IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大成建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-凍土支持構造とその形成方法 図1
  • 特開-凍土支持構造とその形成方法 図2
  • 特開-凍土支持構造とその形成方法 図3
  • 特開-凍土支持構造とその形成方法 図4
  • 特開-凍土支持構造とその形成方法 図5
  • 特開-凍土支持構造とその形成方法 図6
  • 特開-凍土支持構造とその形成方法 図7
  • 特開-凍土支持構造とその形成方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093047
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】凍土支持構造とその形成方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 1/12 20060101AFI20230627BHJP
【FI】
E21D1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208446
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】川北 潤
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 雅道
(72)【発明者】
【氏名】原田 慎
(72)【発明者】
【氏名】小形 純平
(72)【発明者】
【氏名】日▲高▼ 直俊
(57)【要約】
【課題】凍土の内部もしくは側方に掘削孔を施工して地下構造物である躯体を施工するに当たり、支持構造からの伝熱に起因する凍土の融解の抑制もしくは抑止と、支持構造による凍土を支持する支持力の確保の双方を実現できる、凍土支持構造とその形成方法を提供する。
【解決手段】地盤Gの内部に凍土20が施工され、凍土20の内部もしくは側方に反力体40があり、凍土20の一部を反力体40の一部が支持している、凍土支持構造100であり、反力体40と凍土20の間には、凍土20から作用する軸力に対抗する第一断熱材50と、硬化した充填材70を内包する袋体60との積層体80が介在している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤の内部に凍土が施工され、該凍土の内部もしくは側方に反力体があり、該凍土の一部を該反力体の一部が支持している、凍土支持構造であって、
前記反力体と前記凍土の間には、前記凍土から作用する軸力に対抗する第一断熱材と、硬化した充填材を内包する袋体との積層体が介在していることを特徴とする、凍土支持構造。
【請求項2】
地盤の内部に凍土が施工され、該凍土の内部もしくは側方に掘削孔が施工され、該掘削孔の内部に前記反力体である躯体が施工されており、該凍土の一部を該躯体の一部が支持していることを特徴とする、請求項1に記載の凍土支持構造。
【請求項3】
前記第一断熱材が、複数の六角中空体を備えたハニカムボードであり、該六角中空体の軸方向が前記凍土を支持する方向であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の凍土支持構造。
【請求項4】
前記第一断熱材が複数の分割断熱材により形成され、前記反力体と前記凍土を結ぶ方向に各分割断熱材が積層されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の凍土支持構造。
【請求項5】
前記凍土の壁面に第二断熱材が配設されており、該第二断熱材が前記積層体により押し潰されることで前記袋体が該凍土に当接していることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の凍土支持構造。
【請求項6】
前記反力体が、少なくとも場所打ちコンクリートを含んでいることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の凍土支持構造。
【請求項7】
地盤の内部に凍土を施工する、A工程と、
前記凍土の内部もしくは側方に反力体を配設し、該反力体の配設に際して、該反力体と該凍土の間に、第一断熱材と萎んだ状態の袋体を介在させる、B工程と、
前記袋体の内部に充填材を供給して硬化させ、該袋体を膨らませて前記凍土に当接させ、前記第一断熱材と、硬化した充填材を内包する前記袋体との積層体を形成して凍土を支持する、C工程とを有することを特徴とする、凍土支持構造の形成方法。
【請求項8】
前記B工程では、前記凍土の内部もしくは側方に掘削孔を施工し、該掘削孔の内部に前記反力体である躯体を施工することを特徴とする、請求項7に記載の凍土支持構造の形成方法。
【請求項9】
前記B工程では、前記掘削孔を施工した後に前記凍土の壁面に第二断熱材を配設し、該第二断熱材の側方に前記躯体を施工することを特徴とする、請求項8に記載の凍土支持構造の形成方法。
【請求項10】
前記B工程と前記C工程を一セットとして、これを地盤の深度方向に繰り返し行う逆巻き工法を行うことを特徴とする、請求項7乃至9のいずれか一項に記載の凍土支持構造の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍土支持構造とその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地下水以深の地盤に地下構造物を施工するに当たり、開削工法やシールド工法等による掘削中の地下水の噴出や土砂の崩壊を防止するべく、様々な地盤改良工法が補助工法として適用されることがあり、地盤改良工法には凍結工法が適用される場合がある。地盤改良工法には、原地盤とセメントを撹拌混合して改良地盤を造成する方法や凍結工法等があるが、凍結工法では、地下水を含む原地盤を凍らせることによって硬質かつ不透水性の凍土を施工することにより、安全な地下構造物の施工を実現するとともに、施工完了後は凍土を融解させることで地中に改良土を残さないことから、環境配慮型の地盤改良工法として知られている。
凍結工法を適用して地下構造物を施工する場合、凍土を施工した後、凍土の内部やその側方の地盤を掘削して掘削孔を施工していくに当たり、一般の開削工法の際の土留め支保工の設置と同様に、所定深度ごとに凍土を掘削孔側から支保しながら深度方向に掘削孔の施工を進めていくことになる。
【0003】
しかしながら、支保対象が凍土であることから、一般の地盤を支保する場合と異なり、凍土を支保する支保部材(仮設部材や本設躯体の壁面等)から凍土に熱が伝達されると、凍土における伝熱部位が融解し、凍土の断面欠損や強度低下により、凍土の有する初期の改良強度が低下する恐れがある。
そこで、凍土と支保部材の間に断熱材を介在させることにより、支保部材から凍土への伝熱を抑制する方策が考えられる。一般に適用される断熱材(熱伝導率が例えば0.1W/mKより小さい部材)には、グラスウールや押出発泡ポリスチレンであるスタイロフォーム(登録商標)等が挙げられるが、このような断熱材は一般に、圧縮強度が例えば0.2N/mm程度かそれ以下と低く、背面地盤から凍土を介して作用する土水圧(軸力)に抗し得る、十分な圧縮強度を有しているとは言い難い。そのため、凍土への伝熱は抑制できるものの、支保部材に本来期待される支持力を確保できなくなるといった課題が生じ得る。ここで、圧縮強度が比較的大きな一般材料であるモルタルや木材を適用しようとすると、セメントの熱伝導率は1.63W/mK程度であり、木材の熱伝導率は0.12W/mK程度と熱伝導率が断熱材に比べて高いことから、凍土の融解を抑制し難くなる。
以上のことから、凍土の内部もしくは側方に掘削孔を施工して地下構造物である躯体を施工するに当たり、支持構造からの伝熱に起因する凍土の融解の抑制もしくは抑止と、支持構造による凍土を支持する支持力の確保の双方を実現する、凍土支持構造とその形成方法が望まれる。
【0004】
ここで、特許文献1には、凍結予定領域と既存構造物との間の地盤内に構築される、凍結膨張圧低減構造体が提案されている。この凍結膨張圧低減構造体は、凍結予定領域が凍結膨張した際に、その一部が塑性変形して膨張圧を吸収し、既存構造物の付加応力の増加を阻止するようにした変形吸収壁により形成され、変形吸収壁は、ビーズ混合処理土を地盤内に充填して造成した壁体構造を有している。
【0005】
一方、特許文献2には、セグメントを推進管が貫通する推進管の発進・到達部の凍結工法が提案されている。この凍結工法は、推進管の発進部または到達部の地山に、推進管が貫通可能なコイル状に形成された冷却管を袋に入れて内蔵したセグメントを設置し、次に、袋に固化材を充填することにより袋を膨張させて、冷却管とともに地山に形成した中空部に突出させた後、冷却管にブラインを循環させる方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9-279985号公報
【特許文献2】特開2004-332295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の凍結膨張圧低減構造体によれば、凍土施工時の凍結膨張圧を低減することができ、特許文献2に記載の凍結工法によれば、固化材を充填することにより膨張した袋によって凍土を支持することができるが、いずれの技術によっても、凍土を支持する支持構造からの伝熱に起因する凍土の融解と、支持構造による凍土を支持する支持力の確保の双方を実現することは難しい。
【0008】
本発明は、凍土の内部もしくは側方に掘削孔を施工して地下構造物である躯体を施工するに当たり、支持構造からの伝熱に起因する凍土の融解の抑制もしくは抑止と、支持構造による凍土を支持する支持力の確保の双方を実現できる、凍土支持構造とその形成方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による凍土支持構造の一態様は、
地盤の内部に凍土が施工され、該凍土の内部もしくは側方に反力体があり、該凍土の一部を該反力体の一部が支持している、凍土支持構造であって、
前記反力体と前記凍土の間には、前記凍土から作用する軸力に対抗する第一断熱材と、硬化した充填材を内包する袋体との積層体が介在していることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、凍土の内部もしくは側方にある反力体の一部が凍土の一部を支持している支持構造において、躯体と凍土の間に、凍土から作用する軸力(土水圧)に対抗する第一断熱材が介在していることにより、支持構造からの伝熱に起因する凍土の融解を抑制もしくは抑止でき、凍土を支持する支持力を確保することができる。また、硬化した充填材を内包する袋体により、充填材が硬化して袋体が膨張する際に積層体が凍土の表面の凹凸を吸収しながら密着して、凍土から作用する軸力を躯体に伝達可能な支持構造を形成することができる。ここで、「反力体」には、鉄筋コンクリート造(RC(Reinforced Concrete)造)や鉄骨コンクリート造(SC(Steel Concrete)造)の地下構造物の他、シールド掘進機や推進工法における掘進機等の地下構造物構築用の掘進移動体など、様々な形態が含まれる。
【0011】
また、本発明による凍土支持構造の他の態様は、
地盤の内部に凍土が施工され、該凍土の内部もしくは側方に掘削孔が施工され、該掘削孔の内部に前記反力体である躯体が施工されており、該凍土の一部を該躯体の一部が支持していることを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、凍土の内部もしくは側方にある掘削孔の内部に施工されている躯体が反力体であり、躯体と凍土の間に第一断熱材が介在していることにより、凍土から作用する軸力を躯体に伝達可能な支持構造を形成することができる。
ここで、凍土の一部を支持する「躯体」は、上記するように、RC造やSC造の地下構造物の構成要素(側壁等)であり、SC造の形態としては、例えば鋼製セグメント等の鋼殻の内部にコンクリートが充填されている形態等を挙げることができる。
【0013】
また、「凍土の内部もしくは側方に掘削孔が施工され」とは、凍土の内部に掘削孔が施工される形態と、凍土の側方の地盤内に掘削孔が施工される形態の双方を含んでいる。前者の形態は、凍土の内部を掘削しながら掘削孔を施工し、掘削孔の施工過程で所定深度ごとに腹起しや切梁等の支保部材を設置し、支保部材が支持していた軸力を積層体を介して掘削孔内に施工された躯体に支持させる例を挙げることができる。
一方、後者の形態は、例えば、地中に施工されている本線トンネルとランプトンネルを接続して拡幅するに当たり、一方のトンネルを利用してその下方に鉛直に延設する立坑を施工し、この立坑の下方を推進函体の発進及び到達基地として鉛直面内に大断面の円形状の推進函体群を施工し、この推進函体群の内部を上方から掘削しながら推進函体群の内部に大断面の拡幅部を施工する施工例が挙げられる。推進函体群の内部を上方から掘削するに当たり、凍土を施工し、凍土の側方に大断面の拡幅部の妻躯体を施工する場合に、凍土の側方に躯体が施工されることになる。
【0014】
また、本発明による凍土支持構造の他の態様は、
前記第一断熱材が、複数の六角中空体を備えたハニカムボードであり、該六角中空体の軸方向が前記凍土を支持する方向であることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、第一断熱材がハニカムボードであり、ハニカムボードを形成する六角中空体の軸方向が凍土を支持する方向に延びていることにより、高い支持性能を備えた第一断熱材を介して凍土から作用する軸力を躯体に伝達することができる。ここで、ハニカムボードの具体的な形態としては、複数の六角中空体のみを備えている形態や、複数の六角中空体の両端を例えば二枚の平板が挟んでいる形態などが挙げられる。
【0016】
また、本発明による凍土支持構造の他の態様は、
前記第一断熱材が複数の分割断熱材により形成され、前記反力体と前記凍土を結ぶ方向に各分割断熱材が積層されていることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、第一断熱材が複数の分割断熱材により形成され、躯体等の反力体と凍土を結ぶ方向に各分割断熱材が積層されていることにより、反力体と凍土の間の隙間に応じて第一断熱材の厚みを変化させることができ、かつ第一断熱材を反力体と凍土の間の隙間に対して密実に設置することができる。ここで、各分割断熱材がテーパー面を備えた側面形状が台形である場合は、各分割断熱材を楔状に積層させることができ、各分割断熱材が相互に押圧された積層構造を形成できる。
【0018】
また、本発明による凍土支持構造の他の態様は、
前記凍土の壁面に第二断熱材が配設されており、該第二断熱材が前記積層体により押し潰されることで前記袋体が該凍土に当接していることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、凍土の壁面に第二断熱材が配設されていることにより、掘削孔を施工する際に凍土の掘削孔側の領域が昇温されて凍土の一部が融解することを抑制できる。さらに、第二断熱材が積層体により押し潰されることで袋体が凍土に当接していることにより、積層体が形成された際に、凍土の凹凸状の側面に袋体が入り込みながら、凍土の側面を積層体により効果的に支持することができる。
【0020】
また、本発明による凍土支持構造の他の態様において、
前記反力体が、少なくとも場所打ちコンクリートを含んでいることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、躯体等の反力体が少なくとも場所打ちコンクリートを含んでいる場合でも、積層体を形成する第一断熱材により、場所打ちコンクリートから凍土への伝熱を抑制して凍土の融解を防止でき、凍土から場所打ちコンクリートへの冷熱の伝熱を抑制して、打設された場所打ちコンクリートの硬化の過程で水分が冷熱により凍結することで硬化不良となる、凍害を防止できる。
【0022】
また、本発明による凍土支持構造の形成方法の一態様は、
地盤の内部に凍土を施工する、A工程と、
前記凍土の内部もしくは側方に反力体を配設し、該反力体の配設に際して、該反力体と該凍土の間に、第一断熱材と萎んだ状態の袋体を介在させる、B工程と、
前記袋体の内部に充填材を供給して硬化させ、該袋体を膨らませて前記凍土に当接させ、前記第一断熱材と、硬化した充填材を内包する前記袋体との積層体を形成して凍土を支持する、C工程とを有することを特徴とする。
【0023】
本態様によれば、B工程において、反力体と凍土の間に、第一断熱材と膨らんでいない状態の袋体との積層体を介在させ、C工程において、袋体の内部に充填材を供給して硬化させることで袋体を膨らませて積層体を形成し、凍土を支持することにより、反力体と凍土の間に、凍土から作用する軸力(凍土圧)に対抗する第一断熱材が介在していることにより、支持構造からの伝熱に起因する凍土の融解を抑制でき、凍土を支持する支持力を確保することができる。さらに、硬化した充填材を内包する袋体により、充填材が硬化して袋体が膨張する際に積層体が凍土に密着して、凍土から作用する軸力を躯体に伝達可能な支持構造を形成することができる。
【0024】
また、本発明による凍土支持構造の形成方法の他の態様において、
前記B工程では、前記凍土の内部もしくは側方に掘削孔を施工し、該掘削孔の内部に前記反力体である躯体を施工することを特徴とする。
【0025】
本態様によれば、凍土の内部もしくは側方にある掘削孔の内部に反力体である躯体を施工し、躯体と凍土の間に第一断熱材を介在させることにより、凍土から作用する軸力を躯体に伝達可能な支持構造を形成することができる。
【0026】
また、本発明による凍土支持構造の形成方法の他の態様において、
前記B工程では、前記掘削孔を施工した後に前記凍土の壁面に第二断熱材を配設し、該第二断熱材の側方に前記躯体を施工することを特徴とする。
【0027】
本態様によれば、凍土の壁面に第二断熱材が配設されていることにより、掘削孔を施工する際に凍土の掘削孔側の領域が昇温されて凍土の一部が融解することを抑制できる。
【0028】
また、本発明による凍土支持構造の形成方法の他の態様は、
前記B工程と前記C工程を一セットとして、これを地盤の深度方向に繰り返し行う逆巻き工法を行うことを特徴とする。
【0029】
本態様によれば、B工程とC工程を一セットとしてこれを地盤の深度方向に複数セット繰り返す逆巻き工法を実施することにより、深度方向への掘削孔の施工と地下構造物の施工が効率的となり、深度が深くなるに従いこの効果が顕著になるとともに、躯体の一部による凍土の安定的な支持により施工安全性を保証することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の凍土支持構造とその形成方法によれば、凍土の内部もしくは側方に掘削孔を施工して地下構造物である躯体を施工するに当たり、支持構造からの伝熱に起因する凍土の融解を抑制もしくは抑止でき、支持構造による凍土を支持する支持力を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】実施形態に係る凍土支持構造の一例を示す縦断面図であって、凍土とその側方の掘削孔に施工された躯体の一部が凍土の一部を支持している状態を示す図である。
図2】実施形態に係る凍土支持構造を構成する積層体の一例を示す図であって、袋体が膨らんでいない状態を示す図である。
図3】第一断熱材を構成する分割断熱材の一例の構造を示す斜視図である。
図4】実施形態に係る凍土支持構造を構成する積層体の一例を示す図であって、袋体が膨らんでいる状態を示す図である。
図5】実施形態に係る凍土支持構造の形成方法の一例の工程図である。
図6図5に続いて、実施形態に係る凍土支持構造の形成方法の一例の工程図である。
図7図6に続いて、実施形態に係る凍土支持構造の形成方法の一例の工程図である。
図8図7に続いて、実施形態に係る凍土支持構造の形成方法の一例の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、実施形態に係る凍土支持構造とその形成方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0033】
[実施形態に係る凍土支持構造]
はじめに、図1乃至図4を参照して、実施形態に係る凍土支持構造の一例について説明する。ここで、図1は、実施形態に係る凍土支持構造の一例を示す縦断面図であって、凍土とその側方の掘削孔に施工された躯体の一部が凍土の一部を支持している状態を示す図である。また、図2図4はそれぞれ、実施形態に係る凍土支持構造を構成する積層体の一例を示す図であって、袋体が膨らんでいない状態と袋体が膨らんでいる状態を示す図である。さらに、図3は、第一断熱材を構成する分割断熱材の一例の構造を示す斜視図である。
【0034】
図1には、地盤Gに施工されている凍土20の右側側方に掘削孔10が施工され、掘削孔10の内部に躯体40(反力体の一例)が施工され、凍土20と躯体40の間の隙間Sに凍土支持構造100が形成されている状態を示している。
【0035】
ここで、図1や以下で参照する図5乃至図8はいずれも、地盤Gに施工されている凍土20の途中深度における一定の高さ範囲を抽出して図示しており、従って、図1等においては、図示する凍土20の上方と下方と左側に不図示の凍土がさらに延びており、図示する躯体40の上方には不図示の躯体がさらに延びている。
【0036】
図示例は、地盤Gに施工されている凍土20の側方に掘削孔10が施工されている形態であるが、凍土20の内部に掘削孔が施工される形態であってもよい。
【0037】
図示例における地下構造物の施工概要は以下の通りである。まず、地中に施工されている不図示の本線トンネルとランプトンネルを接続して拡幅することにより、地下構造物である拡幅部を施工するに当たり、拡幅部の端部にある妻躯体の側方に凍土が施工されている施工例である。この施工では、例えばランプトンネルの下方に鉛直に延設する立坑を施工し、この立坑の下方を不図示の推進函体の発進及び到達基地として、鉛直面内に、本線トンネルやランプトンネルを内部に収容する大断面の円形状の推進函体群を施工する。
【0038】
複数の大断面の推進函体群を、本線トンネルとランプトンネルの延伸方向に沿って相互に隣接させながら施工することにより、拡幅部の鋼殻を形成し、逆巻工法を適用して、鋼殻の内部を上方から下方へ向かって順次掘削しながら(掘削孔を下方へ延ばしながら)拡幅部である地下構造物を施工していく。この掘削孔の施工に当たり、拡幅部の端部にある妻躯体の側方に凍土を補助工法として施工し、掘削孔の下方への延伸に応じて、所定の深度ごとに、側方にある凍土を支持しながら施工を進める際に凍土支持構造100が適用されるものである。尚、図示例は逆巻工法を例示したものであるが、他の施工方法として、順巻き工法が適用されてもよいことは勿論のことである。
【0039】
図1に示すように、凍土20の側方には、逆巻工法により下方へ掘削孔10が一定深度ごとに施工され、一定深度までの掘削終了後に、一定深度近傍までの躯体40(例えば、上記する拡幅部の妻躯体)が施工される。
【0040】
躯体40は、一定高さで中空を備えた複数の鋼殻41が深度方向に積層され、鋼殻41の内部には、深度方向に間隔を置いてせん断補強筋42が配筋され、鋼殻41の内部に現場打設される場所打ちコンクリート体44が配設されている、鉄骨コンクリート造(SC:Steel Concrete)造の躯体である。鋼殻41の内部には、凍土20と躯体40の間の隙間Sに裏込めグラウト35を充填するためのグラウト注入管43も配設されている。すなわち、鋼殻41は、場所打ちコンクリート体44を施工する際の型枠を兼用する。ここで、躯体は、図示例のSC造の他にも、RC造の躯体であってもよい。
【0041】
掘削孔10の施工ステップに応じて施工される躯体40の鋼殻41と、その下方に施工される躯体40の鋼殻41は、溶接部45を介して相互に接続される。
【0042】
凍土20の側方に所定深度まで掘削孔10を施工した後、躯体40の施工の前に、凍土20における躯体側の側面21を第二断熱材30により被覆する。ここで、第二断熱材30としては、グラスウール等が適用できる。
【0043】
掘削孔10の施工により、凍土20の側面21は掘削孔10側から温められ、凍土20の側面21側の領域が融解する恐れがあるが、側面21が第二断熱材30により被覆されることで凍土20の融解を抑制できる。
【0044】
躯体40は、凍土20との間に隙間Sを置いて施工される。この隙間Sには、第一断熱材50と、硬化した充填材70を内包する袋体60との積層体80が配設される。ここで、充填材70には、モルタル等のグラウトが適用される。図示例では、相互に接続される一定高さの各躯体40の下方位置に積層体80が設置される。
【0045】
躯体40が施工され、例えば数日経過した後に、前の掘削ステップの際に施工済みの上方にある積層体80と、今回の掘削ステップにて施工された積層体80の間の隙間Sには、裏込めグラウト35が充填される。
【0046】
充填材70を内包する袋体60は、以下で説明するように、袋体60に充填材70が充填されて袋体60が膨らむ過程で、対向する位置にある第二断熱材30を押し潰し、凍土20の側面21に当接する。凍土20の側面21はその表面が凹凸状であるが、変形性のある袋体60は、膨らみながら側面21の凹凸状に密着することができる。
【0047】
袋体60に充填された充填材70が硬化することにより、積層体80はその背面が躯体40に支持されながら、凍土20を支持する凍土支持構造100が形成される。
【0048】
ここで、躯体40は、図1の紙面奥行き方向に帯状に延びており、袋体60も躯体40と同程度の長さを有した帯状を呈しており、袋体60の長手方向に連続的に複数の第一断熱材50が配設されている。
【0049】
深度方向に所定の間隔で配設されている各凍土支持構造100には、凍土20の背面地盤から作用する土水圧を受ける壁体としての凍土20の支点反力Pを凍土20に付与して凍土20を支持する。
【0050】
ここで、躯体40における凍土20と反対側の側面のうち、積層体80と同程度の深度位置には、不図示の切梁支保工が設置され、躯体40に対して切梁支保工からの支持力P'が付与される。
【0051】
次に、積層体80を構成する各構成部材について説明する。図2に示すように、躯体40の鋼殻41における隙間Sに対向する面には、係合ピン48が設けられている。係合ピン48の下方位置には、鋼殻41に当接するようにして第一断熱材50が配設される。一方、係合ピン48には、膨らむ前の萎んだ状態の袋体60のハトメ孔61が係合している。袋体60の端部には、鋼殻41内部から充填材を充填するための充填口部材62が設けられている。充填口部材62の先端は鋼殻41を貫通して内部に突設しており、充填口部材62の先端のネジ溝に不図示の注入管が取り付けられてグラウトが注入されるようになっている。袋体60としては、例えばグラウトバッグ等が適用される。
【0052】
第一断熱材50は、複数(図示例は三つ)の分割断熱材51により形成されており、各分割断熱材51は、凍土20から作用する軸力に対抗する剛性を有し、かつ断熱性能を有している。
【0053】
分割断熱材51は、図3に示すように、併設されている複数の六角中空体52の両端を二枚の平板53が挟持している、ハニカムボードにより形成されている。
【0054】
六角中空体52の軸方向であるX方向は、図2及び図3において凍土20を支持する左右方向(躯体40と凍土20を結ぶ方向)である。
【0055】
分割断熱材51が、凍土20を支持する方向を軸方向とする、複数の六角中空体52を備えていることにより、凍土20から作用する軸力に対抗し、かつ、袋体60に充填材70を充填する際の膨張圧に対抗する剛性を有することができる。例えば、ハニカムボードの平面圧縮強度は1.6N/mm程度となり、従来一般の断熱材である、スタイロフォーム(ポリスチレンフォーム)やエアロフレックス(登録商標、特殊エラストマー)の平面圧縮強度:0.2N/mm程度に比べて格段に圧縮強度の高い部材となる。
【0056】
ここで、分割断熱材51(を構成する六角中空体52と平板53)は、例えばポリプロピレン樹脂を素材としており、熱伝導率は0.065W/mK程度と、一般に断熱材として認められる熱伝導率は0.1W/mK程度を大きく下回る熱伝導率を有する。従って、分割断熱材51は、圧縮強度の高い断熱材となる。
【0057】
尚、分割断熱材は図示例の他にも、側面視台形状の形態を適用してもよく、この形態を適用する場合は、各分割断熱材を楔状に差し込んで設置することにより、分割断熱材相互のずれを抑制することができる。
【0058】
凍土20から作用する軸力に対抗する剛性を有し、かつ断熱性能を有している複数の分割断熱材51を、凍土20を支持する方向に積層して第一断熱材50を形成し、萎んだ状態の袋体60を設置した後、図4に示すように、袋体60の内部に充填材70を充填して袋体60を膨らませることにより、袋体60が第二断熱材30の一部を押し潰しながら凍土20の側面21に当接する。ここで、充填材70には、凍土20の冷熱により硬化する素材が適用されてもよい。
【0059】
施工方法としては、図2に示すように袋体60までの設置が完了した後、鋼殻41の内部に現場打設にて場所打ちコンクリート体44を施工して躯体40を施工する。次いで、躯体40の内部から袋体60に充填材70を充填し、充填材70が硬化することにより、図4に示すように、背面が躯体40に支持され、前面の袋体60が凍土20に当接して支持力Pを付与する積層体80を有する、凍土支持構造100が形成される。
【0060】
工期を可及的に短縮するべく、場所打ちコンクリート体44を形成するコンクリートが未だ硬化の過程で例えば60℃程度の高温の状態下において、凍土支持構造100を形成し、次の掘削孔施工ステップに移行しようとする場合でも、凍土20と躯体40の間に第一断熱材50が介在することにより、場所打ちコンクリート44の熱が積層体80を介して凍土20に伝熱され、凍土20の一部が融解することが抑制もしくは抑止される。
【0061】
さらに、第一断熱材50により、凍土20から場所打ちコンクリート体44への冷熱の伝熱が抑制され、場所打ちコンクリート体44の硬化不良である、凍害が抑制もしくは抑止される。
【0062】
[実施形態に係る凍土支持構造の形成方法]
次に、図5乃至図8図1を参照して、実施形態に係る凍土支持構造の形成方法の一例について説明する。ここで、図5乃至図8図1は順に、実施形態に係る凍土支持構造の形成方法の一例の工程図である。
【0063】
図示例の凍土支持構造の形成方法は、凍土20の側方の地盤Gを、逆巻工法にて上方から順次掘削して掘削孔10を施工し、掘削孔10に躯体40を施工し、凍土支持構造100を形成して凍土20を支持し、これら掘削孔10及び躯体40の施工と凍土支持構造100の形成を一セットとして、地盤Gの深度方向に複数セット繰り返し実施することにより、所定深度まで延びる地下構造物である躯体40を施工する過程における、凍土支持構造の形成方法である。
【0064】
掘削孔10の施工に際し、その施工領域の側方(図示例は左側)の地盤に対して凍土20を施工する。ここで、凍土20の施工は、例えば、上記する不図示のランプトンネル等から複数の凍結管を鉛直斜め下方や鉛直斜め上方へ張り出し、凍結管にブライン(不凍液)を循環させる方法等により行う。
【0065】
地盤Gに施工される凍土20は、例えば施工される躯体40よりも上下に長い長さを有し、かつ、背面からの土水圧に抗し得るのに十分な幅を有していて、掘削孔10の施工の際に、施工エリアへの地下水の浸入を抑止できる範囲に施工される(以上、A工程)。
【0066】
図5においては、ある深度までの掘削孔10の施工が完了し、躯体40の施工が完了し、凍土支持構造100が形成されて凍土20に支持力Pを付与しながら凍土20を支保し、躯体40の凍土と反対側の側面に対して不図示の切梁支保工からの支持力P'が付与されている状態を示している。この状態(一点鎖線で示す床付け状態)から、以深の躯体40を施工するべく、地盤Gを掘削して実線で示す床付け面まで延びる掘削孔10をY方向に施工する。
【0067】
図5に示すように、凍土20の側方に掘削孔10を施工することにより、凍土20の側面21が掘削孔10に露出する。この露出した側面21が掘削孔10側から温められ、凍土20の側面21側の領域が融解することを防止するべく、図6に示すように、露出した側面21を第二断熱材30により被覆する。
【0068】
次に、同図6に示すように、既に施工済みの上方の躯体40を構成する鋼殻41の下端と、下方に施工される躯体40を構成する鋼殻41の上端を溶接部45を介して接続し、鋼殻41を下方へ順次積み重ねていく。この鋼殻41の施工の際には、鋼殻41と凍土20の間に積層体80を設置するための隙間Sを設ける。
【0069】
次に、図7に示すように、掘削孔10の床付け面近傍まで鋼殻41を積み重ね、鋼殻41の内部に深度方向に間隔を置いて複数のせん断補強筋42を配筋し、さらに、鋼殻41の下方における隙間Sに対向する側面に、第一断熱材50と萎んだ状態の袋体60を設置する(以上、B工程)。
【0070】
次に、図8に示すように、鋼殻41の内部に場所打ちコンクリート体44を施工して躯体40を施工し、袋体60の内部に充填材70を充填して袋体60を膨らませ、充填材70が硬化することにより積層体80を形成する(以上、C工程)。
【0071】
図1に示すように、背面が躯体40にて支持された積層体80により凍土20に支持力Pを付与させ、躯体40の凍土20と反対側の側面に対して、不図示の切梁支保工からの支持力P'を付与させる。
【0072】
その後、グラウト注入管43を介して隙間Sに裏込めグラウト35を充填することにより、凍土支持構造100にて凍土20を支持しながら、所定高さの躯体40が施工される。
【0073】
B工程とC工程を一セットとして、これを設計深度まで繰り返し行う逆巻き工法により、凍土支持構造100にて凍土20を支持する躯体40が施工される。
【0074】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【0075】
例えば、図示例は凍土の側方に反力体の一例である躯体を構築する例を示して説明しているが、反力体がシールド掘進機等の移動体であってもよい。例えば、凍土の造成エリアへシールド掘進機を掘進させ、作業員がシールド掘進機のカッタヘッドの前方の凍土の一部を掘削して作業空間を形成し、作業空間に作業員が入り、カッタヘッドに装着されているカッタビットを地中にて交換する等の作業を例示できる。この場合、カッタヘッドと前方の凍土の間にH形鋼等の支保工を設置し、支保工の先端と凍土の間に積層体80を介在させることができる。カッタビット等の地中交換終了後は、シールド掘進機の内部から作業空間に対して流動化処理土等を充填し、シールド掘進機による掘進が再開される。
【符号の説明】
【0076】
10:掘削孔
20:凍土
21:側面
30:第二断熱材
35:裏込めグラウト
40:躯体(地下構造物、反力体)
41:鋼殻
42:せん断補強筋
43:グラウト注入管
44:場所打ちコンクリート体
45:溶接部
48:係合ピン
50:第一断熱材
51:分割断熱材(ハニカムボード)
52:六角中空体
53:平板
60:袋体(グラウトバッグ)
61:ハトメ孔
62:充填口部材
70:充填材(グラウト)
80:積層体
100:凍土支持構造
G:地盤
S:隙間
P:支持力
P':切梁支保工からの支持力
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8