(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092246
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】積層バリスタ
(51)【国際特許分類】
H01C 7/102 20060101AFI20230626BHJP
【FI】
H01C7/102
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207375
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 優斗
(72)【発明者】
【氏名】臼井 良輔
(72)【発明者】
【氏名】矢内 剣
【テーマコード(参考)】
5E034
【Fターム(参考)】
5E034CA06
5E034CB05
5E034CC02
5E034DA07
5E034DB12
5E034DB15
5E034DC01
(57)【要約】
【課題】マイグレーションの発生を抑制すること。
【解決手段】積層バリスタ1は、焼結体11と、第1内部電極12Aと、第2内部電極12Bと、第1外部電極14Aと、第2外部電極14Bと、高抵抗層13と、を備える。第1内部電極12A及び第2内部電極12Bは焼結体11の内部に設けられている。第1外部電極14Aは、焼結体11の表面に設けられて、第1内部電極12Aに電気的に接続されている。第2外部電極14Bは、焼結体11の表面に設けられて、第2内部電極12Bに電気的に接続されている。高抵抗層13は、焼結体11の表面の少なくとも一部を覆っており、高抵抗層13は表面に複数のクラックを有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結体と、
前記焼結体の内部に設けられた第1内部電極及び第2内部電極と、
前記焼結体の表面に設けられて、前記第1内部電極に電気的に接続された第1外部電極と、
前記焼結体の表面に設けられて、前記第2内部電極に電気的に接続された第2外部電極と、
前記焼結体の表面の少なくとも一部を覆う高抵抗層と、を備え、
前記高抵抗層は表面に複数のクラックを有する、
積層バリスタ。
【請求項2】
前記クラックの長さの算術平均値が10μm以上かつ50μm以下である、
請求項1に記載の積層バリスタ。
【請求項3】
前記クラックの幅の算術平均値が0.1μm以上かつ2μm以下である、
請求項1又は2に記載の積層バリスタ。
【請求項4】
前記高抵抗層の平均厚みが0.01μm以上かつ5μm以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の積層バリスタ。
【請求項5】
前記クラックの最深部が前記高抵抗層の範囲にある、
請求項1~4のいずれか1項に記載の積層バリスタ。
【請求項6】
前記高抵抗層の主成分がSiO2である、
請求項1~5のいずれか1項に記載の積層バリスタ。
【請求項7】
前記高抵抗層の主成分がZnSiO4である、
請求項1~5のいずれか1項に記載の積層バリスタ。
【請求項8】
前記高抵抗層の表面の算術平均粗さが0.06μm以上かつ0.9μm以下である、
請求項1~7のいずれか1項に記載の積層バリスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層バリスタに関する。詳しくは、複数の層が積層された積層構造の焼結体を有する積層バリスタに関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器、電子デバイス等を、雷サージ、静電気等による異常電圧から保護し、また、回路に発生するノイズによる電子機器、電子デバイス等の誤作動を防ぐなどの目的で、バリスタが用いられている。
【0003】
特許文献1はチップ型電子部品を開示する。チップ型電子部品は、セラミックス素体と、セラミックス素体の少なくとも一部表面に被覆されたガラスコート層と、セラミックス素体の両端部表面上に設けられた外部電極とを有している。特許文献1では、ガラスコート層の厚みを所定値以上とすることで、めっき時において、セラミックス素体表面上へのめっき析出を抑制している。特許文献1には、チップ型電子部品としてPTCサーミスタ、バリスタ等が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高湿環境下でバリスタに電圧が印加された場合に、電極間をイオン化した金属が移動することで絶縁不良が発生する、マイグレーションと呼ばれる現象が発生する可能性がある。
【0006】
本開示の課題は、マイグレーションの発生を抑制することができる積層バリスタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様の積層バリスタは、焼結体と、第1内部電極と、第2内部電極と、第1外部電極と、第2外部電極と、高抵抗層とを備える。前記第1内部電極及び前記第2内部電極は前記焼結体の内部に設けられている。前記第1外部電極は、前記焼結体の表面に設けられて、前記第1内部電極に電気的に接続されている。前記第2外部電極は、前記焼結体の表面に設けられて、前記第2内部電極に電気的に接続されている。前記高抵抗層は、前記焼結体の表面の少なくとも一部を覆っている。前記高抵抗層は表面に複数のクラックを有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、マイグレーションの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態における積層バリスタの概略の断面図である。
【
図2】
図2は、同上の積層バリスタの概略の外観斜視図である。
【
図3】
図3は、同上の積層バリスタが備える高抵抗層の表面を走査型電子顕微鏡で撮影した画像の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態)
(1)概要
以下の実施形態において説明する各図は、模式的な図であり、各図中の各構成要素の大きさ及び厚さそれぞれの比が、必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。
【0011】
本実施形態の積層バリスタ1は、
図1に示すように、焼結体11と、第1内部電極12Aと、第2内部電極12Bと、第1外部電極14Aと、第2外部電極14Bと、高抵抗層13と、を備える。
【0012】
第1内部電極12A及び第2内部電極12Bは焼結体11の内部に設けられている。
【0013】
第1外部電極14Aは、焼結体11の表面に設けられて、第1内部電極12Aに電気的に接続されている。
【0014】
第2外部電極14Bは、焼結体11の表面に設けられて、第2内部電極12Bに電気的に接続されている。
【0015】
高抵抗層13は、焼結体11の表面の少なくとも一部を覆っている。高抵抗層13は表面に複数のクラック20(
図3参照)を有している。
【0016】
高湿環境下で第1外部電極14Aと第2外部電極14Bとの間に電圧が印加された場合、マイグレーションと呼ばれる現象が発生する可能性がある。第1外部電極14A及び第2外部電極14Bのうち陽極側の外部電極の金属がイオン化して陰極側の外部電極に移動し、陰極側の外部電極で金属として生成されることで、第1外部電極14Aと第2外部電極14Bとの間の絶縁不良が発生する可能性がある。
【0017】
これに対して、本実施形態の積層バリスタ1では、高抵抗層13の表面に複数のクラック20が設けられている。ここで、高抵抗層13の「表面」は、高抵抗層13の外面において他の層(例えば、第1外部電極14A及び第2外部電極14B等)で覆われておらず、露出している範囲の面をいう。高抵抗層13の表面には複数のクラック20が設けられているので、第1外部電極14Aと第2外部電極14Bとの間の沿面距離、すなわち第1外部電極14Aと第2外部電極14Bとの間の高抵抗層13の表面に沿った経路の距離を増大させることができる。よって、高湿環境下で第1外部電極14Aと第2外部電極14Bとの間に電圧が印加されることによって、陽極側の外部電極から金属イオンが溶出したとしても、金属イオンが陰極側の外部電極に到達するまでに移動する距離が長くなる。これにより、陽極側の外部電極から溶出した金属イオンの移動障壁を高めることができ、マイグレーションの発生を抑制することができる。
【0018】
(2)詳細
(2.1)積層バリスタの構成
本開示の一実施形態における積層バリスタ1を
図1~
図3に基づいて詳細に説明する。
【0019】
図1は、積層バリスタ1の概略の断面図である。
図2は、積層バリスタ1の概略の外観斜視図である。
【0020】
積層バリスタ1は、上述のように、焼結体11と、第1内部電極12Aと、第2内部電極12Bと、第1外部電極14Aと、第2外部電極14Bと、高抵抗層13と、を備えている。
【0021】
焼結体11は、
図1に示す向きにおいて、左右方向を長辺とする直方体状に形成されている。また、焼結体11は、
図1に示す向きにおいて、複数の層が上下方向に積層された積層構造を有している。焼結体11は、非直線性抵抗特性を有する半導体セラミックス成分で構成されている。焼結体11を構成する非直線性抵抗特性を有する半導体セラミックス成分は、例えばZnOを主成分とし、副成分としてBi
2O
3、Co
2O
3、MnO
2、Sb
2O
3、Pr
6O
11、Co
2O
3、CaCO
3、Cr
2O
3のうちの少なくとも1つを含む。焼結体11を構成する複数の層は、例えばこれらの成分を含むセラミックシートを焼成することにより、ZnO等の主成分が、副成分の一部と固溶焼結し、その粒界に残りの副成分が析出することにより形成される。
【0022】
焼結体11は、より具体的には、それぞれZnOを主成分とする複数のセラミックシートを積層した積層物を、積層面に対し垂直に切断し、その個片を焼成することにより作製される。このようにして作製された焼結体11は、例えば互いに対向する一対の主面、互いに対向する一対の側面、及び互いに対向する一対の端面を有している。「主面」とは積層面である。2種の切断面のうち、面積が大きい方が「側面」であり、面積が小さい方が「端面」である。焼結体11の形状は、例えばこれらの面をそれぞれ2つずつ、合計6つの面を有する直方体である。例えば、
図1に示す向きで上面及び下面が主面となり、左面及び右面が端面となる。
【0023】
第1内部電極12A及び第2内部電極12Bは、それぞれ焼結体11の内部に設けられている。第1内部電極12A及び第2内部電極12Bは、第1内部電極12Aの少なくとも一部と第2内部電極12Bの少なくとも一部とが上下方向に重なるように、焼結体11の内部に配置されている。第1内部電極12A及び第2内部電極12Bは、例えばAg、Pd、PdAg、PtAg等を含む。第1内部電極12A及び第2内部電極12Bは、例えば、電極材料を塗布したセラミックシートを積層し、焼成することで形成される。なお、第1内部電極12A及び第2内部電極12Bを総称して内部電極12と呼ぶ場合もある。
【0024】
高抵抗層13は、焼結体11の少なくとも一部を覆うように設けられる。本実施形態では、高抵抗層13は、焼結体11の表面において第1内部電極12A及び第2内部電極12Bが露出する部位以外のほぼ全体を覆うように設けられているが、焼結体11の表面のうち第1外部電極14A及び第2外部電極14Bが設けられていない部位を覆うように設けられていてもよい。
【0025】
高抵抗層13の主成分は例えばSiO2である。焼結体11に抵抗率が高いSiO2を主成分とする高抵抗層13で焼結体11の表面を覆うことによって、めっき析出を抑制しつつ、マイグレーションの発生を抑制できる。高抵抗層の主成分はSiO2に限定されない。高抵抗層の主成分はZnSiO4でもよく、めっき析出を抑制しつつ、マイグレーションの発生を抑制できる。また、高抵抗層の主成分はホウ珪酸ガラスでもよく、めっき析出を抑制しつつ、マイグレーションの発生を抑制できる。
【0026】
高抵抗層13は例えば以下のような方法で形成される。すなわち、焼結体11の表面に高抵抗層13を構成する成分を含む溶液をスプレーコートした後、焼結体11を焼成することによって、焼結体11の表面に高抵抗層13が形成される。
【0027】
高抵抗層13の平均厚みは0.01μm以上かつ5μm以下であることが好ましい。高抵抗層13の平均厚みは0.01μm以上とするのが好ましく、高抵抗層13の下地である焼結体11の表面が露出するのを抑制して、めっき析出の発生を抑制することができ、それによってマイグレーションの発生を抑制できる。また、高抵抗層13の平均厚みを5μm以下とするのが好ましく、焼結体11の表面に安定した厚みの高抵抗層13を形成することができる。なお、高抵抗層13の「平均厚み」とは、高抵抗層13の複数点(例えば任意の10点)について測定した高抵抗層13の厚みの算術平均値をいう。
【0028】
ここで、焼結体11の表面にスプレーコートした溶液が焼成によって収縮することで、高抵抗層13の表面に複数のクラック20(
図3参照)が形成される。
図3は、例えば、走査型電子顕微鏡で高抵抗層13の表面を撮影した画像の一例を示している。複数のクラック20の形状は様々であるが、概ね細長い溝状に形成されている。なお、高抵抗層13の表面に形成される複数のクラック20の数及び形状は、例えば、焼結体11の表面にスプレーコートされる溶液の濃度、温度、塗布量、熱処理温度、熱処理の時間、等を調整することにより、制御可能である。
【0029】
ここにおいて、クラック20の最深部は高抵抗層13の範囲にあることが好ましい。つまり、クラック20の最深部は焼結体11の表面に達しておらず、高抵抗層13の範囲内でとどまっている。したがって、高抵抗層13の下地である焼結体11にはクラックが形成されていないので、焼結体11の強度が損なわれることがなく、焼結体11の強度を一定以上に保つことができる。したがって、振動又は衝撃等の機械的応力が積層バリスタ1に加わった場合でも、積層バリスタ1が破損する可能性を低減できる。
【0030】
クラック20の長手方向の寸法である長さL1の算術平均値は、例えば、10μm以上かつ50μm以下であることが好ましい。高抵抗層13の表面の画像を観察することで所定個数(例えば任意の10個)のクラック20の長さを求め、その平均値を計算することで、クラック20の長さL1の算術平均値が求められる。高抵抗層13の表面の画像は、例えば、走査型電子顕微鏡、又は、電子プローブマイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer; EPMA)で撮影された画像等である。クラック20の長さL1の算術平均値が10μm以上かつ50μm以下となるように、クラック20の形状を制御しており、下地である焼結体11の表面が露出する可能性を低減しつつ、沿面距離を長くすることでマイグレーションが発生する可能性を低減できる。
【0031】
クラック20の短手方向の寸法である幅L2の算術平均値は、例えば、0.1μm以上かつ2μm以下であることが好ましい。クラック20の幅L2の算術平均値は、長さL1と同様、走査型電子顕微鏡又は電子プローブマイクロアナライザー等で撮影された画像を観察し、所定個数(例えば任意の10個)のクラック20の幅を求め、その平均値を計算することで求められる。クラック20の幅L2の算術平均値が0.1μm以上かつ2μm以下となるように、クラック20の形状を制御しており、下地である焼結体11の表面が露出する可能性を低減しつつ、沿面距離を長くすることでマイグレーションが発生する可能性を低減できる。
【0032】
また、高抵抗層13の表面に形成される複数のクラック20の面積の合計は、高抵抗層13の表面積(露出部分の面積)の2.5%以上かつ3.5%以下であることが好ましい。複数のクラック20の面積の合計を高抵抗層13の表面積の2.5%以上とすることで、第1外部電極14Aと第2外部電極14Bとの間の沿面距離を長くして、マイグレーションが発生する可能性を低減できる。
【0033】
また、本実施形態の積層バリスタ1では、高抵抗層13の表面に設けられる複数のクラック20の数及び形状を調整することで、高抵抗層13の表面の算術平均粗さ(以下、Raともいう)を調整している。ここで、高抵抗層13の表面の算術平均粗さは、例えば、0.06μm以上かつ0.9μm以下であることが好ましい。高抵抗層13の表面のRaは0.06μm以上であることが好ましく、高抵抗層13の表面におけるマイグレーションの発生を抑制することができる。高抵抗層13の表面のRaが0.06μmよりも小さいと、外部電極14間の沿面距離が短くなり、マイグレーションが発生しやすくなる。また、高抵抗層13の表面のRaは0.9μm以下であることが好ましく、下地である焼結体11が露出する可能性を低減でき、めっき析出の発生を抑制して、マイグレーションの発生を抑制できる。また、高抵抗層13の表面のRaは0.9μm以下とすることで、半田のフラックスが表面に溜まりにくくなるという利点もある。
【0034】
なお、高抵抗層13の表面のRaは、例えばJIS-B0601:(2013)で規定される方法に準拠して測定することができ、具体的には、高精度微細形状測定機サーフコーダ(小坂研究所社製のET4000A)により測定することができる。高抵抗層13の表面のRaは、他にも、例えば、走査型プローブ顕微鏡や、非接触式のレーバー顕微鏡により測定可能である。
【0035】
積層バリスタ1には、一対の端面に第1外部電極14A及び第2外部電極14Bが設けられており、本実施形態では焼結体11の左側の端面に第1外部電極14Aが設けられ、焼結体11の右側の端面に第2外部電極14Bが設けられている。第1外部電極14Aは第1内部電極12Aに電気的に接続され、第2外部電極14Bは第2内部電極12Bに電気的に接続されている。ここで、第1外部電極14A及び第2外部電極14Bを総称して外部電極14と呼ぶ場合もある。
【0036】
外部電極14は、例えば、一次電極15と、めっき電極16とを含む。また、一次電極15上に、二次電極を設けてもよい。二次電極は、一次電極15を覆うように形成することが好ましい。このように、外部電極14(第1外部電極14A及び第2外部電極14Bの各々)は、多層構造であってもよい。なお、以下では、第1外部電極14Aを構成する一次電極15及びめっき電極16を、それぞれ、一次電極15A、めっき電極16Aと表記し、第2外部電極14Bを構成する一次電極15及びめっき電極16を、それぞれ、一次電極15B、めっき電極16Bと表記する場合もある。
【0037】
一次電極15は、高抵抗層13の一部を覆うように、また内部電極12と電気的に接続するように設けられている。一次電極15は、例えばAg、AgPd、AgPt等の金属成分と、Bi2O3、SiO2、B2O5等のガラス成分とを含む。一次電極15は、金属を主成分とすることが好ましく、銀を主成分とすることがより好ましい。一次電極15が銀を主成分とする場合、マイグレーションが発生しやすくなるが、本実施形態の積層バリスタ1では高抵抗層13の表面に複数のクラック20を設けることで、マイグレーションの発生を抑制している。なお、一次電極15は、通常、高抵抗層13の一部に、一次電極15を形成するペースト状の金属材料を塗布することにより形成される。
【0038】
めっき電極16は、一次電極15の少なくとも一部を覆うように設けられている。めっき電極16は、例えば一次電極15又は一次電極15上に設けられた二次電極の少なくとも一部を覆うように設けられているNi電極と、Ni電極の少なくとも一部を覆うように設けられているSn電極とを含む。
【0039】
積層バリスタ1は、例えば、電気回路が形成されるプリント配線板に実装される。積層バリスタ1は、例えば電気回路の入力側に接続される。第1外部電極14Aと第2外部電極14Bとの間に電圧が印加された場合、第1外部電極14A及び第2外部電極14Bの一方が高電位側(陽極側)の電極となり、第1外部電極14A及び第2外部電極14Bの他方が低電位側(陰極側)の電極となる。そして、第1外部電極14Aと第2外部電極14Bとの間に所定のしきい値電圧を超える電圧が印加されると、第1外部電極14Aと第2外部電極14Bとの間の電気抵抗が急減し、第1外部電極14Aと第2外部電極14Bとの間に存在する半導体セラミックス成分の層を介して電流が流れるので、積層バリスタ1の後段の電気回路を保護することができる。
【0040】
(2.2)積層バリスタの製造方法
以下に、本実施形態の積層バリスタ1の製造方法の一例を説明する。なお、積層バリスタ1の製造方法は以下の製造方法に限定されず適宜変更が可能である。
【0041】
積層バリスタ1の製造方法は、例えば、第1工程と、第2工程と、第3工程と、第4工程とを備える。以下、各工程について、説明する。
【0042】
[第1工程]
第1工程では、ZnOを主成分として含み、内部に内部電極12が配置された焼結体11を準備する。
【0043】
ZnOを含むスラリーを用いて複数のセラミックシートを作成する。複数のセラミックシートのうち2つのセラミックシートの表面には、第1内部電極12Aとなる内部電極ペースト、第2内部電極12Bとなる内部電極ペーストをそれぞれ塗布する。そして、複数のセラミックシートを積層、プレス、切断した後、脱バインダー及び焼成を行って、焼結体11を作成する。
【0044】
なお、セラミックシートを作成するためのスラリーは、例えば主原料であるZnOと、副原料であるBi2O3、Co2O3、MnO2、Sb2O3、Pr6O11、Co2O3、CaCO3、Cr2O3のうちの少なくとも1つと、バインダーとを混合して調製することができる。
【0045】
内部電極ペーストとしては、例えばAgペースト、Pdペースト、Ptペースト、PdAgペースト、PtAgペースト等を用いることができる。
【0046】
脱バインダーを行う温度は、例えば300℃以上500℃以下である。焼成を行う温度は、得られる焼結体11の構成、組成等により適宜調整することができ、例えば800℃以上1300℃以下である。
【0047】
第1工程は、例えば塗工工程と、内電塗布工程と、積層工程と、切断工程と、焼成工程とを含む。塗工工程では、ZnOを主成分として含むセラミックシートを作製する。内電塗布工程では、セラミックシートの表面に内部電極ペーストを塗布する。内電塗布工程における塗布方法としては、例えば印刷する方法等が挙げられる。積層工程では、内部電極ペーストを塗布したセラミックシートと、内部電極ペーストを塗布していないセラミックシートとを積層して積層物を得る。切断工程では、前記積層物を切断し、積層面と切断面とを有する積層体を得る。焼成工程では、前記積層体を焼成し、積層面(主面)と切断面(側面及び端面)とを有する焼結体を得る。
【0048】
このような方法により、互いに対向する一対の主面、互いに対向する一対の側面、及び互いに対向する一対の端面を有する焼結体11を作製することができる。
【0049】
[第2工程]
第2工程では、第1工程後の焼結体11の少なくとも一部を覆うように、高抵抗層13を形成する。
【0050】
高抵抗層13の形成方法としては、例えば、(i)焼結体11に高抵抗層13の前駆体を含む溶液を塗布する方法、(ii)ZnOを主成分とする焼結体11にSiO2を反応させる方法、(iii)焼結体11にアルカリ金属を熱拡散させる方法などが挙げられる。
【0051】
例えば焼結体11に、高抵抗層13の前駆体を含む溶液を塗布した後、脱水、硬化を行うことで、焼結体11の表面上に、高抵抗層13を形成することができる。高抵抗層13の前駆体としては、例えばポリシラザン等の主鎖にSiを有するガラス成分などが挙げられる。高抵抗層13の前駆体として、ポリシラザン等の主鎖にSiを有するガラス成分を用いることにより、SiO2を主成分とする連続的な高抵抗層13を形成することができる。このような高抵抗層13により、焼結体11が露出する部分をより減少させることができると考えられ、その結果、高抵抗層13の表面におけるマイグレーションの発生をより抑制することができる積層バリスタ1を製造することができる。
【0052】
塗布方法としては、例えば噴霧(スプレー)、浸漬、印刷等が挙げられる。また、この噴霧は、攪拌混合した複数の焼結体11に対して行うことが好ましい。
【0053】
(ii)の方法では、ZnOを主成分とする焼結体11と、SiO2とを反応させることにより、焼結体11の表層領域を、Zn2SiO4を主成分とする高抵抗層13に変換することによって、高抵抗層13を形成することができる。この方法は、具体的には、例えば、SiO2を含む粉末や液体を、ZnOを主成分とする焼結体11に付着させた後、熱処理を行うことにより実施することができる。
【0054】
(iii)の方法では、焼結体11にアルカリ金属を熱拡散させることにより、焼結体11の表層領域を、高抵抗層13に変換することによって、高抵抗層13を形成することができる。この方法は、具体的には、例えば焼結体11と、アルカリ金属粉又はアルカリ金属塩を主成分とする液とを混合し、次いで熱焼成を行うことにより実施することができる。
【0055】
第2工程は、(i)の方法のように、噴霧工程と、熱処理工程とを含むことが好ましい。噴霧工程では、複数の焼結体11を混合攪拌しながら、焼結体11に対して、高抵抗層13の前駆体を含む溶液を噴霧する。熱処理工程では、前駆体が付着した焼結体11を熱処理することにより、高抵抗層13を形成する。この方法によれば、前駆体が付着した焼結体11を熱処理する過程で、表面に複数のクラック20を有する高抵抗層13を形成することができ、その結果、マイグレーションの発生を抑制することができる。
【0056】
第2工程後の高抵抗層13の表面のRaは、第1工程後の焼結体11の表面のRaよりも大きいことが好ましい。高抵抗層13の形成方法を適切に選択することにより、高抵抗層13の表面のRaを大きくすることができ、その結果、マイグレーションの発生をより抑制することができる。
【0057】
第2工程後の高抵抗層13の平均厚みは、第1工程後の焼結体11の表面のRaよりも大きいことが好ましい。この場合、焼結体11が露出している部分がより減少すると考えられ、その結果、マイグレーションの発生をより抑制することができる。高抵抗層13の平均厚みが、焼結体11の表面のRaよりも小さい場合、積層バリスタ1において、焼結体11の一部が露出して、めっき析出やマイグレーションが発生しやすくなる。また、第2工程後の高抵抗層13の表面のRaは、0.06μm以上0.9μm以下であることが好ましい。
【0058】
また、第2工程後の高抵抗層13の表面のRaは、例えば研磨粉を入れた回転ポットにより表面研磨を行う方法、ブラスト等を用いる方法などにより制御することができる。第1工程後の焼結体11の表面のRaは、焼結体11に対し、酸処理による表面の溶解処理を行う方法などにより制御することができる。この溶解処理により、焼結体11の一部の粒子が溶出し、粒界が形成されるので、焼結体11の表面のRaを増大させることができ、この焼結体11を用いることにより、第2工程後の高抵抗層13の表面のRaを増大させることができる。
【0059】
[第3工程]
第3工程では、高抵抗層13の一部を覆い、内部電極12の一部と接触するように、一次電極ペーストを塗布する。
【0060】
一次電極ペーストは、例えばAg粉、AgPd粉、AgPt粉等を含む金属成分と、Bi2O3、SiO2、B2O5等を含むガラス成分と、溶剤とを混合して調製することができる。また、一次電極ペーストとして、Agを主成分とし、樹脂成分を含むもの等も用いることができる。一次電極ペーストの塗布後、700℃以上800℃以下で焼付を行うことにより、内部電極12との合金化を促進することができ、密着性が向上した一次電極15を形成することができる。
【0061】
[第4工程]
第4工程では、一次電極ペーストから形成された一次電極15の少なくとも一部を覆うように、めっき電極16を形成する。めっき電極16の形成方法としては、例えば電解めっき法により、Niめっき、Snめっきを順に行うことなどが挙げられる。
【0062】
(実施例)
以下、本開示を実施例によってより具体的に説明するが、本開示は実施例のみに限定されるものではない。
【0063】
以下の手順により、積層バリスタ1を製造した。
【0064】
(スラリーの調製)
主成分であるZnOと、副成分であるPr6O11、Co2O3、CaCO3、Cr2O3等と、バインダーとを混合して、スラリーを調製した。
【0065】
(セラミックシートの作製)
前記調製したスラリーを用い、20μm以上50μm以下の所定の厚みに成形し、セラミックシートを作製した。
【0066】
(積層体の作製)
内部電極ペーストとして、Pdペーストを用い、前記作製したセラミックシートに、所定の形状に内部電極ペーストを印刷し、内部電極ペーストを印刷したセラミックシートと、内部電極ペーストを印刷していないセラミックシートとを用いて、所定の電極構造になるように積層した。得られた積層物を所定の厚みになるようにプレスした後、長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmになるように切断し、積層体を作製した。
【0067】
(焼結体の作製)
前記作製した積層体を、300℃以上500℃以下の温度で脱バインダーを行い、次いで、800℃以上1300℃以下の温度で焼成を行い、焼結体を作製した。
【0068】
(高抵抗層の形成)
前記作製した焼結体に、ポリシラザンを含有するコーティング液を、スプレーを用いて噴霧し、次いで、400℃以上600℃以下の温度で、焼結体に付着した前駆体を硬化することで、高抵抗層を形成した。
【0069】
(一次電極の形成)
一次電極ペーストをAg粉と、ガラスフリットと、溶剤とを混合して調製した。この一次電極ペーストを、前記高抵抗層を形成した焼結体の端面に塗布した後、800℃で焼付を行い、一次電極を形成した。
【0070】
(めっき電極の形成)
前記形成した一次電極上に、電解めっき法により、所定の厚さのNiめっき電極を形成し、その上に、Snめっき電極を形成した。
【0071】
高抵抗層の形成の際におけるコーティング液の濃度、噴霧速度等の条件を選択することにより、積層バリスタ1を作製した。
【0072】
(3)変形例
上記実施形態は、本開示の様々な実施形態の一つに過ぎない。上記実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
【0073】
以下、上記実施形態の変形例について説明する。
【0074】
上記実施形態の積層バリスタ1では、一対の外部電極14が、対向する一対の端面に設けられているが、外部電極14の数及び位置はこれに限定されない。例えば、対向する一対の側面に一対の外部電極が設けられてもよいし、一対の端面及び一対の側面にそれぞれ一対ずつ外部電極が設けられていてもよい。
【0075】
また、焼結体11の内部には、第1外部電極14Aに電気的に接続される第1内部電極12Aと、第2外部電極14Bに電気的に接続される第2内部電極12Bとが一つずつ設けられているが、第1内部電極12A及び第2内部電極12Bの個数は1つに限定されない。焼結体11の内部には、第1外部電極14Aに電気的に接続される複数の第1内部電極12Aが設けられていてもよいし、第2外部電極14Bに電気的に接続される複数の第2内部電極12Bが設けられていてもよい。
【0076】
(まとめ)
以上説明したように、第1の態様の積層バリスタ(1)は、焼結体(11)と、第1内部電極(12A)と、第2内部電極(12B)と、第1外部電極(14A)と、第2外部電極(14B)と、高抵抗層(13)と、を備える。第1内部電極(12A)及び第2内部電極(12B)は焼結体(11)の内部に設けられている。第1外部電極(14A)は、焼結体(11)の表面に設けられて、第1内部電極(12A)に電気的に接続されている。第2外部電極(14B)は、焼結体(11)の表面に設けられて、第2内部電極(12B)に電気的に接続されている。高抵抗層(13)は焼結体(11)の表面の少なくとも一部を覆う。高抵抗層(13)は表面に複数のクラック(20)を有する。
【0077】
この態様によれば、高抵抗層(13)の表面に複数のクラック(20)を設けることで、第1外部電極(14A)と第2外部電極(14B)との沿面距離を増大させることができる。したがって、高湿環境下で第1外部電極(14A)と第2外部電極(14B)との間に電圧が印加されることによって、陽極側の外部電極から金属イオンが溶出したとしても、金属イオンが陰極側の外部電極に到達するまでに移動する距離が長くなる。これにより、陽極側の外部電極から溶出した金属イオンの移動障壁を高めることができ、マイグレーションの発生を抑制することができる。
【0078】
第2の態様の積層バリスタ(1)では、第1の態様において、クラック(20)の長さの算術平均値が10μm以上かつ50μm以下である。
【0079】
この態様によれば、高抵抗層(13)の下地である焼結体(11)の露出を抑制しつつ、マイグレーションの発生を抑制することができる。
【0080】
第3の態様の積層バリスタ(1)では、第1又は2の態様において、クラック(20)の幅の算術平均値が0.1μm以上かつ2μm以下である。
【0081】
この態様によれば、高抵抗層(13)の下地である焼結体(11)の露出を抑制しつつ、マイグレーションの発生を抑制することができる。
【0082】
第4の態様の積層バリスタ(1)では、第1~3のいずれかの態様において、高抵抗層(13)の平均厚みが0.01μm以上かつ5μm以下である。
【0083】
この態様によれば、高抵抗層(13)の下地である焼結体(11)の露出を抑制しつつ、マイグレーションの発生を抑制することができる。
【0084】
第5の態様の積層バリスタ(1)では、第1~4のいずれかの態様において、クラック(20)の最深部が高抵抗層(13)の範囲にある。
【0085】
この態様によれば、焼結体(11)にクラックが発生するのを抑制することができ、焼結体(11)の強度が低下するのを抑制できる。
【0086】
第6の態様の積層バリスタ(1)では、第1~5のいずれかの態様において、高抵抗層(13)の主成分がSiO2である。
【0087】
この態様によれば、焼結体(11)に比べて抵抗率が高いSiO2を高抵抗層(13)の主成分とすることで、めっき析出を抑制しつつ、マイグレーションの発生を抑制することができる。
【0088】
第7の態様の積層バリスタ(1)では、第1~5のいずれかの態様において、高抵抗層(13)の主成分がZnSiO4である。
【0089】
この態様によれば、焼結体(11)に比べて抵抗率が高いZnSiO4を高抵抗層(13)の主成分とすることで、めっき析出を抑制しつつ、マイグレーションの発生を抑制することができる。
【0090】
第8の態様の積層バリスタ(1)では、第1~7のいずれかの態様において、高抵抗層(13)の表面の算術平均粗さが0.06μm以上かつ0.9μm以下である。
【0091】
この態様によれば、第1外部電極(14A)と第2外部電極(14B)との沿面距離を増大させることができる。したがって、高湿環境下で第1外部電極(14A)と第2外部電極(14B)との間に電圧が印加されることによって、陽極側の外部電極から金属イオンが溶出したとしても、金属イオンが陰極側の外部電極に到達するまでに移動する距離が長くなる。これにより、陽極側の外部電極から溶出した金属イオンの移動障壁を高めることができ、マイグレーションの発生を抑制することができる。
【0092】
第2~第8の態様に係る構成については、積層バリスタ(1)に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。
【符号の説明】
【0093】
1 積層バリスタ
11 焼結体
12A 第1内部電極
12B 第2内部電極
13 高抵抗層
14A 第1外部電極
14B 第2外部電極
20 クラック