(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092286
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】濃度測定装置、濃度測定システム及び濃度測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/27 20060101AFI20230626BHJP
【FI】
G01N21/27 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207435
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀和
(72)【発明者】
【氏名】五所尾 康博
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑弥
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB04
2G059DD12
2G059EE01
2G059EE12
2G059FF10
2G059GG02
2G059JJ05
2G059JJ17
2G059KK01
2G059MM01
(57)【要約】
【課題】濃度や液温が変化しても、水溶液といった各種溶液に溶解する溶質などの測定対象の濃度を簡易な構成で精度良く測定する。
【解決手段】取得部171は、濃度の測定対象を透過した光の所定の波長に対する測定により得られたスペクトルを複数取得する。演算部172は、取得部171により取得された複数のスペクトルのそれぞれにおける特定の波長の光強度を基に測定対象に含まれる気泡の影響が小さいスペクトルを抽出し、抽出した気泡の影響が小さいスペクトルを用いて測定対象の濃度を算出する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃度の測定対象を透過した光の所定の波長に対する測定により得られたスペクトルを複数取得する取得部と、
前記取得部により取得された複数のスペクトルのそれぞれにおける特定の波長の光強度を基に前記測定対象に含まれる気泡の影響が小さいスペクトルを抽出し、抽出した前記気泡の影響が小さいスペクトルを用いて前記測定対象の前記濃度を算出する演算部と
を備えたことを特徴とする濃度測定装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記複数のスペクトルの中で前記光強度が大きいスペクトルを前記気泡の影響が小さいスペクトルとして抽出することを特徴とする請求項1に記載の濃度測定装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記複数のスペクトルの中で前記光強度が所定の下限閾値よりも大きい前記スペクトルを前記気泡の影響が小さいスペクトルとして抽出することを特徴とする請求項1に記載の濃度測定装置。
【請求項4】
前記測定対象に光を照射する光源と、
前記測定対象を透過した光の全測定波長に対して時間的に同時に前記スペクトルを測定する分光器とをさらに備え、
前記取得部は、所定数のスペクトルを取得するように前記光源及び前記分光器を制御する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の濃度測定装置。
【請求項5】
前記演算部は、前記光強度が最大のスペクトルから光強度が大きい順に所定のデータ数のスペクトルを前記複数のスペクトルから取り除いて、前記気泡の影響が小さいスペクトルの抽出を行うことを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の濃度測定装置。
【請求項6】
前記演算部は、前記光強度が所定の上限値より大きいスペクトルを前記複数のスペクトルから取り除いて、前記気泡の影響が小さいスペクトルの抽出を行うことを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の濃度測定装置。
【請求項7】
濃度の測定対象に光を照射する光源と、
前記測定対象を透過した光の所定の波長に対する測定により得られたスペクトルを測定する分光装置と、
前記分光装置により測定された前記スペクトルを複数取得する取得部と、
前記取得部により取得された複数のスペクトルのそれぞれにおける特定の波長の光強度を基に前記測定対象に含まれる気泡の影響が小さいスペクトルを抽出し、抽出した前記気泡の影響が小さいスペクトルを用いて前記測定対象の前記濃度を算出する演算部と
を備えたことを特徴とする濃度測定システム。
【請求項8】
濃度の測定対象を透過した光の所定の波長に対する測定により得られたスペクトルを複数取得し、
取得した複数のスペクトルのそれぞれにおける特定の波長の光強度を基に前記測定対象に含まれる気泡の影響が小さいスペクトルを抽出し、
抽出した前記気泡の影響が小さいスペクトルを用いて前記測定対象の前記濃度を算出する
ことを特徴とする濃度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液などの測定対象の濃度を測定する濃度測定装置、濃度測定システム及び濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光を用いて半導体のエッチング液や洗浄液といった水溶液の濃度を測定する技術が知られている。このような技術の一例として、発光ダイオードが出射した光を水溶液に照射し、水溶液を介して受光した光の強度から水溶液の濃度を測定する技術が知られている。また、LEDから照射された光を光学系により測定セルに導き、測定セルを通過した光を光ファイバにより分光器に導いて光を検出する技術が知られている。
【0003】
このような濃度測定において、測定対象の中に気泡が含まれている場合がある。測定対象に、気泡が含まれるとその気泡によって光の過剰透過や散乱が生じるため、検出されるスペクトルが測定対象とは異なるスペクトルとなることがある。その場合、検出したスペクトルを用いた計算により求められる濃度値には、実際の測定対象の濃度との間に誤差が含まれるおそれがある。そこで、今回検出したスペクトルと前回検出したスペクトルとの差スペクトルを算出し、算出した差スペクトルの絶対値の平均又は分散を閾値と比較して気泡の影響の有無を判定する方法が考えらえる。この方法により、気泡の影響を抑えて測定対象の濃度を算出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-37936号公報
【特許文献2】特開2015-137983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アンモニア過酸化水素水(以下、SC-1)の様に化学反応で気泡を発生する薬液は、濃度や液温により発生する気泡の大きさが変化する。具体的には、濃度が濃い程、また液温が高い程、気泡サイズは大きくなり、気泡の影響による過剰透過や散乱の度合いが大きくなる。そのため、気泡の影響を受けた場合の光強度と気泡の影響を受けなかった場合の光強度の差が広がり、スペクトルのばらつき幅が大きくなる。
【0006】
そこで、差スペクトルから気泡の影響を判定する際に、濃度が濃い場合や液温が高い場合には、スペクトルを短時間で取得する為に、閾値を大きくすることが考えられる。閾値を大きくした場合、気泡の影響が少ないと判定される範囲が広がるため、スペクトルのばらつき幅がある程度大きくても濃度算出に用いるスペクトルを容易に得ることができ、スペクトルの取得時間を短くすることができる。ただし、閾値を大きくした場合、気泡の影響が大きいスペクトルが取得されてしまうおそれがある。一方、閾値を小さくし過ぎると、気泡の影響が少ないと判定される範囲が極端に狭まり、実際には気泡の影響が少ないスペクトルでさえも不適切なスペクトルとして除外されるおそれがあり、気泡の影響が小さいスペクトルを取得することが困難となる。
【0007】
逆に、液温が低い場合には気泡はほとんど発生しない。また、濃度が薄い場合には、液温が高くても気泡はほとんど発生しない。そのため、これらの場合には閾値を小さくすることが可能であるが、その閾値を用いた状態で、濃度が濃くなるもしくは液温が高くなると気泡の発生が増加するが、閾値が小さすぎるため気泡の影響が小さいスペクトルを抽出することが困難となる。
【0008】
以上より、濃度毎及び液温毎に適切な閾値が存在するが、閾値が固定の場合、濃度や液温が変化する状況下では、適切な閾値にはならない場合があり、濃度の計測精度は悪化する。仮に濃度や液温で閾値が可変だとしても、事前に濃度及び液温が分からないと適切な閾値の選択は困難である。例えば、SC-1の濃度測定を行う場合、化学反応によりアンモニア濃度及び過酸化水素水濃度が時間経過とともに減少する為、従来の方法では濃度の計測精度が悪化する。
【0009】
本願はこのような課題を解決するためのものであり、濃度や液温が変化しても、水溶液といった各種溶液に溶解する溶質などの測定対象の濃度を簡易な構成で精度良く測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願に係る濃度測定装置は、濃度の測定対象を透過した光の所定の波長に対する測定により得られたスペクトルを複数取得する取得部と、取得部により取得された複数のスペクトルのそれぞれにおける特定の波長の光強度を基に測定対象に含まれる気泡の影響が小さいスペクトルを抽出し、抽出した気泡の影響が小さいスペクトルを用いて測定対象の濃度を算出する演算部とを有する。
【0011】
上記濃度測定装置において、演算部は、複数のスペクトルの中で光強度が大きいスペクトルを気泡の影響が小さいスペクトルとして抽出してもよい。
【0012】
また、上記濃度測定装置において、演算部は、複数のスペクトルの中で光強度が所定の下限閾値よりも大きい前記スペクトルを気泡の影響が小さいスペクトルとして抽出してもよい。
【0013】
また、上記濃度測定装置は、測定対象に光を照射する光源と、測定対象を透過した光の全波長に対して時間的に同時に前記スペクトルを測定する分光器とをさらに有し、取得部は、所定数のスペクトルを取得するように光源及び分光器を制御してもよい。
【0014】
また、上記濃度測定装置において、演算部は、光強度が最大のスペクトルから光強度が大きい順に所定のデータ数のスペクトルを複数のスペクトルから取り除いて、気泡の影響が小さいスペクトルの抽出を行ってもよい。
【0015】
また、上記濃度測定装置において、演算部は、光強度が所定の上限値より大きいスペクトルを複数のスペクトルから取り除いて、気泡の影響が小さいスペクトルの抽出を行ってもよい。
【発明の効果】
【0016】
上述した濃度測定装置によれば、濃度の測定対象を透過した光の所定の波長に対する測定により得られたスペクトルを複数取得し、取得した複数のスペクトルのそれぞれにおける特定の波長の光強度を基に測定対象に含まれる気泡の影響が小さいスペクトルを抽出し、抽出した気泡の影響が小さいスペクトルを用いて測定対象の濃度を算出する。このように、濃度測定装置は、単に得られたスペクトルを用いて濃度を算出するのではなく、光強度を基に抽出した気泡の影響が小さいスペクトルを用いて測定対象の濃度を算出する。この結果、濃度測定装置は、濃度や液温が変化しても、水溶液といった各種溶液に溶解する溶質などの測定対象の濃度を簡易な構成で精度良く測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、気泡影響がある状況下でスペクトルを連続検出した場合のスペクトルの一例を示す図である。
【
図2】
図2は、気泡影響がある状況下でスペクトルを連続測定した際のスペクトルの一例を示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態における測定システムの概要を示す図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る濃度測定装置が有する機能構成の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、第1の実施形態に係る濃度測定装置による濃度測定処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、実施の形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、各実施の形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。
【0019】
[原理]
図1は、気泡影響がある状況下でスペクトルを連続検出した場合のスペクトルの一例を示す図である。
図1は、縦軸で光強度を表し、横軸で波長を表す。
図1において、個々に検出されたスペクトル1~7のデータが、それぞれの曲線で表される。
【0020】
気泡影響でスペクトル1~7は変動するが、全測定波長に対して時間的に同時にスペクトル1~7を測定すれば、気泡影響に対してスペクトルの挙動はベースライン変動として現れる。そのため、スペクトル1~7は、規則的な挙動を示し、波長毎に気泡影響が異なった不規則な挙動は示さない。ベースライン変動とは、
図1で示す各スペクトル1~7に関して、各波長における光強度方向のシフトにあたる。
【0021】
そのため、気泡影響がある状況下で、全測定波長に対して時間的に同時にスペクトルを連続測定すると、
図1のように、スペクトル1~3を含む気泡影響の大きいスペクトル群8とスペクトル4~7を含む気泡影響が小さいスペクトル群9というように2分化される。これは、気泡が光路上にある場合には、気泡により光が散乱されて検出される光強度が低下するためである。すなわち、
図1に示すように、気泡影響の大きいスペクトル群8は光強度が小さいスペクトル1~3の集合である。また、気泡影響の小さいスペクトル群9は気泡影響の小さいスペクトル4~7の集合である。
【0022】
このように、気泡影響がある状況下で検出されるスペクトルは、光強度にしたがって2分化されるため、気泡影響が小さいスペクトル群9を選択することができる。そして、選択した気泡影響が小さいスペクトル群9を濃度計測に使用することで、気泡影響を低減した濃度計測が可能になる。
【0023】
さらに、濃度や液温が変化する場合であっても、光強度によるスペクトルの2分化は可能であり、気泡影響が小さいスペクトル群9を濃度計測に使用することができる。したがって、濃度や液温が変化しても、濃度計測精度を良好に維持することが可能である。
【0024】
[測定手法について]
次に、具体的な測定手法について説明する。濃度測定装置は、所定の第1データ数分のスペクトルを連続測定する。濃度測定装置は、例えば、予め決められた複数の異なる波長帯での光強度を測定することでスペクトルの測定を行う。ここで、第1データ数とは、取得した連続測定データの中に、
図1の気泡影響の小さいスペクトル群9が存在できるデータ数ある。例えば、第1データ数は、1000データとすることができる。
【0025】
他にも、濃度測定装置は、所定の時間分のスペクトルを連続測定してもよい。ここで、所定時間とは、第1データ数の場合と同様に取得した連続測定データの中に、
図1の気泡影響の小さいスペクトル群9が存在できる時間である。例えば、データを取得する1回あたりの時間が、数100μsec~数msecである。そこで、濃度測定装置は、1000データを取得するまでの時間として5秒~10秒を、所定の時間とすることができる。
【0026】
次に、濃度測定装置は、測定した各スペクトルを、特定の波長における光強度を基準として、降順にソートする。ここで、気泡の影響は、スペクトル全体のベースライン変動として現れるため、基本的には濃度変化に対してスペクトルが変化する波長であれば、光強度をソートする特定の波長に特に制限はない。ただし、光強度がより大きい波長ほどS/N(Signal/Noise)比が大きくなるため、光強度をソートする特定の波長として光強度がより大きい波長を用いることが望ましく、光強度が最大となる波長を用いることがより望ましい。
【0027】
次に、濃度測定装置は、光強度を基準に降順にソートしたスペクトルの中から、最大光強度から所定の第2データ数分のスペクトルを抽出する。ここで、最大強度から所定の第2データ数とは、
図1における気泡影響の大きいスペクトル群8以外の気泡影響の小さいスペクトル群9に含まれるデータを取得できるデータ数である。例えば、濃度測定装置は、特定の波長における光強度が最大光強度のスペクトルの1データを取得してもよい。
【0028】
ただし、ノイズの影響を軽減するためには、濃度測定装置は、少なくとも10~50個程度のデータを使用することが好ましい。ここで、光強度でソートした場合に、最大光強度のスペクトルから全体の半分程度までのスペクトルであれば、気泡影響の小さいスペクトル群9に含まれると考えることができる。例えば、1000データを取得した場合であれば、最大強度のスペクトルから500~600個までのスペクトルであれば、気泡影響の小さいスペクトル群9に含まれると考えることができる。そこで、濃度測定装置は、最大光強度のスペクトルから全体の半分程度までのスペクトルまでの数であれば、第2データ数を選択してもよい。
【0029】
次に、濃度測定装置は、抽出したスペクトルを
図1におけるスペクトル群9にあたる気泡の影響が小さいスペクトル群とする。次に、濃度測定装置は、気泡の影響が少ないスペクトル群から吸光度スペクトルを計算する。例えば、濃度測定装置は、サンプルである水溶液が無い状態で受光した光強度をI
0として測定し、サンプルである水溶液がある状態で受光した光強度をI
1として測定する。そして、濃度測定装置は、以下の式(1)を用いて、各波長における水溶液の吸光度Aを算出する。
【0030】
【0031】
さらに、濃度測定装置は、抽出した各スペクトルにおける吸光度の平均などにより水溶液による吸光度スペクトルを算出する。
【0032】
なお、濃度測定装置は、溶質が溶解していない所定の溶媒のみがある状態で受光した光の強度と、溶質が所定の溶媒に溶解した溶液がある状態で受光した光の強度との比率の対数を算出し、算出した対数の符号を逆転させた値を、溶質の溶媒に対する吸光度として算出してもよい。
【0033】
次に、濃度測定装置は、算出した吸光度スペクトルを事前に多変量解析により作成した回帰式に適用して濃度を算出する。ここで、多変量解析による回帰式の生成処理について説明する。なお、以下の説明では、アンモニア(NH3)および過酸化水素(H2O2)の水溶液をサンプルとする例について説明するが、実施形態は、これに限定されるものではない。
【0034】
[多変量解析による回帰式について]
濃度測定装置は、既知のアンモニア濃度と過酸化水素水濃度に対応する吸光度スペクトルを、濃度を変えて複数取得する。次に、濃度測定装置は、取得した複数の濃度と吸光度スペクトルとを多変量解析ソフトウェアで処理し、アンモニア濃度及び過酸化水素水濃度のそれぞれの回帰係数を算出する。
【0035】
そして、濃度測定装置は、次の式(2)で表される回帰係数bnを有する回帰式を、アンモニア濃度及び過酸化水素水濃度のそれぞれについて作成する。
【0036】
【0037】
ここで、Yは予測濃度であり、bnは回帰係数であり、Xnは各波長の吸光度である。また、nは、使用した波長の数である。
【0038】
すなわち、濃度測定装置は、解析に用いる波長領域のスペクトルのデータを説明変数として、アンモニア濃度及び過酸化水素水濃度のそれぞれを目的変数として回帰分析を行う。これにより、濃度測定装置は、アンモニア濃度及び過酸化水素水濃度のそれぞれを関係するスペクトルを因子として決定し回帰式を得ることができる。得られた回帰式は予測精度を評価することが好ましい。評価指標には、一般的な指標を用いることができる。濃度測定装置は、評価が高い回帰式をアンモニア濃度及び過酸化水素水濃度の算出に用いる。ここで、濃度測定装置は、溶媒が1種類であっても2種類であっても、多変量解析により作成した回帰式を用いて濃度を算出することが可能である。
【0039】
[濃度測定手法の拡張]
図2は、気泡影響がある状況下でスペクトルを連続測定した際のスペクトルの一例を示す図である。
図2は、縦軸で光強度を表し、横軸で波長を表す。配管内にまれに空洞のような気泡がある場合、光強度が強すぎるため、
図2のスペクトル群20に含まれるような明らかにおかしいスペクトルが検出される。これは、空洞のような気泡を通過した光は、気泡通過中の光強度の低下が軽微であることを理由とする。この場合、光強度を基準としてスペクトルをソートして最大光強度のスペクトルから所定数のスペクトルを単に抽出する場合、
図2の気泡影響の大きいスペクトル群が抽出されてしまう。そこで、以下に、この問題を回避するための2つの手法を説明する。
【0040】
1つの方法は、以下の通りである。濃度測定装置は、光強度を基準に降順にソートしたスペクトルの中から、最大光強度のスペクトルから所定の第3データ数のスペクトルを取り除く。ここで、空洞のような気泡の発生は稀なため、第3データ数は、数データ程度でよい。例えば、第3データ数は、スペクトルの総数の0.1%程度とすることができる。取得したスペクトルの数が1000データの場合、濃度測定装置は、1つか2つのデータを取り除くことができる。その後、濃度測定装置は、残ったスペクトルの中から最大光強度のスペクトルから所定の第2データ数のスペクトルを抽出し、吸光度スペクトルを求めて多変量解析により作成した回帰式に適用して濃度を算出する。
【0041】
他の1つの方法は、以下の通りである。特定の波長について濃度計測の際にあり得る光強度の上限を事前に特定する。例えば、事前に以下のようなテストを行い光強度の上限を特定する。空洞のような気泡以外の通常の気泡が出ている状態の使用する濃度の水溶液を用いて光強度の測定を行う。ここで、使用する濃度が複数ある場合には、複数の濃度のそれぞれについてテストを行ってもよい。そして、気泡の影響が小さいスペクトル群を取り出して、空洞のような気泡が存在しない場合の上限を特定する。
【0042】
この場合、濃度測定装置は、事前のテストで得られた光強度の上限を保持する。そして、濃度測定装置は、光強度を基準に降順にソートしたスペクトルのうち上限を超える光強度のスペクトルを取り除く。その後、濃度測定装置は、残ったスペクトルの中から最大光強度のスペクトルから所定の第2データ数のスペクトルを抽出し、吸光度スペクトルを求めて多変量解析により作成した回帰式に適用して濃度を算出する。
【0043】
[測定手法の変形]
また、上述した事前のテストを行うことで、気泡の影響の小さいスペクトルの光強度の下限閾値を特定することも可能である。その場合、光強度を基準に降順にソートしたスペクトルもしくは空洞のような気泡を通過したスペクトルを除いた後のスペクトルのうち、最大光強度のスペクトルから所定の第2データ数のスペクトルを抽出以外に、下限閾値を用いた抽出も可能である。
【0044】
例えば、濃度測定装置は、事前のテストにより得られた気泡の影響の小さいスペクトルの光強度の下限閾値を保持する。濃度測定装置は、光強度を基準に降順にスペクトルをソートする。そして、濃度測定装置は、ソートしたスペクトルのうち光強度の下限閾値を上回る光強度を有するスペクトルを気泡の影響の小さいスペクトルとして抽出する。その後、濃度測定装置は、抽出したスペクトルを用いて吸光度スペクトルを求めて多変量解析により作成した回帰式に適用して濃度を算出する。
【0045】
[第1の実施形態]
以下、上述した測定手法を用いてサンプルの濃度を測定する実施形態の一例について、
図3を用いて説明する。
図3は、実施形態における測定システムの概要を示す図である。
図3に示す例では、測定システム10は、LED11、ファイバ12及び16、投光部13、フローセル14、受光部15、分光装置17、並びに、濃度測定装置100を有する。
【0046】
LED11は、光源であり、溶質と対応する特定波長を含む光を出射する。LED11は、薬液が光吸収する波長を有する光源であれば特に制限はない。例えば、LED11は、半値幅が100ナノメートル程度の光を出力可能な発光素子である。例えば、LED11は、ハロゲンランプでもよい。
【0047】
ファイバ12は、LED11から出射された光を投光部13へと伝達するファイバであり、例えば、単相の光ファイバ等により実現される。投光部13は、ファイバ12を介して、LED11が出射した光を受光すると、受光した光をフローセル14へと出射する。
【0048】
フローセル14は、サンプルが流れるフローセルである。フローセル14は、薬液を流せて光を透過できる流路であれば特に制限はない。例えば、フローセル14は、半透明なテフロンチューブ(登録商標)でもよい。例えば、
図3に示す例では、フローセル14の内容には、洗浄液供給装置CPから洗浄装置CMへと供給される半導体の洗浄液がサンプルとして流れている。
【0049】
受光部15は、投光部13から投光された光を、フローセル14内のサンプルを介して受光する。そして、受光部15は、受光した光をファイバ16へと出力する。ファイバ16は、ファイバ12と同様に、受光部15から出力された光を分光装置17へと伝達するファイバであり、例えば、単相の光ファイバ等により実現される。なお、
図3に示す構成は、あくまで一例である。例えば、測定システム10は、ファイバ12、16、投光部13、および受光部15を有さずともよい。
【0050】
分光装置17は、サンプルを介してLED11から出射された光を受光すると、受光した光を分光する分光装置である。例えば、分光装置17は、全測定波長に対して時間的に同時にスペクトルを測定する分光装置である。そのような分光装置17としては、グレーティング分光方式の分光装置がある。この場合、全測定波長が所定の波長にあたり、全測定波長に対して時間的に同時に測定されたスペクトルが、所定の波長に対する測定により得られたスペクトルにあたる。また、分光装置17は、ファブリペロー型の分光装置を用いてもよい。ファブリペロー型の分光装置を用いる場合には、濃度測定装置100は、複数の波長における光強度を波長毎に順次取得し、取得した各波長における光強度の集合をスペクトルとして以下の濃度測定を行う。この場合、複数の波長が所定の波長にあたり、各波長における光強度の集合が所定の波長に対する測定により得られたスペクトルにあたる。
【0051】
濃度測定装置100は、分光装置17により測定された光強度に基づいて、測定対象であるサンプルの濃度を測定する。例えば、濃度測定装置100は、フローセル14内を流れる水溶液に溶解している溶質の濃度を測定する。
【0052】
[濃度測定装置の機能構成の一例]
以下、
図4を用いて、濃度測定装置100が有する機能構成の一例について説明する。
図4は、実施形態に係る濃度測定装置が有する機能構成の一例を示す図である。
図4に示すように、濃度測定装置100は、光源制御部110、分光制御部120、受光制御部130、入力部140、出力部150、記憶部160及び制御部170を有する。
【0053】
光源制御部110は、制御部170からの制御に従ってLED11の点灯を制御する制御装置であり、例えば、LED11の点灯回路等により実現される。例えば、光源制御部110は、LED11を制御し、全測定波長の光を所定の強度で出射させる。なお、光源制御部110は、LED11から出射される光の波長帯や強度が一定になるように、各種の制御手段を有していてもよい。
【0054】
分光制御部120は、制御部170からの制御に従って分光装置17を制御する制御装置であり、例えば、分光装置17の制御回路により実現される。例えば、分光制御部120は、分光装置17が有する上部ミラーと下部ミラーとの間に印加する電圧を制御することで、受光素子が受光する光の波長を適宜制御する。
【0055】
受光制御部130は、制御部170からの制御にしたがって分光された光の強度を測定するための制御装置であり、例えば、分光装置17が有する受光素子177の制御回路により実現される。例えば、受光制御部130は、分光装置17が測定した光の強度を示す電気信号を受付けると、受付けた電気信号を光の強度を示す数値に変換し、変換後の数値を制御部170に通知する。
【0056】
入力部140は、利用者からの操作を受付ける入力装置であり、例えば、キーボードやマウス等により実現される。また、出力部150は、濃度測定装置100による測定結果を出力するための出力装置であり、例えば、液晶モニタやプリンタ等により実現される。
【0057】
記憶部160は、各種の情報を記憶する記憶装置であり、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ(Flash Memory)等の半導体メモリ素子、または、ハードディスク、光ディスク等の記憶装置によって実現される。例えば、記憶部160には、各種の測定ログや、各種数式、測定対象となる溶質(例えば、アンモニア、塩酸若しくは過酸化水素等)と各濃度との組み合わせ毎の吸光度スペクトル等が登録される。
【0058】
制御部170は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)等のプロセッサによって、濃度測定装置100内部の記憶装置に記憶されている各種プログラムがRAM等を作業領域として実行されることにより実現される。また、制御部170は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路により実現されてもよい。
【0059】
図4に示す例では、制御部170は、取得部171、演算部172及び提供部173を有する。取得部171は、LED11および分光装置17を制御し、分光装置17によりサンプルを介して全測定波長に対して時間的に同時に測定されたスペクトルを取得する。
【0060】
例えば、取得部171は、溶質等の濃度を測定する対象(測定対象)の選択を入力部140から受付けると、サンプルを介した光から選択された測定対象のスペクトルを取得する。例えば、取得部171は、光源制御部110を制御し、LED11を点灯させることで、全測定波長帯の光を出射させる。
【0061】
また、取得部171は、分光制御部120を制御し、サンプルを介して分光装置17が受光した光を分光させる。そして、取得部171は、受光制御部130を介して、分光装置17により測定された全測定波長に対する光強度で表されるスペクトルを取得する。取得部171は、取得したスペクトルが所定の第1データ数に達するまで、スペクトルの取得を繰り返す。
【0062】
演算部172は、所定の第1データ数のスペクトルの入力を取得部171から受ける。次に、演算部172は、測定された各スペクトルにおける特定の波長の光強度を取得する。次に、演算部172は、取得した特定の波長の光強度を基準にスペクトルを降順にソートする。次に、演算部172は、ソートしたスペクトルの中の最大の光強度を有するスペクトルから特定の第2データ数分のまでのスペクトルを抽出する。そして、演算部172は、抽出した第2データ数分のスペクトルを気泡の影響が小さいスペクトル群とする。
【0063】
そして、演算部172は、気泡の影響が小さいスペクトル群から吸光度スペクトルを計算する。次に、演算部172は、事前に多変量解析により作成した式(2)で示される回帰式に、算出した吸光度スペクトルを適用して濃度を算出する。
【0064】
提供部173は、演算部172により測定された各測定対象の濃度を利用者に提供する。例えば、提供部173は、出力部150を介して、利用者が選択した測定対象の濃度を示す値を出力する。
【0065】
[第1の実施形態における濃度測定処理の一例]
図5は、第1の実施形態に係る濃度測定装置による濃度測定処理のフローチャートである。次に、
図5を参照して、本実施形態に係る濃度測定装置100による濃度測定処理の流れについて説明する。
【0066】
濃度測定装置100の光源制御部110は、光源であるLED11から光を出射させる(ステップS101)。分光装置17は、測定対象を介して、光源であるLED11が出射した光を受光する。次に、分光装置17は、分光した特定波長の光を測定する(ステップS102)。
【0067】
濃度測定装置100の演算部172は、分光装置17により測定された測定光の強度に基づいてスペクトルを取得する(ステップS103)。
【0068】
その後、濃度測定装置100の取得部171は、所定の第1データ数のスペクトルを取得したか否かを判定する(ステップS104)。取得したスペクトルの数が第1データ数に達していない場合(ステップS104:否定)、濃度測定処理は、ステップS101へ戻る。
【0069】
これに対して、第1データ数のスペクトルを取得が完了した場合(ステップS104:肯定)、濃度測定装置100の演算部172は、特定の波長の光強度を基準としてスペクトルを降順にソートする(ステップS105)。
【0070】
次に、演算部172は、最大光強度のスペクトルから所定の第2データ数分のスペクトルを抽出して気泡の影響の小さいスペクトル群とする(ステップS106)。
【0071】
次に、演算部172は、気泡の影響が小さいスペクトル群に含まれる各スペクトルのそれぞれの光強度を用いて吸光度スペクトルを算出する(ステップS107)。
【0072】
次に、演算部172は、算出した吸光度スペクトルを回帰式に適用して濃度を算出する(ステップS108)。
【0073】
その後、濃度測定装置100の出力部105は、算出した濃度を測定結果として出力し(ステップS109)、処理を終了する。
【0074】
[第1の実施形態の変形例]
記憶部160は、事前のテストで得られた気泡影響の小さいスペクトルの光強度の下限閾値を保持する。演算部172は、光強度を基準として降順にソートしたスペクトルのうち、下限閾値を超える光強度を有するスペクトルを取り除く。その後、演算部172は、残ったスペクトルの中から最大光強度のスペクトルから所定の第1データ数のスペクトルを抽出し、吸光度スペクトルを求めて多変量解析により作成した回帰式に適用して濃度を算出する。
【0075】
[第1の実施形態及びその変形例における効果]
以上に説明したように、本実施形態に係る濃度測定装置100は、光強度を基に気泡影響の小さいスペクトルを抽出して、抽出した気泡影響の少ないスペクトル群の光強度を用いて測定対象の濃度を算出する。これにより、気泡影響を低減した濃度測定が可能となり、簡易な構成で測定対象の濃度を精度良く測定することができる。さらに、測定対象の濃度や液温の変化に依らず気泡影響が小さいスペクトルを濃度測定に用いることができ、測定対象の濃度や液温が変化による濃度測定精度の悪化を抑制することが可能となる。
【0076】
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態について説明する。本実施例に係る濃度測定装置100も、
図4のブロック図で示される。本実施形態に係る濃度測定装置100は、空洞のような気泡の影響による明らかに異常なスペクトルを取り除いたうえで濃度計測を行う。以下の説明では、第1の実施形態と同様の各部の動作については説明を省略する。
【0077】
演算部172は、光強度を基準として降順にソートしたスペクトルのうち、最大光強度のスペクトルから所定の第3データ数のスペクトルを取り除く。その後、演算部172は、残ったスペクトルの中から最大光強度のスペクトルから所定の第2データ数のスペクトルを抽出し、吸光度スペクトルを求めて多変量解析により作成した回帰式に適用して濃度を算出する。
【0078】
[第2の実施形態の変形例]
記憶部160は、事前のテストで得られた気泡影響の小さいスペクトルの光強度の上限を保持する。演算部172は、光強度を基準として降順にソートしたスペクトルのうち、上限を超える光強度を有するスペクトルを取り除く。その後、演算部172は、残ったスペクトルの中から最大光強度のスペクトルから所定の第2データ数のスペクトルを抽出し、吸光度スペクトルを求めて多変量解析により作成した回帰式に適用して濃度を算出する。
【0079】
[第2の実施形態及びその変形例における効果]
以上に説明したように、本実施形態に係る濃度測定装置100は、空洞のような気泡の影響による明らかに異常と考えられるスペクトルを取り除いたうえで濃度計測を行う。これにより、気泡の影響が小さいスペクトル群を正確に抽出することができ、簡易な構成で測定対象の濃度を精度良く測定することができる。
【0080】
[実施形態の拡張]
上記の説明では、サンプルに含まれる測定対象の濃度を測定する測定システム10について説明したが、実施形態は、これに限定されるものではない。以下の説明では、測定システム10が実行する測定手法のバリエーションについて説明する。
【0081】
[サンプルについて]
測定システム10は、各種溶質が溶解した水溶液のみならず、例えば、各種溶質が溶解した有機溶剤等の溶液をサンプルとしてもよい。また、このような場合、測定システム10は、溶媒の吸光度と溶質の吸光度との割合から式(1)を用いて算出される吸光度を採用してもよい。また、測定システム10は、溶質ではなく、溶媒となる物質の濃度を測定してもよい。
【0082】
[装置構成について]
なお、測定システム10の装置構成は、上述した説明に限定されるものではない。例えば、濃度測定装置100は、測定システム10全体を有し、フローセル14内のサンプルにおける測定対象の濃度を測定する装置であってもよい。
【0083】
以上、実施形態の一例を説明したが、これらは例示であり、本実施形態は上記した説明に限定されるものではない。発明の開示の欄に記載の態様を始めとして、実施形態の構成や詳細は、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で実施することができる。また、各実施形態については、矛盾しない範囲で任意に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0084】
10 測定システム
100 濃度測定装置
11 LED
12、16 ファイバ
13 投光部
14 フローセル
15 受光部
17 分光装置
110 光源制御部
120 分光制御部
130 受光制御部
140 入力部
150 出力部
160 記憶部
170 制御部
171 取得部
172 演算部
173 提供部