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特開2023-92937銀ペースト、および、接合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092937
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】銀ペースト、および、接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/52 20060101AFI20230627BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20230627BHJP
   B22F 1/052 20220101ALI20230627BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20230627BHJP
   B22F 7/08 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
H01L21/52 E
B22F9/00 B
B22F1/052
B22F1/00 K
B22F7/08 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208251
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】八十嶋 司
(72)【発明者】
【氏名】林 志桜里
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5F047
【Fターム(参考)】
4K017AA03
4K017AA08
4K017BA02
4K017CA07
4K017CA08
4K017DA01
4K017DA07
4K018BA01
4K018BB04
4K018BB05
4K018BD04
4K018JA36
4K018KA32
5F047AA11
5F047AA17
5F047BA21
5F047BA53
(57)【要約】
【課題】銀の焼結体からなる接合層と金属部材とを強固に接合でき、接合層を介して接合された金属部材と他の部材との接合強度を十分に向上させることが可能な銀ペースト、および、この銀ペーストを用いた接合体の製造方法を提供する。
【解決手段】銀粉と、溶剤と、クエン酸と、を含むことを特徴とする。前記クエン酸の含有量が0.001質量%以上1質量%以下の範囲内であることが好ましい。さらに、脂肪酸銀と脂肪族アミンを含み、前記脂肪酸銀の少なくとも一部と前記脂肪族アミンの少なくとも一部とが反応して形成される錯体を有することが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀粉と、溶剤と、クエン酸と、を含むことを特徴とする銀ペースト。
【請求項2】
前記クエン酸の含有量が0.001質量%以上1質量%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の銀ペースト。
【請求項3】
さらに、脂肪酸銀と脂肪族アミンを含み、前記脂肪酸銀の少なくとも一部と前記脂肪族アミンの少なくとも一部とが反応して形成される錯体を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の銀ペースト。
【請求項4】
前記銀粉は、粒径が100nm以上500nm未満の第1銀粒子と、粒径が50nm以上100nm未満の第2銀粒子と、粒径が1000nm以上10000nm未満の第3銀粒子と、を含んでおり、
前記銀粉の全体を100体積%として、前記第1銀粒子の含有量が12体積%以上90体積%以下の範囲内、前記第2銀粒子の含有量が1体積%以上38体積%以下の範囲内、前記第3銀粒子の含有量が5体積%以上80体積%以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の銀ペースト。
【請求項5】
第1部材と第2部材とが接合層を介して接合された接合体の製造方法であって、
前記第1部材および前記第2部材のいずれか一方または両方が金属部材とされており、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の銀ペーストを用いて前記接合層を形成することを特徴とする接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材同士を接合する際に用いられる銀ペースト、および、この銀ペーストを用いた接合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、LEDやパワーモジュールといった半導体装置は、金属部材からなる回路層の上に半導体素子が接合された構造とされている。
ここで、半導体素子等の電子部品を回路層上に接合する際には、例えば特許文献1に示すように、はんだ材を用いた方法が広く使用されている。最近では、環境保護の観点から、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系等の鉛フリーはんだが主流となっている。
【0003】
ところで、特許文献1に記載されたように、はんだ材を介して半導体素子等の電子部品と回路層とを接合した場合には、高温環境下で使用した際にはんだの一部が溶融し、半導体素子等の電子部品と回路層と接合信頼性が低下するおそれがあった。
特に、最近では、半導体素子自体の耐熱性が向上しており、半導体装置が自動車のエンジンルーム等の高温環境下で使用されることがある。また、半導体素子に対して大電流が負荷され、半導体素子自体の発熱量が大きくなっている。このため、従来のようにはんだ材で接合した構造では対応が困難であった。
【0004】
そこで、はんだ材の代替として、例えば、特許文献2,3には、粒径がサブミクロンサイズの銀粉と溶剤とを含む銀ペーストが提案されている。また、特許文献4,5には、粒径がナノサイズの銀粉と溶剤とを含む銀ペーストが提案されている。さらに、特許文献6には、粒径の異なる2種類以上の銀粉を含有するとともに銀粉における有機物量を制限した銀ペーストが提案されている。
これらの銀ペーストは、比較的低温条件で焼結することができ、かつ、焼結後に形成される接合層の融点は銀と同等となる。このため、この銀ペーストの焼結体からなる接合層は、耐熱性に優れており、高温環境下や大電流用途においても安定して使用することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-172378号公報
【特許文献2】国際公開第2006/126614号
【特許文献3】国際公開第2007/034833号
【特許文献4】特開2008-161907号公報
【特許文献5】特開2011-094223号公報
【特許文献6】特開2018-172764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述の銀ペーストを用いて金属部材(回路層)と半導体素子を接合する際には、金属部材(回路層)の表面に金属酸化物膜が形成されていることがあり、銀ペーストを焼結した際に、金属部材(回路層)と銀の焼結体からなる接合層とが十分に接合されず、接合層を介して接合した金属部材(回路層)と半導体素子の接合強度が低下してしまうおそれがあった。
特に、最近では、上述の半導体装置等においては、使用環境が厳しくなっており、従来にも増して金属部材(回路層)と半導体素子の接合強度の向上が求められている。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、銀の焼結体からなる接合層と金属部材とを強固に接合でき、接合層を介して接合された金属部材と他の部材との接合強度を十分に向上させることが可能な銀ペースト、および、この銀ペーストを用いた接合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の銀ペーストは、銀粉と、溶剤と、クエン酸と、を含むことを特徴としている。
【0009】
本発明の銀ペーストによれば、銀粉および溶剤とともにクエン酸を含んでいるので、金属部材の表面に形成された金属酸化膜とクエン酸との反応によりクエン酸と金属の化合物が生成し、このクエン酸と金属の化合物が高温条件下で分解され、金属部材の表面に金属微粒子として再析出し、銀ペーストの銀粉との焼結が促進される。これにより、銀の焼結体からなる接合層と第1部材(金属回路層)とが強固に接合されることになり、接合層を介して接合された金属部材とその他の部材との接合強度を大幅に向上させることが可能となる。
【0010】
ここで、本発明の銀ペーストにおいては、前記クエン酸の含有量が0.001質量%以上1質量%以下の範囲内であることが好ましい。
この場合、前記クエン酸の含有量が0.001質量%以上とされているので、銀の焼結体からなる接合層と金属部材との接合強度を確実に向上させることが可能となる。一方、前記クエン酸の含有量が1質量%以下とされているので、銀の焼結体からなる接合層におけるボイドの生成を抑制することができる。
【0011】
また、本発明の銀ペーストにおいては、さらに、脂肪酸銀と脂肪族アミンを含み、前記脂肪酸銀の少なくとも一部と前記脂肪族アミンの少なくとも一部とが反応して形成される錯体を有することが好ましい。
この場合、前記脂肪酸銀の少なくとも一部と前記脂肪族アミンの少なくとも一部とが反応して形成される錯体を有しているので、焼結時に前記錯体から微細な銀が析出し、この微細な析出銀が銀粒子同士の隙間を埋めることで、緻密な接合層を形成することが可能となる。
【0012】
さらに、本発明の銀ペーストにおいては、前記銀粉は、粒径が100nm以上500nm未満の第1銀粒子と、粒径が50nm以上100nm未満の第2銀粒子と、粒径が1000nm以上10000nm未満の第3銀粒子と、を含んでおり、前記銀粉の全体を100体積%として、前記第1銀粒子の含有量が12体積%以上90体積%以下の範囲内、前記第2銀粒子の含有量が1体積%以上38体積%以下の範囲内、前記第3銀粒子の含有量が5体積%以上80体積%以下の範囲内とされていることが好ましい。
【0013】
この場合、前記銀粉は、粒径が100nm以上500nm未満の第1銀粒子と、粒径が50nm以上100nm未満の第2銀粒子と、粒径が1000nm以上10000nm未満の第3銀粒子とを、上述の範囲でそれぞれ含んでいるので、粒径の大きな銀粒子同士の隙間に粒径の小さな銀粒子が入り込むことにより、緻密な接合層を形成することが可能となる。
そして、粒径が1000nm以上10000nm未満の第3銀粒子が存在することで、接合面の外周部分にまで連通する空隙が形成され、接合面の中心部分で溶媒が揮発して生じたガスを外部へと排出することができ、粗大なボイドの生成を抑制することができる。
【0014】
本発明の接合体の製造方法は、第1部材と第2部材とが接合層を介して接合された接合体の製造方法であって、前記第1部材および前記第2部材のいずれか一方または両方が金属部材とされており、上述の銀ペーストを用いて前記接合層を形成することを特徴としている。
【0015】
本発明の接合体の製造方法によれば、上述の銀ペーストを用いて接合層を形成し、いずれか一方または両方が金属部材とされた前記第1部材および前記第2部材を接合しているので、金属部材と接合層とが強固に接合され、第1部材と第2部材との接合強度に優れた接合体を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、銀の焼結体からなる接合層と金属部材とを強固に接合でき、接合層を介して接合された金属部材と他の部材との接合強度を十分に向上させることが可能な銀ペースト、および、この銀ペーストを用いた接合体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態である銀ペースト、及び、この銀ペーストを用いた接合体の製造方法について説明する。
本実施形態に係る銀ペーストは、いずれか一方又は両方が金属部材からなる第1部材と第2部材とを接合する際に用いられるものであり、例えば、絶縁回路基板の金属回路層(第1部材)と半導体素子(第2部材)とを接合層を介して接合する際に用いられる。本実施形態では、金属回路層は銅又は銅合金で構成されている。
【0018】
本実施形態である銀ペーストは、銀粉と、溶剤と、クエン酸と、を含むものである。なお、銀粉、溶剤、クエン酸の他に、必要に応じて、樹脂、分散剤、可塑剤等を含有していてもよい。
ここで、本実施形態においては、クエン酸の含有量は、銀ペースト全体に対して、0.001質量%以上1質量%以下の範囲内であることが好ましい。
【0019】
銀粉は、粒径が100nm以上500nm未満の第1銀粒子と、粒径が50nm以上100nm未満の第2銀粒子と、粒径が1000nm以上10000nm未満の第3銀粒子と、を含むものとされている。
なお、銀粉に含まれる銀粒子の粒径は、例えば、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて、銀粒子の投影面積を測定し、得られた投影面積から円相当径を算出し、算出した粒径を体積基準の粒径に換算することで得ることができる。
【0020】
そして、銀粉の全体を100体積%として、第1銀粒子の含有量は12体積%以上90体積%以下の範囲内とされ、第2銀粒子の含有量は1体積%以上38体積%以下の範囲内とされ、第3銀粒子の含有量が5体積%以上80体積%以下の範囲内とされている。
なお、第1銀粒子、第2銀粒子及び第3銀粒子に該当しない銀粒子は、銀粉の全体を100体積%として、5体積%以下に制限することが好ましい。
【0021】
ここで、第1銀粒子の含有量の下限は27体積%以上であることが好ましい。第1銀粒子の含有量の上限は71体積%以下であることが好ましい。
また、第2銀粒子の含有量の下限は2体積%以上であることが好ましい。第2銀粒子の含有量の上限は30体積%以下であることが好ましい。
さらに、第3銀粒子の含有量の下限は25体積%以上であることが好ましい。第3銀粒子の含有量の上限は55体積%以下であることが好ましい。
【0022】
上述の銀粉は、有機還元剤あるいはその分解物からなる有機物を含むことが好ましく、この有機物は150℃の温度で分解若しくは揮発するものであることが好ましい。また、有機還元剤の例としては、アスコルピン酸、ギ酸、酒石酸等が挙げられる。
この有機還元剤あるいはその分解物からなる有機物は、銀粒子表面の酸化を抑制し、銀粒子同士の相互拡散を抑制する作用を有する。
【0023】
なお、上述の銀粉は、粒径が100nm以上500nm未満の第1銀粒子と、粒径が50nm以上100nm未満の第2銀粒子と、粒径が1000nm以上10000nm未満の第3銀粒子と、をそれぞれ準備し、これらを所定の配合比で混合することで製造することができる。
【0024】
また、第1銀粒子および第2銀粒子については、有機酸銀の水溶液と銀に対して還元作用を有する有機物とを混合して、有機酸銀を還元して銀粒子として析出させて、銀粒子のスラリーを得る方法によって製造することができる。有機酸銀の例としては、シュウ酸銀、クエン酸銀およびマレイン酸銀が挙げられる。還元作用を有する有機物としては、アスコルビン酸、ギ酸、酒石酸およびそれらの塩が挙げられる。この製造方法で得られる銀粒子の粒度分布は、有機酸銀と有機物との配合量、還元時の温度や時間によって適宜調整することができる。
【0025】
本実施形態である銀ペーストにおいて用いられる溶剤としては、アルコール系溶剤、グリコール系溶剤、アセテート系溶剤、炭化水素系溶剤、及びこれらの混合物等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、α-テルピネオール、イソプロピルアルコール、エチルヘキサンジオール、及びこれらの混合物等があり、グリコール系溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、及びこれらの混合物等があり、アセテート系溶剤としては、ブチルカルビトールアセテート等があり、炭化水素系溶剤としては、デカン、ドデカン、テトラデカン、及びこれらの混合物等がある。
【0026】
ここで、本実施形態である銀ペーストにおいては、さらに、脂肪酸銀と脂肪族アミンを含み、前記脂肪酸銀の少なくとも一部と前記脂肪族アミンの少なくとも一部とが反応して形成される錯体を有することが好ましい。
【0027】
脂肪酸銀としては、酢酸銀、シュウ酸銀、プロピオン酸銀、ミリスチル酸銀、酪酸銀等が挙げられる。また、脂肪族アミンとしては、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン等が挙げられる。脂肪族アミンの炭素数は好ましくは8以上12以下とすることが望ましい。炭素数を8以上とすることで脂肪族アミンの沸点が低くなりすぎず、銀ペーストの印刷性が低下することを抑制できる。一方、炭素数を12以下とすることで、銀ペースト中の銀粉の焼結が促進されることになる。なお、具体的な例としては、第1級アミンには、エチルヘキシルアミン、アミノデカン、ドデシルアミン、ノニルアミン、ヘキシルアミン等があり、第2級アミンには、ジメチルアミン、ジエチルアミン等があり、第3級アミンには、トリメチルアミン、トリエチルアミン等がある。
【0028】
ここで、本実施形態である銀ペーストにおいて、脂肪酸銀と脂肪族アミンを含む場合には、脂肪酸銀に対する脂肪族アミンのモル比、すなわち、脂肪族アミンのモル量/脂肪酸銀のモル量は1.5以上3以下の範囲内とすることが好ましい。脂肪族アミンのモル量/脂肪酸銀のモル量を1.5以上とすることにより、固体である脂肪酸銀の割合が相対的に低くなり、銀ペースト中に均一に分散させることができる。一方、脂肪族アミンのモル量/脂肪酸銀のモル量を3以下とすることにより、銀ペーストの粘性が低下することを抑制でき、印刷性を確保することができる。
なお、脂肪族アミンのモル量/脂肪酸銀のモル量の下限は1.7以上とすることがさらに好ましく、2.0以上とすることがより好ましい。脂肪族アミンのモル量/脂肪酸銀のモル量の上限は2.8以下とすることがさらに好ましく、2.5以下とすることがより好ましい。
【0029】
樹脂としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等を用いることができる。
分散剤としては、脂肪族アミンを用いることができ、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン等が挙げられる。脂肪族アミンの炭素数は好ましくは8以上12以下とすることが望ましい。炭素数を8以上とすることで脂肪族アミンの沸点が低くなりすぎず、銀ペーストの印刷性が低下することを抑制できる。一方、炭素数を12以下とすることで、銀ペースト中の銀粉の焼結が促進されることになる。なお、具体的な例としては、第1級アミンには、エチルヘキシルアミン、アミノデカン、ドデシルアミン、ノニルアミン、ヘキシルアミン等があり、第2級アミンには、ジメチルアミン、ジエチルアミン等があり、第3級アミンには、トリメチルアミン、トリエチルアミン等がある。
【0030】
本実施形態において、銀ペーストが上述の脂肪酸銀と脂肪族アミンを含有しない場合には、銀粉、溶剤、クエン酸、その他の構成原料(樹脂、分散剤、可塑剤等)を同時に混合することにより、銀ペーストを製造することが可能となる。
一方、銀ペーストが上述の脂肪酸銀と脂肪族アミンを含有する場合には、脂肪酸銀と脂肪族アミンとを混合した錯体液に、銀粉、溶剤、クエン酸、その他の構成原料(樹脂、分散剤、可塑剤等)をさらに混合することにより、銀ペーストを製造することが可能となる。
【0031】
次に、本実施形態である銀ペーストを用いた接合体の製造方法について説明する。
本実施形態である接合体の製造方法は、第1部材と第2部材とが接合層を介して接合された接合体を製造するものである。この接合体は、例えば第1部材としての絶縁回路基板の金属回路層と、第2部材としての半導体素子とを、接合層を介して接合した半導体装置であってもよい。
【0032】
第1部材の接合面および第2部材の接合面の一方又は両方に、本実施形態である銀ペーストを塗布する。塗布方法は特に限定されないが、例えば、スピンコート法、メタルマスク法、スクリーン印刷法等を適用することができる。
次に、第1部材と第2部材とを銀ペーストを介して積層して積層体とする。
そして、この積層体を加熱処理することで、銀ペーストの焼結体からなる接合層が形成され、第1部材と第2部材とが接合されることになる。
【0033】
加熱処理時の加熱温度は、特に限定されないが、120℃以上400℃以下の範囲内とすることが好ましい。
また、加熱温度での保持時間は、30分以上とすることが好ましい。
さらに、加熱処理時には、積層体に対して10MPa以下の圧力で積層方向に加圧してもよい。
また、加熱処理時の雰囲気としては、窒素雰囲気とするとよい。好ましくは酸素濃度が500ppm(体積基準)以下の窒素雰囲気とするとよい。より好ましくは酸素濃度100ppm(体積基準)以下の窒素雰囲気とするとよい。
【0034】
ここで、金属部材からなる第1部材(金属回路層)の接合面には、金属酸化膜が形成されている。本実施形態では、第1部材(金属回路層)が銅又は銅合金で構成されていることから、第1部材(金属回路層)の接合面には、銅酸化膜が形成されている。
本実施形態である銀ペーストは、クエン酸を含有しているので、第1部材(金属回路層)の接合面に形成された金属酸化膜(銅酸化膜)とクエン酸とが反応してクエン酸と金属の化合物(クエン酸銅)が生成する。そして、クエン酸と金属の化合物(クエン酸銅)が高温条件下で還元され、第1部材(金属回路層)の接合面に金属微粒子(銅微粒子)として再析出し、銀ペーストの銀粉との焼結が促進される。
【0035】
以上のような構成とされた本実施形態である銀ペーストによれば、銀粉および溶剤とともにクエン酸を含んでいるので、上述のように、第1部材(金属回路層)の接合面に形成された金属酸化膜(銅酸化膜)とクエン酸とが反応し、第1部材(金属回路層)の接合面に金属微粒子(銅微粒子)として再析出し、銀ペーストの銀粉との焼結が促進されることから、銀の焼結体からなる接合層と第1部材(金属回路層)とが強固に接合されることになる。よって、第1部材と第2部材との接合強度を大幅に向上させることが可能となる。
【0036】
また、本実施形態の銀ペーストにおいて、クエン酸の含有量が0.001質量%以上1質量%以下の範囲内である場合には、第1部材(金属回路層)の接合面に形成された金属酸化膜(銅酸化膜)とクエン酸を確実に反応させて、銀の焼結体からなる接合層と金属部材との接合強度を確実に向上させることが可能となるとともに、銀の焼結体からなる接合層におけるボイドの生成を抑制することができる。よって、接合層を介して接合された第1部材(金属回路層)と第2部材(半導体素子)との接合強度をさらに向上させることが可能となる。
【0037】
また、本実施形態である銀ペーストにおいて、脂肪酸銀と脂肪族アミンを含み、前記脂肪酸銀の少なくとも一部と前記脂肪族アミンの少なくとも一部とが反応して形成される錯体を有する場合には、焼結時に錯体から微細な銀が析出し、この微細な析出銀が銀粒子同士の隙間を埋めることで、緻密な接合層を形成することが可能となる。
【0038】
さらに、本実施形態である銀ペーストにおいて、銀粉が、粒径が100nm以上500nm未満の第1銀粒子と、粒径が50nm以上100nm未満の第2銀粒子と、粒径が1000nm以上10000nm未満の第3銀粒子と、を含んでおり、前記銀粉の全体を100体積%として、前記第1銀粒子の含有量が12体積%以上90体積%以下の範囲内、前記第2銀粒子の含有量が1体積%以上38体積%以下の範囲内、前記第3銀粒子の含有量が5体積%以上80体積%以下の範囲内とされている場合には、粒径の大きな銀粒子同士の隙間に粒径の小さな銀粒子が入り込むことにより、緻密な接合層を形成することが可能となる。そして、第3銀粒子が存在することで、銀粉の間に接合面の外周部分にまで連通する空隙が形成され、接合面の中心部分で溶媒が揮発して生じたガスを外部へと排出することができ、粗大なボイドの生成を抑制することができる。
【0039】
本実施形態である接合体の製造方法によれば、本実施形態である銀ペーストを用いて接合層を形成しているので、第1部材(金属回路層)の接合面に形成された金属酸化膜(銅酸化膜)とクエン酸とが反応し、銀ペーストの銀粉との焼結が促進されることから、銀の焼結体からなる接合層と第1部材(金属回路層)とが強固に接合されることになる。よって、第1部材(金属回路層)と第2部材(半導体素子)との接合強度を大幅に向上させることが可能となる。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
本実施形態では、第1部材を金属回路層とし、第2部材を半導体素子とし、接合体を半導体装置として説明したがこれに限定されることはなく、第1部材および第2部材のいずれか一方または両方が金属部材とされ、第1部材と第2部材とが銀の焼結体からなる接合層を介して接合された接合体であればよい。
【実施例0041】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
【0042】
まず、表1に示すように、粒径が100nm以上500nm未満の第1銀粒子と、粒径が50nm以上100nm未満の第2銀粒子と、粒径が1000nm以上10000nm未満の第3銀粒子を、含有する銀粉A、銀粉B、銀粉Cを準備した。
溶剤として、EHD(2-エチル-1,3-ヘキサンジオール)を準備した。
分散剤として、ドデシルアミンを準備した、
錯体液として、酢酸銀とアミノデカンとEHD(2-エチル-1,3-ヘキサンジオール)の混合液を準備した。なお、錯体液には、溶剤と分散剤を含むものとした。
添加剤Aとしてグリセリンを、添加剤BとしてグリセリンとDEG(ジエチレングリコール)の混合物(グリセリン:DEG=1:14(質量比))を準備した。
また、クエン酸、アジピン酸、クエン酸銀を準備した。
【0043】
そして、これらの原料を表2に示すように配合して混合し、各種銀ペーストを作製した。なお、錯体液を添加しない場合は、配合した原料を一度に混合した。一方、錯体液を添加する場合には、銀粉と錯体液とを混合した後、その他の原料を加えて混合した。なお、混合には、三本ロールミルを用いた。
【0044】
ここで、第1銀粒子、第2銀粒子、第3銀粒子13の各銀粒子粒径は、次のようにして測定した。
カーボンテープ上に撒いた銀粒子を、SEM観察(第1銀粒子および第2銀粒子は30000倍、第3銀粒子は3000倍)し、得られた画像から、それぞれ一次粒子の粒径を測定した。
【0045】
第1部材として、表2に示す金属基板(厚さ2mm)と、第2部材として最表面に金めっきを施した10mm角のSiC素子(厚さ400μm)とを準備した。
第1部材の表面に上述の銀ペーストを、メタルマスク法により塗布して厚さ150μm、10mm角の面積のペースト層を形成した。
次いで、このペースト層に第2部材を、ペースト層130μmとなるように積層し、窒素雰囲気(O濃度100volppm以下)の加熱炉に装入し、2℃/minの昇温速度で250℃まで昇温し、250℃で60分保持し、第1部材と第2部材とを接合層を介して接合した接合体を製造した。なお、加熱時に積層体の加圧は行わなかった。
得られた接合体について、シェア強度、ボイドについて、以下のように評価した。
【0046】
(シェア強度)
上述した接合体の製造方法において、銀ペーストの塗布面積を2.5mm角、SiC素子の大きさを2.5mm角とした以外は同様にして、シェア強度測定用の接合体を得た。
この接合体を、せん断強度評価試験機(株式会社レスカ製ボンディングテスタPTR-1101)を用いて接合強度を測定した。測定は、接合体の第1部材を水平に固定し、接合層の表面から100μm上方の位置にてシェアツールを用いて、第1部材を横から水平方向に押して、第2部材が破断されたときの強度を測定した。シェアツールの移動速度は0.1mm/sとした。一条件につき3回試験を行い、それらの算術平均値を測定値とした。
【0047】
(ボイドの評価)
上述の接合体を超音波探傷機(日立パワーソリューションズ社製FSP8V)で接合層全体を観察した。白色で示される未接合部の面積と同じ面積の円とした場合における直径、即ち、円換算直径を算出した。
そして、ボイド(未接合部)の円換算直径が1mm未満の場合を「〇」、ボイド(未接合部)の円換算直径が1mm以上3mm未満の場合を「△」と評価した。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
比較例1においては、銀ペーストがクエン酸を含有しておらず、シェア強度が5MPaと低くなった。
比較例2においては、銀ペーストがクエン酸の代わりにアジピン酸を含有しているが、シェア強度が8MPaと低くなった。
比較例3においては、銀ペーストがクエン酸の代わりにクエン酸銀を含有しているが、シェア強度が6MPaと低くなった。
【0051】
これに対して、本発明例1~7においては、銀ペーストがクエン酸を含有しており、シェア強度が29MPa以上と十分に高くなった。
また、クエン酸の含有量を1質量%以下とした本発明例1~6においては、接合層におけるボイドの発生を十分に抑制することができた。
さらに、錯体液を添加した本発明例3~5においては、シェア強度が54MPa以上とさらに高くなった。
【0052】
以上のことから、本発明例によれば、銀の焼結体からなる接合層と金属部材とを強固に接合でき、接合層を介して接合された金属部材と他の部材との接合強度を十分に向上させることが可能な銀ペースト、および、この銀ペーストを用いた接合体の製造方法を提供可能であることが確認された。