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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092175
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】電解液
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0569 20100101AFI20230626BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20230626BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230626BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20230626BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230626BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230626BHJP
【FI】
H01M10/0569
H01M10/0568
H01M10/052
H01M10/0525
H01M4/62 Z
H01M4/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207217
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】591075467
【氏名又は名称】冨士色素株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】311007545
【氏名又は名称】GSアライアンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】井谷 弘道
(72)【発明者】
【氏名】古西 克次
(72)【発明者】
【氏名】横川 浩治
(72)【発明者】
【氏名】森 良平
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL07
5H029AM01
5H029AM02
5H029AM04
5H029AM06
5H029AM07
5H029HJ01
5H050AA07
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB08
5H050DA09
5H050DA11
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】安全面の問題がなく、リチウム塩の溶解性が確保され、かつ多硫化物の溶出が十分に抑制される上に、たとえ電極形成用のバインダーとして水系バインダーが用いられた場合にも、サイクル特性等が良好なリチウム硫黄電池やリチウムイオン電池を与える電解液を提供すること。
【解決手段】フッ素化エーテル、クラウンエーテル、及びジアルコキシエタンを含有する混合有機溶媒、並びに、前記混合有機溶媒に溶解しているリチウム(Li)塩を含む、リチウム硫黄電池又はリチウムイオン電池用の電解液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素化エーテル、クラウンエーテル、及びジアルコキシエタンを含有する混合有機溶媒、並びに、前記混合有機溶媒に溶解しているリチウム(Li)塩を含む、リチウム硫黄電池又はリチウムイオン電池用の電解液。
【請求項2】
前記混合有機溶媒中のジアルコキシエタン含有率が、0.1~20.0質量%である、請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
前記リチウム(Li)塩が、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(CFSO)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiN(CSO)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(SOCF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、ペンタフルオロエチルトリフルオロホウ酸リチウム(LiBF(C))、ジオキサレートホウ酸リチウム(LiB(C)、テトラ(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸リチウム(LiB(C)、トリ(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸リチウム(LiPF(C)、ノナフルオロブタンスルホン酸リチウム(LiCSO)、ペルフルオロオクタンスルホン酸リチウム(LiC17SO)、テトラ[3,5-ジ(トリフルオロメチル)フェニル)]ホウ酸リチウム(LiB[C(CF-3,5])、テトラ(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸リチウム(LiB(C)、テトラ[4-(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸リチウム(LiB[C(CF)-4])、及び硝酸リチウム(LiNO)からなる群より選択される1種以上の塩である、請求項1又は2に記載の電解液。
【請求項4】
正極活物質及び水系バインダーを有する正極、負極活物質を有する負極、及び前記正極と前記負極との間に介在する電解質溶液を備え、
前記電解質溶液が請求項1~3のいずれか一項に記載の電解液である、リチウム硫黄電池又はリチウムイオン電池。
【請求項5】
前記水系バインダーが、カルボキシメチルセルロース、SBRラテックス、NBRラテックス、(メタ)アクリルラテックス、ポリビニルアルコール、アルギン酸、ゼラチン、及びキトサンからなる群より選択される1種以上の化合物である、請求項4に記載のリチウム硫黄電池又はリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム硫黄電池又はリチウムイオン電池用の電解液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高容量かつ軽量の電池が求められ、リチウムイオン電池に対する需要が高まり続けている。さらに高容量の電池として、リチウム硫黄電池も注目されている。リチウム硫黄電池は、その理論容量が極めて大であり、電池性能の大幅な改善が期待できる上、原材料の硫黄が資源量豊富で安価という利点を有する。
【0003】
リチウムイオン電池やリチウム硫黄電池においては通常、電解液としてリチウムイオンを含有する非水溶液が用いられ、またその溶媒としては特に炭酸エステル(カーボネートエステル)系の溶媒が使用される。しかしながら電解液がカーボネートエステル系溶媒をベースとする電池では、繰り返し使用と共に電池容量が低下していく場合がある。特に、金属リチウムを負極に含むリチウムイオン電池では、リチウムデンドライト生成の問題が生じる。また、リチウム硫黄電池においては、充放電の過程で正極にて生じた多硫化物(ポリスルフィド)が、カーボネートエステル系溶媒中にしばしば溶出する問題が生じる。溶出した多硫化物は、自己放電の原因となって充電反応効率を低下させ、また、硫化リチウムとして正極以外の部分に析出し、エネルギー密度の低下をもたらす。こうした問題を解決するために、従来よりカーボネートエステル系溶媒を他の溶媒に置き換える検討がなされている。
【0004】
例えば特許文献1には、金属硫黄電池の電解液として、テトラグリム等のグライムを主溶媒とするものが開示されている。特許文献2開示のリチウム硫黄電池では、アミド類、アルコール類、クラウンエーテル類を使用して、硫黄系電極活物質の析出を抑制している。特許文献3開示のリチウムイオン電池では、ジオキサン/ジメトキシエタン混合溶媒等のエーテル系溶媒を用いることにより、デンドライトの成長を抑制している。
【0005】
特許文献1~3に開示されたような非水溶液の電解液はまた、しばしば可燃性であり、安全面での問題を有する。そうした問題への対策として、フッ素化溶媒を含む電解液も開発されている(例えば特許文献4)。一部のフッ素化溶媒は、多硫化物の溶出を抑制する機能を有することも、近年、知られるようになった。例えば特許文献5には、ハイドロフルオロエーテルとグライム類との混合溶媒を使用したリチウムイオン電池が開示されている。また、特許文献6には、トリグライム、テトラグライムやエーテル、スルホン系溶媒等の多硫化物可溶性溶媒と、フッ素化エーテルや芳香族系化合物等の多硫化物不溶性溶媒とを含有する電解液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2001-520447号公報
【特許文献2】特開2013-229279号公報
【特許文献3】特開2020-17479号公報
【特許文献4】特開2011-124073号公報
【特許文献5】特開2016-100094号公報
【特許文献6】再公表特許WO2015/1666636号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、フッ素化溶媒の使用によって安全面の課題を解決することができ、また、一部のフッ素化溶媒、特にハイドロフルオロエーテル類は電解液中への多硫化物の溶出を抑制する効果も有する。しかしながらフッ素化溶媒には、電解質であるリチウム塩が十分に溶解しない場合がある。特許文献4では、環状アミド基を有する含フッ素エステルを合成し、これを電解液用の溶媒としている。特許文献5及び6で提案されるようにハイドロフルオロエーテル等をグライム類又は環状もしくは非環状エーテルと混合して用いても、溶解性の難点は解消されず、保管中の電解液からリチウム塩が析出する場合がある。
【0008】
本発明らは先に、ハイドロフルオロエーテル、環状エーテル、及び炭酸エステル(カーボネートエステル)の3種混合溶媒に基づく電解液を開発した。こうした電解液であれば、リチウム塩の溶解性が確保され、析出を大幅に低減させることができる。
【0009】
しかしながら、本発明者らがさらに検討を進めたところ、この電解液には改良の余地があることが分かった。すなわち、電極の形成にカルボキシメチルセルロース等の水系バインダーを用いると、電極上に十分な厚みの活物質層を形成することができ、良好な電池特性を発現させることが期待される。一方で、こうした水系バインダーに基づく電極を備える電池で、本発明者らが開発した上記3種混合溶媒を電解液に使用すると、繰り返し使用後の電池容量が低下する傾向があった。
【0010】
本発明は、これらの問題点を解決すべくなされたものであり、安全面での問題がなく、リチウム塩の溶解性が確保され、かつ多硫化物の溶出が十分に抑制される上に、たとえ電極形成用のバインダーとして水系バインダーが用いられた場合にも、サイクル特性等が良好な電池を構成し得る電解液、及び前記電解液を備えたリチウム硫黄電池又はリチウムイオン電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、電解液の溶媒をハイドロフルオロエーテル、クラウンエーテル、及びジアルコキシエタン(DAE)の3種混合溶媒とすることにより、上記課題が解決された、優れた特性のリチウム硫黄電池やリチウムイオン電池が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち本発明は、以下の(1)~(6)を提供する。
(1)フッ素化エーテル、クラウンエーテル、及びジアルコキシエタンを含有する混合有機溶媒、並びに、前記混合有機溶媒に溶解しているリチウム(Li)塩を含む、リチウム硫黄電池又はリチウムイオン電池用の電解液。
(2)前記混合有機溶媒中のジアルコキシエタン含有率が、0.1~20.0質量%である、前記(1)のリチウム硫黄電池用電解液。
(3)前記リチウム(Li)塩が、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(CFSO)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiN(CSO)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(SOCF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、ペンタフルオロエチルトリフルオロホウ酸リチウム(LiBF(C))、ジオキサレートホウ酸リチウム(LiB(C)、テトラ(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸リチウム(LiB(C)、トリ(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸リチウム(LiPF(C)、ノナフルオロブタンスルホン酸リチウム(LiCSO)、ペルフルオロオクタンスルホン酸リチウム(LiC17SO)、テトラ[3,5-ジ(トリフルオロメチル)フェニル)]ホウ酸リチウム(LiB[C(CF-3,5])、テトラ(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸リチウム(LiB(C)、テトラ[4-(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸リチウム(LiB[C(CF)-4])、及び硝酸リチウム(LiNO)からなる群より選択される1種以上の塩である、前記(1)又は(2)のリチウム硫黄電池用電解液。
(4)正極活物質及び水系バインダーを有する正極、負極活物質を有する負極、及び前記正極と前記負極との間に介在する電解質溶液を備え、前記電解質溶液が前記(1)~(3)のいずれかの電解液である、リチウム硫黄電池又はリチウムイオン電池。
(5)前記水系バインダーが、カルボキシメチルセルロース、SBRラテックス、NBRラテックス、(メタ)アクリルラテックス、ポリビニルアルコール、アルギン酸、ゼラチン、キトサンからなる群より選択される1種以上の化合物である、前記(4)のリチウム硫黄電池又はリチウムイオン電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電解液によれば、安全面での問題がなく、リチウム塩の溶解性が確保され、かつ多硫化物の溶出が十分に抑制される上に、たとえ電極形成用のバインダーとして水系バインダーが用いられた場合にも、サイクル特性等が良好なリチウム硫黄電池やリチウムイオン電池、特にリチウム硫黄電池を構成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
【0015】
本発明は、フッ素化エーテル、クラウンエーテル、及びジアルコキシエタンを含有する混合有機溶媒、並びに、前記混合有機溶媒に溶解しているリチウム(Li)塩を含む、リチウム硫黄電池又はリチウムイオン電池用の電解液である。本発明はまた、そうした電解液を備えるリチウム硫黄電池又はリチウムイオン電池である。
【0016】
[リチウムイオン電池]
リチウムイオン電池は、正極と負極の間をリチウムイオンが移動することで充電や放電を行う電池全般を指し、リチウム金属電池やリチウムポリマー電池等を包含する。最も一般的なタイプは、リチウムイオンを挿入・脱離するホスト化合物を用いる、電解液系リチウムイオン電池である。このタイプの電池は、正極活物質及びバインダー(結着剤)を有する正極、負極活物質を有する負極、並びに、それら正極と負極との間に介在する電解質溶液を備える。例えば、正極(正極集電体、正極活物質層)、負極(負極集電体、負極活物質層)、電解液、及びセパレータの基本要素で構成される電池である。
【0017】
リチウムイオン電池の正極活物質としては通常、リチウムと遷移金属を含む複合酸化物が使用される。例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、リチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム酸化物(Li(Ni-Co-Al)O)、リチウム-ニッケル-マンガン-コバルト酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/3)、スピネル系マンガン酸リチウム(LiMn)やスピネル系リチウム-マンガン-ニッケル酸化物(Li(Mn3/2Ni1/2)O等)、オリビン系材料たるリン酸鉄リチウム(LiFePO)が一般的であり、さらには「過剰系」とも呼ばれるLiMnO-LiMO(MはNi、Mn、Co等)のようなマンガン含有リチウム複合酸化物も開発されている。負極活物質としては、黒鉛(グラファイト)、チタン酸リチウム(LiTi12)が一般的である。しかしながら本発明の電解液は、これら活物質を有する電池に限らず、どのようなタイプのリチウムイオン電池にも使用することができる。尚、正極活物質は通常、バインダー(電極用結着剤)と共にペースト状にされ、集電体上に塗布されて、正極活物質層となる。電池の種類によっては、負極活物質層も同様にして形成される。
【0018】
[リチウム硫黄電池]
リチウム硫黄電池では、負極にリチウム又はリチウム化合物が、正極に硫黄又は硫化物が用いられる。リチウムイオン電池と同様、正極活物質及びバインダーを有する正極、負極活物質を有する負極、並びに、それら正極と負極との間に介在する電解質溶液を備えるのが一般的である。本発明の電解液は、どのようなタイプのリチウム硫黄電池にも使用することができる。例として、負極材料としてリチウム、リチウム-ゲルマニウム合金、リチウムとグラファイトの複合材を;正極材料として硫黄、硫黄とアセチレンブラックの導電補助剤及びバインダーとの複合材、硫黄と金属銅及びアセチレンブラックとの複合材、硫黄と銅シェブレル相(CuMo7.8)及びアセチレンブラックとの複合材を用いた電池が挙げられる。しかしながら、これらに限定されない。本発明は特に、リチウム金属を負極材料とするリチウム硫黄電池や、硫黄とアセチレンブラック等のカーボンブラック及びバインダーとの複合材を正極材料とするリチウム硫黄電池に適している。
【0019】
[バインダー]
リチウム硫黄電池やリチウムイオン電池において、電極材料は通常、活物質層形成用のペーストを集電体上に塗布して作製される。活物質層形成用のペーストとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のバインダー(結着剤)をN-メチルピロリドン(NMP)等の有機溶剤中に溶解させ、上記のような活物質の粒子、さらにはアセチレンブラック等の導電助剤の粒子を分散させた、非水系ペーストが一般的である。バインダーとしては他に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂、スチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR)、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の高分子樹脂を用いることもできる。なお、正負の電極は、これら高分子樹脂を正極活物質又は負極活物質と混合し、集電体に熱圧着する方法によっても製造することができる。しかし、活物質層形成用のペースト又はスラリーを作製し、集電体上に塗布する方法が一般的であり、製造条件や装置の選定の上で有利であろう。
【0020】
ここで、汎用のPVDF/NMPに基づくペーストでは、厚みのある活物質層を形成し難い場合がある。特に、活物質層がリチウム硫黄電池用の正極材料の場合や、集電材がアルミ箔等の金属板の場合に、その傾向が大である。一方でバインダーとして水系バインダーを用いると、集電材上に十分な厚みの活物質層を形成することができる。例えば、カルボキシメチルセルロースの水系溶液やSBRラテックス等の水系バインダーに正極活物質又は負極活物質を分散させ、得られたペーストをアルミ箔等の集電材上に塗布し、乾燥させることによって、良好な電池特性を与える電極材料とすることが可能である。
【0021】
水系バインダーの種類にも特に制限はなく、公知のものを使用することができる。例として、カルボキシメチルセルロースやSBRラテックスの他に、NBRラテックス、(メタ)アクリルラテックス(エマルジョン)、ポリビニルアルコール、アルギン酸、ゼラチン、キトサンが挙げられるが、これらに限定されない。これらの混合物を使用することもできる。本発明はまた、水系バインダーが、カルボキシメチルセルロース、SBRラテックス、NBRラテックス、(メタ)アクリルラテックス、ポリビニルアルコール、アルギン酸、ゼラチン、及びキトサンからなる群より選択される1種以上の化合物である、リチウム硫黄電池又はリチウムイオン電池をも包含する。なお、「ラテックス」とは一般に、乳状の樹液を始めとする高分子の水系分散体を指すが、広くはそれに基づく製品をも包含する(例えば「ラテックス手袋」等の用語がある。)。本願明細書においても「ラテックス」の語を、活物質層形成用のペーストにおいては前者の意味で、正負の電極における活物質層においては後者の意味で使用する。「水系バインダー」の語についても、同様である。
【0022】
[電解液]
上述したように、従来の電解液を使用するリチウム硫黄電池やリチウムイオン電池では、安全面の課題の他、リチウム塩の析出や多硫化物の溶出といった問題を生じることがあった。また、繰り返し使用後に電池容量が低下する問題も見られた。特に、電極用バインダーとして水系バインダーを用いた場合、電解液の溶媒が不適切だと、組み上がった電池のサイクル特性が低下する問題が生じていた。本発明の電解液においては、フッ素化エーテル、クラウンエーテル、及びジアルコキシエタンを含有する混合有機溶媒に、リチウム(Li)塩を溶解させることにより、そうした問題が抑制される。
【0023】
本発明は特定の理論により限定されるものではないが、本発明の混合有機溶媒が効果を奏する理由として、主成分の一つであるDAEが、適度な比誘電率と極性を示すことが考えられる。例えば1,2-ジメトキシエタンは、比誘電率が7.2と、分子量が同等のジメチルカーボネート(比誘電率:3.1)に比べて大きく、フッ素化エーテル(比誘電率:6~8程度)に近い値を示す。エトキシメトキシエタン(比誘電率:5.72)及び1,2-ジエトキシエタン(比誘電率:5.10)も、同様である。そのため、本発明の混合有機溶媒においても、比誘電率と極性が適度なレベルとなり、リチウム塩の溶解性が確保されている可能性がある。また、DAE、特にジメトキシエタン(DME)等は炭酸エステルに比べて極性が高く、水溶性である。そのため、特に水系バインダーを用いて形成された電極と共に使用される場合にも、電極との相性が良く、水系バインダーが有するヒドロキシ基や残存する水分の悪影響を受け難いと考えられる。その結果として、繰り返し使用後にもリチウム硫黄電池やリチウムイオン電池の容量低下が抑制され、良好なサイクル特性が発現するのではないかと推測している。以下、本発明の電解液の主成分について説明する。
【0024】
[リチウム塩]
本発明の電解液が含有するリチウム(Li)塩にも特に制限はなく、種々の公知のリチウム塩を使用することができる。特に、電池材料で慣用のリチウム塩は、本発明の電解液に好適である。そうしたリチウム塩の例として、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(CFSO)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiN(CSO)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(SOCF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、ペンタフルオロエチルトリフルオロホウ酸リチウム(LiBF(C))、ジオキサレートホウ酸リチウム(LiB(C)、テトラ(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸リチウム(LiB(C)、トリ(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸リチウム(LiPF(C)、ノナフルオロブタンスルホン酸リチウム(LiCSO)、ペルフルオロオクタンスルホン酸リチウム(LiC17SO)、テトラ[3,5-ジ(トリフルオロメチル)フェニル)]ホウ酸リチウム(LiB[C(CF-3,5])、テトラ(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸リチウム(LiB(C)、テトラ[4-(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸リチウム(LiB[C(CF)-4])、及び硝酸リチウム(LiNO)が挙げられるが、これらに限定されない。これら塩を、複数混合して含有していてもよい。
【0025】
[フッ素化エーテル]
本発明の電解液は、混合有機溶媒の成分の一つとしてフッ素化エーテル(フルオロエーテル)を含有する。フッ素化エーテルも公知であり、種々の炭素数及び構造のパーフルオロエーテルやハイドロフルオロエーテルが知られており、市販もされている。本発明の電解液が含有するフッ素化エーテルに特に制限はなく、エーテル分子上の水素原子の一部又は全部がフッ素で置換されたエーテルであれば、どのようなものも使用することができる。水素原子の一部が、塩素や臭素等のフッ素以外のハロゲン原子やフェニル基等で置換されていてもよい。複数種のフッ素化エーテルを併用することもできる。
【0026】
しかしながら本発明においては、フッ素化エーテルとしてハイドロフルオロエーテル(HFE)を含有することが好ましい。特にリチウム硫黄電池用の電解液においては、ハイドロフルオロエーテルをフッ素化エーテルとして含有することにより、リチウム塩の溶解性とのバランスを保持しつつ、電解液中への多硫化物の溶出を十分に抑制することができる。ハイドロフルオロエーテルはまた、入手が容易という利点がある。実際、各種の製品、例えばスリーエムジャパン(株)からNovec(登録商標)の商品名で市販されている。特に、構成元素として炭素(C)、水素(H)、フッ素(F)、及び酸素(O)のみを含有するハイドロフルオロエーテルが好ましい。ハイドロフルオロエーテル分子における水素原子とフッ素原子のモル比にも特に制限はないが、好ましくはH/F比が1/5~2/1、より好ましくは1/3~1/1のものを使用する。また、分子中に2個以上の酸素原子を有するハイドロフルオロエーテルであってもよい。ハイドロフルオロエーテルは、室温~40℃付近で液状である限り、その分子量や炭素原子数に特に制限はないが、好ましくは炭素原子数1~20、より好ましくは2~15、特に好ましくは3~10のものを使用する。また、沸点は30~200℃、特に50~100℃程度の範囲内であることが好ましい。
【0027】
本発明においてフッ素化エーテルは、より好ましくは1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、2-トリフルオロメチル-3-エトキシドデカフルオロヘキサン、1-メチル-2,2,3,4,4,4-ヘキサフルオロブチル(1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピル)エーテル、及び1H,1H,2’H,3H-デカフルオロジプロピルエーテルからなる群より選択される1種以上の溶媒である。これらのハイドロフルオロエーテルを用いることで、電解液中への多硫化物の溶出の抑制と、リチウム塩の溶解性とを、より確実に両立させることができる。特に好ましくは、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテルを使用する。
【0028】
[クラウンエーテル]
本発明の電解液はまた、混合有機溶媒の成分としてクラウンエーテルを含有する。クラウンエーテルは一般式(-CH-CH-O-)で表される環状のエーテルで、様々な種類のものが市販されている。例として、12-クラウン-4-エーテル類、15-クラウン-5-エーテル類、18-クラウン-6-エーテル類が挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも2-クラウン-4-エーテル類及び15-クラウン-5-エーテル類は、凝固点(融点)が概して20℃以下であり、電解液用の溶媒として好ましい。特に12-クラウン-4-エーテル類は、リチウムイオンの包接能に優れるため、本発明の電解液中の有機溶媒成分として有用である。これらクラウンエーテルを用いることで、電解液中への多硫化物の溶出の抑制と、リチウム塩の溶解性の改善とを、バランスよく達成することが可能となる。また、これらクラウンエーテルは、引火点が一般に100℃以上と高く、電解液に多用されるグライム系溶媒に比べて安全性の面でも利点がある。
【0029】
クラウンエーテルはまた、分子内の水素原子の1個以上が、直鎖状、分枝状、環状、特に芳香族系の炭化水素基で置換された修飾物であってもよい。例としてベンゾ-12-クラウン-4-エーテル、ジベンゾ-12-クラウン-4-エーテル、2-ヒドロキシメチル-12-クラウン-4-エーテル、テトラメチル-12-クラウン-4-エーテル、ベンゾ-15-クラウン-5-エーテル、2-ヒドロキシメチル-15-クラウン-5-エーテルを挙げることができるが、これらに限定されない。複数種のクラウンエーテルを併用することもできる。本発明の電解液は、クラウンエーテルとして、特に好ましくはジベンゾ-12-クラウン-4-エーテルを含有する。
【0030】
[ジアルコキシエタン]
本発明の電解液はさらに、混合有機溶媒の成分としてジアルコキシエタン(DAE)を含有する。ジアルコキシエタン自体は公知であり、前記のジメトキシエタン(DME)、エトキシメトキシエタン(EME)、ジエトキシエタン(DEE)の他、ジプロポキシエタン、ジブトキシエタン等が挙げられるが、本発明で使用し得るジアルコキシエタンはこれらに限定されない。複数種のDAEを併用することもできる。好ましくは、DME、EME、及び/又はDEEを含有する。特に、DMEが好ましい。ジメトキシエタンとして、1,1-ジメトキシエタンと1,2-ジメトキシエタンが知られているが、1,2-ジメトキシエタンが一般的であり、本発明においても好ましい。1,2-ジメトキシエタンは沸点82~83℃、融点-58℃の液体で、モノグリム、ジメチルグリコール、エチレングリコールジメチルエーテル、ジメチルセロソルブとも呼ばれる。本発明の電解液は、これらジアルコキシエタンをフッ素化エーテル及びクラウンエーテルと共に含有することにより、安全性が確保されると共に、リチウム塩の析出や多硫化物の溶出を十分に抑制することが可能となる。ジアルコキシエタンの含有により、繰り返し使用に伴う電池容量の低下も抑制される。特に、電極用バインダーとして水系バインダーが用いられた場合にも、サイクル特性等の特性が良好なリチウム硫黄電池やリチウムイオン電池を構成することができる。
【0031】
[混合有機溶媒]
本発明の電解液は、混合有機溶媒の成分として、上述したフッ素化エーテル、クラウンエーテル、及びジアルコキシエタンを含有する。それら有機溶媒の含有比に特に制限はなく、電解質として使用するリチウム塩や、所望の電池特性、正極及び負極の材料等に応じて、任意に設定することができる。これら以外の溶媒、例えばアルコール、ケトン、エステル、炭酸エステル(カーボネートエステル)、ジメトキシプロパン等の上記以外の(フッ素化エーテル、クラウンエーテル、及びジアルコキシエタン以外の)エーテル、ハロゲン化炭化水素等の他の成分を含有していてもよい。ただし、電解液中への多硫化物の溶出の抑制と、リチウム塩の溶解性とを両立させる観点からは、これら他の溶媒の含有率は、混合有機溶媒全体積の10体積%以下、特に5体積%以下とすることが好ましい。本発明の最も好ましい態様においては、混合有機溶媒は、水分等の不可避的に混入する溶媒を除き、フッ素化エーテル、クラウンエーテル、及びジアルコキシエタンのみを、特にフッ素化エーテル、クラウンエーテル、及びジメトキシエタンのみを含有する。
【0032】
本発明の電解液においては、混合有機溶媒中のジアルコキシエタン含有率が、0.1~20.0質量%、特に1~10.0質量%であることが好ましい。本発明の電解液のまた別の好ましい態様においては、上記3種の溶媒を、フッ素化エーテル:クラウンエーテル:ジアルコキシエタンの質量比が1~9:0.1~8:0.05~4、さらには2~7:0.3~4:0.1~2、特に3~6:0.5~2.0:0.2~1.2となる量にて含有する。ここで、クラウンエーテル及びジアルコキシエタンの好ましい質量比の範囲に関して、各上限値及び下限値の対応は任意である。すなわち、クラウンエーテル:ジアルコキシエタンの好ましい質量比は、8:0.05~0.1:4の範囲に及ぶ。これら溶媒の質量比が上記の範囲内であれば、安全性が保たれると共に、電解液中への多硫化物の溶出の抑制と、リチウム塩の溶解性の改善とを、バランスよく、より確実に達成することができる。また、電極形成用のバインダーとして水系バインダーが用いられた場合にも、サイクル特性等がさらに良好なリチウム硫黄電池やリチウムイオン電池を構成することができる。
【0033】
本発明の電解液においては、上記混合有機溶媒にリチウム塩が溶解しているが、その濃度にも特に制限はなく、使用するリチウム塩の種類や所望の電池特性に応じた任意の濃度とすることができる。しかしながら十分な電池特性を発現させる観点から、電解液中のリチウム塩の濃度は、0.1~10M(モル/L)、特に0.3~3M程度とすることが好ましい。
【0034】
本発明の電解液はまた、任意成分として種々の添加剤を含有していてもよい。例えばビニル基含有化合物、γ-ブチロラクトン、エチレンスルフィド、環状スルホン酸エステル、安息香酸メチル、無水コハク酸、ポリジメチルシロキサン、AgPF、Cu(CFSO等の負極又は正極保護膜形成剤;2,4-ジフロロアニソール等の過充電防止剤;リン酸エステル、フォスファゼン類、イミダゾール塩等の難燃性付与剤等を、0.01~5質量%程度、特に0.1~1質量%程度含有させることができる。
【0035】
このように、本発明の電解液は、安全面での問題がなく、リチウム塩の溶解性に優れ、かつ多硫化物の溶出を十分に抑制することができる。そのため、サイクル特性等の特性が良好なリチウム硫黄電池やリチウムイオン電池を構成することが可能である。本発明の電解液は、どのようなリチウム硫黄電池やリチウムイオン電池においてもこうした効果を奏するが、特にリチウム硫黄電池、あるいは電極用バインダーとして水系バインダーを使用した電池で、顕著な効果を発現する。ただし、本発明の電解液は、水系バインダーを使用した電池に適用されるものに限定される訳ではない。非水系バインダーを使用した電池においても、安全面、リチウム塩の溶解性、及び多硫化物溶出抑制の点で優れた効果を有するのは明らかである。
【0036】
本発明はまた、硫黄又は硫化物を含む正極活物質を有する正極と、リチウム(Li)又はリチウム(Li)化合物を含む負極活物質を有する負極と、前記正極と前記負極との間に介在する、上記の電解液とを備えたリチウム硫黄電池;あるいは、正極活物質及び水系バインダーを有する正極、負極活物質を有する負極、及び前記正極と前記負極との間に介在する、上記電解液から成る電解質溶液を備えたリチウム硫黄電池又はリチウムイオン電池;さらに、上記の水系バインダーが、カルボキシメチルセルロース、SBRラテックス、NBRラテックス、(メタ)アクリルラテックス、ポリビニルアルコール、アルギン酸、ゼラチン、キトサンからなる群より選択される1種以上の化合物であるリチウム硫黄電池又はリチウムイオン電池をも包含する。
【実施例0037】
以下、本発明を、実施例に基づきより具体的に説明する。尚、これらの実施例は、本明細書に開示され、また添付の請求の範囲に記載された、本発明の概念及び範囲の理解を、より容易なものとする上で、特定の態様及び実施形態の例示の目的のためにのみ記載するのであって、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
[実施例1]
HFEとして1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、クラウンエーテル(CE)としてベンゾ-12-クラウン-4-エーテル、及びジアルコキシエタン(DAE)として1,2-ジメトキシエタン(DME)を、質量比4:1:0.5で混合した後、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を、濃度が1Mとなるように溶解し、電解液を調製した。
【0039】
別途、硫黄、アセチレンブラック、及び水系バインダーであるカルボキシメチルセルロース(CMC)の各粉末を、質量比2:1:1で混合し、精製水を添加してペースト(スラリー)とした。これをアルミニウム箔に塗布し、乾燥して正極を作製した。
【0040】
調製した電解液、正極、及びリチウム金属の負極を用いてリチウム硫黄電池を作製した。この電池について、電位窓1.0~3.0V、0.1Cにて充放電を行い、北斗電工社製のポテンショスタット/ガルバノスタット HAシリーズを用いて電池特性を測定した。充放電は100サイクル行ったが、多硫化物の溶出が抑制され、100サイクル目にも高い電池容量を示した。また、リチウム塩等の析出も見られず、優れた溶解性が保持されていた。試験結果を、後記する表1に示す。
【0041】
[比較例1]
電解液の混合有機溶媒の組成を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして電解液及び電池の作製と評価を行った。試験結果を、表1に示す。
【0042】
[実施例2]
正極活物質層形成用ペーストとして非水系のバインダーを用いた以外は、実施例1と同様にして電解液及び電池の作製と評価を行った。
硫黄、アセチレンブラック、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)の各粉末を、質量比2:1:1で混合し、N-メチルピロリドン(NMP)を添加してスラリーとした。これをアルミニウム箔に塗布し、乾燥して正極を作製した。
電池特性の試験結果を、表1に示す。
【0043】
[比較例1~4]
電解液の混合有機溶媒の組成を表1に示すように変えた以外は、実施例2と同様の操作を行った。試験結果を、表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
本発明に従い、リチウム塩と共に、溶媒としてフッ素化エーテル、クラウンエーテル、及びジメトキシエタンを含有する電解液を用いた実施例1では、初期電池容量、50~100サイクル目の電池容量の両方が、DAE(DME)不含の比較例1における値より大であった。特に100サイクル目の電池容量では、両者の相違が顕著に表れた。
本発明に従う電解液はまた、正極活物質層形成用ペーストのバインダーが非水系の場合にも、高い電池容量及び良好なサイクル特性を示した(実施例2)。
このように、実施例1及び2の電解液によれば、優れた電池特性が発現し、たとえ正極用バインダーとして水系バインダーが用いられた場合にも、サイクル特性等の特性が良好な電池が得られることが示された。
【0046】
実施例1や2の電解液を用いたリチウム硫黄電池ではまた、多硫化物の溶出やリチウム塩の析出といった問題も生じなかった。また、本発明に従う電解液を用いた場合、正極用バインダーが水系のものであっても、電池容量やサイクル特性等の物性が損なわれないことも明らかとなった。
【0047】
以上より、本発明にしたがう電解液によれば、安全面の問題がなく、リチウム塩の溶解性が確保され、かつ多硫化物の溶出が十分に抑制される上に、たとえ電極形成用のバインダーとして水系バインダーが用いられた場合にも、サイクル特性等の特性が良好なリチウム硫黄電池やリチウムイオン電池を構成できることが示された。