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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092827
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】レドックスフロー電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/18 20060101AFI20230627BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20230627BHJP
   H01M 8/2455 20160101ALI20230627BHJP
   H01M 8/04186 20160101ALI20230627BHJP
   H01M 8/04537 20160101ALI20230627BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20230627BHJP
   H01M 8/0432 20160101ALI20230627BHJP
   H01M 8/04701 20160101ALI20230627BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20230627BHJP
   H01M 8/0258 20160101ALI20230627BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H01M8/2455
H01M8/04186
H01M8/04537
H01M8/04858
H01M8/0432
H01M8/04701
H01M8/04746
H01M8/0258
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208064
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304000836
【氏名又は名称】学校法人 名古屋電気学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】平山 航一郎
(72)【発明者】
【氏名】木薮 敏康
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 昭男
(72)【発明者】
【氏名】野口 良典
(72)【発明者】
【氏名】江川 薫
(72)【発明者】
【氏名】荒木 翔
(72)【発明者】
【氏名】森田 靖
(72)【発明者】
【氏名】村田 剛志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彩
(72)【発明者】
【氏名】岡田 茂満
【テーマコード(参考)】
5H030
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H030FF23
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
5H126AA03
5H126AA10
5H126BB10
5H126EE02
5H126EE29
5H126FF10
5H126GG17
5H126JJ06
5H126JJ08
5H127AA10
5H127AC15
5H127BA01
5H127BA21
5H127BA28
5H127BA57
5H127BB01
5H127BB06
5H127BB13
5H127BB37
5H127DB04
5H127DB06
5H127DB24
5H127DB26
5H127DB52
5H127DB55
5H127DC02
5H127DC06
5H127DC22
5H127DC26
5H127DC41
(57)【要約】      (修正有)
【課題】運転条件を適正化した、活物質としてキノン類を使用するレドックスフロー電池を提供する。
【解決手段】隔膜で仕切られた第1室3及び第2室4を有するセルと、放電時に正極となる第1電極14と、負極となる第2電極15と、第1電解液12を貯蔵する第1タンクと、第1室と第1タンクとの間で第1電解液を循環させる第1循環装置7と、第2電解液13を貯蔵する第2タンクと、第2室と第2タンクとの間で第2電解液を循環させる第2循環装置9とを備え、第1及び第2電解液にはそれぞれ活物質が含まれ、第2電解液に含まれる活物質はキノン類であり、充電時に第1及び第2電極間に電流を流す電源と、充電率を測定する充電率検出装置20と、制御装置21とをさらに備え、制御装置には充電率の上限値が予め設定されており、レドックスフロー電池の充電中に充電率検出装置による検出値が上限値に達したら、制御装置は電源からの電流の供給を停止する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔膜で仕切られた第1室及び第2室を有するセルと、
前記第1室内に設けられ、放電時に正極となる第1電極と、
前記第2室内に設けられ、放電時に負極となる第2電極と、
第1電解液を貯蔵する第1タンクと、
前記第1室と前記第1タンクとの間で前記第1電解液を循環させる第1循環装置と、
第2電解液を貯蔵する第2タンクと、
前記第2室と前記第2タンクとの間で前記第2電解液を循環させる第2循環装置と
を備え、
前記第1電解液及び前記第2電解液にはそれぞれ活物質が含まれ、前記第2電解液に含まれる前記活物質はキノン類であるレドックスフロー電池であって、
前記レドックスフロー電池は、
充電時に前記第1電極及び前記第2電極間に電流を流す電源と、
前記レドックスフロー電池の充電率を測定する充電率検出装置と、
制御装置と
をさらに備え、
前記制御装置には、前記レドックスフロー電池の充電率の上限値が予め設定されており、前記レドックスフロー電池の充電中に前記充電率検出装置による検出値が前記上限値に達したら、前記制御装置は前記電源からの電流の供給を停止するレドックスフロー電池。
【請求項2】
前記充電率の上限値は90%である、請求項1に記載のレドックスフロー電池。
【請求項3】
前記第1電極及び前記第2電極間の電圧を検出する電圧検出装置をさらに備え、
前記制御装置には、前記レドックスフロー電池の充電時のカットオフ電圧が予め設定されており、前記レドックスフロー電池の充電中に前記電圧検出装置による検出値が前記カットオフ電圧に達したら、前記制御装置は前記電源からの電流の供給を停止する、請求項1または2に記載のレドックスフロー電池。
【請求項4】
前記カットオフ電圧は1.7Vである、請求項3に記載のレドックスフロー電池。
【請求項5】
前記第1電解液の温度を検出する第1温度検出装置と、
前記第2電解液の温度を検出する第2温度検出装置と、
前記第1電解液を加熱又は冷却する第1温度調節装置と、
前記第2電解液を加熱又は冷却する第2温度調節装置と
をさらに備え、
前記第1温度検出装置及び前記第2温度検出装置のそれぞれによる検出値が30℃±15℃の範囲となるように、前記制御装置は、前記第1温度調節装置及び前記第2温度調節装置を作動させて、前記第1電解液及び前記前記第2電解液のそれぞれの温度を調節する、請求項1~4のいずれか一項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項6】
前記第2室に流入した活物質に対する前記第2室で反応した活物質の割合である転化率Rを下記式で定義し、
R=I/(F×C×Q×n)
Iは前記第1電極及び前記第2電極間に流れる電流値であり、Fはファラデー定数であり、Cは前記第2電解液中の前記活物質の濃度であり、Qは前記第2電解液の循環流量であり、nは反応電荷であり、
前記制御装置は、前記レドックスフロー電池の充電中に前記転化率が予め設定された上限値以下となるように、前記電流値又は前記第2電解液の循環流量の少なくとも一方を変更する、請求項1~5のいずれか一項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項7】
前記制御装置は、前記転化率が予め設定された上限値以下となるように、前記第2電解液の循環流量を変更する、請求項6に記載のレドックスフロー電池。
【請求項8】
前記転化率の上限値は50%である、請求項6または7に記載のレドックスフロー電池。
【請求項9】
前記第2室は、前記第2電解液が流れる流路を含み、
前記流路は櫛歯流路である、請求項1~8のいずれか一項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項10】
前記第2電解液は支持電解質を含み、
前記第2電解液のpHは7~14である、請求項1~9のいずれか一項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項11】
前記第2電解液のpHを検出するpH検出装置と、
前記第2電解液に酸又はアルカリを供給する供給装置と
を備え、
前記制御装置は、前記pH検出装置による検出値に基づいて、前記供給装置を作動させることにより前記第2電解液に前記酸又はアルカリを供給する、請求項10に記載のレドックスフロー電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レドックスフロー電池に関する。
【背景技術】
【0002】
レドックスフロー電池は、電解液タンクの容量に応じて電力貯蔵量を自在に設計できるため、大電力の貯蔵に適した電池であり、自然エネルギーを含めた電力需給平準化への適用が期待されている。レドックスフロー電池は、充放電を行うセルと、電力貯蔵を担う電解液タンクとで構成され、ポンプで電解液を循環させて充放電を行う点を特徴とする。
【0003】
現在では、電解液の活物質としてバナジウムを使用するレドックスフロー電池が主流であるが(例えば特許文献1参照)、近年のバナジウム価格の高騰等に起因して、有機物や金属錯体を活物質として使用するレドックスフロー電池の開発が行われている。例えば、特許文献2には、負極活物質に種々のキノン類を使用するレドックスフロー電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-157882号公報
【特許文献2】特許第6574382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電解液の活物質としてバナジウムを使用するレドックスフロー電池では、バナジウム濃度や使用温度等によってはバナジウムの析出が起こり、電池容量や電圧効率の低下等の問題が生じ得る。特許文献1では、バナジウムの析出に起因する電池容量や電圧効率の低下を抑制できるレドックスフロー電池の運転方法が提案されている。しかしながら、活物質としてキノン類を使用するレドックスフロー電池の運転条件を適正化する方法については未だ確立されていない。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも1つの実施形態は、活物質としてキノン類を使用するレドックスフロー電池において運転条件を適正化したレドックスフロー電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本開示に係るレドックスフロー電池は、隔膜で仕切られた第1室及び第2室を有するセルと、前記第1室内に設けられ、放電時に正極となる第1電極と、前記第2室内に設けられ、放電時に負極となる第2電極と、第1電解液を貯蔵する第1タンクと、前記第1室と前記第1タンクとの間で前記第1電解液を循環させる第1循環装置と、第2電解液を貯蔵する第2タンクと、前記第2室と前記第2タンクとの間で前記第2電解液を循環させる第2循環装置とを備え、前記第1電解液及び前記第2電解液にはそれぞれ活物質が含まれ、前記第2電解液に含まれる前記活物質はキノン類であるレドックスフロー電池であって、前記レドックスフロー電池は、充電時に前記第1電極及び前記第2電極間に電流を流す電源と、前記レドックスフロー電池の充電率を測定する充電率検出装置と、制御装置とをさらに備え、前記制御装置には、前記レドックスフロー電池の充電率の上限値が予め設定されており、前記レドックスフロー電池の充電中に前記充電率検出装置による検出値が前記上限値に達したら、前記制御装置は前記電源からの電流の供給を停止する。
【発明の効果】
【0008】
本開示のレドックスフロー電池によれば、充電率が予め設定された上限値に達したら受電を停止することにより、レドックスフロー電池の充電中又は保持状態において、第2電解液に含まれる活物質が過度な低電位環境に晒されなくなるので、第2電解液に含まれる活物質の分解が抑制できる。その結果、活物質としてキノン類を使用するレドックスフロー電池において運転条件を適正化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の実施形態1に係るレドックスフロー電池の構成模式図である。
図2】本開示の実施形態1に係るレドックスフロー電池における充電サイクル開始前後での第1電解液及び第2電解液のサイクリックボルタモグラムである。
図3】本開示の実施形態1に係るレドックスフロー電池における充電サイクルの充電時に測定した充電率と開回路電圧との関係を示すグラフである。
図4】本開示の実施形態2に係るレドックスフロー電池の構成模式図である。
図5】本開示の実施形態3に係るレドックスフロー電池の構成模式図である。
図6】本開示の実施形態3に係るレドックスフロー電池において、充放電サイクルに対する容量の推移を示すグラフである。
図7】本開示の実施形態4に係るレドックスフロー電池の構成模式図である。
図8】本開示の発明者らのシミュレーション結果を示す図である。
図9】本開示の発明者らのシミュレーション結果を示す図である。
図10】本開示の実施形態4に係るレドックスフロー電池のセルの断面図である。
図11】本開示の実施形態5に係るレドックスフロー電池の構成模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態によるレドックスフロー電池について、図面に基づいて説明する。以下で説明する実施形態は、本開示の一態様を示すものであり、この開示を限定するものではなく、本開示の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0011】
(実施形態1)
<本開示の実施形態1に係るレドックスフロー電池の構成>
図1に示されるように、本開示の実施形態1に係るレドックスフロー電池1は、隔膜5で仕切られた第1室3及び第2室4を有するセル2と、活物質を含む第1電解液12を貯蔵する第1タンク6と、第1室3と第1タンク6との間で第1電解液12を循環させる第1循環装置である第1ポンプ7と、活物質を含む第2電解液13を貯蔵する第2タンク8と、第2室4と第2タンク8との間で第2電解液13を循環させる第2循環装置である第2ポンプ9とを備えている。
【0012】
第1タンク6及び第1ポンプ7は、一端及び他端が第1室3に接続された第1電解液循環経路10に設けられている。第2タンク8及び第2ポンプ9は、一端及び他端が第2室4に接続された第2電解液循環経路11に設けられている。第1室3内には第1電極14が設けられ、第2室4内には第2電極15が設けられている。第1電極14及び第2電極15はそれぞれ、交流直流変換器16に電気的に接続されている。交流直流変換器16は、負荷17及び交流電源18のそれぞれに電気的に接続することができる。尚、交流電源18の代わりに直流電源を使用するとともに負荷17が直流電流で稼働するものである場合には、交流直流変換器16は必要ない。
【0013】
第1電解液12及び第2電解液13のそれぞれは、支持電解質を含む水溶液に活物質を溶解させたものである。支持電解質は、限定はしないが例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウムを使用可能である。
【0014】
第1電解液12に溶解する活物質は特に限定せず、金属イオン、金属錯体、空気、ハロゲン、有機分子等であってもよい。以下では、フェロシアン化カリウムを、第1電解液12に溶解する活物質の一例として説明する。第2電解液13に溶解する活物質は、キノン類である。ここで、キノン類とは、ベンゾキノン、ナフトキノン、アントラキノン、これらを構成する任意の炭素原子に任意の官能基又はハロゲンが結合したもの、若しくは、これらの混合物である。ベンゾキノンは1,2-ベンゾキノン及び1,4-ベンゾキノンを含み、ナフトキノンは、1,2-ナフトキノン、1,4-ナフトキノン、1,5-ナフトキノン、2,6-ナフトキノンを含み、アントラキノンは、1,2-アントラキノン、1,4-アントラキノン、1,5-アントラキノン、2,3-アントラキノン、2,6-アントラキノン、9,10-アントラキノンを含む。
【0015】
レドックスフロー電池1は、レドックスフロー電池1の充電率を測定する充電率検出装置20と、制御装置21とをさらに備えている。制御装置21は、充電率検出装置20と、交流電源18のオンオフを切り替える切替装置18aとに電気的に接続されている。充電率検出装置20の構成は特に限定するものではなく、レドックスフロー電池1の充電率を測定できるものでればどのような構成のものであってもよいが、実施形態1では、以下の構成を有するものを一例にして説明する。すなわち、実施形態1における充電率検出装置20は、第1タンク6内の第1電解液12の酸化還元電位(ORP)を検出する酸化還元電位計20aと、第2タンク8内の第2電解液13のORPを検出する酸化還元電位計20bとを有している。制御装置21は例えば、切替装置18aを作動させる機能部と、酸化還元電位計20a及び20bの検出値の差の絶対値である開回路電圧(OCV)を計算し、OCVから充電率を演算する演算部とを内蔵するコンピューターによって具現化可能である。
【0016】
<本開示の実施形態1に係るレドックスフロー電池の動作>
次に、本開示の実施形態1に係るレドックスフロー電池1の動作について説明する。レドックスフロー電池1が放電する場合、第1室3が正極側となり、第2室4が負極側となる。第1ポンプ7を稼働することにより、第1タンク6内に貯留する第1電解液12を、第1電解液循環経路10を介して第1室3に供給する。第1室3内に第1電解液12が充満した後、第1電解液12が第1室3から流出し、第1電解液循環経路10を介して第1タンク6に戻される。このようにして、第1電解液12は、第1室3と第1タンク6との間を循環する。一方、第2ポンプ9を稼働することにより、上述した動作と同様の動作によって、第2電解液13は、第2室4と第2タンク8との間を循環する。
【0017】
第1室3内では、下記半反応式(1)が起こることにより、3価の鉄イオン(Fe3+)が第1電極14から電子を受け取り、2価の鉄イオン(Fe2+)となる。
Fe3++e→Fe2+ ・・・(1)
【0018】
一方、第2電解液13に溶解する活物質として1,4-ベンゾキノンを例にして説明すると、第2室4内では、下記半反応式(2)が起こることにより、1,4-ベンゾキノンの還元体である1,4-ジヒドロキシベンゼンから電子が第2電極15へ移動して交流直流変換器16に流入する。
【0019】
【化1】
【0020】
これにより、第1電極14が正極であるとともに第2電極15が負極である直流電流が生じる。この直流電流は、交流直流変換器16で交流電流に変換されて、負荷17に供給される。
【0021】
レドックスフロー電池1を充電する場合、制御装置21が切替装置18a作動させて交流電源18をオンにする。交流電源18からの交流電流は、交流直流変換器16で直流電流に変換され、第1電極14及び第2電極15間に電流が流れる。第1室3内では、下記半反応式(3)が起こることにより、2価の鉄イオンから電子が第1電極14へ移動し、3価の鉄イオンとなる。
Fe2+→Fe3++e ・・・(3)
【0022】
一方、第2室4内では、下記半反応式(4)が起こることにより、1,4-ベンゾキノンが第2電極15から電子を受け取り、1,4-ジヒドロキシベンゼンとなる。
【0023】
【化2】
【0024】
レドックスフロー電池1の充電中、酸化還元電位計20a及び20bがそれぞれ、第1タンク6内の第1電解液12のORP及び第2タンク8内の第2電解液13のORPを測定し、この測定結果を制御装置21に伝送する。制御装置21は、伝送されたORPからレドックスフロー電池1の充電率(SOC)を演算し、演算結果が予め設定されている上限値に達したら、切替装置18a作動させて交流電源18をオフにすることで充電を停止する。
【0025】
<本開示の実施形態1に係るレドックスフロー電池の作用効果>
本開示の発明者らは、上記レドックスフロー電池1において、第2電解液13に溶解する活物質を2-(3’-カルボキシプロピルオキシ)-6-ヒドロキシ-9,10-アントラキノン(2,6-MHMBEAQ)(下記化学式(5)参照)とした系において、複数回の充放電サイクルを繰り返した。充放電サイクルを開始する前と、9000回の充放電サイクルを繰り返した後とのそれぞれにおいて、第1電解液12及び第2電解液13のサイクリックボルタンメトリーを行った。得られたサイクリックボルタモグラムを図2に示す。
【0026】
【化3】
【0027】
充放電サイクルの前後で比較すると、第1電解液ではピーク電流密度の変化は小さかったが、第2電解液では、充放電サイクル後のピーク電流密度の顕著な減少が観察された。ピーク電流密度の減少は、第2電解液中の活物質の減少に対応していると考えられるため、充放電の繰り返しに伴い、活物質である2,6-MHMBEAQが分解したものと推察される。
【0028】
本開示の発明者らは、上記充放電サイクルの充電時において、いくつかの異なる充電率の状態で保持状態にし、そのときの電極間の電位差を測定し、この電位差を開回路電圧(OCV)とした。その結果を図3に示す。充電率が上昇するにつれてOCVも上昇している。OCVの上昇は、第1電解液12の電位が上昇する一方で第2電解液13の電位が低下していることを示している。充電率の上昇に対するOCVの上昇率は一定ではなく、いくつかの充電率において変曲点を有する曲線関係を示している。本開示の発明者らは、このような変曲点を示す充電率で、活物質の分解反応が促進されるのではないかと考えた。そこで、レドックスフロー電池1を充電する際に、満充電にするのではなく、このような変曲点に相当する充電率以下に抑えることで、活物質の分解反応を抑えられると考えた。
【0029】
そこで、上述したレドックスフロー電池1の動作の説明において、制御装置21に予め設定された充電率の上限値を、図3の曲線関係に基づいて、90%、好ましくは75%、さらに好ましくは60%、最も好ましくは50%とすると、レドックスフロー電池1の充電率が常に上限値以下に維持される。そうすると、レドックスフロー電池1の充電中又は保持状態において、活物質であるキノン類が過度なマイナスの電位環境に晒されなくなるので、活物質の分解を抑制できる。その結果、活物質としてキノン類を使用するレドックスフロー電池において運転条件を適正化することができる。
【0030】
また、第1電解液12及び第2電解液13に支持電解液が含まれることにより、第1電解液12及び第2電解液13の電気伝導度が向上し、液抵抗が減少する。液抵抗の低下に伴い過電圧が減少し、第1電解液12及び第2電解液13の液電位の低下が抑えられ、第1電解液12及び第2電解液13に含まれる活物質の分解が抑制されるので、活物質としてキノン類を使用するレドックスフロー電池において運転条件を適正化することができる。尚、活物質がキノン類である第2電解液のpHは、キノン類に適したpHとなる7~14、好ましくは10~14の範囲に設定することが好ましい。第1電解液12に溶解する活物質もキノン類である場合は、第1電解液のpHも同様の範囲にすることが好ましい。pHの調整は、支持電解質に対応する酸を電解液に供給することにより行うことが好ましい。例えば、支持電解質が炭酸カリウム(KCO)の場合、それに対応する酸として炭酸(又は二酸化炭素)を使用でき、支持電解質がリン酸三カリウム(KPO)である場合、それに対応する酸としてリン酸(HPO)を使用できる。
【0031】
(実施形態2)
次に、本開示の実施形態2について説明する。実施形態2に係るレドックスフロー電池は、実施形態1の構成とは独立に又は実施形態1の構成に加えて、レドックスフロー電池の充電時に電極間の電圧が予め設定されたカットオフ電圧に達したら充電を停止するようにしたものである。以下では、実施形態1の構成とは独立に上記構成を有する実施形態2を説明する。尚、実施形態2において、実施形態1の構成要件と同じものは同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0032】
<本開示の実施形態2に係るレドックスフロー電池の構成>
図4に示されるように、本開示の実施形態2に係るレドックスフロー電池1は、第1電極14及び第2電極15間の電圧を検出する電圧検出装置である電圧計22を備えている。電圧計22は制御装置21に電気的に接続されている。その他の構成は、酸化還元電位計20a及び20b(図1参照)が設けられていない点を除き、実施形態1と同じである。
【0033】
<本開示の実施形態2に係るレドックスフロー電池の動作>
レドックスフロー電池1の放電動作及び充電動作は、充電率の制御を除き実施形態1と同じである。実施形態2では、レドックスフロー電池1の充電中に、電圧計22が第1電極14及び第2電極15間の電圧を検出し、その検出値を制御装置21に伝送する。制御装置21には、レドックスフロー電池1の充電時のカットオフ電圧が予め設定されており、電圧計22の検出値がカットオフ電圧に達したら、制御装置21は、切替装置18a作動させて交流電源18をオフにすることで充電を停止する。
【0034】
活物質としてキノン類を使用する場合の好適なカットオフ電圧は、1.7V、好ましくは1.55V、さらに好ましくは1.4Vである。ただし、カットオフ電圧を低く設定すると、充放電可能な容量範囲が限定されてしまうので、容量範囲を維持したままカットオフ電圧を低く設定するためには、電流密度を下げることや、電極の面積を大きくするといった対策が有効である。
【0035】
レドックスフロー電池1の充電中に、第1電極14及び第2電極15間の電圧が予め設定されたカットオフ電圧に達したら充電を停止することにより、過電圧による充電時の第2電解液13の液電位の低下が抑えられ、第2電解液13に含まれる活物質の分解が抑制されるので、活物質としてキノン類を使用するレドックスフロー電池1において運転条件を適正化することができる。
【0036】
(実施形態3)
次に、本開示の実施形態3について説明する。実施形態3に係るレドックスフロー電池は、実施形態1及び2の構成とは独立に又は実施形態1又は2の少なくとも一方の構成に加えて、第1電解液12及び第2電解液13の温度範囲を制御するようにしたものである。以下では、実施形態1及び2の構成とは独立に上記構成を有する実施形態3を説明する。尚、実施形態3において、実施形態1の構成要件と同じものは同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0037】
<本開示の実施形態3に係るレドックスフロー電池の構成>
図5に示されるように、本開示の実施形態3に係るレドックスフロー電池1は、第1室3内の第1電解液12及び第2室4内の第2電解液13のそれぞれの温度を検出するための第1温度センサ23(第1温度検出装置)及び第2温度センサ24(第2温度検出装置)と、第1室3内の第1電解液12及び第2室4内の第2電解液13のそれぞれの温度を調節するための第1温度調節装置25及び第2温度調節装置26とを備えている。
【0038】
第1温度調節装置25及び第2温度調節装置26の構成は特に限定されず、第1電解液12及び第2電解液13のそれぞれの温度を適切な温度に調節できるものであればどのようなものでもよいが、実施形態3では、加熱機能をオンオフ可能な加熱装置として説明する。加熱装置としては、電力の供給によって加熱するヒータであってもよいし、加熱流体を流通させることによって加熱する装置等であってもよい。前者の場合、電力供給をオンオフすることにより加熱機能のオンオフが可能であり、後者の場合、加熱流体の流通をオンオフすることにより加熱機能のオンオフが可能である。
【0039】
第1温度センサ23及び第2温度センサ24はそれぞれ、制御装置21に電気的に接続されている。第1温度調節装置25及び第2温度調節装置26はそれぞれ、制御装置21によって加熱機能をオンオフ制御されるように構成されている。その他の構成は、酸化還元電位計20a及び20b(図1参照)が設けられていない点を除き、実施形態1と同じである。
【0040】
<本開示の実施形態3に係るレドックスフロー電池の動作>
レドックスフロー電池1の放電動作及び充電動作は、充電率の制御を除き実施形態1と同じである。実施形態3では、第1温度センサ23及び第2温度センサ24がそれぞれ、第1室3内の第1電解液12及び第2室4内の第2電解液13の温度を検出し、それらの検出値を制御装置21に伝送する。制御装置21には、第1電解液12及び第2電解液13の温度についての制御範囲が予め設定されており、第1温度センサ23又は第2温度センサ24の検出値が制御範囲の下限を下回ったら、制御装置21は第1温度調節装置25又は第2温度調節装置26の加熱機能をオンにして、第1電解液12又は第2電解液13を加熱する。第1温度センサ23又は第2温度センサ24の検出値が制御範囲内になったら、制御装置21は第1温度調節装置25又は第2温度調節装置26の加熱機能をオフにする。
【0041】
活物質がキノン類である場合、電解液の温度が高すぎると活物質の分解反応の速度が促進されるおそれがある。一方で、電解液の温度が低すぎると、活物質の反応性の低下及び隔膜5のイオン交換速度の低下により、過電圧が上昇してエネルギー効率が低下するおそれがある。また、電解液の温度が低すぎると、電解液に溶解する活物質の量が低下して、レドックスフロー電池1の容量密度が低下するおそれもある。これに対し、実施形態3では、第1電解液12及び第2電解液13の温度が適正範囲(上述した制御範囲)に維持されるので、活物質であるキノン類の分解を抑制することができ、エネルギー効率の低下及び容量密度の低下を抑制することができ、結果として、活物質としてキノン類を使用するレドックスフロー電池1において運転条件を適正化することができる。
【0042】
<制御範囲の検討>
本開示の発明者らは、第1電解液12に溶解する活物質をフェロシアン化カリウムとするとともに第2電解液13に溶解する活物質を2,6-MHMBEAQとしたレドックスフロー電池1において、カットオフ電圧を1.4V、最大充電容量を理論容量の47%、第1電解液12及び第2電解液13の温度を30℃、40℃、50℃とした条件で、充電操作及び放電操作を複数回繰り返す充放電サイクルを行い、それぞれの充放電サイクル時の容量を測定した。図6にその結果を示す。図6のグラフの縦軸は、最初の充放電サイクル時の容量に対する各サイクル時の容量の比である相対容量としている。
【0043】
活物質の劣化が起きていない初期は、充電電圧はカットオフ電圧である1.4Vには到達せずに、最大充電容量47%が制約となって充電操作が停止する。これに対し、活物質の劣化が進むと、電池抵抗が増大し、最大充電容量の47%に到達する前にカットオフ電圧1.4Vに到達し、充電が停止する。これにより、活物質の劣化がある程度進んだ特定のサイクル数から、容量低下が始まることになる。
【0044】
図6によれば、電解液の温度が30~50℃の範囲では、電解液の温度が低いほど、容量の低下が生じ始めるサイクル数が多い。すなわち、電解液の温度が低いほど、容量の低下が生じない充放電サイクル数が多い。これは、電解液の温度が高いほど、活物質である2,6-MHMBEAQが分解しやすいことに起因するものと考えられる。この結果から、上述の制御範囲としては、30℃±15℃が好ましく、30℃±10℃がさらに好ましい。
【0045】
(実施形態4)
次に、本開示の実施形態4について説明する。実施形態4に係るレドックスフロー電池は、実施形態1~3の構成とは独立に又は実施形態1~3の少なくとも1つの構成に加えて、後述する転化率に基づいて充電時の運転条件を制御するようにしたものである。以下では、実施形態1~3の構成とは独立に上記構成を有する実施形態4を説明する。尚、実施形態4において、実施形態1の構成要件と同じものは同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0046】
<本開示の実施形態4に係るレドックスフロー電池の構成>
図7に示されるように、本開示の実施形態4に係るレドックスフロー電池1は、第2電解液13の循環流量(例えば、第2電解液循環経路11を流通する第2電解液13の流量)を検出する流量センサ30を備え、流量センサ30は制御装置21に電気的に接続されている。また、制御装置21は、第2ポンプ9の吐出流量を変更可能に構成され、レドックスフロー電池1の充電時に交流電源18の電圧を変更することで第1電極14及び第2電極15間を流れる電流値を変更可能に構成されている。その他の構成は、センサ20a(図1参照)が設けられていない点を除き、実施形態1と同じである。
【0047】
<本開示の実施形態4に係るレドックスフロー電池の動作>
レドックスフロー電池1の放電動作及び充電動作は、充電率の制御を除き実施形態1と同じである。実施形態4では、第2室4に流入した活物質に対する第2室4で反応した活物質の割合である転化率Rを定義した上で、レドックスフロー電池1の充電時に転化率Rが予め設定された上限値以下となるように、レドックスフロー電池1の運転条件が調整される。
【0048】
転化率Rは、下記式(A)によって定義される。
【数1】
式(A)において、Iは第1電極14及び第2電極15間に流れる電流値(A)であり、Fはファラデー定数(9.65×10sA/mol)であり、Cは、充電動作において活性を有する活物質の第2電解液13中の濃度(mol/m)であり、Qは第2電解液13の循環流量(m/sec)であり、nは反応電荷(mol/mol)である。反応電荷とは、活物質1分子当たりの酸化還元反応に関与する電子の数であり、例えば半反応式(4)では、n=2mol/molである。
【0049】
式(A)に、活物質の濃度Cが含まれているが、これは、レドックスフロー電池1の運転開始前の運転条件設定時に決定する。例えば、レドックスフロー電池1の充電時における通常の電流値I及び循環流量Qを特定しておけば、転化率Rを所望の値にするような濃度Cを決定することができる。また、外的理由等によって電流値I及び循環流量Qに制約条件がある(通常時よりも低い値としなければならない)場合には、濃度Cを増加させることで、転化率Rを所望の値にすることができる。
【0050】
レドックスフロー電池1を放電動作から充電動作に切り替える場合、変更可能な電流値I又は循環流量Q若しくはこれらの両方を変更することにより、転化率Rを予め設定された上限値以下となるようにすることができる。実施形態4の上述した構成では、電流値Iは、制御装置21が交流電源の電圧値を変更することによって変更可能である。代替的に、交流電源18と第1電極14及び第2電極15との間に電流調整装置を設け、制御装置21がこの電流調整装置を作動させることにより電流値Iを変更することもできる。循環流量Qは、流量センサ30の検出値に基づいて制御装置21が第2ポンプ9の吐出流量を変更することによって変更可能である。
【0051】
レドックスフロー電池1において、充電中に第2電解液13中の活物質の濃度が最も高くなる位置は、第2室4の出口付近である。このため、充電中に第2室4の出口付近の第2電解液13の液電位が最も低くなり、活物質であるキノン類の分解が進行しやすい環境となっている。このようなキノン類の分解が進行しやすい環境を改善するために、電流値Iを低下すること又は循環流量Qを増加すること若しくはこれらの両方により、転化率Rを低下することができる。
【0052】
充電の半反応は半反応式(4)で表されることから、キノン類の濃度が式(A)におけるCとなる。充電開始前の濃度Cには、初期設定濃度を用いることができるが、充電が進行すると、半反応式(4)が進行してCが減少していく。半反応式(4)の進行によって生じたキノン類の還元体の濃度は、充電容量から得ることができる。具体的には下記式(B)によって、キノン類の還元体の濃度C’が算出される。
【数2】
【0053】
充電動作中のキノン類の濃度であるCは、下記式(C)によって算出できるから、充電動作中の転化率Rを式(A)によって算出することができる。
C=(充電開始時のキノン類の濃度)-C’ ・・・(C)
【0054】
充電動作中に、式(A)によって算出される転化率Rが予め設定された上限値以下となるように、電流値I又は循環流量Q若しくはこれらの両方を変更する。これにより、第2室4の出口付近の高充電率状態を解消でき、この結果、活物質の分解が抑制されるので、活物質としてキノン類を使用するレドックスフロー電池1において運転条件を適正化することができる。本開示の発明者らは、正極側の電解液を0.4Mのフェロシアン化カリウム水溶液とし、負極側の電解液を0.5Mのキノン水溶液とし、電極面積を25cmとし、レドックスフロー電池のセルの正極側及び負極側に各電解液を65ml/minで流し、電流密度を100mA/cmとした条件で充電を行った場合のSOCと転化率との関係の試算を行った。この試算によれば、SOCが上昇するほど転化率が上昇するが、SOCが95%までであれば転化率は50%以下となる。この試算結果から、転化率Rの上限値は、50%、好ましくは20%、最も好ましくは10%である。
【0055】
<本開示の発明者らのシミュレーション>
転化率の違いによる作用効果をシミュレーションによって確認した。このシミュレーションは、COMSOL AB社(スウェーデン)のマルチフィジックスシミュレーションソフトウェアであるCOMSOL Multiphysics(登録商標)のバージョン5.2.0.166(オプションソルバ:Tertiary Current Distribution,Secondary Current Distribution,Free and Porous flow)を用いて行った。
【0056】
このシミュレーションにおいて、シミュレーションの対象となる現象と、その現象の解析に使用した方程式との組み合わせは以下の通りである。
電極界面での反応速度論式:バトラー-ボルマー方程式
電極の平衡電位:ネルンストの式
化学種輸送:ネルンスト-プランクの式
自由流れ:ナビエストークス式
多孔質内の流れ:ブリンクマン方程式
【0057】
このシミュレーションにおいて、正極側の電解液は、2種類の溶質すなわち化学種1A及び2Aが溶解した水溶液であり、負極側の電解液は、2種類の溶質すなわち化学種1B及び2Bが溶解した水溶液である。各電解液の物性を下記表1にまとめるとともに、各化学種の種類並びに各化学種の濃度及び拡散係数を下記表2にまとめる。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
各電解液がセル内で流通する流路は、長さ53mm、幅1mm、深さ1mmの単位流路が13.5回折り返した構成を有する蛇行流路とした。
【0061】
負極基準でSOC=50%(化学種2A及び2Bの濃度比が1:1の場合に相当する)の条件で、上記蛇行流路に負極側の電解液を25ml/min及び100ml/minで流し、正極電極及び負極電極間に60秒間0.5Aの電流を流すことによってレドックスフロー電池を充電するシミュレーションを行った。このシミュレーションによって、負極側の電解液の流量が25ml/min及び100ml/minのそれぞれの場合において、蛇行流路全体を通しての化学種2Bの濃度コンター図を得た。それらの図を図8及び9に示す。
【0062】
電解液の流量が25ml/min及び100ml/minのそれぞれの場合の転化率は、式(A)から、前者が2.49%、後者が0.62%と算出される。それぞれの場合において式(A)中のパラメータのうち異なるものは電解液の流量Qのみであるから、電解液の流量が小さい前者の転化率のほうが後者の転化率よりも大きくなる。図8及び9のいずれにおいても、流路の入口よりも出口のほうが化学種2Bの濃度は上昇しているが、出口においてキノン類の分解が進行しやすい環境となるまでには至っていない。図8図9とを対比すると、後者の方が前者に比べて出口における化学種2Bの濃度は低いことから、転化率が小さいほど、出口においてキノン類の分解が進行しにくい環境になっていると言える。
【0063】
<本開示の実施形態4に係るレドックスフロー電池の変形例>
実施形態4では、第2室4の転化率Rのみを制御していたが、この形態に限定するものではない。第1電解液12に溶解する活物質もキノン類である場合は、上述した動作と同様にして、第1室3の転化率Rの制御を行うことにより、第1室3の出口付近の高充電率状態を解消でき、この結果、活物質の分解を抑制することができる。
【0064】
転化率Rの制御を循環流量Qのみで行うようにすると、電流値Iと共に転化率Rの制御を行う場合に比べて、第2室4内での第2電解液13の流量が大きくなる。そうすると、第2室4内において、第2電極15の表面近傍における第2電解液13の流速が大きくなり、第2電極15の表面の境界厚みが減少し、物質移動が促進されるので、濃度過電圧が抑制される。このような過電圧の減少に伴い、第2電解液13の液電位の低下が抑制されて、第2電解液に含まれる活物質の分解が抑制されるので、活物質としてキノン類を使用するレドックスフロー電池1において運転条件を適正化することができる。
【0065】
図7には、セル2の構成として、第1電解液12及び第2電解液13のそれぞれが充填された第1室3及び第2室4のそれぞれの内部に第1電極14及び第2電極15が配置されるような模式的な構成が描かれているが、実際には、第1室3及び第2室4のそれぞれには、第1電解液12及び第2電解液13のそれぞれが流れる流路が形成されている。このような構成の一例を図10に示す。隔膜5を挟むように板状の第1電極14及び第2電極15が配置され、第1電極14及び第2電極15のそれぞれに関して隔膜5とは反対側に、導電性部材から形成された板状の双極板31が設けられている。双極板31には、第1電極14及び第2電極15のそれぞれに第1電解液12及び第2電解液13のそれぞれが接するようにして流れる流路32が形成されている。
【0066】
第1電解液12及び第2電解液13の流量の増大は、例えば、電解液の圧力損失を低減することにより可能である。このためには、流路32に櫛歯流路構造を採用することが有効である。櫛歯流路とは、流路32が、電解液を電極に導入する導入側流路32aと、電解液を電極から排出する排出側流路32bを含み、導入側流路32a及び排出側流路32bのそれぞれが互いに噛み合って対向配置される構成である。
【0067】
(実施形態5)
次に、本開示の実施形態5について説明する。実施形態5に係るレドックスフロー電池は、実施形態1~4の構成とは独立に又は実施形態1~4の少なくとも1つの構成に加えて、第2電解液13(及び第1電解液12)のpHを調整可能にしたものである。以下では、実施形態1~4の構成とは独立に上記構成を有する実施形態5を説明する。尚、実施形態5において、実施形態1の構成要件と同じものは同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0068】
図11に示されるように、本開示の実施形態5に係るレドックスフロー電池1は、第2タンク8に、支持電解質に対応する酸又はアルカリ(支持電解質と同じもの)を供給する供給装置40を備えている。供給装置40は、第2タンク8に供給される酸又はアルカリを貯蔵する貯蔵タンク41と、貯蔵タンク41と第2タンク8とを連通する供給管42と、供給管42に設けられた供給ポンプ43とを備えている。供給ポンプ43は、制御装置21によって起動及び停止の制御が行われるように構成されている。尚、供給される酸として二酸化炭素ガスを使用する場合は、貯蔵タンク41の代わりに二酸化炭素ボンベを使用し、供給ポンプ43の代わりにコンプレッサ又はブロワを使用することになる。
【0069】
第1電解液12に溶解する活物質もキノン類である場合、供給装置40は、第1タンク6に供給される酸又はアルカリを貯蔵する貯蔵タンク46と、貯蔵タンク46と第1タンク6とを連通する供給管47と、供給管47に設けられた供給ポンプ48とを備えてもよい。また、第2タンク8(及び第1タンク6)内に酸又はアルカリを供給する構成に限定するものではなく、第2電解液循環経路11(及び第1電解液循環経路10)に酸又はアルカリを供給す構成であってもよく、第2室4(及び第1室3)に酸又はアルカリを供給す構成であってもよい。
【0070】
また、第2電解液13のpHを検出するpHセンサ50(pH検出装置)が設けられている。第1電解液12に溶解する活物質もキノン類である場合には、第1電解液12のpHを検出するpHセンサ51(pH検出装置)を設けてもよい。pHセンサ50(及びpHセンサ51)は、制御装置21に電気的に接続されている。その他の構成は、センサ20a(図1参照)が設けられていない点を除き、実施形態1と同じである。
【0071】
<本開示の実施形態5に係るレドックスフロー電池の動作>
レドックスフロー電池1の放電動作及び充電動作は、充電率の制御を除き実施形態1と同じである。実施形態5では、レドックスフロー電池1の放電動作及び充電動作中にpHセンサ50(及びpHセンサ51)が第2電解液13(及び第1電解液12)のpHを検出し、その検出結果を制御装置21に伝送する。例えば、pHセンサ50(及びpHセンサ51)の検出値がキノン類に適したpHの上限を超えた場合、若しくは、キノン類に適したpHの範囲内ではあるが上限値に近い場合又は上限値に向かって上昇傾向を示している場合には、制御装置21は供給装置40を作動させて、具体的には供給ポンプ43(及び供給ポンプ48)を作動させて、第2タンク8(及び第1タンク6)内に酸を供給する。酸の供給量は、pHセンサ50(及びpHセンサ51)の検出値に基づいて調整される。逆に第2電解液13(及び第1電解液12)のpHが下限を超えた場合は、制御装置21は供給装置40を作動させて、第2タンク8(及び第1タンク6)内にアルカリを供給する。これにより、レドックスフロー電池1の運転中に第2電解液13(及び第1電解液12)のpHが変動した場合でも、キノン類に適したpHに調整することができる。
【0072】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0073】
[1]一の態様に係るレドックスフロー電池は、
隔膜(5)で仕切られた第1室(3)及び第2室(4)を有するセル(2)と、
前記第1室(3)内に設けられ、放電時に正極となる第1電極(14)と、
前記第2室(4)内に設けられ、放電時に負極となる第2電極(15)と、
第1電解液(12)を貯蔵する第1タンク(6)と、
前記第1室(3)と前記第1タンク(6)との間で前記第1電解液(12)を循環させる第1循環装置(第1ポンプ7)と、
第2電解液(13)を貯蔵する第2タンク(8)と、
前記第2室(4)と前記第2タンク(8)との間で前記第2電解液(13)を循環させる第2循環装置(第2ポンプ9)と
を備え、
前記第1電解液(12)及び前記第2電解液(13)にはそれぞれ活物質が含まれ、前記第2電解液(13)に含まれる前記活物質はキノン類であるレドックスフロー電池(1)であって、
前記レドックスフロー電池(1)は、
充電時に前記第1電極(14)及び前記第2電極(15)間に電流を流す電源(交流電源18)と、
前記レドックスフロー電池(1)の充電率を測定する充電率検出装置(20)と、
制御装置(21)と
をさらに備え、
前記制御装置(21)には、前記レドックスフロー電池(1)の充電率の上限値が予め設定されており、前記レドックスフロー電池(1)の充電中に前記充電率検出装置(20)による検出値が前記上限値に達したら、前記制御装置(21)は前記電源(18)からの電流の供給を停止する。
【0074】
本開示のレドックスフロー電池によれば、充電率が予め設定された上限値に達したら受電を停止することにより、レドックスフロー電池の充電中又は保持状態において、第2電解液に含まれる活物質が過度な低電位環境に晒されなくなるので、第2電解液に含まれる活物質の分解が抑制できる。その結果、活物質としてキノン類を使用するレドックスフロー電池において運転条件を適正化することができる。
【0075】
[2]別の態様に係るレドックスフロー電池は、[1]のレドックスフロー電池であって、
前記充電率の上限値は90%である。
【0076】
このような構成によれば、上記[1]の構成と同様に、活物質としてキノン類を使用するレドックスフロー電池において運転条件を適正化することができる。
【0077】
[3]さらに別の態様に係るレドックスフロー電池は、[1]または[2]のレドックスフロー電池であって、
前記第1電極(14)及び前記第2電極(15)間の電圧を検出する電圧検出装置(電圧計22)をさらに備え、
前記制御装置(21)には、前記レドックスフロー電池(1)の充電時のカットオフ電圧が予め設定されており、前記レドックスフロー電池(1)の充電中に前記電圧検出装置(22)による検出値が前記カットオフ電圧に達したら、前記制御装置(21)は前記電源(18)からの電流の供給を停止する。
【0078】
このような構成によれば、過電圧による充電時の第2電解液の液電位の低下が抑えられ、第2電解液に含まれる活物質の分解が抑制されるので、活物質としてキノン類を使用するレドックスフロー電池において運転条件を適正化することができる。
【0079】
[4]さらに別の態様に係るレドックスフロー電池は、[3]のレドックスフロー電池であって、
前記カットオフ電圧は1.7Vである。
【0080】
このような構成によれば、上記[3]の構成と同様に、活物質としてキノン類を使用するレドックスフロー電池において運転条件を適正化することができる。
【0081】
[5]さらに別の態様に係るレドックスフロー電池は、[1]~[4]のいずれかのレドックスフロー電池であって、
前記第1電解液(12)の温度を検出する第1温度検出装置(第1温度センサ23)と、
前記第2電解液(13)の温度を検出する第2温度検出装置(第2温度センサ24)と、
前記第1電解液(12)を加熱又は冷却する第1温度調節装置(25)と、
前記第2電解液(13)を加熱又は冷却する第2温度調節装置(26)と
をさらに備え、
前記第1温度検出装置(25)及び前記第2温度検出装置(26)のそれぞれによる検出値が30℃±15℃の範囲となるように、前記制御装置(21)は、前記第1温度調節装置(25)及び前記第2温度調節装置(26)を作動させて、前記第1電解液(12)及び前記前記第2電解液(13)のそれぞれの温度を調節する。
【0082】
活物質がキノン類である場合、電解液の温度が高すぎると活物質の分解反応の速度が促進されるおそれがある。一方で、電解液の温度が低すぎると、活物質の反応性の低下及び隔膜のイオン交換速度の低下により、過電圧が上昇してエネルギー効率が低下するおそれがある。また、電解液の温度が低すぎると、電解液に溶解する活物質の量が低下して、レドックスフロー電池の容量密度が低下するおそれもある。これに対し、上記構成によれば、電解液の温度が適正範囲に維持されるので、活物質の分解を抑制することができ、エネルギー効率の低下及び容量密度の低下を抑制することができ、結果として、活物質としてキノン類を使用するレドックスフロー電池において運転条件を適正化することができる。
【0083】
[6]さらに別の態様に係るレドックスフロー電池は、[1]~[5]のレドックスフロー電池であって、
前記第2室(4)に流入した活物質に対する前記第2室(4)で反応した活物質の割合である転化率Rを下記式で定義し、
R=I/(F×C×Q×n)
Iは前記第1電極(14)及び前記第2電極(15)間に流れる電流値であり、Fはファラデー定数であり、Cは前記第2電解液(13)中の前記活物質の濃度であり、Qは前記第2電解液(13)の循環流量であり、nは反応電荷であり、
前記制御装置(21)は、前記レドックスフロー電池(1)の充電中に前記転化率が予め設定された上限値以下となるように、前記電流値又は前記第2電解液(13)の循環流量の少なくとも一方を変更する。
【0084】
このような構成によれば、第2室の出口付近の高充電率状態を解消でき、これにより活物質の分解が抑制されるので、活物質としてキノン類を使用するレドックスフロー電池において運転条件を適正化することができる。
【0085】
[7]さらに別の態様に係るレドックスフロー電池は、[6]のレドックスフロー電池であって、
前記制御装置(21)は、前記転化率が予め設定された上限値以下となるように、前記第2電解液(13)の循環流量を変更する。
【0086】
このような構成によれば、Rを上限値以下とするために、第2電解液の循環流量を増加することになる。そうすると、第2電極表面の境界厚みが減少し、物質移動が促進されるので、濃度過電圧が抑制される。このような過電圧の減少に伴い、第2電解液の液電位の低下が抑制されて、第2電解液に含まれる活物質の分解が抑制されるので、活物質としてキノン類を使用するレドックスフロー電池において運転条件を適正化することができる。
【0087】
[8]さらに別の態様に係るレドックスフロー電池は、[6]または[7]のレドックスフロー電池であって、
前記転化率の上限値は50%である。
【0088】
このような構成によれば、上記[6]または[7]の構成と同様に、活物質としてキノン類を使用するレドックスフロー電池において運転条件を適正化することができる。
【0089】
[9]さらに別の態様に係るレドックスフロー電池は、[1]~[8]のレドックスフロー電池であって、
前記第2室(4)は、前記第2電解液(13)が流れる流路(32)を含み、
前記流路(32)は櫛歯流路である。
【0090】
このような構成によれば、流路を流れる第2電解液の圧力損失が低減されて、第2電解液の流量を増やすことができる。そうすると、第2電極表面の境界厚みが減少し、物質移動が促進されるので、濃度過電圧が抑制される。このような過電圧の減少に伴い、第2電解液の液電位の低下が抑制されて、第2電解液に含まれる活物質の分解が抑制されるので、活物質としてキノン類を使用するレドックスフロー電池において運転条件を適正化することができる。
【0091】
[10]さらに別の態様に係るレドックスフロー電池は、[1]~[9]のレドックスフロー電池であって、
前記第2電解液(13)は支持電解質を含み、
前記第2電解液(13)のpHは7~14である。
【0092】
このような構成によれば、第2電解液に支持電解液が含まれることにより、第2電解液の電気伝導度が向上し、液抵抗が減少する。液抵抗の低下に伴い過電圧が減少し、第2電解液の液電位の低下が抑えられ、第2電解液に含まれる活物質の分解が抑制されるので、活物質としてキノン類を使用するレドックスフロー電池において運転条件を適正化することができる。また、第2電解液のpHが7~14であることにより、キノン類に適したpHとなる。
【0093】
[11]さらに別の態様に係るレドックスフロー電池は、[10]のレドックスフロー電池であって、
前記第2電解液(13)のpHを検出するpH検出装置(50)と、
前記第2電解液(13)に酸又はアルカリを供給する供給装置(40)と
を備え、
前記制御装置(21)は、前記pH検出装置(50)による検出値に基づいて、前記供給装置(40)を作動させることにより前記第2電解液(13)に前記酸又はアルカリを供給する。
【0094】
このような構成によれば、レドックスフロー電池の運転中に第2電解液のpHが変動した場合でも、キノン類に適したpHに調整することができる。
【符号の説明】
【0095】
1 レドックスフロー電池
2 セル
3 第1室
4 第2室
5 隔膜
6 第1タンク
7 第1ポンプ(第1循環装置)
8 第2タンク
9 第2ポンプ(第2循環装置)
12 第1電解液
13 第2電解液
14 第1電極
15 第2電極
18 交流電源(電源)
20 充電率検出装置
21 制御装置
22 電圧計(電圧検出装置)
23 第1温度センサ(第1温度検出装置)
24 第2温度センサ(第2温度検出装置)
25 第1温度調節装置
26 第2温度調節装置
32 流路
40 供給装置
50 pH検出装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11