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特開2023-93051イカ様食品およびイカ様食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093051
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】イカ様食品およびイカ様食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23J 3/26 20060101AFI20230627BHJP
   A23L 17/50 20160101ALI20230627BHJP
   A23J 3/16 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
A23J3/26 501
A23L17/50 Z
A23J3/16 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208450
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】中村 真也
(72)【発明者】
【氏名】白木 孝憲
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC05
4B042AC10
4B042AD36
4B042AK06
4B042AK13
4B042AP02
4B042AP06
4B042AP30
(57)【要約】
【課題】天然のイカが持つ食感を再現したイカ様食品を提供する。
【解決手段】全重量に対して40重量%以上の水を含み、かつ組織状大豆蛋白素材からなる蛋白シートの両端部が接着されて筒状体となっており、上記組織状大豆蛋白素材は蛋白繊維から構成されるとともに、該蛋白繊維は、一定方向に配向してなり、かつ、上記蛋白繊維の配向方向は、上記筒状体の周方向と概ね一致するイカ様食品。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全重量に対して40重量%以上の水を含み、かつ組織状大豆蛋白素材からなる蛋白シートの両端部が接着されて筒状体となっており、
前記組織状大豆蛋白素材は蛋白繊維から構成されるとともに、該蛋白繊維は、一定方向に配向してなり、かつ、
前記蛋白繊維の配向方向は、前記筒状体の周方向と概ね一致するイカ様食品。
【請求項2】
前記蛋白シートが、全重量に対して40重量%以上の水と全重量に対して固形分換算で10重量%未満の油分とを含む第1の組織状大豆蛋白素材からなる低脂質性蛋白シート、および/または、全重量に対して40重量%以上の水と全重量に対して固形分換算で10重量%以上の油分とを含む第2の組織状大豆蛋白素材からなる高脂質性蛋白シートである請求項1に記載のイカ様食品。
【請求項3】
大豆蛋白原料と水とを混合して、エクストルーダー成形機からシート状に押出成形することで、全重量に対して40重量%以上の水を含み、組織状大豆蛋白素材を構成する蛋白繊維が押出方向に配向した蛋白シートを製造する工程と、
前記蛋白シートの両端部のうち少なくとも一方の端部に接着剤を付与する工程と、
前記蛋白シートを、前記蛋白繊維の配向方向が周方向と概ね一致するように棒状の支持体に巻きつけて筒状体とする工程と、
前記蛋白シートの両端部を接触させて接着する工程とを含むイカ様食品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イカ様食品およびイカ様食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、畜肉原料を取り巻く社会情勢は厳しくなる現状があり、畜肉や魚介類の代替原料あるいは、増量剤として大豆蛋白質等の植物性蛋白が使用される傾向が強まっている。
【0003】
植物性蛋白の中でも、脱脂大豆や粉末状大豆蛋白素材を原料として組織化した組織状大豆蛋白は多様な用途に用いられており、ハンバーグやミートボール等の畜肉加工食品や魚介類のコピー食品に組織状大豆蛋白が用いられている。
組織状大豆蛋白を用いた魚介類のコピー食品では、いかやスルメのような魚介類を構成する繊維に起因する食感を充分に再現できないという問題があり、このような組織状大豆蛋白の食感改良について様々な研究がなされてきた。
【0004】
例えば、特許文献1には、小麦グルテン30重量%以上を含む原料と、原料100重量部に対して70~240重量部の水とを、二軸型完全噛合同方向回転エクストルーダーに投入し、スクリュー先端部の圧力が30kg/cm~60kg/cmとなるようオリフィス開口率調整可能なロング冷却ダイによってオリフィス開口率を調整して原料と水との混合物を加熱・加圧・剪断し、該ロング冷却ダイを通して冷却し押出すことを特徴とするイカ肉様食品の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63-59853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、特許文献1に開示されるような組織状植物蛋白質を用いたイカ様食品について、その食感が、なお天然のイカが持つ食感を十分に再現できていないことを知見した。
本発明の目的は、天然のイカが持つ食感を再現したイカ様食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究した結果、特許文献1に開示されている円筒状に押出し成型されたイカ様食品を輪切りにしたものを咀嚼すると、歯切れが良すぎるため、天然のイカ肉とは異なる食感になってしまうことを知見した。さらに、その歯切れが良すぎる理由が、特許文献1にかかる組織状大豆蛋白素材を構成する蛋白繊維の配向方向(後述の図4参照)が、天然のイカ肉の筋原線維の方向と異なるためであることを突き止めた。
本発明は、天然のイカが持つ外観と筋原線維に起因する食感を忠実に再現できるイカ様食品である。上記目的を達成するための本発明は、以下の通りである。
【0008】
すなわち、本発明のイカ様食品は、全重量に対して40重量%以上の水を含み、かつ組織状大豆蛋白素材からなる蛋白シートの両端部が接着されて筒状体となっており、上記組織状大豆蛋白素材は蛋白繊維から構成されるとともに、該蛋白繊維は一定方向に配向してなり、かつ、上記蛋白繊維の配向方向は、上記筒状体を構成する蛋白シートの周方向と概ね一致する。
本発明のイカ様食品は、全重量に対して40重量%以上の水を含み、かつ組織状大豆蛋白素材からなる蛋白シートで構成されるため、天然のイカ肉のような弾力を再現できる。
本発明では、組織状大豆蛋白素材からなる蛋白シートの両端部が接着されて筒状体となっていることが必要である。イカの外套膜が持つ外観を再現するためである。
本発明では、上記組織状大豆蛋白素材が蛋白繊維から構成されるとともに、該蛋白繊維が、一定方向に配向してなり、かつ上記蛋白繊維の配向方向が、上記筒状体の周方向と概ね一致することが必要である。これは、天然のイカの外套膜を構成する筋肉の線維の方向が、外套膜の周方向と概ね一致しており、組織状大豆蛋白素材の蛋白繊維の配向方向を蛋白シートの筒状体の周方向と概ね一致させることで、イカの筋原線維が醸し出す咀嚼時の歯ごたえを再現でき、天然イカの持つ食感を実現するものと推定されるからである。
【0009】
本明細書において、「上記蛋白繊維の配向方向が、上記筒状体を構成する蛋白シートの周方向と概ね一致する」とは、蛋白繊維の配向する方向が、上記筒状体を構成する蛋白シートの周方向と完全に一致する形態だけでなく、一部の蛋白繊維の配向する方向が、上記周方向と完全に一致しない場合も含むことを意図する。また、上記蛋白繊維の配向方向は、上記筒状体を構成する蛋白シートの周方向と完全に一致していなくてもよく、周方向に対して30度以内の角度で傾いていてもよい。
【0010】
本発明のイカ様食品は、上記蛋白シートとして、全重量に対して40重量%以上の水と全重量に対して固形分換算で10重量%未満の油分とを含む第1の組織状大豆蛋白素材からなる低脂質性蛋白シートや、全重量に対して40重量%以上の水と全重量に対して固形分換算で10重量%以上の油分とを含む第2の組織状大豆蛋白素材からなる高脂質性蛋白シートを採用することができる。本発明のイカ様食品は、低脂質性蛋白シートと高脂質性蛋白シートとを、重ねたり組み合わせることによって、同時に用いることもできる。
【0011】
低脂質性蛋白シートを構成する第1の組織状大豆蛋白素材および高脂質性蛋白シートを構成する第2の組織状大豆蛋白素材は、それぞれ第1の組織状大豆蛋白素材または第2の組織状大豆蛋白素材の全重量に対して40重量%以上の水を含み、天然のイカ肉のような弾力を再現できる。また、高脂質性蛋白シートで使用される第2の組織状大豆蛋白素材は、全重量に対して固形分換算で10重量%以上の油分を含むため、ぱさつきが少ない食感を実現できる。さらに、低脂質性蛋白シートで使用される第1の組織状大豆蛋白素材は、全重量に対して固形分換算で10重量%未満の油分を含むため、イカ肉のさっぱりとした味覚を実現できる。
【0012】
本発明においては、上記蛋白シートの両端部が接着剤を介して接着されている。接着剤としては、蛋白質同士を結合させる酵素、例えばトランスグルタミナーゼやカゼインナトリウム等を使用することが望ましい。
本明細書において、蛋白シートの「端部」とは、蛋白シートの端部側面(端面ともいう)のみでなく、主面(表面および裏面)の一部も含む。後述のように、蛋白シートがエクストルーダーにより押出成形される場合、蛋白シートの「両端部」とは、押出される方向を示す方向ベクトルの始点および終点を含む両辺(両側面)近傍をいう。
【0013】
本発明のイカ様食品の製造方法は、大豆蛋白原料と水とを混合して、エクストルーダー成形機からシート状に押出成形することで、全重量に対して40重量%以上の水を含み、組織状大豆蛋白素材を構成する蛋白繊維が押出方向に配向した蛋白シートを製造する工程と、上記蛋白シートの両端部のうち、少なくとも一方の端部に接着剤を付与する工程と、上記蛋白シートを、上記蛋白繊維の配向方向が周方向と概ね一致するように棒状の支持体に巻きつけて筒状体とする工程と、上記蛋白シートの両端部を接触させて接着する工程とを含む。
【0014】
本発明では、大豆蛋白原料と水とを混合して、エクストルーダー成形機からシート状に押出成形する。押出成形することで、組織状大豆蛋白素材を構成する蛋白繊維が押出方向に配向した蛋白シートを製造することができる。また、大豆蛋白原料の水分量を調整することで、全重量に対して40重量%以上の水を含む弾力性のある蛋白シートを製造することができる。さらに、上記蛋白シートの両端部のうち少なくとも一方の端部に接着剤を付与し、上記蛋白シートを、上記蛋白繊維の配向方向が周方向と概ね一致するように棒状の支持体に巻きつけて筒状体とし、上記蛋白シートの両端部を接触させて固定し、養生することで接着し、イカの外套膜(胴部)のような筒状体の外観を簡単かつ再現性よく形成することできる。
また、イカの筋原線維が醸し出す咀嚼時の歯ごたえを再現でき、天然イカの持つ食感を実現することも可能となる。
【0015】
本発明のイカ様食品は、調味材が付与されたり、調理されたりして提供されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明にかかるイカ様食品の実施形態を説明するための模式図である。
図2図2は、本発明にかかるイカ様食品の別の実施形態を説明するための模式図である。
図3図3は、本発明にかかるイカ様食品の一製造工程の模式図である。
図4図4は、比較例1にかかるイカ様食品の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、イカ様食品として、主に全重量に対して40重量%以上の水と全重量に対して固形分換算で10重量%未満の油分とを含む第1の組織状大豆蛋白素材からなる低脂質性蛋白シートを用いた形態に即して説明するが、低脂質性蛋白シートの代わりに、全重量に対して40重量%以上の水と全重量に対して固形分換算で10重量%以上の油分とを含む第2の組織状大豆蛋白素材からなる高脂質性蛋白シートを使用することもでき、低脂質性蛋白シートと高脂質性蛋白シートとを同時に用いてもよく、発明思想として逸脱しない限り、これらの実施形態に限定されない。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態にかかるイカ様食品を説明するための模式図である。
本発明の一実施形態であるイカ様食品1は、全重量に対して40重量%以上の水と全重量に対して固形分換算で10重量%未満の油分とを含む第1の組織状大豆蛋白素材からなる低脂質性蛋白シート10からなる。低脂質性蛋白シート10は、エクストルーダーにより押出成形されており、低脂質性蛋白シート10中に含まれる組織状大豆蛋白素材を構成する蛋白繊維20は、低脂質性蛋白シート10の押出方向に配向している。低脂質性蛋白シート10を押出成形する際の押出方向を示す方向ベクトルの始点と終点を含む両端部40では、一方の端部40Aの表面側と他方の端部40Bの裏面側にトランスグルタミナーゼやカゼインナトリウムのような接着剤30が付与されている。低脂質性蛋白シート10は、端部40Aの表面側と端部40Bの裏面側が接触および接着されることで筒状体(円筒体)となっている。なお、低脂質性蛋白シート10に含まれる組織状大豆蛋白素材を構成する蛋白繊維20の配向方向Dを示す方向ベクトルの始点側と終点側は、押出成形時の押出方向を示す方向ベクトルの始点側と終点側と一致する。
筒状体の断面の輪郭は、特に限定されず、例えば円形、楕円形、トラック形、三角形、四角形等のいずれでもよい。
本発明では、低脂質性蛋白シート10を筒状体とすることで、イカの外套膜のような外観を実現できる。また低脂質性蛋白シート10の一方の端部40Aの表面側と他方の端部40Bの裏面側が接触および接着されるため、接着面積が大きく、調理時に接着部分が剥がれることがない。
さらに、蛋白繊維20の配向方向が、筒状体の周方向と概ね一致するため、天然イカの筋原線維が醸し出す咀嚼時の歯ごたえを再現でき、天然イカの持つ食感を実現することができる。
【0019】
図2は、本発明の他の実施の形態にかかるイカ様食品を説明するための模式図である。
本発明の他の実施形態であるイカ様食品2は、全重量に対して40重量%以上の水と全重量に対して固形分換算で10重量%未満の油分とを含む第1の組織状大豆蛋白素材からなる低脂質性蛋白シート10からなる。低脂質性蛋白シート10は、エクストルーダーにより押出成形されており、低脂質性蛋白シート10中に含まれる組織状大豆蛋白素材を構成する蛋白繊維20は、低脂質性蛋白シート10の押出方向に配向している。低脂質性蛋白シート10を押出成形する際の押出方向を示す方向ベクトルの始点と終点を含む両端部40の端面41A、41Bに、トランスグルタミナーゼやカゼインナトリウムのような接着剤30が付与されて、一方の端部40Aの端面41Aと、他方の端部40Bの端面41Bとが接触および接着されることで筒状体(円筒体)となっている。なお、低脂質性蛋白シート10に含まれる組織状大豆蛋白素材を構成する蛋白繊維20の配向方向Dを示す方向ベクトルの始点側と終点側は、押出成形時の押出方向を示す方向ベクトルの始点側と終点側と一致する。
筒状体の断面の輪郭は、特に限定されず、例えば円形、楕円形、トラック形、三角形、四角形のいずれでもよい。
低脂質性蛋白シート10を筒状体とすることで、イカの外套膜のような外観を実現できる。また、イカ様食品2は、端面41A、41B同士が接着しているため筒状体の側面に段差が無く、より天然のイカの外套膜のような外観を実現できる。接着される両端面41A、41Bは、低脂質性蛋白シート10の主面に対して、直角よりも大きい(もしくは小さい)角度を有していることが望ましい。両端面41A、41Bが低脂質性蛋白シート10の主面に対して鈍角もしくは鋭角となるような角度を有していることで、端面41A、41Bの接着面積を大きくすることができるからである。
さらに、蛋白繊維の配向方向が、筒状体の周方向と概ね一致するため、天然イカの筋原繊維が醸し出す咀嚼時の歯ごたえを再現でき、天然イカの持つ食感を実現することができるのである。
【0020】
イカ様食品2では、低脂質性蛋白シート10の端面41A、41Bが、主面に対して鋭角または鈍角となるように角度をつけているが、端面41A、41Bに角度をつけなくてもよく、端面41A、41Bが主面に対して直角であってもよい。
【0021】
低脂質性蛋白シートと高脂質性蛋白シート等の蛋白シートを構成する組織状大豆蛋白素材は、その全重量に対して40重量%以上の水を含む。この水は組織状大豆蛋白素材の原料として配合する水、および、大豆蛋白原料、炭水化物源等の原料に含まれる水の合計重量である。水の含有量が上記範囲であると、組織状大豆蛋白素材の食感を天然のイカ肉に近づけることができる。上記組織状大豆蛋白素材に含まれる水の含有量の上限は、例えば、70重量%である。上記水の含有量は、好ましくは40~65重量%である。
【0022】
原料として配合する水は特に限定されず、純水、ミネラルウォーター、水道水、蒸留水、イオン交換水、井戸水等を用いることができる。
【0023】
低脂質性蛋白シートを構成する第1の組織状大豆蛋白素材は、全重量に対して固形分換算で10重量%未満の油分を含む。
このような第1の組織状大豆蛋白素材は、脱脂大豆や分離大豆蛋白のような油分の少ない原料を用いることで製造できる。第1の組織状大豆蛋白素材に含まれる油分の下限は、好ましくは0.5重量%以上である。第1の組織状大豆蛋白素材は、もちろん、油分を含まなくてもよい。
なお、高脂質性蛋白シートを構成する第2の組織状大豆蛋白素材は、全重量に対して固形分換算で10重量%以上の油分を含む。第2の組織状大豆蛋白素材が上記範囲で油分を含むと、天然のイカ肉のような弾力を実現でき、また、ぱさつきが少ない食感を実現できる。油分は、第2の組織状大豆蛋白素材の原料である大豆蛋白原料、炭水化物源等に含まれる油分、および、第2の組織状大豆蛋白素材の原料として任意で配合する油分の合計重量である。第2の組織状大豆蛋白素材に含まれる油分の含有量の上限は、例えば、60重量%である。
【0024】
組織状大豆蛋白素材の原料である大豆蛋白原料、炭水化物源等以外に任意で油分を添加する場合、その種類は特に限定されず、食品に一般的に使用することができる油脂等を用いることができる。
【0025】
低脂質性蛋白シートを構成する第1の組織状大豆蛋白素材と、高脂質性蛋白シートを構成する第2の組織状大豆蛋白素材はそれぞれ、その全重量に対して固形分換算で1重量%以上の炭水化物を含むことが好ましい。炭水化物の含有量が上記範囲であると、蛋白繊維同士の結着状態を制御しやすいからである。この炭水化物は、第1の組織状大豆蛋白素材および第2の組織状大豆蛋白素材の原料である大豆蛋白原料に含まれる炭水化物、並びに、上記大豆蛋白原料以外の原料に含まれる炭水化物の合計重量である。上記第1の組織状大豆蛋白素材に含まれる炭水化物の含有量の上限、および、第2の組織状大豆蛋白素材に含まれる炭水化物の含有量の上限は、それぞれ、例えば、50重量%である。
上記第1の組織状大豆蛋白素材中と、第2の組織状大豆蛋白素材中には、上記炭水化物が固形分換算でそれぞれ1~50重量%含まれていてもよい。
【0026】
組織状大豆蛋白素材は、炭水化物源としてデンプンを含むことが好ましく、上記デンプンはコーンスターチであることが好ましい。コーンスターチは、蛋白繊維の結着性に優れるからである。
【0027】
本発明における低脂質性蛋白シートを構成する第1の組織状大豆蛋白素材は、カルシウムを含んでいてもよい。第1の組織状大豆蛋白素材がカルシウムを含む場合、第1の組織状大豆蛋白素材中には、カルシウムが、固形分換算で第1の組織状大豆蛋白素材100gあたり300mg~1500mg含まれることが好ましい。第1の組織状大豆蛋白素材中のカルシウムの量が上記の範囲であると、大豆蛋白を繊維化させやすいからである。
【0028】
高脂質性蛋白シートを構成する第2の組織状大豆蛋白素材は、カルシウムを含んでいてもよい。第2の組織状大豆蛋白素材中には、カルシウムが、固形分換算で第2の組織状大豆蛋白素材100gあたり300mg~1500mg含まれることが好ましい。第2の組織状大豆蛋白素材中のカルシウムの量が上記の範囲であると、大豆蛋白を繊維化させやすいからである。なお、上記カルシウムの含有量はそれぞれ、第1の組織状大豆蛋白素材または第2の組織状大豆蛋白素材の乾燥重量(固形分換算)100gあたりに含まれる量(mg)を意味する。
【0029】
カルシウムが含まれる形態は、カルシウム塩が好ましく、わずかでも解離してカルシウムイオンとなる化合物であれば特に制限されるものではない。カルシウム塩としては、例えば、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム等を用いることができる。カルシウムを添加する方法としては、カルシウム塩を原料に添加することが好ましいが、エクストルーダーで加熱加圧しながら押出成形した炭水化物を含む大豆蛋白をこれらのカルシウム塩水溶液中に含侵させることで付与してもよい。カルシウム塩に加えて、マグネシウム塩も同様に使用可能である。
【0030】
組織状大豆蛋白素材は、蛋白繊維により構成されている。蛋白繊維は、例えば繊維径が0.01~1000μmであるものが好ましい。より好ましくは10~100μmである。
【0031】
低脂質性蛋白シートと高脂質性蛋白シートを構成する第1の組織状大豆蛋白素材および第2の組織状大豆蛋白素材は、偏平のシート状であることが好ましく、その厚さは0.5~15.0mmであることが望ましい。
【0032】
本発明のイカ様食品に使用される接着剤としては、蛋白質同士を結合させる酵素、例えばトランスグルタミナーゼやカゼインナトリウム等を使用することが望ましい。
本発明のイカ様食品に使用される接着剤の含有量は、特に限定されないが、例えばイカ様食品100重量部に対して0.01~10重量部である。
【0033】
本発明のイカ様食品の製造方法は、大豆蛋白原料と水とを混合して、エクストルーダー成形機からシート状に押出成形することで、全重量に対して40重量%以上の水を含み、組織状大豆蛋白素材を構成する蛋白繊維が押出方向に配向した蛋白シートを製造する工程と、上記蛋白シートの両端部のうち少なくとも一方の端部に接着剤を付与する工程と、上記蛋白シートを、上記蛋白繊維の配向方向が周方向と概ね一致するように棒状の支持体に巻きつけて筒状体とする工程と、上記蛋白シートの両端部を接触させて接着する工程とを含む。
本発明のイカ様食品の製造方法において、上記蛋白シートに接着剤を付与する工程と、上記蛋白シートを筒状体とする工程との順序は特に限定されず、例えば上記蛋白シートに接着剤を付与する工程を行った後、上記蛋白シートを筒状体とする工程を行ってもよいし、上記蛋白シートを筒状体とする工程の途中で上記蛋白シートに接着剤を付与する工程を行ってもよい。
【0034】
次に、本発明の実施形態にかかるイカ様食品の作製方法の一例について説明する。
本発明の実施形態におけるイカ様食品は、低脂質性蛋白シートまたは高脂質性蛋白シートを構成する組織状大豆蛋白素材それぞれに対応する大豆蛋白原料を含む原料混合物を必要に応じて準備する工程(大豆蛋白混合物準備工程)、押出成形して組織状大豆蛋白を含み、当該組織状大豆蛋白を構成する蛋白繊維が押出方向に配向した蛋白シート(低脂質性蛋白シートまたは高脂質性蛋白シート)を作製する押出工程(組織状大豆蛋白シート作製工程)、上記蛋白シートの両端部の少なくとも一方の端部に蛋白質接着用の接着剤を付与する工程(接着剤付与工程)の後、上記蛋白シートを、上記蛋白繊維の配向方向が周方向と概ね一致するように棒状の支持体に巻きつけて筒状体とする工程(筒状体作製工程)、上記蛋白シートの両端部を接触させて固定し、養生して接着する工程(筒状体接着工程)を経て製造される。
【0035】
(大豆蛋白混合物準備工程)
低脂質性蛋白シートの原料として脱脂大豆や分離大豆蛋白のような低油分の大豆蛋白原料を用意してこれに加水して準備する。高脂質性蛋白シートの原料として全脂大豆蛋白や分離大豆蛋白などの大豆蛋白原料を用意し、混練することにより組織状大豆蛋白素材の原料混合物を準備する。必要に応じてさらに炭水化物(コーンスターチ)を加えて加水し、また、カルシウム塩等を加えてもよい。
原料中の炭水化物の含有量は、固形分換算で、組織状大豆蛋白素材の全重量に対して1重量%以上であってもよく、1~50重量%であってもよい。炭水化物の含有量が上記の範囲であると、蛋白繊維の結着状態を制御しやすいからである。
全脂大豆蛋白中には、固形分換算で20~30重量%の油分を含んでおり、全脂大豆蛋白量を調整することで、油分の調整を行うことができる。一方、脱脂大豆や分離大豆蛋白中には、固形分換算で1~10重量%の油分しか含まれていない。油分は、イカ様食品の作製工程中に除去してもよい。
【0036】
(組織状大豆蛋白シート作製工程)
準備したそれぞれの組織状大豆蛋白素材の原料混合物をエクストルーダー(押出成形機)に投入し、その後、加水しながら加圧加熱処理し熱可塑性となった原料をスクリューの先端部に設けたダイ(口金)より押し出す。この際、原料組成を固形分換算で大豆蛋白30~90重量%のように調整したり、加圧加熱条件をスクリュー回転数150~550rpm、圧力0.5~5.0MPa、加熱温度25~180℃のように調整できる。
組織状大豆蛋白素材が押し出される口金のスリットの大きさとして、厚さ0.5~15.0mm、幅10mm以上とすることが好ましい。
このように低脂質性蛋白シートまたは高脂質性蛋白シートが得られる。
【0037】
(接着剤付与工程)
低脂質性蛋白シートまたは高脂質性蛋白シート(以下、「蛋白シート」)の両端部に対して、接着剤であるトランスグルタミナーゼの粉末やトランスグルタミナーゼの水溶液を接着面に付与する。接着剤は、蛋白シートの一方の端部にのみ付与してもよい。組織状大豆蛋白素材を構成する蛋白繊維は配向しており、その配向方向を示すベクトルの始点側および終点側は、蛋白シートが押し出される方向を示す方向ベクトルの始点側および終点側と一致する。
【0038】
(筒状体作製工程)
図3は、本発明にかかるイカ様食品の一製造工程の模式図である。ついで、図3に示すように、蛋白シート(低脂質性蛋白シート)10を棒状の支持体50に巻き付けて筒状体(円筒体)とする。蛋白シート(低脂質性蛋白シート)10中の蛋白繊維20の配向方向は、筒状体の周(円周)方向と概ね一致するように、巻き付けを行う。
【0039】
(筒状体接着工程)
さらに蛋白シート(低脂質性蛋白シート)10の接着剤付与面同士を接触させる。図3では、蛋白シート(低脂質性蛋白シート)の端部40Aの表側面と端部40Bの裏側面を接触させて接着している。接着の形態としては、蛋白シート(低脂質性蛋白シート)の端部側面(端面)が、蛋白シート(低脂質性蛋白シート)の主面に対して鋭角もしくは鈍角のような角度を持つように切断加工し、その加工面同士を接触させて接着してもよい。
ついで、図示しない紐などで筒状体を縛って固定し、接着剤により両端部が接着されるまで養生する。
蛋白シートの両端部が接着された後、紐をほどいて、支持体50を除去することで、筒状体のイカ様食品1が得られる。
【0040】
以上の工程を経て、本発明のイカ様食品を製造することができる。
【0041】
本発明のイカ様食品は、表面に色素が付与されていてもよい。色素が付与されることでより天然のイカに近い外観を実現できるからである。使用する色素としては、例えばクチナシ色素(クチナシ黄着色剤、クチナシ青着色剤、クチナシ赤着色剤等)、アナトー着色剤、ベニコウジ着色剤、ラック着色剤、タール着色剤が挙げられ、これらの着色剤を単独または組みわせて使用すると、イカの皮の赤紫色を表現することができるので好ましく、クチナシ黄着色剤、クチナシ青着色剤、クチナシ赤着色剤、またはそれらを組みわせた着色剤であるクチナシ色素を使用すると、さらにイカの皮の赤紫色に近い表現をすることができるのでさらに好ましい。また、これらの着色剤に、他の着色剤を併用することもできる。
【0042】
本発明のイカ様食品は、筒状体のまま使用することができるが、所定形状に切断、加工して、調味材を付与し、加熱調理して使用することができる。加熱調理は、焼成加熱、蒸し加熱、ボイル加熱、フライ加熱、電磁波加熱等を適宜組み合わせて行ってもよい。
【0043】
以上により得られたイカ様食品は、例えばレトルト食品のイカ様食品の形態として提供することができる。
【実施例0044】
(実施例1)
(1)低脂質性蛋白シートの作製
脱脂大豆(商品名:ソーヤフラワーA、日清オイリオ製)85重量部、分離大豆蛋白(商品名:SUPRO PM、Dupont製)15重量部を混合して原料混合粉とし、二軸エクストルーダーに供給して加圧加熱処理を行った。原料混合粉100重量部(表1参照)に対し、100重量部の水を供給しながら二軸エクストルーダーから冷却ダイを経由して、低脂質性蛋白シートを押し出した。なお、二軸エクストルーダーでの加圧加熱処理は、スクリュー回転数500rpm、出口側134℃、圧力3.5МPa、冷却水温度60℃、ダイスリット幅60mm×厚さ5.0mmで行った。また、表2に低脂質性蛋白シートの原料組成を示す。なお、表2において組成(重量%)が100重量%とならない場合があるが、残余は酸化カルシウム等の灰分である。
【0045】
(2)接着剤付与
トランスグルタミナーゼ製剤(味の素製アクティバTG-B)を4倍量の水に溶解させたトランスグルタミナーゼ水溶液を調製した。低脂質性蛋白シートの押出方向(蛋白繊維の配向方向)を示す方向ベクトルの始点および終点を含む両端部にトランスグルタミナーゼ水溶液を塗布した。トランスグルタミナーゼ水溶液は、始点側の端部表面および終点側の端部裏面にそれぞれに塗布されている。
【0046】
(3)筒状体(円筒体)の作製、接着
ついで、直径40mmの麺棒の表面にサランラップ(登録商標、旭化成製)を巻いた支持体に、蛋白繊維の配向方向が、円筒体の円周方向と一致するように低脂質性蛋白シートを巻きつけて、トランスグルタミナーゼ水溶液を塗布した端部表面同士を接触させた(図1図3参照)。さらに、低脂質性蛋白シートと支持体全体をサランラップで包み、紐で縛って固定し、冷蔵庫(5℃)にて2時間保持して端部表面同士が接着するように養生した。その後、常温に戻し、紐を解き、サランラップを外し、支持体を抜いて、低脂質性蛋白シートの円筒体からなるイカ様食品1を得た。
【0047】
(実施例2)
以下の点を変更した以外は、実施例1と同様にしてイカ様食品2を得た。
低脂質性蛋白シートの押出方向(蛋白繊維の配向方向)を示す方向ベクトルの始点側および終点側に相当する両端部における、始点側の端部側面(端面)を、カッターナイフを用いて、一方の主面に対して45°の角度、その反対側の主面に対して135°の角度を有するように斜めに切断加工した。ついで、終点側の端部側面(端面)を、カッターナイフを用いて、始点側の端面に対して平行になるように、斜めに切断加工した。
ついで、両端面にトランスグルタミナーゼ水溶液を塗布した後、直径40mmの麺棒の表面にサランラップを巻いた支持体に、低脂質性蛋白シートを巻きつけて、トランスグルタミナーゼ水溶液を塗布した端面同士を接触させた(図2参照)。さらに、低脂質性蛋白シートと支持体全体をサランラップで包み、紐で縛って固定し、冷蔵庫(5℃)にて2時間保持して養生した。その後、常温に戻し、紐を解き、サランラップを外し、支持体を抜いて、低脂質性蛋白シートの円筒体からなるイカ様食品2を得た。
【0048】
(比較例1)
実施例1と同様に原料混合粉および水を混合し、冷却ダイとして厚さ5mmで、内径40mmの円環状スリットが設けられたものを使用し、押出成形により円筒体からなるイカ様食品3を製造した。図4は、比較例1にかかるイカ様食品の模式図である。図4のイカ様食品3では、蛋白繊維20の配向方向Dが、円筒体の周方向ではなく、周方向の垂直方向に一致していた。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
(イカ様食品の調理)
実施例1、2および比較例1にかかるイカ様食品をリング状に幅10mmの輪切りにして醤油を塗布して味つけして、180℃で加熱して焼成サンプルとした。
実施例1、2および比較例1の焼成サンプルを5名で食し、外観および食感について以下の基準で評価した。5名の評価の平均値を表3に示す。
【0052】
外観:5点(天然イカと見分けがつかない)、4点(天然イカと酷似している)、3点(天然イカと若干似ている)、2点(天然イカとあまり似ていない)、1点(天然イカとは全く似ていない)
食感:5点(天然イカと区別できない)、4点(天然イカと酷似している)、3点(天然イカと若干似ている)、2点(天然イカとあまり似ていない)、1点(天然イカとは全く似ていない)
【0053】
【表3】
【0054】
実施例1については、接着部位に段差が生じるため、天然イカの外套膜とは異なる印象を与えており、外観評価が実施例2に比べて低い。また、比較例1では、リング状の焼成サンプルの円周方向に凹凸波形が生じて天然イカの外套膜の外観とは異なる印象を与えるのに対して、実施例1、2では、円周方向に凹凸波形の無いリング状の焼成サンプルが得られている。
比較例1では、蛋白繊維がリング状に輪切りにされた食品の円周に対して垂直方向に配向してしまうため、咀嚼時に簡単にリングが破断してしまい、イカの食感が再現されないと推定される。一方、実施例1、2では、蛋白繊維がリング状に輪切りにされた食品の円周方向に配向し、これがあたかも天然イカの筋原線維のような食感を醸し出し、天然イカと酷似する食品を実現できる。
【符号の説明】
【0055】
1、2、3 イカ様食品
10 低脂質性蛋白シート
20 蛋白繊維
30 接着剤
40 両端部
40A、40B 端部
41A、41B 端面
50 支持体

図1
図2
図3
図4