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特開2023-93008デーデルライン桿菌の増殖促進剤および微生物選択的増殖促進剤
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  • 特開-デーデルライン桿菌の増殖促進剤および微生物選択的増殖促進剤 図1
  • 特開-デーデルライン桿菌の増殖促進剤および微生物選択的増殖促進剤 図2
  • 特開-デーデルライン桿菌の増殖促進剤および微生物選択的増殖促進剤 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093008
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】デーデルライン桿菌の増殖促進剤および微生物選択的増殖促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7032 20060101AFI20230627BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20230627BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20230627BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230627BHJP
   A61P 13/00 20060101ALI20230627BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
A61K31/7032
A61Q19/10
A61K8/60
A61P17/00 101
A61P13/00
A61P31/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208378
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】593012228
【氏名又は名称】株式会社希松
(71)【出願人】
【識別番号】591061068
【氏名又は名称】東洋精糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】中島 大輝
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 嘉純
(72)【発明者】
【氏名】小松 令以子
【テーマコード(参考)】
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4C083AD391
4C083AD392
4C083BB48
4C083CC22
4C083EE11
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA05
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA81
4C086ZA90
4C086ZB35
4C086ZC41
(57)【要約】
【課題】 デーデルライン桿菌の増殖を促進し、あるいは、カンジダ菌に対しては増殖を促進せずにデーデルライン桿菌の増殖を促進する技術を提供することを目的とする。
【解決手段】 グリセリルグルコシドを有効成分とする、デーデルライン桿菌の増殖促進剤。本発明によれば、デリケートゾーンの健康にとって無益あるいは有害な微生物の増殖は促進せずに、有益な微生物の増殖を促進することができる。よって、本発明によれば、デリケートゾーンの健康に好ましい菌数バランスの取得ないし維持に寄与することができる。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリルグルコシドを有効成分とする、デーデルライン桿菌の増殖促進剤。
【請求項2】
グリセリルグルコシドを有効成分とする微生物選択的増殖促進剤であって、前記微生物選択的増殖促進作用として、デーデルライン桿菌に対しては増殖を促進し、かつ、カンジダ菌(Candida albicans)に対しては増殖を促進しない物性を有する前記剤。
【請求項3】
洗浄料または外用剤として用いられることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の剤を含有する、デリケートゾーン用の化粧品または医薬部外品。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載の剤を原材料として配合する工程を有する、デリケートゾーン用の化粧品または医薬部外品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセリルグルコシドを有効成分とするデーデルライン桿菌の増殖促進剤および微生物選択的増殖促進剤、これを含有するデリケートゾーン用の化粧品および医薬部外品、ならびに化粧品および医薬部外品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
健康な女性の膣にはさまざまな常在菌が存在するが、その75~90%を占めるとされるのがラクトバチルス属である。ラクトバチルス属はグラム陽性通性嫌気性無芽胞桿菌で、糖を分解して乳酸を産生する。膣内に常在するラクトバチルス属(デーデルライン桿菌)は、乳酸産生により膣内を酸性(pH3.5~4.5程度)に保つことで病原細菌の侵入や異常増殖を防いでいる。また、ラクトバチルス属は、バクテリオシン産生による病原細菌の増殖抑制、膣上皮細胞への正着維持による他の細菌の接着抑制など、多岐にわたる病原細菌抑止能により、膣内環境の正常化において重要な役割をもつことが示唆されている。膣内細菌叢の乱れ、すなわちデーデルライン桿菌の菌量の減少は、性器カンジダ症や膣トリコモナス症などの特定微生物の感染症のほか、非特定の複数菌感染症である細菌性膣症などの発症要因となることが知られている(非特許文献1、非特許文献2)。
【0003】
一方、カンジダ菌は、酵母形と糸状形とのいずれの形態も取り得る二形性真菌である。妊娠していない女性の15~20%、妊婦の20~40%の膣内に常在し、病原性は高くないものの、広域抗菌薬またはコルチコステロイドの使用、糖尿病、妊娠、締め付けが強く、通気性の悪い下着の着用などをきっかけとして、内因性の日和見感染症(カンジダ膣炎)を起こす。カンジダ膣炎では、腟や外陰のそう痒、灼熱感、刺激症状、性交痛、発赤、浮腫、表皮剥離などの症状を呈する(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】松本麻未ら、特集 周産期医療と細菌叢 妊婦編 日本人女性における膣内細菌叢、周産期医学、Vol.50、No.3、第289-292頁、2020年
【非特許文献2】細菌性膣症、性感染症 診断・治療 ガイドライン2008、日本性感染症学会、第77-80頁、2008年11月30日
【非特許文献3】Merck & Co., Inc., Kenilworth, NJ, USA、MSDマニュアル プロフェッショナル版、18.婦人科および産科、膣炎,子宮頸管炎,および骨盤内炎症性疾患(PID)、カンジダ膣炎、最終査読/改訂年月2019年9月、[令和3年9月30日検索]、インターネット<URL: https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB/18-%E5%A9%A6%E4%BA%BA%E7%A7%91%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E7%94%A3%E7%A7%91/%E8%85%9F%E7%82%8E%EF%BC%8C%E5%AD%90%E5%AE%AE%E9%A0%B8%E7%AE%A1%E7%82%8E%EF%BC%8C%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E9%AA%A8%E7%9B%A4%E5%86%85%E7%82%8E%E7%97%87%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3-%EF%BC%88pid%EF%BC%89/%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%80%E8%85%9F%E7%82%8E>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のことから、デーデルライン桿菌についてはその存在数を維持あるいは増大させ、カンジダ菌については増やさないことが、膣や外陰部ないしその周辺(デリケートゾーン)の健康を保ち、あるいは感染症を予防する上で好ましいといえる。本発明は、係る課題を解決するためになされたものであって、デーデルライン桿菌の増殖を促進し、あるいは、カンジダ菌に対しては増殖を促進せずにデーデルライン桿菌の増殖を促進する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究の結果、グリセリルグルコシドが、デーデルライン桿菌の増殖を促進できる一方で、カンジダ菌の増殖を促進しないことを見出した。また、このことから、グリセリルグルコシドをデリケートゾーン用の化粧品や医薬部外品に配合することにより、デリケートゾーンを健康な状態に保つ効果が期待できることを見出した。そこで、係る知見に基づいて、下記の各発明を完成した。
【0007】
(1)本発明に係るデーデルライン桿菌の増殖促進剤は、グリセリルグルコシドを有効成分とする。
【0008】
(2)本発明に係る微生物選択的増殖促進剤は、微生物選択的増殖促進作用として、デーデルライン桿菌に対しては増殖を促進し、かつ、カンジダ菌に対しては増殖を促進しない物性を有するものであって、グリセリルグルコシドを有効成分とする。
【0009】
(3)本発明に係る剤は、洗浄料または外用剤として用いられるものであってもよい。
【0010】
(4)本発明に係るデリケートゾーン用の化粧品または医薬部外品は、本発明に係る剤を含有する。
【0011】
(5)本発明に係るデリケートゾーン用の化粧品または医薬部外品の製造方法は、本発明に係る剤を原材料として配合する工程を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、デーデルライン桿菌の増殖を促進することができる。また、本発明によれば、カンジダ菌に対しては増殖を促進せずにデーデルライン桿菌の増殖を促進することができる。すなわち、本発明によれば、デリケートゾーンの健康にとって無益あるいは有害な微生物の増殖は促進せずに、有益な微生物の増殖を促進することができる。よって、本発明によれば、デリケートゾーンの健康に好ましい菌数バランスの取得ないし維持に寄与することができる。また、本発明によれば、膣内細菌叢を正常に保ち、種々の感染症を予防ないし改善することに寄与することができる。
【0013】
また、グリセリルグルコシドは、グリセリンにグルコースが結合してなる構造をもつ糖誘導体で、元来、日本酒やシアノバクテリアにも含まれている。従来より化粧品原料として用いられてきた物質であり、皮膚一次刺激性試験(ウサギ)、連続皮膚刺激性試験、皮膚感作性試験(モルモット皮内Maximization法)、光毒性試験(モルモット)、光感作性試験、眼刺激性試験(ウサギ)、変異原性試験(in vitro)およびヒトパッチ試験のいずれにおいても毒性は認められていないことから、安全性は高い。したがって、本発明によれば、安全性や副作用への懸念を持つことなく、デーデルライン桿菌の増殖を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】生育試験に用いた培地の組成を示す表である。
図2】上図は、種々の濃度の被験物質(グリセリンまたはグリセリルグルコシド)の存在下で培養したデーデルライン桿菌の生菌数を示す表である。下図は、当該生菌数を棒グラフに表したものである。
図3】上図は、種々の濃度の被験物質(グリセリンまたはグリセリルグルコシド)の存在下で培養したカンジダ菌の生菌数を示す表である。下図は、当該生菌数を棒グラフに表したものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。本明細書では、デーデルライン桿菌の増殖促進剤および微生物選択的増殖促進剤をまとめて、あるいはいずれかの剤を指して「本発明の剤」あるいは「本剤」という場合がある。
【0016】
本発明において「菌」は、細菌や真菌など、肉眼で確認できないほど小さな生物を包括的に含む概念として用いられる。すなわち、本発明における菌は微生物と同義である。
【0017】
「増殖を促進する」とは、微生物の数(菌数)の増加の程度を大きくすることをいう。同様に、「増殖促進作用」とは、菌数の増加の程度を大きくする作用をいう。また、「増殖促進剤」とは、微生物の増殖を促進する用途で用いられる剤をいう。
【0018】
本発明において、増殖促進作用を有するか否かは、後述する実施例に示すように、培養試験により判断することができる。係る培養試験においては、化粧品や医薬品に保湿剤・潤滑剤として広く用いられているグリセリンを添加した試料と、本剤もグリセリンも添加しない試料とを比較対照とする。すなわち、同種の培地において、(ア)本剤を添加したもの、(イ)グリセリンを添加したもの、および(ウ)本剤もグリセリンも添加しないものを調製する。これらの培地に同量の微生物を植菌して所定の期間培養した後、培地の菌量を測定する。菌量の測定は、コロニー計測法や濁度法、乾燥菌体重量法や湿重量法、リアルタイムPCR法などの公知の手法を適宜選択することができる。その結果、(イ)および(ウ)のいずれよりも(ア)の方が菌量が大きければ、本剤により当該微生物の増殖が促進されたと判断することができる。
【0019】
一方、上記培養試験において、(イ)および(ウ)のいずれかよりも(ア)の方が菌量が小さければ、本剤は、当該微生物に対して増殖を促進しない(増殖促進作用を有さない)と判断することができる。すなわち、本発明において「増殖を促進しない」とは、本剤もグリセリンも添加しない場合のみと比較すれば菌数の増加の程度が大きい場合であっても、グリセリンを添加した場合と比較すれば菌数の増加の程度が小さい場合が含まれる。
【0020】
「微生物選択的増殖促進剤」は、微生物に対して選択的な増殖促進作用を有する剤をいう。ここで、当該微生物選択的増殖促進作用とは、デーデルライン桿菌に対しては増殖を促進し、かつ、カンジダ菌に対しては増殖を促進しない作用をいう。
【0021】
本発明において、「デリケートゾーン」は、膣や外陰部ないしその周辺の身体部位、陰部あるいは股間を指す。
【0022】
本発明において、デーデルライン桿菌は、乳酸桿菌(ラクトバチルス属)のうち、膣内に常在するものをいう。デーデルライン桿菌は、上述のとおり、デリケートゾーンの健康に有益な働きをする微生物である。デーデルライン桿菌の種としては、例えば、Lactobacillus paragasseri、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus casei、Lactobacillus fermenti、Lactobacillus cellobiosus、Lactobacillus crispatus、Lactobacillus iners、Lactobacillus gasseri、Lactobacillus jennsenii、Lactobacillus vaginalis、Lactobacillus reuteri、Lactobacillus rhamnosus、Lactobacillus brevis、Lactobacillus plantarumなどを例示することができる(非特許文献1、非特許文献2、光岡知足,乳酸桿菌(Lactobacillus)分類の問題,日獣会誌,第22巻,第183-189頁,1969年)。本発明の効果を確認するなどの場合には、理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室(JCM)(茨城県つくば市高野台3-1-1)などの寄託機関に保存された菌株(例えばJCM5344; L. paragasseri)を用いることができる。
【0023】
カンジダ菌は、上述のとおり、デリケートゾーンの健康に有害な働きをする場合がある微生物である。本発明の効果を確認するなどの場合には、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジーセンター(NBRC)(東京都渋谷区西原2-49-10)やアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションなどの保存機関に保存された菌株(例えばNBRC1594, ATCC10231)を用いることができる。
【0024】
グリセリルグルコシド(グルコシルグリセロール)は、1分子のグルコースと1分子のグリセリンとが脱水結合した構造を有する糖誘導体である(MW=254)。式1に示すように、結合部位および立体配置の違いにより1-α-グリセリルグルコシド、1-β-グリセリルグルコシド、2-α-グリセリルグルコシドおよび2-β-グリセリルグルコシドがあるが、本発明においてはこれらのいずれであってもよく、これらのうちの2種以上の混合物であってもよい。グリセリルグルコシドは、合成あるいは微生物発酵法などにより製造して用いてもよく、簡便には、市販されているものを用いてもよい。
[式1]
【0025】
本剤は、化粧品や医薬品、医薬部外品等の形態として用いることができる。また、本剤は、化粧品や医薬品、医薬部外品等の原材料として他の成分と併せてこれらに配合して用いてもよい。
【0026】
本剤は、デリケートゾーン常在菌のうち、有益な働きをするデーデルライン桿菌の増殖を促進し、あるいは、有害な働きをするカンジダ菌の増殖を促進しないでデーデルライン桿菌の増殖を促進して、好ましい菌叢にすることにより効果を発揮する。よって、本剤は、デリケートゾーンに作用する使用態様の製剤、すなわち洗浄料や外用剤として用いることができる。また、本剤を含有する製品としては、デリケートゾーン用の化粧品や医薬品、医薬部外品を好適に例示することができる。
【0027】
デリケートゾーン用の化粧品や医薬品、医薬部外品としては、デリケートゾーンに直接塗布や貼付、噴霧等する外用剤の他、洗浄料や入浴料、消毒剤、殺菌剤などの衛生用品を例示することができる。製品の剤型としては、クリーム、シート剤、ローション、乳液、ジェル、エアゾール剤、ロールオン、スティック、粉剤、液剤、起泡性の液剤、錠剤等の形態を例示することができる。本剤が配合された製品は、当該製品に通常用いられる原材料(例えば、油、界面活性剤、アルコール、防腐剤、キレート剤、酸化防止剤、増粘剤、香料、殺菌剤等の成分)に、グリセリルグルコシドを原材料として添加して、当業者に公知の方法により製造することができる。
【0028】
グリセリルグルコシドの含有量は、製品の形態や用途に応じて適宜設定することができるが、例えば0.001質量%以上、0.002質量%以上、0.003質量%以上、0.004質量%以上、0.005質量%以上、0.006質量%以上、30質量%以下、29質量%以下、28質量%以下、27質量%以下、26質量%以下、25質量%以下、24質量%以下、23質量%以下、22質量%以下、21質量%以下、20質量%以下を例示することができる。
【0029】
以下、本発明について、実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例0030】
<実施例>グリセリルグルコシドの微生物増殖活性
(1)被験物質
被験物質は、グリセリンおよびグリセリルグルコシドを用いた。各被験物質を配合するにあたっては、表1に示す市販品を用いた。グリセリルグルコシドは、COSARTE-2G(登録商標)(東洋精糖株式会社製)を用いた。
【表1】
【0031】
(2)被験菌体および培地
被験菌体および培地は、下記表2に示すものを用いた。培地の組成を図1に示す。
【表2】
【0032】
(3)生育試験
被験菌体を寒天培地上で22~48時間培養した。出現したコロニーを釣菌し、滅菌生理食塩水に懸濁して菌懸濁液とした。試験管に液体培地を予め入れておき、ここに菌懸濁液を入れて菌液とした。一方、滅菌生理食塩水に被験物質を溶解して、希釈濃度系列の被験物質溶液を調製した。溶解した寒天培地、菌液および被験物質溶液を合わせてシャーレに入れて培養液とした。培養液における被験物質の終濃度は、0.0067質量%~0.95質量%とした。なお、被験物質の終濃度は、実施例に用いた市販品中の各物質濃度が、グリセリンは95質量%、グリセリルグルコシドは67質量%として算出した。対照試料として、被験物質溶液を加えない培養液(被験物質の終濃度0質量%)も設定した。培養液を固化させた後、37℃(デーデルライン桿菌の場合)または30℃(カンジダ菌の場合)で24時間培養した。その後、コロニーの数を数えて培養液あたりの濃度(cfu/mL)を算出し、これを生菌数とした。デーデルライン桿菌の結果を図2に、カンジダ菌の結果を図3に、それぞれ示す。
【0033】
図2に示すように、デーデルライン桿菌の生菌数は、グリセリンでは添加濃度にかかわらずほぼ一定であったのに対して、グリセリルグルコシドでは添加濃度が大きいほど、生菌数が大きかった。また、同程度の濃度間(例えば、グリセリン0.0095質量%とグリセリルグルコシド0.0067質量%、グリセリン0.0475質量%とグリセリルグルコシド0.0335質量%、グリセリン0.095質量%とグリセリルグルコシド0.067質量%、グリセリン0.475質量%とグリセリルグルコシド0.335質量%、グリセリン0.95質量%とグリセリルグルコシド0.67質量%)で比較すると、グリセリルグルコシドの方がグリセリンよりも添加濃度が低いにもかかわらず、生菌数が大きかった。この結果から、グリセリルグルコシドは、デーデルライン桿菌の増殖を促進できることが明らかになった。
【0034】
一方、図3に示すように、カンジダ菌の生菌数は、グリセリンでは添加濃度が大きい程生菌数が大きくなる傾向であったのに対して、グリセリルグルコシドでは添加濃度にかかわらず、生菌数がほぼ一定であった。また、同程度の濃度間で比較すると、グリセリンの方がグリセリルグルコシドよりも生菌数が大きかった。この結果から、グリセリルグルコシドは、カンジダ菌の増殖をほとんど促進しないことが明らかになった。
図1
図2
図3