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特開2023-92370差動通信装置の耐ノイズ性能推定方法、解析モデル作成方法、及び一括治具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092370
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】差動通信装置の耐ノイズ性能推定方法、解析モデル作成方法、及び一括治具
(51)【国際特許分類】
   G01R 29/26 20060101AFI20230626BHJP
   G01R 27/28 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
G01R29/26 D
G01R27/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207562
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝口 幸
(72)【発明者】
【氏名】平田 佳郎
(72)【発明者】
【氏名】梶田 治
(72)【発明者】
【氏名】米山 武志
(72)【発明者】
【氏名】高橋 政伎
【テーマコード(参考)】
2G028
【Fターム(参考)】
2G028BE10
2G028CG15
(57)【要約】
【課題】複数の通信用ケーブルが接続された複雑な形態であっても、通信IC端部のSdc11が測定可能で、測定したSdc11に基づいて差動通信装置の耐ノイズ性能を推定する。
【解決手段】1chの通信ポートを有する通信IC32が搭載され、通信IC32の通信ポートからの通信路が1chから2chに分岐してコネクタ34に接続される評価用基板30において、コネクタ34に2chを1chに変換する一括治具10を接続し、一括治具10の1chに変換された通信路にネットワークアナライザ50を接続してSパラメータの測定を行い、通信IC32端部のSdc11を測定することで、評価用基板30の耐ノイズ性能を推定する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1chの通信ポートを有する差動通信集積回路が搭載され、前記差動通信集積回路の通信ポートからの通信路が1chから2chに分岐してコネクタに接続される差動通信装置において、
前記コネクタに2chを1chに変換する一括治具を接続し、
前記一括治具の1chに変換された通信路にネットワークアナライザを接続してSパラメータの測定を行い、
前記差動通信集積回路端部の差動ノイズ変換量を測定することで、前記差動通信装置の耐ノイズ性能を推定する差動通信装置の耐ノイズ性能推定方法。
【請求項2】
前記一括治具の平衡度及び通過損失は、前記コネクタから前記差動通信装置の前記通信路が分岐する箇所までにおける平衡度以下で、かつ前記コネクタから前記差動通信装置の前記通信路が分岐する箇所までにおける通過損失以下となるように設定される請求項1に記載の差動通信装置の耐ノイズ性能推定方法。
【請求項3】
前記一括治具が前記コネクタに完全に接続できない場合、前記通信路の1chのみ測定し、前記通信路の他の1chはオープンとすることを特徴とする請求項1又は2に記載の差動通信装置の耐ノイズ性能推定方法。
【請求項4】
差動通信集積回路端部の差動ノイズ変換量を机上解析する際に、差動通信装置に搭載されるコモンモードチョークコイルのモデルのSパラメータ値を、差動通信が可能となる限界の規格値とする解析モデル作成方法。
【請求項5】
1chの通信ポートを有する差動通信集積回路が搭載され、前記差動通信集積回路の通信ポートからの通信路が1chから2chに分岐してコネクタに接続される差動通信装置において、
前記コネクタに2chを1chに変換すると共に、平衡度及び通過損失が、前記コネクタから前記差動通信装置の前記通信路が分岐する箇所までの平衡度以下で、かつ前記コネクタから前記差動通信装置の前記通信路が分岐する箇所までにおける通過損失以下となるように設定される一括治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動通信による差動通信装置の耐ノイズ性能推定方法、解析モデル作成方法、及び一括治具に関する。
【背景技術】
【0002】
差動通信は、等長かつ等間隔の2本の信号線のうち、一方の信号線に元の信号を、他方の信号線に位相を反転させた(逆位相の)差動信号を送る。
【0003】
差動通信においても、信号線には外部からノイズが侵入し得るが、例えば、2本の信号線の各々に同じノイズが侵入したとしても、差動通信では信号線間の電位差を情報とするので、当該ノイズはキャンセルされ得る。
【0004】
また、2本の信号線の各々に互いに逆向きの電流が流れることにより、信号線に生じる磁束が打ち消されるので、信号の高調波によるノイズが低減される。
【0005】
しかしながら、車両等に用いられる差動通信装置は、電磁波ノイズ対策の効果を確認するためのEMC(Electro-Magnetic Compatibility)試験に合格することが求められる。一例として、車載の機器に対しては、EMC試験としてBCI(Bulk Current Injection)試験が行われる。BCI試験は、ノイズ信号として1~400MHz程度の高周波電流を差動通信装置に接続される差動通信用ケーブルに注入して、ケーブルを伝搬するノイズ信号を測定することで耐ノイズ性能を推定する。
【0006】
特許文献1には、差動通信装置に差動通信用のケーブルが1つ以上接続された配索構成において耐ノイズ性能を推定することができる耐ノイズ性能推定方法の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-211236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の発明は、差動通信の耐ノイズ性能推定の際に実際の配索形態やシールドルームが必要で、作業が煩雑でコストがかかるおそれがあった。
【0009】
本発明は、上記事実を考慮し、複数の通信用ケーブルが接続された複雑な形態であっても、通信IC端部の差動ノイズ変換量(Sdc11)が測定可能で、測定したSdc11に基づいて差動通信装置の耐ノイズ性能が推定可能な差動通信装置の耐ノイズ性能推定方法、解析モデル作成方法、及び一括治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の差動通信装置の耐ノイズ性能推定方法は、1chの通信ポートを有する差動通信集積回路が搭載され、前記差動通信集積回路の通信ポートからの通信路が1chから2chに分岐してコネクタに接続される差動通信装置において、前記コネクタに2chを1chに変換する一括治具を接続し、前記一括治具の1chに変換された通信路にネットワークアナライザを接続してSパラメータの測定を行い、前記差動通信集積回路端部の差動ノイズ変換量を測定することで、前記差動通信装置の耐ノイズ性能を推定する。
【0011】
請求項1に記載の差動通信装置の耐ノイズ性能推定方法は、一括治具により、2ch分を一括して測定することで、差動通信集積回路の端部に到達する差動ノイズを推定する差動ノイズ変換量が測定でき、測定した差動ノイズ変換量に基づいて差動通信装置のノイズ耐性が推定できる。
【0012】
請求項2に記載の差動通信装置の耐ノイズ推定方法は、前記一括治具の平衡度及び通過損失は、前記コネクタから前記差動通信装置の前記通信路が分岐する箇所までにおける平衡度以下で、かつ前記コネクタから前記差動通信装置の前記通信路が分岐する箇所までにおける通過損失以下となるように設定される。
【0013】
請求項2に記載の差動通信装置の耐ノイズ推定方法は、一括治具の平衡度及び通過損失が、差動通信装置端部であるコネクタから通信路の分岐点までにおける平衡度以下で、かつ差動通信装置端部であるコネクタから通信路の分岐点までにおける通過損失以下となるように設定されることにより、差動ノイズ変換量測定への影響を抑制する。
【0014】
請求項3に記載の差動通信装置の耐ノイズ推定方法は、前記一括治具が前記コネクタに完全に接続できない場合、前記通信路の1chのみ測定し、前記通信路の他の1chはオープンとすることを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の差動通信装置の耐ノイズ推定方法は、一括治具が差動通信装置の通信路の一部のみ接続可能な場合でも、差動通信装置の差動ノイズ変換量を精度よく測定できる。
【0016】
請求項4に記載の解析モデル作成方法は、差動通信集積回路端部の差動ノイズ変換量を机上解析する際に、差動通信装置に搭載されるコモンモードチョークコイルのモデルのSパラメータ値を、差動通信が可能となる限界の規格値とする。
【0017】
請求項4に記載の解析モデル作成方法は、差動通信装置に搭載される通信ICの差動ノイズ変換量の値を机上解析する際に、差動通信が可能となる限界の規格値をコモンモードチョークコイルのSパラメータ値として採用することにより、差動通信が可能となる限界の最悪の場合を想定したシミュレーションを実行することができる。
【0018】
請求項5に記載の一括治具は、1chの通信ポートを有する差動通信集積回路が搭載され、前記差動通信集積回路の通信ポートからの通信路が1chから2chに分岐してコネクタに接続される差動通信装置において、前記コネクタに2chを1chに変換すると共に、平衡度及び通過損失が、前記コネクタから前記差動通信装置の前記通信路が分岐する箇所までの平衡度以下で、かつ前記コネクタから前記差動通信装置の前記通信路が分岐する箇所までにおける通過損失以下となるように設定される。
【0019】
請求項5に記載の一括治具は、一括治具の平衡度及び通過損失が、差動通信装置端部であるコネクタから通信路の分岐点までにおける平衡度以下で、かつ通過損失以下となるように設定されることにより、差動ノイズ変換量測定への影響を抑制する。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明に係る差動通信装置の耐ノイズ性能推定方法、解析モデル作成方法、及び一括治具によれば、複数の通信用ケーブルが接続された複雑な形態であっても、通信IC端部のSdc11が測定可能で、測定したSdc11に基づいて差動通信装置の耐ノイズ性能を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施形態に係る一括治具の構成の一例を示した概略図である。
図2】評価用基板に一括治具を接続した場合を示した概略図である。
図3】第1実施形態に係る差動通信装置の耐ノイズ性能推定方法における機器の構成の一例を示した概略図である。
図4】1chの入出力ポートを有する通信ICを、1chの入出力ポートを有するコネクタを備えた基板に実装した場合を示した従来型のECUの概略図である。
図5図3に示した第1実施形態に係る構成で検出したSdc11の値の一例と、図4に示した従来型の構成で検出したSdc11の真値の一例とを各々示した概略図である。
図6】第1ポートと第2ポートとを用いてSdc11を測定する場合の評価用基板のポートの概略図である。
図7】評価用基板に一括治具を介してネットワークアナライザを接続した場合の概略図である。
図8】第2実施形態において、Sdc11の机上解析の際に、差動通信装置に搭載されるCMCモデルのSパラメータの値を、該当する通信規格の値によりモデル化するためのモデル作成手法に係る仮想的な回路の概略図である。
図9】CMCのクライテリア値の一例を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1実施形態]
以下、第1実施形態に係る差動通信装置の耐ノイズ性能推定方法について説明する。本実施形態に係る差動通信装置の耐ノイズ性能推定方法は、複数の通信用ケーブルが接続された複雑な形態であっても、図1に示した一括治具10によって、通信IC端部の差動ノイズ変換量であるSdc11を測定可能な状態にする。
【0023】
一括治具10は、図1に示したように、通信ICが実装された評価用基板の第1ポートに接続される第1端子18と、同第2ポートに接続される第2端子20と、同第3ポートに接続される第3端子22と、同第4ポートに接続される第4端子と、を備え、第1端子18と第3端子22とが基板12を介して第1集約ポート14に、第2端子20と第4端子24とが基板12を介して第2集約ポート16に、各々接続されている。第1集約ポート14と、第2集約ポート16の各々は、高周波回路網の通過・反射電力の周波数特性を測定するネットワークアナライザ等の測定器に接続される。また、基板12は、基板の接地領域を接地させるための接地端子26を備えており、測定対象である車載ECU(Electronic Control Unit)の接地領域27に接地される。
【0024】
一括治具10の第1集約ポート14及び第2集約ポート16の各々の端部は、一例としてネットワークアナライザ等に接続可能な同軸コネクタである。また、第1端子18、第2端子20、第3端子22及び第4端子の各々は、車載ECU用のコネクタに接続可能な構造を有する。
【0025】
図2は、評価用基板30に一括治具10を接続した場合を示した概略図である。評価用基板30は、通信IC32が実装された、例えばECU等の装置であり、通信IC32が備える集積回路第1ポート36が第1ポート40と第3ポート44とに分岐し、同集積回路第2ポート38が第2ポート42と第4ポート46とに分岐している。
【0026】
第1ポート40、第2ポート42、第3ポート44及び第4ポート46の各々は、評価用基板30が備えるコネクタ34において、一括治具10の第1端子18、第2端子20、第3端子22及び第4端子24に各々接続される。そして、前述のように、第1端子18と第3端子22とが第1集約ポート14に、第2端子20と第4端子24とが第2集約ポート16に、各々接続される。その結果、一括治具10により、ポートを2ch備えるコネクタ34の配策を1chに変換することができる。また、一括治具10の接地端子26は、評価用基板30の接地領域27に接続される。
【0027】
図3は、本実施形態に係る差動通信装置の耐ノイズ性能推定方法における機器の構成の一例を示した概略図である。図3に示したように、評価用基板30のコネクタ34に接続された一括治具10の第1集約ポート14と第2集約ポート16に測定器であるネットワークアナライザ50が接続されている。さらに、評価用基板30の接地領域は、ネットワークアナライザ50から治具10へは同軸線によって導通接続されている。図3では省略しているが、評価用基板30に給電する電力供給機構を、さらに含む。
【0028】
本実施形態では、図3に示したように、評価用基板30を、入出力を2chから1chに変換可能な一括治具10を介してネットワークアナライザ50接続することにより、評価用基板30のSdc11を測定する。
【0029】
図4は、1chの入出力ポートを有する通信IC32を、1chの入出力ポートを有するコネクタ62を備えた基板60に実装した場合を示した従来型のECUの概略図である。通信IC32は、図2及び図3に示した通信IC32と同一なので、図4において、図2及び図3と同一の構成については、図2及び図3と同一の符号を付して、詳細な説明は省略する。
【0030】
図4に示した場合では、通信IC32の入出力ポートである集積回路第1ポート36及び集積回路第2ポート38に対応したコネクタ62のポートにネットワークアナライザ50を接続し、入射波a1、a2、反射波b1、b2を計測することにより、Sdc11を精度よく検出することができる。図4に示した構成では、本実施形態に係る一括治具10を介さずにIC32を実装した基板60で検出したSdc11を、Sdc11の真値として扱う。
【0031】
図5は、図3に示した本実施形態に係る構成で検出したSdc11の値の一例と、図4に示した従来型の構成で検出したSdc11の真値の一例とを各々示した概略図である。図5において、曲線70は、本実施形態に係る構成で検出したSdc11の値を示し、曲線72は、従来型の構成で検出したSdc11の真値を示す。図5に示したように、曲線70は、曲線72に略一致し、本実施形態に係る一括治具10を用いた構成で検出したSdc11は、Sdc11の真値に略一致する。
【0032】
本実施形態では、一括治具10を介して、図4に示したような従来型のECUと同様に2つのポートで測定を行うが、一括治具10を介した状態で検出されたSdc11が、一括治具10を介さないで検出されたSdc11の真値と略一致するには、一括治具10の部分が評価用基板30のSパラメータ性能に影響を与えないことが求められる。具体的には、一括治具10における通過損失及び平衡度(モード変換量を示すSパラメータに相当)が、ECUである評価用基板30における通過損失及び平衡度よりも良好な特性を示すことが求められる。具体的には、一括治具10の平衡度及び通過損失が、差動通信装置端部であるコネクタ34から評価用基板30内の通信路の分岐点までの平衡度以下で、かつ差動通信装置端部から通信路の分岐点までの通過損失以下となるように設定されることを要する。
【0033】
図6は、第1ポート40と第2ポート42とを用いてSdc11を測定する場合の評価用基板30のポートの概略図である。評価用基板30のコネクタ34のピン配列やコネクタ34の形状的に一括治具10が接続できない場合、括弧84で括った第1ポート40及び第2ポート42のみを一括治具10を介してネットワークアナライザ50に接続し、第3ポート44及び第4ポート46はオープンとする。第1ポート40及び第2ポート42は、一括治具10を介さずに、ネットワークアナライザ50に直接接続してもよい。
【0034】
図7は、評価用基板30に一括治具10を介してネットワークアナライザ50を接続した場合の概略図である。一括治具10には、図6に示したように、第1ポート40と第2ポート42とが接続されている。この状態で測定されたSdc11は、図5に示したように、第1ポート40、第2ポート42、第3ポート44及び第4ポート46を一括治具10に接続して計測したSdc11の値を示す曲線70に略一致し、第1ポート40及び第2ポート42のみをネットワークアナライザ50に接続した場合でも、Sdc11を正確に測定できる。
【0035】
以上説明したように、本実施形態によれば、一括治具10により、2ch分を一括して測定することで、通信IC32の端部に到達する差動ノイズを推定するSdc11が測定でき、測定したSdc11に基づいて差動通信装置のノイズ耐性が推定できる。
【0036】
一括治具10の平衡度及び通過損失が、差動通信装置端部から通信路の分岐点までの平衡度以下で、かつ差動通信装置端部から通信路の分岐点までの通過損失以下となるように設定されることにより、Sdc11測定への影響を可能な限り抑制している。
【0037】
その結果、一括治具10が差動通信装置のポートの一部のみ接続可能な場合でも、差動通信装置のSdc11を精度よく測定できる。
【0038】
[第2実施形態]
第2実施形態では、差動通信装置のSdc11をシミュレーションによる机上解析で算出する場合について説明する。
【0039】
図8は、Sdc11の机上解析の際に、差動通信装置に搭載されるCMC(コモンモードチョークコイル)モデルのSパラメータの値を、該当する通信規格の値によりモデル化するためのモデル作成手法に係る仮想的な回路100の概略図である。図8に示した回路100は、通信IC102に同相の信号を遮断するCMC104が接続され、CMC104には、所定の回路基板120を介して第1ポート130と、所定の回路基板122を介して第2ポート132とが、各々接続されている。そして、所定の回路基板120とCMC104との間には一端が接続されたESD(静電気放電)保護素子110が、所定の回路基板122とCMC104との間には一端が接続されたESD保護素子112が各々実装されている。ESD保護素子110、112は、他端が接地されたコンデンサであり、回路上に生じたノイズ成分を接地領域に逃がすようになっている。
【0040】
Sdc11は差動通信装置の平衡度を示すため、回路基板120、122の線路長差、ESD保護素子110、112の特性のばらつき等に影響されて悪化する傾向がある。その事前見積もりをシミュレーションにより机上解析する。その際、CMC104はSdc11の実測値からモデル化することが考えられるが、Sdc11の実測値からCMC104をモデル化すると、差動通信が可能となる限界の、Sdc11が最悪となるようなCMC104を規定することは難しい。
【0041】
本実施形態では、CMC104の規格値(クライテリア値)をCMCのモデルとして採用する。クライテリア値は、例えば、CMC104が同相の信号の通過を許す寸前の状態を規定している。図9は、CMC104のクライテリア値の一例を示した概略図である。クライテリア値は、例えば、曲線140で示したクラス1、曲線142で示したクラス2、曲線144で示したクラス3があり、モデル化するCMC104の特性に応じて適宜選択する。
【0042】
以上説明したように、本実施形態によれば、差動通信装置に搭載される通信IC端部のSdc11の値を机上解析する際に、CMCのクライテリア値をCMCのモデルとして採用することにより、差動通信が可能となる限界の最悪の場合を想定したシミュレーションを実行することができる。
【0043】
また、従来は、素子である通信ICごとに解析していたが、クライテリア値に基づいてCMCをモデル化することで、該当モデルで合格済みの製品群で採用検討が可能となる。
【0044】
なお、特許請求の範囲に記載の「差動通信集積回路」は、明細書の発明の詳細な説明に記載の「通信IC32」に、特許請求の範囲に記載の「差動ノイズ変換量」は、同「Sdc11」に、各々相当する。
【符号の説明】
【0045】
10 一括治具
14 第1集約ポート
16 第2集約ポート
18 第1端子
20 第2端子
22 第3端子
24 第4端子
30 評価用基板
32 通信IC
34 コネクタ
36 集積回路第1ポート
38 集積回路第2ポート
40 第1ポート
42 第2ポート
44 第3ポート
46 第4ポート
50 ネットワークアナライザ
70、72 曲線
100 回路
102 通信IC
104 CMC
140、142、144 曲線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9