(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092174
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】高温超電導コイル装置及び積層型高温超電導コイル装置
(51)【国際特許分類】
H01F 6/06 20060101AFI20230626BHJP
H01B 12/06 20060101ALN20230626BHJP
【FI】
H01F6/06 500
H01F6/06 120
H01B12/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207213
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩井 貞憲
(72)【発明者】
【氏名】小柳 圭
(72)【発明者】
【氏名】阿部 格
【テーマコード(参考)】
5G321
【Fターム(参考)】
5G321AA04
5G321AA05
5G321BA03
5G321CA18
5G321CA24
5G321CA52
(57)【要約】
【課題】強磁場下においても高温超電導コイルを安定して通電可能とすることができる。
【解決手段】巻枠の周囲に高温超電導線材が巻き回されてなる巻線部16を備えた高温超電導コイル11と、巻線部の内周側及び内周側の少なくとも一方の端部における高温超電導線材に、直接または間接に電気的に接続された口出し電極12Aと、巻線部との間で口出し電極を両側から挟むように配置された補強カバー13と、を有し、補強カバーは、口出し電極に機械的に固定されると共に、巻線部に直接または間接に機械的に固定されて構成されたものである。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻枠の周囲に高温超電導線材が巻き回されてなる巻線部を備えた高温超電導コイルと、
前記巻線部の内周側及び外周側の少なくとも一方の端部における前記高温超電導線材に、直接または間接に電気的に接続された口出し電極と、
前記巻線部との間で前記口出し電極を両側から挟むよう配置された補強カバーと、を有し、
前記補強カバーは、前記口出し電極に機械的に固定されると共に、前記巻線部に直接または間接に機械的に固定されて構成されたことを特徴とする高温超電導コイル装置。
【請求項2】
前記高温超電導コイルは、巻線部の内周側に設けられた絶縁性の巻枠と、前記巻線部における内周側の端部の高温超電導線材に電気的に接続された内周電極と、を有し、
補強カバーは、前記巻枠及び前記内周電極の少なくとも一方に機械的に固定されることで、前記巻線部に間接に機械的に固定されるよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載の高温超電導コイル装置。
【請求項3】
前記補強カバーは、金属材料からなる第1カバー要素と、この第1カバー要素の表面における口出し電極及び高温超電導コイルに対向する面を覆う絶縁材料からなる第2カバー要素とが、複合されて構成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の高温超電導コイル装置。
【請求項4】
前記補強カバーは、高温超電導コイルに対して接着剤及び締結手段の少なくとも一方により機械的に固定されて構成されたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の高温超電導コイル装置。
【請求項5】
巻枠の周囲に高温超電導線材が巻き回されてなる巻線部を備え、この巻線部の中心軸方向に積層された複数の高温超電導コイルと、
積層方向両端に配置された前記高温超電導コイルの前記巻線部の内周側及び外周側の少なくとも一方の端部における前記高温超電導線材に、直接または間接に電気的に接続された口出し電極と、
積層方向両端に配置された前記高温超電導コイルの前記巻線部との間で前記口出し電極を両側から挟むよう配置された補強カバーと、を有し、
前記補強カバーは、前記口出し電極に機械的に固定されると共に、積層された少なくとも1つの前記高温超電導コイルの前記巻線部に直接または間接に機械的に固定されて構成されたことを特徴とする積層型高温超電導コイル装置。
【請求項6】
複数の前記高温超電導コイルのそれぞれは、巻線部の内周側に設けられた絶縁性の巻枠と、前記巻線部における内周側の端部の高温超電導線材に電気的に接続された内周電極と、を有し、
補強カバーは、前記巻枠及び前記内周電極の少なくとも一方に機械的に固定されることで、前記巻線部に間接に機械的に固定されるよう構成されたことを特徴とする請求項5に記載の積層型高温超電導コイル装置。
【請求項7】
積層方向一端または両端に配置された前記高温超電導コイルには、その巻線部にフランジが隣接して設けられ、このフランジに補強カバーが機械的に固定されたことを特徴とする請求項5または6に記載の積層型高温超電導コイル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、高温超電導線材が巻枠に巻き回されてなる高温超電導コイルを有する高温超電導コイル装置、及び複数の高温超電導コイルがコイル中心軸方向に積層された積層型高温超電導コイル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高温超電導線材が巻枠に巻き回されてなる高温超電導コイルを有する高温超電導コイル装置、及び高温超電導コイルがコイル中心軸方向に複数積層された積層型高温超電導コイル装置は、通電時の自己磁場や外部磁場によって電磁力を受ける。このような電磁力によって、高温超電導コイルには、コイル径方向に膨らむ方向の電磁応力である所謂フープ応力、及び軸方向の圧縮応力が生じ、高温超電導コイルの巻線部は径方向及び軸方向に変形しようとする。
【0003】
一方、高温超電導コイルの巻線部の端部に設けられてコイル外部から電流を出し入れするための口出し電極には、電流I、磁場B及び電極長さLの積で表されるI×B×Lの電磁力が作用する。更に、口出し電極は、コイル外部との電気的な接続を担うため、取り付け取り外しの際にもハンドリングによる外力が作用するほか、室温から運転温度までの冷却時の熱収縮により熱応力が生じる。
【0004】
上述のような電磁力、外力及び熱応力が作用した状態では、口出し電極に直接あるいは間接に接続されている巻線部の端部に位置する高温超電導線材に局所応力が発生することになる。
【0005】
近年、開発が盛んなRE1B2C3O7等の希土類系高温超電導線材は、高磁場中において従来よりも高い電流密度で通電を可能にする一方、超電導層が酸化物の薄膜であるため、剥離やクラックに対して極めて脆弱である。このため、上述の局所応力によって、口出し電極付近の高温超電導線材は超電導特性が低下もしくは喪失してしまい、電気抵抗ゼロの超電導状態から有限の抵抗を持つ常電導状態に遷移するため、ジュール発熱によって局所的に温度上昇し、最悪の場合には熱暴走して焼損してしまい、高温超電導コイルが通電不能になってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-162495号公報
【特許文献2】特開2019-16685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば特許文献1では、パンケーキコイルの巻線部における外周側の端部に導電突起と称される中間電極を電気的に接続し、この導電突起を口出し電極に接続する構成として、口出し電極を、コイル側面に隣接配置されたフランジに機械的に固定する構成が提案されている。
【0008】
しかしながら、口出し電極は、固定されているものの、導電突起に電流が流れると前述のI×B×Lの電磁力を受ける。また、巻線部には、前述のコイル径方向に膨らむ方向のフープ応力と軸方向の圧縮応力を生じさせる電磁力が作用する。この電磁力によって、導電突起が支持されていないため、この導電突起に電気的に接続された巻線部の端部の高温超電導線材には局所応力が生じてしまう。
【0009】
特に、強磁場による高電磁力が発生するような場合には、上述の局所応力が増大し、この局所応力によって導電突起に接続された巻線部の端部の高温超電導線材は、超電導特性が低下するリスクが高くなり、ジュール発熱によって局所的に温度上昇し、最悪の場合には熱暴走して焼損してしまい、高温超電導コイルが通電不能になる恐れがある。
【0010】
本発明の実施形態は、上述の事情を考慮してなされたものであり、強磁場下においても高温超電導コイルを安定して通電可能な高温超電導コイル装置及び積層型高温超電導コイル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態における高温超電導コイル装置は、巻枠の周囲に高温超電導線材が巻き回されてなる巻線部を備えた高温超電導コイルと、前記巻線部の内周側及び外周側の少なくとも一方の端部における前記高温超電導線材に、直接または間接に電気的に接続された口出し電極と、前記巻線部との間で前記口出し電極を両側から挟むよう配置された補強カバーと、を有し、前記補強カバーは、前記口出し電極に機械的に固定されると共に、前記巻線部に直接または間接に機械的に固定されて構成されたことを特徴とするものである。
【0012】
本発明の実施形態における積層型高温超電導コイル装置は、巻枠の周囲に高温超電導線材が巻き回されてなる巻線部を備え、この巻線部の中心軸方向に積層された複数の高温超電導コイルと、積層方向両端に配置された前記高温超電導コイルの前記巻線部の内周側及び外周側の少なくとも一方の端部における前記高温超電導線材に、直接または間接に電気的に接続された口出し電極と、積層方向両端に配置された前記高温超電導コイルの前記巻線部との間で前記口出し電極を両側から挟むよう配置された補強カバーと、を有し、前記補強カバーは、前記口出し電極に機械的に固定されると共に、積層された少なくとも1つの前記高温超電導コイルの前記巻線部に直接または間接に機械的に固定されて構成されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の実施形態によれば、強磁場下においても高温超電導コイルを安定して通電可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態に係る高温超電導コイル装置を示し、(A)が全体斜視図、(B)が
図1(A)の高温超電導コイルの断面図。
【
図2】
図1の高温超電導コイルを構成する高温超電導線材の一例を示す斜視図。
【
図3】(A)が
図1(A)のIIIA-IIIA線に沿う断面図、(B)が
図3(A)のIIIB-IIIB線に沿う断面図。
【
図4】(A)が
図1(A)のIVA-IVA線に沿う断面図、(B)が
図4(A)のIVB-IVB線に沿う断面図。
【
図5】(A)が
図4の補強カバーの変形形態を示す断面図、(B)が
図5(A)のV-V線に沿う断面図。
【
図6】第2実施形態に係る高温超電導コイル装置における補強カバーの周囲を示す断面図。
【
図7】第3実施形態に係る高温超電導コイル装置における補強カバーの周囲を示す断面図。
【
図8】第4実施形態に係る積層型高温超電導コイル装置における補強カバーを含む部分断面図。
【
図9】(A)、(B)のそれぞれが
図8のIXA-IXA線、IXB-IXB線にそれぞれ沿う断面図。
【
図10】(A)が第5実施形態に係る積層型高温超電導コイル装置における補強カバーを含む部分断面図、(B)が
図10(A)のX-X線に沿う断面図。
【
図11】第6実施形態に係る積層型高温超電導コイル装置における補強カバーを含む部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明する。
[A]第1実施形態(
図1~
図5)
図1は、第1実施形態に係る高温超電導コイル装置を示し、(A)が全体斜視図、(B)が
図1(A)の高温超電導コイルの断面図である。この
図1に示す高温超電導コイル装置10は、巻枠15、巻線部16及び内周電極17(
図4)を備えた高温超電導コイル11と、この高温超電導コイル11へ外部から電流を流入出させる導電性の口出し電極12(12A、12B)と、この口出し電極12を機械的に支持する補強カバー13及び14と、を有して構成される。
【0016】
高温超電導コイル11は、
図2に示す高温超電導線材(高温超電導テープ線)18が絶縁線材(絶縁テープ線)19と共に巻枠15の周囲に渦巻き状に巻き回されて、所謂パンケーキ形状の巻線部16を形成したものである。この高温超電導コイル11は、巻線部16がパンケーキ形状であることから、所謂パンケーキコイルと称される。
【0017】
巻枠15は、巻線部16の内周側に設けられ、ガラス繊維強化プラスチックや補強型PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の絶縁材から構成される。また、内周電極17(
図4)は、巻線部16における内周側の端部の高温超電導線材18と後述の口出し電極12Bとに電気的に接続される。上述の巻線部16におけるコイル中心軸O方向の両側面16A、16Bに絶縁層20が固着される。この絶縁層20は、複数の高温超電導コイル11を積層する際に、巻線部16を他の高温超電導コイル11の巻線部16から絶縁保護する。
【0018】
更に、高温超電導コイル11は、図示しないエポキシ等の樹脂で一体的に含浸硬化されている。この含浸硬化は、高温超電導コイル11の使用時における高温超電導線材18の機械的動きを抑制してコイル強度を保持すると共に、高温超電導線材18のターン間における絶縁保護を行って、高温超電導コイル11の超電導状態が壊れる状態である「クエンチ」を防止するために有効である。
【0019】
ここで、高温超電導線材18は、
図2に示すように、少なくともテープ基板2と中間層3と超電導層4とを有し、それらの両面が安定化層5で被覆されて構成される。また、必要に応じて、テープ基板2と中間層3との間に配向層6が、超電導層4と安定化層5との間に保護層7がそれぞれ設けられてもよい。
【0020】
テープ基板2は、例えば、ハステロイ(登録商標)やNiWを含むNi基合金などの高強度金属等の材質で形成される。また、中間層3は拡散防止層であり、例えば、酸化セリウム、YSZ、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化イッテルビウム、バリウムジルコニアなどの材質からなり、テープ基板2上に形成される。
【0021】
超電導層4は、例えば、RE123系の組成(RE1B2C3O7等)やBi2Sr2Ca2Cu3O10+x線材などのビスマス系の組成を有する酸化物超電導体の薄膜からなる。なお、「RE1B2C3O7」の「RE」は、希土類元素(例えば、ネオジム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、ホルミニウム(Ho)、サマリウム(Sm)等)及びイットリウム元素の少なくとも一方を、「B」はバリウム(Ba)を、「C」は銅(Cu)を、「O」は酸素(O)を意味している。また、安定化層5は、超電導層4に過剰に電気が流れた場合に超電導層4が燃焼するのを防止する目的で設けられ、導電性の銀等から形成される。
【0022】
配向層6は、テープ基板2上に中間層3を配向させて形成する目的で設けられ、酸化マグネシウム(MgO)等から形成される。なお、配向したテープ基板2を用いる場合には配向層6を省略することができる。また、保護層7は、超電導層4が空気中の水分に触れて劣化するのを防止する等の目的で設けられ、銀等から形成される。なお、保護層7も超電導層4に過剰に電気が流れた場合に超電導層4が燃焼することを防止する機能を果たしている。
【0023】
このような多層構造の高温超電導線材(高温超電導テープ線)18のテープ幅wは例えば4~12mm、テープ厚さtは0.1~0.2mmとされる。また、高温超電導線材(高温超電導テープ線)18は、長手方向の機械強度に優れる一方、テープ面垂直方向の引張応力(剥離応力)には脆弱であるという特徴を持つ。また、高温超電導線材18の周囲をポリイミドやポリイミドアミドのような絶縁材で被覆した絶縁被覆の高温超電導線材としてもよい。
【0024】
口出し電極12は、超電導コイル11の巻線部16の外周側及び内周側の少なくとも一方の端部における高温超電導線材18に、直接または間接に電気的に接続される。本実施形態では、
図1及び
図3に示すように、口出し電極12Aが、巻線部16の外周側の端部における高温超電導線材18に直接電気的に接続される。また、
図1及び
図4に示すように、口出し電極12Bが、巻線部16の内周側の端部における高温超電導線材18に、内周電極17を介して間接に電気的に接続される。これらの口出し電極12A及び12Bを用いて外部から電流が流入出される。
【0025】
補強カバー13は、
図1及び
図3に示すように、平面視コ字形状に形成されて、巻線部16との間で口出し電極12Aを両側から挟むように配置される。この補強カバー13は、口出し電極12Aに接着剤を用いて機械的に固着されると共に、巻線部16に直接接着剤を用いて機械的に固定される。これにより、巻線部16、口出し電極12A及び補強カバー13が一体的に連結されて、口出し電極12Aは補強カバー13により、巻線部16の外周側から押圧された状態で機械的に支持される。
【0026】
補強カバー14は、
図1及び
図4に示すように平面視コ字形状に形成されて、巻線部16との間で口出し電極12Bを両側から挟むように配置される。この補強カバー14は、口出し電極12Bに接着剤を用いて機械的に固定されると共に、内周電極17に接着剤を用いて固着されることで、巻線部16に間接に機械的に固定される。これにより、巻線部16、口出し電極12B及び補強カバー14が一体的に連結されて、口出し電極12Bは補強カバー14により、巻線部16の内周側から押圧された状態で機械的に支持される。
【0027】
なお、
図5に示すように、補強カバー14の変形形態としての補強カバー14Aは、巻枠15及び内周電極17に接着材を用いて機械的に固定されている。これにより、口出し電極12Bが巻線部16の内周側に更に強固に機械的に支持される。
【0028】
ここで、補強カバー13、14、14Aの材質としては、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)や炭素繊維強化プラスチック(CRFP)、アラミド繊維強化プラスチック(AFRP)、補強型PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリカーボネートといった絶縁材が好適である。補強カバー13、14、14Aは、上述のような絶縁材で構成されるため電磁力を受けない。
【0029】
また、補強カバー13、14、14Aの厚さは、厚ければ厚いほど機械的な支持強度を高くできるが、この場合、補強カバー13、14、14Aの熱収縮による熱応力が増加する。一方、補強カバー13、14、14Aをシート状に薄くすることも可能性であり、この場合には、機械的な支持強度が低下するものの、補強カバー13、14、14Aの熱収縮による熱応力を抑えることが可能になる。
【0030】
以上のように構成されたことから、本第1実施形態によれば、次の効果(1)を奏する。
(1)口出し電極12Aが、高温超電導コイル11の巻線部16と補強カバー13との間で両側から挟まれて機械的に支持されると共に、補強カバー13が、口出し電極12Aに機械的に固定され、且つ巻線部16に直接機械的に固定される。また、口出し電極12Bが、高温超電導コイル11の巻線部16と補強カバー14、14Aとの間で両側から挟まれて機械的に支持されると共に、補強カバー14、14Aが、口出し電極12Bに機械的に固定され、且つ巻線部16に内周電極17及び巻枠15の少なくとも一方を介して間接に機械的に固定されている。
【0031】
このため、強磁場による高電磁力が発生する場合であっても、口出し電極12A、12Bに直接または間接に電気的に接続される巻線部16の端部の高温超電導線材18では、局所応力に起因する超電導特性の低下を防止することができる。この結果、強磁場下においても高温超電導コイル11を安定して通電可能とすることができる。
【0032】
[B]第2実施形態(
図6)
図6は、第2実施形態に係る高温超電導コイル装置における補強カバーの周囲を示す断面図である。この第2実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0033】
本第2実施形態の高温超電導コイル装置25が第1実施形態と異なる点は、絶縁性の補強カバー26が、金属材料からなる第1カバー要素27と、この第1カバー要素27の表面における口出し電極12B並びに高温超電導コイル11の巻枠15及び内周電極17に対向する面を覆う絶縁材料からなる第2カバー要素28とを複合して構成された点である。
【0034】
第1カバー要素27の材質としては、例えば銅や銅合金、ステンレスなどの非磁性の金属材料が好適である。このように第1カバー要素27として電磁力を受けない非磁性金属材料が用いられることで、第1実施形態に比べ、補強カバー26の機械的な強度が向上する。また、第2カバー要素28の材質としては、ポリイミド、エポキシ樹脂、ガラス強化繊維プラスチックなどの絶縁材料が好適である。この第2カバー要素28によって、補強カバー26は口出し電極12Bとの絶縁が確保される。
【0035】
以上のように構成されたことから、本第2実施形態によれば、次の効果(2)を奏する。
(2)補強カバー26は、第2カバー要素28によって、口出し電極12Bとの絶縁を確保しつつ、第1カバー要素27によって、第1実施形態に比べ機械的な支持強度を向上させることができる。このため、内周電極17に接続された巻線部16の端部の高温超電導線材18では、局所応力による超電導特性の低下を第1実施形態よりも更に確実に防止することができ、強磁場下においても高温超電導コイル11を安定して通電可能とすることができる。
【0036】
[C]第3実施形態(
図7)
図7は、第3実施形態に係る高温超電導コイル装置における補強カバーの周囲を示す断面図である。この第3実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0037】
本第3実施形態の高温超電導コイル装置30が第1実施形態と異なる点は、絶縁性の補強カバー31が平面視平板形状に形成されると共に、超電導コイル11の巻枠15及び内周電極17の少なくとも一方(
図7では巻枠15)に接着材及びボルト32の少なくとも一方(
図7では接着剤及びボルト32)により機械的に固定された点である。上記ボルト32に代えて、ビスやリベット、ピンなどの他の締結手段が用いられてもよい。
【0038】
以上のように構成されたことから、本第3実施形態によれば、次の効果(3)を奏する。
(3)補強カバー31は、ボルト32の締結によって巻枠15に機械的に結合されるため、第1及び第2実施形態に比べ、口出し電極12Bに対する機械的な支持強度を更に向上させることができる。このため、口出し電極12Bに内周電極17を介して電気的に接続される巻線部16の内周側の端部における高温超電導線材18では、第1及び第2実施形態の場合よりも、局所応力による超電導特性の低下を更に確実に防止することができる。この結果、強磁場下においても高温超電導コイル11を安定して通電可能とすることができる。
【0039】
[D]第4実施形態(
図8~
図9)
図8は、第4実施形態に係る積層型高温超電導コイル装置における補強カバーを含む部分断面図である。この第4実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0040】
本第4実施形態は、高温超電導コイル11が巻線部16のコイル中心軸O方向に複数積層された積層型高温超電導コイル装置40に関する。この積層型高温超電導コイル装置40では、口出し電極12Bは、積層方向両端(
図8では上端)に配置された高温超電導コイル11の巻線部16における外周側または内周側の少なくとも一方(
図8では内周側)の端部の高温超電導線材18に、直接または間接(
図8では内周電極17を介して間接)に電気的に接続されている。
【0041】
口出し電極12Bを機械的に支持する絶縁性の補強カバー41は、
図8及び
図9に示すように、積層方向両端(
図8、
図9では上端)に配置された高温超電導コイル11の巻線部16との間で口出し電極12Bを両側から挟むように配置される。そして、この補強カバー41は、口出し電極12Bに接着材を用いて固定される。更に、補強カバー41は、積層された少なくとも1つの高温超電導コイル11(
図8、
図9では口出し電極12Bが電気的に接続された高温超電導コイル11と、この高温超電導コイル11に隣接する高温超電導コイル11M)の巻線部16に直接または間接(
図8、
図9では内周電極17介して間接)に機械的に接続される。
【0042】
以上のように構成されたことから、本第4実施形態によれば、次の効果(4)を奏する。
(4)補強カバー41が、口出し電極12Bが電気的に接続された高温超電導コイル11の巻線部16に、内周電極17を介して機械的に固定されるばかりか、上記高温超電導コイル11に隣接する高温超電導コイル11Mの巻線部16に内周電極17を介して機械的に固定されている。このため、補強カバー41による口出し電極12Bの機械的な支持強度を、第1~第3実施形態の場合よりも向上させることができる。従って、口出し電極12Bに内周電極17を介して電気的に接続された高温超電導コイル11の巻線部16の内周側の端部の高温超電導線材18では、第1~第3実施形態の場合よりも、局所応力による超電導特性の低下を更に確実に防止することができる。この結果、強磁場下においても高温超電導コイル11を安定して通電可能とすることができる。
【0043】
[E]第5実施形態(
図10)
図10は、(A)が第5実施形態に係る積層型高温超電導コイル装置における補強カバーを含む部分断面図、(B)が
図10(A)のX-X線に沿う断面図である。この第5実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0044】
本第5実施形態の積層型高温超電導コイル装置50では、口出し電極12Bは、積層方向両端(
図10では下端)に配置された高温超電導コイル11の巻線部16における外周側または内周側の少なくとも一方(
図10では内周側)の端部の高温超電導線材18に、直接または間接(
図10では内周電極17を介して間接)に電気的に接続されている。
【0045】
また、口出し電極12Bを機械的に支持する絶縁性の補強カバー51は、積層方向両端(
図10では下端)に配置された高温超電導コイル11の巻線部16との間で口出し電極12Bを両側から挟むように配置される。そして、この補強カバー51は、口出し電極12Bに接着材を用いて固定される。
【0046】
更に、補強カバー51は、積層された少なくとも1つの高温超電導コイルの巻線部16に直接または間接に機械的に固定される。即ち、補強カバー51は、口出し電極12Bが電気的に接続された高温超電導コイル11の巻線部16に内周電極17を介し、接着材を用いて機械的に固定される。また、補強カバー51は、高温超電導コイル11に隣接する高温超電導コイル11Nの巻線部16に、巻枠15及び内周電極17を介し、接着材及び締結手段(例えばボルト52)を用いて機械的に固定される。上記ボルト52は、補強カバー51を高温超電導コイル11Nの巻枠15に結合する。
【0047】
なお、補強カバー51は、ボルト52が螺装される第1カバーピース51Aと、内周電極17に接着される第2カバーピース51Bとが別体に構成され、取り付け時に接着されて一体化されてもよく、または当初から一体構造に構成されたものでもよい。
【0048】
以上のように構成されたことから、本第5実施形態によれば、次の効果(5)を奏する。
(5)補強カバー51は、口出し電極12Bに電気的に接続された高温超電導コイル11の巻線部16に、内周電極17を介し接着材を用いて機械的に固定されるばかりか、上記高温超電導コイル11に隣接する高温超電導コイル11Nの巻線部16に、内周電極17を介し接着材を用いて、且つ巻枠15を介し接着材及びボルト52を用いて機械的に固定されている。
【0049】
このため、補強カバー41による口出し電極12Bの機械的な支持強度を、第1~第4実施形態の場合よりも向上させることができる。従って、口出し電極12Bに内周電極17を介して電気的に接続された高温超電導コイル11の巻線部16の内周側の端部の高温超電導線材18では、第1~第4実施形態の場合よりも、局所応力による超電導特性の低下を更に確実に防止することができる。この結果、強磁場下においても高温超電導コイル11を安定して通電可能とすることができる。
【0050】
[F]第6実施形態(
図11)
図11は、第6実施形態に係る積層型高温超電導コイル装置における補強カバーを含む部分断面図である。この第6実施形態において第1及び第5実施形態と同様な部分については、第1及び第5実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0051】
本第6実施形態の積層型高温超電導コイル装置60が第5実施形態と異なる点は、積層方向一端または両端(
図11では下端)に配置された高温超電導コイル11の巻線部16にフランジ62が隣接して設けられ、口出し電極12Bを機械的に支持する補強カバー61が、口出し電極12B、内周電極17及び巻枠15ばかりか、フランジ62にボルト63等の締結手段を用いて機械的に固定された点である。
【0052】
以上のように構成されことから、本第6実施形態によれば、次の効果(6)を奏する。
(6)補強カバー61は、口出し電極12B、内周電極17及び巻枠15だけでなく、フランジ62にも機械的に固定されるため、第1~5実施形態に比べ、口出し電極12Bに対する機械的な支持強度を更に向上させることができる。このため、口出し電極12Bに内周電極17を介して電気的に接続される高温超電導コイル11の巻線部16の内周側の端部における高温超電導線材18では、第1~5実施形態の場合よりも、局所応力による超電導特性の低下を更に確実に防止することができる。この結果、強磁場下においても高温超電導コイル11を安定して通電可能とすることができる。
【0053】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができ、また、それらの置き換えや変更、組み合わせは、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0054】
例えば、前述の各実施形態では、高温超電導コイル11が円形状のシングルパンケーキコイルの場合を述べたが、円形状に限定されるものではなく、鞍型、楕円型、立体型などの非円形状の高温超電導コイルであってもよい。また、各実施形態の高温超電導コイル11は、2積層の高温超電導コイルの最内周において、互いに隣接する各高温超電導コイルの高温超電導線材がコイル軸方向に連続して繋がった所謂ダブルパンケーキコイルであってもよい。
【符号の説明】
【0055】
10…高温超電導コイル装置、11…高温超電導コイル、12、12A、12B…口出し電極、13、14、14A…補強カバー、15…巻枠、16…巻線部、17…内周電極、18…高温超電導線材、25…高温超電導コイル装置、26…補強カバー、27…第1カバー要素、28…第2カバー要素、30…高温超電導コイル装置、31…補強カバー、32…ボルト、40…積層型高温超電導コイル装置、41…補強カバー、50…積層型高温超電導コイル装置、51…補強カバー、60…積層型高温超電導コイル装置、61…補強カバー、62…フランジ、O…コイル中心軸