(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092751
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】メカニカルシール装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20230627BHJP
【FI】
F16J15/34 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207948
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】勝呂 千秋
【テーマコード(参考)】
3J041
【Fターム(参考)】
3J041AA02
3J041BA04
3J041BA11
3J041BD01
3J041DA20
(57)【要約】
【課題】アダプタを用いつつシールカバーを精度よく取付けることができるメカニカルシール装置を提供する。
【解決手段】回転軸6と共に回転する回転密封環10と、静止密封環20と、静止密封環20を保持するシールカバー21と、を備え、回転軸6が挿通可能な軸孔31aを有するアダプタ30を用いてシールカバー21が回転機械5に固定されるメカニカルシール装置Mであって、シールカバー21とアダプタ30との間に隙間Gが形成されており、シールカバー21は、アダプタ30に固定手段33,34で固定されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と共に回転する回転密封環と、静止密封環と、前記静止密封環を保持するシールカバーと、を備え、前記回転軸が挿通可能な軸孔を有するアダプタを用いて前記シールカバーが回転機械に固定されるメカニカルシール装置であって、
前記シールカバーと前記アダプタとの間に隙間が形成されており、
前記シールカバーは、前記アダプタに固定手段で固定されているメカニカルシール装置。
【請求項2】
前記シールカバーの周方向に複数設けられた前記固定手段であるボルト・ナットで前記シールカバーと前記アダプタが締結されている請求項1に記載のメカニカルシール装置。
【請求項3】
前記アダプタは、放射状に延びる複数の片を有している請求項2に記載のメカニカルシール装置。
【請求項4】
前記片は、前記ボルトの遊挿部を有している請求項3に記載のメカニカルシール装置。
【請求項5】
前記シールカバーは、前記ボルトの遊挿部を有している請求項2ないし4のいずれかに記載のメカニカルシール装置。
【請求項6】
前記アダプタは、軸孔が設けられるとともに前記シールカバーが当接する筒状体と、前記筒状体から放射状に延びる前記複数の片からなる請求項3ないし5のいずれかに記載のメカニカルシール装置。
【請求項7】
前記筒状体は、前記片の相対回動を規制する回動規制部を有している請求項6に記載のメカニカルシール装置。
【請求項8】
前記筒状体は、前記回転機械の軸孔に挿通される挿通部を有している請求項6または7に記載のメカニカルシール装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカニカルシール装置、特にアダプタを用いてシールカバーが回転機械のハウジングに固定されるメカニカルシール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポンプやコンプレッサ等の回転機械の回転軸とシールカバーとの間に設けられるメカニカルシールは、回転密封環と静止密封環の摺動面同士を互いに密接させた状態で相対回転させることにより、回転軸とシールカバーの間における被密封流体の漏れを防止している。回転密封環は回転軸に取付けられ、静止密封環はシールカバーに取付けられている。また、シールカバーは、ボルト等を回転機械のハウジングに予め設けられた雌ネジ部に螺合させることでハウジングに固定されている。ハウジングに設けられた雌ネジ部とシールカバーのボルト孔の位置がずれている場合、アダプタを用いてシールカバーを回転機械のハウジングに固定している。尚、アダプタには、回転機械の回転軸を挿通可能な軸孔が設けられている。
【0003】
例えば、特許文献1のメカニカルシール装置にあっては、先ず、アダプタの端面を回転機械のハウジングの端面に当接させて、ボルトをアダプタに設けられたボルト孔に挿通しハウジングに設けられた雌ネジ部に螺合させることにより、アダプタをハウジングに固定している。次に、シールカバーのフランジ部の端面をアダプタの端面に当接させて、ボルトをシールカバーに設けられたボルト孔に挿通しアダプタの端面に設けられた雌ネジ部に螺合させることにより、シールカバーをアダプタに固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-270698号公報(第3,4頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1にあっては、ハウジングにアダプタをネジ固定するとともに、アダプタにシールカバーをネジ固定していることから、ハウジングやアダプタの端面に不陸があると、シールカバーの取付角度の僅かなずれや、ボルトが雌ネジ部にうまく嵌らない等の不具合が起こり、回転軸の軸心と揃うように本来設計されたシールカバーの軸心に軸ずれが生じてしまう可能性があり、メカニカルシールのシール性を低下させる虞があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、アダプタを用いつつシールカバーを精度よく取付けることができるメカニカルシール装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明のメカニカルシール装置は、
回転軸と共に回転する回転密封環と、静止密封環と、前記静止密封環を保持するシールカバーと、を備え、前記回転軸が挿通可能な軸孔を有するアダプタを用いて前記シールカバーが回転機械に固定されるメカニカルシール装置であって、
前記シールカバーと前記アダプタとの間に隙間が形成されており、
前記シールカバーは、前記アダプタに固定手段で固定されている。
これによれば、シールカバーとアダプタとの間に形成される隙間によりシールカバーが回転機械に固定される前においてアダプタに対してシールカバーが軸方向および径方向に相対移動可能であるため、回転軸と軸心を揃えた適正な位置となるようにシールカバーをアダプタに固定手段により固定することができる。これにより、静止密封環が回転密封環に対して精度よく取付けられたメカニカルシール装置を提供することができる。
【0008】
前記シールカバーの周方向に複数設けられた前記固定手段であるボルト・ナットで前記シールカバーと前記アダプタが締結されていてもよい。
これによれば、シールカバーとアダプタとの間の軸方向に隙間のある位置において、複数のボルト・ナットの締め付け力を調整することにより、回転軸と軸心を揃えるようにシールカバーを適正な角度でアダプタに固定しやすい。
【0009】
前記アダプタは、放射状に延びる複数の片を有していてもよい。
これによれば、回転機械の不陸を避けてアダプタを固定しやすい。
【0010】
前記片は、前記ボルトの遊挿部を有していてもよい。
これによれば、ボルトが遊挿部内を移動可能であるため、回転軸と軸心を揃えるようにシールカバーを適正な位置に取付けやすい。
【0011】
前記シールカバーは、前記ボルトの遊挿部を有していてもよい。
これによれば、ボルトが遊挿部内を移動可能であるため、回転軸と軸心を揃えるようにシールカバーを適正な位置に取付けやすい。
【0012】
前記アダプタは、軸孔が設けられるとともに前記シールカバーが当接する筒状体と、前記筒状体から放射状に延びる前記複数の片からなってもよい。
これによれば、固定手段による固定前において筒状体と複数の片は、別体で軸方向に相対移動可能となっており、固定手段によりシールカバーが固定された状態において片に作用する締め付け力が筒状体に影響しにくい。
【0013】
前記筒状体は、前記片の相対回動を規制する回動規制部を有していてもよい。
これによれば、固定手段による固定前において回動規制部により筒状体に対する片の取付角度が決められるため、シールカバーに対して片を適正な位置に取付けることができる。また、固定手段による固定後において、シールカバーが取付けられた筒状体の回動が片によって規制される。
【0014】
前記筒状体は、前記回転機械の軸孔に挿通される挿通部を有していてもよい。
これによれば、回転機械の軸孔の内周面に挿通部が当接することにより、筒状体の径方向の移動を規制することができるため、筒状体を基準として片を適正な位置に取付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る実施例のメカニカルシール装置を示す図である。
【
図3】実施例のメカニカルシール装置の組付け手順を示す図である。尚、
図3は、ハウジングに設けられる軸孔に円筒部材を取付ける様子を示している。
【
図5】実施例のメカニカルシール装置の組付け手順を示す図である。尚、
図5は、ハウジングに板部材をネジ固定する様子を示している。
【
図7】実施例のメカニカルシール装置の組付け手順を示す図である。尚、
図7は、ボルト・ナットによりアダプタにシールカバーを固定する様子を示している。
【
図9】変形例のアダプタについて説明するための一部破断図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係るメカニカルシール装置を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例0017】
実施例に係るメカニカルシール装置につき、
図1から
図8を参照して説明する。以下、
図2の正面から見て左右をメカニカルシール装置の左右として説明する。詳しくは、紙面左側をメカニカルシール装置の左側、紙面右側をメカニカルシール装置の右側として説明する。
【0018】
図1および
図2に示されるように、メカニカルシール装置Mは、回転機械におけるハウジング5と回転軸6との間に設けられて、周辺の被密封流体の漏れを防止するためのものである。
【0019】
メカニカルシール装置Mは、回転密封要素1と、静止密封要素2と、から主に構成されている。回転密封要素1は、回転軸6と共に回転可能な状態で密封状に取付けられている。静止密封要素2は、ハウジング5に密封状に取付けられている。
【0020】
回転密封要素1は、回転密封環10と、カラー11と、セットスクリュ12と、Oリング13,14から主に構成されている。
【0021】
回転密封環10は、カーボン製であり、円環状に形成されている。その左端面は、摺動面10aである。
【0022】
また、回転密封環10は、右端における内周面に、右方向かつ内径方向に開放されている環状凹部10bが形成されている。環状凹部10b内に配置されたOリング13が環状凹部10bにおける内周面およびカラー11における外周面に圧着されており、回転密封環10とカラー11との間は密封されている。
【0023】
カラー11は、円筒状に形成されている。カラー11は、セットスクリュ12により回転軸6に固定されている。
【0024】
また、カラー11には、軸方向中央における内周面に、内径方向に開放され、外径方向に凹設されている環状溝11bが形成されている。環状溝11b内に配置されたOリング14が環状溝11bにおける内周面および回転軸6における外周面に圧着されており、カラー11と回転軸6との間は密封されている。
【0025】
また、カラー11には、右端にて外径側に延出している環状凸部における左端面に、図示しないピンが固定されている。ピンは、回転密封環10の右端面において左方向に開放されている図示しない溝に挿通されている。これにより、回転密封環10は、カラー11に対する相対的な回動が規制されている。すなわち、回転密封環10は、回転軸6と共に回転可能となっている。尚、回動規制をする手段はピン以外の手段であってもよい。
【0026】
静止密封要素2は、静止密封環20と、シールカバー21と、Oリング22と、弾性部材23と、アダプタ30と、ガスケット41,42から主に構成されている。
【0027】
静止密封環20は、充填材入PTFE(Polytetrafluoroethylene)製であり、フランジ付き円環状に形成されている。その右端面は、摺動面20aである。
【0028】
また、静止密封環20は、左端における外周面に、外径方向に開放され、内径方向に凹設されている環状溝20bが形成されている。環状溝20b内に配置されたOリング22が環状溝20bにおける内周面およびシールカバー21における内周面に圧着されており、静止密封環20とシールカバー21との間は密封されている。
【0029】
また、静止密封環20には、右端にて外径側に延出している環状凸部における左端面に当接するように左方向から弾性部材23が外挿されている。弾性部材23は、例えばコイルスプリングであり、静止密封環20を回転密封環10に向かって押圧している。
【0030】
静止密封環20における摺動面20aは、回転密封環10における摺動面10aに圧接されている。これにより、摺動面10a,20aは回転軸6の回転時に相対摺動可能となっている。
【0031】
尚、回転密封環10および静止密封環20は軟質材料と軟質材料とを組み合わせて用いられるものに限られない。また、回転密封環や静止密封環の材料はメカニカルシール用摺動材料として使用されているものであれば前述したもの以外であっても適用可能であり、例えばセラミックス、金属材料、樹脂材料、複合材料等を適用可能である。
【0032】
シールカバー21は、フランジ付き環状に形成されている。本実施例において、シールカバー21は、周方向に複数設けられた固定手段としてのボルト33、ナット34およびワッシャ35によりアダプタ30に固定されている。
【0033】
詳しくは、シールカバー21は、円筒部21aと、フランジ部21bから主に構成されている。円筒部21aは、内部に静止密封環20を保持可能となっている。フランジ部21bは、円筒部21aの左端にて外径側に延出し、外周部分が略矩形状に形成されている。
【0034】
また、本実施例において、フランジ部21bには、四隅に、外径方向に開放されている遊挿部としての切り欠き21dが形成されている。すなわち、切り欠き21dは、フランジ部21bの周方向に4等配されている。また、切り欠き21dは、円筒部21aの外周面近傍からフランジ部21bの外周部分まで放射状に延びている。
【0035】
本実施例において、切り欠き21dにおける短手方向の寸法D21は、ボルト33の胴部における直径D33よりも大きく形成されている(D21>D33,
図1参照)。すなわち、ボルト33の胴部は、切り欠き21dに遊挿されている。
【0036】
また、シールカバー21には、円筒部21aにおける左端面に、左方向かつ内径方向に開放されている環状凹部21cが形成されている。環状凹部21cに配置されたガスケット41が、環状凹部21cの側端面とアダプタ30を構成する筒状体としての円筒部材31の右端面との間で挟圧されることにより、シールカバー21とアダプタ30との間は密封されている。
【0037】
尚、ガスケット41は、ボルト33、ナット34およびワッシャ35によりシールカバー21とアダプタ30が締結される力で挟圧されている。この力は、シールカバー21の円筒部21aからアダプタ30を構成する円筒部材31に左方向に作用する。
【0038】
図1~
図6に示されるように、アダプタ30は、円筒部材31と、片としての4つの板部材32から主に構成されている。すなわち、本実施例において、アダプタ30は、円筒部材31と4つの板部材32の分割構造となっている。
【0039】
円筒部材31は、回転軸6を挿通可能な軸孔31aを有し、左端における外周面に、左方向かつ外径方向に開放されている環状凹部31bが形成されている。環状凹部31b内にはガスケット42が配置される。
【0040】
また、円筒部材31の内径側の左端は、筒状の挿通部31cとなっており、ハウジング5の軸孔5aに内嵌される。尚、挿通部31cは環状凹部31bの周面を区画している。言い換えれば、挿通部31cにおける外周面がハウジング5の軸孔5aにおける内周面に当接した状態で挿入されることにより、円筒部材31の径方向の移動が規制されている。尚、挿通部31cは、円筒状に形成されるものに限らず、ハウジング5の軸孔5aにおける内周面に当接するものであれば、例えば複数の突起により構成されてもよい。
【0041】
また、本実施例において、円筒部材31の外周面には、回動規制部としての4つのガイド面31dが形成されている。ガイド面31dは、平坦面をなしており、円筒部材31の外周面において周方向に4等配されている(
図3および
図5参照)。尚、ガイド面31dは、左縁が上述した環状凹部31bの側端面に連続しており、その左縁から右方向に向かって軸心に沿って直線状に延びている。また、ガイド面31dにおける右縁は、円筒部材31の右端にて外径側に延出しているフランジ部31eにおける略半円状の側端面に連続している。
【0042】
特に
図5および
図6に示されるように、板部材32は、略矩形状かつ板状に形成されている。板部材32は、ボルト36によりハウジング5に固定され、円筒部材31から放射状に延びるように配置されている。詳しくは、本実施例において、板部材32は、その内径側の端面を円筒部材31のガイド面31dに当接させることにより、円筒部材31に対して所定の取付角度で固定されている。また、板部材32が円筒部材31のガイド面31dに当接することにより、円筒部材31の回動が規制される。
【0043】
尚、板部材32は、その内径側の端面の一部を円筒部材31のガイド面31dに当接させた状態でボルト36によりハウジング5に固定されてもよい。また、板部材32は、その内径側の端面が円筒部材31のガイド面31dから外径方向に離間した状態でボルト36によりハウジング5に固定されてもよい。この場合、円筒部材31が回動可能となるが、回動により板部材32の内径側の端面の一部が円筒部材31のガイド面31dに当接することにより、円筒部材31の回動範囲が規制される。
【0044】
また、板部材32には、内径端にボルト36を挿通可能な挿通孔32aが形成されている。挿通孔32aは、軸方向視略円形に形成されており、ボルト36の胴部と略同一の径寸法となっている(
図3および
図4参照)。また、挿通孔32aに右側から挿通されたボルト36は、ハウジング5に形成されるボルト孔5bに対して螺合される。尚、ボルト36の頭部は、板部材32の右端面に形成される座ぐり32cに収容されることにより、板部材32の右端面よりも右側、詳しくは後述する隙間Gに突出しないようになっている。
【0045】
また、板部材32には、外径端にボルト33を挿通可能な遊挿部としての挿通孔32bが形成されている(
図5および
図6参照)。本実施例において、挿通孔32bは、軸方向視楕円形のいわゆる長孔として形成されており、挿通孔32bの短手方向の寸法D32は、ボルト33の胴部における直径D33よりも大きく形成されている(D32>D33,
図5参照)。すなわち、ボルト33の胴部は、挿通孔32bに遊挿されている。
【0046】
また、ボルト33の頭部は、板部材32の左端面に形成される座ぐり32dに収容されることにより、板部材32の左端面よりも左側に突出しないようになっている。
【0047】
また、板部材32には、左端面における内径端に、左方向かつ内径方向に開放されている凹部32eが形成されている。凹部32e内には、ガスケット42の外径端が配置される。
【0048】
また、シールカバー21と板部材32との間、詳しくはシールカバー21において切り欠き21dが形成された箇所および板部材32においてボルト33が挿通される挿通孔32bが形成された箇所との間には、軸方向において隙間Gが形成されている。尚、隙間Gには、ボルト33の胴部が挿通されている。
【0049】
次に、ハウジング5にメカニカルシール装置Mを組付ける手順について説明する。
【0050】
最初に、
図3および
図4に示されるように、アダプタ30を構成する円筒部材31をハウジング5の軸孔5aに装着する。詳しくは、ガスケット42を円筒部材31の挿通部31cに左側から外挿した状態で、挿通部31cをハウジング5の軸孔5aに右側から挿入する。このとき、挿通部31cの外周面は、ハウジング5の軸孔5aの内周面によってガイドされる。これにより、回転軸6と軸心を揃えるように円筒部材31をハウジング5の軸孔5aに精度よく取付けることができる。
【0051】
また、このとき、ガスケット42の右端面が円筒部材31における環状凹部31bの側端面に当接するとともに、ガスケット42の左端面がハウジング5の側端面に当接する位置まで円筒部材31を挿入する。
【0052】
また、円筒部材31のガイド面31dがハウジング5のボルト孔5bと径方向に並ぶように円筒部材31を回転させて位置合わせを行う。
【0053】
次いで、
図5および
図6に示されるように、アダプタ30を構成する板部材32をボルト36によりハウジング5に固定する。詳しくは、ボルト33を板部材32の外径端に形成される挿通孔32bに左側から挿入し胴部が右方に突出した状態で、板部材32の内径端を円筒部材31のガイド面31dに当接させる。
【0054】
その後、板部材32の内径端に形成される挿通孔32aがハウジング5のボルト孔5bと軸方向に並ぶように位置合わせを行い、ボルト36を挿通孔32aに右側から挿入しハウジング5のボルト孔5bに螺合させる。
【0055】
このとき、ガスケット42の外径端が板部材32の凹部32eの側端面とハウジング5の側端面との間で挟圧される。
【0056】
このように、板部材32は、円筒部材31のガイド面31dにより円筒部材31に対する取付角度が簡便かつ正確に決められる。
【0057】
尚、ボルト33は、長孔として形成される挿通孔32bや座ぐり32dに遊挿されることにより、板部材32がボルト36によりハウジング5に固定された後であっても、板部材32に対して相対移動可能に保持されている。
【0058】
また、板部材32がボルト36によりハウジング5に固定された後であっても、円筒部材31は、軸方向に移動可能となっている。
【0059】
次いで、
図7および
図8に示されるように、シールカバー21をボルト33、ナット34およびワッシャ35により板部材32に固定する。尚、本実施例において、シールカバー21には、Oリング22と弾性部材23を介在させた状態で静止密封環20が保持されている。
【0060】
詳しくは、ボルト33の胴部をシールカバー21に形成される切り欠き21dに左側から挿通した状態で、シールカバー21のフランジ部21bの右側に突出するボルト33にワッシャ35を挿入し、ナット34を螺合させることにより、ボルト33にナット34を仮固定する。このとき、ボルト33は、切り欠き21dに遊挿されることにより、アダプタ30を構成する円筒部材31および板部材32に対してシールカバー21が軸方向および径方向に相対移動可能となっている。
【0061】
回転軸6と軸心を揃えるようにシールカバー21を適正な位置に移動させた後、ナット34を本締めすることで、ワッシャ35によりシールカバー21のフランジ部21bが左方向に押圧されるとともに、シールカバー21の円筒部21aにより円筒部材31が左方向に押圧され、シールカバー21はアダプタ30に固定される。
【0062】
このとき、シールカバー21と円筒部材31との間でガスケット41が挟圧されるとともに、円筒部材31とハウジング5との間でガスケット42が挟圧され、静止密封要素2がハウジング5に密封状に取付けられる。
【0063】
また、このとき、シールカバー21が適正な取付角度となるように、シールカバー21のフランジ部21bと4つの板部材32を締結するボルト33・ナット34の締め付け力をそれぞれ調整することができる。
【0064】
次いで、Oリング13を介在させた状態で回転密封環10を保持させたカラー11を回転軸6に装着する。その後、図示しないセットプレート等を用いて摺動面10a,20aが適正なセット荷重となるようにカラー11を位置決めし、セットスクリュ12により回転軸6に固定する(
図2参照)。
【0065】
以上説明したように、本発明のメカニカルシール装置Mは、シールカバー21とアダプタ30との間に形成される隙間Gによりシールカバー21がアダプタ30を用いてハウジング5に固定される前においてアダプタ30に対してシールカバー21が軸方向および径方向に相対移動可能であるため、回転軸6と軸心を揃えた適正な位置となるようにシールカバー21をアダプタ30に複数のボルト33・ナット34により固定することができる。これにより、静止密封環20が回転密封環10に対して精度よく取付けられたメカニカルシール装置Mを提供することができ、メカニカルシールのシール性を確実に発揮させることができる。
【0066】
また、シールカバー21とアダプタ30を構成する板部材32との間の軸方向に隙間Gのある位置において、複数のボルト33・ナット34の締め付け力を調整することにより、回転軸6と軸心を揃えるようにシールカバー21を適正な角度でアダプタ30に固定しやすい。尚、隙間Gは、シールカバー21の取付角度を調整するための傾き代となっている。
【0067】
また、シールカバー21とアダプタ30を構成する板部材32との間の軸方向に隙間Gが形成されることにより、シールカバー21と円筒部材31との間においてガスケット41に適正な締付力を与えることができるため、当該部分のガスケット41によるシール性を確実に発揮させることができる。
【0068】
また、従来のアダプタ(特許文献1参照)のように周方向に亘ってフランジが形成される構成と比較して、アダプタ30は、円筒部材31から放射状に延びる複数の板部材32が周方向に離間しているため、ハウジング5の側端面における不陸を避けてアダプタ30を固定しやすい。また、板部材32同士を周方向に繋いでいた部分を不要とすることができるため、アダプタ30を軽量化することができる。
【0069】
また、板部材32は、ボルト33を遊挿可能な挿通孔32bを有し、ボルト33が挿通孔32b内を移動可能であるため、回転軸6と軸心を揃えるようにシールカバー21を適正な位置に取付けやすい。
【0070】
また、板部材32は、ボルト33の頭部を収容可能な座ぐり32dが形成されることにより、ハウジング5の側端面から干渉されずに、ボルト33・ナット34によりシールカバー21をアダプタ30に固定することができる。
【0071】
また、板部材32は、軸方向に薄い板形状であり、ボルト33・ナット34の締め付け力を受けて隙間Gが形成されるシールカバー21側に僅かに曲げ変形する。言い換えると、梁状に撓むため、シールカバー21を適正な取付角度となるように調整しやすい。
【0072】
また、シールカバー21は、ボルト33を遊挿可能な切り欠き21dを有し、ボルト33が切り欠き21d内を移動可能であるため、回転軸6と軸心を揃えるようにシールカバー21を適正な位置に取付けやすい。
【0073】
また、アダプタ30は、シールカバー21が当接する円筒部材31と、当該円筒部材31から放射状に延びる複数の板部材32からなっており、ボルト33・ナット34による固定前において円筒部材31と複数の板部材32は、別体で軸方向に相対移動可能であるため、ボルト33・ナット34による板部材32とシールカバー21との締結により板部材32に作用する締め付け力が円筒部材31に影響しにくい。これにより、シールカバー21と当接する円筒部材31の右端面に傾きが生じにくいため、回転軸6と軸心を揃えるようにシールカバー21を適正な位置に取付けやすい。
【0074】
また、円筒部材31と板部材32は、別部材であるため、例えばハウジング5のボルト孔5bとシールカバー21の切り欠き21dの数が異なる場合であっても、内外の挿通孔の数や位置を対応させた板部材に変更することにより、アダプタ30とシールカバー21との締結を行うことができる。
【0075】
また、円筒部材31と板部材32は、別部材であるため、ハウジング5のボルト孔5bにずれがある場合であっても、板部材32を移動させてハウジング5のボルト孔5bと位置合わせした状態で、ボルト36により固定することができ、板部材32の固定に伴う歪みの発生を防止できる。
【0076】
このように、アダプタ30が別部材である円筒部材31と板部材32から構成されるとともに、シールカバー21をアダプタ30に固定するボルト33の胴部が板部材32の挿通孔32b内とシールカバー21の切り欠き21d内にそれぞれ遊挿され移動可能であることから、複数のボルト33の中心を通る仮想円の直径(ピッチ円直径)であるナット座ピッチ直径、いわゆるP.C.D.(Pitch Circle Diameter)の寸法の変化に対応可能となっている。
【0077】
また、円筒部材31と板部材32は、別部材であるため、アダプタ30を構成する円筒部材31と板部材32がシンプルな形状となり製造しやすい。
【0078】
また、円筒部材31は、ハウジング5の軸孔5aに挿通される挿通部31cを有し、ハウジング5の軸孔5aにおける内周面に挿通部31cの外周面が当接することにより、円筒部材31の径方向の移動を規制することができるため、円筒部材31を基準として板部材32を適正な位置に取付けることができる。また、回転軸6と軸心を揃えるように円筒部材31をハウジング5の軸孔5aに精度よく取付けることができる。これにより、円筒部材31および板部材32がガスケット42と正確に接触できるため、密封性を高めることができる。
【0079】
また、ボルト33・ナット34による固定前において円筒部材31のガイド面31dにより円筒部材31に対する板部材32の取付角度が決められるため、シールカバー21に対して板部材32を適正な位置に取付けることができる。また、ガイド面31dを有することにより、板部材32の取付けの際に水平器等の専用工具が不要となる。また、ボルト33・ナット34による固定後において、シールカバー21が取付けられた円筒部材31の回動が板部材32によって規制される。
【0080】
また、円筒部材31は、右端にシールカバー21が当接するフランジ部31eを有し、板部材32の取付けの際に、板部材32を仮置きした状態で、板部材32がフランジ部31eに当接することにより、板部材32の軸方向への抜け出しを防止できる。また、メカニカルシール装置Mの取付け後、ボルト36が緩んできた場合にも、板部材32がフランジ部31eに当接することにより、板部材32の緩みを防止できる。
【0081】
尚、回動規制部は、上述したガイド面31dのような平坦面をなすのものに限らず、
図9に示されるように、円筒部材31の外周面に内径方向に凹設されているガイド溝131dとして形成されていてもよい。これによれば、板部材32の取付けの際に、板部材32がガイド溝131dに挿入された状態で保持されやすく、ボルト36によりハウジング5へ固定しやすい。また、板部材32をガイド溝131dの適正な位置に精度よく取付けやすい。
【0082】
また、板部材32をハウジング5に固定するためボルト36が挿通される挿通孔32aは、板部材32とシールカバー21を締結するためのボルト33が挿通される挿通孔32bよりも内径側に設けられている。これにより、ハウジング5の側端面における径方向の寸法が例えばシールカバー21の外径寸法より小さくても、アダプタ30を用いてシールカバー21をハウジング5に固定することができる。
【0083】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0084】
例えば、前記実施例では、静止密封要素にコイルスプリングが含まれているいわゆる静止型メカニカルシールとして説明したが、これに限らず、回転密封要素にコイルスプリングが含まれているいわゆる回転型メカニカルシールであってもよい。
【0085】
また、前記実施例では、アダプタは、円筒部材と板部材が別部材により構成されるものとして説明したが、これに限らず、アダプタは、円筒部材と板部材が一体に形成されるものであってもよい。
【0086】
また、シールカバーの切り欠き、円筒部材のガイド面、板部材は、4等配されるものに限らず、周方向に複数配置され、板部材におけるハウジングへの固定用の挿通孔とハウジングのボルト孔、および板部材におけるシールカバーとの固定用の挿通孔とシールカバーの切り欠きにそれぞれ位置合わせできるようになっていれば各個数は自由に構成されてよく、等配されなくていなくともよい。尚、シールカバーの切り欠きの数と、ハウジングのボルト孔の数が異なっていても、本発明のメカニカルシール装置は適用可能である。例えば、ハウジングの3つのボルト孔に対してシールカバーの切り欠き数が4つと多い場合には、1つの板部材はハウジングへの固定用の挿通孔が1つ、シールカバーとの固定用の挿通孔が2つ設けられ、2つの板部材はハウジングへの固定用の挿通孔が1つ、シールカバーとの固定用の挿通孔が1つ設けられたものを用い、ハウジングの3つのボルト孔に対応するそれぞれの位置に円筒部材の3つのガイド面および3つの板部材を配置してボルトにより板部材をハウジングに固定し、さらにシールカバーの4つの切り欠きを3つの板部材に形成される計4つの挿通孔に位置合わせすることで、ボルト・ナットによってシールカバーをハウジングに固定することができる。
【0087】
また、板部材は、周方向に複数のボルトにより固定されてもよい。
【0088】
また、アダプタを構成する片は、板形状に限らず、立方体や球等のブロック体であってもよい。尚、前記実施例のように軸方向に薄い板形状とすることにより、片の強度を確保しつつ固定手段としてのボルト・ナットの締め付け力を受けて片は曲げ変形されやすくなっている。
【0089】
また、板部材に形成されるボルトの遊挿部は、長孔に限らず、切り欠き等であってもよい。尚、前記実施例のように長孔とすることにより、組付け時に固定手段としてのボルトが脱落しにくくなる。
【0090】
また、シールカバーに形成されるボルトの遊挿部は、切り欠きに限らず、長孔等であってもよい。尚、前記実施例のように切り欠きとすることにより、固定手段としてのボルト・ナットの固定位置を切り欠きの形成範囲内で移動させやすくなるため、回転機械の形状によらず幅広く対応することができる。
【0091】
また、固定手段は、ボルト・ナットにより、アダプタとシールカバーを締結可能であれば、ワッシャを有していなくてもよい。また、固定手段は、ボルト・ナット以外の締結具であってもよい。