(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092725
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/00 20060101AFI20230627BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
B60C11/00 Z
B60C11/03 100A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207913
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 直也
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BB01
3D131BB03
3D131BC12
3D131BC13
3D131BC15
3D131BC18
3D131BC20
3D131BC44
3D131CA03
3D131CB06
3D131EA08U
3D131EB11V
3D131EB11X
3D131EB18X
3D131EB20X
3D131EB22W
3D131EB23W
3D131EB46X
3D131EB82V
3D131EB82W
3D131EB82X
3D131EB86W
3D131EB91W
3D131EC01W
3D131EC01X
3D131EC02V
3D131EC07W
3D131EC22V
3D131EC22W
3D131EC22X
(57)【要約】
【課題】コーナーリングフォースの最大値の低下とコーナーリングパワーの向上との両立を図れる空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】タイヤ1は、タイヤ幅方向中央を含むセンター陸部40と、センター陸部のタイヤ幅方向両側に第1周方向主溝20を介して設けられたメディエイト陸部44と、各メディエイト陸部のタイヤ幅方向外側に、第2周方向主溝21を介して設けられたショルダー陸部50とを有するトレッド10を含む。メディエイト陸部44には、タイヤ周方向に延びる周方向副溝46が形成される。トレッド10の接地端Tで挟まれた領域において、2つのショルダー陸部の第1接地面積S1と、2つのメディエイト陸部の接地面積に周方向副溝のタイヤ径方向外側の開口面積を加えた第2接地面積S2と、センター陸部の第3接地面積S3との和である総面積に対する第1接地面積S1の比率が50~55%である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ幅方向中央を含むセンター陸部と、前記センター陸部の前記タイヤ幅方向両側に第1周方向主溝を介して設けられたメディエイト陸部と、2つの前記メディエイト陸部のそれぞれの前記タイヤ幅方向外側に、第2周方向主溝を介して設けられたショルダー陸部とを含むトレッドを備え、
前記メディエイト陸部には、前記第1周方向主溝及び前記第2周方向主溝の幅より小さく、タイヤ周方向に延びる周方向副溝が形成され、
前記トレッドの前記タイヤ幅方向両側の接地端で挟まれた領域において、前記タイヤ幅方向両側の2つの前記ショルダー陸部の第1接地面積と、前記タイヤ幅方向両側の2つの前記メディエイト陸部の接地面積に、前記メディエイト陸部に形成された前記周方向副溝のタイヤ径方向外側の開口面積を加えた第2接地面積と、前記センター陸部の第3接地面積との和である総面積に対する前記第1接地面積の比率が、50~55%である、
空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記第1接地面積は前記第2接地面積より大きく、前記第2接地面積は前記第3接地面積より大きい、
請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記総面積に対する前記第2接地面積の比率は、30~35%である、
請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記センター陸部、2つの前記メディエイト陸部、及び2つの前記ショルダー陸部のそれぞれは前記タイヤ周方向の全周に連続するリブ状である。
請求項1または請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関し、より詳しくは、複数の陸部を含むトレッドを備える空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ミドル陸部(メディエイト陸部)のタイヤ幅方向の長さ(幅)をセンター陸部の幅より大きくして、走行時のスリップアングルの上限を増大することにより、コーナーリングパワーを大きくする空気入りタイヤが記載されている(特許文献1参照)。特許文献1には、ミドル陸部に、他の周方向溝より幅が小さく周方向に延びるミドル細溝を形成することも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の空気入りタイヤでは、メディエイト陸部に周方向の細溝が形成されるので、メディエイト陸部の実質的な接地面積の低下によって、コーナーリングフォースの最大値であるCFmaxの低下を図れる可能性はある。CFmaxの低下により、スリップアングルが増大する車両の旋回状態で、グリップ力の増大を抑制できるので、例えばミニバンや、ワンボックスタイプの乗用車、バスのような箱型車両等の車両高さが大きい車両に使用しても、旋回時の外側への車両のロールを抑制できる。しかしながら、単純にメディエイト陸部の実質的な接地面積の低下によってCFmaxを低下できても、コーナーリングパワー(CP)も同時に低下する可能性がある。このため、CFmaxの低下とCPの向上との両立を図ることが望まれる。
【0005】
本発明の目的は、コーナーリングフォースの最大値の低下とコーナーリングパワーの向上との両立を図れる空気入りタイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る空気入りタイヤは、タイヤ幅方向中央を含むセンター陸部と、センター陸部のタイヤ幅方向両側に第1周方向主溝を介して設けられたメディエイト陸部と、2つのメディエイト陸部のそれぞれのタイヤ幅方向外側に、第2周方向主溝を介して設けられたショルダー陸部とを含むトレッドを備え、メディエイト陸部には、第1周方向主溝及び第2周方向主溝の幅より小さく、タイヤ周方向に延びる周方向副溝が形成され、トレッドのタイヤ幅方向両側の接地端で挟まれた領域において、タイヤ幅方向両側の2つのショルダー陸部の第1接地面積と、タイヤ幅方向両側の2つのメディエイト陸部の接地面積に、メディエイト陸部に形成された周方向副溝のタイヤ径方向外側の開口面積を加えた第2接地面積と、センター陸部の第3接地面積との和である総面積に対する第1接地面積の比率が、50~55%である、空気入りタイヤである。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る空気入りタイヤによれば、メディエイト陸部に周方向副溝が形成されるので、メディエイト陸部の実質的な接地面積の低下により、コーナーリングフォースの最大値を低下できる。さらに、トレッドの2つのショルダー陸部の第1接地面積と、2つのメディエイト陸部の接地面積に周方向副溝のタイヤ径方向外側の開口面積を加えた第2接地面積と、センター陸部の第3接地面積との和である総面積に対する第1接地面積の比率を50~55%としている。これにより、コーナーリングパワーの向上を図れる。このため、コーナーリングフォースの最大値の低下とコーナーリングパワーの向上との両立を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の一例である空気入りタイヤの断面図である。
【
図2】
図1に示すトレッドの周方向一部の平面図である。
【
図4】
図2において、第1接地面積、第2接地面積及び第3接地面積を計算するための第1領域、第2領域及び第3領域を分かりやすく示す図である。
【
図5】コーナーリングフォース(CF)とスリップアングル(SA)との関係を、タイヤ上方から見て示す図である。
【
図6】コーナーリングフォース(CF)及びコーナーリングパワー(CP)とスリップアングル(SA)との関係の1例を示す図である。
【
図7】
図2において、スリップアングルが1度での車両の旋回時における接地部を示すイメージ図である。
【
図8】
図2において、スリップアングルが約8~10度での車両の旋回時における接地部を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る空気入りタイヤの実施形態の一例について詳細に説明する。以下で説明する実施形態はあくまでも一例であって、本発明は以下の実施形態に限定されない。また、以下で説明する複数の実施形態及び変形例の各構成要素を選択的に組み合わせることは本発明に含まれている。
【0010】
図1は、実施形態の一例である空気入りタイヤ1の断面図である。
図2は、
図1に示すトレッド10の周方向一部の平面図である。
図3は、
図1のA部拡大図である。
図1、
図2に示すように、空気入りタイヤ1は、路面に接地する部分であるトレッド10を備える。以下、「空気入りタイヤ1」は、「タイヤ1」と記載する。トレッド10は、複数の陸部を含むトレッドパターンを有し、タイヤ周方向に沿って環状に形成されている。
【0011】
以下、タイヤ1の構成として、タイヤ幅方向中央CLを中心として車両への取付状態で車両内側(IN側)となる部分を中心に説明する。タイヤ1の外形の形状は、タイヤ幅方向中央CLを中心として車両内側の部分と車両外側(OUT側)の部分とで、後述のラグ溝及びサイプを除いて対称としている。
【0012】
トレッド10は、例えば4本の周方向主溝20,21により区画される陸部40,44,50を備える。陸部40,44,50は、トレッド10の基準面からタイヤ径方向外側に向かって突出した突出部である。「基準面」とは、最も深い周方向主溝20,21の底面に沿った仮想面であって、陸部が存在しない場合のトレッド10の外周面を意味する。トレッド10には、4本の周方向主溝20,21によって、上記陸部として、タイヤ幅方向中央CLを含むセンター陸部40と、センター陸部40のタイヤ幅方向両側に、第1周方向主溝20を介して設けられたメディエイト陸部44と、2つのメディエイト陸部44のそれぞれのタイヤ幅方向外側に、第2周方向主溝21を介して設けられたショルダー陸部50とを有する。
【0013】
センター陸部40、2つのメディエイト陸部44、及び2つのショルダー陸部50のそれぞれはタイヤ周方向の全周に連続するリブ状である、
【0014】
タイヤ1は、トレッド10よりタイヤ幅方向外側に設けられ、最もタイヤ幅方向外側に膨らんだサイドウォール12と、ホイールのリムに固定されるビード(図示せず)とを備える。サイドウォール12とビードは、タイヤ周方向に沿って環状に形成され、タイヤ側面13を構成している。サイドウォール12は、トレッド10の幅方向両端からタイヤ径方向内側に延びている。
【0015】
タイヤ1は、所定圧の空気が充填される空気入りタイヤである。トレッド10とサイドウォール12は、例えば、異なる種類のゴムで構成されている。
【0016】
トレッド10の幅方向両端に配置されるショルダー陸部50では、接地面のタイヤ幅方向外側の端である接地端T(
図2)を含んでいる。各ショルダー陸部50のタイヤ幅方向端部は、接地端Tよりタイヤ幅方向外側にはみ出して、外周面が外側に向かって凸となるようにタイヤ径方向内側に緩やかに湾曲している。各ショルダー陸部50の接地端Tよりタイヤ幅方向外側にはみ出した部分は、バットレスと呼ばれる。
【0017】
「接地端T」とは、未使用のタイヤ1を正規リムに装着して正規内圧となるように空気を充填した状態で、正規内圧における正規荷重の70%の負荷を加えたときに平坦な路面に接地する領域のタイヤ幅方向両端を意味する。
【0018】
ここで、「正規リム」とは、タイヤ規格により定められたリムであって、JATMAであれば「標準リム」、TRAであれば「Design Rim」、ETRTOであれば「Measuring Rim」である。「正規内圧」は、JATMAであれば「最高空気圧」、TRAであれば表「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、ETRTOであれば「INFLATION PRESSURE」である。「正規荷重」は、JATMAであれば「最大負荷能力」、TRAであれば表「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、ETRTOであれば「LOAD CAPACITY」である。
【0019】
タイヤ1は、図示を省略するが、カーカス、ベルト、及びインナーライナーを備える。カーカスは、ゴムで被覆されたコード層であり、荷重、衝撃、空気圧等に耐えるタイヤ1の骨格を形成する。ベルトは、トレッド10を構成するゴムとカーカスの間に配置される補強帯である。ベルトは、カーカスを強く締めつけてタイヤ1の剛性を高める。インナーライナーは、カーカスの内周面に設けられたゴム層であって、タイヤ1の空気圧を保持する。また、ビードは、ビードコアとビードフィラーを有する。
【0020】
各ショルダー陸部50のタイヤ周方向複数位置には、複数のラグ溝60が略タイヤ幅方向に延びるように形成される。各ラグ溝60のタイヤ幅方向内端は、ショルダー陸部50内で終端し、ショルダー陸部50の壁面には開口しない。このようなラグ溝60の形成によって、タイヤ幅方向外側への排水性の向上を図れる。
【0021】
各陸部40,44,50の接地面には、略タイヤ幅方向、またはタイヤ幅方向に対し傾斜した方向に延びる複数の細線状のサイプ91,80,81が形成される。
図2では、各サイプ91,80,81の位置を一点鎖線で模式的に示している。各サイプ91,80,81は、各周方向主溝20,21、後述の周方向副溝46及びラグ溝60より幅が細い細線状の溝であって、雪や氷をひっかくエッジ効果を高め、雪氷路面での良好な制駆動性、操縦安定性を実現する効果を有する。
【0022】
図2に示す場合には、各ショルダー陸部50に形成されたサイプ80,81が、タイヤ幅方向外側に設けられ略タイヤ幅方向に延びる第1直線部82,84と、第1直線部82,84のタイヤ幅方向内端に連結され、タイヤ幅方向に対し傾斜した方向に延びる第2直線部83,85とを有する。第2直線部83,85の一端は、第2周方向主溝21に開口する。各メディエイト陸部44及びセンター陸部40には、タイヤ幅方向一方側に向かってほぼタイヤ周方向の同じ側に傾斜した方向に延びる略直線状のサイプ91が形成される。
【0023】
さらに、各メディエイト陸部44には、各第1周方向主溝20及び各第2周方向主溝21の幅より小さく、タイヤ周方向に延びる周方向副溝46が形成される。周方向副溝46は、例えば、各メディエイト陸部44の接地面において、タイヤ幅方向の略中央にタイヤ径方向に窪むように形成される。各周方向副溝46のタイヤ幅方向中央でのタイヤ径方向の深さd1(
図3)は、各第1周方向主溝20及び各第2周方向主溝21のタイヤ幅方向中央でのタイヤ径方向の深さd2、d3(
図3)より小さい。このようにメディエイト陸部44に周方向副溝46が形成されることにより、メディエイト陸部44の接地面積を、周方向副溝46の分、小さくできる。これにより、後述のように、コーナーリングフォースCFの最大値CFmaxを低下させることができる。
【0024】
さらに、各メディエイト陸部44において、第2周方向主溝21側の壁面45のタイヤ径方向外側の開口端には、テーパ形状の面取り47が形成されている。面取り47は、各メディエイト陸部44の壁面45の外側にタイヤ周方向全長にわたって形成される。面取り47のタイヤ径方向に対し傾斜する角度は、面取り47を形成した壁面45の面取り47より溝底側の部分のタイヤ径方向に対し傾斜する角度より大きい。なお、本例の構成では、メディエイト陸部44の一方の壁面の開口端に面取り47が形成されているが、面取りは省略してもよい。
【0025】
上記のようにメディエイト陸部44に周方向副溝46が形成されるので、CFmaxを低下させることができるが、単に周方向副溝46を形成した場合には、コーナーリングパワー(CP)も低下する傾向となる。CPが低下する場合には、車両の旋回速度が低下し、旋回性能の低下につながるため、改良が望まれる。本実施形態では、このような不都合を解消するために、2つのショルダー陸部50の第1接地面積S1、2つのメディエイト陸部44の第2接地面積S2、及びセンター陸部40の第3接地面積S3の和である総面積に対する第1接地面積S1の比率を、従来の構成より高い所定範囲に規制している。
【0026】
図4は、
図2において、第1接地面積S1、第2接地面積S2及び第3接地面積S3を計算するための第1領域G1、第2領域G2及び第3領域G3を分かりやすく示している。
図4の斜線部は、第1領域G1を示している。
図4に示すように、第1領域G1は、トレッド10のタイヤ幅方向両側の2つの接地端Tで挟まれた領域において、タイヤ幅方向両側の2つのショルダー陸部50の接地領域G1a、G1bを合わせた領域である。第1接地面積S1は、第1領域G1の面積である。このため、第1接地面積S1は、トレッド10のタイヤ幅方向両側の接地端で挟まれた領域において、2つのショルダー陸部50の接地面積である。
図4から分かるように、第1接地面積S1には、ショルダー陸部50のラグ溝60は含まれない。各接地面積S1,S2,S3の計算では、ラグ溝よりかなり細いサイプは無視できる。
【0027】
図4の斜格子部は、第2領域G2を示している。第2領域G2は、トレッド10のタイヤ幅方向両側の2つの接地端Tで挟まれた領域において、タイヤ幅方向両側の2つのメディエイト陸部44の接地領域のそれぞれに、メディエイト陸部44に形成された周方向副溝46のタイヤ径方向外側の開口領域を加えた領域G2a、G2bを合わせた領域である。第2接地面積S2は、第2領域G2の面積である。したがって、第2接地面積S2は、2つのメディエイト陸部44の接地面積に、メディエイト陸部44に形成された周方向副溝46のタイヤ径方向外側の開口面積を加えた面積である。本例の場合、各メディエイト陸部44に1つの周方向副溝46が形成されているが、各メディエイト陸部にタイヤ幅方向に並んだ複数の周方向副溝が形成される場合には、第2接地面積に、メディエイト陸部に形成された全部の周方向副溝の開口面積が加えられる。
【0028】
図4の砂地部は、第3領域G3を示している。第3領域G3は、トレッド10のタイヤ幅方向両側の2つの接地端Tで挟まれた領域において、センター陸部40の接地領域である。第3接地面積S3は、第3領域G3の面積である。したがって、第3接地面積S3は、センター陸部40の接地面積である。
【0029】
そして、第1接地面積S1、第2接地面積S2及び第3接地面積S3の和である総面積に対する第1接地面積S1の比率(=S1×100/(S1+S2+S3))が、50~55%である。さらに、第1接地面積S1は第2接地面積S2より大きく(S1>S2)、かつ、第2接地面積S2は第3接地面積S3より大きい(S2>S3)。
【0030】
上記のタイヤ1によれば、メディエイト陸部44に周方向副溝46が形成されるので、メディエイト陸部44の実質的な接地面積の低下により、コーナーリングフォースの最大値であるCFmaxを低下できる。さらに、トレッド10の2つのショルダー陸部50の第1接地面積S1と、2つのメディエイト陸部44の接地面積に周方向副溝46のタイヤ径方向外側の開口面積を加えた第2接地面積S2と、センター陸部の第3接地面積S3との和である総面積に対する第1接地面積S1の比率を50~55%としている。これにより、コーナーリングパワーであるCPの向上を図れる。このため、CFmaxの低下とCPの向上との両立を図れる。
【0031】
これについて詳しく説明するために、まず、CFmax、CPについて詳しく説明する。
図5に示すように、車両を旋回させるためにハンドルを操作した場合には、車両の進行方向と一致するタイヤ進行方向(矢印P)は、タイヤ幅方向中央を通るタイヤ前後方向(一点鎖線Q)、すなわちタイヤの向きとの間で違いが生じる。このとき、タイヤ進行方向(矢印P)とタイヤ前後方向(一点鎖線Q)とのなす角度が、スリップアングルSAである。このとき、タイヤ1を上から見て、タイヤ1の接地点中央CからニューマチックトレールdN分、後方に移動した位置に、コーナーリングフォース(CF)の作用点がある。タイヤ1には、CFと直交する後方向に、ドラッグフォース(DF)が作用する。CFとDFとの合力Fは、横力であるサイドフォースSFと、タイヤ1と地面との間での転がり抵抗Rとの直交する2成分に分離できる。車両は、CFと近似する横力が遠心力と釣り合うことで旋回できる。
【0032】
図6は、CFとSAとの関係の1例を示している。
図6に示すように、CFは、SAの増大によって上昇する。通常、後述の
図8に示すようにSAが8~10度付近で、CFは最大値のCFmaxとなる。また、CPは、SAが0付近のときのSAに対するCFの勾配、すなわちSAの増加分に対するCFの増加分を表している。
【0033】
実施形態では、上記のように周方向副溝46が形成されることにより、メディエイト陸部44の実質的な接地面積が減少するので、接地面での実質的な平均接地圧が上昇する。一方、CFmaxは、タイヤ1と地面との間で作用する横方向の摩擦係数をμとし、タイヤ1の接地部に作用する垂直荷重をNとして、次式により算出される。
CFmax=μ×N ・・・(1)
【0034】
また、ゴムの摩擦係数μには圧力依存性があり、接地圧が高くなると摩擦係数μが低くなる。このため、実施形態のようにタイヤ1の実質的な接地圧が上昇する場合には、タイヤ1に作用する垂直荷重Nが同じ場合にCFmaxが低下する。
【0035】
さらに、本例の場合には、第1接地面積S1、第2接地面積S2、及び第3接地面積S3の和である総面積に対する第1接地面積S1の比率を50~55%としている。これにより、第1接地面積S1の比率が50%未満である構成に比べて、CFmaxを低下させながら、CPを増大できる。CFmaxの低下によって、実施形態のタイヤを、ミニバン、箱型車両等の車両高さが大きい車両に使用する場合でも、グリップ力が過度に高くなることを防止できるので、旋回時の外側への車両のロールを抑制できる。一般的に、車両の縦横比、すなわち車幅(カタログ値)Wに対する車高(カタログ値)Hの割合(H/W)が1以上である車両では、縦横比が1未満の車両に比べて旋回時に車両が旋回外側にロールしやすい。このため、実施形態のように、メディエイト陸部に周方向副溝が形成される構成によって、CFmaxの低減により車両のロールを抑制できる効果は、縦横比が1以上の場合に顕著になる。
【0036】
また、第1接地面積S1は第2接地面積S2より大きく(S1>S2)、第2接地面積S2は第3接地面積S3より大きい(S2>S3)。さらに、総面積に対する第2接地面積S2の比率は、30~35%である。これにより、CFmaxの低下と、CPの増大とを、より高レベルで両立できる。
【0037】
タイヤ1が例えばタイヤ断面幅が225mmであり、タイヤ断面幅に対するタイヤ断面高さの割合が60%であり、ホイールのリム外径が18inchである場合に、周方向副溝46のタイヤ幅方向における寸法(幅)は、1~3mmが好ましく、約1.5mmがより好ましい。このとき、タイヤ幅方向両側の2つの接地端T間の距離は、例えば164mmである。周方向副溝46の幅が1mm未満では、メディエイト陸部44の接地面積の低減によるCFmax低下の効果が小さくなる。一方、周方向副溝46の幅が3mmを超えると、気中管共鳴音等のタイヤノイズが大きくなってしまう。
【0038】
上記のタイヤ条件において、周方向副溝46のタイヤ径方向における深さd1は、約3mmが好ましい。
【0039】
図7、
図8は、
図2において、車両の旋回時における接地部86~90の1例を示すイメージ図である。
図7は、スリップアングル(SA)が0付近の1度となっている。
図8は、SAが約8~10度となっている。
【0040】
図7に示すように、SAが1度の場合には、各ショルダー陸部50の接地部86,90の面積が大きくなる。このため、各ショルダー陸部50の接地面積を増大することにより、CFが増大してCPが増大することが分かる。本例の場合には、ショルダー陸部50の接地面積の比率に対応する第1接地面積S1の比率が、50~55%であるので、第1接地面積S1の比率が50%未満の構成に比べて、CPを増大できる。
【0041】
また、
図8に示すように、SAが8~10度付近では、上記で説明したようにCFmaxが最大となる。この場合、旋回内側(
図8の左側)のショルダー陸部50における接地部86の面積がかなり小さくなる。このため、ショルダー陸部50に周方向副溝を形成する場合に比べて、実施形態のようにメディエイト陸部44に周方向副溝46を形成する場合の方が、タイヤの旋回方向にかかわらず所望の効果を得やすいことが分かる。また、旋回両側の2つのメディエイト陸部44のうち、旋回外側(
図8の右側)のメディエイト陸部44の方が、周方向副溝46の形成による接地面積の低減によるCFmax低減の効果が高くなる。
【0042】
次に、本発明者が本発明の効果を確認するために行ったシミュレーション結果を説明する。シミュレーションでは、実施例のタイヤと、比較例1~4のタイヤとを用いて、SAが1度でのCPと、CFmaxとの計算を行った。
【0043】
実施例では、
図1~
図4に示した実施形態と同様の構成を有する。また、総面積に対する第1接地面積S1、第2接地面積S2、第3接地面積S3の比率は、52:32:16である。
【0044】
比較例1は、各陸部40,44,50に周方向副溝を形成していない。また、総面積に対する第1接地面積S1、第2接地面積S2、第3接地面積S3の比率は、37:43:20である。それ以外の構成は、実施例と同様である。
【0045】
比較例2は、比較例1に比べて、各メディエイト陸部44に実施例と同様に周方向副溝46を形成している。それ以外の構成は、比較例1と同様である。
【0046】
比較例3では、総面積に対する第1接地面積S1、第2接地面積S2、第3接地面積S3の比率は、45:32:23である。それ以外の構成は、実施例と同様である。
【0047】
比較例4では、総面積に対する第1接地面積S1、第2接地面積S2、第3接地面積S3の比率は、60:32:8である。それ以外の構成は、実施例と同様である。
【0048】
表1は、実施例、比較例1~4における、CPとCFmaxとのシミュレーション結果を示している。表1のシミュレーション結果では、比較例1の場合のCP及びCFmaxをそれぞれ基準値の100とした場合の、比較例2~4及び実施例の値を、相対値で示している。
【0049】
【0050】
表1のシミュレーション結果では、CP、CFmaxの欄で、〇は性能が良好であることを示し、×は性能が不十分であることを示している。表1のシミュレーション結果から分かるように、比較例1の場合には、周方向副溝がなく、かつ、ショルダー陸部の第1接地面積S1の比率が37%と低いので、CP、CFmax共に性能が不十分であった。
【0051】
比較例2の場合には、比較例1に対して周方向副溝が形成されたことにより、CFmaxを低下できたが、CPも低下しており、両方とも性能が不十分であった。
【0052】
比較例3の場合には、比較例2に対して、メディエイト陸部の第2接地面積S2の比率が低下したことにより、周方向副溝が形成されたことと相まって、CFmaxが低下して性能が良好であった。一方、比較例3では、ショルダー陸部の第1接地面積S1の比率が45%と増大したことにより、CPが増大したがまだ不十分であった。
【0053】
比較例4の場合には、比較例2に対して、ショルダー陸部の第1接地面積S1の比率が60%と増大したことにより、CPが増大し、性能が良好であった。一方、比較例4では、メディエイト陸部の第2接地面積S2の比率が低下していると共に、周方向副溝が形成されているが、第1接地面積S1の比率が60%と高すぎることにより、CFmaxの低下が不十分であった。
【0054】
実施例の場合には、ショルダー陸部50の第1接地面積S1の比率が52%であり、メディエイト陸部44に周方向副溝46が形成されているので、CP,CFmaxの両方の性能が良好であった。これにより、本発明の効果を確認できた。
【0055】
上記の実施形態では、センター陸部40、メディエイト陸部44、ショルダー陸部50のそれぞれが、ラグ溝でタイヤ周方向に分断されず、タイヤ周方向の全周に連続するリブ状である場合を説明した。一方、各陸部は、タイヤ幅方向の第1側から第2側に延びる複数のラグ溝によって、タイヤ周方向に分断された複数のブロック状である構成としてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 タイヤ、10 トレッド、12 サイドウォール、13 タイヤ側面、20 第1周方向主溝、21 第2周方向主溝、40 センター陸部、44 メディエイト陸部、45 壁面、46 周方向副溝、47 面取り、50 ショルダー陸部、60 ラグ溝、80、81 サイプ、82 第1直線部、83 第2直線部、84 第1直線部、85 第2直線部、86~90 接地部、91 サイプ。