(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092706
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の壁面の保護構造及び壁面保護構造の施工方法
(51)【国際特許分類】
E21D 11/00 20060101AFI20230627BHJP
B32B 13/14 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
E21D11/00 Z
B32B13/14
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207882
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】597068179
【氏名又は名称】株式会社シクソン
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊田 紘治
【テーマコード(参考)】
2D155
4F100
【Fターム(参考)】
2D155AA02
2D155CA04
2D155LA02
2D155LA06
2D155LA16
4F100AD00B
4F100AE01A
4F100AG00C
4F100AH06C
4F100AT00B
4F100BA03
4F100BA07
4F100DG12C
4F100DH00C
4F100GB07
4F100JD01C
4F100JJ07C
(57)【要約】 (修正有)
【課題】コンクリート構造物の壁面の保護機能を長期にわたって保持できる保護構造の提供。
【解決手段】保護構造Aは、コンクリート構造物1の壁面10に貼り付けられた仕上げ材Tの表面に、透過性及び不燃性を備えた透過層2が積層されていると共に、透過層内に介在するように網状体3が積層されており、透過層は、透過性と不燃性と硬化性を有する液剤が、網状体に含侵した状態で硬化されてなることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の壁面に貼り付けられた仕上げ材の表面に、透過性及び不燃性を備えた透過層が積層されていると共に、透過層内に介在するように網状体が積層されており、透過層は、透過性と不燃性と硬化性を有する液剤が、網状体に含侵した状態で硬化されてなることを特徴とする保護構造。
【請求項2】
コンクリート構造物の壁面に貼り付けられた仕上げ材の表面に、透過性と不燃性と硬化性を有する液剤を塗布する下塗り工程と、下塗り層の表面に網状体を被着する被着工程と、下塗り工程で用いられた液剤を下塗り層の表面に重ねると共に、網状体に被せるように塗布する上塗り工程と、乾燥によって液剤を硬化させる工程を含むことを特徴とする保護構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物における壁面の保護構造及びコンクリート構造物における壁面の保護構造の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の壁面は、仕上げ材の貼り付けや塗装等による保護がされているが、経年劣化等による保護機能の低下が避けられないため、コンクリート構造物の壁面を定期的に目視検査及び修繕している。
コンクリート構造物の壁面を保護する保護構造については、高速道路のトンネルの壁面を保護する構造が例示される。
トンネルの壁面の保護構造については、トンネルの壁面の保護をした上で、自動車のヘッドライトを反射させることで、ドライバーに壁面の位置を認識させるために施される。
【0003】
このようなトンネルの壁面の保護構造には、
(1)パネルに塗装を施した内装パネル或いはパネルに仕上げ材(タイル)を貼り付けた内装パネルを用いて、トンネルの壁面にアンカーを使用して貼り付けた保護構造、
(2)トンネルの壁面に塗装を施した保護構造、
(3)トンネルの壁面にタイルを直接貼り付けた保護構造、
等が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
(1)の保護構造では、コンクリートの壁面からの漏水による内装パネルの表面が汚れず、タイルが貼られた内装パネルの場合、タイルの洗浄に対する抵抗力が高く、長期にわたり反射率を保持できる。
しかしながら、壁面のコンクリートの状態を確認する場合には、内装パネルを撤去するが、作業時間の制約がある中での、重い内装パネルの撤去作業が困難であった。
また、アンカーが経年劣化により壁面から抜けて内装パネルが壁面から外れてしまうおそれがあった。
また、パネルに塗装を施した内装パネルである場合には、塗装表面の経年劣化や塗装表面の清掃等により塗装が剥がれ落ちてしまうおそれがあった。
タイルを貼り付けた内装パネルである場合では、接着剤の経年劣化によるタイルの剥がれ落ちが生じるおそれがあった。
【0005】
(2)の保護構造では、壁面に直接塗装するものであるため、安価であると共に、施工性が良い。
しかしながら、コンクリートからの漏水、塗装表面の経年劣化、塗装表面の清掃等により塗装が剥がれ落ちてしまうおそれがあった。
【0006】
(3)の保護構造では、(1)のタイルが貼られた内装パネルと同様に、タイルの洗浄に対する抵抗力が高く、長期にわたり反射率を保持できる。
しかしながら、(1)のタイルが貼られた内装パネルと同様に、タイルが剥がれ落ちるおそれがある。
この保護構造では、接着剤の経年劣化に加え、壁面に対して直貼りのため、壁面からの漏水、タイル(焼き物)とコンクリートの壁面との温度差による伸び率の違い、車両の通行による振動等が大きな要因となっている。
【0007】
このことから、コンクリート構造物の壁面の保護機能を長期にわたって保持できる保護構造が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の課題を解決するために、請求項1に記載の保護構造は、コンクリート構造物の壁面に貼り付けられた仕上げ材の表面に、透過性及び不燃性を備えた透過層が積層されていると共に、透過層内に介在するように網状体が積層されており、透過層は、透過性と不燃性と硬化性を有する液剤が、網状体に含侵した状態で硬化されてなることを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に記載の壁面の施工方向は、コンクリート構造物の壁面に貼り付けられた仕上げ材の表面に、透過性と不燃性と硬化性を有する液剤を塗布する下塗り工程と、下塗り層の表面に網状体を被着する被着工程と、下塗り工程で用いられた液剤を下塗り層の表面に重ねると共に、網状体に被せるように塗布する上塗り工程と、乾燥によって液剤を硬化させる工程を含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る実施形態の保護構造を示す概略図であり、(a)は、正面図、(b)は、(a)の(b)-(b)線断面図である。
【
図2】(a)~(c)は、本発明に係る実施形態の施工方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施形態の保護構造Aを
図1に基づいて説明する。
以下の図面は説明を目的に作成されたもので、分かりやすくするため、説明に不要な部材を意図的に図示していない場合がある。
また、説明のため部材を意図的に大きくまたは小さく図示している場合があり、正確な縮尺を示す図面ではない。
なお、以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0012】
[保護構造Aの基本構成]
本実施形態の保護構造Aは、道路のトンネル(コンクリート構造物)1における壁面10に用いられるものであり、トンネル1の壁面10の保護をした上で、自動車のヘッドライトを反射させることで、ドライバーに壁面10の位置を認識させるために施されるものである。
なお、保護構造Aは、トンネル1の壁面10のすでに貼られている既存のタイル(仕上げ材)Tを改修した保護構造A、壁面10に新規にタイルTを貼り付けて構成される保護構造Aのいずれも含む。
【0013】
保護構造Aは、
図1に示すように、トンネル1の壁面10に複数のタイルTを貼り付けた壁面内装に用いられるものであり、タイルTの表面T1に透過層2が積層されていると共に、透過層2内に介在するように網状体3が積層されたものである。
このような保護構造Aは、外側から透過層2を介してタイルTの表面T1を視認でき、これによって、タイルTの表面T1のひび割れや膨張が視認できるようになっている。
タイルTは、壁面10の表面に接着剤により貼り付けられていると共に、透過層2及び網状体3により保持されている。
【0014】
[透過層2の構成]
透過層2は、前述のように、タイルTの表面T1、この表面T1のひび割れや膨張が視認できる程度の透過性を有している。
ここで透過性は、透過層2の外側から少なくともタイルTの表面T1が視認できる程度の透過率を有する性質を意味し、このような性質を備えるものであれば、無色透明、或いは有色透明、半透明のいずれでもよい。
本実施形態のように、保護構造Aがトンネル1の壁面10の内装に用いられる場合では、タイルTに自動車のヘッドライトを反射させて、ドライバーに壁面10の位置を認識させることが必要である。
そのため、タイルTの表面T1の反射を阻害しないように、ヘッドライトの光を効率的にタイルTの表面T1に至らせ、タイルTの表面T1で反射した光を確実にドライバーに認識させるには、無色透明が適している。
【0015】
透過層2は、シランカップリング剤を含む液剤をタイルTの表面T1に塗布して硬化させてなるものであり、硬化することによって、表面T1に対して強固に密着している。
また、透過層2内には、シランカップリング剤を含む液剤の硬化により保持された網状体3が介在されている。
【0016】
ここでシランカップリング剤を含む液剤として、不燃性及び透過性を有し、空気に触れることで硬化する性質を有した粘性液が好ましい。
粘性液は、塗布した際にたれにくい粘度を有することが好ましい。
また、シランカップリング剤を含む液剤は、硬化時間が速い性質を有するものが好ましく、約3時間程度で鉛筆硬度に達するものがより好ましい。
このような液剤としては、出願人が製造販売している商品名「TSボンド40S(国土交通省不燃認定取得(認定番号NM-4970))」が例示できる。
なお、透過層2を構成する素材は、シランカップリング剤を含む液剤(例えばTSボンド40S)に限らず、不燃性及び透過性を有すると共に、空気に触れることで硬化し、硬化時間が速い性質を有するものであればよい。
【0017】
[網状体3の構成]
網状体3は、細く透明であり、不燃性を有するガラス繊維を多数束ねてなる経糸3Aと緯糸3Bとを織ることで網状に形成されたものである。
経糸3Aと緯糸3Bに用いられるガラス繊維の屈折率は、液剤が硬化した透過層2の屈折率と同等であることが好ましい。
経糸3Aと緯糸3Bに用いられるガラス繊維と液剤が硬化した透過層2の屈折率を同等又は近似する値にすることにより、透過層2内に積層された経糸3Aと緯糸3Bが視覚されず、しかも、経糸3Aと緯糸3Bによる乱反射を防ぐことができる。
これによって、タイルTの表面T1で反射した光を安全、且つ確実にドライバーに認識させることができる。
前述のガラス繊維と透過層2の屈折率の差は、0~0.5n程度が好ましく、この範囲であれば、屈折の差が最大値であった場合でも、運転中のドライバーからは経糸3Aと緯糸3Bが視覚しにくく、ドライバーに対する乱反射の影響は極めて少ないものと思われる。
また、より好ましい屈折率の差は、0~0.3nの範囲であり、この範囲であれば、屈折の差が最大値であった場合でも、経糸3Aと緯糸3Bが視覚されず、乱反射もほぼ確実に防ぐことができる。
【0018】
このような網状体3は、
図1に示すように、シランカップリング剤を含む液剤が、経糸3Aと緯糸3Bの間に形成された網目3Cを貫通すると共に、経糸3Aと緯糸3Bとを囲むように含侵して硬化することによって、網状体3が透過層2内で強固に保持された状態となる。
網状体3は、ある程度の大きさ(面積)に形成した定形のものであってもよいし、経方向或いは緯方向に長尺として形成したものであってもよい。
経糸3Aと緯糸3Bを構成するガラス繊維は、引張強度が高いものがよい。
また、経糸3Aと緯糸3Bは、ガラス繊維以外でも引張強度が高い各種繊維(例えば、金属線)を用いることができ、或いは、一本物の線条体(例えば金属線)を用いることができる。
網状体3は、経糸3Aと緯糸3Bとを織ってなるものに限らず、成形型によって網状に成形された成型品を使用することもできる。
網目3Cの大きさは、タイルTの表面T1の状態を視認することができると共に、タイルTの表面T1のひび割れや膨張を保持できる程度の大きさであることが好ましい
【0019】
このような保護構造Aによると、透過層2と網状体3がタイルTの表面T1に積層されることによって、トンネル1の壁面10及びタイルTを補強すると共に、タイルTを保持することができる。
また、タイルTの表面T1のひび割れや膨張等の状態を、透過層2を介して視認できると共に、トンネル1の壁面10から剥落しようとするタイルTの破片を透過層2及び網状体3によって保持することで落下を防止することができる。
また、トンネル1内で自動車事故による火災が発生した場合でも、不燃性の透過層2及び網状体3に燃え移らないため、火災の被害を抑制することができる。
したがって、トンネル1の壁面10の保護機能を長期にわたって保持できる保護構造Aを提供できる。
【0020】
次に、保護構造Aの施工方法を
図2(a)~(c)に基づいて説明する。
この施工方法は、トンネル1の壁面10の表面にすでに貼られている既存のタイル(仕上げ材)Tを改修して保護構造Aを施工する方法、壁面10の表面に新規にタイルTを貼り付けて構成される保護構造Aを施工する方法に適用できる。
【0021】
下塗り (第1)工程(
図2(a)):壁面10の表面に貼られたタイルTの表面T1にシランカップリング剤を含む液剤(TSボンド40S使用)4をローラや刷毛等を用いて塗布するか、噴射ノズルによってシランカップリング剤を含む液剤4を表面T1に吹き付け、仕上げとしてローラや刷毛等を用いて塗布して下塗り層20Aとする。
この下塗り工程では、タイルTの表面T1の凹凸等を無くして下塗り層20Aの表面を平滑にするプライマーとして機能させるとよい。
【0022】
網状体被着(第2)工程(
図4(b)):下塗り層20Aが乾燥して硬化する前に、網状体3を下塗り層20Aの表面に被着する。
このとき、網状体3が折れ曲がったりにしわが生じたりしないように被着するが、前述の下塗り工程によって、下塗り層20Aの表面を平滑にしているので、網状体3の被着作業が行いやすくなっている。
【0023】
上塗り(第3)工程(
図4(c)):下塗り層20Aが乾燥して硬化する前に、下塗り層20Aの表面に下塗りで用いられた液剤4をローラや刷毛等を用いて塗布するか、噴射ノズルによって液剤4を下塗り層20Aの表面に吹き付け、仕上げとしてローラや刷毛等を用いて塗布して上塗り層20Bとする。
この上塗り工程では、網状体被着工程において被着された網状体3に被せるように塗布すると共に、下塗り層20Aの表面に対する網状体3の被着状態を確実なものするように塗布する。
そして、下塗り層20Aに上塗り層20Bが積層された状態で硬化することにより、下塗り層20Aに上塗り層20Bが一体となって透過層2が形成される。
【0024】
また、上塗り工程と前述の網状体被着工程をほぼ同時に行うことも考えられる。
具体的には、下塗り層20Aに網状体3を被着する際に、シランカップリング剤を含む液剤4を含侵させたローラや刷毛等で、網状体3を下塗り層20Aに押し付けながら上塗りすることで、網状体3を被着しながら上塗りすることができる。
【0025】
前述の被着工程から上塗り工程では、被着された網状体3にシランカップリング剤を含む液剤4が、含侵しながら徐々に硬化することによって、
図1に示すように、上塗り層20Bと下塗り層20Aとが網状体3を間にして一体化された透過層2が構成される。
透過層2の厚みは、透過層2内で積層される網状体3が透過層2の表面から突出しない程度の厚みとし、透過層2の表面に凹凸が出ないようにする。
【0026】
このような施工方法によって、トンネル1の壁面10に貼られたタイルTの表面T1を可視化できると共に、タイルTの剥落を防止した上で、不燃性を有する保護構造Aを構築することができる。
したがって、トンネル1の壁面10の保護機能を長期にわたって保持できる保護構造Aを施工することができる。
また、液剤4の硬化時間が速いので、短工期(3時間程度で完成)で保護構造Aが構築でき、これにより、車両の規制が短時間ですみ、総合的なコスト削減効果が高い。
【0027】
前述した保護構造A及び保護構造Aの施工方法は、トンネル1の壁面10の保護構造A及び保護構造Aの施工像法に限らず、コンクリート建築物(コンクリート構造物)の外壁の保護構造及び保護構造の施工方法にも適用できる(図示せず)。
コンクリート建築物の外壁の保護構造である場合、タイルTの色合いに合わせた着色剤を混ぜることで有色透明としてもよいし、タイルTが透けて見える無色透明としてもよい。
また、仕上げ材については、タイルTに限らない。
【0028】
以上、本発明のコンクリート構造物における壁面の保護構造A及びコンクリート構造物における壁面の保護構造Aの施工方法について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
また、各実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0029】
A:保護構造
T:タイル(仕上げ材)
T1:表面
1:トンネル(コンクリート構造物)
10:壁面
2:透過層
3:網状体
4:液剤
20A:下塗り層