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特開2023-92292製造物の製造方法、情報処理装置およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092292
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】製造物の製造方法、情報処理装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   B23B 1/00 20060101AFI20230626BHJP
   B23Q 17/12 20060101ALI20230626BHJP
   B23Q 17/09 20060101ALI20230626BHJP
   B23B 25/06 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
B23B1/00 N
B23Q17/12
B23Q17/09 A
B23B25/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207443
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】簗田 修二
【テーマコード(参考)】
3C029
3C045
【Fターム(参考)】
3C029CC01
3C045AA10
3C045EA20
3C045HA05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ワークに対する加工工程において発生する同軸度の異常の検知を実現する。
【解決手段】ワークをワークの軸周りに回転させながら加工して製造する製造物の製造方法であって、ワークを軸方向の2カ所で第1チャック111および第2チャック112により固定して回転させ、振動検知手段150により振動を検知する工程と、ワークを加工する工程と、ワークを第2チャック112のみにより固定して回転させ、振動検知手段150により振動を検知する工程と、判定手段により、第1チャック111および第2チャック112によりワークを固定した状態での回転において検知された振動に基づいてワークの同軸度を判定する第1判定と、第2チャックのみにより固定した状態での回転において検知された振動パターンに基づいてワークの同軸度を判定する第2判定とを行う工程と、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを当該ワークの軸周りに回転させながら加工して製造する製造物の製造方法であって、
前記ワークを軸方向の2カ所で第1チャックおよび第2チャックにより固定して回転させ、振動検知手段により振動を検知する工程と、
前記ワークを加工する工程と、
前記ワークを前記第2チャックのみにより固定して回転させ、前記振動検知手段により振動を検知する工程と、
判定手段により、前記第1チャックおよび前記第2チャックにより前記ワークを固定した状態での回転において検知された振動に基づいて当該ワークの同軸度を判定する第1判定と、前記第2チャックのみにより固定した状態での回転において検知された振動に基づいて当該ワークの同軸度を判定する第2判定とを行う工程と、
を含む、製造物の製造方法。
【請求項2】
前記第1判定は、検知された振動の振動量に基づいて行われることを特徴とする、請求項1に記載の製造物の製造方法。
【請求項3】
前記第2判定は、検知された振動のピークの出現パターンに基づいて行われることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の製造物の製造方法。
【請求項4】
前記加工は、
前記第1チャックおよび前記第2チャックにより前記ワークを固定した状態で行われる当該ワークの切断と、
切断された後に前記第2チャックにより固定されている前記ワークに対する加工と、を含み、
前記第2チャックにより固定されている前記ワークに対する加工において当該ワークに対する工具の接触が開始された際に検知された振動のピークの出現パターンに基づいて、前記第2判定が行われることを特徴とする、請求項3に記載の製造物の製造方法。
【請求項5】
前記第2チャックにより固定されている前記ワークに対する加工は、当該ワークを回転させ、前記工具を当該ワークの回転軸から離れた位置で当該ワークに接触させて行われる加工であることを特徴とする、請求項4に記載の製造物の製造方法。
【請求項6】
前記第2判定では、
検知された振動におけるピークどうしの間の振動量が最初のピークの出現前の振動量に基づいて定められる基準値まで低下する振動パターンが出現する範囲を対象範囲とし、
前記対象範囲における前記ピークの出現数に基づいて、前記同軸度の判定が行われることを特徴とする、請求項3に記載の製造物の製造方法。
【請求項7】
前記第2判定では、
検知された振動におけるピークどうしの間の振動量が最初のピークの出現前の振動量に基づいて定められる基準値まで低下する振動パターンが出現する範囲を対象範囲とし、
最初の前記ピークが出現してから前記対象範囲が終わるまでの時間に基づいて、前記同軸度の判定が行われることを特徴とする、請求項3に記載の製造物の製造方法。
【請求項8】
前記第2判定は、前記ワークの同軸度が予め定められた基準よりも小さい場合の振動データおよび当該基準よりも大きい場合の振動データを教師データとして学習させた機械学習による判定アルゴリズムにより行われることを特徴とする、請求項3に記載の製造物の製造方法。
【請求項9】
ワークを当該ワークの軸周りに回転させながら加工して製造する製造物の製造方法であって、
前記ワークを固定手段により固定した状態で回転させ、工具を当該ワークに接触させない状態で、振動検知手段により振動を検知する工程と、
前記ワークを加工する工程と、
前記ワークを回転させながら工具を当該ワークに接触させて、前記振動検知手段により振動を検知する工程と、
判定手段により、前記工具を前記ワークに接触させない状態で検知された振動に基づいて当該ワークの同軸度を判定する第1判定と、前記工具を前記ワークに接触させた状態で検知された振動に基づいて当該ワークの同軸度を判定する第2判定とを行う工程と、
を含む、製造物の製造方法。
【請求項10】
前記第1判定は、検知された振動の振動量に基づいて行われることを特徴とする、請求項9に記載の製造物の製造方法。
【請求項11】
前記第2判定は、検知された振動のピークの出現パターンに基づいて行われることを特徴とする、請求項9または請求項10に記載の製造物の製造方法。
【請求項12】
前記ワークを固定した状態で当該ワークを回転させ、前記工具を当該ワークの回転軸から離れた位置で当該ワークに接触させて加工を行い、当該加工において当該ワークに対する工具の接触が開始された際に検知された振動のピークの出現パターンに基づいて、前記第2判定が行われることを特徴とする、請求項11に記載の製造物の製造方法。
【請求項13】
前記第2判定は、前記ワークに対する最後の加工を行う際に検知された振動に基づいて行われることを特徴とする、請求項12に記載の製造物の製造方法。
【請求項14】
前記第2判定では、
検知された振動におけるピークどうしの間の振動量が最初のピークの出現前の振動量に基づいて定められる基準値まで低下する振動パターンが出現する範囲を対象範囲とし、
前記対象範囲におけるピークの出現数に基づいて、前記同軸度の判定が行われることを特徴とする、請求項11に記載の製造物の製造方法。
【請求項15】
前記第2判定では、
検知された振動におけるピークどうしの間の振動量が最初のピークの出現前の振動量に基づいて定められる基準値まで低下する振動パターンが出現する範囲を対象範囲とし、
前記最初のピークが出現してから前記対象範囲が終わるまでの時間に基づいて、前記同軸度の判定が行われることを特徴とする、請求項11に記載の製造物の製造方法。
【請求項16】
前記第2判定は、前記ワークの同軸度が予め定められた基準よりも小さい場合の振動データおよび当該基準よりも大きい場合の振動データを教師データとして学習させた機械学習による判定アルゴリズムにより行われることを特徴とする、請求項11に記載の製造物の製造方法。
【請求項17】
ワークを固定し、固定した当該ワークを駆動手段により当該ワークの軸周りに回転させながら加工手段により加工すると共に、検知手段により動作時の振動を検知する加工装置から当該振動の検知データを取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された前記検知データを処理する処理手段と、を備え、
前記処理手段は、前記駆動手段が前記ワークを回転させ、前記加工手段の工具が前記ワークに接触していない状態で検知された振動の前記検知データから得られる振動量の情報に基づいて当該ワークの同軸度を判定する第1判定と、当該加工手段の工具が前記ワークに接触した状態で検知された振動の前記検知データから得られる振動のピークの出現パターンに基づいて当該ワークの同軸度を判定する第2判定とを行うことを特徴とする、情報処理装置。
【請求項18】
コンピュータに、
ワークを固定し、固定した当該ワークを駆動手段により当該ワークの軸周りに回転させながら加工手段により加工すると共に、検知手段により動作時の振動を検知する加工装置から当該振動の検知データを取得する処理と、
前記駆動手段が前記ワークを回転させ、前記加工手段の工具が前記ワークに接触していない状態で検知された振動の前記検知データから得られる振動量の情報に基づいて当該ワークの同軸度を判定する処理と、
前記加工手段の工具が前記ワークに接触した状態で検知された振動の前記検知データから得られる振動のピークの出現パターンに基づいて当該ワークの同軸度を判定する処理と、
を実行させることを特徴とする、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造物の製造方法、情報処理装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
円柱や円筒状のワークの同軸度の測定は、高価な測定機を用い、安静な環境での測定作業が必要となる。このため、加工後に全てのワークの同軸度を測定することは、製品のコストアップや納期延長に繋がり、特に大量生産が望まれる製品に対して行うのは不向きである。
【0003】
一方、ワークを軸周りに回転させながら加工する自動旋盤等の加工装置において、装置の振動に基づいてワークの同軸度の異常を検出する技術がある。特許文献1には、ワークや工具を装着するために締結動作可能なクランプと、クランプの締結動作を制御する制御部と、クランプの締結動作と同期した所定のタイミングで測定されるクランプの振動または負荷に関連する所定のデータに基づいて、クランプの締結動作に伴う異常を検知する検知部と、を備える工作機械が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-55051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
振動による同軸度の検査は、特定の条件で加工装置にワークを装着し、工具による加工が行われていない状態で振動を測定した場合の振動とワークの同軸度との相関関係に基づく。しかし、加工工程においてワークを装着し直す場合、固定具によるワークの締結がずれ、ワークの同軸度を低下させる場合がある。また、加工中に、ワークに変形や歪みが生じて同軸度を損なうことが起こり得る。このような場合、加工後の状態は、振動とワークの同軸度との相関関係が成立する条件を満足するとは限らず、同軸度の異常を検知できない場合がある。
【0006】
本発明は、ワークに対する加工工程において発生する同軸度の異常の検知を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成する本発明は、ワークをワークの軸周りに回転させながら加工して製造する製造物の製造方法であって、ワークを軸方向の2カ所で第1チャックおよび第2チャックにより固定して回転させ、振動検知手段により振動を検知する工程と、ワークを加工する工程と、ワークを第2チャックのみにより固定して回転させ、振動検知手段により振動を検知する工程と、判定手段により、第1チャックおよび第2チャックによりワークを固定した状態での回転において検知された振動に基づいてワークの同軸度を判定する第1判定と、第2チャックのみにより固定した状態での回転において検知された振動に基づいてワークの同軸度を判定する第2判定とを行う工程と、を含む、製造物の製造方法である。
より好ましくは、第1判定は、検知された振動の振動量に基づいて行われる。
さらに好ましくは、第2判定は、検知された振動のピークの出現パターンに基づいて行われる。
また、より詳細には、ワークに対する加工は、第1チャックおよび第2チャックによりワークを固定した状態で行われるワークの切断と、切断された後に第2チャックにより固定されているワークに対する加工と、を含み、第2チャックにより固定されているワークに対する加工においてワークに対する工具の接触が開始された際に検知された振動のピークの出現パターンに基づいて、第2判定が行われる。
さらに詳細には、第2チャックにより固定されているワークに対する加工は、ワークを回転させ、工具をワークの回転軸から離れた位置でワークに接触させて行われる加工である。
より詳細には、第2判定では、検知された振動におけるピークどうしの間の振動量が最初のピークの出現前の振動量に基づいて定められる基準値まで低下する振動パターンが出現する範囲を対象範囲とし、対象範囲におけるピークの出現数に基づいて、同軸度の判定が行われる。
より詳細には、第2判定では、検知された振動におけるピークどうしの間の振動量が最初のピークの出現前の振動量に基づいて定められる基準値まで低下する振動パターンが出現する範囲を対象範囲とし、最初のピークが出現してから対象範囲が終わるまでの時間に基づいて、同軸度の判定が行われる。
より詳細には、第2判定は、ワークの同軸度が予め定められた基準よりも小さい場合の振動データおよびこの基準よりも大きい場合の振動データを教師データとして学習させた機械学習による判定アルゴリズムにより行われる。
また上記の目的を達成する本発明は、ワークをワークの軸周りに回転させながら加工して製造する製造物の製造方法であって、ワークを固定手段により固定した状態で回転させ、工具をワークに接触させない状態で、振動検知手段により振動を検知する工程と、ワークを加工する工程と、ワークを回転させながら工具をワークに接触させて、振動検知手段により振動を検知する工程と、判定手段により、工具をワークに接触させない状態で検知された振動に基づいてワークの同軸度を判定する第1判定と、工具をワークに接触させた状態で検知された振動に基づいてワークの同軸度を判定する第2判定とを行う工程と、を含む、製造物の製造方法である。
より好ましくは、第1判定は、検知された振動の振動量に基づいて行われる。
さらに好ましくは、第2判定は、検知された振動のピークの出現パターンに基づいて行われる。
また、より詳細には、ワークを固定した状態でワークを回転させ、工具をワークの回転軸から離れた位置でワークに接触させて加工を行い、加工においてワークに対する工具の接触が開始された際に検知された振動のピークの出現パターンに基づいて、第2判定が行われる。
さらに詳細には、第2判定は、ワークに対する最後の加工を行う際に検知された振動に基づいて行われる。
より詳細には、第2判定では、検知された振動におけるピークどうしの間の振動量が最初のピークの出現前の振動量に基づいて定められる基準値まで低下する振動パターンが出現する範囲を対象範囲とし、対象範囲におけるピークの出現数に基づいて、同軸度の判定が行われる。
より詳細には、第2判定では、検知された振動におけるピークどうしの間の振動量が最初のピークの出現前の振動量に基づいて定められる基準値まで低下する振動パターンが出現する範囲を対象範囲とし、最初のピークが出現してから対象範囲が終わるまでの時間に基づいて、同軸度の判定が行われる。
より詳細には、第2判定は、ワークの同軸度が予め定められた基準よりも小さい場合の振動データおよびこの基準よりも大きい場合の振動データを教師データとして学習させた機械学習による判定アルゴリズムにより行われる。
また上記の目的を達成する本発明は、ワークを固定し、固定したワークを駆動手段によりワークの軸周りに回転させながら加工手段により加工すると共に、検知手段により動作時の振動を検知する加工装置から振動の検知データを取得する取得手段と、取得手段により取得された検知データを処理する処理手段と、を備え、処理手段は、駆動手段がワークを回転させ、加工手段の工具がワークに接触していない状態で検知された振動の検知データから得られる振動量の情報に基づいてワークの同軸度を判定する第1判定と、加工手段の工具がワークに接触した状態で検知された振動の検知データから得られる振動のピークの出現パターンに基づいてワークの同軸度を判定する第2判定とを行うことを特徴とする、情報処理装置である。
また上記の目的を達成する本発明は、コンピュータに、ワークを固定し、固定したワークを駆動手段によりワークの軸周りに回転させながら加工手段により加工すると共に、検知手段により動作時の振動を検知する加工装置から振動の検知データを取得する処理と、駆動手段がワークを回転させ、加工手段の工具がワークに接触していない状態で検知された振動の検知データから得られる振動量の情報に基づいてワークの同軸度を判定する処理と、加工手段の工具がワークに接触した状態で検知された振動の検知データから得られる振動のピークの出現パターンに基づいてワークの同軸度を判定する処理と、を実行させることを特徴とする、プログラムである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ワークに対する加工工程において発生する同軸度の異常を、加工装置の振動により検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態による製造物の製造方法が適用されるシステムの構成を示す図である。
図2】加工装置の構成を示す図である。
図3】情報処理装置の構成例を示す図である。
図4】加工対象であるワークの構成例を示す図である。
図5】ワークの加工を説明する図であり、図5(A)はワークに対する切削加工の例を示す図、図5(B)は第1チャックおよび第2チャックの両方でワークを掴んだ状態を示す図、図5(C)はワークの切断の例を示す図である。
図6】ワークの加工を説明する図であり、図6(A)は切断されたワークを第2チャックで掴んだ状態を示す図、図6(B)はワークに対する穿孔の例を示す図、図6(C)はワークに対する面取り加工の例を示す図である。
図7】第1処理の対象であるセンサ信号およびその解析結果を示す図であり、図7(A)はセンサ信号の波形の例を示す図、図7(B)は図7(A)のセンサ信号を高速フーリエ変換(FTT)して得られた周波数分布を示す図、図7(C)は図7(A)のセンサ信号の主軸周波数成分とワークの同軸度との関係を示す図である。
図8】第2の処理の対象であるセンサ信号およびその解析結果を示す図であり、図8(A)は良品のワークに関するセンサ信号の波形の例を示す図、図8(B)は不良品のワークに関するセンサ信号の波形の例を示す図、図8(C)は前接触の回数とワークの同軸度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0011】
<システム構成>
図1は、本実施形態による製造物の製造方法が適用されるシステムの構成を示す図である。このシステムは、加工装置100と、情報処理装置200とを備える。加工装置100は、製造物であるワークを加工する装置である。加工装置100には振動センサ150が設けられている。この振動センサ150は、加工装置100の稼働により発生する振動を検知する。振動センサ150は、振動を検知すると、検知した振動を示す信号(以下、「センサ信号」と呼ぶ)を情報処理装置200へ送信する。情報処理装置200は、取得したセンサ信号を処理し、処理結果に基づいてワークの同軸度を判定して、判定結果を加工装置100へ送信する。
【0012】
また、加工装置100は、加工したワークを回収箱160へ納める。回収箱160は、良品を回収する良品回収箱161と、保留品を回収する保留品回収箱162と、不良品を回収する不良品回収箱163とからなる。加工装置100は、情報処理装置200の判定結果に基づいてワークを良品と保留品と不良品とに仕分け、それぞれの回収箱161、162、163へ納める。ここで、保留品とは、情報処理装置200による判定結果に基づいて良品か不良品かを断定できないワークである。保留品に対しては、例えば、別途、管理者が、測定器を用いて同軸度を測定することにより、個別に良品か不良品かを判断する等としても良い。
【0013】
加工装置100と情報処理装置200とは、トリガ信号線210、センサ信号線220、判定信号線240を介して接続されている。トリガ信号線210は、情報処理装置200にワークの同軸度を判定する処理を開始させるためのトリガ信号を伝送する信号線である。センサ信号線220は、振動センサ150からのセンサ信号を伝送する信号線である。センサ信号線220上には、A/D(アナログ/デジタル)変換器230が設けられている。センサ信号は、振動センサ150から出力されると、A/D変換器230で検知された振動を示すデジタル信号(検知データ)に変換され、情報処理装置200へ送られる。判定信号線240は、情報処理装置200によるワークの同軸度の判定結果を表す信号を加工装置100へ伝送する信号線である。
【0014】
加工装置100に設けられた振動センサ150と、各信号線210、220、240およびA/D変換器230と、情報処理装置200とで、加工装置100の振動に基づきワークの同軸度を判定する判定システムSが構成される。加工装置100は、判定対象となる振動が得られるタイミングでトリガ信号を出力する。情報処理装置200は、トリガ信号を受信したことを契機としてA/D変換されたセンサ信号を受け付け、ワークの同軸度の判定処理を行う。そして、情報処理装置200は、判定結果を加工装置100へ返す。
【0015】
<加工装置100の構成>
図2は、加工装置100の構成を示す図である。加工装置100は、固定具110と、駆動機構120と、工具130と、制御装置140とを備える。固定具110は、第1チャック111と、第2チャック112とを含む。また、上記のように、加工装置100には、振動センサ150が設けられている。本実施形態では、ワーク300として円柱状や円筒状の部材を想定している。そして、ワーク300を中心軸の周りに回転させながら加工する。
【0016】
固定具110は、ワーク300を加工する際に、ワーク300を固定する器具である。上記のように、固定具110は、第1チャック111と、第2チャック112とを含み、この第1チャック111および第2チャック112の一方または両方でワーク300を掴み、固定する。第1チャック111および第2チャック112は、ワーク300の軸方向における異なる2か所でワーク300を掴む。第1チャック111および第2チャック112は、同一の回転軸の周りに回転可能である。
【0017】
駆動機構120は、第1チャック111および第2チャック112を回転させる機構である。駆動機構120は、第1チャック111および第2チャック112を、ワーク300を掴んだ状態でワーク300の中心軸の周りに回転させるように駆動する。
【0018】
工具130は、ワーク300を加工する道具である。工具130は、ワーク300に対する加工の種類に応じて種々の刃や部材が用意される。また、工具130は、第1チャック111および第2チャック112の一方または両方により固定されて回転されるワーク300に対し、回転軸と交差する方向や回転軸に沿う方向に移動する。これにより、工具130は、ワーク300に対して様々な向きや角度で接触し、加工することができる。一例として、工具130には、切削用の工具、研削用の工具、研磨用の工具、切断用の工具、穿孔用の工具等がある。切削用の工具、研削用の工具、研磨用の工具は、ワーク300の回転軸と交差する方向や回転軸に沿う方向に移動しながらワーク300に接触し、ワーク300の表面を切削したり研削したり研磨したりするのに用いられる。切断用の工具は、ワーク300の回転軸の中心に向かって移動しながらワーク300に接触し、ワーク300を切断(いわゆる突っ切り)するのに用いられる。穿孔用の工具は、ワーク300の端面に対してワーク300の回転軸に沿って移動しながらワーク300に接触し、ワーク300の端面に孔を形成するのに用いられる。
【0019】
制御装置140は、加工装置100の動作を制御する装置である。例えば、ワーク300を固定するための第1チャック111および第2チャック112の動作、駆動機構120の動作、工具130の動作等を制御する。また、制御装置140は、情報処理装置200との間で信号の送受信を行う。具体的には、制御装置140は、情報処理装置200にワーク300の同軸度を判定する処理を開始させるためのトリガ信号を出力し、トリガ信号線210を介して情報処理装置200へ送信する。また、制御装置140は、判定信号線240を介して情報処理装置200から判定信号を受信し、加工が済んだワーク300を回収箱160へ納める。この時、制御装置140は、受信した判定信号に基づき、ワーク300を良品、保留品、不良品の何れかに仕分け、仕分けの結果に応じて良品回収箱161、保留品回収箱162、不良品回収箱163の何れかにワーク300を納める。
【0020】
この制御装置140は、例えば、数値制御コンピュータにより実現される。制御装置140を実現する数値制御コンピュータは、例えば、CPU(Central Processing Unit)とCPUが実行するプログラムを記憶した記憶装置とにより構成しても良い。また、制御装置140は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、その他の回路により実現しても良い。
【0021】
振動センサ150は、加工装置100の表面または内部に取り付けられ、加工装置100の振動を感知して振動の大きさを表す信号(センサ信号)を出力するセンサである。振動センサ150から出力されるセンサ信号は、センサ信号線220を介して情報処理装置200へ送信される。図1に示した構成では、振動センサ150から出力されるセンサ信号はアナログ信号であり、A/D変換器230によりデジタル信号に変換されて情報処理装置200に入力される。本実施形態では、センサ信号は、振動センサ150から常時出力され、情報処理装置200に送られているものとする。なお、図2に示す構成例では、センサ信号は、振動センサ150から直接、情報処理装置200へ送信されるように構成されているが、制御装置140を介して送信するように構成しても良い。
【0022】
<情報処理装置200の構成>
図3は、情報処理装置200の構成例を示す図である。情報処理装置200は、例えば、コンピュータにより実現される。情報処理装置200を実現するコンピュータは、演算手段であるCPU(Central Processing Unit)201と、記憶手段であるROM(Read Only Memory)202、RAM(Random Access Memory)203、記憶装置204とを備える。RAM203は、主記憶装置(メイン・メモリ)であり、CPU201が演算処理を行う際の作業用メモリとして用いられる。ROM202にはプログラムや予め用意された設定値等のデータが保持されており、CPU201はROM202から直接プログラムやデータを読み込んで処理を実行することができる。記憶装置204は、プログラムやデータの保存手段である。記憶装置204にはプログラムが記憶されており、CPU201は記憶装置204に格納されたプログラムを主記憶装置に読み込んで実行する。また、記憶装置204には、CPU201による処理の結果が格納される。記憶装置204としては、例えば磁気ディスク装置やSSD(Solid State Drive)等が用いられる。
【0023】
情報処理装置200は、センサ信号線220を介して、振動センサ150から出力されA/D変換器230によりデジタル信号に変換されたセンサ信号(検知データ)を受信する。また、情報処理装置200は、トリガ信号線210を介して加工装置100からトリガ信号を受信すると、これを契機としてセンサ信号を解析し、ワーク300の同軸度の判定を行う。そして、情報処理装置200は、判定信号線240を介して、ワーク300の同軸度の判定結果を加工装置100へ返す。情報処理装置200によるこれらの処理は、例えば、図3に示したCPU201がプログラムを実行することにより実行される。言い換えれば、情報処理装置200は、加工装置100から振動の検知データを取得する取得手段として機能すると共に、取得手段により取得された検知データを処理する処理手段として機能する。そして、これらの機能は、例えば、図3に示したCPU201がプログラムを実行することにより実現される。センサ信号の解析およびワーク300の同軸度の判定の詳細については後述する。なお、図3に示した構成例は、情報処理装置200をコンピュータにより実現する場合の一例に過ぎない。
【0024】
<ワーク300の構成例>
図4は、加工対象であるワーク300の構成例を示す図である。図2を参照して説明したように、本実施形態の加工装置100は、固定具110である第1チャック111および第2チャック112の一方または両方でワーク300を固定し、回転させながらワーク300に工具130を接触させて加工する。したがって、ワーク300は、円柱や円筒の形状であり、ワーク300の中心軸301と固定具110による回転の回転軸とが一致するようにして加工が行われる。
【0025】
図4には、ワーク300を中心軸301に沿う面で切った断面が示されている。図4に示すワーク300は、軸方向のほぼ全体にわたる主軸部310と、主軸部310の一端側に形成される太軸部320とからなる。ここで、図4においてワーク300の左側の端部を先端と呼び、ワーク300の先端側の端面を先端面311とする。反対に、図4においてワーク300の右側の端部を後端と呼び、ワーク300の後端側の端面を後端面312とする。したがって、図4に示す例において、太軸部320は主軸部310の後端側に形成されている。また、ワーク300の後端側には、ワーク300の軸方向の長さの1/2程度の深さの孔330が形成されている。この孔330は、ワーク300の後端側から見た形状が円形であり、この孔330の中心は、ワーク300の中心軸301と一致している。また、図4に示す例では、ワーク300の同軸度は、図示の基準位置に対する対象位置の同軸度を判定することを示している。
【0026】
<ワーク300の加工>
次に、ワーク300に対する加工の具体例を説明する。本実施形態では、ワーク300に対する具体的な加工の種類は特に限定しないが、一例として、図4に示したワーク300の加工手順を例示する。ここでは、断面が円形の長尺な棒材を切断してワーク300を作成するものとする。
【0027】
図5および図6は、ワーク300の加工を説明する図である。図5(A)はワーク300に対する切削加工の例を示す図、図5(B)は第1チャック111および第2チャック112の両方でワーク300を掴んだ状態を示す図、図5(C)はワーク300の切断の例を示す図である。図6(A)は切断されたワーク300を第2チャック112で掴んだ状態を示す図、図6(B)はワーク300に対する穿孔の例を示す図、図6(C)はワーク300に対する面取り加工の例を示す図である。
【0028】
以下の説明では、図5および図6において、図4に示したワーク300の先端と後端に合わせて、図の左方を前方、右方を後方と呼ぶ。ワーク300の材料である棒材は、第1チャック111の後方(図において第1チャック111の右側)から繰り出される。そして、ワーク300の軸方向の長さに相当する長さまで棒材が繰り出された後に、第1チャック111が締められ、ワーク300(棒材)が固定される。
【0029】
次に、駆動機構120が第1チャック111を駆動してワーク300を中心軸301周りに回転させる。そして、図5(A)に示すように、この状態で、切削用の工具130によりワーク300が切削され、ワーク300の外形が形成される。この加工において、工具130は、例えば、加工により形成されるワーク300の外形に応じて、ワーク300の中心軸301(回転軸)に対して交差する方向や中心軸301に沿う方向に移動しながらワーク300の外周面を切削する。図5(A)に示す例では、ワーク300の第1チャック111に固定された位置の付近に、太軸部320が形成されている。
【0030】
ワーク300の外形の加工が済むと、次に、ワーク300に対して第2チャック112が締められる。これにより、第1チャック111および第2チャック112の両方でワーク300が固定される。図5(B)に示すように、第2チャック112は、第1チャック111に対してワーク300の先端側を掴んで固定する。
【0031】
次に、駆動機構120が第1チャック111および第2チャック112を同期させて駆動し、ワーク300を中心軸301周りに回転させる。ここで、制御装置140は、トリガ信号を出力し、情報処理装置200にセンサ信号の解析およびワーク300の同軸度の判定を実行させる。また、図5(C)に示すように、第1チャック111および第2チャック112によりワーク300が回転している状態で、切断用の工具130によりワーク300の切断が行われる。この加工において、工具130は、例えば、ワーク300の中心軸301に向かって垂直に移動しながらワーク300を切削する。ワーク300の切断は、切断されたワーク300に太軸部320が含まれるように、第1チャック111に近い位置で行われる。切断されたワーク300の切断面は、このワーク300の後端面312となる。
【0032】
ワーク300が切断されると、図6(A)に示すように、ワーク300は、第2チャック112のみにより固定された状態となる。この状態で、駆動機構120が第2チャック112を駆動してワーク300を中心軸301周りに回転させる。そして、図6(B)に示すように、穿孔用の工具130によりワーク300の後端面312に孔330が形成される。この加工において、工具130は、例えば、工具130の刃の中心をワーク300の中心軸301に合わせ、かつ、ワーク300の後端面312側からワーク300の中心軸301に沿って移動しながらワーク300を切削する。
【0033】
次に、第2チャック112によりワーク300を回転させた状態で、図6(C)に示すように、面取り加工用の工具130によりワーク300に対する面取り加工が行われる。面取り加工は、加工装置100により行われるワーク300に対する加工のうち、最後の加工であるものとする。この加工において、工具130は、例えば、ワーク300の外形に応じて、ワーク300の中心軸301(回転軸)に対して交差する方向や中心軸301に沿う方向に移動しながらワーク300を切削する。ここで、制御装置140は、トリガ信号を出力し、情報処理装置200にセンサ信号の解析およびワーク300の同軸度の判定を実行させる。
【0034】
以上のようにして、加工装置100によるワーク300に対する加工の工程において2回、振動センサ150から出力されたセンサ信号の解析および解析結果に基づくワーク300の同軸度の判定を行った。上記の工程では、1回目の解析および判定は、第1チャック111および第2チャック112でワーク300を固定し、第1チャック111および第2チャック112を同期させて回転させた際に得られたセンサ信号に対して行った。2回目の解析および判定は、第2チャック112でワーク300を固定し、ワーク300に対する最後の加工である面取り加工を行う際に得られたセンサ信号に対して行った。
【0035】
図5、6を参照して説明した上記の工程は、ワーク300を第1チャック111で固定し、回転させて、ワーク300を加工する工程(図5(A))、ワーク300を第1チャック111および第2チャック112で固定し、回転させて、得られたセンサ信号の解析およびワーク300の同軸度の判定(以下、この解析および判定をまとめて「処理」と呼ぶ)を行う工程(図5(B))、ワーク300を切断する工程(図5(C))、ワーク300を第2チャック112で固定し、回転させて、ワーク300を加工する工程(図6(B))、ワーク300を第2チャック112で固定し、回転させて、ワーク300を加工すると共に、加工の際に得られたセンサ信号を処理する工程(図6(C))として把握される。この工程において、1回目の処理は、ワーク300を回転させ、ワーク300に工具130を接触させない状態で得られたセンサ信号を対象として行われる。2回目の処理は、ワーク300を回転させ、加工のためにワーク300に工具130を接触させて得られたセンサ信号を対象として行われる。
【0036】
なお、ワーク300に対する具体的な加工の内容は、図5、6を参照して説明した上記の加工には限定されない。また、センサ信号の解析およびワーク300の同軸度の判定を行うタイミング(言い換えれば、制御装置140によりトリガ信号が出力されるタイミング)は、上記のタイミングには限定されない。一例としては、図5、6を参照して説明したように、加工が行われる工程において第1チャック111および第2チャック112によるワーク300の固定方法が変更される場合、センサ信号に対する処理は、固定方法が変更される前と、変更された後に行われる。
【0037】
上記の工程では、センサ信号に対する処理を2回行うこととしたが、3回以上行っても良い。複数回の処理は、例えば、異なる種類の加工が行われるたびに行っても良い。複数回の処理のうち、最後の処理は、例えば、ワーク300に対する最後の加工が行われる際に行う。この最後の加工は、必ずしも図6(C)に示した面取り加工に限らず、他の種類の加工であっても良い。このように、ワーク300に対する加工の工程で複数回、処理を行うことにより、加工の工程のどの段階でワーク300の同軸度が悪化したか、どの種類の加工を行うことによってワーク300の同軸度が悪化したか等、加工の内容とワーク300の同軸度との関係を診断することができる。
【0038】
また、例えば、ワーク300に対する加工のうち、第1チャック111および第2チャック112の両方でワーク300を固定して行われる加工がある場合、少なくとも1回の処理は、この状態で得られたセンサ信号を対象として行うこととしても良い。この場合、図5(B)を参照して説明したように、工具130をワーク300に接触させず、単にワーク300を回転させて得られたセンサ信号を対象とする。
【0039】
<情報処理装置200によるセンサ信号の処理>
次に、情報処理装置200によるセンサ信号の処理について説明する。上記のように、センサ信号に対する処理は、加工装置100によるワーク300に対する加工の工程における種々のタイミングで行うことができ、処理を行う回数も限定されない。ここでは、複数回の処理のうち、一の処理と、その後に行われる他の一の処理とに着目し、各々について説明する。着目する2つの処理のうち先に行われる処理を「第1処理」と呼び、後に行われる処理を「第2処理」と呼ぶ。なお、ここでは着目する2つの処理を区別するために第1処理、第2処理としたが、処理の実行回数自体は3回以上であっても良く、第1処理と第2処理との間に他の一または複数の処理が実行されても良い。すなわち、3回以上の処理が実行される場合、そのうちの2つの処理が着目対象となり、着目された処理のうちの先に行われる方が第1処理、後に行われる方が第2処理となる。
【0040】
第1処理は、加工装置100における第1チャック111および第2チャック112の両方でワーク300を固定して回転させ、得られたセンサ信号を対象として行われる処理とする。第1処理の対象のセンサ信号は、回転するワーク300に対して工具130を接触させない状態で、振動センサ150が検知した振動を表す信号である。情報処理装置200は、第1処理において、このセンサ信号を解析し、解析結果に基づき、ワーク300の同軸度を判定する(第1判定)。
【0041】
図7は、第1処理の対象であるセンサ信号およびその解析結果を示す図である。図7(A)はセンサ信号の波形の例を示す図、図7(B)は図7(A)のセンサ信号を高速フーリエ変換(FTT)して得られた周波数分布を示す図、図7(C)は図7(A)のセンサ信号の主軸周波数成分とワーク300の同軸度との関係を示す図である。
【0042】
図7(A)には、第2チャック112がワーク300を掴む直前から、ワーク300が工具130により切断されるまでに検知された振動が示されている。第2チャック112がワーク300を掴んで締める瞬間には、図7(A)の位置Pに示すように、鋭く大きい振動が発生する。この後、ワーク300の回転が開始され、工具130による加工(切断)が開始されるまでの間が、第1処理の対象となる。図7(A)に示す例では、範囲Vが、第1処理の対象のセンサ信号である。
【0043】
図7(B)には、範囲Vにおけるセンサ信号を高速フーリエ変換して得られた周波数分布が示されている。図7(B)において、F1が主軸周波数成分であり、FHは高調波成分である。この主軸周波数成分における振動の大きさ(振動量)は、ワーク300の同軸度と相関関係がある。図7(C)のグラフにおいて、縦軸は主軸周波数成分の振動の大きさであり、横軸はワーク300の同軸度を表す。例えば、図7(C)において、センサ信号を解析して得られた主軸周波数成分の振動の大きさが0.02以下であれば、ワーク300の同軸度は6.00μm以下である。一方、主軸周波数成分の振動の大きさが0.03以上であれば、ワーク300の同軸度は9.00μm以上である。したがって、例えば、同軸度が6.00μm以下のワーク300を良品とし、同軸度が9.00μm以上のワーク300を不良品とすると、主軸周波数成分の振動の大きさが0.02以下ならば良品、0.03以上ならば不良品と判定し得る。このように、良品および不良品の基準となるワーク300の同軸度を決定し、この基準の同軸度が必ず含まれる主軸周波数成分の振動の大きさを予め求めておくことにより、センサ信号を解析して得られた主軸周波数成分の振動の大きさに応じて、対象のワーク300が良品か不良品かを判定することができる。また、図7(C)において、主軸周波数成分の振動の大きさが0.02から0.03の間である場合、この範囲に該当するワーク300の同軸度は、3.00μmから10.00μm程度であり、良品とも不良品とも判定することができない。これに該当するワーク300は、保留品として扱い、別途、測定器等を用いた同軸度の測定を行って、良品か不良品かを個別に判定しても良い。
【0044】
第2処理は、加工装置100における第2チャック112でワーク300を固定して回転させ、得られたセンサ信号を対象として行われる処理とする。第2処理の対象のセンサ信号は、回転するワーク300に対して工具130を接触させた際に振動センサ150が検知した振動を表す信号である。情報処理装置200は、第2処理において、このセンサ信号を解析し、解析結果に基づき、ワーク300の同軸度を判定する(第2判定)。
【0045】
第1チャック111および第2チャック112によりワーク300が固定された状態では、ワーク300を回転させて検知された振動に基づくセンサ信号の主軸周波数成分の大きさとワーク300の同軸度とに相関関係があった。そこで、第1判定では、センサ信号の主軸周波数成分の大きさとワーク300の同軸度との相関関係を利用し、ワーク300を回転させ、ワーク300に対する加工が開始されるまでの間に検知された振動に基づくセンサ信号を用いてワーク300の同軸度を判定した。
【0046】
これに対し、第2チャック112のみでワーク300が固定された状態では、ワーク300を回転させて検知された振動に基づくセンサ信号の主軸周波数成分の大きさとワーク300の同軸度とに明確な相関関係は見出されない。このため、第1判定のように、ワーク300を回転させ、ワーク300に対する加工が開始されるまでの間に検知された振動に基づくセンサ信号を用い、主軸周波数成分の振動の大きさに基づいてワーク300の同軸度を判定することができない。本実施形態では、第2チャック112のみでワーク300を固定し回転させて加工する際に検知された振動に基づくセンサ信号を用い、振動のピークの出現パターンに基づいて、第2判定を行う。
【0047】
ここで、ワーク300の同軸度が大きい場合の振動の発生について検討する。ワーク300の同軸度が大きい場合、ワーク300を第1チャック111や第2チャック112で固定して回転させると、場所によって、回転軸と中心軸301とにずれが生じる。このため、加工のために工具をワーク300に近づけると、ワーク300の面(外周面または内周面)のうち、回転軸に対して中心軸301がずれている側の面から先に工具130に接触する。そして、ワーク300が回転軸の周りに1回転するたびに工具130がワーク300に接触する状態(以下、「前接触」と呼ぶ)が続いた後、ワーク300の周方向全体にわたって工具130が接触して目的の加工(以下、「本加工」と呼ぶ)が行われる状態となる。したがって、同軸度が大きいほど、本加工が開始されるまでの時間が長くなり、この間に生じる前接触の回数が多くなることが想定される。そこで、第2判定では、この前接触の回数や本加工が開始されるまでの時間を用いてワーク300の同軸度を判定することを考える。
【0048】
図8は、第2の処理の対象であるセンサ信号およびその解析結果を示す図である。図8(A)は良品のワークに関するセンサ信号の波形の例を示す図、図8(B)は不良品のワークに関するセンサ信号の波形の例を示す図、図8(C)は前接触の回数とワーク300の同軸度との関係を示す図である。
【0049】
図8(A)および図8(B)にはそれぞれ、ワーク300に対する加工が開始される前のある時点から一定時間に検知された振動が示されている。上述したように、加工のために工具130がワーク300に接近すると、数回の前接触が生じた後に本加工が開始される。前接触が生じると、センサ信号の波形には、前接触による振動を表すピークが形成される。前接触は、ワーク300が回転軸の周りに1回転するたびに1回生じるので、前接触に基づくセンサ信号のピークは、ワーク300の1回転に相当する時間ごとに等間隔で発生する。また、前接触が生じている期間において、各前接触の間は、工具130がワーク300に接触していない。このため、センサ信号において、前接触に基づく各ピークの間における振動の大きさは、工具130がワーク300に接触していない状態(例えば、最初の前接触によるピークが発生する前の状態)の振動の大きさ程度まで低下する。
【0050】
図8(A)、(B)を参照すると、図8(A)に示す例では、P1~P3の3回の前接触が生じた後、本加工が開始されている。図8(B)に示す例では、P1~P5の5回の前接触が生じた後、本加工が開始されている。また、最初の前接触P1が発生してから本加工が開始されるまでの時間(図示の範囲C)は、図8(A)に示す例の方が短く、図8(B)に示す例の方が長い。これらは、工具130がワーク300の周方向全体に接触して本加工が開始されるまでに、良品のワーク300を対象とする図8(A)では3回の前接触を要したのに対し、不良品のワーク300を対象とする図8(B)では5回の前接触を要したことを意味する。
【0051】
図8(C)のグラフにおいて、縦軸は前接触の回数であり、横軸は同軸度を表す。例えば、図8(C)において、センサ信号における前接触の回数3回以下であれば、ワーク300の同軸度は12.00μm以下である。一方、前接触の回数が6回以上であれば、ワーク300の同軸度は14.00μm以上である。したがって、例えば、同軸度が12.00μm以下のワーク300を良品とし、同軸度が14.00μm以上のワーク300を不良品とすると、前接触の回数が3回以下ならば良品、6回以上ならば不良品と判定し得る。このように、良品および不良品の基準となるワーク300の同軸度を決定し、この基準の同軸度が必ず含まれる前接触の回数を予め求めておくことにより、センサ信号における前接触の回数に応じて、対象のワーク300が良品か不良品かを判定することができる。また、図8(C)において、前接触の回数が4回または5回である場合、この範囲に該当するワーク300の同軸度は、7.00μmから15.00μm程度であり、良品とも不良品とも判定することができない。これに該当するワーク300は、保留品として扱い、別途、測定器等を用いた同軸度の測定を行って、良品か不良品かを個別に判定しても良い。
【0052】
図8(C)に示す例では、前接触の回数とワーク300の同軸度との関係について説明したが、上述したように、前接触の回数に代えて、最初の前接触が生じてから本加工が開始されるまでの時間の長短に基づいてワーク300の同軸度を判定しても良い。この場合、良品および不良品の基準となるワーク300の同軸度を決定し、この基準の同軸度が必ず含まれる前接触の発生時間を予め求める。そして、センサ信号における前接触の振動パターンの発生時間が、良品の基準の同軸度が必ず含まれる前接触の発生時間よりも短い場合は良品、不良品の基準の同軸度が必ず含まれる前接触の発生時間よりも長い場合は不良品と判定する。また、センサ信号における前接触の振動パターンの発生時間が、良品の基準の同軸度が必ず含まれる前接触の発生時間と、不良品の基準の同軸度が必ず含まれる前接触の発生時間との間である場合は、保留品と判定する。
【0053】
ここで、前接触の波形の識別について説明する。上述したように、前接触に基づくセンサ信号のピークは、ワーク300の1回転に相当する時間ごとに等間隔で発生する。そして、前接触に基づく各ピークの間における振動の大きさは、前接触によるピークが発生する前の状態の振動の大きさ程度まで低下する。そこで、前接触によるピークが発生する前の振動の大きさに基づく基準値を設定し、情報処理装置200は、等間隔で発生するピークの間に基準値まで振動の大きさが低下するような振動パターンが出現する範囲(例えば、図8(A)、(B)における範囲C)を第2判定の対象範囲とする。また、情報処理装置200は、振動の大きさが基準値まで低下しなくなったならば、本加工が開始されたと判断する。なお、基準値は、例えば、前接触によるピークが発生する前の振動の大きさよりも一定値分大きい値や、かかる振動の大きさに対して一定の比率の値(例えば、1.2倍)等のように設定し得る。
【0054】
また、第2判定では、機械学習による判定アルゴリズムを用いてワーク300の良品、不良品を判定しても良い。この場合、例えば、同軸度が予め定められた基準よりも小さい良品のワーク300の加工時の振動パターン(例えば、図8(A)の振動パターン)と、この基準よりも大きい不良品のワーク300の加工時の振動パターン(例えば、図8(B)の振動パターン)とを教師データとして用い、機械学習による判定アルゴリズムを学習させる。この場合の振動パターンは、前接触に相当する範囲の振動パターンであっても良いし、本加工時の振動を含むパターンであっても良い。
【0055】
ワーク300に対する加工には、上記のように前接触が発生しやすい加工と、発生しにくい加工とがある。例えば、工具130が、第1チャック111や第2チャック112により保持されて回転するワーク300の回転軸に対して交差するように移動しながら行われる加工の場合、工具130がワーク300の外周面や内周面に接触する際に、前接触が生じる。また、工具130がワーク300の外周面や内周面に接触する加工では、工具130がワーク300の回転軸に平行に移動しながら行われる加工であっても、前接触が生じる場合がある。
【0056】
一方、工具130が、第1チャック111や第2チャック112により保持されて回転するワーク300の回転軸に対して平行に移動しながら行われる加工であって、ワーク300の端面等のワーク300の中心軸301に垂直な面(以下、「垂直面」と呼ぶ)に対して行われる加工の場合、前接触は生じにくい。例えば、図6(B)に示したように、ワーク300の後端面312に孔330を形成するような加工の場合、工具130がワーク300の後端面312に接触する際に、特定の位置のみが先に工具130と接触するということが起こり難い。
【0057】
ただし、ワーク300の垂直面に対し、工具130が回転軸に対して平行に移動しながら行われる加工であっても、回転軸から離れた位置で行われる加工(例えば、円形の溝を形成する加工等)である場合、前接触が発生する場合がある。加工時のワーク300における同軸度の悪化は、ワーク300自体に起因するものと、ワーク300の固定状態に起因するものとがある。前者は、加工等の過程において、ワーク300の形状が中心軸301に対して歪みや偏りを生じた場合等に起こる。後者は、第1チャック111や第2チャック112でワーク300を掴んで締める際に、ワーク300が傾いた状態で掴んでしまった場合等に起こる。前者の場合は、ワーク300の中心軸301が回転軸とずれていても平行となるため、ワーク300の垂直面は、回転軸に対しても垂直となる。したがって、工具130がワーク300の垂直面に接触する際に、特定の位置のみが先に工具130と接触することは起こらない。一方、後者の場合、ワーク300の中心軸301は回転軸に対して平行ではないため、ワーク300の垂直面は、回転軸に対して垂直ではない。したがって、工具130がワーク300の垂直面に接触する際に、回転軸に対する中心軸301の傾きに応じて、垂直面の特定の位置のみが先に工具130と接触することが起こり得る。そして、この場合は、この前接触が生じた際の振動パターンを利用して第2判定を行うことができる。
【0058】
情報処理装置200によるセンサ信号の処理において、第1判定は、二つのチャック(第1チャック111および第2チャック112)でワーク300を回転させて得られたセンサ信号を解析し、主軸周波数成分の振動の大きさとワーク300の同軸度との相関関係を用いて行った。一方、第2判定は、一つのチャックでワーク300を回転させながら加工する際に得られたセンサ信号による振動パターンを用いて行った。しかしながら、この2種類の判定方法の組み合わせは例示に過ぎず、加工の工程においてワーク300に対する固定方法に応じて他の組み合わせを行っても良い。すなわち、1回目の判定で振動パターンを用いた判定を行っても良いし、2回目の判定で主軸周波数成分の振動の大きさとワーク300の同軸度との相関関係を用いた判定を行っても良い。
【0059】
ここで、主軸周波数成分の振動の大きさとワーク300の同軸度との相関関係を用いた判定の方が、加工時の振動パターンを用いた判定よりも高い精度で同軸度を判定し得る。そのため、主軸周波数成分の振動の大きさとワーク300の同軸度との相関関係を用いて判定を行い得る場合(言い換えれば、二つのチャックを同期させてワーク300を回転させる工程がある場合)は、その方法により判定を行うようにしても良い。そして、主軸周波数成分の振動の大きさとワーク300の同軸度との相関関係を用いて判定を行うことができない場合は、加工時の振動パターンを用いた判定を行うようにしても良い。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態には限定されない。例えば、上記の実施形態では、まず第1チャック111のみでワーク300を回転させて加工を行い、次に第1チャック111および第2チャック112でワーク300を回転させてワーク300を切断し、その後、第2チャック112のみでワーク300を回転させて加工を行った。そして、第1チャック111および第2チャック112でワーク300を回転させた際に得られたセンサ信号を用いて第1判定を行い、第2チャック112のみでワーク300を回転させて加工を行った際に得られたセンサ信号を用いて第2判定を行った。これに対し、ワーク300の形状によっては、加工工程においてワーク300の切断が行われない場合がある。このような場合であっても、一方のチャックから他方のチャックへ持ち替える工程があるならば、この持ち替えの際に、第1チャック111および第2チャック112でワーク300を回転させた際に得られたセンサ信号を用いた判定を行っても良い。
【0061】
また、上記の実施形態では、振動センサ150は検知した振動に基づくセンサ信号を常時出力し、加工装置100が出力するトリガ信号に応じて情報処理装置200がセンサ信号に対する処理を実行することとした。これに対し、加工装置100が、トリガ信号と共に振動センサ150のセンサ信号を情報処理装置200へ送信し、情報処理装置200がトリガ信号と共に受け取ったセンサ信号に対して処理を実行するようにしても良い。
【0062】
また、図1に示した構成例では、加工装置100と別に設けられた情報処理装置200を用いてセンサ信号に対する処理を実行した。これに対し、加工装置100において例えば制御装置140として設けられたコンピュータ等を用いてセンサ信号に対する処理を実行するようにしても良い。各装置およびシステムのハードウェア構成や機能構成は、図を参照して説明した上記の実施形態に示す具体的構成には限定されない。その他、本発明の技術思想の範囲から逸脱しない様々な変更や構成の代替は、本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0063】
100…加工装置、110…固定具、111…第1チャック、112…第2チャック、120…駆動機構、130…工具、140…制御装置、150…振動センサ、160…回収箱、161…良品回収箱、162…保留品回収箱、163…不良品回収箱、200…情報処理装置、300…ワーク、301…中心軸、310…主軸部、311…先端面、312…後端面、320…太軸部、330…孔
図1
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図8