(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092186
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】帯電フィルムおよび摩擦発電機
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20230626BHJP
H02N 1/04 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
C08J5/18
H02N1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207253
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】谷 弘詞
【テーマコード(参考)】
4F071
【Fターム(参考)】
4F071AA26
4F071AA26X
4F071AA27
4F071AA27X
4F071AC19
4F071AE16
4F071AF38Y
4F071AF40Y
4F071AH12
4F071AH19
4F071BA07
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC12
(57)【要約】
【課題】摩擦発電機の出力の向上に寄与する帯電フィルムを提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る帯電フィルム(第1フィルム(1))は、フィルム基体樹脂およびイオン液体を含んでいる帯電フィルムである。イオン液体は、フィルム基体樹脂の重量を基準として、0ppm超、50ppm以下含まれている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム基体樹脂およびイオン液体を含んでいる帯電フィルムであって、
上記イオン液体は、上記フィルム基体樹脂の重量を基準として、0ppm超、50ppm以下含まれている、帯電フィルム。
【請求項2】
上記イオン液体は、イミダゾリウム系カチオンを1種類以上含んでいる、請求項1に記載の帯電フィルム。
【請求項3】
上記イオン液体は、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドおよび1-ベンジル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドからなる群より選択される1種類以上である、請求項2に記載の帯電フィルム。
【請求項4】
上記帯電フィルムの厚さは30μm以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の帯電フィルム。
【請求項5】
上記フィルム基体樹脂は、ポリアミド、ポリイミド、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、塩素系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン樹脂、天然ゴムからなる群より選択される1種類以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の帯電フィルム。
【請求項6】
上記フィルム基体樹脂は、フッ化ビニリデン-三フッ化エチレン共重合体およびポリジメチルシロキサンからなる群より選択される1種類以上である、請求項5に記載の帯電フィルム。
【請求項7】
第1フィルムおよび第2フィルムを備えている摩擦発電機であって、
上記第1フィルムは、請求項1~6のいずれか1項に記載の帯電フィルムであり、
上記第2フィルムは、フィルム基体樹脂を含んでおり、
上記第1フィルムと上記第2フィルムとは、フィルム基体樹脂が互いに異なっており、
上記第1フィルムおよび上記第2フィルムは、互いに対向して配置されている、
摩擦発電機。
【請求項8】
上記第2フィルムは、請求項1~6のいずれか1項に記載の帯電フィルムである、請求項7に記載の摩擦発電機。
【請求項9】
上記第2フィルムのフィルム基体樹脂はポリアミドである、請求項7または8に記載の摩擦発電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電フィルムおよび摩擦発電機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、摩擦発電機の研究開発が進められている。摩擦発電機とは、2つの帯電体の摩擦によって発生する帯電電荷の間の電位差を利用して、外部負荷に電流を流す発電機である。摩擦発電機の出力は、帯電電荷量および電位差により決定される。
【0003】
このうち、電位差を増加させる方法として、特許文献1は、マトリクスおよび粒子を有する誘電体層において、粒子の比誘電率をマトリクスの比誘電率より高くした摩擦発電機を開示している。摩擦電荷を増加させる方法として、非特許文献1は、摩擦帯電層にアルミナ粒子を含有させることを提案している。同様に、非特許文献2は、帯電層であるポリフッ化ビニリデンにイオン液体を10重量%程度混合することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sequential Infiltration Synthesis of Doped Polymer Films with Tunable Electrical Properties for Efficient Triboelectric Nanogenerator Development, Advanced Materials, 2015, 27(33), pp 4938-4944
【非特許文献2】Enhancing the output performance of fluid-based triboelectric nanogenerator by using poly(vinylidene fluoride-co-hexafluoropropylene)/ionic liquid nanoporous membrane, Int J Energy Res. 2021;45:8960-8970
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような従来技術は、帯電部材の機械特性に改善の余地が残されていた。すなわち、帯電フィルムに添加物を加えると、その添加量が増えるにしたがって帯電フィルムが硬くなったり柔らかくなったりする。特許文献1は比誘電率の高い粒子、非特許文献1はアルミナ粒子、非特許文献2はイオン液体を比較的多く含ませた帯電フィルムを開示している。これらの帯電フィルムは、添加物の存在により機械特性がフィルム基体樹脂から変化していると考えられ、この点に改善の余地が残されていた。
【0007】
また、帯電体の構成は検討が尽くされておらず、出力を向上させた摩擦発電機を開発する余地が残されていた。
【0008】
本発明の一態様は、機械特性がフィルム基体樹脂と大きく変わらない帯電フィルムおよびそれを用いた摩擦発電機を提供することを目的とする。本発明の他の態様は、摩擦発電機の出力の向上に寄与する帯電フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る帯電フィルムは、
フィルム基体樹脂およびイオン液体を含んでいる帯電フィルムであって、
上記イオン液体は、上記フィルム基体樹脂の重量を基準として、0ppm超、50ppm以下含まれている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、機械特性がフィルム基体樹脂と大きく変わらない帯電フィルムおよびそれを用いた摩擦発電機が提供される。本発明の他の態様によれば、摩擦発電機の出力の向上に寄与する帯電フィルムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一態様に係る摩擦発電機の構成の概略を表す模式図である。
【
図2】本発明の一態様に係る摩擦発電機の推定作用機構を表す模式図である。
【
図3】実施例で作製した摩擦発電機の構成の概略を表す模式図である。
【
図4】実施例1で作製した摩擦発電機の発電波形である。イオン液体濃度は0ppmである。
【
図5】実施例1で作製した摩擦発電機の発電波形である。イオン液体濃度は3ppmである。
【
図6】実施例1で作製した摩擦発電機の発電波形である。イオン液体濃度は27ppmである。
【
図7】実施例1で作製した摩擦発電機の発電波形である。イオン液体濃度は134ppmである。
【
図8】実施例1で作製した摩擦発電機において、イオン液体の添加量を横軸に、発電波形における正電圧最大値(黒丸)および負電圧最大値(白丸)を縦軸にとったグラフである。
【
図9】実施例1で作製した摩擦発電機において、負荷抵抗により消費される電力を表すグラフである。
【
図10】帯電フィルムに含まれるイオン液体の濃度と、帯電フィルムの比誘電率との関係を表すグラフである。
【
図11】実施例2で作製した摩擦発電機において、帯電フィルムの膜厚を横軸に、発電波形における正電圧最大値(黒丸)および負電圧最大値(白丸)を縦軸にとったグラフである。
【
図12】実施例3で作製した摩擦発電機において、イオン液体の添加量を横軸に、発電波形における正電圧最大値(黒丸)および負電圧最大値(白丸)を縦軸にとったグラフである。実施例1とは、イオン液体の種類が異なっている。
【
図13】実施例3で作製した摩擦発電機において、負荷抵抗により消費される電力を表すグラフである。実施例1とは、イオン液体の種類が異なっている。
【
図14】実施例4で作製した摩擦発電機において、イオン液体の添加量を横軸に、発電波形における正電圧最大値(黒丸)および負電圧最大値(白丸)を縦軸にとったグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は下記の実施形態に限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組合せた実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0013】
本明細書において、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0014】
〔1.帯電フィルム〕
本発明の一態様に係る帯電フィルムは、フィルム基体樹脂およびイオン液体を含んでいる。この帯電フィルムにおけるイオン液体の濃度は、フィルム基体樹脂の重量を基準として、0ppm超、50ppm以下である。
【0015】
[1.1.フィルム基体樹脂]
フィルム基体樹脂は、帯電フィルムのマトリクスを構成する樹脂である。フィルム基体樹脂の素材は特に限定されず、本技術分野で用いられる樹脂が採用できる。フィルム基体樹脂は、1種類の樹脂のみから構成されていてもよいし、2種類以上の樹脂から構成されていてもよい。
【0016】
一実施形態において、フィルム基体樹脂は、ポリアミド(ナイロンなど);ポリイミド;ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレンなど);ポリエステル(ポリエチレンテレフタレートなど);ポリカーボネート(ポリジフェニルカーボネートなど);ポリウレタン;ビニル系樹脂(ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールなど);アクリル系樹脂(ポリメチルメタクリレートなど);塩素系樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ポリエーテル、ポリクロロプレンなど);フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン単位を有する共重合体など);シリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサンなど);天然ゴムからなる群より選択される1種類以上である。
【0017】
本明細書において、上述したフィルム基体樹脂は、コポリマーであってもよい。例えば、「ポリアミド」とは、主鎖を構成する繰り返し単位のうち50重量%以上(好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上)がポリアミドである樹脂でありうる。「ポリアミド」の主鎖を構成する繰り返し単位のうち、50重量%以下(好ましくは30重量%以下、より好ましくは10重量%以下)は、ポリアミド以外の構造であってよい。例示されている他の樹脂も、同様に、コポリマーであってもよい。
【0018】
一実施形態において、フィルム基体樹脂は、フッ化ビニリデン-三フッ化エチレン共重合体およびポリジメチルシロキサンからなる群より選択される1種類以上である。
【0019】
[1.2.イオン液体]
イオン液体とは、アニオンおよびカチオンを含んでおり、100℃において(好ましくは20℃において)液体である物質である。帯電フィルムに含まれているイオン液体の種類は、特に限定されない。帯電フィルムに含まれているイオン液体は、1種類だけであってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0020】
イオン液体を構成するカチオンの例としては、イミダゾリウム系カチオン、ピロリジニウム系カチオン、ピリジニウム系カチオン、ピペリジニウム系カチオン、アンモニウム系カチオン、ホスホニウム系カチオン、スルホニウム系カチオンが挙げられる。それぞれのカチオンの構造は、下記に示す通りである。
【0021】
【0022】
式中、R1~R4は独立に、C1~30の炭化水素基であり、好ましくはC1~C20の炭化水素基であり、より好ましくはC1~C10の炭化水素基である。炭化水素基の例としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、シクロアルキニル基、アリール基、アルキルアリール基が挙げられる。
【0023】
一実施形態において、イオン液体は、イミダゾリウム系カチオンを含んでいる。一実施形態において、イオン液体は、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムカチオンおよび1-ベンジル-3-メチルイミダゾリウムカチオンから選択される1種類以上を含んでいる。
【0024】
イオン液体を構成するアニオンの例としては、Br-、Cl-、I-、B(C2O4)2
-、BF4-、[B(CN)4]-(TCBとも)、CF3COO-、CF3SO3
-、HSO4
-、CH3SO4
-、CH3SO3
-、CH3CH2OSO3
-、CH3(OCH2CH2)2OSO3
-、C6H4CH3SO3
-、C(CN)3
-、SCN-、(NC)2N-、(FSO2)2N-(FSIとも)、(CF3SO2)2N-(TFSIとも)、(C2F5SO2)2N-、PF6
-、[P(C2F5)3F3]-(FAPとも)、FeCl4
-、AlCl4
-が挙げられる。
【0025】
一実施形態において、イオン液体は、TFSIを含んでいる。
【0026】
イオン液体の具体例としては、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-ベンジル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドが挙げられる。一実施形態において、イオン液体は、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドおよび1-ベンジル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドからなる群より選択される1種類以上である。
【0027】
また、市販のイオン液体を使用してもよい。市販のイオン液体の例としては、イオン液体変性オリゴマーX-40-2450(信越化学株式会社、シリコーン系)が挙げられる。
【0028】
イオン液体は、フィルム基体樹脂との相溶性が高いものを選択することが好ましい。そのためには、イオン液体は、フィルム基体樹脂と類似した構造を有していることが好ましい。このようなイオン液体を選択すれば、フィルム基体樹脂からのブリードアウトを低減できる。
【0029】
帯電フィルムに含まれているイオン液体の濃度の下限は、フィルム基体樹脂の重量を基準として、0ppm超であり、0.5ppm以上が好ましく、1ppm以上がより好ましく、2ppm以上がさらに好ましい。帯電フィルムに含まれているイオン液体の濃度の上限は、フィルム基体樹脂の重量を基準として、50ppm以下であり、40ppm以下が好ましく、30ppm以下がより好ましく、20ppm以下がさらに好ましい。
【0030】
イオン液体の濃度を上記の範囲とすることにより、帯電フィルムを用いた摩擦発電機の発電特性を向上できる。例えば、帯電フィルムの帯電電荷量を増加できる。あるいは、摩擦発電機の出力電力を向上できる。
【0031】
また、イオン液体の濃度を上記の範囲とすることは、帯電フィルムの機械特性をフィルム基体樹脂と同等に保つことにも寄与する。従来技術において、帯電フィルムに添加物(イオン液体、フィラー粒子など)を添加するとすれば、数重量%~十数重量%オーダーが一般的であった(例えば、非特許文献2を参照)。しかし、このように多量の添加物を添加すると、フィルム基体樹脂の本来の物性が大きく変化する傾向にある。そのため、帯電フィルムの硬さや耐熱性が低下する傾向にあった。これに対して本発明では、イオン液体の添加量が遥かに少ない。そのため、上述のような短所を克服できるのだと考えられる。これに関連して、イオン液体は耐熱性の高い物質であり、フィルム基体樹脂の溶融温度においても分解しにくい。この点においても、イオン液体は、帯電フィルムの添加物として優れている。
【0032】
すなわち、発明者は、帯電フィルムに添加する添加物、その割合、構成などを種々検討した結果、フィルム基体樹脂の重量を基準とするイオン液体の添加量をごく微量に制御することにより、フィルム基体樹脂が本来有する機械特性を大きく変化させることなく、摩擦発電機の出力特性を大幅に向上できることを見出した。
【0033】
[1.3.帯電フィルムの形状および製造方法]
帯電フィルムは、フィルム基体樹脂およびイオン液体を材料として、従来公知の方法により製造できる。例を挙げると、以下の通りである。
・方法1:フィルム基体樹脂およびイオン液体を、溶媒または分散媒と混合してスラリーを形成させる。得られたスラリーを塗布して、フィルム状に成形する。その後、溶媒または分散媒を除去する。
・方法2:加熱して溶融したフィルム基体樹脂と、イオン液体とを混合する。得られた混合物をフィルム上に成形する。
・方法3:多孔質のフィルムを、低濃度のイオン液体溶液に浸漬する。
・方法4:イオン液体を加熱して蒸発させる。蒸発したイオン液体を、多孔質フィルムに吸着させる。
【0034】
本発明者らが見出したところによると、イオン液体の添加量を一定とすると、帯電フィルムの膜厚がある点を超えたときに、摩擦発電機の発電特性が向上し始める(実施例2を参照)。発電特性の向上が始まる膜厚は、イオン液体の添加量が多いと薄くなり、添加量が少ないと厚くなると考えられる。帯電フィルムの膜厚は、30μm以上が好ましく、35μm以上がより好ましく、40μm以上がさらに好ましい。
【0035】
帯電フィルムの膜厚の上限は、例えば、100μm以下または200μm以下でありうる。膜厚の上限が上記の範囲であれば、摩擦により生じた電荷の移動時間が長くなりすぎないので、出力の安定に時間がかかり過ぎる事態を防止できる。また、摩擦面から電極までの距離が大きくなりすぎないので、充分な誘導電荷が得られる。
【0036】
〔2.摩擦発電機〕
本発明の一態様は、〔1〕節で説明した帯電フィルムを備えている摩擦発電機である。以下、
図1を参照しながら摩擦発電機の構造の概略を説明する。
【0037】
摩擦発電機10は、第1フィルム1および第2フィルム2を備えている。第1フィルム1および第2フィルム2は、それぞれ電極3に接続されている。2つある電極3の間は、外部付加Rを介して電気的に接続されている。2つある電極3の間の電位差により、外部付加Rに電流が流れ、電気エネルギーが発生する。
【0038】
[2.1.第1フィルムおよび第2フィルム]
第1フィルム1は、〔1〕節で説明した帯電フィルムである。したがって、第1フィルム1は、フィルム基体樹脂およびイオン液体を含んでおり、イオン液体の含有量は、フィルム基体樹脂の重量を基準として0ppm超50ppm以下である。
【0039】
第2フィルム2は、フィルム基体樹脂を含んでいる。第2フィルム2は、〔1〕節で説明した帯電フィルムであってもよいし、そうでなくともよい。第2フィルム2は、イオン液体を含んでいないフィルムであってもよいし、イオン液体を含んでいるフィルムであってもよい。第2フィルム2がイオン液体を含んでいる場合、イオン液体の含有量は、フィルム基体樹脂の重量を基準として0ppm超50ppm以下であってもよいし、50ppm超であってもよい。好ましくは、第2フィルム2は、〔1〕節で説明した帯電フィルムである。
【0040】
第2フィルム2に含まれているフィルム基体樹脂、および第2フィルム2に含まれうるイオン液体については、〔1〕節で説明した通りであるため、再度の記載を省略する。第2フィルム2がイオン液体を含んでいる場合、第2フィルム2に含まれているイオン液体の種類は、第1フィルム1に含まれているイオン液体の種類と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0041】
摩擦発電機10においては、第1フィルム1と第2フィルム2とが接触および離反を繰り返すことにより、電荷が蓄積される。そのため、第1フィルム1のフィルム基体樹脂と、第2フィルム2のフィルム基体樹脂とは、互いに異なっている。そのため、第1フィルム1のフィルム基体樹脂と、第2フィルム2のフィルム基体樹脂とは、帯電列において離れている物質の組合せとすることが好ましい。帯電列において、正または負に帯電しやすい物質の例としては、以下が挙げられる。
・正に帯電しやすい物質:ポリアミド、レーヨン、ウール、セルロースナノファイバー
・負に帯電しやすい物質:ポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合体
【0042】
一実施形態において、第2フィルム2は、〔1〕節で説明した帯電フィルムである。一実施形態において、第2フィルム2のフィルム基体樹脂は、ポリアミドである。ポリアミドは帯電列において最も正に帯電しやすい物質の一つであるため、摩擦発電機の発電特性を向上させる目的に適していると考えられる。一実施形態において、第1フィルム1のフィルム基体樹脂はフッ化ビニリデン-三フッ化エチレン共重合体であり、第2フィルム2のフィルム基体樹脂はポリアミドである。一実施形態において、第1フィルム1のフィルム基体樹脂はポリジメチルシロキサンであり、第2フィルム2のフィルム基体樹脂はポリアミドである。
【0043】
[2.2.電極]
電極3は、電気伝導性が高い材料から構成されている。このような材料の例としては、金属(アルミニウム、銅、銀、金、白金、鉄、ニッケル、クロム、モリブデン、インジウムなど)および金属合金;半導体(ドープしたシリコンなど);金属酸化物(酸化インジウムスズ(ITO)など);導電性高分子(PEDOT-PSSなど)が挙げられる。
【0044】
[2.3.推定作用機構]
以下、本発明の一態様の推定作用機構について、
図2を参照しながら説明する。ただし、この説明は、本発明の一態様の理解の一助とすることを目的としている。そのため、この説明は、特許請求の範囲に記載された発明の範囲を限定的に解釈する根拠とはならない。
【0045】
第1フィルム1にイオン液体を添加しない場合(
図2a)、摩擦帯電により発生した電荷は、第1フィルム1の表面近傍のみに留まる。第1フィルム1に蓄積された電荷によって、電極3には誘導電荷が生じる。誘導電荷が電流として外部付加Rに流れることにより、電気エネルギーが取り出される。
【0046】
一方、第1フィルム1にごく少量のイオン液体5を添加すると(
図2b)、第1フィルム1の内部にも、電荷を捕捉するサイトが形成される(第1フィルム1は非導電体である樹脂製であるので、イオン液体5を添加しないとこのようなサイトは形成されない)。その結果、摩擦帯電により発生した電荷は、第1フィルム1の表面近傍のみならず、内部にも分布するようになる。つまり、第1フィルム1全体としての帯電電荷量が増加する。さらに、第1フィルムの内部にも帯電電荷が存在するため、電荷と電極までの距離が短くなり、誘導電荷の発生量も多くなる。
【0047】
なお、第1フィルム1に添加するイオン液体5の量が多過ぎると、第1フィルム1の導電性が向上し、摩擦帯電で発生した電荷が第1フィルム1の内部を通過して電極に移動してしまうと考えられる。その結果、摩擦発電機10の発電効率は低下する。
【0048】
また、イオン液体の添加量を一定とすると、第1フィルム1の膜厚がある点を超えたときに摩擦発電機の発電特性が向上し始める現象については、以下のように説明できる。すなわち、イオン液体の添加量を一定であるとき、第1フィルム1の導電性は、膜厚が厚いほど低く、薄いほど高くなる。上述した通り、導電性が高くなりすぎると摩擦発電機10の発電効率が低下するので、第1フィルム1の膜厚はある程度厚い方が好ましい。
【0049】
〔3.摩擦発電機以外の帯電フィルムの用途〕
本発明の一態様に係る帯電フィルムの用途は、摩擦発電機に限定されない。例えば、エアコンに備えられている空気清浄装置には、帯電フィルムが用いられることがある。本発明の一態様に係る帯電フィルムは、フィルム基体樹脂と同等の機械特性を有しており、また帯電特性も高いので、このような用途にも好適に用いられる。
【0050】
〔4.まとめ〕
本発明には、以下の態様が含まれている。
<1>
フィルム基体樹脂およびイオン液体を含んでいる帯電フィルムであって、
上記イオン液体は、上記フィルム基体樹脂の重量を基準として、0ppm超、50ppm以下含まれている、帯電フィルム。
<2>
上記イオン液体は、イミダゾリウム系カチオンを1種類以上含んでいる、<1>に記載の帯電フィルム。
<3>
上記イオン液体は、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドおよび1-ベンジル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドからなる群より選択される1種類以上である、<2>に記載の帯電フィルム。
<4>
上記帯電フィルムの厚さは30μm以上である、<1>~<3>のいずれかに記載の帯電フィルム。
<5>
上記フィルム基体樹脂は、ポリアミド、ポリイミド、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、塩素系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン樹脂、天然ゴムからなる群より選択される1種類以上である、<1>~<4>のいずれかに記載の帯電フィルム。
<6>
上記フィルム基体樹脂は、フッ化ビニリデン-三フッ化エチレン共重合体およびポリジメチルシロキサンからなる群より選択される1種類以上である、<5>に記載の帯電フィルム。
<7>
第1フィルムおよび第2フィルムを備えている摩擦発電機であって、
上記第1フィルムは、<1>~<6>のいずれかに記載の帯電フィルムであり、
上記第2フィルムは、フィルム基体樹脂を含んでおり、
上記第1フィルムと上記第2フィルムとは、フィルム基体樹脂が互いに異なっており、
上記第1フィルムおよび上記第2フィルムは、互いに対向して配置されている、
摩擦発電機。
<8>
上記第2フィルムは、<1>~<6>のいずれかに記載の帯電フィルムである、<7>に記載の摩擦発電機。
<9>
上記第2フィルムのフィルム基体樹脂はポリアミドである、<7>または<8>に記載の摩擦発電機。
【0051】
本発明は、上述した各実施形態には限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態に開示されている技術的手段を組合せて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲の内にある。
【実施例0052】
以下に、本発明の一実施形態を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0053】
〔摩擦発電機の構成〕
図3を参照しながら、実施例で使用した摩擦発電機の構成を説明する。摩擦発電機10は、第1フィルム1、第2フィルム2、および電極3を備えている。第1フィルム1としては、本発明の一実施形態に係る帯電フィルムを用いた。第1フィルム1の詳細な構成は、各実施例の項目にて説明する。第2フィルム2としては、ポリアミドフィルム(厚さ:15μm)を用いた。電極3としては、導電性不織布を用いた。
【0054】
より具体的には、シリコーンゴムA(厚さ:1mm)に電極3を貼付し、電極3に第1フィルム1または第2フィルム2を貼付して、摩擦発電機10を構成した。シリコーンゴムAの表面には、高さ:0.5mm、直径:1.5mmの円柱状の凹凸が形成されていた。2つある電極3の間は、50MΩの負荷抵抗を介して接続した。
【0055】
〔実施例1〕
フッ化ビニリデン-三フッ化エチレン共重合体(PVDF-TFE)をフィルム基体樹脂とし、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(構造は下記を参照)をイオン液体とする帯電フィルムを作製し、第1フィルム1として使用した。帯電フィルムに添加するイオン液体の濃度を変化させ、摩擦発電機10の性能を評価した。
【0056】
【0057】
[帯電フィルムの作製]
以下の工程により、帯電フィルムを作製した。
1. ジメチルアセトアミドにPVDF-TFE(FC20、Piezotech)を加えた。PVDF-TFEの濃度は、100ppmであった。
2. 超音波洗浄器を用いて、PVDF-TFE完全に分散させた。このときの温度は40℃であった。
3. 得られた分散液にイオン液体を加え、すり鉢で混合してスラリーを調製した。このとき、イオン液体の濃度は、PVDF-TFEの重量に対して0ppm、2ppm、3ppm、14ppm、27ppm、64ppmまたは134ppmとした。
4. ガラス板にアルミ箔を貼付し、その上にスラリーをブレードコーティングした。このときのフィルムの膜厚は、40μmであった。
5. フィルムをアルミ箔ごと真空デシケータ内で30分保管し、その後さらに24時間以上自然乾燥させた。
6. 乾燥させたフィルムをアルミ箔から剥離させ、帯電フィルムを得た。帯電フィルムの厚みをマイクロメータで測定したところ、約40μmであった。
【0058】
[摩擦発電機の性能評価]
作製した帯電フィルムを第1フィルム1として用い、摩擦発電機10を組立てた。シリコーンゴムAに対して、2Hzの周期で荷重の負荷および除荷を繰返した。その間における負荷抵抗両端の間の電圧をオシロスコープで観察し、摩擦発電機10の発電波形を得た。
【0059】
[結果]
代表例として、イオン液体の濃度が0ppm、3ppm、27ppmおよび134ppmであったときの発電波形を、
図4~7に示す。これらの図から分かるように、イオン濃度に応じて出力電圧は大きく変化した。
【0060】
図8に、イオン液体の添加量を横軸に、発電波形における正電圧最大値(黒丸)および負電圧最大値(白丸)を縦軸にとったグラフを示す。また、
図9に、負荷抵抗により消費される電力を示す。これらの図から分かるように、出力電圧および出力電力は、イオン液体の添加に伴い増加を始め、イオン液体濃度が3~5ppmのときに最大値を示し、その後はイオン液体濃度の上昇に伴って減少した。イオン液体濃度が3ppmのときの出力電力は、イオン液体濃度が0ppmの時の出力電力の約4倍に達した。
【0061】
実施例1の結果から、イオン液体濃度が0ppm超50ppm以下(好ましくは、2ppm以上20ppm以下)の範囲ならば、摩擦発電機10の発電特性が向上することが示唆される。
【0062】
〔参考例〕
実施例1で作製した帯電フィルムの帯電特性の向上が、比誘電率の変化に起因するものでないことを確認した。具体的には、電極接触法によりLCRメータを用いて電極間のキャパシタンスを測定し、その結果から比誘電率を推定した。イオン液体の濃度は、0ppm、5ppm、10ppm、15ppm、20ppm、30ppm、40ppmまたは50ppmとした。
【0063】
[結果]
結果を
図10に示す。
図10から分かるように、イオン液体濃度を変化させても、比誘電率は約10~約15の範囲に収まり、ほとんど変化がなかった。このことから、帯電フィルムにイオン液体を少量添加しても、比誘電率の変化はないか、極めて小さいと考えられる。
【0064】
なお、PVDF-TFEの比誘電率は、カタログ値では11であるのに対し、イオン液体濃度が0ppmのときの実際の測定値は11よりも若干大きかった。これは、電極間に存在する空気膜の影響による誤差だと考えられる。
【0065】
〔実施例2〕
帯電フィルムの膜厚を変化させ、摩擦発電機10の性能を評価した。具体的には、実施例1と同様の工程により、膜厚が10μm、25μmまたは40μmの帯電フィルムを作製した。イオン液体の濃度は、3ppmとした。作製した帯電フィルムを第1フィルム1として用い、実施例1と同様に摩擦発電機10の発電波形を得た。
【0066】
[結果]
図11に、帯電フィルムの膜厚を横軸に、発電波形における正電圧最大値(黒丸)および負電圧最大値(白丸)を縦軸にとったグラフを示す。
図11から分かるように、膜厚が40μmのときには、出力電圧が向上していた。
【0067】
実施例2の結果から、イオン液体の添加量を一定としたとき、帯電フィルムの膜厚を一定以上(例えば、30μm以上)に厚くすると、摩擦発電機10の発電特性を向上できることが示唆される。
【0068】
〔実施例3〕
イオン液体を1-ベンジル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(構造はは下記を参照)に変更して、実施例1と同様に摩擦発電機10を組立てた。帯電フィルムに添加するイオン液体の濃度を変化させ、摩擦発電機10の性能を評価した。イオン液体の濃度は、0ppm、6ppm、15ppm、39ppm、78ppm、163ppmまたは530ppmとした。
【0069】
【0070】
[結果]
図12に、イオン液体の添加量を横軸に、発電波形における正電圧最大値(黒丸)および負電圧最大値(白丸)を縦軸にとったグラフを示す。また、
図13に、負荷抵抗により消費される電力を示す。これらの図から分かるように、正電圧はイオン液体の添加に伴う変化が小さいものの、負電圧はイオン液体の添加に伴い増加した。出力電力は、イオン液体濃度が約5ppmのときに最大値を示し、その後はイオン液体濃度の上昇に伴って減少した。
【0071】
実施例3の結果から、異なるイオン液体(とりわけ、イミダゾリウム系カチオンを含んでいるイオン液体)を添加した場合にも、摩擦発電機10の発電特性が向上することが示唆される。
【0072】
〔実施例4〕
ポリジメチルシロキサンをフィルム基体樹脂とし、シリコーン系のイオン液体を添加した帯電フィルムを作製し、第1フィルム1として使用した。帯電フィルムに添加するイオン液体の濃度を変化させ、摩擦発電機10の性能を評価した。
【0073】
[帯電フィルムの作製]
以下の工程により、帯電フィルムを作製した。
1. シリコーンゴムKE-12(信越化学工業株式会社)に、硬化剤を加えた。
2. イオン液体としてイオン液体変性オリゴマーX-40-2450(信越化学工業株式会社、シリコーン系)をさらに加え、混合および真空脱泡した。イオン液体の濃度は、シリコーンゴムの重量に対して、0ppm、4ppm、13ppmまたは42ppmとした。
3. 得られた溶液を、導電性不織布表面にコーターを用いて塗布した。このときの膜厚は、40μmであった。
4. 得られた積層体を用いて、実施例1と同様に摩擦発電機を作製し、性能を評価した。
【0074】
[結果]
図14に、イオン液体の添加量を横軸に、発電波形における正電圧最大値(黒丸)および負電圧最大値(白丸)を縦軸にとったグラフを示す。
図14から分かるように、イオン液体の添加量が13ppmのときに、イオン液体を添加しない場合の約2倍の出力電圧が得られた。この結果から、異なるフィルム基体樹脂を用いた場合にも、摩擦発電機10の発電特性を向上できることが示唆される。
【0075】
〔実施例の結果まとめ〕
以上のように、イオン液体の添加量を、フィルム基体樹脂の重量を基準として0ppm超、50ppm以下とすることにより、機械特性がフィルム基体樹脂と大きく変わらない帯電フィルムが得られた。また、この帯電フィルムを用いた摩擦発電機は、出力が向上していた。すなわち、特定の材料を特定の数値範囲で含有することにより(ごく微量のイオン液体を用いることにより)、特別な技術的特徴が得られる。