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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092704
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】コイル部品、回路基板および電子機器
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/29 20060101AFI20230627BHJP
   H01F 27/28 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
H01F27/29 G
H01F27/28 152
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207880
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】小野 健次
【テーマコード(参考)】
5E043
5E070
【Fターム(参考)】
5E043EA06
5E070BA03
5E070CA13
(57)【要約】
【課題】引出部の位置に関わらず性能を安定させる。
【解決手段】一態様に係るコイル部品は、外部電極と、上記外部電極の少なくとも一部が設けられる第1面と、当該第1面と隣り合う第2面と、当該第2面から延出する芯部と、当該第1面および当該第2面の稜線の一部に位置して曲面状に凹み、内部を前記引出部が通る凹部と、を有する基体と、上記基体の一部の外周を周回した周回部と、上記外部電極と上記第1面で接合された接合部と、当該周回部および当該接合部を相互に繋ぐ引出部と、を有する導体と、を備える。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部電極と、
前記外部電極の少なくとも一部が設けられる第1面と、当該第1面と隣り合う第2面と、当該第2面から延出する芯部と、当該第1面および当該第2面の稜線の一部に位置して曲面状に凹み、内部を前記引出部が通る凹部と、を有する基体と、
前記基体の一部の外周を周回する周回部と、前記外部電極と前記第1面で接合される接合部と、当該周回部および当該接合部を相互に繋ぐ引出部と、を有する導体と、
を備えることを特徴とするコイル部品。
【請求項2】
前記凹部が前記第1面および前記第2面の少なくとも一方と連続曲面で繋がることを特徴とする請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記凹部は、前記第2面側から見た大きさよりも前記第1面側から見た大きさの方が大きいことを特徴とする請求項1または2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記導体が導線からなり、
前記凹部の曲面における曲率半径が前記導線の半径よりも大きいことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記導体が導線からなり、
前記凹部が前記第1面から凹んだ深さが前記導線の直径よりも浅いことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項6】
前記引出部は、前記凹部の前記第2面と繋がる縁のうち、前記第1面側から最も離れた頂点に対して当該引出部の始点側に偏倚した位置を通ることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項7】
前記導体が0.02mm以下の太さの導線からなることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項8】
前記基体は、前記第1面、前記第2面および前記凹部を前記芯部の両側に有し、
前記導体は、前記接合部および前記引出部を前記周回部の両側に有することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項9】
前記基体は、前記芯部の両側の前記凹部が、互いに対向した配置となっていることを特徴とする請求項8に記載のコイル部品。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載のコイル部品と、
前記コイル部品が前記外部電極を介したはんだ接合で実装された基板と、
を備えることを特徴とする回路基板。
【請求項11】
請求項10に記載の回路基板を備えることを特徴とする電子機器。
【請求項12】
請求項1から9のいずれか1項に記載のコイル部品を製造する製造方法であって、
前記第1面、前記第2面および前記芯部を有する前記基体を形成する工程と、
前記基体をバレル研磨で加工することにより前記凹部を形成する工程と、
前記凹部が形成された前記基体に導線を巻回して前記導体を形成する工程と、
前記外部電極を形成する工程と、
を有することを特徴とするコイル部品の製造方法。
【請求項13】
前記接合部が前記外部電極に圧力と熱によって接合される請求項12に記載のコイル部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品、回路基板および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
通信機器などの電子機器は、高性能化が進み、これに合わせて電子部品は高性能化と共に小型化が求められている。
小型の電子部品については外部電極の厚みなどが制約されることにより、外部電極として、部品本体の表面に金属材料が、塗布やめっきなどで直接付けられたものが多く採用される。
【0003】
基体に導線が巻き付けられて導体が形成される巻き線タイプのコイル部品においても小型化が求められており、巻線タイプのコイル部品では、外部電極への導線の安定した接続が求められる。
【0004】
例えば特許文献1には、ドラムコアが用いられた巻線タイプのコイル部品について、導線の引出部を鍔部の傾斜面上に配置した構造で引出部の損傷を抑える提案が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-147159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された構成では、傾斜面に対して引出部が特定の位置に存在することが必要であるが、巻線タイプのコイル部品では、用いられる導線の太さは様々であり、インダクタンスに応じた導線の仕様変更が行われているため、傾斜面に対する引出部が上記特定の位置とは異なる場合がほとんどである。このため、特許文献1に開示された構成では導線の仕様変更などによって引出部が鍔部から離れた場合などに損傷抑制の効果が得られず、導線損傷に伴ってコイル部品の性能が不安定化する虞がある。また、特許文献1に開示された構成では引出部が鍔部から離れた場合などに、基体に巻き付けられた導線が緩んでコイル部品の性能が不安定化する虞もある。
【0007】
そこで、本発明は、引出部の位置に関わらず性能が安定したコイル部品、回路基板および電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るコイル部品は、外部電極と、上記外部電極の少なくとも一部が設けられる第1面と、当該第1面と隣り合う第2面と、当該第2面から延出する芯部と、当該第1面および当該第2面の稜線の一部に位置して曲面状に凹み、内部を前記引出部が通る凹部と、を有する基体と、上記基体の一部の外周を周回した周回部と、上記外部電極と上記第1面で接合された接合部と、当該周回部および当該接合部を相互に繋ぐ引出部と、を有する導体と、を備える。
【0009】
本発明の一態様に係るコイル部品において、上記凹部は、上記第1面および上記第2面の少なくとも一方と連続曲面で繋がる。
本発明の一態様に係るコイル部品において、上記凹部は、上記第2面側から見た大きさよりも上記第1面側から見た大きさの方が大きい。
【0010】
本発明の一態様に係るコイル部品において、上記導体は導線からなり、上記凹部の曲面における曲率半径は上記導線の半径よりも大きい。
本発明の一態様に係るコイル部品において、上記導体は導線からなり、上記凹部は上記第1面から凹んだ深さが上記導線の直径よりも浅い。
【0011】
本発明の一態様に係るコイル部品において、上記引出部は、上記凹部の上記第2面と繋がる縁のうち、上記第1面側から最も離れた頂点に対して当該引出部の始点側に偏倚した位置を通る。
【0012】
本発明の一態様に係るコイル部品において、上記導体は0.02mm以下の太さを有する導線からなる。
本発明の一態様に係るコイル部品において、上記基体は、上記第1面、上記第2面および上記凹部を上記芯部の両側に有し、上記導線は、上記接合部および上記引出部を上記周回部の両側に有する。
本発明の一態様に係るコイル部品において、上記基体は、上記芯部の両側の上記凹部が、互いに対向した配置となっている。
【0013】
本発明の一態様に係る回路基板は、上記いずれかのコイル部品と、上記コイル部品が上記外部電極を介したはんだ接合で実装された基板と、を備える。
本発明の一態様に係る電子機器は上記回路基板を備える。
本発明の一態様に係るコイル部品の製造方法は、上記いずれかのコイル部品を製造する製造方法であって、上記第1面、上記第2面および上記芯部を有する上記基体を形成する工程と、上記基体をバレル研磨で加工することにより上記凹部を形成する工程と、上記凹部が形成された上記基体に導線を巻回して上記導体を形成する工程と、上記外部電極を形成する工程と、を有する。
本発明の一態様に係るコイル部品の製造方法において、上記接合部は上記外部電極に圧力と熱によって接合される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、引出部の位置に関わらず性能が安定する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態のコイル部品を示す斜視図である。
図2】基体を示す斜視図である。
図3】基体の断面図である。
図4】基体の上面図である。
図5】導体を示す断面図である。
図6】導体を示す上面図である。
図7】基体の変形例を示す図である。
図8】導体の形成時の状態を示す断面図である。
図9】導体の形成時の状態を示す上面図である。
図10】凹部の拡大図である。
図11】凹部に掛かった引出部を示す拡大図である。
図12】接合部の位置が異なる変形例を示す図である。
図13】引出部の始点が変化した場合における、凹部に掛かった引出部の位置を示す図である。
図14】基体の製造方法の一例を示す図である。
図15】基体の製造方法の別例における熱処理後の基体を示す図である。
図16】基体の製造方法の別例におけるバレル研磨後の基体を示す図である。
図17図16に示すC-C線に沿った断面図(C)の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は本発明を限定するものではなく、実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の構成に必須のものとは限らない。実施形態の構成は、本発明が適用される装置の仕様や各種条件(使用条件、使用環境等)によって適宜修正または変更され得る。本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって画定され、以下の個別の実施形態によって限定されない。また、以下の説明に用いる図面は、各構成を分かり易くするため、実際の構造と縮尺および形状などを異ならせることがある。先に説明した図面に示された構成要素については後の図面の説明で参照する場合がある。
【0017】
<コイル部品の外観>
図1は、本発明の一実施形態のコイル部品を示す斜視図である。
コイル部品1は、基板2aに実装されている。基板2aには、2つのランド部3が設けられている。コイル部品1は、2つの外部電極12のそれぞれと基板2aの対応するランド部3とがはんだで接合されることで基板2aに実装される。本発明の一実施形態による回路基板2は、コイル部品1と、このコイル部品1が実装された基板2aと、を備える。回路基板2は、様々な電子機器に備えられる。回路基板2を備えた電子機器としては、スマートフォン、タブレット、ゲームコンソール、自動車の電装品、サーバ、ボードコンピュータおよびこれら以外の様々な電子機器が想定される。
【0018】
コイル部品1は、インダクタ、トランス、フィルタ、リアクトルこれら以外の様々なコイル部品であってもよい。コイル部品1は、カップルドインダクタ、チョークコイルおよびこれら以外の様々な磁気結合型コイル部品であってもよい。コイル部品1は、例えば、DC/DCコンバータに用いられるインダクタであってもよい。コイル部品1の用途は、本明細書で明示されるものには限定されない。
【0019】
本明細書においては、文脈上別に解される場合を除き、方向の説明は、図1の「L軸」方向、「W軸」方向および「H軸」方向を基準に用い、それぞれ、「長さ」方向、「幅」方向および「高さ」方向と称する。「高さ」方向については「厚さ」方向と呼ぶ場合もある。
【0020】
コイル部品1は、直方体形状の外形を有する。即ちコイル部品1は、長さ方向の両端に第1の端面1aおよび第2の端面1bを有し、高さ方向の両端に第1の主面1c(上面1c)および第2の主面1d(底面1d)を有し、幅方向の両端に前面1eおよび後面1fを有する。
【0021】
コイル部品1の第1の端面1a、第2の端面1b、第1の主面1c、第2の主面1d、前面1eおよび後面1fはいずれも、平坦な平面であってもよいし湾曲した湾曲面であってもよい。また、コイル部品1の8つの角部および12の稜線部は、丸みを有していてもよい。
【0022】
本明細書においては、コイル部品1の第1の端面1a、第2の端面1b、第1の主面1c、第2の主面1d、前面1eおよび後面1fの一部が湾曲している場合や、コイル部品1の角部や稜線部が丸みを有している場合にも、かかる形状を「直方体形状」と称することがある。つまり、本明細書において「直方体」又は「直方体形状」という場合には、数学的に厳密な意味での「直方体」を意味するものではない。
【0023】
<コイル部品の構造>
本発明の一実施形態におけるコイル部品1は、外面に外部電極12と外装部13とを有し、内部に基体と導体とを有する。ここで基体としては、ドラムコアと称される、基体の表面に導体が巻き付けられるものであってもよく、基体の内部に導体が配置されるものであってもよい。以下ではドラムコアの例で説明する。
【0024】
図2は、基体を示す斜視図であり、図3は、基体の断面図であり、図4は、基体の上面図である。図3には、図4に示すA-A線に沿った断面が示されている。図5は、導体を示す断面図であり、図6は、導体を示す上面図である。図5には、図6に示すA-A線に沿った断面が示されている。以下、図1図6を参照して説明する。
【0025】
基体10は、磁性材料又は非磁性材料から成る。基体10用の磁性材料としては、例えば、フェライトおよび軟磁性合金材を用いることができる。基体10用の非磁性材料としては、アルミナやガラスを用いることができる。基体10用の磁性材料は、各種の結晶質もしくは非晶質の合金磁性材料、または結晶質の材料と非晶質の材料とを組合せた材料であってもよい。
【0026】
基体10用の磁性材料として用いられ得る結晶質の合金磁性材料は、例えば、Fe(鉄)を主成分として50wt%以上、または85wt%以上含み、Si(シリコン)、Al(アルミニウム)、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)、およびZr(ジルコニウム)から成る群より選択される1以上の元素を含む結晶質の合金材料である。基体10用の磁性材料として用いられ得る非晶質の合金磁性材料は、例えば、Si(シリコン)、Al(アルミニウム)、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)のいずれかに加えてB(ホウ素)又はC(炭素)のいずれか一方を含む非晶質の合金材料である。
【0027】
基体10用の磁性材料としては、Fe(鉄)および不可避不純物から成る純鉄を用いることができる。基体10用の磁性材料としては、Fe(鉄)および不可避不純物から成る純鉄と各種の結晶質もしくは非晶質の合金磁性材料とを組み合わせた材料を用いることもできる。基体10の材料は、本明細書で明示されるものに限られず、基体の材料として公知の任意の材料を用いることができる。
【0028】
基体10の製造方法については後で詳述する。
導体20は、導電性に優れた金属材料から成る。導体20用の金属材料としては、例えば、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、Ni(ニッケル)、もしくはAg(銀)のうちの1以上の金属、又はこれらの金属のいずれかを含む合金が用いられ得る。導体20の表面には絶縁被膜が設けられていてもよい。導体20は、基体10の表面または内部に設けられる。導体20は、図5および図6に示すように1つの基体10に対して1つ設けられてもよいし、あるいは導体20は、1つの基体10に対して複数設けられてもよい。
【0029】
本発明の一実施形態における基体10はドラムコアと称されるものであり、フランジ14と巻芯16を有する。
本発明の一実施形態において、巻芯16は、長さ方向に延びた略四角柱形状をなしている。巻芯16は、図示された形状以外にも、導体20が周回するために適した任意の形状をとることができる。例えば、巻芯16は、三角柱形状、五角柱形状、もしくは六角柱形状等の多角柱形状であってもよく、あるいは、巻芯16は、円柱形状、楕円柱形状、もしくは截頭円錐形状であってもよい。
【0030】
フランジ14は、長さ方向に延びた巻芯16の両端に設けられている。フランジ14の内面14aおよび外面14bは巻芯16に対して垂直な方向に延伸している。本明細書において、「垂直」、「直交」、および「平行」という用語を使用するときには、数学的に厳密な意味で使用するものではない。例えば、フランジ14の内面14aが巻芯16と垂直な方向に延伸するという場合、フランジ14の内面14aと巻芯16とが為す角度は、90°であってもよいが概ね90°であればよい。概ね90°の角度の範囲には、70°~110°、75°~105°、80°~100°、又は85°~95°の範囲内の任意の角度が含まれうる。「平行」、「直交」およびこれら以外の本明細書に含まれる数学的に厳密に解釈し得る用語についても、同様に、本発明の趣旨、文脈、および技術常識を考慮して、厳密な数学の意味よりも幅を持った解釈を取り得る。
【0031】
導体20は、基体10の一部(例えば巻芯16)を周回した周回部21と、周回部21から引き出された引出部22と、外部電極12と接合される接合部23とを有する。接合部23は例えばフランジ14の上面14cに形成され、引出部22は周回部21および接合部23を相互に繋ぐ。巻線タイプのコイル部品1の場合には、導体20の周回部21は、2つのフランジ14の間に収まるように巻芯16の外周に導線が巻き付けられて形成される。導線は、例えば0.2mm以下、または0.1mm以下、更には0.02mm以下の太さを有する。導体20は、引出部22および接合部23を周回部21の両側に有する。
【0032】
外部電極12は、導電性に優れた金属材料から成る。外部電極12の金属材料としては、例えばCu(銅)、Ag(銀)が用いられ、更にNi(ニッケル)、Sn(錫)が用いられる。外部電極12は、上記金属材料を主成分とする層、または一部で合金化した層が重なり、層状に形成される。外部電極12は、例えばフランジ14の表面のうち内面14aを除いた各面を覆って設けられ、ディップ(浸漬)による金属材料の塗布、スパッタリング法、あるいは蒸着法により形成される。
【0033】
コイル部品1には外装部13が設けられてもよい。外装部13が設けられる場合、外装部13は、2つの外部電極12の間に収まるように導体20の周回部21を覆う。外装部13は、外装部13を設けることでコイル部品1の外形寸法に影響しないように設けられる。外装部13が設けられる場合であっても、外装部13は周回部21の全体を覆う必要はなく、少なくともコイル部品1の上面1cを形成するように設けられる。例えば、外装部13は、周回部21のうち上面1c側のみを覆うことができ、あるいは、外装部13は、コイル部品の上面1c側から下面1d側に向かって半分程度の範囲に設けられる。これにより実装時の吸着性を確保もしくは向上させることができる。
【0034】
外装部13は、例えば、2つのフランジ14の間に樹脂を充填することにより形成される。外装部13は、樹脂又はフィラーを含有する樹脂から構成される。外装部13の材料としては、巻線タイプのコイル部品において巻線を被覆するために用いられる任意の樹脂材料が用いられ得る。フィラーとしては、磁性材料又は非磁性材料が用いられ得る。外装部13は、樹脂、フィラーなどを含む複合材料をディスペンサーなどにより周回部21の外側を覆うように塗布し、樹脂成分を硬化することで形成される。
【0035】
外装部13は、樹脂以外の材料から形成されてもよい。樹脂以外の外装部13の素材は、金属、セラミックス又はそれ以外の素材である。外装部13は、例えば、金属、セラミックス又はそれ以外の素材から成る箔、板、又はこれらの複合部材を2つのフランジ14の間に設けることで形成される。
【0036】
<凹部の概略>
本発明の一実施形態における基体10は、フランジ14の上面14cに段差を有し、上面14cと内面14aとの間に凹部14dを有する。フランジ14は段差のない上面14cを有してもよい。
【0037】
図7は、基体10の変形例を示す図である。
変形例の基体10ではフランジ14の上面14cに段差がなく、上面14cと内面14aとの間に凹部14dを有する。
【0038】
図2図4に示す例でも、図7に示す変形例でも、基体10は、フランジ14を巻芯16の両側に備えるとともに、フランジ14の凹部14dも両側に有する。本発明の一実施形態において、両側の凹部14dは互いに対向した配置となっている。例えば、両側の凹部14dはどちらも内面14a側に開口しており、互いに斜め方向に対向していてもよく、より詳細には、点対称な配置となっている。
各凹部14dは、フランジ14の内部側に向かって凸の連続曲面を有し、例えば球面、円筒面、円錐面などの一部となっている。また、凹部14dの縁は、円弧状、楕円弧状、長円弧状など連続曲線となっている。
【0039】
フランジ14の凹部14dは、引出部22の位置決めとして使われることで導体20の形成時および形成後における導線の緩みを抑制し、コイル部品1における性能安定に寄与する。
図8は、導体20の形成時の状態を示す断面図であり、図9は、導体20の形成時の状態を示す上面図である。図8には、図9に示すA-A線に沿った断面が示されている。
【0040】
基体10には、フランジ14の内面14aを除いた各面に、外部電極12の一部となる下地層(図示省略)が設けられている。
導体20の形成時には、巻芯16に導線が所定の巻数だけ巻き回されて周回部21が形成される。そして、周回部21から引き出された引出部22がフランジ14の凹部14dに掛けられ、引出部22の端部がフランジ14の上面14cで外部電極12の下地層と接合される。接合により図6に示すように接合部23が形成される。
【0041】
凹部14dに引出部22が掛けられる段階では、引出部22にテンションが掛けられながらフランジ14の上面14cに引出部22の端部が配置される。この結果、引出部22は、凹部14dにおける連続曲線の縁や連続曲面と接して周回部21と接合部23とを最短距離で結ぶように位置決めされる。引出部22が周回部21と接合部23とを最短距離で結ぶことにより、導体20の形成時においても、形成後においても、引出部22や周回部21の緩みが抑制されて導線の位置が安定する。また、引出部22が周回部21と接合部23とを最短距離で結ぶことで余分な直流抵抗も抑制される。
【0042】
凹部14dによって引出部22が位置決めされることで接合部23の位置も安定する。この結果、コイル部品1は、インダクタンスなどの電気的な特性が安定し、導線の緩みなどによる特性の経時変化も少ない。
凹部14dが両側のフランジ14に設けられ、導体20の両端の引出部22が凹部14dによって位置決めされることにより、片側のみである場合に比べて導線の緩みなどが抑制される。また、図4に示すように、両側の凹部14dがコイル部品1の上面1c側から見て対称の位置関係に配置されることで両端の引出部22が同様に設置され、それぞれの導線の緩み抑制などの効果が揃う。また、両側の凹部14dが対向する位置関係に配置されていることで両端の引出部22が同じ設定により設置され、それぞれの導線の緩みなどが一層抑制される。
【0043】
下地層と接合部23とは熱圧着によって接合される。導線に圧力が掛けられることで導線が潰れて接触面積が増大する。また、加熱により下地層が一部溶融し、あるいは導線と下地層とが部分的に合金化して強固な接合となる。引出部22が凹部14dの縁などで屈曲するとともに導線の潰しが行われると、周回部21側への引出部22の動きが強く抑制される。
【0044】
導体20の接合部23は、熱圧着以外にも公知の様々な手法で外部電極12に固定され得る。例えば、接合部23は、金属によるロウ付け、導電性樹脂層による接着、もしくは金属板による挟み込み、またはこれらの組み合わせにより外部電極12に固定され得る。
【0045】
接合部23の形成後、下地層の外側に導電性樹脂層またはめっき層が設けられて外部電極12が形成される。この結果、接合部23は外部電極12と一体化する。なお、接合部23は、実装面に形成されてもよいし、あるいは実装面とは異なる面に形成されてもよい。
【0046】
基体10において複雑な加工は、コイル部品1の小型化における制約となり、例えば金型の複雑化によるコスト増加の可能性がある。また、基体10に複雑な形状や大きな凹凸を設けることは、基体10の機械的強度の低下や、導体20へのダメージにつながる恐れがあるので、小型のコイル部品1においては、加工を最小限に留めることが望ましい。以下説明するように、本発明の一実施形態における凹部14dの構造は、上記制約を回避して小型化に適応可能な構造となっている。
【0047】
<凹部の詳細>
以下、凹部14dの詳細構造について説明する。
図10は、凹部14dの拡大図であり、図11は、凹部14dに掛かった引出部22を示す拡大図である。
図10および図11には、フランジ14の上面14c側から凹部14dを見た上面図(A)と、フランジ14の内面14a側から凹部14dを見た内面図(B)が示されている。
【0048】
凹部14dは、上面14c側から見た大きさの方が、内面14a側から見た大きさよりも大きい。つまり、凹部14dは、上面14c側から見て広く浅い窪みとなっていて、上面14cと凹部14dとの段差が小さい。より具体的には、凹部14dの曲面における曲率半径は、引出部22の導線の半径よりも大きく、上面14cから離れる方向への凹部14dの深さは引出部22の導線の直径よりも浅い。
凹部14dの幅は基体10の幅に合わせて設けられればよく、外部電極12の設けられる基体10の幅の1/3以下であればよい。また、凹部14dの幅は導線の太さに合わせて設けられればよく、導線の直径の3倍以上であればよい。例えば、外部電極12がフランジ14に設けられる場合、フランジ14の幅が0.5mmであれば凹部14dの幅は0.16mm以下となる。導線の直径が0.02mmの場合は0.06mm以上となる。このようにすれば、フランジ14の幅が0.5mm以下の場合であっても、導線の緩みを防止する効果を得ることができる。
【0049】
このような凹部14dの広く浅い構造により、フランジ14は凹部14dの無い直方体形状と比べた機械的強度の低下を抑制できる。また、凹部14dの広く浅い構造により、凹部14dの存在による小型化への影響を抑制することができ、例えば周回部21の大きさを確保することができる。更に、凹部14dの広く浅い構造により、接合部23の一部が凹部14dに掛かってもよく、引出部22に近い側の接合部23が凹部14dに沿って変形するので引出部22急激な変形を抑制できる。また、接合部23の一部が凹部14dに掛かることで、接合に必要な接合部23の面積が確保される。更にまた、凹部14dの広く浅い構造により、引出部22が凹部14dの曲面と接触する距離が長くなり、引出部22の位置が安定する。更にまた、接合部23が内面14aから離れた位置に設けられることで、接合部23の形成時の影響を与えることなく引出部22を位置決めできる。
【0050】
図10および図11では図示が省略されているが、上面14cと凹部14dとの間、および凹部14dと内面14aとの間は、連続曲面で繋がり、エッジが丸まっている。エッジが丸みを持つことで導線へのダメージが抑制される。
図11に示すように、凹部14dが上面14cと繋がる境界付近での引出部22の位置は、接合部23の位置に応じた位置となる。
【0051】
図12は、接合部23の位置が異なる変形例を示す図である。
図12に示す変形例では、接合部23が、凹部14dに対し、フランジ14の中心に近い位置に設けられている。この場合も引出部22の位置は凹部14dによって位置決めされ、引出部22は、凹部14dに掛かった箇所で屈曲する。
【0052】
図11に示すように、凹部14dが内面14aと繋がる境界付近での引出部22の位置は、接合部23の位置にあまり影響されず、凹部14dと内面14aとの境界の頂点14eに対し、引出部22の始点側(図の左側)に偏倚した位置となる。このため、引出部22の位置が安定し、コイル部品1の性能も安定する。
【0053】
図13は、引出部22の始点が変化した場合における、凹部14dに掛かった引出部22の位置を示す図である。図13には、内面14a側から見た引出部22の位置が示されている。
周回部21における巻き数、段数、導線の太さなどは、コイル部品1に求められる仕様の変更に伴って適宜変更される。その結果、周回部21から引出部22が引き出される始点が変化する。図13に示された引出部22の複数の位置は、引出部22の異なる始点に対応している。
【0054】
引出部22の始点が異なると、図に示す矢印のように引出部22に掛かるテンションの方向が異なるため、引出部22は凹部14dの縁の連続曲線に沿って安定な位置へと移動し、引出部22は当該テンションの方向に応じた位置に位置決めされる。その結果、引出部22は周回部21と接合部23とを最短で繋ぐことになり、引出部22の始点に関わらず周回部21および引出部22の緩みは抑制され、コイル部品1の性能は安定する。
【0055】
凹部14dの縁の連続曲線は、太さの異なる導線に広く対応できるため、導線の太さが変更された場合であっても、凹部14dの大きさはそのままで、性能の安定したコイル部品1が得られる。
【0056】
<基体の製造方法>
以下、フランジ14に凹部14dを有する基体10の製造方法について説明する。
図14は、基体10の製造方法の一例を示す図である。
図14には、図3と同様の基体10の断面図(A)と、B-B線に沿った基体10の断面図(B)と、それらの断面図(A)、(B)に対応した向きで金型30の形状を示した内面図(C)および側面図(D)が示されている。
【0057】
基体10は、例えば、上述した磁性材料又は非磁性材料の粉末を潤滑剤と混合し、この混合材料を成形用の金型30のキャビティに充填してプレス成形することにより圧粉体を作製し、この圧粉体を熱処理することにより作製される。また、基体10は、上述した磁性材料又は非磁性材料の粉末を樹脂、ガラス、又は絶縁性酸化物(例えば、Ni-Znフェライトやシリカ)と混合し、この混合材料を成形して熱処理することによっても作製できる。熱処理は、用いる原材料により200℃以下の温度で熱硬化させても、600℃以上の温度で焼結させてもよい。
【0058】
金型30にはフランジ14の凹部14dに対応した凸部31が設けられており、プレス成形によってフランジ14の凹部14dが形成される。凸部31は、凹部14dのおおよその形状を形成するものであってもよい。上述したように、凹部14dが広くて浅い連続曲面であるため、凸部31は、広くて低い連続した表面の凸部31となる。この結果、金型30の構造は簡素となり、凹部14dの成形における安定性も高い。凸部31を有した金型30による基体10の製造によれば、フランジ14に凹部14dを有した形状が安定して製造される。
【0059】
図15および図16は、基体10の製造方法の別例を示す図である。図15および図16には、断面図(A)と上面図(B)が示され、断面図(A)は上面図(B)に示されたA-A線に沿った断面を示す。また、図16には、上面図(B)に示されたC-C線に沿った断面の断面図(C)も示されている。
【0060】
図15および図16に示す例では、熱処理の後にフランジ14に凹部14dがバレル研磨で形成される。図15には熱処理後の基体10が示され、図16にはバレル研磨後の基体10が示される。
【0061】
図15に示すように、フランジ14の上面14cのうち凹部14dの形成が望まれる箇所に低段部14eが設けられた形状でプレス成形と熱処理が行われる。そして、熱処理の後の基体10に対し、凹部14dの大きさに相当する大きさの研磨材40が選択されてバレル研磨が行われる。バレル研磨により低段部14eが選択的に加工され、図16に示すように凹部14dが形成される。バレル研磨による凹部14dの形成は、金型30による形成に比べて容易である。
【0062】
図17は、図16に示すC-C線に沿った断面図(C)の拡大図である。
バレル研磨によって形成される凹部14dは、上面14cの(うち低段部14e)および内面14aそれぞれと連続曲面14fで繋がっていて、エッジが丸まっている。バレル研磨によってエッジが自ずと丸まって形成されるので、導線へのダメージが抑制されて好ましい。
【符号の説明】
【0063】
1 コイル部品
2 回路基板
2a 基板
3 ランド部
12 外部電極
13 外装部
14 フランジ
14d 凹部
16 巻芯
20 導体
21 周回部
22 引出部
23 接合部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17