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特開2023-92555銅およびステンレス鋼の接合体ならびに銅およびステンレス鋼の溶接方法
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  • 特開-銅およびステンレス鋼の接合体ならびに銅およびステンレス鋼の溶接方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092555
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】銅およびステンレス鋼の接合体ならびに銅およびステンレス鋼の溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/23 20060101AFI20230627BHJP
【FI】
B23K9/23 H
B23K9/23 B
B23K9/23 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207660
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000158312
【氏名又は名称】岩谷産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】大石 尚哉
(72)【発明者】
【氏名】石井 正信
(72)【発明者】
【氏名】檜尾 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】岡田 敬太
(72)【発明者】
【氏名】森澤 誠
(72)【発明者】
【氏名】吉田 佳史
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB07
4E001CA03
4E001CB02
4E001DC01
4E001DD02
4E001DF04
(57)【要約】
【課題】接合強度がより向上した銅およびステンレス鋼の接合体、ならびに当該接合体を製造可能な銅およびステンレス鋼の溶接方法を提供する。
【解決手段】接合体は、銅からなる第1部材と、ステンレス鋼からなる第2部材と、第1部材および第2部材を接合する接合部とを含む。上記接合部では、鋼の結晶粒界に沿って銅が存在し、かつ鋼の結晶粒内に粒状の銅が分散している。溶接方法は、銅からなる第1部材を準備する工程と、ステンレス鋼からなる第2部材を準備する工程と、第1部材および第2部材を互いに突き合わせ、第1部材と電極との間にアークを形成しつつ銅または銅合金からなる溶加材を供給して、第1部材、第2部材および溶加材を加熱して溶融させ、溶融池を形成する工程と、溶融池を凝固させる工程とを含む。溶融工程では、第1部材の入熱量が第2部材の入熱量よりも多くなるように、電極を移動させる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅からなる第1部材と、
ステンレス鋼からなる第2部材と、
前記第1部材および前記第2部材を接合する接合部と、を含み、
前記接合部では、鋼の結晶粒界に沿って銅が存在し、かつ鋼の結晶粒内に粒状の銅が分散している、銅およびステンレス鋼の接合体。
【請求項2】
前記第1部材は、第1金属管であり、
前記第2部材は、第2金属管であり、
前記第1金属管の長さ方向の端部および前記第2金属管の長さ方向の端部は、前記接合部を介して接合されている、請求項1に記載の銅およびステンレス鋼の接合体。
【請求項3】
銅からなる第1部材を準備する第1準備工程と、
ステンレス鋼からなる第2部材を準備する第2準備工程と、
前記第1部材および前記第2部材を互いに突き合わせ、前記第1部材と電極との間にアークを形成しつつ銅または銅合金からなる溶加材を供給して、前記第1部材、前記第2部材および前記溶加材を加熱して溶融させ、溶融池を形成する溶融工程と、
前記溶融池を凝固させる凝固工程と、を含み、
前記溶融工程では、前記第1部材の入熱量が前記第2部材の入熱量よりも多くなるように、前記電極を移動させる、銅およびステンレス鋼の溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、銅およびステンレス鋼の接合体ならびに銅およびステンレス鋼の溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、銅材料および鋼材料を溶接する方法が知られている。この種の技術が、例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1には、銅材料からなる配管および鋼材料からなる配管の端部同士を突き合わせ、アーク溶接によって両配管を接合する方法が開示されている。この方法では、鉄の含有量が20%以上である溶接ワイヤが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-87688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示される配管の接合体では、銅材料からなる配管および鋼材料からなる配管の接合強度を高めるのが困難という課題がある。これは、一般的に、銅および鉄が互いに混ざり難い性質を有するためである。
【0006】
本開示の目的は、接合強度がより向上した銅およびステンレス鋼の接合体、ならびに当該接合体を製造可能な銅およびステンレス鋼の溶接方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に従った銅およびステンレス鋼の接合体は、銅からなる第1部材と、ステンレス鋼からなる第2部材と、第1部材および第2部材を接合する接合部と、を含む。上記接合部では、鋼の結晶粒界に沿って銅が存在し、かつ鋼の結晶粒内に粒状の銅が分散している。
【0008】
本開示に従った銅およびステンレス鋼の溶接方法は、銅からなる第1部材を準備する第1準備工程と、ステンレス鋼からなる第2部材を準備する第2準備工程と、第1部材および第2部材を互いに突き合わせ、第1部材と電極との間にアークを形成しつつ銅または銅合金からなる溶加材を供給して、第1部材、第2部材および溶加材を加熱して溶融させ、溶融池を形成する溶融工程と、溶融池を凝固させる凝固工程と、を含む。溶融工程では、第1部材の入熱量が第2部材の入熱量よりも多くなるように、電極を移動させる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、接合強度がより向上した銅およびステンレス鋼の接合体、ならびに当該接合体を製造可能な銅およびステンレス鋼の溶接方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施の形態に係る銅およびステンレス鋼の接合体の構成を模式的に示す断面図である。
図2図2は、実施の形態に係る銅およびステンレス鋼の接合体の接合部の構造を模式的に示す図である。
図3図3は、実施の形態に係る銅およびステンレス鋼の溶接方法の手順を示すフローチャートである。
図4図4は、実施の形態に係る銅およびステンレス鋼の溶接方法を説明するための模式図である。
図5図5は、銅およびステンレス鋼の接合体の接合部の顕微鏡写真である。
図6図6は、銅およびステンレス鋼の接合体の接合部のSEM(Scanning Electron Microscopy)写真である。
図7図7は、銅およびステンレス鋼の接合体の接合部における銅の分布をEDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)によりマッピングした写真である。
図8図8は、銅およびステンレス鋼の接合体の接合部における鉄の分布をEDSによりマッピングした写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施形態の概要]
本開示に従った銅およびステンレス鋼の接合体は、銅からなる第1部材と、ステンレス鋼からなる第2部材と、第1部材および第2部材を接合する接合部と、を含む。上記接合部では、鋼の結晶粒界に沿って銅が存在し、かつ鋼の結晶粒内に粒状の銅が分散している。
【0012】
本発明者らは、銅およびステンレス鋼の接合体における接合強度を向上させるための方策について、鋭意検討を行った。その結果、本発明者らは、銅およびステンレス鋼の接合部において、鋼の結晶粒界に沿って銅が存在するとともに鋼の結晶粒内に粒状の銅が分散する構造を形成することによって接合強度が飛躍的に向上することを新たに見出し、本発明に想到した。
【0013】
本開示は、上記のような観点に基づくものである。すなわち、本開示の銅およびステンレス鋼の接合体の接合部では、鋼の結晶粒界に沿って銅が存在し、かつ鋼の結晶粒内に粒状の銅が分散している。このため、本開示の銅およびステンレス鋼の接合体によれば、従来に比べて接合強度を向上させることができる。
【0014】
上記銅およびステンレス鋼の接合体において、第1部材は、第1金属管であってもよい。第2部材は、第2金属管であってもよい。第1金属管の長さ方向の端部および第2金属管の長さ方向の端部は、接合部を介して接合されていてもよい。
【0015】
本開示に従った銅およびステンレス鋼の溶接方法は、銅からなる第1部材を準備する第1準備工程と、ステンレス鋼からなる第2部材を準備する第2準備工程と、第1部材および第2部材を互いに突き合わせ、第1部材と電極との間にアークを形成しつつ銅または銅合金からなる溶加材を供給して、第1部材、第2部材および溶加材を加熱して溶融させ、溶融池を形成する溶融工程と、溶融池を凝固させる凝固工程と、を含む。溶融工程では、第1部材の入熱量が第2部材の入熱量よりも多くなるように、電極を移動させる。
【0016】
上記溶接方法によれば、第1部材および第2部材の接合部に、鋼の結晶粒界に沿って銅が存在するとともに鋼の結晶粒内に粒状の銅が分散する構造を形成することができる。したがって、接合強度がより向上した銅およびステンレス鋼の接合体を製造することができる。
【0017】
[実施形態の具体例]
次に、本開示の銅およびステンレス鋼の接合体ならびに銅およびステンレス鋼の溶接方法の具体的な実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0018】
(銅およびステンレス鋼の接合体)
まず、実施の形態に係る銅およびステンレス鋼の接合体1(以下、単に「接合体1」とも称する)の構成を、図1および図2に基づいて説明する。図1は、接合体1の構成を模式的に示す断面図である。図2は、接合体1の接合部30の構造を模式的に示す図である。図1に示すように、接合体1は、銅からなる第1部材10と、ステンレス鋼からなる第2部材20と、第1部材10および第2部材20の間に位置する接合部30とを含む。第2部材20の材料であるステンレス鋼は、例えばオーステナイト系ステンレス鋼であることが好ましいがこれに限定されず、フェライト系ステンレス鋼であってもよい。
【0019】
本実施の形態では、第1部材10は、第1金属管(銅管)である。一方、第2部材20は、第2金属管(SUS(Steel Use Stainless)管)である。図1に示すように、第1金属管(第1部材10)の長さ方向の端部11および第2金属管(第2部材20)の長さ方向の端部21は、接合部30を介して接合されている。
【0020】
図2に示すように、接合部30では、鋼の結晶粒界31Aに沿って銅40が存在し、かつ鋼の結晶粒31内に粒状の銅41が分散している。銅40は、鋼の結晶粒界31Aに沿って連続するネットワーク状に形成されていてもよいがこれに限定されず、結晶粒界31Aの途中で途切れていてもよい。
【0021】
(銅およびステンレス鋼の溶接方法)
次に、実施の形態に係る銅およびステンレス鋼の溶接方法を、図3および図4に基づいて説明する。本実施の形態では、TIG(ティグ)溶接によって第1部材10および第2部材20が接合される場合を一例として説明する。
【0022】
まず、第1準備工程が実施される(図3の工程S10)。この工程S10では、銅からなる第1部材10(銅管)が準備される。
【0023】
次に、第2準備工程が実施される(図3の工程S20)。この工程S20では、ステンレス鋼からなる第2部材20(SUS管)が準備される。
【0024】
次に、溶融工程が実施される(図3の工程S30)。この工程S30では、図4に示すように、第1部材10(銅管)の長さ方向の端部11および第2部材20(SUS管)の長さ方向の端部21を互いに突き合わせ、第1部材10と電極52との間にアークβを形成しつつ銅または銅合金からなる溶加材60を供給して、第1部材10、第2部材20および溶加材60を加熱して溶融させ、溶融池を形成する。溶加材60は、銅を主成分として含有するものである。具体的には、溶加材60は、90質量%以上の銅を含有していてもよいし、95質量%以上の銅を含有していてもよい。溶加材60の材料としては、例えば、純Cu、Cu-Fe合金、Cu-Si合金またはCu-Sn合金などの材料を採用することができる。
【0025】
溶接工程S30では、第1部材10の入熱量が第2部材20の入熱量よりも多くなるように、電極52を第1部材10および第2部材20の長さ方向に往復移動させる。電極52は、例えばタングステンなどの高融点の金属材料からなり、中空円筒状のノズル51内に挿入されている。電極52の外周面およびノズル51の内周面の間の環状の空間は、シールドガスαが流通可能となっている。図4に示すように、電極52の先端は、ノズル51の先端よりも第1部材10側に突き出ている。電極52は、ノズル51とともに溶接トーチ50を構成している。
【0026】
溶接工程S30では、第1部材10の端部11および第2部材20の端部21を互いに突き合わせた状態で、第1部材10および第2部材20を周方向に1回転だけ回転させつつ、両端部の突き合わせ部を跨ぐように溶接トーチ50を第1部材10および第2部材20の間で往復移動させる。このとき、溶接トーチ50を第1部材10側で第1時間だけ待機させた後に第2部材20側へ移動させるとともに、溶接トーチ50を第2部材20側で第2時間(第1時間よりも短い時間)だけ待機させた後に第1部材10側へ戻す。このような溶接トーチ50の動きが、第1部材10および第2部材20が周方向に1回転する間継続される。これにより、第1部材10の端部11を含む部分および第2部材20の端部21を含む部分に、溶融池が形成される。
【0027】
次に、凝固工程が実施される(図3の工程S40)。この工程S40では、上記工程S30で形成された溶融池を凝固させる。これにより、接合部30(図1)が形成され、第1部材10および第2部材20が互いに接合される。以上の工程S10からS40により、本実施の形態に係る銅およびステンレス鋼の溶接方法が終了する。
【0028】
以上の通り、本実施の形態に係る銅およびステンレス鋼の接合体1の接合部30では、鋼の結晶粒界31Aに沿って銅40が存在し、かつ鋼の結晶粒31内に粒状の銅41が分散している。このため、接合体1によれば、第1部材10および第2部材20の間の接合強度を向上させることができる。
【0029】
図5は、上記実施の形態における溶接方法によって銅およびステンレス鋼を接合したときの、接合部の顕微鏡写真である。図5の通り、鋼の結晶粒31の境界(結晶粒界)に沿って銅40が存在しているとともに、結晶粒31内に粒状の銅41が分散(点在)している。また接合体の引張試験を実施したところ、接合部30における破断は見られず、良好な接合強度が確認された。図5の顕微鏡写真の接合部を形成したときの溶接条件は、以下の通りである。このとき、第1部材10および第2部材20の管内に、バックシールドとしてアルゴン(Ar)ガスを流した。
第1部材および第2部材の管の外径:8mm
第1部材および第2部材の管の厚み:1mm
第1部材の材料:銅
第2部材の材料:SUS304
溶接電流(パルス溶接法):25A
フィラー形状:φ1.2mm
シールドガス:Ar(10L/min)
【0030】
図6は、上記実施の形態における溶接方法によって銅およびステンレス鋼を接合したときの、接合部のSEM写真である。図7は、当該接合部においてEDSによって銅をマッピングしたときの画像である。図8は、当該接合部においてEDSによって鉄をマッピングしたときの画像である。図6から図8の通り、鋼の結晶粒界に沿って銅が存在するとともに(図7の写真で白く見える線状の部分)、鋼の結晶粒内に粒状の銅が分散して存在している様子が観察された(図7の写真で白く見える点状の部分)。
【0031】
ここで、その他実施の形態について説明する。
【0032】
上記実施の形態では、TIG溶接によって第1部材10および第2部材20を溶接する場合を一例として説明したがこれに限定されず、MIG溶接が採用されてもよい。この場合、電極が溶加材を兼ねる。
【0033】
上記実施の形態では、第1部材10および第2部材20がともに金属管である場合を一例として説明したが、これに限定されない。例えば、第1部材および第2部材は、金属板であってもよい。
【0034】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0035】
1 銅およびステンレス鋼の接合体(接合体)、10 第1部材、11,21 端部、20 第2部材、30 接合部、31 結晶粒、31A 結晶粒界、40,41 銅、50 溶接トーチ、51 ノズル、52 電極、60 溶加材、α シールドガス、β アーク。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8