(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092547
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】配管接合方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/10 20060101AFI20230627BHJP
C23F 1/00 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
B23K20/10
C23F1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207646
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣坂 和馬
【テーマコード(参考)】
4E167
4K057
【Fターム(参考)】
4E167AA02
4E167CA01
4E167CA20
4E167DA01
4E167DC06
4K057WA11
4K057WB02
4K057WK10
4K057WN05
(57)【要約】
【課題】漏洩や破断の発生を抑制し、安全性の向上を図ることができる配管接合方法を提供する。
【解決手段】配管接合方法は、下(1)から(4)に示す工程を含む。(1)2つの配管の接合面130に凸部131と、凸部131を囲み、化学研磨液が通過可能な流路溝132を形成する工程。(2)2つの配管の接合面130を重ね合わせる工程。(3)配管の流路溝132に化学研磨液を導入する工程。(4)2つの配管の接合面130を超音波振動子により超音波接合する工程。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの配管の接合面に凸部と、前記凸部を囲み、化学研磨液が通過可能な流路溝を形成する工程と、
2つの前記配管の前記接合面を重ね合わせる工程と、
前記配管の前記流路溝に化学研磨液を導入する工程と、
2つの前記配管の前記接合面を超音波振動子により超音波接合する工程と、
を含む配管接合方法。
【請求項2】
前記凸部及び前記流路溝は、前記接合面に複数形成される
請求項1に記載の配管接合方法。
【請求項3】
前記凸部は、前記接合面の最内周部に配置される最内凸部を有し、
前記最内凸部は、前記配管の筒孔の周方向に連続して形成され、前記筒孔を囲む
請求項1に記載の配管接合方法。
【請求項4】
2つの前記配管のうち一方の配管の前記接合面には、嵌合凸部が形成され、
2つの前記配管のうち残りの他方の配管の前記接合面には、前記嵌合凸部に嵌り込む嵌合凹部が形成される
請求項3に記載の配管接合方法。
【請求項5】
前記嵌合凹部は、前記筒孔の周囲を囲むようにして形成され、
前記最内凸部は、前記嵌合凹部の外側に形成される
請求項4に記載の配管接合方法。
【請求項6】
前記凸部の中央部は、接合する配管の凸部に向けて膨出している
請求項1に記載の配管接合方法。
【請求項7】
複数の前記凸部のうち、前記接合面の最外周部に配置される最外凸部には、前記流路溝と連通する導入孔が形成され、
前記化学研磨液は、前記導入孔を介して前記流路溝に導入される
請求項2に記載の配管接合方法。
【請求項8】
前記化学研磨液を前記流路溝に導入した後、治具により2つの前記配管の接合面をさらに接近させる工程を行い、
前記超音波振動子による超音波接合する工程は、前記配管の接合面をさらに接近させた後に行われる
請求項1に記載の配管接合方法。
【請求項9】
前記超音波振動子による超音波接合する工程は、前記流路溝に前記化学研磨液を満たした状態で行われる
請求項1に記載の配管接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所や工場等の構造物には、多くの配管が通っている。そして、2つの配管は、その端面を重ね合わせて、接合することで、連結されている。
【0003】
図8は、従来の配管接合方法の一例を示す図である。
図8に示す従来の配管接合方法の一例では、まず、第1の配管10Aのフランジ20Aと、第2の配管10Bのフランジ20Bを重ね合わせる。そして、第1の配管10Aのフランジ20Aと第2の配管10Bのフランジ20Bは、ボルト30とナット40を用いて締結固定される。また、ボルト30とナット40は、フランジ20A、20Bの周方向に沿って複数設けられる。
【0004】
従来の配管接合方法の一例では、シール部材としてOリング50が用いられている。このOリング50をはめ込むために、第1の配管10Aのフランジ20Aと第2の配管10Bのフランジ20Bには、シール溝60が形成されている。そして、ボルト30とナット40を締め付けることで、第1の配管10Aのフランジ20Aと第2の配管10Bのフランジ20Bの接合面が接近する。これにより、シール溝60に設置されたOリング50がシール溝60の内面に強く接触し、第1の配管10Aと第2の配管10Bのシールを実現している。
【0005】
図9は、従来の配管接合方法の他の例を示す図である。
図9に示す配管接合方法では、第1の配管90Aと第2の配管90Bの端面を重ね合わせて、配管90A、90Bの端面を溶接金属80によって接合している。
【0006】
また、従来の配管接合方法の他の例としては、部材同士を強く接触させ、外部から超音波を導入することで、接触した2面を面内方向に相対的に振動させる超音波接合方法がある(特許文献1参照)。超音波接合方法では、振動により、酸化被膜などの表面被膜に塑性変形が生じ、皮膜直下にある新生面が出現する。この新生面同士が金属結合することで配管が接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ボルトとナットを用いた締結固定では、
図8に示すように、機器の運転中にボルト30が緩んだ場合、フランジ20A、20Bの締め付けが弱まり、Oリング50がシール溝60の内面に強く接触しなくなる。これにより、2つのフランジ20A、20Bとの間に形成された経路70により、漏洩が発生するおそれがある。さらに、Oリング50がクリープなどの影響で経年劣化した場合も同様に、2つのフランジ20A、20Bの間に経路70が生じ、漏洩が発生する。
【0009】
さらに、
図8に示す配管接合方法では、複数のボルト30とナット40の締め付け力が不均一となった場合、2つのフランジ20A、20Bの面圧が不均一となり、面圧の弱い箇所でリークが発生する、という問題を有していた。
【0010】
また、
図9に示す溶接を用いた接合方法では、母材となる配管90A、90Bと溶接金属80との界面において未溶着部K1が発生していた。さらに、溶接時の入熱の影響で溶接箇所の金法に引張応力P1が生じる。そのため、溶接を用いた接合方法では、機器運転中に配管90A、90Bに振動が負荷されることで、未溶着部K1を起点にき裂が発生し、破断が発生する可能性があった。
【0011】
また、超音波接合方法では、超音波振動による表面被膜の塑性変形と、その後の新生面同士の金属結合が必要なことから、これまでは銅やアルミニウムやこれらの合金といった比較的柔らかい金属に用いられてきた。しかしながら、原子力発電プラント等の発電所や工場の配管には、炭素鋼や低合金鋼といった、銅やアルムニウムに比べ降伏応力が大きく硬い鋼材が用いられている。そして、これらの鋼材で構成された配管等の部材は、接合面を強く接触させて超音波を導入した場合でも、表面被膜が塑性変形しにくく、新生面が出現しない。そのため、特許文献1に示すような従来の超音波接合方法では、2つの配管を確実に接合することが困難であった。
【0012】
本目的は、上記の問題点を考慮し、漏洩や破断の発生を抑制し、安全性の向上を図ることができる配管接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決し、目的を達成するため、配管接合方法は、以下(1)から(4)に示す工程を含む。
(1)2つの配管の接合面に凸部と、凸部を囲み、化学研磨液が通過可能な流路溝を形成する工程。
(2)2つの配管の接合面を重ね合わせる工程。
(3)配管の流路溝に化学研磨液を導入する工程。
(4)2つの配管の接合面を超音波振動子により超音波接合する工程。
【発明の効果】
【0014】
上記構成の配管接合方法によれば、漏洩や破断の発生を抑制し、安全性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1の実施の形態例にかかる配管接合方法を示す模式図である。
【
図2】第1の実施の形態例にかかる配管接合方法における配管の接合面を示す正面図である。
【
図3】第1の実施の形態例にかかる配管接合方法における2つの配管の接合面を接触させた状態を拡大して示す説明図である。
【
図4】2つの配管の接合面の隙間の間隔と化学研磨液の浸透長さの関係を示す図である。
【
図5】第1の実施の形態例にかかる配管接合方法における凸部の変形例を示す図である。
【
図6】第2の実施の形態例にかかる配管接合方法を示す模式図である。
【
図7】第2の実施の形態例にかかる配管接合方法における配管の接合面を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、配管接合方法の実施の形態例について、
図1~
図7を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。
【0017】
1.第1の実施の形態例
1-1.配管接合方法の構成例
まず、第1の実施の形態例(以下、「本例」という)にかかる配管接合方法が設置された構造物の一例について、
図1を参照して説明する。
図1は、構造物の一例を示す模式図である。
【0018】
本例の配管接合方法は、例えば、原子力発電プラントの原子炉圧力容器に接続される配管に適用されるものである。この配管には、原子炉冷却材が通過すると共に、隔離弁が設けられている。隔離弁を原子炉圧力容器に直接接続することで、主蒸気配管などの配管が破断した場合でも、隔離弁を閉じることで、原子炉圧力容器内の原子炉冷却材の喪失を回避することができる。
【0019】
図1に示すように、本例の配管接合方法は、第1の配管110Aと第2の配管110Bを接合する方法である。第1の配管110Aにおける接合箇所である端部には、フランジ120Aが設けられており、第2の配管110Bにおける接合箇所である端部には、フランジ120Bが設けられている。フランジ120A、120Bは、配管110A、110Bの軸方向と直交する方向に張り出している。そして、第1の配管110Aのフランジ120Aと第2の配管110Bのフランジ120Bは、互いに対向する面である接合面130が接触した状態で、万力等の複数の治具160により固定される。
【0020】
治具160は、フランジ120A、120Bに当接する押圧ボルト162と、押圧ボルト162と螺合するナット161とを有している。そして、ナット161を締め付けることで、押圧ボルト162がフランジ120A、120Bを互いに接触する方向に押圧する。また、フランジ120A、120Bには、超音波接合に用いられる超音波振動子230が接触する。
【0021】
図2は、フランジ120A、120Bの接合面130を示す正面図である。
図2に示すように、フランジ120A、120Bは、配管110A、110Bの筒孔111を囲むようにして略円盤状に形成されている。なお、フランジ120A、120Bの形状は、円盤状に限定されるものではなく、四角形や六角形等その他各種の形状であってもよい。
【0022】
フランジ120A、120Bの接合面130には、複数の凸部131と複数の流路溝132からなるラビリンス構造133が形成されている。複数の凸部131は、接合面130から突出している。これにより、複数の凸部131の間に複数の流路溝132が形成される。複数の凸部131は、筒孔111の同心円上に形成されている。また、複数の流路溝132も凸部131と同様に、筒孔111の同心円上に形成されている。
【0023】
凸部131には、凸部131を間に挟んで2つの流路溝132、132を連通させる連通溝132bが形成されている。そのため、複数の流路溝132は、連通溝132bを介して全て連通している。なお、複数の凸部131における接合面130の半径方向の最内周部に配置される最内凸部131aと、最外周部に配置される最外凸部131bには、連通溝132bは形成されない。
【0024】
最内凸部131aは、配管110A、110Bの筒孔111の周方向に連続して形成され、筒孔111を囲む。これにより、配管110A、110Bの筒孔111を通る流体が、流路溝132を介して配管110A、110Bの外部に漏れ出ることを最内凸部131aによって防ぐことができる。
【0025】
また、配管接合作業時に最外凸部131bには、流路溝132と連通する導入孔180が形成される。導入孔180は、最外凸部131bを半径方向に沿って貫通する貫通孔であり、フランジ120A、120Bの側面に形成される。この導入孔180には、導入配管190が接続される。そして、導入配管190及び導入孔180を介して、流路溝132に化学研磨液M1(
図3参照)が導入される。なお、上述したように、最外凸部131bに連通溝132bを設けないことで、配管接合作業時に流路溝132に導入したが外部に漏れ出ることを防止できる。
【0026】
さらに、第1の配管110Aのフランジ120Aの接合面130に形成された複数の凸部131と、第2の配管110Bのフランジ120Bの接合面130に形成された複数の凸部131は、同じ位置及び形状に形成されている。これにより、フランジ120A、120Bの接合面130を重ね合わせた際に、互いの接合面130に形成された凸部131を、互いに対向し、接近させることができる。
【0027】
本例では、凸部131及び流路溝132を同心円上に形成した例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、凸部131及び流路溝132を接合面130の半径方向に沿って放射状に形成してもよく、その他各種の形状であればよい。
【0028】
1-2.配管接合方法
次に、配管接合方法について
図1から
図4を参照して説明する。
まず、
図1に示すように、第1の配管110Aのフランジ120Aの接合面130と第2の配管110Bのフランジ120Bの接合面130を重ね合わせる。そして、フランジ120A、120Bを複数の治具160を用いて固定する。また、フランジ120A、120Bと、治具160の押圧ボルト162との間には、当板170が設置される。これにより、複数の治具160による荷重をフランジ120A、120Bに対して等分布になるように負荷することができる。
【0029】
また、2つのフランジ120A、120Bの接合面130を接触させる際、接合面130に形成されたラビリンス構造133の凸部131が互いに接触するように位置合わせが行われる。
【0030】
図2に示すように、2つのフランジ120A、120Bを、治具160を固定した後、フランジ120A、120Bの側面、すなわち最外凸部131bに導入孔180を形成する。また、導入孔180には、導入配管190を接続するためのねじ加工が施される。
【0031】
なお、導入孔180の形成する作業は、フランジ120A、120Bを治具160で固定する前に行ってもよい。また、導入孔180の位置及び数は、任意に設定されるものである。
【0032】
次に、導入孔180に導入配管190を接続する。そして、導入配管190を介して化学研磨液M1をラビリンス構造133の流路溝132に導入し、複数の流路溝132内を化学研磨液M1で満たす。
【0033】
なお、複数の導入配管190のうち少なくとも1つの導入配管190から化学研磨液M1が導入され、複数の導入配管190のうち少なくとも1つの導入配管190から化学研磨液M1を外部に排出させてもよい。そして、流路溝132内が化学研磨液M1で満たされた後も、導入配管190からの化学研磨液M1の導入及び排出出作業を継続させる。これにより、ラビリンス構造133の流路溝132内で化学研磨液M1を循環させることができる。
【0034】
化学研磨液M1としては、例えば、室温から50℃程度に温められた過酸化水素水が挙げられる。
【0035】
図3は、2つの配管110A、110Bの接合面130を接触させた状態を拡大して示す説明図である。
接合面130を、完全に平滑な面に形成することは困難である。そのため、2つのフランジ120A、120Bの接合面130を接触させても、
図3に示すように、2つの接合面130、130の間には、例えば、0.1mmから0.5mm程度の隙間220が形成される。そのため、ラビリンス構造133の流路溝132内に導入された化学研磨液M1は、毛細管現象により2つの接合面130、130の間に形成された隙間220にも導入される。これにより、凸部131における流路溝132側の側面部だけでなく、2つの接合面130、130同士で対向する面も化学研磨液M1で濡らすことができる。
【0036】
化学研磨液M1が導入されることで、接合面130の表面に形成された酸化被膜136が化学研磨液M1により除去される。これにより、2つのフランジ120A、120Bに形成した凸部131の金属表面が強く接触させることができる。そして、金属表面に微小な塑性変形が発生したときに、金属の表面被膜の直下に存在する金属の新生面137を表面に出現しやすくできる。
【0037】
また、化学研磨液M1によって酸化被膜136を除去することで、除去前に比べて除去後の金属の表面粗さは、小さくなる。これにより、化学研磨後にフランジ120A、120Bの接合面130の凸部131同士を接触させた時に、ラビリンス構造133の凸部131の接触面積を大きくすることができる。その結果、接触面全体にわたり、金属表面の強い接触が生じることになり、塑性変形の発生に伴う金属の新生面137の出現も、拡大した接触面全体にわたり生じることになる。
【0038】
図4は、隙間220の間隔H1と、化学研磨液M1の隙間220への浸透長さとの関係を示す図である。
図4に示すように、隙間220の間隔H1が0.5mmと比較的大きい場合でも、化学研磨液M1は、隙間220の内に3cm程度浸透することが分かる。これにより、2つの配管110A、110Bの接合面130を接触させた状態でも、化学研磨液M1をラビリンス構造133の凸部131全体に行き渡らせることができ、酸化被膜136の除去作業を確実に行うことができる。
【0039】
複数の凸部131のうち最内凸部131aと最外凸部131bの間に配置される凸部131には、2つの流路溝132、132により半径方向の両側から化学研磨液M1が浸透する。そのため、複数の凸部131のうち最内凸部131aと最外凸部131bの間に配置される凸部131の厚さ、すなわち半径方向の長さは、最内凸部131aや最外凸部131bの厚さの2倍に設定してもよい。これにより、接合面130の接触面積を大きくすることができ、2つのフランジ120A、120Bの接合強度を高めることができる。
【0040】
また、接合面130には、最内凸部131a及び最外凸部131bが形成されているが、化学研磨液M1は、隙間220からフランジ120A、120Bの最内周側の内面や最外周側の外面に滲み出る。これにより、外部の空気が接合面130に侵入することを化学研磨液M1によって遮断することができ、接合面130に再び酸化被膜136が形成されることを防止できる。
【0041】
次に、化学研磨液M1を導入して所定時間が経過した後、
図1に示すように、当板170を介してフランジ120A、120Bに超音波振動子230を接触させる。そして、超音波振動子230を駆動させて、フランジ120A、120Bに超音波振動を印加する。超音波振動が印加されることで、接合面130の凸部131の間に形成された隙間220における金属表面の濡れ性が増加する。これにより、化学研磨液M1が2つの接合面130、130の凸部131の間に化学研磨液M1が浸透しやすくなる。
【0042】
超音波振動子230を駆動させて所定時間が経過した後、化学研磨液M1の導入を停止すると共に、超音波振動子230の駆動も停止させる。なお、化学研磨液M1の導入を停止する際、ラビリンス構造133の流路溝132から化学研磨液M1を排出させることなく、また導入配管190は、導入孔180に接続させた状態にしておく。
【0043】
次に、治具160の増し締めを行い、2つの配管110A、110Bの接合面130をさらに接近させる。増し締め作業により、2つの接合面130の面圧が上昇し、凸部131の表面に存在する化学研磨液M1は、流路溝132に排出される。
【0044】
図5は、ラビリンス構造の凸部の変形例を示す図である。
図5に示すラビリンス構造の凸部135は、山型形状に形成されている。すなわち、凸部135における他の接合面130の凸部135と対向する一面の中央部が、他の接合面130の凸部135に向けて膨出している。この
図5に示す凸部135によれば、増し締め作業時に凸部135の一面の中央部に加わる力が他の箇所よりも強くなる。これにより、化学研磨液M1を凸部135の一面から流路溝132側へスムーズに排出させることができる。
【0045】
治具160の増し締め作業、すなわち凸部131の表面に存在する化学研磨液M1の排出作業が完了すると、超音波振動子230の駆動を再開する。ここで、流路溝132内には、化学研磨液M1が満たされている。そのため、流路溝132に満たされている化学研磨液M1が気密材として作用し、凸部131の表面に空気が侵入することを防ぐことができる。
【0046】
2つのフランジ120A、120Bの接合面130に設けた凸部131同士が接触した状態で、超音波振動を印加することで、凸部131同士の金属表面に塑性変形が生じる。これにより、酸化被膜136直下の新生面137が表面に出現する。その結果、新生面137同士を接触させることができ、炭素鋼や低合金鋼といった、銅やアルムニウムに比べ降伏応力が大きく硬い鋼材で配管110A、110Bが形成されていても、確実に配管110A、110Bを超音波接合することができる。
【0047】
配管110A、110Bのフランジ120A、120Bの超音波接合が完了した後、導入配管190を負圧にし、流路溝132内に残留する化学研磨液M1を排出する。そして、導入孔180から導入配管190を取り外し、導入孔180を塞ぐ。上述した工程を行うことで、第1の配管110Aと第2の配管110Bが接合される。
【0048】
なお、フランジ210A、120Bの接合面130は超音波接合されているため、導入孔180には荷重が加わらない。そのため、機器の運転中に導入孔180を塞ぐ封止部材が破損することはない。
【0049】
このように、本例の配管接合方法によれば、超音波接合する前に、接合面130に形成したラビリンス構造133に化学研磨液M1を導入することで、酸化被膜136を除去し、新生面137を接合面130の表面に出現させることができる。これにより、原子力発電プラントに用いられる配管のように、炭素鋼や低合金鋼といった、銅やアルムニウムに比べ降伏応力が大きく硬い鋼材構成された配管に対しても超音波接合を行うことができる。その結果、配管を確実に接合することができ、漏洩や破断の発生を抑制し、安全性の向上を図ることができる。
【0050】
2.第2の実施の形態例
次に、
図6及び
図7を参照して第2の実施の形態例にかかる配管接合方法について説明する。
図6は、第2の実施の形態例にかかる配管接合方法を示す模式図である。第2の実施の形態例にかかる配管接合方法における配管の接合面を示す正面図である。なお、第1の実施の形態例にかかる配管接合方法と共通する部分には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0051】
図6に示すように、第1の配管110Aの接合面130には、嵌合凸部251が形成されている。そして、第2の配管110Bの接合面130には、嵌合凸部251が嵌り込む嵌合凹部250が形成されている。嵌合凸部251は、接合面130における半径方向の中心側において筒孔111を囲むように形成されている。そして、嵌合凸部251は、接合面130から第2の配管110Bの接合面130に向けて突出している。
【0052】
図6及び
図7に示すように、嵌合凹部250は、接合面130における半径方向の中心側において筒孔111を囲むように形成されている。そして、嵌合凹部250は、接合面130から筒孔111の端部に向けて傾斜したテーパー状に形成されている。
【0053】
図7に示すように、第2の配管110Bの接合面130に形成されたラビリンス構造133を構成する複数の凸部131のうち最内凸部131aは、嵌合凹部250の半径方向の外側に配置される。すなわち、最内凸部131aは、
図6に示す矢印Bよりも半径方向の外側に形成される。ここで、治具160による締め付け力は、接合面130における一点鎖線Cで示す領域に加わる。そのため、矢印Bよりも半径方向の内側に凸部131を設けなくても、超音波接合に影響を与えることがない。
【0054】
嵌合凸部251と嵌合凹部250を嵌合させることで、第1の配管110Aのフランジ120Aの接合面130と、第2の配管110Bのフランジ120Bの接合面130の位置決めを容易に行うことができる。これにより、各接合面130に形成された凸部131同士の表面を確実に接触させることができる。
【0055】
その他の構成は、第1の実施の形態例にかかる配管接合方法と同様であるため、それらの説明は省略する。このような構成を有する配管接合方法によっても、上述した第1の実施の形態例にかかる配管接合方法と同様の作用効果を得ることができる。
【0056】
以上、配管接合方法の実施の形態例について、その作用効果も含めて説明した。しかしながら、配管接合方法は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0057】
なお、上述した実施の形態例では、ラビリンス構造133を構成する凸部131と流路溝132を複数形成した例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、凸部131は、少なくとも最内凸部131aが形成されていればよく、流路溝132は、最内凸部131aに化学研磨液M1を浸透させるために、最内凸部131aの周囲を囲むように少なくとも1つ形成されていればよい。また、上述した実施の形態例のように、凸部131を複数形成することで、2つの配管110A、110Bの接合面積を大きくすることができ、接合強度を高めることができる。これにより、2つの配管110A、110Bを強固に接合することができる。
【0058】
本明細書において、「平行」及び「直交」等の単語を使用したが、これらは厳密な「平行」及び「直交」のみを意味するものではなく、「平行」及び「直交」を含み、さらにその機能を発揮し得る範囲にある、「略平行」や「略直交」の状態であってもよい。
【符号の説明】
【0059】
110A、110B…配管、 111…筒孔、 120A、120B…フランジ、 130…接合面、 131、135…凸部、 131a…最内凸部、 131b…最外凸部、 132…流路溝、 132b…連通溝、 133…ラビリンス構造、 136…酸化被膜、 137…新生面、 160…治具、 180…導入孔、 190…導入配管、 220…隙間、 230…超音波振動子、 250…嵌合凹部、 251…嵌合凸部、 H1…間隔、 K1…未溶着部、 M1…化学研磨液、 P1…引張応力