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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092113
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】溶接ワイヤ送給装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/12 20060101AFI20230626BHJP
   B23K 9/133 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
B23K9/12 304B
B23K9/133 501A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207122
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】590000721
【氏名又は名称】株式会社キーレックス
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】大段 一成
(57)【要約】
【課題】溶接ワイヤ送給装置の制御システムが複雑化するのを抑えつつ、溶接ワイヤを安定して溶接トーチに送給可能な溶接ワイヤ送給装置を提供する。
【解決手段】溶接ワイヤ送給装置5は、ペイルパック4の溶接ワイヤWを溶接トーチ2に向かって押し出すワイヤ押出ユニット6と、押し出された溶接ワイヤWを溶接トーチ2に引き込むワイヤ引込ユニット7とを備える。ワイヤ押出ユニット6は、回転軸心が同方向に向く姿勢でローラ径方向に並設された第1ローラ9及び第2ローラ10を備え、両ローラ9、10は、溶接ワイヤWを挟持しながら互いに反対向きに回転することによりワイヤ引込ユニット7側に送給する。プッシュモータ11により回転駆動される第1ローラ9は、予め設定した所定の負荷が回転方向に掛かった際、溶接ワイヤWに対して滑るよう構成される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ供給源の溶接ワイヤを溶接トーチに向かって押し出すワイヤ押出ユニットと、当該ワイヤ押出ユニットにより押し出された前記溶接ワイヤを前記溶接トーチに引き込むワイヤ引込ユニットとを備え、前記ワイヤ押出ユニットの押出動作及び前記ワイヤ引込ユニットの引込動作により、前記ワイヤ供給源から前記溶接トーチへと前記溶接ワイヤを送給するよう構成された溶接ワイヤ送給装置であって、
前記ワイヤ押出ユニットは、回転軸心が同方向に向く姿勢でローラ径方向に並設された第1ローラ及び第2ローラと、当該第1及び第2ローラの少なくとも一方を回転駆動させるプッシュモータとを備え、前記第1及び第2ローラは、前記溶接ワイヤを挟持するとともに互いに反対向きに回転することにより前記ワイヤ引込ユニット側に送給するよう構成され、
前記第1及び第2ローラのうち前記プッシュモータにより回転駆動される少なくとも一方は、予め設定した所定の負荷が回転方向に掛かった際、前記溶接ワイヤに対して滑るよう構成されていることを特徴とする溶接ワイヤ送給装置。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接ワイヤ送給装置において、
前記ワイヤ押出ユニットには、前記第2ローラを第1ローラ側に付勢する付勢部材が備えられていることを特徴とする溶接ワイヤ送給装置。
【請求項3】
請求項2に記載の溶接ワイヤ送給装置において、
前記ワイヤ押出ユニットは、前記第1及び第2ローラを収容するケースと、一端が前記第2ローラを回転可能に支持するとともに、他端が前記ケースに直接的或いは間接的かつ揺動可能に支持される揺動アームと、を備え、
前記付勢部材は、前記第2ローラが前記第1ローラに近づく方向に前記揺動アームを付勢していることを特徴とする溶接ワイヤ送給装置。
【請求項4】
請求項3に記載の溶接ワイヤ送給装置において、
前記揺動アームの他端は、前記揺動アームの一端よりも前記溶接ワイヤの送給方向の上流側に配設されていることを特徴とする溶接ワイヤ送給装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の溶接ワイヤ送給装置において、
前記ワイヤ押出ユニットには、前記揺動アームの揺動角度を調整可能な調整部が備えられていることを特徴とする溶接ワイヤ送給装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の溶接ワイヤ送給装置において、
前記第1ローラは、前記プッシュモータにより回転駆動され、かつ、
前記第1ローラの前記溶接ワイヤとの接触面には、前記第1ローラの他の部位よりも摩擦係数が低くなるように低摩擦処理が施されていることを特徴とする溶接ワイヤ送給装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1つに記載の溶接ワイヤ送給装置において、
前記プッシュモータの回転速度は、前記ワイヤ引込ユニットに備えられたプルモータよりも高い回転速度に設定されていることを特徴とする溶接ワイヤ送給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ロボット等に装着される溶接トーチに溶接ワイヤを送給する溶接ワイヤ送給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、工場等に設置される溶接ロボットの溶接トーチに溶接ワイヤを送給する溶接ワイヤ送給装置が知られている。例えば、特許文献1に開示されている溶接ワイヤ送給装置は、スプールに巻回された溶接ワイヤを溶接トーチに向かって押し出すワイヤ押出ユニットと、当該ワイヤ押出ユニットにより押し出された溶接ワイヤを溶接トーチに引き込むワイヤ引込ユニットとを備え、ワイヤ押出ユニットの押出動作及びワイヤ引込ユニットの引込動作により、スプールに巻回された溶接ワイヤを溶接トーチへと送給するようになっている。ワイヤ押出ユニットの押出動作はプッシュモータを制御することにより行われる一方、ワイヤ引込ユニットの引込動作はプルモータを制御することにより行われていて、プルモータに供給する電流及び電圧を制御することにより、溶接トーチに溶接ワイヤを安定送給するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-000907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の如き溶接ワイヤ送給装置では、プルモータに供給する電流や電圧を緻密に制御する必要がある為、制御システムが複雑化するおそれがある。
【0005】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、溶接ワイヤ送給装置の制御システムが複雑化するのを抑えつつ、溶接ワイヤを安定して溶接トーチに送給可能な溶接ワイヤ送給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は、プッシュモータにより回転駆動するローラが溶接ワイヤに対して滑るのを許容しつつ当該溶接ワイヤをプル送給ユニット側に送給するようにしたことを特徴とする。
【0007】
具体的には、ワイヤ供給源の溶接ワイヤを溶接トーチに向かって押し出すワイヤ押出ユニットと、当該ワイヤ押出ユニットにより押し出された前記溶接ワイヤを前記溶接トーチに引き込むワイヤ引込ユニットとを備え、前記ワイヤ押出ユニットの押出動作及び前記ワイヤ引込ユニットの引込動作により、前記ワイヤ供給源から前記溶接トーチへと前記溶接ワイヤを送給するよう構成された溶接ワイヤ送給装置を対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0008】
すなわち、第1の発明では、前記ワイヤ押出ユニットは、回転軸心が同方向に向く姿勢でローラ径方向に並設された第1ローラ及び第2ローラと、当該第1及び第2ローラの少なくとも一方を回転駆動させるプッシュモータとを備え、前記第1及び第2ローラは、前記溶接ワイヤを挟持するとともに互いに反対向きに回転することにより前記ワイヤ引込ユニット側に送給するよう構成され、前記第1及び第2ローラのうち前記プッシュモータにより回転駆動される少なくとも一方は、予め設定した所定の負荷が回転方向に掛かった際、前記溶接ワイヤに対して滑るよう構成されていることを特徴とする。
【0009】
第2の発明では、第1の発明において、前記ワイヤ押出ユニットには、前記第2ローラを第1ローラ側に付勢する付勢部材が備えられていることを特徴とする。
【0010】
第3の発明では、第2の発明において、前記ワイヤ押出ユニットは、前記第1及び第2ローラを収容するケースと、一端が前記第2ローラを回転可能に支持するとともに、他端が前記ケースに直接的或いは間接的かつ揺動可能に支持される揺動アームと、を備え、前記付勢部材は、前記第2ローラが前記第1ローラに近づく方向に前記揺動アームを付勢していることを特徴とする。
【0011】
第4の発明では、第3の発明において、前記揺動アームの他端は、前記揺動アームの一端よりも前記溶接ワイヤの送給方向の上流側に配設されていることを特徴とする。
【0012】
第5の発明では、第3又は第4の発明において、前記ワイヤ押出ユニットには、前記揺動アームの揺動角度を調整可能な調整部が備えられていることを特徴とする。
【0013】
第6の発明では、第1から第5のいずれか1つの発明において、前記第1ローラは、前記プッシュモータにより回転駆動され、かつ、前記第1ローラの前記溶接ワイヤとの接触面には、前記第1ローラの他の部位よりも摩擦係数が低くなるように低摩擦処理が施されていることを特徴とする。
【0014】
第7の発明では、第1から第6のいずれか1つの発明において、前記プッシュモータの回転速度は、前記ワイヤ引込ユニットに備えられたプルモータよりも高い回転速度に設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明では、例えば、ワイヤ引込ユニットにおける溶接トーチ側への溶接ワイヤの引込量が比較的少ない場合において、ワイヤ押出ユニットの第1ローラ及び第2ローラの回転動作により溶接ワイヤをワイヤ引込ユニット側に押し出してワイヤ引込ユニットとワイヤ押出ユニットとの間に存在する溶接ワイヤが過剰になると、ワイヤ押出ユニットからワイヤ引込ユニット側に溶接ワイヤを送給する際に抵抗が生じる、つまり、送給抵抗が生じるようになる。このとき、溶接ワイヤに対して回転するローラが滑るようになるので、当該滑りの分だけワイヤ押出ユニットからワイヤ引込ユニット側への溶接ワイヤの押出量が減少する。これにより、例えば、プッシュモータが起動及び停止の切り替えのみを制御するような比較的簡易な制御システムにおいてプッシュモータを駆動させるだけで、上述した送給抵抗に応じた押出量、つまり、ワイヤ引込ユニットにおける溶接トーチ側への溶接ワイヤの引込量に応じてプッシュ押出ユニットからワイヤ引込ユニット側に溶接ワイヤが押し出されるようになる。したがって、特許文献1の如き溶接ワイヤ送給装置のようにプルモータ等を緻密に制御することにより制御システムが複雑化してしまうのを抑えつつ溶接ワイヤを溶接トーチに安定して送給可能な溶接ワイヤ送給装置を提供することができる。
【0016】
第2の発明では、例えば、ワイヤ引込ユニットにおける溶接トーチ側への溶接ワイヤの引込量が比較的少なく、ワイヤ押出ユニットからワイヤ引込ユニット側に溶接ワイヤを送給する際の送給抵抗が比較的大きい場合、付勢部材によって第1ローラ側に付勢された第2ローラと第1ローラとにより発生する溶接ワイヤの挟持力が送給抵抗に応じて減少し、回転駆動されるローラが溶接ワイヤに対して滑るようになる。したがって、回転駆動されるローラを溶接ワイヤに対して適切に滑らせつつ溶接ワイヤをワイヤ引込ユニット側に安定して送給することができる。
【0017】
第3の発明では、付勢部材により第2ローラを第1ローラ側に付勢する場合に、例えば、溶接ワイヤの送給方向に直交する方向に第2ローラを付勢することで、溶接ワイヤの送給方向において第2ローラの位置と第1ローラの位置とがずれてしまい、両ローラ間において溶接ワイヤを適切に挟持できなくなる事態が発生するのを防止することができる。
【0018】
第4の発明では、第1ローラ及び第2ローラにより溶接ワイヤを送給する際、送給される溶接ワイヤによって第2ローラが溶接ワイヤの送給方向における下流側に揺動するようになる。したがって、第1ローラ及び第2ローラによる溶接ワイヤの挟持力が過大になるのを抑制することができるようになり、回転駆動されるローラを溶接ワイヤに対して適切に滑らせることができる。
【0019】
第5の発明では、例えば、ワイヤ供給源を交換して溶接ワイヤの種類が変更となった場合、調整部により揺動アームの揺動角度を適切な角度に調整することで、第1ローラ及び第2ローラによる溶接ワイヤの挟持力を適切にすることができる。
【0020】
第6の発明では、溶接ワイヤをワイヤ引込ユニット側に送給する際、第1ローラにおける低摩擦処理部分と溶接ワイヤとが確実に滑るようになるので、回転駆動される第1ローラを溶接ワイヤに対して適切に滑らせることができないといった事態が発生するのを回避することができる。
【0021】
第7の発明では、ワイヤ引込ユニットにおけるプルモータの回転速度が比較的高い場合、つまり、プルモータによる溶接トーチ側への溶接ワイヤの引込量が比較的多い場合であっても、プルモータよりも高い回転速度で回転するプッシュモータによりワイヤ押出ユニットからワイヤ引込ユニット側に多くの溶接ワイヤを押し出すようになる。したがって、ワイヤ押出ユニットからワイヤ引込ユニット側への押出量が不足し、ワイヤ引込ユニットが溶接ワイヤを溶接トーチ側に送給する際に送給抵抗が生じてしまい、ワイヤ引込ユニットから溶接トーチに安定して溶接ワイヤが送給できなくなる事態が発生するのを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る溶接ワイヤ送給装置が適用された溶接システムの概略正面図である。
図2】本発明の実施形態に係る溶接ワイヤ送給装置の要部を示す概略正面図である。
図3】本発明の実施形態に係る溶接ワイヤ送給装置の要部を示す概略右側面図である。
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0024】
図1は、本発明の実施形態に係る溶接ワイヤ送給装置が適用された溶接システム1を示す。該溶接システム1は、工場等において、例えば、複数の部品同士をMIG溶接、或いは、TIG溶接を行う溶接工程に適用されるものであって、溶接トーチ2を用いて溶接を行う溶接ロボット3と、溶接ワイヤWが巻回収容されたペイルパック4と、該ペイルパック4の溶接ワイヤWを溶接トーチ2に送給する溶接ワイヤ送給装置5とを備えている。
【0025】
溶接ロボット3は、地面に設置されたベース部3aと、該ベース部3aの上部に取り付けられ、かつ、複数の関節を有するアーム部3bとを備え、溶接トーチ2は、アーム部3bの先端に取り付けられている。
【0026】
ペイルパック4は、地面に設置されるとともに、溶接ワイヤWを収容可能かつ円筒状をなす収容部4aと、該収容部4aの上部に取り付けられたテーパ状をなすカバー部4bと、を備え、該カバー部4bにおける上端部4c中央部には、上下方向に貫通する第1孔部4d(図2図3参照)が設けられている。
【0027】
溶接ワイヤ送給装置5は、ペイルパック4に巻回収容された溶接ワイヤWを溶接トーチ2に向かって押し出すワイヤ押出ユニット6と、該ワイヤ押出ユニット6により押し出された溶接ワイヤWを溶接トーチ2に引き込むワイヤ引込ユニット7と、を備え、ワイヤ押出ユニット6及びワイヤ引込ユニット7の間、並びに、ワイヤ引込ユニット7及び溶接トーチ2の間、がそれぞれ溶接ワイヤWを挿通可能な挿通孔8aを有するコンジットケーブル8により接続されている。つまり、ワイヤ押出ユニット6の押出動作及びワイヤ引込ユニット7の引込動作により、コンジットケーブル8の挿通孔8aを介して、溶接ワイヤWがペイルパック4から溶接トーチ2まで送給されるようになっている。なお、本実施形態では、ワイヤ引込ユニット7は、溶接ロボット3のアーム部3bの中途部に支持されており、プルモータ7bにより回転駆動される一対のプル送給ローラ7aによって溶接ワイヤWを溶接トーチ2に引き込むように構成されている。
【0028】
次に、図2及び図3を用いて、ワイヤ押出ユニット6について詳述する。なお、本実施形態では、図2の紙面上側をワイヤ押出ユニット6の上側とする一方、紙面下側をワイヤ押出ユニット6の下側とし、紙面右側をワイヤ押出ユニット6の右側とする一方、紙面左側をワイヤ押出ユニット6の左側とする。また、図3の紙面上側をワイヤ押出ユニット6の上側とする一方、紙面下側をワイヤ押出ユニット6の下側とし、紙面右側をワイヤ押出ユニット6の後側とする一方、紙面左側をワイヤ押出ユニット6の前側とする。
【0029】
ワイヤ押出ユニット6は、図2に示すように、ペイルパック4のカバー部4bの上部に取り付けられている。該ワイヤ押出ユニット6は、一対の第1ローラ9及び第2ローラ10と、第1ローラ9に連結されたプッシュモータ11と、第2ローラ10を回転可能に支持する揺動アーム12と、第2ローラ10が第1ローラ9に近づくように揺動アームを付勢する付勢部材13と、揺動アーム12の揺動角度を調整可能な調整部14と、第1ローラ9、第2ローラ10、プッシュモータ11、揺動アーム12、付勢部材13及び調整部14を収容するケース6aとを備えている。
【0030】
ケース6aは、図3に示すように、前側に開口する断面略U字状をなしており、上下方向に対向配置された上壁6b及び下壁6cと、上壁6b及び下壁6cの各後端部間を連絡するように上下方向に延びる後壁6dと、により構成されている。
【0031】
上壁6bには、該上壁6bを上下方向に貫通し、かつ、コンジットケーブル8の挿通孔8aが接続される第2孔部6eが設けられている。また、下壁6cにおける第2孔部6eに対応する位置には、下壁6cを上下方向に貫通する第3孔部6fが設けられている。
【0032】
下壁6cの下面には、筒部材15が上下方向に延びる姿勢で固設されており、該筒部材15には、外周面に雄螺子が螺刻された雄螺子部15aと、下壁6cの第3孔部6fと接続されるとともに、溶接ワイヤWが挿通可能な第4孔部15bとが備えられている。そして、筒部材15がペイルパック4の第1孔部4dに挿通された状態において、該筒部材の雄螺子部15aと螺合可能な雌螺子が螺刻された一対の第1ナット16a及び第2ナット16bにより、ペイルパック4の上端部4cを上下方向両側から挟持するようにそれぞれを螺合することで、ワイヤ押出ユニット6がペイルパック4のカバー部4bに対して取り付けられている。
【0033】
ここで、ワイヤ押出ユニット6の第2孔部6eにコンジットケーブル8の挿通孔8aが接続されるとともに、ワイヤ押出ユニット6が筒部材15を介してペイルパック4のカバー部4bに取り付けられた状態では、コンジットケーブル8の挿通孔8aと、上壁6bの第2孔部6eと、下壁6cの第3孔部6fと、筒部材15の第4孔部15bとが上下方向に略一致するようになっており、各孔及びケース6a内部領域に亘って、溶接ワイヤWを上下方向に通過させることが可能となっている。
【0034】
第1ローラ9は、ケース6a内部において上壁6b側かつ溶接ワイヤWの右側に配設されている。該第1ローラ9の外周面9aには、図3に示すように、ローラ軸方向中央において全周に亘って設けられるとともに、溶接ワイヤWの大きさ及び形状に対応するよう径方向内側に凹設された第1周溝9bと、該第1周溝9bのローラ軸方向両側にそれぞれ設けられた外面部9cと、が備えられている。該第1周溝9bは、溶接ワイヤWとの接触面を構成しており、かつ、その接触面の摩擦係数が外面部9cの表面(溶接ワイヤWとは非接触の面)よりも低くなるように低摩擦処理(例えば、フッ素樹脂、ダイヤモンドライクカーボン、クロム、ニッケル等をコーティング)が施されている。
【0035】
プッシュモータ11は、図3に示すように、出力軸11aがケース6aの前側に延びる姿勢でケース6aの後壁6dに固定されている。
【0036】
プッシュモータ11の出力軸11aには、第1ローラ9が回転一体に連結されていて、プッシュモータ11に電力を供給して出力軸11aを回転させることにより、第1ローラ9が回転駆動するようになっている。
【0037】
本実施形態におけるワイヤ押出ユニット6及びワイヤ引込ユニット7は、相互に制御信号を送受信可能に接続されており、ワイヤ引込ユニット7から送信された該ワイヤ引込ユニット7の起動信号、例えば、プルモータ7bの駆動状態を示す信号をワイヤ押出ユニット6が受信すると、同時にプッシュモータ11の駆動を開始する一方、ワイヤ引込ユニット7から送信された該ワイヤ引込ユニット7の停止信号、例えば、プルモータ7bの停止状態を示す信号を受信すると、同時にプッシュモータ11の駆動を停止するように構成されている。なお、プッシュモータ11の回転速度は、ワイヤ引込ユニット7のプルモータ7bよりも高い回転速度に設定されている(例えば、プッシュモータ11の下限回転速度がプルモータ7bの上限回転速度よりも高い回転速度に設定されている)。
【0038】
第2ローラ10は、第1ローラ9と回転軸心が同方向を向く姿勢でローラ径方向に並設されている。第2ローラ10の外周面10aにおける第1ローラ9の第1周溝9bに対応する部位には、全周に亘って溶接ワイヤWの大きさ及び形状に対応するように径方向内側に向けて凹設された第2周溝10bが備えられており、該第2周溝10bと、第1ローラ9の第1周溝9bとの間に溶接ワイヤWが挟持されるようになっている。
【0039】
揺動アーム12は、一対の第1アーム12a及び第2アーム12bにより構成されるとともに、各アームの一端部が上方位置、かつ、各アームの他端部が下方位置となるようにケース6a内部に配設されている。なお、本実施形態では、溶接ワイヤWの送給方向が上下方向に相当し、送給方向の上流側を下方とする一方、送給方向の下流側を上方とする。
【0040】
第1アーム12aの第1一端部12cと第2アーム12bの第2一端部12eとの間には、第1支持軸10gが前後方向に延びる姿勢で軸止されており、該第1支持軸10gが第2ローラ10を回転可能に支持している。
【0041】
一方、第1アーム12aの第1他端部12dと第2アーム12bの第2他端部12fとの間には、第2支持軸10hが前後方向に延びる姿勢で軸止されており、該第2支持軸10hは、下壁6cの上面かつ左側端部に突設された第1支持部17aに揺動可能に軸支されている。これにより、揺動アーム12(第1アーム12a及び第2アーム12b)は、第2支持軸10hを揺動中心として、第2ローラ10が第1ローラ9に近づく第1揺動方向、或いは、第2ローラ10が第1ローラ9から遠ざかる第2揺動方向に揺動可能となっている。
【0042】
第1支持部17aの右側かつ溶接ワイヤWの左側の位置には、下壁6cの上面に固定された第2支持部17bが設けられている。該第2支持部17b及び揺動アーム12との間には、付勢部材13(例えば、圧縮コイルばね等の弾性部材)が張架されており、該付勢部材13は、揺動アーム12を第1揺動方向に揺動させる、つまり、第2ローラ10が第1ローラ9に近づくように付勢している。この付勢部材13の付勢力によって、第1ローラ9の第1周溝9bと第2ローラ10の第2周溝10bとの間において、溶接ワイヤWを左右方向に挟持する力(挟持力)が発生している。なお、図2に示すように、揺動アーム12が第1揺動方向に揺動し、かつ、揺動アーム12の一端(第1一端部12c、第2一端部12e)が他端(第1他端部12d、第2他端部12f)よりも右側に位置している状態では、第2ローラ10等の自重により、該第2ローラ10が第1ローラ9にもたれかかることによっても、溶接ワイヤWの挟持力が発生している。
【0043】
第1支持部17a及び第2支持部17bの間における下壁6c上面には、第3支持部17cが突設され、該第3支持部17cは、下壁6cの上面から上方に延出した後、右上方に傾斜するように延出する形状をなしている。
【0044】
第3支持部17cには、揺動アーム12の揺動角度を調整可能な調整部14が取り付けられている。該調整部14は、第3ナット14a及びネジ14bにより構成され、該第3ナット14aは、雌螺子孔が螺刻されており、第3支持部17cの傾斜部分の右側の面に固定されている。一方、ネジ14bは、第3ナット14aの雌螺子孔と螺合可能な雄螺子が螺刻された軸部14cと、該軸部14cの一端に連続して設けられた頭部14dと、を有していて、軸部14cの他端は、付勢部材13によって揺動アーム12が第1揺動方向に付勢された状態において、揺動アーム12の右側の面に当接するようになっている。なお、便宜上、図3では、付勢部材13、第3ナット14a、ネジ14b、第2支持部17b、第3支持部17cの図示を省略している。
【0045】
ここで、例えば、頭部14dを一方に回転させてネジ14bを第3ナット14aに対して螺進させると、軸部14cの他端が揺動アーム12の右側の面を左側に押すことにより、該揺動アーム12が第2揺動方向に揺動し、第2ローラ10が第1ローラ9から離間するようになるので、第1ローラ9及び第2ローラ10による溶接ワイヤWの挟持力を減少させることができる。一方、頭部14dを他方に回転させてネジ14bを第3ナット14aに対して螺退させると、付勢部材13の付勢力により揺動アーム12が第1揺動方向に揺動し、第2ローラ10が第1ローラ9に近接するようになるので、第1ローラ9及び第2ローラ10による溶接ワイヤWの挟持力を増加させることができる。
【0046】
次に、本実施形態に係る溶接ワイヤ送給装置5の作用効果について説明する。
【0047】
ワイヤ押出ユニット6において、第1ローラ9及び第2ローラ10により溶接ワイヤWを挟持した状態でプッシュモータ11により第1ローラ9を回転駆動させると、第1ローラ9と第2ローラ10とが互いに反対向きに回転することにより、溶接ワイヤWがワイヤ引込ユニット7側、つまり、送給方向下流側であるコンジットケーブル8側に押し出すように送給される。
【0048】
ワイヤ押出ユニット6が作動する際、ワイヤ引込ユニット7も同時に作動する。該ワイヤ引込ユニット7は、ワイヤ押出ユニット6にて押し出された溶接ワイヤWをプルモータ7bにより回転駆動する一対のプル送給ローラ7aによって溶接トーチ2へと引き込む。
【0049】
ここで、ワイヤ引込ユニット7における溶接トーチ2側への溶接ワイヤWの引込量が比較的少ない場合は、ワイヤ押出ユニット6の第1ローラ9及び第2ローラ10の回転動作によるワイヤ引込ユニット7側への溶接ワイヤWの押出量がワイヤ引込ユニット7の引込量より多くなる、つまり、ワイヤ押出ユニット6とワイヤ引込ユニット7との間に存在する溶接ワイヤWが過剰になるので、ワイヤ押出ユニット6からワイヤ引込ユニット7側へ溶接ワイヤWを送給する際に送給抵抗が生じる。該送給抵抗が増加すると、溶接ワイヤWを押し出すように回転する第1ローラ9を駆動するプッシュモータ11の負荷が増大する。
【0050】
この負荷の増大に対して、本実施形態では、プッシュモータ11の負荷が予め設定した所定のモータ負荷を超えた際、つまり、溶接ワイヤWに直接接触する第1ローラ9に予め設定した所定の負荷が第1ローラ9の回転方向に掛かった際、溶接ワイヤWに対して第1ローラ9を滑らせるように、第1ローラ9及び第2ローラ10による溶接ワイヤWの挟持力、及び、第1ローラ9の第1周溝9bの摩擦係数が設定されている。つまり、上記所定の負荷において、溶接ワイヤWに対して第1ローラ9を滑らせることが可能な挟持力を発生させるように付勢部材13の付勢力が設定されるとともに、該溶接ワイヤWに対して第1ローラ9を滑らせることが可能な摩擦係数となるように第1ローラ9の第1周溝9bの低摩擦処理が施されている。これにより、溶接ワイヤWに直接接触する第1ローラ9に予め設定した所定の負荷が第1ローラ9の回転方向に掛かった際、第1ローラ9が溶接ワイヤWに対して滑るようになるので、当該滑りの分だけワイヤ押出ユニット6からワイヤ引込ユニット7側への溶接ワイヤWの押出量が減少する。
【0051】
したがって、例えば、プッシュモータ11が起動及び停止の切り替えのみを制御するような比較的簡易な制御システムにおいてプッシュモータ11を駆動させるだけで、上述した送給抵抗に応じた押出量、つまり、ワイヤ引込ユニット7における溶接トーチ2側への溶接ワイヤWの引込量に応じてワイヤ押出ユニット6からワイヤ引込ユニット7側に溶接ワイヤWが押し出されるようになる。以上のことから、特許文献1の如き溶接ワイヤ送給装置のようにプルモータ等を緻密に制御することにより制御システムが複雑化してしまうのを抑えつつ溶接ワイヤWを溶接トーチ2に安定して送給可能な溶接ワイヤ送給装置5を提供することができる。
【0052】
また、例えば、ワイヤ引込ユニット7における溶接トーチ2側への溶接ワイヤWの引込量が比較的少なく、ワイヤ押出ユニット6からワイヤ引込ユニット7側に溶接ワイヤWを送給する際の送給抵抗が比較的大きい場合、付勢部材13によって第1ローラ9側に付勢された第2ローラ10と第1ローラ9とにより発生する溶接ワイヤWの挟持力が送給抵抗に応じて減少し、回転駆動される第1ローラ9が溶接ワイヤWに対して滑るようになる。したがって、回転駆動される第1ローラ9を溶接ワイヤWに対して適切に滑らせつつ溶接ワイヤWをワイヤ引込ユニット7側に安定して送給することができる。
【0053】
また、付勢部材13により第2ローラ10を第1ローラ9側に付勢する場合に、例えば、溶接ワイヤWの送給方向に直交する方向(本実施形態では、左右方向)に第2ローラ10を付勢することで、溶接ワイヤWの送給方向において第2ローラ10の位置と第1ローラ9の位置とがずれてしまい、両ローラ間において溶接ワイヤWを適切に挟持できなくなる事態が発生するのを防止することができる。
【0054】
また、第1ローラ9及び第2ローラ10により溶接ワイヤWを送給する際、送給される溶接ワイヤWによって第2ローラ10が溶接ワイヤWの送給方向における下流側(本実施形態では、上側)に揺動するようになる。したがって、第1ローラ9及び第2ローラ10による溶接ワイヤWの挟持力が過大になるのを抑制することができるようになり、回転駆動される第1ローラ9を溶接ワイヤWに対して適切に滑らせることができる。
【0055】
また、例えば、ペイルパック4を交換して溶接ワイヤWの種類が変更となった場合、調整部14により揺動アーム12の揺動角度を適切な角度に調整することで、第1ローラ9及び第2ローラ10による溶接ワイヤWの挟持力を適切にすることができる。
【0056】
また、第1ローラ9の第1周溝9bには、低摩擦処理が施されているので、溶接ワイヤWをワイヤ引込ユニット7側に送給する際の溶接ワイヤWの送給抵抗が大きくなると、第1ローラ9における第1周溝9bと溶接ワイヤWとが確実に滑るようになり、回転駆動される第1ローラ9を溶接ワイヤWに対して適切に滑らせることができないといった事態が発生するのを回避することができる。
【0057】
また、ワイヤ引込ユニット7におけるプルモータ7bの回転速度が比較的高い場合、つまり、プルモータ7bによる溶接トーチ2側への溶接ワイヤWの引込量が比較的多い場合であっても、プルモータ7bよりも高い回転速度で回転するプッシュモータ11によりワイヤ押出ユニット6からワイヤ引込ユニット7側に多くの溶接ワイヤWを押し出すようになる。したがって、ワイヤ押出ユニット6からワイヤ引込ユニット7側への押出量が不足し、ワイヤ引込ユニット7が溶接ワイヤWを溶接トーチ2側に送給する際に送給抵抗が生じてしまい、ワイヤ引込ユニット7から溶接トーチ2に安定して溶接ワイヤWが送給できなくなる事態が発生するのを回避することができる。
【0058】
なお、本実施形態では、第1ローラ9の第1周溝9bに低摩擦処理を施していたが、これに代えて、付勢部材13の付勢力を適切に設定することで、該摩擦処理を施さないようにしてもよい。
【0059】
また、本実施形態では、第1ローラ9の第1周溝9bが外面部9cよりも摩擦係数が低くなるように低摩擦処理を施していたが、これに代えて、第1ローラ9の第1周溝9bが第1ローラ9の側面や第2ローラ10の第2周溝10bよりも摩擦係数が低くなるように低摩擦処理を施すようにしてもよい。
【0060】
また、本実施形態では、プッシュモータ11より第1ローラ9のみ回転駆動されるようにしたが、プッシュモータ11により第1ローラ9及び第2ローラ10の両方を駆動するようにしてもよく、或いは、第1ローラ9及び第2ローラ10それぞれ独立して駆動するプッシュモータを備えるようにしてもよい。
【0061】
また、本実施形態では、プッシュモータ11の回転速度がプルモータ7bよりも高い回転速度に設定されていたが、プッシュモータ11の回転速度がプルモータ7bの回転速度よりも低い場合があってもよい。
【0062】
また、本実施形態では、揺動アーム12は、ケース6aに第1支持部17aを介して間接的に支持されていたが、ケース6a(例えば、下壁6c、或いは、後壁6d)に直接的に支持されるようにしてもよい。
【0063】
また、本発明の実施形態では、溶接ワイヤWの送給方向を上下方向としていたが、左右方向、前後方向、或いは、これらの方向に対して傾斜する方向であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、産業用ロボット等に装着される溶接トーチに溶接ワイヤを送給する溶接ワイヤ送給装置に適している。
【符号の説明】
【0065】
2 溶接トーチ
4 ペイルパック(ワイヤ供給源)
5 溶接ワイヤ送給装置
6 ワイヤ押出ユニット
7 ワイヤ引込ユニット
7b プルモータ
9 第1ローラ
9b 第1周溝(溶接ワイヤとの接触面)
10 第2ローラ
11 プッシュモータ
12 揺動アーム
13 付勢部材
14 調整部
W 溶接ワイヤ
図1
図2
図3