(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092660
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20230627BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20230627BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
F16C33/78 D
F16C33/58
F16C19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207814
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊勢田 顕市
(72)【発明者】
【氏名】石井 康彦
【テーマコード(参考)】
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J216AA02
3J216AA03
3J216AA12
3J216AA14
3J216AB06
3J216AB29
3J216AB30
3J216BA18
3J216CA01
3J216CA04
3J216CA05
3J216CB03
3J216CB12
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC17
3J216CC33
3J216CC40
3J216DA01
3J216DA09
3J216DA11
3J216EA01
3J216GA10
3J701AA02
3J701AA12
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA55
3J701BA56
3J701BA73
3J701EA63
(57)【要約】 (修正有)
【課題】シールと内輪との通電性をより確実に維持する。
【解決手段】外輪と内輪と外輪および内輪の間に配置されている複数の転動体と外輪の軸方向の端部に取り付けられ、径方向内側に延びるシールとを備える転がり軸受であって、シールは、導電性を有する弾性部材と、弾性部材を支持する金属部材とを有し、弾性部材は、内輪のうち軸方向外側を向く外側面に接触する第1リップと第1リップよりも軸方向内側に形成され内輪の外周面に接触する第2リップ52とを有し、第2リップ52は、内輪の外周面と接触するリップ先端55から軸方向内側および径方向外側に向かって延びる第1傾斜面56とリップ先端55から軸方向外側および径方向外側に向かって延びる第2傾斜面57とを有し、第1傾斜面56が内輪の外周面となす鋭角である第1角度θ1は、第2傾斜面57が内輪の外周面となす鋭角である第2角度θ2よりも大きい転がり軸受。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、内輪と、前記外輪および前記内輪の間に配置されている複数の転動体と、前記外輪の軸方向の端部に取り付けられ、径方向内側に延びるシールと、を備える転がり軸受であって、
前記シールは、
導電性を有する弾性部材と、
前記弾性部材を支持する金属部材と、を有し、
前記弾性部材は、
前記内輪のうち軸方向外側を向く外側面に接触する第1リップと、
前記第1リップよりも軸方向内側に形成され、前記内輪の外周面に接触する第2リップと、を有し、
前記第2リップは、
前記内輪の外周面と接触するリップ先端から軸方向内側および径方向外側に向かって延びる第1傾斜面と、
前記リップ先端から軸方向外側および径方向外側に向かって延びる第2傾斜面と、を有し、
前記第1傾斜面が前記内輪の外周面となす鋭角である第1角度は、前記第2傾斜面が前記内輪の外周面となす鋭角である第2角度よりも大きい、
転がり軸受。
【請求項2】
前記第2リップは、前記第2傾斜面に形成されている複数の突条を有し、
前記複数の突条は、それぞれ周方向に間隔を空けた状態で、前記リップ先端から軸方向外側および周方向一方側に向かって延びている、
請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記第2リップの前記内輪の外周面との径方向の接触圧は、前記第1リップの前記外側面との軸方向の接触圧よりも強い、
請求項1又は請求項2に記載の転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、転がり軸受において、導電性を有するシールを介して内外輪を電気的に接続することで、内外輪と転動体との間における電食を防止する技術が知られている。特許文献1には、導電性のシールにグリースが到達してシールと内外輪との通電性が低下することを抑制するために、転動体を保持する保持器にグリース漏れ阻止部を設ける技術が開示されている。
【0003】
特許文献1のグリース漏れ阻止部は、保持器のポケット内面の内径側に凹み部として設けられている。当該凹み部を設けることで、保持器による転動体表面のグリース掻き取り量が減少するため、保持器内径面にグリースが溜まることを抑制し、溜まったグリースが内輪シール溝に付着することを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術は、使用する潤滑剤のちょう度(硬さ)がある程度硬いことを前提としている。具体的には、ちょう度が389未満のグリースを使用することを前提としており、それよりも柔らかい潤滑剤の場合には、グリースの漏れが生じている。
【0006】
また、特許文献1では保持器に凹み部を設けるため、保持器の耐久性が低くなったり、転動体の保持性能が低下したりするおそれがある。また、特許文献1は、軸方向両側から転動体を保持するリング形状(打ち抜き型)の保持器を前提としており、例えばシール側において保持器のポケットが開放されている冠形状の保持器について特許文献1の技術を用いることができない。
【0007】
本開示は、シールと内輪との通電性をより確実に維持することができる転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の転がり軸受は、外輪と、内輪と、前記外輪および前記内輪の間に配置されている複数の転動体と、前記外輪の軸方向の端部に取り付けられ、径方向内側に延びるシールと、を備える転がり軸受であって、前記シールは、導電性を有する弾性部材と、前記弾性部材を支持する金属部材と、を有し、前記弾性部材は、前記内輪のうち軸方向外側を向く外側面に接触する第1リップと、前記第1リップよりも軸方向内側に形成され、前記内輪の外周面に接触する第2リップと、を有し、前記第2リップは、前記内輪の外周面と接触するリップ先端から軸方向内側および径方向外側に向かって延びる第1傾斜面と、前記リップ先端から軸方向外側および径方向外側に向かって延びる第2傾斜面と、を有し、前記第1傾斜面が前記内輪の外周面となす鋭角である第1角度は、前記第2傾斜面が前記内輪の外周面となす鋭角である第2角度よりも大きい、転がり軸受である。
【発明の効果】
【0009】
本開示の転がり軸受によれば、シールと内輪との通電性をより確実に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る転がり軸受の一例を示す断面図である。
【
図2】
図1のシールとその周辺を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<本開示の実施形態の概要>
以下、本開示の実施形態の概要を列記して説明する。
【0012】
(1)本開示の転がり軸受は、外輪と、内輪と、前記外輪および前記内輪の間に配置されている複数の転動体と、前記外輪の軸方向の端部に取り付けられ、径方向内側に延びるシールと、を備える転がり軸受であって、前記シールは、導電性を有する弾性部材と、前記弾性部材を支持する金属部材と、を有し、前記弾性部材は、前記内輪のうち軸方向外側を向く外側面に接触する第1リップと、前記第1リップよりも軸方向内側に形成され、前記内輪の外周面に接触する第2リップと、を有し、前記第2リップは、前記内輪の外周面と接触するリップ先端から軸方向内側および径方向外側に向かって延びる第1傾斜面と、前記リップ先端から軸方向外側および径方向外側に向かって延びる第2傾斜面と、を有し、前記第1傾斜面が前記内輪の外周面となす鋭角である第1角度は、前記第2傾斜面が前記内輪の外周面となす鋭角である第2角度よりも大きい、転がり軸受である。
【0013】
第2リップは、第1リップよりも軸方向内側で内輪と接触することで、潤滑剤が第1リップ側に漏れることを抑制する。これにより、第1リップに潤滑剤が到達しにくくなるため、第1リップと内輪との間に絶縁性の油膜が形成されることを抑制することができる。第2リップにおいて、第1角度は、第2角度よりも大きいため、例えば第1角度を第2角度以下にする場合と比べて、より確実に潤滑剤の第1リップへの漏れを抑制することができる。この結果、第1リップと内輪との間の電気抵抗値を低く保つことができるため、シールと内輪との通電性をより確実に維持することができる。
【0014】
(2)好ましくは、前記第2リップは、前記第2傾斜面に形成されている複数の突条を有し、前記複数の突条は、それぞれ周方向に間隔を空けた状態で、前記リップ先端から軸方向外側および周方向一方側に向かって延びている。
【0015】
複数の突条を設けることで、ポンプ作用によりリップ先端から第1リップ側に漏れた潤滑剤を軸方向内側に押し戻すことができるため、シールと内輪との通電性をより確実に維持することができる。
【0016】
(3)好ましくは、前記第2リップの前記内輪の外周面との径方向の接触圧は、前記第1リップの前記外側面との軸方向の接触圧よりも強い。
【0017】
このように構成することで、潤滑剤が第2リップのリップ先端の軸方向外側に漏れることをより確実に抑制することができる。また、第1リップと外側面との摩擦力を低くすることができるため、第1リップの摩耗を抑制することができる。これにより、シールと内輪との通電性をより確実に維持することができる。
【0018】
<本開示の実施形態の詳細>
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
[転がり軸受の全体構成]
図1は、実施形態に係る転がり軸受10の一例を示す断面図である。転がり軸受10は、軸62を支持する軸受であり、ハウジング61内に設けられる。軸62は、例えば電気自動車やハイブリッド自動車等に搭載されたモータに接続されている回転する軸であってもよいし、風力発電のプロペラ等に接続されている回転する軸であってもよい。
図1において、ハウジング61及び軸62は仮想線(二点鎖線)により示されている。転がり軸受10は、
図1の例では深溝玉軸受であるが、アンギュラ玉軸受、又は円筒ころ軸受等であってもよい。転がり軸受10は、外輪11と、内輪12と、複数の転動体13と、保持器14と、シール15とを備える。
【0020】
本開示において、転がり軸受10の中心軸C1に沿う方向は、転がり軸受10の軸方向であり、単に「軸方向」と称する。軸方向には、中心軸C1に平行な方向も含まれる。
図1においてシール15が設けられる側を、便宜上「軸方向一方側」と称し、その反対側を「軸方向他方側」と称する。中心軸C1に直交する方向が、転がり軸受10の径方向であり、単に「径方向」と称する。中心軸C1を中心として転がり軸受10の回転輪(実施形態では内輪12)が回転する方向が、転がり軸受10の周方向であり、単に「周方向」と称する。
【0021】
外輪11は、軸受鋼製の環状部材である。本実施形態において、軸受鋼としては、高炭素クロム軸受鋼(例えば、JIS規格に定めるSUJ2又はSUJ3)を採用するが、その他の鋼であってもよい。例えば、浸炭軸受鋼、炭素鋼、クロム鋼、ステンレス鋼であってもよい。外輪11の軸受外径面は回転しないハウジング61に固定されている。すなわち、
図1の例では、外輪11は固定輪である。なお、外輪11は回転するハウジングに固定される回転輪であってもよい。
【0022】
外輪11の内周面は、外輪軌道21と、肩22と、シール溝23とを含む。外輪軌道21は、径方向外側に凹む領域であり、転動体13の軌道面となる。肩22は、外輪軌道21の軸方向両側に位置する軸方向に平坦な面である。シール溝23は、肩22の軸方向外側(外輪11の軸方向端部側)に位置し、径方向外側に凹む領域である。
図1の例では、外輪11の両方の端部にシール溝23が形成されているが、シール溝23はシール15が設けられる軸方向一方側の端部11aにのみ形成されてもよい。
【0023】
内輪12は、軸受鋼製の環状部材である。なお、内輪12の形状は環状に限られず、例えば中実構造を有する内軸(例えば、ハブ軸)であってもよい。内輪12の軸受内径面は回転する軸62に固定されている。すなわち、
図1の例では、内輪12は回転輪である。なお、内輪12は回転しない軸に固定される固定輪であってもよい。
【0024】
内輪12の外周面は、内輪軌道31と、肩32と、凹部33とを含む。内輪軌道31は、径方向内側に凹む領域であり、転動体13の軌道面となる。肩32は、内輪軌道31の軸方向両側に位置する軸方向に平坦な面である。凹部33は、肩22の軸方向外側(内輪12の軸方向端部側)に位置し、径方向内側に凹む領域である。
図1の例では、内輪12の両方の端部に凹部33が形成されているが、凹部33はシール15が設けられる軸方向一方側の端部12aにのみ形成されてもよい。
【0025】
凹部33は、軸方向外側を向く外側面33aを含む。外側面33aは、
図1の例では径方向に平行な面であるが、径方向に対して傾斜している面であってもよい。言い換えると、外側面33aにおいて、内輪12の軸方向の幅が径方向外側に向かうにつれて縮小又は拡大していてもよい。外側面33aが傾斜面である場合、外側面33aの径方向に対する鋭角は0度より大きく30度以下であってもよい。
【0026】
複数の転動体13は、外輪11および内輪12の間にそれぞれ配置されている軸受鋼製の玉である。複数の転動体13は、外輪軌道21および内輪軌道31にそれぞれ点接触している状態で、外輪軌道21および内輪軌道31上を転動する。なお、複数の転動体13は、「ころ」であってもよい。本実施形態の転がり軸受10は、単列軸受であるが、複列軸受であってもよい。
【0027】
保持器14は、転動体13の軸方向他方側に設けられている環状体16と、環状体16から軸方向一方側に延びて設けられている複数のつの(柱)17とを有する。環状体16の軸方向一方側であって周方向に隣り合う2個のつの17,17の間の空間が、転動体13が収容されるポケット18である。ポケット18は軸方向一方側で開口している。
【0028】
シール15は、外輪11の軸方向の端部11aに取り付けられている環状の部材である。より具体的には、シール15の後述の端部46が、外輪11のシール溝23に嵌合することで、シール15は外輪11に固定されている。シール15は、端部11aから径方向内側に延び、シール15の径方向内側の端部は内輪12と接触している。このため、シール15は、転動体13が存在する転がり軸受10の内部空間S1(油側の空間)と、転がり軸受10の外部空間S2(大気側の空間)とを区画する。シール15は、外部空間S2の異物(例えば、摩耗粉、砂、水)が内部空間S1に侵入することを抑制する機能を有する。
【0029】
図1の例では、シール15は、外輪11の軸方向一方側の端部11aにのみ設けられているが、外輪11の軸方向他方側の端部に、さらにシール15が追加されてもよい。すなわち、外輪11および内輪12の間の環状空間は、2個のシール15によって封止されてもよい。
【0030】
シール15は、その全体として導電性を有し、転がり軸受10に流れる電流が転動体13を経由して外輪11および内輪12の間を流れることを抑制するための通電経路としても機能する。例えば、図外のモータで発生した電流が転がり軸受10を流れることがある。当該電流が転動体13を介して外輪11および内輪12の間を流れると、外輪軌道21および内輪軌道31に電食が生じるおそれがある。本実施形態に係る転がり軸受10は、モータ等で発生した電流をシール15を介して「逃がす」ことで、外輪軌道21および内輪軌道31における電食を抑制する。
【0031】
[シールについて]
転動体13と内輪軌道31および外輪軌道21との間には潤滑剤による油膜が形成されている。潤滑剤は、例えば潤滑油、グリース等である。グリースは、基油に増ちょう剤を分散した半固体状又は固体状の潤滑剤である。潤滑剤は絶縁性を有するため、転動体13と内輪軌道31および外輪軌道21との間は基本的には絶縁されている。さらに、導電性を有するシール15が外輪11と内輪12の間を当該油膜よりも低い抵抗値によって接続しているため、モータ等から外輪11(又は内輪12)に流れる電流をシール15を介して逃がすことができる。
【0032】
しかしながら、シール15と内輪12とが接触している部分に潤滑剤が浸入すると、シール15と内輪12との間に絶縁性の油膜が形成され、シール15と内輪12との間も絶縁されてしまう。そして、外輪11および内輪12を電気的に接続する経路のうち、転動体13を通る経路の電気抵抗値が、シール15を通る経路の電気抵抗値よりも低くなると、転動体13を経由して外輪軌道21および内輪軌道31の間で電流が流れるおそれがある。
【0033】
本実施形態のシール15は、以下に説明するとおり、第2リップ52を設けることで第1リップ51と内輪12とが接触している部分への潤滑剤の浸入を抑制する。これにより、シール15と内輪12との通電性をより確実に維持する。以下、シール15の構成をより詳細に説明する。
【0034】
図2は、
図1のシール15とその周辺を示す拡大図である。シール15は、導電性を有する弾性部材41と、弾性部材41を支持する金属部材42とを有する。弾性部材41は、アクリルゴム等の合成ゴムに導電性材料が添加されている部材である。導電性材料は、例えば導電性カーボンブラックまたは金属粉末を含む。このため、弾性部材41は導電性を有する。弾性部材41の体積抵抗率は、100Ω・cm以下であるのが好ましく、より好ましくは、20Ω・cm以下である。
【0035】
弾性部材41は、金属部材42を被覆する本体部44と、本体部44から径方向内側に延びて設けられているリップ部45と、本体部44から径方向外側に延びて設けられている端部46とを有する。これらの各部44~46は、いずれも導電性を有する。
【0036】
金属部材42は、例えばステンレス鋼により構成されており、導電性を有する。金属部材42は、円環状の板部47と、板部47の径方向内側の端部47aから延びる傾斜部48とを有する。傾斜部48は、端部47aから径方向内側に向かうにしたがって内部空間S1に延びて設けられている。弾性部材41は、傾斜部48を被覆する被覆部49を有する。
【0037】
金属部材42の電気抵抗値は、弾性部材41の電気抵抗値よりも小さい。例えば、金属部材42がステンレス鋼の場合、金属部材42の体積抵抗率は、約70マイクロΩ・cmである。これにより、金属部材42も電流を逃がすための経路として好適に機能する。
【0038】
リップ部45は、第1リップ51と、第2リップ52とを有する。第1リップ51は、リップ部45のうち本体部44から径方向内側に延びる領域であり、内輪12のうち軸方向外側を向く外側面33aに接触する。第1リップ51は、外側面33aに軸方向に接触するため、「アキシアルリップ」とも称される。第1リップ51は、主リップ53と補助リップ54とを含む。補助リップ54は省略されてもよい。
【0039】
主リップ53は、第1リップ51の径方向内側の端部に設けられるリップであり、主リップ53のリップ先端が外側面33aと軸方向に接触している。補助リップ54は、主リップ53よりも径方向外側に設けられるリップであり、主リップ53よりも軸方向の長さが短い。補助リップ54は、初期状態(工場出荷時の状態)において、補助リップ54のリップ先端が外側面33aと接触していないか、主リップ53の外側面33aとの接触圧よりも弱い接触圧により外側面33aと軸方向に接触している。補助リップ54は、転がり軸受10の使用に伴い主リップ53が摩耗した際に、より強い接触圧により外側面33aと接触することで、シール15による内部空間S1の封止状態を維持する。
【0040】
第2リップ52は、第1リップ51よりも軸方向内側に形成される領域であり、内輪12の外周面のうち肩32に接触している。肩32は径方向外側を向く面であり、第2リップ52は肩32に径方向に接触しているため、「ラジアルリップ」とも称される。第2リップ52は、金属部材42の傾斜部48により支持されている状態で、例えば所定の締め代をもって、肩32に接触している。このため、第2リップ52の肩32との径方向の接触圧は、第1リップ51の外側面33aとの軸方向の接触圧よりも強い。
【0041】
第2リップ52は、内輪12の外周面(具体的には、肩32)と接触するリップ先端55と、リップ先端55から軸方向内側および径方向外側に向かって延びる第1傾斜面56と、リップ先端55から軸方向外側および径方向外側に向かって延びる第2傾斜面57と、を有する。リップ先端55は、第2リップ52の周方向の全体に形成されている。
【0042】
ここで、第1傾斜面56が内輪12の外周面(具体的には、リップ先端55が接触する肩32)となす鋭角(トリム角とも称する)の角度を「第1角度θ1」と称し、第2傾斜面57が同じく内輪12の外周面となす鋭角(バレル角とも称する)の角度を「第2角度θ2」と称する。
【0043】
図2の例では、肩32は軸方向に平行な円筒面であるため、第1角度θ1は第1傾斜面56が軸方向となす鋭角の角度となり、第2角度θ2は第2傾斜面57が軸方向となす鋭角の角度となる。なお、第2リップ52が
図2に示す形状のまま、肩32が例えば軸方向外側に向かうにつれて径方向外側に傾く(すなわち、内輪12の外径が軸方向端部に近づくほど拡大する)ように肩32の形状を変更した場合、第1角度θ1はより大きくなり、第2角度θ2はより小さくなる。
【0044】
第1角度θ1は、第2角度θ2よりも大きい(θ1>θ2)。より好ましくは、第1角度θ1は、第2角度θ2よりも10度以上大きい(θ1>θ2+10)。第1角度θ1の範囲は、例えば20度以上80度以下である。第2角度θ2の範囲は、例えば10度以上40度以下である。
【0045】
以上に説明するように、シール15は、第1リップ51によって内輪12に軸方向に接触するとともに、第1リップ51よりも軸方向内側に形成されている第2リップ52によって内輪12に径方向に接触する。第2リップ52は、第1リップ51よりも軸方向内側で内輪12と接触し、内輪軌道31から肩32を伝って軸方向外側に流れる潤滑剤が第1リップ51側に漏れることを抑制する。これにより、第1リップ51に潤滑剤が到達しにくくなるため、第1リップ51と内輪12との間に絶縁性の油膜が形成されることを抑制することができる。この結果、第1リップ51と内輪12との間の電気抵抗値を低く保つことができるため、シール15と内輪12との通電性をより確実に維持することができる。
【0046】
すなわち、シール15は、内輪12との通電経路を形成する第1リップ51と、内輪軌道31と第1リップ51との間を塞いで、第1リップ51に潤滑剤が浸入することを抑制する第2リップ52と、を兼ね備える。
【0047】
さらに、第2リップ52は、金属部材42の傾斜部48によって支持されている状態で、所定の締め代により内輪12と径方向に接触している。このため、第2リップ52と内輪12との径方向の接触圧は、例えば傾斜部48を設けない場合と比べてより強くなる。これにより、第2リップ52は、リップ先端55の軸方向内側まで到達した潤滑剤がリップ先端55の軸方向外側(第2傾斜面57側)に漏れることをより確実に抑制することができる。
【0048】
より具体的には、傾斜部48の少なくとも一部(例えば、傾斜部48の径方向内側の端部)は、肩32の径方向外側に位置している。また、当該一部は、第2リップ52に内蔵されており、第2傾斜面57の径方向外側に位置している。このように構成することで、金属部材42は、より確実に第2リップ52を支持することができ、第2リップ52と内輪12とがより強い接触圧で接触することができる。
【0049】
第1リップ51には、金属部材42が内蔵されていない。このため、第1リップ51は金属部材42によってほとんど支持されておらず、しなりやすい(剛性が低い)。これにより、第1リップ51は、外側面33aに軸方向から比較的弱い接触圧で接触する。具体的には、第1リップ51と内輪12との軸方向の接触圧は、第2リップ52と内輪12との径方向の接触圧よりも弱い。
【0050】
この結果、第1リップ51と外側面33aとの摩擦力を低くすることができるため、第1リップ51の摩耗を抑制することができる。また、第1リップ51をしなりやすくすることで、内輪12が回転する際に第1リップ51は外側面33aをより追従することができる。この結果、シール15と内輪12との通電性をより確実に維持することができる。
【0051】
第2リップ52のリップ先端55は、周方向の全体にわたって形成されている。このため、より確実に潤滑剤の第1リップ51への漏れを抑制することができる。
【0052】
第2リップ52において、第1角度θ1は、第2角度θ2よりも大きい。このように構成することで、例えば第1角度θ1を第2角度θ2以下にする場合と比べて、より確実に潤滑剤の第1リップ51への漏れを抑制することができる。
【0053】
[複数の突条について]
上記のとおり、第2リップ52は、潤滑剤が第1リップ51側に漏れることを抑制する機能を有する。しかしながら、例えば潤滑剤のちょう度が比較的高い場合(例えば、潤滑剤が半流動状又は液状の場合)に、転がり軸受10を経年使用してリップ先端55が摩耗すると、潤滑剤が第1リップ51側に漏れるおそれがある。これに対し、本実施形態の転がり軸受10は、以下に説明する複数の突条58を設けることで、ポンプ作用によりリップ先端55から第1リップ51側に漏れた潤滑剤を軸方向内側に押し戻すことができるため、シール15と内輪12との通電性をより確実に維持することができる。
【0054】
図3は、
図1の第2リップ52を示す模式図である。
図3では、第2リップ52に含まれる第1傾斜面56および第2傾斜面57を周方向に展開して示している。また、第1傾斜面56および第2傾斜面57の様子を示すために、肩32は仮想線(二点鎖線)にて示している。
【0055】
第2リップ52は、第2傾斜面57に形成されている複数の突条58(リブ)を有する。複数の突条58は、それぞれ周方向に間隔を空けた状態で、リップ先端55から軸方向外側および周方向一方側に向かって延びている。複数の突条58は、断面が山形に形成されており、軸方向に対して例えば10度以上30度以下の角度で周方向に傾いている。
【0056】
第2リップ52が肩32に径方向に接触する際、突条58の根本(第2傾斜面57から突条58が立ち上がり始める部分)の肩32との接触圧は、突条58の頂点部分の肩32との接触圧や、第2傾斜面57のうち周方向に隣接する突条58間の中央部分の肩32との接触圧よりも弱くなる。
【0057】
内輪12が回転すると、リップ先端55から第1リップ51側に漏れた潤滑剤は、突条58に押されて周方向に回転する。突条58は軸方向に傾いているため、ポンプ作用により潤滑剤は軸方向他方側に移動する。そして、潤滑剤は、第2リップ52のうち突条58の根本の部分(接触圧が弱い部分)からリップ先端55の軸方向内側に押し戻される。すなわち、一旦はリップ先端55から第1リップ51側に潤滑剤が漏洩した場合であっても、複数の突条58のポンプ作用によって潤滑剤がリップ先端55の軸方向内側に押し戻されるため、第1リップ51と内輪12との間に絶縁性の油膜が形成されることをより確実に抑制し、シール15と内輪12との通電性をより確実に維持することができる。なお、複数の突条58は、省略されてもよい。
【0058】
[その他]
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的ではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及びその範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0059】
10 転がり軸受 11 外輪 11a 端部
12 内輪 12a 端部 13 転動体
14 保持器 15 シール 16 環状体
17 つの 18 ポケット 21 外輪軌道
22 肩 23 シール溝 31 内輪軌道
32 肩 33 凹部 33a 外側面
41 弾性部材 42 金属部材 44 本体部
45 リップ部 46 端部 47 板部
47a 端部 48 傾斜部 49 被覆部
51 第1リップ 52 第2リップ 53 主リップ
54 補助リップ 55 リップ先端 56 第1傾斜面
57 第2傾斜面 58 突条 61 ハウジング
62 回転軸 C1 中心軸 S1 内部空間
S2 外部空間 θ1 第1角度 θ2 第2角度