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特開2023-92172ギヤ構造及び減速機並びにモータユニット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092172
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】ギヤ構造及び減速機並びにモータユニット
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/16 20060101AFI20230626BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20230626BHJP
   F16H 57/023 20120101ALI20230626BHJP
【FI】
F16H1/16 Z
F16H57/04 Q
F16H57/023
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207203
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000113791
【氏名又は名称】マブチモーター株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】武田 真
(72)【発明者】
【氏名】渡部 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】野口 雅生
(72)【発明者】
【氏名】安藤 将哉
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼▲柳▼ 進介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝佳
(72)【発明者】
【氏名】永田 俊顕
(72)【発明者】
【氏名】岡田 弘樹
【テーマコード(参考)】
3J009
3J063
【Fターム(参考)】
3J009DA15
3J009EA19
3J009EB21
3J009EB24
3J009EC05
3J009FA04
3J063AA02
3J063AB03
3J063AC01
3J063BA04
3J063BA11
3J063CB17
3J063CD42
3J063XD02
3J063XF14
(57)【要約】
【課題】ヘリカルギヤの浮きや傾ぎ防止し、安定的に回転支持する。
【解決手段】駆動軸5と一体回転するウォーム4と噛み合い、駆動軸4の中心線Sと直交する軸心Cまわりに回転するヘリカルギヤ10と、ヘリカルギヤ10の収容部31を有するギヤボックス3Aとを備えたギヤ構造9において、ヘリカルギヤ10は、軸心Cを中心とした環状のハブ11と、ハブ11の一端面11aから軸心C方向に略円柱状に凹設された第一凹部11bとを有する。収容部31は、底面31aから軸心C方向に円筒状に突設されるとともにヘリカルギヤ10を回転自在に支持するボス32を有する。ボス32は、駆動軸5の中心線Sを通り軸心C方向に直交する仮想面Fの位置または仮想面Fよりも収容部31の開口側に突設され、収容されたヘリカルギヤ10が回転する際に、ボス32の外周面32aが第一凹部11bの内周面11cと摺動してヘリカルギヤ10を支持する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸と一体回転するウォームと噛み合う外歯を有し、前記駆動軸の中心線と直交する軸心まわりに回転するヘリカルギヤと、
前記ヘリカルギヤを収容する有底筒状の収容部を有するギヤボックスと、を備え、
前記ヘリカルギヤは、前記軸心を中心とした環状のハブと、前記ハブの一端面から前記軸心の軸方向に略円柱状に凹設された第一凹部と、を有し、
前記収容部は、前記ヘリカルギヤの収容状態で前記一端面と対向する底面と、前記底面から前記軸方向に円筒状に突設されるとともに前記ヘリカルギヤを回転自在に支持するボスと、を有し、
前記ボスは、前記駆動軸の前記中心線を通り前記軸方向に直交する仮想面の位置または前記仮想面よりも前記収容部の開口側に突設され、収容された前記ヘリカルギヤが回転する際に、前記ボスの外周面が前記第一凹部の内周面と摺動して前記ヘリカルギヤを支持する
ことを特徴とする、ギヤ構造。
【請求項2】
前記収容部は、前記ボスの径方向外側の根元部分における前記底面に凹設された円環状の溝部を有し、
前記ハブは、前記第一凹部を形成する円筒壁の先端部が前記溝部に配置されている
ことを特徴とする、請求項1に記載のギヤ構造。
【請求項3】
前記溝部の径方向寸法である溝幅は、前記溝部の底に近づくほど小さくなる
ことを特徴とする、請求項2記載のギヤ構造。
【請求項4】
前記ヘリカルギヤは、前記ハブの径方向外側且つ前記外歯の径方向内側において、前記ヘリカルギヤの一端面に凹設され前記軸方向からみて円環状の第二凹部及び前記ヘリカルギヤの他端面に凹設され前記軸方向からみて円環状の第三凹部を有する
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のギヤ構造。
【請求項5】
前記ボスの前記外周面には、前記軸方向に沿って延びる複数の縦溝が周方向に間隔をあけて設けられている
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のギヤ構造。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のギヤ構造と、
前記ギヤボックスのウォーム収容部に収容され、動力源の回転が伝達される前記ウォームと、
前記ヘリカルギヤの前記ハブの他端面側に固定される出力ギヤと、を備えた
ことを特徴とする、減速機。
【請求項7】
前記出力ギヤは、前記軸心上に配置される軸部の外周面に出力用の歯が形成された大径部と、前記軸部よりも径の小さな円柱状の小径部とを一体で有する段付き形状であり、
前記ヘリカルギヤは、前記ハブの前記他端面に凹設されるとともに前記大径部が圧入固定される第一嵌合部と、前記第一嵌合部の底面からさらに凹設されるとともに前記小径部が圧入固定される第二嵌合部と、を有する
ことを特徴とする、請求項6に記載の減速機。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の減速機と、
前記減速機の前記ウォームと一体回転する前記駆動軸に連結された回転軸を有し、前記ギヤボックスに取り付けられるモータと、を備えた
ことを特徴とする、モータユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ギヤボックスに収容されるヘリカルギヤを備えたギヤ構造、及び、このギヤ構造を含む減速機、並びに、この減速機を備えたモータユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウォーム及びヘリカルギヤ(ウォームホイール)を組み合わせたウォームギヤを用いて、駆動源からの動力を減速したのち出力する減速機や、この減速機を備えたモータユニットが知られている。当該減速機は、小型で大きな減速比が得られるうえ、噛み合いが静かで円滑であるというメリットがあることから、様々な用途に採用されている。例えば特許文献1には、当該減速機を車両用パワーシート装置に適用した構成が開示されている。特許文献1のように、ウォームギヤを備えた減速機では、ハウジング(ギヤボックスとも呼ばれる)に、ウォームを収容する空間(ウォーム収容部)とヘリカルギヤを収容する空間(ヘリカルギヤ収容部)とが形成される。当該減速機は、各収容部にウォーム及びヘリカルギヤが互いに噛合する状態で収容されることで構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5293023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ヘリカルギヤが有底筒状の収容部に収容される構成の場合、ヘリカルギヤは、ギヤボックスの底面に対して立設された壁面に摺動しながら回転支持される。例えば、特許文献1では、図8に示されているように、ハウジング本体(510)の環状凸部(70)がヘリカルギヤ(40)の環状凹部(60)と嵌合し、環状凸部(70)の外周補助軸受外周面(76)と環状凹部(60)の外側内周面(66)とが摺接している。すなわち、特許文献1の構成の場合、符号66及び76で示されている面(以下「摺動面」ともいう)が互いに摺動する構成となっている。
【0005】
この摺動面は、回転状態のヘリカルギヤを安定的に支持する機能を持つことから、その面積は大きい方が好ましい。この点、特許文献1の構成の場合、摺動面の面積が小さいことから改善の余地がある。また、駆動源の動力は、ウォームからヘリカルギヤに伝達されるが、ヘリカルギヤに対して、ウォームの中心を通り且つヘリカルギヤの軸心に直交する方向に印加される。このため、動力の印加される方向の延長線上よりも底面側に摺動面が位置する場合、印加された動力が、ヘリカルギヤにおけるウォーム側の部分を持ち上げる方向に作用してしまい、ヘリカルギヤの浮き上がりが生じうる。ヘリカルギヤの浮き上がりが発生すると、ヘリカルギヤが傾ぎ、がたつきの要因になることに加え、ヘリカルギヤが摺動面以外の箇所でギヤボックスと接触し、ロスが発生する虞もある。
【0006】
本件のギヤ構造は、このような課題に鑑み案出されたもので、ヘリカルギヤの浮きや傾ぎを防止し、安定した回転支持を可能とすることを目的の一つとする。また、本件の減速機及びこの減速機を備えたモータユニットは、このギヤ構造を用いることで、ヘリカルギヤを安定して回転支持することで品質を高めることを目的とする。なお、これらの目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)ここで開示するギヤ構造は、駆動軸と一体回転するウォームと噛み合う外歯を有し、前記駆動軸の中心線と直交する軸心まわりに回転するヘリカルギヤと、前記ヘリカルギヤを収容する有底筒状の収容部を有するギヤボックスと、を備える。前記ヘリカルギヤは、前記軸心を中心とした環状のハブと、前記ハブの一端面から前記軸心の軸方向に略円柱状に凹設された第一凹部と、を有し、前記収容部は、前記ヘリカルギヤの収容状態で前記一端面と対向する底面と、前記底面から前記軸方向に円筒状に突設されるとともに前記ヘリカルギヤを回転自在に支持するボスと、を有する。前記ボスは、前記駆動軸の前記中心線を通り前記軸方向に直交する仮想面の位置または前記仮想面よりも前記収容部の開口側に突設され、収容された前記ヘリカルギヤが回転する際に、前記ボスの外周面が前記第一凹部の内周面と摺動して前記ヘリカルギヤを支持する。
【0008】
(2)前記収容部は、前記ボスの径方向外側の根元部分における前記底面に凹設された円環状の溝部を有し、前記ハブは、前記第一凹部を形成する円筒壁の先端部が前記溝部に配置されていることが好ましい。
(3)前記溝部の径方向寸法である溝幅は、前記溝部の底に近づくほど小さくなることが好ましい。
【0009】
(4)前記ヘリカルギヤは、前記ハブの径方向外側且つ前記外歯の径方向内側において、前記ヘリカルギヤの一端面に凹設され前記軸方向からみて円環状の第二凹部及び前記ヘリカルギヤの他端面に凹設され前記軸方向からみて円環状の第三凹部を有することが好ましい。
(5)前記ボスの前記外周面には、前記軸方向に沿って延びる複数の縦溝が周方向に間隔をあけて設けられていることが好ましい。
【0010】
(6)ここで開示する減速機は、上記の(1)~(5)のいずれか一つに記載のギヤ構造と、前記ギヤボックスのウォーム収容部に収容され、動力源の回転が伝達される前記ウォームと、前記ヘリカルギヤの前記ハブの他端面側に固定される出力ギヤと、を備えている。
(7)前記出力ギヤは、前記軸心上に配置される軸部の外周面に出力用の歯が形成された大径部と、前記軸部よりも径の小さな円柱状の小径部とを一体で有する段付き形状であり、前記ヘリカルギヤは、前記ハブの前記他端面に凹設されるとともに前記大径部が圧入固定される第一嵌合部と、前記第一嵌合部の底面からさらに凹設されるとともに前記小径部が圧入固定される第二嵌合部と、を有することが好ましい。
【0011】
(8)ここで開示するモータユニットは、上記の(6)又は(7)に記載の減速機と、前記減速機の前記ウォームと一体回転する前記駆動軸に連結された回転軸を有し、前記ギヤボックスに取り付けられるモータと、を備えている。
【発明の効果】
【0012】
開示のギヤ構造によれば、ヘリカルギヤの浮きや傾ぎを防止でき、ヘリカルギヤを安定して回転支持することができる。
また、開示の減速機及びモータユニットによれば、ヘリカルギヤの回転状態を安定的に支持できるため、品質を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係るモータユニットの平面図である。
図2図1のモータユニットが備える減速機の一部を分解して示す斜視図である。
図3図2の減速機に設けられたヘリカルギヤの軸方向断面図である。
図4図3のヘリカルギヤを一端側から見た斜視図である。
図5図2のギヤボックスを、図1のA-A線で切断した断面図である。
図6】実施形態のギヤ構造の作用を説明する断面図である。
【0014】
図面を参照して、実施形態としてのギヤ構造及び減速機並びにモータユニットについて説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0015】
ギヤ構造は、外周面に歯を持つヘリカルギヤと、ヘリカルギヤを収容するギヤボックスとを備え、ヘリカルギヤを回転支持する摺動構造に特徴がある。本実施形態のギヤ構造は、モータの回転速度を減速する減速機に内蔵される。さらにこの減速機にはモータが組み合わされ、モータユニットを構成する。
【0016】
[1.構成]
図1は、本実施形態のモータユニット1の平面図(減速機3の出力ギヤ6の軸方向から見た図)である。モータユニット1は、例えば、車両のスライドドアのクローザー装置やパワーウィンドウ装置の駆動源として使用される。モータユニット1は、ハウジング2Aに図示しないロータ及びステータが内蔵されたモータ2(動力源)と、モータ2の回転速度を減速する減速機3とを有する。本実施形態のモータ2は、例えば、ブラシ付きの直流モータであり、ハウジング2Aが減速機3のギヤボックス3Aに取り付けられることで減速機3とユニット化される。
【0017】
図2は、モータユニット1のうち減速機3の一部を分解して示す斜視図である。減速機3は、モータ2の回転が伝達されるウォーム4(図6参照)及びこれと噛み合うヘリカルギヤ10(ウォームホイール)と、ウォーム4と一体回転する駆動軸5(図6参照)と、出力を外部へ伝達するための出力ギヤ6と、図示しないシール材とを備える。これらの要素は、ギヤボックス3Aに内蔵される。減速機3は、ヘリカルギヤ10のハブ11(後述)とギヤボックス3Aのボス32(後述)とが摺動する部分の構造に特徴を持つギヤ構造9を備える。
【0018】
図2に示すように、ギヤボックス3Aは、例えば樹脂製であり、ウォーム4を収容するウォーム収容部30と、ヘリカルギヤ10を収容する有底筒状のヘリカルギヤ収容部31(収容部)とを有する。これら二つの収容部30,31は、ウォーム4及びヘリカルギヤ10が噛み合う箇所で連通している。ウォーム収容部30は、図2中に一点鎖線で示す駆動軸5の中心線Sに沿って延在しており、モータ2が取り付けられる面に開口している。当該開口は、モータ2が取り付けられることで閉鎖される。
【0019】
ヘリカルギヤ収容部31は、ヘリカルギヤ10の回転中心C(以下「軸心C」という)を中心とした略円形状の底面31aと、底面31aの周縁部から立設された略円筒状の壁部31eとで囲まれた円柱状の収容空間を持つ。ヘリカルギヤ収容部31は、略円形状の開口31dにカバー3B(図1参照)が取り付けられることで閉鎖される。なお、カバー3Bには出力ギヤ6を外部に露出させるための円形孔部が設けられる。図2に示すように、ヘリカルギヤ収容部31は、底面31aから軸心Cの軸方向(以下「軸心C方向」という)に円筒状に突設されたボス32を有する。ボス32は、ヘリカルギヤ10を回転自在に支持する部位である。
【0020】
ウォーム4は、その中心に駆動軸5を有し、ウォーム収容部30に内蔵される。駆動軸5にはモータ2の回転軸2B(図1参照)が同軸で連結されており、または駆動軸5と回転軸2Bとが同一部品で構成されており、駆動軸5と回転軸2Bとは一体回転する。つまり、ウォーム4は、モータ2の動力で回転し、ウォーム4に噛み合うヘリカルギヤ10を回転させる。なお、駆動軸5の中心線Sとモータ2の回転軸2Bの中心線とは一直線上にあり、且つ、駆動軸5の中心線Sはウォーム4の回転中心と一致する。
【0021】
ヘリカルギヤ10は、例えば射出成形により形成された樹脂歯車であり、ヘリカルギヤ収容部31に内蔵される。ヘリカルギヤ10は、ウォーム4と噛み合う外歯13を有するはすば歯車(外歯車)であり、駆動軸5の中心線Sと直交する(ねじれの位置で垂直な)軸心Cまわりに回転する。図2図4に示すように、ヘリカルギヤ10は、軸心Cを中心とした環状のハブ11と、軸心Cを中心とした略円環状のリム12と、リム12の外周面に形成された外歯13と、ハブ11とリム12とを繋ぐ中間部14とを有する。さらに、ヘリカルギヤ10は、図3及び図4に示すように、ハブ11の一端面11aから軸心C方向に略円柱状に凹設された第一凹部11bを有する。なお、ハブ11の一端面11aは、ヘリカルギヤ10がヘリカルギヤ収容部31に収容された状態で、ヘリカルギヤ収容部31の底面31aと対向する面である。
【0022】
本実施形態のギヤ構造9は、上記のヘリカルギヤ10とギヤボックス3Aとを備えており、図5及び図6に示すように、ヘリカルギヤ収容部31のボス32が、駆動軸5の中心線Sを通り軸心C方向に直交する仮想面F(図中の二点鎖線)の位置または当該仮想面Fよりもヘリカルギヤ収容部31の開口31d側に突設された構成となっている。言い換えると、本ギヤ構造9では、ボス32の円環状の先端面が、仮想面Fと面一になる位置、又は、この仮想面Fよりも開口31d側に飛び出た位置に設けられる。ボス32は、収容されたヘリカルギヤ10が回転する際に、ボス32の外周面32aがハブ11の第一凹部11bの内周面11cと摺動してヘリカルギヤ10を支持する。つまり、ボス32の外周面32aと第一凹部11bの内周面11cとは、ヘリカルギヤ10の回転時に摺動する摺動面であり、ヘリカルギヤ10は、この摺動面(外周面32a及び内周面11c)において、その回転が支持される。
【0023】
図2図5及び図6に示すように、本実施形態のヘリカルギヤ収容部31は、ボス32の径方向外側の根元部分における底面31aに凹設された円環状の溝部31b(以下「円環溝部31b」という)を有する。円環溝部31bは、軸心Cの方向から見て円環形状であり、深さ方向(軸心Cの方向)に切断した断面形状は、底に近づくほど溝幅が小さくなる形状となっている。ここでいう溝幅は、円環溝部31bの径方向寸法である。つまり、円環溝部31bの断面形状には、台形状や半円形状や半楕円形状などが含まれることが好ましい。図5及び図6に示す円環溝部31bの断面形状は、矩形と台形とを組み合わせた六角形状となっている。円環溝部31bにより、円環溝部31bがなくボス32が底面31aから垂直に立ち上がっている場合や、円環溝部31bの底面からボス32が垂直に立ち上がっている場合と比較して、ボス32の根元部分の応力集中が抑制される。
【0024】
図3及び図4に示すように、本実施形態のヘリカルギヤ10は、第一凹部11bを形成する円筒形状の壁部11e(以下「円筒壁11e」という)を有する。図6に示すように、この円筒壁11eの先端部は、上記の円環溝部31bに配置される。ただし、円筒壁11eの先端部は円環溝部31bの底には非接触とされる。図3及び図4に示すように、円筒壁11eの先端部は、ハブ11の一端面11aのうち第一凹部11bが形成されていない部分である。円筒壁11eの先端部には面取り加工が施されていることが好ましい。このように、底面31aに凹設された円環溝部31bにハブ11の円筒壁11eが配置されることで、円筒壁11eの姿勢の安定性と摺動面の面積確保とに寄与する。
【0025】
本実施形態のヘリカルギヤ10は、ハブ11の径方向外側且つ外歯13の径方向内側(すなわち、中間部14)において、ヘリカルギヤ10の一端面に凹設された第二凹部15と、同じく中間部14において、ヘリカルギヤ10の他端面に凹設された第三凹部16とを有する。第二凹部15及び第三凹部16はいずれも、軸心C方向からみて円環状である。これら凹部15,16により、ヘリカルギヤ10の軽量化が図られる。なお、二つの凹部15,16は、軸心Cに直交する平面に対して互いに面対称形状であることが好ましい。本実施形態のヘリカルギヤ10では、各凹部15,16内に複数のリブが周方向に間隔をあけて設けられており、剛性が高められている。
【0026】
また、本実施形態のギヤ構造9では、図2及び図5に示すように、ボス32の外周面32aを径方向内側に凹設させてなる複数の縦溝33が形成されている。複数の縦溝33は、それぞれ軸心C方向に延びており、周方向に間隔をあけて配置される。ボス32の外周面32aには潤滑用のグリスが塗布されるが、複数の縦溝33はグリス溜めとして機能する。また、縦溝33を設けることで、円筒状の外周面32aの真円度を確保しやすくなる。なお、本実施形態のヘリカルギヤ収容部31では、ボス32の内周面にも複数のリブが周方向に間隔をあけて設けられており、剛性が高められている。
【0027】
また、本実施形態のヘリカルギヤ収容部31では、円環溝部31bよりも径方向外側において底面31aから突設された複数の凸部31cが設けられる。各凸部31cは、軸心C方向からみて円弧形状であり、樹脂成形時の撓みを防止するとともにグリス溜めとして機能させるため、一つの円を描くように間欠的に配置される。この凸部31cには、ヘリカルギヤ10のリム12の一端面12aが接触する。
【0028】
図2に示すように、出力ギヤ6は、モータ2の回転(動力)を、図示しない被駆動体に伝達する歯車であり、ハブ11の他端面11f側に固定されてヘリカルギヤ10と一体で回転する。出力ギヤ6は、軸心C上に配置される軸部6aの外周面に出力用の歯6dが形成された大径部6bと、軸部6aよりも径の小さい円柱状の小径部6cとを一体で有する段付き形状である。小径部6c及び大径部6bの一部は、ヘリカルギヤ10に圧入固定される。
【0029】
すなわち、ヘリカルギヤ10は、図2及び図3に示すように、ハブ11の他端面11fに凹設されるとともに大径部6bが圧入固定される第一嵌合部11gと、第一嵌合部11gの底面からさらに凹設されるとともに小径部6cが圧入固定される第二嵌合部11hとを有する。なお、図3及び図4に示すように、本実施形態のヘリカルギヤ10では、第二嵌合部11hを形成する部位(底部及び周壁部)が、ハブ11の第一凹部11b内に突出するため、第一凹部11bの底面11dには、一端面11a側に向かって凸となる中空の円柱部が形成される。
【0030】
[2.効果]
上述したギヤ構造9では、第一凹部11bの内周面11cと摺動するボス32が、仮想面Fの位置または仮想面Fよりも飛び出して設けられる。この仮想面Fは、モータ2の動力が、ウォーム4からヘリカルギヤ10に伝達される際の方向(動力の印加方向)の延長線である。つまり、上述したギヤ構造9であれば、ヘリカルギヤ10に対する動力の印加方向の延長線上に、摺動面(ボス32の外周面32a及び第一凹部11bの内周面11c)が存在することになる。これにより、ヘリカルギヤ10に対する動力を摺動面で受けることができるため、ヘリカルギヤ10がボス32から浮き上がることやヘリカルギヤ10がボス32に対し傾ぐことを防止でき、ヘリカルギヤ10を安定的に回転支持することができる。
【0031】
さらに、上述したギヤ構造9によれば、ボス32の突出長さ(軸心C方向の寸法)が長いことから、摺動面の面積(摺動面積)を拡大することができる。これにより、ヘリカルギヤ10のがたつきを低減できることから、ヘリカルギヤ10の傾ぎをより抑制でき、ヘリカルギヤ10を安定的に回転支持することができる。また、ヘリカルギヤ10が摺動面以外の箇所でギヤボックス3Aと接触することによるロスの発生も回避できる。
【0032】
上述したギヤ構造9では、ボス32の根元部分に円環溝部31bが凹設されており、この円環溝部31bにハブ11の円筒壁11cの先端部が配置されることから、これにより、摺動面積の軸心C方向の長さ(摺動長さ)を拡大することができ、ヘリカルギヤ10の傾ぎをより防止できる。また、ヘリカルギヤ10を回転支持するボス32を、平面状の底面31aから垂直に立ち上げた場合、応力集中が大きくなってしまうため、ボス32の根元部分を厚肉にしたり斜めに傾斜させたりすることが考えられるが、摺動長さが短くなってしまう。これに対し、円環溝部31bにより底面31aを凹ませることで、摺動面積(摺動長さ)を確保しながら、応力集中を回避できる。
【0033】
特に、上述した円環溝部31bは、その断面形状が、円環溝部31bの底に近づくほど溝幅が小さくなる形状(例えば、台形状や半円形状や半楕円形状などを含む形状)であるため、円環溝部31bの断面形状が矩形である場合と比較して、ボス32の根元部分における応力集中をより低減できる。
上述したギヤ構造9では、ヘリカルギヤ10に第二凹部15及び第三凹部16が形成されているため、ヘリカルギヤ10を軽量化することができる。
また、上述したボス32は、その外周面32aに複数の縦溝33が形成されているため、摺動面である外周面32aに塗布されたグリスが縦溝33に溜まることができ、摺動ロスを低減することができる。また、ボス32の円筒状の外周面32aの真円度を確保しやすくなる。
【0034】
上述したギヤ構造9を備える減速機3によれば、ヘリカルギヤ10のがたつきを抑制できるため、減速機3の品質を高めることができる。
特に、上述した減速機3では、出力ギヤ6の歯6dが形成された大径部6bだけでなく円柱状の小径部6cもヘリカルギヤ10に圧入固定されることから、ヘリカルギヤ10に対して出力ギヤ6を深く圧入でき(言い換えると、圧入深さを確保でき)、出力ギヤ6の抜けや傾ぎを防止できる。また、出力ギヤ6の円柱状の小径部6cがヘリカルギヤ10の第二嵌合部11hに圧入固定されるため、ヘリカルギヤ10に対する出力ギヤ6の芯出しの精度を高められる。
また、上述した減速機3を備えたモータユニット1によれば、減速機3においてヘリカルギヤ10のがたつきを抑制できることから、モータユニット1の品質を高めることができる。
【0035】
[3.その他]
上述したギヤ構造9(ギヤボックス3A及びヘリカルギヤ10),減速機3,モータユニット1の構成は一例であって、上述したものに限られない。
例えば、上述したヘリカルギヤ10の第二凹部15及び第三凹部16について、いずれか一方だけを設けてもよいし、互いの形状が異なっていてもよいし、両方を省略してもよい。また、ヘリカルギヤ収容部31の底面31aの形状は上述したものに限られず、円環溝部31bや凸部31cを省略してもよい。なお、上述した各種リブは省略してもよい。
【0036】
ヘリカルギヤ10及びギヤボックス3Aの材質は特に限られず、上記の樹脂製でなくてもよい。
ヘリカルギヤ10に対する出力ギヤ6の固定方法は圧入に限られず、また、出力ギヤ6が大径部6bと小径部6cとを有する段付き形状でなくてもよい。
また、上述した実施形態では、モータユニット1を構成する減速機3のヘリカルギヤ10を挙げて説明したが、上述したヘリカルギヤ10を減速機3以外の機器に採用してもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 モータユニット
2 モータ
2B 回転軸
3 減速機
3A ギヤボックス
4 ウォーム
5 駆動軸
6 出力ギヤ
6a 軸部
6b 大径部
6c 小径部
6d 歯
9 ギヤ構造
10 ヘリカルギヤ
11 ハブ
11a 一端面
11b 第一凹部
11c 内周面
11e 円筒壁
11f 他端面
11g 第一嵌合部
11h 第二嵌合部
13 外歯
15 第二凹部
16 第三凹部
30 ウォーム収容部
31 ヘリカルギヤ収容部(収容部)
31a 底面
31b 円環溝部(溝部)
31d 開口
32 ボス
32a 外周面
33 縦溝
C ヘリカルギヤの軸心
F 仮想面
S 駆動軸の中心線
図1
図2
図3
図4
図5
図6