(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092467
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】基材上に被覆を堆積させるための方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/14 20060101AFI20230626BHJP
G04B 37/22 20060101ALI20230626BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20230626BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
C23C14/14 D
G04B37/22 Q
C23C26/00 B
C23C28/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022181623
(22)【出願日】2022-11-14
(31)【優先権主張番号】21216468.5
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】507276380
【氏名又は名称】オメガ・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ロイク・キュルショ
(72)【発明者】
【氏名】ジーモン・シュプリンガー
(72)【発明者】
【氏名】ステファーヌ・ローペル
(72)【発明者】
【氏名】アフマド・オデー
(72)【発明者】
【氏名】マリオン・グスタルター
(72)【発明者】
【氏名】ロイク・オベルソン
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー・キスリング
【テーマコード(参考)】
4K029
4K044
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029AA04
4K029BA22
4K029BA23
4K029BB10
4K029BD06
4K029BD07
4K029CA01
4K029CA05
4K029EA01
4K029GA00
4K029GA01
4K044AA01
4K044AA13
4K044BA06
4K044BA08
4K044BA10
4K044BA12
4K044BA13
4K044BA18
4K044BA21
4K044BB01
4K044BB03
4K044BB10
4K044BB16
4K044BB17
4K044BC09
4K044CA07
4K044CA13
4K044CA14
4K044CA41
4K044CA53
4K044CA62
(57)【要約】
【課題】 審美的に優れた外観を有し脆くないような計時器、宝飾品、ファッションアイテムの外側部品を得る。
【解決手段】 本発明は、基材(100)上に被覆を堆積させるための方法に関し、前記基材(100)上に金属間化合物薄層(110)を堆積させる堆積ステップを行い、この堆積ステップの終わりにおいて、所定の最終色を有する外側部品(10)を得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材(100)上に被覆を堆積させるための方法であって、
前記基材(100)上に金属間化合物によって形成された金属間化合物薄層(110)を堆積させる堆積ステップを行い、この堆積ステップの終わりにおいて、所定の最終色を有する、計時器、宝飾品又はファッションアイテムの外側部品(10)を得る
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記堆積ステップは、カソードスパッタリング又はイオンスパッタリング、熱蒸発、アーク又は電子ビーム蒸発、又はパルスレーザービームアブレーションによるPVD堆積法を実行することによって行う
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記薄層の堆積は、少なくとも2タイプの金属の複合体によって構成している少なくとも1つのターゲットから、又は異なる純金属によって構成している少なくとも2つのターゲットから行う
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記堆積ステップは、前記金属間化合物薄層(110)が、20~1000nm、好ましくは200~500nm、より好ましくは300nm、の厚みを有するように行う
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記金属間化合物薄層の所定領域(111)に対して局所的なアニールを行って前記外側部品の最終色を局所的に変える局所的アニールステップを行う
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記局所的アニールステップは、レーサービームの直径が10μm~100μmであるレーザーを用いて行う
ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記局所的アニールステップは、10kHz~1MHzの可変周波数で持続時間が4ns~350nsであるパルスを発するように構成しているレーザーを用いて行う
ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記局所的アニールステップは、10kHz~1MHzの可変周波数で持続時間が4ns~350nsであるパルスを発するように構成しているレーザーを用いて行う
ことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記堆積ステップの前に、前記基材(100)の前記面(112)を構造化する面構造化ステップを行う
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記局所的アニールステップは、10kHz~1MHzの可変周波数で持続時間が4ns~350nsであるパルスを発するように構成しているレーザーを用いて行い、
前記構造化ステップの間に、前記基材(100)の面(112)のうち前記局所的アニールステップの対象となった前記金属間化合物薄層(110)の前記所定の領域(111)に対応する部分(113)のみが構造化される
ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記構造化ステップの間に、前記基材(100)の前記面(112)全体に対して構造化を行う
ことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記堆積ステップの後であって、該当する場合は前記アニールステップの後に、保護層(120)を堆積させる保護層堆積ステップを行う
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記保護層堆積ステップの間に、前記金属間化合物薄層(110)を誘電体薄層の保護スタック及び/又は半透明なポリマー層によって被覆する
ことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記保護層堆積ステップの間に、前記保護スタック(120)の前記誘電体薄層の組成と厚みは、前記金属間化合物薄層(110)の元の色を保持するように、又は選択した向きにおいて前記金属間化合物薄層(110)の色を変えることができるように、特に選択される
ことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項15】
基材(100)を備える計時器用コンポーネントであって、
前記基材(100)には、請求項1に記載の方法を実行することによって堆積された被覆があり、
前記計時器用コンポーネントは、所定の最終色を有する
ことを特徴とする計時器用コンポーネント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料の分野に関し、特に、計時器、宝飾品及びファッションアイテムの外側部品、又はより一般的には様々な物品、の外観を定める材料の分野に関する。
【0002】
特に、本発明は、基材上に被覆を堆積させる方法に関する。
【背景技術】
【0003】
制御された雰囲気中で薄層を堆積させることは、一般産業、特に携行型時計の製造や宝飾品の分野、において、審美的又は技術的なアプリケーション向けの被覆を作るために一般的に用いられている。
【0004】
審美的なアプリケーションの場合、堆積される薄層は、金(Au)や銀(Ag)のような貴金属、又は貴金属合金によって作られていることがある。このような貴金属合金は、金、銀、銅(Cu)の組み合わせであることが多く、場合によっては白金(Pt)又は他の同様な金属を添加することもある。このような貴金属合金において、原子どうしが金属結合を形成しており、この金属結合が合金の色や可鍛性の原因となっている。
【0005】
薄層堆積法としては、物理気相成長(Physical Vapour Deposition、PVD)法、特に、カソードスパッタリング法と蒸発法、化学気相成長(Chemical Vapour Deposition、CVD)法、ガルバニック成長金属堆積法、及び原子層堆積(Atomic Layer Deposition、ALD)法、がよく用いられる。
【0006】
また、前記の標準的な貴金属合金よりも幅広い色調を提供することができるような、特に貴金属からなる、金属間化合物も存在する。例えば、黄色のPt-Al、オレンジ色やピンク色のPt-Al-Cu、青色のAu-Al、青紫色のAu-Inの金属間化合物が挙げられる。
【0007】
このような金属間化合物において、原子が強い共有結合を形成しており、この共有結合は、このような化合物の特定の色の原因となっているが、塊の形態では硬く脆くしてしまうという特徴がある。このため、このような金属間化合物は、あまり可鍛性がなく成形が難しいために、塊の形態では用いにくく、実際にほとんど用いられていない。
【0008】
しかし、このような金属間化合物を、前記真空薄層堆積法のいずれかを行うことによって、多かれ少なかれ薄層の形態において用いることができる。
【0009】
例えば、これらの堆積法を行って、Au、Al、Cu、In、Ptのような金属によって形成された金属間化合物、例えばAuAl2やPtAl2、の薄層を堆積させることができる。
【0010】
しかし、これらの方法によって堆積された金属間化合物の薄層は、熱力学的平衡から外れており、同じ組成の前記金属間化合物が塊状かつ結晶の形態で有する望ましい色ではなく、典型的には審美的に特に好ましくない灰色であるような、主に非晶質相を有する。
【0011】
実際に、金属間化合物の熱力学的状態、そして特に、その結晶性及び/又は様々な相の存在は、所与の組成の色に大きな影響を与える。
【0012】
したがって、堆積法を実行中に、典型的には400℃で、in situで層をアニールするステップを実行して、堆積された金属間化合物層の少なくとも一部を結晶化させて、所与の組成に対する前記金属間化合物の結晶相に固有の層の色を得る。
【0013】
金属間化合物の薄層は、標準的な貴金属合金の薄層と比べて色の選択という点では興味深い選択肢を提供するものの、薄層のin situでのアニールが必要なためにその堆積法の実行に長い時間がかかり複雑であることから、実際には依然としてほとんど用いられていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、前記の課題を解決するものである。
【0015】
このような状況に鑑みて、本発明は、基材上に被覆を堆積させるための方法に関し、前記基材上に金属間化合物によって形成された金属間化合物薄層を、典型的には少なくとも100℃にて、堆積させる堆積ステップを行い、この金属間化合物の組成は、この堆積ステップの終わりにおいて、所定の最終色を有する、計時器、宝飾品又はファッションアイテムの外側部品を得るように選択される。
【0016】
前記堆積ステップの直後に、主に非晶質相でありわずかに結晶相がある前記金属間化合物薄層の最終色が得られるために、前記外側部品に対してアニールステップを行って前記金属間化合物薄層を結晶化する必要はない。
【0017】
好ましいことに、本発明のおかげで、前記外側部品をかなり短い時間で作ることができる。また、本方法は、高温の影響を受けやすい基材、すなわち、アニールステップを行うと可塑性変形、さらには損壊、を発生させてしまうような基材、に対しても行うことができる。
【0018】
特定の実施態様において、本発明は、さらに、単独で又は技術的に可能な任意の組み合わせにしたがって、以下の特徴のうちの一又は複数を含むことができる。
【0019】
特定の実施態様において、前記堆積ステップは、カソードスパッタリング又はイオンスパッタリング、熱蒸発、アーク又は電子ビーム蒸発、又はパルスレーザービームアブレーションによるPVD堆積法を実行することによって行う。
【0020】
特定の実施態様において、前記薄層の堆積は、少なくとも2タイプの金属の複合体によって構成している少なくとも1つのターゲットから、又は異なる純金属によって構成している少なくとも2つのターゲットから行う。純金属ターゲットを用いる場合、薄層の堆積は、共スパッタリング(co-sputtering)、すなわち、少なくとも2つの異なる純金属ターゲットを同時にカソードスパッタリングすること、によって行われ、この場合に、金属間化合物は、基材上において少なくとも2つの原子流が合流して形成される。代わりに、薄層の堆積は、共蒸発(co-evaporation)、すなわち、2種類の異なる純金属の少なくとも2つのターゲット(例えば、るつぼなどに入った粉末又は顆粒の形態)を同時に蒸発させること、によって行われ、この場合に、金属間化合物は、基材上において少なくとも2つのターゲットから到来する原子流が合流して形成される。前記少なくとも2つのターゲットに与えるパワーは、前記少なくとも2つの異なる金属のスパッタリング速度が所望の層組成をもたらすように独立して選択される。しかし、金属の堆積速度は、対応するターゲットの摩耗によって変わり、その結果、層の組成は前記ターゲットが利用されるに従って変わる。このような堆積速度の変動は、各ターゲットに与えられるパワーをそれらのターゲットの摩耗に応じて補正することによって補償することができる。これは、較正表に基づいて手動で、又はin situ測定(例えば、カソードスパッタリングの場合におけるプラズマの光放射のスペクトル測定)に基づくフィードバックループのおかげで自動的に行われる。
【0021】
複合体ターゲットを用いる場合、前記ターゲットの組成は、基材上にて所望の層組成を直接得るように選択され、これには前記複合体ターゲットの摩耗に依存しないという利点がある。
【0022】
特定の実施態様において、前記堆積ステップは、前記金属間化合物薄層が、20~1000nm、好ましくは200~500nm、より好ましくは300nm、の厚みを有するように行う。
【0023】
特定の実施態様において、前記方法は、前記金属間化合物薄層の所定領域に対して局所的なアニールを行って、これを局所的に結晶化し、前記外側部品の最終色を局所的に変える局所的アニールステップを行う。したがって、わずかに非晶質であり灰色である非アニール領域と、結晶化されており灰色であるアニールされた領域との間で、色のコントラストを得ることができる。
【0024】
特定の実施態様において、前記局所的アニールステップは、レーサービームの直径が10μm~100μm、又はさらには50μm~100μm、であるレーザーを用いて行う。
【0025】
特定の実施態様において、前記局所的アニールステップは、10kHz~1MHzの可変周波数で持続時間が4ns~350nsであるパルスを発するように構成しているレーザーを用いて行う。
【0026】
特定の実施態様において、前記局所的なアニール操作は、金属間化合物薄層と雰囲気の間の化学的相互作用を避けるために、周囲雰囲気、又は不活性ガス、例えばアルゴン(Ar)、の保護雰囲気中の包囲体内で、又は真空中で、行う。
【0027】
特定の実施態様において、前記堆積ステップの前に、例えば1つの部分のみにおいて、前記基材の前記面を構造化する面構造化ステップを行う。
【0028】
特定の実施態様において、前記構造化ステップの間に、前記基材の面のうち前記局所的アニールステップの対象となった前記所定の領域に対応する部分のみが構造化され、これによって、色のコントラストに、面の外観コントラストが追加される。
【0029】
特定の実施態様において、前記構造化ステップの間に、前記金属間化合物薄層によって被覆されることになる前記基材の前記面全体に対して構造化を行う。
【0030】
特定の実施態様において、前記方法は、金属間化合物薄層を堆積させるステップと場合によって行う局所的アニールステップの後に、環境の危険に対して金属間化合物薄層を保護する保護層を堆積させる保護層堆積ステップを行う。
【0031】
特定の実施態様において、前記保護層堆積ステップの間に、前記金属間化合物薄層を、PVD、CVD又はALDのような真空堆積法によって堆積された誘電体薄層の保護スタックによって被覆する。
【0032】
特定の実施態様において、前記保護層堆積ステップの間に、前記保護スタックの前記誘電体薄層の組成と厚みは、前記金属間化合物薄層の元の色を保持するように、又は選択した向きにおいて前記金属間化合物薄層の色を変えることができるように、特に選択される。
【0033】
特に、前記保護スタックを形成する前記金属間化合物薄層の厚みと組成は、前記金属間化合物薄層の光学的干渉効果が、例えば色の彩度を大きくすることによって又は選択された向きにおける色相を修正することによって、前記金属間化合物薄層の色を審美的に変えることができるように、選択される。
【0034】
特定の実施態様において、前記保護層は、噴霧によって又は当業者によって知られている他の任意の方法によって堆積される半透明ポリマー層である。
【0035】
特定の実施態様において、前記保護層は、当業者によって知られている技術によって堆積されるポリマー層と誘電体層の組み合わせによる複合層である。
【0036】
別の態様によると、本発明は、さらに、前記方法を実行することによって堆積される被覆がある基材を備える計時器用コンポーネントに関し、前記計時器用コンポーネントは所定の最終色を有する。
【0037】
例として与えられる以下の詳細な説明を読むことによって、本発明の他の特徴及び利点が明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明に係る金属間化合物層を堆積させる方法を実行することによって得られた、外側部品のような計時器用コンポーネントの断面図を模式的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、基材100上に被覆を堆積させるための方法に関し、この方法は、基材100上に金属間化合物薄層110を堆積させて、計時器、宝飾品又はファッションアイテムの外側部品10を得る堆積ステップを行う。特に、このような外側部品10は、計時器用コンポーネントを形成することができる。
【0040】
基材100は、金属性材料、セラミックスのような任意の適切な材料によって作ることができる。
【0041】
金属間化合物薄層110を堆積させる堆積ステップは、完了した後に、堆積した薄い層の色が所定の色に対応するように実行される。具体的には、金属間化合物薄層110を堆積させる堆積ステップは、このステップの終わりにて、外側部品10が、堆積した金属間化合物薄層110の前記所定の色に対応する所定の最終色を有するように実行される。
【0042】
すなわち、この方法は、金属間化合物層110を結晶化させるために外側部品10をアニールするアニールステップを行う必要がないように実行される。具体的には、金属間化合物薄層110の組成は、選択された堆積法を用いて100℃よりも低い温度にて堆積されるように、直接主に非晶質相を含み、わずかに結晶相を含むような所定の色を有するように選択される。
【0043】
金属間化合物薄層110を堆積させるステップは、PVD堆積法を実行することによって行い、特に、イオン又はカソードスパッタリング、熱蒸発、アーク又は電子ビーム蒸発、又はパルスレーザービームアブレーションの方法のいずれかを実行することによって行う。
【0044】
金属間化合物薄層110の堆積は、それぞれが特定の金属によって構成している少なくとも2つのターゲットから、かつ/又は少なくとも2種類の金属の複合体によって構成している少なくとも1つのターゲットから、行う。
【0045】
好ましくは、金属間化合物薄層110を堆積させるステップの実行を単純化するために、この金属間化合物薄層110は、少なくとも2種類の金属の複合体によって構成しているターゲットから生成される。また、試験によって得られた結果は、金属間化合物薄層110を堆積させるステップが、金属複合体によって構成している単一のターゲットから供給されて実行される場合には、金属間化合物薄層110の組成をより再現可能になることを実証している。
【0046】
例として、用いられる金属は、Pt、Al、Cu、In、Au又はこれらの金属の複合体から選択される。なお、これに限定されない。
【0047】
特に、前記金属は、例えば、金属間化合物薄層110がAu-Al、Au-In、Pt-Al、又はPt-Al-Cuの金属間結合を含むように選択される。
【0048】
前記堆積ステップは、金属間化合物薄層110の厚みが、20~1000nm、好ましくは200~500nm、より好ましくは300nm、であるように測定されるように行う。したがって、金属間化合物薄層110は、好ましいことに、不透明であり、金属間化合物薄層110が受ける可能性のある機械的応力に耐えるように構成しているほどに厚みが十分に厚いことと、貴金属の使用量が多すぎず金属間化合物薄層110を堆積させるための時間が長すぎないほどに厚みが薄いこととの間で良好に折り合いを付けている。
【0049】
金属間化合物薄層110を堆積させる方法は、前記金属間化合物薄層110がその堆積の後に主に非晶質相を有しわずかに結晶相を有するように実行される。
【0050】
PVD堆積法のパラメーター、特に、様々な供給源に同時に与えられるパワー、そして、該当する場合は複合ターゲットの組成は、得られる金属間化合物薄層110が、金属間化合物薄層110を堆積させるステップの後に所望の最終色を有する組成を有するように選択される。
【0051】
例として、金属間化合物薄層110は、組成がPt48.2重量%、Al11.2重量%、Cu40.6重量%であるPt-Al-Cu複合体によって作ることができ、その堆積ステップは、3つの純Pt、Al及びCuのターゲットからのカソード共スパッタリングによって実行される。堆積ステップの終わりにおいて、わずかに結晶化されており、パラメーター(L*, a*, b*)=(81.2, 6.6, 14.8)によって特徴づけられる色を有する金属間化合物薄層を含む外側部品が得られた。したがって、これは、最終的な色がオレンジ色であった。
【0052】
同様に、例として、金属間化合物薄層110は、組成がPt36.7重量%、Al14.3重量%、Cu49.0重量%であるPt-Al-Cu複合体によって作ることができ、その堆積ステップは、3つの純Pt、Al及びCuのターゲットからのカソード共スパッタリングによって実行される。堆積ステップの終わりにおいて、わずかに結晶化されており、パラメーター(L*, a*, b*)=(78.3, 6.5, 4.4)によって特徴づけられる色を有する金属間化合物薄層を含む外側部品が得られた。したがって、これは、最終的な色がピンク色であった。
【0053】
別の例において、金属間化合物薄層110は、組成がPt54.6重量%、Al12.8重量%、Cu32.7重量%であるPt-Al-Cu複合体によって作ることができ、その堆積ステップは、3つの純Pt、Al及びCuのターゲットからのカソード共スパッタリングによって実行される。堆積ステップの終わりにおいて、わずかに結晶化されており、パラメーター(L*, a*, b*)=(81.8, 4.3, 12.8)によって特徴づけられる色を有する金属間化合物薄層を含む外側部品が得られた。したがって、これは、最終的な色が黄色であった。
【0054】
好ましいことに、本方法においては、所定の色を得るために外側部品全体に対してアニールステップを実行することは必須ではないが、金属間化合物薄層110の所定領域111に対する局所的なアニールステップを行うことができる。
【0055】
この局所的なアニールステップには、表盤のインデックス、数字、ロゴのような形態の装飾を作るために、金属間化合物薄層110の最終色を局所的に変える効果を有する。実際に、アニールには、主に非晶質でありわずかに結晶状態から、結晶状態へと変えさせることによって、金属間化合物薄層110の相を局所的に変える効果があり、この結晶状態においては、典型的には元の色相から灰色へと、色が変わる。
【0056】
局所的なアニールステップは、レーザービームの直径が、例えば、10μm~100μm、又はさらには50μm~100μm、であるようなレーザーを用いて行う。レーザービームの運動は、好ましいことに、レーザーに固有であり機械軸又は光軸に基づく走査システムによって、又は金属間化合物薄層110上におけるレーザービームが当たる点の高精度な位置を与える、基材に固有であり機械軸に基づく走査システムによって、制御される。
【0057】
レーザービームは、金属間化合物薄層110に当たる点において、局所的に温度を高くし、これによって、前記金属間化合物薄層110の相が局所的に変わり、結果的に、色を局所的に変える効果を発揮する。
【0058】
レーザービームは、ナノ秒パルスレーザーやマイクロ秒パルスレーザーによって発生させることができ、場合によっては連続レーザーによって発生させることができる。
【0059】
具体的には、局所的なアニールステップの間に、レーザーは、40Wのオーダーの平均出力に達することがある持続時間4ナノ秒~350ナノ秒の可変周波数10kHz~1MHzのパルスを発するようにすることができる。
【0060】
代わりに、ピコ秒又はフェムト秒パルスレーザーを用いて、100~200kHzから10MHzまでの周波数における高速な熱蓄積効果を利用して、又は当業者に知られているような数ピコ秒から数ナノ秒まで互いに離間したバーストのパルス系列によって、前記局所的アニールステップを行うことができる。
【0061】
レーザービームの波長は、ビームが当たる金属間化合物薄層110の材料の吸光度が有利になるように決められる。
【0062】
例えば、レーザー光の波長は、赤外線スペクトル、可視スペクトル、又は紫外線スペクトルの範囲内にあることができる。
【0063】
局所的なアニールステップの間に、レーザービームのパルスのエネルギーの変動、それらの繰り返し頻度、及びそれらの重なり合いの度合いに応じて、金属間化合物層110の色が変わる。
【0064】
したがって、均質な組成の金属間化合物薄層110の単一の堆積に基づいて多色ないしコントラストが高い装飾を作ることが可能となる。
【0065】
好ましいことに、金属間化合物薄層の堆積ステップと局所的アニールステップの前に、基材100の面112を構造化する構造化ステップを行うことができる。この構造化ステップにおいて、前記面112上に面構造コントラストを発生させるように、基材100の面112の部分113が構造化される。
【0066】
特に、基材100の面112の構造化部分113は、金属間化合物層110のうちの局所的なアニールステップの間に熱処理をされる所定領域111に対応していることができる。このために、前記所定領域111の外観と、金属間化合物薄層110の残りの部分の外観との差が強くなるという有利な効果が発生する。
【0067】
代わりに、本発明の代替的な実施形態において、基材100の面112全体に対して構造化を行う。
【0068】
このような面構造化ステップは、考慮される変異形態に応じて、基材100の面112に対して、部分的又は全体的に、例えば、研磨、マット仕上げ又はサテン仕上げ、をすることを伴うことができる。
【0069】
局所的なアニールステップを促進し、金属間化合物薄層の相変態を発生させるために必要な熱の局所的寄与を低減させるために、外側部品10を相転移温度に近い温度まで予熱するようにすることができる。このために、レーザーによる追加的なエネルギーの寄与を減らすことができる。
【0070】
その後の堆積ステップの間に、好ましいことに、前記堆積ステップの後に得られた金属間化合物薄層110を、保護層120、例えば金属間化合物薄層110を環境上の危害から保護するように意図された誘電体層の積層体によって形成された保護層120、で被覆することができ、この堆積ステップは、金属間化合物薄層110を堆積させるステップを行うために用いたものと同じ堆積装置で行うことができる。この誘電体薄層のスタックには、例えば、輝度を高めることによって、かつ/又は有利な干渉効果を利用して金属間化合物層110の色を変えることによって、外側部品10の視覚的外観を変える効果もあることができる。
【0071】
保護層120を堆積させるステップは、好ましいことに、本発明に係る方法の最後のステップである。
【0072】
誘電体薄層のスタックは、TiO2、Al2O3、SiO2、SiN、Si3N4のような様々な酸化物、窒化物、酸窒化物によって形成されていることができ、ALD及び/又はPVD及び/又はCVDの堆積法によって堆積させることができる。
【0073】
代わりに、保護層120を堆積させるステップは、ワニス層、例えば、ザポン又はパリレンタイプのポリマーワニス層、を堆積させることを伴うことができる。
【0074】
全体的に、本発明に係る方法は、前記のすべてのステップを行う場合、順に、基材100の面を構造化するステップから始まり、次に、金属間化合物薄層110を堆積させるステップを行い、その後に、局所的なアニールステップを行い、最後に、保護層120を堆積させるステップを行う。
【0075】
このように、本発明は、携行型時計、宝飾品及び任意の他の高級品に対して審美的アプリケーションのために幅広い新しい色を提供するような、特に貴金属をベースとする、金属間化合物の使用に関する手法を提案する。
【0076】
より一般的には、上記で検討された実装例及び実施形態は、例を用いて説明したものであって、他の変異形態も可能であることに留意するべきである。
【符号の説明】
【0077】
10 外側部品
100 基材
110 金属間化合物薄層
111 所定領域
112 面
113 構造化部分
120 保護層
【外国語明細書】