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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092801
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】難燃ポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20230627BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20230627BHJP
   C08L 25/18 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K5/42
C08L25/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208022
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】横山 知成
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BC103
4J002BD154
4J002CG001
4J002CG002
4J002CG011
4J002CG012
4J002EV236
4J002FD133
4J002FD136
4J002GC00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】PFBS規制をクリアし、PFAS規制にも対応でき、優れた難燃性を有する難燃ポリカーボネート樹脂組成物。
【解決手段】(A)芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B)フッ素を含有しない有機スルホン酸系難燃剤を0.05~0.3質量部含有し、(C)ポリテトラフルオロエチレンを含有しないか、含有する場合でもその含有量が0.09質量部以下であり、
樹脂組成物中、パーフルオロブタンスルホン酸およびその金属塩(PFBS)の量は10ppm未満であり、ポリフルオロアルキル化合物(PFAS)の量が1000ppm未満である樹脂組成物であって、
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂は、分散度(Mw/Mn)が3.0以上の芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)50~100質量%、分散度(Mw/Mn)が3.0未満の芳香族ポリカーボネート樹脂(A2)50~0質量%からなることを特徴とする難燃ポリカーボネート樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B)フッ素を含有しない有機スルホン酸系難燃剤を0.05~0.3質量部含有し、(C)ポリテトラフルオロエチレンを含有しないか、含有する場合でもその含有量が0.09質量部以下であり、
樹脂組成物中、パーフルオロブタンスルホン酸およびその金属塩(PFBS)の量は10ppm未満であり、ポリフルオロアルキル化合物(PFAS)の量が1000ppm未満である樹脂組成物であって、
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂は、GPCで測定した分散度(Mw/Mn)が3.0以上の芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)50~100質量%、GPCで測定した分散度(Mw/Mn)が3.0未満の芳香族ポリカーボネート樹脂(A2)50~0質量%からなることを特徴とする難燃ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
(B)有機スルホン酸系難燃剤が、パラトルエンスルホン酸またはその金属塩、フェニルスルホニルベンゼンスルホン酸またはその金属塩、ポリスチレンスルホン酸またはその金属塩のいずれか1種または2種以上の混合物である請求項1に記載の難燃ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の難燃ポリカーボネート樹脂組成物の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃ポリカーボネート樹脂組成物に関し、詳しくは、PFBS規制をクリアし、かつPFAS規制にも対応した、優れた難燃性を有する難燃ポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐熱性、機械的物性、電気的特性に優れた樹脂であり、例えば、車両用部品、電気・電子機器部品、住宅用部材、その他の工業分野における部品製造用の材料として幅広く利用されている。特に、難燃化されたポリカーボネート樹脂組成物は、車両用部品、パソコン、携帯電話、バッテリーケース等の電気・電子機器部品、プリンター、複写機等のOA・情報機器等の部品として好適に使用されている。
【0003】
ポリカーボネート樹脂に難燃性を付与する手段としては、ハロゲン系難燃剤が従来から使用され、近年はリン系難燃剤や有機スルホン酸金属塩系難燃剤が使用されてきている。このような難燃剤は、滴下防止剤としてのポリフルオロエチレンと共に配合することで垂れ落ちを抑制し難燃性を向上させることができ、本出願人も各種の提案をしてきている。
例えば、特許文献1では、芳香族ポリカーボネート樹脂に、ブタジエン系ゴムをコアする特定のコアシェル型グラフト共重合体、フッ素化ポリオレフィン、及び有機スルホン酸金属塩系難燃剤、具体的にパーフルオロブタンスルホン酸カリウムを含有する難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を提案した。
【0004】
しかしながら、近年、フッ素化合物は、日本や欧米等を筆頭に国際的にも規制の対象となり、さらに規制を強化する動きがある。EUではREACHによって、パーフルオロブタンスルホン酸およびその金属塩(PFBS)は規制されており、数年後には規制強化され使用禁止になるとの予想もされている。また、パーフルオロ及びポリフルオロアルキル化合物に対するPFAS規制もEU及び米国を中心に進んでおり、現在は食品や繊維など特定分野中心であるが、他分野への波及の可能性もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-19191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、上記したPFBS規制やPFAS規制をクリアするため、パーフルオロブタンスルホン酸金属塩やポリテトラフルオロエチレンに依拠せずに優れた難燃性を発現するポリカーボネート樹脂組成物が強く望まれる。しかし、ポリテトラフルオロエチレンは有効な垂れ落ち(ドリップ)防止剤であり、これなしでUL-94試験でのV-0を達成するのは容易ではない。
本発明は、上記状況に鑑みなされたものであり、その目的(課題)は、PFBS規制をクリアし、PFAS規制にも対応した、優れた難燃性を示す難燃ポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、分散度(Mw/Mn)が3.0以上の芳香族ポリカーボネート樹脂を50~100質量%、分散度(Mw/Mn)が3.0未満の芳香族ポリカーボネート樹脂を50~0質量%からなる芳香族ポリカーボネート樹脂を、非フッ素系の有機スルホン酸系難燃剤組成物と組み合わせることで、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下の難燃ポリカーボネート樹脂組成物および成形品に関する。
【0008】
[1](A)芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B)フッ素を含有しない有機スルホン酸系難燃剤を0.05~0.3質量部含有し、(C)ポリテトラフルオロエチレンを含有しないか、含有する場合でもその含有量が0.09質量部以下であり、
樹脂組成物中、パーフルオロブタンスルホン酸およびその金属塩(PFBS)の量は10ppm未満であり、ポリフルオロアルキル化合物(PFAS)の量が1000ppm未満である樹脂組成物であって、
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂は、GPCで測定した分散度(Mw/Mn)が3.0以上の芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)50~100質量%、GPCで測定した分散度(Mw/Mn)が3.0未満の芳香族ポリカーボネート樹脂(A2)50~0質量%からなることを特徴とする難燃ポリカーボネート樹脂組成物。
[2](B)有機スルホン酸系難燃剤が、パラトルエンスルホン酸またはその金属塩、フェニルスルホニルベンゼンスルホン酸またはその金属塩、ポリスチレンスルホン酸またはその金属塩のいずれか1種または2種以上の混合物である上記[1]に記載の難燃ポリカーボネート樹脂組成物。
[3]上記[1]または[2]に記載の難燃ポリカーボネート樹脂組成物の成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の難燃ポリカーボネート樹脂組成物は、PFBS規制をクリアし、かつPFAS規制にも対応し、優れた難燃性を示し、成形性にも優れる。燃焼時の垂れ落ちは究極的な低せん断下での現象であるが、ポリカーボネート樹脂として分子量の大きい成分を有することが溶融粘度が高くなり垂れ落ちを抑制する。一方、射出成形する際には、高せん断下で流動性を稼ぐ必要があって分子量の小の成分が好ましく、両者は相反するトレードオフの関係にある。本発明では、分散度(Mw/Mn)が3.0以上という高分散の芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)を単体として50質量%以上含有することにより、上記点を解決するものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明する。
なお、本明細書において、「~」とは、特に断りがない場合、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0011】
本発明の難燃ポリカーボネート樹脂組成物は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B)フッ素を含有しない有機スルホン酸系難燃剤を0.05~0.3質量部含有し、(C)ポリテトラフルオロエチレンを含有しないか、含有する場合でもその含有量が0.09質量部以下であり、
樹脂組成物中、パーフルオロブタンスルホン酸およびその金属塩(PFBS)の量は10ppm未満であり、ポリフルオロアルキル化合物(PFAS)の量が1000ppm未満である樹脂組成物であって、
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂は、GPCで測定した分散度(Mw/Mn)が3.0以上の芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)50~100質量%、GPCで測定した分散度(Mw/Mn)が3.0未満の芳香族ポリカーボネート樹脂(A2)50~0質量%からなることを特徴とする。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
[(A)芳香族ポリカーボネート樹脂]
本発明において使用する(A)芳香族ポリカーボネート樹脂は、GPCで測定した分散度(Mw/Mn)が3.0以上の芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)50~100質量%、GPCで測定した分散度(Mw/Mn)が3.0未満の芳香族ポリカーボネート樹脂(A2)50~0質量%からなる。
【0013】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)、(A2)の芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ジヒドロキシ化合物と、ホスゲン又は炭酸のジエステルとを反応させることによって得られる芳香族ポリカーボネート重合体である。芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)、(A2)の製造方法は、特に限定されるものではなく、ホスゲン法(界面重合法)、溶融法(エステル交換法)等の従来法によることができる。
【0014】
芳香族ジヒドロキシ化合物の代表的なものとしては、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-t-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。
【0015】
上記芳香族ジヒドロキシ化合物の中では、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、あるいは2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(則ち、ビスフェノールC)を出発原料とするものが好ましく、特にビスフェノールAを出発原料とするものが好ましい。
また、上記芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種類を単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0016】
<芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)>
芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)は、GPCで測定した分散度(Mw/Mn)が3.0以上の芳香族ポリカーボネート樹脂である。本発明では、分散度(Mw/Mn)が3.0以上という高分散の芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)を単体として、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂中、50質量%以上含有することにより、垂れ落ち防止と射出成形等における成形性を両立させることができる。
【0017】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)は、単独であってもよいし、分散度(Mw/Mn)が3.0以上の芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)を混合して用いてもよい。
【0018】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)のMw/Mnを調節する方法としては、従来から知られている方法が採用でき、特に限定されないが、例えば重合工程において分子量調節剤の使用量を調節したり、分子量調節剤の添加時期を変更したり、反応時間、反応温度などの重合条件を調節する方法等が挙げられる。分散度(Mw/Mn)が3.0以上の芳香族ポリカーボネート樹脂は市販もされており、これらを適宜選択して芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)として使用することでも可能である。
【0019】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)のMw/Mnの上限としては、好ましくは5以下であり、より好ましくは4以下、中でも3.7以下、特には3.5以下であることが好ましい
【0020】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)のMwは、好ましくは40000以上、より好ましくは50000以上である。またMnは、好ましくは15000以上、より好ましくは17000以上である。
【0021】
なお、本発明において、ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算により求められる値である。
GPCによる測定は、具体的には以下のようにして行った。
ゲル浸透クロマトグラフィー装置には、HLC-8320GPC/EcoSEC(東ソー社製)を用い、カラムとして、KF-805L×3本とKF-800D(いずれもShodex社製)を接続して用いた。カラム温度は40℃とした。検出器はHLC-8320のRI検出器を用いた。溶離液として、テトラヒドロフランを用い、検量線は、標準ポリスチレン(Agilent社製)を使用して作成した。
【0022】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量(Mv)で、好ましくは13000以上であり、より好ましくは18000以上、特には20000以上であり、好ましくは40000以下、特には33000以下が好ましい。
【0023】
なお、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度25℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10-4Mv0.83から算出される値を意味する。また、極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
【数1】
【0024】
<芳香族ポリカーボネート樹脂(A2)>
芳香族ポリカーボネート樹脂(A2)は、GPCで測定した分散度(Mw/Mn)が3.0未満の芳香族ポリカーボネート樹脂である。
【0025】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A2)は、その原料成分、重合方法等は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)で説明したのと同様である。芳香族ポリカーボネート樹脂(A2)は、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましく、ビスフェノールA、あるいはビスフェノールCを出発原料とするものがより好ましく、ビスフェノールAを出発原料とするものが特に好ましい。
【0026】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A2)の含有量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂中、50~0質量%であり、芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)は50~100質量%であるが、好ましくは芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)55~100質量%、芳香族ポリカーボネート樹脂(A2)45~0質量%、より好ましくは(A1)60~100質量%、(A2)40~0質量%、さらに好ましくは(A1)65~100質量%、(A2)を35~0質量%である。また、(A1)50~95質量%、(A2)50~5質量%であることも好ましく、(A1)50~90質量%、(A2)50~10質量%であることもより好ましい。
【0027】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A2)のMw/Mnは3.0未満である。Mw/Mnの下限は、好ましくは2.2以上、より好ましくは2.3以上であり、また上限としては、好ましくは2.9以下、より好ましくは2.8以下である。
【0028】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A2)のMwは、好ましくは25000以上、特に好ましくは30000以上である。Mnは、好ましくは10000以上、さらに好ましくは15000以上である。
【0029】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A2)のMw/Mnを調節する方法としては、従来から知られている方法が採用でき、特に限定されないが、例えば重合工程において分子量調節剤の使用量を調節したり、分子量調節剤の添加時期を変更したり、反応時間、反応温度などの重合条件を調節する方法、あるいは、芳香族ポリカーボネート樹脂のペレットやパウダーをアセトン等の貧溶媒に供給して芳香族ポリカーボネート樹脂中の低分子量成分を抽出除去する方法、あるいは芳香族ポリカーボネートを良溶媒である塩化メチレン等に溶解させた溶液を作成し、これを貧溶媒であるアセトン等に供給して低分子量成分を低減もしくは除去した芳香族ポリカーボネート樹脂を沈殿させる方法などが挙げられる。分散度(Mw/Mn)が3.0未満の芳香族ポリカーボネート樹脂は市販もされており、これらから適宜選択して芳香族ポリカーボネート樹脂(A2)として使用することでも可能である。
【0030】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A2)の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量(Mv)で、好ましくは15000以上であり、より好ましくは18000以上である。また好ましくは40000以下であり、より好ましくは30000以下である。
【0031】
なお、芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)、(A2)は、バージン樹脂だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂(いわゆるマテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂)、あるいは、ポリカーボネート樹脂を化学的に分解して原料にまで戻したものから製造したポリカーボネート樹脂(いわゆるケミカルリサイクルされたポリカーボネート樹脂)であってもよく、バージン樹脂とリサイクル樹脂の両方を含有することも好ましく、リサイクルポリカーボネート樹脂からなることでもよい。
【0032】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂全体としての分散度(Mw/Mn)は、好ましくは3.0以上、3.0を超えることがより好ましく、さらに好ましくは3.05以上であり、上限としては、好ましくは3.6以下、中でも3.5以下、3.45以下、特には3.4以下であることが好ましい。
【0033】
[(B)フッ素を含有しない有機スルホン酸系難燃剤]
本発明の難燃ポリカーボネート樹脂組成物は、(B)フッ素を含有しない有機スルホン酸系難燃剤を含有する。(B)フッ素を含有しない有機スルホン酸系難燃剤の含有量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.05~0.3質量部であり、好ましくは0.05~0.25質量部、より好ましくは0.05~0.2質量部である。このような量で(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と組み合わせることで、PFBS規制やPFAS規制をクリアし、優れた難燃性を示す難燃ポリカーボネート樹脂組成物とすることができる。
【0034】
(B)フッ素を含有しない有機スルホン酸系難燃剤としては、分子中にC-F結合を有さない、非フッ素系の有機スルホン酸またはその金属塩が好ましい。
【0035】
金属塩の金属としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属であることが好ましく、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等のアルカリ金属;マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属が挙げられる。中でもナトリウム、カリウム、セシウムが好ましく、特にナトリウム、カリウムが好ましい。
【0036】
非フッ素系の有機スルホン酸またはその金属塩としては、芳香族スルホン酸またはその金属塩、芳香族スルホンアミド(またはスルホンイミド)またはその金属塩、ポリスチレンスルホン酸またはその金属塩が好ましく挙げられ、より好ましくはこれらの金属塩である。
【0037】
これらの具体例としては、例えば、3-(フェニルスルホニル)ベンゼンスルホン酸カリウム(則ち、ジフェニルスルホン-3-スルホン酸カリウム)、ジフェニルスルホン-3,3’-ジスルホン酸ジカリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸セシウム、パラトルエンスルホン酸ナトリウム、パラトルエンスルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸セシウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸セシウム、スチレンスルホン酸カリウム、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸カリウム、ポリスチレンスルホン酸セシウム等の、分子中に少なくとも1種の芳香族基を有する芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩;
パラトルエンスルホン酸マグネシウム、パラトルエンスルホン酸カルシウム、パラトルエンスルホン酸ストロンチウム、パラトルエンスルホン酸バリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸マグネシウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム等の、分子中に少なくとも1種の芳香族基を有する芳香族スルホン酸のアルカリ土類金属塩が挙げられる。
【0038】
芳香族スルホンアミド(またはスルホンイミド)の金属塩としては、N-(p-トリルスルホニル)-p-トルエンスルホイミドのカリウム塩、N-(N’-ベンジルアミノカルボニル)スルファニルイミドのカリウム塩、N-(フェニルカルボキシル)-スルファニルイミドのカリウム塩等が挙げられる。
【0039】
(B)フッ素を含有しない有機スルホン酸系難燃剤としては、上記した中でも、パラトルエンスルホン酸またはその金属塩、フェニルスルホニルベンゼンスルホン酸またはその金属塩、ポリスチレンスルホン酸またはその金属塩が好ましく、中でもこれらの金属塩、特にアルカリ金属塩が好ましい。
【0040】
(B)フッ素を含有しない有機スルホン酸系難燃剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0041】
[(C)ポリテトラフルオロエチレン]
本発明の難燃ポリカーボネート樹脂組成物は、(C)ポリテトラフルオロエチレンを含有しないか、含有する場合でもその含有量が、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.09質量部以下である。ポリテトラフルオロエチレンとしては、フィブリル形成能を有するものが垂れ落ち防止剤として使用されてきているが、本発明では、(C)ポリテトラフルオロエチレンを含有しないか、含有する場合でもその含有量を上記の0.09質量部以下として、PFAS規制に対応できる難燃ポリカーボネート樹脂組成物とすることができる。
【0042】
[その他の樹脂成分]
本発明の難燃ポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂以外のフッ素不含の樹脂を含有していてもよい。
例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂などの熱可塑性ポリエステル樹脂;ポリスチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル-スチレン-アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル-エチレンプロピレン系ゴム-スチレン共重合体(AES樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)などのスチレン系樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスルホン樹脂等が挙げられる。なお、その他の樹脂は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
その他の樹脂を含有する場合は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、30質量部以下であることが好ましく、中でも20質量部以下、15質量部以下、10質量部以下、7質量部以下、5質量部以下、3質量部以下、特には1質量部以下であることが好ましい。
【0043】
[その他の添加剤]
本発明の難燃ポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、更に上記した以外の添加剤を含有していても良い。このような添加剤としては、安定剤、離型剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、染顔料、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、摺動性改質剤、耐衝撃性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。これらの添加剤はフッ素を含有しないことが必要である。
【0044】
[安定剤]
本発明の難燃ポリカーボネート樹脂組成物は、安定剤を含有することも好ましく、安定剤としてはリン系安定剤やフェノール系安定剤が好ましい。
【0045】
リン系安定剤としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2B族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられるが、有機ホスファイト化合物や有機ホスフェート化合物が特に好ましい。
【0046】
有機ホスファイト化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が挙げられる。
このような、有機ホスファイト化合物としては、具体的には、例えば、ADEKA社製「アデカスタブ1178」、「アデカスタブ2112」、「アデカスタブHP-10」、城北化学工業社製「JP-351」、「JP-360」、「JP-3CP」、BASF社製「イルガフォス168」等が挙げられる。
【0047】
有機ホスフェート化合物としては、有機ホスフェート金属塩も含め好適に使用できる。具体的にはジステアリルアシッドホスフェートの亜鉛塩とモノステアリルアシッドホスフェートの亜鉛塩の混合物、モノ、及び、ジ-ステアリルアシッドホスフェート等が挙げられる。
このような有機ホスフェート金属塩としては、具体的には、例えば、城北化学工業社製「JP-518Zn」、ADEKA社製「AX-71」等が挙げられる。
【0048】
なお、リン系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0049】
リン系安定剤の含有量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.7質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下である。リン系安定剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、熱安定効果が不十分となる可能性があり、リン系安定剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0050】
フェノール系安定剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナミド]、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3”,5,5’,5”-ヘキサ-tert-ブチル-a,a’,a”-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0051】
中でも、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。
このようなフェノール系酸化防止剤としては、具体的には、例えば、BASF社製「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、ADEKA社製「アデカスタブAO-50」、「アデカスタブAO-60」等が挙げられる。
なお、フェノール系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0052】
フェノール系安定剤の含有量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下である。フェノール系安定剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、フェノール系安定剤としての効果が不十分となる可能性があり、フェノール系安定剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0053】
[離型剤]
本発明の難燃ポリカーボネート樹脂組成物は、離型剤を含有することが好ましい。離型剤としては樹脂に通常使用される既知の離型剤が利用可能であるが、ポリオレフィン系化合物、脂肪酸エステル系化合物が好ましい。
【0054】
ポリオレフィン系化合物としては、パラフィンワックス及びポリエチレンワックスから選ばれる化合物が挙げられ、中でも、重量平均分子量が、700~10000、更には900~8000のものが好ましい。
【0055】
脂肪酸エステル系化合物としては、飽和又は不飽和の1価又は2価の脂肪族カルボン酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類等の脂肪酸エステル類やその部分鹸化物等が挙げられる。中でも、炭素数11~28、好ましくは炭素数17~21の脂肪酸とアルコールで構成されるモノ又はジ脂肪酸エステルが好ましい。
【0056】
脂肪酸としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸等が挙げられる。また、脂肪酸は、脂環式であってもよい。
アルコールとしては、飽和又は不飽和の1価又は多価アルコールを挙げることができる。これらのアルコールは、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の1価又は多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和1価アルコール又は多価アルコールが更に好ましい。ここで脂肪族とは、脂環式化合物も含有する。
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
なお、上記のエステル化合物は、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよく、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0057】
脂肪酸エステル系化合物の具体例としては、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンジベヘネート、グリセリン-12-ヒドロキシモノステアレート、ソルビタンモノベヘネート、ぺンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリストールジステアレート、ステアリルステアレート、エチレングリコールモンタン酸エステル等が挙げられる。
【0058】
離型剤の含有量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~3質量部であるが、0.2~2.5質量部であることがより好ましく、更に好ましくは0.25~2質量部である。0.1質量部未満であると、溶融成形時の離型不良により表面性が低下しやすく、一方、3質量部を超えると、樹脂組成物の練り込み作業性が低下しやすく、また成形体表面に曇りが生じやすい。
【0059】
[難燃ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
本発明の難燃ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用でき、芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)と(A2)および(B)フッ素を含有しない有機スルホン酸系難燃剤、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常240~320℃の範囲である。
【0060】
[難燃ポリカーボネート樹脂組成物]
本発明の難燃ポリカーボネート樹脂組成物は、樹脂組成物中、パーフルオロブタンスルホン酸およびその金属塩(PFBS)の量は10ppm未満であり、ポリフルオロアルキル化合物(PFAS)の量が1000ppm未満であり、PFBS規制およびPFAS規制を満たす。PFAS規制は、EU/REACHや米国/EPAが進めつつある規制であり、REACHの定義によればPFASは「ペルフルオロアルキル化合物、ポリフルオロアルキル化合物及びそれらの塩類の総称」とされ、すなわちC-F結合のある化合物を対象とする。従って、本発明においても、PFASはPFBSも含み、C-F結合のある化合物を対象とする。現在、規制閾値は各共同体にて検討されているが、過去のPFBS規制を例にとれば、含有量として1000ppm以下であれば、PFAS規制にも対応可能と想定される。
【0061】
[成形品]
本発明の難燃ポリカーボネート樹脂組成物は、上記した難燃ポリカーボネート樹脂組成物をペレタイズしたペレットを各種の成形法で成形して各種成形品を製造することができる。またペレットを経由せずに、押出機で溶融混練された樹脂を直接、成形して成形品にすることもできる。
【0062】
本発明の難燃ポリカーボネート樹脂組成物の成形品を製造するには、ポリカーボネート樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法などが挙げられる。また、ホットランナー方式を使用した成形法を用いることもできる。
【0063】
成形品の形状、模様、色彩、寸法などに制限はなく、その成形品の用途に応じて任意に設定すればよい。
成形品の例を挙げると、電気・電子機器、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌(自動車)部品、建築部材、各種容器、遊技機、レジャー用品・雑貨類、照明機器等の部品、筐体等が挙げられる。
【実施例0064】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0065】
以下の実施例及び比較例で使用した原料は以下の表1の通りである。
【表1】
【0066】
(実施例1~8、比較例1~7)
[ポリカーボネート樹脂組成物ペレットの製造]
上記表1に記した各成分を、後記表3に記した割合(質量部)で配合し、タンブラーにて20分混合した後、1ベントを備えた東芝機械社製二軸押出機(TEM26SX)に上流のフィーダーより供給し、回転数250rpm、吐出量30kg/時間、バレル温度280℃の条件で混練し、ストランド状に押出された溶融樹脂を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化してポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0067】
[PFBS量、PFAS量(単位:質量ppm)の測定]
組成物中のPFBS量はガスクロマトグラフィー法により定量した。すなわち、上記で得られたポリカーボネート樹脂組成物を塩化メチレンに完全溶解させたのち、メタノールを加えてポリカーボネート成分を沈降させ、メタノールに可溶なPFBSを島津製作所製「GC-2010」にて定量を実施した。この方法ではPTFEは検出されないため、PFBSのみ正確に検出できる。また、樹脂組成物中のPFAS量は燃焼イオンクロマトグラフィー法により定量した。即ち、上記で得られたポリカーボネート樹脂組成物のペレットについて、三菱ケミカルアナリテック社製「AQF-100型」の自動試料燃焼装置を用い、アルゴン雰囲気下、270℃、10分の条件で樹脂組成物を加熱し、発生したFイオンの量を、日本ダイオネクス社製「ICS-90」を用いて定量することにより求めた。
なお、表3中、「ND」はnot detectedであり、検出限界(1ppm)以下で、検出できなかったことを示す。
【0068】
[難燃性評価]
上述の製造方法で得られたペレットを120℃で4時間乾燥させた後、住友重機械工業社製SE100DU型射出成形機を用いて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃、成形サイクル30秒の条件で射出成形し、長さ125mm、幅13mm、厚さ1.5mmまたは2.0mmのUL燃焼試験用の試験片を射出成形した。
【0069】
難燃性の評価は、上述の方法で得られたUL燃焼試験用試験片を温度23℃、湿度50%の恒温恒湿室中で48時間調湿し、米国ULが定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験)に準拠して行った。
【0070】
UL94-V試験では、鉛直に保持した所定の大きさの試験片の下端にバーナーの炎を10秒間接炎した後の残炎時間やドリップ性から難燃性を評価する方法であり、V-0、V-1及びV-2の難燃性を有するためには以下の表2に示す基準を満たすことが必要である。
【0071】
【表2】
【0072】
ここで残炎時間とは、着火源を遠ざけた後の、試験片の有炎燃焼を続ける時間の長さである。また、ドリップによる綿着火とは、試験片の下端から約300mm下にある標識用の綿が、試験片からの滴下(ドリップ)物によって着火されるかどうかによって決定される。さらに、1材料につき5回の試験の内、1回でも上記基準を満たさないものがある場合はV-2を満足しないとしてNR(not rated)と評価した。
以上の評価結果を下記の表3に示す。
【0073】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の難燃ポリカーボネート樹脂組成物はPFBS規制をクリアし、PFAS規制にも対応でき、優れた難燃性を示し、成形性にも優れるので、その成形品は、電気・電子機器、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、遊技機、レジャー用品・雑貨類、照明機器等の部品等に好ましく利用することができる。