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特開2023-92454チタン合金、チタン合金棒、チタン合金板及びエンジンバルブ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092454
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】チタン合金、チタン合金棒、チタン合金板及びエンジンバルブ
(51)【国際特許分類】
   C22C 14/00 20060101AFI20230626BHJP
   C22F 1/18 20060101ALN20230626BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230626BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
C22F1/18 H
C22F1/00 623
C22F1/00 624
C22F1/00 630G
C22F1/00 630K
C22F1/00 651B
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 691B
C22F1/00 694A
C22F1/00 694Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161129
(22)【出願日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2021207171
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】岳辺 秀徳
(72)【発明者】
【氏名】國枝 知徳
(72)【発明者】
【氏名】川上 哲
(57)【要約】
【課題】延性を維持し、疲労特性に優れたチタン合金、チタン合金棒、チタン合金板及びエンジンバルブを提供する。
【解決手段】Ti-5Al-2Fe-3Mo系あるいはTi-6Al-4V系のα+β型チタン合金において、α相とβ相からなる2相組織を有し、断面中のAl、Fe、Mo、Vの元素濃度の偏析異常部の最大面積が2000μm以下である。断面中のAl、Fe、Mo、Vの元素濃度の偏析異常部とは、EPMA面分析において、AlおよびFeが平均値±1質量%、Moが平均値±1.5質量%、Vが平均値±2質量%を外れた測定点が隣接する点の集合体を意味する。これにより、疲労特性と延性に優れたチタン合金、チタン合金棒、チタン合金板及びエンジンバルブを提供することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
α相とβ相からなる2相組織を有し、2.5質量%以上のAlと、Al以外の1種類以上の主要元素を少なくとも0.8質量%以上含有し、断面中の主要元素濃度の偏析異常部の最大面積が2000μm以下であるチタン合金。
ここで、主要元素とはAl、Fe、Mo、Vであり、断面中の主要元素濃度の偏析異常部とは、EPMA面分析において、Mo、V以外の主要元素が平均値±1質量%、Moが平均値±1.5質量%、Vが平均値±2%を外れた測定点が隣接する点の集合体を意味する。
【請求項2】
質量%にて、
Al:4.5~6.5%、
Fe:1.4~2.3%、
Mo:1.5~5.5%を含有し、
OとNが合計で0.25%以下であり、残部Ti及び不純物からなる、請求項1に記載のチタン合金。
【請求項3】
質量%にて、
Al:5.0~7.0%、
V:3.5~5.0%、
OとNが合計で0.25%以下であり、残部Ti及び不純物からなる、請求項1に記載のチタン合金。
【請求項4】
質量%にて、
Al:4.5~6.5%、
Fe:0.8~2.3%、
Si:0.0~0.50%、
OとNが合計で0.25%以下であり、残部Ti及び不純物からなる、請求項1に記載のチタン合金。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のチタン合金からなるチタン合金棒。
【請求項6】
針状組織の割合が80面積%以下である請求項5に記載のチタン合金棒。
ここで針状組織の割合は、チタン合金棒の軸に垂直な断面においてEBSD評価を行い、測定結果において方位差5°以上を粒界として結晶粒径を求め、平均結晶粒径が100μm以上の場合は針状組織の割合を100面積%とし、平均結晶粒径100μm未満の場合は、Image Quality(IQ)が平均の20%以上のデータを抽出し、抽出したデータの中からアスペクト比(長軸/短軸)が3以下のα粒を等軸α粒とし、全測定面積に対する前記等軸α粒以外が占める面積率を針状組織の割合とする。
【請求項7】
請求項1~請求項4の何れか1項に記載のチタン合金からなるチタン合金板。
【請求項8】
針状組織の割合が80面積%以下である請求項7に記載のチタン合金板。
ここで針状組織の割合は、チタン合金板の圧延方向に垂直な断面においてEBSD評価を行い、測定結果において方位差5°以上を粒界として結晶粒径を求め、平均結晶粒径が100μm以上の場合は針状組織の割合を100面積%とし、平均結晶粒径100μm未満の場合は、Image Quality(IQ)が平均の20%以上のデータを抽出し、抽出したデータの中からアスペクト比(長軸/短軸)が3以下のα粒を等軸α粒とし、全測定面積に対する前記等軸α粒以外が占める面積率を針状組織の割合とする。
【請求項9】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のチタン合金からなるエンジンバルブ。
【請求項10】
針状組織の割合が80面積%以下である請求項9に記載のエンジンバルブ。
ここで針状組織の割合は、エンジンバルブの軸に垂直な断面においてEBSD評価を行い、測定結果において方位差5°以上を粒界として結晶粒径を求め、平均結晶粒径が100μm以上の場合は針状組織の割合を100面積%とし、平均結晶粒径100μm未満の場合は、Image Quality(IQ)が平均の20%以上のデータを抽出し、抽出したデータの中からアスペクト比(長軸/短軸)が3以下のα粒を等軸α粒とし、全測定面積に対する前記等軸α粒以外が占める面積率を針状組織の割合とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン合金、チタン合金棒、チタン合金板及びエンジンバルブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
チタン合金は、軽量でありながら高強度で耐食性も良好であることから様々な分野に適用されている。中でもTi-6Al-4Vに代表されるα+β型チタン合金は、強度、延性、靭性などの機械的性質のバランスに優れ、以前から宇宙・航空分野で広く使われ、近年では自動車部品への適用も進んでいる。
【0003】
一方、より優れた特性を有し、低コストのα+β型チタン合金が要請されていた。
【0004】
特許文献1には、質量%で、4.4%以上5.5%未満のAl、1.4%以上2.1%未満のFe、1.5以上5.5%未満のMoを含有し、不純物として、Siが0.1%未満、Cが0.01%未満に抑制され、残部Tiおよび不可避的不純物からなることを特徴とする、高強度α+β型チタン合金が開示されている。Al、Feを含むα+β型チタン合金に、適量のMoを添加することによって高強度、高延性でかつ熱間加工性および冷間加工性に優れ、さらに第4元素を添加することにより耐食性に優れたα+β型チタン合金を見出したものである。
【0005】
特許文献2には、質量%で、4.4%以上5.5%未満のAl、1.4%以上2.1%未満のFe、2.5%以上5%未満のMoを含有し、不純物としてSiが0.1%未満、Cが0.01%未満に抑制され、残部Ti及び不可避的不純物からなるα+β型チタン合金部材であって、初析α相粒の面積率「A」が5%以上49%未満でヤング率が75GPa以上100GPa未満であることを特徴とする、引張強度が1000MPa級以上のα+β型チタン合金部材が開示されている。これにより、比較的安価な合金組成からなるα+β型チタン合金を用いて、β型チタン合金に匹敵する或いは通常のα+β型チタン合金よりも低い、75GPa以上100GPa未満のヤング率を有する引張強度が1000MPa級以上のα+β型チタン合金部材およびその製造方法を提供できるとともに、合金組成を変えることなく、ヤング率が75~125GPaとなるように、より広範囲にヤング率を調整できる引張強度が1000MPa級以上のα+β型チタン合金部材の製造方法を提供できる。
【0006】
特許文献3には、1.4%以上2.1%未満のFe、4.4%以上5.5%未満のAl、残部チタンおよび不純物からなるα+β型チタン合金、あるいは、Feの一部を0.15%未満のNi、0.25%未満のCr、0.25%未満のMnで代替したα+β型チタン合金、または、0.05%以上0.25%未満のSiをさらに含有したα+β型チタン合金が開示されている。従来と同等の疲労強度に加え、従来よりも優れた熱間あるいは冷間加工性を有するAl-Fe系α+β型チタン合金を提供できる。
【0007】
特許文献4には、0.5%以上1.4%未満のFe、4.4%以上5.5%未満のAl、残部チタンおよび不純物からなるα+β型チタン合金、あるいは、Feの一部を、0.15%未満のNi、0.25%未満のCr、0.25%未満のMnの1種以上で代替したα+β型チタン合金、あるいは、0.05%以上0.25%未満のSiをさらに含有したα+β型チタン合金が開示されている。この発明は、安定したばらつきの少ない疲労強度と、高い熱間加工性を有するチタン合金を提供できる。あるいはさらに高い耐クリープ特性をも具備したチタン合金を提供できる。
【0008】
特許文献5には、α相とβ相とによって形成されたα+β型チタン合金であって、組織中における平均円相当径が5μm以下かつ平均アスペクト比が3以上のα相の面積率が40%以下である、被削性に優れたα-β型チタン合金が開示されている。製造方法として、常法に従い、鋳片を熱間鍛造した後、加工熱処理を施して目的形状に加工した後、焼鈍を行う。
【0009】
特許文献6には、Feを0.1~2.5質量%含有し、針状あるいはラス状のミクロ組織(組織a)を有し、電子線マイクロアナライザ(EPMA)で分析した濃度分布においてFe濃度が平均濃度に対して1.5倍以上に濃化した部分の面積が5%以上であることを特徴とする、耐食性に優れたFe含有チタン材が開示されている。組織aを有するとともに上記Fe濃化部分を有することにより、チタン材の耐食性を高めることができる。
【0010】
特許文献7には、所定の成分元素を有し、各元素の測定値の最大値CMAXと最小値CMINの差分ΔCが、0.2CMIN未満または0.04%未満であり、金属組織が、前記チタン塊の厚さ方向の中央部における円相当平均結晶粒径が10mm以下、かつ厚さの半分以下である、薄板や線材への加工が可能かつ容易なチタン塊が開示されている。しかし、元素濃度分析は通常の化学的分析手法を用いており、μm単位でのミクロ的な濃度ばらつきを評価するものではなく、疲労特性を含めた諸特性への影響についても言及していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005-320618号公報
【特許文献2】特開2007-314834号公報
【特許文献3】特開平7-62474号公報
【特許文献4】特開平7-70676号公報
【特許文献5】特開2005-320570号公報
【特許文献6】特開2005-336551号公報
【特許文献7】国際公開WO2019/026251号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
α+β型チタン合金において、さらなる疲労特性の向上が求められている。特に、棒材を素材として切削加工などにより製品を製造するエンジンバルブの疲労破壊において早期の破壊を抑制することが望まれている。また、疲労特性を向上させるために高強度化すると延性が低下し、素材に室温で変形が加わると破断、もしくは破断せずとも内部にボイドを形成するなどの懸念があり、扱いが難しくなる。そのため、室温で十分な延性を有することも求められる。
【0013】
本発明は、延性を維持し、疲労特性に優れたチタン合金、チタン合金棒、チタン合金板及びエンジンバルブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
[1]α相とβ相からなる2相組織を有し、2.5質量%以上のAlと、Al以外の1種類以上の主要元素を少なくとも0.8質量%以上含有し、断面中の主要元素濃度の偏析異常部の最大面積が2000μm以下であるチタン合金。
ここで、主要元素とはAl、Fe、Mo、Vであり、断面中の主要元素濃度の偏析異常部とは、EPMA面分析において、Mo、V以外の主要元素が平均値±1質量%、Moが平均値±1.5質量%、Vが平均値±2%を外れた測定点が隣接する点の集合体を意味する。
[2]質量%にて、Al:4.5~6.5%、Fe:1.4~2.3%、Mo:1.5~5.5%を含有し、OとNが合計で0.25%以下であり、残部Ti及び不純物からなる、[1]に記載のチタン合金。
[3]質量%にて、Al:5.0~7.0%、V:3.5~5.0%、OとNが合計で0.25%以下であり、残部Ti及び不純物からなる、[1]に記載のチタン合金。
[4]質量%にて、Al:4.5~6.5%、Fe:0.8~2.3%、Si:0.0~0.50%、OとNが合計で0.25%以下であり、残部Ti及び不純物からなる、[1]に記載のチタン合金。
【0015】
[5][1]~[4]のいずれか1つに記載のチタン合金からなるチタン合金棒。
[6]針状組織の割合が80面積%以下である[5]に記載のチタン合金棒。
ここで針状組織の割合は、チタン合金棒の軸に垂直な断面においてEBSD評価を行い、測定結果において方位差5°以上を粒界として結晶粒径を求め、平均結晶粒径が100μm以上の場合は針状組織の割合を100面積%とし、平均結晶粒径100μm未満の場合は、Image Quality(IQ)が平均の20%以上のデータを抽出し、抽出したデータの中からアスペクト比(長軸/短軸)が3以下のα粒を等軸α粒とし、全測定面積に対する前記等軸α粒以外が占める面積率を針状組織の割合とする。
【0016】
[7][1]~[4]のいずれか1つに記載のチタン合金からなるチタン合金板。
[8]針状組織の割合が80面積%以下である[7]に記載のチタン合金板。
ここで針状組織の割合は、チタン合金板の圧延方向に垂直な断面においてEBSD評価を行い、測定結果において方位差5°以上を粒界として結晶粒径を求め、平均結晶粒径が100μm以上の場合は針状組織の割合を100面積%とし、平均結晶粒径100μm未満の場合は、Image Quality(IQ)が平均の20%以上のデータを抽出し、抽出したデータの中からアスペクト比(長軸/短軸)が3以下のα粒を等軸α粒とし、全測定面積に対する前記等軸α粒以外が占める面積率を針状組織の割合とする。
【0017】
[9][1]~[4]のいずれか1つに記載のチタン合金からなるエンジンバルブ。
[10]針状組織の割合が80面積%以下である[9]に記載のエンジンバルブ。
ここで針状組織の割合は、エンジンバルブの軸に垂直な断面においてEBSD評価を行い、測定結果において方位差5°以上を粒界として結晶粒径を求め、平均結晶粒径が100μm以上の場合は針状組織の割合を100面積%とし、平均結晶粒径100μm未満の場合は、Image Quality(IQ)が平均の20%以上のデータを抽出し、抽出したデータの中からアスペクト比(長軸/短軸)が3以下のα粒を等軸α粒とし、全測定面積に対する前記等軸α粒以外が占める面積率を針状組織の割合とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、α+β型チタン合金において、α相とβ相からなる2相組織を有し、断面中のAl、Fe、Mo、V等の主要元素濃度の偏析異常部の最大サイズが2000μm以下であることにより、疲労特性に優れたチタン合金、チタン合金棒、チタン合金板及びエンジンバルブを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
《チタン合金の組成》
本発明で規定する合金組成は、製品全体の平均的な分析値である。分析試料は表層1mmを除去し、残部全体から試料を均等に採取して分析することとする。分析方法は、金属元素では誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法、Oでは不活性ガス溶融赤外線吸収法、NおよびHでは不活性ガス溶融熱伝導度法、Cでは高周波燃焼赤外線吸収法を用いる。以下、合金組成についての%は質量%を意味する。
【0020】
《α+β型チタン合金》
本発明が対象とするチタン合金は第1に、広くα+β型チタン合金である。α+β型チタン合金は、α相とβ相からなる2相組織を有し、合金中に2.5質量%以上のAl添加がなされ、さらにFe,V,Moの少なくとも1種類以上を0.8質量%以上含有するチタン合金である。具体的には、AMSの規格に記載されるTi-6Al-4V(ELI)、Ti-3Al-2.5V、Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo、Ti-8Al-1V-1Mo、Ti-6Al-2Sn-4Zr-6Mo、Ti-6Al-6V-2Sn、Ti-4.5Al-3V-2Fe-2Moなどのチタン合金をはじめ、Ti-5Al-1Fe、Ti-5Al-1.5Fe-0.25Si、Ti-5Al-2Fe-3Mo、Ti-8Al-1Fe-1Nb-0.15Siなどのチタン合金が該当する。本発明はこれらのα+β型チタン合金をいずれも包含する。
【0021】
《Ti-5Al-2Fe-3Mo系合金》
本発明が対象とするチタン合金組成は第2に、Al:4.5-6.5%、Fe:1.4-2.3%、Mo:1.5-5.5%を含有するα+β型チタン合金であり、以下「Ti-5Al-2Fe-3Mo系合金」と呼ぶ。Ti-5Al-2Fe-3Mo系合金は、溶体化状態において汎用のTi-6Al-4V以上の高強度を得ることができ、比較的安価な元素を利用できる成分系である。特許文献1、特許文献2に記載のチタン合金と近似する成分組成のチタン合金である。
【0022】
(Al:4.5~6.5%)
Alは含有量が増えるほど高強度となる。また、α相とβ相の比率制御や、脆化の原因となるω相の析出を抑制するなどの効果を持つ。そのため、Alを4.5%以上添加することがよく、より好ましくは4.8%以上である。添加しすぎると、熱間加工性が低下するため、上限は6.5%とする。より好ましくは6.0%以下である。
【0023】
(Fe:1.4~2.3%)
Feは含有量が増えるほど高強度となる。また、高温でのβ相率が大きくなり、熱間加工性が改善されるため、Feを1.4%以上添加する。より好ましくは1.8%以上である。一方、添加しすぎると、大型鋳塊では偏析が顕著となり、以降の工程で偏析を緩和する処置をしても偏析は解消されない。そのため、Feの添加量の上限は2.3%とする。より好ましくは2.1%以下である。
【0024】
(Mo:1.5~5.5%)
Moは含有量が増えるほど高強度となる。また、高温でのβ相率が大きくなり、熱間加工性が改善されるため、Moを1.5%以上添加する。より好ましくは2.0%以上である。一方、添加しすぎると、大型鋳塊では偏析が顕著となり、以降の工程で偏析を緩和する処置をしても偏析は解消されない。そのため、Moの添加量の上限は5.5%とする。より好ましくは4.5%以下である。
【0025】
(O、N、C、H)
O、N、C、Hは不純物元素としてチタン合金中に含まれる。
OとNは強度を増加させるが、延性を低下させる。そのため、OとNの合計で0.25%以下とする。実用的には含有されるN量は少なく、Oの方が多い。下限は特に制限されないが、強度確保のためには総和で0.05%以上とすると好ましい。
Cも含有量が増加すると強度が増加し、延性が低下するとともに、熱間加工性が低下する。そのため、好ましくは0.05%以下とする。下限は特に制限されないが、実質的には0.001%以上である。
Hは、含有量が多いと脆化を引き起こす元素であり、脆化を起こさないために好ましくは0.013%以下とする。下限は特に制限されないが、実質的には0.0001%以上である。
【0026】
《Ti-6Al-4V系合金》
本発明が対象とするチタン合金組成は第3に、Al:5.0~7.0%、V:3.5~5.0%を含有するα+β型チタン合金であり、以下「Ti-6Al-4V系合金」と呼ぶ。一般にTi-6Al-4Vと呼ばれる代表的なα+βチタン合金を包含する成分系である。
【0027】
(Al:5.0~7.0%)
Alは添加するほど高強度となる。また、α相とβ相の比率制御や、脆化の原因となるω相の析出を抑制するなどの効果を持つ。そのため、Alを5.0%以上添加することがよく、より好ましくは5.5%以上である。添加しすぎると、熱間加工性が低下するため、Al含有量の上限は7.0%とする。より好ましくは6.5%以下である。
【0028】
(V:3.5~5.0%)
Vは添加するほど高強度となる。また、高温でのβ相率が大きくなり、熱間加工性が改善されるため、Vを3.0%以上添加する。より好ましくは3.5%以上である。一方、添加量が多くなるとコストアップするため、V添加量の上限は5.0%とする。より好ましくは4.5%以下である。
【0029】
(O、N、C、H)
OとNは強度を増加させるが、延性を低下させる。そのため、総和で0.25%以下とする。実用的には含有されるN量は少なく、Oの方が多い。強度確保のためには総和で0.05%以上が必要である。
Cも添加量が増加すると強度が増加し、延性が低下するとともに、熱間加工性が低下する。そのため、0.05%以下とする。下限は特に制限されないが、実質的には0.001%以上である。
Hは、添加量が多いと脆化を引き起こす元素であり、脆化を起こさないために0.013%以下とする。下限は特に制限されないが、実質的には0.0001%以上である。
【0030】
《Ti-5Al-1.5Fe―Si系合金》
本発明が対象とするチタン合金組成は第4に、Al:4.5~6.5%、Fe:0.8~2.3%、Si:0.0~0.50%を含有するα+β型チタン合金であり、以下「Ti-5Al-1.5Fe―Si系合金」と呼ぶ。特許文献3、4に記載のα+β型チタン合金を包含する成分系である。
【0031】
(Al:4.5~6.5%)
Alは含有量が増えるほど高強度となる。また、α相とβ相の比率制御や、脆化の原因となるω相の析出を抑制するなどの効果を持つ。そのため、Alを4.5%以上添加することがよく、より好ましくは4.8%以上である。添加しすぎると、熱間加工性が低下するため、上限は6.5%とする。より好ましくは6.0%以下である。
【0032】
(Fe:0.8~2.3%)
Feは含有量が増えるほど高強度となる。また、高温でのβ相率が大きくなり、熱間加工性が改善されるため、Feを0.8%以上添加する。より好ましくは1.0%以上である。一方、添加しすぎると、大型鋳塊では偏析が顕著となり、以降の工程で偏析を緩和する処置をしても偏析は解消されない。そのため、Feの添加量の上限は2.3%とする。より好ましくは2.1%以下である。
【0033】
(Si:0.0~0.50%)
Siは含有量が増えるほど高強度となる。また、高温での酸化が抑制されるため、必要に応じて添加される。一方、添加しすぎると、大型鋳塊では粗大な析出物を生じることで疲労破壊の起点となる。そのため、Siの添加量の上限は0.5%とする。より好ましくは0.4%以下である。Siは含有しなくても良い。
【0034】
(O、N、C、H)
O、N、C、Hは不純物元素としてチタン合金中に含まれる。
OとNは強度を増加させるが、延性を低下させる。そのため、OとNの合計で0.25%以下とする。実用的には含有されるN量は少なく、Oの方が多い。下限は特に制限されないが、強度確保のためには総和で0.05%以上とすると好ましい。
Cも含有量が増加すると強度が増加し、延性が低下するとともに、熱間加工性が低下する。そのため、好ましくは0.05%以下とする。下限は特に制限されないが、実質的には0.001%以上である。
Hは、含有量が多いと脆化を引き起こす元素であり、脆化を起こさないために好ましくは0.013%以下とする。下限は特に制限されないが、実質的には0.0001%以上である。
【0035】
《その他の元素含有量:0.5%未満》
上記第2~第4のチタン合金いずれも、上記記載した元素以外の不純物として混入する可能性が高い元素は、Sn、Ni、Cr、Mn、Zr、Nb、Cu、(Si、V、Mo)がある。これらは原料からの混入の可能性があり、特にスクラップや低級のスポンジチタンなどの原料を使用した場合に混入する。これらは含有量が多くなる懸念があることから管理することが望ましい元素である。これら元素含有量を合計で0.5%未満(好ましくは0.3%未満)、各元素個別では0.1%以下とすると好ましい。また、そのほかにも、耐食合金に含有される他の白金族などの元素もあるが、これらは機械的特性への影響が小さいため、混入しても問題がないため管理する必要はない。その他の元素は、汎用合金にはほとんど含有されていないため、スクラップからの混入の可能性は低く、スポンジチタンなどからの混入も可能性として低い。
【0036】
《チタン合金の結晶組織(1)》
本発明の成分組成を有するチタン合金はα+β型チタン合金であり、チタン合金中にα相とβ相を有する。
α+β型チタン合金の成分範囲では、高温では、α相とβ相の二相となり、高温ほどβ相が増えるため、合金元素の分配はα相とβ相の間で生じ、室温では不安定なβ相となる。そのため、500℃以下の低温に保持される場合や、急冷されると、ω相やα’相やα’’相が形成される場合がある。これらは、形成されることでより硬質化し、室温での延性・靭性が低下する。そのため、室温での取り扱いには、過度な変形が加わらないようにするなどの注意が必要となる。特にω相の影響が大きい。α’相やα’’相はβ相が多い状態となる高温から急冷や、低温保持によって形成されるため、通常用いられる製法では、ほとんど形成されることはない。そのため、α’相やα’’相は仮に形成されても0.1%程度にもならず、影響することはない。したがって、ω相のみを確認すればよく、X線回折によってピークが確認されなければよい。X線回折は、Cu―KαもしくはCo-Kα線を用いて行う。2θは30~90°、スキャンのステップは0.01°で行う。
以上のとおり、X線回折によってω相が確認されない本発明のチタン合金は、α相とβ相からなる2相組織を有する。
【0037】
《チタン合金の成分組成の均一性》
チタン合金が疲労破壊する原因は様々あるが、一例として、材料内部に強度差がある場合、同部が破壊起点となりやすい。また、その起点が大きいほど破壊に至りやすい。破壊起点が結晶粒単位である場合も多いが、それよりも大きな起点を生じることとなる。これにはいくつか原因があるが、その1つが合金の凝固時に生じる偏析である。特に、高強度化を目的とした合金では添加元素の量が多いため、偏析を生じやすい。製品の疲労破壊を防止するためには、製品における偏析が小さいことが望ましい。また、延性を維持するためにも、同様である。更に、生産性を向上させ、安価に提供するために大型鋳塊が一般的であるが、大型鋳塊は偏析を生じやすい。そこで、大型鋳塊を用いて製造した製品であっても合金元素の偏析を小さくすることにより、疲労特性が改善でき、延性も維持できるものと着想した。また、強度差に起因した現象であるため、強度差で確認することが望ましいが、チタンは異方性を有するため、硬さなどで評価しても、評価して得られた値が疲労負荷方向に対して有用な数値であるとは限らない。そこで、異方性に関係なく強度差を与える根源となる元素量を評価することが重要である。疲労破壊の起点となり、強度差を与える根源となる元素は、Al、Fe、Mo、Vという置換型強化元素であり、成分組成の均一性による疲労特性の改善の効果が確認された。本発明では、これらをチタン合金中の主要元素と呼称する。なお、拡散が容易であり、偏析を生じない侵入型強化元素は対象外と考えるが、他の置換型強化の合金元素を排除するものではない。
【0038】
大型鋳塊(ここでは少なくとも1ton以上)では特に凝固偏析が生じやすい。原料の配合などの偏りも偏析が発生する一因になると考えられる。これらは、数mmもしくはそれ以上の比較的大きく、長い距離にわたって(長距離)で形成されているため、熱処理による合金元素の拡散現象のみで均一化することは難しい。加工によるメタルフローと熱処理による拡散を共に活用する必要がある。
【0039】
特に、加工による断面積の減少は、熱処理での拡散距離を大幅に小さく、短くすることより、均一な元素分布を短時間の熱処理により得られやすくなる。
【0040】
一方、棒材については、板に比べて断面減少率が小さいので、前記の合金元素の偏析が顕著となり、これに起因した破壊がより顕在化する。更に具体的には、棒材を素材として製品を製造するエンジンバルブでは、高い疲労強度が要求されており、偏析に起因した早期の破壊が問題となることがあり、これを抑制することが期待される。
【0041】
そこで、チタン合金(熱間加工後製品)における成分の材料中におけるばらつき(偏析異常部)が疲労特性に及ぼす影響を明らかにするとともに、十分な延性を得ることのできる製造方法の実現を図った。特に、チタン合金の棒材、具体的には丸棒について、疲労強度の向上を実現した。
【0042】
(断面中の主要元素の濃度の偏析異常部の最大サイズが2000μm以下)
以下、主要元素とはAl,Fe,Mo,Vを意味する。本発明のα+β型チタン合金中には、Alと、それに加えて少なくとも1種類以上の主要元素を1質量%以上含有している。
後述の実施例で明らかにするように、合金中の主要元素の偏析が1×10回疲労限度(以降では、単に疲労限度と記載)に影響することがわかった。
【0043】
まず、Ti-5Al-2Fe-3Mo系合金について例示する。疲労限度が約650MPaの試料において、600MPaでも破断する試験片がいくつか存在した。この試験片の疲労起点周辺を鏡面研磨し、EPMAでの面分析を行った。EPMA分析では、加速電圧10kV、角3mmの領域を10μmステップで測定した。疲労寿命に関係なく、おおよそ正規分布で合金元素が分布しているが、低寿命の場合には、疲労起点近傍にAl、Fe、Moの濃化もしくは減少した領域が大きく形成されていた。この領域は、Al、Fe、Moに関して、AlおよびFeが平均値±1質量%、Moが平均値±1.5質量%を外れた領域を偏析領域として図示した場合、600MPaで破断した試験片では、何れかの元素の偏析領域の大きさ(面積)が3000μm相当であり、疲労試験に対応する結果となった。
【0044】
次に、Ti-6Al-4V系合金について例示する。この合金の場合は、疲労限度が約630MPaの試料において、600MPaでも破断する試験片がいくつか存在した。上記Ti-5Al-2Fe-3Mo系チタン合金と同様の調査を行うと、Alが平均値±1質量%、Vが平均値±2%を外れた領域を偏析領域として図示した場合、600MPaで破断した試験片では、何れかの元素の偏析領域の大きさ(面積)が3500μm相当であり、疲労試験に対応する結果となった。
【0045】
このように合金元素が濃化もしくは減少した偏析領域を偏析異常部と呼ぶ。偏析異常部は、所定の元素のEPMAの面分析における平均値に対して元素毎に異なる値以上に変動した領域として評価ができる。本発明のTi-5Al-2Fe-3Mo系合金の場合、強化元素を対象とし、AlおよびFeが±1質量%、Moが±1.5質量%であり、+で表示される濃化と-で表示される減少ともに同じであり、いずれも偏析異常部を構成する偏析領域として見なすことができる。疲労起点は最弱部であり、最大の偏析異常部の大きさ(面積)が重要である。高寿命であった試験片では、偏析異常部のサイズは最大で2000μm以下であった。したがって、断面中のAl、Fe、Moの元素濃度の偏析異常部の最大面積が2000μm以下を満たしていれば、偏析に起因した破断は回避できると判明した。Ti-6Al-4V系合金の場合、強化元素を対象とし、Alが平均値±1質量%、Vが平均値±2%であり、+で表示される濃化と-で表示される減少ともに同じであり、いずれも偏析異常部を構成する偏析領域として見なすことができる。
また、高寿命であった試験片では、偏析異常部の最大面積が2000μm以下であった。更に、それらの結果(各元素の偏析と偏析異常部の最大面積)は、Ti-5Al-1.5Fe―Si系合金でも同様であった。
【0046】
以上の結果より、EPMA面分析において、Mo、V以外の主要元素が平均値±1質量%、Moが平均値±1.5質量%、Vが平均値±2%を外れた測定点が隣接する点の集合体を偏析領域と呼ぶことができる。
【0047】
偏析異常部は、EPMA面分析でのマッピングにおいて、隣接する点の集合体として評価したものであり、上記偏析領域としての基準を満たす測定点が隣接した測定点数にステップサイズの2乗をかけることで求めることができる。測定点が隣接するとは、各測定点を正方形とし、何れかの辺が接している場合をいう。
【0048】
評価対象が棒材の場合、測定面は棒材の軸に垂直な断面もしくは軸を含む断面のいずれかとする。板材の場合、圧延方向に垂直な断面とする。測定領域は、広い方が望ましく、角3mm以上の領域に対して行う。また、測定断面サイズに対して、正方形もしくは長方形領域を可能な限り大きくとる。長方形形状では長辺と短辺の比(長辺/短辺)が1.5以下とする。1視野で角3mm以上が確保できない場合は、複数の視野で角4mm以上の視野での測定を行う必要がある。これは、視野の端部に偏析異常部が位置していると正確な測定が難しくなるため、1視野よりも広い領域を評価するものである。測定に際して、表面近傍はコンタミの影響があることや、表面のようなエッジ部分では正確な測定が難しいことから、表層0.1mmは測定範囲に含めない。
【0049】
EPMAの加速電圧は10~15kVとし、ステップサイズは0.01~0.05mmであり、測定する際のビーム径はステップサイズの0.5~1倍の大きさとして行う。
【0050】
測定結果の定量化は、純チタンの測定結果を各元素が0%の強度とし、対象とするα+β合金の化学組成、例えばTi-5Al-2Fe-3Mo、Ti-6Al-4V系合金あるいはTi-5Al-1.5Fe―Si系合金の化学組成のモデル合金の測定結果とを用いて検量線を作成して行う。例えば、Ti-5Al-2Fe-3Moの化学組成のモデル合金は、例えば小型のアーク溶解鋳塊(100g程度)を作製し、凝固欠陥を消失させるために1100℃に加熱して断面減少率20%以上の加工を行い、断面積が100mm以上となるように成形する。これに1100℃で10~60minの焼鈍を行い、空冷することで作製できる。これの表層1mmを除去したのちに、ICP発光分析法によって各元素の分析を行い、これをモデル合金の組成とする。そのため、検量線の作成でも、表層1mmは測定範囲に含めないようにして、可能な限り広い領域で測定を行う。このときの測定は、面分析が望ましく、平均値を測定結果とすればよい。他の合金組成においても同様である。
【0051】
エンジンバルブなどの製品に加工されている場合、測定領域を確保できるように切断して得られた切断面において行うことで評価が可能である。
【0052】
《チタン合金の結晶組織(2)》
(針状組織の割合が80%以下)
α+β型チタン合金中の結晶組織として、等軸組織と針状組織が出現する。針状組織に比較し、等軸組織である方が室温での延性が高く、室温での取り扱い性に優れる。また、針状組織は室温での延性が低いため、針状組織が少ない方が室温での取り扱い性は良好となる。
針状組織の延性が低い原因として、粒界α粒の存在がある。しかし、本発明のような高合金では、針状組織割合が高い場合、粒界α粒が存在せずとも室温での延性が低い。したがって、好ましくは針状組織の割合を低くする必要がある。針状組織の割合は面積率で、好ましくは80%以下である。より好ましくは75%以下、さらに好ましくは70%以下である。
【0053】
ここでの針状組織は、β相中に微細に細長いα相が析出した領域である。針状組織におけるα相は微細であるために、個々の結晶粒として認識することがむずかしい。そこで、EBSD法によって得られた結果を用いて、後述する方法で解析を行い判定する。
EBSD測定は、チタン合金棒、例えば丸棒の場合、軸に垂直な断面で行う。測定条件は、500倍で200μm以上の領域を、ステップサイズ0.2μmで行う。この条件で丸棒中央1視野、R/2で2視野の合計3視野以上を測定する。R/2での測定は、任意の1点と、その点から丸棒軸に対して90°回転させた位置で行う。板材の場合、圧延方向に垂直な断面で行う。上記丸棒と同じ条件で、板材厚み中央位置において幅中央1視野、1/4幅、3/4幅2視野の合計3視野以上を測定する。
【0054】
まず、測定結果において、方位差5°以上を粒界として、個々の結晶の結晶粒径を求め、その値に基づいて視野の平均結晶粒径を求める。
【0055】
平均結晶粒径が100μm以上の場合は、針状組織の割合が100%とする。針状組織はβ相が冷却によってα相に変態して形成されるものである。また、形成されたα粒はほぼ同一結晶方位を有するものが非常に薄いβ粒と交互に存在しているコロニーと呼ばれる領域を形成する。ただし、β相は非常に薄いため測定での検出が難しく、本来は異なるα粒と認識されるべきα粒が隣接していると識別される。その結果、平均粒径を算出するための解析では、各々と判断すべきα粒を同一粒と判定し、コロニーを1つの結晶粒と判定する。この場合のα粒の結晶粒径は小さくともβ粒径の30%程度までにしかならない。β相率100%の状態でのβ粒径は容易に500μm以上となる。しかし、等軸組織のα粒が存在する状態で長時間の加熱保持をしてもα粒の平均粒径は100μmを超えることが難しい。そのため、平均結晶粒径100μm以上の場合は100%針状組織となっていると判断することができる。一方、β相率が100%未満の状態ではα粒によるピン止め効果によってβ粒は粗大にならず、冷却後のα粒の平均粒径が100μm以上となることは難しい。そのため、α粒の平均粒径が100μmに満たない場合は針状組織と等軸組織の混合状態となる。
【0056】
平均結晶粒径100μm未満の場合は、まずImage Quality(IQ)が平均の20%以上のデータを抽出する。抽出したデータの中からアスペクト比(長軸/短軸)が3以下のα粒(等軸α粒)を求め、視野内に占める等軸α粒の面積率を求め、等軸α粒率(面積%)とする。結晶組織は、等軸α粒と針状組織が混在する組織であり、針状組織においては、β相中に微細な針状のα粒が析出している。等軸α粒率(面積%)と、針状組織の割合(面積%)の和が100%として、針状組織の割合(面積%)(表3で「針状組織率」と記載)を求めた。なお、針状組織の割合は、測定面積に対する面積割合として求めた。
【0057】
即ち、針状組織の割合は、合金棒の場合は軸に垂直な断面、板材の場合は圧延方向に垂直な断面においてEBSD評価を行い、測定結果において方位差5°以上を粒界として結晶粒径を求め、平均結晶粒径が100μm以上の場合は針状組織の割合を100面積%とし、平均結晶粒径100μm未満の場合は、Image Quality(IQ)が平均の20%以上のデータを抽出し、抽出したデータの中からアスペクト比(長軸/短軸)が3以下のα粒を等軸α粒とし、全測定面積に対する前記等軸α粒以外が占める面積率を針状組織の割合(面積%)とする。
【0058】
《チタン合金の製造方法》
(β変態点温度)
以下の製造方法において用いられるβ変態点温度Tβ(℃)は、チタン合金中の主要元素およびO、N、Cの含有量の式として表すことができる。Ti-5Al-2Fe-3Mo系合金においては(1)式を基に計算によって求めればよい。Ti-6Al-4V系合金においては(2)式を基に計算によって求めればよい。
Tβ(℃)=880+23×Al+170×(O+N)+100×C-20×Mo-8×Fe (1)
Tβ(℃)=875+23×Al+170×(O+N)+100×C-12×V (2)
元素記号は、合金元素の質量%の値である。
上記2つの合金系以外のα+β型チタン合金については、(3)式からとしてTβ(℃)を求めることができる。
Tβ(℃)=905+20×Al+170×(O+N)+100×C-20×Mo-15×Fe―12V (3)
【0059】
(鋳塊)
鋳塊として、一般的な手法で製造された鋳塊を用いる。例えば、VARやEB溶解、プラズマ溶解である。鋳塊は矩形でも円柱型でもよく、必要に応じて鋳塊の切削などの表面加工を行う。鋳塊として1ton以上の鋳塊を用いるとき、本発明の効果を特に発揮することができる。
【0060】
(ビレット鍛造)
鋳塊は、鍛造によって圧延棒材、例えば丸棒の素材となるビレットとする。ビレットの形状は、丸断面、正方形や長方形、八角形など、圧延丸棒あるいは板材を製造可能な形状であればよい。鍛造工程は粗鍛造と、ビレット仕上げ鍛造の2つの工程で構成される。いずれの鍛造工程もβ変態点よりも高い温度で行う必要がある。
【0061】
粗鍛造は、鋳塊に存在する凝固収縮によって形成された内部欠陥を解消するとともに、粗大な凝固組織を解消するために行う。さらに、加工によるメタルフローを利用して偏析している組織の分散も兼ねている。
【0062】
鋳塊をβ変態点以上1200℃以下の温度に加熱し、φ200~250mmの丸型断面形状や、200~250mm角の正方形断面の角型断面形状とする。また、正方形断面ではなくとも、これらの断面積相当の八角形断面などでもよい。板材の場合は長方形断面でも良い。加熱温度は、β変態点よりも+50℃、より好ましくは+100℃以上高い温度に加熱することがよい。上限温度はこれ以上あげても酸化による歩留まり低下が大きいため、1200℃とする。
【0063】
本発明は、鍛造において1回以上の据えこみを行うことにより、合金成分のばらつき減少を実現している。丸棒形状の製品を通常の鍛造と熱間圧延で製造する場合、丸棒の径方向からの圧下は行われるが、長さ方向に圧下されないため、偏析を緩和するためのメタルフローが不十分となる。これに対して、1回以上の据えこみを行うことにより、偏析が緩和され、合金成分のばらつきが減少する。据えこみは、断面の短辺および短軸長さLsと長さLの比(L/Ls)が1~4以下の形状の段階で行うことが望ましい。L/Lsが大きいほど、座屈する可能性があるため、L/Lsが4を超えて行う場合は注意が必要である。据えこみは圧下率20%以上60%以下とする。より望ましくは25%以上、より好ましくは30%以上である。また、据えこみだけで1ヒートとしてもよく、鍛造の同一ヒートで行ってもよい。板材の場合も同様である。
【0064】
鋳塊サイズや鍛造速度によっては、全長を鍛造する前に温度が低下したことで割れを発生するようになる場合がある。この場合は、リヒートを行うことになる。この時のリヒートも1ヒートとして扱う。
【0065】
また、粗鍛造は複数のヒート数で行う。これは、量産における大型鋳塊では、途中で表面の温度が低下し、割れを発生すること、また、β変態点以上の高温を長く維持することでより均一な元素分布が得られるためである。望ましくは4ヒート以上であり、さらに望ましくは6ヒート以上である。なお、1ヒートで断面減少率20%以上の加工を行う必要がある。ただし、据えこみを同一ヒートで行っている場合は、断面減少率は20%未満でもよい。断面減少率20%以上とするのは、大型鋳塊において20%に満たない加工を繰り返すと、生産性が著しく低下するためである。
【0066】
次いで、仕上げ鍛造を行う。粗鍛造後に、室温付近まで冷却してもよく、すぐにリヒートして仕上げ鍛造を行ってもよい。また、仕上げ鍛造の前に表面のスケールやしわを除去する工程を入れてもよい。
【0067】
仕上げ鍛造は熱間圧延用の素材形状にする工程であり、仕上げサイズは製造製品のサイズによって異なる。棒材の場合には酸化による歩留まり低下を考えると断面積が2000mm以上である。また、上限は特に制限しないが、断面積は18000mm以下が好ましい。また、形状はこれらに相当する断面積の八角形や正方形など圧延できる形状であればよい。板形状の場合には、矩形形状とし、その板厚は50mm以上である。望ましくは70mm以上、さらに望ましくは100mm以上である。板厚の上限および幅サイズは圧延できるサイズであればよく、特に制限されない。
【0068】
仕上げ鍛造の加熱温度は粗鍛造と同じであり、β変態点よりも+50℃、より好ましくは+100℃以上高い温度が好ましい。ヒート回数は4ヒート以上が必要であり、6ヒート以上が好ましい。ただし、ヒートごとの断面減少率に下限の限定はなく、加熱のみを行って圧下を行わないヒートであっても良い。仕上げ鍛造工程では、据えこみは行わずに、側面からの圧下によって断面積を小さくする鍛造のみを行う。
【0069】
(熱間圧延)
仕上げ鍛造後、熱間圧延によってチタン合金、特にチタン合金棒、チタン合金板を形成する。仕上げ鍛造後に、室温付近まで冷却してもよく、すぐにリヒートして熱間圧延を行ってもよい。また、熱間圧延の前に表面のスケールやしわなどを除去する工程を入れてもよい。
【0070】
熱間圧延は、β変態点以上1200℃以下に加熱とする。望ましくはβ変態点よりも+50℃、より好ましくは+100℃以上高い温度が好ましい。上限温度は鍛造と同じく歩留まりの点から制限される。好ましい上限は1150℃である。
【0071】
熱間圧延は1ヒートで70%以上の断面減少率であれば、偏析異常部の最大面積を低減できるとともに、針状組織の割合を低減できるので好ましい。望ましくは80%以上、より望ましくは85%以上である。上限は特に制限されないが、製品径との関係でおおよそ、99%となる。熱間圧延での製造では細い製品を製造すると、その後の脱スケールなどで歩留まり低下が大きくなる。そのため、棒材の場合は熱間圧延材の製品径の下限はφ10mmとする。板材の場合は熱間圧延材の製品板厚の下限は3mmとする。
【0072】
製造時に、β相が不安定な状態で300℃付近に保持されると顕著にω相が形成される可能性があるが、大型鋳塊での製造においては、熱間圧延中にα相とβ相での合金元素の分配が発生しており、β相が安定化するため、ほとんど形成されない。それでもω相の存在を懸念する場合は、熱間圧延後に焼鈍を行うことで解消することができる。
【0073】
(焼鈍および脱スケール)
熱延後のチタン合金棒、チタン合金板の焼鈍は前述のとおり、ω相の析出が懸念される場合や確認された場合に行う必要のある工程であるが、それ以外に残留応力の除去などや歪除去を目的に行ってもよい。また、使用環境が200~400℃となるような用途では、使用中にω相の析出によって脆化するため、焼鈍を行うことで使用中のω相の析出を抑制することができる。焼鈍する場合は750℃以上、β変態点未満で行う。高温の方が元素の均一性の点で望ましい。より望ましくは780℃以上、更に望ましくは800℃以上である。針状組織の割合を80%以下とするためには、焼鈍を行わないか、焼鈍を行う場合はβ変態点未満の温度で行うと好ましい。
【0074】
焼鈍や熱延で形成されたスケールは、ショットブラスト、酸洗、研磨などの機械的および化学的方法によって除去すればよい。
【0075】
《チタン合金棒およびチタン合金板》
前述のように、チタン合金が棒材、例えば丸棒の場合、板材に比較して熱間加工での断面減少率が小さいので、合金元素の偏析に起因した破壊が顕在化する。それに対して本発明のチタン合金棒材、チタン合金丸棒は、偏析異常部の最大面積が小さく、優れた疲労特性を実現することができる。チタン合金棒として、断面積が80mm~8000mmの範囲のものを好適に用いることができる。他方、板材の場合、厚さが3mm~50mmである。好ましくは30mm以下、更に好ましくは10mm以下である。
【0076】
《エンジンバルブ》
チタン合金を用いたエンジンバルブは、前述のようにチタン合金丸棒を素材として製造される。従来のチタン合金を用いたエンジンバルブは偏析異常部の最大面積が大きかったが、本発明のエンジンバルブは本発明のチタン合金を用いているので、偏析異常部の最大面積が小さく、優れた疲労特性を実現することができる。
【実施例0077】
表1に示す成分組成を有する品種No.A~Fについて、φ720×1000mmのVAR鋳塊(1.8ton)を製造した。一例(表3のNo.31)については、0.2tonとした。表2には製法No.1~15の製造条件を記載している。表3に示すように、品種No.A~Fの成分を有し、表3の「鋳塊/ton」に示す重さの鋳塊を用い、表2の製法No.1~15に記載の条件で粗鍛造、仕上げ鍛造、熱間圧延を行い、表2の「熱間圧延/直径/圧延後」に示す直径の丸棒とした。表2において、本発明の好適範囲から外れる数値、項目に下線を付している。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
粗鍛造は、表2の「粗鍛造/ヒートNo.」に記載のように、ヒート1~ヒート4について、「粗鍛造/減面率(%)」に記載の減面率で粗鍛造を行った。「粗鍛造/据えこみ」欄に「有り」と記載の例においては、粗鍛造のヒート1において、圧下率20%の据えこみを行っている。No.10、13~15は据えこみを行っていない。粗鍛造のヒート1に記載した圧下率は、据えこみの影響を考慮した圧下率である。
【0081】
粗鍛造後には、室温まで冷却し、5mm/面の切削加工を行い、240mm角断面とした。粗鍛造後、長さ方向に分割し、種々の条件で仕上げ鍛造以降の工程を行った。
【0082】
仕上げ鍛造は、表2の「仕上げ鍛造/加熱温度」欄に記載の温度に加熱し、表2の「仕上げ鍛造/ヒートNo.」に記載のように、ヒート1~ヒート4について、「仕上げ鍛造/減面率(%)」に記載の減面率で仕上げ鍛造を行った。
No.1~7、11~15は、半分の長さを鍛造し、リヒート後に残りを鍛造した。したがって、2ヒートで全長が均一な断面形状となった。例えばNo.1において、第1ヒートで前半分を断面減少率65%で鍛造し、後ろ半分は鍛造しなかった。第2ヒートで前半分は鍛造せず、後ろ半分を断面減少率65%で鍛造した。さらに第3ヒートで前半分を断面減少率44%で鍛造し、後ろ半分は鍛造しなかった。第4ヒートで前半分は鍛造せず、後ろ半分を断面減少率44%で鍛造した。
No.8~10は1ヒートで全長すべてを鍛造した。No.8は第1ヒートで全長を断面減少率65%で鍛造し、第2ヒートで全長を断面減少率44%で鍛造した。No.9は、第1~第4ヒートでそれぞれ、断面減少率45、36、23、27%で鍛造を行った。
【0083】
仕上げ鍛造後は、室温まで冷却し、表層5mmを切削除去し、表2の「熱間圧延」欄に記載の条件で熱間圧延を行った。熱延後の丸棒には表2の「焼鈍」欄に記載の熱処理条件で熱処理を行った。「焼鈍」欄に「-」と記載した例は焼鈍を行っていない。
【0084】
上記で製造した丸棒は、EPMA分析、X線回折、EBSD測定、引張試験、疲労試験を行った。品質評価結果を表3に示す。表3において、本発明範囲から外れる数値に下線を付している。
【0085】
偏析異常部評価のための元素分布は、丸棒の軸に垂直な断面を鏡面研磨し、EPMAによって測定した。EPMA測定は、加速電圧10kVとし、5mm角の領域について、断面中央で、ステップサイズ0.02mm、ビーム径0.02mmとして行った。
Ti-5Al-2Fe-3Mo系チタン合金においては、EPMA面分析において、AlおよびFeが平均値±1質量%、Moが平均値±1.5質量%を外れた測定点が隣接する点の集合体を、それぞれ断面中のAl、Fe、Moの元素濃度の偏析異常部とした。Al、Fe、Moの元素濃度の偏析異常部の最大面積を表3に記載している。
Ti-6Al-4V系チタン合金においては、EPMA面分析において、Alが平均値±1質量%、Vが平均値±2質量%を外れた測定点が隣接する点の集合体を、それぞれ断面中のAl、Vの元素濃度の偏析異常部とした。Al、Vの元素濃度の偏析異常部の最大面積を表3に記載している。
上記2成分系以外のα+β型チタン合金については、含有する主要元素であるAlとFeについて平均値±1質量%を外れた測定点が隣接する点の集合体を、それぞれ断面中のAl、Feの元素濃度の偏析異常部とした。
【0086】
X線回折では、Cu-Kα線で2θが30~90°の範囲をスキャンステップ0.01°で測定し、ω相の有無を確認し、結果を表3に示した。
【0087】
EBSD測定は、丸棒軸に垂直な断面をコロイダルシリカ研磨仕上げとし、加速電圧15kVとし、断面中央、半径方向の表面と中央を結ぶ線分の中央に対応する位置(R/2位置)、R/2位置を丸棒軸中心に対して円周方向に時計回りに90°回転させた位置の3視野で行った。測定条件は、倍率500倍、200μm角の領域、ステップサイズ0.2μmとした。測定後、方位差5°以上を粒界として結晶粒径を求め、平均結晶粒径が100μm以上の場合は針状組織の割合を100面積%とした。平均結晶粒径100μm未満の場合は、Image Quality(IQ)が平均の20%以上のデータを抽出し、抽出したデータの中からアスペクト比(長軸/短軸)が3以下のα粒を等軸α粒とし、全測定面積に対する前記等軸α粒以外が占める面積率を針状組織の割合とし、表3に「針状組織率」として記載した。
【0088】
引張試験は、丸棒の軸中心から平行部径φ6.25mm、平行部長さ28mmの試験片を用いて、標点間距離を25mmとして、ひずみ2%までを0.4%/min、それ以降を破断まで25%/minで行い、突合せ法によって破断伸びを測定した。
【0089】
疲労試験は、平行部φ6mmの回転曲げ疲労試験片を作製し、平行部の表面を平行部の円周方向にエメリー紙#1000仕上げとする。この試験片を用いて、応力振幅を560~640MPaのいずれかとして回転曲げ疲労試験を行う。応力振幅は引張強度の0.54~0.56倍の範囲となる値を採用する。また、応力振幅は20MPaずつ変化させて所定の応力振幅となるように設定した。この時に複数の応力が引張強度の0.54~0.56倍となる場合には高い方の応力振幅で試験を行う。この範囲であれば疲労限度よりもやや低い応力レベルとなっており、良否の判定が可能である。繰り返し速度は50-60Hzで行う。この試験条件にて破断せずに、1×10回に到達した場合を合格とし、〇にて表記し、未達の場合を不合格の×にして、表3の「疲労特性」欄に記載した。
【0090】
【表3】
【0091】
本発明例No.1~14は、表1に示す本発明の成分組成を有し、表2に示すように本発明の好適な製造条件で製造を行った結果として、表3に示すようにいずれの合金元素も偏析異常部の最大面積が本発明の範囲内であり、疲労特性が良好であった。本発明例No.4(製法No.4)は、熱間圧延後の焼鈍温度が好適範囲の上限(β変態点温度)を外れたため針状組織の割合(針状組織率)が本発明の好適範囲から外れているものの、疲労特性は良好であった。
【0092】
比較例No.15~31が比較例である。
比較例No.15、23(製法No.8)は仕上げ鍛造のヒート数が2ヒートであり、加工回数および高温に保持している回数が少なくなったため、元素の拡散が不十分となり、偏析異常部の最大面積が本発明範囲を外れた。
比較例No.16、24(製法No.9)は仕上げ鍛造の加熱温度が好適範囲下限を外れ、比較例No.17、25(製法No.10)およびNo.20~22、28~31(製法13~15)は粗圧延で据えこみを行っておらず、比較例No.18、26(製法No.11)は熱間圧延の加熱温度が好適範囲下限(β変態点+50℃)を外れ、比較例No.19、27(製法No.12)は熱間圧延の圧下率が好適範囲下限(70%)を外れている。そのため、No.16~22、24~31(製法No.9~15)のいずれも、いずれかの合金元素の偏析異常部の最大面積が本発明範囲を外れた。
その結果として、比較例No.15~31(製法No.8~15)はいずれも、疲労特性が不良であった。
【0093】
比較例No.19(製法No.12)は熱延後の直径が大きく、熱間圧延の減面率が低かったため、熱延後の冷却状況が影響を受け、針状組織の割合も本発明の好適範囲から外れていた。
【0094】
比較例No.15、23(製法No.8)は焼鈍によって形成された不安定なβ相が冷却中にα相に変態したため、針状組織の割合が増加し、本発明の好適範囲から外れていた。
【0095】
比較例No.31は、鋳塊の重さが0.2tonであって1ton未満であったが、製造方法が製法No.14であって本発明の好適範囲から外れていたため、偏析異常部の最大面積が本発明範囲を外れ、疲労特性も不良であった。
【実施例0096】
表4に示す成分組成を有する品種No.G,Hについて、φ720×1000mmのVAR鋳塊(1.8ton)を製造した。表5には製法No.16、17の製造条件を記載している。鋳塊は表5の製法No.16、17に記載の条件で粗鍛造、仕上げ鍛造、熱間圧延を行い、表5の「熱間圧延/板厚/圧延後」に示す板材とした。表5において、本発明の好適範囲から外れる数値、項目に下線を付している。
【0097】
【表4】
【0098】
【表5】
【0099】
【表6】
【0100】
粗鍛造は、表5の「粗鍛造/ヒートNo.」に記載のように、ヒート1~ヒート4について、「粗鍛造/減面率(%)」に記載の減面率で粗鍛造を行った。「粗鍛造/据えこみ」欄に「有り」と記載の例においては、粗鍛造のヒート1において、圧下率20%の据えこみを行っている。No.17は据えこみを行っていない。粗鍛造のヒート1に記載した圧下率は、据えこみの影響を考慮した圧下率である。
粗鍛造後には、室温まで冷却し、5mm/面の切削加工を行い、290mm×490mm断面とした。粗鍛造後、長さ方向に分割した。
【0101】
仕上げ鍛造は、表5の「仕上げ鍛造/加熱温度」欄に記載の温度に加熱し、表5の「仕上げ鍛造/ヒートNo.」に記載のように、ヒート1~ヒート4について、「仕上げ鍛造/減面率(%)」に記載の減面率で幅500mmとした仕上げ鍛造を行った。
実施例1の製法No.1~7と同様、半分の長さを鍛造し、リヒート後に残りを鍛造した。したがって、2ヒートで全長が均一な断面形状となった。
【0102】
仕上げ鍛造後は、室温まで冷却し、表層5mmを切削除去し、表5の「熱間圧延」欄に記載の条件で熱間圧延を行った。熱延後の板材には焼鈍を行っていない。
【0103】
各種評価は、実施例1と同様の方法で行った。X線回折では幅中央の板厚中央部について圧延方向に垂直な断面で測定した。引張試験と疲労試験では幅中央の板厚中央部から圧延方向が長手となるように角材を切り出して、同様の試験片に加工して試験を行った。偏析異常部評価のEPMA面分析試料は、圧延方向に垂直な断面とした。EBSD測定は、圧延方向に垂直な断面において、板材厚み中央位置の幅中央1視野、1/4幅、3/4幅2視野の合計3視野を測定した。
【0104】
上記で製造した丸棒は、実施例1と同様にEPMA分析、X線回折、EBSD測定、引張試験、疲労試験を行った。品質評価結果を表6に示す。表6において、本発明範囲から外れる数値に下線を付している。
本発明例No.32は、表4の品種No.Gに示す本発明の成分組成を有し、表5の製法No.16に示すように本発明の好適な製造条件で製造を行った結果として、表6のNo.32に示すようにいずれの合金元素も偏析異常部の最大面積が本発明の範囲内であり、疲労特性が良好であった。
比較例No.33(製法No.17)は粗鍛造で据えこみを行っておらず、Fe、Moの偏析異常部の最大面積が本発明範囲を外れており、その結果として、疲労特性が不良であった。