(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092671
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】クロック再生方法および無線通信システム
(51)【国際特許分類】
H04L 7/04 20060101AFI20230627BHJP
H04L 7/00 20060101ALI20230627BHJP
H04L 1/08 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
H04L7/04 100
H04L7/00 970
H04L1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207830
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141678
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 康英
【テーマコード(参考)】
5K014
5K047
【Fターム(参考)】
5K014DA03
5K014EA07
5K047AA02
5K047BB01
5K047HH18
5K047HH42
5K047HH44
5K047KK16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】クロックのタイミングの同期の引き込み性能を向上させることが可能な、クロック再生方法及びそのようなクロック再生方法を実行する無線通信システムを提供する。
【解決手段】無線通信システムにおいて、送信側装置2が実行するクロック再生方法は、2シンボル連続で同じシンボル点となるデータパターンを同期用信号として送信し、受信側装置が同期用信号を受信して同期用信号を用いてクロックのタイミングの同期の処理と、クロックのタイミングの同期が確立した後に回線断が発生した場合に、受信側装置が、回線断が発生する前に記憶した位相誤差を用いてクロックのタイミングの同期の処理と、を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信側装置が2シンボル連続で同じシンボル点となるデータパターンを同期用信号として送信し、
受信側装置が前記同期用信号を受信して前記同期用信号を用いてクロックのタイミングの同期の処理を行う、
ことを特徴とするクロック再生方法。
【請求項2】
前記クロックのタイミングの同期が確立した後に回線断が発生した場合に、
前記受信側装置が、前記回線断が発生する前に記憶した位相誤差を用いてクロックのタイミングの同期の処理を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載のクロック再生方法。
【請求項3】
前記回線断が発生してから所定の時間が経過してもクロックのタイミングの同期を確立することができない場合に、
前記受信側装置が前記送信側装置に対して前記同期用信号の送信を要求する、
ことを特徴とする請求項2に記載のクロック再生方法。
【請求項4】
前記送信側装置において、前記同期用信号に対してフィルタ処理が施される、
ことを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか1項に記載のクロック再生方法。
【請求項5】
請求項1から4のうちのいずれか1項に記載のクロック再生方法を実行する、
ことを特徴とする無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば通信衛星を介して行われる無線通信に適用されてクロック再生を行うクロック再生方法およびそのようなクロック再生方法を実行する無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信システムの受信側装置では、送信側装置から送信される変調信号を復調する際に使用するクロックのタイミングを、前記送信側装置で変調した際のクロックのタイミングと同期させる処理が行われる。クロックのタイミングを同期させる仕法として、受信側装置が受信したアナログ信号から送信側装置における変調時の位相を推定し、推定した前記位相に基づいてクロックのタイミングの同期を確立する方法がある。
【0003】
復調に使用するクロックの位相を推定する従来の仕組みとして、受信信号を直交検波した後の信号のうち、クロック位相の推定に使用する信号の同相成分および直交成分に対して個別にリミタ処理を行うリミタ手段と、通常の通信よりもロールオフ率の高いフィルタを用いて波形整形を行うことにより、リミタ処理後の各信号から個別にクロック成分を抽出するクロック成分抽出手段と、クロック成分抽出手段により抽出された各クロック成分をそれぞれ2乗し、2乗した値を加算してその結果をクロック位相推定用信号とするクロック位相推定用信号算出手段と、クロック位相推定用信号に基づいてクロック位相を推定する位相推定手段と、を備えるクロック位相推定装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、周波数の有効利用を実現するために通信チャネルの間隔を狭くすることは効果的な手段である。デジタル変調において、チャネル間隔の調節としてロールオフ率を下げることでチャネル間隔を狭くすることが可能となる。しかしながら、ロールオフ率が低いとクロックのタイミングの検出精度が低下するため、クロックのタイミングの同期性能が劣化する、という問題がある。特に低C/N(Carrier to Noise;搬送波対雑音比)の環境下ではクロックのタイミングの同期の引き込み性能が大幅に劣化する、という問題がある。
【0006】
特許文献1の技術では、クロックのタイミングの検出信号にリミッタを挿入することによりタイミングのばらつきを均一にすることによって検出精度を上げるようにしているものの、この処理では雑音に対する影響も均一となるので雑音に対しては改善の度合いが小さい、という問題がある。
【0007】
そこでこの発明は、クロックのタイミングの同期の引き込み性能を向上させることが可能な、クロック再生方法およびそのようなクロック再生方法を実行する無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明に係るクロック再生方法は、送信側装置が2シンボル連続で同じシンボル点となるデータパターンを同期用信号として送信し、受信側装置が前記同期用信号を受信して前記同期用信号を用いてクロックのタイミングの同期の処理を行う、ことを特徴とする。
【0009】
この発明に係るクロック再生方法は、前記クロックのタイミングの同期が確立した後に回線断が発生した場合に、前記受信側装置が、前記回線断が発生する前に記憶した位相誤差を用いてクロックのタイミングの同期の処理を行う、ようにしてもよい。
【0010】
この発明に係るクロック再生方法は、前記回線断が発生してから所定の時間が経過してもクロックのタイミングの同期を確立することができない場合に、前記受信側装置が前記送信側装置に対して前記同期用信号の送信を要求する、ようにしてもよい。
【0011】
この発明に係るクロック再生方法は、前記送信側装置において、前記同期用信号に対してフィルタ処理が施される、ようにしてもよい。
【0012】
この発明に係る無線通信システムは、上記に記載のクロック再生方法を実行する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係るクロック再生方法や無線通信システムによれば、2シンボル連続で同じシンボル点となるデータパターンを用いてクロックのタイミングの同期の処理を行うようにしており、2シンボル連続で同じシンボル点の信号はロールオフフィルタのロールオフ率の違いの影響を受けにくい信号であるので、クロックのタイミングの同期の引き込み性能を向上させることが可能となる。
【0014】
この発明に係るクロック再生方法や無線通信システムによれば、回線断が発生する前に記憶した位相誤差を用いてクロックのタイミングの同期の処理を行うようにした場合には、回線断の際のクロックの同期処理を迅速に行うことが可能となる。
【0015】
この発明に係るクロック再生方法や無線通信システムによれば、回線断が発生してから所定の時間が経過した場合に同期用信号が送信されるようにした場合には、回線断の際のクロックの同期処理を不要な時間をかけずに適切に行うことが可能となる。
【0016】
この発明に係るクロック再生方法や無線通信システムによれば、同期用信号に対してフィルタ処理が施されるようにした場合には、2シンボル連続で同じシンボル点となるデータパターンを送信する際のスペクトルマスクを改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】この発明の実施の形態に係るクロック再生方法を実行する無線通信システムを構成する送信側装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図2】この発明の実施の形態に係るクロック再生方法を実行する無線通信システムを構成する受信側装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】
図1の送信側装置と
図2の受信側装置との間のクロックの同期処理の手順の概要を説明する図である。
【
図4】2シンボル連続で同じシンボル点となるデータパターンの例を示す図である。
【
図5】一般的な、直交検波処理後の出力のアイパターンの波形図の例を示す図である。(A)はロールオフ率が0.5の場合のアイパターンの波形図の例である。(B)はロールオフ率が0.05の場合のアイパターンの波形図の例である。
【
図6】ロールオフ率の違いによるロールオフフィルタの周波数特性の違いを示す図である。
【
図7】2シンボル連続で同じシンボル点となるデータパターンが用いられる場合の、直交検波処理後の出力のアイパターンの波形図の例を示す図である。(A)はロールオフ率が0.5の場合のアイパターンの波形図の例である。(B)はロールオフ率が0.05の場合のアイパターンの波形図の例である。
【
図8】
図1の送信側装置と
図2の受信側装置との間の回線断の際のクロックの同期処理の手順の概要を説明する図である。
【
図9】
図8の回線断の際のクロックの同期処理に関係する
図2の受信側装置における処理内容を説明する機能ブロック図である。
【
図10】ロールオフフィルタから出力される信号の周波数スペクトラム形状を示す図である。(A)は一般的な周波数スペクトラム形状を示す図である。(B)は2シンボル連続で同じシンボル点となるデータパターンが用いられる場合の周波数スペクトラム形状を示す図である。
【
図11】この発明に係るクロック再生方法を実行する無線通信システムを構成する送信側装置の概略構成の他の例を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0019】
この実施の形態では、送信側装置2と受信側装置3との間(尚、送信および受信が可能で双方向通信を行う2つの通信装置の間を含む)で通信衛星を介して(言い換えると、衛星通信回線を使用して)無線通信を行う無線通信システム1においてクロック再生方法が実行される場合を例として説明する。なお、この発明の要点には関係しない回路素子については図示および説明を省略するものとし、図示や説明が為されていないとしても送信側装置2や受信側装置3ならびに無線通信システム1に必要とされる回路素子が適宜備えられているものとする。
【0020】
図1は、この発明の実施の形態に係るクロック再生方法を実行する無線通信システム1を構成する送信側装置2の概略構成を示す機能ブロック図である。
【0021】
送信側装置2は、特にこの発明に関係する構成として、同期用データ生成部21,切替スイッチ22,ヘッダ付与部23,マッピング部24,および変調部25を有する。
【0022】
同期用データ生成部21は、受信側装置3が復調する際に使用するクロックのタイミングを送信側装置2で変調した際のクロックのタイミングと同期させる処理(「クロックの同期処理」と呼ぶ)に用いられる信号(「同期用信号」と呼ぶ)を生成して出力する。
【0023】
切替スイッチ22は、一端(具体的には、出力側)がヘッダ付与部23に接続され、他端(具体的には、入力側)が、同期用データ生成部21と接続したり、通常信号(即ち、送信側装置2から受信側装置3へと送信される情報/データから構成される伝送信号)の送信系と接続したりするように切り替えを行う。
【0024】
ヘッダ付与部23は、送信側装置2から受信側装置3へと送信される信号フレームに、当該の信号フレームが同期用データ生成部21から出力されるデータである場合に同期用信号であることを識別する情報を含むヘッダ(尚、ユニークワードも含む)を付与し、また、当該の信号フレームが通常信号の送信系からの情報/データである場合に通常信号であることを識別する情報(つまり、通常の信号と同様の情報)を含むヘッダ(尚、ユニークワードも含む)を付与して出力する。
【0025】
なお、同期用信号であることを識別する情報がヘッダに含まれることは必須ではなく、同期用信号であることを識別する情報がヘッダに含まれないようにしてもよい。
【0026】
マッピング部24は、ヘッダ付与部23から出力される信号フレーム(ビット列の信号)を、所定のビット数であるシンボルの単位で、例えばQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)やQAM(Quadrature Amplitude Modulation)などの所定のデジタル直交変調の変調方式で定められるコンスタレーション上の信号点にマッピングしてマッピング処理を行い、前記マッピング処理の結果としてのシンボルを信号フレーム単位で出力する。
【0027】
変調部25は、マッピング部24から出力される信号フレームをデジタル-アナログ変換して得られるアナログ信号を高周波(RF:Radio Frequency)の無線信号に変調して出力する。
【0028】
変調部25から出力される無線信号は、必要に応じて増幅処理などが施されたうえでアンテナ(図示していない)へと入力され、前記アンテナを介して電波として空間に放射される。
【0029】
図2は、この発明の実施の形態に係るクロック再生方法を実行する無線通信システム1を構成する受信側装置3の概略構成を示す機能ブロック図である。
【0030】
受信側装置3は、特にこの発明に関係する構成として、ロールオフフィルタ31,位相誤差検出部32,ローパスフィルタ33,数値制御発振器34,乗算器35,デマッピング部36,および同期検出部37を有する。
【0031】
受信側装置3のロールオフフィルタ31,位相誤差検出部32,ローパスフィルタ33,数値制御発振器34,および乗算器35は、受信信号(即ち、送信側装置2から送信される変調信号)を復調する際に使用するクロック信号(別言すると、サンプリングクロック)を受信信号から再生するクロック再生回路を構成する。
【0032】
クロック再生回路(のうちの乗算器35)には、例えば、アンテナ(図示していない)を介して受信される高周波(RF)の無線信号(受信波信号)が周波数変換された中間周波数(IF:Intermediate Frequency)信号に対して直交検波処理が施されて得られる、位相が相互に直交する同相成分(In-phase)のベースバンド信号と直交成分(Quadrature-phase)のベースバンド信号とが入力される(尚、どちらもアナログ信号である)。実施の形態の説明では同相成分と直交成分とを特に区別することなくどちらにも共通する内容として説明し、また、図面では同相成分の信号と直交成分の信号とを1つの信号線で表す。
【0033】
ロールオフフィルタ31(ROF:Roll-Off Filter)は、有限長インパルス応答として実現されるローパスフィルタ(LPF:Low Pass Filter)により構成されて、乗算器35から出力される同相成分および直交成分のデジタル信号の入力を受け、前記デジタル信号それぞれに対して帯域制限処理を施して出力する。
【0034】
位相誤差検出部32は、ロールオフフィルタ31から出力される同相成分および直交成分のデジタル信号の供給を受け、前記デジタル信号それぞれの位相誤差(即ち、理想的な位相に対する前記デジタル信号の位相の誤差/ずれ)を検出して、前記位相誤差を示す信号を出力する。
【0035】
位相誤差検出部32は、具体的には、信号の振幅のアイパターン(「アイダイアグラム」とも呼ばれる;
図5参照)において振幅=ゼロを通るタイミング(言い換えると、ベースバンド信号の符号が反転するタイミング;「ゼロクロス点」とも呼ばれる)を検出する方法により、乗算器35でのサンプリング位相の最適点からのずれを位相誤差として検出して、前記位相誤差を示す信号を出力する。位相誤差検出部32は、所定の時間間隔(即ち、1シンボル周期)の中間点をゼロクロス点として、前記ゼロクロス点が振幅=ゼロ(または、ゼロ近傍)にくるようにサンプリングタイミングを調整することによってシンボルタイミングの同期をとる。
【0036】
ローパスフィルタ33(LPF:Low Pass Filter)は、位相誤差検出部32から出力される位相誤差を示す信号の入力を受け、前記位相誤差を示す信号に対して帯域制限処理を施して出力する(具体的には、高周波成分を取り除いて低周波成分のみを通過させる)。
【0037】
数値制御発振器34(NCO:Numerically Controlled Oscillator)は、ローパスフィルタ33から出力される位相誤差を示す信号の入力を受け、前記位相誤差の値に応じた周波数のクロックをサンプリングクロックとして出力する。
【0038】
乗算器35は、クロック再生回路へと入力される同相成分および直交成分のベースバンド信号(尚、アナログ信号である)の入力を受けるとともに数値制御発振器34から出力されるサンプリングクロックの入力を受け、前記サンプリングクロックに基づいて前記ベースバンド信号それぞれに対してサンプリング処理を施して同相成分および直交成分のデジタル信号に変換して出力する。
【0039】
デマッピング部36は、クロック再生回路(のうちのロールオフフィルタ31)から出力されるデジタル信号の入力を受け、前記デジタル信号に対して所定のデジタル直交変調の変調方式で定められるコンスタレーション上のデマッピング処理(即ち、送信側装置2のマッピング部24におけるマッピング処理の逆処理)を施したうえで復調処理を施して信号フレーム(ビット列の信号)として出力する。
【0040】
同期検出部37は、デマッピング部36から出力される信号フレームの入力を受け、前記信号フレームのヘッダに含まれるクロックの同期処理用のユニークワード(UW:Unique Word)などの既知パターンの検出を利用して位相の同期/非同期を検出・判定する処理を行う。
【0041】
(クロックの同期処理)
実施の形態に係るクロック再生方法は、送信側装置2が2シンボル連続で同じシンボル点となるデータパターンを同期用信号として送信し、受信側装置3が前記同期用信号を受信して前記同期用信号を用いてクロックのタイミングの同期の処理を行う、ようにしている。
【0042】
図3は、実施の形態に係るクロック再生方法を実行する無線通信システム1を構成する送信側装置2と受信側装置3との間のクロックの同期処理の手順の概要を説明する図である。
【0043】
送信側装置2の同期用データ生成部21は、クロックの同期処理の際に、同期用信号として、2シンボル連続で同じシンボル点となるデータパターンを生成して出力する。
【0044】
2シンボル連続で同じシンボル点となるデータパターンの例を
図4に示す。
図4に示す例のように、同期用データ生成部21は、例えば、2シンボル周期に1回シンボルマッピングを可能とするデータを発生する信号発生器211と、S/P変換器212(Serial-to-Parallel converter:直並列変換器)と、を含んで構成される。信号発生器211として、具体的には、ランダム化を考慮してPN(Pseudo random Noise:疑似ランダム)符号発生器が用いられることが考えられる。
【0045】
切替スイッチ22は、クロックの同期処理の際には、入力側が同期用データ生成部21と接続する。
【0046】
そして、送信側装置2から受信側装置3に対して同期用信号が送信される。
【0047】
受信側装置3は、送信側装置2から送信される同期用信号を用いてクロックの同期処理を行い、位相が同期していると同期検出部37が判定すると、送信側装置2に対して、受信側装置3におけるクロックの同期が完了したことを通知する信号(「同期完了通知信号」と呼ぶ)を送信する。
【0048】
クロックの同期が確立することによって受信側装置3は受信信号のヘッダの情報を取得することができるようになるので、同期用信号であることを識別する情報が受信信号のヘッダに含まれている場合に、受信側装置3は、同期用信号を受信してクロックの同期が完了したとして同期完了通知信号を送信側装置2へと送信するようにしてもよい。
【0049】
ここで、受信側装置3は、信号の振幅のアイパターン(
図5参照)において振幅=ゼロを通るタイミング(言い換えると、ベースバンド信号の符号が反転するタイミング;「ゼロクロス点」と呼ぶ)を検出するゼロクロス検出法によってシンボル同期を確立する。具体的には、受信側装置3の位相誤差検出部32は、所定の時間間隔(即ち、1シンボル周期)の中間点をゼロクロス点として、前記ゼロクロス点が振幅=ゼロ(または、ゼロ近傍)にくるようにサンプリングタイミングを調整することによってシンボルタイミングの同期を確立する。
【0050】
ゼロクロス点は、
図5(A)に示すように、ロールオフ率が高いと、明確であり、容易に検出され得る。ゼロクロス点は、一方で、同図(B)に示すように、ロールオフ率が低いと、ジッタの発生によってゼロクロス点に大きな揺らぎが生ずるために不明確になり、検出が困難となり、結果として安定したシンボル同期が得られないことがある。
【0051】
ロールオフ率の違いによるロールオフフィルタの周波数特性の違い(具体的には、周波数関数H(f)の形状の違い)を
図6に示す。
図6から、信号パターンの周波数成分がシンボル周波数f
0の1/2以下(即ち、-f
0/2からf
0/2まで)のときはロールオフ率αの影響が小さいことが確認される。また、雑音にも有利である。
【0052】
図6に示す特性により、送信側装置2から同期用信号として2シンボル連続で同じシンボル点となるデータパターンが送信されると、2シンボル連続で同じシンボル点の信号は、周波数としては
図6における周波数fがゼロの近傍の信号がメインになるので、ロールオフフィルタによってフィルタリングされてもカットされる領域が小さく大きな変化が生じないため、ロールオフフィルタのロールオフ率αの違いの影響を受けにくい信号である。すなわち、送信側装置2から同期用信号として2シンボル連続で同じシンボル点となるデータパターンが送信されることにより、シンボル周波数f
0の1/2の周波数成分はロールオフ率αが低い影響を受けにくい信号であるので、ロールオフ率αに依らずにゼロクロス点を容易に検出することが可能となる。
【0053】
具体的には例えば、送信側装置2から同期用信号として2シンボル連続で同じシンボル点となるデータパターンが送信されると、ゼロクロス点は、
図7に示すように、ロールオフ率の違いによる差違が小さく、ロールオフ率が高い場合(同図(A)参照)も低い場合(同図(B)参照)も明確であり、容易に検出することが可能である。
【0054】
ロールオフフィルタから出力される信号の周波数スペクトラム形状を
図7に示す。同図(A)は一般的な周波数スペクトラム形状を示す図である。同図(B)は2シンボル連続で同じシンボル点となるデータパターンが用いられる場合の周波数スペクトラム形状を示す図である。なお、同図(A)と(B)とのどちらもロールオフ率は0.05である。
【0055】
送信側装置2は、受信側装置3から送信される同期完了通知信号を受信すると、切替スイッチ22の入力側の接続を、同期用データ生成部21との接続から通常信号の送信系との接続へと切り替える。
【0056】
なお、切替スイッチ22は、同期用データ生成部21と接続してから予め設定される所定の時間の経過後に通常信号の送信系との接続へと切り替えられるようにしてもよい。この場合の前記の所定の時間は、例えば、受信側装置3においてクロックの同期に必要な時間として想定される時間長さ[秒]が考慮されるなどしたうえで適当な時間長さ[秒]に適宜設定される。また、この場合は、同期用信号であることを識別する情報がヘッダに含まれないようにしてもよい。
【0057】
そして、送信側装置2から受信側装置3へと通常信号が送信される。
【0058】
クロックの同期処理は、通信ごとに当該の通信の開始時のみに行われるようにしてもよく、或いは、通信の開始時に加えて予め設定される所定の時間間隔で繰り返し行われるようにしてもよい。
【0059】
(回線断の際のクロックの同期処理)
実施の形態に係るクロック再生方法は、クロックのタイミングの同期が確立した後に回線断が発生した場合に、受信側装置3が、回線断が発生する前に記憶した位相誤差を用いてクロックのタイミングの同期の処理を行う、ようにしている。
【0060】
図8は、実施の形態に係るクロック再生方法を実行する無線通信システム1を構成する送信側装置2と受信側装置3との間の回線断(例えば、瞬断)の際(具体的には例えば、受信信号のヘッダの情報を取得することができない場合)のクロックの同期処理の手順の概要を説明する図である。
【0061】
図9は、
図8に示す回線断の際のクロックの同期処理に関係する特に受信側装置3における処理内容を説明する機能ブロック図である。
【0062】
受信側装置3は、特に回線断の際のクロックの同期処理を行うための構成として、メモリ38および切替スイッチ39も有する。
【0063】
ローパスフィルタ33は、乗算器331,加算器332,および遅延器333を備える。
【0064】
乗算器331は、位相誤差検出部32から出力される位相誤差を示す信号の入力を受け、前記位相誤差を示す信号に予め設定される所定のフィルタ係数を乗算して出力する。
【0065】
加算器332は、乗算器331から出力される信号の入力を受けるとともに、遅延器333から出力される信号の入力を切替スイッチ39を介して受け、前記2つの信号を加算して出力する。
【0066】
加算器332は、あるいは、乗算器331から出力される信号の入力を受けるとともに、メモリ38に記憶されている信号の入力を切替スイッチ39を介して受け、前記2つの信号を加算して出力する。
【0067】
遅延器333は、加算器332から出力される信号の入力を受け、前記信号を所定の時間だけ遅延させて出力する。前記の所定の時間は、例えば、サンプリングクロックに基づく1サンプリング周期/1シンボル周期に相当する時間長さに設定される。
【0068】
メモリ38は、遅延器333から出力される信号の供給を受け、前記信号を記憶する。
【0069】
切替スイッチ39は、一端(具体的には、出力側)が加算器332に接続され、他端(具体的には、入力側)が、遅延器333の出力側と接続したり、メモリ38と接続したりするように切り替えを行う。
【0070】
切替スイッチ39は、クロックの同期処理が行われるときは入力側が遅延器333の出力側と接続し、遅延器333の出力側と加算器332とを接続する。
【0071】
受信側装置3は、クロックの同期処理によってクロックの同期が確立された(具体的には例えば、受信信号のヘッダの情報を取得することができる)場合、ローパスフィルタ33から出力される値(具体的には、位相誤差)をメモリ38に記憶させる。
【0072】
メモリ38に記憶させる値(具体的には、位相誤差)は、送信側装置2から送信される同期用信号を用いるクロックの同期処理が通信ごとに当該の通信の開始時に行われて通信の開始時の値が記憶される。
【0073】
メモリ38に記憶させる値(具体的には、位相誤差)は、また、通常の(つまり、送信側装置2から送信される同期用信号を用いない)クロックの同期処理による値が予め設定される所定の時間間隔で記憶されるようにして前記所定の時間間隔で更新されるようにしてもよい。
【0074】
メモリ38に記憶させる値(具体的には、位相誤差)は、また、送信側装置2から送信される同期用信号を用いるクロックの同期処理が通信ごとに当該の通信の開始時に加えて予め設定される所定の時間間隔で繰り返し行われる場合には、前記所定の時間間隔で繰り返し行われるたびの値が記憶されて更新されるようにしてもよい。
【0075】
受信側装置3は、クロックの同期が確立した後に回線断が発生した場合、メモリ38に記憶されている値(具体的には、位相誤差)を用いてクロックの同期処理を行ってクロック再生を試みる。このとき、切替スイッチ39の入力側がメモリ38と接続し、メモリ38に記憶されている値がローパスフィルタ33(具体的には、加算器332)へと供給される。
【0076】
メモリ38に記憶されている値を用いてクロックの同期処理を行うものの回線断が発生してから所定の時間が経過してもメモリ38に記憶されている値を用いた処理によってはクロックの同期を確立することができない(具体的には例えば、受信信号のヘッダの情報を取得することができない)場合、受信側装置3は、送信側装置2へと同期用信号の送信を要求する。
【0077】
送信側装置2は、受信側装置3から送信される同期用信号の送信の要求を受信すると、切替スイッチ22の入力側の接続を、通常信号の送信系との接続から同期用データ生成部21との接続へと切り替える。
【0078】
そして、送信側装置2から受信側装置3に対して同期用信号が送信される。
【0079】
受信側装置3は、送信側装置2から送信される同期用信号を用いてクロックの同期処理を行い、位相が同期していると同期検出部37が判定すると、送信側装置2に対して、同期完了通知信号を送信する。
【0080】
送信側装置2は、受信側装置3から送信される同期完了通知信号を受信すると、切替スイッチ22の入力側の接続を、同期用データ生成部21との接続から通常信号の送信系との接続へと切り替える。
【0081】
そして、送信側装置2から受信側装置3へと通常信号が送信される。
【0082】
実施の形態に係るクロック再生方法や無線通信システム1によれば、2シンボル連続で同じシンボル点となるデータパターンを用いてクロックのタイミングの同期の処理を行うようにしており、2シンボル連続で同じシンボル点の信号はロールオフフィルタのロールオフ率の違いの影響を受けにくい信号であるので、クロックのタイミングの同期の引き込み性能を向上させることが可能となる。
【0083】
実施の形態に係るクロック再生方法や無線通信システム1によれば、回線断が発生する前に記憶した位相誤差を用いてクロックのタイミングの同期の処理を行うようにしているので、回線断の際のクロックの同期処理を迅速に行うことが可能となる。
【0084】
実施の形態に係るクロック再生方法や無線通信システム1によれば、回線断が発生してから所定の時間が経過した場合に同期用信号が送信されるようにしているので、回線断の際のクロックの同期処理を不要な時間をかけずに適切に行うことが可能となる。
【0085】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【0086】
例えば、2シンボル連続で同じシンボル点となるデータパターンでは、
図10に示すように帯域外特性が若干盛り上がる(
図10に示す例では、特に大凡-30~-20[MHz]および20~30[MHz]の範囲において電力[dBm]が若干盛り上がる)ので、無線通信システムとして送信スペクトルマスクを満たさない場合は送信系にフィルタが追加されるようにしてもよい。具体的には例えば、
図11に示すように、送信側装置2の変調部25がロールオフフィルタ251,ローパスフィルタ252,切替スイッチ253,および直交変調器254を含むように構成されることが考えられる。ロールオフフィルタ251は、マッピング部24から出力される信号に対して帯域制限処理を施して出力する。ローパスフィルタ252は、ロールオフフィルタ251から出力される信号の帯域外特性を抑えてスペクトルマスクを改善する(言い換えると、スペクトルマスクを満たす)ように構成される。切替スイッチ253は、クロックの同期処理の際(即ち、同期用信号を送信するとき)はローパスフィルタ252の出力側と直交変調器254の入力側とを接続し(
図11に示す状態)、クロックの同期が完了して通常信号を送信するときはロールオフフィルタ251の出力側と直交変調器254の入力側とを接続する。直交変調器254は、ロールオフフィルタ251またはローパスフィルタ252から出力される信号を直交変調して出力する。このように送信側装置2の変調部25が構成されることにより、同期用信号に対してローパスフィルタ252によってフィルタ処理が施されるので、2シンボル連続で同じシンボル点となるデータパターンを送信する際のスペクトルマスクが改善される。
【符号の説明】
【0087】
1 無線通信システム
2 送信側装置
21 同期用データ生成部
211 信号発生器
212 S/P変換器
22 切替スイッチ
23 ヘッダ付与部
24 マッピング部
25 変調部
251 ロールオフフィルタ
252 ローパスフィルタ
253 切替スイッチ
254 直交変調器
3 受信側装置
31 ロールオフフィルタ
32 位相誤差検出部
33 ローパスフィルタ
331 乗算器
332 加算器
333 遅延器
34 数値制御発振器
35 乗算器
36 デマッピング部
37 同期検出部
38 メモリ
39 切替スイッチ