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  • 特開-貨物の衝突防止装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092714
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】貨物の衝突防止装置
(51)【国際特許分類】
   B66C 15/00 20060101AFI20230627BHJP
【FI】
B66C15/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207894
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】野口 英男
【テーマコード(参考)】
3F204
【Fターム(参考)】
3F204AA03
3F204BA04
3F204CA01
3F204CA05
3F204DA02
3F204DA08
3F204DB06
3F204DC06
3F204DD02
3F204FC08
3F204FD02
(57)【要約】
【課題】貨物の衝突をより確実に抑制できる衝突防止装置を提供する。
【解決手段】実施形態は、支持機構の巻下げの方向に存在する障害物を検出し、前記支持機構に指示された貨物から前記障害物までの距離を検出するセンサと、前記センサから前記距離の情報を逐次取得し、前記主幹装置から前記支持機構の巻下速度の情報を逐次取得し、前記巻下速度の情報及びあらかじめ設定された巻下速度の減速度にもとづいて、前記支持機構があらかじめ設定された最低速度に達するまでの第1移動距離を算出し、前記第1移動距離及び前記距離にもとづいて、前記巻下速度を減速させる減速指令を前記主幹装置に出力する制御部と、を備える。前記制御部は、逐次取得する前記巻下速度にもとづいて、前記巻下速度が加速状態にあるか、定速状態にあるかを逐次判定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に移動可能な可動部と、巻上ロープを介して前記可動部に吊り下げられ、貨物を支持可能に構成された支持機構と、前記可動部の移動及び前記巻上ロープによる前記支持機構の巻上げ及び巻下げを制御する主幹装置と、を有するクレーンに用いられる衝突防止装置において、
前記可動部の移動及び前記支持機構の巻下げの方向に存在する障害物を検出し、前記支持機構又は前記支持機構に支持された貨物から前記障害物までの距離を検出するセンサと、
前記センサから前記距離の情報を逐次取得し、前記主幹装置から前記支持機構の巻下速度の情報を逐次取得し、前記巻下速度の情報及びあらかじめ設定された巻下速度の減速度にもとづいて、前記支持機構があらかじめ設定された最低速度に達するまでの第1移動距離を算出し、前記第1移動距離及び前記距離にもとづいて、前記巻下速度を減速させる減速指令を前記主幹装置に出力する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
逐次取得する前記巻下速度にもとづいて、前記巻下速度が加速状態にあるか、定速状態にあるかを逐次判定し、
前記巻下速度が定速状態にあると判定した場合には、前記第1移動距離は、前記制御部の制御遅れ時間を含む応答遅れ時間に前記支持機構が移動する距離を含めて第2移動距離として算出し、
前記巻下速度が加速状態にあると判定した場合には、前記第2移動距離に、前記巻下速度の加速度に応じて前記支持機構が移動する距離を加算して第3移動距離として算出する貨物の衝突防止装置。
【請求項2】
前記制御部は、逐次取得される前記巻下速度にもとづいて、前記加速度を逐次計算して前記第3移動距離を算出する請求項1記載の貨物の衝突防止装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記主幹装置に接続され、前記巻下速度を、設定されているノッチに応じた前記巻下速度の情報を有するノッチ信号を出力するコントローラから前記ノッチ信号を逐次監視し、
前記ノッチ信号が前記巻下速度の所定の段階分の増大したと判定した場合に、前記巻下速度が加速状態にあると、判定する請求項1記載の貨物の衝突防止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、コンテナなどの貨物の衝突防止装置に関する。より詳しくは、例えば、コンテナヤード内で海上輸送用のコンテナをコンテナスタック内で移動する際などの安全対策を図るための衝突防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、港湾内で積んだコンテナの積み替えにRTG(Rubber Tired Gantry cranes)やRMG(Rail Mounted Gantry cranes)などの門型のクレーンが使用されている。門型のクレーンは、港湾内のコンテナの積み上げ、コンテナ位置の変更、トラックへの積み下ろしなどを行っている。
【0003】
RMGは、レールマウント式のため、RTGに比べて大きなクレーンとなり、横行距離も長くなる場合が多い。横行距離が長いと、コンテナを吊ってから横行する距離も長くなり、横行速度も速くなる傾向にある。
【0004】
クレーンオペレータは、コンテナの衝突を避けるために細心の注意を払って操作しているが、稀に吊っているコンテナをコンテナ山にぶつけ、コンテナ山を崩す、コンテナを置くときに速い速度で置いてしまい衝撃を与えることもある。
【0005】
そこで、衝突防止装置を既存のクレーンに取り付けたいという要求がある。衝突防止装置は、例えば、レーザセンサやカメラなどのセンサと、そのセンサデータの情報処理を行う制御部と、を備える。
【0006】
衝突防止装置を取り付ける場合、改造箇所を最小限とするために、モータドライブを制御する主幹装置とのインタフェースは、必要最小限の信号のみとされることがある。この場合、衝突防止装置から主幹装置への信号は、例えば、巻下げの減速信号と停止信号、横行の減速信号と停止信号などが主な信号であり、高度なリミットスイッチ信号としての機能を持つ。
【0007】
衝突防止装置は、例えば、コンテナを吊っているスプレッダの速度、及び巻下げ方向のコンテナ上部までの距離から減速距離を算出し、スプレッダを減速させる。このように、衝突防止装置は、コンテナなどの障害物に衝突する前に、障害物との距離に応じてスプレッダを減速させ、障害物の前でスプレッダを停止させる。これにより、コンテナの衝突を抑制することができる。
【0008】
しかしながら、減速距離を算出する場合に時々刻々と変化するスプレッダの速度のみから減速距離を算出し、実際に減速させるとクレーンが減速前に加速していた場合は計算値よりも早い速度でコンテナが置かれ危険な場合がある。
【0009】
このため、衝突防止装置では、クレーンの速度が定速なのか、加速しているのか判定し、処理の遅れを加味した減速距離を計算し衝突をより確実に抑制できるようにすることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2020-007089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の実施形態は、貨物の衝突をより確実に抑制できる衝突防止装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態は、水平方向に移動可能な可動部と、巻上ロープを介して前記可動部に吊り下げられ、貨物を支持可能に構成された支持機構と、前記可動部の移動及び前記巻上ロープによる前記支持機構の巻上げ及び巻下げを制御する主幹装置と、を有するクレーンに用いられる。この衝突防止装置は、前記可動部の移動及び前記支持機構の巻下げの方向に存在する障害物を検出し、前記支持機構又は前記支持機構に支持された貨物から前記障害物までの距離を検出するセンサと、前記センサから前記距離の情報を逐次取得し、前記主幹装置から前記支持機構の巻下速度の情報を逐次取得し、前記巻下速度の情報及びあらかじめ設定された巻下速度の減速度にもとづいて、前記支持機構があらかじめ設定された最低速度に達するまでの第1移動距離を算出し、前記第1移動距離及び前記距離にもとづいて、前記巻下速度を減速させる減速指令を前記主幹装置に出力する制御部と、を備える。前記制御部は、逐次取得する前記巻下速度にもとづいて、前記巻下速度が加速状態にあるか、定速状態にあるかを逐次判定し、前記巻下速度が定速状態にあると判定した場合には、前記第1移動距離は、前記制御部の制御遅れ時間を含む応答遅れ時間に前記支持機構が移動する距離を含めて第2移動距離として算出し、前記巻下速度が加速状態にあると判定した場合には、前記第2移動距離に、前記巻下速度の加速度に応じて前記支持機構が移動する距離を加算して第3移動距離として算出する。
【発明の効果】
【0013】
貨物の衝突をより確実に抑制できる衝突防止装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る貨物の衝突防止装置が適用されたクレーンを例示する模式的な側面図である。
図2】実施形態に係る貨物の衝突防止装置を例示する模式的なブロック図である。
図3】実施形態に係る貨物の衝突防止装置の動作を説明するための模式的なグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的又は概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0016】
図1は、実施形態に係る貨物の衝突防止装置が適用されたクレーンを模式的に表す側面図である。
図1に表したように、クレーン10は、例えば、一対の脚部12と、横行レール14と、横行トロリ16と、スプレッダ18と、運転室20と、を備える。
【0017】
クレーン10は、例えば、港湾内のコンテナヤードに設けられ、海上輸送用のコンテナ2(貨物)の移動を行う。クレーン10は、例えば、港湾内のコンテナ2の積み上げ、コンテナ2の位置の変更、及びコンテナ2のトラックへの積み下ろしなどを行う。クレーン10は、例えば、門型のガントリークレーンである。
【0018】
一対の脚部12は、一対の走行レール4の上に載せられている。一対の走行レール4は、例えば、コンテナヤードの地面6の上に敷設されている。一対の走行レール4は、例えば、図1において紙面と直交する方向に沿って敷設されている。一対の脚部12は、図示を省略した車輪、走行モータ、及びブレーキなどを有し、一対の走行レール4の上に載り、一対の走行レール4の上を走行する。
【0019】
これにより、クレーン10は、走行モータの駆動により、図1において紙面と直交する方向に沿って走行する。すなわち、この例において、クレーン10は、いわゆるRMGである。クレーン10は、例えば、一対の脚部12に設けられたタイヤを介して地面6の上を走行するRTGなどでもよい。
【0020】
横行レール14は、一対の脚部12の上に架け渡されるように設けられている。一対の走行レール4及び一対の脚部12は、走行方向と略直交する方向に並び、横行レール14は、走行方向と略直交する方向に延びる。クレーン10は、例えば、走行方向に並ぶ一対の横行レール14を有する。以下では、横行レール14の延びる方向を、「横行方向」と称す。
【0021】
横行トロリ16は、横行レール14に設けられている。横行トロリ16は、例えば、一対の横行レール14の間に設けられる。横行トロリ16は、例えば、車輪16aを介して横行レール14の上に設けられることにより、横行レール14に沿って走行する。換言すれば、横行トロリ16は、横行レール14に沿って横行する。横行トロリ16は、横行レール14に沿って水平方向に移動可能である。但し、横行トロリ16の構成は、上記に限ることなく、横行レール14に沿って横行可能な任意の構成でよい。
【0022】
スプレッダ18は、ヘッドブロック22、巻き滑車24、及びワイヤロープ等の巻上ロープ26などを介して横行トロリ16に吊り下げられている。スプレッダ18は、コンテナ2を掴んで支持可能に構成されている。スプレッダ18は、巻上ロープ26が巻き掛けられた巻上電動機50(図2参照)によって上下方向に移動(巻上げ、巻下げ)する。コンテナ2などの貨物を支持可能に構成された支持機構は、スプレッダ18に限ることなく、トング、バケツ、あるいはフックなどでもよい。
【0023】
運転室20は、横行レール14に設けられている。運転室20は、例えば、横行トロリ16と略一体に設けられ、横行トロリ16とともに横行する。運転室20は、横行トロリ16と別に設けてもよい。運転室20は、例えば、横行トロリ16とは独立して横行可能に横行レール14に設けてもよい。
【0024】
クレーン10は、スプレッダ18を上下方向に移動させる巻上動作、横行トロリ16と運転室20とを横行レール14に沿って移動させる横行動作、及び一対の脚部12の車輪を駆動して走行レール4の上で走行方向に移動する走行動作を行う。これにより、港湾内のコンテナ2の積み上げや位置の変更などを行うことができる。
【0025】
図2は、実施形態に係る貨物の衝突防止装置を例示する模式的なブロック図である。
図2には、貨物の衝突防止装置60のほか、クレーン10の横行動作や昇降動作を制御するための制御システムがクレーン10として、合わせて示されている。
図2に表したように、クレーン10は、主幹装置40と、巻上コントローラ42と、横行コントローラ44と、巻上ドライブ46と、横行ドライブ48と、巻上電動機50と、横行電動機52と、衝突防止装置60と、を有する。
【0026】
主幹装置40は、クレーン10の各部の動作を制御する。巻上コントローラ42及び横行コントローラ44は、主幹装置40と接続されている。巻上コントローラ42及び横行コントローラ44は、運転室20内に設けられている。
【0027】
巻上コントローラ42は、スプレッダ18の巻上げ及び巻下げの速度指令を主幹装置40に入力する。横行コントローラ44は、横行トロリ16の横行の速度指令を主幹装置40に入力する。巻上コントローラ42及び横行コントローラ44は、例えば、レバーなどの操作部を有する。巻上コントローラ42及び横行コントローラ44は、オペレータの操作を受け付け、オペレータの操作に応じた速度指令を主幹装置40に入力する。
【0028】
巻上ドライブ46及び横行ドライブ48は、主幹装置40と接続されている。主幹装置40は、巻上コントローラ42から入力された速度指令に応じて巻上ドライブ46に速度基準を与える。巻上ドライブ46は、入力された速度基準に巻上電動機50の回転速度が追従するように電流を巻上電動機50に入力する。巻上電動機50は、巻上ドライブ46からの電流の入力に応じて巻上ロープ26の巻上げ又は巻下げを行う。これにより、巻上コントローラ42で設定された速度で、スプレッダ18の巻上げ又は巻下げが行われる。
【0029】
同様に、主幹装置40は、横行コントローラ44から入力された速度指令に応じて横行ドライブ48に速度基準を与える。横行ドライブ48は、入力された速度基準に横行電動機52の回転速度が追従するように電流を横行電動機52に入力する。横行電動機52は、横行ドライブ48からの電流の入力に応じて横行トロリ16及び運転室20の横行を行う。これにより、横行コントローラ44で設定された速度で、横行トロリ16及び運転室20は横行する。
【0030】
オペレータは、運転室20の中でコンテナ2の位置を見ながら巻上コントローラ42及び横行コントローラ44を操作し、主幹装置40に速度指令を与えることにより、横行トロリ16と運転室20との横行、及びスプレッダ18の巻上げ及び巻下げを行う。このように、主幹装置40は、横行トロリ16の移動と、巻上ロープ26によるスプレッダ18の巻上げ及び巻下げを制御する。
【0031】
オペレータは、巻上コントローラ42及び横行コントローラ44の操作によって、コンテナ2に対するスプレッダ18の巻上げ高さと横行位置の調整を行うとともに、吊るされたコンテナ2の巻上げ高さと横行位置の調整を行う。これにより、クレーン10において荷役作業を行うことができる。
【0032】
衝突防止装置60は、センサ62と、制御部64と、を備える。センサ62は、横行トロリ16にともなって移動するスプレッダ18の巻下方向や横行方向に存在する障害物を検出し、移動方向におけるスプレッダ18から障害物までの距離DT(図1参照)を検出する。距離DTは、換言すれば、スプレッダ18に支持されたコンテナ2から障害物までの距離である。センサ62は、例えば、コンテナ山に積まれた別のコンテナ2aを障害物として検出する。但し、障害物は、別のコンテナ2aに限ることなく、例えば、建築物や停泊した船舶など、スプレッダ18やスプレッダ18に支持されたコンテナ2と衝突する可能性のある任意の障害物でよい。
【0033】
センサ62は、制御部64に接続されている。制御部64は、センサ62によって検出された、コンテナ2から障害物までの距離DTの情報を取得して入力する。なお、センサ62と制御部64との間の通信は、有線でもよいし、無線でもよい。センサ62は、必ずしもケーブルなどを介して物理的に制御部64と接続されていなくてもよい。
【0034】
センサ62には、例えば、画像処理によって障害物までの距離DTを検出する撮影装置や、レーザ光を用いて障害物までの距離DTを検出するレーザ距離計などが用いられる。センサ62は、上記に限ることなく、障害物までの距離DTを検出可能な任意のセンサでよい。なお、この例では、距離DTは、スプレッダ18に支持されたコンテナ2の下端から障害物までの巻上げ又は巻下げ方向の距離である。
【0035】
制御部64は、センサ62と接続されるとともに、主幹装置40と接続される。制御部64は、主幹装置40から、巻上ドライブ46の巻上速度(巻下速度)の情報及びスプレッダ18の位置の情報を取得して入力する。なお、制御部64と主幹装置40との間の通信は、センサ62と同様に、有線でもよいし、無線でもよい。距離DTは、センサ62によって検出された障害物の位置の情報及びスプレッダ18の位置情報を用いて計算される。あるいは、距離DTは、センサ62によって検出された障害物の位置の情報及びセンサ62によって検出されたスプレッダ18の位置の情報を用いて計算されてもよい。
【0036】
制御部64は、入力された障害物までの距離DT、スプレッダ18の巻下速度及びあらかじめ設定されたスプレッダ18の減速度にもとづいて、スプレッダ18の巻下速度の減速を開始する減速指令を主幹装置40に出力する。より具体的には、制御部64は、巻下時の速度及び距離DTを監視し、巻下動作が停止するまでの移動距離を計算する。制御部64は、移動距離の計算を、スプレッダ18の巻下速度及び減速度にもとづいて実行する。制御部64は、巻下動作が停止するまでの移動距離が、障害物の手前となるタイミングで減速指令を出力する。ここで、障害物の手前の停止位置とは、例えば、障害物の上方5cm以下の範囲の位置である。
【0037】
主幹装置40は、減速指令を入力すると、スプレッダ18の巻下速度の減速を開始する。主幹装置40は、減速指令の入力により、例えば、巻上コントローラ42から入力された速度指令に応じた巻下速度から所定の最低速度、例えば最低速度0[m/s]、つまりスプレッダ18の巻下げが停止するまで、巻下速度を減速させる。なお、減速度は、負の加速度であり、スプレッダ18を巻下げて、コンテナ2を降下させる場合に、降下させるほど速度を小さくする場合をいう。また、最低速度は、0に限らず、例えば、クリープ速度としてもよい。
【0038】
このような動作により、衝突防止装置60は、スプレッダ18及びスプレッダ18に支持されたコンテナ2が障害物に衝突することを抑制できる。
【0039】
なお、スプレッダ18の巻下動作に関しては、センサ62の誤検出によりコンテナ2を置けなくなる場合があり得るので、衝突防止装置60による減速動作によらず、オペレータが手動で停止させることもある。また、例えば、衝突防止装置60からの減速指令にもとづく減速の最中などにおいて、巻上コントローラ42から巻下げを停止する指令が主幹装置40に入力された場合には、主幹装置40は、衝突防止装置60から減速指令を受信した場合と同様に、減速を行ってスプレッダ18を停止させてもよいし、巻上コントローラ42の操作に応じて、急速にスプレッダ18を停止させてもよい。
【0040】
実施形態の貨物の衝突防止装置60の動作について説明する。
図3は、実施形態に係る貨物の衝突防止装置の動作を説明するための模式的なグラフである。
図3には、スプレッダ18の巻下速度vの時間tに対するグラフが模式的に示されており、縦軸がスプレッダ18の巻下速度vとされ、横軸が時間tとされている。
以下の説明では、3種類の減速動作について説明する。3種類の減速動作のうちの1つは、衝突防止装置60や主幹装置40、ドライブ装置等に制御遅れや伝送遅れが存在しない理想的な場合であり、これを減速動作Iといい、図3では、太い実線で示されている。残りの2つの減速動作は、衝突防止装置60等に制御遅れ等が存在する場合の実際の動作であり、減速動作II及び減速動作IIIとしている。減速動作IIは、定速で巻下動作を行っている期間で、減速指令が出力される動作であり、図3では、細い破線で示されている。減速動作IIIは、巻下動作を加速している期間に、減速指令が出力される動作であり、図3では、太い破線で示されている。
【0041】
以下説明する例では、図1に示したように、スプレッダ18にコンテナ2が支持され、コンテナ2の巻下方向の下方には、障害物として、地面6に載置されたコンテナ2aがあるものする。その上で、コンテナ2の下端からコンテナ2aの上端までの距離DT[m]は、センサ62により逐次測定される。各減速動作I~IIIでは、減速度をb[m/s]とし、減速動作IIIでは、減速前の加速度をa[m/s]とする。減速度bは、衝突防止装置60においてあらかじめ設定されている。加速度aは、オペレータの操作によるため、異なる値となり得るが、以下の説明では、特に断らない限り、一定の値であるものとする。また、減速動作の終了時点の最低速度は0[m/s]であるものとする。
【0042】
実施形態の貨物の衝突防止装置60では、衝突防止装置60の制御部64は、以下で詳細に説明するように、センサ62から逐次取得する距離DT、主幹装置40から逐次取得する巻下速度v0及びあらかじめ設定された減速度bを用いて、巻下速度v0が最低速度となるまでの移動距離を逐次計算する。制御部64は、逐次計算された移動距離が、センサ62から逐次取得するコンテナ2とコンテナ2aとの間の距離DT以上となる所定のしきい値に達したときに、減速指令を出力する。実施形態の衝突防止装置60では、スプレッダ18の巻下速度が定速状態であるか、加速状態にあるか、を判定して、判定した巻下動作に応じた減速距離の計算を行う。
【0043】
まず、理解を容易にするために、衝突防止装置60等の制御遅れ等が存在しない理想的な減速動作Iの場合について説明する。
減速動作Iでは、時間t0から時間t3までの期間で減速度bでコンテナ2の移動距離s1(第1移動距離)[m]が計算される。コンテナ2の移動距離は、主幹装置40から取得する巻下速度vを取得時間ごとに積算(積分)することにより計算される。実施形態の衝突防止装置60では、減速度bが一定であるため、移動距離s1の計算は、図3の時間t0での巻下速度v0に対応する点A、時間t0での巻下速度0に対応する点B及び時間t3での巻下速度0に対応する点Cを頂点とする三角形ABCの面積を計算することであり、以下の式(1)で計算される。
【0044】
s1=v0/(2b)[m] (1)
【0045】
制御部64は、式(1)で計算された移動距離s1が、コンテナ2の下端から障害物までの距離DT[m]以上(式(2))となるようなタイミングで、主幹装置40に減速指令を出力し、減速を開始して障害物への衝突を防ぐ。
【0046】
s1≧DT (2)
【0047】
実際には、衝突防止装置60等に制御遅れ等が存在し、制御部64が減速指令を出力した後に、実際に減速動作が開始されるまでの遅れが生ずる。減速動作II及び減速動作IIIでは、減速指令が出力された後、実際に減速動作が開始されるまでに生じた時間遅れを考慮して、移動距離が計算される。
【0048】
制御遅れ等による追加の移動距離s1’は、図3において、時間t0での巻下速度v0に対応する点A、時間t3での巻下速度0に対応する点C、時間t4での巻下速度0に対応する点E及び時間t1での巻下速度v0に対応する点Dを頂点とする平行四辺形ACEDの面積として計算される(式(3))。
【0049】
s1’=v0×(t1-t0) (3)
【0050】
したがって、減速動作IIでは、衝突防止装置60は、以下の条件を満たすときに減速指令を出力する(式(4))。例えば、制御部64では、減速指令を出力するしきい値sthは、sth=DT+5[cm]のように設定される。
【0051】
s1+s1’(第2移動距離)≧DT (4)
【0052】
衝突防止装置60等の制御遅れ等の時間(t1-t0)は、衝突防止装置60を含む制御システムが導入されたクレーン10ごとに、例えば実測等により決定され、衝突防止装置60ごとに設定される。
【0053】
減速動作IIIでは、減速指令を出力する時間t0で、巻下動作が加速度aで加速されている。この場合には、時間t1で減速動作が開始されるまで、巻下動作は加速されており、時間t1に到達後、減速動作に移行する。そのため、上述の減速動作IIの場合よりも移動距離がさらに伸びる。
【0054】
減速動作IIIの場合には、図3に示した三角形ADF、三角形DGF及び平行四辺形DEHGのそれぞれの面積の和が時間t0における加速度aによって伸びる移動距離s2[m]である。点Dは、時間t1での巻下速度v0の点であり、点Fは時間t1での巻下速度v1の点であり、点Gは時間t2での巻下速度v0の点である。移動距離s2は、図3においてハッチングをかけた領域の面積である。したがって、移動距離s2[m]は、以下の式(5)で計算される。
【0055】
s2=(1/2)×a×(t1-t0)
+(1/2)×b×(t2-t1)
+(t2-t1)×v0 (5)
【0056】
したがって、減速動作IIIでは、衝突防止装置60は、以下の条件を満たすときに減速指令を出力する(式(6))。この場合の減速指令を出力するためのしきい値sth’は、sth’=DT+5[cm]のように設定される。
【0057】
s1+s1’+s2(第3移動距離)≧DT (6)
【0058】
衝突防止装置60の制御部64は、主幹装置40から巻下速度vの情報を逐次取得し、巻下速度vの差から加速状態にあるのか定速状態にあるのかを判定する。この判定には、例えば加速度に関するしきい値があらかじめ設定され、制御部64は、逐次取得された巻下速度vの時間ごとの差分がしきい値以上の場合に加速状態と判定し、巻下速度vの時間ごとに差分がしきい値よりも小さい場合に定速状態と判定する。制御部64は、巻下速度が加速状態にあると判定したときには、式(5)及び式(6)を用いて、減速指令を出力するタイミングを決定する。制御部64は、巻下速度が定速状態にあると判定したときには、式(1)、式(3)及び式(4)を用いて、減速指令を出力するタイミングを決定する。
【0059】
巻下速度が加速状態にあるか、定速状態にあるかの判定については、制御部64は、巻上コントローラ42が出力するノッチ信号を監視するようにしてもよい。ノッチ信号とは、巻上コントローラ42が数段階の速度設定をするために設けられた、速度設定ごとのノッチに応じて生成される信号である。制御部64は、巻上コントローラ42が出力するノッチ信号が、少ないノッチから2つ以上大きいノッチに入ったことをノッチ検出手段によって検出した場合に、巻下速度が加速状態にあると判定する。どのノッチからどのノッチに入ったときを加速状態と判定するかは、あらかじめ設定される。
【0060】
上記各実施形態では、クレーン10の巻下動作の場合について説明したが、横行動作について適用するようにしてもよい。また、最低速度を0[m/s]としたが、任意のクリープ速度を設定してももちろんよい。
【0061】
上記の具体例では、クレーン10として港湾などで用いられる門型のクレーンとしたが、クレーンは、門型のクレーンに限ることなく、工場内で用いられる天井クレーンやその他のクレーンなどでもよい。クレーン10は、貨物を吊り下げた状態で水平方向に移動し、巻上、巻下動作が可能な任意のクレーンでよい。クレーン10が支持する貨物は、海上輸送用のコンテナ2に限ることなく、クレーン10に吊り下げ可能な任意の貨物でよい。
【0062】
実施形態の衝突防止装置60の効果について説明する。
実施形態の衝突防止装置60では、主幹装置40から取得する巻下速度vの情報を用いて、スプレッダ18の巻下動作が定速状態であるか、加速状態であるか、を判定する。そして、スプレッダ18の巻下動作が加速状態である場合には、定速状態の場合よりも、所定の最低速度に減速するまでにスプレッダ18が降下する距離が長くなる分を考慮して減速指令を出力することができる。そのため、クレーン10のオペレータの操作によらず、確実に貨物の衝突防止を図ることが可能になる。
【0063】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
2…コンテナ、 4…走行レール、 6…地面、 10…クレーン、 12…脚部、 14…横行レール、 16…横行トロリ、 18…スプレッダ、 20…運転室、 22…ヘッドブロック、 24…滑車、 26…巻上ロープ、 40…主幹装置、 42…巻上コントローラ、 44…横行コントローラ、 46…巻上ドライブ、 48…横行ドライブ、 50…巻上電動機、 52…横行電動機、 60…衝突防止装置、 62…センサ、 64…制御部
図1
図2
図3