(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092226
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】石英ガラスルツボ
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20230626BHJP
C30B 15/10 20060101ALI20230626BHJP
C03B 20/00 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
C30B29/06 502B
C30B15/10
C03B20/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207341
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】522503458
【氏名又は名称】モメンティブ・テクノロジーズ・山形株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 玲
(72)【発明者】
【氏名】山川 敬士
【テーマコード(参考)】
4G014
4G077
【Fターム(参考)】
4G014AH00
4G077AA02
4G077BA04
4G077CF10
4G077EG02
4G077HA12
4G077PD01
4G077PD05
(57)【要約】
【課題】シリコン単結晶中におけるエアポケットの発生を低減させることができる石英ガラスルツボを提供する。
【解決手段】本発明にかかる石英ガラスルツボは、シリコン単結晶引上げに用いる石英ガラスルツボ40であって、本体の内表面に、結晶化促進剤としてアルミニウム、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素のいずれかを含む化合物が縞状に塗布された、コーティング対象領域を有することを特徴とする。そして、前記コーティング対象領域は、前記内表面におけるシリコン単結晶投影領域以外の領域かつシリコン単結晶引上げ開始時におけるシリコン融液面の位置以下の領域である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン単結晶引上げに用いる石英ガラスルツボであって、
本体の内表面に、結晶化促進剤としてアルミニウム、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素のいずれかを含む化合物が縞状に塗布された、コーティング対象領域を有する、
ことを特徴とする石英ガラスルツボ。
【請求項2】
前記コーティング対象領域が、前記内表面におけるシリコン単結晶投影領域以外の領域かつシリコン単結晶引上げ開始時におけるシリコン融液面の位置以下の領域である、
ことを特徴とする請求項1に記載の石英ガラスルツボ。
【請求項3】
縞状に塗布された結晶化促進剤の塗布面の塗布間隔が5mm以上50mm以下である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の石英ガラスルツボ。
【請求項4】
前記結晶化促進剤がAl、Ba、Ca、MgまたはSrの元素を含む化合物を少なくとも1種含む、
ことを特徴とする請求項1、2または3に記載の石英ガラスルツボ。
【請求項5】
前記結晶化促進剤の元素濃度が0.1μg/cm2以上1000μg/cm2以下である、
ことを特徴とする請求項4に記載の石英ガラスルツボ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶インゴットの引き上げに使用される石英ガラスルツボに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の育成に関し、チョクラルスキー法(CZ法)が広く用いられている。この方法は、石英ガラスルツボ(以下、単に「ルツボ」と呼ぶ場合がある。)内に形成されたシリコン融液の表面に種結晶を接触させ、ルツボを回転させるとともに、この種結晶を反対方向に回転させながら上方へ引き上げることによって、種結晶の下端に単結晶を形成していくものである。
【0003】
このシリコン融液を収容するための石英ガラスルツボには、内面側に高純度の合成石英ガラスにより形成された透明層を有し、外表側に熱性に優れた天然石英ガラスにより形成された不透明層を有する、2層構造の石英ガラスルツボが用いられるのが一般的である。
【0004】
このような石英ガラスルツボの製造方法の一例として、回転モールド法が知られている。回転モールド法では、まず、回転するルツボ成型用モールドの内表面に天然石英ガラスの原料粉末を積層し、さらにこの原料粉末層の表面に合成石英ガラスの原料粉末を積層し、原料粉末積層体を形成する。つぎに、アーク放電でこの原料粉末積層体を内側から外側へ加熱溶融し、その後、冷却することにより、内面側に合成石英ガラス層(透明層)が形成され、外表側に天然石英ガラス層(不透明層)が形成された、2層構造の石英ガラスルツボが得られる(下記特許文献1参照)。
【0005】
なお、下記特許文献1に記載の製造方法により得られた石英ガラスルツボによるシリコン単結晶インゴットの製造において、シリコン融液は、シリコン単結晶底部からルツボ底部に向かって下降した後、ルツボ底部から内壁に沿って融液面付近まで上昇し、再度シリコン単結晶底部に向かう対流(マランゴニ対流)によって、ルツボ内を移動する。その間、ルツボ内面には微小気泡が発生するが、シリコン融液中の微小気泡は、マランゴニ対流に乗ってルツボ内壁に沿って融液面まで上昇する。ここで、多くの気泡は減圧Ar雰囲気中に放出されるが、一部の残留気泡は内壁側からシリコン単結晶へ向かう対流により移動し、シリコン単結晶に取り込まれる。そして、シリコン単結晶に取り込まれた気泡はエアポケット(ピンホール)となり得る。
【0006】
一方、下記特許文献2には、シリコン単結晶へ向かう気泡を少なくして、シリコン単結晶におけるエアポケットの発生を低減可能な石英ガラスルツボが開示されている。特許文献2に記載の石英ガラスルツボは、外側層と内側層の2層構造を有し、内側層は、シリコン融液面のシリコン単結晶引上げ開始ラインと引上げ終了ラインとの間の内面を、山部と谷部によって波状に形成された内面形状とする。また、石英ガラスルツボの製造過程において、開口上端には、結晶化促進剤(酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化カルシウム(CaO)、酸化バリウム(BaO)、炭酸カルシウム(CaCO3)、炭酸バリウム(BaCO3)等)を0.01~1質量%含有するリング状の切り捨て部が設けられ、この状態で溶融工程を実施することにより結晶化を進める。そして、溶融工程完了後、結晶化促進剤を配合した切り捨て部を除去することにより、石英ガラスルツボを得る。
【0007】
下記特許文献2に記載の石英ガラスルツボにおいて、シリコン融液中の微小気泡は、上記波状に形成されたルツボ内面(谷部に形成された溝)に滞留し、さらに、順次発生する微小気泡と結合してマランゴニ対流に影響されない大きさに成長するまで上記溝に保持される。そして、溝において結合された気泡は、大きな浮力を持つようになった時点で溝から脱出して一気にシリコン融液面に向って上昇し、減圧Arガス雰囲気中へ放出される。これにより、マランゴニ対流によってシリコン単結晶へ向かう気泡が少なくなるため、シリコン単結晶中におけるエアポケットの発生を低減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012-17246号公報
【特許文献2】国際公開第2009/107834号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献2には、波状に形成されたルツボ内面(トラップ面)により微小気泡を大型化させ、この大型化した気泡を減圧Arガス雰囲気中へ放出することによって、シリコン単結晶に取込まれる気泡を低減させることが開示されている。
【0010】
しかしながら、上記特許文献2に記載された石英ガラスルツボの製造には、トラップ面の形成方法として研削加工が採用されているため、ツール汚染が避けられず、また、ツールマークにより内表面の平滑性が損なわれる、等の問題があった。さらに、酸素バーナーを用いて研削加工面に対して平滑化仕上げ処理する際には、常態的な加工汚染のリスクが懸念される。すなわち、研削加工やバーナーによる焼き仕上げによって、石英ガラスルツボの品質が低下する、という問題があった。
【0011】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであって、トラップ面の形成方法として研削加工を採用することなく、シリコン単結晶中におけるエアポケットの発生を低減させることができる石英ガラスルツボを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかる石英ガラスルツボは、シリコン単結晶引上げに用いる石英ガラスルツボであって、本体の内表面に、結晶化促進剤としてアルミニウム、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素のいずれかを含む化合物が縞状に塗布された、コーティング対象領域を有することを特徴とする。
【0013】
本発明にかかる石英ガラスルツボによれば、シリコン単結晶形成時の加熱によって、上記コーティング対象領域が、塗布面と非塗布面との間の粘性差に起因する熱変形を起こし、これにより、内表面に凹凸状のトラップ面が形成される。すなわち、上記コーティング対象領域に形成されたトラップ面には、シリコン単結晶形成時の加熱によって粘性の高い塗布面に挟まれた粘性の低い非塗布面が隆起し、少なくとも1つの凸部が形成される。そして、シリコン単結晶形成時に発生するシリコン融液中の微小気泡は、上記トラップ面に形成された凸部に滞留し、さらに、順次発生する微小気泡と結合して大きく成長するまで凸部に保持され、凸部において大型化した気泡が凸部から脱出して一気にシリコン融液面に向って上昇(浮上)し、シリコン融液外へ放出される。これにより、シリコン融液のマランゴニ対流に乗ってシリコン単結晶へ向かう気泡が少なくなるため、シリコン単結晶中におけるエアポケットの発生を低減させることができる。
【0014】
そして、本発明にかかる石英ガラスルツボにおいて、前記コーティング対象領域は、前記内表面におけるシリコン単結晶投影領域以外の領域かつシリコン単結晶引上げ開始時におけるシリコン融液面の位置以下の領域である。
【0015】
また、本発明にかかる石英ガラスルツボにおいて、縞状に塗布された結晶化促進剤の塗布面の塗布間隔は5mm以上50mm以下であることが望ましい。また、結晶化促進剤はAl、Ba、Ca、MgまたはSrの元素を含む化合物を少なくとも1種含むことが望ましい。また、前記結晶化促進剤の元素濃度は0.1μg/cm2以上1000μg/cm2以下であることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる石英ガラスルツボによれば、気泡を滞留させるためのトラップ面の形成方法として研削加工を採用することなく、シリコン単結晶中におけるエアポケットの発生を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明にかかる石英ガラスルツボの製造に用いられる石英ガラスルツボ製造装置の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明にかかる石英ガラスルツボの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、本発明にかかる石英ガラスルツボの構造の一例を示す断面図である。
【
図4】
図4は、本発明にかかる石英ガラスルツボの内表面に形成されたトラップ面の形状の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、単結晶引上装置の断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明にかかる石英ガラスルツボの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0019】
<ルツボ製造装置>
【0020】
図1は、本発明にかかる石英ガラスルツボの製造に用いられる石英ガラスルツボ製造装置の一例を示す概略図である。本実施形態の石英ガラスルツボ製造装置1は、一例として、回転モールド法により、内面側に高純度の合成石英ガラスにより形成された透明層(内層)を有し、外表側に熱性に優れた天然石英ガラスにより形成された不透明層(外層)を有する、2層構造の石英ガラスルツボを製造する。
【0021】
図1において、石英ガラスルツボ製造装置1のルツボ成形用型2は、たとえば、複数の貫通孔(図示せず)を穿設した金型で構成されている内側部材3と、その外周に通気部4を設けて内側部材3を保持する保持体5とから構成されている。
【0022】
また、保持体5の下部には、図示しない回転駆動源と連結された回転軸6が固着され、ルツボ成形用型2を回転可能に支持している。通気部4は、保持体5の下部に設けられた開口部7を介して、回転軸6の中央に設けられた排気口8と連結され、さらに、減圧機構9と連結されている。本実施形態の石英ガラスルツボ製造装置1は、上記減圧機構9を稼動させることにより、内側部材3内部の雰囲気を内周面から吸引するように構成されている。
【0023】
また、本実施形態の石英ガラスルツボ製造装置1には、石英ガラス原料粉末を内側部材3の内部に供給するための原料粉末供給機構として、石英ガラス原料粉末を吹き付ける原料供給ノズル11や、石英ガラス原料粉末が収容された原料カートリッジ(図示せず)等が設けられている。原料カートリッジに収容可能な石英ガラス原料粉末としては、たとえば、天然石英ガラス原料粉末および合成石英ガラス原料粉末が用いられる。
【0024】
また、原料供給ノズル11には、空気、窒素、酸素、アルゴン等のキャリアガスが供給される。キャリアガスを用いることにより、内側部材3、または既に吹き付けられた石英ガラス原料粉末の層に、石英ガラス原料粉末を吹き付けることができる。また、キャリアガスを用いて石英ガラス原料粉末の吹き付けを行うことにより、より緻密な原料粉末積層体を得ることができる。なお、供給されるキャリアガスの流速は、0.5m/s~6.5m/sの範囲であることが望ましい。
【0025】
また、減圧機構9を稼動させることにより、内側部材3内部の雰囲気を吸引し、内側部材3の内表面を1kPa~101.3kPaの範囲の圧力にする。このような圧力環境下において、石英ガラス原料粉末の吹き付けを実行した場合には、さらに緻密な原料粉末積層体を得ることができる。
【0026】
本実施形態において、原料粉末積層体は、非加熱かつ非溶融環境下で、回転するルツボ成形用型2の内側部材3の内表面に、石英ガラス原料粉末を吹付けることにより形成する。
【0027】
また、本実施形態の石英ガラスルツボ製造装置1には、原料粉末供給機構によって形成された原料粉末積層体を加熱溶融する加熱溶融機構として、内側部材3に対向する上部にアーク放電用のアーク電極21と、空気、窒素、酸素、アルゴン等のガスを噴射してルツボの所定部位に吹き付けるガス供給ノズル22が、設けられている。
【0028】
<ルツボの製造方法>
つづいて、本実施形態における石英ガラスルツボの製造方法を詳細に説明する。
図2は、本実施形態における石英ガラスルツボの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0029】
まず、石英ガラスルツボ製造装置1の回転駆動源(図示せず)を稼動させて回転軸6を矢印の方向(
図1参照)に回転させることによってルツボ成形用型2を所定の速度で回転させる。また、減圧機構9を稼動させることにより、内側部材3内部の雰囲気を吸引し、内側部材3の内表面を1kPa~101.3kPaの圧力にする。
【0030】
そして、原料供給ノズル11から内側部材3に対して、石英ガラス原料粉末を吹き付けることにより、原料粉末積層体を形成する。上記のように回転させたルツボ成形用型2内に石英ガラス原料粉末を吹き付ける際には、たとえば、初めに粗粒の天然石英ガラス原料粉末を吹き付け、その後、その表面に微粒の合成石英ガラス原料粉末を吹き付ける。
【0031】
具体的には、初めにルツボ成形用型2内に吹き付けられた天然石英ガラス原料粉末は、回転駆動源による遠心力および減圧機構9による吸引力の押圧によって、ルツボ成形用型2の内側部材3の内表面に積層される。これにより、天然石英ガラス原料粉末層(外層)が形成される。その後、天然石英ガラス原料粉末に続いて、合成石英ガラス原料粉末がルツボ成形用型2内に吹き付けられ、この合成石英ガラス原料粉末は、上記回転駆動源による遠心力および減圧機構9による吸引力の押圧によって、天然石英ガラス原料粉末層の内表面に積層される。これにより、合成石英ガラス原料粉末層(内層)が形成され、内層および外層を有する2層構造の原料粉末積層体が得られる(ステップS1)。
【0032】
その後、大気雰囲気で、減圧機構9による減圧およびルツボ成形用型2の所定の回転数を維持した状態で、アーク電極21に通電して原料粉末積層体を内側から加熱する。本実施形態においては、アーク電極21に対する通電開始により原料粉末積層体を内側から加熱溶融し、まず表層をガラス化する(合成シリカガラス層が形成される)。その後も減圧機構9による減圧、ルツボ成形用型2の回転、およびアーク電極21による加熱溶融を継続し、原料粉末積層体を外表側までガラス化し(天然シリカガラス層が形成される)、2層構造のルツボ成型体を形成する(ステップS2)。
【0033】
そして、ガス供給ノズル22から窒素ガスまたは酸素ガスを噴射してルツボ成型体を冷却し、冷却後、ルツボ成型体の上端部を切断することによって、石英ガラスルツボの本体部分が得られる(ステップS3)。
【0034】
最後に、ステップS3にて得られた本体の内表面に、縞状に結晶化促進剤を塗布することにより、具体的には、縞状にバリウム(Ba)コーティングを実施することにより、本実施形態の石英ガラスルツボが得られる(ステップS4)。
図3は、本実施形態の石英ガラスルツボ40の構造の一例を示す断面図である。本実施形態の石英ガラスルツボ40は、内面側に高純度の合成石英ガラスにより形成された透明層(内層)40aを有し、外表側に熱性に優れた天然石英ガラスにより形成された不透明層(外層)40bを有する、2層構造である。
【0035】
また、本実施形態の石英ガラスルツボ40において、内表面におけるBaコーティング対象領域は、少なくともシリコン単結晶引上げ開始時におけるシリコン融液面の位置から直胴部とコーナー部の境界位置(コーナー部開始位置)までの範囲(
図3に示すコーティング必須領域)を含む、たとえば、ツルボ内表面におけるシリコン単結晶投影領域以外の領域かつシリコン単結晶引上げ開始時におけるシリコン融液面の位置以下の領域とする。また、Baコーティングは、本体内表面における上記Baコーティング対象領域において、円周方向に途切れることなく縞状に実施する。本実施形態においては、一例として、上記コーティング必須領域に、円周方向に途切れることなく縞状にBaコーティングを実施した。また、縞状のBaコーティングの塗布間隔を5mm~50mmの範囲とし、上記Baコーティング対象領域に、少なくとも1つのBaコーティング未実施領域(非塗布面)、すなわち、少なくとも2つのBaコーティング実施領域(塗布面)、を形成する。
【0036】
また、本実施形態の石英ガラスルツボ40においては、結晶化促進剤のBa濃度を0.1μg/cm2~1000μg/cm2の範囲とする。ただし、上記結晶化促進剤のBa濃度は、シリコン単結晶を形成する工程において、ツルボ内のシリコン融液中のBa濃度が30ppmを下回ることを条件とする。シリコン融液中のBa濃度が一定値を超えると、Baコーティングの実施領域(塗布面)以外の未実施領域(非塗布面)の結晶化も促進されるためである。
【0037】
また、本実施形態の石英ガラスルツボ40において、シリコン単結晶引上げ開始時におけるシリコン融液面の位置から本体口元までの範囲の領域は、縞状ではなく、全体に均一にBaコーティングを実施することが望ましい(
図3に示す均一コーティング領域)。結晶化が進行する際、シリコン融液に支えられていないことから、上記Baコーティング対象領域に対する縞状のBaコーティングによる変形がルツボ口元の倒れ込み不具合に繋がる可能性があるためである。
【0038】
なお、本実施形態の石英ガラスルツボ40において、Baコーティング実施領域(塗布面)の幅およびBaコーティング未実施領域(非塗布面)の幅は、均一である必要はなく、任意である。また、塗布面の幅は、ルツボサイズ、縞の本数、および塗布間隔等のパラメータにより定まる任意の寸法とする。
【0039】
また、本実施形態においては、コーティングに用いる結晶化促進剤の一例として、Baを用いたが、これに限るものではなく、アルミニウム(Al)、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素のいずれかを含む化合物であればよく、たとえば、Ba、Al、Ca、Mg、Sr等の元素の酸化物を1種または2種以上用いることとしてもよい。ただし、炭酸バリウム(BaCO3)等の一部の化合物は拡散によりシリコン融液接触面を一様に結晶化させやすいため、好ましくない。たとえば、結晶化促進剤の塗布面のみを結晶化させやすい水酸化バリウム(Ba(OH)2)等の化合物の使用が好ましい。
【0040】
<トラップ面の形成>
さらに、上記のように製造された本実施形態の石英ガラスルツボ40においては、シリコン単結晶を育成する過程において、内表面における上記Baコーティング対象領域に、シリコン融液中に発生する微小気泡を滞留させるためのトラップ面が形成される。
【0041】
ここで、上記Baコーティング対象領域にトラップ面が形成される工程について説明する。たとえば、石英ガラスルツボ40を用いてシリコン単結晶インゴットを育成する場合、まず、石英ガラスルツボ40に原料ポリシリコンを装填し、ルツボを収容する炉体内を所定の雰囲気(主にアルゴンガスなどの不活性ガス)とした状態において、加熱により原料ポリシリコンを溶融し、シリコン融液を生成する。そして、シリコン融液の表面に種結晶を接触させ、ルツボを回転させるとともに、この種結晶を反対方向に回転させながら上方へ引き上げることによって、種結晶の下端にシリコン単結晶インゴットを形成する。
【0042】
この際、本実施形態の石英ガラスルツボ40は、上記シリコン単結晶形成時の加熱によって、上記Baコーティング対象領域が、塗布面と非塗布面との間の粘性差に起因する熱変形を起こす。これにより、内表面に凹凸状のトラップ面が形成された石英ガラスルツボ50が得られる。
図4は、本実施形態の石英ガラスルツボの内表面に形成されたトラップ面の形状の一例を示す図である。
図4において、Baコーティング対象領域に形成されたトラップ面には、上記シリコン単結晶形成時の加熱によって粘性の高い塗布面に挟まれた粘性の低い非塗布面が隆起し、円周方向に途切れることなく少なくとも1つの凸部51が形成される。本実施形態においては、一例として、4つの塗布面に挟まれた3つの非塗布面に凸部51が形成されている。
【0043】
図4に示すトラップ面形成後の石英ガラスルツボ50において、シリコン融液は、シリコン単結晶底部からルツボ底部に向かって下降した後、ルツボ底部から内壁に沿って融液面付近まで上昇し、再度シリコン単結晶底部に向かう対流(マランゴニ対流)によって、ルツボ内を移動する。その間、シリコン融液(Si)とルツボ内面(SiO
2)が反応してSiOガス(微小気泡)が発生するが、シリコン融液中の微小気泡は、上記トラップ面に形成された凸部51に滞留し、さらに、順次発生する微小気泡と結合してマランゴニ対流に影響されない大きさに成長するまで凸部51に保持される。そして、凸部51において結合され大型化した気泡は、大きな浮力を持つようになった時点で凸部51から脱出して一気にシリコン融液面に向って上昇(浮上)し、減圧Arガス雰囲気中へ放出される。これにより、マランゴニ対流に乗ってシリコン単結晶へ向かう気泡が少なくなり、シリコン単結晶に取り込まれる気泡が抑制されるため、シリコン単結晶中におけるエアポケットの発生を低減させることができる。
【実施例0044】
つづいて、本発明にかかる石英ガラスルツボの実施例について説明する。なお、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
【0045】
<石英ガラスルツボの製造>
図1に示した石英ガラスルツボ製造装置1を用いて、ルツボ成形用型2を回転数70rpmで回転させつつ、減圧機構9を稼動させることにより、内側部材3内部の雰囲気を吸引し、内側部材3の内表面を80kPaの圧力にした。
【0046】
その後、ノズル11から内側部材3の内表面に対して、総重量80Kgの天然石英ガラス原料粉末を吹き付けた。天然石英ガラス原料粉末は、回転駆動源による遠心力および減圧機構9による吸引力の押圧によって積層され、これにより、ルツボ成形用型2の内側部材3の内表面に天然石英ガラス原料粉末層(外層)を形成した。つぎに、上記同様の環境下で、総重量12Kgの合成石英ガラス原料粉末を天然石英ガラス原料粉末層(外層)の内表面に吹き付けた。これにより、天然石英ガラス原料粉末層の内表面に合成石英ガラス原料粉末層(内層)を形成し、2層構造の原料粉末積層体を得た。なお、原料粉末積層体形成時のキャリアガスの流速を2.8m/sとした。
【0047】
その後、減圧機構9による減圧およびルツボ成形用型2の回転数を維持し、SiO2の溶融温度(推定2000℃)を得る条件下で、アーク電極21に通電して上記原料粉末積層体を内側から順次溶融してガラス化し、所定の冷却処理および切断処理を行い、石英ガラスルツボの本体部分を得た。
【0048】
そして、上記で得た石英ガラスルツボ本体の内表面に、下記の塗布条件でコーティングを実施し、32インチの石英ガラスルツボ(比較例1および実施例1~4の条件でコーティングされた石英ガラスルツボ)を得た。なお、結晶化促進剤および塗布間隔以外の条件は一律とした。
(塗布条件)
・結晶化促進剤:使用水酸化バリウム(Ba(OH)2)
・元素濃度:100μg/cm2
・塗布間隔:比較例1→全面塗布
実施例1→4mm(縞状)
実施例2→5mm(縞状)
実施例3→50mm(縞状)
実施例4→51mm(縞状)
・塗布幅:50mm
・塗布範囲:シリコン単結晶引上げ開始時におけるシリコン融液面の位置から直胴部とコーナー部の境界位置(コーナー部開始位置)までの範囲
【0049】
<シリコン単結晶インゴットの製造>
つづいて、上記の条件(比較例1および実施例1~4)で製造された石英ガラスルツボを用いて、
図5に示す単結晶引上装置にて直径370mmのシリコン単結晶インゴットを引上げ、製造した。
【0050】
図5は、単結晶引上装置の断面を示す模式図である。
図5において、単結晶引上装置70は、炉体81を備え、この炉体81内に、鉛直軸回りに回転可能かつ昇降可能に設けられたカーボンサセプタ(または黒鉛サセプタ)82と、カーボンサセプタ82によって保持された石英ガラスルツボ(実施例1の石英ガラスルツボ)とを具備している。この石英ガラスルツボは、カーボンサセプタ82の回転とともに鉛直軸回りに回転可能である。
【0051】
また、単結晶引上装置70は、石英ガラスルツボに装填された原料(原料ポリシリコン)を加熱溶融してシリコン融液Mとするサイドヒータ83と、ワイヤ84を巻き上げることによって育成されたシリコン単結晶Cを引き上げる引き上げ機構85とを備えている。引き上げ機構85が有するワイヤ84の先端には、種結晶Pが取り付けられている。また、単結晶引上装置70においては、炉体81の外側に磁場印加用電磁コイル86が設置される。この磁場印加用電磁コイル86に所定の電流が印加されると、石英ガラスルツボ内のシリコン融液Mに対して所定強度の水平磁場が印加されるようになっている。
【0052】
本実施例では、上述の単結晶引上装置70において、石英ガラスルツボ内に250kgの原料ポリシリコンを投入し、石英ガラスルツボを回転させながらアルゴンガス雰囲気中で原料を加熱することでシリコン融液Mを生成した。実施例1~4については、この段階で、
図4に示す形状のトラップ面を有する石英ガラスルツボが得られた。
【0053】
その後、比較例1および実施例1~4の条件で製造された石英ガラスルツボを使用して、それぞれ、シリコン種結晶Pをシリコン融液Mに接触させ、ネック部および肩部(クラウン部)を形成後、直径370mmおよび長さ800mmの直胴部を有するシリコン単結晶インゴットの引き上げを行なった。
【0054】
なお、引き上げ中に印加する水平磁場の磁束密度は2500Gaussに設定した。また、炉内圧を20Torrとした。さらに、ルツボの回転数を1rpmとし、シリコン単結晶の回転数を9rpmとした(回転方向は互いに逆方向とした)。
【0055】
<観察結果>
そして、製造したシリコン単結晶インゴットをスライスしたウェハについて、実施例(比較例1および実施例1~4)毎にエアポケットの発生率を求めた。表1は、エアポケット発生率の測定結果を示したものである。具体的には、シリコン単結晶インゴットの直動部をスライスして得たウェハのエアポケット総数を測定し、このエアポケット総数をウェハ枚数で割った値をエアポケット発生率とした。エアポケット総数は、ウェハポリッシュ後の厚さ0.775mmのウェハ表面をCCDカメラにより測定して得た。その結果、実施例2,3におけるエアポケット発生率は0.0%(発生無し)となり、また、実施例1,4についてもエアポケット発生率は0.8%となり、いずれも比較例(1.5%)よりもエアポケットが減少していることが確認できた。
【0056】
【0057】
また、塗布する結晶化促進剤を他の結晶化促進剤(Al(OH)3、Mg(OH)2、Sr(OH)2、Ca(OH)2)に変更し、上記と同様の手順で、エアポケット発生率(%)を確認した。具体的には、上記と同様の製造条件および塗布条件(結晶化促進剤のみ変更(Al、Mg、Sr、Caの元素濃度:100μg/cm2))で5種の石英ガラスルツボ(比較例1および実施例1~4)を製造し、さらに、上記と同様の引上げ条件で直径370mmのシリコン単結晶インゴットの引上げを行い、得られたインゴットをスライスしたウェハについて、実施例(比較例1および実施例1~4)毎にエアポケット発生率を確認した。その結果、Ba同様、すべての実施例について、比較例よりもエアポケットが減少していることが確認できた。