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特開2023-92255高周波誘導加熱システム及び高周波誘導加熱方法
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  • 特開-高周波誘導加熱システム及び高周波誘導加熱方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092255
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】高周波誘導加熱システム及び高周波誘導加熱方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/06 20060101AFI20230626BHJP
   H05B 6/04 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
H05B6/06 391
H05B6/04 321
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207387
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】392035352
【氏名又は名称】株式会社豊電子工業
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】野畑 亮二
【テーマコード(参考)】
3K059
【Fターム(参考)】
3K059AA08
3K059AA16
3K059AB08
3K059AC15
3K059AD03
3K059AD15
3K059AD32
3K059CD19
(57)【要約】
【課題】負荷インピーダンスに対する電源から見た負荷側インピーダンスの最適化が可能な整合部を備える高周波誘導加熱装置及び高周波誘導加熱方法を提供する。
【解決手段】高周波誘導加熱装置1は、高周波電源2と、高周波電源2に接続された加熱コイル4とを備え、高周波電源2と加熱コイル4との間に、整合部3を備え、整合部3は、整合トランス5と、コンデンサ6と、整合トランス5の一次側巻線5aの巻数を選択するための切替手段として複数の電磁接触器7とを備え、ワークWの加熱を実行する際に、ワークWの加熱に伴うワークWの物性変化に応じて、整合トランス5の一次側巻線5aの巻数の切替を行い、高周波電源2から見た負荷側のインピーダンスの最適化を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意の周波数で出力可能な高周波電源と、前記高周波電源に接続された加熱コイルとを備える高周波誘導加熱装置であって、
前記高周波電源と前記加熱コイルとの間に、整合部を備え、
前記整合部は、整合トランスと、コンデンサと、前記整合トランスの一次側巻線の巻数を任意に選択するための切替手段とを備えることを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項2】
任意の周波数で出力可能な高周波電源と、前記高周波電源に接続された加熱コイルと、前記高周波電源と前記加熱コイルとの間に設けられ、整合トランスと、コンデンサと、前記整合トランスの一次側巻線の巻数を任意に選択するための切替手段とを備える整合部と、を備える高周波誘導加熱装置を用いて、被加熱物の加熱を実行する高周波誘導加熱方法であって、
前記被加熱物の加熱に伴う前記被加熱物の変化に応じて、前記整合トランスの一次側巻線の巻数の切替を行い、前記高周波電源から見た負荷側のインピーダンスの最適化を行うことを特徴とする高周波誘導加熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電源から見た負荷インピーダンスの最適化が可能な整合部を備える高周波誘導加熱装置及び高周波誘導加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属等の導電性を有する被加熱物を加熱する方法として、電磁誘導を利用した誘導加熱がある。誘導加熱では、高周波電源によって高周波電流を給電することでコイルの周囲に生じる交番磁界が用いられる。誘導加熱では、その交番磁界により被加熱物に磁束が供給されることで、被加熱物に誘導電流(渦電流)が生じる。その渦電流と被加熱物の電気抵抗とにより生じる発熱によって、被加熱物自身が発熱して加熱される。そのため、高速で効率の良い昇温が可能であるといった特徴を備えている。このような特徴を活かし、近年、高周波誘導加熱は、種々の分野で広く採用されている。一方、カーボンニュートラルの実現に向け、電力量の削減に注目が集まり、高周波誘導加熱においても、電力量の低減が課題の1つとなっている。
【0003】
例えば、特許文献1では、負荷インピーダンスが異なる種々の被加熱物(鋼板)に対して最大電源出力を得られる高周波加熱装置が開示されている。その中で、整合変圧器の2次巻線を、中間接点の切り替えにより切替可能な状態で複数用意し、被加熱物により異なる負荷インピーダンスに応じて整合変圧器の2次巻線を切り替えることで、鋼板の負荷インピーダンスが変化しても、電源から最大の出力を取り出せる技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-167980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示される開閉装置は、整合変圧器の2次側の巻数を、種々の被加熱物に合わせて選択できるため、最大効率で被加熱物を加熱できる。一方、例えば、被加熱物が強磁性体である場合、加熱中に被加熱物の温度がキュリー温度に達すると、強磁性体から常磁性体への物性変化が生じる。この物性変化に伴い、加熱コイルと被加熱物との磁気結合が弱くなり、負荷インピーダンスが低くなるため、被加熱物への投入電力(被加熱物に生じる渦電流)が減少し、加熱不足となる可能性がある。負荷インピーダンスに影響を与えるような、加熱による物性変化を起こす被加熱物に対し、高周波誘導加熱を用いて、高効率で被加熱物を加熱できるように、被加熱物への投入電力を高く、且つ安定させるためには、被加熱物の物性変化前後での、高周波電源から見た負荷インピーダンスの最適化が必要となる。しかし、特許文献1では、被加熱物の物性変化に伴う加熱中の負荷インピーダンスの変化に着目していないため、加熱中に負荷インピーダンスが変化する場合、電源から見た負荷側のインピーダンスの調整が困難といえる。仮に、加熱中の負荷インピーダンス変化に対応できたとしても、特許文献1の2次巻線の切替手段は、エアシリンダを使用した複雑な機構であり、切り替えに時間を要するため、加熱能力に影響が出る可能性がある。さらに、特許文献1の高周波加熱装置は、最大電源出力を得るため、過加熱状態となることも考えられる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、高周波電源から見た負荷インピーダンスの最適化が可能な整合部を備える高周波誘導加熱装置及び高周波誘導加熱方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、任意の周波数で出力可能な高周波電源と、高周波電源に接続された加熱コイルとを備える高周波誘導加熱装置であって、高周波電源と加熱コイルとの間に、整合部を備え、整合部は、整合トランスと、コンデンサと、整合トランスの一次側巻線の巻数を任意に選択するための切替手段とを備えることを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、任意の周波数で出力可能な高周波電源と、高周波電源に接続された加熱コイルと、高周波電源と加熱コイルとの間に設けられ、整合トランスと、コンデンサと、整合トランスの一次側巻線の巻数を任意に選択するための切替手段とを備える整合部と、を備える高周波誘導加熱装置を用いて、被加熱物の加熱を実行する高周波誘導加熱方法であって、被加熱物の加熱に伴う被加熱物の変化に応じて、整合トランスの一次側巻線の巻数の切替を行い、高周波電源から見た負荷側のインピーダンスの最適化を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高周波電源から見た負荷側のインピーダンスの最適化ができるため、特に、加熱に伴う物性変化を生じる被加熱物に対し、被加熱物への投入電力を高く、且つ安定した状態での加熱が可能となり、高効率で被加熱物を加熱できる。また、ピーク出力及び出力の低下を抑えることが可能となるため、安定した電力の供給、ひいては電源盤の定格容量を下げることに繋がり、電源盤のサイズを縮小できるため、省スペース化した設備の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の高周波誘導加熱装置を示す回路図である。
図2】ワーク形状と温度測定箇所を示す説明図である。
図3】従来型の高周波誘導加熱装置を示す回路図である。
図4】従来型の高周波誘導加熱装置を用いた場合の1次電力とワークの温度との推移を示すグラフである。
図5】本発明の高周波誘導加熱装置を用いた場合の1次電力とワークの温度との推移を示すグラフである。
図6】本発明の高周波誘導加熱装置を用いる高周波誘導加熱システムの説明図であって、(a)は斜視図、(b)は搬出側から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の高周波誘導加熱装置を示す回路図である。
高周波誘導加熱装置1は、図1に示すように、高周波電源2と、整合部3と、加熱コイル4とを備える。高周波誘導加熱装置1は、金属等の導電性を有する被加熱物(以下、ワークW)の加熱に用いられる。
高周波電源2は、所定の電流量で、任意の周波数の高周波電流を出力可能である。
高周波電源2から高周波電流を加熱コイル4に通電することで、加熱コイル4の周囲に生じる磁場によりワークWに磁束が供給され、磁束に誘起されてワークWに渦電流が生じ、その渦電流とワークWの電気抵抗とにより生じる発熱によって、ワークWが直接加熱される。
【0011】
整合部3は、整合トランス5と、コンデンサ6とを備える。コンデンサ6は、加熱コイル4と直列に組み合うように設けられる。加熱コイル4のインダクタンスとコンデンサ6の静電容量と高周波電流の周波数とを適切に選択することで共振回路を構成できる。共振回路とすることで、加熱コイル4に通電する高周波電流の振幅を最大限大きくできる。
整合トランス5は、一次側巻線5aと二次側巻線5bとを備え、二次側巻線5bは所定の巻数で形成される。一方、一次側巻線5aは、所定の巻数で形成されると共に、巻線上には、切替手段として、所望の巻数ごとにタップを切った銅バーと、各銅バーに繋がった電磁接触器7が設けられている。それぞれの電磁接触器7は切替可能となっている。ここでは、2つの異なる巻数の位置にそれぞれ電磁接触器7a,7bが設けられた場合を図示している。
【0012】
以下、本発明の高周波誘導加熱装置1及び本発明に属さない従来型の高周波誘導加熱装置10を用いたワークWの加熱試験結果を示すと共に、高周波誘導加熱装置1を用いたワークWの加熱方法について説明する。
図2は、ワーク形状と温度測定箇所を示す説明図である。図3は、従来型の高周波誘導加熱装置を示す回路図である。図4は、従来型の高周波誘導加熱装置を用いた場合の1次電力とワークの温度との推移を示すグラフである。図5は、本発明の高周波誘導加熱装置を用いた場合の1次電力とワークの温度との推移とを示すグラフである。
以下の加熱試験結果の説明において、加熱試験用のワークWとして、図2に示すような、鉄製の略円柱状部材を用い、ワークWの温度は、ワークWの外表面における先端から20mmの点(測定点F)で計測を行った。なお、ワークWの材料となる鉄は、約770℃にキュリー点を有し、キュリー点を超えることにより、強磁性体から常磁性体への物性変化を生じる。
【0013】
ワークWの加熱試験では、ワークWの加熱範囲を加熱コイル4内に納めた後、高周波電源2から加熱コイル4に高周波電流を通電し、ワークWを加熱コイル4の誘導加熱により加熱した。加熱開始から、測定点Fにおいて目標の1100℃を計測するまでの間、測定点Fにおける温度と、高周波誘導加熱装置における1次電力とを測定した。
【0014】
ここで、従来型の高周波誘導加熱装置10を用いたワークWの加熱試験について説明する。
従来型の高周波誘導加熱装置10は、図3に示すように、定格容量600kWの高周波電源20と、整合部30と、加熱コイル4とを備える。整合部30は整合トランス50とコンデンサ6とを備える。
従来型の高周波誘導加熱装置10を用いたワークWの加熱試験結果が、図4に示される。
高周波電源20から、高周波電流を回路に通電して、ワークWの加熱を行った。加熱開始から約15秒経過するまでは、1次電力、ワークWの温度共に順調に上昇していることが分かる。しかし、測定点Fの温度が、鉄のキュリー点である770℃付近に至ると、1次電力が急激に低下していることが分かる。これは、ワークWの温度がキュリー点に達したことで、ワークWに強磁性体から常磁性体への物性変化が生じ、これにより加熱コイル4とワークWとの磁気結合が弱くなり、加熱コイル4の出力が低下して加熱効率が下がったため、と考えられる。加熱コイル4の出力低下は、ワークWと加熱コイル4との磁気結合の弱化により、加熱コイル4のインピーダンスが減少して2次電圧が低下したことに起因すると考えられる。1次電力の低下は、加熱後約15秒から始まり、約45秒経過するまで続いている。その後も加熱を続け、測定点Fにおいて約1100℃となった時点、すなわち加熱開始から約60秒経過した時点で、高周波誘導加熱装置10の稼働を停止し、ワークWの加熱を終了した。
高周波誘導加熱装置10を用いた加熱試験における加熱時の積算電力量は約6kWhであった。
【0015】
次に、本発明の高周波誘導加熱装置1を用いたワークWの加熱試験について説明する。
高周波誘導加熱装置1において、高周波電源2の定格容量は400kWとなっている。整合トランス5において、電磁接触器7a,7bが設けられる一次側巻線5a上の位置は、予め、後述するキュリー温度到達前後の2次電力の変化に応じて一次側巻線5aと二次側巻線5bとの巻数比を算出し、その結果を基に設定される。
本発明の高周波誘導加熱装置1を用いたワークWの加熱試験結果が、図5に示される。
高周波電源2から、高周波電流を加熱コイル4に通電して、ワークWの加熱を行った。加熱開始時において、整合トランス5では、電磁接触器7aが接続されている。加熱開始から約35秒経過するまでは、1次電力、ワークWの温度共に順調に上昇していることが分かる。
加熱開始から約35秒経過後、一度、1次電力がゼロになっているが、この間に、電磁接触器7aから電磁接触器7bへの回路の切り替えを行ったためである。これは、ワークWがキュリー温度に達することによるワークのインピーダンスの低下に対し、ワークのインピーダンスの低下分を補うよう、整合トランス5の一次側で負荷インピーダンスを最適化することで、1次電力の安定化を行い、加熱コイル4の安定した出力を確保するためである。ワークWの温度がキュリー点に至り、物性変化を起こす前に、電磁接触器7aから電磁接触器7bに切り替えることで、加熱コイル4の出力を低下させることなく、安定した出力でワークWの加熱を行える。
電磁接触器7aから電磁接触器7bへの切替後、高周波電源2からの通電を再開し、加熱開始から約65秒経過後、測定点Fにおいて、約1100℃となった時点で、高周波誘導加熱装置1の稼働を停止し、ワークWの加熱を終了した。
【0016】
本発明の高周波誘導加熱装置1を用いた加熱試験における加熱時の積算電力量は約4.7kWhであった。ここで、従来型の高周波誘導加熱装置10(定格容量600kW)を用いた加熱試験の結果と比較すると、高周波誘導加熱装置1(定格容量400kW)を用いることで、電源の定格容量を低下させても、高出力の電源を用いた場合と同様の加熱が行えることが分かる。また、ワークWの物性変化に伴う加熱コイル4の出力低下を、整合トランス5の一次側巻線の巻数比切替により抑えられることが分かる。
【0017】
上述の様に、本発明の高周波誘導加熱装置1を用いる高周波誘導加熱方法は、ワークWの加熱に際し、ワークWが物性変化を起こす温度帯において、ワークWの物性変化に伴うワークWのインピーダンス低下、すなわち負荷インピーダンスの低下に応じて、整合部3の整合トランス5の一次側巻線5aの巻数を電磁接触器7の切り替えによって変更することで、整合トランス5の一次側で負荷インピーダンスの最適化を行うものである。インピーダンスの最適化により、1次電力の最適化を行い、加熱コイル4の安定した出力を確保することができる。従って、ピーク出力及び出力の低下を抑えることが可能となるため、安定した電力の供給、ひいては電源盤の定格容量を下げることに繋がり、電源盤のサイズを縮小できるため、省スペース化した設備の提供が可能となる。
【0018】
上記形態の高周波誘導加熱装置1は、高周波電源2と、高周波電源2に接続された加熱コイル4とを備え、高周波電源2と加熱コイル4との間に、整合部3を備え、整合部3は、整合トランス5と、コンデンサ6と、整合トランス5の一次側巻線5aの巻数を選択するための切替手段として複数の電磁接触器7と、を備える。
また、上記形態の高周波誘導加熱方法は、高周波誘導加熱装置1を用いて、ワークWの加熱を実行する際に、ワークWの加熱に伴うワークWの物性変化に応じて、整合トランス5の一次側巻線5aの巻数の切替を行い、高周波電源2から見た負荷側のインピーダンスの最適化を行う。
このようにして構成される高周波誘導加熱装置1及び高周波誘導加熱方法によれば、高周波電源2から見た負荷側のインピーダンスの最適化ができるため、特に、加熱に伴う物性変化を生じるワークWに対し、ワークWへの投入電力を高く、且つ安定した状態での加熱が可能となり、高効率でワークWを加熱できる。また、ピーク出力及び出力の低下を抑えることが可能となるため、安定した電力の供給、ひいては電源盤の定格容量を下げることに繋がり、電源盤のサイズを縮小できるため、省スペース化した設備の提供が可能となる。
【0019】
最後に、本発明の高周波誘導加熱装置1及び高周波誘導加熱方法を用いるワークWの高周波誘導加熱システムについて説明する。
図6は、本発明の高周波誘導加熱装置を用いる高周波誘導加熱システムの説明図であって、(a)は斜視図、(b)は搬出側から見た側面図である。
高周波誘導加熱システムSは、高周波誘導加熱装置1と、ワークWを把持するための把持部M1を備える多関節式のマニピュレータMと、加熱処理前のワークWを収容するワーク搬入台8と、加熱処理後のワークWを収容するワーク搬出台9とを備える。
ここでは、高周波誘導加熱装置1は、内部に加熱コイル4が上下方向に延びるよう配置されるものであり、長尺棒状部材であるワークWが、誘導加熱部1aの下面に設けられた挿入孔を介し、その内部の加熱コイル4に下方から挿入されるものを想定している。
【0020】
まず、ワーク搬入台8に収容された加熱処理前のワークWの加熱されない側の端部を、マニピュレータMが把持部M1によって把持し、高周波誘導加熱装置1の下方へ、ワークの長手方向が、鉛直方向を向く様な姿勢として移動させる。
次に、高周波誘導加熱装置1に、下方からワークWを挿入する。このとき、ワークWの被加熱範囲が、高周波誘導加熱装置1内部に設けられた加熱コイル4に挿入されるようにする。
その後、上記高周波誘導加熱方法に従い、ワークWを所定温度まで加熱し、加熱処理を行う。
加熱終了後、マニピュレータMは、加熱処理後のワークWをワーク搬出台9へと移動させ、加熱処理後のワークWが搬出される。
ワーク搬出台9は、成形等の後工程を行うための装置自体、または後工程を行うための装置に繋がっているものであっても良いし、他のマニピュレータ等がワーク搬出台9から後工程を行うための装置に搬送するシステムであっても良い。
【0021】
以上は、本発明を図示例に基づいて説明したものであり、その技術範囲はこれに限定されるものではない。
例えば、整合部における切替手段は、被加熱物の変化に応じてインピーダンス調整ができれば、切替点の数は限定されない。そのため、タップと電磁接触器の組み合わせのように予め巻数設定して切り替えるもの以外にも、任意に巻数を変更可能な可変トランスのような仕組みを利用しても良い。さらに、高周波誘導加熱方法において行われるインピーダンス調整のための整合トランスの一次側巻線の巻数変更は、任意の回数行われて良い。加えて、巻数の切り替えは、手動行われても良いし、経過時間等の任意の条件の下、自動で変更されるようにしても良い。
また、ワークは、材質及び形状を任意に設定できる。ただし、温度変化に起因する物性変化能を有する材質を用いる場合、高周波誘導加熱装置での加熱前に、物性変化を生じる温度及び物性変化前後の負荷インピーダンスの変化を確認することが望ましい。
また、高周波誘導加熱装置は、ワークの物性変化だけでなく、材質や形状、温度、電力量、加熱コイルへのワーク挿入量等が変化することによるインピーダンス変化にも、事前にデータを収集し、整合トランスの一次側巻線の巻数決定と、誘導加熱中の巻数切替を行うことで、対応できる。
また、高周波誘導加熱システムは、本発明の高周波誘導加熱装置を備えていれば良く、高周波誘導加熱装置へのワークの挿入に係るロボットであれば上述の多関節式マニピュレータに限らず、種々の機構のロボットを採用可能である。さらに、ロボットを用いず、例えばシリンダー等でワークを高周波誘導加熱装置に挿入するようにしても良い。加えて、高周波誘導加熱装置の設置方向は、上述の説明において、下方からワークを挿入する向きであったが、例えばワークを地面と水平に移動させて高周波誘導加熱装置に挿入する向きとしても良いし、任意に設定できる。加えて、整合トランスの巻数切替と連動させることも可能な、温度計や電力計等のセンサ類を搭載していても良い。
【符号の説明】
【0022】
1・・高周波誘導加熱装置、2・・高周波電源、3・・整合部、4・・加熱コイル、5・・整合トランス、5a・・一次側巻線、5b・・二次側巻線、7・・電磁接触器(切替手段)、W・・ワーク(被加熱物)、N・・一次側巻線の巻数、N・・二次側巻線の巻数。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2023-03-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意の周波数で出力可能な高周波電源と、前記高周波電源に接続された加熱コイルとを有する高周波誘導加熱装置と、被加熱物を把持するための把持部を有するマニピュレータと、加熱処理前の前記被加熱物を収容するワーク搬入台と、加熱処理後の前記被加熱物を収容するワーク搬出台とを備える高周波誘導加熱システムであって、
前記高周波誘導加熱装置は、前記高周波電源と前記加熱コイルとの間に、整合部を備え、
前記整合部は、整合トランスと、コンデンサと、前記整合トランスの一次側巻線の巻数を任意に選択するための切替手段とを備え
前記加熱コイルが、前記高周波誘導加熱装置に、上下方向に延びるよう配置され、
前記マニピュレータが、前記ワーク搬入台に収容された前記被加熱物の一方の端部を把持して、他方の端部を、前記加熱コイルの一端側から挿入し、高周波誘導加熱による加熱処理を行う中で、前記被加熱物の加熱に伴う前記被加熱物の変化に応じて、前記整合トランスの一次側巻線の巻数の切替を行い、前記高周波電源から見た負荷側のインピーダンスの最適化を行うことを特徴とする高周波誘導加熱システム。
【請求項2】
任意の周波数で出力可能な高周波電源と、前記高周波電源に接続された加熱コイルとを有し、前記高周波電源と前記加熱コイルとの間に設けられ、整合トランスと、コンデンサと、前記整合トランスの一次側巻線の巻数を任意に選択するための切替手段とを備える整合部と、を備え、前記加熱コイルが上下方向に延びるよう配置される高周波誘導加熱装置と、前記被加熱物を把持するための把持部を有するマニピュレータと、加熱処理前の前記被加熱物を収容するワーク搬入台と、加熱処理後の前記被加熱物を収容するワーク搬出台とを備える高周波誘導加熱システムを用いて、前記被加熱物の加熱を実行する高周波誘導加熱方法であって、
前記マニピュレータが、前記ワーク搬入台に収容された前記被加熱物の一方の端部を把持して、他方の端部を、前記加熱コイルの一端側から挿入し、高周波誘導加熱による加熱処理を行う中で、前記被加熱物の加熱に伴う前記被加熱物の変化に応じて、前記整合トランスの一次側巻線の巻数の切替を行い、前記高周波電源から見た負荷側のインピーダンスの最適化を行うことを特徴とする高周波誘導加熱方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本発明は、高周波電源から見た負荷インピーダンスの最適化が可能な整合部を備える高周波誘導加熱装置を用いた高周波誘導加熱システム及び高周波誘導加熱方法に関する。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
そこで、本発明の目的は、高周波電源から見た負荷インピーダンスの最適化が可能な整合部を備える高周波誘導加熱装置を用いた高周波誘導加熱システム及び高周波誘導加熱方法を提供することにある。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、任意の周波数で出力可能な高周波電源と、高周波電源に接続された加熱コイルとを有する高周波誘導加熱装置と、被加熱物を把持するための把持部を有するマニピュレータと、加熱処理前の被加熱物を収容するワーク搬入台と、加熱処理後の被加熱物を収容するワーク搬出台とを備える高周波誘導加熱システムであって、高周波誘導加熱装置は、高周波電源と加熱コイルとの間に、整合部を備え、整合部は、整合トランスと、コンデンサと、整合トランスの一次側巻線の巻数を任意に選択するための切替手段とを備え、加熱コイルが、高周波誘導加熱装置に、上下方向に延びるよう配置され、マニピュレータが、ワーク搬入台に収容された被加熱物の一方の端部を把持して、他方の端部を、加熱コイルの一端側から挿入し、高周波誘導加熱による加熱処理を行う中で、被加熱物の加熱に伴う被加熱物の変化に応じて、整合トランスの一次側巻線の巻数の切替を行い、高周波電源から見た負荷側のインピーダンスの最適化を行うことを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、任意の周波数で出力可能な高周波電源と、高周波電源に接続された加熱コイルとを有し、高周波電源と加熱コイルとの間に設けられ、整合トランスと、コンデンサと、整合トランスの一次側巻線の巻数を任意に選択するための切替手段とを備える整合部と、を備え、加熱コイルが、高周波誘導加熱装置に、上下方向に延びるよう配置される高周波誘導加熱装置と、被加熱物を把持するための把持部を有するマニピュレータと、加熱処理前の被加熱物を収容するワーク搬入台と、加熱処理後の被加熱物を収容するワーク搬出台とを備える高周波誘導加熱システムを用いて、被加熱物の加熱を実行する高周波誘導加熱方法であって、マニピュレータが、ワーク搬入台に収容された被加熱物の一方の端部を把持して、他方の端部を、加熱コイルの一端側から挿入し、高周波誘導加熱による加熱処理を行う中で、被加熱物の加熱に伴う被加熱物の変化に応じて、整合トランスの一次側巻線の巻数の切替を行い、高周波電源から見た負荷側のインピーダンスの最適化を行うことを特徴とする。
【手続補正書】
【提出日】2023-05-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項2
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項2】
任意の周波数で出力可能な高周波電源と、前記高周波電源に接続された加熱コイルとを有し、前記高周波電源と前記加熱コイルとの間に設けられ、整合トランスと、コンデンサと、前記整合トランスの一次側巻線の巻数を任意に選択するための切替手段とを備える整合部と、を備え、前記加熱コイルが上下方向に延びるよう配置される高周波誘導加熱装置と、被加熱物を把持するための把持部を有するマニピュレータと、加熱処理前の前記被加熱物を収容するワーク搬入台と、加熱処理後の前記被加熱物を収容するワーク搬出台とを備える高周波誘導加熱システムを用いて、前記被加熱物の加熱を実行する高周波誘導加熱方法であって、
前記マニピュレータが、前記ワーク搬入台に収容された前記被加熱物の一方の端部を把持して、他方の端部を、前記加熱コイルの一端側から挿入し、高周波誘導加熱による加熱処理を行う中で、前記被加熱物の加熱に伴う前記被加熱物の変化に応じて、前記整合トランスの一次側巻線の巻数の切替を行い、前記高周波電源から見た負荷側のインピーダンスの最適化を行うことを特徴とする高周波誘導加熱方法。