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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092683
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】脱硫ゴムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/28 20060101AFI20230627BHJP
【FI】
C08J11/28 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207844
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森本 祥平
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA04
4F401AA06
4F401AC02
4F401AC20
4F401CA66
4F401CA68
4F401CA75
4F401CB18
4F401CB25
4F401EA67
4F401EA76
4F401FA01Y
4F401FA01Z
4F401FA02Y
(57)【要約】
【課題】良好な加硫後物性を示す脱硫ゴムの製造方法を提供すること。
【解決手段】せん断力を付与しつつ、加硫ゴムと脱硫剤とを加熱混合することにより脱硫ゴムを製造する脱硫ゴムの製造方法であって、混合時の加熱温度が100℃以下であり、加硫ゴムがジエン系ゴムの加硫ゴムであり、脱硫剤が25℃で固体のアミン化合物である脱硫ゴムの製造方法。ロール機、バンバリーミキサー、押出機、ギアポンプ、かみ合い式ミキサー、ニーダー、およびコニーダーのいずれか1つ以上を使用し、せん断力を付与しつつ、加硫ゴムと脱硫剤とを加熱混合することが好ましい。また、ジエン系ゴムが、天然ゴム、ブタジエンゴムおよびスチレンブタジエンゴムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
せん断力を付与しつつ、加硫ゴムと脱硫剤とを加熱混合することにより脱硫ゴムを製造する脱硫ゴムの製造方法であって、
混合時の加熱温度が100℃以下であり、
前記加硫ゴムがジエン系ゴムの加硫ゴムであり、
前記脱硫剤が25℃で固体のアミン化合物であることを特徴とする脱硫ゴムの製造方法。
【請求項2】
ロール機、バンバリーミキサー、押出機、ギアポンプ、かみ合い式ミキサー、ニーダー、およびコニーダーのいずれか1つ以上を使用し、せん断力を付与しつつ、前記加硫ゴムと前記脱硫剤とを加熱混合する請求項1に記載の脱硫ゴムの製造方法。
【請求項3】
前記ジエン系ゴムが、天然ゴム、ブタジエンゴムおよびスチレンブタジエンゴムからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載の脱硫ゴムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な加硫後物性を示す脱硫ゴムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりから、使用済タイヤやその他のゴム製品から生ずる加硫ゴム廃材を再利用することが強く要望されている。
【0003】
下記特許文献1では、脱硫剤がアミン化合物であり、ゴムがEPDMポリマーを含み、硫黄架橋ゴムが、脱硫の間、250~350℃の温度に加熱され、硫黄架橋ゴムの脱硫が5~10MPaの圧力で行われる、再加硫可能な脱硫生成物を得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4633988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが鋭意検討したところ、上記従来技術では、脱硫ゴムの原料となる加硫ゴムを構成するゴム種に限りがあることが判明した。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、良好な加硫後物性を示す脱硫ゴムの製造方法を提供することにある。
【0007】
上記課題は下記の如き構成により解決し得る。すなわち本発明は、せん断力を付与しつつ、加硫ゴムと脱硫剤とを加熱混合することにより脱硫ゴムを製造する脱硫ゴムの製造方法であって、混合時の加熱温度が100℃以下であり、前記加硫ゴムがジエン系ゴムの加硫ゴムであり、前記脱硫剤が25℃で固体のアミン化合物であることを特徴とする脱硫ゴムの製造方法に関する。
【0008】
上記脱硫ゴムの製造方法において、ロール機、バンバリーミキサー、押出機、ギアポンプ、かみ合い式ミキサー、ニーダー、およびコニーダーのいずれか1つ以上を使用し、せん断力を付与しつつ、前記加硫ゴムと前記脱硫剤とを加熱混合することが好ましい。
【0009】
上記脱硫ゴムの製造方法において、前記ジエン系ゴムが、天然ゴム、ブタジエンゴムおよびスチレンブタジエンゴムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る脱硫ゴムの製造方法では、せん断力を付与しつつ、加硫ゴムと脱硫剤とを加熱混合することにより脱硫ゴムを製造する。ただし、混合時の加熱温度を100℃以下に制御するため、耐熱性をそれほど有しないジエン系ゴムの加硫ゴムであっても、加熱によるゴム分子の主鎖の切断を抑制し、得られる脱硫ゴム、さらには該脱硫ゴムを配合したゴム組成物の加硫後物性を向上することができる。なお、混合時の加熱温度を100℃以下としても加硫ゴムの脱硫を効率よく達成するために、本発明においては加硫ゴムと脱硫剤とを加熱混合する際、せん断力を付与しつつ、脱硫剤として25℃で固体のアミン化合物を使用する。その結果、得られる脱硫ゴム、さらには該脱硫ゴムを配合したゴム組成物の加硫後物性を向上することができる。このような効果が得られる理由は明らかではないが、混合時の加熱温度を100℃以下とした状態で、加硫ゴムと25℃で固体のアミン化合物とを混合した場合、アミン化合物の溶融が適度に抑えられ、加硫ゴムとアミン化合物とに効率よくせん断力が付与され、加硫ゴムの硫黄架橋部位に対するアミン化合物の求核的攻撃が効率よく進行することで、加硫ゴムの硫黄架橋部位の切断反応が選択的に進行する可能性が考えられる。
【0011】
なお、ノルマルブチルアミンなどの短鎖アルキルアミン化合物を脱硫剤として使用して得られた脱硫ゴムをタイヤ原料として使用した場合、タイヤは摩耗により脱硫ゴムを含むゴムが外部に放出されるため、環境面で問題となる懸念があるが、25℃で固体のアミン化合物は環境面での負荷が低い。加えて、25℃で固体のアミン化合物は液体のアミン化合物に比して作業性に優れる。このため、本発明に係る脱硫ゴムの製造方法は、良好な加硫後物性を示す脱硫ゴムを製造できるのみならず、環境面および作業面でも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る脱硫ゴムの製造方法において、原料として使用する加硫ゴムとして、ジエン系ゴムの加硫ゴムを使用する。ジエン系ゴムとしては、特に限定されるものでなく、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合体、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴムなどが挙げられる。これらはそれぞれ単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。ジエン系ゴムとして、好ましくは、天然ゴム、ブタジエンゴムおよびスチレンブタジエンゴム、またはこれらの2種以上のブレンドである。
【0013】
本発明に係る脱硫ゴムの製造方法は、脱硫剤として、25℃で固体のアミン化合物を使用する。25℃で固体のアミン化合物としては、一般的には長鎖アルキルアミン化合物が該当し、炭素数が12~18の長鎖アルキルアミン化合物が好ましい。このようなアルキルアミン化合物としては、ヘキサデシルアミン(炭素数16、融点26℃)、ドデシルアミン(炭素数12、融点44℃)、ステアリルアミン(炭素数18、融点53℃)などが挙げられる。
【0014】
本発明に係る脱硫ゴムの製造方法において、良好な加硫後物性を示す脱硫ゴムを製造する観点から、加硫ゴムに対する脱硫剤の使用量は、加硫ゴムの全量を100質量部としたとき、1~30質量部であることが好ましい。
【0015】
加硫ゴムの原料となる硫黄は通常のゴム用硫黄であればよく、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。
【0016】
脱硫ゴムの原料となる加硫ゴムとして、ゴム成分および硫黄と共に、必要に応じて加硫促進剤、カーボンブラック、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫遅延剤、有機過酸化物、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤を適宜配合したゴム組成物を加硫したものが使用可能である。
【0017】
カーボンブラックとしては、当業者に公知のカーボンブラックが使用可能であり、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなどが用いられる。脱硫ゴムの原料となる加硫ゴム中のゴム成分の全量を100質量部としたとき、カーボンブラックの含有量は30~100質量部であることが好ましく、30~60質量部であることがより好ましい。
【0018】
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。
【0019】
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン-ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などの老化防止剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。
【0020】
本発明に係る脱硫ゴムの製造方法では、せん断力を付与しつつ、加硫ゴムと脱硫剤とを加熱混合する。加硫ゴムおよび脱硫剤にせん断力を付与する方法としては、当業者において一般的に使用されるロール機、バンバリーミキサー、押出機、ギアポンプ、かみ合い式ミキサー、ニーダー、またはコニーダーを使用し、せん断力を付与しつつ、加硫ゴムと脱硫剤とを加熱混合する方法が挙げられる。本発明においては、加硫ゴムおよび脱硫剤にせん断力を付与する際、ロール機、バンバリーミキサー、押出機、ギアポンプ、かみ合い式ミキサー、ニーダー、およびコニーダーを単独で使用してもよく、あるいはいずれかの装置を併用してもよい。ロール機を使用する場合、例えば脱硫剤と加硫ゴムとを混合しつつ、脱硫剤が加硫ゴムの硫黄架橋部を切断できるように、当業者に公知のロール機に脱硫剤と加硫ゴムとを通す方法などが挙げられる。また、バンバリーミキサーを使用する場合、例えば脱硫剤と加硫ゴムとバンバリーミキサー内に投入し、脱硫剤が加硫ゴムの硫黄架橋部を切断できるように、バンバリーミキサー内で撹拌する方法などが挙げられる。せん断力を付与する際のせん断圧としては、ロール機またはバンバリーミキサー使用時に、混練対象物に付与されるせん断圧でよく、例えば0.1~10MPa程度でよい。
【0021】
加硫ゴムと脱硫剤とを加熱混合する際の加熱温度は100℃以下に制御する必要がある。加硫ゴムと25℃で固体のアミン化合物とに対し、せん断力を効果的に付与することで、良好な加硫後物性を示す脱硫ゴムを製造する観点から、加熱温度は50℃以下とすることが好ましく、使用する脱硫剤の融点以下とすることが特に好ましい。
【0022】
得られた脱硫ゴムは、再利用する加硫ゴムの硫黄架橋部が選択的に切断されているため、未加硫(未使用)のゴム成分と混合して使用しても、良好な加硫後物性が得られる。ゴム組成物中の未加硫ゴム成分の全量を100質量部としたとき、脱硫ゴムを1~30質量部含有することが好ましい。脱硫ゴムを配合するゴム組成物を構成し得る、ゴム成分、硫黄、加硫促進剤、カーボンブラック、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫遅延剤、有機過酸化物、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などは、前記と同様のものが使用可能である。
【0023】
また、脱硫ゴムおよび上記各成分の配合方法は特に限定されず、硫黄および加硫促進剤などの加硫系成分以外の配合成分を予め混練してマスターバッチとし、残りの成分を添加してさらに混練する方法、各成分を任意の順序で添加し混練する方法、全成分を同時に添加して混練する方法などのいずれでもよい。
【0024】
上記脱硫ゴムを含有するゴム組成物は加工性に優れ、かつ加硫後物性に優れる。したがって、本発明に係る脱硫ゴムおよび該脱硫ゴムを含有するゴム組成物は、多量のゴム部を備える空気入りタイヤ用途に特に好適に使用可能である。
【実施例0025】
以下に、この発明の実施例を記載してより具体的に説明する。
【0026】
(脱硫ゴムの原料となる加硫ゴムの調製)
ゴム成分100質量部に対して、表1の配合処方に従い、ダイハン社製ラボミキサーを使用し、第一混合段階で、硫黄および加硫促進剤を除く他の配合剤をゴム成分に添加・混練し、次いで、第二混合段階で、得られた混練物に硫黄と加硫促進剤を添加・混練しゴム組成物を調製した。
【0027】
【表1】
【0028】
表1中の各成分の詳細は、以下のとおりである。
・天然ゴム:STR20
・スチレンブタジエンゴム:旭化成社製「タフデン2000」
・ブタジエンゴム:旭化成社製「NF35」
・カーボンブラック:東海カーボン社製「シースト3」
・シリカ:オリエンタルシリカ社製「ニプシルAQ」
・亜鉛華:三井金属鉱業社製「亜鉛華1種」
・老化防止剤:大内新興化学工業社製「ノクラック6C」
・ステアリン酸:花王社製「ルナックS-20」
・硫黄:細井化学工業社製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」
・加硫促進剤1:大内新興化学工業社製「ノクセラーNS」
・加硫促進剤2:大内新興化学工業社製「ノクセラーD」
【0029】
前記ゴム組成物を150℃、25分間の条件で加硫することにより、シート状の加硫ゴムを製造し、ロール(関西ロール社製6インチロール)を用いて加硫ゴムを粉砕することにより、粉末状の加硫ゴム(NR系)および加硫ゴム(混合系)を調製した。
【0030】
(脱硫ゴムの製造)
粉末状の前記加硫ゴム(NR系)または加硫ゴム(混合系)と脱硫剤とを表2に記載の割合で混合後、ロール表面を25℃に冷却したロール(関西ロール社製6インチロール)を用いて、前記加硫ゴム粉と脱硫剤との混合物を冷却しつつ、最小間隔で40分間、繰り返しロールを通すことにより、実施例1~7に係る脱硫ゴムを製造した(混合時の加熱温度25℃)。なお、比較例1および2は比較用として、脱硫していない粉末状の加硫ゴム(NR系)および加硫ゴム(混合系)をそのまま使用した。
【0031】
【表2】
【0032】
表2中の各脱硫剤の詳細は、以下のとおりである。
・脱硫剤1:東京化成社製「ヘキサデシルアミン」(炭素数16、融点26℃)
・脱硫剤2:東京化成社製「ドデシルアミン」(炭素数12、融点44℃)
・脱硫剤3:東京化成社製「ステアリルアミン」(炭素数18、融点53℃)
【0033】
(ゴム組成物の調製)
ゴム成分100質量部に対して、表3の配合処方に従って各成分を配合し、ダイハン社製ラボミキサーを用いて混練し、実施例1~7で製造した脱硫ゴム、あるいは比較例1~2の脱硫していない加硫ゴム(NR系)および加硫ゴム(混合系)を含有するゴム組成物を調整した。
【0034】
表3中の各成分の詳細は、以下のとおりである。
・天然ゴム:STR20
・カーボンブラック:東海カーボン社製「シースト3」
・亜鉛華:三井金属鉱業社製「亜鉛華1種」
・老化防止剤:大内新興化学工業社製「ノクラック6C」
・ステアリン酸:花王社製「ルナックS-20」
・硫黄:細井化学工業社製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」
・加硫促進剤:大内新興化学工業社製「ノクセラーNS」
【0035】
(脱硫ゴムを含有する加硫ゴムの加硫後物性評価(引張強さ測定))
実施例1~7で製造した脱硫ゴム、あるいは比較例1~2の脱硫していない加硫ゴム加硫ゴム(NR系)および加硫ゴム(混合系)を含有するゴム組成物について、150℃、25分間の条件で加硫して所定形状の試験片を作製し、得られた試験片を用いて以下の試験を行った。
・引裂強さ:JIS K6252に準拠した引裂試験(クレセント形)で引裂強さを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。数値が大きいほど加硫後物性に優れることを意味する。
【0036】
【表3】
【0037】
表3の結果から、実施例1~7で製造した脱硫ゴムを含有するゴム組成物の加硫ゴム(加硫ゴム3~9)は、比較例1~2の脱硫していない加硫ゴム加硫ゴム(NR系)および加硫ゴム(混合系)を含有するゴム組成物の加硫ゴム(加硫ゴム1~2)に比して、加硫後物性に優れることがわかる。