(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092871
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】試料支持体
(51)【国際特許分類】
H01J 49/04 20060101AFI20230627BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20230627BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20230627BHJP
H01J 49/16 20060101ALN20230627BHJP
【FI】
H01J49/04 180
G01N27/62 F
H01J49/00 090
H01J49/16 400
H01J49/16 500
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208136
(22)【出願日】2021-12-22
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100177910
【弁理士】
【氏名又は名称】木津 正晴
(72)【発明者】
【氏名】池田 貴将
(72)【発明者】
【氏名】小谷 政弘
(72)【発明者】
【氏名】大村 孝幸
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA03
2G041EA03
2G041EA13
2G041FA10
2G041JA06
2G041LA09
(57)【要約】
【課題】質量校正を好適に行うことができる試料支持体を提供する。
【解決手段】試料支持体1は、試料のイオン化に用いられる試料支持体である。試料支持体1は、第1表面2a、及び第1表面2aとは反対側の第2表面2bを有すると共に、第1表面2a及び第2表面2bを互いに連通させる多孔質構造が形成された測定領域Rを有する基板2を備える。基板2内には、第1表面2aと面一な表面3aを有する校正部3が形成されている。校正部3の吸水性は、測定領域Rの吸水性よりも低い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料のイオン化に用いられる試料支持体であって、
第1表面、及び前記第1表面とは反対側の第2表面を有すると共に、前記第1表面及び前記第2表面を互いに連通させる多孔質構造が形成された測定領域を有する基板を備え、
前記基板内には、前記第1表面と面一な表面を有する校正部が形成されており、
前記校正部の吸水性は、前記測定領域の吸水性よりも低い、試料支持体。
【請求項2】
前記校正部は、前記測定領域内に形成されている、請求項1に記載の試料支持体。
【請求項3】
前記校正部は、前記基板の材料とは異なる材料により形成されている、請求項1又は2に記載の試料支持体。
【請求項4】
前記校正部は、前記基板の材料と同一の材料により形成されている、請求項1又は2に記載の試料支持体。
【請求項5】
前記校正部は、前記測定領域の吸水性よりも低い吸水性を有する部材が前記基板内に埋め込まれることにより形成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の試料支持体。
【請求項6】
前記多孔質構造は、ガラスを含む材料により形成されており、
前記校正部は、前記多孔質構造の一部を溶融させた後に固化させることにより形成されている、請求項1,2,4のいずれか一項に記載の試料支持体。
【請求項7】
前記校正部は、前記多孔質構造内に充填材が充填されることにより形成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の試料支持体。
【請求項8】
前記校正部は、前記基板内に複数形成されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の試料支持体。
【請求項9】
前記校正部は、セラミックスにより形成されている、請求項1~8のいずれか一項に記載の試料支持体。
【請求項10】
前記多孔質構造は、ガラスビーズの焼結体、多孔質ガラス、繊維多孔質体、陽極酸化されたシリコン、陽極酸化されたバルブ金属、多孔質セラミック、又は多孔質金属により形成されている、請求項1~8のいずれか一項に記載の試料支持体。
【請求項11】
前記第1表面及び前記校正部の前記表面は、導電性を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の試料支持体。
【請求項12】
前記第1表面及び前記校正部の前記表面は、電気絶縁性を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の試料支持体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料支持体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、生体試料等の試料の質量分析において試料のイオン化に用いられる試料支持体が記載されている。特許文献1に記載の試料支持体は、互いに対向する第1表面及び第2表面を連通するように形成された多孔質構造を有する基板を備えている。この試料支持体では、例えば、第2表面が試料に対向するように試料上に試料支持体を配置した場合に、基板の第2表面側から多孔質構造を介して第1表面側に向けて試料の成分を移動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような質量分析においては、試料の測定を開始する前に質量校正(マスキャリブレーション)が行われる場合がある。質量校正では、例えば、基板上に質量校正用の試料(校正試料)を滴下して測定が実施され、その測定結果に基づいてマススペクトルの補正が行われる。しかしながら、上述したような試料支持体において基板上に校正試料を滴下した場合、校正試料が多孔質構造により吸水されることで、滴下した箇所を見失ってしまうおそれがある。また、試料の成分の多くが多孔質構造を介して裏面側に移動してしまい、表面側に留まる成分が少なくなってしまうおそれもある。そのため、質量校正が困難となるおそれがある。これらの事態は、校正試料の濃度が測定用の試料の濃度よりも薄い場合に発生しやすい。
【0005】
本発明は、質量校正を好適に行うことができる試料支持体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の試料支持体は、試料のイオン化に用いられる試料支持体であって、第1表面、及び第1表面とは反対側の第2表面を有すると共に、第1表面及び第2表面を互いに連通させる多孔質構造が形成された測定領域を有する基板を備え、基板内には、第1表面と面一な表面を有する校正部が形成されており、校正部の吸水性は、測定領域の吸水性よりも低い。
【0007】
この試料支持体では、基板内に第1表面と面一な表面を有する校正部が形成されており、校正部の吸水性が測定領域の吸水性よりも低くなっている。これにより、校正部の表面上に校正試料を配置した場合に、校正試料が吸水されにくく、溶媒が乾燥して校正試料の成分が校正部の表面に析出しやすい。また、校正部が測定領域とは異なる吸水性を有するように構成されていることから、校正部の位置を目視により把握しやすい。また、校正部が基板の第1表面と面一な表面を有することで、質量校正を精度良く行うことが可能となる。また、校正試料の成分が濃縮されて析出しやすいため、濃度が薄い校正試料を使用することが可能となる。以上により、この試料支持体によれば、質量校正を好適に行うことができる。
【0008】
校正部は、測定領域内に形成されていてもよい。この場合、校正部の表面を確実に第1表面と面一とすることができる。また、校正部を実際の測定が行われる箇所に近づけることができる。
【0009】
校正部は、基板の材料とは異なる材料により形成されていてもよい。この場合、校正部の材料選択の自由度を高めることができる。また、校正部の位置を一層把握しやすくすることができる。また、基板の材料選択の自由度を高めることができることで、試料のイオン化の効率を制御することが可能となる。
【0010】
校正部は、基板の材料と同一の材料により形成されていてもよい。この場合、校正部の形成を容易化及び低コスト化することができる。
【0011】
校正部は、測定領域の吸水性よりも低い吸水性を有する部材が基板内に埋め込まれることにより形成されていてもよい。この場合、校正部を再現性良く形成することができると共に、校正部の大きさの調整を容易化することができる。
【0012】
多孔質構造は、ガラスを含む材料により形成されており、校正部は、多孔質構造の一部を溶融させた後に固化させることにより形成されていてもよい。この場合、校正部の形成を容易化及び低コスト化することができる。
【0013】
校正部は、多孔質構造内に充填材が充填されることにより形成されていてもよい。この場合、校正部の形成を容易化及び低コスト化することができる。
【0014】
校正部は、基板内に複数形成されていてもよい。この場合、複数の校正部に互いに濃度が異なる複数の校正試料をそれぞれ配置して質量校正を行うことができ、例えば定量測定を行うことが可能となる。
【0015】
校正部は、セラミックスにより形成されていてもよい。この場合、校正部を再現性良く形成することができると共に、校正部の大きさの調整を容易化することができる。
【0016】
多孔質構造は、ガラスビーズの焼結体、多孔質ガラス、繊維多孔質体、陽極酸化されたシリコン、陽極酸化されたバルブ金属、多孔質セラミック、又は多孔質金属により形成されていてもよい。この場合、多孔質構造を好適に構成することができる。
【0017】
第1表面及び校正部の表面は、導電性を有していてもよい。この場合、例えば、レーザ光等のエネルギー線を第1表面に照射することで試料の成分をイオン化させるレーザ脱離イオン化法により試料をイオン化させることができる。
【0018】
第1表面及び校正部の表面は、電気絶縁性を有していてもよい。この場合、例えば、試料に対して帯電した微小液滴を照射することで試料を脱離及びイオン化させる脱離エレクトロスプレーイオン化法(Desorption Electrospray Ionization)により試料をイオン化させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、質量校正を好適に行うことができる試料支持体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】(a)は、実施形態の試料支持体の平面図であり、(b)は、(a)に示されるB-B線に沿っての試料支持体の断面図である。
【
図2】(a)~(c)は、第1~第3変形例の試料支持体の断面図である。
【
図3】第4変形例の試料支持体を用いた質量校正について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、各図において同一部分又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
[試料支持体の構成]
【0022】
図1に示される試料支持体1は、例えば質量分析の際に、測定対象の試料の成分をイオン化するために用いられる。試料は、例えば生体試料等である。試料支持体1は、基板2を備えている。基板2は、例えば、絶縁性材料により長方形板状に形成されており、第1表面2aと、第1表面2aとは反対側の第2表面2bとを有している。第1表面2a及び第2表面2bは、基板2の主面であり、例えば基板2の厚さ方向に垂直な平坦面である。基板2の厚さ方向から見た場合における基板2の一辺の長さは、例えば数cm程度であり、基板2の厚さは、例えば1μm~1000μm程度である。
【0023】
基板2は、試料の測定に用いられる測定領域Rを有している。この例では、測定領域Rは、基板2の全領域である。測定領域Rには、第1表面2a及び第2表面2bを互いに連通させる多孔質構造が形成されている。多孔質構造は、この例では、空隙(細孔)が不規則な方向に延びると共に3次元上において不規則に分布している構造(不規則な多孔質構造)を有している。多孔質構造における空隙は、第1表面2a及び第2表面2bに開口する貫通孔を構成している。不規則な多孔質構造は、例えばスポンジ状の構造である。
【0024】
この例では、測定領域R(基板2)は、ガラスビーズ焼結体により形成されている。ガラスビーズ焼結体は、例えば、多数のガラスビーズが焼結により一体化された構造を有する。各ガラスビーズの形状は、例えば球状である。基板2に含まれるガラスビーズの形状及び大きさは、均一であってもよいし、不揃いであってもよい。複数のガラスビーズとそれらのガラスビーズの間に形成された複数の空隙とによって、上述した多孔質構造が形成されている。ガラスビーズ間の空隙は、互いに不規則に連通している。ガラスビーズの平均粒径(直径)は、例えば50μm程度である。基板2がガラスビーズ焼結体により形成されている場合、多孔質構造の空孔率は、例えば40%~50%である。
【0025】
基板2内には、複数(この例では4つ)の校正部3が形成されている。この例では、各校正部3は、埋込部材4が基板2内に埋め込まれることにより形成されている。埋込部材4は、例えば、セラミックスにより円形板状に形成されている。すなわち、埋込部材4は、基板2の材料とは異なる材料により形成されている。埋込部材4は、穴が形成されていない中実な部材である。基板2の第1表面2aには、埋込部材4に対応した形状(円筒状)の凹部5が形成されており、埋込部材4は、凹部5内に隙間無く埋め込まれている。埋込部材4は、例えば、接着材により凹部5の底面及び側面に接着されて固定されている。埋込部材4は、第1表面2a側の表面が第1表面2aと面一になるように、凹部5内に配置されている。これにより、校正部3は、第1表面2aと面一な表面3aを有している。2つの表面が面一であるとは、それらの2つの表面が同一表面上に位置することを意味する。
【0026】
この例では、4つの校正部3は、基板2の4つの隅部にそれぞれ配置されている。上述したとおり、この例では、基板2の全領域が、試料の測定に用いられる測定領域Rであり、各校正部3は、測定領域R内に配置されている。
【0027】
校正部3の吸水性は、測定領域R(基板2)の吸水性よりも低くなっている。すなわち、校正部3においては、測定領域Rと比べて液体が吸収されにくい。この例では、測定領域Rが多孔質構造を有している一方で埋込部材4が中実に形成されていることにより、上記関係が満たされている。すなわち、埋込部材4の吸水性は、測定領域Rの吸水性よりも低い。換言すれば、この実施形態では、測定領域Rが、第1表面2a及び第2表面2bを互いに連通させる貫通部を有する貫通領域として形成されているのに対し、校正部3が、そのような貫通部を有しない非貫通領域(非連通領域)として形成されていることにより、上記関係が満たされている。なお、校正部3が測定領域R内に配置されている場合、測定領域Rの吸水性とは、測定領域Rのうち校正部3を除いた部分における吸水性を意味する。
【0028】
基板2の第1表面2a及び校正部3の表面3aは、導電性を有している。具体的には、第1表面2a及び表面3a上には、導電層が形成されている。導電層は、例えば、第1表面2a及び表面3a上にわたって一続きに(一体的に)形成されており、第1表面2aにおける多孔質構造の開口部以外の全体、及び表面3aの全体を覆っている。導電層は、例えば、Pt等の金属材料により薄膜状に形成されている。導電層は、導電層を介して校正部3を目視可能となる程度に薄く形成されている。
[試料支持体の使用方法]
【0029】
まず、試料支持体1を用いた試料のイオン化方法の例を説明する。一例として、まず、スライドグラス上に載置された試料を用意し、基板2(測定領域R)の第2表面2bが試料に接触するように、試料上に試料支持体1を配置する。これにより、試料の成分が、毛細管現象によって、第2表面2b側から基板2内に形成された複数の経路(多孔質構造内の空隙)を介して第1表面2a側に向かって移動する。第1表面2a側に移動した試料の成分は、表面張力により第1表面2a側に留まる。その後、第1表面2a上の導電層に電圧が印加された状態で第1表面2aにレーザ光を走査(照射)することにより、第1表面2a側に移動した試料の成分がイオン化される。この例のイオン化方法は、レーザ光(エネルギー線)を用いたレーザ脱離イオン化法である。
【0030】
試料支持体1から放出された試料イオンは、例えば、質量分析装置のイオン検出部により検出される。例えば、試料支持体1とイオン検出部との間にはグランド電極が設けられており、導電層とグランド電極との間に生じた電位差によって試料イオンがグランド電極に向かって加速しながら移動する。そして、イオン検出部により試料イオンが検出され、試料の質量分析測定が実施される。イオン検出部は、レーザ光の走査位置に対応付けて試料イオンを検出する。質量分析装置は、例えば飛行時間型質量分析法(TOF-MS:Time-of-Flight Mass Spectrometry)を利用して試料の質量分析を行う装置である。
【0031】
このような試料の測定を開始する前に、質量校正(マスキャリブレーション)が行われる。質量校正では、校正部3の表面3a上に質量校正用の試料(校正試料、標準試料)が滴下され、校正試料に対して上述したイオン化及び質量分析測定が実施される。校正試料についての測定結果に基づいて、マススペクトルの補正が行われる。マススペクトルとは、質量分析により得られるスペクトルであり、例えば、横軸をm/z値とし、縦軸を検出強度としたグラフにより表される。m/z値は、イオンの質量mを電荷数zで除した質量電荷比である。校正試料のマススペクトルは既知であるため、校正試料についての測定結果に基づいて質量分析装置の質量校正を行うことができる。校正試料は、測定用の試料よりも薄い濃度を有する。実施形態の試料支持体1では、校正部3の表面3a上において校正試料の溶媒が乾燥し、校正試料の成分が濃縮されて析出しやすいため、希薄な校正試料を使用することが可能となっている。
[作用及び効果]
【0032】
試料支持体1では、基板2内に第1表面2aと面一な表面3aを有する校正部3が形成されており、校正部3の吸水性が測定領域Rの吸水性よりも低くなっている。これにより、校正部3の表面3a上に校正試料を配置した場合に、校正試料が吸水されにくく、溶媒が乾燥して校正試料の成分が表面3aに析出しやすい。また、校正部3が測定領域Rとは異なる吸水性を有するように構成されていることから、校正部3の位置を目視により把握しやすい。また、校正部3が基板2の第1表面2aと面一な表面3aを有することで、質量校正を精度良く行うことが可能となる。イオンの飛行時間シフトは、発生位置の深さ方向に強く依存する一方、同一平面内の位置による影響は小さいため、校正部3の表面3aが基板2の第1表面2aと同一平面上に位置することが重要となる。また、校正試料の成分が濃縮されて析出しやすいため、濃度が薄い校正試料を使用することが可能となる。以上により、試料支持体1によれば、質量校正を好適に行うことができる。
【0033】
校正部3が、測定領域R内に形成されている。これにより、校正部3の表面3aを確実に第1表面2aと面一とすることができる。また、校正部3を実際の測定が行われる箇所に近づけることができる。
【0034】
校正部3が、測定領域Rの吸水性よりも低い吸水性を有する埋込部材4が基板2内に埋め込まれることにより形成されている。これにより、校正部3を再現性良く形成することができると共に、校正部3の大きさの調整を容易化することができる。また、基板2の材料選択の自由度を高めることができることで、試料のイオン化の効率を制御することが可能となる。
【0035】
校正部3が、基板2内に複数形成されている。これにより、複数の校正部3に互いに濃度が異なる複数の校正試料をそれぞれ配置して質量校正を行うことができ、例えば定量測定を行うことが可能となる。定量測定については
図3を参照して後述する。
【0036】
校正部3が、セラミックスにより形成されている。これにより、校正部3を再現性良く形成することができると共に、校正部3の大きさの調整を容易化することができる。
【0037】
測定領域Rの多孔質構造が、ガラスビーズの焼結体により形成されている。これにより、多孔質構造を好適に構成することができる。
【0038】
第1表面2a及び校正部3の表面3aが、導電性を有している。これにより、上述したようなレーザ脱離イオン化法により試料をイオン化させることができる。
[変形例]
【0039】
図2(a)に示される第1変形例のように試料支持体1が構成されてもよい。第1変形例では、埋込部材4が、基板2を厚さ方向に沿って貫通するように設けられている。このような第1変形例によっても、上記実施形態と同様に、質量校正を好適に行うことができる。
【0040】
図2(b)に示される第2変形例のように試料支持体1が構成されてもよい。第2変形例では、基板2及び校正部3が多孔質ガラスにより形成されている。多孔質ガラスは、複数の細孔が不規則に形成されて連結されたスポンジ状のガラス板である。この例では、校正部3は、測定領域Rにおける多孔質構造の一部を溶融させた後に固化させることにより形成されている。例えば、加工後に校正部3となる部分を含む基板2を用意し、当該部分において多孔質構造を溶融させた後に固化させることにより、測定領域Rに校正部3が形成された基板2を得ることができる。このような第2変形例によっても、上記実施形態と同様に、質量校正を好適に行うことができる。また、校正部3の形成を容易化及び低コスト化することができる。
【0041】
図2(c)に示される第3変形例のように試料支持体1が構成されてもよい。第3変形例では、基板2が多孔質ガラスにより形成されており、校正部3が、多孔質ガラスからなる第1部分31と、埋込部材4からなる第2部分32とを含んでいる。第1部分31は、第2変形例の校正部3と同様に構成されている。第2部分32は、実施形態の校正部3と同様に構成されている。第1部分31は、基板2の第1表面2aに露出するように配置されており、第2部分32は、第1部分31と基板2の第2表面2bとの間に配置されている。このような第3変形例によっても、上記実施形態と同様に、質量校正を好適に行うことができる。
【0042】
他の変形例として、校正部3は、測定領域Rの多孔質構造内に充填材が充填されることにより形成されていてもよい。充填材は、例えば粉状に形成されており、多孔質構造の空隙内に充填される。多孔質構造の一部に充填材を充填することにより、当該一部を多孔質構造よりも低い吸水性を有する校正部3とすることができる。このような変形例によっても、上記実施形態と同様に、質量校正を好適に行うことができる。また、校正部3の形成を容易化及び低コスト化することができる。
【0043】
図3に示される第4変形例のように試料支持体1が構成されてもよい。第4変形例では、複数(この例では4つ)の校正部3が、長方形状の領域35内に、一列に並んで配置されている。この例では、複数の校正部3は、基板2の長辺と平行な方向に沿って、等間隔で並べられている。このような第4変形例によっても、上記実施形態と同様に、質量校正を好適に行うことができる。また、複数の校正部3に互いに濃度が異なる複数の校正試料S1をそれぞれ配置して質量校正を行うことができ、定量測定を行うことが可能となる。例えば、まず、濃度が段階的に変化するように調整された4つの校正試料S1を、4つの校正部3にそれぞれ滴下して測定する。続いて、4つの校正試料S1についての測定結果に基づいて測定対象のイオンの強度及び濃度をプロットすることにより、検量線を作成する。続いて、測定対象の試料S2を測定し、検量線に基づいて濃度を推定する。続いて、例えばイメージング測定の場合、濃度マップを作成する。以上の工程により、定量測定を行うことが可能となる。
【0044】
本発明は、上記実施形態及び変形例に限られない。各構成の材料及び形状には、上述した材料及び形状に限らず、様々な材料及び形状を採用することができる。例えば、測定領域Rの多孔質構造は、繊維多孔質体により形成されていてもよい。繊維多孔質体は、複数の線状のセルロースナノファイバが重なり合った構造(集合体)を有する。繊維多孔質体は、例えば、複数のカーボンナノファイバ、複数の繊維状多孔質シリカ、複数のガラス繊維、又はそれらの組合せが重なり合った構造を有していてもよい。
【0045】
測定領域Rの多孔質構造は、陽極酸化されたシリコン、又は陽極酸化されたバルブ金属により形成されていてもよい。この場合、多孔質構造は、基板2の第1表面2a及び第2表面2bを互いに連通させるように形成された複数の貫通孔を有する。これらの貫通孔は、例えば、基板2の厚さ方向に沿って延びる複数の細孔であり、この場合、多孔質構造は、複数の細孔が規則的に配置された構造(規則的な多孔質構造)を有する。
【0046】
陽極酸化されたバルブ金属(例えばAl(アルミニウム))により多孔質構造を形成する場合について更に説明する。多孔質構造は、例えばAlアルミナポーラス皮膜であってもよい。具体的には、Al基板に対して陽極酸化処理を施し、酸化された表面部分をAl基板から剥離することにより、そのような多孔質構造を得ることができる。なお、多孔質構造は、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)、Ti(チタン)、Hf(ハフニウム)、Zr(ジルコニウム)、Zn(亜鉛)、W(タングステン)、Bi(ビスマス)、Sb(アンチモン)等のAl以外のバルブ金属を陽極酸化することにより形成されてもよい。
【0047】
測定領域Rの多孔質構造は、多孔質セラミック又は多孔質金属により形成されていてもよい。多孔質セラミックの構造は、多孔質ガラスと同様に、複数の細孔が不規則に形成されて連結されたスポンジ状である。多孔質金属は、複数の細孔が不規則に形成及び連結されたスポンジ状の金属多孔体(金属多孔質体、発泡金属、ポーラスメタル、ポーラス金属、多孔金属等とも呼ばれる)である。
【0048】
基板2の第1表面2a及び校正部3の表面3a上に導電層が形成されていなくてもよく、第1表面2a及び表面3aは、電気絶縁性を有していてもよい。この場合にも、上記実施形態と同様に、質量校正を好適に行うことができる。この場合、例えば、試料に対して帯電した微小液滴を照射することで試料を脱離及びイオン化させる脱離エレクトロスプレーイオン化法により試料をイオン化させることができる。
【0049】
上記実施形態では、基板2の全領域が測定領域Rとなっていたが、基板2の一部のみが測定領域Rを構成していてもよい。この場合、基板2における測定領域R以外の部分は、多孔質構造を有していなくてもよい。校正部3は、基板2における測定領域R以外の部分に形成されていてもよい。校正部3の形状は、円形状に限られず、正方形状、長方形状、楕円形状等の任意の形状であってよい。校正部3の表面3aには、基板2の第1表面2aよりも高い親水性を有するように親水性処理が施されていてもよい。この場合、表面3aに滴下された校正試料の第1表面2aへの浸入を抑制することができる。表面3aと第1表面2aとの境界部には、ハーフエッチングにより溝が形成されていてもよい。この場合、表面3aを第1表面2aから区別して視認しやすくなる。また、表面3aに滴下された校正試料の第1表面2aへの浸入を抑制することができる。
【0050】
上記実施形態において、埋込部材4は、セラミックス以外の材料、例えば金属材料又は有機材料により形成されていてもよい。校正部3は、必ずしも複数形成されなくてもよく、1つの校正部3のみが形成されていてもよい。上述した試料支持体1の使用方法の例では試料を基板2の第2表面2b側から供給したが、試料は第1表面2a側から供給されてもよい。例えば、試料を第1表面2a上に載置して試料の成分を基板2内に染み込ませた後に試料を除去することで、第1表面2a上に試料を供給してもよい。
【符号の説明】
【0051】
1…試料支持体、2…基板、2a…第1表面、2b…第2表面、3…校正部、3a…表面、R…測定領域。