(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092839
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】アントラキノン類の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/343 20060101AFI20230627BHJP
C07C 59/66 20060101ALI20230627BHJP
C07C 51/09 20060101ALI20230627BHJP
C07C 69/712 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
C07C67/343
C07C59/66
C07C51/09
C07C69/712 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208081
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304000836
【氏名又は名称】学校法人 名古屋電気学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】平山 航一郎
(72)【発明者】
【氏名】木薮 敏康
(72)【発明者】
【氏名】森田 靖
(72)【発明者】
【氏名】村田 剛志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彩
(72)【発明者】
【氏名】岡田 茂満
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC46
4H006AC48
4H006BN30
4H006BP30
4H006BR70
4H006BS10
4H006KA31
(57)【要約】 (修正有)
【課題】異種の置換基を有するアントラキノン類の効率のよい製造方法を提供する。
【解決手段】下記化学式で表されるアントラキノン類の製造方法は、
R
1~R
8のうち、少なくとも1つは水酸基であり、少なくとも1つはアルコキシ基であり、前記製造方法は、下式で表される出発物質であって、
R
1’~R
8’のうちの少なくとも2つが水酸基である出発物質を準備するステップと、有機アルキル化剤と反応させるステップとを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式で表されるアントラキノン類の製造方法であって、
【化1】
前記R
1~R
8のうち、少なくとも1つは水酸基であり、少なくとも1つはアルコキシ基であり、
前記製造方法は、
下記化学式で表される出発物質であって、
【化2】
前記R
1’~R
8’のうちの少なくとも2つが水酸基である出発物質を準備するステップと、
前記出発物質を有機アルキル化剤と反応させるステップと
を含み、
前記出発物質と反応させる前記有機アルキル化剤の量は、前記出発物質に含まれる水酸基の個数をnとすると、前記出発物質1mol当たり、0.05mol以上nmol未満である、アントラキノン類の製造方法。
【請求項2】
前記R1’~R8’のうち前記R2’及びR6’が水酸基であり、残りが水素原子である、請求項1に記載のアントラキノン類の製造方法。
【請求項3】
R1’~R8’のうち前記R2’、R3’、R6’及びR7’が水酸基であり、残りが水素原子である、請求項1に記載のアントラキノン類の製造方法。
【請求項4】
前記有機アルキル化剤はハロゲン化アルキルカルボン酸エステルであり、
前記出発物質を前記ハロゲン化アルキルカルボン酸エステルと反応させた後に、アルカリで加水分解し、酸で処理するステップを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のアントラキノン類の製造方法。
【請求項5】
前記有機アルキル化剤はハロゲン化アルキルカルボン酸エステルであり、
前記出発物質を前記ハロゲン化アルキルカルボン酸エステルと反応させた後に、アルカリ性の水溶液中で加水分解するステップを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のアントラキノン類の製造方法。
【請求項6】
前記有機アルキル化剤はハロゲン化アルキルカルボン酸エステルであり、
前記出発物質を前記ハロゲン化アルキルカルボン酸エステルと反応させた後に、アルカリで加水分解し、減圧濃縮するステップを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のアントラキノン類の製造方法。
【請求項7】
前記ハロゲン化アルキルカルボン酸エステルは4-ブロモブタン酸アルキルである、請求項4~6のいずれか一項に記載のアントラキノン類の製造方法。
【請求項8】
加水分解した後の反応液に水を加えて濾過し、その濾液に酢酸水溶液を加えて濾過し、その濾上物にクロロホルムを加えて濾過し、その濾液を濃縮及び乾燥させる、請求項7に記載のアントラキノン類の製造方法。
【請求項9】
加水分解した後の反応液に塩酸を加えて濾過し、その濾上物にテトラヒドロフランを加えて濾過し、その濾液を濃縮及び乾燥して得られた固体に酢酸エチルを加えて濾過し、その濾液を濃縮及び乾燥して得られた固体にクロロホルムを加えて濾過し、その濾液を濃縮及び乾燥して得られた固体にメタノールを加えて濾過し、その濾液を濃縮及び乾燥させる、請求項7に記載のアントラキノン類の製造方法。
【請求項10】
前記ハロゲン化アルキルカルボン酸エステルのエステル部のアルキル基は、4以上の炭素が分岐を有するように結合した炭素鎖を有する、請求項4~6のいずれか一項に記載のアントラキノン類の製造方法。
【請求項11】
前記出発物質は2,6-ジヒドロキシアントラキノンであり、
2,6-ジアミノアントラキノンを原料として前記2,6-ジヒドロキシアントラキノンを合成するステップをさらに含む、請求項1~10のいずれか一項に記載のアントラキノン類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アントラキノン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レドックスフロー電池は、電解液タンクの容量に応じて電力貯蔵量を自在に設計できるため、大電力の貯蔵に適した電池であり、自然エネルギーを含めた電力需給平準化への適用が期待されている。レドックスフロー電池は、充放電を行うセルと、電力貯蔵を担う電解液タンクとで構成され、ポンプで電解液を循環させて充放電を行う点を特徴とする。
【0003】
現在では、電解液の活物質としてバナジウムを使用するレドックスフロー電池が主流であるが、近年のバナジウム価格の高騰等に起因して、有機物や金属錯体を活物質として使用するレドックスフロー電池の開発が行われている。例えば、特許文献1には、負極活物質にアントラキノン又はナフトキノンを使用するレドックスフロー電池が記載され、スルホ基を有する多数のアントラキノンが例示されている。特許文献2には、活物質そのものではないが、レドックスノンイノセント配位子を金属中心に配位した配位化合物を含有する組成物を活物質として使用するレドックスフロー電池が記載されており、レドックスノンイノセント配位子として、アントラキノンの1位~8位に様々な官能基が結合した多数のアントラキノンが例示されている。また、非特許文献1及び2にも、アントラキノンの1位~8位に様々な官能基や元素が結合した化合物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6574382号公報
【特許文献2】特表2019-514170号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】K.Lin,Q.Chen,M.R.Gerhardt,L.Tong,S.B.Kim,L.Eisenach,A.W.Valle,D.Hardee,R,G.Gordon,M,J.Aziz,M.P.Marshak,Science,349(2015) 1529-1532
【非特許文献2】D.G.Kwabi,K.Lin,Y.Ji.F.Kerr,M.Goulet,D.D.Porcellinis,D.P.Tabor,D.A.Pollack,A.Aspuru-Guzik,R.G.Gordon,M.J.Aziz,Joule 2,19(2018) 1894-1906
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レドックスフロー電池の活物質として重要なパラメータには、酸化還元電位、溶解度、耐久性、電解液の粘性などがあり、これらを理想的な値に近づけるためにはアントラキノンの1位~8位のそれぞれに結合する置換基の適切な選択が重要である。特許文献1並びに非特許文献1及び2には、アントラキノンの1位~8位のそれぞれに結合する置換基は独立して選択できるとされているが、特定の組み合わせの置換基を導入したアントラキノン類を実際に合成するための方法は、ごく一部の化合物を除いて確立されていない。
【0007】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも1つの実施形態は、異種の置換基を有するアントラキノン類が効率よく得られる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本開示に係るアントラキノン類の製造方法は、下記化学式で表されるアントラキノン類の製造方法であって、
【化1】
前記R
1~R
8のうち、少なくとも1つは水酸基であり、少なくとも1つはアルコキシ基であり、前記製造方法は、下記化学式で表される出発物質であって、
【化2】
前記R
1’~R
8’のうちの少なくとも2つが水酸基である出発物質を準備するステップと、前記出発物質を有機アルキル化剤と反応させるステップとを含み、前記出発物質と反応させる前記有機アルキル化剤の量は、前記出発物質に含まれる水酸基の個数をnとすると、前記出発物質1mol当たり、0.05mol以上nmol未満である。
【発明の効果】
【0009】
本開示のアントラキノン類の製造方法によれば、出発物質に含まれる水酸基の個数をnとすると、出発物質1mol当たり、0.05mol以上nmol未満の有機アルキル化剤を反応させることにより、出発物質の分子内の一部の水酸基が有機アルキル化剤と反応するので、異種の置換基を有するアントラキノン類が効率よく得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】化学反応式(6)によって得られた反応液から1置換体を分離する方法を説明するためのフローチャートである。
【
図2】化学反応式(6)によって得られた反応液から1置換体を分離する別の方法を説明するためのフローチャートである。
【
図3】化学反応式(7)によって得られた生成物から1置換体を分離する方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態によるアントラキノン類の製造方法について、図面に基づいて説明する。以下で説明する実施形態は、本開示の一態様を示すものであり、この開示を限定するものではなく、本開示の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0012】
<アントラキノン類の製造方法>
以下で説明する製造方法によって得られるアントラキノン類は、下記化学式(1)で表されるアントラキノン類であって、アントラキノン骨格の1位~8位のそれぞれに結合するR1~R8のうち、少なくとも1つは水酸基であり、少なくとも1つはアルコキシ基である。すなわち、異種の置換基である水酸基及びアルコキシ基を有するアントラキノン類が製造される。
【0013】
【0014】
この製造方法では、下記化学式(2)で表される化合物が出発物質として用いられる。化学式(2)において、アントラキノン骨格の1位~8位のそれぞれに結合するR1’~R8’のうちの少なくとも2つは水酸基である。
【0015】
【0016】
この製造方法では、下記化学反応式(3)で記載されるように、塩基の存在下で出発物質と有機アルキル化剤(RX)とを反応させる。化学反応式(3)において、Rはアルキル基、Xはハロゲン、トシレート、メシレート、スルフォネート、ホスフェート等、任意の脱離基である。Rは1~6個の炭素原子を有し、4~6個の炭素原子を有する場合は、直鎖状又は分岐を有する構造を有している。Rを構成する炭素原子同士の結合は一重結合に限定するものではなく、二重結合又は三重結合を含んでいてもよい。また、Rはエーテル結合を含んでもよい。さらに、Rを構成する炭素の少なくとも1つには、水素に代えて、ハロゲンや任意の官能基、例えば、スルホン基、アミノ基、ニトロ基、カルボキシル基、ホスホリル基、チオール基、アルキルエステル等が結合してもよい。また、塩基として、NaH、NaOH、KOH、K2CO3等を用いることができる。
【0017】
【0018】
化学反応式(3)において、出発物質と反応させる有機アルキル化剤の量は、出発物質に含まれる水酸基の個数をnとすると、出発物質1mol当たり、0.5mol以上nmol未満が好ましい。このような条件により、出発物質の分子内の一部の水酸基が有機アルキル化剤と反応するので、異種の置換基、すなわち水酸基及びアルコキシ基を有するアントラキノン類が効率よく得られる。ただし、有機アルキル化剤の量を出発物質1mol当たり0.5mol未満としても、生成物の回収作業は増えるものの、このような効果を得ることはできる。ただし、生成物の回収作業の増加を考慮して、有機アルキル化剤の量は、出発物質1mol当たり、0.05mol以上nmol未満としてもよい。
【0019】
例えば、この製造方法において出発物質として2,6-ジヒドロキシアントラキノン(2,6-DHAQ)を用いた場合、下記化学反応式(4)で記載されるように、例えば0.5mol~1.5molの有機アルキル化剤RXと1molの2,6-DHAQとを反応させることにより、2位に水酸基(OH)が結合するとともに6位にアルコキシ基(OR)が結合したアントラキノン類と、2位にアルコキシ基が結合するとともに6位に水酸基が結合したアントラキノン類とが生成する。これらの他に、未反応の出発物質と、2位及び6位にアルコキシ基が結合したアントラキノン類も存在する可能性があり、これら4種類のアントラキノン類の混合物が得られる。
【0020】
【0021】
さらに例えば、この製造方法において出発物質として2,3,6,7-テトラヒドロキシアントラキノン(2,3,6,7-THAQ)を用いた場合、出発物質には4つの水酸基が含まれているので、出発物質と反応させる有機アルキル化剤の量は、出発物質1mol当たり、1mol以上4mol未満である。この製造方法では、2位、3位、6位、7位の置換基が下記表1で示されるような組み合わせのアントラキノン類(化合物1~5)と、出発物質と、2位、3位、6位、7位の全てにアルコキシ基が結合したアントラキノン類との混合物が得られる。
【0022】
【0023】
<本開示の製造方法のバリエーション>
この製造方法において、有機アルキル化剤として、ハロゲン化アルキルカルボン酸エステルを用いてもよい。この場合、ハロゲン化アルキルカルボン酸エステルは、X-Ra-COORbのような一般式で表すことができ、RXで表される有機アルキル化剤のRは、Ra-COORbに相当する。この一般式において、Ra及びRbはそれぞれ任意のアルキル基である。例えば、出発物質である2,6-DHAQにこのようなハロゲン化アルキルカルボン酸エステルを反応させると、下記化学反応式(5)の第1段階の反応のように、水酸基の水素原子がRa-COORbに置換されたアントラキノン類である中間物質が生成する。次の第2段階の反応では、塩基の存在下でこの中間物質を反応させることによりエステル加水分解が生じ、任意の酸で処理することでアルコキシ基の末端がカルボキシル基となる。この製造方法により、カルボキシル基を含むアルコキシ基が結合したアントラキノン類を効率よく得ることができる。
【0024】
【0025】
例えば、この製造方法において、ハロゲン化アルキルカルボン酸エステルとして4-ブロモブタン酸エチルを用いることができる(Ra=C3H6かつRb=C2H5(Et)のときに相当)。この場合、下記化学反応式(6)で表されるように、出発物質である2,6-DHAQに4-ブロモブタン酸エチルを反応させると、一方の水酸基の水素原子が3-(エトキシカルボニル)プロピル基に置換されたアントラキノン類である中間物質が生成する。次に、塩基の存在下でこの中間物質を反応させることによりエステル加水分解が生じ、酢酸(AcOH)で処理することで、1つの水酸基と、カルボキシル基を含む1つのアルコキシ基とが結合したアントラキノン類(2-(3’-カルボキシプロピルオキシ)-6-ヒドロキシ-9,10-アントラキノン(2,6-MHMBEAQ))が得られる。
【0026】
【0027】
有機アルキル化剤の炭素鎖が短いとE2反応により、有機アルキル化剤の一部が分解し、反応に寄与しなくなってしまう。これに対し、4-ブロモブタン酸エチルを有機アルキル化剤として用いると、4-ブロモブタン酸エチルのブタン酸骨格を構成する炭素鎖長が適当な長さであることにより、4-ブロモブタン酸エチルが分解しにくいので、添加した大部分の4-ブロモブタン酸エチルが上記反応に寄与することができ、目的物の収率を高めることができる。
【0028】
化学反応式(6)では、水酸基とアルコキシ基とがそれぞれ1つずつ結合したアントラキノン類(以下、「1置換体」という)が生成されるように記載されているが、実際には、未反応の出発物質と、2つのアルコキシ基が結合したアントラキノン類(以下、「2置換体」という)とが混入した混合物が得られることになる。次に、上述の製造方法で得られたこの混合物から、1置換体を分離する2つの方法を説明する。
【0029】
1つ目の方法のフローチャートを
図1に示す。化学反応式(6)の反応液に水を加える。この反応液を濾過すると、濾液には主に1置換体と未反応の出発物質とが含まれている。一方、濾上物には主に、2置換体と1置換体とが含まれている。この濾過による濾液はアルカリ性であるため、濾液に酢酸を加えて中和し、2回目の濾過を行う。2回目の濾過による濾上物にクロロホルムを加え、3回目の濾過を行う。3回目の濾過による濾液を濃縮及び乾燥をすることで、1置換体を分離することができる。
【0030】
2つ目の方法のフローチャートを
図2に示す。化学反応式(6)の反応液はアルカリ性であるため、塩酸を加えて中和する。中和した反応液を濾過する。濾上物にテトラヒドロフラン(THF)を加えて40~60℃の温度範囲で4時間攪拌した後に放冷する。これを濾過し、濾液を濃縮・乾燥する。濃縮・乾燥により得られた固体に酢酸エチルを加えて40~70℃の温度範囲で1時間攪拌する。その後、室温から50℃の温度範囲で濾過する。濾液を濃縮・乾燥する。濃縮・乾燥により得られた固体にクロロホルムを加えて40~60℃の温度範囲で1時間攪拌する。これを濾過し、濾液を濃縮・乾燥する。濃縮・乾燥により得られた固体にメタノールを加えて45~55℃に加熱する。その後、放冷・静置する。これを濾過し、濾液を濃縮及び乾燥をすることで、1置換体を分離することができる。尚、上記説明において攪拌時間は厳密なものではなくおおよその目安であるので、上述の時間に比べて大幅に短縮又は延長しない限り、変更は可能である。
【0031】
本開示の発明者らの実験によれば、化学反応式(6)で表される反応によって、1置換体が約40質量%、2置換体が約30質量%、未反応の出発物質が約30質量%含まれている反応液が得られたことを確認した。この反応液に上記2つの方法を行って、1置換体を分離したところ、1つ目の方法を採用した場合では、1置換体の収率は12~18%だったのに対し、2つ目の方法を採用した場合では、1置換体の収率は約40%だった。1つ目の方法では、1回目の濾過による濾上物に1置換体が含まれているので、濾上物に含まれた分だけ回収できない1置換体が増えてしまう。両方法のいずれでも1置換体を分離することはできるが、2つ目の方法のほうが収率も高くなるので、好ましい方法であると言える。
【0032】
化学反応式(6)の加水分解反応は、イソプロピルアルコールや1,2-ジメトキシエタン等の有機溶媒中において塩基の存在下で行われるが、このような有機溶媒を用いずに水酸化カリウム又は水酸化ナトリウム水溶液(アルカリ性の水溶液)を用いて加水分解を行うこともできる。この場合、その後の任意の酸による処理を省略することもできる。また、有機溶媒を用いた加水分解であっても、加水分解反応の後に酸による処理をせずに減圧濃縮して有機溶媒を留去してもよい。この場合、アルカリ性の水溶液が得られる。このような方法で加水分解する場合、化学反応式(6)の最終生成物の水酸基が-OK又は-ONaとなり、カルボキシル基が、-COOK又は-COONaとなる。2,6-MHMBEAQのように水酸基やカルボキシル基を有する化合物を活物質としてアルカリ性の電解液に溶解させて使用する場合、水酸基やカルボキシル基の中和にアルカリが消費される。レドックスフロー電池で使用するためのアルカリ性の電解液を調製するには、水酸基やカルボキシル基を中和するためのアルカリが必要になる。しかしながら、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを用いて加水分解して得られた最終生成物が溶解する溶液は、そのままでアルカリ性の電解液としてレドックスフロー電池で使用することができる。
【0033】
ハロゲン化アルキルカルボン酸エステルとして4-ブロモブタン酸エチルを例にして本開示の製造方法を具体的に説明したが、エステル基を構成するエチル基に代えて、メチル基やプロピル基、ブチル基等、任意のアルキル基がカルボキシル基に結合した4-ブロモブタン酸アルキルを用いてもよい。ただし、4以上の炭素が分岐を有するように結合した炭素鎖を有するアルキル基がエステル基として構成される4-ブロモブタン酸アルキルを用いることが好ましい。このようなハロゲン化カルボン酸アルキルを用いることにより、異種の置換基を有するアントラキノン類と、副生する同種の置換基を有するアントラキノン類との溶解性の差が大きくなるので、洗浄・抽出工程における分離が容易となる。
【0034】
例えば、下記化学反応式(7)で表されるように、出発物質の2,6-DHAQに、ハロゲン化アルキルカルボン酸エステルとしての4-ブロモブタン酸(2’-エチル)ヘキシルを反応させる。そうすると、2つの水酸基のうちの一方がアルコキシ基に置換された1置換体と、2つの水酸基のそれぞれがアルコキシ基に置換された2置換体とが生成する。化学反応式(7)によって得られた反応液には、1置換体及び2置換体の他に、未反応の出発物質も含まれている。
【0035】
【0036】
次に、化学反応式(7)によって得られた反応液から1置換体を分離する方法について、
図3のフローチャートに基づいて説明する。反応液に水を加えて吸引濾過を行い、水洗を行う。得られた濾上物にヘキサンを加える。これを遠心分離する。1置換体及び2置換体それぞれのヘキサンに対する溶解度が大きく異なるために、遠心分離した液相には主に2置換体が溶解しており、遠心分離により得た沈殿物には主に1置換体が含まれている。この沈殿物を回収して真空乾燥することで、1置換体を分離することができる。この1置換体を加水分解することにより、エステル基を構成する2-エチルヘキシル基が水素原子に置換された2,6-MHMBEAQが高収率で得られる。
【0037】
2,6-DHAQは工業的に量産されているので、出発物質として入手しやすく、その結果、目的とするアントラキノン類の製造コストを低減することができる。一方で、2,6-DHAQは、公知のザンドマイヤー反応によって2,6-ジアミノアントラキノン(2,6-DAAQ)から容易に合成が可能である。2,6-DAAQは2,6-DHAQよりも安価(およそ10分の1以下)であるため、2,6-DAAQからザンドマイヤー反応によって合成した2,6-DHAQを出発物質として用いることにより、目的とするアントラキノン類の製造コストをさらに低減することができる。
【実施例0038】
<実施例1>
2,6-DHAQから2,6-MHMBEAQを、下記化学反応式(8)で表される手順で合成した。この合成の概略は次の通りである。出発物質としての2,6-DHAQから、一方の水酸基の水素がブタン酸エチル基に置換されたアルコキシ基を有する中間物質が合成され、この中間物質から、目的物質の2,6-MHMBEAQが合成される。
【0039】
【0040】
1Lナスフラスコに40.0g(167mmol)の2,6-DHAQ(東京化成工業株式会社)と、500mLのN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を入れ、攪拌しながら23.1g(167mmol)の炭酸カリウムを加え、次いで、23.9mL(167mmol)の4-ブロモブタン酸エチルを加えた。その後、昇温を開始し、100℃にて17時間攪拌した。放冷した後、600mLの蒸留水を加えて、析出物を吸引濾過し、濾上物を蒸留水で洗浄した。濾液(pH>9)を攪拌しながら、6Mの塩酸を加えた。濾液のpHが3未満となり、塩酸を加えても二酸化炭素が発生しなくなるまで塩酸を加えた後、室温で1時間攪拌した。析出物を200mLの遠沈管に移し、遠心分離して沈殿物を分離した。沈殿物を吸引濾過して蒸留水で洗浄し、次いで80℃で6時間真空乾燥し、原料と中間物質との混合物11.4gを得た。得られた固体を粉砕して粉末状にし、200mLのクロロホルムに懸濁させた。吸引濾過により不溶物を除き、200mLのクロロホルムを用いて可溶物が全て溶けきるまで洗浄した。この操作により未反応の原料11.1gを回収した。濾液を再度吸引濾過して不溶物を完全に除き、濾液を減圧濃縮した。残渣を蒸留水に懸濁させて吸引濾過、洗浄し、80℃で4時間真空乾燥して、6.96gの中間物質を赤褐色固体として得た(収率は12%)。
【0041】
次に、1Lナスフラスコに6.96g(19.6mmol)の中間物質を入れ、190mLのイソプロピルアルコールと380mLの蒸留水を入れた。ここに、4.48g(79.9mmol)の水酸化カリウムを加えて昇温を開始し、60℃にて20時間攪拌した。放冷した後、550mLの蒸留水を加え、2L三角フラスコに移し、攪拌しながらpHが3未満になるまで2M塩酸を加えた。2時間攪拌した後、遠心分離により沈殿物を分離した。上澄み液と沈殿物とをそれぞれ吸引濾過し、濾上物を蒸留水で洗浄した。濾上物を80℃で4時間真空乾燥して、6.25gの目的物質を得た(中間物質からの収率は98%)。尚、実施例1では、イソプロピルアルコールに代えて、1,2-ジメトキシエタンを用いることもできる。
【0042】
<実施例2>
下記化学反応式(9)で表される反応によって、以下の手順で、2,6-DAAQから2,6-DHAQを合成した。3L反応容器に、95.2g(400mmol)の2,6-DAAQ(東京化成工業株式会社)と1.6Lの20%希硫酸とを入れた。この混合物を氷浴上で撹拌しつつ、71.8g(1.04mol)の亜硝酸ナトリウムを含む水溶液250mLをこの混合物に1時間かけて加えた。マイナス10℃からマイナス17℃の間で14時間攪拌して、ビスジアゾニウム塩の懸濁液を得た。別の5Lの反応容器に1.6Lの温水を入れ、85~90℃を保ちながら、ビスジアゾニウム塩の懸濁液をこの温水に約2時間かけて加えた。この懸濁液を加え終えた後、同温度を保ちながら2時間攪拌を継続した。室温まで放冷した後、析出物を吸引濾過し、濾上物を蒸留水で洗浄し、15時間加熱乾燥することで、92.0gの2,6-DHAQを得た(収率は96%)。このようにして得られた2,6-DHAQから、実施例1の方法で、2,6-MHMBEAQを合成することができる。
【0043】
【0044】
また、実施例1の方法ではなく、次の2段階の化学反応式(10)による方法によっても2,6-MHMBEAQを合成することができる。
【0045】
【0046】
3L三つ口フラスコに、192g(800mmol)の2,6-DHAQと、2.2LのDMFとを入れた。85~95℃の温度まで昇温し、攪拌しながら84.0g(608mmol)の炭酸カリウムを加え、次いで67.4g(345mmol)の4-ブロモブタン酸エチルを加え、この温度のまま攪拌を1時間継続した。放冷した後、3Lの冷水(0~10℃)と、220mLの6M塩酸と、2Lの水(15~30℃)とを加え、析出物を吸引濾過して水で洗浄、次いで加熱乾燥して、217.7gの固体を得た。150gのこの固体に2.1LのTHFを加えて不溶物を濾過により取り除き、濾液を濃縮して103gの固体を得た。この固体に1.5Lの酢酸エチルを加え、不溶物を濾過で取り除き、濾液を減圧濃縮して72gの固体を得た。この固体に1.1Lのクロロホルムを加えて不溶物を濾過により取り除き、濾液を減圧濃縮して52gの固体を得た。この固体に800mLのメタノールを加えて不溶物を濾過により取り除き、濾液を減圧濃縮して36.6gの固体を得た(1段階目の反応の収率は21%)。
【0047】
1Lナスフラスコに、1段階目の反応によって得られた25.0g(71mmol)の固体を入れ、275mLのエチレングリコールジメチルエーテルを加えて溶液とした。ここに178mL(178mmol)の1M水酸化ナトリウム水溶液を加えて昇温を開始し、60℃にて30分間攪拌した。反応溶液を放冷した後、33mLの6M塩酸を加えて酸性にし、減圧濃縮して有機溶媒を留去した。析出物を吸引濾過し、濾上物を蒸留水で洗浄した。洗浄した濾上物を90℃で16時間風乾して、22.2gの2,6-MHMBEAQを得た(2段階目の反応の収率は96%)。
【0048】
<実施例3>
下記化学反応式(11)~(15)で表される反応によって、以下の手順で、アントラキノン骨格の2位、3位、6位、7位のうちの2つに水酸基が結合し、残りの2つに、カルボキシル基を有するアルコキシ基(-OC3H6COOH)が結合した化合物(目的物質)を合成した。まず、下記化学反応式(11)~(13)で表される反応によって、以下の手順で、1,2-ジメトキシベンゼンから、2,3,6,7-THAQを合成した。
【0049】
【0050】
500mLビーカーに、42gの氷と100mLの濃硫酸とを入れた。反応溶液の温度が5℃を超えないように注意しながら、25.1g(182mmol)の1,2-ジメトキシベンゼン(東京化成工業株式会社から入手可能)と7.3mL(308mmol)のアセトアルデヒドとの混合溶液を攪拌しながら反応溶液に2.5時間かけて滴下し、その後、室温で22時間攪拌した。この反応溶液を、350mLのエタノールを入れた1000mL三角フラスコに注ぎ、60mLのメタノールで洗い込みをした。析出物を吸引濾過し、濾上物を160mLのエタノールと320mLの蒸留水とで洗浄した後、60℃で5時間真空乾燥を行い、22.3gの白色固体を得た(化学反応式(11)の収率は75%)。
【0051】
15.1g(46.1mmol)の上記白色固体を1Lナスフラスコに入れ、750mLの酢酸に懸濁させて、85.4g(287mmol)の二クロム酸ナトリウム2水和物を加えた。反応溶液を油浴上で5時間加熱還流した。反応後に放冷、静置して得られた析出物を吸引濾過した。濾上物を蒸留水で洗浄し、70℃で4時間真空乾燥して、12.4gの黄色固体を得た(化学反応式(12)の収率は82%)。
【0052】
18.8g(57.1mmol)の上記黄色固体を1Lナスフラスコに入れ、250mLの47%臭化水素酸に懸濁させて、油浴上で、150℃で6日間加熱還流した。6日間の間、90mLの47%臭化水素酸を添加した。反応溶液を放冷した後、沈管に移して遠心分離して上澄み液を除いた。残渣に400mLの蒸留水を加えて分散させ、再度遠心分離を行い、上澄み液を取り除いた。不溶物を吸引濾過した後に蒸留水で洗浄し、濾上物を70~80℃で13時間真空乾燥して、15.1gの2,3,6,7-THAQを得た(化学反応式(13)の収率は98%)。
【0053】
このようにして得られた2,3,6,7-THAQから、下記化学反応式(14)で表される反応によって、以下の手順で合成した。この合成の概略は次の通りである。2,3,6,7-THAQから、2つの水酸基の水素がブタン酸エチルに置換されたアルコキシ基を有する中間混合物が得られ、この中間混合物から、目的物質が得られる。
【0054】
【0055】
1Lナスフラスコに、19.8g(72.2mmol)の2,3,6,7-THAQと、280mLのDMFとを入れた。ここに、19.9g(144mmol)の炭酸カリウムと、20.7mL(144mmol)の4-ブロモブタン酸エチルとを加えた。その後、昇温を開始し、100℃にて23時間攪拌した。放冷した後、150mLの蒸留水を加えて析出物を吸引濾過した。濾液に6M塩酸をpHが3~4程度になるまで攪拌しながら加え、析出物を遠心分離及び吸引濾過により回収した。この析出物に対して、クロロホルムを用いたソックスレー抽出を行った。抽出液を減圧濃縮することで、5.04gの中間混合物を得た(収率は14%)。
【0056】
5.15gの中間混合物を500mLナスフラスコに入れ、ここに、90mLのイソプロピルアルコールと180mLの蒸留水を加えた。さらに4.62g(82.3mmol)の水酸化カリウムを加えた後に昇温を開始し、60℃にて20時間加熱攪拌した。放冷した後、300mLの蒸留水を入れた1Lビーカーに注ぎ、攪拌しながらpHが3未満になるまで2M塩酸を加えた。1時間攪拌した後、遠心分離によって沈殿物を分離した。この沈殿物を蒸留水で洗浄しながら吸引濾過によって回収し、濾上物を70℃で2.5時間真空乾燥して、3.71gの目的物質を得た(中間混合物から混合物の収率は91%)。
【0057】
<実施例4>
下記化学反応式(15)~(17)で表される反応によって、2,6-MHMBEAQを合成した。まず、下記化学反応式(15)で表される反応よって、以下の手順で、4-ブロモブタン酸(2’-エチル)ヘキシルを合成した。
【0058】
【0059】
200mLナスフラスコに、8.56g(51.3mmol)の4-ブロモブタン酸と70mLのシクロヘキサンとを入れた。ここに、7.40mL(47.2mmol)の2-エチル-1-ヘキサノールと0.98g(5.14mmol)のp-トルエンスルホン酸1水和物とを加え、ディーンスターク装置を取り付けて、21時間加熱還流した。放冷した後、反応溶液を分液ロートに移し、30mLのシクロヘキサンと50mLの飽和炭酸水素ナトリウム水溶液とを加え、分液した。有機相を、50mLの飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤を濾過により除去した後、減圧濃縮、真空乾燥して、11.8gの淡黄色油状物を得た(化学反応(15)の収率は89%)。
【0060】
次に、下記化学反応式(16)で表される反応によって、以下の手順で、2,6-DHAQ(東京化成工業株式会社)と上記淡黄色油状物である4-ブロモブタン酸(2’-エチル)ヘキシルとを反応させた。50mLナスフラスコに、1.20g(4.99mmol)の2,6-DHAQと19mLのN-メチルピロリドンとを入れた。ここに、0.52g(3.78mmol)の炭酸カリウムを加えて95℃に昇温し、0.70gの上記淡黄色油状物を加え、95℃の温度に維持しながら21時間加熱攪拌した。氷冷した後、反応溶液に25mLの蒸留水を加え、分離した粘性固体(0.61g)を吸引濾過、水洗して回収した。この固体を25mLのヘキサン中に分散させて、沈降物を遠心分離により回収し、さらに25mLのヘキサンを加えて同様の操作を繰り返し、0.49gの淡黄固体を得た(化学反応(16)の収率は22%)。
【0061】
【0062】
次に、下記化学反応式(17)で表される反応によって、以下の手順で、2,6-MHMBEAQを合成した。50mLナスフラスコに、0.294gの上記淡黄固体を入れ、10mLのイソプロピルアルコールと20mLの蒸留水とを入れた。ここに、0.211g(2.68mmol)の水酸化カリウムを加えて昇温を開始し、60℃にて20時間攪拌した。放冷した後、20mLの蒸留水を加え、攪拌しながらpHが3未満となるまで2M塩酸を加えた。このとき、黄色の沈殿物が溶液全体に分散していた。2時間の撹拌後、遠心分離により沈殿を分離した。上澄み液と沈殿とをそれぞれ吸引濾過し、濾上物を蒸留水で洗浄した。固体を80℃で2時間真空乾燥して、0.206gの2,6-MHMBEAQを得た(化学反応(17)の収率は94%)。
【0063】
【0064】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0065】
[1]一の態様に係るアントラキノン類の製造方法は、
下記化学式で表されるアントラキノン類の製造方法であって、
【化18】
前記R
1~R
8のうち、少なくとも1つは水酸基であり、少なくとも1つはアルコキシ基であり、
前記製造方法は、
下記化学式で表される出発物質であって、
【化19】
前記R
1’~R
8’のうちの少なくとも2つが水酸基である出発物質を準備するステップと、
前記出発物質を有機アルキル化剤と反応させるステップと
を含み、
前記出発物質と反応させる前記有機アルキル化剤の量は、前記出発物質に含まれる水酸基の個数をnとすると、前記出発物質1mol当たり、0.05mol以上nmol未満である。
【0066】
本開示のアントラキノン類の製造方法によれば、出発物質に含まれる水酸基の個数をnとすると、出発物質1mol当たり、0.05mol以上nmol未満の有機アルキル化剤を反応させることにより、出発物質の分子内の一部の水酸基が有機アルキル化剤と反応するので、異種の置換基を有するアントラキノン類が効率よく得られる。
【0067】
[2]別の態様に係るアントラキノン類の製造方法は、[1]のアントラキノン類の製造方法であって、
前記R1’~R8’のうち前記R2’及びR6’が水酸基であり、残りが水素原子である。
【0068】
このような構成によれば、工業的に量産されている2,6-ジヒドロキシアントラキノンを出発物質として用いるので、アントラキノン類の製造コストを低減することができる。
【0069】
[3]さらに別の態様に係るアントラキノン類の製造方法は、[1]のアントラキノン類の製造方法であって、
R1’~R8’のうち前記R2’、R3’、R6’及びR7’が水酸基であり、残りが水素原子である。
【0070】
このような構成によれば、2,3,6,7-テトラヒドロキシアントラキノンを出発物質として用いるが、これは高収率で合成が可能であり、原料入手性が良いので、アントラキノン類の製造コストを低減することができる。
【0071】
[4]さらに別の態様に係るアントラキノン類の製造方法は、[1]~[3]のいずれかのアントラキノン類の製造方法であって、
前記有機アルキル化剤はハロゲン化アルキルカルボン酸エステルであり、
前記出発物質を前記ハロゲン化アルキルカルボン酸エステルと反応させた後に、アルカリで加水分解し、酸で処理するステップを含む。
【0072】
このような構成によれば、カルボキシル基を含むアルコキシ基が結合したアントラキノン類を効率よく得ることができる。
【0073】
[5]さらに別の態様に係るアントラキノン類の製造方法は、[1]~[3]のいずれかのアントラキノン類の製造方法であって、
前記有機アルキル化剤はハロゲン化アルキルカルボン酸エステルであり、
前記出発物質を前記ハロゲン化アルキルカルボン酸エステルと反応させた後に、アルカリ性の水溶液中で加水分解するステップを含む。
【0074】
このような構成によれば、アントラキノン類を含むアルカリ性の水溶液が得られるので、そのままでアルカリ性の電解液としてレドックスフロー電池で使用することができる。
【0075】
[6]さらに別の態様に係るアントラキノン類の製造方法は、[1]~[3]のいずれかのアントラキノン類の製造方法であって、
前記有機アルキル化剤はハロゲン化アルキルカルボン酸エステルであり、
前記出発物質を前記ハロゲン化アルキルカルボン酸エステルと反応させた後に、アルカリで加水分解し、減圧濃縮するステップを含む。
【0076】
このような構成によれば、アルカリでの加水分解後の減圧濃縮により、アントラキノン類を含むアルカリ性の水溶液が得られるので、そのままでアルカリ性の電解液としてレドックスフロー電池で使用することができる。
【0077】
[7]さらに別の態様に係るアントラキノン類の製造方法は、[4]~[6]のいずれかのアントラキノン類の製造方法であって、
前記ハロゲン化アルキルカルボン酸エステルは4-ブロモブタン酸アルキルである。
【0078】
ハロゲン化アルキルカルボン酸エステルの炭素鎖が短いとE2反応により、ハロゲン化アルキルカルボン酸エステルの一部が分解し、反応に寄与しなくなってしまう。これに対し、このような構成によれば、4-ブロモブタン酸アルキルのブタン酸骨格を構成する炭素鎖長が適当な長さであることにより、4-ブロモブタン酸アルキルが分解しにくいので、添加した大部分の4-ブロモブタン酸アルキルが反応に寄与することができ、目的物の収率を高めることができる。
【0079】
[8]さらに別の態様に係るアントラキノン類の製造方法は、[7]のアントラキノン類の製造方法であって、
加水分解した後の反応液に水を加えて濾過し、その濾液に酢酸水溶液を加えて濾過し、その濾上物にクロロホルムを加えて濾過し、その濾液を濃縮及び乾燥させる。
【0080】
このような構成によれば、異種の置換基を有するアントラキノン類を高収率で得ることができる。
【0081】
[9]さらに別の態様に係るアントラキノン類の製造方法は、[7]のアントラキノン類の製造方法であって、
加水分解した後の反応液に塩酸を加えて濾過し、その濾上物にテトラヒドロフランを加えて濾過し、その濾液を濃縮及び乾燥して得られた固体に酢酸エチルを加えて濾過し、その濾液を濃縮及び乾燥して得られた固体にクロロホルムを加えて濾過し、その濾液を濃縮及び乾燥して得られた固体にメタノールを加えて濾過し、その濾液を濃縮及び乾燥させる。
【0082】
このような構成によれば、異種の置換基を有するアントラキノン類を高収率で得ることができる。
【0083】
[10]さらに別の態様に係るアントラキノン類の製造方法は、[4]~[6]のいずれかのアントラキノン類の製造方法であって、
前記ハロゲン化アルキルカルボン酸エステルのエステル部のアルキル基は、4以上の炭素が分岐を有するように結合した炭素鎖を有する。
【0084】
このような構成によれば、異種の置換基を有するアントラキノン類と、副生する同種の置換基を有するアントラキノン類との溶解性の差が大きくなるので、洗浄・抽出工程における分離が容易となる。
【0085】
[11]さらに別の態様に係るアントラキノン類の製造方法は、[1]~[10]のいずれかのアントラキノン類の製造方法であって、
前記出発物質は2,6-ジヒドロキシアントラキノンであり、
2,6-ジアミノアントラキノンを原料として前記2,6-ジヒドロキシアントラキノンを合成するステップをさらに含む。
【0086】
このような構成によれば、2,6-ジヒドロキシアントラキノンよりも安価な2,6-ジアミノアントラキノンから出発物質である前者を製造することにより、アントラキノン類の製造コストを低減することができる。