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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092972
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】不凍性溶液
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/06 20060101AFI20230627BHJP
   C09K 5/20 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
C09K5/06 J
C09K5/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208313
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】水澤 竜也
(72)【発明者】
【氏名】河原 秀久
(57)【要約】
【課題】過冷却解除温度をより低くすることが可能な不凍性溶液を提供する。
【解決手段】この発明の不凍性溶液では、多糖類を含む氷結晶成長阻害剤が添加されておらず、水と、コーヒー粕から抽出された有機化合物を含む過冷却促進剤と、アルコールとを含む。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類を含む氷結晶成長阻害剤が添加されておらず、
水と、
コーヒー粕から抽出された有機化合物を含む過冷却促進剤と、
アルコールと、を含む、不凍性溶液。
【請求項2】
不凍性溶液中の前記過冷却促進剤の濃度が、0.1vol%以上20vol%以下であるとともに、不凍性溶液中の前記アルコールの濃度が0.1vol%以上10vol%以下の濃度で含まれている、請求項1に記載の不凍性溶液。
【請求項3】
不凍性溶液中の前記過冷却促進剤のブリックス濃度が、0.01mg/ml以上0.2mg/ml以下である、請求項1または2に記載の不凍性溶液。
【請求項4】
前記過冷却促進剤は、前記有機化合物としてポリフェノールを有し、
不凍性溶液中のポリフェノール濃度が0.2μg/ml以上40μg/ml以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の不凍性溶液。
【請求項5】
前記アルコールは、炭素数が3以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の不凍性溶液。
【請求項6】
加湿装置の加湿源として用いられる、請求項1~5のいずれか1項に記載の不凍性溶液。
【請求項7】
加湿装置の加湿源として用いられる過冷却水を解除して生成された氷スラリーの製造に用いられる、請求項1~5のいずれか1項に記載の不凍性溶液。
【請求項8】
食品解凍装置に用いられる食品を解凍するための流水または氷スラリーに用いられる、請求項1~5のいずれか1項に記載の不凍性溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、不凍性溶液に関し、特に、過冷却促進剤を含む不凍性溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、過冷却促進剤を含む不凍性溶液が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、水と、多糖類を含む氷結晶成長阻害剤と、過冷却促進剤と、不凍剤とを備える、不凍性溶液が開示されている。上記特許文献1では、氷結晶成長阻害剤が、氷の結晶と結合することにより、氷の結晶が大きく成長することを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-31635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、不凍性溶液は氷点下の環境下において使用されるため、凝固点を0℃未満に降下させて過冷却状態を維持することができる限界の温度(過冷却解除温度)をさらに低くすることが望まれている。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、過冷却解除温度を低くすることが可能な不凍性溶液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本願発明者が鋭意検討したところ、本願発明者は、多糖類を含む氷結晶成長阻害剤が添加されておらず、水と、コーヒー粕から抽出された有機化合物を含む過冷却促進剤と、アルコールと、を含むことにより、過冷却解除温度をより低くすることが可能なことを見出した。
【0008】
すなわち、本発明の第1の局面による不凍性溶液は、多糖類を含む氷結晶成長阻害剤が添加されておらず、水と、コーヒー粕から抽出された有機化合物を含む過冷却促進剤と、アルコールと、を含む。
【0009】
この発明の第1の局面による不凍性溶液では、上記のように氷結晶成長阻害剤が添加されていない。ここで、氷結晶成長阻害剤が水分子と結合することにより氷核となることを本願発明者はさらに見出した。そのため、氷結晶成長阻害剤が添加されていないことにより、氷結晶成長阻害剤が氷核となって凍結することを抑制することができる。また、不凍性溶液が、コーヒー粕から抽出された有機化合物を含む過冷却促進剤を含むことにより、過冷却促進剤が氷核となる不純物を吸着し、氷核の形成を阻害するため、氷核の形成によって過冷却状態が解除されることを抑制することができる。また、不凍性溶液が、アルコールを含むことにより、アルコールが水分子と結合して水分子の配置が乱れるため、水分子が凍りやすい配置になることを抑制することができる。これらの結果により、過冷却状態を維持することができる限界の温度である過冷却解除温度をより低くすることができる。
【0010】
上記第1の局面による不凍性溶液において、好ましくは、不凍性溶液中の過冷却促進剤の濃度が、0.1vol%以上20vol%以下であるとともに、不凍性溶液中のアルコールの濃度が0.1vol%以上10vol%以下の濃度で含まれている。このように構成すれば、アルコールと過冷却促進剤とをそれぞれ単独で不凍性溶液に添加した場合よりも過冷却状態解除温度が低くなることを本願発明者は後述する実験により知得している。
【0011】
上記第1の局面による不凍性溶液において、好ましくは、不凍性溶液中の過冷却促進剤のブリックス濃度が、0.01mg/ml以上0.2mg/ml以下である。ここで、ブリックス濃度とは、液体中に含まれる可溶性固形成分の含有量を表す。そのため、過冷却促進剤のブリックス濃度を0.01mg/ml以上にすることにより、不凍性溶液中に過冷却促進剤が十分に溶解されるため、過冷却促進剤の氷核形成の阻害の効果を確実に発揮することができる。また、たとえば、ブリックス濃度が1mg/ml以上であっても過冷却促進剤の氷核形成の阻害の効果に影響を与えるものではないが、過冷却促進剤のブリックス濃度を0.2mg/ml以下にすることにより、不純物を吸着していない過冷却促進剤が不凍性溶液中に大量に存在することを抑制することができるため好ましい。
【0012】
上記第1の局面による不凍性溶液において、好ましくは、過冷却促進剤は、有機化合物としてポリフェノールを有し、不凍性溶液中のポリフェノール濃度が0.2μg/ml以上40μg/ml以下である。ここで、ポリフェノールは過冷却促進効果を有する化合物である。そのため、不凍性溶液中のポリフェノール濃度が0.2μg/ml以上であることにより、十分な過冷却促進効果を発揮することができる。また、たとえば、200μg/ml以上のポリフェノールを添加しても過冷却促進効果および安全性に影響はないが、ポリフェノール濃度が高くなるほど不凍性溶液が濃く着色されるため、ポリフェノール濃度が40μg/ml以下であることにより、ポリフェノールが大量に存在し不凍性溶液が過度に着色されることを抑制することができる。
【0013】
上記第1の局面による不凍性溶液において、好ましくは、アルコールは、炭素数が3以下である。このように構成すれば、水に溶解しやすい炭素数が3以下のアルコールを用いることにより、凝固点降下を確実に発揮することができる。
【0014】
上記第1の局面による不凍性溶液において、好ましくは、加湿装置の加湿源として用いられる。このように構成すれば、不凍性溶液は氷点下でも凍らないため、たとえば、室温が氷点下である冷凍倉庫などを容易に加湿することができる。
【0015】
上記第1の局面による不凍性溶液において、好ましくは、加湿装置の加湿源として用いられる過冷却水を解除して生成された氷スラリーの製造に用いられる。ここで、過冷却解除温度が低くなるほど、氷の結晶の粒径が小さくなる。そのため、本発明の過冷却水を解除して氷スラリーを製造することにより、過冷却解除温度をより低くすることができるため、氷の結晶の粒径の小さい氷スラリーを製造することができる。
【0016】
上記第1の局面による不凍性溶液において、好ましくは、食品解凍装置に用いられる食品を解凍するための流水または氷スラリーに用いられる。ここで、食品の解凍は、食品の品質の低下を抑制するために解凍に用いる液体の温度が0℃以下であることが好ましい。そのため、本発明の過冷却水を解除して氷スラリーを製造することにより、過冷却解除温度を低くすることができるため、低い温度の過冷却水または氷スラリーを用いて解凍することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、過冷却解除温度をより低くすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1における過冷却解除温度と、添加した物質の濃度との関係を示すグラフである。
図2】実施例2における過冷却解除温度と、添加した物質の濃度との関係を示すグラフである。
図3】比較例1における過冷却解除温度と、添加した物質の濃度との関係を示すグラフである。
図4】比較例2における過冷却解除温度と、添加した物質の濃度との関係を示すグラフである。
図5】比較例3における過冷却解除温度と、添加した物質の濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の不凍性溶液の構成を説明する。
【0020】
(不凍性溶液の構成)
不凍性溶液は、過冷却促進物質と、アルコールとを水に溶解させて生成される。不凍性溶液は、多糖類を含む氷結晶成長阻害剤が添加されていない。本発明の不凍性溶液は、過冷却解消温度を低くすることにより、結晶成長阻害剤が添加しなくとも、過冷却状態を解除したときの氷の結晶の大きさを小さくすることが可能である。なお、過冷却解除温度が低くなるほど、過冷却状態を解除したときに大量の氷核が短時間に形成されるが、短時間に大量の氷核が形成されることにより場所の制限を受けて、氷核が成長することが抑制されて、氷の結晶の粒径が小さくなる。
【0021】
(過冷却促進剤)
過冷却促進剤は、氷核活性を持つ不純物を吸着する。過冷却促進剤が不純物を吸着することにより、不純物と水とが結合し氷核が形成されることを抑制する。不純物とは、空気中の塵または埃を含む。
【0022】
過冷却促進剤は、コーヒー粕由来の有機化合物を含む。また、過冷却促進剤は、芳香族炭化水素構造およびヒドロキシル基を有する有機化合物であるポリフェノールを含む。コーヒー粕由来の有機化合物は、たとえば、組成式がC1526であり、分子量が346の化合物である。コーヒー粕は、コーヒー豆からコーヒーを抽出した後の粕である。コーヒー粕由来の有機化合物は、たとえば、クロマトグラフィを用いた分画工程、有機溶媒抽出工程および精製工程により精製される。
【0023】
過冷却促進剤は、固形状のコーヒー粕抽出物をそのまま使用するか、水に溶解した溶液として用いられる。過冷却促進剤の溶液の濃度は、たとえば、1mg/mlに調整される。
【0024】
過冷却促進剤は、不凍性溶液中の濃度が、0.1vol%以上20vol%以下となるように添加される。また、不凍性溶液中の過冷却促進剤の濃度は、好ましくは、10vol%以下である。また、不凍性溶液中の過冷却促進剤の濃度は、好ましくは、5vol%以上である。
【0025】
過冷却促進剤は、不凍性溶液中の過冷却促進剤のブリックス濃度が、0.01mg/ml以上0.2mg/ml以下となるように添加される。ブリックス濃度とは、液体中に含まれる可溶性固形成分の含有量を示す。また、過冷却促進剤は、不凍性溶液中のポリフェノール濃度が0.2μg/ml以上40μg/ml以下となるように添加される。
【0026】
(アルコール)
アルコールは、炭素数3以下のアルコールである。具体的には、炭素数が3以下の第1級アルコールまたは第2級アルコールである。たとえば、アルコールは、一価のアルコールである、メタノール、エタノール、イソプロパノールである。なお、不凍性溶液を食品に用いる場合は、エタノールまたはイソプロパノールが用いられる。
【0027】
アルコールは、水酸基を含み、水酸基と水分子とが水素結合する。アルコールの水酸基と、水分子とが水素結合することにより、水分子の配置が乱れ、凍結しにくい状態になる。
【0028】
不凍性溶液中のアルコール濃度が、0.1vol%以上20vol%以下、好ましくは、10vol%以下となるように添加される。添加するアルコール濃度が高いほど、凝固点が低下するとともに、過冷却状態を解除する温度のばらつきを抑制することができる。
【0029】
(水)
水は、過冷却促進物質が添加されるとともに、アルコールが添加される。水は、氷核となる不純物を含んでいない方が好ましい。
【0030】
(不凍性溶液の生成)
エタノールの濃度が10vol%であるとともに、過冷却促進剤のブリックス濃度が0.1mg/mlである不凍性溶液を20mg生成する場を例に説明する。この場合、ブリックス濃度とは、過冷却促進剤に含まれる有機化合物の含有量を示す。この場合、20ml×10vol%より2mlのエタノールと、20ml×0.1mg/mlより2mgの過冷却促進剤と、18mlの純水とを用意して混合する。
【0031】
(不凍性溶液の使用例)
不凍性溶液は、加湿装置または食品解凍装置に用いられる。加湿装置は、たとえば、冷凍倉庫に用いられる。加湿装置は、加湿槽と、空気流入部と、空気供給部とを備える。加湿槽には、加湿源が貯留される。空気流入部により、加湿槽に空気を流入させて、加湿させた後、空気供給部が加湿された空気を室内に供給する。室内は、0℃以下に設定されている。
【0032】
加湿源としては、本発明の不凍性溶液からなる過冷却水または氷スラリーのいずれかが使用される。
【0033】
氷スラリーは、不凍性溶液の過冷却状態を解除することによって製造される。氷スラリーは、氷と液体とが混ざった、流動性のある液体である。氷スラリーは、たとえば、不凍性溶液に超音波振動を当てて、過冷却状態を解除することにより生成される。なお、流動性があるとは、液体中に含まれる氷の粒が小さいことを意味している。具体的には、氷の粒は、数百μm程度の大きさを有している。
【0034】
本実施形態の不凍性溶液の別の使用例としては、食品解凍装置に使用される。食品解凍装置は、食品を解凍するための解凍槽と、解凍槽に過冷却水または氷スラリーからなる解凍液を供給するための供給部とを備える。過冷却水を用いる場合、食品解凍装置は、解凍槽に食品を入れ、供給部から不凍性溶液が流れている状態で供給されることにより、食品が解凍される。また、氷スラリーを持ちる場合は、解凍槽に食品を入れ、不凍性溶液を供給したあと、過冷却状態を解除する。
【0035】
(実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0036】
本実施形態では、不凍性溶液は、多糖類を含む氷結晶成長阻害剤が添加されておらず、水と、コーヒー粕から抽出された有機化合物を含む過冷却促進剤と、アルコールと、を含む。ここで、氷結晶成長阻害剤が水分子と結合することにより氷核となることを本願発明者はさらに見出した。そのため、氷結晶成長阻害剤が添加されていないことにより、氷結晶成長阻害剤が氷核となって凍結することを抑制することができる。また、不凍性溶液が、コーヒー粕から抽出された有機化合物を含む過冷却促進剤を含むことにより、過冷却促進剤が氷核となる不純物を吸着し、氷核の形成を阻害するため、氷核の形成によって過冷却状態が解除されることを抑制することができる。また、不凍性溶液が、アルコールを含むことにより、アルコールが水分子と結合して水分子の配置が乱れるため、水分子が凍りやすい配置になることを抑制することができる。これらの結果により、過冷却状態を維持することができる限界の温度である過冷却解除温度をより低くすることができる。
【0037】
また、本実施形態では、不凍性溶液中の過冷却促進剤の濃度が、0.1vol%以上20vol%以下であるとともに、不凍性溶液中のアルコールの濃度が0.1vol%以上10vol%以下の濃度で含まれている。これにより、アルコールと過冷却促進剤とをそれぞれ単独で不凍性溶液に添加した場合よりも過冷却状態解除温度が低くなることを本願発明者は後述する実験により知得している。
【0038】
また、本実施形態では、不凍性溶液中の過冷却促進剤のブリックス濃度が、0.01mg/ml以上0.2mg/ml以下である。ここで、ブリックス濃度とは、液体中に含まれる可溶性固形成分の含有量を表す。そのため、過冷却促進剤のブリックス濃度を0.01mg/ml以上にすることにより、不凍性溶液中に過冷却促進剤が十分に溶解されるため、過冷却促進剤の氷核形成の阻害の効果を確実に発揮することができる。また、たとえば、ブリックス濃度が1mg/ml以上であっても過冷却促進剤の氷核形成の阻害の効果に影響を与えるものではないが、過冷却促進剤のブリックス濃度を0.2mg/ml以下にすることにより、不純物を吸着していない過冷却促進剤が不凍性溶液中に大量に存在することを抑制することができるため好ましい。
【0039】
また、本実施形態では、過冷却促進剤は、有機化合物としてポリフェノールを有し、不凍性溶液中のポリフェノール濃度が0.2μg/ml以上40μg/ml以下である。ここで、ポリフェノールは過冷却促進効果を有する化合物である。そのため、不凍性溶液中のポリフェノール濃度が0.2μg/ml以上であることにより、十分な過冷却促進効果を発揮することができる。また、たとえば、200μg/ml以上のポリフェノールを添加しても過冷却促進効果および安全性に影響はないが、ポリフェノール濃度が高くなるほど不凍性溶液が濃く着色されるため、ポリフェノール濃度が40μg/ml以下であることにより、ポリフェノールが大量に存在し不凍性溶液が過度に着色されることを抑制することができる。
【0040】
また、本実施形態では、アルコールは、炭素数が3以下である。これにより、水に溶解しやすい炭素数が3以下のアルコールを用いることにより、凝固点降下を確実に発揮することができる。
【0041】
また、本実施形態では、加湿装置の加湿源として用いられる。これにより、不凍性溶液は氷点下でも凍らないため、たとえば、室温が氷点下である冷凍倉庫などを容易に加湿することができる。
【0042】
また、本実施形態では、加湿装置の加湿源として用いられる過冷却水を解除して生成された氷スラリーの製造に用いられる。ここで、過冷却解除温度が低くなるほど、氷の結晶の粒径が小さくなる。そのため、本発明の過冷却水を解除して氷スラリーを製造することにより、過冷却解除温度をより低くすることができるため、氷の結晶の粒径の小さい氷スラリーを製造することができる。
【0043】
また、本実施形態では、食品解凍装置に用いられる食品を解凍するための流水または氷スラリーに用いられる。ここで、食品の解凍は、食品の品質の低下を抑制するために解凍に用いる液体の温度が0℃以下であることが好ましい。そのため、本発明の過冷却水を解除して氷スラリーを製造することにより、過冷却解除温度を低くすることができるため、低い温度の過冷却水または氷スラリーを用いて解凍することができる。
【0044】
[実施例]
純水に過冷却促進剤またはアルコールのうち一方のみ加えた比較例と、過冷却促進剤およびアルコールの両方を加えた実施例とを用意して、凝固点の測定を行った。また、実施例では、過冷却促進剤とアルコールとを添加した状態で総量が20mlになるように調整した。また、比較例では、アルコールまたは過冷却促進剤のいずれか一方を添加した状態で総量が20mlとなるように調整した。また、実施例および比較例ともに溶液1mlに対して氷核物質としてヨウ化銀を0.5mg(総量10mg)添加した。また、過冷却促進剤としては、コーヒー粕抽出物を水に溶解し、ブリックス濃度を1mg/mlに調整したものを用いた。この場合の過冷却促進剤に含まれるポリフェノールは、200μg/mlである。
【0045】
実施例1および2では、過冷却促進剤として、コーヒー粕抽出物を水に対して1mg/mlに調整したものをブリックス濃度で0.1mg/mlになるように添加した不凍性溶液をまず準備した。そして、実施例1では、準備した不凍性溶液にエタノールをそれぞれ0.1vol%、1vol%および10vol%となるように添加した。実施例2では、準備した不凍性溶液にイソプロパノールをそれぞれ0.1vol%、1vol%および10vol%となるように添加した。
【0046】
比較例1では、過冷却促進剤のブリックス濃度が0.001mg/ml、0.01mg/ml、0.10mg/mlおよび0.2mg/mlとなるように添加した不凍性溶液を用意した。比較例2では、過冷却促進剤を添加せずにエタノールを0.1vol%、1vol%および10vol%の濃度となるように添加した不凍性溶液を用意した。比較例3では、過冷却促進剤を添加せずにイソプロパノールを0.1vol%、1vol%および10vol%の濃度となるように添加した場合の不凍性溶液を用意した。
【0047】
過冷却解除温度の測定は、実施例および比較例の不凍性溶液が入った試験管を恒温層に配置し、恒温槽内の温度を下げて行った。このとき、初期温度を1.0℃とし、冷却速度が-3℃/時間となるように降温した。過冷却解除温度は、目視で色の変化を視認できた温度と、冷却温度から平衡温度に変化したときの冷却温度とから算出した。比較例1~3および実施例1および2は、それぞれ複数のサンプルを用意し、それぞれの添加濃度の過冷却解除温度の平均値を算出した。
【0048】
図3に比較例1の結果を示す。図3では、純水とヨウ化銀とだけを混合した溶液の過冷却解除温度を実線で示す。白丸は、過冷却促進剤のブリックス濃度が0.001mg/ml、0.01mg/ml、0.10mg/mlおよび0.2mg/mlとなるように添加した不凍性溶液のそれぞれの平均過冷却解除温度を算出した結果を示す。また、白丸に付したひげは、過冷却解除温度のばらつきを表す。図3に示すように、過冷却促進剤を添加しない場合は、-4℃で過冷却状態が解除された。過冷却促進剤のブリックス濃度が0.001mg/ml、および0.01mg/mlになるように添加した場合は、-5℃で過冷却状態が解除された。冷却促進剤のブリックス濃度が0.1mg/mlになるように添加した場合は、-6℃で過冷却状態が解除された。さらに、冷却促進剤のブリックス濃度が0.2mg/mlになるように添加した場合は、-9℃で過冷却状態が解除された。
【0049】
図4に比較例2の結果を示す。図4では、純水とヨウ化銀とだけを混合した溶液の過冷却解除温度を実線で示す。破線は、純水とヨウ化銀の混合物の過冷却解除温度を基準にエタノールの添加による凝固点降下を計算し、過冷却解除温度を予想したものである。白丸は、過冷却促進剤を添加せずにエタノールの濃度が0.1vol%、1vol%および10vol%となるように添加した不凍性溶液のそれぞれの平均過冷却解除温度を算出した結果を示す。また、白丸に付したひげは、過冷却解除温度のばらつきを表す。図4に示すように、エタノールを0.1vol%の濃度になるように添加した場合は、-3℃で過冷却状態が解除された。エタノールを1vol%の濃度になるように添加した場合は、-4℃で過冷却状態が解除された。エタノールを10vol%の濃度になるように添加した場合は、-8℃で過冷却状態が解除された。
【0050】
図5に比較例3の結果を示す。図5では、純水とヨウ化銀とだけを混合した溶液の過冷却解除温度を実線で示す。破線は、純水とヨウ化銀の混合物の過冷却解除温度を基準にイソプロパノールの添加による凝固点降下を計算し、過冷却解除温度を予想したものである。白丸は、過冷却促進剤を添加せずにイソプロパノールを0.1vol%、1vol%および10vol%の濃度となるように添加した不凍性溶液のそれぞれの平均過冷却解除温度を算出した結果を示す。また、白丸に付したひげは、過冷却解除温度のばらつきを表す。図5に示すように、イソプロパノールを0.1vol%の濃度になるように添加した場合は、-4℃で過冷却状態が解除された。イソプロパノールを1vol%の濃度になるように添加した場合は、-6℃で過冷却状態が解除された。
【0051】
図1に実施例1の結果を示す。図1では、純水とヨウ化銀とだけを混合した溶液の過冷却解除温度を実線で示す。点線は、過冷却促進剤のブリックス濃度が0.1mg/mlになるように添加した場合の過冷却解除温度を示す。1点鎖線は、比較例1と比較例2とから予想される各濃度の過冷却解除温度のグラフを示す。白丸は、エタノールを0.1vol%、1vol%および10vol%の濃度となるように添加した不凍性溶液のそれぞれの平均過冷却解除温度を算出した結果を示す。また、白丸に付したひげは、過冷却解除温度のばらつきを表す。図1に示すように、エタノールを0.1vol%の濃度になるように添加した場合は、-6℃で過冷却状態が解除された。エタノールを1vol%の濃度になるように添加した場合は、-6℃で過冷却状態が解除された。エタノールを10vol%の濃度になるように添加した場合は、-8℃で過冷却状態が解除された。いずれの結果も予想よりも過冷却解除温度が低くなっており、特にエタノール濃度が10vol%付近では、過冷却解除温度を予想よりも大幅に低くできることが分かった。
【0052】
図2に実施例2の結果を示す。図2では、純水とヨウ化銀とだけを混合した溶液の過冷却解除温度を実線で示す。破線は、過冷却促進剤のブリックス濃度が0.1mg/mlになるように添加した不凍性溶液の過冷却解除温度を示す。1点鎖線は、比較例1と比較例3とから予想される各濃度の過冷却解除温度のグラフを示す。白丸は、イソプロパノールを0.1vol%、1vol%および10vol%の濃度となるように添加した不凍性溶液のそれぞれの平均過冷却解除温度を算出した結果を示す。また、白丸に付したひげは、過冷却解除温度のばらつきを表す。図2に示すように、イソプロパノールを0.1vol%の濃度になるように添加した場合は、-6℃で過冷却状態が解除された。イソプロパノールを1vol%の濃度になるように添加した場合は、-6℃で過冷却状態が解除された。イソプロパノールを10vol%の濃度になるように添加した場合は、-8℃で過冷却状態が解除された。いずれの結果も予想よりも過冷却解除温度が低くなっており、特にイソプロパノール濃度が10vol%付近では、過冷却解除温度を予想よりも大幅に低くできることが分かった。
【0053】
(過冷却解除温度のばらつき)
上記実施例1および2と、比較例1~3とにおける濃度ごとの過冷却解除温度のばらつきを算出した。表1および表2に、過冷却解除温度のばらつきを示す。ばらつきは、標準偏差σ[K]として定義した。
【0054】
[表1]
【0055】
[表2]
【0056】
表1に示すように、実施例1では、エタノールを0.1vol%の濃度になるように添加した場合のばらつきは、0.7となった。エタノールを1vol%の濃度になるように添加した場合のばらつきは、0.9となった。エタノールを10vol%の濃度になるように添加した場合のばらつきは、0.8となった。実施例1の平均ばらつきは、0.8となった。
【0057】
実施例2では、イソプロパノールを0.1vol%の濃度になるように添加した場合のばらつきは、0.9となった。イソプロパノールを1vol%の濃度になるように添加した場合のばらつきは、0.8となった。イソプロパノールを10vol%の濃度になるように添加した場合のばらつきは、0.9となった。実施例2の平均ばらつきは、0.9となった。
【0058】
表2に示すように、比較例1では、過冷却促進剤のブリックス濃度を0.01mg/mlになるように添加した場合のばらつきが、1.2となった。冷却促進剤のブリックス濃度を0.1mg/mlになるように添加した場合のばらつきは、1.1となった。冷却促進剤のブリックス濃度を0.1mg/mlになるように添加した場合のばらつきは、1.0となった。冷却促進剤のブリックス濃度を0.2mg/mlになるように添加した場合のばらつきは、2.1となった。比較例1の平均ばらつきは、1.3となった。
【0059】
表1に示すように、比較例2では、エタノールを0.1vol%の濃度になるように添加した場合のばらつきは、0.9となった。エタノールを1vol%の濃度になるように添加した場合のばらつきは、0.9となった。エタノールを10vol%の濃度になるように添加した場合のばらつきは、0.8となった。比較例2の平均ばらつきは、1.2となった。
【0060】
比較例3では、イソプロパノールを0.1vol%の濃度になるように添加した場合のばらつきは、0.6となった。イソプロパノールを1vol%の濃度になるように添加した場合のばらつきは、1.0となった。イソプロパノールを10vol%の濃度になるように添加した場合のばらつきは、1.5となった。比較例3の平均ばらつきは、1.0となった。
【0061】
実施例1および2では、比較例1~3とは異なり平均ばらつきが1以下になった。また、実施例1および2では、アルコールの添加濃度が増えても、ばらつきがあまり変化しないことが分かった。
【0062】
[変形例]
今回開示された実施形態および実施例は、全ての点で例示であり制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記実施形態および実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更(変形例)が含まれる。
【0063】
たとえば、上記実施形態では、過冷却促進剤がコーヒー粕由来である有機化合物を含む例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、過冷却促進剤は、コーヒー粕由来の有機化合物に加えて、たとえば、バナナ、日本酒、醤油、餡粕などから抽出された有機化合物が含まれていてもよい。また、過冷却促進剤は、コーヒー粕由来の有機化合物に加えて、チロシン三量体などの人工的に合成された過冷却促進剤を含んでいてもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、アルコールの炭素数が3以下である例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、アルコールの炭素数が3を超えてもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、不凍性溶液を加湿装置に用いる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、不凍性溶液を蓄熱装置に使用してもよい。
【0066】
また、上記実施形態では、不凍性溶液を解凍装置に用いる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、不凍性溶液を食品の冷凍に使用してもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、不凍性溶液中の過冷却促進剤のブリックス濃度が、0.01mg/ml以上0.2mg/ml以下となるように添加される例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、不凍性溶液中の過冷却促進剤のブリックス濃度が、0.2mg/mlを超えるように添加されてもよく、不凍性溶液中の過冷却促進剤のブリックス濃度が、0.01mg/ml未満となるように添加されてもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、不凍性溶液中のポリフェノール濃度が0.2μg/ml以上40μg/ml以下となるように添加される例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、過冷却促進剤は、不凍性溶液中のポリフェノール濃度が40μg/mlを超えるように添加されてもよく、不凍性溶液中のポリフェノール濃度が0.2μg/ml未満となるように添加されてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5