(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092420
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法
(51)【国際特許分類】
B21J 5/06 20060101AFI20230626BHJP
B21J 5/08 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
B21J5/06 E
B21J5/06 B
B21J5/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070109
(22)【出願日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2021206864
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390010227
【氏名又は名称】株式会社三五
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 庸一
(72)【発明者】
【氏名】大畠 崇昭
【テーマコード(参考)】
4E087
【Fターム(参考)】
4E087AA10
4E087BA02
4E087BA18
4E087CA23
4E087CB03
4E087EA12
4E087EB03
4E087EC17
4E087EC42
4E087HA82
4E087HB03
(57)【要約】
【課題】円筒部と円筒部の端部に形成されたフランジ部とフランジ部の内周縁部から円筒部とは反対側に向かって突出する環状凸部とを有し且つ内周面が面一となるように形成された筒状の部材である筒状体を高い生産効率にて一体的に成形する。
【解決手段】外型を構成する第1外型と第2外型との間にフランジ部素を挟持することにより外型の内部に固定された環状素材にマンドレルを挿通して扱き加工を含む塑性加工を施すことにより筒状体を成形する。塑性加工の完了時にマンドレルと外型とによって画定される空間を筒状体の円筒部の径方向における肉厚が環状凸部の径方向における肉厚以上となり且つフランジ部の軸方向における肉厚が環状凸部の径方向における肉厚よりも大きくなるように設計する。環状素材の円筒部素の上流側の端部を軸方向に押圧することにより環状素材を構成する材料を上記空間に充填させる据え込み加工を上記塑性加工において実行してもよい。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒部と前記円筒部の一方の端部に形成されたフランジ部と前記フランジ部の内周縁部から前記円筒部とは反対側に向かって突出する環状の部分である環状凸部とが一体的に形成され且つ内周面が面一となるように形成された筒状の部材である筒状体を、前記円筒部に対応する部分である円筒部素と前記円筒部素の一方の端部に形成された前記フランジ部に対応する部分であるフランジ部素とを有する環状の素材である環状素材から成形する方法であって、
所定の形状を有する孔であるダイス孔が形成された金型である外型の内部に前記環状素材を固定する第1工程と、
所定の形状を有する芯金であるマンドレルを前記円筒部素の他方の端部から前記一方の端部へと向かう方向である第1方向に押し込むことにより前記環状凸部を形成する第2工程と、
を含み、
前記外型は、前記第1方向における上流側に位置する所定の形状を有する金型である第1外型と前記第1方向における下流側に位置する所定の形状を有する金型である第2外型とによって構成されており、
前記ダイス孔は、前記第1外型に形成された所定の形状を有する孔である第1ダイス孔と前記第2外型に形成された所定の形状を有する孔である第2ダイス孔とによって構成されており、
前記第1外型の外径である第1外径は、前記フランジ部の外径に等しく、
前記第1ダイス孔は、前記円筒部の外径に対応する内径である第1内径を有する部分である第1内径部を有し、
前記第2ダイス孔は、前記第1方向における上流側に位置し且つ前記フランジ部の外径に対応する内径である第2大内径を有する部分である第2大内径部と、前記第1方向における下流側に位置し且つ前記環状凸部の外径に対応する内径である第2小内径を有する部分である第2小内径部と、を有し、
前記マンドレルは、先端から遠ざかるにつれて前記円筒部素の前記第1方向における上流側の端部の内径に対応する外径以下の外径である第2外径から前記円筒部の内径に対応する外径である第3外径へと外径が増大する円錐台状の部分である外径増大部と、基端側において前記外径増大部に隣接し且つ前記第3外径に等しい外径を有する円柱状の部分である円柱部と、を備え、
前記第1工程において、前記第2大内径部と前記第2小内径部との間に位置する段差である第1段差部と前記第1外型の前記第1方向における下流側の端部との間において前記フランジ部素が挟持されて、前記第1方向において前記円筒部素が上流側にあり且つ前記フランジ部素が下流側にあるように前記環状素材が固定され、
前記第2工程において、前記マンドレルが前記円筒部素の内部に挿入されて前記第1方向に移動することにより前記環状素材の内周面に扱き加工が実行され、
前記円筒部の径方向における肉厚は前記環状凸部の径方向における肉厚以上であり、
前記フランジ部の軸方向における肉厚は前記環状凸部の径方向における肉厚よりも大きい、
ことを特徴とする、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法。
【請求項2】
請求項1に記載された、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法であって、
前記環状素材の中心軸を通る平面による断面において、前記環状素材の内周面が前記中心軸に向かって凸状の形状を有する、
ことを特徴とする、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法。
【請求項3】
請求項2に記載された、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法であって、
前記環状素材の中心軸を通る平面による断面において、前記環状素材の内周面と前記中心軸との平均距離が前記第1方向における中心よりも上流側の方が下流側よりも長い、
ことを特徴とする、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載された、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法であって、
前記第2工程において、前記円筒部素の前記第1方向における上流側の端部を前記第1方向に押圧することにより前記マンドレルと前記外型とによって画定される空間に前記環状素材を構成する材料を充填させる据え込み加工が実行される、
ことを特徴とする、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法。
【請求項5】
請求項4に記載された、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法であって、
前記マンドレルの前記円柱部の外周面の前記第1方向における上流側には、径方向における外側に広がるように形成された環状の段差であって前記第3外径よりも大きく且つ前記円筒部の外径以下の外径である第4外径を有する部分である第2段差部が形成されており、
前記据え込み加工において、前記円筒部素の前記第1方向における上流側の端部が前記第2段差部によって押圧される、
ことを特徴とする、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法。
【請求項6】
請求項4に記載された、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法であって、
前記第2外型の前記第2小内径部と前記マンドレルとの間の空間である環状凸部成形空間に嵌合可能な形状を有し且つ前記第1方向に沿って摺動可能に構成された芯金であるカウンターパンチが前記環状凸部成形空間に挿入されており、
前記第2工程において、
少なくとも前記第2工程が開始される時点から所定の時間が経過するまでの期間である第1期間においては、前記第1方向において前記フランジ部素の下流側の面である下流面と同じ位置又は前記下流面よりも下流側の所定の位置である開始位置に前記カウンターパンチの上流側の端面である当接面を保持し、
前記第1期間が終了する時点から所定の時間が経過するまでの期間である第2期間においては、加工中の前記環状素材を前記当接面によって前記第1方向における上流側に向かって押圧しつつ前記カウンターパンチを所定の速度にて前記第1方向に移動させ、
前記第1方向における前記開始位置よりも下流側の所定の位置である終了位置に前記当接面が到達した時点において、前記カウンターパンチの移動を停止し前記当接面を前記終了位置に保持すると共に前記マンドレルの前記第1方向への押し込みを停止する、
ことを特徴とする、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法。
【請求項7】
請求項6に記載された、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法であって、
前記マンドレルの前記円柱部の外周面の前記第1方向における上流側には、径方向における外側に広がるように形成された環状の段差であって前記第3外径よりも大きく且つ前記円筒部の外径以下の外径である第4外径を有する部分である第2段差部が形成されており、
前記据え込み加工において、前記円筒部素の前記第1方向における上流側の端部が前記第2段差部によって押圧される、
ことを特徴とする、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法。
【請求項8】
円筒部と前記円筒部の一方の端部に形成されたフランジ部と前記フランジ部の内周縁部から前記円筒部とは反対側に向かって突出する環状の部分である環状凸部とが一体的に形成され且つ内周面が面一となるように形成された筒状の部材である筒状体を、前記円筒部に対応する部分である円筒部素と前記円筒部素の一方の端部に形成された前記フランジ部に対応する部分であるフランジ部素とを有する環状の素材である環状素材から成形する方法であって、
所定の形状を有する孔であるダイス孔が形成された金型である外型の内部に前記環状素材を固定する第1工程と、
所定の形状を有する芯金であるマンドレルを前記円筒部素の他方の端部から前記一方の端部へと向かう方向である第1方向に押し込むことにより前記環状凸部を形成する第2工程と、
を含み、
前記外型は、前記第1方向における上流側に位置する所定の形状を有する金型である第1外型と前記第1方向における下流側に位置する所定の形状を有する金型である第2外型とによって構成されており、
前記ダイス孔は、前記第1外型に形成された所定の形状を有する孔である第1ダイス孔と前記第2外型に形成された所定の形状を有する孔である第2ダイス孔とによって構成されており、
前記第1外型の外径である第1外径は、前記フランジ部の外径に等しく、
前記第1ダイス孔は、前記円筒部の外径に対応する内径である第1内径を有する部分である第1内径部を有し、
前記第2ダイス孔は、前記第1方向における上流側に位置し且つ前記フランジ部の外径に対応する内径である第2大内径を有する部分である第2大内径部と、前記第1方向における下流側に位置し且つ前記環状凸部の外径に対応する内径である第2小内径を有する部分である第2小内径部と、を有し、
前記マンドレルは、先端から遠ざかるにつれて前記円筒部素の前記第1方向における上流側の端部の内径に対応する外径以下の外径である第2外径から前記円筒部の内径に対応する外径である第3外径へと外径が増大する円錐台状の部分である外径増大部と、基端側において前記外径増大部に隣接し且つ前記第3外径に等しい外径を有する円柱状の部分である円柱部と、を備え、
前記第1工程において、前記第2大内径部と前記第2小内径部との間に位置する段差である第1段差部と前記第1外型の前記第1方向における下流側の端部との間において前記フランジ部素が挟持されて、前記第1方向において前記円筒部素が上流側にあり且つ前記フランジ部素が下流側にあるように前記環状素材が固定され、
前記円筒部の径方向における肉厚は前記環状凸部の径方向における肉厚以上であり、
前記フランジ部の軸方向における肉厚は前記環状凸部の径方向における肉厚よりも大きい、
前記第2工程において、前記円筒部素の前記第1方向における上流側の端部を前記第1方向に押圧することにより前記マンドレルと前記外型とによって画定される空間に前記環状素材を構成する材料を充填させる据え込み加工が実行され、
前記第2外型の前記第2小内径部と前記マンドレルとの間の空間である環状凸部成形空間に嵌合可能な形状を有し且つ前記第1方向に沿って摺動可能に構成された芯金であるカウンターパンチが前記環状凸部成形空間に挿入されており、
前記第2工程において、
少なくとも前記第2工程が開始される時点から所定の時間が経過するまでの期間である第1期間においては、前記第1方向において前記フランジ部素の下流側の面である下流面と同じ位置又は前記下流面よりも下流側の所定の位置である開始位置に前記カウンターパンチの上流側の端面である当接面を保持し、
前記第1期間が終了する時点から所定の時間が経過するまでの期間である第2期間においては、加工中の前記環状素材を前記当接面によって前記第1方向における上流側に向かって押圧しつつ前記カウンターパンチを所定の速度にて前記第1方向に移動させ、
前記第1方向における前記開始位置よりも下流側の所定の位置である終了位置に前記当接面が到達した時点において、前記カウンターパンチの移動を停止し前記当接面を前記終了位置に保持すると共に前記マンドレルの前記第1方向への押し込みを停止する、
ことを特徴とする、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法。
【請求項9】
請求項8に記載された、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法であって、
前記マンドレルの前記円柱部の外周面の前記第1方向における上流側には、径方向における外側に広がるように形成された環状の段差であって前記第3外径よりも大きく且つ前記円筒部の外径以下の外径である第4外径を有する部分である第2段差部が形成されており、
前記据え込み加工において、前記円筒部素の前記第1方向における上流側の端部が前記第2段差部によって押圧される、
ことを特徴とする、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法。
【請求項10】
請求項1乃至請求項3、請求項8及び請求項9の何れか1項に記載された、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法であって、
前記環状素材を構成する材料は、ステンレス鋼である、
ことを特徴とする、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法。
【請求項11】
請求項1乃至請求項3、請求項8及び請求項9の何れか1項に記載された、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法であって、
前記第2工程において、前記第1外型と前記第2外型とが前記第1方向において互いに接近するように制御される、
ことを特徴とする、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法に関する。より詳しくは、本発明は、円筒部と円筒部の端部に形成されたフランジ部とフランジ部の内周縁部から円筒部とは反対側に向かって突出する環状凸部とが一体的に形成された筒状体の成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
当該技術分野においては、例えばターボチャージャへの排気管の接続等において、筒状体を構成する円筒部の端部に形成されたフランジ部の内周縁部から円筒部とは反対側に向かって突出する環状の凸部(以降、単に「環状凸部」と称呼される場合がある。)を設けて、所謂「インロー嵌合」と「V字状断面を有するバンド(以降、「Vクランプ」と称呼される場合がある。)」との組み合わせによって当該筒状体と他の筒状体とを接続し固定することが知られている。
【0003】
図1は上記のようにフランジ部及び環状凸部を円筒部の端部に有する筒状体の一例を示す模式図であり、
図2は当該筒状体のフランジ部及び環状凸部が形成された端部の近傍を切り出した部材の模式的な斜視図である。
図1及び
図2に例示するように、筒状体10の円筒部11の一端には径方向における外向きに突出するフランジ部12が形成されており、フランジ部12の内周縁部からは軸方向において円筒部11とは反対側に向かって突出する環状凸部13が形成されている。筒状体10の内周面は面一に形成されている。即ち、筒状体10においては、円筒部11、フランジ部12及び環状凸部13の全ての内周面が面一となるように形成されている。
【0004】
図1の(a)は筒状体10のフランジ部12及び環状凸部が形成されている端部の模式的な側面図であり、本来であれば見えない筈の筒状体10の内周面が破線によって示されている。
図1の(b)は(a)に示した筒状体10の端部を円筒部11側から軸方向に観察した場合の模式図であり、本来であれば見えない筈の環状凸部13の外周面が破線によって示されている。
図1の(c)は(a)に示した筒状体10の端部を円筒部11とは反対側(即ち、環状凸部13側)から軸方向に観察した場合の模式図であり、本来であれば見えない筈の円筒部11の外周面が破線によって示されている。
【0005】
上記のような筒状体10を他の筒状体(図示せず)と接続し固定する場合、他の筒状体のフランジ部の内周縁部に形成された環状の凹部(環状凹部)に環状凸部13を嵌め込むことにより、所謂「インロー嵌合」が達成される。安定的なインロー嵌合を達成する観点からは、環状凸部13の高さ(フランジ部12の面からの突出量)が十分に大きいことが求められる。また、筒状体10及び他の筒状体の内部を流体が円滑に流れるようにする観点からは、筒状体10(円筒部11、フランジ部12及び環状凸部13)の内周面と他の筒状体の内周面とが面一となるように形成されていることが求められる。
【0006】
更に、高い生産効率を達成する観点からは、上記のようなフランジ部及び環状凸部を管端に有する筒状体を一体的に成形することが望ましい。しかしながら、斯かる筒状体を切削加工によって金属塊から形成すると生産コストが嵩むため、従来技術に係る製造方法(以降、「従来方法」と称呼される場合がある。)においては、フランジ部のみが円筒部の一端に設けられたワークと環状凸部とを個別に用意しておき、例えば溶接等の手段によって、フランジ部の内周縁部に環状凸部を接合していた。
【0007】
図3は、フランジ部及び環状凸部を管端に有する筒状体の従来技術に係る製造方法(従来方法)の一例を示す模式図であり、
図1の(a)において太い一点鎖線によって囲まれた部分に対応する部分の筒状体の軸を含む平面による模式的な断面である。
図3に例示する従来方法においては、(a)に示すように、フランジ部12’のみが円筒部11’の一端に設けられたワークを成形し、別途用意しておいた環状凸部13’を接合するための凹部を切削加工によってフランジ部12’の内周縁部に形成し、環状凸部13’を当該凹部に当接させる。そして、(b)に示すように、環状凸部13’と上記凹部との当接部に所定の角度にてレーザー光線を照射して(太い矢印を参照)、レーザー溶接によってフランジ部12’の内周縁部に環状凸部13’を接合する(斜線部を参照)。
【0008】
上記のような従来方法においては環状凸部13’及び上記ワークのそれぞれについて高い寸法精度が求められるため生産コストが増大する。その一方で、環状凸部13’と上記ワークとの溶接時に溶接歪みが発生して、筒状体10’の全体としての寸法精度が低下する虞がある。
【0009】
一方、当該技術分野においては、フランジ部及び環状凸部を管端に一体的に形成するための様々な方法が提案されている。
【0010】
例えば、特許文献1(特許第4352927号公報)には、車輪支持用ハブユニットを構成する軌道輪部材(ハブ及び外輪)の各々を冷間塑性加工により金属板から一体的に成形することにより、強度を十分に確保しつつ、軽量化及び低廉化を図る方法が開示されている。当該方法によれば円筒部の端部に形成されたフランジ部の径方向における内端部(内周縁部)に塑性流動によって環状凸部が形成されると特許文献1には記載されているが塑性加工の詳細については不明である。また、ワーク全体の成形を伴うため塑性流動する材料(肉)が散逸してしまい、環状凸部の高さ(フランジ部からの突出量)を十分に大きくすることは困難であると思われる。更に、円筒部、フランジ部及び環状凸部の全ての内周面が面一となるように形成されてはいない。
【0011】
また、特許文献2(特許第5810383号公報)には、板状のワークの所定部位に凸面状の張り出し部を成形し、このワークを圧縮することにより張り出し部に筒状部を成形するとともにワークの外周部にフランジ部を成形する工程において、フランジ部の内縁部の少なくとも一部に筒状部とは反対方向に向けて突出する余肉部を形成する方法が開示されている。当該方法によればフランジ部及びその内周縁部から立ち上がる筒状部を有するワークを精度良く成形することができると特許文献2には記載されているが、余肉部の形成時に塑性流動することができる材料(肉)は僅かであり、やはり環状凸部の高さ(フランジ部からの突出量)を十分に大きくすることは困難であると思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第4352927号公報
【特許文献2】特許第5810383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、当該技術分野においては、円筒部と円筒部の端部に形成されたフランジ部とフランジ部の内周縁部から円筒部とは反対側に向かって突出する環状凸部とを有し且つ内周面が面一となるように形成された筒状の部材である筒状体を高い生産効率にて一体的に形成することができる成形方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、本発明者は、鋭意研究の結果、環状素材の扱き加工を含む塑性加工の完了時にマンドレルと外型とによって画定される空間を、筒状体の円筒部の径方向における肉厚が環状凸部の径方向における肉厚以上となり且つフランジ部の軸方向における肉厚が環状凸部の径方向における肉厚よりも大きくなるように設計することにより上記課題を解決することができることを見出した。
【0015】
具体的には、本発明に係るフランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法(以降、「本発明方法」と称呼される場合がある。)は、環状素材から筒状体を成形する方法である。筒状体は、円筒部と円筒部の一方の端部に形成されたフランジ部とフランジ部の内周縁部から円筒部とは反対側に向かって突出する環状の部分である環状凸部とを一体的に有し且つ内周面が面一となるように形成された筒状の部材である。環状素材は、円筒部に対応する部分である円筒部素と円筒部素の一方の端部に形成されたフランジ部に対応する部分であるフランジ部素とを有する環状の素材である。
【0016】
更に、本発明方法は、以下に列挙する第1工程及び第2工程を含む。
第1工程:所定の形状を有する孔であるダイス孔が形成された金型である外型の内部に環状素材を固定する工程。
第2工程:所定の形状を有する芯金であるマンドレルを円筒部素の他方の端部から上記一方の端部へと向かう方向である第1方向に押し込むことにより環状凸部を形成する工程。
【0017】
外型は、第1方向における上流側に位置する所定の形状を有する金型である第1外型と第1方向における下流側に位置する所定の形状を有する金型である第2外型とによって構成されている。ダイス孔は、第1外型に形成された所定の形状を有する孔である第1ダイス孔と第2外型に形成された所定の形状を有する孔である第2ダイス孔とによって構成されている。第1外型の外径である第1外径は、筒状体のフランジ部の外径に等しい。
【0018】
第1ダイス孔は、筒状体の円筒部の外径に対応する内径である第1内径を有する部分である第1内径部を有する。第2ダイス孔は、第1方向における上流側に位置し且つ筒状体のフランジ部の外径に対応する内径である第2大内径を有する部分である第2大内径部と、第1方向における下流側に位置し且つ筒状体の環状凸部の外径に対応する内径である第2小内径を有する部分である第2小内径部と、を有する。
【0019】
マンドレルは、先端から遠ざかるにつれて環状素材の円筒部素の第1方向における上流側の端部の内径に対応する外径以下の外径である第2外径から筒状体の円筒部の内径に対応する外径である第3外径へと外径が増大する円錐台状の部分である外径増大部と、基端側において外径増大部に隣接し且つ第3外径に等しい外径を有する円柱状の部分である円柱部と、を備える。
【0020】
更に、第1工程においては、第2外型の第2大内径部と第2小内径部との間に位置する段差である第1段差部と第1外型の第1方向における下流側の端部との間において環状素材のフランジ部素が挟持されて、第1方向において円筒部素が上流側にあり且つフランジ部素が下流側にあるように環状素材が固定される。第2工程においては、マンドレルが環状素材の円筒部素の内部に挿入されて第1方向に移動することにより環状素材の内周面に扱き加工が実行される。
【0021】
加えて、筒状体において、円筒部の径方向における肉厚は環状凸部の径方向における肉厚以上であり、フランジ部の軸方向における肉厚は環状凸部の径方向における肉厚よりも大きい。即ち、第2工程の完了時にマンドレルと外型とによって画定される空間が、筒状体の円筒部の径方向における肉厚が環状凸部の径方向における肉厚以上となり且つフランジ部の軸方向における肉厚が環状凸部の径方向における肉厚よりも大きくなるように設計される。
【0022】
好ましくは、環状素材の円筒部素の第1方向における上流側の端部を第1方向に押圧することによりマンドレルと外型とによって画定される空間に環状素材を構成する材料を充填させる据え込み加工が第2工程において実行される。また、環状素材を構成する材料がステンレス鋼であってもよい。更に、第2工程において第1外型と第2外型とが第1方向において互いに接近するように制御してもよい。
【発明の効果】
【0023】
上述したように、本発明方法においては、第2工程の完了時にマンドレルと外型とによって画定される空間が、筒状体の円筒部の径方向における肉厚が環状凸部の径方向における肉厚以上となり且つフランジ部の軸方向における肉厚が環状凸部の径方向における肉厚よりも大きくなるように設計される。このように設計されたマンドレル及び外型を使用して第2工程を実行することにより、環状素材を構成する材料がフランジ部及び環状凸部の両方にバランス良く塑性流動することができる。その結果、本発明方法によれば、所期の形状及び大きさを有するフランジ部及び環状凸部が端部に一体的に形成され且つ内周面が面一となるように形成された筒状体を高い生産効率にて成形することができる。
【0024】
好ましくは、環状素材の円筒部素の第1方向における上流側の端部を第1方向に押圧することによりマンドレルと外型とによって画定される空間に環状素材を構成する材料を充填させる据え込み加工が第2工程において実行される。これにより、所期の形状及び大きさを有するフランジ部及び環状凸部をより確実に形成することができる。また、本発明方法によれば、ステンレス鋼によって形成された環状素材から筒状体を成形する場合においても、例えば凝着等の問題を低減することができる。更に、第2工程において第1外型と第2外型とが第1方向において互いに接近するように制御することにより、例えば、円筒体のフランジ部の寸法精度を高めたり、フランジ部及び環状凸部へと塑性流動する材料の比率を調整してフランジ部及び環状凸部の両方をバランス良く形成したりすることができる。
【0025】
本発明の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される本発明の各実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】フランジ部及び環状凸部を円筒部の端部に有する筒状体の一例を示す模式図である。
【
図2】
図1に例示した筒状体のフランジ部及び環状凸部が形成された管端の近傍を切り出した部材の模式的な斜視図である。
【
図3】フランジ部及び環状凸部を円筒部の端部に有する筒状体の従来技術に係る製造方法(従来方法)の一例を示す模式図である。
【
図5】本発明の第1実施形態に係るフランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法(第1方法)に含まれる1工程において第1外型と第2外型との間にフランジ部素が挟持されることによって外型の内部に固定された環状素材の円筒部素の開口端にマンドレルが挿入されて第2工程が開始されようとする状況を示す模式的な断面図である。
【
図6】マンドレルの外観の一例を示す模式的な斜視図である。
【0027】
【
図7】第1方法に含まれる各工程の流れを示すフローチャートである。
【
図8】フランジ部及び環状凸部の形成不良が発生する状況を例示する模式的な断面図である。
【
図9】
図1の(a)に例示した筒状体の太い一点鎖線によって囲まれた部分の筒状体の軸を含む平面による模式的な断面である。
【
図10】第1方法において実行される第2工程の進行に伴うマンドレルと外型との位置関係及び環状素材の形状の変化を例示する模式的な断面図である。
【
図11】第1方法において目的とする筒状体を成形するための素材として使用される環状素材の内周面のバリエーションを示す模式的な断面図である。
【
図12】本発明の第2実施形態に係るフランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法(第2方法)に含まれる各工程の流れを示すフローチャートである。
【
図13】第2方法において実行される第2工程の進行に伴うマンドレルと外型との位置関係及び環状素材の形状の変化を例示する模式的な断面図である。
【
図14】第2方法の変形例2-1において実行される第2工程の進行に伴うマンドレルと外型との位置関係及び環状素材の形状の変化を例示する模式的な断面図である。
【0028】
【
図15】本発明の第3実施形態に係るフランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法(第3方法)において実行される第2工程の進行に伴うマンドレルと外型とカウンターパンチとの位置関係及び環状素材の形状の変化を例示する模式的な断面図である。
【
図16】本発明の第4実施形態に係るフランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法(第4方法)に含まれる各工程の流れを示すフローチャートである。
【
図17】第4方法において実行される第2工程の進行に伴うマンドレルと外型とカウンターパンチとの位置関係及び環状素材の形状の変化を例示する模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
《第1実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第1実施形態に係るフランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法(以降、「第1方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0030】
第1方法は、環状素材から筒状体を成形する方法である。筒状体は、円筒部と円筒部の一方の端部に形成されたフランジ部とフランジ部の内周縁部から円筒部とは反対側に向かって突出する環状の部分である環状凸部とを一体的に有し且つ内周面が面一となるように形成された筒状の部材である。筒状体の構成については、本明細書の冒頭において
図1及び
図2を参照しながら説明したので、ここでの説明は省略する。
【0031】
環状素材は、円筒部に対応する部分である円筒部素と円筒部素の一方の端部に形成されたフランジ部に対応する部分であるフランジ部素とを有する環状の素材である。第1方法において目的とする筒状体を成形するための素材として使用される環状素材は、冷間鍛造による成形が可能な材料によって構成された筒状又は環状の部材である。このような材料の具体例としては、例えば鉄、銅及びアルミニウム等の金属を挙げることができる。
【0032】
図4は、環状素材の構成の一例を示す模式図である。(a)は、円筒部素21の他方の端部(フランジ部素22が形成されていない方の端部)側から観察した場合における環状素材20の模式的な斜視図である。(b)は、円筒部素21の一方の端部(フランジ部素22が形成されている方の端部)側から観察した場合における環状素材20の模式的な斜視図である。(c)は、環状素材20の中心軸を通る平面による(a)に例示した環状素材20の模式的な断面図である。(c)に例示するように、環状素材20の断面は、略L字状の形状を有する。
【0033】
尚、
図4に示した環状素材20は、あくまでも例示であり、目的とする筒状体を第1方法によって成形することが可能である限り、必ずしも
図4に例示したような平滑な表面によって構成されている必要は無い。例えば、円筒部素21の外周面及び/又は内周面が厳密な円柱形の側面によって構成されておらず、ある程度いびつな面によって構成されていてもよい。このような環状素材を製造する方法もまた、目的とする筒状体を第1方法によって成形することが可能である限り、特に限定されない。例えば、環状素材は、板状のブランクから冷間加工によって製造されたものであってもよく、塊状のワークから切削加工によって製造されたものであってもよい。
【0034】
更に、第1方法は、以下に列挙する第1工程及び第2工程を含む。
第1工程:所定の形状を有する孔であるダイス孔が形成された金型である外型の内部に環状素材を固定する工程。
第2工程:所定の形状を有する芯金であるマンドレルを円筒部素の他方の端部から上記一方の端部へと向かう方向である第1方向に押し込むことにより環状凸部を形成する工程。
【0035】
即ち、第1方法は、冷間加工によって、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体を成形する方法である。第1方法を実行するための装置の基本的な構成については当業者に周知であるので詳細な説明は省略するが、マンドレル及び外型を始めとする構成要素は、例えば第2工程において構成要素に作用する荷重等の加工条件に耐え得る性質(例えば、機械的強度及び耐久性等)を有する材料によって構成される。また、外型の内部に固定された環状素材の円筒部素の他方の端部からマンドレルを第1方向に押し込むための駆動機構は、環状素材を構成する材料の性質(例えば、機械的強度及び硬度等)に応じて、当該技術分野において周知の種々の駆動機構の中から適宜選択することができる。典型的には、例えば油圧式プレス機等のプレス機が駆動機構として採用される。
【0036】
外型は、第1方向における上流側に位置する所定の形状を有する金型である第1外型と第1方向における下流側に位置する所定の形状を有する金型である第2外型とによって構成されている。ダイス孔は、第1外型に形成された所定の形状を有する孔である第1ダイス孔と第2外型に形成された所定の形状を有する孔である第2ダイス孔とによって構成されている。第1外型の外径である第1外径は、筒状体のフランジ部の外径に等しい。
【0037】
第1ダイス孔は、筒状体の円筒部の外径に対応する内径である第1内径を有する部分である第1内径部を有する。第2ダイス孔は、第1方向における上流側に位置し且つ筒状体のフランジ部の外径に対応する内径である第2大内径を有する部分である第2大内径部と、第1方向における下流側に位置し且つ筒状体の環状凸部の外径に対応する内径である第2小内径を有する部分である第2小内径部と、を有する。
【0038】
マンドレルは、先端から遠ざかるにつれて環状素材の円筒部素の第1方向における上流側の端部の内径に対応する外径以下の外径である第2外径から筒状体の円筒部の内径に対応する外径である第3外径へと外径が増大する円錐台状の部分である外径増大部と、基端側において外径増大部に隣接し且つ第3外径に等しい外径を有する円柱状の部分である円柱部と、を備える。
【0039】
更に、第1工程においては、第2外型の第2大内径部と第2小内径部との間に位置する段差である第1段差部と第1外型の第1方向における下流側の端部との間において環状素材のフランジ部素が挟持されて、第1方向において円筒部素が上流側にあり且つフランジ部素が下流側にあるように環状素材が固定される。第2工程においては、マンドレルが環状素材の円筒部素の内部に挿入されて第1方向に移動することにより環状素材の内周面に扱き加工が実行される。
【0040】
図5は、第1工程において第1外型と第2外型との間にフランジ部素が挟持されることによって外型の内部に固定された環状素材の円筒部素の開口端にマンドレルが挿入されて第2工程が開始されようとする状況を示す模式的な断面図である。また、
図6は、マンドレル40の外観の一例を示す模式的な斜視図である。(a)はマンドレル40を外径増大部41側(第1方向における下流側)から観察した場合における模式的な斜視図であり、(b)はマンドレル40を円柱部42側(第1方向における上流側)から観察した場合における模式的な斜視図である。
【0041】
外型30は、
図5に例示するように、第1方向(黒塗りの矢印の向き)における上流側に位置する第1外型31と下流側に位置する第2外型32とによって構成されている。ダイス孔30aは、第1外型31に形成された第1ダイス孔と第2外型32に形成された第2ダイス孔とによって構成されている。第1外型31の外径である第1外径DO1は、筒状体10のフランジ部12の外径に等しい。
【0042】
第1ダイス孔が形成された第1外型31は、筒状体10の円筒部11の外径に対応する内径である第1内径DI1を有する部分である第1内径部31aを有する。第2ダイス孔が形成された第2外型32は、第1方向における上流側に位置し且つ筒状体のフランジ部の外径に対応する内径である第2大内径DIL2を有する部分である第2大内径部32aと、第1方向における下流側に位置し且つ筒状体の環状凸部の外径に対応する内径である第2小内径DIS2を有する部分である第2小内径部32bと、を有する。
【0043】
マンドレル40は、
図5及び
図6に例示するように、先端側(第1方向における下流側)に形成された外径増大部41と、基端側(第1方向における上流側)において外径増大部41に隣接して形成された円柱部42と、を備える。外径増大部41は、その先端から遠ざかるにつれて環状素材20の円筒部素21の第1方向における上流側の端部の内径に対応する外径以下の外径である第2外径DO2から筒状体10の円筒部11の内径に対応する外径である第3外径DO3へと外径が増大する円錐台状の部分である。円柱部42は、第3外径DO3に等しい外径を有する円柱状の部分である。
【0044】
図7は、第1方法に含まれる各工程の流れを示すフローチャートである。
図7に例示するように、第1方法は、以下に示す第1工程(ステップS10)及び第2工程(ステップS20)を含む。
【0045】
第1工程(ステップS10):
図5に例示したように、第2外型32の第2大内径部32aと第2小内径部32bとの間に位置する段差である第1段差部32cと第1外型31の第1方向における下流側の端部との間に環状素材20のフランジ部素22が挟持され固定される。尚、環状素材20は、第1方向において円筒部素21が上流側にあり且つフランジ部素22が下流側にあるように配置される。
第2工程(ステップS20):環状素材20の円筒部素21の第1方向における上流側の端部からマンドレル40が挿入され、第1方向へと移動することにより環状素材20の内周面に扱き加工が施される。
【0046】
ところが、上記のようにして第2工程を実行しても、必ずしも所期の形状及び大きさを有するフランジ部及び環状凸部が端部にバランス良く形成されない場合がある。
図8は、フランジ部及び環状凸部の形成不良が発生する状況を例示する模式的な断面図である。尚、
図8は、
図5において太い一点鎖線によって囲まれた部分の拡大図である。
図8においては、図面を簡潔なものとするため、
図4乃至
図6において示した各部位に付された符号の一部のみが表示されている。しかしながら、
図8に関する以下の説明においては、正確を期すため、
図4乃至
図6において示した符号を使用するので、必要に応じて
図4乃至
図6を参照されたい。
【0047】
成形しようとする筒状体におけるフランジ部の肉厚と環状凸部の肉厚とのバランス(比率)によっては、第2外型32の第2小内径部32bとマンドレル40との間の空間(環状凸部が成形される空間)へと環状素材20を構成する材料が過剰に引き込まれ、
図8の(a)に例示するように、筒状体10のフランジ部12と環状凸部13との境界付近に意図しない変形及び/又は減肉等の問題が生ずる場合がある。また、第2小内径部32bとマンドレル40との間の空間を過度に狭くする(環状凸部13の径方向における肉厚を過度に薄く設計する)と、
図8の(b)に例示するように、扱き加工に伴って作用する引張応力により環状凸部13が断裂してしまう場合がある。また、後述するように第2工程において据え込み加工を追加して行う実施形態において第2小内径部32bとマンドレル40との間の空間を過度に狭くすると、加工荷重が過大となり、環状凸部13以外の部分が増肉したり、金型の内部において詰まりが発生したりする場合がある。逆に、第2小内径部32bとマンドレル40との間の空間を過度に広くする(環状凸部13の径方向における肉厚を過度に厚く設計する)と、
図8の(c)に例示するように、扱き加工のみによっては環状素材20を構成する材料が当該空間へと十分に流れ込まず、環状凸部13が形成されない場合がある。
【0048】
そこで、第1方法においては、筒状体の円筒部の径方向における肉厚は環状凸部の径方向における肉厚以上であり、フランジ部の軸方向における肉厚は環状凸部の径方向における肉厚よりも大きい。即ち、第2工程の完了時にマンドレルと外型とによって画定される空間が、筒状体の円筒部の径方向における肉厚が環状凸部の径方向における肉厚以上となり且つフランジ部の軸方向における肉厚が環状凸部の径方向における肉厚よりも大きくなるように設計される。
【0049】
図9は、
図1の(a)に例示した筒状体10の太い一点鎖線によって囲まれた部分の筒状体10の軸を含む平面による模式的な断面である。
図9に示すように、筒状体10の円筒部11の径方向における肉厚Tcは環状凸部13の径方向における肉厚Tp以上(Tc≧Tp)であり、フランジ部12の軸方向における肉厚Tfは環状凸部13の径方向における肉厚Tpよりも大きい(Tf>Tp)。尚、
図9に例示した筒状体10のフランジ部12は径方向における外側に行くほど肉厚が薄くなっている。このようにフランジ部12の肉厚が一定ではない場合、例えばフランジ部12の肉厚の径方向に亘る平均値等の代表値をフランジ部12の軸方向における肉厚Tfとして使用してもよい。
【0050】
図10は、第1方法において実行される第2工程の進行に伴うマンドレルと外型との位置関係及び環状素材の形状の変化を例示する模式的な断面図である。
図10もまた、
図8と同様に、
図5において太い一点鎖線によって囲まれた部分の拡大図である。
図10においてもまた、図面を簡潔なものとするため、
図4乃至
図6において示した各部位に付された符号の一部のみが表示されている。しかしながら、
図10に関する以下の説明においては、正確を期すため、
図4乃至
図6において示した符号を使用するので、必要に応じて
図4乃至
図6を参照されたい。
【0051】
先ず、
図10の(a)は、第2工程の開始時点におけるマンドレル、外型及び環状素材の状態を示している。より詳しくは、
図10の(a)は、第1工程(ステップS10)において第2外型32の第2大内径部32aと第2小内径部32bとの間に位置する段差である第1段差部32cと第1外型31の第1方向における下流側の端部との間に環状素材20のフランジ部素22が挟持されて(白抜きの矢印を参照)環状素材20が外型30のダイス孔30aの内部に固定され、マンドレル40の円筒部素21への挿入(黒塗りの矢印を参照)が開始される時点における状態を示す。
【0052】
次に、
図10の(b)は、第2工程(ステップS20)において、マンドレル40が環状素材20の円筒部素21の内部に挿入されて第1方向(
図10に向かって下向き)に移動することにより環状素材20の内周面に扱き加工(ステップS21)が施されて筒状体10の円筒部11が形成されている状態を示す。扱き加工(ステップS21)に伴って作用する引張応力により、環状素材20を構成する材料が第2外型32の第2小内径部32bとマンドレル40との間の空間(環状凸部13が成形される空間)へと塑性流動して環状凸部13が形成され始めている。
【0053】
次に、
図10の(c)は、マンドレル40が第1方向に更に移動して、環状素材20の内周面に対する扱き加工(ステップS21)が更に進行すると共に、環状凸部13が更に伸長している状態を示す。一方、第2外型32の第2大内径部32aと第2小内径部32bとの間に位置する段差である第1段差部と第1外型31の第1方向における下流側の端部との間の空間にも環状素材20を構成する材料が塑性流動して、筒状体10のフランジ部12もまた良好に形成されている。
【0054】
以上のように、第1方法においては、第2工程の完了時にマンドレルと外型とによって画定される空間が、筒状体の円筒部の径方向における肉厚が環状凸部の径方向における肉厚以上となり且つフランジ部の軸方向における肉厚が環状凸部の径方向における肉厚よりも大きくなるように設計される。このように設計されたマンドレル及び外型を使用して第2工程を実行することにより、環状素材を構成する材料がフランジ部及び環状凸部の両方にバランス良く塑性流動することができる。その結果、第1方法によれば、所期の形状及び大きさを有するフランジ部及び環状凸部が端部に一体的に形成され且つ内周面が面一となるように形成された筒状体を、1組の金型において1つのプロセスによって(即ち、高い生産効率にて)成形することができる。
【0055】
尚、
図10においては、第2外型32の第2小内径部32bとマンドレル40との間の空間(環状凸部13が成形される空間)の第1方向における下流側は開放されているので、第1方法によって形成される環状凸部13の先端の形状は成り行きとなる。従って、例えば環状凸部13の先端の形状について高い寸法精度が要求される用途において筒状体10を使用する場合等においては、例えば切削加工等によって環状凸部13の先端の形状を整える二次加工を環状凸部13の先端に施してもよい。当然のことながら、このような二次加工を筒状体10の環状凸部13以外の部分に施してもよい。或いは、第2外型32の第2小内径部32bとマンドレル40との間の空間に嵌合可能な形状を有する芯金を第1方向における下流側から当該空間に挿入して所謂「カウンターパンチ」として第2工程の実行中に環状凸部13の先端に当接させることにより環状凸部13の先端の形状を規定してもよい。
【0056】
〈変形例1-1〉
上述したように、第1方法において目的とする筒状体を成形するための素材として使用される環状素材は、
図4に示した環状素材20のように平滑な表面によって構成されている必要は無い。例えば、円筒部素の外周面及び/又は内周面が厳密な円柱形の側面によって構成されておらず、ある程度いびつな面によって構成されていてもよい。
【0057】
一方、第2工程において環状素材を構成する材料をより多く塑性流動させて十分な高さ(フランジ部の面からの突出量)を有する環状凸部をより確実に形成する観点からは、環状素材の内周面が中心軸に向かって凸状に膨らんでいることが望ましい。
【0058】
そこで、第1方法の変形例1-1は、環状素材の中心軸を通る平面による断面において環状素材の内周面が中心軸に向かって凸状の形状を有することを特徴とする、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法である。
【0059】
図11は、第1方法において目的とする筒状体を成形するための素材として使用される環状素材の内周面のバリエーションを示す模式的な断面図である。
図11の(a)に例示する環状素材20は、円筒部素21の外周面及び/又は内周面が厳密な円柱形の側面によって構成されており、
図4の(c)に例示したものと同様である。一方、
図11の(b)に示す環状素材20aは、第1方法の変形例1-1において使用される環状素材であり、内周面が中心軸に向かって凸状に膨らんでいる。
【0060】
第1方法の変形例1-1においては、上記のように環状素材の内周面が中心軸に向かって凸状の形状を有する。従って、第1方法の変形例1-1によれば、第2工程においてマンドレルを環状素材に押し込むことにより、環状素材を構成する材料をより多く塑性流動させて十分な高さ(フランジ部の面からの突出量)を有する環状凸部をより確実に形成することができる。
【0061】
〈変形例1-2〉
ところで、上記のように内周面が中心軸に向かって凸状の形状を有する環状素材を使用する場合、環状素材を構成する材料をより多く塑性流動させることとなるため加工荷重が増大する。その結果、例えば、より高い駆動力を有する駆動装置が必要となったり、環状素材を構成する材料がマンドレル及び/又は外型に凝着したりする問題に繋がる場合がある。凝着は、環状素材を構成する材料がステンレス鋼である場合において特に問題となりがちである。
【0062】
そこで、第1方法の変形例1-2は、環状素材の中心軸を通る平面による断面において環状素材の内周面と中心軸との平均距離が第1方向における中心よりも上流側の方が下流側よりも長いことを特徴とする、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法である。
【0063】
図11の(c)は、第1方法の変形例1-2において使用される環状素材の一例をしめす模式的な断面図である。
図11の(c)に示す環状素材20bは、第1方法の変形例1-1において使用される環状素材であり、内周面が中心軸に向かって凸状に膨らんでいるのみならず、環状素材20bの内周面と中心軸(図中の一点鎖線AXを参照)との平均距離が第1方向における中心(図中の二点鎖線CAを参照)よりも上流側(図面に向かって上側)の方が下流側(図面に向かって下側)よりも長い。
【0064】
上記のように、第1方法の変形例1-2において使用される環状素材20bにおいては、内周面によって画定される空間の中心軸AXに垂直な平面による横断面の直径が下流側よりも上流側の方がより大きい。このため、第1方法の変形例1-2においては、第2工程においてマンドレルを環状素材に押し込む過程の前半における加工荷重を、後半における加工荷重よりも低減することができる。その結果、例えば上述した加工荷重の増大及び/又は凝着等の問題を低減しつつ、環状素材を構成する材料をより多く塑性流動させて十分な高さを有する環状凸部をより確実に形成することができる。
【0065】
《第2実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第2実施形態に係るフランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法(以降、「第2方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0066】
上述したように、第1方法においては、第2工程の完了時にマンドレルと外型とによって画定される空間が、筒状体の円筒部の径方向における肉厚が環状凸部の径方向における肉厚以上となり且つフランジ部の軸方向における肉厚が環状凸部の径方向における肉厚よりも大きくなるように設計される。このように設計されたマンドレル及び外型を使用して第2工程を実行することにより、環状素材を構成する材料がフランジ部及び環状凸部の両方にバランス良く塑性流動することができる。その結果、第1方法によれば、所期の形状及び大きさを有するフランジ部及び環状凸部が端部に一体的に形成され且つ内周面が面一となるように形成された筒状体を、1組の金型において1つのプロセスによって(即ち、高い生産効率にて)成形することができる。
【0067】
しかしながら、例えば環状素材を構成する材料、環状素材の形状及び目的とする筒状体の形状等の様々な要因により、第2工程において実行される扱き加工のみでは、十分な高さ(フランジ部の面からの突出量)を有する環状凸部を確実に形成することが困難である場合がある。
【0068】
そこで、第2方法は、上述した変形例を含む第1方法の何れかであって、第2工程において、環状素材の円筒部素の第1方向における上流側の端部を第1方向に押圧することによりマンドレルと外型とによって画定される空間に環状素材を構成する材料を充填させる据え込み加工が実行されることを特徴とする、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法である。
【0069】
図12は、第2方法に含まれる各工程の流れを示すフローチャートである。
図12に例示するように、第2方法においては、第2工程(ステップS20)において、上述した扱き加工(ステップS21)に加えて、環状素材の円筒部素の第1方向における上流側の端部を第1方向に押圧することによりマンドレルと外型とによって画定される空間に環状素材を構成する材料を充填させる据え込み加工(ステップS22)が実行される。
【0070】
図13は、第2方法において実行される第2工程の進行に伴うマンドレルと外型との位置関係及び環状素材の形状の変化を例示する模式的な断面図である。
図13もまた、
図8及び
図10と同様に、
図5において太い一点鎖線によって囲まれた部分の拡大図である。
図13においてもまた、図面を簡潔なものとするため、
図4乃至
図6において示した各部位に付された符号の一部のみが表示されている。しかしながら、
図13に関する以下の説明においては、正確を期すため、
図4乃至
図6において示した符号を使用するので、必要に応じて
図4乃至
図6を参照されたい。
【0071】
先ず、
図13の(a)は、第2工程の開始時点におけるマンドレル、外型及び環状素材の状態を示している。この時点におけるマンドレル、外型及び環状素材の状態は、第1方法に関する説明において
図10の(a)に示した状態と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0072】
次に、
図13の(b)は、第2工程(ステップS20)において、マンドレル40が環状素材20の円筒部素21の内部に挿入されて第1方向(
図13に向かって下向き)に移動することにより環状素材20の内周面に扱き加工(ステップS21)が施されて筒状体10の円筒部11が形成されている状態を示す。この時点におけるマンドレル、外型及び環状素材の状態は、第1方法に関する説明において
図10の(b)に示した状態と同様であるので、ここでの説明は省略する。尚、この時点において、マンドレル40の円柱部42の先端が、第2ダイス孔が形成された第2外型32の第2小内径部32bと対向する位置にまで到達している。
【0073】
次に、
図13の(c)は、マンドレル40が第1方向に更に移動して、環状素材20の内周面に対する扱き加工(ステップS21)が更に進行すると共に、環状凸部13が更に伸長している状態を示す。この時点におけるマンドレル、外型及び環状素材の状態は、第1方法に関する説明において
図10の(c)に示した状態と同様であるので、ここでの説明は省略する。但し、
図13に例示する第2方法に含まれる第2工程においては、
図13の(c)において網掛けの矢印によって示すように、環状素材20の円筒部素21の第1方向における上流側の端部を第1方向に押圧することによりマンドレル40と外型30とによって画定される空間に環状素材20を構成する材料を充填させる据え込み加工(ステップS22)が実行される。
【0074】
尚、第2工程において据え込み加工(ステップS22)を開始するタイミングは、例えば第2方法によって形成しようとする環状凸部13の高さ及びフランジ部12に求められる成形空間の形状との整合性等、様々な要因に基づいて適宜定めることができる。但し、第2方法によって形成される環状凸部13の形状の安定性に鑑みれば、第2工程において据え込み加工(ステップS22)を開始するタイミングは、第2ダイス孔が形成された第2外型32の第2小内径部32bと対向する位置にまでマンドレル40の円柱部42の先端が到達した時点以降であることが望ましい。
【0075】
以上のように、第2方法においては、第2工程において、マンドレルによる環状素材の内周面に対する扱き加工に加えて、環状素材の上流側の端部を第1方向に押圧して(軸押しして)据え込み加工を施すことにより環状素材を構成する材料をより積極的に塑性流動させる。その結果、第2方法によれば、扱き加工のみでは十分な高さ(フランジ部の面からの突出量)を有する環状凸部を確実に形成することが困難である場合においても、所期の形状及び大きさを有するフランジ部及び環状凸部をより確実に形成することができる。
【0076】
尚、据え込み加工(ステップS22)において環状素材の円筒部素の上流側の端部を第1方向に押圧するための具体的な手段は特に限定されず、例えば、マンドレル40とは別個の押圧部材によって環状素材の上流側の端部を押圧してもよい。この場合、マンドレル40と上記押圧部材とを個別に制御することが可能な駆動機構が必要である。このような駆動機構の具体例としては、例えば複動プレス等の駆動装置を挙げることができる。但し、第2方法を実行するための設備コストを削減する観点からは、このような別個の駆動機構を使用するのではなく、例えばマンドレル40を駆動するための駆動機構によって環状素材の上流側の端部を押圧することが望ましい。
【0077】
〈変形例2-1〉
上記のように、第2方法を実行するための設備コストの増大を低減する観点からは、このような別個の駆動機構を使用するのではなく、例えばマンドレル40を駆動するための駆動機構によって環状素材の上流側の端部を押圧することが望ましい。
【0078】
そこで、第2方法の変形例2-1においては、マンドレルの円柱部の外周面の第1方向における上流側には、径方向における外側に広がるように形成された環状の段差であって(円柱部の外径である)第3外径よりも大きく且つ筒状体の円筒部の外径以下の外径である第4外径を有する部分である第2段差部が形成されている。更に、第2方法の変形例2-1は、据え込み加工において環状素材の円筒部素の第1方向における上流側の端部が第2段差部によって押圧されることを特徴とする、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法である。
【0079】
図14は、第2方法の変形例2-1において実行される第2工程の進行に伴うマンドレルと外型との位置関係及び環状素材の形状の変化を例示する模式的な断面図である。
図14もまた、
図13と同様に、
図5において太い一点鎖線によって囲まれた部分の拡大図である。
図14においてもまた、図面を簡潔なものとするため、
図4乃至
図6において示した各部位に付された符号の一部のみが表示されている。しかしながら、
図14に関する以下の説明においては、正確を期すため、
図4乃至
図6において示した符号を使用するので、必要に応じて
図4乃至
図6を参照されたい。
【0080】
先ず、
図14の(a)は、第2工程の開始時点におけるマンドレル、外型及び環状素材の状態を示している。この時点におけるマンドレル、外型及び環状素材の状態は、第2方法に関する説明において
図13の(a)に示した状態と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0081】
次に、
図14の(b)は、第2工程(ステップS20)において、マンドレル40が環状素材20の円筒部素21の内部に挿入されて第1方向(
図14に向かって下向き)に移動することにより環状素材20の内周面に扱き加工(ステップS21)が施されて筒状体10の円筒部11が形成されている状態を示す。この時点におけるマンドレル、外型及び環状素材の状態は、第2方法に関する説明において
図13の(b)に示した状態と同様であるので、ここでの説明は省略する。尚、この時点において、マンドレル40の円柱部42の第1方向における上流側(基端側)に形成された第2段差部43が環状素材20の円筒部素21の第1方向における上流側の端部に当接しようとしている。
【0082】
次に、
図14の(c)は、マンドレル40が第1方向に更に移動して、環状素材20の内周面に対する扱き加工(ステップS21)が更に進行すると共に、環状凸部13が更に伸長している状態を示す。この時点におけるマンドレル、外型及び環状素材の状態は、第2方法に関する説明において
図13の(c)に示した状態と同様であるので、ここでの説明は省略する。但し、
図14に例示する第2方法に含まれる第2工程においては、
図14の(c)において網掛けの矢印によって示すように、環状素材20の円筒部素21の第1方向における上流側の端部を第2段差部43によって第1方向に押圧することによりマンドレル40と外型30とによって画定される空間に環状素材20を構成する材料を充填させる据え込み加工(ステップS22)が実行される。
【0083】
尚、上述したように、第2方法によって形成される環状凸部13の形状の安定性に鑑みれば、第2工程において据え込み加工(ステップS22)を開始するタイミングは、第2ダイス孔が形成された第2外型32の第2小内径部32bと対向する位置にまでマンドレル40の円柱部42の先端が到達した時点以降であることが望ましい。従って、マンドレル40に形成される第2段差部43の位置は、第2外型32の第2小内径部32bと対向する位置にまでマンドレル40の円柱部42の先端が到達した時点以降に据え込み加工(ステップS22)が開始されるように定めることが望ましい。
【0084】
以上のように、第2方法の変形例2-1に含まれる第2工程においては、マンドレルの円柱部の外周面の第1方向における上流側に形成された第2段差部によって環状素材の円筒部素の第1方向における上流側の端部が押圧されて据え込み加工が実行される。即ち、第2方法の変形例2-1においては、例えば複動プレス等の駆動装置を導入すること無く、マンドレル40を駆動するための駆動機構によって環状素材の上流側の端部を押圧することができる。その結果、第2方法の変形例2-1によれば、第2方法を実行するための設備コストの増大を低減しつつ、扱き加工のみでは十分な高さ(フランジ部の面からの突出量)を有する環状凸部を確実に形成することが困難である場合においても、所期の形状及び大きさを有するフランジ部及び環状凸部をより確実に形成することができる。
【0085】
《第3実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第3実施形態に係るフランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法(以降、「第3方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0086】
前述したように、例えば内周面が中心軸に向かって凸状の形状を有する環状素材を使用する場合等、環状素材を構成する材料を扱き加工によって大量に塑性流動させてフランジ部及び環状凸部をより確実に形成しようとすると加工荷重が増大する。その結果、例えば、より高い駆動力を有する駆動装置を使用したり、より高い耐久性を有する材料によってマンドレル及び/又は外型を構成したり、環状素材を構成する材料がマンドレル及び/又は外型に凝着する問題を低減するために所謂「ボンデ処理」を環状素材に施したりする対策が必要となる場合がある。しかしながら、これらの対策は何れも円筒体の生産コストの増大を招く要因となる虞がある。
【0087】
一方、加工荷重を低減するための方策としては、例えば、第2方法に含まれる第2工程において扱き加工の寄与率を大幅に下げて主として据え込み加工によってフランジ部及び環状凸部を形成したり或いは据え込み加工のみによってフランジ部及び環状凸部を形成したりすること等が考えられる。しかしながら、このように主として据え込み加工によって又は据え込み加工のみによってフランジ部及び環状凸部を形成しようとすると、結果として得られる筒状体に様々な欠陥が生ずる虞がある。
【0088】
上記のような欠陥の具体例としては、例えば、筒状体の外周面における円筒部とフランジ部との間における折れ込みの発生、当該折れ込みを起点とする割れの発生、及びフランジ部が広がる方向に作用する引張応力に起因するフランジ部の円筒部とは反対側の面(フランジ底面)における割れの発生等を挙げることができる。また、上記のように主として据え込み加工によって又は据え込み加工のみによってフランジ部及び環状凸部を形成しようとする場合、環状凸部の高さ(フランジ部からの突出量)を十分に大きくすることは困難である。
【0089】
そこで、本発明者は鋭意研究の結果、前述した第1方法に関する説明において述べたように第2外型の第2小内径部とマンドレルとの間の空間に嵌合可能な形状を有する芯金であるカウンターパンチを第1方向における下流側から当該空間に挿入して第2工程において加工中の環状素材に当接させることにより、環状素材を構成する材料の塑性流動をフランジ部と環状凸部との間でバランスさせて、上述したような欠陥を低減しつつ環状凸部の高さを十分に大きくすることができることを見出した。
【0090】
具体的には、第3方法は、上述した第2方法であって、第2外型の第2小内径部とマンドレルとの間の空間である環状凸部成形空間に嵌合可能な形状を有し且つ第1方向に沿って摺動可能に構成された芯金であるカウンターパンチが環状凸部成形空間に挿入されている、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法である。尚、カウンターパンチは当該技術分野において「クッション型」又は「バックアップ型」等と称呼される場合がある。
【0091】
更に、第3方法においては、以下に列挙する条件A乃至条件Cを満足するように第2工程が実行される。尚、条件A乃至条件Cを満足するようにカウンターパンチの位置及び移動速度を制御するための駆動機構は、環状素材を構成する材料の性質(例えば、機械的強度及び硬度等)に応じて、当該技術分野において周知の種々の駆動機構の中から適宜選択することができる。典型的には、例えば油圧式プレス機等のプレス機が駆動機構として採用される。
【0092】
条件A:少なくとも第2工程が開始される時点から所定の時間が経過するまでの期間である第1期間においては、第1方向においてフランジ部素の第1方向における下流側の面である下流面と同じ位置又は下流面よりも下流側の所定の位置である開始位置にカウンターパンチの第1方向における上流側の端面である当接面を保持する。
条件B:第1期間が終了する時点から所定の時間が経過するまでの期間である第2期間においては、加工中の環状素材を当接面によって第1方向における上流側に向かって押圧しつつカウンターパンチを所定の速度にて第1方向に移動させる。
条件C:第1方向における開始位置よりも下流側の所定の位置である終了位置に当接面が到達した時点において、カウンターパンチの移動を停止し当接面を終了位置に保持すると共にマンドレルの第1方向への押し込みを停止する。
【0093】
第3方法に含まれる各工程の流れは、第2方法に関する説明において参照した
図12に例示したフローチャートと同様である。但し、第3方法においては、上述したように、条件A乃至条件Cを満足するように第2工程(ステップS20)が実行される。
【0094】
図15は、第3方法において実行される第2工程の進行に伴うマンドレルと外型とカウンターパンチの位置関係及び環状素材の形状の変化を例示する模式的な断面図である。
図15もまた、
図13及び
図14と同様に、
図5において太い一点鎖線によって囲まれた部分の拡大図である。
図15においてもまた、図面を簡潔なものとするため、
図4乃至
図6において示した各部位に付された符号の一部のみが表示されている。しかしながら、
図15に関する以下の説明においては、正確を期すため、
図4乃至
図6において示した符号を使用するので、必要に応じて
図4乃至
図6を参照されたい。
【0095】
先ず、
図15の(a)は、第2工程の開始時点におけるマンドレル40、外型30(第1外型31及び第2外型32)、カウンターパンチ50及び環状素材20の状態を示している。この時点におけるマンドレル40、外型30及び環状素材20の状態は、第2方法に関する説明において
図13の(a)及び
図14の(a)に示した状態と同様である。一方、カウンターパンチ50については、上述した条件Aを満たすべく、第1方向において環状素材20のフランジ部素の下流側の面(下流面)と同じ位置(開始位置)にカウンターパンチ50の上流側の端面(当接面)が保持されている。少なくともこの時点(第2工程が開始される時点)から所定の時間が経過するまでの期間(第1期間)に亘り、カウンターパンチ50の当接面が開始位置に保持される。
【0096】
次に、
図15の(b)は、第2工程(ステップS20)において、マンドレル40が環状素材20の円筒部素21の内部に挿入されて第1方向(
図15に向かって下向き)に移動することにより環状素材20の内周面に扱き加工(ステップS21)が施されて筒状体10の円筒部11が形成されている状態を示す。この時点におけるマンドレル及び外型の状態は、第2方法の変形例2-1に関して説明した状態と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0097】
尚、
図15の(b)に示す例においては、マンドレル40に形成された第2段差部43が環状素材20の円筒部素21の第1方向における上流側の端部に未だ当接していない(即ち、据え込み加工(ステップS22)は未だ開始されていない)。しかしながら、第1方法及び第2方法に関する説明において述べたように、扱き加工(ステップS21)に伴って作用する引張応力により、環状素材20を構成する材料が第2外型32の第2小内径部32bとマンドレル40との間の空間(環状凸部成形空間)へと塑性流動して環状凸部13が形成され始めている。従って、
図15の(b)に示す例においては、斜線が施された矢印によって示すように、この時点において既に、加工中の環状素材20をカウンターパンチ50の当接面によって上流側に向かって押圧しつつカウンターパンチ50を所定の速度にて第1方向に移動させている。即ち、
図15の(b)に例示する状態は、既に第2期間において上述した条件Bを満足している状態である。これにより、環状素材を構成する材料の塑性流動をフランジ部と環状凸部との間で好適にバランスさせて、前述したような欠陥を低減しつつ筒状体10の環状凸部13の高さを十分に大きくすることができる。
【0098】
但し、上述したように、条件Bは、第1期間が終了する時点から所定の時間が経過するまでの期間である第2期間において加工中の環状素材を当接面によって第1方向における上流側に向かって押圧しつつカウンターパンチを所定の速度にて第1方向に移動させるという条件である。従って、
図15の(b)に例示したように環状素材20の円筒部素21の上流側の端部を第1方向に押圧して据え込み加工(ステップS22)を開始する前の時点においてカウンターパンチ50を第1方向に移動させ始めるのではなく、据え込み加工の開始時点又は据え込み加工の開始よりも後の時点においてカウンターパンチ50を第1方向に移動させ始めてもよい。カウンターパンチ50を第1方向に移動させ始める具体的なタイミングは、例えば第3方法によって成形しようとする筒状体10のフランジ部12の形状及び大きさと環状素材20のフランジ部素22の形状及び大きさとの差の大きさ等に応じて適宜定めることができる。
【0099】
次に、
図15の(c)は、マンドレル40が第1方向に更に移動して、環状素材20の内周面に対する扱き加工(ステップS21)が更に進行すると共に、環状素材20の円筒部素21の第1方向における上流側の端部を第2段差部43によって第1方向に押圧することによりマンドレル40と外型30とによって画定される空間に環状素材20を構成する材料を充填させる据え込み加工(ステップS22)が実行されて、環状凸部13が更に伸長している状態を示す。この時点におけるマンドレル及び外型及の状態は、第2方法の変形例2-1に関して説明した状態と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0100】
但し、
図15の(c)に例示する状態においては、斜線が施された矢印によって示すように、
図15の(b)に例示した状態から継続して、加工中の環状素材20をカウンターパンチ50の当接面によって上流側に向かって押圧しつつカウンターパンチ50を所定の速度にて第1方向に移動させている。即ち、
図15の(c)に例示する状態もまた、第2期間において上述した条件Bを満足している状態である。これにより、環状素材を構成する材料の塑性流動をフランジ部と環状凸部との間で好適にバランスさせて、前述したような欠陥を低減しつつ筒状体10の環状凸部13の高さを十分に大きくすることができる。
【0101】
その後、図示しないが、第1方向における開始位置よりも下流側の所定の位置である終了位置にカウンターパンチ50の当接面が到達した時点において、カウンターパンチ50の移動を停止しカウンターパンチ50の当接面を終了位置に保持すると共にマンドレル40の第1方向への押し込みを停止する。即ち、上述した条件Cが満足される。
【0102】
以上のように、第3方法においては、上述した条件A乃至条件Cを満足するように第2工程が実行される。これにより、環状素材を構成する材料の塑性流動をフランジ部と環状凸部との間で好適にバランスさせることができる。その結果、第3方法によれば、例えば筒状体の外周面における円筒部とフランジ部との間における折れ込みの発生、当該折れ込みを起点とする割れの発生、及びフランジ部が広がる方向に作用する引張応力に起因するフランジ部の円筒部とは反対側の面(フランジ底面)における割れの発生等の問題を低減しつつ筒状体の環状凸部の高さを十分に大きくすることができる。
【0103】
尚、
図15に例示した第3方法においては、前述した第2方法の変形例2-1と同様に、マンドレルの円柱部の外周面の第1方向における上流側に形成された第2段差部によって環状素材の円筒部素の第1方向における上流側の端部を押圧することにより据え込み加工を実行している。この場合、例えばマンドレルを駆動するための駆動機構によって環状素材の上流側の端部を押圧することができるので、設備コストの増大を低減することができる。しかしながら、第3方法において環状素材の円筒部素の第1方向における上流側の端部を押圧して据え込み加工を実行するための具体的な手法はこれに限定されない。例えば、前述した第2方法に関する説明において述べたように、例えば、マンドレル40とは別個の押圧部材によって環状素材の上流側の端部を押圧してもよい。この場合、マンドレル40と上記押圧部材とを個別に制御することが可能な駆動機構が必要である。このような駆動機構の具体例としては、例えば複動プレス等の駆動装置を挙げることができる。
【0104】
《第4実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第4実施形態に係るフランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法(以降、「第4方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0105】
上述したように、第3方法によれば、第2外型の第2小内径部とマンドレルとの間の空間に嵌合可能な形状を有する芯金であるカウンターパンチを第1方向における下流側から当該空間に挿入して第2工程において加工中の環状素材に当接させることにより、環状素材を構成する材料の塑性流動をフランジ部と環状凸部との間でバランスさせて、上述したような欠陥を低減しつつ環状凸部の高さを十分に大きくすることができる。
【0106】
本発明者は更なる鋭意研究の結果、上記のようにカウンターパンチの使用により環状素材を構成する材料の塑性流動をフランジ部と環状凸部との間でバランスさせれば、扱き加工を併用せずに据え込み加工のみによって第2工程を実行する場合においても、上述したような欠陥を低減しつつ環状凸部の高さを十分に大きくすることができることを見出した。
【0107】
即ち、第4方法は、第2工程において扱き加工が実行されない点を除き、上述した第3方法と同様の構成を有する、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法である。従って、第4方法において使用される環状素材、外型、マンドレル、カウンターパンチ並びに第4方法によって成形される筒状体の構成は、第3方法及び第2方法に関する説明において既に述べたので、ここでの説明は省略する。また、第4方法において環状素材の円筒部素の第1方向における上流側の端部を押圧して据え込み加工を実行するための具体的な手法についても、第3方法及び第2方法に関する説明において既に述べたものと同様である。
【0108】
尚、第4方法に含まれる第2工程において、「扱き加工が実行されない」とは「マンドレルの移動に伴う環状素材の径方向への積極的な形状変更(拡径及び/又は扱き)が行われない」ことを意味する。従って、第4方法に含まれる第2工程において、環状素材の円筒部素の内周面とマンドレルとが摺動可能に接触していてもよく、或いは環状素材の円筒部素の内周面とマンドレルとの間に僅かな隙間(クリアランス)が存在していてもよい。
【0109】
図16は、第4方法に含まれる各工程の流れを示すフローチャートである。
図16に示すように、第4方法に含まれる各工程の流れは、第2工程(ステップS20)において扱き加工(ステップS21)が実行されず且つ上述した条件A乃至条件Cを満足するようにカウンターパンチを使用して据え込み加工(ステップS22)が第2工程において実行される点を除き、
図12に例示した第2方法に含まれる各工程の流れと同様である。
【0110】
図17は、第4方法において実行される第2工程の進行に伴うマンドレルと外型とカウンターパンチとの位置関係及び環状素材の形状の変化を例示する模式的な断面図である。
図17もまた、
図13乃至
図15と同様に、
図5において太い一点鎖線によって囲まれた部分の拡大図である。
図17においてもまた、図面を簡潔なものとするため、
図4乃至
図6において示した各部位に付された符号の一部のみが表示されている。しかしながら、
図17に関する以下の説明においては、正確を期すため、
図4乃至
図6において示した符号を使用するので、必要に応じて
図4乃至
図6を参照されたい。
【0111】
先ず、
図17の(a)は、第1工程の実行により環状素材20が外型30の内部に固定され、環状素材20の円筒部素21の内部にマンドレル40が上流側から挿入され、第2工程が開始されようとしている時点におけるマンドレル40、外型30(第1外型31及び第2外型32)、カウンターパンチ50及び環状素材20の状態を示している。但し、この時点においては、マンドレル40に形成された第2段差部43が環状素材20の円筒部素21の上流側の端部に未だ当接していない。従って、
図17の(a)に例示する時点において第2工程(ステップS20)は未だ開始されておらず、第1方向における環状素材20のフランジ部素22の下流側の面(下流面)と同じ位置(開始位置)にカウンターパンチ50の上流側の端面(当接面)が保持されている。即ち、上述した条件Aが満足されている。
【0112】
尚、上述したように、第4方法に含まれる第2工程(ステップS20)においては扱き加工(ステップS21)は実行されず据え込み加工(ステップS22)のみが実行される。
図17に示す例においては、円筒部素21の内周面とマンドレル40とが摺動可能に接触しているか或いは円筒部素21の内周面とマンドレル40との間に僅かな隙間が存在しており、マンドレル40の移動に伴う環状素材20の径方向への積極的な形状変更は行われない。
【0113】
次に、
図17の(b)は、上記のように環状素材20の円筒部素21の内部に挿入されたマンドレル40が第1方向(
図17に向かって下向き)に移動した結果としてマンドレル40に形成された第2段差部43が環状素材20の円筒部素21の上流側の端部に当接した後にマンドレル40が第1方向に更に移動した時点における状態を示している。即ち、環状素材20の据え込み加工(ステップS22)が進行中である。この時点においては筒状体10のフランジ部11を成形する空間に環状素材20を構成する材料が十分に充填されており、この時点以降の期間においては、カウンターパンチ50の当接面が環状素材20を上流側に向かって押圧しつつカウンターパンチ50が所定の速度にて第1方向に移動する。即ち、
図17の(b)に示す時点以降の期間は上述した第2期間であり、上述した条件Bが満足されている。
【0114】
次に、
図17の(c)は、マンドレル40が第1方向に更に移動して、環状素材20の据え込み加工(ステップS22)が更に進行し、第1方向における開始位置よりも下流側の所定の位置である終了位置にカウンターパンチ50の当接面が到達した時点における状態を示す。この時点において、環状凸部13は所期の長さに伸長しているので、カウンターパンチ50の移動が停止され、カウンターパンチ50の当接面が終了位置に保持されると共に、マンドレル40の第1方向への押し込みが停止される。即ち、
図17の(c)に示す時点において、上述した条件Cが満足される。
【0115】
以上のように、第4方法においては、第2工程において扱き加工が実行されず且つ上述した条件A乃至条件Cを満足するように第2工程が実行される。その結果、第4方法によれば、環状素材を構成する材料がマンドレル及び/又は外型に凝着したりする問題を低減すると共に、例えば筒状体の外周面における円筒部とフランジ部との間における折れ込みの発生、当該折れ込みを起点とする割れの発生、及びフランジ部が広がる方向に作用する引張応力に起因するフランジ部の円筒部とは反対側の面(フランジ底面)における割れの発生等の問題を低減しつつ、筒状体の環状凸部の高さを十分に大きくすることができる。
【0116】
尚、
図17に例示した第4方法においては、前述した第2方法の変形例2-1及び第3方法と同様に、マンドレルの円柱部の外周面の第1方向における上流側に形成された第2段差部によって環状素材の円筒部素の第1方向における上流側の端部を押圧することにより据え込み加工を実行している。しかしながら、第4方法において環状素材の円筒部素の第1方向における上流側の端部を押圧して据え込み加工を実行するための具体的な手法もまたこれに限定されず、例えば、前述した第2方法及び第3方法に関する説明において述べたように、例えば、マンドレル40とは別個の押圧部材によって環状素材の上流側の端部を押圧してもよい。
【0117】
《第5実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第5実施形態に係るフランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法(以降、「第5方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0118】
当業者に周知であるように、例えば冷間加工における加工荷重が著しく大きい場合等において加工素材を構成する材料が芯金及び/又は金型に凝着することがあり、このような問題を低減するための方策としては、例えば所謂「ボンデ処理」を加工素材に施すことが知られている。しかしながら、このような前処理を加工素材に施すことは、例えば生産効率の低下及び/又は生産コストの増大等の問題に繋がる場合がある。
【0119】
一方、本発明に係るフランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法(本発明方法)においては、上述したように、第2工程の完了時にマンドレルと外型とによって画定される空間が、筒状体の円筒部の径方向における肉厚が環状凸部の径方向における肉厚以上となり且つフランジ部の軸方向における肉厚が環状凸部の径方向における肉厚よりも大きくなるように設計される。このように設計されたマンドレル及び外型を使用して第2工程を実行することにより、環状素材を構成する材料をフランジ部及び環状凸部の両方にバランス良く塑性流動させることができる。その結果、本発明方法によれば、加工荷重の増大を低減しつつ、所期の形状及び大きさを有するフランジ部及び環状凸部が端部に一体的に形成され且つ内周面が面一となるように形成された筒状体を高い生産効率にて成形することができる。
【0120】
そこで、第5方法は、上述した変形例を含む第1方法乃至第4方法の何れかであって、環状素材を構成する材料がステンレス鋼であることを特徴とする、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法である。
【0121】
上述したように、本発明方法によれば、加工荷重の増大を低減しつつ、所期の形状及び大きさを有するフランジ部及び環状凸部が端部に一体的に形成され且つ内周面が面一となるように形成された筒状体を高い生産効率にて成形することができる。従って、第5方法においては、環状素材を構成する材料がステンレス鋼であるにもかかわらず、凝着等の問題を低減しつつ、所期の形状及び大きさを有するフランジ部及び環状凸部が端部に一体的に形成され且つ内周面が面一となるように形成された筒状体を高い生産効率にて成形することができる。
【0122】
《第6実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第6実施形態に係るフランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法(以降、「第6方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0123】
上述したように、本発明方法に含まれる第1工程においては、第2外型の第2大内径部と第2小内径部との間に位置する段差である第1段差部と第1外型の第1方向における下流側の端部との間において環状素材のフランジ部素が挟持されて、第1方向において円筒部素が上流側にあり且つフランジ部素が下流側にあるように環状素材が固定される。第2工程においては、環状素材の円筒部素の上流側の端部からマンドレルを第1方向に押し込むことにより環状素材を構成する材料を塑性流動させて、フランジ部及び環状凸部をバランス良く形成することができる。
【0124】
第6方法は、上述した変形例を含む第1方法乃至第5方法の何れかであって、第2工程において第1外型と第2外型とが第1方向において互いに接近するように制御されることを特徴とする、フランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法である。
【0125】
第1外型と第2外型とを互いに接近させる手法は特に限定されず、例えば、第1外型及び第2外型の両方を互いに接近するように駆動制御してもよく、或いは第1外型及び第2外型の何れか一方を他方に接近するように駆動制御してもよい。
【0126】
上記のように第2工程において第1外型と第2外型とが互いに接近するように制御することにより、例えば、フランジ部の形状の成形空間の形状に対する整合性を高めたり、フランジ部の成形空間を縮小させることにより環状凸部の成形空間へと塑性流動する材料を増やしたりすることができる。その結果、第6方法によれば、所期の形状及び大きさを有するフランジ部及び環状凸部が端部に一体的に形成され且つ内周面が面一となるように形成された筒状体を高い寸法精度にて成形することができる。
【0127】
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施形態及び変形例につき、時に添付図面を参照しながら説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施形態及び変形例に限定されると解釈されるべきではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることが可能であることは言うまでも無い。また、本発明に係るフランジ部及び環状凸部が管端に一体的に形成された筒状体の成形方法(本発明方法)は、本明細書の冒頭において述べたような排気管等の接続部材の製造に限定されるものではなく、建設物及び/又は輸送機械等における構造部材並びにシャフト等の駆動部材へも広く適用することができ、本発明方法によって製造される部材の用途は問わない。
【符号の説明】
【0128】
10…筒状体
11…円筒部
12…フランジ部
13…環状凸部
20,20a,20b…環状素材
21…円筒部素
22…フランジ部素
30…外型
30a…ダイス孔
31…第1外型
31a…第1内径部
32…第2外型
32a…第2大内径部
32b…第2小内径部
32c…第1段差部
40…マンドレル
41…外径増大部
42…円柱部
43…第2段差部
50…カウンターパンチ