行う処理の主体が、プロセッサを有するコントローラ、装置、システム、計算機、ノード、ストレージシステム、ストレージ装置、サーバ、管理計算機、クライアント、又は、ホストであってもよい。プログラムを実行して行う処理の主体(例えばプロセッサ)は、処理の一部又は全部を行うハードウェア回路を含んでもよい。例えば、プログラムを実行して行う処理の主体は、暗号化及び復号化、又は圧縮及び伸張を実行するハードウェア回路を含んでもよい。プロセッサは、プログラムに従って動作することによって、所定の機能を実現する機能部として動作する。プロセッサを含む装置及びシステムは、これらの機能部を含む装置及びシステムである。
【0021】
プログラムは、プログラムソースから計算機のような装置にインストールされてもよい。プログラムソースは、例えば、プログラム配布サーバ又は計算機が読み取り可能な記憶メディアであってもよい。プログラムソースがプログラム配布サーバの場合、プログラム配布サーバはプロセッサ(例えばCPU)と記憶資源を含み、記憶資源はさらに配布プログラムと配布対象であるプログラムとを記憶してよい。そして、プログラム配布サーバのプロセッサが配布プログラムを実行することで、プログラム配布サーバのプロセッサは配布対象のプログラムを他の計算機に配布してよい。また、以下の説明において、2以上のプログラムが1つのプログラムとして実現されてもよいし、1つのプログラムが2以上のプログラムとして実現されてもよい。
【0022】
(1)第1の実施形態
(1-1)構成
図1は、本発明の第1の実施形態に係る発想支援システム100の構成例を示すブロック図である。発想支援システム100は、当該システムの利用者(ユーザ)からの入力を受け付けるユーザ発想受付部101、利用者に情報を提示する発想支援情報提示部102、ユーザに提示する表示画面における画面遷移の流れを制御する画面遷移制御部103、ユーザにアナロジーを想起させ得る情報を選定する機能を有するアナロジー想起データ選別部104、発想を表現した情報を多変量(例えばベクトルデータ)に変換する機能を有するアイディアエンコーダ105、様々な分野における既存の発想を表現した事例のデータ(思考事例データ)を格納する思考データベース106、ユーザによる本システムの利用履歴を保存する履歴保存データベース107、及び、ユーザの認証を行う機能を有するユーザ認証部108を備える。各部の詳細は、適宜図面を参照しながら後述される。
【0023】
図2は、発想支援システム100のハードウェア構成例を示すブロック図である。発想支援システム100は、一般的なコンピュータを用いて実装できる。すなわち、
図2に例示したように、発想支援システム100は、演算性能を有するプロセッサ11、高速に読み書きが可能な揮発性の一時記憶領域であるDRAM(Dynamic Random Access Memory)12、HDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどを利用した永続的な記憶領域である記憶装置13、操作を行うためのマウスやキーボード等の入力装置14、動作を使用者に示すためのモニタ15、及び外部と通信を行うためのシリアルポート等の通信インタフェース(I/F)16を含んで構成される情報処理装置である。
【0024】
図2に示したハードウェアは、
図1に示した発想支援システム100の各構成を、例えば以下のように実現する。ユーザ発想受付部101、発想支援情報提示部102、画面遷移制御部103、アナロジー想起データ選別部104、アイディアエンコーダ105、及びユーザ認証部108は、記憶装置13に記録されたプログラムをプロセッサ11が実行することによって実現される。また、思考データベース106及び履歴保存データベース107は、データの蓄積を記憶装置13に行うようなプログラムをプロセッサ11が実行することにより実装できる。
【0025】
(1-2)発想支援処理
図3は、第1の実施形態における全体的な動作手順を模式的に示す図である。
図3には、ユーザ200の発想を支援する際に発想支援システム100が実行する発想支援処理を中心にして、ユーザ200と発想支援システム100との間で行われるやり取りと、発想支援システム100の各要素内での動作内容とを示している。
【0026】
図3によればまず、ユーザ200が発想支援システム100を起動してシステムへのドグイン操作を行うと、発想支援システム100のユーザ認証部108が、公知のユーザ認証の方法を用いて、システムにログインするユーザ200を特定するユーザ認証を行う(ステップS101)。
【0027】
次に、発想支援システム100は、トピック指定画面を提示し、ユーザが新発想を行いたい分野を示す「トピック」の指定を要求する。そしてユーザがトピック指定画面310に対してトピックを指定する入力操作を行うと、発想支援システム100は、指定されたトピックに関する情報(トピック情報)を受け取る(ステップS102)。トピック指定画面については、後述する
図4に具体例を示し、トピック情報については、後述する
図5に具体例を示す。
【0028】
次に、発想支援システム100は、初期文案受付画面提示処理を実行することにより、初期文案を入力するための画面(初期発想入力画面)を生成し、ユーザ200に提示する(ステップS103)。初期文案受付画面提示処理の詳細は、
図6を参照しながら後述する。また、初期発想入力画面については、後述する
図7に具体例を示す。
【0029】
ステップS103で提示された初期発想入力画面に対してユーザ200が初期文案を入力すると、発想支援システム100は、ユーザ200からの更新文案の入力を繰り返し受けながらアナロジー想起情報提示処理を実行することにより、ユーザ200に対して発想の飛躍を促すための情報(アナロジー想起画面)を提示しながら、ユーザ200の思考を新しい領域に誘導していく(ステップS104)。アナロジー想起情報提示処理の詳細は、
図9を参照しながら後述する。また、アナロジー想起画面については、後述する
図11に具体例を示す。
【0030】
ステップS104の処理を経て、最終的にユーザ200が十分に発想の転換ができたと判断すると、発想支援システム100は、その結果を受けて最終的な検討結果を確定させて(ステップS105)、発想の支援作業を終了する。
【0031】
なお、上記の一連の手順の過程において、ユーザ200が、過去の発想の履歴を表示する「履歴表示モード」への変更を指示する入力(例えば、表示画面における所定のボタンの押下操作等)を行った場合には、発想支援システム100は、随時、履歴表示モードの表示へと切り替えられるようにすることができる(ステップS106)。
【0032】
以上が、発想支援システム100によって実行される発想支援処理の概要であり、以下では、発想支援処理の手順をより詳細に説明する。
【0033】
(1-2-1)トピック指定
図3のステップS102の処理に関して、トピックの指定を行うトピック指定画面310、及びトピックの指定に基づいて生成されるトピック情報について、詳しく説明する。
【0034】
図4は、トピック指定画面の一例を示す図である。トピック指定画面は、新しい発想を行いたい分野(トピック)をユーザ200に指定させるための画面であって、指定されたトピックを当該ユーザの情報と紐付けてトピック情報が生成される。
【0035】
なお、トピック情報は、トピック指定画面310で決定ボタン313が押下された場合に、トピック指定画面310を提供するプログラムの処理(すなわち、発想支援情報提示部102)によって生成されるとしてもよいし、トピック指定画面310に入力された情報自体がユーザ発想受付部101に送信され、ユーザ発想受付部101においてトピック情報が生成されるとしてもよい。
【0036】
図4の場合、トピック指定画面310は、トピックの名称(トピック名)を入力するテキストボックス311と、トピックの分野(対象分野)を指定するドロップダウンボックス312と、それらの入力完了時に押下される決定ボタン313と、履歴表示モードへの切り替え時に押下される遷移ボタン314と、を有して構成される。ユーザ200がドロップダウンボックス312を操作すると、所定の分野の名称が候補としてリスト状に表示され、表示された候補から1つを選択することで、ユーザ200はトピックの分野を指定することができる。そして、ユーザ200が、トピック名及びその対象分野を指定した後に決定ボタン313を操作すると、指定内容に基づくトピック情報が発想支援システム100に送信されユーザ発想受付部101に受け取られる。
【0037】
図5は、トピック情報の構成例を示す図である。
図5に示すトピック情報410は、ユーザを一意に特定する識別子であるユーザID411と、トピックの識別子であるトピックID412と、ユーザがトピック指定画面310で入力したトピック名を示すトピック名413と、ユーザが発想を行いたい分野の識別コードを示す分野コード414と、の項目を含んで構成される。
【0038】
ユーザID411は、
図3のステップS101のユーザ認証において特定された、ユーザ200を識別する情報であり、ユーザ認証でユーザIDを特定できる情報が得られている場合には、その情報を用いることができる。また、ユーザID411に記録される情報は、ユーザ認証で特定された情報に限定されるものではなく、例えば従業員情報など、ユーザを一意に識別できる情報であれば、別途指定された任意の情報を用いることができる。
【0039】
トピックID412は、トピック情報410が記録される際に連番で付与する等して、トピックを一意に識別可能な方法で生成したものを用いる。
【0040】
トピック名413は、トピック指定画面310においてテキストボックス311に入力された情報を格納する。
【0041】
分野コード414は、トピック指定画面310においてドロップダウンボックス312で指定された分野に一意に対応するコード値を格納する。この分野コード(分野符号)は、分野を一意に特定する識別子であり、所定の体系を用いて付番されるとする。具体的には例えば、分野が「データベースシステム」である場合は「1」、「人工知能システム」である場合は「2」等、コードと分野名とが対応する形で定まっているものを用いる。なお、分野コードの体系としては、特許分類コード等の公知の分類コードを利用してもよい。
【0042】
(1-2-2)初期文案受付画面提示処理
図3のステップS103における初期文案受付画面提示処理について、詳しく説明する。前述したように、発想支援システム100は、トピック指定画面においてユーザ200によってトピックが指定され、その指定内容に基づいてトピック情報410が生成されたときに、初期文案受付画面提示処理を開始する。
【0043】
図6は、初期文案受付画面提示処理の処理手順例を模式的に示す図である。
図6に示したように、初期文案受付画面提示処理は、ユーザ発想受付部101、画面遷移制御部103、及び発想支援情報提示部102によって実行される。
【0044】
図6によればまず、ユーザ発想受付部101が、トピック指定画面におけるトピック指定に基づいて生成されたトピック情報410を受け取る(ステップS201)。そしてユーザ発想受付部101は、受け取ったトピック情報410を画面遷移制御部103に送付する。
【0045】
次に、画面遷移制御部103は、トピック情報410を履歴保存データベース107に保存し(ステップS202)、さらにトピック情報410を発想支援情報提示部102に送付する。
【0046】
そして、発想支援情報提示部102は、初期発想入力画面を生成してユーザ200に提示することにより、発想の初期状況を問いかけ(ステップS203)、初期文案受付画面提示処理を終了する。
【0047】
図7は、初期発想入力画面の一例を示す図である。
図7に示した初期発想入力画面320は、ユーザ自身の初期の発想の内容を入力するテキストボックス321と、入力内容の決定時に押下する決定ボタン322と、テキストボックス323と、取り込みボタン324と、履歴表示モードへの切り替え時に押下される遷移ボタン325と、を有して構成される。
【0048】
初期発想入力画面320において、テキストボックス321には、ユーザ200が自身の発想の内容を文章(テキスト)で入力できるようになっており、入力後に決定ボタン322を押下することで、入力された情報に基づいてユーザの発想内容を示す情報(ユーザ発想データ)が生成され、ユーザ発想受付部101に送付される。ユーザ発想データについては、後述する
図8に具体例を示す。
【0049】
なお、ユーザ発想データは、初期発想入力画面320で決定ボタン322が押下された場合に、初期発想入力画面320を提供するプログラムの処理(すなわち、発想支援情報提示部102)によって生成されるとしてもよいし、初期発想入力画面320に入力された情報自体がユーザ発想受付部101に送信され、ユーザ発想受付部101においてユーザ発想データが生成されるとしてもよい。
【0050】
また、テキストボックス323及び取り込みボタン324は、発想支援システム100とは別に、ユーザによる文章の作成を支援する不図示のシステム(以後、文書作成支援装置)が用意されている場合に、文書作成支援装置からデータを取得するための仕組みである。具体的には例えば、文書作成支援装置を使って作成した文章の格納先を示すURLをテキストボックス323に入力し、取り込みボタン324を押下することにより、当該URLから取得したテキストがテキストボックス321に自動的に入力されるように構成される。
【0051】
図8は、ユーザ発想データの構成例を示す図である。
図8に示したユーザ発想データ420は、初期発想入力画面320への入力を基に生成されるユーザ発想データ、あるいは、後述する
図11のアナロジー想起画面330において発想の修正が行われた場合に生成されるユーザ発想データの一例である。ユーザ発想データ420は、ユーザID421、トピックID422、分野コード423、発想ID424、発想日時425、及び発想内容表現426の項目を含んで構成される。このうち、ユーザID421、トピックID422、及び分野コード423は、
図5に例示したトピック情報410から、同一名称の項目の内容を複製して格納される。なお、詳細は
図14の説明で後述するが、ユーザ発想データ420の発想内容表現426から変換されたベクトルデータ(ユーザ発想ベクトルデータ)から分野成分を除去する方法次第では、ユーザ発想データ420には分野コード423が含まれなくてもよい。
【0052】
発想ID424は、トピック情報410が記録されるときに連番で付番する等して、対応するトピックを一意に識別可能な方法で生成した値を用いる。発想日時425には、ユーザ発想データ420が生成された時刻のタイムスタンプが記録される。そして発想内容表現426は、初期発想入力画面320においてユーザ200が自身の発想としてテキストボックス321に入力した文章の文字列(または、後述するアナロジー想起画面330においてユーザ200によって修正された発想を表す文章の文字列)を格納する。
【0053】
(1-2-3)アナロジー想起情報提示処理
図3のステップS104におけるアナロジー想起情報提示処理について、詳しく説明する。前述したように、発想支援システム100は、初期発想入力画面においてユーザ200によってユーザ自身の初期の発想が文章で入力され、その入力内容に基づいてユーザ発想データ420が生成されたときに、アナロジー想起情報提示処理を開始する。
【0054】
図9は、アナロジー想起情報提示処理の処理手順例を模式的に示す図である。
図9に示したように、アナロジー想起情報提示処理は、ユーザ発想受付部101、画面遷移制御部103、アナロジー想起データ選別部104、及び発想支援情報提示部102によって実行される。
【0055】
図9によればまず、発想支援システム100のユーザ発想受付部101が、初期発想入力画面における入力に基づいて生成されたユーザ発想データ420を受け取る(ステップS301)。そしてユーザ発想受付部101は、受け取ったユーザ発想データ420を画面遷移制御部103に送付する。
【0056】
次に、画面遷移制御部103は、ユーザ発想データ420を履歴保存データベース107に保存し(ステップS302)、さらにユーザ発想データ420をアナロジー想起データ選別部104に送付する。
【0057】
そして、アナロジー想起データ選別部104は、ユーザ発想データ420を基に思考データベース106を調べて、アナロジーに寄与する思考事例データを選別するアナロジー想起データ選別処理を実行する(ステップS303)。思考事例データについては、後述する
図10に具体例を示す。また、アナロジー想起データ選別処理の詳細は、
図12を参照しながら後述するが、この処理の結果、思考事例データの集合が選定され、アナロジー想起データ選別部104は選定した思考事例データの集合を画面遷移制御部103に送付する。
【0058】
図10は、思考事例データの構成例を示す図である。
図10に示した思考事例データ430は、事例を識別する識別子である事例ID431と、執筆者など当該事例に関する補足情報を記録した事例属性情報432と、当該事例の分野を示すコード値であってトピック情報410の分野コード414(
図5参照)と同じ体系の値を格納する分野コード433と、当該事例のアイディアを表現した文章の文字列である思考表現データ434と、思考表現データ434の文字列をアイディアエンコーダ105に入力することによって得られるベクトルデータを格納する思考表現ベクトルデータ435と、の項目を含んで構成される。アイディアエンコーダ105の動作については、
図13を参照しながら詳しく後述する。
【0059】
思考データベース106には、発想支援システム100が発想支援処理を開始する前、すなわちシステム稼働前に、例えば特許公報検索等を行うことによって取得できるデータを加工する等して、思考事例データ430が整備して格納される。なお、思考データベース106については、定期的にデータをクローリングする等して、随時、格納する思考事例データ430を追加していくようにしてもよい。
【0060】
図9の説明に戻る。上述したように、ステップS303のアナロジー想起データ選別処理によって思考事例データ430の集合が選定される。次に、画面遷移制御部103は、アナロジー想起データ選別部104から送付されたこの思考事例データ430の集合に基づいて、アナロジー想起画面を生成する(ステップS304)。そして生成されたアナロジー想起画面330は、発想支援情報提示部102を通じて、ユーザ200に提示される(ステップS305)。
【0061】
図11は、アナロジー想起画面の一例を示す図である。
図11に示したアナロジー想起画面330は、現アイディア表示ボックス331と、アイディア修正ボックス332と、アナロジー想起情報表示ボックス333と、決定ボタン334と、終了ボタン335と、履歴表示モードへの切り替え時に押下される遷移ボタン336と、を有して構成される。
【0062】
現アイディア表示ボックス331は、現在のアイディア(発想)を表示するテキストボックスであって、直前のステップS301で受け取ったユーザ発想データ420の発想内容表現426が表示される。
【0063】
アイディア修正ボックス332は、現アイディア表示ボックス331に示された現在のアイディアを修正するためのテキストボックスであって、ユーザ200による文章の修正を受付可能なインタフェースである。アイディア修正ボックス332は、当初は現アイディア表示ボックス331と同じ文章を表示し、ユーザ200が自身の発想に応じて当該文章を修正することにより、アイディアの内容を書き換えることができる。
【0064】
アナロジー想起情報表示ボックス333は、アイディア修正ボックス332に対するアイディアの書き換えの際に、ユーザ200の発想の参考とするために、アナロジー想起データ選別処理で得られた思考事例データ430の集合を表示する領域である。アナロジー想起情報表示ボックス333に表示される思考事例データ430の集合は、アナロジー想起データ選別処理によって選定されたものであり、この詳細は、
図12を参照しながら後述する。アナロジー想起情報表示ボックス333における表示態様は特定のものに限定されないが、例えば、思考事例データ430の事例属性情報432や思考表現データ434を用いて、当該事例の情報を分かり易く表示することが好ましい。なお、事例属性情報432にURL等が含まれる場合には、このURL等に基づいて発想支援システム100の外部から対応する情報を取得して、アナロジー想起情報表示ボックス333に表示する等してもよい。
【0065】
決定ボタン334は、アナロジー想起画面330におけるユーザ200の入力(具体的には、アイディア修正ボックス332におけるアイディアの修正)が完了したときにユーザ200によって押下されるボタンである。
【0066】
終了ボタン335は、アナロジー想起画面330を利用した発想の拡大が完了したとき、すなわち、トピックの検討を終了するときに、ユーザ200によって押下されるボタンである。
【0067】
アナロジー想起画面330において、アイディア修正ボックス332の文章が修正された後に、決定ボタン334が押下されると、当該画面に入力された情報(アイディア修正ボックス332の内容)に基づいて、新たなユーザ発想データ420が生成され、ユーザ発想受付部101に送付される。ユーザ発想データ420を生成する方法は、
図7に示した初期発想入力画面320において決定ボタン322が押下されたときのユーザ発想データ420の生成と同様に考えてよい。具体的には、ユーザ発想データ420の生成において、ユーザID421、トピックID422、及び分野コード423には、トピック情報410の対応データを複製し、発想日時425には、本データが生成された時刻のタイムスタンプを記録し、発想内容表現426には、ユーザ200によって修正されたアイディア修正ボックス332における文章の文字列を格納する。
【0068】
上記のように、アイディア修正ボックス332の文章が修正されてから決定ボタン334が押下された場合には、新たなアイディアが格納されたユーザ発想データ420が生成されてユーザ発想受付部101に送付されることから、
図9において、新たなユーザ発想データ420を基に、再びステップS301~S305の処理を実行することができる。そしてこの手順を何度も繰り返すことによって、アナロジー想起情報を参考にしてユーザ200の発想が広がっていくこととなる。そして、ユーザ200の発想の展開が尽きると、アナロジー想起画面330において終了ボタン335が押下され、このとき、上記手順の繰り返しを終了し、アナロジー想起情報提示処理は終了する。すなわち、ユーザ200による発想が、最終的なアイディア修正ボックス332の内容で確定する。
【0069】
(1-2-3-1)アナロジー想起データ選別処理
以下では、
図9のステップS303で実行されるアナロジー想起データ選別処理について詳述する。
【0070】
図12は、アナロジー想起データ選別処理の処理手順例を模式的に示す図である。なお、
図9では、アナロジー想起データ選別部104がアナロジー想起データ選別処理を実行すると説明したが、厳密には、
図12に示すように、アイディアエンコーダ105によるステップS402の処理を途中に含む。
【0071】
図12によれば、まず、アナロジー想起データ選別部104が、画面遷移制御部103から受け取ったユーザ発想データ420から、発想内容表現426の文字列を抽出し(ステップS401)、アイディアエンコーダ105に引き渡す。
【0072】
次に、アイディアエンコーダ105は、受け取った発想内容表現426の文字列を、対応するベクトルデータに変換する(ステップS402)。このベクトルデータとは、所定の長さを持った数値の列であり、具体的には例えば、(0.1,2.1,1.2,0.1,0.6)のような数値列である。ステップS402におけるベクトルデータへの変換は、発想内容表現426の内容が似ている場合にはベクトルデータも類似するように、すなわち、ベクトルデータ同士の距離が小さくなるように変換する。
【0073】
図13は、アイディアエンコーダ105による文字列からベクトルデータへの変換の動作を模式的に説明する図である。
【0074】
アイディアエンコーダ105による文字列からベクトルデータへの変換には、公知のエンベディングの処理を適用することができる。一般に、エンベディングとは、データに対して、元のデータが持つ数理構造がなるべく維持されるようなベクトルデータに変換する処理を指す。本発明においては、複数のユーザ発想データ420における発想内容表現426の文章(文字列)同士で、その類似性がベクトルデータ間の距離に反映されるような方法を採用する。文字列をエンベディングする方法としては、Seq2Seq(Sequence To Sequence)やWord2Vec(Word to Vector)等のニューラルネットワークを用いる方法が知られている。
【0075】
図13を参照すると、本例では、アイディアエンコーダ105は、まず、入力の文字列511を単語に分割し、One-Hotエンコーディングと呼ばれる方法でベクトルの列に変換する。One-Hotエンコーディングでは、数値列の各成分が単語に対応しており、各単語について対応する成分のみ「1」で、それ以外は「0」になるように変換する。その結果、文字列511は、成分の1つだけが「1」で残りが「0」の複数のベクトルからなるベクトル列512に変換される。このベクトル列512の長さは入力する文字列511によって異なる。
【0076】
そこで次に、アイディアエンコーダ105は、可変長のデータを受け取ることができるような再帰型ニューラルネットワーク等を組み込んだニューラルネットワーク513に、ベクトル列512を入力する。その結果、ニューラルネットワーク513の出力としてベクトル列514が得られ、このベクトル列514が文字列511を変換したベクトルデータとなる。
【0077】
なお、上記のニューラルネットワーク513は、予め数多くの文章を用いて訓練される。この訓練は、エンベディングの機能を有するニューラルネットワークの訓練であればよく、公知の方法を用いることができる。具体的には例えば、敵対的生成ネットワーク、変分オートエンコーダ、アテンションメカニズムを用いた方法であるGPT等が適用できる。これらのエンベディングでは、入力された文章(文字列)の類似性が、ニューラルネットワーク513から出力されるベクトルデータ(ベクトル列514)同士の距離に相関するようになっている。但し、エンベディングの手法によって、文章の類似性に対する観点は異なる。そこで、発想支援システム100は、アイディアエンコーダ105がどのようなエンベディングを用いるかについて、発想支援システム100による発想支援の目的等に応じて選択するように構成してもよい。
【0078】
図12の説明に戻る。ステップS402でアイディアエンコーダ105によって発想内容表現426の文字列から変換されたベクトルデータ(以後、ユーザ発想ベクトルデータとも呼ぶ)を受け取ったアナロジー想起データ選別部104は、このベクトルデータを用いて、思考データベース106から複数の思考事例データ430(
図10参照)を取得する(ステップS403)。
【0079】
ステップS403で取得した思考事例データ430には、分野コード433及び思考表現ベクトルデータ435が含まれている。そこで、アナロジー想起データ選別部104は、両者の関係に基づいて、思考表現ベクトルデータ435において分野に相関する成分(以後、分野成分と呼ぶ)を特定し(ステップS404)、ステップS403で取得した思考事例データ430の思考表現ベクトルデータ435から分野成分を除去する処理を行う(ステップS405)。なお、ステップS405においてアナロジー想起データ選別部104は、ステップS402で変換されたユーザ発想ベクトルデータに対しても、同様に、分野成分を除去する処理を行う。
【0080】
図14は、ベクトルデータから分野成分を除去する方法を模式的に説明する図である。以下では、
図14を参照しながら、思考事例データ430の思考表現ベクトルデータ435から分野成分を除去する方法を説明する。
【0081】
図14において(A)に示した散布
図520は、思考表現ベクトルデータ435をプロットした一例であり、簡単のために、思考表現ベクトルデータ435を2次元としてxy平面に表現している。散布
図520において、黒円521及び白円522はそれぞれが1つの事例に対応する。このうち、黒円521は「ある分野」の事例を意味し、白円522は、「ある分野」以外の「他の分野」の事例を意味する。
【0082】
次に、アナロジー想起データ選別部104は、散布
図520に対して回転または平行移動あるいはその組み合わせを行って、
図14において(B)に示した散布
図530のように、ベクトルの基底531をx’y’に変換する。散布
図530では、参考のために、変換前のxyによる基底532を破線で示している。散布
図530の例では、黒円521がx’の負領域になるべく配置され、白円522がx’の正領域になるべく配置されるように、座標変換のパラメータが最適化されている。この最適化計算は、公知の線形判別分析で境界となる直線を決定し、当該直線がx’軸と平行になるように回転させることで実現できる。この最適化は、分野の影響を最も受ける成分を特定するためのものであり、基底が変換された散布
図530では、プロット同士でx’軸方向の距離が大きいほど分野が異なることを表す。また、y’軸方向は、分野による影響を受けない成分に相当することから、プロット同士でy’軸方向の距離が大きいほど類似性が低いことを表す。したがって、アナロジー想起データ選別部104は、散布
図520から散布
図530への基底変換を行うことにより、思考表現ベクトルデータ435において分野に相関する分野成分を特定することができる(
図12のステップS404)。
【0083】
次に、アナロジー想起データ選別部104は、散布
図530における各プロットのx’軸方向の値(x’値)を減算して「0」に固定する。この結果、
図14において(C)に示した散布
図540のように、すべてのプロット(黒円521,白円522)は、分野とは独立した成分だけがy’軸上に残ることとなる。したがって、アナロジー想起データ選別部104は、散布
図540への変換を行うことにより、思考表現ベクトルデータ435から分野成分を除去することができる(
図12のステップS405)。
【0084】
なお、実際には、思考表現ベクトルデータ435は2次元に限定されないが、多次元であっても同様の処置を行うことができる。
【0085】
また、分野が3つ以上ある場合には、「ある分野」とそれ以外の分野とを判別できる軸を求めてその軸を減算し、再度同様の処理を、別の分野を「ある分野」として同様の判別可能な軸を求めて減算し、というように繰り返すことによって対応できる。あるいは、例えばコンピュータ分野は「1」、材料科学は「2」、機械分野は「3」等と適当な数値を分野に割り当て、公知の回帰分析によってその値を予測できる軸を求めることで、思考表現ベクトルデータ435の次元数以上の多数の分野を扱う場合であっても、アナロジー想起データ選別部104は、分野成分の除去を行うことができる。
【0086】
そして、上述したベクトルデータから分野成分を除去する方法は、ユーザ発想ベクトルデータから分野成分を除去する際にも、同様に適用可能である。
【0087】
例えば、上述した分野成分の除去方法をユーザ発想ベクトルデータ(広義に言えばユーザ発想データ420)に適用する場合、
図14のイメージと同様に、思考事例データ430とその分野コード423のデータセットを用いてベクトル変換を求め、そのベクトル変換に従って座標の回転や平行移動を行うことで、思考事例データ430から分野成分を除去することができる。
【0088】
なお、このときの変形的な手法として、ベクトル変換を求める際にはユーザ発想データ420を用いずに、分野成分を除去する処理でユーザ発想データ420を含むようにしてもよい。当該手法を用いると、ユーザ発想データ420に分野コード423がなくても処理を実行することができる。したがって、当該手法を採用する場合には、初期発想入力画面320またはアナロジー想起画面330におけるユーザ発想データ420の入力時に、分野コード423が入力されなくてもよい。あるいは、分野コード423が入力されない場合には、公知の判別分析を利用してユーザ発想データ420の分野コード423を推定するような機能をユーザ発想受付部101等に持たせるようにしてもよい。
【0089】
再び
図12の説明に戻る。ステップS405で思考表現ベクトルデータ435及びユーザ発想ベクトルデータから分野成分を除去した後、アナロジー想起データ選別部104は、分野成分を除去した状態で、ユーザ発想ベクトルデータと各思考表現ベクトルデータ435との距離を計算する(ステップS406)。ステップS406において距離が小さいほど、類似性が高いことを意味する。
【0090】
次に、アナロジー想起データ選別部104は、ステップS406の計算結果に基づいて、ユーザ発想ベクトルデータ(発想内容表現426のベクトルデータ)との距離が小さい順に、所定件数だけ、該当する思考表現ベクトルデータ435を有する思考事例データ430を選定する(ステップS407)。例えば、両ベクトル間のユークリッド距離(各成分の差の二乗和の平方根)を計算し、それが所定の閾値以下のものを選択することができる。この距離としては、類似性を評価できるものであれば何を用いてもよい。そしてアナロジー想起データ選別部104は、選定した思考事例データ430の集合を画面遷移制御部103に送付し、アナロジー想起データ選別処理を終了する。
【0091】
以上のようにアナロジー想起データ選別処理が行われることによって、分野による影響成分を除去した上でユーザ200の現在のアイディアとの類似性が高い情報を思考事例データ430の集団として選定でき、これらをアナロジー想起画面330のアナロジー想起情報表示ボックス333に表示することで、ユーザ200に対して発想を刺激するような情報を、発想しようとするトピックが属する分野を超えて提示することができる。
【0092】
(1-2-4)履歴表示モード
以下では、履歴表示モードについて説明する。履歴表示モードは、ユーザ200が過去のトピックや発想の記録(ユーザ発想データ420)等を振り返りたいときに利用されるモードである。前述した各種の表示画面において履歴表示モードへの移行を指定する所定の操作(遷移ボタン314,325,336の押下)が行われると、過去の発想の履歴を示す発想履歴表示画面が表示される。
【0093】
【0094】
図15に示した発想履歴表示画面340では、画面上部のテキストボックス341に、履歴保存データベース107に格納されているユーザ発想データ420に基づいて過去の発想履歴が一覧表示される。より具体的には、この一覧表示は、履歴保存データベース107から、トピック情報410で取得済みのユーザ200のユーザID411及びトピックID412の組み合わせを有するユーザ発想データ420(すなわち、ユーザID421及びトピックID422の組み合わせが一致する)をすべて取得し、これらのユーザ発想データ420を発想日時425の順に並び替えて、それぞれのユーザ発想データ420に格納されている所定の情報(例えば、発想日時、発想内容表現の冒頭部など)を、複数のテキストボックス341に順次表示したものである。また、
図15の発想履歴表示画面340では、複数のテキストボックス341をスクロールできるようなインタフェースが設けられており、数多くの事例(発想履歴)から1つを選択できるようになっている。
【0095】
そして上記の複数のテキストボックス341のうちから何れかの発想履歴を選択すると、該当する事例についての詳細情報(例えば、発想日時と発想内容表現の全文)が、テキストボックス342に表示される。
【0096】
また、画面の左下部には、現在選択されている発想履歴について、当該発想履歴と他の発想履歴との関連性を模式的に描画した「発想履歴相関図」を表示するモデル表示ボックス343が設けられている。モデル表示ボックス343に表示される発想履歴相関図において、星印は、テキストボックス341で現在選択されている発想履歴(ユーザ発想データ420)の位置を表している。白抜きの矩形は、未選択の発想履歴(ユーザ発想データ420)の位置を表している。そして、星印及び複数の白抜きの矩形を繋ぐ形で描かれた矢印付きの曲線は、ユーザ200の対象トピックに関するユーザ発想データ420を時系列で繋いだものであり、ユーザ200の思考の過程を表現している。また、白円は、思考データベース106から選択された思考事例データ430を表しており、何れかの白円を選択すると、その思考事例データ430の詳細な情報がテキストボックス344に表示される。
【0097】
また、星印を中心として破線で描かれた円345は、現在選択されている発想履歴(ユーザ発想データ420)の周囲で、アナロジー想起画面330においてアナロジー想起情報表示ボックス333に提示されたアナロジー想起情報の選定基準を表したものである。言い換えれば、上記破線で描かれた円345は、
図12のステップS407において思考事例データ430の集合を選定するときの選定基準となる閾値を表したものであり(具体的には例えば、ユーザ発想ベクトルデータからの距離が閾値以下である思考表現ベクトルデータ435に対応する思考事例データ430をアナロジー想起情報として選定する)、この閾値を数値で表示するなどしてもよい。なお、発想履歴表示画面340には、円345の半径(閾値)を変更するなどの編集機能を追加してもよい。閾値の変更は、例えばユーザ200の希望によって行われ、ユーザ発想受付部101がこれを受け付けてアナロジー想起データ選別部104に通知する等すればよい。閾値を変更する機能を追加することにより、ユーザ200の要求に応じてアナロジー想起情報の提示範囲を調整できるようになる。思考事例データ430として選定される基準を変更することにより、ユーザ200に提示される思考事例データ430の類似性も変化することから、ユーザ200が発想を進める方向性を変えるなどの効果に期待できる。
【0098】
図16は、発想履歴相関図生成処理の処理手順例を模式的に示す図である。
図16に示した発想履歴相関図生成処理は、
図15のモデル表示ボックス343に表示される発想履歴相関図を作成するための処理であって、発想支援情報提示部102及びアナロジー想起データ選別部104によって実行される。
【0099】
図16によればまず、発想支援情報提示部102が、履歴保存データベース107から、トピック情報410として取得済みのユーザ200のユーザID411及びトピックID412の組み合わせに基づいて、同じユーザID421及びトピックID422の組み合わせを有する過去のユーザ発想データ420をすべて取得する(ステップS501)。
【0100】
次に、発想支援情報提示部102は、ステップS501で取得したユーザ発想データ420のうちから1つ(例えば発想日時425が最も古いもの)を選定し(ステップS502)、当該選択したユーザ発想データ420をアナロジー想起データ選別部104に送付する。
【0101】
アナロジー想起データ選別部104は、受け取ったユーザ発想データ420に基づいて、アナロジー想起データ選別処理を実行する(ステップS503)。
図12を参照して詳述したように、アナロジー想起データ選別処理が実行されることによって、思考データベース106から、ユーザ発想データ420に関連する思考事例データ430の集合と、これらの各思考事例データ430において分野成分を除去した思考表現ベクトルデータとが得られる。
【0102】
次に、発想支援情報提示部102は、ステップS501で取得したユーザ発想データ420のすべてについて、ステップS503の処理を実行済みであるかを確認し(ステップS504)、未処理のユーザ発想データ420が残っている場合は(ステップS504のNO)、ステップS502に戻り、未処理のユーザ発想データ420のうちから1つを選定し、ステップS503の処理を再度実行する。ステップS504においてすべてのユーザ発想データ420が処理済みの場合は(ステップS504のYES)、ステップS505に進む。
【0103】
ステップS505において、発想支援情報提示部102は、ステップS503のアナロジー想起データ選別処理において分野成分が除去された後の思考表現ベクトルデータ及びユーザ発想ベクトルデータに対して、次元縮約の処理を実行する。次元縮約の処理とは、多次元のデータを少数の次元のデータに圧縮する処理を指し、主成分分析法や自己組織化マップ法など、公知の方法を用いることができる。
【0104】
最後に、発想支援情報提示部102は、ステップS505で2次元の値に縮約したデータを図に落とし込むことで、発想履歴相関図を作成し(ステップS506)、発想履歴相関図生成処理を終了する。
【0105】
上記のようにして発想支援システム100は、履歴表示モードにおいて発想履歴表示画面340を表示することにより、過去の発想履歴を高度な一覧性を有する形態で可視化することができるため、ユーザ200は、発想を振り返りながら新しいアイディアを検討できるようになる。
【0106】
以上に説明したように、本実施形態に係る発想支援システム100によれば、ユーザ(本システムの利用者)が初期の発想(アイディア)を持っている場合に、その発想を発展させる目的で情報を収集する際に、当該発想が属する分野を超えて(複数の分野に跨って)、当該発想と類似性を有する事例の情報を提示することができる。詳細には、発想支援システム100は、ユーザが発想したい分野とは異なる分野の情報を、分野を横断して取得し提示することで、ユーザの発想を広げるようにし、なおかつ、ユーザが他分野の情報から新しい発想を得る際に言及される既存例のアナロジーを惹起させると想定できる情報を選定して提示する。すなわち、本実施形態に係る発想支援システム100は、新発想の広がりを担保しつつもアナロジーがあるという観点で新発想に資する有益な情報に絞って情報を提示できることから、アナロジーを生み出し、ユーザの発想を豊かに広げていくことができる。
【0107】
(2)第2の実施形態
本発明の第2の実施形態では、図面に基づいて複数のユーザによる発想の拡充を図ることを支援する発想支援システムについて、第1の実施形態で説明した発想支援システム100の構成を流用して説明する。さらに、第2の実施形態における第1の実施形態との相違点の1つとして、思考を表現する情報(発想内容表現426)が文章ではなく画像である点が挙げられる。
【0108】
図17は、第2の実施形態における全体的な動作手順を模式的に示す図である。
図17の動作手順を第1の実施形態で示した
図3の動作手順と比較すると、
図17のステップS601~S604,S606の処理は、
図3のステップS101~S104,S106と同様であり、説明を省略する。なお、各手順の詳細な点で言えば、前述した通り、第2の実施形態における全体的な動作手順では思考を表現する情報として画像を用いる点で第1の実施形態とは異なるが、このような詳細な相違点については後述する。
【0109】
図3のステップS105では、ステップS104のアナロジー想起情報提示処理の繰り返しが終了した後に、発想支援システム100は最終的な検討結果を確定する。すなわち、
図3に示した動作手順は、1人のユーザ200による発想の拡大を支援するものであった。これに対し、第2の実施形態では、発想の拡大を複数人で協力するために、
図17のステップS605の処理が実行される。
【0110】
図17によれば、ステップS605のアナロジー想起情報提示処理の繰り返しが終了した後に、発想支援システム100(例えば画面遷移制御部103)は、ステップS602で受け取ったトピック情報410に対して、ユーザID411に他のユーザ(後述する
図22のユーザ選択画面380で選択されるユーザであり、以下、「次ユーザ」とも称する)のユーザIDを付加した上で履歴保存データベース107に格納する(ステップS605)。または、発想支援システム100(例えば画面遷移制御部103)は、ステップS602で受け取ったトピック情報410を複製し、複製したトピック情報410においてユーザID411を現在のユーザ200のユーザIDから次ユーザのユーザIDに変更した上で、履歴保存データベース107に格納するようにしてもよい。上記の何れかの処理を行うことによって、次ユーザがシステムにログインする際に、検討中のトピックを引き継ぐことができる。さらに、当該次ユーザがシステムにログインして発想の検討を行う際、更新後のトピック情報410を利用して現ユーザの最終的なユーザ発想データ420を読み込むことにより、アナロジー想起画面(後述する
図19のアナロジー想起画面360の現アイディア表示ボックス361)に、現ユーザの最終的な発想を現在のアイディアとして表示することができる。
【0111】
本実施形態に係る発想支援システム100は、このステップS605の処理を行うことにより、他のユーザ(次ユーザ)に発想の拡大を委ねることができ、これを繰り返すことにより、複数ユーザで協力して発想を広げることができるようになる。具体的には、現ユーザによる発想が終了した後、他のユーザ(次ユーザ)がシステムにログインする際には、ステップS605で更新されたトピック情報410に基づいて、検討中のトピックを引き継ぐことができる。また、発想の検討を引き継いだ際には、ステップS603の初期文案受付画面提示処理(
図6参照)を省略してよく、その場合には、初回のアナロジー想起情報提示処理(ステップS604、
図9参照)において、更新後のトピック情報410を利用して先のユーザの最終的なユーザ発想データ420を読み込むことにより、アナロジー想起画面(後述する
図19のアナロジー想起画面360の現アイディア表示ボックス361)に、先のユーザの最終的な発想を現在のアイディアとして表示することができる。この結果、次ユーザは、スムーズに発想を引き継ぎ、さらなる拡張を行うことができる。なお、複数のユーザで発想の検討を行う際は、発想支援システム100に公知のアクセス権管理の機能を追加することで、発想の開示範囲を適切に制御することができる。
【0112】
次に、第2の実施形態においてステップS602で表示されるトピック指定画面について詳しく説明する。
【0113】
図18は、第2の実施形態におけるトピック指定画面の一例を示す図である。
図18に示すトピック指定画面350は、第1の実施形態で
図4に示した説明したトピック指定画面310とは異なる表示態様を有するが、その生成主体や表示タイミング等は第1の実施形態と同様である。
【0114】
図18の場合、トピック指定画面350は、既存のトピックを指定するドロップダウンボックス351と、ドロップダウンボックス351の指定完了時に押下される決定ボタン352と、新規にトピックを指定する際にトピック名を入力するテキストボックス353と、そのトピックの分野(大分類及び小分類)を指定するドロップダウンボックス354,355と、新規のトピックの指定完了時に押下される決定ボタン356と、履歴表示モードへの切り替え時に押下される遷移ボタン314と、を有して構成される。
【0115】
ドロップダウンボックス351及び決定ボタン352は、トピックの検討を途中から再開するためのインタフェースである。具体的には、ユーザ200は、検討対象とする既存のトピックをドロップダウンボックス351に指定し、決定ボタン352を押下する。ドロップダウンボックス351で指定可能なトピック(すなわち、検討を途中から再開するトピック)には、自身が過去に途中まで検討していたトピックだけでなく、他のユーザから送付された検討中のトピックも含まれる。
【0116】
テキストボックス353、ドロップダウンボックス354,355、及び決定ボタン356は、新規にトピックの検討を始めるためのインタフェースである。なお、
図18に示したトピック指定画面350では、トピックの対象分野を大分類及び小分類で段階的に指定できるように、ドロップダウンボックス354,355を設けているが、本実施形態に係るトピック指定画面の構成はこれに限定されるものではなく、例えば、第1の実施形態で
図4に示したトピック指定画面310と同様の構成であってもよい。
【0117】
また、大分類については、アナロジー想起データ選別処理において思考データベース106から複数の思考事例データ430を取得する際に(
図12のステップS403)、現在のトピックと共通する大分類に該当する分野コードのみを取得の対象とするようにしてもよく、このようにする場合、大分類という括りで分野の範囲を制限しながら、複数の小分類に横断して様々な思考事例データ430を取得し、アナロジーを想起させる思考事例データ430の集合を選定し、アナロジー想起画面に提示できるため、極端に分野の異なる思考事例データ430が選定されないように制限することができる。
【0118】
図19は、第2の実施形態におけるアナロジー想起画面の一例を示す図である。
図19に示したアナロジー想起画面360は、現アイディア表示ボックス361と、アイディア修正ボックス362と、アナロジー想起情報表示ボックス363と、決定ボタン364と、履歴表示モードへの切り替え時に押下される遷移ボタン365と、を有して構成される。これらの各構成が有する機能は、以下に説明する点を除いて、
図11に示したアナロジー想起画面330が有する同名の各構成と同様である。
【0119】
第2の実施形態では、ユーザ発想データ420に含まれる発想内容表現426に図面の画像を用いる。そのため、アナロジー想起画面360において、現在のアイディアを表示する現アイディア表示ボックス361と、アナロジー想起データ選別処理で得られた思考事例データ430の集合を表示するアナロジー想起情報表示ボックス363は、画像を表示するように構成されている。また、アイディアを修正するアイディア修正ボックス362は、画像の形式で入力可能なインタフェースとなっている。
【0120】
また、ユーザ200が変更されてから最初に表示されるアナロジー想起画面360では、現アイディア表示ボックス361に、先のユーザ(現ユーザに発想の検討を引き継いだユーザ200)の最終的な発想が表示される。したがって、現ユーザは、先のユーザによる発想を引き継ぎつつ、新たに発想を広げることができ、新たな発想を着想したときには、アイディア修正ボックス362に、当該発想を表す情報(本例では図形)を入力することができる。
【0121】
また、アナロジー想起画面360には、ユーザ200が希望する際に履歴表示モードへと移行するための遷移ボタン365が設けられているが、本実施形態に係る発想支援システム100では、このようなユーザ200による手動操作とは別に、修正後のアイディアの発想内容表現を変換したベクトルデータが初期値から大きく変化した場合などの所定条件を満たしたときに、画面遷移制御部103が自動的に履歴表示モードに切り替えるように構成する。
【0122】
第2の実施形態では、第1の実施形態と同様に、アナロジー想起データ選別処理や発想履歴相関図生成処理のなかで、アナロジー想起データ選別処理が実行される。このアナロジー想起データ選別処理の処理手順は、第1の実施形態で
図12に示した手順と同様であり、ステップS402ではアイディアエンコーダ105が、エンベディングの処理を行って、発想内容表現426の内容をベクトルデータに変換する。ここで、第2の実施形態では発想内容表現426に画像を用いるが、
図20に示すように、画像であってもアイディアエンコーダ105はベクトルデータへの変換を実施することができる。
【0123】
図20は、アイディアエンコーダ105による画像からベクトルデータへの変換の動作を模式的に説明する図である。
【0124】
図13を参照しながら説明した通り、第1の実施形態では、ニューラルネットワーク513への入力データは、文字列511を単語に分解してからOne-Hotエンコーディングしたものを用いたが、第2の実施形態では、アイディアエンコーダ105は、発想内容表現426に格納された画像551の画素値をそのまま入力として、公知のCNN(畳み込みニューラルネットワーク)等のニューラルネットワーク552を用いてエンベディングを実装する。この結果、
図20に示すように、ニューラルネットワーク552の出力としてベクトル列553が得られる。
【0125】
次に、第2の実施形態における履歴表示モードについて説明する。
【0126】
図21は、第2の実施形態における発想履歴表示画面の一例を示す図である。
図21に示した発想履歴表示画面370のうち、第1の実施形態で
図15に示した発想履歴表示画面340と共通する構成については説明を省略する。
【0127】
発想履歴表示画面370では、発想履歴表示画面340と異なる点として、表示される発想履歴(発想内容表現)が文字列ではなく画像となっている。また、発想履歴が時系列で表示される点は共通であるが、最新の発想履歴の隣には、現ユーザによる発想の検討を終了して次のユーザに検討を委ねるためのボタン371が設けられる。ユーザ200によってボタン371が押下されると、発想支援情報提示部102は、次に検討を任せるユーザを指定するためのユーザ選択画面を表示する。
【0128】
図22は、ユーザ選択画面の一例を示す図である。
図22に示したユーザ選択画面380は、配置
図381と、ボタン382と、を有して構成される。
【0129】
配置
図381には、本システムを利用している複数のユーザの過去の発想の関連性に基づいて、ユーザ同士の相対的な位置関係が表示される。配置
図381において、星印は現在のユーザの位置を表し、白円はそれぞれ他のユーザの位置を表す。これらの星印及び白円は、ユーザ発想データ420に基づいて生成可能な表示であり、具体的には例えば、ユーザごとにユーザ発想データ420の発想内容表現426を収集し、これらをアイディアエンコーダ105に入力することによって得られるベクトルデータの平均値を表示することにより、各ユーザの位置表示を生成可能である。この際、前述したアナロジー想起データ選別処理と同様にして分野成分を除去することで、他分野のユーザに対して発想の拡大を委託することも可能となる。
【0130】
そして現在のユーザが、配置
図381において、次に検討を委ねようとするユーザ(次ユーザ)に対応する1つの白円を選択し、ボタン382を押下すると、例えばユーザ発想受付部101が、現在扱っているトピック情報410とユーザ発想データ420とを複製し、複製した各データ内のユーザIDを、配置
図381で選択された次ユーザのユーザIDに差し替えた上で、履歴保存データベース107に格納する。以後は、発想支援システム100が次ユーザとの間で
図17に示した動作を行うことにより、次ユーザによる発想の拡大を支援するような思考事例データ430を提示することができる。
【0131】
以上のような第2の実施形態に係る発想支援システム100によれば、ユーザ200の発想が図面(画像)で行われる場合でも、第1の実施形態と同様に、ユーザ発想データ420及び思考事例データ430の内容を多変量(ベクトルデータ)へと変換することができるため、ユーザ200の発想を広げるために、アナロジーを想起可能な情報を選定し提示することができる。さらに、第2の実施形態に係る発想支援システム100によれば、アナロジーを想起可能な情報の提示に基づいて行われたユーザによる発想の拡張の結果を、当該ユーザが選択した他のユーザに引き渡すことができるため、複数人で協力しながら発想を広げることを支援できる。
【0132】
(3)第3の実施形態
本発明の第3の実施形態では、発想履歴表示画面において発想の分岐を設定できるようにする発想支援システムについて、第1または第2の実施形態で説明した発想支援システム100の構成を流用して説明する。本実施形態では、思考を表現する情報(発想内容表現426)の一例として数式を用いるが、第1の実施形態のように文章(文字列)を用いるとしてもよいし、第2の実施形態のように画像(図形)を用いるとしてもよい。
【0133】
数式は、文章とは異なる形態ではあるものの、公知のTeXやMathML(Mathematical Markup Language)等の表現形式を用いることで、文字列として扱うことができるため、第1の実施形態と同様に扱うことができる。数式の場合は、記号や文字の記法が分野によって異なることがある。例えば電流を「i」と表記する場合もあれば、「j」と表記する場合もある。あるいは、類似の現象が異なる対象で起こる場合には、それぞれの変数名などは異なるものの、方程式そのものは類似しているような事例もある。したがって、本実施形態に係る発想支援システム100は、上記のような分野ごとの慣例によって表記が異なるが類似する現象を扱った数式に対しても、アナロジー想起情報としてアナロジー想起画面に提示することに期待できる。
【0134】
また、本実施形態に係る発想支援システム100は、このような対応を数式以外にも適用可能であり、例えば、化学式やプログラムコード、HTML等のマークアップデータ、図の描画コマンド列、ニューラルネットワーク等のネットワーク構造、UMLクラス図等のダイヤグラム、など文字列として表現可能な様々な情報についても、思考を表現する情報(発想内容表現)として扱うことができる。
【0135】
次に、発想履歴表示画面において発想の分岐を設定可能にすることについて、詳しく説明する。
【0136】
図23は、第3の実施形態における発想履歴表示画面の一例を示す図である。
図23に示した発想履歴表示画面390のうち、第1の実施形態で
図15に示した発想履歴表示画面340と共通する構成については説明を省略する。
【0137】
発想履歴表示画面390では、発想履歴表示画面340と異なる点として、過去の発想履歴を表示する画面上部のテキストボックス391が、時系列に沿って表示される途中で分岐可能に構成されている。また、それぞれの過去の発想を示すテキストボックス391に対して「ここから再開」というボタン392が設けられている。何れかのテキストボックス391に対応するボタン392を押下することで、選択されたテキストボックス391の発想に対応するユーザ発想データを直前の発想(元発想)として、当該発想から分岐する形で次の発想の検討が可能となる。
【0138】
ここで、発想履歴表示画面390において上記のように発想を分岐する機能を実装するためには、ユーザ発想データに、その発想の元となった発想(元発想)を示す情報を保持させる必要が生じる。
【0139】
図24は、第3の実施形態におけるユーザ発想データの構成例を示す図である。
図24に示したユーザ発想データ440は、
図8に示したユーザ発想データ420と同様に、ユーザID421、トピックID422、分野コード423、発想ID424、及び発想日時425の項目を含んで構成される。これらの各項目に対する説明は省略する。また、ユーザ発想データ440は、ユーザ発想データ420の発想内容表現426に代えて、発想内容表現442を有する。発想内容表現442は、初期発想入力画面320またはアナロジー想起画面330で入力された発想を表す数式を格納する。
【0140】
さらに、ユーザ発想データ440は、ユーザ発想データ420とは異なる構成として、本発想の元となった発想の発想IDを格納する元発想ID441を有する。この元発想ID441に格納される発想IDは、元発想のユーザ発想データ440における発想ID424であり、より具体的には、前述した発想履歴表示画面390においてボタン392が押下されたときに、選択されたテキストボックス391の発想に対応するユーザ発想データ440から、発想ID424の値を取得してくればよい。
【0141】
このような元発想ID441を有するユーザ発想データ440を用いることにより、発想支援情報提示部102は、
図23に示した発想履歴表示画面390において、過去の発想履歴(ユーザ発想データ440)を単に時系列で並べるだけでなく、元発想IDで参照する別のユーザ発想データ440が存在する場合にはそれを分岐に追加して描画することができる。
【0142】
また、このような発想の分岐は、発想履歴表示画面390においてモデル表示ボックス393に表示される発想履歴相関図にも反映することができる。例えば
図23の発想履歴相関図において、対象トピックに関するユーザ発想データ420を時系列で繋いだ矢印付きの曲線は、星印を起点に2方向に分岐しているが、これは現在選択されている発想履歴(ユーザ発想データ440)から、発想が2つに分岐したことを表現している。このような表示を行うことで、発想の変遷や分岐を容易に認識できるため、一覧性の高い情報提示を実現することができる。
【0143】
以上に説明したように、本実施形態に係る発想支援システム100によれば、発想内容表現が数式であったとしても、第1の実施形態または第2の実施形態と同様に、アナロジーに基づく発想を広げるようにユーザを誘導する事例を提示することができる。さらに、本実施形態に係る発想支援システム100によれば、発想の分岐を可視化することにより、ユーザが自身の発想を振り返り、場合によっては過去のある時点に戻って発想をやり直すといった試行錯誤が容易となることから、ユーザの発想をより柔軟に広げる支援が可能となる。
【0144】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。そして、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。例えば、ユーザの発想内容を保持するユーザ発想データの「発想内容表現」について、第1の実施形態では文章(文字列)とし、第2の実施形態では画像(図形)とし、第3の実施形態では数式(または、所定の表現形式を用いることで、文字列として扱うことができるその他の表記)としたが、これらは各実施形態で限定されるものではなく、置き換えまたは組み合わせが可能である。
【符号の説明】
【0145】
11 プロセッサ
12 DRAM
13 記憶装置
14 入力装置
15 モニタ
16 通信インタフェース
100 発想支援システム
101 ユーザ発想受付部
102 発想支援情報提示部
103 画面遷移制御部
104 アナロジー想起データ選別部
105 アイディアエンコーダ
106 思考データベース
107 履歴保存データベース
108 ユーザ認証部
200 ユーザ
310,350 トピック指定画面
320 初期発想入力画面
330,360 アナロジー想起画面
340,370,390 発想履歴表示画面
380 ユーザ選択画面
410 トピック情報
420,420 ユーザ発想データ
430 思考事例データ