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特開2023-92152環境モニタリング方法及び環境モニタリング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092152
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】環境モニタリング方法及び環境モニタリング装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/04 20060101AFI20230626BHJP
   G01N 27/00 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
G01N17/04
G01N27/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207177
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】514159162
【氏名又は名称】株式会社シュリンクス
(74)【代理人】
【識別番号】100081709
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴若 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智康
(72)【発明者】
【氏名】西條 康彦
【テーマコード(参考)】
2G050
2G060
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050BA03
2G050BA05
2G050BA10
2G050EA01
2G050EA02
2G050EB02
2G060AA10
2G060AD04
2G060AE28
2G060AF13
2G060AG03
2G060AG15
2G060EA08
2G060HC04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】簡単な構成で、種々の金属の腐食速度を得ることが可能である。
【解決手段】環境モニタリング方法は、アノードとカソード間の出力を得るセンサを用い、センサの出力を測定することで、金属で構成される構造物の腐食環境性を得る環境モニタリング方法であり、センサの出力データと湿度データを用いて、金属の腐食速度を得る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードとカソード間の出力を得るセンサを用い、前記センサの出力を測定することで、金属で構成される構造物の腐食環境性を得る環境モニタリング方法であり、
前記センサの出力データと湿度データを用いて、
金属の腐食速度を得ることを特徴とする環境モニタリング方法。
【請求項2】
前記センサは、ACMセンサであり、
前記ACMセンサのアノードを亜鉛、もしくは亜鉛合金で構成し、
前記ACMセンサの出力データを湿度データで補正し、
亜鉛の腐食速度を得ることを特徴とする請求項1に記載の環境モニタリング方法。
【請求項3】
前記ACMセンサは、カソードを銀、もしくはカーボンで構成したことを特徴とする請求項2に記載の環境モニタリング方法。
【請求項4】
アノードとカソード間の出力を得るセンサを用い、前記センサの出力を測定することで、金属で構成される構造物の腐食環境性を得る環境モニタリング装置であり、
湿度データを得る温湿度センサと、
前記センサの出力データと、前記温湿度センサからの湿度データとを得るデータ部と、
出力データと湿度データを用いて金属の腐食速度を得る処理部と、
を含むことを特徴とする環境モニタリング装置。
【請求項5】
前記センサは、ACMセンサであり、
前記ACMセンサのアノードを亜鉛、もしくは亜鉛合金で構成し、
前記データ部は、前記センサの出力データと、前記温湿度センサからの湿度データを得て、
前記処理部は、出力データと湿度データを用いて亜鉛の腐食速度を得ることを特徴とする請求項4に記載の環境モニタリング装置。
【請求項6】
前記ACMセンサは、カソードを銀、もしくはカーボンで構成したことを特徴とする請求項5に記載の環境モニタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、大気環境中に曝される構造物の大気腐食をモニタリングする環境モニタリング方法及び環境モニタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
長期間にわたって自然環境に曝される構造物、例えば橋梁、標識、街灯、水門、送電鉄塔、船舶・自動車および樋門などは、大気に存在する水分、酸素、腐食性ガス及び塩類などの要因により腐食が進行するため、定期的に腐食状況を点検し、所定の耐久性を維持させる必要がある。そこで、構造物の腐食状況を把握するために、構造物の腐食環境性を測定する腐食測定装置が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、絶縁部を介して二つの異種金属を配置し、大気中に存在する水分で両金属間が連結されたことに起因して流れる電流値を測定する、いわゆるガルバニック対を利用したACMセンサ(Atmospheric Corrosion Monitor)が提案されている。このACMセンサは、例えば、炭素鋼板を切り出してアノードとし、このアノード上に絶縁部を介してカソードを塗布することにより形成されている。このACMセンサは、ガルバニックカップルの間に水分が付着し、これによりアノードとカソードとの間に流れる電流を測定することで、構造物の腐食環境性を高精度に測定することができる。
【0004】
また、例えば、非特許文献1には、「大気腐食はどこまでわかってきたかACMセンサを利用して」として、ACMセンサの原理及びACMセンサの実用化あるいは同センサによる種々の大気環境の腐食性評価法についての開示がある。
【0005】
さらに、構造物の腐食環境性を得るものとして、ACMセンサ及び温湿度センサからなる腐食監視センサからの出力データに基づいて測定データを作成し、測定データのうち温湿度センサからの湿度データ及びACMセンサからの電流データに基づいて腐食速度を評価するものが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-33470号公報
【特許文献2】特許第6812335号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】独立法人 物質・材料研究機構 http://www.nims.go.jp/corrosion/ACM/cr.htm 「大気腐食はどこまでわかってきたかACMセンサを利用して」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、アノードとカソードとの間に流れる腐食電流の出力を得るセンサを用いて構造物の腐食環境性を得るものが種々提案されており、例えば、温湿度センサからの湿度データ及び腐食によるガルバニック電流を測定するセンサからの電流データに基づいて腐食速度を評価するものでは、湿度から海塩付着量を求め、海塩付着と金属の腐食速度のデータベースを利用するためのシステムが複雑であるとともに、種々の金属の腐食速度を簡単に得ることが困難であった。
【0009】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、簡単な構成で、種々の金属の腐食速度を得ることが可能な環境モニタリング方法及び環境モニタリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決し、かつ目的を達成するために、この発明は、以下のように構成した。
【0011】
請求項1に記載の発明は、
アノードとカソード間の出力を得るセンサを用い、前記センサの出力を測定することで、金属で構成される構造物の腐食環境性を得る環境モニタリング方法であり、
前記センサの出力データと湿度データを用いて、
金属の腐食速度を得ることを特徴とする環境モニタリング方法である。
【0012】
請求項2に記載の発明は、
前記センサは、ACMセンサであり、
前記ACMセンサのアノードを亜鉛、もしくは亜鉛合金で構成し、
前記ACMセンサの出力データを湿度データで補正し、
亜鉛の腐食速度を得ることを特徴とする請求項1に記載の環境モニタリング方法である。
【0013】
請求項3に記載の発明は、
前記ACMセンサは、カソードを銀、もしくはカーボンで構成したことを特徴とする請求項2に記載の環境モニタリング方法である。
【0014】
請求項4に記載の発明は、
アノードとカソード間の出力を得るセンサを用い、前記センサの出力を測定することで、金属で構成される構造物の腐食環境性を得る環境モニタリング装置であり、
湿度データを得る温湿度センサと、
前記センサの出力データと、前記温湿度センサからの湿度データとを得るデータ部と、
出力データと湿度データを用いて金属の腐食速度を得る処理部と、
を含むことを特徴とする環境モニタリング装置である。
【0015】
請求項5に記載の発明は、
前記センサは、ACMセンサであり、
前記ACMセンサのアノードを亜鉛、もしくは亜鉛合金で構成し、
前記データ部は、前記センサの出力データと、前記温湿度センサからの湿度データを得て、
前記処理部は、出力データと湿度データを用いて亜鉛の腐食速度を得ることを特徴とする請求項4に記載の環境モニタリング装置である。
【0016】
請求項6に記載の発明は、
前記ACMセンサは、カソードを銀、もしくはカーボンで構成したことを特徴とする請求項5に記載の環境モニタリング装置である。
【発明の効果】
【0017】
前記構成により、この発明は、以下のような効果を有する。
【0018】
請求項1乃至請求項6に記載の発明では、アノードとカソード間の出力を得るセンサを用い、センサの出力を測定することで、金属で構成される構造物の腐食環境性を得るものであり、センサの出力データと湿度データを用いて、金属の腐食速度を得ることで、簡単な構成で、種々の金属の腐食速度を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】環境モニタリング装置の平面図である。
図2】環境モニタリング装置の断面図である。
図3】対象となる金属を用いたACMセンサの暴露状態を示した図である。
図4】ACMセンサの出力データとその時の湿度データを読み取る図である。
図5】ACMセンサの出力と腐食速度の相関性を示す図である。
図6】ACMセンサとRCMセンサの出力の関係を示す図である。
図7】異なる付着塩量におけるRCMセンサの腐食量とACMセンサの電気量の比率関係を示す図である。
図8】ACMセンサの出力と相対湿度の関係を示す図であり、
図9】ACMセンサの原理を示す図である。
図10】日平均のクーロン量と腐食速度の関係を示す図である。
図11】ACMセンサの出力積算から電気クーロン量の日平均で数式化して腐食速度を求める図である。
図12】鉄(Fe)の腐食速度と亜鉛(Zn)の腐食速度の関係を示す図である。
図13】アノードを鉄(Fe)で構成したACMセンサと、アノードを亜鉛(Zn)で構成したACMセンサとの相関関係を示す図である。
図14】アノードを鉄(Fe)で構成したACMセンサのクーロン/日から亜鉛(Zn)の腐食速度が求められる式である。
図15】本発明の確からしさを検証する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の環境モニタリング方法及び環境モニタリング装置の実施の形態について説明する。この発明の実施の形態は、発明の最も好ましい形態を示すものであり、この発明はこれに限定されない。
【0021】
(環境モニタリング装置)
環境モニタリング装置を、図1及び図2に基づいて説明する。図1は環境モニタリング装置の平面図、図2は環境モニタリング装置の断面図である。
【0022】
この実施の形態の環境モニタリング装置10は、大気環境中に曝される構造物の大気腐食をモニタリングする装置であり、長期間にわたって自然環境に曝される構造物、例えば橋梁、標識、街灯、水門、送電鉄塔、船舶・自動車及び樋門などに設置される。
【0023】
この環境モニタリング装置10は、アノードとカソード間の出力を得るACMセンサ1と、ACMセンサ1にリード線11a,11bを介して接続してアノード2とカソード3との間の電流の出力を測定する測定計12と、湿度データを得る温湿度センサ13と、データロガー14を備える。アノードとカソード間の出力を得るセンサとしては、いわゆるガルバニック対を利用したACMセンサ(Atmospheric Corrosion Monitor)、異種金属を離した状態で電流を計測できるセンサ(特開2018―80984参照)等があるが、この実施の形態では、ACMセンサ10を用いている。アノードとカソード間の出力を得るセンサとしては、腐食電流の出力するACMセンサを用いているが、腐食ではないアノード反応として、水素放出を行う水素吸蔵合金を利用したセンサを用いることも可能である。
【0024】
このACMセンサ1は、アノード2と、カソード3とを有し、アノード2とカソード3との間の電流の出力を得るセンサであり、アノード2とカソード3との間に絶縁層4を介在させた構成である。
【0025】
アノード2は、例えば、鉄板、亜鉛めっき鋼板、銅板、亜鉛板、アルミ板、マグネシウム板、錫板、ニッケル板、クロム板などが用いられ、メッキ、合金であってもよい。カソード3は、銀、カーボン、銅、金、白金などが用いられ、樹脂ペーストによる成形、もしくは、スパッタ、蒸着により積層したものである。例えば、絶縁層4の表面にカソード3を、導電性ペーストをスクリーン印刷して熱硬化させて成形する。絶縁層4は、アノード2とカソード3とを絶縁する。ACMセンサ1は、カソード3に銀(Ag)を用いることが好ましく、銀(Ag)は、大気腐食環境で腐食しない貴な金属の中では、安価であり製造しやすい。
【0026】
このACMセンサ1は、ガルバニックカップルの間に、雨がかかるなどの大気環境によって水分が付着し、これによりアノード2とカソード3との間に電流が流れ、この電流の出力を測定計12により測定する。
【0027】
データロガー14は、データ部14aと処理部14bとを備える。データ部14aは、ACMセンサ1の出力データと、温湿度センサ13からの湿度データとを得て、処理部14bは、出力データと湿度データを用いて金属の腐食速度を得る。データ部14aと処理部14bは、データ記録部、データ演算部を備え、データ部14aにおいて、ACMセンサ1の出力データを湿度データで補正し、処理部14bにおいて、湿度データの補正に基づき金属の腐食速度を得る。このように、水分によりアノード2とカソード3との間に流れる電流を出力するACMセンサ1を用い、ACMセンサ1の出力データを湿度データで補正することで、金属で構成される構造物の腐食速度を求めることができ、構造物の腐食環境性を得る。実施の形態として、ACMセンサ1を用い、ACMセンサ1のアノードを亜鉛(Zn)で構成し、補正部14aは、ACMセンサ1の出力データを、温湿度センサ13からの湿度データで補正し、処理部14bは、湿度データの補正に基づき亜鉛(Zn)の腐食速度を得ることができる。また、鉄(Fe)の腐食速度の推定式に基づき、他の金属の腐食速度を得る処理部14bと、を含む構成である。
【0028】
(金属の腐食速度を得る原理)
図3は対象となる金属を用いたACMセンサの暴露状態を示す図である。ACMセンサは、アノード(鉄)とカソード(銀)の間に絶縁層が介在する構成であり、雨がかかるなどの大気環境によって水分が付着すると、カソード電流及びアノード電流が流れ、このACMセンサの出力を電流計で測定する。
【0029】
図4はACMセンサの出力データとその時の湿度データを読み取る図である。図4において、横軸は時間を示し、左側縦軸は電流値を示し、右側縦軸は相対湿度・温度を示す。時間の経過に応じて、ACMセンサの電流値、相対湿度、温度が変化し、ACMセンサの出力とその時の湿度を読み取る。雨がかかるなどの大気環境によって、ACMセンサに水分が付着すると、カソード電流及びアノード電流が流れ、このACMセンサの出力を電流計で測定する。
【0030】
図5はACMセンサの出力と腐食速度の相関性を示す図である。図5において、横軸はACMセンサの出力を示し、縦軸は腐食速度を示す。ACMセンサの出力と腐食速度の関係は、湿度によってACMセンサの出力の傾きが変化する。例えば、図4において、ACMセンサの出力が、電流値O.01μAであるとき、相対湿度が90%RHであり、このことから図5において、腐食速度を求めると、ACMセンサの出力が電流値0.01μAと、90%RHの傾きから、△印で示す腐食速度を得ることができ、ACMセンサの出力と腐食速度の相関性を示している。
【0031】
ACMセンサの出力と腐食速度の関係は、湿度によってACMセンサの出力の傾きが変化し、この変化が直線関係であることを、図6及び図7に基づいて説明する。
【0032】
図6はRCMセンサとACMセンサの出力の関係を示す図である。図6において、横軸は時間を示し、左側縦軸はACMセンサの出力を示し、右側縦軸はRCMセンサの出力を示す。RCMセンサは、電気抵抗式腐食センサであり、金属の電気抵抗を利用した構成である。金属の電気抵抗は、金属の種類と長さと断面積により決まり、そのため電気抵抗値を計測すれば断面積を求めることができ、腐食による減肉量が推定できる。
【0033】
センサの出力と腐食速度の相関性は、RCMセンサとACMセンサについて事前に測定しておき、ACMセンサの出力を、相対湿度90%RHと60%RHで示し、RCMセンサの出力を、相対湿度90%RHと60%RHで示す。
【0034】
図7はなる付着塩量におけるRCMセンサの腐食量とACMセンサの電気量の比率関係を示す図である。図6において、横軸は実験環境の相対湿度を示し、縦軸はRCMセンサの腐食量とACMセンサの出力の比率を示し、実際に、塩付着量と湿度を振って、RCMセンサの腐食量とACMセンサの出力の比率を確認すると、●印、〇印、□印で示すように、線形関係にある。
【0035】
このように、図5に示すACMセンサの出力と腐食速度の関係は、湿度によってACMセンサの出力の傾きが変化し、この変化が線形関係であることが、実験的に確認できる。
【0036】
(金属として亜鉛の腐食速度を得る原理)
図8はACMセンサの出力と相対湿度の関係を示す図であり、図9はACMセンサの原理を示す図である。図8において、Fe()の数字は付着塩量である。ACMセンサは、アノードは、鉄(Fe)で構成され、カソードは、銀(Ag)で構成されており、塩を多く付着させ、湿度を上げるほど、ACMセンサの出力が大きくなる傾向がある。塩は湿度に比例して吸湿量が増えるため、吸湿量×付着塩量=水分量(水膜厚さ)となり、水膜が厚いほどガルバニック電流は大きくなる。
【0037】
図8において、湿度と、鉄(Fe)のACMセンサの出力の2つを測定することで、付着塩量を読み解くことができる。例えば、☆印(湿度90%、センサの出力0.01μA)の点では、付着塩量:0.001と0.01の間となるが、線形補間することで読み取ることが可能である。
【0038】
鉄(Fe)の腐食速度を得る方式としては、ACMセンサの出力から付着塩量を得て、腐食速度を求めるもの、またACMセンサの出力積算から電気クーロン量の日平均を得て、腐食速度を求めるもの等がある。
【0039】
ACMセンサの出力から付着塩量を得て、腐食速度を求める方式は、図10の海塩付着量と金属の腐食速度のデータベースにおいて、付着塩量と鉄(Fe)の腐食速度には多くの実測値が存在し、その経験式から腐食速度の算出可能である。
【0040】
ACMセンサの出力積算から電気クーロン量の日平均を得て、腐食速度を求める方式は、実際、付着塩量は急激に増減するものではないから、図11のACMセンサの出力積算から電気クーロン量の日平均で数式化して腐食速度を求める。
【0041】
図11において、横軸はlogQ(C/day)を示し、縦軸はlogCR(Fe)を示し、logQ(C/day):Fe-ACMセンサの出力積算(クーロン )/1日あたり
logCR(Fe):Feの年間腐食速度
であり、Fe-ACMセンサの出力積算(クーロン )/1日あたりから、腐食速度:
logCR(Fe)[mm/y]
=0.379logQ[logQ(C/day)]-0.723
求める(「工業化住宅内部各部位の環境腐食性」論文 東京商船大学 東京大学大学院工学系研究科 参照)。
【0042】
(Feの腐食速度からZnの腐食速度を求める)
図12は鉄(Fe)の腐食速度と亜鉛(Zn)の腐食速度の関係を示す図である。図12において、横軸は亜鉛(Zn)の腐食速度であり、縦軸は鉄(Fe)の腐食速度である。+印は、海洋環境(海水の飛沫をあびる)ケースであり、この+印を除くと、鉄(Fe)の腐食速度と亜鉛(Zn)の腐食速度は、比例関係にあると考えることができる。
【0043】
logCR(Zn):Znの年間腐食速度
logCR(Fe)[mm/y]
=1.438+1.062logCR(Zn)[mm/y]
鉄(Fe)の腐食速度は、Qで求められるので、式を合わせると、亜鉛(Zn)の腐食速度がFe-ACMで求めたQから算出できる。
Feの腐食速度(Qより)
logCR(Fe)[mm/y]
=0.379logQ[logQ(C/day)]-0.723
Znの腐食速度(Qより)
logCR(Zn)[mm/y]
=0.357logQ[logQ(C/day)]-2.035
実用上、安全率を持たせることで、精度が多少悪くても、凡その予測式として有用であると考えられる(「工業化住宅内部各部位の環境腐食性」論文 東京商船大学 東京大学大学院工学系研究科 参照)。
【0044】
(アノードを鉄(Fe)で構成したACMセンサを使用する理由)
アノードを鉄(Fe)で構成したACMセンサを用いれば、鉄(Fe)だけでなく、亜鉛(Zn)の腐食速度も算出できるが、アノードを鉄(Fe)で構成したACMセンサは、鉄(Fe)そのものが腐食することで寿命が短いため腐食環境が厳しいと、交換頻度が高くなるという課題がある。
【0045】
そこで、耐食性が良い亜鉛(Zn)を、ACMセンサのアノードとして構成することで、ACMセンサの高寿命化を図る。アノードを鉄(Fe)で構成したACMセンサと、アノードを亜鉛(Zn)で構成したACMセンサとの相関関係を求め、腐食速度を算出可能とする。
【0046】
土木学会第66回年次学術講演会(平成23年度)において、「Zn/Ag対のACM型腐食センサを用いた鋼部材の大気腐食環境評価に関する研究」が発表されている。
【0047】
アノードを鉄(Fe)で構成したACMセンサと、アノードを亜鉛(Zn)で構成したACMセンサとの相関関係は、図13(a)のセンサ出力の比較図から理解することができる。
【0048】
図13(a)は、実際の環境で、アノードを鉄(Fe)で構成したACMセンサと、アノードを亜鉛(Zn)で構成したACMセンサを、実際に暴露試験したデータである。
【0049】
縦軸は、Fe、Zn-ACMセンサの出力比IFe/Izn横軸は、Zn-ACMセンサの出力である。
【0050】
アノードを亜鉛(Zn)で構成したACMセンサの出力が1μA以上になると、比率が0.391程度で一定であり、1μA未満は比率そのものが変化する。その関係を数式化すると、図13(b)のようになる。
【0051】
この実施形態の環境モニタリングは、水分によりアノードとカソード間の出力を得るACMセンサを用い、ACMセンサの出力を測定することで、金属で構成される構造物の腐食環境性を得る環境モニタリングである。
【0052】
即ち、図14に示すように、アノードを鉄(Fe)で構成したACMセンサのクーロン/日から亜鉛(Zn)の腐食速度が求められる。
【0053】
次に、アノードを鉄(Fe)で構成したACMセンサより高寿命なアノードを亜鉛(Zn)で構成したACMセンサを用いるため、アノードを鉄(Fe)で構成したACMセンサと、アノードを亜鉛(Zn)で構成したACMセンサの関係性を数式化する。
【0054】
そして、アノードを亜鉛(Zn)で構成したACMセンサの出力から亜鉛(Zn)の腐食速度を求めるには、
1)IZn⇒IFeに変換
2)変換したIFeを積算してクーロンの日平均Qを求め
亜鉛(Zn)の腐食速度を式より算出する。
【0055】
図15(a)において、前記の組み合わせの確からしさを検証する。
【0056】
腐食条件:1g/mの海塩を付着させ、湿度90,60に保持
ACMセンサは、アノードを亜鉛(Zn)で構成したACMセンサであり、ACMセンサの出力は、左縦軸である。
【0057】
RCMセンサは、図15(b)において、亜鉛(Zn)の腐食減肉を抵抗変化で計測するもので、腐食深さ(μm)を右縦軸にする。
【0058】
アノードを亜鉛(Zn)で構成したACMセンサの出力から、前記の換算と式で亜鉛(Zn)の腐食速度を求める。
【0059】
アノードを亜鉛(Zn)で構成したACMセンサ[鉄(Fe)に換算して亜鉛(Zn)の腐食速度]の結果と、亜鉛(Zn)-RCMの[亜鉛(Zn)の腐食量]の関係を示す。
【0060】
図15(c)において、
横軸:湿度
縦軸:比率=亜鉛(Zn)の腐食量(RCM実測)÷亜鉛(Zn)の腐食量(ACM換算)
データ:
●印、〇印、□印:付着塩量と一定湿度に保持した条件の組み合わせである。
【0061】
ここまで述べてきた、アノードを亜鉛(Zn)で構成したACMセンサから亜鉛(Zn)の腐食速度を求める方法が、正しければ比率は一定(理想は1)となるはずである。
【0062】
しかし、湿度が高くなるほど、実際のZn腐食量(RCM)よりもACMで換算した腐食量の方が小さい値となっている。
【0063】
単にずれている訳ではなく、その比率が湿度に依存している。
つまり、実環境での相関関係から下記の式の係数(0.391)が低いことを示唆している。
【0064】
式そのものは、湿度や付着塩量が絶えず変化している実環境で平均化して求めたものなので、精度向上する余地は元々あり、その一つの可能性として、湿度で補正する方法が成立する。
【0065】
この湿度による補正方法は、既に論文発表されたアノードを亜鉛(Zn)で構成したACMセンサと、アノードを鉄(Fe)で構成したACMセンサの相関関係の式とその係数を考慮しつつ、図5で示すように、湿度で倍数がけする方法が良い。
【0066】
ACMセンサの出力データを湿度データで補正し、金属の腐食速度を得るが、この金属は、亜鉛(Zn)であり、湿度によって、比率が変化する。亜鉛(Zn)は、塩基性塩化亜鉛と呼ばれる腐食生成物ができることで、保護性が高くなり腐食しにくくなる特性がある。塩濃度が高い方が、この保護被膜は生成しやすいので、湿度が高い状態になると、吸湿量が増え、塩濃度が下がるので、保護性の被膜ができにくいから腐食進行しやすい。実際に付着塩量を変えても、この比率は湿度に依存しているので、亜鉛(Zn)の腐食は、塩濃度に強く依存すると考えられる。亜鉛(Zn)の他に、自然界で塩基性塩化金属を生成するのは銅が上げられ、亜鉛(Zn)以外では銅が対象となる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
この発明は、大気環境中に曝される構造物の大気腐食をモニタリングする環境モニタリング方法及び環境モニタリング装置に適用でき、簡単な構成で、種々の金属の腐食速度を得ることが可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 ACMセンサ
2 アノード
3 カソード
4 絶縁層
10 環境モニタリング装置
12 測定計
13 温湿度センサ
14 データロガー
14a 補正部
14b 処理部
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