(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092602
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】ドリルストッパ
(51)【国際特許分類】
A61B 17/16 20060101AFI20230627BHJP
A61B 17/56 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
A61B17/16
A61B17/56
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207722
(22)【出願日】2021-12-22
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-04-07
(71)【出願人】
【識別番号】304050912
【氏名又は名称】オリンパステルモバイオマテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】伊原 秀
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160LL09
4C160LL27
4C160LL29
(57)【要約】 (修正有)
【課題】汎用性が高く、かつ、ドリル軸の任意の位置に固定することができるドリルストッパを提供する。
【解決手段】ドリルストッパ1は、ドリル軸が貫通する貫通穴2aを有するボディ2と、ボディ2に設けられ貫通穴2aの内面の一部を形成する押さえ部材6と、ボディ2を貫通穴2a内のドリル軸に固定および固定解除するレバー3とを備える。押さえ部材6は、貫通穴2aの中心軸線Oに向かう方向に変位可能である。レバー3は、押さえ部材6に対して中心軸線Oとは反対側に配置され、押さえ部材6を中心軸線Oに向かう方向に押圧する固定位置と、押さえ部材6を解放する固定解除位置との間で所定の回転軸線回りに回転可能にボディ2に支持される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨に穴を開ける外科用ドリルのドリル軸に取り付けられるドリルストッパであって、
前記ドリル軸が貫通する貫通穴を有するボディと、
該ボディに設けられ、前記貫通穴の内面の一部を形成する押さえ部材と、
前記ボディを前記貫通穴内の前記ドリル軸に固定および固定解除するレバーと、を備え、
前記押さえ部材は、前記貫通穴の中心軸線に向かう方向に変位可能であり、
前記レバーは、
前記押さえ部材に対して前記中心軸線とは反対側に配置され、
前記押さえ部材を前記中心軸線に向かう方向に押圧する固定位置と、前記押さえ部材を解放する固定解除位置と、の間で所定の回転軸線回りに回転可能に前記ボディに支持される、ドリルストッパ。
【請求項2】
前記ボディに設けられ、前記貫通穴の内面の他の一部を形成する調整部材を備え、
前記押さえ部材および前記調整部材は、前記中心軸線を挟み相互に対向し、
前記調整部材は、前記中心軸線から離れる方向に変位可能である、請求項1に記載のドリルストッパ。
【請求項3】
前記レバーは、前記ボディと連結される前記レバーの一端部に前記所定の回転軸線回りに湾曲するカム面を有するカムレバーであり、前記カム面は、前記レバーの回転によって前記押さえ部材と接触しながら回転し、
前記回転軸線から前記カム面の前記押さえ部材との接触点までの距離は、前記レバーが前記固定解除位置から前記固定位置へ回転するにつれて漸次増大する、請求項1または請求項2に記載のドリルストッパ。
【請求項4】
前記ドリルストッパの重心が、前記貫通穴内の前記ドリル軸の内側に配置される、請求項1から請求項3のいずれかに記載のドリルストッパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリルストッパに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、骨に穴を開ける外科用ドリルに取り付けられるドリルストッパが知られている(例えば、特許文献1,2参照。)。
図12に示されるように、脛骨のような管状骨Aにスクリュ20をバイコーティカルで固定する場合、手前側および対側の両方の皮質骨D1,D2に貫通穴が開けられる。
図12は、骨プレート21をスクリュ20で脛骨Aの内側面に固定する内側開大式高位脛骨骨切り術(OWHTO:Open Wedge High Tibial Osteotomy)を示している。バイコーティカルは、手前側および対側の両方の皮質骨D1,D2にスクリュ20を貫通させる固定方法である。この方法は、スクリュ20が硬質の皮質骨に2箇所で固定されるので、骨Aに対するスクリュ20の高い固定強度が得られる。
【0003】
骨Aの反対側には、神経Bおよび血管C等の組織が存在することがある。特許文献1,2のドリルストッパは、対側皮質骨D2からドリル軸の先端が過度に突出することを防ぐためのものであり、ドリル軸の先端が対側皮質骨D2を貫通した直後にドリルの進行を停止させるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-128313号公報
【特許文献2】特開2013-154138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のドリルストッパは、コレットチャック式の電動ドリルにのみ取り付け可能である。したがって、特許文献1のドリルストッパは、ハドソンチャック等の他の方式のチャックを採用している電動ドリルに使用することができず、汎用性に欠けるという不都合がある。
特許文献2のドリルストッパは、内筒部および外筒部を有するテレスコープ構造であり、手前側皮質骨D1の表面に突き当たる外筒部の先端の位置がドリル軸の長手方向に変更可能である。外筒部に設けられた連結係合片が内筒部に設けられた複数の連結溝のいずれかに係合することによって、外筒部は内筒部に対して位置決めされる。すなわち、外筒部の先端の位置が連結溝の位置によって制限され、外筒部の先端を自由な位置に固定することができない。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、汎用性が高く、かつ、ドリル軸の任意の位置に固定することができるドリルストッパを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、骨に穴を開ける外科用ドリルのドリル軸に取り付けられるドリルストッパであって、前記ドリル軸が貫通する貫通穴を有するボディと、該ボディに設けられ、前記貫通穴の内面の一部を形成する押さえ部材と、前記ボディを前記貫通穴内の前記ドリル軸に固定および固定解除するレバーと、を備え、前記押さえ部材は、前記貫通穴の中心軸線に向かう方向に変位可能であり、前記レバーは、前記押さえ部材に対して前記中心軸線とは反対側に配置され、前記押さえ部材を前記中心軸線に向かう方向に押圧する固定位置と、前記押さえ部材を解放する固定解除位置と、の間で所定の回転軸線回りに回転可能に前記ボディに支持される、ドリルストッパである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態に係るドリルストッパの使用状態を示す側面図である。
【
図3A】
図1のドリルストッパの作用を説明する縦断面図であり、レバーが開位置に配置されている状態を示す図である。
【
図3B】
図1のドリルストッパの作用を説明する縦断面図であり、レバーが閉位置に配置されている状態を示す図である。
【
図3C】
図1のドリルストッパの作用を説明する縦断面図であり、貫通穴内にドリル軸が配置されレバーが閉位置に配置されている状態を示す図である。
【
図4】カム面が設けられたカムレバーの先端部の側面図である。
【
図5】レバーの突き当て部の使用方法を説明する図である。
【
図6】
図1のドリルストッパが取り付けられたドリルを使用して骨に穴を開ける手順を説明する図である。
【
図7】
図1のドリルストッパの重心の位置を説明する正面図である。
【
図8】他の実施形態に係るドリルストッパの使用状態を示す側面図である。
【
図9A】
図8ドリルストッパの正面図であり、レバーが開位置に配置されている状態を示す図である。
【
図9B】
図8のドリルストッパの正面図であり、レバーが閉位置に配置されている状態を示す図である。
【
図10A】突き当て部の一変形例を示すドリルストッパの斜視図であり、レバーが開位置に配置されている状態を示す図である。
【
図10B】レバーが閉位置に配置されている状態における、
図10Aのドリルストッパの斜視図である。
【
図11A】突き当て部の他の変形例を示すドリルストッパの側面図であり、突き当て部の使用方法を説明する図である。
【
図11B】弾性部材の圧縮によってボディが他の部材に接触した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の一実施形態に係るドリルストッパについて図面を参照して説明する。
図1に示されるように、本実施形態に係るドリルストッパ1は、骨に穴を開ける外科用ドリルのドリル軸10の側面に取り付けられ、骨へのドリル軸10の挿入量を制限するものである。特に、ドリルストッパ1は、骨にバイコーティカルで固定するスクリュ用の下穴を骨に開けるときに使用される。
【0010】
例えば、
図12に示される内側開大式高位脛骨骨切り術(OWHTO)において、骨プレート21を脛骨Aにより強固に固定するために、骨切り部の遠位側に配置されるスクリュ20はバイコーティカルで脛骨Aに固定される。スクリュ20の延長上には神経Bおよび動脈Cが存在し、対側皮質骨D2の外面から神経Bおよび動脈Cまでの距離は10mm~20mm程度である。したがって、対側皮質骨D2の外面からのドリル軸10の先端の突出量は2mm~3mmに制御されることが好ましい。
【0011】
図1および
図2に示されるように、ドリルストッパ1は、ドリル軸10が貫通する貫通穴2aを有するボディ2と、ボディ2を貫通穴2a内のドリル軸10に固定および固定解除するレバー3と、レバー3をボディ2に連結するピン4とを備える。
ボディ2、レバー3およびピン4は、ステンレス鋼のような生体適合性および強度を有する金属材料から形成される。
【0012】
図2から
図3Cに示されるように、ボディ2は、ボディ2の主要部を構成する主部5と、主部5に支持された上板(押さえ部材)6および下板(調整部材)7とを備える。一例において、主部5および板6,7は、継ぎ目のない単一の部品として成形される。
図3Aから
図3Cは、貫通穴2aの中心軸線Oを含みレバー3の回転軸線Pに直交する平面で切断したドリルストッパ1の縦断面図である。
【0013】
主部5は、周方向の一部分が長手方向に切り欠かれた略部分円筒状の部材であり、レバー3は、主部5の切り欠かれた部分に配置される帯板状の部材である。主部5の先端部およびレバー3の先端部には、中心軸線Oに直交する方向に相互に連通するピン穴5a,3aが形成されている。ピン穴5a,3a内に挿入されたピン4によって、レバー3の先端部は、所定の回転軸線P回りに回転可能にボディ2の先端部に連結されている。回転軸線Pは、ピン4の中心軸線である。ピン4の両端は、例えば溶接によって、主部5に固定される。
【0014】
以下、中心軸線Oに平行な方向をドリルストッパ1の前後方向、回転軸線Pに平行な方向をドリルストッパ1の左右方向、中心軸線Oおよび回転軸線Pの両方に直交する方向をドリルストッパ1の上下方向と定義する。レバー3は、貫通穴2aに対して上側に配置されている。
【0015】
上板6および下板7は、中心軸線Oに平行に延びる薄い板状の部材であり、中心軸線Oを挟み上下方向に相互に対向する。上板6は、貫通穴2aに対して上側に配置され、下板7は、貫通穴2aに対して下側に配置される。板6,7は主部5の内側に配置され、板6,7の中心軸線O側の内面6a,7aはそれぞれ、貫通穴2aの一部を画定する。すなわち、内面6aは、貫通穴2aの円筒状の内面の一部を形成し、内面7aは、貫通穴2aの円筒状の内面の他の一部を形成する。
【0016】
上板6は、少なくとも下方向に、すなわち中心軸線Oに向かう方向に弾性的に変位可能に主部5に支持されている。下板7は、少なくとも下方向に、すなわち中心軸線Oから離れる方向に弾性的に変位可能に主部5に支持されている。
具体的には、各板6,7の基端部は主部5に固定され、各板6,7は片持ち梁状に主部5に支持されている。各板6,7の先端部は、上下方向に変位可能な自由端部である。薄い板から形成される板6,7の撓みによって、各板6,7の先端部は上下方向に弾性的に変位する。
【0017】
レバー3は、上板6に対して中心軸線Oとは反対側、すなわち上板6の上側に配置され、回転軸線P回りの回転によってボディ2に対して開閉可能である。具体的には、レバー3は、
図3Aに示される開位置(固定解除位置)と、
図3Bおよび
図3Cに示される閉位置(固定位置)との間で回転軸線P回りに回転可能である。
【0018】
閉位置は、レバー3が上板6を下方向に押圧し、それによりボディ2を貫通穴2a内のドリル軸10に固定する位置である。具体的には、レバー3によって押圧された上板6は、撓むことによって下側へ変位し、
図3Cに示されるように、内面6aが貫通穴2a内のドリル軸10の側面に押し付けられる。これにより、内面6aとドリル軸10の側面との間の摩擦によって、ドリルストッパ1がドリル軸10に固定される。
開位置は、レバー3が上板6を解放し、それによりボディ2のドリル軸10への固定を解除する位置である。具体的には、押圧から解放された上板6は弾性復元力によって上側へ変位し、それにより、ドリルストッパ1のドリル軸10への固定が解除される。
【0019】
ここで、
図3Cに示されるように、レバー3から上板6に加えられた押圧力は、ドリル軸10を経由して下板7にも加えられる。したがって、上板6と同様に、下板7も撓むことによって下側へ変位する。この下板7の変位によって、後述するように、レバー3を閉位置へ回転させるために必要な力が、ドリル軸10の直径のばらつきに関わらず一定の範囲内に調整される。
【0020】
本実施形態において、レバー3は、ボディ2と連結される先端部にカム面3bを有するカムレバーである。カム面3bは、レバー3の先端部の先端面、下面および上面から構成され、回転軸線P回りに湾曲する凸状の曲面である。カム面3bは、レバー3が開位置に配置されているときに上板6と軽く接触するか、または、上板6からわずかに離れ、レバー3の閉位置への回転によって上板6と接触しながら回転軸線P回りに回転する。回転軸線Pからカム面3bの上板6との接触点までの距離は、レバー3が開位置から閉位置へ回転するにつれて、漸次増大する。したがって、レバー3が閉位置に近付くにつれて、カム面3bが上板6に加える押圧力が漸次増大する。レバー3が閉位置に配置された状態において、カム面3bと上板6との間の摩擦によってレバー3の開方向の回転は阻止され、レバー3は閉位置に安定的に固定される。
【0021】
図4は、カム面3bの好ましい設計の一例を示している。カム面3bは、回転軸線Pに平行な中心軸線Q回りに円弧状または略円弧状に湾曲する。閉位置において、カム面3bの中心軸線Qは、回転軸線Pに対して下側に偏心している。したがって、
図4において、距離rbは距離raよりも大きく、回転軸線Pからカム面3bまでの距離は、点αから点βに向かって漸次増大する。点αは、開位置でのカム面3bの最下端であり、点βは、閉位置でのカム面3bの最下端である。
【0022】
板6,7にレバー3から押圧力が加わっていない状態において、貫通穴2aの直径は、ドリル軸10の直径よりもわずかに大きい。例えば、ドリル軸10の直径は4.9mmに設計され、貫通穴2aの直径は5.0mmに設計される。ただし、ドリル軸10の直径には寸法公差に因るばらつきが存在する。下板7が設けられていることによって、ドリルストッパ1は、ドリル軸10の直径のばらつきに対応することができる。
【0023】
すなわち、下板7が設けられていない場合、ドリル軸10の直径が標準値よりも大きいときに、閉位置へのカムレバー3の回転に対する抵抗が大きくなり、カムレバー3を閉位置まで回転させることが困難になったりドリル軸10の側面が変形したりし得る。下板7が設けられている場合、カムレバー3から上板6に加わる押圧力の大きさに応じて下板7が変位することによって、ドリル軸10の直径が標準値よりも大きいときも、ドリル軸10の直径が標準値以下であるときと略同じ大きさの力でカムレバー3を閉位置まで回転させることができる。
ドリル軸10の直径が寸法公差内であるときに下板7が必ず撓んで変位するように、カム面3bは設計されていることが好ましい。
【0024】
レバー3は、ドリル軸10に取り付けられた他の部材に中心軸線Oに沿う方向に突き当てられる突き当て部3cをさらに有する。
図5に示されるように、レバー3が開位置に配置された状態において、突き当て部3cは、ボディ2の先端面と前後方向に対向しボディ2から前後方向に所定の間隔Lを隔てた位置に配置され、ボディ2とは反対側を向く。したがって、レバー3を開位置に配置した状態で突き当て部3cを他の部材12の基端面に突き当てることによって、部材12とボディ2との間の間隔を所定の間隔Lに調整することができる。
【0025】
一例において、レバー3の上面3dに、上面3dから突出する凸部3eが設けられる。突き当て部3cは、レバー3の基端部側の凸部3eの側面から構成される。レバー3の上面3dは、レバー3が閉位置に配置された状態において上側に配置される面である。上面3dと突き当て部3cとが成す角度は、90°または90°に近い角度であることが好ましい。この場合、上面3dと突き当て部3cとの間の角を部材12の側面と基端面との間の角に突き合わせることによって、部材12とボディ2との間の間隔が調整される。
間隔Lは、対側皮質骨D2の厚さと、対側皮質骨D2の外面からのドリル軸10の先端の所定の突出量と、に応じて設計される。一例において、皮質骨D2の標準的な厚さが約5mmであり、所定の突出量が約2mm~3mmである場合、間隔Lは8mmに設計される。
【0026】
次に、ドリルストッパ1が取り付けられたドリルを使用して骨に穴を開ける方法について
図6を参照して説明する。
図6は、骨プレート21を骨Aの外面にスクリュ20によって固定する手術において、スクリュ20をバイコーティカルで骨Aに固定するための下穴を骨Aに開ける工程を示している。骨Aは、脛骨または大腿骨等の管状骨であり、内側の柔らかい海綿骨Eが外側の硬い皮質骨Dによって覆われている。骨プレート21には、ドリル軸10を案内する筒状のドリルガイド11が取り付けられている。
【0027】
まず、ステップS1において、術者は、ドリルストッパ1をドリル軸10の基端部に固定し、Cリング12をドリル軸10の先端とドリルストッパ1との間の所望の位置に取り付ける。Cリング12は、Cリング12の内面とドリル軸10の側面との間の摩擦によってドリル軸10に固定され、摩擦に抗してドリル軸10の長手方向に移動可能である。Cリング12は、ドリルガイド11の基端とCリング12との間の距離からドリル軸10の骨Aへの挿入量を把握したり、ドリルガイド11の基端面とドリルストッパ1との間に距離を確保したりする目的で使用される。
【0028】
次に、ステップS2において、術者は、電動ドリル13を作動させることによってドリル軸10を回転させ、回転するドリル軸10によって手前側皮質骨D1の外面から対側皮質骨D2の内面まで骨Aに穴を開ける。骨Aに穴を開けている途中にCリング12がドリルガイド11の基端面に突き当たった後、ドリル軸10はCリング12に対して移動する。術者は、ドリル軸10の先端が対側皮質骨D2の内面に接触した時点でドリル軸10の回転および進行を一時停止させる。ドリル軸10の先端が対側皮質骨D2の内面に接触したとき、ドリル軸10の進行に対する抵抗が急激に増大するので、術者は、電動ドリル13を把持する手に伝わる抵抗の増大に基づいて、ドリル軸10の先端が対側皮質骨D2の内面に接触したことを認識することができる。
【0029】
次に、ステップS3において、術者は、レバー3を開位置へ回転させることによってドリル軸10に対するドリルストッパ1の固定を解除する。次に、術者は、Cリング12がドリルガイド11の基端面に突き当たっていることを確認した後、ドリルストッパ1をドリル軸10に対してCリング12側に移動させて突き当て部3cがCリング12の基端面に突き当たる位置にドリルストッパ1を位置決めし、レバー3を閉位置へ回転させることによってドリルストッパ1をドリル軸10に再び固定する。
次に、ステップS4において、術者は、ドリル軸10の回転および進行を再開し、ボディ2の先端面がCリング12の基端面に接触するまでドリル軸10を進行させる。術者は、ボディ2の先端面がCリング12の基端面に接触した時点でドリル軸10の回転および進行を停止し、穴開けを終了する。
【0030】
なお、Cリング12は、必要に応じてドリル軸10に取り付けられるものであり、必ずしも使用しなくてもよい。Cリング12を使用しない場合、ステップS3において、突き当て部3cがドリルガイド11の基端面に突き当たる位置にドリルストッパ1が位置決めされ、ステップS4において、ボディ2の先端面がドリルガイド11の基端面に接触するまでドリル軸10を進行させる。
【0031】
このように、本実施形態によれば、対側皮質骨D2の外面からのドリル軸10の先端の突出量が所定の突出量に達したときに、ボディ2の先端面がCリング12の基端面に突き当たる。これにより、ドリル軸10の進行が機械的に阻止されると共に、術者は対側皮質骨D2の外面からドリル軸10の先端が所定の突出量だけ突出したことを認識することができる。したがって、骨Aの過度な穿孔を防止することができる。
【0032】
また、本実施形態によれば、ドリルストッパ1は、板6,7とドリル軸10との間の摩擦によってドリル軸10の側面に直接固定される。したがって、電動ドリル13のチャックの方式に関わらず、また、電動または手動に関わらず、様々な種類のドリルにドリルストッパ1を使用することができ、汎用性の高いドリルストッパ1を提供することができる。また、ドリル軸10へのドリルストッパ1の取付位置に制限はないので、取付位置をドリル軸10の長手方向に無段階に変更することができ、ドリルストッパ1をドリル軸10の任意の位置に取り付けることができる。
【0033】
また、本実施形態によれば、ドリル軸10へのドリルストッパ1の固定および固定解除はカムレバー3の回転のみによって行われる。また、カムレバー3は、小さな力で回転操作が可能でありながら、ドリル軸10に対するボディ2の大きな固定力が得られる。したがって、術者は、例えば片手の親指のみを使用してカムレバー3を回転させることができ、ドリルストッパ1の固定および固定解除の操作を簡単に行うことができる。
一設計例において、ドリル軸10の直径が4.85mm~4.90mm、貫通穴2aの直径が5.0mm、カム面3bの距離rbと距離raとの差が0.2mmである場合、150N以上の固定力が得られる。
【0034】
また、本実施形態によれば、貫通穴2a内のドリル軸10の下側に、上板6と同様に変位可能な下板7が設けられている。これにより、寸法公差によるドリル軸10の直径のばらつきに関わらず、レバー3を閉位置まで容易に回転させてドリルストッパ1をドリル軸10に確実に固定することができる。
【0035】
また、本実施形態によれば、レバー3に設けられた突き当て部3cを使用することによって、Cリング12とボディ2との間の間隔を所定の間隔に正確にかつ簡単に調整することができる。また、レバー3の回転操作およびドリル軸10に対するボディ2の移動は、片手のみを使用して行うことができる。したがって、一方の手で電動ドリル13を把持しながら、他方の手のみを使用してCリング12に対するドリルストッパ1の位置調整を行うことができる。
突き当て部3cが設けられていない場合、ボディ2の先端面とCリング12の基端面との間の間隔を目視または他デバイスを用いて測定し、ドリルストッパ1の位置を調整する必要がある。したがって、操作が煩雑であると共に、他方の手のみを使用してドリルストッパ1の位置調整を行うことは難しい。
【0036】
また、本実施形態によれば、ボディ2の主部5および板6,7がドリル軸10と同軸に配置され、かつ、レバー3が前後方向に回転するので、ドリルストッパ1の細径化を図ることができる。例えば、ドリルストッパ1の最大外径を15mmまで小型化することができる。これにより、手術時にドリルストッパ1が周囲の他の器具と干渉することを防ぐことができる。例えば、OWHTOにおいて、骨プレート21の隣接する2つの穴に同時に器具が挿入されることがある。このような場合に、ドリルストッパ1が、隣の他の器具と干渉することを防ぐことができる。
【0037】
上記実施形態において、
図7に示されるように、レバー3が閉位置に配置された状態でのドリルストッパ1の全体の重心Gは、貫通穴2a内のドリル軸10の内側に配置されることが好ましく、貫通穴2a内のドリル軸10の長手軸線(すなわち、中心軸線O)上または長手軸線の近傍に配置されることがより好ましい。
この構成によれば、ドリルストッパ1の重心Gをドリル軸10の中心軸線に近付けることによって、ドリル軸10の回転時のドリル軸10のぶれを低減することができる。
【0038】
図1から
図3Cのドリルストッパ1において、重心Gの位置を調整するために、主部5の下側部分に中心軸線Oに向かって凹む凹部5bが設けられている。凹部5bが無い場合、主部5の上側部分が切り欠かれていることによって、重心Gが中心軸線Oよりも下側に偏る。凹部5bが設けられていることによって、重心Gが上側へシフトし中心軸線Oの近傍に配置される。
【0039】
凹部5bは、術者の指にフィットする形状であることが好ましい。一例において、ドリルストッパ1の操作時、術者は、左右方向に伸ばした人差し指の腹を主部5の下面上に配置する。したがって、凹部5bは、左右方向に延びる凹状の曲面から形成されることが好ましい。この構成によれば、術者は、ドリルストッパ1をよりしっかりと指で掴むことができ、操作性を向上することができる。
【0040】
上記実施形態において、レバー3が、左右方向の回転軸線P回りの回転によって前後方向に開閉することとしたが、これに代えて、
図8から
図9Bに示されるように、レバー3が、中心軸線Oに平行な回転軸線P回りの回転によって左右方向に開閉するように構成されていてもよい。
図9Aから
図9Bは、先端側から軸線O,Pに沿う方向に見たドリルストッパ1の正面である。
【0041】
図8から
図9Bの他の実施形態において、ボディ2は、略半円の板状の主部5と、左右方向に延びる上板6とを備える。上板6の右端部は主部5に固定され、上板6は片持ち梁状に主部5に支持されている。上板6の左端部は、上下方向に変位可能である。上板6の左端部がカムレバー3によって押圧されることで、上板6がドリル軸10の側面に押し付けられボディ2が貫通穴2a内のドリル軸10に固定される。主部5の下側部分には凹部5bが設けられ、これにより、レバー3が閉位置に配置された状態でのドリルストッパ1の全体の重心Gが、貫通穴2a内のドリル軸10の内側に配置される。この実施形態においても、図示しない下板7が設けられてもよい。
【0042】
上記実施形態において、レバー3がカムレバーであることとしたが、レバー3は、閉位置への回転によって上板6を押圧することができる限りにおいて他の構造のレバーであってもよい。必要に応じて、レバー3を閉位置に一時的に固定するための固定機構が設けられてもよい。
上記実施形態において、押さえ部材6および調整部材7が、片持ち梁状に支持された板状の部材であることとしたが、押さえ部材および調整部材は、レバー3から加えられる押圧力によって弾性的に少なくとも下方に変位可能である限りにおいて他の形態であってもよい。例えば、押さえ部材および調整部材は、ばね等の弾性部材を介して主部5に支持された任意の形状の部材であり、弾性部材の変形によって変位可能であってもよい。
【0043】
上記実施形態において、突き当て部3cがレバー3の先端と基端との間の位置において上面3dに設けられていることとしたが、突き当て部の構成はこれに限定されるものではなく、適宜変更可能である。
図10Aから
図11Cは、突き当て部の他の構成例を示している。
図10Cから
図11Cは、他の部材12であるドリルガイド11の基端面に突き当て部3cを突き当てる使用例を示している。
【0044】
図10Aから
図10Cにおいて、上面3dから突出する凸部3fがレバー3の基端に設けられ、突き当て部3cは、レバー3の基端面(凸部3fの基端面)から構成される。凸部3fには、ドリル軸10を径方向に受け入れる凹部3gが設けられている。
図10Cに示されるように、凹部3g内にドリル軸10が嵌ることによって、レバー3をドリル軸10と干渉させることなく開位置に配置し、ドリルストッパ1の最も先端側に配置された突き当て部3cを部材12に突き当てることができる。
【0045】
図11Aから
図11Cにおいて、突き当て部8aは、ボディ2に設けられ、弾性部材8の弾性変形によってボディ2に対して前後方向に変位可能である。
弾性部材8は、コイルばねのような筒状の部材である。
図11Cに示されるように、ボディ2の先端部には、貫通穴2aの径方向外側に中心軸線Oと同軸に形成され、弾性部材を収容する略円筒状のスリット2bが形成されている。弾性部材8は、自然状態においてボディ2の先端面から突出し、前後方向に圧縮されることによって弾性部材8の全体がスリット2b内に収容可能である。突き当て部8aは、弾性部材8の先端面から構成される。突き当て部8aは、弾性部材8の先端に固定された別部材から構成されていてもよい。
【0046】
図11Aに示されるように、自然状態の弾性部材8の先端の突き当て部8aを他の部材12の基端面に突き当てることによって、部材12とボディ2との間の間隔を、弾性部材8の自然長によって決まる所定の間隔Lに調整することができる。その後、ボディ2の先端面が部材12に接触するまで、弾性部材8を圧縮させながらドリル軸10を進行させることができる。
【符号の説明】
【0047】
1 ドリルストッパ
2 ボディ
2a 貫通穴
3 レバー、カムレバー
3b カム面
3c,8a 突き当て部
6 上板(押さえ部材)
7 下板(調整部材)
10 ドリル軸
O 中心軸線
P 回転軸線
【手続補正書】
【提出日】2023-02-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨に穴を開ける外科用ドリルのドリル軸に取り付けられるドリルストッパであって、
前記ドリル軸が貫通する貫通穴を有するボディと、
該ボディに設けられ、前記貫通穴の内面の一部を形成する押さえ部材と、
前記ボディを前記貫通穴内の前記ドリル軸に固定および固定解除するレバーと、を備え、
前記押さえ部材は、前記貫通穴の中心軸線に向かう方向に変位可能であり、前記中心軸線に向かう方向の変位によって前記ドリル軸を押さえ、
前記レバーは、
前記押さえ部材に対して前記中心軸線とは反対側に配置され、
前記押さえ部材を前記中心軸線に向かう方向に押圧して前記押さえ部材を変位させる固定位置と、前記押さえ部材を解放する固定解除位置と、の間で所定の回転軸線回りに回転可能に前記ボディに支持される、ドリルストッパ。
【請求項2】
前記ボディに設けられ、前記貫通穴の内面の他の一部を形成する調整部材を備え、
前記押さえ部材および前記調整部材は、前記中心軸線を挟み相互に対向し、
前記調整部材は、前記中心軸線から離れる方向に変位可能であり、前記固定位置の前記レバーによって押圧された前記押さえ部材から前記ドリル軸を経由して前記調整部材に加えられる押圧力に応じて変位する、請求項1に記載のドリルストッパ。
【請求項3】
前記レバーは、前記ボディと連結される前記レバーの一端部に前記所定の回転軸線回りに湾曲するカム面を有するカムレバーであり、前記カム面は、前記レバーの回転によって前記押さえ部材と接触しながら回転し、
前記回転軸線から前記カム面の前記押さえ部材との接触点までの距離は、前記レバーが前記固定解除位置から前記固定位置へ回転するにつれて漸次増大する、請求項1または請求項2に記載のドリルストッパ。
【請求項4】
前記レバーが前記固定位置に配置された状態において、前記中心軸線に直交する方向における前記ドリルストッパの重心が、前記貫通穴内の前記ドリル軸の内側に配置される、請求項1から請求項3のいずれかに記載のドリルストッパ。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本発明の一態様は、骨に穴を開ける外科用ドリルのドリル軸に取り付けられるドリルストッパであって、前記ドリル軸が貫通する貫通穴を有するボディと、該ボディに設けられ、前記貫通穴の内面の一部を形成する押さえ部材と、前記ボディを前記貫通穴内の前記ドリル軸に固定および固定解除するレバーと、を備え、前記押さえ部材は、前記貫通穴の中心軸線に向かう方向に変位可能であり、前記中心軸線に向かう方向の変位によって前記ドリル軸を押さえ、前記レバーは、前記押さえ部材に対して前記中心軸線とは反対側に配置され、前記押さえ部材を前記中心軸線に向かう方向に押圧して前記押さえ部材を変位させる固定位置と、前記押さえ部材を解放する固定解除位置と、の間で所定の回転軸線回りに回転可能に前記ボディに支持される、ドリルストッパである。