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  • 特開-字消し 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092943
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】字消し
(51)【国際特許分類】
   B43L 19/00 20060101AFI20230627BHJP
   B43K 29/02 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
B43L19/00 B
B43K29/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208258
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】390039734
【氏名又は名称】株式会社サクラクレパス
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】澤 智裕
(57)【要約】
【課題】消字性が良好で、かつ、使用中に折れにくい字消しを提供すること。
【解決手段】 基材樹脂と、充填材と、可塑剤とを含み、前記基材樹脂はビニル系樹脂を含み、前記可塑剤はアジピン酸ジイソブチルを含み、前記可塑剤は字消しの全質量に対して10~80質量%の割合で含有されている、字消しである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材樹脂と、充填材と、可塑剤とを含み、
前記基材樹脂は、ビニル系樹脂を含み、
前記可塑剤は、アジピン酸ジイソブチルを含み、
前記可塑剤は、字消しの全質量に対して10~80質量%の割合で含有されている、
字消し。
【請求項2】
前記可塑剤の全量に対してアジピン酸ジイソブチルは10質量%以上の割合で含有されている、
請求項1に記載の字消し。
【請求項3】
さらに、アジピン酸ジイソブチルと異なる第2の可塑剤を含有し、
前記第2の可塑剤は、
(CH-(COOC2y+1 (但し、xは2~10のいずれかの整数、yは1~5のいずれかの整数を示す。)
で表される脂肪族二塩基酸エステルである、
請求項1または請求項2に記載の字消し。
【請求項4】
前記第2の可塑剤がセバシン酸ジブチルである、
請求項3に記載の字消し。
【請求項5】
基材樹脂と、充填材と、可塑剤とを含み、
前記基材樹脂は、ビニル系樹脂を含み、
前記可塑剤は、第1の脂肪族二塩基酸エステルと、第2の脂肪族二塩基酸エステルとを含み、
前記第1の脂肪族二塩基酸エステルと前記第2の脂肪族二塩基酸エステルは、互いに異なり、
いずれも
(CH-(COOC2y+1 (但し、xは2~10のいずれかの整数、yは1~5のいずれかの整数を示す。)
で表される脂肪族二塩基酸エステルである、
字消し。
【請求項6】
前記可塑剤は、字消しの全質量に対して10~80質量%の割合で含有されている、
請求項5に記載の字消し。
【請求項7】
直径4mm、長さ13mmに成形した字消しを、荷重1Kgfを加えて、角度65°に保持し、3cm幅を1秒間に2回擦するスピードで上質紙の上を擦する折れやすさ試験において、100往復で折れない折れにくさを有する、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の字消し。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の字消しを備える、シャープペンシル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、字消しに関する。
【背景技術】
【0002】
基材樹脂と、充填剤と、可塑剤とを混練、成形して得られる字消しが知られている。例えば特許文献1には、基材樹脂として塩化ビニル樹脂と、充填剤として重質炭酸カルシウムと、可塑剤としてセバシン酸ジブチルおよびクエン酸系可塑剤と、を含む字消しが記載されている。また、特許文献2には、基材樹脂としてポリウレタンと、充填材と、研磨剤と、可塑剤として脂肪族二塩基酸エステルやリン酸エステルを含む字消しが記載されている。
【0003】
また、字消しは、様々な形状に成形される。直方体の字消しが厚紙やプラスチック製のスリーブで覆われ、スリーブから字消しの一部を露出させて使用されるものが一般的である。また、スティック状に成形された字消しを繰り出して用いるもの、円柱状に成形されシャープペンシルの後端に取り付けられる字消し等が知られている(例えば特許文献3,4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-21768号公報
【特許文献2】特開2011-51093号公報
【特許文献3】特開2012-11584号公報
【特許文献4】特開2005-231148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
字消しには、消字性が良好であることが求められる。また、使用中に折れにくいことが求められる。
【0006】
そこで、本発明は、消字性が良好で、かつ、使用中に折れにくい字消しを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に従う字消しは、基材樹脂と、充填材と、可塑剤とを含む。前記基材樹脂は、ビニル系樹脂を含む。前記可塑剤は、アジピン酸ジイソブチルを含む。前記可塑剤は、字消しの全質量に対して10~80質量%の割合で含有されている。
【発明の効果】
【0008】
上記の構成の字消しは、消字性が良好であり、また、使用中に折れにくい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、折れにくさの評価方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態の概要]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。本開示に従う字消しは、基材樹脂と、充填材と、可塑剤とを含む。前記基材樹脂は、ビニル系樹脂を含む。前記可塑剤は、アジピン酸ジイソブチルを含む。前記可塑剤は、字消しの全質量に対して10~80質量%の割合で含有されている。
【0011】
従来、塩化ビニル樹脂を基材樹脂として含有し、さらに充填剤と可塑剤を含む字消しが知られている(例えば特許文献1)。特許文献1の字消しでは、可塑剤としてセバシン酸ジブチルおよびクエン酸系可塑剤が併用される。特許文献1の字消しは、可塑剤としてセバシン酸ジエステルを用いることによって、従来よりも環境負荷が少なく、より安全な字消しが得られることを開示している。また、特許文献2には、基材樹脂であるポリウレタンと、充填材と、研磨剤と、可塑剤である脂肪族二塩基酸エステルやリン酸エステルを含む字消しが記載されている。特許文献2の字消しは、特定の組成を有するポリウレタンを基材樹脂として使用し、さらに、可塑剤と研磨剤と充填剤とを組み合わせて用いることによって、紙面に対する滑りがよく、軽いタッチでよく消字できる字消しが得られることを開示している。
【0012】
一方、字消しの形態の一つとして、シャープペンシルの後端に備えられる字消しやスティックタイプの字消しがある。このような字消しは、紙等のスリーブに収納されて用いられる字消しと比較して、細長く露出した状態で使用されることが多い。細長く露出した字消しは使用の際に折れやすくなるため、このような用途には、硬く、折れにくい字消しが用いられている。
【0013】
しかしながら、折れにくい字消しは消字性に劣る傾向があった。この状況に鑑みて、細長い形態で使用した時にも折れにくく、かつ消字性の高い字消しについて検討が重ねられた。当初、塩化ビニル樹脂を基材とする字消しは、消字性に優れるものの柔らかくなりやすく、細長い形状で用いる字消しには適さないと予測されていた。しかしながら本開示においては、ビニル系樹脂を基材とし、特定の可塑剤を配合することによって、消字性と細長い形状での折れにくさが両立される字消しが得られることが見出された。具体的に、本開示にかかる字消しは、基材樹脂としてビニル系樹脂を含み、可塑剤としてアジピン酸ジイソブチルを含み、可塑剤は字消しの全質量に対して10~80質量%の割合で配合されているという構成を有する。これらの構成によって、細長い形態で使用しても折れにくく、かつ消字性の高い字消しが得られることが見出された。
【0014】
前記字消しにおいて、前記可塑剤の全量に対してアジピン酸ジイソブチルは10質量%以上の割合で含有されていてもよい。可塑剤の全量中、アジピン酸ジイソブチルが10質量%以上含有されることで、消字性を損なうことなく折れにくいという効果がより明確に得られる。
【0015】
前記字消しは、さらに、アジピン酸ジイソブチルと異なる第2の可塑剤を含有し、
前記第2の可塑剤は、
(CH-(COOC2y+1 (但し、xは2~10のいずれかの整数、yは1~5のいずれかの整数を示す。)
で表される脂肪族二塩基酸エステルであってよい。これらの2種の可塑剤を含有することによって、折れにくいものでありながら消字性にもきわめて優れた字消しが得られる。
【0016】
前記第2の可塑剤はセバシン酸ジブチルであってよい。セバシン酸ジブチルとアジピン酸イソブチルを含有する字消しは、細長い形状でも折れにくく、かつ消字性にも優れるという効果が特に優れる。
【0017】
また本開示にかかる字消しは、基材樹脂と、充填材と、可塑剤とを含む。前記基材樹脂は、ビニル系樹脂を含む。前記可塑剤は、第1の脂肪族二塩基酸エステルと、第2の脂肪族二塩基酸エステルとを含む。前記第1の脂肪族二塩基酸エステルと前記第2の脂肪族二塩基酸エステルは互いに異なり、いずれも
(CH-(COOC2y+1 (但し、xは2~10のいずれかの整数、yは1~5のいずれかの整数を示す。)
で表される脂肪族二塩基酸エステルである。
これらの構成によって、細長い形態でも折れにくく、かつ消字性の高い字消しが得られることが見出された。
【0018】
前記可塑剤は、字消しの全質量に対して10~80質量%の割合で含有されていてもよい。可塑剤がこの範囲であると、可塑剤の機能、また、他の成分である基材樹脂や充填材に由来する機能が発揮され、取り扱いやすい物性を有する字消しが得られる。
【0019】
前記字消しは、直径4mm、長さ13mmに成形した字消しを、先端から4mmが露出した状態で保持し、荷重1Kgfを加え、角度65°に保持して、3cm幅を1秒間に2回擦するスピードで上質紙の上を擦する折れやすさ試験において、100往復で折れない折れにくさを有するものであってよい。このような折れにくさを有する字消しは、シャープペンシルの後端に付ける字消しや繰り出し式のスティックタイプ字消しとして特に好ましい。
【0020】
また本開示は、上述の字消しを備えるシャープペンシルに関する。本開示にかかるシャープペンシルは、消字性が高く、かつ使用時に折れにくい字消しを備える。このことから、より使い勝手のよいシャープペンシルを提供できる。
【0021】
[実施形態の具体例]
(字消し)
本開示にかかる字消しの外形は、特に制限されない。字消しは、直方体、円柱体、角柱体、何らかの物品やキャラクターの形状を模した立体等、任意の立体形状に成形されうる。本開示にかかる字消しは、これらの中でも、細長い形状に露出させて用いられるものに好適である。細長いとは、具体的には例えば、スリーブやホルダから露出した字消しの部分において、露出部分の幅(A)と、露出部分の長さ(L)との比であるアスペクト比(A:L)が1:0.5以上であることをいう。本開示に係る字消しは、露出部分のアスペクト比(A:L)が1:0.5~1:2であることが好ましい。ここで露出部分の幅(A)とは、字消しの露出部分が円柱状である場合は直径を、字消しの露出部分が直方体状である場合は断面を構成する辺の長さの平均を意味している。
【0022】
本開示にかかる字消しは、基材樹脂と、充填材と、可塑剤とを含む。本開示にかかる字消しは基材樹脂と充填材と可塑剤とを主な成分として含有する。例えば、字消しの全質量に対して、基材樹脂と充填材と可塑剤の合計は90質量%以上であってよく、典型的には90~99.9質量%であってよい。基材樹脂と充填剤と可塑剤との含有割合は、本開示の範囲内で様々に変更されうる。これらの3成分のうち、基材樹脂の含有割合が最も大きい構成であってもよいし、充填剤あるいは可塑剤の含有割合が最も大きい構成であってもよい。
【0023】
(基材樹脂)
本開示にかかる字消しに含有される基材樹脂は、ビニル系樹脂を含む。ビニル系樹脂としては、典型的には塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂が挙げられる。塩化ビニル系樹脂としては、従来字消しの材料として用いられている塩化ビニル樹脂を用いることができる。塩化ビニル樹脂としては例えば、重合度が400~3000程度のポリ塩化ビニルのほか、塩化ビニリデン、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-アクリル酸メチル共重合体、塩化ビニル-メタクリル酸メチル共重合体、及び塩化ビニル-アクリル酸オクチル共重合体が挙げられる。酢酸ビニル樹脂としては例えば、酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。これらは単独で又は必要に応じて2種類以上組み合わせて用いられる。また、ビニル樹脂に加えて、ビニル樹脂以外の樹脂を含んでもよい。
【0024】
基材樹脂は、字消しの全質量に対して5~80質量%の範囲で含まれてよく、好ましくは10~70質量%の範囲で含有される。より好ましくは15~60質量%の範囲である。基材樹脂が80質量%以下であれば可塑剤との混和性が良い。また、消去性が得られる。基材樹脂を5質量%以上含有すると、もろさが抑制され、他成分と混合することによって適切な硬さが得られる。
【0025】
(充填材)
本開示にかかる字消しにおいて、充填材は物性の調整を目的として配合される。充填剤は従来字消しの材料として用いられている充填材を用いることができ、典型的には無機粉末が用いられる。無機粉末としては例えば、重炭酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、無水ケイ酸、珪石、ガラスフレーク等が挙げられる。
【0026】
充填材は、字消しの全質量に対して5~80質量%の範囲で含まれてよく、好ましくは10~70質量%の範囲で含有される。より好ましくは15~60質量%の範囲である。充填材が80質量%以下であれば可塑剤との混和性が良い。また、字消しがもろく折れやすくなることが抑えられる。充填材を5質量%以上含有すると、充填剤を含むことによる消字性の向上の効果が得られる。また、字消しを構成する組成物にある程度の硬さを与えて成形性が良好になる。
【0027】
(可塑剤)
本開示にかかる字消しは、可塑剤として脂肪族二塩基酸エステルを含む。特に、可塑剤としてアジピン酸ジイソブチルを含有する。また、可塑剤として、互いに異なる第1の脂肪族二塩基酸エステルと、第2の脂肪族二塩基酸エステルとを含み、第1の脂肪族二塩基酸エステルと第2の脂肪族二塩基酸エステルとはいずれも、
(CH-(COOC2y+1 (但し、xは2~10のいずれかの整数、yは1~5のいずれかの整数を示す。)
で表される脂肪族二塩基酸エステルである。
【0028】
可塑剤は、字消しの全質量に対して10~80質量%の範囲で含まれてよく、好ましくは20~70質量%の範囲で含有される。可塑剤が80質量%以下であれば、柔らかすぎることがなく成型性が良好となり、かつ、折れにくい字消しが得られる。可塑剤が10質量%以上であれば、基材樹脂との混和性が良好で可塑剤の効果が発揮されやすい。
【0029】
本開示にかかる字消しでは、好ましくは塩化ビニル樹脂であるビニル系樹脂の基材に対して、特定の構成を有する脂肪族二塩基酸エステルを可塑剤として特定割合で含有させることによって、塩化ビニル樹脂を基材とする字消しの消字性の良さを維持しながら、細長い形状でも折れにくい字消しが得られることを見出している。
【0030】
可塑剤としてアジピン酸ジイソブチルを用いる場合、可塑剤はアジピン酸ジイソブチルのみであってもよいし、アジピン酸ジイソブチルが可塑剤の全量に対して10質量%以上含まれていてもよく、25質量%以上含まれていることがより好ましい。アジピン酸ジイソブチル((CH-(COOC)は、一般的な塩化ビニル樹脂成型物に適用する可塑剤としては公知であったが、字消しに用いることは知られていなかった。とりわけ、ビニル系樹脂および充填剤と併用した場合に、消字性と折れにくさが両立する字消しが得られることは予測されていなかった。
【0031】
アジピン酸ジイソブチルと他の可塑剤とを併用する場合、他の可塑剤は脂肪族二塩基酸エステルであってよく、好ましくは
(CH-(COOC2y+1 (但し、xは2~10のいずれかの整数、yは1~5のいずれかの整数を示す。)
で表される脂肪族二塩基酸エステルであり、より好ましくはセバシン酸ジブチル((CH-(COOC)である。
(CH-(COOC2y+1 (但し、xは2~10のいずれかの整数、yは1~5のいずれかの整数を示す。)
で表される脂肪族二塩基酸エステルとしては、例えば、アジピン酸ジエステル、セバシン酸ジエステルが挙げられる。
【0032】
また、本開示にかかる字消しは、可塑剤として、(CH-(COOC2y+1 (但し、xは2~10のいずれかの整数、yは1~5のいずれかの整数を示す。)で表される二塩基酸エステルから選ばれる2種以上を可塑剤として含んでもよい。具体的には、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジイソブチル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジブチル等から2種類を用いてもよい。
【0033】
また、本開示にかかる字消しの効果を阻害しない範囲で、他の可塑剤を含んでもよい。他の可塑剤としては、例えば、トリメリット酸エステル、ピロメリット酸エステル、アゼライン酸エステル、テレフタル酸エステル、また、リン酸系可塑剤、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)等のクエン酸系可塑剤、エポキシ化大豆油エステル、エポキシ化アマニ油、エポキシ化脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0034】
(その他の成分)
本開示にかかる字消しは、上記以外にも任意の成分を含んでよい。例えば、基材樹脂、特に塩化ビニル系樹脂の劣化防止のため、安定剤を含有しうる。光安定性向上のため、紫外線吸収剤等の光安定剤を配合することもできる。その他、粘度調整剤、滑剤、溶剤、着色剤、防腐剤、防黴剤、香料等の添加剤を含有することもできる。これらの添加剤は、本開示にかかる字消しの効果を阻害しない限り、含有割合は制限されない。
【0035】
(字消しの物性)
本開示にかかる字消しは、細長い形状で使用される時にも折れにくい物性を備える。具体的には、直径4mm、長さ13mmに成形した字消しを、先端から4mmが露出した状態で保持し、荷重1Kgfを加え、角度65°に保持し、3cm幅を1秒間に2回擦するスピードで上質紙の上を擦する物性試験において、100往復で折れることがない物性を備えることが好ましい。なお、この物性試験では、字消しの直径4mm、露出部分の長さ4mmであることから、字消しの露出部分のアスペクト比は1:1である。字消しの折れにくさに関しては、硬さや柔軟性等が寄与すると考えられるところ、本開示にかかる字消しは、硬さと柔軟性が適切な範囲で両立される結果、細長い形状であっても折れにくいものが実現されると考えられている。
【0036】
図1は、細長い字消しの折れにくさの評価方法を示す模式図である。図1に示すように、シャープペンシル2の後端に所定の寸法に成形した字消し1を取り付ける。この字消し1に一定の荷重(例えば1Kgf)を加えながら、所定の角度(例えば65°)に保持し、所定の幅およびスピード(例えば3cm幅を1秒間に2回擦する)で平坦面(例えば上質紙の表面)を直線状に擦過し、字消しが折れるまでの往復回数をカウントする。一定回数(例えば100往復)擦過しても字消しが折れない場合には、折れにくさに優れると判断して評価を終了してもよい。
【0037】
(字消しの製造方法)
本開示にかかる字消しは、公知の字消しの製造方法の範囲内で、既存の設備や条件を適用ないし応用して製造できる。具体的には例えば次の方法で製造できる。まず、混合物作製工程として、基材樹脂、可塑剤、充填材、安定剤等をデゾルバー等の撹拌機を用いて均一になるまで攪拌し、原料混合物を得る。次いで、成形を行う。成形工程では、原料混合物を金型に流し込み、例えば100℃以上160℃以下の温度で1分以上50分以下の加熱し、成形する。加熱は、プレスによる加圧下で行うことが好ましい。プレス時の圧力は、例えば5kgf/cm(49N/cm)以上150kgf/cm(1470N/cm)以下に設定できる。成形後、目的に応じて、円柱状やスティック状に切り出し、所望の形状の字消しを得ることができる。なお、この製造方法は一例であり、製造方法は特に制限されない。
【0038】
(字消しの用途)
本開示にかかる字消しは、鉛筆やシャープペンシルの筆跡を消去する消しゴムとして用いることができる。特に、本発明の字消しは、細長い形状でも折れにくい特性を有することから、シャープペンシルの後端部に取り付けられる字消し、繰り出し式のスティックタイプ字消し、消しゴム付き鉛筆の消しゴム、電動型字消しのホルダに取り付けられる字消し、字消しを芯とするノック式の字消し、円筒内に着脱自在に取り付けられた字消し等として好適である。
【0039】
[実施例]
組成の異なる字消しである実施例1~実施例6の字消しを作製し、評価試験を実施した。実施例1~実施例6の配合および評価結果を[表1]に示す。なお、表中の「‐」は、材料が含まれていないことを示す。表中の数値の単位は質量%である。
【0040】
[実施例1]
以下の手順で字消しを作製し、消字性(消字率)、硬さ、および細長い形状での折れにくさを評価した。組成のまとめと結果を[表1]に示す。
(字消しの作製)
1. 基材樹脂としての塩化ビニル樹脂(商品名「ZEST P21」、新第一塩ビ株式会社製)114gと、充填剤としての重炭酸カルシウム(商品名「ライトンA-4」、備北粉化工業株式会社製)70.2gと、可塑剤としてのセバシン酸ジブチル(「DBS」、田岡化学工業株式会社製)57gおよびアジピン酸ジイソブチル(「DI4A」田岡化学工業株式会社製)57gと、安定剤としてのマグネシウム-亜鉛系安定剤(商品名「EMBILIZER R-23L」、東京ファインケミカル株式会社製)1.5gと、有機リン系安定剤(商品名「EMBILIZER TC-110S、東京ファインケミカル株式会社製)0.3gと、をデゾルバーに投入し、均一になるまで20分程度攪拌した。
2. 続いて、1.で得た混合物を金型に流し込み、温度120℃、プレス圧90kgf/cm(=882N/cm)で25分間熱プレスし、母材を硬化させることにより字消しを調製した。
【0041】
(字消しの評価)
(1)消字性(消字率)
JIS S 6050(2002) 6.4に準拠した以下の手順に沿って測定した。
(i)字消しを厚さ5mmの板状に切り、着色紙と接触する先端部分を半径6mmの円弧に仕上げたものを試験片とした。
(ii)画線機を用いて、JIS S 6006に規定する鉛筆のHBと、坪量90g/m以上、白色度75%以上の上質紙を使用して着色紙を作製した。この着色紙に対して、試験片を垂直に、かつ着色線に対して直角になるように接触させた。この状態で、試験片におもりとホルダの質量の和が0.5kgとなるようにおもりを載せ、150±10cm/minの速さで着色部を4往復摩消させた。
(iii)濃度計によって、着色紙の非着色部分の濃度を0として、着色部及び摩消部の濃度をそれぞれ測定した。
(iv)消字率は次の式によって算出し、3回の平均値を求めた。
消字率(%)=(1-(摩消部の濃度/着色部の濃度))×100
【0042】
(2)硬さ
JIS S 6050(2002) 6.2に準拠し、硬さ試験機を用いて測定した。
【0043】
(3)細長い形状での折れにくさ
字消しをポンチで直径4mm、直径6mmにそれぞれ刳り抜き、長さ13mmにカットした。これを、シャープペンシル(ノックスシャープ100K、サクラクレパス製)の後端にセットし、荷重1Kgfを加え、角度65°に保持し、3cm幅を1秒間に2回擦するスピードで上質紙の上を擦過した。シャープペンシルの後端から字消しが露出する長さは4mmであった。直径4mmの場合の字消しの露出部分のアスペクト比(幅:長さ)は1:1、直径6mmの場合の字消しの露出部分のアスペクト比は1:0.67である。図1に、折れにくさの評価方法を示す模式図を示す。
折れにくさの評価基準は次のとおりとした。
<評価基準>
1~50往復で折れる: ×
51~100往復で折れる:△
100往復で折れない: ○
【0044】
[実施例2~6]
字消しの組成を表1に示すとおりとした以外は実施例1と同様に字消しサンプルを作製し、評価を行なった。組成のまとめと評価結果を[表1]に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
[比較例]
また、本開示の範囲外である比較例1~比較例10の字消しを作製し、評価試験を実施した。組成を表2、表3に示すとおりとした以外は実施例1と同様に字消しサンプルを作製し、実施例1と同様に評価試験を実施した。比較例1~比較例10の組成のまとめおよび評価結果を[表2]、[表3]に示す。
【0047】
なお、比較例1~10で用いたセバシン酸ジブチルおよびアジピン酸ジイソブチル以外の可塑剤は、次のとおりである。
アセチルクエン酸トリブチル(ATBC、田岡化学工業株式会社製)
テレフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DOTP、株式会社ジェイ・プラス製)
トリメリット酸エステル(TOTM、三和合成化学株式会社製)
アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)(DOA、田岡化学工業株式会社製)
セバシン酸ビス(2-エチルヘキシル)(DOS、田岡化学工業株式会社製)
アゼライン酸ビス(2-エチルヘキシル)(DOZ、田岡化学工業株式会社製)
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
表1に示されるとおり、本開示に従う字消しである実施例1~6はいずれも、消字率が80%以上であり、優れた消字性を示した。また、字消しの形状が直径4mm、直径6mmのいずれも場合も折れにくさが「○」であり、細長く露出した形態で使用した場合も折れにくい字消しであることが確認された。特に、アジピン酸イソブチルとセバシン酸ジブチルを組み合わせた場合、消字率が90%以上であり、かつ、字消しの形状が直径4mm、直径6mmのいずれも場合も折れにくさが「○」である字消しが得られた。
【0051】
一方、実施例と同様の可塑剤を用いているが可塑剤の含有量が6%である比較例2は、消字性が劣り、もろく折れやすい結果となった。また、実施例と同様の可塑剤を用いているが可塑剤の含有量が90%である比較例3は、消字性が劣り、柔らかすぎて折れやすい結果となった。さらに、可塑剤としてATBCを含む比較例4は、消字性は高いものの、特に細長い形状(直径4mm)では折れやすいものであった。また、比較例4の可塑剤量を調製した比較例5は、折れやすさは比較例4と比較して改善が見られたものの充分ではなく、また、消字性が低下する結果となった。脂肪族二塩基酸エステル以外の可塑剤のみを含有する比較例6,7は十分な消字性が得られず、細長い形状(直径4mm)では折れやすいものであった。
【0052】
また、脂肪族二塩基酸エステルであるが本開示の範囲外である比較例8は消字性が劣り、柔らかく折れやすいものであった。同様に脂肪族二塩基酸エステルであるが本開示の範囲外である比較例9,10は成形物が柔らかく、字消しとして適さないものであった。
【0053】
実施例1~6および比較例1~10から、細長い形状での折れにくさは、硬さと必ずしも相関するものではないことが理解される。すなわち、硬さが同等であっても、細長い形状での折れやすさは一様ではない(例えば実施例5と比較例1の比較)。また、幅広い硬さを有する、細長い形状で折れにくい字消しが得られる(例えば実施例2と実施例3の比較)。
【0054】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0055】
1 字消し、2 シャープペンシル
図1