(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092634
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】流体切替装置
(51)【国際特許分類】
F16K 17/28 20060101AFI20230627BHJP
【FI】
F16K17/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207770
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000192073
【氏名又は名称】株式会社モリタホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】廖 赤虹
(72)【発明者】
【氏名】松島 至俊
(72)【発明者】
【氏名】大室 健
(72)【発明者】
【氏名】金川 拓也
(72)【発明者】
【氏名】山野 光一
(72)【発明者】
【氏名】坂本 直久
【テーマコード(参考)】
3H060
【Fターム(参考)】
3H060AA04
3H060BB03
3H060CC22
3H060DA04
3H060DC05
3H060DD02
3H060DD12
(57)【要約】
【課題】外部からの駆動力を必要とせず供給流量に応じた流出流量の切り替えが自動的に行われ、かつコンパクトな流体切替装置を提供すること。
【解決手段】流入口と、流出口と、外筒1と、外筒1に収容され軸方向に往復動可能な内筒4と、内筒4に装着された付勢部5と、中心に設けられた貫通穴に内筒4の先端部が差し込まれている弁体6と、弁座7とを備え、内筒4の内側を第一流路α、外筒1と内筒4との間を第二流路βとし、流体が流入していないときは、弁体6が弁座7に当接することにより第二流路βが閉鎖されており、流体が開放圧力P
OP以下の圧力で流入しているときは、弁体6が弁体7に当接した状態が維持されることにより流体は第一流路αのみを通って流出口に至り、流体の圧力が開放圧力P
OPを超えたときは、弁体6が弁座7から離れて第二流路βが開放されることにより流体は第一流路αと第二流路βの二手に分かれて流出口に至る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流入する流入口と、
前記流体が流出する流出口と、
円筒状の外筒と、
前記外筒に収容され軸方向に往復動可能な円筒状の内筒と、
前記内筒に装着され前記内筒を前記流入口の方向に付勢する付勢部と、
中心に設けられた円形の貫通穴に前記内筒の先端部が差し込まれている弁体と、
前記弁体が着座する弁座と、を備え、
前記内筒の内側を第一流路、前記外筒と前記内筒との間を第二流路とし、
前記流体が流入していないときは、前記弁体の当接面が前記弁座のシール面に当接することにより前記第二流路が閉鎖されており、
前記流体が予め設定されている開放圧力以下の圧力で流入しているときは、前記当接面が前記シール面に当接した状態が維持されることにより、前記流体は前記第一流路のみを通って前記流出口に至り、
流入している前記流体の圧力が前記開放圧力を超えたときは、前記当接面が前記シール面から離れて前記第二流路が開放されることにより、前記流体は前記第一流路と前記第二流路の二手に分かれて前記流出口に至ることを特徴とする流体切替装置。
【請求項2】
前記外筒に固定され中心に設けられた前記内筒と略同一径の円形の貫通穴に前記内筒が摺動可能に貫入されたガイド部を備え、前記内筒は前記ガイド部の貫通穴に沿って往復動することを特徴とする請求項1に記載の流体切替装置。
【請求項3】
前記弁体は貫通穴の直径が前記内筒の内径よりも小さい第一ノズル部を有し、
前記第一ノズル部が前記内筒の前面に配置され、
前記第一流路を通る前記流体は前記第一ノズル部で縮流されて前記流出口から放射されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の流体切替装置。
【請求項4】
前記第二流路のうち前記弁体の移動範囲に対応した位置において、前記外筒に固定され中心に設けられた前記弁体の外径よりも大径の円形の貫通穴に前記弁体が配置された第二ノズル形成部を備え、
前記第二流路を通る流体は、前記弁体と前記第二ノズル形成部との隙間で縮流されて前記流出口から放射され、
前記第二ノズル形成部は、中心に設けられた貫通穴の径が下流側になるほど大きくなる漸次流路拡大部を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の流体切替装置。
【請求項5】
前記当接面に当接される前記シール面は、前記弁体と前記第二ノズル形成部との隙間よりも軸心寄りに設けられていることを特徴とする請求項4に記載の流体切替装置。
【請求項6】
前記弁体が前記弁座から離れる方向に移動するとき、前記弁体と前記第二ノズル形成部との隙間における通過面積は、前記弁体と前記弁座との間の開放面積よりも常に小さいことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の流体切替装置。
【請求項7】
前記第二ノズル形成部は、前記漸次流路拡大部の上流側に貫通穴の径が一定の上流側流路一定部を有し、
前記上流側流路一定部における貫通穴の径は、前記弁体の外径よりも僅かに大きいことを特徴とする請求項4から請求項6のいずれか一項に記載の流体切替装置。
【請求項8】
前記第二ノズル形成部は、前記漸次流路拡大部の下流側に貫通穴の径が一定の下流側流路一定部を有することを特徴とする請求項4から請求項7のいずれか一項に記載の流体切替装置。
【請求項9】
前記付勢部は一端がばね座に固定された圧縮ばねであり、前記ばね座の締め込み量に応じて前記圧縮ばねの圧縮量が変わることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の流体切替装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、供給流量に応じて流出流量を切り替えることのできる流体切替装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ノズルは様々な流体の放射等に用いられるが、流体の種類や放射形態が必ずしも一種類だけとは限らない。例えば消火活動においては、火災の初期や中期等の時期、又は状況に応じて、消火ノズルから放射する消火剤の種類や放射形態を変える必要がある。
流量が消火剤の種類や放射形態で異なる場合、一定の放射圧力を維持するため、流量の変化に応じて放射ノズルの面積(口径)を変える必要がある。この場合、各流量に対応した放射ノズルをそれぞれ用意するか、又はノズル面積(口径)可変の放射ノズルを使用することが考えられるが、火災状況の変化に迅速に対応するためには後者のほうが望ましい。
ノズル面積可変の放射ノズルを手持ちで使用する場合は、ノズル面積変更操作を手動で行い放射流量を調整する。また、放射ノズルを手持ちできない大流量の放射や、火点に消防隊員が接近不能で遠隔操作が必要とされる場合は、一般的に電動式の消火ノズルを使用し、電動駆動によりノズル面積を変化させて放射流量を調整する。
【0003】
特許文献1には、スプレー式洗浄装置における洗浄ガンの先端に取り付けるノズル装置であって、洗浄水の種類により、該ノズル装置内の流路を自動的に切り換え、高圧の洗浄水と中圧のワックス水とを口径の小さい拡散ノズルから噴射させ、低圧の既発泡洗剤を泡を潰すことなく口径の大きい発泡洗剤用ノズルから噴射させるようにしたノズル装置が開示されている。
また、特許文献2には、高速放出システムおよび低速放出システムを含み、低速放出システムは、航空機構造の周囲条件の観点から火災抑制剤の質量流量を変動することができる構成要素を備え、その際、低速放出システムは、航空機構造の周囲圧力および周囲温度のうちの少なくとも1つを感知するように構成されるバルブを備えた火災抑制システムが開示されている。
また、特許文献3には、供給管と切替機構とノズル部とが設けられており、ノズル部には内筒と、該内筒の外側に配置される外筒とが設けられており、切替機構内には回動部材と、該回動部材を回動させるためのアクチュエータとが設けられており、回動位置によって泡流路に連通させたり、液流路に連通させたりするのを切替可能としており、泡流路には消火液を発泡させるための空気取入口が設けられた噴射ノズルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-053216号公報
【特許文献2】特開2015-202403号公報
【特許文献3】特開2015-181872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大流量の放射を行う場合や、遠隔操作が必要な場合は、手動でノズル面積を変更するタイプの流量切替装置を用いた放射ノズルは適さない。
また、特許文献1に記載のノズル装置は、高圧水を噴射する拡散ノズルと、低圧発泡洗剤を噴射する発泡洗剤用ノズルが別々に設けられており、高圧水を大流量で噴射しようとすると装置の大型化を要する。
また、特許文献2に記載の火災抑制システムは、高速放出システムにおけるノズル等の排出装置と、低速放出システムにおけるバルブ及びオリフィスが別々に設けられており、装置構成が複雑で小型化は困難である。
また、特許文献3に記載の噴射ノズルは、アクチュエータを制御盤から制御して切替機構内の流路を切り替えるものであるが、このような電動ノズルは構造が複雑で体積も大きい。また、電動ノズルを駆動する電源系統が必要であるほか、高温や水環境にも弱いため、小型化が難しく、使用条件が制限される。
【0006】
ここで、
図5は従来のリリーフ弁構造の概念図である。
図5に示すように、外部からの駆動力に頼らず、弁箱100に収容されているばね101を利用して流体の圧力変化で弁を開閉させたり流量を変化させたりする方法は、流体機械によく使われている。
弁の開放圧力は、ばね101の初期たわみ(圧縮量)を調整して設定される。一次側の圧力が設定した開放圧力に達すると弁体102が直径dの弁座103から離れて弁が開放され、流体が二次側に放出される。また、一次側の圧力上昇につれ弁体102と弁座103との距離が大きくなり、通過する流量が増えるため、圧力の変化に応じて流量を変えることができる。
ばね定数をY、弁体102の受圧面積をA(=πd
2/4)、弁体102が弁座103から開いた距離をhとすると、開放圧力からの圧力増加ΔPとhの関係は下式(8)で表される。
【数8】
距離hは弁体開放後の通過面積に比例し、大流量が求められる場合、大きな距離hが必要であるため、高い圧力増加ΔPが必要となる。この場合、流量を大きく変化させるには、次の二つの方法のどちらかが必要となる。
1)設定した開放圧力よりも十分高い圧力を弁体102にかけてばね101の力を克服し、弁体102と弁座103との距離を大きくすることにより通過面積を大きくする。
2)ばね定数Yが十分小さいばね101を採用し、必要な距離hに対してばね101を十分に長くする。
しかし、上記1)の方法では、流量の大きい流体の適正放射圧力に対して、流量の小さい流体の放射圧力をかなり低く設定せざるを得ないため、流量が異なる複数の消火剤を同等の圧力で放射することができない。
また、上記2)の方法であれば、流量の異なる流体を同等の圧力で放射できるが、ばね101の長さを確保する必要があるため装置の小型化が困難である。
【0007】
そこで、本発明は、外部からの駆動力を必要とせず供給流量に応じた流出流量の切り替えが自動的に行われ、かつコンパクトな流体切替装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の本発明の流体切替装置は、流体が流入する流入口と、流体が流出する流出口と、円筒状の外筒1と、外筒1に収容され軸方向に往復動可能な円筒状の内筒4と、内筒4に装着され内筒4を流入口の方向に付勢する付勢部5と、中心に設けられた円形の貫通穴に内筒4の先端部が差し込まれている弁体6と、弁体6が着座する弁座7と、を備え、内筒4の内側を第一流路α、外筒1と内筒4との間を第二流路βとし、流体が流入していないときは、弁体6の当接面63が弁座7のシール面71に当接することにより第二流路βが閉鎖されており、流体が予め設定されている開放圧力POP以下の圧力で流入しているときは、当接面63がシール面71に当接した状態が維持されることにより、流体は第一流路αのみを通って流出口に至り、流入している流体の圧力が開放圧力POPを超えたときは、当接面63がシール面71から離れて第二流路βが開放されることにより、流体は第一流路αと第二流路βの二手に分かれて流出口に至ることを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の流体切替装置において、外筒1に固定され中心に設けられた内筒4と略同一径の円形の貫通穴に内筒4が摺動可能に貫入されたガイド部8を備え、内筒4はガイド部8の貫通穴に沿って往復動することを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載の流体切替装置において、弁体6は貫通穴の直径が内筒4の内径よりも小さい第一ノズル部62を有し、第一ノズル部62が内筒4の前面に配置され、第一流路αを通る流体は第一ノズル部62で縮流されて流出口から放射されることを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の流体切替装置において、第二流路βのうち弁体6の移動範囲に対応した位置において、外筒1に固定され中心に設けられた弁体6の外径よりも大径の円形の貫通穴に弁体6が配置された第二ノズル形成部11を備え、第二流路βを通る流体は、弁体6と第二ノズル形成部11との隙間で縮流されて流出口から放射され、第二ノズル形成部11は、中心に設けられた貫通穴の径が下流側になるほど大きくなる漸次流路拡大部11Bを有することを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、請求項4に記載の流体切替装置において、当接面63に当接されるシール面71は、弁体6と第二ノズル形成部11との隙間よりも軸心寄りに設けられていることを特徴とする。
請求項6記載の本発明は、請求項4又は請求項5に記載の流体切替装置において、弁体6が弁座7から離れる方向に移動するとき、弁体6と第二ノズル形成部11との隙間における通過面積は、弁体6と弁座7との間の開放面積よりも常に小さいことを特徴とする。
請求項7記載の本発明は、請求項4から請求項6のいずれか一項に記載の流体切替装置において、第二ノズル形成部11は、漸次流路拡大部11Bの上流側に貫通穴の径が一定の上流側流路一定部11Aを有し、上流側流路一定部11Aにおける貫通穴の径は、弁体6の外径よりも僅かに大きいことを特徴とする。
請求項8記載の本発明は、請求項4から請求項7のいずれか一項に記載の流体切替装置において、第二ノズル形成部11は、漸次流路拡大部11Bの下流側に貫通穴の径が一定の下流側流路一定部11Cを有することを特徴とする。
請求項9記載の本発明は、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の流体切替装置において、付勢部5は一端がばね座9に固定された圧縮ばねであり、ばね座9の締め込み量に応じて圧縮ばね5の圧縮量が変わることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、供給流量に応じた流出流量の切り替えを電気モーターや水圧シリンダーなどの外部からの駆動力に頼らず自動的に行うことができ、コンパクトで、耐熱性や耐浸水性など耐環境性にも優れた流量切替装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】同
図1に〇で示した部分の拡大図であり弁体が弁座から離れた状態を示す図
【
図3】同
図1に〇で示した部分の拡大図であり弁体が弁座に着座した状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第1の実施の形態による流体切替装置は、流体が流入する流入口と、流体が流出する流出口と、円筒状の外筒と、外筒に収容され軸方向に往復動可能な円筒状の内筒と、内筒に装着され内筒を流入口の方向に付勢する付勢部と、中心に設けられた円形の貫通穴に内筒の先端部が差し込まれている弁体と、弁体が着座する弁座と、を備え、内筒の内側を第一流路、外筒と内筒との間を第二流路とし、流体が流入していないときは、弁体の当接面が弁座のシール面に当接することにより第二流路が閉鎖されており、流体が予め設定されている開放圧力以下の圧力で流入しているときは、当接面がシール面に当接した状態が維持されることにより、流体は第一流路のみを通って流出口に至り、流入している流体の圧力が開放圧力を超えたときは、当接面がシール面から離れて第二流路が開放されることにより、流体は第一流路と第二流路の二手に分かれて流出口に至るものである。
本実施の形態によれば、流入流量に応じた流出流量の切り替えを電気モーターや水圧シリンダーなどの外部からの駆動力に頼らず自動的に行うことができる。また、コンパクト化に適した構成であり、耐熱性や耐浸水性など耐環境性にも優れている。
【0012】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による流体切替装置において、外筒に固定され中心に設けられた内筒と略同一径の円形の貫通穴に内筒が摺動可能に貫入されたガイド部を備え、内筒はガイド部の貫通穴に沿って往復動するものである。
本実施の形態によれば、内筒をスムーズに往復動させることができる。
【0013】
本発明の第3の実施の形態は、第1又は第2の実施の形態による流体切替装置において、弁体は貫通穴の直径が内筒の内径よりも小さい第一ノズル部を有し、第一ノズル部が内筒の前面に配置され、第一流路を通る流体は第一ノズル部で縮流されて流出口から放射されるものである。
本実施の形態によれば、第一流路を通る流体を第一ノズル部から所定の放射圧力で放射することができる。また、第一ノズル部の直径を変えることで、第一流路を通る流体の流量を設定できる。
【0014】
本発明の第4の実施の形態は、第1から第3のいずれか一つの実施の形態による流体切替装置において、第二流路のうち弁体の移動範囲に対応した位置において、外筒に固定され中心に設けられた弁体の外径よりも大径の円形の貫通穴に弁体が配置された第二ノズル形成部を備え、第二流路を通る流体は、弁体と第二ノズル形成部との隙間で縮流されて流出口から放射され、第二ノズル形成部は、中心に設けられた貫通穴の径が下流側になるほど大きくなる漸次流路拡大部を有するものである。
本実施の形態によれば、漸次流路拡大部を有することで、第二流路開放後の弁座における圧損を小さくして流体をスムーズに流すことができる。
【0015】
本発明の第5の実施の形態は、第4の実施の形態による流体切替装置において、当接面に当接されるシール面は、弁体と第二ノズル形成部との隙間よりも軸心寄りに設けられているものである。
本実施の形態によれば、第二流路を流れる消火剤が、弁座を通過する際は軸心寄りを流れ、弁体を通過する際は外筒寄りを流れることとなり、弁体の背面に消火剤の圧力をかけやすくなる。
【0016】
本発明の第6の実施の形態は、第4又は第5の実施の形態による流体切替装置において、弁体が弁座から離れる方向に移動するとき、弁体と第二ノズル形成部との隙間における通過面積は、弁体と弁座との間の開放面積よりも常に小さいものである。
本実施の形態によれば、第二流路が開放された後に弁座における圧損が生じず、弁体は背面に消火剤の圧力を引き続き受けることができる。
【0017】
本発明の第7の実施の形態は、第4から第6のいずれか一つの実施の形態による流体切替装置において、第二ノズル形成部は、漸次流路拡大部の上流側に貫通穴の径が一定の上流側流路一定部を有し、上流側流路一定部における貫通穴の径は、弁体の外径よりも僅かに大きいものである。
本実施の形態によれば、第一流路にのみ流体を流す場合に、弁座からリークが発生しても、漏出した流体は弁体と上流側流路一定部との隙間から抜け出すため、流体が滞留することによる弁体への力の発生を防止できる。
【0018】
本発明の第8の実施の形態は、第4から第7のいずれか一つの実施の形態による流体切替装置において、第二ノズル形成部は、漸次流路拡大部の下流側に貫通穴の径が一定の下流側流路一定部を有するものである。
本実施の形態によれば、弁体の背面が下流側流路一定部と対応した位置にあるとき、弁体と第二ノズル形成部との隙間の通過面積が一定に保持されるため、付勢部の個体差や流体圧力の変動により弁体の位置が多少変動した場合でも所定のノズル面積で流体を放射できる。
【0019】
本発明の第9の実施の形態は、第1から第8のいずれか一つの実施の形態による流体切替装置において、付勢部は一端がばね座に固定された圧縮ばねであり、ばね座の締め込み量に応じて圧縮ばねの圧縮量が変わるものである。
本実施の形態によれば、弁体の開放圧力を、ばね座の締め具合を調整して圧縮ばねの圧縮量を変えることで簡便に調整できる。
【実施例0020】
以下、本発明の一実施例による流体切替装置について説明する。
本実施例では、流体切替装置を消火ホースの先端に取り付ける消火ノズル(流体放射ノズル)として使用する。消火活動においては火災の初期や中期など火災の時期に応じて複数種類の消火剤を使い分けることが好ましい場合があり、消火ノズルには第1消火剤と第2消火剤の二種類の消火剤が消防車等から供給されるようになっている。第1消火剤は例えば気液混相流や粉末等であり、第2消火剤は例えば水や泡等である。
ここで、第1消火剤の供給流量をQ1、第2消火剤の供給流量をQ2、供給流量がQ1である第1消火剤の放射に必要なノズル面積をAQ1、供給流量がQ2である第2消火剤の放射に必要なノズル面積をAQ2とすると、Q1<Q2、AQ1<AQ2の関係にあるものとする。また、適合放射圧力は第1消火剤と第2消火剤とで概ね同等であるものとする。
【0021】
図1は本実施例による消火ノズルの断面図である。
図2及び
図3は
図1に〇で示した部分の拡大図であり、
図2は弁体が弁座から離れた状態を示し、
図3は弁体が弁座に着座した状態を示している。
図4は消火ノズルの概念図である。なお、
図4においては外筒を半透明化して内部を示している。
消火ノズルは、円筒状の外筒1と、外筒1の後端側の開口に接続され消火剤である流体が流入する流入口を有したねじ継手2と、外筒1の先端側の開口に接続され消火剤を流出(放射)する流出口を有した放射部3と、外筒1に収容され軸方向に往復動可能な円筒状の内筒4と、内筒4を流入口側に付勢する付勢部としての圧縮ばね5と、中心に設けられた円形の貫通穴に内筒4の先端部が差し込まれている弁体6と、弁体6が着座する弁座7と、中心に設けられた内筒4と略同一径の円形の貫通穴に内筒4が摺動可能に貫入されているガイド部8と、圧縮ばね5の一端が固定されたばね座9と、流入した消火剤の流れを分ける分流部10と、中心に設けられた円形の貫通穴に弁体6が配置された第二ノズル形成部11を備え、これらが同軸に配置されている。
内筒4の内側は第一流路α、内筒4と外筒1との間は第二流路βである。流入口から流入した消火剤は、分流部10で第一流路αと第二流路βに分かれて放射部3へ向かう。放射部3の内部は、流れ方向に沿って径が徐々に縮小したテーパー形状となっている。
内筒4は、外筒1よりも長さ寸法が短く、ねじ継手2の先端近傍から放射部3の後端近傍にかけて配置されている。
圧縮ばね5、弁体6、ばね座9、及び分流部10は内筒4に装着されており、弁体6は内筒4の先端に、分流部10は内筒4の後端に、ばね座9は分流部10よりも先端側に、圧縮ばね5はばね座9よりも先端側に、それぞれ位置している。
弁座7、ガイド部8、及び第二ノズル形成部11は、外筒1に固定されている。弁座7とガイド部8は、圧縮ばね5と弁体6との間の位置において連接しており、弁座7はガイド部8よりも先端側に位置する。
【0022】
ガイド部8の背面には貫通穴が複数設けられており、第二流路βを流れる消火剤は圧縮ばね5の位置を過ぎるとガイド部8の貫通穴を抜けて弁座7へ向かう。
ガイド部8の中心に設けられた貫通穴の直径は、内筒4の外径と同一か又は僅かに大きく、内筒4は貫通穴の壁面を摺動する。ガイド部8に沿わせることにより、内筒4をスムーズに往復動させることができる。
【0023】
弁体6は、貫通穴の直径が内筒4の外径と略同一である装着部61と、貫通穴の直径が内筒4の内径よりも小さい第一ノズル部62を有する。装着部61は内筒4の外周面に装着され、第一ノズル部62は内筒4の先端よりも流出口側に突出して配置される。
内筒4の前面に第一ノズル部62が装着されていることにより、第一流路αを通る消火剤は、第一ノズル部62で縮流されて所定の放射圧力で放射部3から放射される。また、第一ノズル部62の直径D1を変えることで、第一流路αを通る消火剤の流量を設定できる。
【0024】
第二ノズル形成部11は、第二流路βのうち弁体6の移動範囲に対応する位置に設けられており、第二ノズル形成部11の内側を内筒4が往復動する。第二ノズル形成部11の中央に設けられている貫通穴は内筒4の外径よりも大径であり、弁体6と第二ノズル形成部11との間には隙間が生じる。この隙間は、第二流路βの出口に配置された第二ノズル部としての役割を有しており、第二流路βを通る消火剤は第二ノズル部で縮流されて放射部3から放射される。なお、第二ノズル部を消火剤が円滑に流れるように、弁体6の背面の角にはR加工により丸みをつけている。
第二ノズル形成部11は、上流側から、中心に設けられた貫通穴の径が一定である上流側流路一定部11Aと、中心に設けられた貫通穴の径が下流側に向かって連続的に大きくなっている漸次流路拡大部11Bと、中心に設けられた貫通穴の径が一定である下流側流路一定部11Cを有する。したがって、第二ノズル形成部11の貫通穴の径は、上流側流路一定部11Aよりも下流側流路一定部11Cのほうが大きい。
【0025】
弁座7は、中心に設けられた円形の貫通穴の周縁がシール面71となっている。弁座7の貫通穴の直径は内筒4の外径よりも大きく、第二流路βを流れる消火剤は弁体6が着座していないときシール面71と内筒4との間を通過可能である。
弁体6のうち、背面の一部に形成された斜面は、シール面71に当接する環状の当接面63である。弁体6が装着されている内筒4が圧縮ばね5によって流入口側に常時牽引されていることにより、消火剤を放射していないときは、弁体6の当接面63は弁座7のシール面71に当接、すなわち弁体6が弁座7に着座して、第二流路βが閉鎖された状態である。
第二流路βが閉鎖された状態から消火剤の供給が開始され、消火剤の圧力が弁体6の開放圧力POPに達すると、弁体6の当接面63が弁座7のシール面71から離れて第二流路βが開放された状態となり、消火剤はシール面71と内筒4との間を通過できる。
当接面63に当接されるシール面71は、第二ノズル部よりも軸心寄りに設けられている。これにより、第二流路βを流れる消火剤が、弁座7を通過する際は軸心寄りを流れ、弁体6を通過する際は外筒1寄りを流れることとなり、弁体6の背面に消火剤の圧力をかけやすくなる。
なお、第一流路αは、消火剤を放射しているか否か、又は消火剤の流量に関わらず、常に消火剤が通過可能な開放状態である。
【0026】
弁体6が弁座7から離れる方向に移動するとき、弁体6の位置に関わらず、第二ノズル部の通過面積は、弁体6と弁座7との間の開放面積Eよりも常に小さくなるように設定されている。これにより、第二流路βが開放された後に弁座7における圧損が生じず、弁体6は背面に消火剤の圧力を引き続き受けることができる。
第二ノズル部は、第二ノズル形成部11と弁体6との隙間であるため、その通過面積は弁体6の位置によって変化するが、下流側流路一定部11Cにおける貫通穴の直径が、第2消火剤を用いるときの消火剤の最大流量に対応する。すなわち、第2消火剤の最大流量Q2maxの放射に必要なノズル面積をAQ2maxとすると、下流側流路一定部11Cと弁体6との隙間面積(第二ノズル部の最大通過面積)は、AQ2maxと第一ノズル部62の通過面積AQ1との差に等しい(第二ノズル部の最大通過面積=第2消火剤最大流量放射時のノズルの必要断面積AQ2max-第1ノズル部の断面積AQ1)。
上流側流路一定部11Aと下流側流路一定部11Cとの間に位置する漸次流路拡大部11Bの表面は、下流側流路一定部11C側が上流側流路一定部11A側よりも低くなった一定角度θの傾斜面である。これにより、漸次流路拡大部11Bにおける流路面積は流れ方向に沿って一定割合で拡大する。漸次流路拡大部11Bを有することで、第二流路β開放後の弁座7における圧損を小さくして流体をスムーズに流すことができる。なお、漸次流路拡大部11Bの表面は、平面ではなく、流れ方向に貫通穴の径が徐々に大きくなる曲面とすることもできる。
【0027】
弁体6のストローク(軸方向移動量)をLとすると、弁座7と弁体6との間の開放面積EはLの関数E(L)となる。また、弁体6と漸次流路拡大部11Bとの隙間面積、すなわち第二ノズル部の通過面積はLの関数B(L)となる。第二ノズル部の通過面積は、弁体6が漸次流路拡大部11Bを移動する際においても、常に弁座7と弁体6との間の開放面積Eよりも小さくなるように設定されている。これにより、ストロークLの変化に対して、常に通過面積B(L)<開放面積E(L)の関係が成立する。
なお、D
2を弁座7のシール面71の直径、R
1を上流側流路一定部11Aにおける貫通穴の半径とすると、開放面積E(L)は下式(1)で表され、通過面積B(L)は下式(2)で表される。
【数1】
【数2】
【0028】
ばね座9は内筒4の後端側にねじ留めされ、圧縮ばね5の後端はばね座9に固定されている。弁体6の開放圧力P
OPは、ばね座9の締め具合を調整して圧縮ばね5の圧縮量を変えることで簡便に調整できる。
第1消火剤を所定の供給流量Q
1で消火ノズルに送ると、第1消火剤は第一流路αを通り第一ノズル部62の絞りによって放射圧力P
1で放射される。
弁体6の開放圧力P
OPは、供給流量がQ
1である第1消火剤の放射圧力P
1よりもやや高く設定される。これにより、第1消火剤を放射するときは、第1消火剤により弁体6が背面側から受ける圧力が開放圧力P
OP以下であることから、弁体6は弁座7に着座したままであり第二流路βは開放されない。よって、第1消火剤は、第一流路αのみを通って放射部3から放射される。
第1消火剤の放射時に弁体6が受ける力F
1は下式(3)で表される。D
1は第一ノズル部62の直径、D
2は弁座7のシール面71の直径である。
【数3】
また、初期圧縮量をS、ばね定数をYとすると、圧縮ばね5の力F
Sは下式(4)で表され、F
S>F
1の関係が成り立っている。
【数4】
【0029】
上流側流路一定部11Aにおける貫通穴の直径は、弁体6の外径D3と同一に設定することもできるが、弁体6の外径D3よりも僅かに大きいことが好ましい。この場合、第1消火剤を放射する際に弁座7からリークが発生しても、上流側流路一定部11Aにおける貫通穴の直径が弁体6の外径D3よりも僅かに大きいことにより、漏出した第1消火剤は弁体6と上流側流路一定部11Aとの隙間から抜け出すため、第1消火剤が滞留することによる弁体6への力の発生を防止できる。
【0030】
一方、第2消火剤の放射に切り替えると、第2消火剤は、まず常時開放されている第一流路αから第一ノズル部62を通って放射部3から放射される。しかし、第2消火剤は第1消火剤よりも流量が大きく第一流路αだけでは通過面積が不足であることから、弁体6の一次側圧力(消火剤により弁体6が背面側から受ける圧力)が上昇する。そして一次側圧力が所定の開放圧力P
OPに達すると、当接面63がシール面71から離れ第二流路βが開放される。
第二流路βの開放後、弁体6の背面が上流側流路一定部11Aに対応する位置にあるときは、上流側流路一定部11Aと弁体6との隙間が僅かであるため第二ノズル部を通過する消火剤の流量が少なく、開放圧力P
OPが弁体6の背面(一次側の面)全体に働くことになる。これにより、第二流路βの開放後は、弁体6の受圧面積が、下式(5)から下式(6)へと直ちに大きく変わる。
【数5】
【数6】
また、このときに弁体6が受ける力(第2消火剤の放射時に弁体6が受ける力)F
2は下式(7)で表され、弁体6が受ける力も第1消火剤の放射時の力F
1から急増する。
【数7】
それによって、弁体6が受ける力が消火剤圧力の僅かな増加で急増し、第二流路βが一気に開放される。
これにより第2消火剤は第二通路を通って放射部3に至ることが可能となり、第2消火剤は第一流路αと第二流路βの二手に分かれて流れ、第一流路α及び第一ノズル部62を通過した第2消火剤と、第二流路β及び第二ノズル部を通過した第2消火剤が、放射部3で合流して放射される。
このように、本発明の消火ノズルは、供給流量に応じた放射流量の切り替えを電気モーターや水圧シリンダーなどの外部からの駆動力に頼らず自動的に行うことができる。また、コンパクト化に適した構成であり、耐熱性や耐浸水性など耐環境性にも優れている。
【0031】
弁体6が弁座7から離れ、弁体6の背面が上流側流路一定部11Aと対応した位置にある場合、弁座7と弁体6との間の開放面積EがストロークLの増大につれ増加する一方で、第二ノズル部の通過面積は上流側流路一定部11Aにおける貫通穴の径が一定であるため増加しない。
これにより、ストロークLの増大につれ弁座7と弁体6との間の開放面積Eが第二ノズル部の通過面積に対して十分に大きくなり、弁座7における圧損を最大限に小さくすることができる。
【0032】
ストロークLが増加し、弁体6の背面が上流側流路一定部11Aを過ぎて漸次流路拡大部11Bと対応した位置にある場合、弁座7と弁体6との間の開放面積EがストロークLの増大につれ増加すると共に、第二ノズル部の通過面積も増加する。
但し、上述のように、弁体6の背面が漸次流路拡大部11Bに対応した位置にあるときの第二ノズル部の通過面積は常に弁座7と弁体6との間の開放面積Eよりも小さくなるように設定されているため、この場合も常にB(L)<E(L)の関係が成立する。これにより、弁座7における圧損が生じず、弁体6は背面に引き続き開放圧力POPを受ける。
【0033】
ストロークLが更に増加し、弁体6の背面が漸次流路拡大部11Bを過ぎて下流側流路一定部11Cと対応した位置にある場合、弁座7と弁体6との間の開放面積EがストロークLの増大につれ増加する一方で、第二ノズル部の通過面積は下流側流路一定部11Cにおける貫通穴の径が一定であるため増加しない。
これにより、弁体6の背面が下流側流路一定部11Cと対応した位置にあるときの第二ノズル部の通過面積が一定に保持されるため、圧縮ばね5の個体差や第2消火剤の圧力の変動により弁体6の位置が多少変動した場合でも所定のノズル面積で第2消火剤を放射できる。