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特開2023-92214マルチビーム半導体レーザ素子およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092214
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】マルチビーム半導体レーザ素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/22 20060101AFI20230626BHJP
【FI】
H01S5/22 610
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207301
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】奥村 忠嗣
(72)【発明者】
【氏名】坂井 繁太
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AA08
5F173AD06
5F173AP05
5F173AP23
5F173AR99
(57)【要約】
【課題】複数の発振波長を有する半導体レーザを、容易に、あるいは安価に製造する。
【解決手段】端面発光型のマルチビーム半導体レーザ素子100において、積層構造130は、基板110、n型クラッド層122、発光層124、p型クラッド層126を含む。積層構造130は、基板110とn型クラッド層122を合わせた高さが、第1方向に隣接するm個(m≧2)の領域において異なっている。m個の領域のうちn個(2≦n≦m)に、第1方向と垂直な第2方向に伸びるリッジストライプ構造のn個のレーザ共振器140が形成される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
端面発光型のマルチビーム半導体レーザ素子であって、
基板、第1導電型クラッド層、発光層、第2導電型クラッド層を含む積層構造を備え、
前記積層構造は、前記基板と前記第1導電型クラッド層を合わせた高さが、第1方向に隣接するm個(m≧2)の領域ごとに異なっており、
前記m個の領域のうちn個(2≦n≦m)に、前記第1方向と垂直な第2方向に伸びるリッジストライプ構造のn個のレーザ共振器が形成され、前記n個のレーザ共振器のうち、少なくとも2個の発振波長が異なることを特徴とするマルチビーム半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記基板の厚さが、前記m個の領域ごとに異なることを特徴とする請求項1に記載のマルチビーム半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記m個の領域は、隣接する第1領域、第2領域、第3領域を含み、
前記第2領域の前記基板の厚さは、前記第1領域および前記第3領域の前記基板の厚さよりも大きく、
前記第1領域および前記第3領域それぞれに、前記レーザ共振器が形成されることを特徴とする請求項2に記載のマルチビーム半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記第1領域の前記発光層および前記第3領域の前記発光層が、前記第2領域における前記基板の表面より低い高さに位置することを特徴とする請求項3に記載のマルチビーム半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記基板は、前記レーザ共振器の発振波長の光を吸収する材料であることを特徴とする請求項4に記載のマルチビーム半導体レーザ素子。
【請求項6】
前記基板は、前記レーザ共振器の発振波長が580~900nmの範囲である場合はGaAsを含み、前記発振波長が360nm以下である場合はGaNを含むことを特徴とする請求項5に記載のマルチビーム半導体レーザ素子。
【請求項7】
前記第1領域の前記基板の厚さと前記第3領域の前記基板の厚さは異なることを特徴とする請求項3に記載のマルチビーム半導体レーザ素子。
【請求項8】
前記m個の領域は、
前記第1領域に対して前記第2領域とは反対に隣接する第4領域と、
前記第3領域に対して前記第2領域とは反対に隣接する第5領域と、をさらに含み、
前記第1領域と前記第3領域の幅が異なることを特徴とする請求項3に記載のマルチビーム半導体レーザ素子。
【請求項9】
前記第2領域に、前記リッジストライプ構造を有するレーザ共振器がさらに形成されることを特徴とする請求項3に記載のマルチビーム半導体レーザ素子。
【請求項10】
前記第2領域の前記レーザ共振器の発振波長は、前記第1領域および前記第3領域の前記レーザ共振器の発振波長よりも長いことを特徴とする請求項9に記載のマルチビーム半導体レーザ素子。
【請求項11】
前記m個の領域ごとに前記第1導電型クラッド層の厚さが異なることを特徴とする請求項1に記載のマルチビーム半導体レーザ素子。
【請求項12】
前記第2領域に、前記第2方向に伸びる分離溝がさらに形成されることを特徴とする請求項3から9のいずれかに記載のマルチビーム半導体レーザ素子。
【請求項13】
隣接するレーザ共振器の間に、前記レーザ共振器の発振波長の光を吸収する半導体、または金属が配置されることを特徴とする請求項1に記載のマルチビーム半導体レーザ素子。
【請求項14】
端面発光型のマルチビーム半導体レーザ素子の製造方法であって、
基板と第1導電型クラッド層を含む下地構造体を形成するステップであって、前記下地構造体の厚さは、第1方向に隣接するm個(m≧2)の領域ごとに異なっているステップと、
前記下地構造体の上に、発光層および第2導電型クラッド層を形成するステップと、
前記m個の領域のうちn個(2≦n≦m)に、前記第1方向と垂直な第2方向に伸びるリッジストライプ構造のn個のレーザ共振器を形成するステップと、
を備えることを特徴とする製造方法。
【請求項15】
前記下地構造体を形成するステップは、
前記基板に前記第2方向に伸びる溝を形成するステップと、
前記溝が形成された前記基板の上に、前記第1導電型クラッド層を形成するステップと、
を含むことを特徴とする請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記溝を形成するステップは、幅が異なる複数の溝を形成するステップを含むことを特徴とする請求項15に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マルチビーム半導体レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
高出力な端面発光型レーザとして、複数のリッジストライプ型のレーザ共振器がモノリシックに集積化されるマルチビーム半導体レーザが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4501359号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Electron Lett., Vol. 30, no.23 pp.1947-1948, Nov. 1994.
【非特許文献2】IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics, vol. 9, Issue:5, Sept.-Oct. 2003
【非特許文献3】Japanese Journal of Applied Physics, Volume 42, Number 5B
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(課題1)
マルチビーム半導体レーザを、ディスプレイ用光源などに利用する場合、マルチビームの波長が同一であると、ビーム間の干渉により、ファーフィールドパターン(FFP)に好ましくない強度分布(干渉縞)が現れ、ビーム品質が低下するという問題がある。ビーム品質の問題を解決するために、複数チャンネルの発振波長を意図的にシフトさせる必要がある。
【0006】
端面発光型のレーザは、第1導電型クラッド層、発光層、第2導電型クラッド層の積層構造を有しており、レーザ共振器の発振波長は、主として、発光層のサイズや、発光層の組成によって決まる。したがって異なる発振波長を有する複数のレーザ共振器をモノリシックに形成するためには、共振器毎に選択成長を行うか、あるいは再成長を繰り返す必要がある。
【0007】
選択成長は、AlGaInPなど、Al組成の高い混晶材料では難しい。具体的には、Al組成が高いと、選択性が低く、選択マスク上にポリ結晶が堆積しやすいという問題がある。また再成長プロセスを採用する場合、コストアップは避けられない。
【0008】
非特許文献1~3には、波長をシフトさせるための技術がいくつか提案されているが、いずれも垂直共振器面発光型レーザに関するものであり、端面発光型レーザに適用できるものではない。
【0009】
(課題2)
マルチビーム半導体レーザ素子は、隣接するチャンネル間の光の漏れ(光のクロストーク)が、ビーム品質に悪影響を及ぼす。隣接するチャンネル間の光の漏れを遮断するために、分離溝を設ける技術が提案されている(特許文献1)。
【0010】
分離溝は、光のクロストークを抑制することができるが、それと引き換えに、横方向の熱伝導を妨げるため、エミッタに熱がこもりやすくなる。半導体レーザは、温度が高くなると、出力特性(発光効率)が低下するため、分離溝は、チャンネル間の出力特性のばらつきの原因となりうる。
【0011】
本開示のある態様はかかる状況においてなされたものであり、その例示的な目的のひとつは、上述の課題の少なくともひとつを解決可能なマルチビーム半導体レーザ素子およびその製造方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示のある態様は、端面発光型のマルチビーム半導体レーザ素子に関する。マルチビーム半導体レーザ素子は、基板、第1導電型クラッド層、発光層、第2導電型クラッド層を含む積層構造を備える。積層構造は、基板と第1導電型クラッド層を合わせた高さが、第1方向に隣接するm個(m≧2)の領域ごとに異なっている。m個の領域のうちn個(2≦n≦m)に、第1方向と垂直な第2方向に伸びるリッジストライプ構造のn個のレーザ共振器が形成され、n個のレーザ共振器のうち、少なくとも2個の発振波長が異なっている。
【0013】
本開示の別の態様は、端面発光型のマルチビーム半導体レーザ素子の製造方法に関する。この製造方法は、基板と第1導電型クラッド層を含む下地構造体を形成するステップであって、下地構造体の厚さは、第1方向に隣接するm個(m≧2)の領域ごとに異なっているステップと、下地構造体の上に、発光層および第2導電型クラッド層を形成するステップと、m個の領域のうちn個(2≦n≦m)に、第1方向と垂直な第2方向に伸びるリッジストライプ構造のn個のレーザ共振器を形成するステップと、を備える。
【0014】
なお、以上の構成要素を任意に組み合わせたもの、本開示の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0015】
本開示のある態様によれば、上述の課題の少なくともひとつを解決できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】マルチビーム半導体レーザ素子の概略斜視図である。
図2】実施例1に係るマルチビーム半導体レーザ素子の断面図である。
図3図2のマルチビーム半導体レーザ素子の放熱を説明する図である。
図4図2のマルチビーム半導体レーザ素子における放熱性の改善を説明する図である。
図5図5(a)~(f)は、図2のマルチビーム半導体レーザ素子の製造方法を示す図である。
図6】実施例2に係るマルチビーム半導体レーザ素子の断面図である。
図7図7(a)~(d)は、図6のマルチビーム半導体レーザ素子の製造方法を示す図である。
図8】実施例3に係るマルチビーム半導体レーザ素子の断面図である。
図9図9(a)~(g)は、変形例に係るマルチビーム半導体レーザ素子の簡略化した断面図である。
図10】変形例2に係るマルチビーム半導体レーザ素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、または、実施形態の基本的な理解を目的としている。同概要は、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。またこの概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、実施形態の欠くべからざる構成要素を限定するものではない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0018】
一実施形態に係る端面発光型のマルチビーム半導体レーザ素子は、基板、第1導電型クラッド層、発光層、第2導電型クラッド層を含む積層構造を備える。積層構造は、基板と第1導電型クラッド層を合わせた高さが、第1方向に隣接するm個(m≧2)の領域ごとに異なっており、m個の領域のうちn個(2≦n≦m)に、第1方向と垂直な第2方向に伸びるリッジストライプ構造のn個のレーザ共振器が形成され、n個のレーザ共振器のうち、少なくとも2個の発振波長が異なる。
【0019】
本発明者らは、高さが異なる構造体(以下、下地構造体という)を下地として、発光層を成膜すると、下地構造体の凹凸に応じて結晶成長の条件、具体的には、ガスの流速、ひいては成膜レートや組成が決まることを独自に認識し、この認識にもとづいて本開示をなした。すなわち、基板とn型クラッド層の厚さを領域ごとに不均一とすることで、領域ごとに発光層の成長条件が異なることとなり、発振波長の異なる複数のレーザ共振器を容易に形成することができる。
【0020】
一実施形態において、m個の領域ごとに、基板の厚さが異なっていてもよい。つまり、基板の表面は非平坦であってもよく、第1方向にわたって凹凸を有してもよい。なお、本明細書において、基板の表裏は、レーザ共振器が形成される側を表、その反対側を裏とする。
【0021】
この場合、基板に凹凸を形成した後に、第1導電型クラッド層、発光層、第2導電型クラッド層を結晶成長させればよいため、複数回に分けた結晶成長プロセスが不要となり、製造コストを下げることができる。
【0022】
一実施形態において、第1領域の基板の厚さと第3領域の基板の厚さは異なっていてもよい。
【0023】
これにより、第1領域と第3領域における発光層の成膜レートが異なることとなり、発振波長をシフトさせることができる。
【0024】
一実施形態において、m個の領域は、隣接する第1領域、第2領域、第3領域を含んでもよい。第2領域の厚さは、第1領域および第3領域の厚さよりも大きく、第1領域および第3領域それぞれに、レーザ共振器が形成されてもよい。
【0025】
第2領域は下地構造体の凸部に対応し、第1領域および第3領域は、下地構造体の凹部に対応する。この構成では凸部である第2領域の基板によって、第1領域および第3領域に形成される2個のレーザ共振器を熱的および/または光学的にアイソレート(分離)することができる。
【0026】
一実施形態において、第1領域の発光層および第3領域の発光層が、第2領域における基板の表面より低い高さに位置してもよい。
【0027】
これにより、第1領域の発光層で生ずる熱と、第3領域の発光層で生ずる熱は、第2領域の基板に伝導することとなり、発光層の温度上昇を抑制できる。
【0028】
一実施形態において、基板は、レーザ共振器の発振波長の光を吸収する材料であってもよい。
【0029】
これにより、基板によって隣接するレーザ共振器の光学的なカップリングを抑制できる。
【0030】
一実施形態において、基板は、発振波長が580~900nmの範囲である場合はGaAsを含み、発振波長が360nm以下である場合はGaNを含んでもよい。「材料Aを含む」とは、材料Aそのものを含む場合に限定されず、材料Aの化合物を含む場合や、材料Aに不純物やその他の材料をドープした材料を含む場合などを含みうる。
【0031】
一実施形態において、m個の領域は、第1領域に対して第2領域とは反対に隣接する第4領域と、第3領域に対して第2領域とは反対に隣接する第5領域と、をさらに含んでもよい。第1領域と第3領域の幅が異なってもよい。
【0032】
第1領域と第3領域の幅を制御することで、第1領域と第3領域における発光層の結晶成長の条件(ガスの流量)を制御することができ、ひいてはレーザ共振器の発振波長を制御できる。
【0033】
一実施形態において、第2領域に、リッジストライプ構造を有するレーザ共振器がさらに形成されてもよい。
【0034】
発光層の結晶成長に際して、凸部に対応する第2領域と、凹部に対応する第1領域および第3領域とでは、結晶成長の条件が異なることとなる。これにより、異なる3波長を容易に実現できる。
【0035】
一実施形態において、第2領域のレーザ共振器の発振波長は、第1領域および第3領域のレーザ共振器の発振波長よりも長くてもよい。
【0036】
凸部と凹部の成膜レートの違いによって、凸部に対応する第2領域には、凹部に対応する第1領域および第3領域に比べて、長波長のレーザ共振器が自動的に形成されることとなる。凸部に対応する第2領域は、放熱の観点からは凹部に対応する第1領域、第3領域に比べて不利であるが、長波長のレーザは、短波長のレーザに比べて温度の影響を受けにくい。したがって、複数のレーザ共振器の温度が不均一となっても、温度差に起因する出力の不均一性を解消できる。
【0037】
一実施形態において、m個の領域ごとに第1導電型クラッド層の厚さが異なってもよい。
【0038】
基板の厚さが領域ごとに異なる場合に比べて、第1導電型クラッド層の厚さを制御するプロセスが必要であるが、発光層を選択成長させる場合に比べれば格段に容易である。
【0039】
一実施形態において、第2領域に、第2方向に伸びる分離溝がさらに形成されてもよい。第2領域に分離溝を形成することで、第1領域のレーザ共振器および第3領域のレーザ共振器から基板に向かう横方向の熱伝導を妨げることなく、複数のレーザ共振器を電気的に分離できる。
【0040】
一実施形態において、隣接するレーザ共振器の間に、レーザ共振器の発振波長の光を吸収する半導体、または金属が配置されてもよい。
【0041】
一実施の形態に係る端面発光型のマルチビーム半導体レーザ素子の製造方法は、基板と第1導電型クラッド層を含む下地構造体を形成するステップであって、下地構造体の厚さは、第1方向に隣接するm個(m≧2)の領域ごとに異なっているステップと、下地構造体の上に、発光層および第2導電型クラッド層を形成するステップと、m個の領域のうちn個(2≦n≦m)に、第1方向と垂直な第2方向に伸びるリッジストライプ構造のn個のレーザ共振器を形成するステップと、を備える。
【0042】
この方法によれば、発光層は、凹凸を有する下地層(以下、下地構造体ともいう)の上に結晶成長することとなり、各領域の結晶成長の条件(ガスの流量など)は、下地構造体の凹凸に応じて決まる。これにより、n個のレーザ共振器の発振波長を、容易に異ならしめることが可能となる。
【0043】
一実施形態において、下地構造体を形成するステップは、基板に第2方向に伸びる溝を形成するステップと、溝が形成された基板の上に、第1導電型クラッド層を形成するステップと、を含んでもよい。この場合、基板に凹凸を形成した後に、第1導電型クラッド層、発光層、第2導電型クラッド層を結晶成長させればよいため、複数回に分けた結晶成長プロセスが不要となり、製造コストを下げることができる。
【0044】
一実施形態において、溝を形成するステップは、幅が異なる複数の溝を形成するステップを含んでもよい。溝の幅を制御することで、各溝における発光層の結晶成長の条件(ガスの流量、流速、濃度など)を制御することができ、ひいては各溝に形成されるレーザ共振器の発振波長を制御できる。
【0045】
(実施形態)
以下、本開示を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、開示を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも開示の本質的なものであるとは限らない。
【0046】
図面に記載される各部材の寸法(厚み、長さ、幅など)は、理解の容易化のために適宜、拡大縮小されている場合がある。さらには複数の部材の寸法は、必ずしもそれらの大小関係を表しているとは限らず、図面上で、ある部材Aが、別の部材Bよりも厚く描かれていても、部材Aが部材Bよりも薄いこともあり得る。
【0047】
図1は、マルチビーム半導体レーザ素子100の概略斜視図である。マルチビーム半導体レーザ素子100は、端面発光型であり、第1方向(図中、x方向)に隣接する複数(n個(n≧2))のエミッタ102_1~102_nから、複数のビームBM1~BMnを出射可能に構成される。1個のビームに対応する構成や機能を、チャンネルとも称する。
【0048】
マルチビーム半導体レーザ素子100は、n個ビームに対応するn個のレーザ共振器140_1~140_nを備え、ひとつのチップ(ダイ)にモノリシックに形成されている。n個のレーザ共振器140_1~140_nは、第2方向(図中、y方向)に伸びるリッジストライプ構造を有する。リッジストライプ構造は、後述するように、n型(第1導電型)クラッド層、発光層、p型(第2導電型)クラッド層を含む結晶層(エピ層)のうち、p型クラッド層を部分的に除去することにより形成したものである。リッジストライプ構造を、単にリッジ、あるいはリッジ構造とも称する。隣接する2個のレーザ共振器140の間には、バンク(図1に不図示)が形成されてもよい。
【0049】
以上がマルチビーム半導体レーザ素子100の基本構造である。本実施形態において、n個のレーザ共振器140_1~140_nは異なる発振波長λ~λを有している。発振波長λ~λはすべて異なることが好ましいが、その中のいくつかは同じ波長を有してもよい。以下、実施形態に係るマルチビーム半導体レーザ素子100の具体的な構成について、いくつかの実施例をもとに説明する。
【0050】
(実施例1)
図2は、実施例1に係るマルチビーム半導体レーザ素子100Aの断面図である。マルチビーム半導体レーザ素子100Aは、積層構造130を備える。積層構造130は、基板110、n型クラッド層122、発光層(活性層ともいう)124、p型クラッド層126を含む。後述のように、n型クラッド層122、発光層124、p型クラッド層126は、エピタキシャル成長により形成され、これらの積層をレーザ多層構造120と称する。なお、マルチビーム半導体レーザ素子100Aは、基板110の裏面に形成される電極や、p型クラッド層126の上側に形成される電極あるいはコンタクト層を含みうるが、図2では省略している。
【0051】
積層構造130は、基板110とn型クラッド層122の合計(これら2層の積層を下地構造体132と称する)の高さhが、第1方向(x方向)に隣接するm個(m≧2)の領域A~Aにおいて異なっている。図2では、説明の簡素化および理解の容易化を目的として、m=3の場合を説明する。実際には、第1領域Aの左側には別の領域が存在してもよく、第3領域Aの右側には別の領域が存在してもよい。
【0052】
i番目の領域Aの、基板110の厚さをt、n型クラッド層122の厚さをdと表記する。高さhは、基板110の厚さtと、n型クラッド層122の厚さdを合わせた高さである。
=t+d
【0053】
本実施例では、n型クラッド層122の厚さd~dは実質的に均一であり、基板110の厚さt~tが、3個の領域A~Aにおいて不均一となっている。具体的には、中央の第2領域Aの基板110の厚さtが、それを挟む第1領域Aおよび第3領域Aの基板110の厚さt、tより大きくなっており、したがって合計の高さhは、h,hよりも大きい。
【0054】
m個の領域のうちn個(2≦n≦m)に、第1方向(本実施例におけるx軸方向)と垂直な第2方向(本実施例におけるy軸方向)に伸びるリッジストライプ構造のn個のレーザ共振器140_1,140_nが形成される。本実施例では、n=2であり、第1領域Aと第3領域Aに、レーザ共振器140_1,140_2が形成される。
【0055】
複数のレーザ共振器140を独立に駆動したい場合、レーザ共振器140_1~140_nを電気的にアイソレートする必要がある。マルチビーム半導体レーザ素子100Aは、隣接するレーザ共振器140_1,140_2の間の電気的アイソレーションのための分離溝150を備える。この分離溝150は、第2領域Aに第2方向(y方向、紙面奥行き方向)に沿って形成される。分離溝150の中は空洞であってもよいし、絶縁体が充填されてもよいし、分離溝150の表面に絶縁膜が形成されてもよい。
【0056】
以上がマルチビーム半導体レーザ素子100Aの構成である。続いてマルチビーム半導体レーザ素子100Aの第1の利点を説明する。マルチビーム半導体レーザ素子100Aの第1の利点は、マルチビーム半導体レーザ素子100Aの製造の容易さに関する。
【0057】
本発明者らは、高さが異なる構造体を下地として、発光層を成膜すると、下地構造体の凹凸に応じて結晶成長の条件、具体的には、ガスの流速、ひいては成膜レートや組成が決まることを独自に認識した。
【0058】
実施例1では、領域A~Aごとに厚さt~tが異なる基板110とn型クラッド層122からなる下地構造体132を下地として、発光層124を成膜している。このような構成とすることで、領域A~Aごとに、発光層124の結晶成長の条件が異なることとなり、複数の領域A~Aごとに、厚さや組成が異なる発光層124が形成される。発光層124の厚さとは、発光層124全体の厚さのみでなく、それに含まれるサブレイヤであるガイド層や量子井戸層の厚さを意味してもよい。そして、厚さや組成が異なる発光層124を含むように、複数のレーザ共振器140_1,140_2を形成することで、複数のレーザ共振器140_1,140_2の発振波長λ,λを容易に異ならしめることができる。
【0059】
i番目(i=1,2,…n)の領域Aにおける成膜レートは、領域Aの高さhの影響を受ける。
【0060】
i番目(i=1,2,…n)の領域Aにおける成膜レートは、領域Aの幅wの影響を受ける。
【0061】
また、i番目(i=1,2,…n)の領域Aにおける成膜レートは、隣接する領域Ai-1,Ai+1の影響も受ける。具体的には、領域Aの成膜レートは、隣接する領域Ai-1,Ai+1の幅wi-1,wi+1の影響を受ける。また領域Aにおける成膜レートは、右に隣接する領域Ai+1との高低差Δhi+=h-hi+1の影響を受け、同様に、左に隣接する領域Ai-1との高低差Δhi-=h-hi-1の影響も受ける。
【0062】
まとめると、領域Aにレーザ共振器140を形成したときの発振波長は、
(i)領域Aの高さh
(ii)領域Aの幅w
(iii)隣接領域Ai+1、Ai-1の高さhi+1,hi-1
(iv)隣接領域Ai+1、Ai-1の幅wi+1,wi-1
の組み合わせによって決まると言える。したがって、下地構造体132の複数の領域の高さおよび幅を設計パラメータとして設計することで、発振波長が異なる複数のレーザ共振器140を形成することができる。
【0063】
続いてマルチビーム半導体レーザ素子100Aの第2の利点を説明する。第2の利点は、マルチビーム半導体レーザ素子100Aの放熱(冷却)に関する。
【0064】
図3は、図2のマルチビーム半導体レーザ素子100Aの放熱を説明する図である。レーザ共振器140_1,140_2はレーザ発振すると、発光層124およびp型クラッド層126を主たる熱源として発熱する。第1領域Aの発光層124で生ずる熱と、第3領域Aの発光層124で生ずる熱は周囲に拡散する。図2に示したマルチビーム半導体レーザ素子100Aでは、第1領域Aおよび第3領域Aの発光層124の横には、基板110の凸部112が存在することとなる。基板110の熱伝導率は、分離溝150の熱伝導率に比べて大きいため、発光層124からの熱H,Hは、分離溝150によって遮られることなく、第2領域Aの基板110の凸部112を経由して放熱される。これが第2の利点である。
【0065】
第2の利点をより享受するためには、図2に示すように、第1領域Aの発光層124および第3領域Aの発光層124が、第2領域Aにおける基板110の表面の高さ(すなわちt)よりも低い高さに位置することが好ましい。
【0066】
マルチビーム半導体レーザ素子100Aの放熱性に関する利点は、比較技術との対比によって明確となる。
【0067】
図4は、実施形態に係るマルチビーム半導体レーザ素子100Aにおける放熱性の改善を説明する図である。図4の上段には、熱源であるレーザ共振器140の発光層124の横に基板110の凸部112が存在するモデルが示される。図4の下段には、比較技術に係るマルチビーム半導体レーザ素子のモデルが示される。比較技術では、基板110が平坦であり、凸部112の代わりに、SiOからなる分離溝151によって、隣接するチャンネル間が、電気的(および光学的)にアイソレート(分離)されている。図4の中段には、熱源からの距離を横軸、内部温度を縦軸としたシミュレーション結果が示される。x=0が熱源の位置であり、xが、実施形態における基板110の凸部112の側壁の位置であり、比較技術における分離溝151の位置である。
【0068】
分離溝151を形成する比較技術では、分離溝151が熱抵抗となり、熱源から近い領域の内部温度が相対的に高くなる。これに対して、実施形態では、基板110の凸部112を介して効率よく放熱されるため、熱源から近い範囲の内部温度を、比較技術に比べて低下させることができる。
【0069】
続いてマルチビーム半導体レーザ素子100Aの第3の利点を説明する。第3の利点は、チャンネル間の光クロストークの抑制に関する。
【0070】
図3に戻り、光クロストークの抑制を説明する。レーザ共振器140_1,140_2それぞれにおいてレーザ光は、紙面奥行き方向(y方向)に導波してエミッタ102_1,102_2からビームBMとして放射されるが、自然放出光あるいはレーザ光の一部を含む漏れ光L,Lは、紙面横方向(x方向)にも放射される。基板110が、レーザの発振波長を吸収するバンドギャップを有する半導体材料である場合、漏れ光L,Lは、基板110の凸部112によって吸収されることとなる。したがってマルチビーム半導体レーザ素子100Aによれば、隣接するレーザ共振器140_1,140_2の間の光クロストークを抑制できる。
【0071】
なお、基板110の材料は、発振波長λ~λが580~900nmの範囲である場合はGaAsが好適である。また発振波長λ~λが360nm以下である場合はGaNが好適である。
【0072】
以上がマルチビーム半導体レーザ素子100Aの構成および利点である。続いてその製造方法を説明する。
【0073】
図5(a)~(f)は、図2のマルチビーム半導体レーザ素子100Aの製造方法を示す図である。
【0074】
図5(a)、(b)は、GaAsの基板(以下、GaAs基板ともいう)110に凹凸を形成する工程を示す。はじめに、GaAs基板110上に、GaAs基板110をエッチングする際のマスクとなる膜200を成膜し、マルチビームのピッチに合わせてストライプ状にパターニングする。膜200は、たとえばSiOなどを用いることができる。図5(a)にはパターニング後の膜200が示される。一例として50μmピッチの場合、幅25μmのラインアンドスペース(50μmピッチ)でパターニングする。膜200をマスクとし、基板110に例えば深さ2μmの溝202を形成する。溝202の形成後、SiO層である膜200はフッ酸系溶液で除去し、表面を清浄化する。
【0075】
図5(c)を参照する。溝を形成したGaAs基板110上に、レーザ多層構造120をMOCVD法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition、有機金属化学気相成長法)でエピタキシャル成長する。代表的な多層構造は、n型クラッド層122、ガイド層及び量子井戸層を含む発光層124(光導波路コア層ともいう)、p型クラッド層126、p型コンタクト層128を含む。各層は組成やドーピング濃度によってさらに細かく分けられる。一例としてn型クラッド層122の組成は(AlGa1-x1-yInPにおいてx=1,y=0.5である。GaAs基板110と格子整合するため、In組成yを本実施例では0.5に調整する。またAlとGaの組成比x:1-xは、xのほうが大きく、x:1-x=1:0でもよい。n型クラッド層122に続けて、下部ガイド層、量子井戸とバリア層、上部ガイド層を成膜し、発光層124を形成する。ガイド層はSCH層や閉じ込め層と呼ばれることもあり、クラッド層122,126よりも屈折率が高く、量子井戸層よりも屈折率が低い。そのためAl組成比xはクラッド層122,126がもっとも高く、ガイド層あるいはバリア層、量子井戸層の順に低くなるように原料の供給量を調整する。特に量子井戸層はAl組成比xが小さく、本実施例ではガイド層及びバリア層の組成はx=0.7,y=0.5とした。量子井戸層はGaInP(x=0)として説明する。これらガイド層、バリア層、量子井戸層は、レーザ光が伝搬する光導波路におけるコア層として機能する。コア層の厚さは波長や各層の屈折率にも依存するが、赤色レーザではおおよそ50nm~500nmであり、本実施例では合計約100nmである。さらにp型クラッド層126を成膜し、続けてp型コンタクト層128(キャップ層ともいう)としてp型GaAsを成膜する。一例としてp型クラッド層126の厚さは1700nmであり、p型コンタクト層128の厚さは300nmとすることができる。
【0076】
図5(c)に示すように、積層構造130は、GaAs基板110の凹凸にもとづいた凹部204および凸部206を有することとなる。
【0077】
続けて図5(d)に示すように、積層構造130の凹部204にリッジストライプ構造を有するレーザ共振器(レーザ構造)140を形成する。
【0078】
具体的にはフォトリソグラフィー技術およびエッチング技術を用いることにより、p型コンタクト層128およびp型クラッド層126を部分的に除去することにより、リッジ構造を形成する。なお、各p型クラッド層126にリッジ構造を形成する際に各p型クラッド層126にバンク構造を形成してもよい。各バンクは、各リッジ構造の両側に設けることができる。
【0079】
複数のレーザ共振器140を独立に制御可能としたい場合には、分離溝150が形成される。本実施例では、エミッタ(レーザ共振器140)の無い凸部206に溝を形成することで、電気的アイソレートを確実にすることができる。凸部206に分離溝150を形成することで、分離溝150は、レーザ共振器140からの熱が凸部206の基板110を介して放熱されるのを妨げず、放熱性を維持できる。
【0080】
次に、図5(e)に示すように、プラズマCVDなどの方法により、SiO膜などからなる絶縁膜134をリッジ構造及びバンク構造の表面に形成する。
【0081】
次に、図5(f)に示すように、フォトリソグラフィー技術およびドライエッチング技術を用いることにより絶縁膜134をパターニングし、各リッジ構造の上面を露出させる開口部を絶縁膜134に形成する。次に、スパッタまたは蒸着などの方法を用いることにより、Auなどの金属からなる電極材料を開口部及び絶縁膜134上に形成する。さらに、フォトリソグラフィー技術およびドライエッチング技術を用いることにより絶縁膜134上の電極材料をパターニングし、各開口部を介して各リッジ構造に接続された電極138を絶縁膜134上に形成する。また基板110の裏面側にも電極139を形成する。さらに、電極138が形成された半導体基板をバー状に劈開する。そして、スパッタなどの方法により、バーの端面となる劈開面に端面保護膜を成膜する。劈開面に端面保護膜が形成されたバーを個片化することにより、マルチビーム半導体レーザ素子100Aが完成する。
【0082】
以上がマルチビーム半導体レーザ素子100Aの製造方法である。図5(c)に示すように、レーザ多層構造120を、溝付きの、言い換えると凹凸を有するGaAs基板110上に成膜する場合、溝(図2における領域A~A)の高さや幅によってMOCVD内でのガス流速が局所的に変化し、溝の高さや幅によって成膜レートを異ならせることができる。この効果を積極的に利用すると、領域ごとに、発光層124の厚さや組成に意図的な誤差を導入することができ、これによりビーム間で波長が異なるマルチビーム半導体レーザを実現することができる。
【0083】
なお、成膜レートの局所的変化は、凹凸部の幅が狭いほど顕著であり、成膜レートを均一化したい場合には、凹凸部の幅を広げればよい。
【0084】
この製造方法では、マルチビームを多波長化するために、エピタキシャル成長を複数回に分けて行う必要は無く、エピタキシャル成長は1回行えばよい。これにより低コストで、ビーム間で波長が異なるマルチビーム半導体レーザを製造できる。
【0085】
(実施例2)
図6は、実施例2に係るマルチビーム半導体レーザ素子100Bの断面図である。マルチビーム半導体レーザ素子100Bの構造について、実施例1(図2)のマルチビーム半導体レーザ素子100Aとの相違点に着目して説明する。
【0086】
マルチビーム半導体レーザ素子100Bは、マルチビーム半導体レーザ素子100Aと同様に、凹凸を有する積層構造130を備え、積層構造130は、複数の領域A~Aごとに下地構造体132の高さが異なっている。
【0087】
実施例2では、n=3であり、第1領域A、第3領域Aに加えて、第2領域Aにもレーザ共振器140_3が形成されている。
【0088】
レーザ共振器140_1~140_3を独立に制御可能とするためには、隣接するレーザ共振器140の間を電気的にアイソレートする必要がある。そのために、レーザ共振器140_1と140_3の間、レーザ共振器140_2と140_3の間に、分離溝150_1,150_2が形成される。分離溝150_1,150_2は、凸部に相当する第2領域Aに形成するとよい。凸部に分離溝150_1,150_2を形成することで、レーザ共振器140_1,140_2からの熱は、分離溝150_1,150_2によって妨げられることなく、凸部206の基板110を介して放熱される。
【0089】
なお凸部である第2領域Aに形成されるレーザ共振器140_3については、発光層124の側方に基板110が存在せず、さらに熱伝導率の低い分離溝150_1,150_2によって挟まれているため、放熱条件では、図4を参照して説明した比較技術と同等であり、凹部に形成されるレーザ共振器140_1,140_2に比べて不利である。ところが、この一見、不利に見える点が、以下で説明するように、複数のビーム間の出力のばらつきを抑制する効果を奏する。
【0090】
上述のように、領域A~Aの高さや幅によってMOCVD内でのガス流速が局所的に変化し、溝の高さや幅によって成膜レートを異ならせることができる。その結果、第2領域Aに形成されるレーザ共振器140_3の発振波長λは、第1領域A、第3領域Aに形成されるレーザ共振器140_1,140_2の発振波長λ,λよりも長くなる。たとえば、λ、λが640nm程度である場合、λを645nmとすることができる。
【0091】
ここで、温度上昇にともなうビーム出力の低下の度合いは、発振波長が短いほど顕著である。もし仮に、複数のレーザ共振器140_1~140_3の温度上昇が均一であれば、長波長であるレーザ共振器140_3の出力が、短波長であるレーザ共振器140_1,140_2の出力に比べて大きくなり、ビーム間の出力のばらつきが生ずる。これに対して、実施例2に係るマルチビーム半導体レーザ素子100Bでは、長波長のレーザ共振器140_3の温度上昇が、短波長のレーザ共振器140_1,140_2の温度の温度上昇よりも大きくなるため、3つのビームの出力を均一化することができる。
【0092】
続いて、実施例2に係るマルチビーム半導体レーザ素子100Bの製造方法を説明する。
【0093】
図7(a)~(d)は、図6のマルチビーム半導体レーザ素子100Bの製造方法を示す図である。図7(a)には、凹部204および凸部206を有する積層構造130が示される。積層構造130の製造工程は、実施例1と同様であり、図5(a)~(c)を参照して説明済みである。
【0094】
なお、実施例2では、凸部206にもレーザ共振器を形成するため、GaAs基板110の溝のラインアンドスペースが実施例1とは異なっていてもよい。一例として、50μmピッチの場合、幅50μmのラインアンドスペース(100μmピッチ)でパターニングすればよい。
【0095】
続いて、図7(b)に示すように、実施例1(図5(d))と同様の工程により、凹部204および凸部206に、レーザ共振器140が形成される。続いて、図7(c)、(d)に示すように、絶縁膜134、電極138,139が形成される。
【0096】
以上がマルチビーム半導体レーザ素子100Bの製造方法である。この製造方法によれば、実施例1と同様に、発光層124が、領域ごとに異なる成膜レートで成長するため、発振波長を容易に異ならせることができる。
【0097】
(実施例3)
図8は、実施例3に係るマルチビーム半導体レーザ素子100Cの断面図である。実施例3は、実施例1と同様に、凹凸を有する下地構造体132Cを備えるが、下地構造体132Cの構造が、実施例1とは異なっている。すなわち実施例3では、下地構造体132Cは、実質的に平坦な基板110の上に、領域A~Aごとに厚さd~dが異なるn型クラッド層122が形成されている。その他については実施例1と同様である。
【0098】
領域ごとに厚さが異なるn型クラッド層122の形成方法は特に限定されない。たとえば、全領域にわたって同じ厚さでn型クラッド層122を形成した後に、領域ごとに、n型クラッド層122を選択的に異なる深さにエッチングしてもよい。あるいは、領域ごとに、異なる厚さとなるように、n型クラッド層122を選択的に成長させてもよい。
【0099】
実施例3によれば、発光層124をエピタキシャル成長する際に、下地となる下地構造体132Cの凹凸によって、領域A~Aごとの成膜レートが異なることとなる。これにより、波長の異なるマルチビームを生成することができる。
【0100】
なお、実施例3では、凹部のレーザ共振器140の側方に、基板110の凸部が存在しないため、放熱の観点からは実施例1に比べて不利であるが、分離溝150による熱の遮断はないため、図4に示した比較技術、すなわち基板110を平坦とし、凸部112の代わりにSiOからなる分離溝151を形成した構造よりも放熱の観点で有利である。
【0101】
図8のマルチビーム半導体レーザ素子100Cにおいて、実施例2と同様に、凸部である第2領域Aにも、レーザ共振器140を形成してもよい。
【0102】
(変形例)
上述した実施形態および実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なことが当業者に理解される。以下、こうした変形例について説明する。
【0103】
(変形例1)
下地構造体132の断面形状とレーザ共振器140の配置は、実施形態で説明したそれに限定されない。上述のように、任意の領域Aにレーザ共振器140を形成したときの発振波長は、以下の設計パラメータ(i)~(iv)の組み合わせによって決まる。
(i)領域Aの高さh
(ii)領域Aの幅w
(iii)隣接領域Ai+1、Ai-1の高さhi+1,hi-1
(iv)隣接領域Ai+1、Ai-1の幅wi+1,wi-1
したがって複数の領域のうち、パラメータ(i)~(iv)の少なくともひとつが異なるように、レーザ共振器140を形成する領域A、Aを選べばよい。
【0104】
図9(a)~(g)は、変形例に係るマルチビーム半導体レーザ素子100の簡略化した断面図である。図9(a)~(g)には、下地構造体132の断面形状と、レーザ共振器140の配置が模式的に示される。
【0105】
図9(a)は、パラメータ(i)が異なる例である。図9(a)のマルチビーム半導体レーザ素子100aでは、m=5、n=2であり、5個の領域A~Aと、2つのレーザ共振器140_1,140_2が示される。レーザ共振器140_1,140_2が形成される領域A,Aは、高さh,hが異なっている。
【0106】
図9(b)は、パラメータ(ii)が異なる例である。図9(b)のマルチビーム半導体レーザ素子100bでは、m=5、n=2であり、5個の領域A~Aと、2つのレーザ共振器140_1,140_2が示される。レーザ共振器140_1,140_2が形成される領域A,Aは、幅w,wが異なっている。
【0107】
図9(c)は、パラメータ(i)および(ii)が異なる例である。図9(c)のマルチビーム半導体レーザ素子100cでは、m=3、n=2であり、3個の領域A~Aと、2つのレーザ共振器140_1,140_2が示される。レーザ共振器140_1,140_2が形成される領域A,Aは、高さh,hおよび幅w,wが異なっている。
【0108】
図9(d)は、パラメータ(i)が異なる例である。図9(d)のマルチビーム半導体レーザ素子100dでは、m=3、n=3であり、3個の領域A~Aと、3つのレーザ共振器140_1~140_3が示される。レーザ共振器140_1~140_3が形成される領域A~Aは、高さh,h,hが異なっている。図9(d)においては、複数の領域A~Aの幅w~wを同一としているが、複数の領域A~Aの幅w~w、すなわちパラメータ(ii)がさらに異なっていてもよい。
【0109】
図9(e)は、パラメータ(iii)が異なる例である。マルチビーム半導体レーザ素子100eでは、m=6、n=2であり、6個の領域A~Aと、2つのレーザ共振器140_1~140_2が示される。レーザ共振器140_1,140_2は、領域A,Aに形成される。領域A,Aは、高さh,h同士が等しく、幅w,w同士も等しい。
【0110】
領域Aに着目すると、領域Aと領域Aとの高低差Δh2-は負であり、領域Aと領域Aとの高低差Δh2+は正である。領域Aに着目すると、領域Aと領域Aとの高低差Δh4-は正であり、領域Aと領域Aとの高低差Δh4+は正である。したがって、領域AとAとでは、パラメータ(iii)が異なっていると言える。
【0111】
図9(f)もまた、パラメータ(iii)が異なる例である。マルチビーム半導体レーザ素子100fでは、m=5、n=2であり、5個の領域A~Aと、2つのレーザ共振器140_1~140_2が示される。領域Aに着目すると、高低差Δh2-、Δh2+はいずれも正であり、領域Aに着目すると、高低差Δh4-、Δh4+もいずれも正であるが、Δh2-、Δh2+の組と、Δh4-、Δh4+の組は値が異なっている。したがって、領域AとAとでは、パラメータ(iii)が異なっていると言える。
【0112】
図9(g)は、パラメータ(iv)が異なる例である。図9(g)のマルチビーム半導体レーザ素子100gでは、m=5、n=2であり、5個の領域A~Aと、2つのレーザ共振器140_1,140_2が示される。レーザ共振器140_1、140_2が形成される領域A,Aは、高さ同士が等しく、幅同士も等しい。領域Aと領域Aの成膜レートの違いは、領域Aと左に隣接する領域Aの幅wと、領域Aと右に隣接する領域Aの幅wの違いによって導入される。
【0113】
当業者によれば、下地構造体132の断面形状およびレーザ共振器140の配置には、ここで例示しないさまざまな変形例が存在することが理解され、それらの変形例も本開示および発明の範囲に含まれる。
【0114】
(変形例2)
実施例1に係るマルチビーム半導体レーザ素子100Aに関して、凹部のレーザ共振器140からの漏れ光が、凸部の基板110によって遮光されることを説明した。この遮光の機能を、凸部の基板110とは別の部材によって実現してもよい。
【0115】
図10は、変形例2に係るマルチビーム半導体レーザ素子100Dの断面図である。マルチビーム半導体レーザ素子100Dは、隣接するレーザ共振器140_1,140_2の間に配置される遮光部材152を備える。遮光部材152は、レーザ共振器140の発振波長の光を吸収する半導体、または金属で構成することができる。遮光部材152の下端は、2つのレーザ共振器140_1,140_2の間の光クロストークを抑制するために、少なくとも発光層124の下端まで到達していることが好ましい。本変形例2では、遮光部材152の下端は、n型クラッド層122を貫通し凸部112の上面まで形成されている。
【0116】
遮光部材152は、図10に示すように、基板110の凹凸が小さく、隣接するレーザ共振器140_1,140_2の漏れ光が、基板110の凸部112によって吸収されない場合に特に有効である。
【0117】
(変形例3)
実施例1~実施例3において、複数のレーザ共振器140の独立駆動が不要な場合には、分離溝150を省略してもよい。
【0118】
(変形例4)
これまで説明した実施形態およびいくつかの実施例および変形例では、マルチビームの多波長化に着目して説明したが、多波長化は本開示において必須ではなく、すべてのビームの波長が同一である場合も、本開示あるいは本発明の範囲に含まれうる。たとえば、図2(実施例1)において、w=w、h=hの場合には、λ=λとなる。あるいは、w≠w、h≠hの場合であっても、wおよびwが十分に大きい場合は、λ≒λとなりうる。この場合、実施例1に関して説明した第1の利点は喪失するが、第2の利点、第3の利点、第4の利点の少なくともひとつは依然として奏されることとなり、従来技術に対して優位な効果を発揮することとなる。
【0119】
実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0120】
100…マルチビーム半導体レーザ素子、102…エミッタ、110…基板、120…レーザ多層構造、122…n型クラッド層、124…発光層、126…p型クラッド層、130…積層構造、132…下地構造体、134…絶縁膜、138…電極、139…電極、140…レーザ共振器、A,A,A…領域、150…分離溝、152…遮光部材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10