(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092196
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】皮膚角層中のフェニルアラニンを指標とする肌の総合力の評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20230626BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20230626BHJP
A61B 5/1455 20060101ALN20230626BHJP
A61B 5/16 20060101ALN20230626BHJP
A61B 5/00 20060101ALN20230626BHJP
【FI】
G01N33/50 Q
G01N33/68
A61B5/1455
A61B5/16 100
A61B5/00 101A
A61B5/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207267
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】宮永 美帆
(72)【発明者】
【氏名】前野 克行
(72)【発明者】
【氏名】本山 晃
【テーマコード(参考)】
2G045
4C038
4C117
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045CB09
2G045DA36
2G045FA29
4C038KK01
4C038KL05
4C038KL07
4C038PP00
4C038PS00
4C117XA01
4C117XB01
4C117XC40
4C117XD05
4C117XE03
(57)【要約】
【課題】被験体の皮膚の状態を、侵襲性が低い手段により、簡便で、かつ客観的に評価する方法を提供する。
【解決手段】被験体における肌の総合力を評価する方法であって、
(a)前記被験体の皮膚の角層におけるフェニルアラニンの含有量を測定する工程、
(b)工程(a)で得られたフェニルアラニンの含有量に基づいて、前記被験体における体内の抗酸化力、肌の血色感および自律神経機能からなる群から選択される1種以上の生理状態の指標を評価する工程、および
(c)工程(b)で得られた評価結果に基づいて、前記被験体の肌の総合力を評価する工程を含んでなる、方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体における肌の総合力を評価する方法であって、
(a)前記被験体の皮膚の角層におけるフェニルアラニンの含有量を測定する工程、
(b)工程(a)で得られたフェニルアラニンの含有量に基づいて、前記被験体における体内の抗酸化力、肌の血色感および自律神経機能からなる群から選択される1種以上の生理状態の指標を評価する工程、および
(c)工程(b)で得られた評価結果に基づいて、前記被験体の肌の総合力を評価する工程
を含んでなる、方法。
【請求項2】
工程(a)が、
(a1)前記被験体の皮膚へのテープの貼付および剥離により得られた前記被験体由来の角層を用意する工程、および
(a2)工程(a1)で得られた角層におけるフェニルアラニンの含有量を測定する工程
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
体内の抗酸化力の指標が、血中の抗酸化能(PAO)である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
肌の血色感の指標が、腕または頬の血中酸素飽和度指数(Hb SO2 Index)である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
自律神経機能の指標が、自律神経活動度(CVRR)である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法において使用するための評価キットであって、皮膚角層におけるフェニルアラニンの含有量を測定するための器具または試薬を含んでなる、評価キット。
【請求項7】
被験体における体内の抗酸化力、肌の血色感および自律神経機能からなる群から選択される1種以上の生理状態の指標を評価する方法であって、
(a)前記被験体の皮膚の角層におけるフェニルアラニンの含有量を測定する工程、および
(b)工程(a)で得られたフェニルアラニンの含有量に基づいて、前記被験体における体内の抗酸化力、肌の血色感および自律神経機能からなる群から選択される1種以上の生理状態の指標を評価する工程
を含んでなる、方法。
【請求項8】
工程(a)が、
(a1)前記被験体の皮膚へのテープの貼付および剥離により得られた前記被験体由来の角層を用意する工程、および
(a2)工程(a1)で得られた角層におけるフェニルアラニンの含有量を測定する工程
を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
体内の抗酸化力の指標が、血中の抗酸化能(PAO)である、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
肌の血色感の指標が、腕または頬の血中酸素飽和度指数(Hb SO2 Index)である、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
自律神経機能の指標が、自律神経活動度(CVRR)である、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項7~11のいずれか一項に記載の方法において使用するための評価キットであって、皮膚角層におけるフェニルアラニンの含有量を測定するための器具または試薬を含んでなる、評価キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚角層中のフェニルアラニンを指標とする肌の総合力の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
香粧品分野において、皮膚の状態を、官能評価のみに頼らず、物理機器を用いた生理指標の測定等により客観的に評価することは、非常に有用である。
【0003】
この生理指標としては、例えば、被験者の体内の抗酸化力により皮膚の状態を評価すること(非特許文献1)、被験者の肌の血色感により皮膚の状態を評価すること(非特許文献2)、被験者の自律神経機能により皮膚の状態を評価すること(非特許文献3)等が、代表的なものとして広く知られている。
【0004】
一方で、体内の抗酸化力の測定は、採尿や採血といった被験者にとって負荷が大きい方法での生体試料の採取が必要となる。加えて、これらの試料は直前の食事や行動の影響を受けやすいため、被験者の状態を正確に知るためには、食事制限や行動制限も必要となる。
【0005】
肌の血色感の測定は、一般的には肌の画像を取得して解析する方法等により行われる。しかし、この方法には専用機器が必要になるため、測定には被験者の試験実施場所への来訪が必要となる。また、肌の色は温湿度等の環境、直前の食事、行動の影響を受けやすく、被験者の状態を正確に測定するためには、食事制限や行動制限を行い、恒温恒湿室で一定時間順化することも必要となる。
【0006】
自律神経機能の測定は、一般的には指尖脈波を解析する方法等により行われる。しかし、この方法もまた、専用機器が必要であるため、測定には被験者の試験実施場所への来訪が必要となる。また、自律神経は直前の行動や精神状態に大きく影響を受けるため、測定前の一定時間の被験者の安静、測定中の被験者の安静、音や匂い等を考慮した測定に適した環境等が必要となる。
【0007】
したがって、被験者の皮膚の状態を、より侵襲性が低い手段により、簡便に、かつ客観的に評価する方法が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本未病システム学会雑誌、2007,13(1):10-13
【非特許文献2】J.Soc.Cosmet.Chem.Japan.,2004,38(3):202-210
【非特許文献3】J Otolaryngol Jpn 100.,1997:457-466
【発明の概要】
【0009】
本発明は、被験体の皮膚の状態を、より侵襲性が低い手段により、簡便に、かつ客観的に評価する方法を提供する。
【0010】
本発明者らは、驚くべきことに、被験体の皮膚の角層におけるフェニルアラニンの含有量を測定することにより、前記被験体における体内の抗酸化力、肌の血色感および自律神経機能からなる群から選択される1種以上の生理状態の指標を評価でき、それにより前記被験体の肌の総合力を評価できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0011】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)被験体における肌の総合力を評価する方法であって、
(a)前記被験体の皮膚の角層におけるフェニルアラニンの含有量を測定する工程、
(b)工程(a)で得られたフェニルアラニンの含有量に基づいて、前記被験体における体内の抗酸化力、肌の血色感および自律神経機能からなる群から選択される1種以上の生理状態の指標を評価する工程、および
(c)工程(b)で得られた評価結果に基づいて、前記被験体の肌の総合力を評価する工程
を含んでなる、方法。
(2)工程(a)が、
(a1)前記被験体の皮膚へのテープの貼付および剥離により得られた前記被験体由来の角層を用意する工程、および
(a2)工程(a1)で得られた角層におけるフェニルアラニンの含有量を測定する工程
を含む、(1)に記載の方法。
(3)体内の抗酸化力の指標が、血中の抗酸化能(PAO)である、(1)または(2)に記載の方法。
(4)肌の血色感の指標が、腕または頬の血中酸素飽和度指数(Hb SO2 Index)である、(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)自律神経機能の指標が、自律神経活動度(CVRR)である、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)(1)~(5)のいずれかに記載の方法において使用するための評価キットであって、皮膚角層におけるフェニルアラニンの含有量を測定するための器具または試薬を含んでなる、評価キット。
(7)被験体における体内の抗酸化力、肌の血色感および自律神経機能からなる群から選択される1種以上の生理状態の指標を評価する方法であって、
(a)前記被検体の皮膚の角層におけるフェニルアラニンの含有量を測定する工程、および
(b)工程(a)で得られたフェニルアラニンの含有量に基づいて、前記被験体における体内の抗酸化力、肌の血色感および自律神経機能からなる群から選択される1種以上の生理状態の指標を評価する工程
を含んでなる、方法。
(8)工程(a)が、
(a1)前記被験体の皮膚へのテープの貼付および剥離により得られた前記被験体由来の角層を用意する工程、および
(a2)工程(a1)で得られた角層におけるフェニルアラニンの含有量を測定する工程
を含む、(7)に記載の方法。
(9)体内の抗酸化力の指標が、血中の抗酸化能(PAO)である、(7)または(8)に記載の方法。
(10)肌の血色感の指標が、腕または頬の血中酸素飽和度指数(Hb SO2 Index)である、(7)~(9)のいずれかに記載の方法。
(11)自律神経機能の指標が、自律神経活動度(CVRR)である、(7)~(10)のいずれかに記載の方法。
(12)(7)~(11)のいずれかに記載の方法において使用するための評価キットであって、皮膚角層におけるフェニルアラニンの含有量を測定するための器具または試薬を含んでなる、評価キット。
【0012】
本発明によれば、被験体の皮膚の状態を、侵襲性が低い手段により、簡便に、かつ客観的に評価する方法が提供される。また、本発明によれば、被験体の皮膚の状態を評価するための生理指標を、侵襲性が低い手段により、簡便に、かつ客観的に評価する方法を提供することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、被験体の皮膚の角層におけるフェニルアラニンの含有量および血中の抗酸化能(PAO)の相関関係を表す。
【
図2】
図2は、被験体の皮膚の角層におけるフェニルアラニンの含有量および腕の血中酸素飽和度指数(Hb SO2 Index)の相関関係を表す。
【
図3】
図3は、被験体の皮膚の角層におけるフェニルアラニンの含有量および頬の血中酸素飽和度指数(Hb SO2 Index)の相関関係を表す。
【
図4】
図4は、被験体の皮膚の角層におけるフェニルアラニンの含有量および自律神経活動度(CVRR)の相関関係を表す。
【発明の具体的説明】
【0014】
本発明によれば、被験体における肌の総合力を評価する方法であって、(a)前記被験体の皮膚の角層におけるフェニルアラニンの含有量を測定する工程、(b)工程(a)で得られたフェニルアラニンの含有量に基づいて、前記被験体における体内の抗酸化力、肌の血色感および自律神経機能からなる群から選択される1種以上の生理状態の指標を評価する工程、および(c)工程(b)で得られた評価結果に基づいて、前記被験体の肌の総合力を評価する工程を含んでなる、方法、が提供される。
【0015】
本発明の被験体は、限定されるわけではないが、ヒト、チンパンジーを含む霊長類、イヌ、ネコなどのペット動物、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギなどの家畜動物、マウス、ラットなどの齧歯類等の哺乳動物を意味し、好ましくはヒトである。また、本発明の被験体は、好ましくは健常者である。ここで健常者とは、疾患、例えばアトピー性皮膚炎等の皮膚疾患に罹患していないものを意味する。
【0016】
本発明の肌の総合力とは、測定時点での被験体の健康的な肌を構成する心身の状態であり、0~100のスコアで表される。スコアが高いほど被験体の健康的な肌を構成する心身の状態が良好であること、低いほど被験体の健康的な肌を構成する心身の状態が不良であることを意味する。肌の総合力のスコアは、皮膚の角層中のフェニルアラニンの含有量に基づいて、体内の抗酸化能、肌の血色感、自律神経機能等の生理指標を評価、予測することにより算出される。この肌の総合力のスコアに応じて、被験体の適切なスキンケアやライフスタイルについて設定、助言等を行ってもよい。
【0017】
一般的に、皮膚は外側から表皮,真皮,皮下組織に分けられ,表皮は更に細胞の分化の程度により角質層,顆粒層,有棘層,基底層に分けられる。本発明の角層とは角質層のことを意味する。通常、角層は主に角層細胞により構成され、角層細胞が何層にも幾重に重なった構造をしている。角層細胞の重なりの程度や角層の厚みは体の各部位により異なる。
【0018】
本発明の工程(a)は、被験体の皮膚の角層におけるフェニルアラニンの含有量を測定する工程であれば特に限定されないが、(a1)前記被験体の皮膚へのテープの貼付および剥離により得られた前記被験体由来の角層を用意する工程、および(a2)工程(a1)で得られた角層におけるフェニルアラニンの含有量を測定する工程、を含む工程であることが好ましい。本発明による工程(a1)においては、皮膚へのテープの貼付および剥離を被験体の身体上の同一の場所で複数回行って、被験体由来の角層を用意することが好ましく、皮膚へのテープの貼付および剥離を被験体の身体上の同一の場所で、1回~10回行って被験体由来の角層を用意することがより好ましく、5回行って、被験体由来の角層を用意することがより好ましい。皮膚への貼付および剥離により得られたテープは、特に限定されるわけではないが、1回目および2回目の貼付および剥離により得られたテープは除いて、被験体由来の角層を用意することが好ましい。例えば、テープの皮膚への貼付および剥離を5回行う場合、1回目および2回目に貼付および剥離を行い得たテープを除いた、3~5回目に貼付および剥離を行い得たテープを被験体由来の角層として用意することが好ましい。
【0019】
本発明のフェニルアラニンの含有量の測定は、公知の方法により行ってもよく、限定されるわけではないが、例えば、アミノ酸アナライザー、HPLCやLC-MSなどの機器を用いた方法、蛍光分析法等により行ってもよい。本発明の一つの実施態様によれば、本発明の方法はin vitroで実施される。
【0020】
本発明の方法により、被験体において、フェニルアラニンの含有量に基づいて、体内の抗酸化力、肌の血色感および自律神経機能からなる群から選択される1種以上の生理状態の指標を評価することができる。また、体内の抗酸化力、肌の血色感および自律神経機能からなる群から選択される1種以上の生理状態の指標の評価結果から、被験体の肌の総合力を評価することもできる。
【0021】
本発明において「体内の抗酸化力」とは、生体内に存在する過酸化水素H2O2やヒドロキシラジカル、OH-、スーパーオキサイド、O3-等のフリーラジカル、活性酸素を消去する能力を意味する。抗酸化力を有する物質は一般的に抗酸化物質とよばれ、過剰なフリーラジカル、活性酸素を除去する働きを有する。これらのフリーラジカル、活性酸素には体内に侵入してきた細菌などを排除する作用があるが、一方で過剰に発生すると人間の体を酸化させ、動脈硬化、ガン、生活習慣病、老化等の原因となりうることが知られている。本発明の方法によれば、被験体の皮膚の角層におけるフェニルアラニンの含有量に基づいて、体内の抗酸化力を評価することができる。このようにして評価される体内の抗酸化力の指標は、例えば、生物学的試料に含まれる抗酸化物質の還元能として、抗酸化能(PAO)測定値、CUPRAC法、DPPH法、FRAP法、ORAC法、TRAP法等を用いた測定値でもよく、抗酸化能(PAO)測定値であることが好ましい。この抗酸化能(PAO)測定値は、例えば、抗酸化能測定キット「PAO」(日研ザイル社日本老化制御研究所製)を用いて測定されるものである。
【0022】
本発明において「肌の血色感」は、皮膚が病的な状態でなく、健常な状態で明るく赤みがかっている程度を意味し、例えば、炎症等の皮膚の異常によって皮膚が赤みががっている場合は、これに含まない。肌の血色感は、例えば、色差の測定、血中酸素飽和度指数(Hb SO2 Index)の測定等の公知の方法に従って測定されるものである。本発明における血中酸素飽和度指数(Hb SO2 Index)とは、酸素と結合した血液中のヘモグロビン(Hb)の割合を意味し、この値が高いと血液は鮮明な赤色に、低いと暗赤色になり、肌の色に反映される。本発明の方法によれば、被験体の皮膚の角層におけるフェニルアラニンの含有量に基づいて、肌の血色感を評価することができる。このようにして評価される肌の血色感の指標は、血中酸素飽和度指数(Hb SO2 Index)であることが好ましい。被験体において肌の血色感を評価する部位は、特に限定されるわけではないが、腕、または頬であることが好ましい。血中酸素飽和度指数(Hb SO2 Index)は、例えば、分光測色計を用いて測定されるものである。
【0023】
本発明の方法によれば、被験体の皮膚の角層におけるフェニルアラニンの含有量に基づいて、自律神経機能を評価することができる。このようにして評価される自律神経機能の指標は、自律神経活動度であることが好ましい。本発明における自律神経活動度は、交感神経及び副交感神経の活動の強度を示す指標を意味し、自律神経活動度の値が大きいほど自律神経活動の強度が大きいことを示す。自律神経活動度は、被験体の脈波に基づいて算出してもよく、心電図におけるR波と次のR波との間隔(RR間隔)の所定時間における変動の大きさを表すRR間隔変動係数(Coefficient of Variation of RR-interval;CVRR)の値である。自律神経活動度(CVRR)は、例えば、脈波測定器を用いて測定されるものである。
【0024】
本発明は、上述の被験体の皮膚の角層におけるフェニルアラニンの含有量を測定するための器具または試薬を含んでなる、本発明の方法を実施するための評価キットも提供する。
【実施例0025】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。含有量は特記しない限り、質量%で示す。
【0026】
角層中のフェニルアラニンの含有量の測定
角層中のフェニルアラニンの含有量を以下の工程を含む方法により測定した。
【0027】
(ヒト皮膚における角層の回収)
被験者48名の前腕内側部位の皮膚の角層を、角層テープ(直径22mm、D-Squame(商標)Standard Sample Disc、D100、CuDerm Co.,USA)を用いて剥離した。角層テープは各部位より5枚ずつ採取し、表層から数えて3~5層目までを分析に供した。
【0028】
(タンパク定量)
SquameScan 850A(Heiland electronic GmbH)を用いて、3~5層目の角層を剥離した角層テープの単位面積当たりのタンパク質の含有量(μg/cm2)を近赤外分光測定にて測定した。
【0029】
(試験検体の前処理)
3~5層目の角層を剥離したテープをスクリュー管(20mL)に入れ、5%エタノール水溶液を0.2mL加え、室温で10分間、超音波処理を行い、上清を角層抽出液とした。
【0030】
(標準溶液の調製)
アミノ酸混合標準液H型(富士フイルム和光純薬(株))を各アミノ酸濃度が2.5μmol/mLになるように調製し、標準溶液を作成した。
【0031】
(内部標準液の調製)
APDSタグ(商標)ワコー用アミノ酸内部標準混合液キット(富士フイルム和光純薬(株))の付属品を用いて内部標準液を作成した。
【0032】
(標準検体の調製)
APDSタグ(商標)ワコー用ほう酸緩衝液155μL、標準溶液20μL、内部標準液20μL、APDSタグ(商標)ワコー用アミノ酸内部標準混合液キット(富士フイルム和光純薬(株))の付属品のAPDSタグ試験液5μLを混合し、Vortexで数秒攪拌し、60℃、15分間反応させ、室温まで冷却したものを標準検体とし、以下表1に示す分析条件でLC-MS/MS測定に供した。
【0033】
(試験検体の調製)
APDSタグ(商標)ワコー用ほう酸緩衝液155μL、角層抽出液20μL、内部標準液20μL、APDSタグ(商標)ワコー用アミノ酸内部標準混合液キット(富士フイルム和光純薬(株))の付属品のAPDSタグ試験液5μLを混合し、Vortexで数秒攪拌し、60℃、15分間反応させ、室温まで冷却したものを試験検体とし、以下表1に示す分析条件でLC-MS/MS測定に供した。
【0034】
【0035】
(データ解析)
標準検体のピーク面積比(アミノ酸/内部標準物質)を用いて、原点を通した検量線を作成し、試験検体のピーク面積比(Analyte/内部標準物質)を検量線に当てはめて、試験検体におけるフェニルアラニンの含有量を算出した。得られたフェニルアラニンの含有量を角層テープのタンパク質の含有量で補正し、得られた値を最終定量値(角層中のフェニルアラニンの含有量)とした。最終定量値は次の計算式、「試験検体におけるフェニルアラニンの含有量(μmol/mL)」×0.2(抽出溶媒量mL)/3.7994(テープ面積cm2)/「角層テープのタンパク量の含有量(μg/cm2)」により求めた。
【0036】
血中における抗酸化力の測定
被験者48名の血中における抗酸化力を評価した。被験者より採血を行い、得られた血液を室温で30分間放置した後、遠心分離処理(2000g、10分)することによって血清を得た。得られた血清における血清総抗酸化能(Potential Anti Oxidant)を、抗酸化能測定キット「PAO」(日研ザイル社日本老化制御研究所製)を用いて測定し、得られた値を血中の抗酸化力とした。なお、測定手順については各キットの添付書を参考に実施した。
【0037】
腕および頬における血色感(Hb SO2 Index)の測定
被験者48名の頬および前腕内側部における血中酸素飽和度指数(Hb SO2 Index(%))を測定し、肌の血色感を評価した。Hb SO2 Indexは、分光測色計(CM-700d、コニカミノルタ社製)を直接被験者の頬および前腕内側部に接触させて測定し、測定結果を解析ソフトウェア(CM-SA、コニカミノルタ社製)で解析することにより得た。測定は、各被験者の同一箇所について7回実施した。7回の測定のうちHb SO2 Indexが最大または最小となった測定回を除いた5回分の各値の平均値を算出し、得られた値を各被験者の腕および頬における肌の血色感とした。
【0038】
自律神経機能(CVRR)の測定
被験者48名の脈波情報を基に自律神経機能(CVRR)を評価した。脈波情報の測定・解析はBITAS-PULSEADVANCE(資生堂版、人間と科学の研究所社製)を用いて行った。BITAS-PULSEADVANCEの脈波センサ部を被験者の指に装着し、被験者の安静状態での脈波を70秒間測定した。測定終了後、BITAS-PULSEADVANCEにより測定結果の解析を行い、得られた値を被験者の自律神経機能(CVRR)とした。
【0039】
統計処理
血中における抗酸化力(PAO)、腕および頬における血色感(Hb SO2 Index)、ならびに自律神経機能(CVRR)と、角層中のフェニルアラニンの含有量との相関を調べた。角層中のフェニルアラニンの含有量とPAO、角層中のフェニルアラニンの含有量と腕におけるHb SO2 Index、角層中のフェニルアラニンの含有量と頬におけるHb SO2 Index、および角層中のフェニルアラニンの含有量とCVRR、をそれぞれ散布図に表し、相関係数を算出した。結果を表2および
図1~4に示す。
【0040】
【0041】
以上の結果から、前記4種全ての生理指標は、フェニルアラニン含有量と弱い正の相関を示すことがわかった。したがって、対象の皮膚角層中のフェニルアラニン含有量を測定することにより、血中における抗酸化力(PAO)、腕および頬における血色感(Hb SO2 Index)、および自律神経機能(CVRR)を評価でき、また、これらの評価結果等に基づいて肌の総合力を評価できることが示された。