IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立GEニュークリア・エナジー株式会社の特許一覧

特開2023-92605電力系統制御装置、電力系統制御方法およびプログラム
<図1>
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御方法およびプログラム 図1
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御方法およびプログラム 図2
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御方法およびプログラム 図3
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御方法およびプログラム 図4
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御方法およびプログラム 図5
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御方法およびプログラム 図6
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御方法およびプログラム 図7
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御方法およびプログラム 図8
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御方法およびプログラム 図9
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御方法およびプログラム 図10
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御方法およびプログラム 図11
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御方法およびプログラム 図12
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御方法およびプログラム 図13
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御方法およびプログラム 図14
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御方法およびプログラム 図15
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御方法およびプログラム 図16
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御方法およびプログラム 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092605
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】電力系統制御装置、電力系統制御方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20230627BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20230627BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20230627BHJP
   G06Q 50/06 20120101ALI20230627BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/38 120
H02J13/00 311R
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207725
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 洋平
(72)【発明者】
【氏名】松崎 隆久
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】守田 俊也
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
5L049
【Fターム(参考)】
5G064AA04
5G064AC05
5G064AC09
5G064CB13
5G064CB14
5G064DA01
5G066AA03
5G066AA08
5G066AE09
5L049CC06
(57)【要約】
【課題】電力系統を適切に制御できる電力系統制御装置を提供する。
【解決手段】電力系統に含まれる複数のエリアの各々において所定の種類に属する発電量である所定種発電量PR-1~PR-n,PRE-1~PRE-nを取得する発電量取得部110と、複数の前記エリアにおける送電線の線路インピーダンスを含む系統構成情報DD-1~DD-nを取得する系統構成取得部120と、前記電力系統に対する系統対策を立案する系統対策計画部130と、複数の前記エリアの何れかに含まれる発電機の力率を指令するエリア制御指令DS-1~DS-nを出力する制御指示部140と、をことを特徴とする電力系統制御装置100に備えた。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統に含まれる複数のエリアの各々において所定の種類に属する発電量である所定種発電量を取得する発電量取得部と、
複数の前記エリアにおける送電線の線路インピーダンスを含む系統構成情報を取得する系統構成取得部と、
前記電力系統に対する系統対策を立案する系統対策計画部と、
複数の前記エリアの何れかに含まれる発電機の力率を指令するエリア制御指令を出力する制御指示部と、を備え、
前記系統対策計画部は、
前記所定種発電量と、前記系統構成情報と、に基づいて、前記発電機の力率を変更した際の効果を評価し、評価結果を評価データとして出力する効果評価部と、
前記評価データに基づいて、前記制御指示部に前記エリア制御指令を出力させる系統対策検討部と、を備える
ことを特徴とする電力系統制御装置。
【請求項2】
前記所定種発電量は、陸上風力、洋上風力、太陽光、波力、潮力、流水、地熱、またはバイオマスによる発電量である再生可能エネルギー発電量、若しくは前記再生可能エネルギー発電量の予測値を含む量である
ことを特徴とする請求項1に記載の電力系統制御装置。
【請求項3】
前記系統対策計画部は、前記所定種発電量と、前記系統構成情報と、に基づいて、複数の前記エリアに跨る電力系統断面の内容を表す広域断面情報を作成する広域系統断面作成部と、
解析を行うべき故障条件を表す想定故障条件データを選定する想定故障条件選定部と、
選定された前記想定故障条件データに係る故障が発生した際の潮流計算と、過渡安定度計算とを行い、その結果を系統影響度評価情報として出力する系統影響度評価部と、をさらに備え、
前記系統対策検討部は、前記系統影響度評価情報に基づいて電力系統の安定度を向上させる対策の立案結果である対策案データを出力し、
前記効果評価部は、前記対策案データの検証結果として前記評価データを出力する
ことを特徴とする請求項2に記載の電力系統制御装置。
【請求項4】
前記広域系統断面作成部は、前記発電量取得部から、複数の前記エリアについて、前記再生可能エネルギー発電量、または前記予測値と、前記系統構成情報と、を取得することによって、前記広域断面情報を作成する
ことを特徴とする請求項3に記載の電力系統制御装置。
【請求項5】
前記系統影響度評価部は、前記広域断面情報と、前記想定故障条件データと、に基づいて、事故時および平常時における系統制約条件を求める
ことを特徴とする請求項3に記載の電力系統制御装置。
【請求項6】
前記系統制約条件は、同期安定性における発電機内部相差角、周波数安定性における周波数の最大または最小値、電圧安定性におけるP-Vカーブのノーズポイントまでの負荷余裕、過渡的な電圧、若しくは過渡的な過負荷のうち何れかを含む
ことを特徴とする請求項5に記載の電力系統制御装置。
【請求項7】
前記系統影響度評価部は、前記系統制約条件を満たせないことが判明した際に、課題が生じる電力系統の位置である課題発生位置を特定する
ことを特徴とする請求項6に記載の電力系統制御装置。
【請求項8】
前記対策案データは、前記想定故障条件データに対応する前記課題発生位置における前記課題に対して、その力率を変更した場合には前記課題を緩和できる前記発電機を特定する情報を含む
ことを特徴とする請求項7に記載の電力系統制御装置。
【請求項9】
前記評価データは、前記発電機の力率を変更した際の効果を検証した情報を含む
ことを特徴とする請求項8に記載の電力系統制御装置。
【請求項10】
前記評価データは、前記系統制約条件のうち何れかに対応する効果を評価した結果を含む
ことを特徴とする請求項9に記載の電力系統制御装置。
【請求項11】
前記系統対策検討部は、前記制御指示部に対して前記発電機の力率変更指示を含む対策実行指令を送信し、
前記制御指示部は、前記対策実行指令に基づいて、前記発電機の力率を変更する
ことを特徴とする請求項10に記載の電力系統制御装置。
【請求項12】
前記系統対策検討部が前記制御指示部に対して前記対策実行指令を送信した後、
前記制御指示部は、さらに、前記対策実行指令に基づいて、前記発電機の出力を変更する
ことを特徴とする請求項11に記載の電力系統制御装置。
【請求項13】
前記効果評価部からの情報を用いて便益を評価する便益評価部と、
制御指示部からの情報を用いて投資費用を評価する投資費用評価部と、
前記便益と前記投資費用との関係を表す評価結果を出力する投資費用便益評価部と、をさらに備え、
前記便益は、化石燃料の削減費用、二酸化炭素排出権買取の削減費用、または系統増強の削減費用のうち何れかに関するものであり、
前記投資費用は、売電機会のロス、発電機制御に要する人件費、または機器疲労による耐用年数低下のうち何れかに関する費用であり、
前記評価結果は前記便益を前記投資費用で除算した結果、または前記便益から前記投資費用を減算した結果である
ことを特徴とする請求項1に記載の電力系統制御装置。
【請求項14】
電力系統に含まれる複数のエリアの各々において所定の種類に属する発電量である所定種発電量を取得する発電量取得ステップと、
複数の前記エリアにおける送電線の線路インピーダンスを含む系統構成情報を取得する系統構成取得ステップと、
前記電力系統に対する系統対策を立案する系統対策計画ステップと、
複数の前記エリアの何れかに含まれる発電機の力率を指令するエリア制御指令を出力する制御指示ステップと、を有し、
前記系統対策計画ステップは、
前記所定種発電量と、前記系統構成情報と、に基づいて、前記発電機の力率を変更した際の効果を評価し、評価結果を評価データとして出力する効果評価ステップと、
前記評価データに基づいて、前記制御指示ステップにおいて前記エリア制御指令を出力させる系統対策検討ステップと、を有する
ことを特徴とする電力系統制御方法。
【請求項15】
コンピュータを、
電力系統に含まれる複数のエリアの各々において所定の種類に属する発電量である所定種発電量を取得する発電量取得手段、
複数の前記エリアにおける送電線の線路インピーダンスを含む系統構成情報を取得する系統構成取得手段、
前記電力系統に対する系統対策を立案する系統対策計画手段、
複数の前記エリアの何れかに含まれる発電機の力率を指令するエリア制御指令を出力する制御指示手段、として機能させるためのプログラムであって、
前記系統対策計画手段は、
前記所定種発電量と、前記系統構成情報と、に基づいて、前記発電機の力率を変更した際の効果を評価し、評価結果を評価データとして出力する効果評価手段と、
前記評価データに基づいて、前記制御指示手段に前記エリア制御指令を出力させる系統対策検討手段と、を備える
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統制御装置、電力系統制御方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、下記特許文献1の要約には、「配電線に対して連系若しくは解列される発電機と当該発電機を制御する発電機制御装置とを有した分散型電源システムの運用方法において、前記発電機が連系状態から解列状態へと移行した場合の連系点における電圧変動制限量を設定しておき、前記発電機制御装置によって、前記発電機の出力変動量及び前記連系点の電圧変動量を取得し、前記発電機の出力及び前記連系点の電圧が同一の割合で変動するものと見なして、前記発電機の基準出力と前記出力変動量の比と、前記電圧変動量とに基づき、前記発電機が連系状態から解列状態へと移行した場合における前記連系点の電圧降下推定量を求め、前記電圧降下推定量が前記電圧変動制限量の範囲内であるか否かを判定し、前記電圧降下推定量が前記電圧変動制限量の範囲外である旨を判定した場合、前記電圧降下推定量を前記電圧変動制限量の範囲内へと収めるべく前記発電機の運転力率を調整すること、とする。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-53866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した技術において、電力系統を一層適切に制御したいという要望がある。
この発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、電力系統を適切に制御できる電力系統制御装置、電力系統制御方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため本発明の電力系統制御装置は、電力系統に含まれる複数のエリアの各々において所定の種類に属する発電量である所定種発電量を取得する発電量取得部と、複数の前記エリアにおける送電線の線路インピーダンスを含む系統構成情報を取得する系統構成取得部と、前記電力系統に対する系統対策を立案する系統対策計画部と、複数の前記エリアの何れかに含まれる発電機の力率を指令するエリア制御指令を出力する制御指示部と、を備え、前記系統対策計画部は、前記所定種発電量と、前記系統構成情報と、に基づいて、前記発電機の力率を変更した際の効果を評価し、評価結果を評価データとして出力する効果評価部と、前記評価データに基づいて、前記制御指示部に前記エリア制御指令を出力させる系統対策検討部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、電力系統を適切に制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態における電力系統等の模式図である。
図2】コンピュータのブロック図である。
図3】電力系統制御装置の機能を示すブロック図である。
図4】広域断面情報の一例を示す図である。
図5】想定故障条件データの構成を示す図である。
図6】広域断面情報の他の例を示す図である。
図7】系統事故解析画面の一例を示す図である。
図8】広域断面情報のさらに他の例を示す図である。
図9】系統事故解析画面の他の例を示す図である。
図10】第1実施形態における発電機力率曲線の一例を示す図である。
図11】第1実施形態における送電線電圧の例を示す図である。
図12】第2実施形態における発電機力率曲線の一例を示す図である。
図13】第2実施形態における送電線電圧の例を示す図である。
図14】第3実施形態による電力系統制御装置のブロック図である。
図15】便益評価テーブルの一例を示す図である。
図16】投資費用評価テーブルの一例を示す図である。
図17】投資費用便益評価部の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施形態の概要]
2015年の第21回気候変動枠組条約締結会議(COP21:Conference Of the Parties 21)において「パリ協定」が採択され、2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際的な枠組みが示された。日本はこの中で、2030年度に温室効果ガス排出量を2013年度比で26.0%、2050年に80%削減することを目標としている。この目標を達成するために、資源エネルギー庁では2015年の「長期エネルギー需給見通し」で、中期目標として2030年度の電源構成におけるRE比率を22-24%とする方針である。この方針の下、日本では太陽光、風力、バイオマス、地熱および水力発電といった再生可能エネルギー(RE:Renewable Energy)の導入が進んでいる。日本におけるREの全発電電力量に占める割合は、2014年度の12%から2019年度には16%まで増えており、今後もこの割合は増加する見通しである。
【0009】
しかしながら、REが連結される電力系統には、需給バランス、送電容量超過、電圧変動、周波数変動、安定性などの様々な課題が生じることが予想されている。これは、太陽光や風力発電などの変動型再生可能エネルギー(Variable Renewable Energy:VRE)の出力が時々刻々と変化する気象状況に影響されることや、火力の同期発電機の数が減少することで系統慣性が小さくなること、また太陽光や風力発電の適地が限定的であるため、VREの発電地から需要地まで電力を届ける際の送電容量が増加し、局所的な送電線の過負荷が生じやすいことなどに起因している。
【0010】
このような課題に対し、VREによる電力を供給地から需要地まで安定に供給するための系統増強が計画されている。例えば国内においては、今後の接続量の増加が見込まれる千葉の洋上風力、秋田沖の洋上風力発電については、需要地である東京方面への送電線の本数を増やし、送電容量を増加するための工事が計画されている。また、同様に今後の接続量の増加が見込まれる九州の太陽光発電については、中国九州間連系線の運用容量の増強が計画されている。しかしながら、これらの系統増強計画にかかる費用の膨大化が課題となっている。
【0011】
このように、単純にVREの比率を高めるのみならず安定性や経済性も同時に考慮する必要のある状況において、既存設備の制御を高度化することで、投資を抑えつつ電力系統の安定性を確保することが重要となる。既設設備の制御高度化として、発電機の力率調節が挙げられる。力率調節とは、電源が発電する電力の内、有効電力と無効電力の供給割合を調節することである。有効電力とは、例えば家電製品を動作させるために消費される電力のことである。無効電力は電力としては消費されないが、系統の状況に応じて電源からエネルギーを入出力することにより、電力系統の電圧を維持する効果を有する。本来、電力会社は売電を目的としているため、有効電力の割合をなるべく高めるように各種機器を運転する。しかし、VRE増加に伴う電力系統の安定性の低下に対し、無効電力による系統安定性の向上が今後重要になると考えられる。
【0012】
上述した特許文献1の技術を応用すれば、分散型電源の発電機出力や配電線に対する連系状態から、連系点の電圧降下推定量を求め、風力発電機の運転力率を調整する分散型電源システムが構成できると考えられる。このように、既存発電機の力率を調節することは、再生可能エネルギーの接続量増加に伴う無効電力の供給量不足といった課題に対し、新規設備の設置よりも廉価で実現できるという利点がある。しかしながら、前述のように、これまでの発電機はなるべく有効電力を多く発電し、無効電力は接続される変電所における電圧に応じて出なりで発電していた。そのため、外部機関からの力率調節の指示に従い、経済性を損ねてでも無効電力を発電するようなプロセスを有していない。
【0013】
このようなプロセスを構築する際の課題について、系統安定化を担う送配電事業者と、発電機を有する発電事業者の観点から整理する。送配電事業者としては、例えば九州で発電した電力を主需要地である関西に送電するなど、電力の発電地と需要地が地理的に離れ、各エリア間を跨いだ電力の送電が行われるため、電力系統の事故に対する施策を検討する際に、自身の所掌の電力系統管内のみではなく、他送配電事業者が管轄の電力系統も考慮する要請が高まる、という課題が生じる。これは、再生可能エネルギーの導入適地が遍在しており、電力の発電地と消費地が地理的に離れることに起因している。
【0014】
そのため、そのような長距離送電が発生した際の課題抽出や、課題解決に向けた発電機力率の決定に際し、異なる送配電事業者のデータを収集するための枠組みを構築することが好ましい。また発電事業者としては、送配電事業者から直接的に力率調節に関する指示を受けるプロセスが無いため、発電事業者のみで系統安定化に必要となる発電機力率の決定が困難という課題がある。更に、力率を調節し無効電力を多く出すような発電機の運転は、上記のように経済性を損ねる可能性があるため、発電事業者が系統安定化に貢献することに対して便益を享受できるような仕組みを構築することが好ましい。
【0015】
そこで後述する実施形態では、送配電事業者と発電事業者の情報を統合して、発電機の力率を調節し系統安定性を向上させるシステムを実現した。詳細は後述するが、後述の実施形態では送配電事業者は、複数の電力会社を跨ぐような、各エリアの電力系統を模擬した広域な電力系統の断面を作成する。次に、作成した広域電力系統を対象とした系統解析を実行し、力率を変更することで系統安定性の向上に貢献できる発電機を抽出する。この抽出結果に基づいて、発電事業者は発電機の力率を調節し、有効電力と無効電力の割合やそれらの量を調節する。調節された結果、例えばVRE接続量の増加などの便益を、送配電事業者と発電事業者で共有し、相互に利益を得られるような仕組みを構築することが好ましい。このように、後述する実施形態によれば、送配電事業者と発電事業者が一体となり情報をやり取りするシステムにより、系統増強費用を低減しながら、電力系統の安定性を向上させることで、温室効果ガスの排出量削減を達成することが可能となる。
【0016】
[第1実施形態]
〈電力系統〉
図1は、第1実施形態における電力系統250等の模式図である。
電力系統250は、複数の(n個の)エリアAR-1~AR-nに分割されている。これらエリアAR-1~AR-nのうち一部は、発電プラント252を備えている。発電プラント252は、例えば、火力や原子力の発電プラントであってもよく、再生可能エネルギーの発電プラントであってもよい。また、エリアAR-1~AR-nのうち一部は、発電機260,262,264を備えている。発電機260,262,264は主として同期発電機であり、フライホイール等を備えていてもよい。また、これら発電機は発電プラント252の構成要素であってもよい。そして、電力系統制御装置100は、各発電機260,262,264の力率等を制御するものである。
【0017】
なお、各エリアAR-1~AR-nは、同一の送配電事業者の管轄下にあってもよく、異なる送配電事業者の管轄下にあってもよい。また、以下の説明において、同一または同様の機能、意義を有する構成要素や情報等が複数ある場合には、例えば「エリアAR-1」、「エリアAR-n」のように同一の符号に「-」と数値を付して説明する場合がある。但し、これら複数の構成要素等を区別する必要がない場合には、例えば「エリアAR」のように「-」と数値を省略して説明する場合がある。
【0018】
〈電力系統制御装置〉
図2は、コンピュータ900のブロック図である。
図1に示した電力系統制御装置100は、図2に示すコンピュータ900を、1台または複数台備えている。図2において、コンピュータ900は、CPU901と、RAM902と、ROM903と、HDD904と、通信I/F905と、入出力I/F906と、メディアI/F907と、を備える。通信I/F905は、通信回路915に接続される。入出力I/F906は、入出力装置916に接続される。メディアI/F907は、記録媒体917からデータを読み書きする。ROM903には、CPUによって実行される制御プログラム、各種データ等が格納されている。CPU901は、RAM902に読み込んだアプリケーションプログラムを実行することにより、各種機能を実現する。
【0019】
図3は、電力系統制御装置100の機能を示すブロック図であり、図中の各ブロックは、アプリケーションプログラム等によって実現される機能を示している。すなわち、電力系統制御装置100は、RE発電量取得部110(発電量取得手段、発電量取得部、発電量取得ステップ)と、系統構成取得部120(系統構成取得ステップ、系統構成取得手段)と、系統対策計画部130(系統対策計画ステップ、系統対策計画手段)と、制御指示部140(制御指示ステップ、制御指示手段)と、表示制御部150と、を備えている。なお、「RE」は再生可能エネルギー(Renewable Energy)の略である。
【0020】
(RE発電量取得部110)
RE発電量取得部110は、REデータベース112を備えている。REデータベース112は、RE導入量PR-1~PR-n(再生可能エネルギー発電量、所定種発電量)と、RE導入予測値PRE-1~PRE-n(所定種発電量、予測値)と、を記憶する。ここで、RE導入量PR-1~PR-nは、電力系統250の各エリアAR-1~AR-n(図1参照)における、現在の再生可能エネルギーの導入量(再生可能エネルギーによる発電量)を表すものである。また、RE導入予測値PRE-1~PRE-nは、将来におけるRE導入量PR-1~PR-nの予測値である。ここで、再生可能エネルギーとは、例えば陸上風力、洋上風力、太陽光、波力、潮力、流水、地熱、またはバイオマスによる発電量である。但し、再生可能エネルギーは、これらのものに限定されるわけではない。
【0021】
(系統構成取得部120)
系統構成取得部120は、系統構成データベース122を備えている。系統構成データベース122は、各エリアAR-1~AR-n(図1参照)について、系統構成情報DD-1~DD-nを記憶する。各系統構成情報DDは、当該エリアについて、以下の情報を含んでいる。
・系統構成(送配電線の接続関係)、
・各送電線の線路インピーダンス(R+jX)、
・各送電線の対地静電容量(サセプタンス:jB)、
・将来の系統増強計画情報に含まれる系統構成、
・当該エリアに含まれる発電機の仕様
さらに、系統構成情報DDは、各種潮流計算、状態推定、および時系列変化計算のために、上述した以外の種々のデータを含んでいる。
【0022】
(系統対策計画部130)
系統対策計画部130は、RE発電量取得部110および系統構成取得部120から取得した各種情報を参照し、電力系統の系統対策を立案し、電力系統の増強計画のため、これら各種情報による効果を評価する。系統対策計画部130は、広域系統断面作成部131と、想定故障条件選定部132と、系統影響度評価部133と、系統対策検討部135(系統対策検討ステップ、系統対策検討手段)と、効果評価部136(効果評価ステップ、効果評価手段)と、を備えている。系統対策計画部130は、各エリアの電力系統を網羅した広域な電力系統250に基づき、系統増強が必要な場所を特定する系統増強計画情報を記憶する。
【0023】
(広域系統断面作成部131)
広域系統断面作成部131は、RE導入予測値PREと、系統構成情報DDと、に基づいて、広域断面情報DEと、エリア断面情報DF-1~DF-nと、を生成する。ここで、広域断面情報DEとは、各エリアAR1~Anを跨って網羅した電力系統断面(時刻断面)を表す情報であり、再生可能エネルギー接続時における電力系統250の状態を模擬する情報である。また、エリア断面情報DF-1~DF-nは、各エリアAR-1~AR-nについての電力系統断面(時刻断面)を表す情報である。
【0024】
ところで、1日毎、1年間等の期間において、RE出力や発電機出力等は様々変化する。そのため、広域系統断面作成部131は、複数の時刻断面についてエリア断面情報DFおよび広域断面情報DEを作成する。作成する時刻断面の数は、対象とする電力系統250(図1参照)の状態によって異なるが、1日をいくつかの時間ごとに分割し、それを1年分集めたものを用意するとよい。例えば、1日を24時間に分割した場合、1年分の断面は、24×365=8640断面になる。
【0025】
(想定故障条件選定部132)
想定故障条件選定部132は、広域系統断面作成部131で作成された広域断面情報DEおよびエリア断面情報DFに基づいて、電力系統250の事故が発生した際の安定度を評価するために、想定故障条件データDGを作成する。ここで、電力系統の事故とは、例えば送電線の地絡事故や、発電機の脱落等の事故である。また、想定故障条件データDGによって評価される安定度とは、例えば、同期安定性、電圧安定性、周波数安定性などである。
【0026】
(系統影響度評価部133)
系統影響度評価部133は、広域断面情報DE、エリア断面情報DF、想定故障条件データDGに基づいて、系統事故前(平常時)および系統事故時における系統制約条件DIを計算する。ここで系統制約条件DIとは、同期安定性における発電機内部相差角や、周波数安定性における周波数の最大値および最小値、電圧安定性におけるP-Vカーブのノーズポイントまでの負荷余裕、過渡的な電圧、および過渡的な過負荷などである。
系統影響度評価部133は、広域系統断面作成部131で作成した広域断面情報DEおよびエリア断面情報DFを用いて、想定故障条件選定部132で選定された想定故障ケース(図5参照。C1,C2等)を模擬して、故障が発生した際の潮流計算と、過渡安定度計算とを行い、系統事故時の安定度を評価する。そして、系統影響度評価部133は、安定度の評価結果を系統影響度評価情報DJとして出力する。
さらに、系統影響度評価部133は、選択された想定故障ケースが発生した際の潮流計算、過渡安定度計算を実行する。
【0027】
(系統対策検討部135)
系統対策検討部135は、系統影響度評価部133から出力された系統制約条件DIおよび系統影響度評価情報DJに基づいて、系統事故時に系統制約条件DIを充足できない場合の対策として、発電機の力率調節による系統安定度が向上する効果を検証する。すなわち、系統対策検討部135は、系統影響度評価部133で評価された結果に基づき、電力系統の安定度を向上させる対策を立案し、その結果を対策案データDMとして出力する。
【0028】
(効果評価部136)
効果評価部136は、対策案データDMに示された発電機の力率調節の内容を評価(検証)し、その評価結果を評価データDPとして、系統対策検討部135に出力する。この評価データDPが、「発電機の力率を調節することで系統安定性の向上が所定値以上期待できる」ことを示す場合、系統対策検討部135は、制御指示部140に対して、対策案データDMに基づいて、例えば「発電機の力率を変更する」等の対策実行指令DRを送信する。
【0029】
(制御指示部140)
制御指示部140は、エリアAR-1~AR-n(図1参照)に対応する複数の制御部142-1~142-nを備えている。制御部142-1~142-nは、対応するエリアAR-1~AR-nに対して、発電機の力率変更等を指令するエリア制御指令DS-1~DS-nを出力する。制御部142の制御対象は、各エリアARに含まれる発電機や負荷等であるが、その他、バッテリー、充放電可能な二次電池、電気自動車の蓄電池、フライホイール、調相設備等であってもよい。
【0030】
各エリアAR-1~AR-nに出力されたエリア制御指令DS-1~DS-nは、RE発電量取得部110および系統構成データベース122にも転送される。これにより、RE発電量取得部110は、RE導入予測値PRE-1~PRE-nをエリア制御指令DS-1~DS-nに基づいて更新する。同様に、系統構成取得部120は、系統構成情報DD-1~DD-nの内容を、エリア制御指令DS-1~DS-nに基づいて更新する。
【0031】
(表示制御部150)
表示制御部150は、電力系統制御装置100内における各種情報を入出力装置916(図2参照)に含まれるディスプレイ等に表示する。
【0032】
〈各種情報等の詳細〉
以下、上述した各種情報等の詳細を説明する。
まず、図4は、広域断面情報DEの一例を示す図である。
図4において、広域断面情報DEは、電力系統250(図1参照)の一部の状態を表すものである。図示の例において、広域断面情報DEは、2つのエリアAR-10,AR-11を含んでいる。エリアAR-10は、RE発電部210と、電力需要地230と、両者を接続する送電線220と、を含んでいる。そして、RE発電部210は、3台のRE電源212,214,216を備えている。
【0033】
また、エリアAR-11は、2つの電力需要地232,234を含んでいる。エリアAR-10のRE発電部210と、エリアAR-11の電力需要地232とは、送電線222によって接続されている。また、エリアAR-11内の電力需要地232,234は、送電線224によって接続されている。これにより、RE発電部210は、電力需要地230,232,234に電力を供給する。
【0034】
なお、このように、広域系統断面作成部131(図2参照)が作成するエリア断面情報DFは、必ずしも一つのエリア(例えばAR-1)に含まれる要素を記述するのみならず、複数のエリアに含まれる要素を記述することができる。すなわち、図4に示す例において、エリア断面情報DFは、エリアAR-1におけるRE発電部210、送電線220、電力需要地230と、エリアAR-2における電力需要地232,234と、送電線224と、を模擬する。
【0035】
図5は、想定故障条件データDGの構成を示す図である。
図5において、想定故障条件データDGは、様々な日時に対応して複数作成されており、これらの集合を想定故障条件データベース300と呼ぶ。想定故障条件データベース300は、想定故障条件選定部132(図3参照)に記憶されている。各想定故障条件データDGは、日時データ301と、想定故障ケース欄302と、故障箇所欄303と、故障様相欄304と、を含んでいる。ここで、複数の想定故障条件データDGにおける日時データ301の間隔は、任意の間隔でよい。
【0036】
想定故障ケース欄302には、様々な故障態様に応じた想定故障ケースの番号(C1,C2,…)が格納されている。故障箇所欄303には、想定する故障個所が格納されている。また、故障様相欄304には、想定した故障に係る線路の相、線数、故障様態等が格納されている。
【0037】
例えば、想定故障ケースC1等の故障様相欄304には、「3φ6LG(ABCA’B’C’)」なる文字列データが記憶されている。この文字列のうち「3φ6LG」の部分は、三相六線地絡事故であることを示している。また、「(ABCA’B’C’)」は、A相とB相とC相とA’相とB’相とC’相とが地絡したことを示している。図5における想定故障ケースC1は、送電線A1(図示せず)の送電端において、三相六線地絡故障が生じることを示している。
【0038】
同様に、想定故障ケースC2は、送電線A2(図示せず)の送電端において、三相六線地絡故障が生じることを示している。同様に、想定故障ケースC3は、送電線A1,A2の双方の送電端において、三相六線地絡故障が生じることを示している。また、想定故障ケースC4は、電源サイトPS1(図示せず)の脱落事故が生じることを示している。また、想定故障ケースC5は、送電線B1(図示せず)の送電端において、三相六線地絡故障が生じることを示している。
【0039】
このように、想定故障条件データベース300が種々の情報を含むため、想定故障条件選定部132(図3参照)は種々の想定故障条件を選定できる。また、系統影響度評価部133(図3参照)は種々の想定故障条件に対して系統影響度評価情報DJを算出することができる。
【0040】
図6は、広域断面情報DEの他の例を示す図である。
図6に示す広域断面情報DEは、系統事故発生時におけるものであり、図4に示した要素に加えて、系統事故情報401,402,403が追加されている。これら系統事故情報401,402,403は、それぞれ、送電線220,222,224に発生した事故に関する情報であり、図示の位置は、系統事故が発生した位置である。
【0041】
(系統事故解析画面5)
図7は、系統事故解析画面5の一例を示す図である。
なお、系統事故解析画面5は、表示制御部150によって表示される画面である。
系統事故解析画面5は、系統図表示欄501と、凡例表示欄504と、日付欄512と、時刻欄514と、想定故障条件選定結果部530と、を含んでいる。
【0042】
系統図表示欄501は、電力系統250(図1参照)の系統図を図示する領域であり、その内容は広域系統断面作成部131によって作成される。系統図表示欄501には、同期機電源、RE電源、負荷、変圧器、母線および線路などといった系統情報がアイコンや記号として示されている。なお、同期機電源は、例えば上述した発電機260,262,264である。凡例表示欄504は、系統図表示欄501に示されているアイコンや記号等の意味を示す領域である。また、日付欄512および時刻欄514は、ユーザの操作によって、日付および時刻を指定可能になっており、指定された日付および時刻を表示する。系統図表示欄501および後述する想定故障条件選定結果部530の内容は、日付欄512および時刻欄514で指定された日付および時刻に応じて変化する。
【0043】
想定故障条件選定結果部530は、列方向に想定故障ケース欄531と、系統安定化制御量欄の電制量欄532および負制量欄533と、発電機位相角欄534と、電圧欄535と、周波数欄536と、を含んでいる。そして、これらの欄によって、想定故障条件選定結果部530は、潮流計算および過渡安定度の解析結果を表示する。
【0044】
想定故障条件選定結果部530の行方向は、想定故障ケースC1,C2,…であり、これは想定故障条件データベース300(図5参照)のものと同様である。発電機位相角欄534、電圧欄535および周波数欄536は、想定故障ケースC1,C2,…に対して、それぞれ、発電機位相角、電圧および周波数について、系統制約条件DIを充足できるか否かを表示している。すなわち、系統制約条件DIを充足できる場合は「○」を表示し、系統制約条件DIを充足できない場合を「×」を表示している。系統制約条件DIは、例えば「系統事故時においても発電機位相角を100度以下に維持できる」等の制約であり、その具体的な内容は電力系統250の構成等に応じて、適宜定められる。
【0045】
図8は、広域断面情報DEのさらに他の例を示す図である。
図8に示す広域断面情報DEは、図4に示した要素に加えて、系統事故情報402および発電機260,262,264が追加されている。同図は、力率制御の対象となる発電機を特定する手順を説明するため図である。まず、送電線222に系統事故情報402に係る事故が発生したとする。この状態は、図7に示した想定故障条件選定結果部530の想定故障ケースC4に相当する。図7の想定故障ケースC4に示した例では、発電機位相角、電圧および周波数の何れについても、系統制約条件DIを充足できない。
【0046】
この「系統制約条件DIを充足できない」という判定結果は、系統影響度評価部133(図3参照)から系統対策検討部135に供給される系統影響度評価情報DJの中に含まれている。そこで、系統対策検討部135は、系統制約条件DIおよび系統影響度評価情報DJに基づいて、課題発生位置PPを特定する。ここで、「課題発生位置PP」とは、系統制約条件DIが満たせなかった場合に、所定の電力品質を満たせないという課題が生じる、電力系統250上の位置である。図8の例においては、例えば電力需要地232が課題発生位置PPになる。
【0047】
系統対策検討部135は、課題発生位置PPにおける電力品質を向上させるために、慣性力や無効電力を供給できる発電機を選定する。図8の例においては、発電機262が選定されたとする。この発電機262は、系統事故情報402の位置よりもエリアAR-11側の送電線222に接続されている。このため、発電機262は、課題解決に貢献可能となる発電機である。
【0048】
この場合、系統対策検討部135が出力する対策案データDMは、発電機262を指定する情報と、発電機262が出力すべき有効電力および無効電力と、を含む情報である。但し、発電機262が出力すべき有効電力および無効電力に代えて、対策案データDMによって発電機262の力率を指定してもよい。系統対策検討部135は、このような系統事故情報402に対して、選定した発電機262の力率を変更することによる系統安定度の向上度合いも解析する。そして、この系統安定度の向上度合いも、対策案データDMに含まれる。
【0049】
図9は、系統事故解析画面5の他の例を示す図である。
図9の表示内容は想定故障条件選定結果部530の想定故障ケースC4の行を除いて、図7に示したものと同様である。想定故障ケースC4の行において、発電機位相角欄534、電圧欄535および周波数欄536には、「×→○」と表示されている。これは、対策案データDMを適用する前では「×」(系統制約条件DIを充足できない)であるが、対策案データDMを適用すれば(上述の例では発電機262の力率を変更すれば)「○」(系統制約条件DIを充足できる)に変化する、という意味である。
【0050】
系統事故解析画面5の表示内容が、図7のものから図9のものに変遷するまでの処理を、図3を参照して説明する。系統対策検討部135が出力した対策案データDMは、効果評価部136に供給される。効果評価部136は、示された対策案(上述の例では発電機262の力率変更)の効果について、評価、検証を行い、その結果を評価データDPとして出力する。図9における系統事故解析画面5は、当該評価データDPの内容に基づいて、想定故障ケースC4の発電機位相角欄534、電圧欄535および周波数欄536の表示内容を更新したものである。
【0051】
このように、対策案データDMに対する評価データDPが肯定的(系統安定性の向上が期待できる)である場合には、系統対策検討部135は、制御指示部140に対して、該対策案データDMの内容を対策実行指令DRとして送信する。
【0052】
図10は、第1実施形態における発電機力率曲線の一例を示す図である。
ここで、「発電機力率曲線」とは、発電機の有効電力と無効電力の割合の変更可能範囲を示すものである。図10において、横軸が有効電力Pを示し、縦軸が無効電力Qを示している。無効電力Qが正である場合(遅れ供給量802の方向である場合)、発電機は過励磁状態であり、その出力電流が遅れ位相になる。また、無効電力Qが負である場合(進み供給量804の方向である場合)、発電機は低励磁状態であり、その出力電流が進み位相になる。換言すれば、発電機固定子の励磁電流を変更することにより、遅れ供給量802および進み供給量804を調整することができ、これによって有効電力と無効電力の割合を調節することができる。破線806は、定格容量における遅れ力率の限界であり、破線808は、定格容量における進み力率の限界である。
【0053】
図10における点820は、障害が発生する前の発電機の動作点である。図中の点810A,810B,810C,810Dを通る略半円形の曲線を発電機力率曲線810と呼ぶ。ここで、図示の点810A,810Bは、発電機の回転子コイルに流せる励磁電流の最大値等に応じて決定される。また、点810B,810Cは、発電機の固定子コイルに流せる電機子電流の最大値等に応じて決定される。
【0054】
また、点810C,810Dは、固定子鉄心や、固定子鉄心端部の温度上昇等に応じて決定される。そして、制御部142(図3参照)は、発電機力率曲線810と、縦軸とで囲まれた略半円領域の内部であれば、動作点を自由に設定することができる。例えば、制御部142は、点822に動作点を移動させることができる。
【0055】
図11は、第1実施形態における送電線電圧の例を示す図である。
図11において、縦軸は送電線電圧Vであり、横軸は時刻tである。電圧変化特性920,922は、それぞれ、発電機の動作点が点820,822(図10参照)である場合の特性である。また、電圧変化特性920,922は、何れも、時刻t1に想定故障ケースC4(図9参照)の系統事故が発生した場合の特性である。また、レベルV1は、系統運用者が定める、電圧の運用目標値である。
【0056】
発電機の動作点が点820(図10参照)である場合、時刻t1に系統事故が発生すると、電圧変化特性920に示すように、やがて送電線電圧VはレベルV1を下回る。そこで、このような場合は、図10において、動作点を点822に移動させるとよい。これにより、送電線電圧Vは電圧変化特性922に沿って変化するようになるため、送電線電圧VがレベルV1以上になるように、送電線電圧Vを制御することができる。
【0057】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。なお、以下の説明において、上述した第1実施形態の各部に対応する部分には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
第2実施形態の構成および動作は第1実施形態のもの(図1図9)と略同様である。但し、第1実施形態では、図10に示したように、発電機出力を略一定とし、発電機の発電機力率曲線810上で有効電力と無効電力の共有割合を変化させるものであった。これに対して、本実施形態では、発電機の出力を変化させ、有効電力の絶対値を小さくすることで、送電線事故前の電力系統の潮流を抑制し事故時の安定度を向上させるものである。
【0058】
図12は、第2実施形態における発電機力率曲線の一例を示す図である。
図12に示す発電機力率曲線810は、第1実施形態のもの(図10参照)と同様である。但し、本実施形態において、制御部142(図3参照)は、障害が発生する前の発電機の動作点が点830であった場合、動作点を点830から点832に移動させ、しかる後に点834に移動させる。この点で本実施形態の動作は第1実施形態のものとは異なる。
【0059】
すなわち、本実施形態では、動作点を点834に移動させることにより、発電機が出力する無効電力を比較的大きな値に維持しつつ、発電機が出力する有効電力を大きく抑制することができる。これにより、当該発電機が例えばタービンで駆動されている場合、タービンで消費される燃料の量を抑制することができ、より経済的に発電機を運用することができる。
【0060】
図13は、第2実施形態における送電線電圧の例を示す図である。
図13においても、縦軸は送電線電圧Vであり、横軸は時刻tである。そして、電圧変化特性930,932,934は、それぞれ、発電機の動作点が点830,832,834(図12参照)である場合の特性である。また、電圧変化特性930,932,934は、何れも、時刻t1に想定故障ケースC4(図9参照)の系統事故が発生した場合の特性である。また、レベルV2は、本実施形態における運用目標値である。動作点を点834に移動した際の電圧変化934は、変更前の電圧変化930および変更途中の電圧変化932と比較して、送電線事故時の電圧低下を抑制できる。例えば、送電線電圧Vが、系統運用者が定める電圧の運用目標値V2未満にならないように調節することが可能である。
【0061】
[第3実施形態]
上述した第1,第2実施形態においては、発電機の動作点を点822(図10参照)または点834(図12参照)に移動させるものであった。しかし、このように動作点を移動させると、発電機が出力する有効電力は減少する。一般的に、発電事業者は、有効電力をなるべく多く出力し売電機会を増やしたいと考えるため、上述のように動作点を移動させることは、売電機会のロスにつながるという問題が生じる。そこで本実施形態では、発電機の力率調節による便益を送配電事業者側で評価し、その結果を発電事業者と共有することで、発電事業者もメリットを得られるようにした。
【0062】
図14は、第3実施形態による電力系統制御装置103のブロック図である。なお、以下の説明において、上述した他の実施形態の各部に対応する部分には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
電力系統制御装置103は、第1実施形態の電力系統制御装置100(図3参照)と同様の要素を備えている。さらに、電力系統制御装置103は、便益評価部152と、投資費用評価部154と、投資費用便益評価部160と、を備えている。
【0063】
図15は、便益評価部152に記憶されている便益評価テーブル310の一例を示す図である。
便益評価テーブル310は、項目欄312と、評価結果欄314と、を有している。項目欄312には、発電機の力率変化による便益を評価するための、各種項目が記憶されている。例えば、項目欄312には、RE導入に伴う化石燃料の削減費用、二酸化炭素排出権買取の削減費用、系統増強の削減費用等の項目が記憶されている。
【0064】
また、評価結果欄314には、これら各項目に対応する便益金額と、これら各項目の便益金額を合計した合計便益金額A(便益)と、が記憶されている。図14に示した便益評価部152は、この便益評価テーブル310に基づいて、発電機の力率変化による便益を経済的な観点から評価する。
【0065】
図16は、投資費用評価部154に記憶されている投資費用評価テーブル320の一例を示す図である。
投資費用評価テーブル320は、項目欄322と、評価結果欄324と、を有している。項目欄322には、発電機の力率変化を行う際の投資または損失額を評価するための各種項目が記憶されている。例えば、項目欄322には、例えば売電機会のロス、発電機制御に要する人件費、機器疲労による耐用年数低下等の項目が記憶されている。
【0066】
また、評価結果欄324には、これら各項目に対応する投資または損失の金額である投資金額と、これら各項目の投資金額を合計した合計投資金額B(投資費用)と、が記憶されている。図14に示した投資費用評価部154は、この投資費用評価テーブル320に基づいて、発電機の力率変化に対する投資費用または発電機の力率変化による損失費用を経済的な観点から評価する。
【0067】
図17は、投資費用便益評価部160の動作説明図である。
上述したように便益評価部152は合計便益金額Aを算出し、投資費用評価部154は合計投資金額Bを算出する。投資費用便益評価部160は、これらの金額に基づいて、発電機の力率を調節することに対する評価結果Cを算出する。評価結果Cは、例えば「C=A-B」によって算出してもよく、「C=A/B」によって算出してもよい。このように、評価結果Cを求めることによって、送配電事業者と発電事業者との間で利益を分配することが可能となる。例えば、「C=A-B」によって評価結果Cを算出した場合は、評価結果Cに係る金額を、送配電事業者と発電事業者とで分配することができる。
【0068】
[実施形態の効果]
以上のように上述の実施形態によれば、系統対策計画部130は、所定種発電量(PR-1~PR-n,PRE-1~PRE-n)と、系統構成情報DD-1~DD-nと、に基づいて、発電機260,262,264の力率を変更した際の効果を評価し、評価結果を評価データDPとして出力する効果評価部136と、評価データDPに基づいて、制御指示部140にエリア制御指令DS-1~DS-nを出力させる系統対策検討部135と、を備える。
【0069】
これにより、効果評価部136は発電機260,262,264の力率を変更した際の効果を評価し、評価結果を評価データDPとして出力するため、電力系統250を適切に評価できる。
【0070】
また、所定種発電量(PR-1~PR-n,PRE-1~PRE-n)は、陸上風力、洋上風力、太陽光、波力、潮力、流水、地熱、またはバイオマスによる発電量である再生可能エネルギー発電量(PR-1~PR-n)、若しくは再生可能エネルギー発電量(PR-1~PR-n)の予測値(PRE-1~PRE-n)を含む量であると一層好ましい。これにより、電力系統250が再生可能エネルギー発電部を含む場合に、再生可能エネルギー発電に伴って電力系統250に生じる不安定要因を適切に抑制できる。
【0071】
また、系統対策計画部130は、所定種発電量(PR-1~PR-n,PRE-1~PRE-n)と、系統構成情報DD-1~DD-nと、に基づいて、複数のエリアAR-1~AR-nに跨る電力系統断面の内容を表す広域断面情報DEを作成する広域系統断面作成部131と、解析を行うべき故障条件を表す想定故障条件データDGを選定する想定故障条件選定部132と、選定された想定故障条件データDGに係る故障が発生した際の潮流計算と、過渡安定度計算とを行い、その結果を系統影響度評価情報DJとして出力する系統影響度評価部133と、をさらに備え、系統対策検討部135は、系統影響度評価情報DJに基づいて電力系統の安定度を向上させる対策の立案結果である対策案データDMを出力し、効果評価部136は、対策案データDMの検証結果として評価データDPを出力すると一層好ましい。これにより、系統対策検討部135は、系統影響度評価情報DJに基づいて対策案データDMを出力することができ、効果評価部136は、対策案データDMの検証結果として評価データDPを出力することができる。
【0072】
また、広域系統断面作成部131は、発電量取得部(110)から、複数のエリアAR-1~AR-nについて、再生可能エネルギー発電量(PR-1~PR-n)、または予測値(PRE-1~PRE-n)と、系統構成情報DD-1~DD-nと、を取得することによって、広域断面情報DEを作成すると一層好ましい。これにより、複数のエリアAR-1~AR-nの再生可能エネルギー発電量(PR-1~PR-n)、または予測値(PRE-1~PRE-n)と、系統構成情報DD-1~DD-nと、に基づいて、一層適切な広域断面情報DEを作成することができる。
【0073】
また、系統影響度評価部133は、広域断面情報DEと、想定故障条件データDGと、に基づいて、事故時および平常時における系統制約条件DIを求めると一層好ましい。これにより、様々な想定故障条件データDGに基づいて、系統制約条件DIを求めることができる。
【0074】
また、系統制約条件DIは、同期安定性における発電機内部相差角、周波数安定性における周波数の最大または最小値、電圧安定性におけるP-Vカーブのノーズポイントまでの負荷余裕、過渡的な電圧、若しくは過渡的な過負荷のうち何れかを含むと一層好ましい。これにより、様々な想定故障条件データDGに対して、発電機内部相差角、周波数の最大または最小値等の具体的なパラメータの値を明確化することができる。
【0075】
また、系統影響度評価部133は、系統制約条件DIを満たせないことが判明した際に、課題が生じる電力系統の位置である課題発生位置PPを特定すると一層好ましい。これにより、課題発生位置PPを明確化することができる。
【0076】
また、対策案データDMは、想定故障条件データDGに対応する課題発生位置PPにおける課題に対して、その力率を変更した場合には課題を緩和できる発電機260,262,264を特定する情報を含むと一層好ましい。これにより、対策案データDMにおいて、課題を緩和できる発電機260,262,264を明確化することができる。
【0077】
また、評価データDPは、発電機260,262,264の力率を変更した際の効果を検証した情報を含むと一層好ましい。これにより、発電機260,262,264の力率を変更した際の効果を明確化することができる。
【0078】
また、評価データDPは、系統制約条件DIのうち何れかに対応する効果を評価した結果を含むと一層好ましい。これにより、系統制約条件DIに応じた評価データDPを取得できる。
【0079】
また、系統対策検討部135は、制御指示部140に対して発電機260,262,264の力率変更指示を含む対策実行指令DRを送信し、制御指示部140は、対策実行指令DRに基づいて、発電機260,262,264の力率を変更すると一層好ましい。これにより、発電機260,262,264の力率を、対策実行指令DRに応じて変更できる。
【0080】
また、系統対策検討部135が制御指示部140に対して対策実行指令DRを送信した後、制御指示部140は、さらに、対策実行指令DRに基づいて、発電機260,262,264の出力を変更すると一層好ましい。これにより、発電機260,262,264の出力を、対策実行指令DRに応じて変更できる。
【0081】
また、…は、効果評価部136からの情報を用いて便益(A)を評価する便益評価部152と、制御指示部140からの情報を用いて投資費用(B)を評価する投資費用評価部154と、便益(A)と投資費用(B)との関係を表す評価結果Cを出力する投資費用便益評価部160と、をさらに備えると一層好ましい。これにより、便益(A)と投資費用(B)とに応じた評価結果Cを取得できる。
【0082】
また、便益(A)は、化石燃料の削減費用、二酸化炭素排出権買取の削減費用、または系統増強の削減費用のうち何れかに関するものであると一層好ましい。これにより、化石燃料の削減費用等に応じた評価結果Cを取得できる。
【0083】
また、投資費用(B)は、売電機会のロス、発電機制御に要する人件費、または機器疲労による耐用年数低下のうち何れかに関する費用であると一層好ましい。これにより、売電機会のロス等に応じた評価結果Cを取得できる。
【0084】
また、評価結果Cは便益(A)を投資費用(B)で除算した結果、または便益(A)から投資費用(B)を減算した結果であると一層好ましい。これにより、適切な評価結果Cを取得できる。
【0085】
[変形例]
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上述した実施形態は本発明を理解しやすく説明するために例示したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について削除し、もしくは他の構成の追加・置換をすることが可能である。また、図中に示した制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上で必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。上記実施形態に対して可能な変形は、例えば以下のようなものである。
【0086】
(1)上記実施形態においては、「所定種発電量」として、RE導入量(再生可能エネルギー発電量またはその予測値)を適用した例を説明した。しかし、「所定種発電量」はRE導入量に限定されるものではなく、火力、水力、原子力等、任意の発電量を適用してもよい。
【0087】
(2)上記実施形態における電力系統制御装置100,103のハードウエアは一般的なコンピュータによって実現できるため、上述した各種処理を実行するプログラム等を記憶媒体に格納し、または伝送路を介して頒布してもよい。
【0088】
(3)また、上述した各処理は、上記実施形態ではプログラムを用いたソフトウエア的な処理として説明したが、その一部または全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit;特定用途向けIC)、あるいはFPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いたハードウエア的な処理に置き換えてもよい。
【0089】
(4)上記実施形態において実行される各種処理は、図示せぬネットワーク経由でサーバコンピュータが実行してもよく、上記実施形態において記憶される各種データも該サーバコンピュータに記憶させてもよい。
【符号の説明】
【0090】
100,103 電力系統制御装置
110 RE発電量取得部(発電量取得手段、発電量取得部、発電量取得ステップ)
120 系統構成取得部(系統構成取得ステップ、系統構成取得手段)
130 系統対策計画部(系統対策計画ステップ、系統対策計画手段)
131 広域系統断面作成部
132 想定故障条件選定部
133 系統影響度評価部
135 系統対策検討部(系統対策検討ステップ、系統対策検討手段)
136 効果評価部(効果評価ステップ、効果評価手段)
140 制御指示部(制御指示ステップ、制御指示手段)
152 便益評価部
154 投資費用評価部
160 投資費用便益評価部
250 電力系統
260,262,264 発電機
900 コンピュータ
A 合計便益金額(便益)
B 合計投資金額(投資費用)
C 評価結果
DE 広域断面情報
DG 想定故障条件データ
DI 系統制約条件
DJ 系統影響度評価情報
DM 対策案データ
DP 評価データ
DR 対策実行指令
PP 課題発生位置
AR-1~AR-n エリア
DD-1~DD-n 系統構成情報
DS-1~DS-n エリア制御指令
PR-1~PR-n RE導入量(再生可能エネルギー発電量、所定種発電量)
PRE-1~PRE-n RE導入予測値(所定種発電量、予測値)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17