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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092445
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】口腔内細菌叢改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/352 20060101AFI20230626BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20230626BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20230626BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20230626BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230626BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
A61K31/352
A61K8/49
A61Q11/00
A61P1/02
A61P31/04
A61P43/00 121
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137830
(22)【出願日】2022-08-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2021207371
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】500147333
【氏名又は名称】大木製▲薬▼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100192603
【弁理士】
【氏名又は名称】網盛 俊
(72)【発明者】
【氏名】天野 滋
【テーマコード(参考)】
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4C083AC841
4C083AC842
4C083CC41
4C083EE32
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA57
4C086NA14
4C086ZA67
4C086ZB35
4C086ZC75
(57)【要約】
【課題】口腔内細菌叢改善剤を提供することを目的とする。
【解決手段】ケンフェライドとベチュレトールを含有し、前記ベチュレトールに対する前記ケンフェライドの質量比率が1.25以上15以下であることを特徴とする口腔内細菌叢改善剤。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケンフェライドとベチュレトールを含有し、前記ベチュレトールに対する前記ケンフェライドの質量比率が1.25以上15以下であることを特徴とする口腔内細菌叢改善剤。
【請求項2】
前記ベチュレトールに対する前記ケンフェライドの質量比率が1.25以上5以下であることを特徴とする請求項1に記載の口腔内細菌叢改善剤。
【請求項3】
前記ケンフェライドと前記ベチュレトールの含有量の合計が、前記口腔内細菌叢改善剤1mlあたり1μg~200μgであることを特徴とする請求項1又は2に記載の口腔内細菌叢改善剤。
【請求項4】
ケンフェライドとベチュレトールを含有し、前記ベチュレトールに対する前記ケンフェライドの質量比率が1.25以上15以下であることを特徴とする歯周病予防剤。
【請求項5】
前記ベチュレトールに対する前記ケンフェライドの質量比率が1.25以上5以下であることを特徴とする請求項4に記載の歯周病予防剤。
【請求項6】
前記ケンフェライドと前記ベチュレトールの含有量の合計が、前記歯周病予防剤1mlあたり1μg~200μgであることを特徴とする請求項4又は5に記載の歯周病予防剤。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内細菌叢改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの口腔内には様々な細菌が共生しており、細菌叢と呼ばれる細菌集団を形成している。口腔内の細菌叢(以下、「口腔内細菌叢」という)には、歯周病や齲蝕の原因となる菌(以下、「悪玉菌」ともいう)が存在するが、悪玉菌に対して抗菌作用を示す菌(以下、「善玉菌」ともいう)も存在しており、歯周病や齲蝕の発症が抑制されている。しかしながら、食生活の変化、ストレス、加齢などにより体調に変化が生じたり、歯や歯周に歯垢が蓄積したりすると、悪玉菌の増殖を抑制できなくなる。その結果、歯周病や齲蝕が発症する。
【0003】
歯周病や齲蝕を予防するため、様々な技術が提案されている。例えば、特許文献1では、(A)ε-ポリリジン及び/またはその塩と(B)天然物由来抗菌成分を含む組成物を、齲蝕や歯周病の予防に使用する技術が提案されている。
【0004】
なお、特許文献1において、(B)天然物由来抗菌成分には、リゾチーム、キトサン、エゴノキ抽出物、ヒバ油、ヒノキチオール、ペクチン分解物、レンギョウ抽出物、カワラヨモギ抽出物、シソの葉エキス、カラシ抽出物、ワサビ抽出物、孟宗竹抽出物、トウガラシ抽出物、タデ抽出物、ウド抽出物、ニンニク抽出物、ピメンタ抽出物、イチジク抽出物、クワ抽出物、ブドウ種子抽出物、ペパー抽出物、マダケ抽出物、オレガノ抽出物、モミガラ抽出物、グローブ抽出物、ショウガ抽出物、セージ抽出物、ハチク抽出物、ブドウ果皮抽出物、ホッコシ抽出物、ユッカフォーム抽出物、及びローズマリー抽出物が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-123630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、口腔内細菌叢改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、ケンフェライドとベチュレトールを所定の比率で含有する組成物が、口腔内細菌叢の悪玉菌に対して抗菌作用を示す一方で、口腔内細菌叢の善玉菌に対しては抗菌作用を示しにくいことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]ケンフェライドとベチュレトールを含有し、前記ベチュレトールに対する前記ケンフェライドの質量比率が1.25以上15以下であることを特徴とする口腔内細菌叢改善剤。
[2]前記ベチュレトールに対する前記ケンフェライドの質量比率が1.25以上5以下であることを特徴とする[1]に記載の口腔内細菌叢改善剤。
[3]前記ケンフェライドと前記ベチュレトールの含有量の合計が、前記口腔内細菌叢改善剤1mlあたり1μg~200μgであることを特徴とする[1]又は[2]に記載の口腔内細菌叢改善剤。
[4]ケンフェライドとベチュレトールを含有し、前記ベチュレトールに対する前記ケンフェライドの質量比率が1.25以上15以下であることを特徴とする歯周病予防剤。
[5]前記ベチュレトールに対する前記ケンフェライドの質量比率が1.25以上5以下であることを特徴とする[4]に記載の歯周病予防剤。
[6]前記ケンフェライドと前記ベチュレトールの含有量の合計が、前記歯周病予防剤1mlあたり1μg~200μgであることを特徴とする[4]又は[5]に記載の歯周病予防剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、口腔内細菌叢改善剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1a図1aは光学濃度(595nmでのOD値)を示すグラフである(試験1a)。
図1b図1bは光学濃度(595nmでのOD値)を示すグラフである(試験1b)。
図1c図1cは光学濃度(595nmでのOD値)を示すグラフである(試験1c)。
図2a図2aは光学濃度(595nmでのOD値)を示すグラフである(試験2a)。
図2b図2bは光学濃度(595nmでのOD値)を示すグラフである(試験2b)。
図2c図2cは光学濃度(595nmでのOD値)を示すグラフである(試験2c)。
図2d図2dは光学濃度(595nmでのOD値)を示すグラフである(試験2d)。
図2e図2eは光学濃度(595nmでのOD値)を示すグラフである(試験2e)。
図3a図3aは光学濃度(595nmでのOD値)を示すグラフである(試験3a)。
図3b図3bは光学濃度(595nmでのOD値)を示すグラフである(試験3b)。
図3c図3cは光学濃度(595nmでのOD値)を示すグラフである(試験3c)。
図4図4は光学濃度(595nmでのOD値)を示すグラフである(試験4)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0012】
本実施形態は、口腔内細菌叢改善剤に関する。
【0013】
本明細書において、「口腔内細菌叢改善」とは、口腔内細菌叢における悪玉菌と善玉菌の比率を改善すること指し、より具体的には、口腔内細菌叢における悪玉菌に対する善玉菌の比率を、改善前と比較して増加することを指す。
【0014】
また、本明細書において、「悪玉菌」とは、歯周病の原因となる菌や齲蝕の原因となる菌を指し、「善玉菌」とは、悪玉菌に対して抗菌作用を示す菌を指す。なお、本明細書において、抗菌作用とは、菌を増殖させない静菌と、菌を死滅させる殺菌の両方を含む概念である。
【0015】
ここで、齲蝕の原因となる菌(悪玉菌)としては、例えば、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、ストレプトコッカス・ソブリナス(Streptococcus sobrinus)を挙げることができる。
【0016】
また、歯周病の原因となる菌(悪玉菌)としては、例えば、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、トレポネーマ・デンティコーラ(Treponema denticola)、タンネレラ・フォーサイシア(Tannerella forsythia)、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス セロタイプ b(Aggregatibacter actinomycetemcomitans serotype b)プレボテラ・インターメディア(Prevotella intermedia)が挙げられる。
【0017】
一方、これらの悪玉菌に対して抗菌作用を示す菌(善玉菌)としては、例えば、ストレプトコッカス・サリバリウス K12(Streptococcus salivarius subsp. salivarius Andrewes and Horder(ATCC BAA-1024(登録商標))や、ストレプトコッカス・サリバリウス strein M18(Streptococcus salivarius Andrewes and Horder(ATCC BAA-2593(登録商標)))を挙げることができる。
【0018】
本実施形態の口腔内細菌叢改善剤は、ケンフェライドとベチュレトールを含有する。
【0019】
本実施形態の口腔内細菌叢改善剤に含有されるケンフェライドは、下記式(1)で示される化合物(3,5,7-トリヒドロキシ-3-メトキシ-フラボン)であり、フラボンの1種である。
【0020】
【化1】
【0021】
本実施形態の口腔内細菌叢改善剤に含有されるベチュレトールは、下記式(2)で示される化合物(3,5,7-トリヒドロキシ-6,3-ジメトキシ-フラボン)であり、フラボンの1種である。
【0022】
【化2】
【0023】
ケンフェライドとベチュレトールは、基本骨格(3,5,7-トリヒドロキシ-3-メトキシ-フラボン)が共通する物質であるが、6位の置換基が異なる物質である。具体的には、ケンフェライドにおける6位の置換基は水素であり、ベチュレトールにおける6位の置換基はメトキシ基である。
【0024】
本実施形態の口腔内細菌叢改善剤において、ベチュレトールに対するケンフェライドの質量比率は1.25以上15以下である。口腔内細菌叢における悪玉菌と善玉菌の比率をより改善する観点からは、ベチュレトールに対するケンフェライドの質量比率は、1.25以上5以下であることが好ましい。
【0025】
なお、口腔内細菌叢改善剤に含有されるベチュレトールとケンフェライドの比率は、例えば、口腔内細菌叢改善剤を70%~80%程度のエタノールで抽出後、抽出液を濃縮し粗エキスを取得し、その後、公知文献などを参考にUPLC(超高速液体クロマトグラフィー)にてそれぞれの濃度を定量することで求めることができる。なお、口腔内細菌叢改善剤に、70%~80程度のエタノールに溶解するベチュレトールとケンフェライド以外の成分が含まれる場合には、このような成分をエタノールの抽出液からを除去する除去処理を行ってもよい。除去処理の方法は、除去したい成分に応じて設定すればよく、公知の方法を用いることができる。
【0026】
本実施形態の口腔内細菌叢改善剤において、ベチュレトールとケンフェライドの含有量は、特に限定されるものでないが、ベチュレトールとケンフェライドの含有量の合計を、口腔内細菌叢改善剤1mlあたり、例えば、0.1μg~400μgとすることができ、口腔内細菌叢における悪玉菌と善玉菌の比率をより改善する観点からは、1μg~200μgとすることが好ましく、5μg~200μgとすることがより好ましい。
【0027】
ベチュレトールとケンフェライドは、ポリフェノールを含有する天然素材(以下、「ポリフェノール含有素材」ともいう)から得ることができる。ベチュレトールとケンフェライドを含有するポリフェノール含有素材としては、例えば、プロポリス、赤ぶどう抽出物、赤ぶどう果皮抽出物、赤ぶどう葉、白ぶどう葉、赤ぶどう果実、白ぶどう果実、白ぶどう果皮、ぶどう種子、イチョウ葉、フランス西海岸松、大麦若葉、小麦若葉、稲若葉、大豆若葉、ブルーベリー果実、果皮、その種子、シソ葉、バラ葉、バラ花、ヤーコン、キクイモ、ムラサキイモ及びそれらの葉、キク科植物、又はエキナセア、レモンバーム、ウコン、グァバ、レモングラス、ラベンダー等のハーブ類、さらに、緑茶、紅茶、ウーロン茶等が挙げられる。
【0028】
ここで、ベチュレトールとケンフェライドの比率を調製する方法について説明する。ベチュレトールとケンフェライドは、上述した通り、ポリフェノール含有素材から取得できるが、抽出方法などにもよるが、通常は、ポリフェノール含有素材から、ベチュレトールとケンフェライドを含む抽出物を得るだけでは、ベチュレトールとケンフェライドを上述した比率(1.25以上15以下)に調整することが難しい。
【0029】
そこで、ベチュレトールとケンフェライドを上述した配合比率(1.25以上15以下)に調整する方法としては、一例として、ポリフェノール含有素材からベチュレトールとケンフェライドを別々に分取(単離)し、これらを上述した配合比率(1.25以上15以下)で配合する方法を用いることができる。
【0030】
ポリフェノール含有素材からベチュレトールとケンフェライドを別々に分取する方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。また、例えば、次の方法を用いてもよい。まず、ポリフェノール含有素材を70~80%程度のエタノールで抽出後、抽出液を濃縮し粗エキスを得る。次に、ポリフェノール含有素材のエタノール抽出物を、担体(セファデックスLH-20,GEヘルスケア・ジャパン(株)製)を充填したカラムに供し、分離用溶媒として100容量%のエタノールを用いて分離する。分離用溶媒を自然落下させ、紫外線照射装置を用いて紫外部領域の励起光に対して蛍光を発する部分を分取し、39℃で濃縮する。この濃縮液をシリカゲルカラムに添加し、分離を行う。分離用溶媒には、クロロホルムとメタノールの混合溶液(容量比で95:5)を用い、分離の流速は1.0ml/分とすることができる。フォトダイオードアレイを用いてベチュレトール画分及びケンフェライド画分をそれぞれ分取する。分取された溶液をそれぞれ減圧濃縮装置に供して濃縮する。その後、真空乾燥機を用いて40℃で乾燥し、ベチュレトールとケンフェライドを分取することができる。
【0031】
上述した方法において、ポリフェノール含有素材の抽出に用いられる抽出用溶媒としては、エタノールの他にも、例えば、水、メタノール、プロパノール等の親水性溶媒、アセトン、酢酸エチル、ベンゼン、クロロホルム等を用いることもできる。また、上述した方法で用いられる分離用溶媒としては、エタノールの他にも、水、メタノール、プロパノール、ブタノール等を用いることもできる。
【0032】
なお、ベチュレトールに対するケンフェライドの質量比率を上述した範囲(1.25以上15以下)に調整する方法は、上述した方法に限られず、ベチュレトールとケンフェライドを別々に分取しなくてもよい。この場合には、例えば、ポリフェノール含有素材から、ベチュレトールとケンフェライドを異なる含有比率で含む2種類以上の抽出物を取得し、これらの抽出物同士を混合することで、ベチュレトールとケンフェライドの比率を上述した範囲(1.25以上15以下)に調整することができる。
【0033】
また、上述したとおり、ポリフェノール含有素材から、ベチュレトールとケンフェライドを含む抽出物を得るだけでは、ベチュレトールとケンフェライドを上述した比率(1.25以上15以下)に調整することが難しいが、ポリフェノール含有素材の抽出物が、ベチュレトールに対するケンフェライドの質量比率が当該範囲内にある抽出物である場合には、その抽出物を、本実施形態の口腔内細菌叢改善剤に用いてもよい。
【0034】
本実施形態の口腔内細菌叢改善剤は、ベチュレトールとケンフェライドのみにより構成されていてもよいが、ベチュレトールとケンフェライド以外のその他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、研磨剤、防腐剤、消炎剤、グルコシルトランスフェラーゼ(GTase)阻害剤、プラーク抑制剤、知覚過敏抑制剤、歯石予防剤、粘着剤、粘稠剤、賦形剤、滑沢剤、香料、甘味剤、清涼化剤、色素、消臭剤、界面活性剤、pH調整剤が挙げられる。
【0035】
本実施形態の口腔内細菌叢改善剤の性状については、特に制限されず、液状、固形状、半固形状(ゲル状、軟膏状、ペースト状)等のいずれであってもよい。
【0036】
本実施形態の口腔内細菌叢改善剤は、口腔内に所定期間滞留させることができれば、口腔内への適用方法は特に限定されない。
【0037】
本実施形態の口腔内細菌叢改善剤は、口腔内に所定期間滞留可能であれば、可食性のものであってもよく、非可食性のものであってもよい。例えば、本実施形態の口腔内細菌叢改善剤は、食品(機能性食品、特定保健用食品、病者用食品等を含む)の形態であってもよく、また医薬品(医薬部外品、指定医薬部外品を含む)や口腔化粧料の形態であってもよい。
【0038】
本実施形態の口腔内細菌叢改善剤の口腔内への適用量については、特に限定されるものではないが、例えば、1回当たり、ベチュレトールとケンフェライドが合計で5~20μg口腔内に滞留する量とすることができる。なお、本実施形態の口腔内細菌叢改善剤の適用頻度は、特に限定されるものではないが、例えば、1日に1~3回とすることができる。
【0039】
本実施形態の口腔内細菌叢改善剤の製剤形態は、口腔内に所定期間滞留し得るものである限り特に限定されないが、例えば、トローチ、可食性フィルム、チューインガム、キャンディ、グミキャンディ、タブレット、顆粒、細粒、粉末、カプセル等の可食性口腔用剤や、液体歯磨剤、練歯磨剤、潤製歯磨剤、粉歯磨剤、洗口剤(マウスウォッシュ)、マウスリンス、含嗽剤、口中清涼剤(マウススプレー等)等の非可食性の製剤形態が挙げられる。
【0040】
なお、本実施形態の口腔内細菌叢改善剤の製造方法は、特に限定されるものではなく、製剤形態に応じて、公知の方法を用いることができる。
【0041】
以上説明した本実施形態の口腔内細菌叢改善剤は、歯周病や齲蝕の原因となる悪玉菌に対して抗菌作用を示すが、一方で、善玉菌に対して抗菌作用を示しにくい。このため、本実施形態の口腔内細菌叢改善剤は、口腔内細菌叢における悪玉菌と善玉菌の比率を改善することができる。
【0042】
また、本実施形態の口腔内細菌叢改善剤は、上述したように、歯周病や齲蝕の原因となる悪玉菌に対して抗菌作用を示し、一方で、善玉菌に対しては抗菌作用を示しにくい。このため、本実施形態の口腔内細菌叢改善剤は、歯周病の発生を予防する歯周病予防剤や、齲蝕の発生を予防する齲蝕予防剤として使用することもできる。
【実施例0043】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない
【0044】
[ベチュレトールとケンフェライドの取得]
ブラジル産プロポリスの原塊50gに、77%のエタノール120gを加え、60℃ 200rpmで1~2時間抽出した。得られた抽出物をアドバンテック東洋(株)製のNo.2濾紙にて吸引濾過し、得られたろ液103gを-15℃以下で冷却した。さらにNo.2濾紙にて自然濾過し、得られたろ液をプロポリスエキスとした(収量:83g、固形分:20%)。
【0045】
次に、プロポリスのエタノール抽出物を、担体(セファデックスLH-20,GEヘルスケア・ジャパン(株)製)を充填したカラムに供し、分離用溶媒として100容量%のエタノールを用いて分離した。分離用溶媒を自然落下させ、紫外線照射装置を用いて紫外部領域の励起光に対して蛍光を発する部分を分取した。カラム容積の10倍量の100容量%エタノールで分離された画分を得て、これを減圧濃縮装置に供し、39℃で濃縮した。
【0046】
この濃縮液をシリカゲルカラムに添加し、分離を行なった。分離用溶媒にはクロロホルムとメタノールの混合溶液(容量比で95:5)を用い、分離の流速は1.0ml/分であった。フォトダイオードアレイを用いてベチュレトール画分及びケンフェライド画分をそれぞれ分取した。分取された溶液をそれぞれ減圧濃縮装置に供して濃縮した。その後、真空乾燥機を用いて40℃で乾燥し、ベチュレトールとケンフェライドを分取した。なお、得られた物質がベチュレトールとケンフェライドであることは、HPLC分析により確認した。
【0047】
[被験物の取得]
分取したベチュレトールとケンフェライドを用いて、下記表1-1に示す被験物A~Fと下記表1-2に示す被験物G~Iを取得した。
【表1-1】

【表1-2】
【0048】
[試験1a(被検物A~Cの悪玉菌に対する抗菌作用)]
悪玉菌に対する抗菌作用を評価するため、以下に示す試験を行った。
【0049】
歯周病の原因となる悪玉菌として、フソバクテリウム・ヌクレアタム ATCC31647(住商ファーマインターナショナル(株)から入手)を用意した。
【0050】
抗菌作用の測定は、日本化学療法学会標準法に準じて微量液体希釈法で行った。まず、歯周病の原因となる悪玉菌(フソバクテリウム・ヌクレアタム ATCC31647)を、5μg/mlヘミン、1μg/mlメナジオンを加えたGifu Anaerobic Medium(GAM)を使用し、窒素(83%)水素(7%)二酸化炭素(10%)混合ガス下で、37℃で嫌気培養した。培養した悪玉菌を2×10cfu/mlになるように調製した菌培養液を96穴マイクロプレートの各ウェルに100μL加えた。菌培養液が加えられたウェルに、被検物A~Cをそれぞれ混合した0.8%から0.01%のDMSO水溶液を100μlずつ加え、ウェル内の溶液における各被験物の濃度を20~80μg/mlとした。なお、コントロールとして、0.8%から0.01%のDMSO水溶液100μlを、菌培養液が加えられたウェルに加えた。
【0051】
その後、フソバクテリウム・ヌクレアタム ATCC31647について菌培養液を37℃で培養し、マイクロプレートリーダーで、ウェル内の溶液の光学濃度(595nmでのOD値)を測定した。結果を図1aに示す。
【0052】
図1aに示すように、被験物A~Cを添加した場合には、OD値がコントロールよりも低くなっていた。なお、OD値がコントロールよりも低いことは、菌が死滅していることを指す。この結果から、被験物A~Cは、フソバクテリウム・ヌクレアタム ATCC31647(悪玉菌)に対して抗菌作用を示すことが理解できた。
【0053】
[試験1b(被検物D~Fの悪玉菌に対する抗菌作用)]
本試験では、被験物D~Fを用いた。また、本試験では、ウェル内の溶液における被験物の濃度を、5~80μg/mlとした。これら以外の条件は、試験1aと同様の方法で、ウェル内の溶液の光学濃度(595nmでのOD値)を測定した。結果を図1bに示す。
【0054】
図1bに示すように、被験物D~Fを添加した場合には、OD値がコントロールよりも低くなっていた。この結果から、被験物D~Fは、フソバクテリウム・ヌクレアタム ATCC31647(悪玉菌)に対して抗菌作用を示すことが理解できた。
【0055】
[試験1c(被検物G~Iの悪玉菌に対する抗菌作用)]
本試験では、被験物G~Iを用いた。また、本試験では、ウェル内の溶液における被験物の濃度を、5~20μg/mlとした。これら以外の条件は、試験1aと同様の方法で、ウェル内の溶液の光学濃度(595nmでのOD値)を測定した。結果を図1cに示す。
【0056】
図1cに示すように、被験物G~Iを添加した場合には、OD値がコントロールと同等程度であった。この結果から、被験物G~Iは、フソバクテリウム・ヌクレアタム ATCC31647(悪玉菌)に対して抗菌作用を示しにくいことが理解できた。
【0057】
[試験2a(被検物A~Cの悪玉菌に対する抗菌作用)]
本試験では、試験1とは異なる悪玉菌を使用し、抗菌作用を評価した。
【0058】
本試験では、悪玉菌として、歯周病の原因となるポルフィロモナス・ジンジバリス ストレイン381(国立研究開発法人 理化学研究所 バイオリソース研究センター(RIKEN BRC) 微生物材料開発室(JCM)から入手)。また、本試験では、ウェル内の溶液における被験物の濃度5~80μg/mlとした。これら以外の条件は、試験1aと同様の方法で培養を行い、その後、ウェル内の溶液の光学濃度(595nmでのOD値)を測定した。結果を図2aに示す。
【0059】
図2aに示すように、被験物A~Cを添加した場合には、OD値がコントロールよりも低くなっていた。この結果から、被験物A~Cは、ポルフィロモナス・ジンジバリス ストレイン381(悪玉菌)に対して抗菌作用を示すことが理解できた。
【0060】
[試験2b(被検物D~Fの悪玉菌に対する抗菌作用)]
本試験では、被験物D~Fを用いたこと以外の条件は、試験2aと同様の方法で、ウェル内の溶液の光学濃度(595nmでのOD値)を測定した。結果を図2bに示す。
【0061】
図2bに示すように、被験物D~Fを添加した場合には、OD値がコントロールよりも低くなっていた。この結果から、被験物D~Fは、ポルフィロモナス・ジンジバリス ストレイン381(悪玉菌)に対して抗菌作用を示すことが理解できた。
【0062】
[試験2c(被検物G~Iの悪玉菌に対する抗菌作用)]
本試験では、被験物G~Iを用いた。また、本試験では、ウェル内の溶液における被験物の濃度を、5~10μg/mlとした。これら以外の条件は、試験2aと同様の方法で、ウェル内の溶液の光学濃度(595nmでのOD値)を測定した。結果を図2cに示す。
【0063】
図2cに示すように、被験物G~Iを添加した場合には、OD値がコントロールと同等程度であった。この結果から、被験物G~Iは、ポルフィロモナス・ジンジバリス ストレイン381(悪玉菌)に対して抗菌作用を示しにくいことが理解できた。
【0064】
[試験2d(被検物G、Iの悪玉菌に対する抗菌作用)]
本試験では、被験物G、Iを用いた。また、本試験では、ウェル内の溶液における被験物の濃度を、20μg/mlとした。これら以外の条件は、試験2aと同様の方法で、ウェル内の溶液の光学濃度(595nmでのOD値)を測定した。結果を図2dに示す。
【0065】
図2dに示すように、被験物G、Iを添加した場合には、OD値がコントロールと同等程度であった。この結果から、被験物G、Iは、試験2cとは異なる濃度であってもポルフィロモナス・ジンジバリス ストレイン381(悪玉菌)に対して抗菌作用を示しにくいことが理解できた。
【0066】
[試験2e(被検物Hの悪玉菌に対する抗菌作用)]
本試験では、被験物Hを用いた。また、本試験では、ウェル内の溶液における被験物の濃度を、20μg/mlとした。これら以外の条件は、試験2aと同様の方法で、ウェル内の溶液の光学濃度(595nmでのOD値)を測定した。結果を図2eに示す。
【0067】
図2eに示すように、被験物Hを添加した場合には、OD値がコントロールと同等程度であった。この結果から、被験物Hは、試験2cとは異なる濃度であっても、ポルフィロモナス・ジンジバリス ストレイン381(悪玉菌)に対して抗菌作用を示しにくいことが理解できた。
【0068】
[試験3a(被検物A~Cの悪玉菌に対する抗菌作用)]
本試験では、試験1とは異なる悪玉菌を使用し、抗菌作用を評価した。
【0069】
本試験では、悪玉菌として、歯周病の原因となるポルフィロモナス・ジンジバリス ATCC33277(国立研究開発法人 理化学研究所 バイオリソース研究センター(RIKEN BRC) 微生物材料開発室(JCM)から入手)を用いた。また、本試験では、ウェル内の溶液における被験物の濃度5~80μg/mlとした。これら以外の条件は、試験1aと同様の方法で、ウェル内の溶液の光学濃度(595nmでのOD値)を測定した。結果を図3aに示す。
【0070】
図3aに示すように、被験物A~Cを添加した場合には、OD値がコントロールよりも低くなっていた。この結果から、被験物A~Cは、ポルフィロモナス・ジンジバリス ATCC33277(悪玉菌)に対して抗菌作用を示すことが理解できた。
【0071】
[試験3b(被検物G、Iの悪玉菌に対する抗菌作用)]
本試験では、被験物G、Iを用いた。また、本試験では、ウェル内の溶液における被験物の濃度を、5~20μg/mlとした。これら以外の条件は、試験3aと同様の方法で、ウェル内の溶液の光学濃度(595nmでのOD値)を測定した。結果を図3bに示す。
【0072】
図3bに示すように、被験物G、Iを添加した場合には、OD値がコントロールと同等程度であった。この結果から、被験物G、Iは、ポルフィロモナス・ジンジバリス ATCC33277(悪玉菌)に対して抗菌作用を示しにくいことが理解できた。
【0073】
[試験3c(被検物Hの悪玉菌に対する抗菌作用)]
本試験では、被験物Hを用いた。また、本試験では、ウェル内の溶液における被験物の濃度を、2.5~20μg/mlとした。これら以外の条件は、試験3aと同様の方法で、ウェル内の溶液の光学濃度(595nmでのOD値)を測定した。結果を図3cに示す。
【0074】
図3cに示すように、被験物Hを添加した場合には、OD値がコントロールと同等程度であった。この結果から、被験物Hは、ポルフィロモナス・ジンジバリス ATCC33277(悪玉菌)に対して抗菌作用を示しにくいことが理解できた。
【0075】
[試験4(a)(善玉菌に対する抗菌作用)]
本試験では、試験1aで使用した悪玉菌にかえて善玉菌を使用し、抗菌作用を評価した。
【0076】
本試験では、試験1aで用いた悪玉菌にかえて、善玉菌であるストレプトコッカス・サリバリウス strein M18(住商ファーマインターナショナル(株)から入手)を用いた。また、本試験では、被験物A~Dを用いるとともに、ウェル内の溶液における各被験物の濃度を40~200μg/mlとした。これら以外の条件は、試験1aと同様の方法で培養を行い、ウェル内の溶液の光学濃度(595nmでのOD値)を測定した。結果を図4に示す。
【0077】
図4に示すように、被験物A~Dは、OD値がコントロールと同等程度であった。この結果から、被験物A~Dは、善玉菌(ストレプトコッカス・サリバリウス M18)に対して抗菌作用を示しにくいことが明らかとなった。
【0078】
上述した試験1~4の結果から、ベチュレトールに対するケンフェライドの質量比率を1.25以上15以下とした場合には、悪玉菌に対しても抗菌作用を示すが、善玉菌に対しては抗菌作用を示しにくいことが理解できた。つまり、ベチュレトールに対するケンフェライドの質量比率が1.25以上15以下である場合には、善玉菌よりも悪玉菌に対してより強く抗菌作用を示すため、口腔内細菌叢における悪玉菌と善玉菌の比率を改善できることが理解できた。

図1a
図1b
図1c
図2a
図2b
図2c
図2d
図2e
図3a
図3b
図3c
図4