IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社小松製作所の特許一覧

<>
  • 特開-溶接構造物および作業車両 図1
  • 特開-溶接構造物および作業車両 図2
  • 特開-溶接構造物および作業車両 図3
  • 特開-溶接構造物および作業車両 図4
  • 特開-溶接構造物および作業車両 図5
  • 特開-溶接構造物および作業車両 図6
  • 特開-溶接構造物および作業車両 図7
  • 特開-溶接構造物および作業車両 図8
  • 特開-溶接構造物および作業車両 図9
  • 特開-溶接構造物および作業車両 図10
  • 特開-溶接構造物および作業車両 図11
  • 特開-溶接構造物および作業車両 図12
  • 特開-溶接構造物および作業車両 図13
  • 特開-溶接構造物および作業車両 図14
  • 特開-溶接構造物および作業車両 図15
  • 特開-溶接構造物および作業車両 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092128
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】溶接構造物および作業車両
(51)【国際特許分類】
   B23K 37/06 20060101AFI20230626BHJP
   E02F 3/38 20060101ALI20230626BHJP
   B23K 9/00 20060101ALI20230626BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20230626BHJP
   C22C 38/40 20060101ALN20230626BHJP
   C22C 38/08 20060101ALN20230626BHJP
【FI】
B23K37/06 C
E02F3/38
B23K9/00 501C
C22C38/00 302Z
C22C38/00 301Z
C22C38/40
C22C38/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207139
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(72)【発明者】
【氏名】吉原 幸秀
【テーマコード(参考)】
4E081
【Fターム(参考)】
4E081YC10
4E081YY12
(57)【要約】
【課題】大型の溶接構造物にも適用可能な疲労強度が向上した溶接構造物および当該溶接構造物を含む作業車両を提供する。
【解決手段】溶接構造物19は、鋼板または鋳鋼からなる第1部材11と、第1部材11と空間Sを挟んで隣接して配置され、鋼板または鋳鋼からなる第2部材12と、空間Sを充填し、第1部材11と第2部材12とを接合する第1溶接部21と、空間Sの第1の開口部を閉じるように第1溶接部21に接触して配置され、第1溶接部21に接触する領域にマルテンサイト組織を有する変態領域31Fを含み、鋼から構成される裏当て材31と、を備える。裏当て材31を構成する鋼は、単位質量あたりの体積がMs点よりも室温において大きい。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板または鋳鋼からなる第1部材と、
前記第1部材と空間を挟んで隣接して配置され、鋼板または鋳鋼からなる第2部材と、
前記空間を充填し、前記第1部材と前記第2部材とを接合する第1溶接部と、
前記空間の第1の開口部を閉じるように前記第1溶接部に接触して配置され、前記第1溶接部に接触する領域にマルテンサイト組織を有する変態領域を含み、鋼から構成される裏当て材と、を備え、
前記裏当て材を構成する鋼は、単位質量あたりの体積がMs点よりも室温において大きい、溶接構造物。
【請求項2】
前記第1部材と前記裏当て材とに接触して配置され、前記第1部材と前記裏当て材とを接合する第2溶接部をさらに備える、請求項1に記載の溶接構造物。
【請求項3】
前記第2部材と前記裏当て材とに接触して配置され、前記第2部材と前記裏当て材とを接合する第3溶接部をさらに備える、請求項1または請求項2に記載の溶接構造物。
【請求項4】
前記第1部材および前記第2部材は、6mm以上の厚みを有する鋼板または鋳鋼である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の溶接構造物。
【請求項5】
前記裏当て材を構成する鋼の降伏応力は、前記第1溶接部を構成する材料の降伏応力よりも大きい、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の溶接構造物。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の溶接構造物を含む、作業車両。
【請求項7】
前記溶接構造物は、前記作業車両の作業機に含まれる、請求項6に記載の作業車両。
【請求項8】
前記作業車両はショベルである、請求項6または請求項7に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接構造物および作業車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板や鋳鋼からなる部材(母材)同士が溶接によって接合された溶接構造物においては、溶接部付近を起点として疲労破壊が発生する場合がある。これに対し、溶接部を構成する鋼や母材を構成する鋼としてM点が低い鋼を採用することにより、疲労破壊の起点となり得る領域に圧縮応力を残留させ、溶接構造物の疲労強度を上昇させることが提案されている(たとえば、特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-210557号公報
【特許文献2】特開2005-288504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のような技術では、大型の溶接構造物においては、溶接部や母材を構成する鋼として、コストの高い鋼を大量に使用する必要がある。そのため、大型の溶接構造物に適用することが難しいという問題がある。大型の溶接構造物にも適用可能な疲労強度が向上した溶接構造物および当該溶接構造物を含む作業車両を提供することが、本開示の目的の1つである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の溶接構造物は、鋼板または鋳鋼からなる第1部材と、第1部材と空間を挟んで隣接して配置され、鋼板または鋳鋼からなる第2部材と、当該空間を充填し、第1部材と第2部材とを接合する第1溶接部と、上記空間の第1の開口部を閉じるように第1溶接部に接触して配置され、第1溶接部に接触する領域にマルテンサイト組織を有する変態領域を含み、鋼から構成される裏当て材と、を備える。裏当て材を構成する鋼は、単位質量あたりの体積がMs点よりも室温において大きい。
【発明の効果】
【0006】
上記溶接構造物によれば、大型の溶接構造物にも適用可能な疲労強度が向上した溶接構造物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施の形態1における油圧ショベルの外観を示す概略斜視図である。
図2図2は、油圧ショベルのブームの外観を示す概略平面図である。
図3図3は、図2の線分III-IIIに沿うブームの概略断面図である。
図4図4は、図3のブームの溶接部付近を拡大して示す概略断面図である。
図5図5は、鋼の冷却時における体積の変化を示す概略図である。
図6図6は、実施の形態2における溶接構造物の溶接部付近を拡大して示す概略断面図である。
図7図7は、実施の形態3における溶接構造物の溶接部付近を拡大して示す概略断面図である。
図8図8は、疲労試験用の試験片の構造を示す概略平面図である。
図9図9は、図8の試験片から裏当て材31を除去し、厚み方向において反対側から見た状態を示す概略平面図である。
図10図10は、図8および図9の線分X-Xに沿う疲労試験用の試験片の概略断面図である。
図11図11は、図8図10の試験片の溶接部25の形成前に、第2溶接部22および第3溶接部23が形成された試験片の概略断面図である。
図12図12は、図8図10の試験片のルート部付近の残留応力の分布を示す図である。
図13図13は、図11の試験片における第2溶接部および第3溶接部の止端部付近の残留応力の分布を示す図である。
図14図14は、疲労試験の実施方法を説明するための概略図である。
図15図15は、図8図10の試験片の疲労試験の結果を示す図である。
図16図16は、図11の試験片の疲労試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施形態の概要]
本開示に従った溶接構造物は、鋼板または鋳鋼からなる第1部材と、第1部材と空間を挟んで隣接して配置され、鋼板または鋳鋼からなる第2部材と、当該空間を充填し、第1部材と第2部材とを接合する第1溶接部と、上記空間の第1の開口部を閉じるように第1溶接部に接触して配置され、第1溶接部に接触する領域にマルテンサイト組織を有する変態領域を含み、鋼から構成される裏当て材と、を備える。裏当て材を構成する鋼は、単位質量あたりの体積がMs点(組織にマルテンサイトが生成しはじめる温度)よりも室温において大きい。
【0009】
本開示に従った溶接構造物の製造工程における溶接時には、溶融状態の第1溶接部と裏当て材とが接触する。そのため、第1溶接部と裏当て材とが接触する領域であるルート部近傍の裏当て材の領域は、A点以上の温度に加熱される。そして、第1溶接部が凝固していく過程では、第1溶接部およびルート部近傍の裏当て材の領域の温度は急激に低下する。その結果、裏当て材のルート部近傍の領域ではマルテンサイト変態が起こり、マルテンサイト組織を有する変態領域が形成される。ここで、本開示の溶接構造物の裏当て材を構成する鋼は、単位質量あたりの体積がMs点よりも室温において大きい。そのため、溶接部が室温まで冷却される過程で、上記変態領域は、M点以下の温度域において膨張した状態で室温まで冷却される。そうすると、変態領域に接触する第1溶接部のルート部近傍は、変態領域の膨張に伴って膨張しようとする一方で、第1部材および第2部材による拘束によって膨張が阻害される。その結果、疲労破壊の起点となり得る第1溶接部のルート部近傍の第1溶接部、第1部材および第2部材内の領域に、室温において圧縮応力が付与される。この圧縮の応力は、第1溶接部のルート部近傍における残留応力を圧縮の状態とし、または引張の状態を緩和する。その結果、第1溶接部のルート部近傍における亀裂の発生および伸展が阻害され、溶接構造物の疲労強度が向上する。
【0010】
また、上記メカニズムによる疲労強度の向上のためには、第1溶接部、第1部材および第2部材を構成する材料として、コストの高い特殊な材料を使用する必要はなく、裏当て材を構成する鋼にのみ、単位質量あたりの体積がMs点よりも室温において大きい鋼を採用すれば足りる。そのため、小型の溶接構造物だけでなく、大型の溶接構造物にも本開示の溶接構造物の構成を適用可能である。以上のように、本開示の溶接構造物によれば、大型の溶接構造物にも適用可能な疲労強度が向上した溶接構造物を提供することができる。なお、本願において、「室温」とは、27℃(300K)を意味する。
【0011】
上記溶接構造物は、第1部材と裏当て材とに接触して配置され、第1部材と裏当て材とを接合する第2溶接部をさらに備えていてもよい。これにより、事前に第2溶接部を形成して第1部材と裏当て材とを接合しておき、その後、第1溶接部を形成することが可能となる。その結果、溶接構造物の製造が容易となる。さらに、第1溶接部の形成時における上記裏当て材の膨張を第2溶接部が拘束するため、第2溶接部の止端部近傍に圧縮応力が付与される。この圧縮の応力は、第2溶接部の止端部近傍における残留応力を圧縮の状態とし、または引張の状態を緩和する。その結果、疲労破壊の起点となり得る第2溶接部の止端部近傍における亀裂の発生および伸展が阻害され、溶接構造物の疲労強度が向上する。
【0012】
上記溶接構造物は、第2部材と裏当て材とに接触して配置され、第2部材と裏当て材とを接合する第3溶接部をさらに備えていてもよい。これにより、事前に第3溶接部を形成して第2部材と裏当て材とを接合しておき、その後、第1溶接部を形成することが可能となる。その結果、溶接構造物の製造が容易となる。さらに、上記第2溶接部の止端部近傍と同様に、第3溶接部の止端部近傍における亀裂の発生および伸展が阻害され、溶接構造物の疲労強度が向上する。
【0013】
上記溶接構造物において、第1部材および第2部材は、6mm以上の厚みを有する鋼板または鋳鋼であってもよい。このような大型の溶接構造物に、本開示の溶接構造物を有効に適用することができる。
【0014】
上記溶接構造物において、裏当て材を構成する鋼の降伏応力は、第1溶接部を構成する材料の降伏応力よりも大きくてもよい。これにより、第1溶接部のルート部近傍に圧縮応力を付与することが容易となる。
【0015】
本開示の作業車両は、上記本開示の溶接構造物を含んでいる。大型の溶接構造物にも適用可能な疲労強度が向上した溶接構造物を含んでいることにより、本開示の作業車両によれば、信頼性の高い作業車両を提供することができる。
【0016】
上記作業車両において、本開示の溶接構造物は、作業車両の作業機に含まれていてもよい。本開示の溶接構造物は、作業車両の作業機を構成する部材として好適である。
【0017】
上記作業車両はショベルであってもよい。本開示の作業車両は、油圧ショベル、電動ショベルなどのショベルに好適に適用することができる。
【0018】
[実施形態の具体例]
次に、本開示の作業車両および溶接構造物の具体的な実施の形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0019】
(実施の形態1)
まず、図1図5を参照して、本開示に従った作業車両および溶接構造物の一例である油圧ショベルおよび油圧ショベルのブームについて説明する。図1は、実施の形態1における油圧ショベルの外観を示す概略斜視図である。図1を参照して、油圧ショベル100は、走行体1と、旋回体3と、作業機4とを含んでいる。油圧ショベル本体は、走行体1と旋回体3とを含んでいる。走行体1は、1対の履帯1Aを含んでいる。旋回体3は、走行体1の上部の旋回機構を介して、走行体1に装着されている。旋回体3は、運転室8を含んでいる。
【0020】
作業機4は、旋回体3において、上下方向に作動可能に支持されており、土砂の掘削などの作業を行うことができる。作業機4は、ブーム5と、アーム6と、バケット7とを含んでいる。ブーム5の基部は、旋回体3に連結されている。アーム6は、ブーム5の先端に連結されている。バケット7は、アーム6の先端に連結されている。ブーム5、アーム6およびバケット7の各々が油圧シリンダによって駆動されることにより、作業機4は所望の動作を行うことができる。
【0021】
図2は、油圧ショベルのブームの外観を示す概略平面図である。図3は、図2の線分III-IIIに沿うブームの概略断面図である。図2および図3を参照して、ブーム5は、上板11と、左側板12と、右側板13と、下板14とを含んでいる。左側板12と右側板13とは、図3に示すように、上端において上板11に溶接部21を介して接合されており、下端において下板14に溶接部21を介して接合されている。右側板13は、左側板12と間隔を空けて対向している。左側板12と右側板13とは、略平行に配置されている。下板14は、上板11と間隔を空けて対向している。上板11と下板14とは、略平行に配置されている。上板11、左側板12、右側板13および下板14は、互いに接合されて、箱型構造体19を形成している。箱型構造体19は、溶接構造物である。
【0022】
上板11、左側板12、右側板13および下板14は、それぞれ細長板状の形状を有している。上板11、左側板12、右側板13および下板14は、たとえば、厚み6mm以上20mm以下の鋼板である。上板11、左側板12、右側板13および下板14から形成される箱型構造体19は、ブーム5の長手方向(図3の紙面垂直方向)に延びる長尺の構造体である。
【0023】
図2を参照して、箱型構造体19の長手方向の第1の端部に、ブームフートブラケット15が接合されている。箱型構造体19の長手方向の第2の端部(長手方向において第1の端部とは反対側の端部)に、アーム取付ブラケット16が接合されている。ブームフートブラケット15と、アーム取付ブラケット16とは、箱型構造体19の長手方向の端部において、上板11、左側板12、右側板13および下板14の各々に接合されている。ブームフートブラケット15は、ブーム5の後端部を成している。アーム取付ブラケット16は、ブーム5の前端部を成している。ブームフートブラケット15は、旋回体3にピンで結合されている。アーム取付ブラケット16には、アーム6がピンで結合されている。
【0024】
本実施形態においては、上板11と下板14とが並ぶ方向(図3の上下方向)を上下方向という。左側板12と右側板13とが並ぶ方向(図3の左右方向)を左右方向という。ブーム5の延びる方向、または箱型構造体19の長手方向(図3の紙面垂直方向)を前後方向という。前後方向において、ブーム5が旋回体3に連結される側が後方向であり、アーム6がブーム5に連結される側が前方向である。
【0025】
左側板12および右側板13の、前後方向におけるほぼ中央部には、ブームシリンダ取付部17が設けられている。ブームシリンダ取付部17に、ブーム5を駆動するブームシリンダの先端が連結される。上板11の上面側の、前後方向におけるほぼ中央部には、アームシリンダ取付部18が設けられている。アームシリンダ取付部18に、アーム6を駆動するアームシリンダの基端が連結される。
【0026】
上板11、左側板12、右側板13および下板14は、それぞれ一枚の鋼板または鋳鋼によって形成されていてもよい。または、複数の鋼板または鋳鋼が溶接などによって互いに接合されて、上板11、左側板12、右側板13および下板14の各々を形成してもよい。上板11、左側板12、右側板13および下板14を構成する材料としては、たとえば、JIS(Japanese Industrial Standards)SS400、SM570、SC450などを採用することができる。箱型構造体19の内部空間に、ブーム5の強度を増大するための補強部材が配置されていてもよい。
【0027】
図3を参照して、本実施の形態の溶接構造物である箱型構造体19は、4つの溶接部21を含んでいる。4つの溶接部21およびその周辺は、いずれも実質的に同様の構造を有している。以下、上板11と左側板12とを接合する溶接部21およびその周辺の構造について、図4に基づいて説明する。
【0028】
図4を参照して、本実施の形態の溶接構造物である箱型構造体19は、第1部材としての上板11と、第2部材としての左側板12と、溶接部21と、裏当て材31と、を含んでいる。上板11および左側板12は、鋼または鋳鋼から構成されている。上板11は、6mm以上20mm以下の厚みtを有する鋼板である。左側板12は、たとえば、6mm以上20mm以下の厚みtを有する鋼板である。上板11および左側板12を構成する材料としては、たとえばSS400、SM570などを採用することができる。
【0029】
上板11は、内表面11Aと、外表面11Bと、端面11Cとを有している。左側板12は、内表面12Bと、外表面12Cと、端面12Aとを有している。内表面11Aと端面12Aとが空間Sを挟んで向かい合うように、上板11と左側板12とは隣接して配置されている。左側板12の端面12Aは、外表面12Cに近付くにしたがって上板11の内表面11Aとの距離が大きくなるテーパ面となっている。なお、左側板12の端面12Aは、テーパ面ではなく、ストレート面であってもよい。つまり、左側板12の端面12Aは、テーパ状の開先であってもよいし、ストレート状の開先であってもよい。
【0030】
第1溶接部21は、空間Sを充填している。第1溶接部21は、上板11と左側板12とを接合している。第1溶接部21は、溶接によって形成された領域である。第1溶接部21は、溶接時に溶融した領域が凝固することによって形成された部分である。第1溶接部21は、外表面21Aと、第1側面21Cと、第2側面21Bと、底面21Dとを有している。第1溶接部21は、第1側面21Cにおいて上板11の内表面11Aと接触している。第1溶接部21は、第2側面21Bにおいて左側板12の端面12Aと接触している。第1溶接部21は、底面21Dにおいて裏当て材31の第1表面31Aと接触している。第1溶接部21は、裏当て材31と接触する領域であるルート部21Eを有してる。ルート部21Eの幅であるルート間隔dは、たとえば、4.0mm以上10.0mm以下とすることができる。
【0031】
裏当て材31は、第1表面31Aと、第2表面31Bと、第3表面31Cと、第4表面31Dとを有している。裏当て材31は、箱型構造体19の長手方向に沿って延びる細長板状の形状を有している。第1表面31Aと第3表面31Cとは、裏当て材31の厚み方向に間隔をおいて略平行に配置されている。裏当て材31の厚みtは、たとえば、4mm以上12mm以下とすることができる。裏当て材31は、第1表面31Aにおいて左側板12の内表面12Bに接触するとともに、第1溶接部21の底面21Dに接触している。裏当て材31は、第4表面31Dにおいて上板11の内表面11Aに接触している。裏当て材31は、空間Sのルート部21E側(上板11および左側板12の内表面11A,12B側)の開口を閉じるように配置されている。裏当て材31は、第1溶接部21に接触する領域に、マルテンサイト組織を有する変態領域31Fを含んでいる。変態領域31Fにおけるマルテンサイト組織の割合は、たとえば、50体積%以上であり、80体積%以上であってもよい。
【0032】
裏当て材31は、単位質量あたりの体積がMs点よりも室温において大きい鋼からなっている。裏当て材31を構成する鋼のM点は、たとえば、220℃以上400℃以下とすることができる。裏当て材31を構成する鋼は、たとえば、0.03質量%以上0.06質量%以下のC(炭素)と、0.1質量%以上0.3質量%以下のSi(珪素)と、0.2質量%以上0.4質量%以下のMn(マンガン)と、9.0質量%以上13.0質量%以下のNi(ニッケル)と、を含み、残部がFe(鉄)および不可避的不純物からなる鋼であってもよい。また、裏当て材31を構成する鋼は、たとえば、0.02質量%以上0.05質量%以下のCと、0.1質量%以上0.3質量%以下のSiと、0.1質量%以上0.3質量%以下のMnと、7.0質量%以上11.0質量%以下のNiと、10.0質量%以上16.0質量%以下のCr(クロム)とを含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼であってもよい。また、裏当て材31を構成する鋼は、たとえば、0.02質量%以上0.05質量%以下のCと、0.3質量%以上0.5質量%以下のSiと、3.0質量%以上6.0質量%以下のMnと、0.0質量%以上5.0質量%以下のNiとを含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼であってもよい。
【0033】
ここで、上板11と左側板12とを接合する第1溶接部21の形成方法の概略を、図4および図5を参照して説明する。図5は、裏当て材31を構成する鋼の冷却時における体積の変化を示す概略図である。図5において、横軸は温度に対応する。図5において、縦軸は単位質量あたりの体積に対応する。図4を参照して、まず、上板11と左側板12とが、内表面11Aと端面12Aとが向かい合うように配置される。また、裏当て材31が、上板11および左側板12の内表面11A,12Bに接触し、かつ空間Sを閉じるように配置される。その後、溶接ワイヤ(溶加材)を用いた溶接により溶融状態の第1溶接部21が形成される。このとき、第1溶接部21に接触する上板11、左側板12および裏当て材31の一部が溶融し、第1溶接部21の一部となる。すなわち、第1溶接部21は、溶接ワイヤを構成する成分に対して、上板11、左側板12および裏当て材31を構成する成分が混入した組成を有する。
【0034】
このとき、溶融状態の第1溶接部21と裏当て材31とが接触する。これにより、ルート部21Eの近傍の裏当て材31の領域は、A点(組織がフェライトからオーステナイトに変態する温度)以上の温度に加熱される。そして、第1溶接部21が凝固していく過程で、ルート部21Eの近傍の裏当て材31の領域の温度は急激に低下する。その結果、図5に示すように、裏当て材31のルート部21E近傍の領域では、温度がM点を下回ることでマルテンサイト変態が起こり、マルテンサイト組織を有する変態領域31Fが形成される。M点における変態領域31Fの単位質量あたりの体積(以下、単に「体積」ともいう)は、Vである。変態領域31Fは、マルテンサイト変態に伴って体積が増加したあと、さらなる冷却によって体積が減少する。
【0035】
ここで、本実施の形態の裏当て材31を構成する鋼は、単位質量あたりの体積がMs点よりも室温(RT)において大きい。具体的には、変態領域31Fの室温における体積は、Vである。この変態領域31Fの膨張によって、疲労破壊の起点となり得る第1溶接部21のルート部21E近傍の第1溶接部21、上板11および左側板12内の領域に、室温において圧縮応力が付与される。この圧縮の応力は、ルート部21E近傍における残留応力を圧縮の状態とし、または引張の状態を緩和する。その結果、第1溶接部21のルート部21E近傍における亀裂の発生および伸展が阻害され、溶接構造物19の疲労強度が向上する。
【0036】
また、本実施の形態においては、第1溶接部21、上板11、左側板12、右側板13および下板14を構成する鋼として、コストの高い特殊な材料を使用する必要はなく、裏当て材31を構成する鋼にのみ、単位質量あたりの体積がMs点よりも室温において大きい鋼を採用すれば足りる。このように、本実施の形態の箱型構造体19は、大型の溶接構造物にも適用可能な疲労強度が向上した溶接構造物となっている。また、本実施の形態の作業車両としての油圧ショベル100は、箱型構造体19を作業機4のブーム5に含むことにより、信頼性の高い作業車両となっている。
【0037】
上記実施の形態において、裏当て材31を構成する鋼の降伏応力は、第1溶接部21を構成する材料の降伏応力よりも大きくてもよい。これにより、第1溶接部21のルート部21E近傍に圧縮応力を付与することが容易となる。
【0038】
(実施の形態2)
次に、図6を参照して、他の実施の形態である実施の形態2について説明する。図6および図4を参照して、実施の形態2の溶接構造物101は、実施の形態1の溶接構造物としての箱型構造体19と基本的には同様の構造を有し、同様の効果を奏する。しかし、実施の形態2の溶接構造物101は、鋼板または鋳鋼からなる第1部材41および第2部材42の端面同士が溶接によって接合されている点において、実施の形態1の場合とは異なっている。
【0039】
図6を参照して、本実施の形態の溶接構造物101は、第1部材41と、第2部材42と、溶接部21と、裏当て材31と、を含んでいる。第1部材41および第2部材42は、実施の形態1における上板11および左側板12と同様の材料からなり、同様の厚みt,tを有している。
【0040】
第1部材41および第2部材42は、第1表面41C,42Cと、第2表面41B,42Bと、端面41A,42Aと、を有している。第1部材41および第2部材42の端面41A,42Aは、互いに空間Sを挟んで向かい合うように、隣接して配置されている。端面41A,42Aは、第2表面41B,42Bに近付くにしたがって互いの距離が大きくなるテーパ面となっている。なお、第1部材41の端面および第2部材42の端面は、テーパ面ではなくストレート面であってもよい。すなわち、端面41A、42Aは、開先がテーパ面ではなくストレート面であってもよい。
【0041】
第1溶接部21は、空間Sを充填している。第1溶接部21は、第1部材41および第2部材42を接合している。第1溶接部21は、溶接によって形成された領域である。第1溶接部21は、溶接時に溶融した領域が凝固することによって形成された部分である。第1溶接部21は、底面21Dにおいて裏当て材31の第1表面31Aと接触している。第1溶接部21は、裏当て材31と接触する領域であるルート部21Eを有してる。ルート部21Eの幅であるルート間隔dは、たとえば、4.0mm以上10.0mm以下とすることができる。
【0042】
裏当て材31は、第1表面31Aにおいて、第1部材41および第2部材42の第1表面41C,42Cに接触するとともに、第1溶接部21の底面21Dに接触している。裏当て材31は、空間Sのルート部21E側(第1部材41および第2部材42の第1表面41C,42C側)の開口を閉じるように配置されている。裏当て材31は、第1溶接部21に接触する領域に、マルテンサイト組織を有する変態領域31Fを含んでいる。
【0043】
本実施の形態においても、裏当て材31は、単位質量あたりの体積がMs点よりも室温において大きい鋼からなっていることにより、実施の形態1の場合と同様に、疲労破壊の起点となり得る第1溶接部21のルート部21E近傍の第1溶接部21、第1部材41および第2部材42内の領域に、室温において圧縮応力が付与される。この圧縮の応力は、ルート部21E近傍における残留応力を圧縮の状態とし、または引張の状態を緩和する。これにより、第1溶接部21のルート部21E近傍における亀裂の発生および伸展が阻害され、溶接構造物101の疲労強度が向上する。その結果、本実施の形態の溶接構造物101は、上記実施の形態1の箱型構造体19と同様に、大型の溶接構造物にも適用可能な疲労強度が向上した溶接構造物となっている。
【0044】
(実施の形態3)
次に、図7を参照して、さらに他の実施の形態である実施の形態3について説明する。図7および図6を参照して、実施の形態3の溶接構造物101は、実施の形態2の溶接構造物101と基本的には同様の構造を有し、同様の効果を奏する。しかし、実施の形態3の溶接構造物101は、第2溶接部22および第3溶接部23をさらに含む点において、実施の形態2の場合とは異なっている。
【0045】
図7を参照して、第2溶接部22は、外表面22Aと、第1側面22Bと、第2側面22Cとを含んでいる。第2溶接部22は、第1側面22Bにおいて裏当て材31の第2表面31Bに接触している。第2溶接部22は、第2側面22Cにおいて第1部材41の第1表面41Cに接触している。第2溶接部22は、第1部材41と裏当て材31とを接合している。第2溶接部22の形成に伴って、変態領域31Fと同様のメカニズムにより、変態領域31Hが、裏当て材31内に形成される。
【0046】
第3溶接部23は、外表面23Aと、第1側面23Bと、第2側面23Cとを含んでいる。第3溶接部23は、第1側面23Bにおいて裏当て材31の第4表面31Dに接触している。第3溶接部23は、第2側面23Cにおいて第2部材42の第1表面42Cに接触している。第3溶接部23は、第2部材42と裏当て材31とを接合している。第3溶接部23の形成に伴って、変態領域31Fと同様のメカニズムにより、変態領域31Gが、裏当て材31内に形成される。
【0047】
本実施の形態の溶接構造物101においては、事前に第2溶接部22および第3溶接部23を形成して第1部材41および第2部材42と裏当て材31とを接合しておき、その後、第1溶接部21を形成することが可能となる。その結果、溶接構造物101の製造が容易となっている。また、変態領域31H,31Gが形成されることにより、その近傍の第2溶接部22および第3溶接部23内の領域に圧縮応力を付与することができる。これにより、第2溶接部22および第3溶接部23の当該領域における亀裂の発生および伸展を抑制することができる。さらに、第1溶接部21の形成時における裏当て材31の第1表面31Aに沿う方向における膨張を、第2溶接部22および第3溶接部23が拘束する。そのため、第2溶接部22および第3溶接部23の止端部22D,23D近傍に圧縮応力が付与される。この圧縮の応力は、第2溶接部および第3溶接部23の止端部22D,23D近傍における残留応力を圧縮の状態とし、または引張の状態を緩和する。その結果、疲労破壊の起点となり得る第2溶接部および第3溶接部23の止端部22D,23D近傍における亀裂の発生および伸展が阻害され、溶接構造物の疲労強度が向上する。なお、本実施の形態においては、第2溶接部22および第3溶接部23の両方が形成される場合について説明したが、いずれか一方のみが形成されてもよい。
【実施例0048】
本開示の溶接構造物を模した試験片を作製し、ルート部近傍の残留応力の分布を調査するとともに、疲労試験に供して疲労強度を確認する実験を行った。実験の手順は以下のとおりである。
【0049】
図8図10に、試験片の構造を示す。図8図10を参照して、試験片60は、本体部61と、裏当て材31と、溶接部25とを含む。本体部61は、幅Wが80mm、長さLが400mm、厚みtが16mmの板状の形状を有している。本体部61の長手方向および幅方向の中央部には、第1主面61Aから第2主面61Bまで厚み方向に貫通する貫通孔61Eが形成されている。第1主面61A側から見た貫通孔61Eの平面形状は、長さLが71mm、幅Wが15mmであって、角部を円弧状とした長方形状である。貫通孔61Eの内壁面は、厚み方向に垂直な貫通孔61Eの断面が、第1主面61Aから第2主面61Bに近付くにしたがって、その面積が小さくなるテーパ面となっている。第2主面61Bにおいて、貫通孔61Eの断面の面積が最も小さくなる。第2主面61B側の開口における貫通孔61Eは、長さLが60mm、幅Wが4mmであって、角部を円弧状とした長方形状を有している。本体部を構成する材料は、JIS規格SS400である。
【0050】
第2主面61B側の貫通孔61Eの開口を閉じるように、裏当て材31が配置されている。裏当て材31は、平面形状が長方形状の板状の形状を有する。本体部61および裏当て材31がこのように配置された状態で、溶接を実施し、貫通孔61E内を充填するように溶接部25を形成した。その結果、溶接部25が、裏当て材31の第1表面31Aに接触する状態で、裏当て材31が溶接部25に対して固定された。裏当て材31を構成する材料としては、0.055質量%のCと、0.17質量%のSiと、0.25質量%のMnと、10.02質量%のNiとを含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を採用した。裏当て材31は、長さLが80mm、幅Wが20mm(図示略)の板状の形状を有している。裏当て材31の厚みtは、9mmである。また、溶接に用いた溶接ワイヤは、JIS規格YGW11である。以上の手順により、試験片60を得た(実施例)。一方、比較のため、裏当て材31の材料としてJIS規格SS400を用いた試験片も作製した(比較例)。さらに、実施例および比較例のそれぞれについて、図11に示すように、溶接部25の形成前に、第2溶接部22および第3溶接部23を形成した試験片も作製した。
【0051】
得られた図8図10の試験片について、ルート部に対応する溶接部25と裏当て材31との界面近傍の本体部61における残留応力の分布を測定した。残留応力は、X線回折により測定した。図12に測定結果を示す。図12において、横軸は溶接部25と裏当て材31との界面(ルート)からの距離に対応する。縦軸は残留応力に対応し、値は引張応力を正、圧縮応力を負とした任意単位で示されている。実施例、比較例とも、それぞれ3つの試験片について測定を実施した(実施例1~3、比較例1~3)。実施例のデータ点は中実のデータ点、比較例のデータ点は中空のデータ点で表示されている。
【0052】
図12を参照して、本開示の実施例に対応する試験片では、ルート部近傍(溶接部25と裏当て材31との界面付近)において、残留応力が圧縮の状態、または引張の状態が緩和された状態となっていることが分かる。これは、上記の通り、裏当て材31が、単位質量あたりの体積がMs点よりも室温において大きい鋼からなっていることの効果であると考えられる。
【0053】
また、図11の試験片について、第2溶接部22および第3溶接部23の止端部近傍の本体部61における残留応力の分布を測定した。残留応力は、X線回折により測定した。図13に測定結果を示す。図13において、横軸は第2溶接部22および第3溶接部23の止端部からの距離に対応する。縦軸は残留応力に対応し、値は引張応力を正、圧縮応力を負とした任意単位で示されている。実施例、比較例とも、それぞれ2つの試験片について測定を実施した(実施例4~5、比較例4~5)。実施例のデータ点は中実のデータ点、比較例のデータ点は中空のデータ点で表示されている。
【0054】
図13を参照して、本開示の実施例に対応する試験片では、第2溶接部22および第3溶接部23の止端部近傍において、引張応力が低減された状態となっていることが分かる。これは、上記の通り、裏当て材31が、単位質量あたりの体積がMs点よりも室温において大きい鋼からなっていることの効果であると考えられる。
【0055】
次に、図8図10の試験片60および図11の試験片60を用いて4点曲げ疲労試験を実施した。図14は、疲労試験の実施方法を説明するための概略図である。図14を参照して、疲労試験では、内側ピン71および外側ピン72により試験片60を厚み方向に挟んだ状態で曲げ荷重を繰り返し付与した。外側ピン72は、試験片60の長手方向の両端部に配置され、試験片60を固定している。内側ピン71は、裏当て材31が設置される領域を挟んで配置され、矢印αおよび矢印βに沿って変位することにより、試験片60に曲げ荷重を負荷する。試験片60の長手方向における内側ピン71同士の距離Lは150mm、外側ピン72同士の距離Lは350mmとした。荷重は両振り、応力比Rは-1、負荷繰り返しの周波数は8Hzとした。そして、試験片60が破壊するまでの各応力における負荷の繰り返し数を調査した。試験結果を図15および図16に示す。
【0056】
図15は、図8図10の試験片の疲労試験の結果を示す図(S-N曲線)である。図16は、図11の試験片の疲労試験の結果を示す図(S-N曲線)である。図15および図16において、横軸は負荷の繰り返し回数に対応する。縦軸は、負荷された公称応力に対応し、値は任意単位で示されている。図15および図16において、実施例のデータ点は四角形のデータ点、比較例のデータ点は円形のデータ点で示されている。なお、図8図10の試験片を用いた4点曲げ疲労試験では、試験片60の破壊は、全てルート部近傍を起点に生じた。また、図11の試験片を用いた4点曲げ疲労試験では、試験片60の破壊は、全て第2溶接部22および第3溶接部23の止端部近傍を起点に生じた。
【0057】
図15を参照して、実施例の試験片の疲労強度は、比較例の試験片の疲労強度を明確に上回っている。負荷される応力が同じであれば、実施例は比較例の約6倍の寿命を有している。これは、破壊の起点となるルート部近傍において、残留応力が圧縮の状態、または引張が緩和された状態となっていることに起因するものと考えられる。また、図16を参照して、第2溶接部22および第3溶接部23を形成した場合でも、実施例の試験片の疲労強度は、比較例の試験片の疲労強度を明確に上回っている。これは、破壊の起点となる第2溶接部22および第3溶接部23の止端部近傍において、引張の状態の残留応力が緩和された状態となっていることに起因するものと考えられる。以上の実験結果より、本開示の溶接構造物によれば、疲労強度が向上した溶接構造物を提供できることが確認される。
【0058】
なお、上記実施の形態および実施例においては、裏当て材の一部が変態領域である場合について説明したが、裏当て材の全域が変態領域であってもよい。また、上記実施の形態においては、作業車両の一例として油圧ショベルを例示したが、本開示の作業車両は、電動ショベル、ダンプトラック、モータグレーダ、ホイールローダなど、種々の作業車両に適用することができる。また、本開示の溶接構造物が油圧ショベルの作業機に含まれる場合について説明したが、溶接構造物は、ショベルの作業機、ダンプトラックのフレーム、モータグレーダのフレーム、ホイールローダのフレームや作業機など、広く適用することができる。
【0059】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0060】
1 走行体、1A 履帯、3 旋回体、4 作業機、5 ブーム、6 アーム、7 バケット、8 運転室、11 上板、11A 内表面、11B 外表面、11C 端面、12 左側板、12A 端面、12B 内表面、12C 外表面、13 右側板、14 下板、15 ブームフートブラケット、16 アーム取付ブラケット、17 ブームシリンダ取付部、18 アームシリンダ取付部、19 箱型構造体、21 第1溶接部、21A 外表面、21B 第2側面、21C 第1側面、21D 底面、21E ルート部、22 第2溶接部、22A 外表面、22B 第1側面、22C 第2側面、22D 止端部、23 第3溶接部、23A 外表面、23B 第1側面、23C 第2側面、23D 止端部、25 溶接部、31 裏当て材、31A 第1表面、31B 第2表面、31C 第3表面、31D 第4表面、31F 変態領域、31G 変態領域、31H 変態領域、41 第1部材、41A 端面、41B 第2表面、41C 第1表面、42 第2部材、42C 第1表面、60 試験片、61 本体部、61A 第1主面、61B 第2主面、61E 貫通孔、71 内側ピン、72 外側ピン、100 油圧ショベル、101 溶接構造物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16