(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092915
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 11/08 20060101AFI20230627BHJP
H01Q 3/44 20060101ALI20230627BHJP
H01Q 21/24 20060101ALI20230627BHJP
H01Q 1/28 20060101ALN20230627BHJP
【FI】
H01Q11/08
H01Q3/44
H01Q21/24
H01Q1/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208220
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】501140452
【氏名又は名称】株式会社モバイルテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100180275
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 倫太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161861
【弁理士】
【氏名又は名称】若林 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100194836
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 優一
(72)【発明者】
【氏名】宮下 功寛
【テーマコード(参考)】
5J021
5J046
【Fターム(参考)】
5J021AA01
5J021AA04
5J021AA10
5J021AA11
5J021AB02
5J021BA02
5J021DB06
5J021FA32
5J021GA02
5J021GA08
5J021HA08
5J021JA06
5J046AA02
5J046AB12
5J046KA01
(57)【要約】
【課題】垂直方向から低仰角方向までの広い角度範囲で送受信できるようにする。
【解決手段】本発明のアンテナ装置は、地板と、地板に対して第1のピッチ角で螺旋状に巻き上げた複数の第1のヘリカル素子を有する第1のアンテナ部と、第1のアンテナ部を囲む位置に、地板に対して第2のピッチ角で螺旋状に巻き上げた複数の第2のヘリカル素子を有する第2のアンテナ部とを備え、第1のアンテナ部の各第1のヘリカル素子の巻き方向と、第2のアンテナ部の各第2のヘリカル素子の巻き方向とは、互いに逆方向であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地板と、
前記地板に対して第1のピッチ角で螺旋状に巻き上げた複数の第1のヘリカル素子を有する第1のアンテナ部と、
前記第1のアンテナ部を囲む位置に、前記地板に対して第2のピッチ角で螺旋状に巻き上げた複数の第2のヘリカル素子を有する第2のアンテナ部と
を備え、
前記第1のアンテナ部の前記各第1のヘリカル素子の巻き方向と、前記第2のアンテナ部の前記各第2のヘリカル素子の巻き方向とは、互いに逆方向である
ことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記各第1のヘリカル素子及び前記各第2のヘリカル素子の軸方向は、前記各第1のヘリカル素子及び前記各第2のヘリカル素子が設けられている前記地板の第1面に対して垂直に形成されており、
前記各第1のヘリカル素子の巻き方向は又は前記各第2のヘリカル素子の巻き方向が、送受信する円偏波の回転方向の逆方向である
ことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記各第1のヘリカル素子の前記第1のピッチ角が、前記各第2のヘリカル素子の前記第2のピッチ角よりも大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記第1のピッチ角が、70度以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記各第1のヘリカル素子及び前記各第2のヘリカル素子の電気長が、使用する電波の波長λとしたときに(1/4)×λ×n(nは正の整数)とすることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記各第1のヘリカル素子の巻き数が、前記各第2のヘリカル素子の巻き数よりも大きいことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記各第1のヘリカル素子又は前記各第2のヘリカル素子に信号を分配又は合成する分配合成器と、
前記各第2のヘリカル素子又は前記各第1のヘリカル素子に接続させる終端負荷を制御する終端負荷制御部と
を備えることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項8】
前記地板が、円形平板であることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項9】
前記各第1のヘリカル素子と前記各第2のヘリカル素子の最大利得となる方向が異なることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項10】
前記終端負荷制御部が、負荷の値を可変とすることを特徴とする請求項7~9に記載のアンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘリカルアンテナを備えたアンテナ装置に関し、円偏波特性を有するアンテナ装置に適用できる。
【背景技術】
【0002】
近年、飛行体を通信基地局として利用する成層圏プラットフォームに関する技術が開発されている。
【0003】
成層圏プラットフォームは、飛行中継局(HAPS:High Altitude Platform Statison)を常時成層圏に飛行させて、飛行中継局が地上に設けた地上局と無線通信を行なう。これにより、これまで通信できなかった地域であっても、飛行中継局(HAPS)を介して通信可能となるので、衛星通信よりも低コストで、広範囲な通信網を構築することができる。
【0004】
成層圏プラットフォームでは、
図2に例示するように、飛行中継局(HAPS)52が、例えばドローン等の無人飛行体51と、地上局53との間の無線通信を中継することも可能となる。このとき、ドローン等の飛行体51は、飛行時の姿勢が一定でなく、また飛行中継局52は、旋回飛行しているので、姿勢の変化の影響を受けにくい円偏波を使用した通信が検討されており、飛行体51のアンテナ装置511としてはヘリカルアンテナ装置が望ましい。
【0005】
特許文献1に記載されているヘリカルアンテナは、衛星通信用のアンテナ装置である。特許文献1には、4線巻きヘリカルアンテナが開示されており、各ヘリカルアンテナ素子の巻き数、ピッチ角、半径に応じて指向性が変化することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、
図3に例示するように、飛行中継局52が俯角αとして下向きの通信エリアをカバーするものとする。その場合、飛行中継局52と飛行体51との位置関係に応じて、アンテナ装置511は、水平面に対して垂直方向に円偏波で送受信できるようにすると共に、低仰角方向に円偏波で送受信できることが望まれる。つまり、垂直方向から低仰角方向までの広い角度範囲にわたり円偏波で送受信することができるアンテナ装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するために、本発明のアンテナ装置は、(1)地板と、(2)地板に対して第1のピッチ角で螺旋状に巻き上げた複数の第1のヘリカル素子を有する第1のアンテナ部と、(3)第1のアンテナ部を囲む位置に、地板に対して第2のピッチ角で螺旋状に巻き上げた複数の第2のヘリカル素子を有する第2のアンテナ部とを備え、(4)第1のアンテナ部の各第1のヘリカル素子の巻き方向と、第2のアンテナ部の各第2のヘリカル素子の巻き方向とは、互いに逆方向であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、垂直方向から低仰角方向の広い角度範囲で円偏波の送受信が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係るアンテナ装置の構成を示す構成図である。
【
図2】成層圏プラットフォームにおける通信システムの構成を示す構成図である。
【
図3】成層圏プラットフォームの飛行中継局と飛行体との通信を説明する説明図である。
【
図4】実施形態に係るアンテナ装置の送受信回路を示す回路構成図である。
【
図5】4線巻きヘリカルアンテナのモデル構成を示す構成図である(その1)。
【
図6】4線巻きヘリカルアンテナの半径とピッチ角を変化させたときのアンテナ利得の変化を説明する説明図である(その1)。
【
図7】4線巻きヘリカルアンテナのモデル構成を示す構成図である(その2)。
【
図8】4線巻きヘリカルアンテナの半径とピッチ角を変化させたときのアンテナ利得の変化を説明する説明図である(その2)。
【
図9】4線巻きヘリカルアンテナのピッチ角を変化させたときの指向性を示す図である。
【
図10】実施形態のアンテナ装置の動作モードを説明する説明図である。
【
図11】実施形態に係るアンテナ装置の動作モードを切り替えたときの指向性を示す図である。
【
図12】実施形態に係るアンテナ装置の反射特性を示す図である。
【
図13】実施形態に係るアンテナ装置の軸比特性を示す図である。
【
図14】変形実施形態のアンテナ装置の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(A)主たる実施形態
以下では、本発明に係るアンテナ装置の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
この実施形態は、例えば飛行中継局(HAPS)を使用した成層圏プラットフォームにおいて、ドローン等の飛行体に搭載するアンテナ装置に、本発明を適用する場合を例示する。一般に、成層圏は、地球大気の鉛直構造において約10km~50km程度に位置する層をいう。
【0013】
また本発明のアンテナ装置は、垂直方向から低仰角方向にかけて広い角度範囲で円偏波を送受信することが要求されるものであれば、ドローン等の飛行体以外にも適用できる。
【0014】
(A-1)実施形態の構成
図1は、実施形態に係るアンテナ装置の構成を示す構成図である。
図4は、実施形態に係るアンテナ装置の送受信回路を示す回路構成図である。
【0015】
図1において、実施形態のアンテナ装置10は、板状の地板11と、第1のアンテナ部12と、第2のアンテナ部13とを有する。
【0016】
[地板11]
地板11は、円形板部材であり、グランド(接地)として機能する接地板である。例えば、飛行中継機(HAPS)を利用した成層圏プラットフォームでは、5030MHz~5091MHzの周波数の電波を使用することが検討されている。円形板部材の地板11の半径raは、使用する電波の波長をλとしたときに(1/2)×λとすることができる。例えば、使用する電波の周波数が5060MHz(すなわち、使用する電波の波長λが59mm程度)とするとき、地板11の半径raは30mm(=(1/2)×λ)程度とすることができる。
【0017】
[第1のアンテナ部12]
第1のアンテナ部12は、低仰角方向に指向性を有するものであり、4個のヘリカル素子12a~12dを有する4線巻きヘリカルアンテナである。言い換えると、第1のアンテナ部12は、4個のヘリカル素子12a~12dをアレー化したものである。第1のアンテナ部12の各ヘリカル素子12a~12dを「第1のヘリカル素子」とも呼ぶ。
【0018】
第1のアンテナ部12の各ヘリカル素子12a~12dは、例えば金属ワイヤ、導電ストリップ等の導体を適用することができ、この実施形態では、各ヘリカル素子12a~12dに、金属などの導体線材を用いる。各ヘリカル素子12a~12dの長さ(電気長)は、使用する電波の波長λに応じて決めることができ、例えば波長λとしたとき、各ヘリカル素子12a~12dの長さは((1/4)×λ×n;nは正の整数)程度とすることができる。この実施形態では、nが「3」である場合を例示する。なお、インピーダンス整合のため、各ヘリカル素子12a~12dの長さを調整することができる。
【0019】
第1のアンテナ部12の各ヘリカル素子12a~12dの下端部はそれぞれ、地板11に設けられた対応する各端子Port1~Port4に接続している。
図4に例示するように、地板11のXY平面の下側の面(第2面)側には、無線装置134と、分配器/合成器133とが設けられている。分配器/合成器133の送受信端子1~4のそれぞれは、対応する各端子Port1~port4に接続している。
【0020】
図4において、例えば、端子Port1~Port4に付記している「φ」は、地板11のXY面上で、端子Port1~Port4の物理的な位置を、X軸に対する角度で示している。例えば、「Port1」は、XY面上のX軸上にあるため「φ=0deg(度)」と示している。また、端子Port1~Port4に付記している「位相」は、対応するヘリカル素子12a~12dが送信する信号の位相または受信する信号に対応付ける位相を示している。
【0021】
図4において、信号を送信する際、無線装置134は信号を分配器/合成器133に出力し、分配器/合成器133は、無線装置134からの入力信号の位相を変化させて送受信端子1~4に出力する。例えば、
図4において、分配器/合成器133は、端子Port1に接続する送受信端子1には、入力した信号をそのまま出力する。また、端子Port2に接続する送受信端子2に、入力した信号の位相を-90度(-π/2rad)シフトした信号を出力し、端子Port3に接続する送受信端子3に、入力した信号の位相をー180度(-πrad)シフトした信号を出力し、端子Port4に接続する送受信端子4に、入力した信号の位相をー270度(-3π/2rad)シフトした信号を出力する。このように、分配器/合成器133は、入力した信号の位相を変化させて、各端子Port1~4に接続している各ヘリカル素子12a~12dに信号を与える。
【0022】
逆に信号を受信する際、各ヘリカル素子12a~12dは、受信した電波信号を、各端子Port1~4及び各送受信端子1~4を介して、分配器/合成器133に与える。分配器/合成器133は、各送受信端子1~4から入力した信号を合成した信号を、無線装置134に出力する。
【0023】
第1のアンテナ部12の各ヘリカル素子12a~12dは、地板11の第1面に対して所定のピッチ角だけ傾けて螺旋状に巻き上げられる。各ヘリカル素子12a~12dのピッチ角については後述するが、低仰角方向の利得を良好とする角度である。すなわち、第1のアンテナ部12の各ヘリカル素子12a~12dのピッチ角は、第2のアンテナ部13の各ヘリカル素子13a~13dのピッチ角よりも大きい角度とする。例えば、各ヘリカル素子12a~12dのピッチ角は70度以下とすることができ、60度~65度程度が望ましい。
【0024】
[第2のアンテナ部13]
第2のアンテナ部13は、垂直方向に指向性を有するアンテナであり、4個のヘリカル素子13a~13dを有する4線巻きヘリカルアンテナである。言い換えると、第2のアンテナ部13も、4個のヘリカル素子13a~13dをアレー化したものである。第2のアンテナ部13の各ヘリカル素子13a~13dを「第2のヘリカル素子」とも呼ぶ。
【0025】
第2のアンテナ部13の各ヘリカル素子13a~13dも、例えば金属ワイヤ、導電ストリップ等の導体を適用することができ、この実施形態では、各ヘリカル素子13a~13dに、金属などの導体線材を用いる。各ヘリカル素子13a~13dの長さ(電気長)は、使用する電波の周波数の波長λに応じて決めることができ、例えば波長λとしたとき、各ヘリカル素子13a~13dの長さは((1/4)×λ×n;nは正の整数)程度とすることができる。この実施形態では、nが「3」である場合を例示する。なお、インピーダンス整合のため、各ヘリカル素子13a~13dの長さを調整することができる。
【0026】
第2のアンテナ部13の各ヘリカル素子13a~13dの下端部はそれぞれ、地板11上に設けられた対応する各終端部131と接続している。
【0027】
図4に例示するように、各終端部131は、グランドと終端負荷ZLとを切り替えるスイッチ部(終端負荷切替部)132と接続している。また、4個の終端部131は、地板11の第1面上で、地板11の中心点を中心として半径r2(r1<r2<ra)の円上に等間隔(
図1では90度間隔)に設置されている。地板11の第1面上で、半径r1の内側円(「第1円」とも呼ぶ。)と半径r2の外側円(「第2円」とも呼ぶ。)とは同心円状に形成されており、地板11の中心点と、内側円上の各端子Port1~Port4とを通る線の延長線上に、対応する各終端部131が位置している。
【0028】
第2のアンテナ部13の各ヘリカル素子13a~13dは、地板11の第1面に対して所定のピッチ角だけ傾けて螺旋状に巻き上げられる。
【0029】
第2のアンテナ部13の各ヘリカル素子13a~13dのピッチ角については後述するが、垂直方向の利得を良好とする角度であり、第1のアンテナ部12のピッチ角よりも小さい角度とする。
【0030】
また、第2のアンテナ部13の各ヘリカル素子13a~13dの巻き方向は、第1のアンテナ部12の各アンテナ素子12a~12dの巻き方向と逆方向とする。巻き方向を逆方向にすることの理由は後述するが、第1のアンテナ部12と、外側にある第2のアンテナ部13とが近接する場合であって、第1のアンテナ部12に給電したときに、第2のアンテナ部13に電流が誘起され、電波が打ち消されることも生じ得るが、巻き方向を逆方向とすることで、第1のアンテナ部12と第2のアンテナ部13に流れる電流方向をほぼ同一とすることができ、電波の打ち消しを回避できる。
【0031】
例えば、円偏波の回転方向は右旋円偏波(RHCP)とする。地板11から見てZ軸方向を進行方向としたとき、Z軸方向に右巻きが、右旋円偏波の回転方向と同一方向とし、Z軸方向に左巻きが、右旋円偏波の回転方向と逆方向とする。
図1において、第1のアンテナ部12の各ヘリカル素子12a~12は、Z軸方向に左巻きであり、第2アンテナ部13の各ヘリカル素子13a~13はZ軸方向に右巻きであり、巻き方向は互いに逆方向としている。なお、巻き方向は第1のアンテナ部12と第2のアンテナ部13との間で互いに逆方向であればよく、第1のアンテナ部12が右巻きであり、第2のアンテナ部13が左巻きであってもよい。
【0032】
(A-2)アンテナ部の指向性
次に、アンテナ装置10の第1アンテナ部12と第2アンテナ部13の指向性について図面を参照しながら説明する。
【0033】
ここでは、4線巻きヘリカルアンテナの一般的なモデルを用いて説明するため「アンテナ部20」と表現して説明する。
【0034】
図5は、4個のヘリカル素子20a~20dのそれぞれの巻き数を0.75として、各ヘリカル素子20a~20dが、Z軸方向に対して左巻き(円偏波の回転方向と逆方向)としたときのアンテナ部20を示している。
図6(A)~
図6(C)は、
図5のアンテナ部20の利得の変化を示す図である。
【0035】
図7は、4個のヘリカル素子20a~20dのそれぞれの巻き数を0.75として、各ヘリカル素子20a~20dが、Z軸方向に対して右巻き(円偏波の回転方向と同じ方向)としたときのアンテナ部20を示している。
図8(A)~
図8(C)は、
図7のアンテナ部20の利得の変化を示す図である。
【0036】
なお、
図6及び
図8において、横軸はZ軸に対する角度Θ[度]の値を示し、縦軸はアンテナ部20の利得[dB]を示す。
【0037】
モデル条件について特別な断りがない限り、使用する電波の周波数が5060MHz(使用する電波の波長λが59mm程度)、地板11の半径raが30mm(=(1/2)×λ)、円偏波の回転方向が右旋円偏波(RHCP)とする。
【0038】
図5及び
図7において、地板11上に、4個のヘリカル素子20a~20dを有するアンテナ部(4線巻きヘリカルアンテナ)20を設けた。使用する電波の波長をλとしたとき、各ヘリカル素子20a~20dの長さは((1/4)×λ×n;例えばn=3)とする。
【0039】
このようなモデル条件において、円の半径rと、各ヘリカル素子20a~20dのピッチ角の値とを変化させたときのアンテナ部20の利得の変化を見る。
【0040】
図6(A)~
図6(C)において、各ヘリカル素子20a~20dの巻き方向が円偏波の回転方向と逆方向である場合であって、ピッチ角が63.3度、48.1度、30度のときのアンテナ部20の各利得を比較する。そうすると、半径rを4mmとして、ピッチ角を63.3度としたとき、Z軸に対する角度Θが±60度付近で利得が大きくなっていることがわかる。このことから、アンテナ部20の各ヘリカル素子20a~20dの巻き方向が円偏波の回転方向と逆方向であって、ピッチ角を大きくするほど、アンテナ部20は低仰角方向に強い指向性を持つことがわかる。
【0041】
図1に示すアンテナ装置10の場合、アンテナ部12が、この特性を持つものであり、低仰角方向に円偏波で送受信するものとして機能する。
【0042】
次に、
図8(A)~
図8(C)に示すように、各ヘリカル素子20a~20dの巻き方向が円偏波の回転方向と同一方向である場合であって、ピッチ角が63.3度、48.1度、30度のときのアンテナ部20の各利得を比較する。そうすると、半径rを8mmとして、ピッチ角を30度としたとき、垂直方向(Z軸に対する角度Θが0度付近)で利得が大きくなっていることがわかる。このことから、アンテナ部20の各ヘリカル素子20a~20dの巻き方向が円偏波の回転方向と同一方向であって、ピッチ角を小さくするほど、アンテナ部20は垂直方向に強い指向性を持つことがわかる。
【0043】
図1に示すアンテナ装置10の場合、アンテナ部13が、この特性を持つものであり、垂直方向に円偏波で送受信するものとして機能する。
【0044】
このように、
図1のアンテナ装置10は、低仰角方向に強い指向性を有する第1のアンテナ部12と、垂直方向に強い指向性を有する第2のアンテナ部13とを備えることにより、広い角度範囲にわたり円偏波で送受信することができる。
【0045】
図9は、4線巻きヘリカルアンテナのピッチ角を変化させたときの利得の変化を示す図である。
【0046】
図9において、横軸はZ軸に対する角度Θ[度]の値を示し、縦軸はアンテナ部20の利得[dB]を示す。
【0047】
図9では、各ヘリカル素子20a~20dの巻き方向が円偏波の回転方向と逆方向とし、巻き数Nが0.5とする。さらに、ピッチ角度を、28.5度、42.2度、53.1度、63.3度、72.6度、81.5度と変えたときの利得を示している。
【0048】
図9において、ピッチ角度が28.5度のとき、アンテナ部20の利得が最大となる方向は垂直方向(Z軸に対する角度Θが0度)であることがわかる。ピッチ角度が徐々に大きくなっていくと、最大利得となる方向が低仰角方向へシフトしていく。しかし、ピッチ角度が72.6度、81.5度となると、最大利得となる方向は変わらず、利得の値が低下することがわかる。つまり例えば、ピッチ角度が53.1度~63.3度のとき、Z軸に対する角度Θが±60度~±80度付近で大きな利得を発揮している。換言すると、アンテナ部20は、各ヘリカル素子20a~20dのピッチ角度が70度以下で、低仰角方向の利得が高くなるという特性があるといえる。
【0049】
(A-3)実施形態の動作
次に、実施形態に係るアンテナ装置10における動作を、図面を参照しながら説明する。
【0050】
以下の動作説明では、アンテナ装置10が電波を送信する場合を中心に説明するが、アンテナ装置10が電波を受信する場合は、電波送信時の動作と逆の動作を行なうことで同様の効果を得る。
【0051】
ここでのモデル条件は、次の通りである。使用する電波の周波数は5060MHz(すなわち使用する電波の波長λが59mm程度)であり、地板11の半径raを30mm(=(1/2)×λ)程度とする。
【0052】
また、アンテナ装置10は、
図1に示すように、半径4mmの内側円上に第1のアンテナ部12を設け、半径12mmの外側円上に第2のアンテナ部13を設ける。また、使用する電波の波長をλとしたとき、第1のアンテナ部12のヘリカル素子12a~12dの長さ及び第2のアンテナ部13のヘリカル素子13a~13dの長さを、約((1/4)×λ×n)とする。第1のアンテナ部12のヘリカル素子12a~12dの巻き数を0.75とし、第2のアンテナ部13のヘリカル素子13a~13dの巻き数を0.5とする。
【0053】
図10は、実施形態のアンテナ装置10の動作モードを説明する説明図である。
図11は、実施形態に係るアンテナ装置10の動作モードを切り替えたときの指向性を示す図である。
【0054】
図10(A)は、アンテナ装置10が低仰角方向に円偏波を放射する動作モードを示しており、
図10(B)は、アンテナ装置10が垂直方向に円偏波を放射する動作モードを示している。
【0055】
図10(A)の場合、スイッチ部132を負荷ZLに切り替えて、第2のアンテナ部13の各ヘリカル素子13a~13dが負荷ZL(例えば、1MΩ)に接続する(終端条件:Open)と共に、第1のアンテナ部12の各ヘリカル素子12a~12dには分配器/合成器133から信号が入力される。すなわち、分配器/合成器133から第1のアンテナ部12の各ヘリカル素子12a~12dの先端(上端部)に向けて電流を流す。この場合、第2のアンテナ部13は、負荷ZL(例えば、1MΩ)に接続しているため、第2のアンテナ部13には電流が誘起されない。したがって、第1のアンテナ部12のみが動作して、
図11(A)に示すように、アンテナ装置10は、低仰角方向に強い放射指向性を持つ。
【0056】
図10(B)の場合、スイッチ部132をグランドに切り替えて、第2のアンテナ部13のヘリカル素子13a~13dがグランド(例えば、0Ω)に接続する(終端条件:Short)と共に、第1のアンテナ部12の各ヘリカル素子12a~12dには分配器/合成器133から信号が入力される。
【0057】
ここで、分配器/合成器133から第1のアンテナ部12の各ヘリカル素子12a~12dの先端(上端部)に向けて電流を流すと、第1のアンテナ部12の各ヘリカル素子12a~12dの軸を中心に回転しながら電流が流れる。
【0058】
第1のアンテナ部12と第2のアンテナ部13とが近接して配置されているとき、第1のアンテナ部12に給電すると、第2のアンテナ部13にも電流が誘起され得る。このとき、第1のアンテナ部12と第2のアンテナ部13に流れる電流の方向は、Z軸方向を中心に回転する成分の方向が互いに略逆方向となる。
【0059】
そのため、仮に、第1のアンテナ部12と第2のアンテナ部13との巻き方向を互いに同じ方向とすると、分配器/合成器133からヘリカル素子の先端へ流れる電流の方向についても互いにほぼ逆方向となるため、第1のアンテナ部12と第2のアンテナ部13からの放射が互いに打ち消し合ってしまう。
【0060】
そこで、この実施形態では、第1のアンテナ部12のヘリカル素子12a~12dと、第2のアンテナ部13のヘリカル素子13a~13dの巻き方向を互いに逆方向としている。
【0061】
これにより、分配器/合成器133からヘリカル素子12a~12dの先端へ電流が流れる際、電流が流れる方向を互いに略同じ方向とすることができ、第1のアンテナ部12と第2のアンテナ部13の放射が互いに打ち消し合うことを回避できる。その結果、
図11(B)に示すように、アンテナ装置10は、垂直方向に強い放射指向性を持つ。
【0062】
図12は、実施形態に係るアンテナ装置10の反射特性を示す図である。
【0063】
ここでは、無給電アンテナとしての第2のアンテナ部13の終端条件を変化させたときの反射特性を考察する。例えば、SパラメータのS11(入力端子に入力した信号に対して入力端子で反射される信号の割合を示す入力反射係数)を考察する。
【0064】
図12(A)及び
図12(B)において、縦軸はSパラメータのS11[dB]であり、横軸は使用周波数[GHz]である。
【0065】
使用周波数が5060MHzである場合、第2のアンテナ部13の終端条件をOpenにしたとき、
図12(A)に示すように、反射量をー10dB以下とすることができる。また、第2のアンテナ部13の終端条件をShortにしたときも、
図12(B)に示すように、反射量をー10dB以下とすることができる。このように、終端負荷の条件が変わっても反射量を低く抑えることができる。
【0066】
図13は、実施形態に係るアンテナ装置10の軸比特性を示す図である。
【0067】
図13(A)及び
図13(B)において、縦軸は、軸比AR(円偏波が楕円形に歪んだ電波(楕円偏波)の長軸と短軸の比)[dB]であり、横軸は、Z軸に対する角度Θ[度]である。ここでは、楕円偏波の軸比(AR)が3dB以下のとき、円偏波を放射するアンテナ装置10の性能が良好であるとする。
【0068】
図13(A)に示すように、第2のアンテナ部13の終端条件をOpenにしたとき、±65度の範囲で、軸比(AR)が3dB以下であった。また、
図13(B)に示すように、第2のアンテナ部13の終端条件をShortにしたとき、±30度の範囲で、軸比(AR)が3dB以下であった。
【0069】
低仰角方向へ放射する第1のアンテナ部12は、広い角度範囲で低い軸比であることが要求されるが、第1のアンテナ部12の各ヘリカル素子12a~12dは、巻き数を大きくすることにより、第1のアンテナ部12の軸比を下げることができる。
【0070】
(A-4)実施形態の効果
以上のように、この実施形態によれば、地板上に、4線巻きヘリカルアンテナの第1のアンテナ部と、第1のアンテナ部の外側を囲むように、4線巻きヘリカルアンテナの第2のアンテナ部とを備え、第1のアンテナ部のヘリカル素子と第2のアンテナ部とヘリカル素子の巻き方向を互いに逆方向とすることにより、第1のアンテナ部に給電したときに、第1のアンテナ部と第2のアンテナ部に流れる電流の方向をほぼ同一方向とすることができるので、互いに放射の打ち消しを回避できる。
【0071】
また、この実施形態では、第1のアンテナ部のピッチ角を、第2のアンテナ部のピッチ角より大きくすることで、第1のアンテナ部で低仰角方向への放射が可能となり、第2のアンテナ部で垂直方向への放射が可能となる。
【0072】
さらに、この実施形態によれば、第1のアンテナ部のピッチ角を70度以下とすることにより、第1のアンテナ部の利得低下を抑えることができる。
【0073】
さらにまた、この実施形態によれば、低仰角方向への放射を行なう第1のアンテナ部の巻き数が、第2のアンテナの巻き数よりも大きくすることにより、第1のアンテナ部は、広い角度範囲で軸比を低くすることができる。
【0074】
(B)他の実施形態
上述した実施形態においても種々の変形実施形態を言及したが、本発明は、以下の実施形態にも適用できる。
【0075】
(B-1)上述した実施形態では、第1のアンテナ部12及び第2のアンテナ部13がそれぞれ、4線巻きヘリカルアンテナである場合を例示したが、ヘリカル素子の本数は3本でもよい。また、可能であれば、5本以上であってもよい。
【0076】
(B-2)上述した実施形態では、内側円上にある第1のアンテナ部12の各端子Port1~Port4と、外側円上にある第2のアンテナ部13の各終端部131とが、互いに、例えばXY面上でφ=0度の直線(ここでは「始線」と呼ぶ。)に対してなす角度が同じである場合を例示したが、始線に対してなす角度が同じでなく、各端子Port1~Port4と各終端部131と互いにズレた位置であってもよい。すなわち、例えば、各終端部131は始線に対してなす角度が端子Port1~Port4の角度と異なり、4個の終端部131は外側円上に等間隔で配置されてもよい。
【0077】
また、第1のアンテナ部12の各ヘリカル素子12a~12dは、例えば、円筒形又は円柱形のコア材の外形に沿って巻き上げられ、第2のアンテナ部13の各ヘリカル素子13a~13dは、半径(又は直径)が異なるコア材の外形に沿って巻き上げられるようにしてもよい。この場合、各ヘリカル素子12a~12d及び13a~13dは、金属等の導体を用いたパターンで、円筒形又は円柱形のコアの外周面に形成されるようにしてもよい。また、コア材は、円筒形又は円柱形に限らず、多角柱又は中空の多角柱であってもよい。
【0078】
さらに、特許請求の範囲に記載の「螺旋状に巻き上げ」は、1個の導体が連続的に螺旋状に巻き上げられること、複数の導体が繋ぎ合わされて(すなわち複数の導体を接続させて)巻き上げられることを含む。後者は、基板表面にパターンでヘリカル素子を形成した基板をZ軸方向に積層し、ある基板のヘリカル素子と、その上下方向にある基板のヘリカル素子とを接続させたアンテナ装置にも適用できることを意味する。つまり、複数基板のそれぞれの表面にヘリカル素子を形成して、各基板のヘリカル素子を導体で接続してパッケージ化したアンテナ装置にも適用できる。
【0079】
(B-3)上述した実施形態では、第1のアンテナ部12が分配器/合成器133に接続し、第2のアンテナ部13が終端負荷切替部132に接続している場合を例示した。しかし、第1のアンテナ部12及び第2のアンテナ部13が接続する回路構成は、これに限らず、例えば、第2のアンテナ部13が各ヘリカル素子13a~13dに電気信号を給電又は受電する分配器/合成器に接続し、第1のアンテナ部12が終端負荷切替部132に接続する回路でもよい。
【0080】
(B-4)
図14は、変形実施形態のアンテナ装置10Aの構成を示す構成図である。
【0081】
図14に示すように、アンテナ部10Aは、第1のアンテナ部12の各ヘリカル素子12a~12dの先端を導電性環状部材52で連結させるようにしてもよい。同様に、第2のアンテナ部13の各ヘリカル素子13a~13dの先端を導電性環状部材53で連結させてもよい。
【0082】
第1のアンテナ部12における各ヘリカル素子12a~12dの先端を導電性環状部材52で連結させることにより、導電性環状部材52の長さだけヘリカル素子12a~12dの長さ(電気長)が長くなるが、インピーダンス整合を行なうことで調整することができる。なお、第2のアンテナ部13についても同様である。
【符号の説明】
【0083】
10…アンテナ装置、11…地板、12…第1のアンテナ部、12a~12d…ヘリカル素子、13…第2のアンテナ部、13a~13d…ヘリカル素子、Port1~Port4…端子、131…終端部、132…スイッチ部(終端負荷切替部)、133…分配器/合成器。