(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093010
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】X線回折測定装置及び回折像検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/205 20180101AFI20230627BHJP
G01N 23/2055 20180101ALI20230627BHJP
【FI】
G01N23/205
G01N23/2055 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208386
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000112004
【氏名又は名称】パルステック工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】内山 宗久
(72)【発明者】
【氏名】丸山 洋一
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA18
2G001BA19
2G001BA22
2G001CA01
2G001DA09
2G001JA02
2G001JA08
2G001KA08
2G001PA12
2G001SA29
(57)【要約】
【課題】 測定対象物が多結晶状態と単結晶状態が混在する結晶状態であっても、測定対象物の特性値を精度よく測定することができるX線回折測定装置を提供する。
【解決手段】
X線管10における電子を加速するための電圧である管電圧、並びにX線管10から出射されるX線の出射時間又はX線管10における該電子の量である管電流を設定する入力装置92及びコントローラ91と、検出した回折像を、回折像のそれぞれの箇所に回折X線の強度を視覚的に確認できる処置をしたうえで表示するコントローラ91及び表示装置93とを備え、X線回折測定装置1からX線管10の取外しと装着が可能になっている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射手段であって、ターゲットに加速した電子を当てることでX線を発生させるX線管を含むX線出射手段と、
前記X線出射手段により前記測定対象物に向けてX線が照射された際、前記測定対象物にて発生した回折X線を、前記X線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直に交差する撮像面にて受光し、前記撮像面に前記回折X線による回折像を撮像するとともに、撮像した回折像を検出する回折像検出手段とを備えたX線回折測定装置において、
前記電子を加速するための電圧である管電圧、並びに前記X線出射手段から出射されるX線の出射時間又は前記電子の量である管電流を設定するX線出射条件設定手段と、
前記回折像検出手段にて検出した回折像を、回折像のそれぞれの箇所に回折X線の強度を視覚的に確認できる処置をしたうえで表示する回折像表示手段とを備え、
前記X線出射手段は、前記X線管の取外しと装着が可能になっていることを特徴とするX線回折測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線回折測定装置において、
前記測定対象物の材質における結晶状態と回折像との関係が予め記憶されている記憶手段と、
前記回折像検出手段が検出した回折像と前記記憶手段に記憶されている関係とを用いて、前記測定対象物の結晶状態が、完全な単結晶状態、完全な多結晶状態、及び単結晶状態と多結晶状態が混在し、それぞれの状態の割合により分類された複数の状態のいずれに該当する状態であるか判定する結晶状態判定手段とを備えたことを特徴とするX線回折測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載のX線回折測定装置において、
前記回折像検出手段により検出された回折像から演算する特性値を予め設定しておく特性値設定手段と、
前記特性値設定手段に設定されるそれぞれの特性値が演算可能である結晶状態が予め定められ、前記結晶状態判定手段により判定された結晶状態が、前記特性値設定手段に設定された特性値が演算可能な結晶状態であるとき、前記回折像検出手段により検出された回折像から、前記特性値設定手段に設定された特性値を演算する演算手段とを備えたことを特徴とするX線回折測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載のX線回折測定装置において、
前記結晶状態判定手段により判定された結晶状態が、前記特性値設定手段に設定された特性値が演算不可能な結晶状態であるとき、測定不可能を示すとともに、前記X線出射条件設定手段が設定すべきX線出射条件として、前記設定された特性値が属する結晶状態が多結晶状態であるときは、前記X線管の特性より定まる最大の管電圧を、前記設定された特性値が属する結晶状態が単結晶状態であるときは、前記X線管のターゲットから定まる励起電圧及び前記測定対象物の材質から定まる単結晶状態による回折像が発生する最小の管電圧を示す推奨設定値表示手段を備えたことを特徴とするX線回折測定装置。
【請求項5】
請求項1に記載のX線回折測定装置を用いた回折像検出方法において、
前記X線出射条件設定手段により設定する前記管電圧を、検出された回折像から演算する特性値が多結晶状態に属する特性値であるときは、前記X線管のターゲットから定まる励起電圧を超える値にし、検出された回折像から演算する特性値が単結晶状態に属する特性値であるときは、前記X線管のターゲットから定まる励起電圧未満の値にし、
前記X線出射手段により前記測定対象物にX線を照射し、前記回折像検出手段により回折像を検出することを特徴とする回折像検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物にX線を照射し、測定対象物で回折したX線により回折像を検出するX線回折測定装置及び回折像検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、測定対象物にX線を照射して、測定対象物で回折したX線(以下、回折X線という)を撮像面にて受光して回折像を撮像し、撮像された回折像を用いて演算処理を行うことで測定対象物の特性を測定するX線回折測定装置が知られている。このようなX線回折測定装置において、回折X線を測定対象物に照射するX線(以下、出射X線という)の光軸に垂直な撮像面にて受光し、回折像を撮像する装置がある。そして、撮像される回折像は、測定対象物の結晶状態により異なるため、それらの装置は測定対象物の結晶状態が多結晶状態又は単結晶状態のいずれか一方であることを前提にして装置が構成されている。
【0003】
例えば、多結晶状態の測定対象物にX線を照射し、回折X線による回折像として回折環(デバイ環)の像を撮像するX線回折測定装置として、特許文献1及び特許文献2に示されている装置がある。この装置は、X線出射器、イメージングプレート等の回折像撮像手段、レーザ検出装置及びレーザ走査機構等の回折像読取手段、及びLED照射器等の回折像消去手段等を1つの筐体内に備えている。そして、回折像撮像手段で回折像を撮像し、回折像読取手段により回折環を検出し、コンピュータ装置により検出した回折環を用いた演算処理により、測定対象物の残留応力等の特性値を測定している。また、例えば、単結晶状態の測定対象物にX線を照射し、回折X線による回折像としてラウエ斑点像を撮像するX線回折測定装置として、特許文献3に示されている装置がある。この装置は、X線管、蛍光板等の回折像撮像手段、及び蛍光板の発する蛍光から回折像を検出するCCD等の回折像読取手段を1つの筐体内に備えている。そして、コンピュータ装置により検出したラウエ斑点像の斑点の位置を用いた演算処理を行い、測定対象物表面の結晶面の種類及び結晶方位を測定している。いずれの装置も、測定対象物の結晶状態が多結晶状態又は単結晶状態であることを前提にした装置構成になっており、測定対象物の特性を精度よく測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5835191号公報
【特許文献2】特許第6924348号公報
【特許文献3】特許第4589882号公報
【0005】
本願発明者は、特許文献1のX線回折測定装置を用いて単結晶状態の測定対象物にX線を照射して回折像を撮像したところ、ラウエ斑点像が撮像されることを確認した。よって、特許文献1及び特許文献2のX線回折測定装置に接続されているコンピュータ装置に、ラウエ斑点像から結晶面の種類及び結晶方位を測定する演算機能を付加すれば、特許文献1及び特許文献2のX線回折測定装置は、多結晶状態の測定対象物でも単結晶状態の測定対象物でもそれぞれ特性値を測定することができる。
【0006】
しかしながら、本願発明者は、特許文献1のX線回折測定装置を用いて様々な測定対象物の回折像を撮像した結果、測定対象物の結晶状態には完全な多結晶状態と完全な単結晶状態の他に、多結晶状態と単結晶状態が混在する結晶状態で、それぞれの結晶状態の割合が異なる様々な結晶状態があり、その状態により異なる回折像が得られることを確認した。具体的には、多結晶状態による回折像である回折環(デバイ環)の像と、単結晶状態による回折像であるラウエ斑点像とが混在する回折像が、それぞれの状態の割合により異なる形で得られることを確認した。撮像された回折像がそのような回折像であった場合、測定対象物の特性値を算出するには、多結晶状態による回折像又は単結晶状態による回折像のどちらか演算に必要な回折像を抽出したうえで演算処理を行う必要があるが、現在のX線回折測定装置は、完全な多結晶状態又は完全な単結晶状態であることを前提にして装置が構成されているため、特性値を算出することが困難であるという問題がある。
【0007】
本発明はこの問題を解消するためなされたもので、その目的は、測定対象物にX線を照射し、測定対象物で回折したX線により回折像を検出するX線回折測定装置において、測定対象物が多結晶状態と単結晶状態が混在する結晶状態であっても、測定対象物の特性値を精度よく測定することができるX線回折測定装置を提供することにある。また、測定対象物にX線を照射し回折したX線により回折像を検出する回折像検出方法において、測定対象物が多結晶状態と単結晶状態が混在する結晶状態であっても、測定対象物の特性値を精度よく測定することができる回折像検出方法を提供することにある。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射手段であって、ターゲットに加速した電子を当てることでX線を発生させるX線管を含むX線出射手段と、X線出射手段により測定対象物に向けてX線が照射された際、測定対象物にて発生した回折X線を、X線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直に交差する撮像面にて受光し、撮像面に回折X線による回折像を撮像するとともに、撮像した回折像を検出する回折像検出手段とを備えたX線回折測定装置において、電子を加速するための電圧である管電圧、並びにX線出射手段から出射されるX線の出射時間又は電子の量である管電流を設定するX線出射条件設定手段と、回折像検出手段にて検出した回折像を、回折像のそれぞれの箇所に回折X線の強度を視覚的に確認できる処置をしたうえで表示する回折像表示手段とを備え、X線出射手段は、X線管の取外しと装着が可能になっていることにある。
【0009】
これによれば、X線回折測定装置による測定の結果、回折像表示手段に表示された回折像が多結晶状態による回折像と単結晶状態による回折像とが混在する回折像であっても、X線出射条件設定手段によりX線の出射条件を変更することで、多結晶状態による回折像又は単結晶状態による回折像の一方の回折像の強度が相対的に強くなるようにして、再度回折像の撮像と検出を行うことができる。これにより、演算に必要な回折像を抽出したうえで演算処理を行うことができるようになるので、測定対象物の特性値を精度よく測定することができる。詳細に説明すると、X線管が出射するX線を波長と強度の関係曲線(以下、X線スペクトルという)で見ると、特定の波長のみに強度のピークを有する特性X線と強度が連続的に変化する連続X線からなるが、X線管の管電圧を変化させると特性X線の強度は連続X線の強度より大きく変化する。また、X線管の管電圧を励起電圧以下にすると特性X線は発生せず、連続X線のみのX線スペクトルになる。そして、多結晶状態による回折像は特性X線による回折像であり、単結晶状態による回折像は連続X線による回折像である。よって、管電圧を大きくしてX線照射時間又は管電流を小さくすると多結晶状態による回折像の強度が相対的に強くなり、管電圧を小さくしてX線照射時間又は管電流を大きくすると、単結晶状態による回折像の強度が相対的に強くなる。また、管電圧を励起電圧以下にすると、単結晶状態による回折像のみになる。励起電圧とは管電圧を上げていったときX線スペクトルに特性X線が発生し始める電圧であり、言い換えると、管電圧を下げていったときX線スペクトルに特性X線がなくなる最大の電圧である。この励起電圧はX線管のターゲットの材質により定まる。よって、多結晶状態による回折像又は単結晶状態による回折像のいずれか、演算に必要な回折像を強くなるようにして再度回折像の撮像と検出を行うことができ、強度が強い回折像を抽出することで測定対象物の特性値を精度よく測定することができる。なお、測定対象物の材質によっては、単結晶状態による回折像が発生する最小の管電圧が励起電圧以上の電圧である場合があり、この場合は、管電圧を小さくする限度は該最小の管電圧にする必要がある。
【0010】
また、これによれば、X線出射手段はX線管の取外しと装着が可能になっているので、X線出射手段に取付けられるX線管として様々なターゲットのX線管を選択して装着することができる。すなわち、X線管が出射するX線において、同じ管電圧でも、特性X線の強度が強いターゲットのX線管、或いは特性X線の強度が弱い(又はなくなる)ターゲットのX線管を選択して装着することができる。また、測定対象物の材質にとって、適切な特性X線が発生するターゲットのX線管を選択して装着することができる。適切な特性X線とは、多結晶状態による回折像の強度を相対的に強くしたいときは、特性X線の波長と強度が、撮像面の適切な位置に多結晶状態による回折像を強く発生させる特性X線であり、単結晶状態による回折像の強度を相対的に強くしたいときは、特性X線の波長と強度が、多結晶状態による回折像が撮像面に発生しない(又は弱い)特性X線である。これにより、多結晶状態による回折像が相対的に強くなるようにすることや、単結晶状態による回折像が相対的に強くなるように(又は単結晶状態による回折像のみに)することができる。これにより、X線出射条件の変更と合わせれば、演算に必要な回折像がさらに強くなるようにして再度回折像の撮像と検出を行うことができる。
【0011】
また、本発明の他の特徴は、測定対象物の材質における結晶状態と回折像との関係が予め記憶されている記憶手段と、回折像検出手段が検出した回折像と記憶手段に記憶されている関係とを用いて、測定対象物の結晶状態が、完全な単結晶状態、完全な多結晶状態、及び単結晶状態と多結晶状態が混在し、それぞれの状態の割合により分類された複数の状態のいずれに該当する状態であるか判定する結晶状態判定手段とを備えたことにある。
【0012】
これによれば、作業者が表示手段に表示された回折像を確認せずとも、作業者が結晶状態判定手段による判定結果を見れば測定対象物の結晶状態を把握することができ、その結晶状態から測定対象物の特性値の演算がそのまま実施可能か、X線出射条件を変更して再度回折像の撮像を行う必要があるかを決定することができる。
【0013】
また、本発明の他の特徴は、回折像検出手段により検出された回折像から演算する特性値を予め設定しておく特性値設定手段と、特性値設定手段に設定されるそれぞれの特性値が演算可能である結晶状態が予め定められ、結晶状態判定手段により判定された結晶状態が、特性値設定手段に設定された特性値が演算可能な結晶状態であるとき、回折像検出手段により検出された回折像から、特性値設定手段に設定された特性値を演算する演算手段とを備えたことにある。
【0014】
これによれば、結晶状態判定手段により判定された結晶状態が完全な多結晶状態、完全な単結晶状態又はそれらに近い状態であれば、最初に演算する特性値を設定しておき、その特性値が属する結晶状態が測定対象物の結晶状態に合致しているときは、結晶状態の判定からそのまま特性値の演算を行うことができるので、作業者が余計な判断をする必要をなくすことができる。特に、測定対象物の結晶状態が完全な多結晶状態又は完全な単結晶状態のいずれかである可能性が高いときは、この特徴点は有効である。なお、多結晶状態に属する特性値には、残留応力、表面硬さ及び結晶の配列構造の割合等があり、単結晶状態に属する特性値には、結晶面の種類、及び定義した方向(測定対象物の測定面の法線方向等)に対する結晶方位等がある。
【0015】
また、本発明の他の特徴は、結晶状態判定手段により判定された結晶状態が、特性値設定手段に設定された特性値が演算不可能な結晶状態であるとき、測定不可能を示すとともに、X線出射条件設定手段が設定すべきX線出射条件として、設定された特性値が属する結晶状態が多結晶状態であるときは、X線管の特性より定まる最大の管電圧を、設定された特性値が属する結晶状態が単結晶状態であるときは、X線管のターゲットから定まる励起電圧及び測定対象物の材質から定まる単結晶状態による回折像が発生する最小の管電圧を示す推奨設定値表示手段を備えたことにある。
【0016】
これによれば、測定の結果、測定不可能であったときは、推奨設定値表示手段が示した管電圧及び励起電圧を基にX線出射条件を変更し、演算に必要な回折像を強くなるようにして再度回折像の撮像と検出を行うことができるので、検出された結晶状態や表示された回折像からX線出射条件を変更するよりも効率よく変更を行うことができる。よって、測定対象物の結晶状態が不確かな場合が多いときは、より効率よく測定を行うことができる。
【0017】
また、本発明はX線回折測定装置としての発明のみならず、X線出射条件設定手段及び回折像表示手段を備え、X線出射手段がX線管の取外しと装着が可能になっているX線回折測定装置を用いた、回折環検出方法としての発明としても実施し得るものである。該回折環検出方法としての発明の特徴は、X線出射条件設定手段により設定する管電圧を、検出された回折像から演算する特性値が多結晶状態に属する特性値であるときは、X線管のターゲットから定まる励起電圧を超える値にし、検出された回折像から演算する特性値が単結晶状態に属する特性値であるときは、X線管のターゲットから定まる励起電圧未満の値にし、X線出射手段により測定対象物にX線を照射し、回折像検出手段により回折像を検出するようにしたことにある。
【0018】
これによれば、測定対象物の結晶状態によらず、単結晶状態に属する特性値を測定するときは、なるべく励起電圧の高いターゲットのX線管を装着し、励起電圧未満の管電圧でX線を出射すれば、連続X線のみの(特性X線がない)X線を出射することができるので、単結晶状態による回折像のみを検出することができる。また、測定対象物の結晶状態によらず、多結晶状態に属する特性値を測定するときは、なるべく励起電圧が小さく、測定対象物の材質にとって撮像面の適切な箇所に多結晶状態による回折像が撮像されるターゲットのX線管を装着し、励起電圧を十分超える管電圧でX線を出射すれば、多結晶状態による回折像を強い強度で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係るX線回折測定装置を含むX線回折測定システムを示す全体概略図である。
【
図3】
図2のX線回折測定装置におけるX線出射機構部分を拡大して示す部分断面図である。
【
図4】測定対象物がとりえる結晶状態を、完全な多結晶状態から完全な単結晶状態まで連続的に示し、
図1のコントローラが判定する結晶状態で分類した図である。
【
図5】測定の際、
図1のコントローラが実行するプログラムのフロー図である。
【
図6】それぞれの結晶状態のときに撮像される回折像を示した図である。
【
図7】X線管の管電圧を変化させたときの出射X線のスペクトル変化を示した図である(「X線構造解析」著者;早稲田嘉夫、松原英一郎、出版社;内田老確圃の
図1.3を引用)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態に係るX線回折測定装置を含むX線回折測定システムの構成について
図1乃至
図3を用いて説明する。なお、本発明の特徴点は、大部分がX線回折測定システムのコンピュータ装置90にインストールされたプログラム及び記憶された情報にあり、X線回折測定システムの構造及びそれぞれの機構や回路の機能は殆どが、先行技術文献の特許文献1又は特許文献2に示されているX線回折測定システムと同じである。よって、特許文献1又は特許文献2に示されているX線回折測定システムと構造及び機能が同じ箇所は、同じであることを述べて簡略的に説明するにとどめ、異なっている箇所のみ詳細に説明する。
【0021】
図1及び
図2に示すように、このX線回折測定システムは、X線回折測定装置1、コンピュータ装置90、高電圧電源95、及び対象物セット装置6から構成される。そして、対象物セット装置6に測定対象物OBをセットし、X線回折測定装置1からX線を測定対象物OBに照射して回折像を撮像して検出し、コンピュータ装置90にて検出した回折像のデータを演算処理することで、測定対象物OBの特性値を算出する。対象物セット装置6にセットされる測定対象物OBは様々な材質と結晶状態のものがあり、測定する特性値には多結晶状態による特性値と単結晶状態による特性値がある。なお、本実施形態においては、コンピュータ装置90には残留応力以外の特性値を測定するように設定がされているとし、
図1及び
図2に示すように、X線回折測定装置1が出射するX線は測定対象物OBの表面に垂直に照射されるようにX線回折測定装置1の姿勢が調整されている。
【0022】
X線回折測定装置1は筐体50内に、X線管10、イメージングプレート15を取り付けるテーブル16、テーブル16を回転及び移動させるテーブル駆動機構20及び回折環を検出するレーザ検出装置30等を備えている。そして、X線回折測定装置1は筐体50内に、X線管10、テーブル駆動機構20及びレーザ検出装置30に接続され、それらの作動を制御したり、検出信号を入力したりするための各種回路も内蔵されており、
図1において筐体50外に示された2点鎖線で囲われた各種回路は、筐体50内の2点鎖線内に納められている。そして、これらの各種回路はコンピュータ装置90のコントローラ91に接続され、コントローラ91から入力する指令により作動する。X線回折測定装置1のこの構成は特許文献1及び特許文献2のX線回折測定システムと同じである。
【0023】
コンピュータ装置90はキーボード等の入力装置92及び液晶画面等の表示装置93を有し、コントローラ91は、CPU、ROM、RAM、大容量記憶装置などを備えたマイクロコンピュータを主要部とした電子制御装置である。コントローラ91は入力装置92からの入力及びインスト-ルされているプログラムの作動により、上述した各種回路に指令を出力し、また該各種回路が出力したデータを入力してメモリに記憶する。そして、入力したデータを用いて演算を行い、測定対象物OBの特性値を算出し、その算出結果を表示装置93に表示する。また、コントローラ91は、入力装置92から入力した測定条件やX線回折測定システムの作動状況、及び回折像の強度分布図(回折X線の強度により色と濃淡を変えた図)等を表示装置93に表示する。コンピュータ装置90の構成及び機能は、特許文献1及び特許文献2に示されているX線回折測定システムと同じである。
【0024】
また、X線回折測定システムは高電圧電源95を備え、高電圧電源95はX線管10がX線を出射するための電圧及び電流をX線管10に出力する。X線管10は、加速した電子をターゲットに衝突させることでX線を出射するものであり、高電圧電源95が出力する電圧は高電圧であって、電子を加速させるための電圧である。また、高電圧電源95が出力する電流は加速させる電子の量に相当する電流である。この電圧と電流は様々な呼び方があるが、本実施形態では管電圧及び管電流という。高電圧電源95は、後述するX線制御回路71から作動と停止の信号がX線管10に入力するのに応答して、管電圧と管電流の出力と停止を行う。また、X線制御回路71は管電圧の大きさと管電流の大きさを意味する信号も出力し、高電圧電源95が出力する管電圧と管電流は、X線制御回路71が出力する信号により設定される。上述したように、X線回折測定装置1の筐体50内の各種回路はコントローラ91から入力する指令により作動するため、高電圧電源95の管電圧の出力と停止(すなわち、X線照射時間)及び管電圧と管電流の大きさの設定は、コントローラ91の指令により行われる。
【0025】
また、X線回折測定システムは対象物セット装置6を備える。対象物セット装置6の構造及び機能は特許文献1及び特許文献2のX線回折測定システムと同じであり、ステージSt及びそこに載置された測定対象物OBの位置と姿勢を調整する。対象物セット装置6は、設置プレート62の上に高さ調整機構63、操作子63a及び第1プレート64からなるZ軸方向移動機能があり、その上に第2プレート65及び操作子65aからなるX軸周り傾斜角変更機能があり、その上に第3プレート66及び操作子66aからなるY軸周り傾斜角変更機能があり、その上に第4プレート67及び操作子67aからなるX軸方向移動機能があり、その上に第5プレート68、操作子68a及びステージStからなるY軸方向移動機能がある。そして、操作子63a,65a,66a,67a,68aを回転させることで、ステージSt及びそこに載置された測定対象物OBの位置と姿勢を調整する。これにより、X線回折測定装置1が出射するX線の測定対象物OBにおける照射位置及び照射方向を調整することができる。なお、X,Y,Z軸の各方向は、
図2に示された座標軸の方向である。
【0026】
図2に示すように、X線回折測定装置1の筐体50は、底面壁50a、前面壁50b、後面壁50e、上面壁50f、側面壁(図示せず)、底面壁50aと前面壁50bの角部を紙面の表側から裏側に向けて切り欠くように設けた切欠き部壁50cと繋ぎ壁50d及び後面壁50eと上面壁50fの角部をなくすように設けた傾斜壁50gを有するように形成されている。切欠き部壁50cは底面壁50aに対し所定の角度を成す平板と底面壁50aにほぼ平行な平板とからなり、繋ぎ壁50dは側面壁と垂直であり前面壁50bと所定の角度を有している。筐体50の構造は特許文献2に示されているX線回折測定装置と同じである。
【0027】
X線回折測定装置1の筐体50は
図2の奥側の側面壁で支持ロッド3に固定され、支持ロッド3は設置プレート2に固定されており、設置プレート2を作業台等に載置することで、X線回折測定装置1は位置と姿勢が固定される。支持ロッド3の筐体50の固定部分はX軸周りとY軸周りに回転角を変更することが可能な構造になっており、この回転角を変更することで、X線回折測定装置1の筐体50は姿勢を変更することができる。別の言い方をすると、X線回折測定装置1が出射するX線の測定対象物OBに対する照射方向を変更することができる。
【0028】
X線回折測定装置1の筐体50内の構造は、大部分が特許文献2に示されているX線回折測定装置と同じである。X線管10は、その側面がテーブル駆動機構20の板状プレート26に形成された円柱側面の一部の形状になっている溝に嵌合して固定され、高電圧電源95から電圧が入力されると、側面にある出射口11からX線を
図2の下方向に出射する。
図3に示すように、板状プレート26において出射口11と合わさる箇所には貫通孔26aがあり、出射したX線は貫通孔26aを通過して下方向に進む。
【0029】
なお、X線回折測定装置1の筐体50の上面壁50f、傾斜壁50g及び側面壁の一部を取外すと、板状プレート26にあるX線管10の固定具を取り外してX線管10を別のX線管10に取り換えることができる。これにより、X線管10内にある加速した電子を衝突させることでX線を発生させるターゲットを変更することができ、X線管10が出射するX線のスペクトルを変化させることができる。それぞれのターゲットにおけるX線スペクトル、特性X線の波長及び励起電圧は予めコントローラ91のメモリに記憶されており、必要に応じてそれらの特性を表示装置93に表示させることができる。これにより作業者は、X線回折測定により測定する特性値、測定対象物OBの材質及び結晶状態により、適切なターゲットのX線管10に取り換えることができる。
【0030】
テーブル駆動機構20は、X線管10の下方にて移動ステージ21を備え、移動ステージ21の
図2の奥側には凸部があり、この凸部はテーブル駆動機構20における板状プレート26に固定されたブロック19とブロック29に固定された板状のガイド25に形成された溝に嵌合している。この溝はX線管10の中心軸方向に平行な方向、別の表現では上面壁50f及び側面壁に平行な方向に形成されているため、移動ステージ21はこの方向にのみ移動可能であり、ブロック19に固定されたフィードモータ22、スクリューロッド23及びブロック29に固定された軸受部24が回転することにより移動する。フィードモータ22は、フィードモータ制御回路73から駆動信号を入力すると駆動するため、コントローラ91の指令により移動ステージ21はX線管10の中心軸方向に移動する。
【0031】
フィードモータ22には、エンコーダ22aが組み込まれており、エンコーダ22aはフィードモータ22が回転するとパルス列信号を
図1に示す位置検出回路72及びフィードモータ制御回路73へ出力する。このパルス列信号の単位時間当たりのパルス数は、フィードモータ22の回転速度に比例し、またパルス数の積算値は移動距離に比例するので、フィードモータ制御回路73は、入力したパルス列信号により移動速度を制御し、位置検出回路72は入力したパルス列信号により原点位置からの移動距離である移動位置を算出する。これにより、移動ステージ21をコントローラ91が指令した方向へ指令した速度で移動させ、また、コントローラ91が指令した移動位置へ移動させることができる。これは、移動ステージ21と一体になっているスピンドルモータ27、テーブル16及びイメージングプレート15等においても同様である。
【0032】
コントローラ91の指令により移動ステージ21が
図2及び
図3の移動位置になっていると、X線管10の出射口11から出射され貫通孔26aを通過したX線は、回転プレート45に当たるが、回転プレート45はモータ46の出力軸46aに接続されており、モータ46の回転により位置を変えるので、回転プレート45をX線の進行方向にないようにすることができる。その状態であれば、貫通孔26aを通過したX線は移動ステージ21に形成された貫通孔21aに入射し、移動ステージ21に固定されたスピンドルモータ27に形成された貫通孔27bの先端に固定されている通路部材28の貫通孔28aを通過する。スピンドルモータ27の出力軸27aには貫通孔27a1が形成されており、貫通孔27bは貫通孔27a1と中心軸が合ったうえでつながっている。このため、貫通孔28aを通過したX線は、貫通孔27b、貫通孔27a1を通過する。
【0033】
テーブル16は円盤状であり、その中心軸に形成された貫通孔16aがスピンドルモータ27の出力軸27aの貫通孔27a1と位置が合うよう出力軸27aに固定されている。そして、テーブル16は、中心軸周りに下面中央部から下方へ突出した突出部17を有し、突出部17の外周面には、ねじ山が形成されている。テーブル16の下面に孔15aを突出部17に嵌め込むようにイメージングプレート15を取り付け、突出部17の外周面上にナット状の固定具18をねじ込むことにより、イメージングプレート15はテーブル16に固定される。突出部17にも貫通孔27a1、貫通孔16aと位置が合うよう貫通孔17aが形成されており、固定具18には通路部材28の貫通孔28aと同程度の径の貫通孔18aが形成されている。よって、貫通孔27b、貫通孔27a1を通過したX線は、貫通孔16a、貫通孔17a及び貫通孔18aを通過し、略平行なX線となって、筐体50の円形孔50c1に貼られた炭素繊維フィルムCFの中心孔Hから出射する。炭素繊維フィルムCFは、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のようにX線透過率の高い材質でできたフィルムである。出射したX線は、測定対象物OBに照射され、発生した回折X線は炭素繊維フィルムCFを通過してイメージングプレート15で受光され、イメージングプレート15には回折像が撮像される。移動ステージ21を適切な位置にしたうえでX線管10からX線を出射させ、イメージングプレート15に回折像を撮像させる機能が、回折像撮像機能である。
【0034】
スピンドルモータ27内にはエンコーダ27cが組み込まれ、エンコーダ27cは、パルス列信号を
図1に示すスピンドルモータ制御回路74と回転角度検出回路75へ出力し、スピンドルモータ27が1回転するごとにインデックス信号を、回転角度検出回路75及びコントローラ91に出力する。パルス列信号の単位時間当たりのパルス数は、スピンドルモータ27の回転速度に比例し、またパルス数の積算値はインデックス信号が入力してからの回転角度に比例するので、スピンドルモータ制御回路74は、入力したパルス列信号により回転速度を制御し、回転角度検出回路75は、入力したパルス列信号により回転角度を算出する。これにより、スピンドルモータ27をコントローラ91が指令した速度で回転させ、また、コントローラ91が指令した回転角度への回転させることができる。これは、スピンドルモータ27と一体になっているテーブル16及びイメージングプレート15等においても同様である。なお、回折像撮像時は、スピンドルモータ27の回転角度は0に調整されている。
【0035】
レーザ検出装置30はレーザ検出制御回路77により制御され、回折像を撮像したイメージングプレート15にレーザ光を照射し、イメージングプレート15で発光した光の強度から、レーザ光照射位置における回折X線の強度を検出する。コントローラ91の指令により移動ステージ21を適切な位置にし、設定した速度で移動させるとともにスピンドルモータ27を設定した速度で回転させたとき、レーザ検出制御回路77にはコントローラ91から指令が入力し、レーザ検出制御回路77はレーザ検出装置30に対し、レーザ光出射、出射レーザ光の強度制御、レーザ光照射点のイメージングプレート15への合焦制御、及びイメージングプレート15での発光強度のコントローラ91への出力といった制御を行う。レーザ検出制御回路77の機能は、特許文献1と同じであるが、特許文献1では、レーザ検出制御回路77を、上述した制御ごとにいくつかの回路に分割して示してある。コントローラ91はレーザ検出制御回路77に指令を出力した後、レーザ検出制御回路77から入力する発光強度データを、位置検出回路72と回転角度検出回路75が出力する移動位置データ及び回転角度データと同じタイミングで取り込み、メモリに記憶していく。移動位置データは、移動位置の原点でのレーザ光照射位置から出射X線の光軸がイメージングプレート15と交差する点までの距離を予め求めてコントローラ91に記憶させておけば、該交差する点を原点にしたレーザ光照射位置である半径データにすることができる。これが回折像読取機能であり、回折像を読取る又は検出するとは、上述した3つのデータを同じタイミングで取り込んで記憶していくことである。
【0036】
また、
図2に示すように、レーザ検出装置30にはLED光源43が設けられており、LED光源43は
図1に示すLED駆動回路84から駆動信号が入力すると、可視光を発してイメージングプレート15に撮像された回折像を消去する。回折像読取りがされた後、コントローラ91の指令によりスピンドルモータ27が回転を継続したまま移動ステージ21が所定位置に戻り移動を再開したとき、LED駆動回路84にコントローラ91から指令が入力し、LED駆動回路84はLED光源43が所定の強度の可視光を出射する駆動信号を出力する。これが回折像消去機能である。
【0037】
図3に示すように、移動ステージ21は、板状プレート26と対向する面にモータ46を取り付けており、モータ46は出力軸46aに楕円状の平板である回転プレート45を取り付けている。回転プレート45は、モータ46の回転により回転プレート45がストッパ47aに当たるまで回転すると、貫通孔26a、21aの中心軸と回転プレート45が交差する箇所が中心となるようにLED光源44を取り付けている。LED光源44は、
図1に示すLED駆動回路85から駆動信号が入力すると可視光を出射し、その可視光は前述した出射X線の光路と同様の光路で出射して測定対象物OBに照射される。これにより、X線の照射点を可視光の照射点として把握することができる。また、回転プレート45がストッパ47bに当たるまで回転すると、貫通孔26aと貫通孔21aの間には何もなくなり、貫通孔26aを通過したX線は貫通孔21aに入射する。
【0038】
モータ46は、
図1に示すモータ制御回路86からの駆動信号により右方向又は左方向に回転するようになっており、モータ制御回路86は、コントローラ91からの回転方向の指令が入力すると、モータ46のエンコーダ46bからのパルス列信号が入力しなくなるまで、入力した回転方向に回転するための駆動信号を出力する。モータ制御回路86及びLED駆動回路85は、コントローラ91からの指令により作動するので、回転プレート45の回転位置及びLED光源44からの可視光照射は、コントローラ91の指令より行われる。
【0039】
図1及び
図2に示すように、筐体50の切欠き部壁50cにはカメラCAが取り付けられている。カメラCAは結像レンズ48を取り付けた鏡筒と撮像器49とから構成されたデジタルカメラであり、撮像器49は、各撮像素子ごとの受光強度に相当する強度の信号をセンサ信号取出回路88に出力し、センサ信号取出回路88は、撮像器49の各撮像素子ごとの信号強度に相当するデジタルデータをコントローラ91に出力する。コントローラ91は入力したデータを用いて、表示装置93に撮影画像を表示するが、可視光の照射点(X線の照射点)からイメージングプレート15までの距離(以下、照射点-撮像面間距離という)が基準距離であるとき、可視光の照射点が表示される箇所をクロス点とする十字マークを撮影画像とは独立して表示する。
【0040】
図2から分かるように、照射点-撮像面間距離が変化すると、可視光の照射点と結像レンズ48の中心を結んだラインが撮像器49と交差する点の位置は変化するため、照射点-撮像面間距離と撮影画像における可視光の照射点の位置は変化する。よって、撮影画像における可視光の照射点の位置が十字マークのクロス点に合致するよう、X線回折測定装置1の筐体50に対する測定対象物OBの位置を調整すれば、照射点-撮像面間距離を基準距離にすることができる。また、コントローラ91のメモリには照射点-撮像面間距離と撮影画像における可視光の照射点位置との関係が記憶されているので、コントローラ91は、撮影画像における可視光の照射点位置から照射点-撮像面間距離を算出して表示装置93に表示させることができる。
【0041】
X線回折測定装置1の筐体50の上面壁50fは傾斜角センサ51を取り付けており、傾斜角センサ51は筐体50の上面壁50f内の2軸方向における傾斜角、すなわち90°からこれらの方向が重力方向と成す角度を減算した角度に相当する信号を出力する。傾斜角センサ51は傾き検出回路52を内蔵しており、傾き検出回路52は2軸方向の傾きのデジタルデータをコントローラ91に出力する。出射X線の光軸は上面壁50fに垂直にされており、上面壁50f内の2軸方向が出射X線の光軸とイメージングプレート15の回転角度0のラインとを含む平面(以下、基準平面という)に、平行及び垂直な方向であれば、傾斜角センサ51が検出する傾斜角は、出射X線の光軸と重力方向とが成す角度及び基準平面と重力方向とが成す角度である。以下、この傾斜角をX軸周り傾斜角及びY軸周り傾斜角という。そして、測定対象物OBの表面が傾斜角0になるよう(重力方向に垂直になるよう)調整すれば、X軸周り傾斜角及びY軸周り傾斜角をともに0にすることで、出射X線を測定対象物OBに垂直に照射させることができる。なお、イメージングプレート15の回転角度0のラインとは、回転角度検出回路75が0を出力したときにレーザ検出装置30からのレーザ光が照射されている位置であり、これは半径位置ごとにあるためラインである。
【0042】
コントローラ91のメモリには、X線回折測定装置1内の各回路に指令を出力して、回折像撮像、回折像読取及び回折像消去を行うプログラム、X線回折測定装置1内の各回路に指令を出力して出射X線と同じ光軸の可視光を出射し、可視光の照射点付近をカメラCAにより撮像し撮影画像と照射点-撮像面間距離を表示装置93に表示するプログラム、メモリに記憶された情報を用いて測定対象物OBの結晶状態を判定するプログラム、及び検出された回折像から演算に必要な回折像を抽出するプログラム、及び抽出した回折像を用いて演算処理することで測定対象物OBの特性値を算出するプログラム等、いくつかのプログラムがインストールされている。また、コントローラ91のメモリには、測定対象物OBの材質ごとの結晶状態と回折像との関係、測定対象物OBの特性値を算出する際に使用するパラメータ値、X線管10のターゲットの材質と測定対象物OBの材質に対応させた特性X線による回折角、カメラCAの可視光照射点の位置と照射点-撮像面間距離の関係等が記憶されている。
【0043】
記憶されている測定対象物OBの材質ごとの結晶状態と回折像との関係は、次のものである。1つ目は、X線管10のターゲットと測定対象物OBの材質に対応させた特性X線による回折角であり、これは測定対象物OBの結晶状態が多結晶状態であるとき、この値と検出した照射点-撮像面間距離から回折環が撮像される理論上の半径位置を求めることができる。2つ目は、測定対象物OBの材質と結晶面の種類に対応させた照射点-撮像面間距離が基準距離であるときのラウエ斑点の発生位置であり、これは測定対象物OBの結晶状態が単結晶状態であるとき、このデータと検出した照射点-撮像面間距離からラウエ斑点の理論上の発生位置を求めることができる。3つ目は、測定対象物OBの結晶状態ごとの、多結晶状態による回折像と単結晶状態による回折像のそれぞれの割合である。
【0044】
本実施形態では測定対象物OBの結晶状態には
図4に示すように7つの状態があり、それぞれにP,P’,Ps,PS,Sp,S’,Sの識別記号が割り当てられている。Pは完全な多結晶状態、Sは完全な単結晶状態であり、その間に、多結晶状態及び単結晶状態の割合により5つの状態がある。そして、それぞれの結晶状態において、多結晶状態による回折像と単結晶状態による回折像のそれぞれの割合の上限値又は下限値が記憶されており、測定対象物OBの結晶状態を判定するプログラムは、検出された回折像を多結晶状態による回折像と単結晶状態による回折像に区分けし、それぞれの割合を算出して記憶されている関係に当てはめて結晶状態を判定する。この判定方法の詳細については後述する。
【0045】
このように構成されたX線回折測定システムを用いて、測定対象物OBの特性値を測定する際の作業者の操作及びコントローラ91にインストールされたプログラムの作動について説明する。まず作業者は、入力装置92から測定する測定対象物OBの特性値、測定対象物OBの材質、X線管10のターゲット、X線管10の管電圧、管電流及びX線照射時間を入力する。これらは、表示装置93に現在の設定が表示されているので、変更したい設定のみを入力すればよく、変更の必要がなければ入力は不要である。また、測定対象物OBの結晶状態が単結晶状態で(100)、(111)といった結晶面の種類が分かっている場合は、結晶面の種類も入力する。また、測定対象物OBの結晶状態を判定するのみの場合や、測定対象物OBの結晶状態を判定したうえで測定する特性値を決めたい場合は、測定する特性値は設定なしにする。なお、上述したように、本実施形態では測定対象物OBに垂直にX線を照射するので、測定する特性値は残留応力以外の特性値か設定なしである。また、本実施形態では装着されているX線管10のターゲットと設定されている管電圧は、測定対象物OBが多結晶状態であるときは多結晶状態による回折像(回折環の像)を、単結晶状態であるときは単結晶状態による回折像(ラウエ斑点像)を適切な強度で撮像できるものである。例えば、クロムのターゲットで30kVの管電圧である。
【0046】
次に作業者は、測定対象物OBの表面がステージStの表面と平行である場合(測定対象物OBの表面が平面で厚さが均一の場合)は、水準器を用いてステージStの表面が水平になるよう対象物セット装置6の操作子65a及び66aにより姿勢を調整する。これは、以前に同じ調整がされ、操作子65a及び66aが動かされていなければスキップしてもよい。なお、測定対象物OBの表面がステージStの表面と平行でない場合は、測定対象物OBの表面を水準器を用いて水平にするか、それが不可能なときは次の調整において別の調整を行う。
【0047】
次に作業者は、入力装置92から「位置・姿勢調整」の指令を入力する。これにより、コントローラ91からの指令がX線回折測定装置1内の各回路に出力され、回転プレート45は、
図2及び
図3の状態になって、LED光源44から可視光が出射され、測定対象物OBには可視光の照射点が生じる。また、カメラCAによる撮影が開始され、表示装置93には撮影画像が表示される。作業者は、X線回折測定装置1の姿勢及び対象物セット装置6のステージStの位置と高さを調整し、撮影画像における可視光の照射点が十字マークのクロス点付近になるようにし、傾斜角センサ51が検出するX軸周り傾斜角、Y軸周り傾斜角をともに0にする。これでX線回折測定装置1からの出射X線は測定対象物OBに垂直に照射され、照射点-撮像面間距離は基準値付近になる。
【0048】
なお、測定対象物OBの表面がステージStの表面と平行でなく、測定対象物OBの表面を水平にすることができない場合は、傾斜角センサ51が検出するX軸周り傾斜角、Y軸周り傾斜角を0にする代わりに、可視のLED光の反射光が円形孔50c1に貼られた炭素繊維フィルムCFの中心孔H付近で受光するようにする。この方法においては、作業者が直に炭素繊維フィルムCFを見ることは困難であるため、X線回折測定装置1のカメラCAと同様のカメラを用意し、測定対象物OB側から炭素繊維フィルムCFに向けて撮影を行うことができるようにすればよい。
【0049】
位置と姿勢の調整が終了すると、作業者は、入力装置92から「位置・姿勢調整終了」の指令を入力する。これにより、コントローラ91からの指令がX線回折測定装置1内の各回路に出力され、LED光照射は停止し、回転プレート45は出射X線の光軸上にはなくなり、カメラCAの撮影が停止して表示装置93から撮影画像はなくなる。そして、指令を入力したタイミングで、コントローラ91は、撮影画像における可視光の照射点から算出した照射点-撮像面間距離をメモリに記憶する。
【0050】
次に作業者は、入力装置92から「測定開始」の指令を入力する。これにより、コントローラ91は
図5に示すフローのプログラムをステップS1でスタートさせる。以下、
図5に示すフローに沿って説明する。ステップS2及びステップS3は、特許文献1及び特許文献2で説明されているX線回折測定装置1の作動と同じであり、X線を出射してイメージングプレート15に回折像を撮像し、撮像した回折像を読取り、読取ったデータをコントローラ91のメモリに保存する処理である。次のステップS4も特許文献1及び特許文献2で説明されているX線回折測定装置1の作動と同じであり、LED光をイメージングプレート15に照射して撮像されている回折像を消去する処理であるが、回折像消去のための指令を出力した後、すぐにステップS5以降の処理を行うので、ステップ5以降の処理は、回折像の消去と並行して行われる。
【0051】
ステップS5にて、コントローラ91は、メモリに記憶された回折像のデータ、及び予め記憶されている結晶状態と回折像との関係を用いて測定対象物OBの結晶状態を判定する。以下、この演算処理の方法を段階的に説明する。
1)設定された強度以上の箇所を抽出し、近傍位置にあるデータをグループ化する
回折像の読取データは、強度、半径、回転角度の3つのデータからなるデータ群である。このデータ群の中から、強度が設定以上のデータを抽出し、回転角度データが等しく(差が設定内で)、半径データが近傍のデータでグループ化してデータ組にし、そのデータ組における半径方向に強度がピークであるデータを抽出する。次に抽出したデータの中から1つのデータを抽出し、回転角度データが近傍のデータがあれば、そのデータをグループに入れ、グループに入れたデータに回転角度データが近傍のデータがあれば、そのデータをグループに入れ、ということを近傍のデータがなくなるまで繰り返してデータ組にする。次に、データ組のデータ数が所定数以下で、回転角度方向に強度が所定の割合以上で変化している場合は、強度がピークであるデータを抽出する。また、先にデータ組にした中に回転角度方向に強度が所定の割合以上で変化しているデータがある場合は、そのデータを抽出し、残りのデータはデータ組で残す。これにより、回折環はデータ組で、ラウエ斑点像の各斑点はデータで抽出され、また、どちらの回折像か不明のデータ及びデータ組も抽出される。
【0052】
2)回折環のデータ組を抽出する
コントローラ91のメモリには、X線管10のターゲットと測定対象物OBの材質に対応させた特性X線による回折角が記憶されており、先にX線管10のターゲット及び測定対象物OBの材質が入力されているので、測定対象物OBに照射されたX線における回折角を求めることができる。そして、上述したように測定前の位置と姿勢の調整において、カメラCAによる撮影画像における可視光の照射点位置から照射点-撮像面間距離が検出されるので、これらの値から理論的に撮像される回折環の半径を算出することができる。この値は、測定対象物OBが無応力のときの回折環の半径であるが、この半径と1)で抽出したデータ組の半径とが予め設定された許容内で一致すれば、それらのデータ組を回折環のデータ組とする。円の形状となるデータ組でなくても、半径が予め設定された範囲内で一致すれば、回折環のデータ組とする。
【0053】
3)ラウエ斑点像のデータを抽出する
コントローラ91のメモリには、測定対象物OBの材質と結晶面の種類に対応させた照射点-撮像面間距離が基準値であるときのラウエ斑点像の各点の位置データ(半径データと回転角度データ)が記憶されている。照射点-撮像面間距離が変化すれば、ラウエ斑点像は形状が変わらず、各点の中心からの距離が変化するのみであるので、先に測定対象物OBの材質、結晶面の種類が入力されており、照射点-撮像面間距離が検出されていれば、理論上のラウエ斑点像の各点の位置データは算出される。なお、結晶面の種類が入力されていなければ、想定される結晶面の種類ごとに理論上のラウエ斑点像の各点の位置データを算出する。このラウエ斑点像の各点の位置データ(半径データと回転角度データ)と、1)で検出した強度がピークとなるデータの位置データ(半径データと回転角度データ)とを比較し、差が許容内であれば、1)で検出した強度がピークとなるデータはラウエ斑点像のデータとする。また、強度が回転角度方向に同程度であるデータ組の中心点との差が許容内であるデータ組もラウエ斑点像のデータ組とし、中心点をラウエ斑点像のデータとする。そして、結晶面の種類が入力されていなければ、想定される結晶面ごとに上記の処理を行い、差が許容内であるデータ数が最も大きいものを採用する。
【0054】
4)多結晶状態による回折像及び単結晶状態による回折像のそれぞれの割合を算出する
2)で抽出した回折環のデータ組のデータ数を、理論的に撮像される回折環の半径位置に回折環が漏れなく発生した場合のデータ数で除算して「回折環像発生割合」とする。また、2)で抽出されなかったデータの数を、1)で抽出したデータの数で除算して「回折環外の像発生割合」とする。そして、3)で抽出したデータの数を理論上のラウエ斑点像の数で除算した割合を「ラウエ斑点像発生割合」とし、2)で抽出したデータと3)抽出されなかったデータの数を1)で抽出したデータの数で除算した値を「ラウエ斑点像外の像発生割合」とする。
【0055】
5)結晶状態を判定する。
得られた割合の数値から以下のように判定する。
・「回折環像発生割合」が予め定めた限度値A以上あり、「回折環外の像発生割合」が予め定めた限度値B(0に近い値)以下である場合は、測定対象物OBは完全な多結晶状態(P)であると判定する。
・「回折環像発生割合」が予め定めた限度値A以上あり、「回折環外の像発生割合」が予め定めた限度値Bを超え、予め定めた限度値C(限度値Bより大きい値)以下である場合は、測定対象物OBはほぼ多結晶状態(P’)であると判定する。
・「ラウエ斑点像発生割合」が予め定めた限度値D(1に近い値)以上あり、「ラウエ斑点像外の像発生割合」が予め定めた限度値E(0に近い値)以下である場合は、測定対象物OBは完全な単結晶状態(S)であると判定する。
・「ラウエ斑点像発生割合」が予め定めた限度値D以上あり、「ラウエ斑点像外の像発生割合」が予め定めた限度値Eを超え、予め定めた限度値F(限度値Eより大きい値)以下である場合は、測定対象物OBはほぼ単結晶状態(S’)であると判定する。
【0056】
・「回折環像発生割合」が予め定めた限度値G(限度値Aより低い値)以上あり、「回折環外の像発生割合」が予め定めた限度値H(限度値Cより大きい値)以下である場合は、測定対象物OBは多結晶割合が多い結晶状態(Ps)であると判定する。
・「ラウエ斑点像発生割合」が予め定めた限度値I(限度値Dより低い値)以上あり、「ラウエ斑点像外の像発生割合」が予め定めた限度値J(限度値Fより大きい値)以下である場合は、測定対象物OBは単結晶割合が多い結晶状態(Sp)であると判定する。
・上記のいずれにも該当しない場合は、測定対象物OBは多結晶と単結晶の混在状態(PS)であると判定する。
【0057】
図6は、測定対象物OBのそれぞれの結晶状態による回折像を示した図である。なお、この回折像は、いずれもX線管10のターゲットをクロムにし、管電圧30kVでX線を測定対象物OBに照射して撮像したものである。(a)は、完全な多結晶状態の鉄からなる測定対象物OBの回折像であり、回折環の像のみが強い強度で撮像されている。また、(b)は、鉄とガリウムの合金のインゴットを切り出した測定対象物OBの回折像であり、単結晶状態と多結晶状態が混在する結晶状態であるため、回折環の像とラウエ斑点像とがそれぞれ弱い強度で撮像されている。また、(c)は完全な単結晶状態のシリコンのインゴットから切り出した測定対象物OBの回折像であり、ラウエ斑点像のみが強い強度で撮像されている。(a)の結晶状態から(b)の結晶状態に行くにつれ、回折環の像の強度は弱くなりラウエ斑点像が現れるようになり、(c)の結晶状態から(b)の結晶状態に行くにつれ、ラウエ斑点像の強度は弱くなり回折環が現れることがわかる。
【0058】
上述した結晶状態を判定する演算処理は、視覚的には得られた回折像が
図6の(a)~(c)の回折像のいずれに近いかを判定する演算処理である。なお、先に入力した測定する特性値が多結晶状態に属する特性値であるときは、2)の演算処理により抽出されなかったデータの数の割合が限度値B(0に近い値)以下であれば、その時点で結晶状態を判定し、3)の演算処理をスキップしてよい。また、先に入力した測定する特性値が単結晶状態に属する特性値であるときは、3)の演算処理を2)の演算処理より先に行い、抽出されなかったデータの数の割合が限度値E(0に近い値)以下であれば、その時点で結晶状態を判定し、2)の演算処理をスキップしてよい。
【0059】
ステップS5の演算処理が終了すると、コントローラ91は表示装置93に測定対象物OBの結晶状態を表示する。次にステップS6にて測定する特性値が入力されているか判定し、入力されていればYesと判定してステップS11に行き、入力されていなければNoと判定してステップS7に行く。以下、入力されていない場合を先に説明する。ステップS7にて撮像された回折像を表示し、ステップS8にて算出する特性値を設定するよう表示装置93に表示し、ステップS9にて入力装置92からの入力があるまで待つ。作業者は表示装置93に表示された結晶状態と回折像を見て算出したい特性値を入力する。ただし、結晶状態を判定することだけが目的の場合や、X線入射角0の回折像では特性値の算出が不可能な場合(残留応力を算出する場合)は、「算出せず」を入力する。この時は、ステップS10にてYesと判定されてステップS24でプログラムは終了するので、作業者は最初に戻って測定のための入力と調整を行う。
【0060】
また、算出したい特性値を入力した場合は、ステップS10にてNoと判定されてステップS6に戻り、ステップS6にてYesと判定されてステップS11へ行く。よって、最初から測定する特性値が設定されていた場合も、後から測定する特性値を設定した場合でもステップS11へ行くことになる。ステップS11にて、結晶状態の判定結果と測定する特性値とを比較し、演算可能であるか否か判定する。このとき、結晶状態が
図4の多結晶が多い状態(Ps)から左側の状態(P,P’Ps)で単結晶に属する特性値(結晶面の種類又は結晶方位)が設定されていた場合、又は結晶状態が
図4の単結晶が多い状態(Sp)から右側の状態(S,S’Sp)で多結晶による特性値(残留応力、表面硬さ、又は結晶の配列構造の割合)が設定されていた場合は、No(演算不可能)と判定してステップS12へ行く。そして、ステップS12にて表示装置93に測定不能である表示と回折像を表示してプログラムはステップS24で終了する。
【0061】
ステップS11にて、上述した以外の関係であればYes(演算可能)と判定してステップS13へ行く。次にステップS13にてX線照射条件を変更して再測定する必要性を判定する。このとき結晶状態の判定結果が完全な多結晶状態(P)、ほぼ多結晶状態(P’)完全な単結晶状態(S)又はほぼ単結晶状態(S’)であれば、No(再測定不要)と判定してステップS15にて演算を行い、算出した特性値と回折像を表示装置93に表示してプログラムはステップS24にて終了する。なお、多結晶状態による回折像(回折環の像)から特性値として残留応力、表面硬さ、及び結晶の配列構造の割合を計算する方法は既存技術であり、例えば特許第4276106号公報、特許第6066970号公報及び特許第5299474号公報の明細書に詳細に示されている。また、単結晶状態による回折像(ラウエ斑点像)から特性値として結晶面の種類及び結晶方位を計算する方法も既存技術であり、多くの文献に計算方法が示されている。なお、結晶面の種類は先に入力装置92から入力されているか、結晶状態の判定で既に判定されている。
【0062】
ステップS13にて、結晶状態の判定結果が、多結晶割合が多い状態(Ps)、多結晶と単結晶が混在状態(PS)又は単結晶割合が多い状態(Sp)であるときはNo(再測定必要)と判定してステップS15に行く。そして、ステップS15にて回折像の表示と、測定不可能なため再測定が必要であることを表示し、再測定する際に推奨する管電圧とX線照射時間又は管電流を表示する。このとき、測定する特性値が多結晶状態に属するときは、管電圧としてX線管10の特性から定まる最大の管電圧と、その管電圧のときに適切な強度の回折像が得られるX線照射時間又は管電流を表示する。また、測定する特性値が単結晶状態に属するときは、励起電圧と単結晶による回折像が発生する最小の管電圧と、その管電圧のときに適切な強度の回折像が得られるX線照射時間又は管電流を表示する。作業者は表示された推奨のX線照射条件を見て、再測定の際の管電圧並びにX線照射時間又は管電流を入力装置92から入力する。
【0063】
X線照射条件を変更することで、それぞれの結晶状態による回折像の相対的強度を変えることができるのは、以下の説明による。X線管は管電圧を上げていくと特性X線も連続X線も強くなっていくが、特性X線の方が連続X線よりも強度変化の割合が大きい。よって、管電圧をX線管10の特性から定まる最大の電圧以下にし、X線照射時間又は管電流を回折像全体の強度が適切になるよう小さくすれば、多結晶による回折像(回折環の像)が単結晶による回折像(ラウエ斑点像)よりも強い回折像を得ることができる。また、管電圧には、電圧を下げていくと、出射するX線のスペクトルに特性X線が発生しなくなる管電圧である励起電圧があり、単結晶による回折像(ラウエ斑点像)が発生する最小の管電圧がある。よって、管電圧を励起電圧以下で単結晶による回折像(ラウエ斑点像)が発生する最小の電圧以上にして、X線照射時間又は管電流を回折像全体の強度が適切になるよう大きくすれば、単結晶による回折像(ラウエ斑点像)のみの回折像を得ることができる。ただし、励起電圧より単結晶による回折像が発生する最小の電圧が大きい場合が多くあり、そのような場合は、管電圧を該最小の電圧以上にすると励起電圧より大きくすることになるが、単結晶による回折像(ラウエ斑点像)が多結晶による回折像(回折環の像)よりも強い回折像を得ることができる。
【0064】
励起電圧は、X線管10のターゲットごとに定まっており、例えばクロムでは6.0kV、コバルトでは7.7kV、銅では9.0kV、モリブデンでは20.0kVである。この数値はターゲットごとにコントローラ91のメモリに記憶されており、X線回折測定装置1に装着されているX線管10のターゲットの情報はX線管10を交換するごとに作業者が入力装置92から入力してメモリに記憶されるので、コントローラ91は励起電圧を表示することができる。また、単結晶による回折像(ラウエ斑点像)が発生する最小の管電圧は、測定対象物OBの材質ごとに定まっており、例えば鉄では12kV、ニッケルでは9kV、シリコンでは7kVである。この数値も測定対象物OBの材質ごとにコントローラ91のメモリに記憶されており、測定開始時に作業者は入力装置92から測定対象物OBの材質を入力するので、コントローラ91は単結晶による回折像が発生する最小の管電圧を表示することができる。
【0065】
図7は、ターゲットがモリブデンのとき、管電圧を変化させたときのX線管10が出射するX線のスペクトルを示した図である(「X線構造解析」著者;早稲田嘉夫、松原英一郎、出版社;内田老確圃の
図1.3を引用)。
図7を見ると分かるように、管電圧が20kV以下になると特性X線が発生しなくなることが分かる。そして、管電圧を下げていくとX線スペクトルの立ち上がりの波長が大きい側に移動していくことも分かる。上記のように、ターゲットがモリブデンのとき励起電圧は他のターゲットのときよりも大きいが、これはターゲットがモリブデンのとき、他のターゲットよりも特性X線の波長が小さく、X線スペクトルの立ち上がりの波長に近い波長で特性X線が発生するためである。すなわち、管電圧を下げていきX線スペクトルの立ち上がりの波長が大きい側に移動していくと、管電圧が大きい段階でX線スペクトルの立ち上がりの波長が特性X線の波長に達するためである。他のターゲットにおいては、特性X線は
図7よりも大きい波長で出るため、モリブデンのときよりも励起電圧は小さくなっている。
【0066】
また、単結晶状態による回折像(ラウエ斑点像)の各斑点が発生するのは、測定対象物OBの材質の格子定数とミラー指数から定まる回折面間隔、回折面に対するX線入射角及びX線の波長がブラッグの条件を満たすときである。言い換えると、ラウエ斑点像全体が発生するのは、連続X線の波長範囲が測定対象物OBの材質により定まる波長範囲にあるときである。よって、管電圧を下げていきX線スペクトルの立ち上がりの波長が大きい側に移動していくと、単結晶状態による回折像(ラウエ斑点像)の斑点は次第に消えていき、最終的には全く発生しなくなる。単結晶による回折像が発生する最小の管電圧とは、管電圧を下げていったとき単結晶状態による回折像(ラウエ斑点像)が消え始める管電圧である。
【0067】
図5のフローに戻り、ステップS15にて表示がされると、次のステップS16にて、作業者が入力装置92から再測定の有無とX線照射条件を入力するまでNoを繰り返して待ち、入力がされると、ステップS16にてYesと判定してステップS17へ行き、ステップS17にて再測定することが選択されたか否かが判定される。再測定することが選択されなかった場合は、Noと判定してステップS18へ行き、ステップS18にてステップS5の演算処理にて抽出された多結晶状態による回折像のデータと単結晶状態による回折像のデータの中から、特性値の演算に必要なデータを選択して特性値の演算を行い、表示装置93に結果を表示してプログラムはステップS24にて終了する。この演算は、回折像のデータが少ないためステップS14での演算の結果よりも精度が悪い可能性が高い。また、演算に用いる回折像データが少なく、演算が不可能であると判定したときは、表示装置93に演算不可能の表示をする。
【0068】
一方、ステップS17にて再測定することが選択された場合は、Yesと判定して、ステップS19へ行き、ステップS19にてステップS4で開始したイメージングプレート15に撮像された回折像の消去が完了するのをNoの判定を繰り返すことで待つ。回折像の消去が完了すると、Yesと判定してステップS20へ行き、ステップS20及びステップS21にて、ステップS2及びステップS3と同様に回折像の撮像と撮像した回折像の読取りを行う。なお、ステップS20にてX線制御回路71へX線照射の指令を出力する前に、新たに設定した管電圧及び管電流が出力されている。
【0069】
次にステップS22にてステップS4と同様に撮像された回折像の消去を開始し、ステップS23にて、得られた回折像データからステップS5にて行った結晶状態の判定のときよりも大きく設定した強度以上の箇所を抽出し、ステップS5にて行った結晶状態の判定のときの演算処理と同様の演算処理を行う。この判定結果が、完全な多結晶状態(P)、ほぼ多結晶状態(P’)、完全な単結晶状態(S)又はほぼ単結晶状態(S’)のいずれかであるときは、ステップS13にてNoと判定してステップS14にて上述した計算を行い、表示装置14にて計算結果の表示と回折像の表示を行い、ステップS24にてプログラムを表示する。また、ステップS23にて判定結果が、上記の結晶状態でなかったときは、Yesと判定してステップS15にて1回目の測定と同様に、測定不可能なため再測定が必要であることの表示と推奨する管電圧とX線照射時間又は管電流を表示する。作業者は、さらにX線照射条件を変更して再測定するか、再測定しないを選択して得られた回折像で演算をするかのいずれかを選択して入力する。このようにして、いずれの場合も最終的にはステップS24に行きステップS24にてプログラムは終了し、X線回折測定システムは測定前と同じ状態に戻る。
【0070】
なお、再測定しないを選択して「測定不能」が表示された場合や、測定結果は表示されたが精度が悪いと判断した場合は、X線回折測定装置1に装着されたX線管10を別のターゲットのX線管10に交換し、X線管10が出射するX線を演算に用いる回折像が強くなるX線にして、再測定を行ってもよい。例えば、多結晶状態による回折像を強くするときは、励起電圧がより小さく、測定対象物の材質にとって撮像面の適切な箇所に多結晶状態による回折像が撮像されるターゲットのX線管を装着し、励起電圧を十分超える管電圧でX線を出射すればよい。また、単結晶状態による回折像を強くするときは、励起電圧がより高いターゲットのX線管10を装着し、励起電圧未満の管電圧でX線を出射すれば、連続X線のみの(特性X線がない)X線を出射することができるので、単結晶状態による回折像のみを検出することができる。また、単結晶状態による回折像を強くするときは、特性X線の波長と強度が、測定対象物OBの材質に対して多結晶状態による回折像が撮像面に発生しない(又は弱い)ターゲットのX線管10を装着し、高い管電圧でX線を出射する方法もある。
【0071】
X線管10のターゲットごとのX線スペクトル、励起電圧及び特性X線の波長は、コントローラ91のメモリに記憶されており、作業者は表示装置93にその特性を表示させることができる。励起電圧は段落0064に記載した通りであり、特性X線の波長は、例えばクロムではKα線は2.29Å、Kβ線は2.09Å、コバルトではKα線は1.79Å、Kβ線は1.62Å、銅ではKα線は1.54Å、Kβ線は1.39Å、モリブデンではKα線は0.71Å、Kβ線は0.63Å、タングステンではKα線は0.21Å、Kβ線は0.18Åである。
【0072】
上記説明からも理解できるように、上記実施形態においては、対象とする測定対象物OBに向けてX線を出射するX線管10,貫通孔26a,28a,27b,27a1,17a,18a、X線制御回路71及び高電圧電源95等からなるX線出射手段と、X線出射手段により測定対象物OBに向けてX線が照射された際、測定対象物OBにて発生した回折X線を、X線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直に交差するイメージングプレート15にて受光し、イメージングプレート15に回折X線の回折像を撮像するとともに回折像を検出するレーザ検出装置30、テーブル駆動機構20、各種回路、及びコントローラ91にインストールされたプログラム等からなる回折像検出手段とを備えたX線回折測定システムにおいて、電子を加速するための電圧である管電圧、並びにX線管10から出射されるX線の出射時間又はX線管10のターゲットに当てる電子の量である管電流を設定するX線制御回路71及びコンピュータ装置90等からなるX線出射条件設定手段と、回折像検出手段にて検出した回折像を、回折像のそれぞれの箇所に回折X線の強度を視覚的に確認できる処置をしたうえで表示する表示装置93とを備え、X線出射手段は、X線管10の取外しと装着が可能になっている。
【0073】
これによれば、測定の結果、表示装置93に表示された回折像が多結晶状態による回折像と単結晶状態による回折像とが混在する回折像であっても、X線出射条件設定手段によりX線の出射条件を変更することで、多結晶状態による回折像又は単結晶状態による回折像の一方の回折像の強度が相対的に強くなるようにして、再度回折像の撮像を行うことができる。これにより、演算に必要な回折像を抽出したうえで演算処理を行うことができるようになるので、測定対象物OBの特性値を精度よく測定することができる。また、これによれば、X線回折測定装置1はX線管10の取外しと装着が可能になっているので、X線回折測定装置1に装着されるX線管10として様々なターゲットのX線管10を選択して装着することができる。すなわち、X線管10が出射するX線において、同じ管電圧でも、特性X線の強度が強いターゲットのX線管10、或いは特性X線の強度が弱い(又はなくなる)ターゲットのX線管10を選択して装着することができる。これにより、多結晶状態による回折像が相対的に強くなるようにすることや、単結晶状態による回折像が相対的に強くなるように(又は単結晶状態による回折像のみに)することができる。これにより、X線出射条件の変更と合わせれば、演算に必要な回折像がさらに強くなるようにして再度回折像の撮像と検出を行うことができる。
【0074】
また、上記実施形態においては、測定対象物OBの材質における結晶状態と回折像との関係が予め記憶されているコントローラ91のメモリと、回折像検出手段が検出した回折像と該メモリに記憶されている関係とを用いて、測定対象物OBの結晶状態が、完全な単結晶状態、完全な多結晶状態、及び単結晶状態と多結晶状態が混在し、それぞれの状態の割合により分類された複数の状態のいずれに該当する状態であるか判定するコントローラ91にインストロールされた結晶状態判定用プログラムとを備えている。
【0075】
これによれば、作業者が表示装置93に表示された回折像を確認せずとも、作業者が結晶状態判定用プログラムによる判定結果を見れば測定対象物OBの結晶状態を把握することができ、その結晶状態から測定対象物OBの特性値の演算がそのまま実施可能か、X線出射条件を変更して再度回折像の撮像を行う必要があるかを決定することができる。
【0076】
また、上記実施形態においては、回折像検出手段により検出された回折像から演算する特性値を設定する入力装置92及びコントローラ91と、コントローラ91に設定されるそれぞれの特性値が演算可能である結晶状態が予め定められ、結晶状態判定用プログラムにより判定された結晶状態が、コントローラ91に設定された特性値が演算可能な結晶状態であるとき、回折像検出手段により検出された回折像から、コントローラ91に設定された特性値を演算する演算プログラムとを備えている。
【0077】
これによれば、結晶状態判定用プログラムにより判定された結晶状態が完全な多結晶状態、完全な単結晶状態又はそれらに近い状態であれば、最初に演算する特性値を設定しておき、その特性値が属する結晶状態が測定対象物OBの結晶状態に合致しているときは、結晶状態の判定からそのまま特性値の演算を行うことができるので、作業者が余計な判断をする必要をなくすことができる。特に、測定対象物OBの結晶状態が完全な多結晶状態又は完全な単結晶状態のいずれかである可能性が高いときは、この特徴点は有効である。
【0078】
また、本発明の他の特徴は、結晶状態判定用プログラムにより判定された結晶状態が、コントローラ91に設定された特性値が演算不可能な結晶状態であるとき、測定不可能を示すとともに、X線出射条件設定手段が設定すべきX線出射条件として、設定された特性値が属する結晶状態が多結晶状態であるときは、X線管10の特性より定まる最大の管電圧を、設定された特性値が属する結晶状態が単結晶状態であるときは、X線管10のターゲットから定まる励起電圧及び測定対象物OBの材質から定まる単結晶状態による回折像が発生する最小の管電圧を示すコントローラ91にインストロールされた推奨設定値表示用プログラムを備えている。
【0079】
これによれば、測定の結果、測定不可能であったときは、推奨設定値表示用プログラムが示した管電圧を基にX線出射条件を変更し、演算に必要な回折像を強くなるようにして再度回折像の撮像と検出を行うことができるので、検出された結晶状態や表示された回折像からX線出射条件を変更するよりも効率よく変更を行うことができる。よって、測定対象物OBの結晶状態が不確かな場合が多いときは、より効率よく測定を行うことができる。
【0080】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0081】
上記実施形態におけるX線回折測定システムは、コントローラ91にインストールされたプログラムにより自動で作動し、結晶状態の判定、測定可能か否かの判定及び特性値の演算を行うとともに、作業者による入力が必要なときは表示装置93に入力の指示を表示するようにしたが、X線回折測定システムは、回折像の撮像、検出、消去と特性値の演算と演算結果及び回折像の表示までを自動で行うシステムにし、X線出射条件を設定可能にする機能とX線管10を交換可能にする機能を付加するのみにしてもよい。このシステムの場合は、作業者が得られた回折像を見て、多結晶状態による回折像又は単結晶状態による回折像のいずれか一方の強度を強くすべきと判断したときは、上記実施形態のようにX線出射条件を変更し、必要であればX線管10を交換して再測定を行うようにすればよい。
【0082】
また、そのようなX線回折測定システムにした場合、測定対象物OBの結晶状態によらず、単結晶状態に属する特性値を測定するときは、なるべく励起電圧の高いターゲットのX線管10を装着し、励起電圧未満の管電圧でX線を出射すれば、連続X線のみの(特性X線がない)X線を出射することができるので、単結晶状態による回折像のみを検出することができ、再測定する必要をなくすことができる。また、測定対象物OBの結晶状態によらず、多結晶状態に属する特性値を測定するときは、なるべく励起電圧が小さく、測定対象物OBの材質にとって撮像面の適切な箇所に多結晶状態による回折像が撮像されるターゲットのX線管10を装着し、励起電圧を十分超える管電圧でX線を出射すれば、多結晶状態による回折像を強い強度で検出することができ、再測定する必要をなくすことができる。
【0083】
また、そのようなX線回折測定システムにした場合、測定対象物OBの結晶状態によらず、単結晶状態に属する特性値を測定するときは、特性X線の波長と強度が、測定対象物OBの材質に対して多結晶状態による回折像がイメージングプレート15に発生しないか、発生しても強度が弱い特性X線であるターゲットのX線管10を装着し、高い管電圧でX線を出射する方法もある。これによっても、単結晶状態による回折像のみを検出することができ、再測定する必要をなくすことができる。
【0084】
また、上記実施形態におけるX線回折測定システムは、コントローラ91にインストールされている演算プログラムにより回折像データを処理することで、測定対象物OBの特性値を算出して表示装置93に表示するようにした。しかし、コントローラ91は回折像を表示装置93に表示させるまでにし、コントローラ91のメモリに記憶された回折像データを、別のコンピュータ装置に転送し、別のコンピュータ装置により処理して測定対象物OBの特性値を算出するようにしてもよい。この場合、転送する方法は、作業者が持ち運び可能な記憶媒体をコントローラ91と別のコンピュータ装置にそれぞれセットしてデータを移す方法や、ネット回線を用いる方法等、様々な方法がある。
【0085】
また、上記実施形態においてはX線回折測定装置1から出射されるX線が測定対象物OBに垂直に照射されるよう測定対象物OBとX線回折測定装置1の姿勢を調整し、測定する特性値は、残留応力以外の特性値か設定なしであるとした。しかし、測定対象物OBが多結晶状態である可能性が高く、測定する特性値が残留応力であるときは、X線回折測定装置1から出射されるX線は、先行技術文献の特許文献1及び特許文献2に示されるX線回折測定装置のように所定の入射角で、測定対象物OBに入射されるようにする。その場合は、測定対象物OBを水準器で水平にし、傾斜角センサ51が検出するX軸周り傾斜角を所定の入射角にし、Y軸周り傾斜角を0にすればよい。又は、先行技術文献の特許文献1及び特許文献2に示されるX線回折測定装置のようにカメラCAの撮影画像における照射点および受光点を十字マークのクロス点に合致させればよい。
【0086】
また、上記実施形態におけるX線回折測定システムは、測定対象物OBの結晶状態を、完全な多結晶状態から完全な単結晶状態までの間を7つの状態で分類したが、分類の数はこれよりも多くてもよいし少なくてもよい。また、測定対象物OBが完全な多結晶状態又は完全な単結晶状態が明白であるときは、完全な多結晶状態、完全な単結晶状態及び混合状態の3つの状態に分類し、結晶状態の異常の有無を判定するのみにしてもよい。
【0087】
また、上記実施形態及び変形形態におけるX線回折測定システムは、回折像の読取データは、強度、半径、回転角度の3つのデータからなるデータ群であり、半径及び回転角度は位置検出回路72及び回転角度検出回路75が出力するデータであるとした。しかし、演算に必要な回折像の抽出及び特性値の算出をより精度よく行うため、半径及び回転角度に得られたデータを補正したデータを用いるようにしてもよい。詳細に説明すると、位置データである半径及び回転角度データの座標原点は、出射X線の光軸がイメージングプレート15の表面と交差する点である。しかし、レーザ検出装置30のレーザ光の照射点の移動ラインが完全に該交差する点を含んでおり、さらにスピンドルモータ27の回転軸が出射X線の光軸と完全に一致していることはないので、得られたデータの座標原点は正式な座標原点(該交差する点)からややずれがある。また、イメージングプレート15の表面は出射X線の光軸に完全に垂直になっていないので、半径及び回転角度データにはこの傾きによるずれもある。よって、半径及び回転角度データは、得られたデータからこのずれ分を補正したデータを用いればより精度のよい測定をすることができる。この補正方法については特許第5522411号公報に詳細に説明されている。
【0088】
また、上記実施形態及び変形形態におけるX線回折測定装置1は、イメージングプレート15に回折像を撮像し、レーザ走査により撮像した回折像を読取る装置としたが、回折像を検出することができるならば、どのようなX線回折測定装置であっても、本発明は適用することができる。例えば、撮像面にX線CCDのような固体撮像素子を並べたX線回折測定装置であっても適用することができるし、微小な固体撮像素子を移動位置検出とともに撮像面内で走査するX線回折測定装置であっても適用することができる。
【0089】
また、上記実施形態及び変形形態におけるX線回折測定システムは、対象物セット装置6のステージStに測定対象物OBを載置し、対象物セット装置6の操作子63a,65a,66a,67a,68aを操作して、X線回折測定装置1に対する測定対象物OBの位置と姿勢を調整するシステムとしたが、X線回折測定装置1に対する測定対象物OBの位置と姿勢を調整できるならば、どのようなシステムであっても本発明は適用することができる。例えば、測定対象物OBを固定した台に載置し、X線回折測定装置1をアーム式移動装置の先端に取り付けて、位置と姿勢を調整できる装置であっても適用することができる。
【0090】
また、上記実施形態及び変形形態におけるX線回折測定システムは、出射X線と同じ光軸の可視光を照射し、カメラCAで撮影した撮影画像の可視光の照射点位置から照射点―撮像面間距離を検出するようにしたが、照射点―撮像面間距離を精度よく検出できるならば、測定手段はどのような原理及び方式のものであってもよい。例えば、出射X線と同じ光軸のレーザ光を照射して反射光を受光し、タイムオブフライトの測定原理を用いて照射点―撮像面間距離を検出してもよい。
【符号の説明】
【0091】
1…X線回折測定装置、2…設置プレート、3…支持ロッド、6…対象物セット装置、10…X線管、11…出射口、15…イメージングプレート、15a…孔、16a,17a,18a,21a,27a1,27b、28a…貫通孔、16…テーブル、17…突出部、18…固定具、19…ブロック、20…テーブル駆動機構、21…移動ステージ、22…フィードモータ、23…スクリューロッド、24…軸受部、25…ガイド、26…板状プレート、27…スピンドルモータ、28…通路部材、29…ブロック、30…レーザ検出装置、43…LED光源,44…LED光源、45…回転プレート、46…モータ、47a,47b…ストッパ、48…結像レンズ、49…撮像器、50…筐体、50a…底面壁、50b…前面壁、50c…切欠き部壁、50c1…円形孔、50d…繋ぎ壁、50e…後面壁、50f…上面壁、50g…傾斜壁、51…傾斜角センサ、90…コンピュータ装置、91…コントローラ、92…入力装置、93…表示装置、OB…測定対象物、CA…カメラ、St…ステージ、CF…炭素繊維フィルム、H…中心孔