IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社 堀場アドバンスドテクノの特許一覧

特開2023-93068イオン濃度測定装置、イオン濃度測定方法及びイオン濃度測定プログラム
<>
  • 特開-イオン濃度測定装置、イオン濃度測定方法及びイオン濃度測定プログラム 図1
  • 特開-イオン濃度測定装置、イオン濃度測定方法及びイオン濃度測定プログラム 図2
  • 特開-イオン濃度測定装置、イオン濃度測定方法及びイオン濃度測定プログラム 図3
  • 特開-イオン濃度測定装置、イオン濃度測定方法及びイオン濃度測定プログラム 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093068
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】イオン濃度測定装置、イオン濃度測定方法及びイオン濃度測定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20230627BHJP
【FI】
G01N27/416 351A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208474
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】592187534
【氏名又は名称】株式会社 堀場アドバンスドテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】室賀 樹興
(72)【発明者】
【氏名】安村 怜仁朱
(57)【要約】
【課題】より簡単な構成でイオン濃度を精度よく測定することができるイオン濃度測定装置を提供する。
【解決手段】サンプル液に含まれるイオン濃度に応じた測定電位を出力する作用電極と、前記作用電極から出力される測定電位に対する基準電位を出力する比較電極と、前記サンプル液の抵抗値を測定する抵抗値測定部をさらに備え、前記作用電極及び前記比較電極との間の電位差及び前記抵抗値とに基づいてイオン濃度を算出する算出部とを備えることを特徴とするイオン濃度測定装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル液に含まれるイオン濃度に応じた測定電位を出力する作用電極と、
前記作用電極から出力される測定電位に対する基準電位を出力する比較電極と、
前記サンプル液の抵抗値を測定する抵抗値測定部と、
前記作用電極及び前記比較電極の間の電位差及び前記抵抗値に基づいてイオン濃度を算出する算出部とを備えることを特徴とするイオン濃度測定装置。
【請求項2】
前記抵抗値測定部が、前記比較電極を抵抗値測定用電極として用いるものである、請求項1に記載のイオン濃度測定装置。
【請求項3】
前記算出部が、前記抵抗値を用いて前記電位差を補正するものである、請求項1又は2に記載のイオン濃度測定装置。
【請求項4】
前記作用電極が、カルシウムイオン濃度又はアンモニウムイオン濃度を検出するためのものである、請求項1~3のいずれか一項に記載のイオン濃度測定装置。
【請求項5】
前記サンプル液として、電気伝導率が10mS/cm以上25mS/cm以下の範囲のものを測定する、請求項1~4のいずれか一項に記載のイオン濃度測定装置。
【請求項6】
前記抵抗値測定用電極の表面を洗浄する洗浄機構をさらに備えるものである、請求項2に記載のイオン濃度測定装置。
【請求項7】
サンプル液に含まれるイオンの濃度を測定する方法であって、
前記サンプル液に触れるように配置された作用電極と比較電極との間の電位差及び前記サンプル液の抵抗値を用いて前記イオンの濃度を算出することを特徴とするイオン濃度測定方法。
【請求項8】
サンプル液に含まれるイオンの濃度を測定するためのプログラムであって、
前記サンプル液に触れるように配置された作用電極と比較電極との間の電位差及び前記サンプル液の抵抗値を用いて前記イオンの濃度を算出する算出部としての機能をコンピュータに発揮させるイオン濃度測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプル液中に含まれるイオン濃度を測定するイオン濃度測定装置、イオン濃度測定方法及びイオン濃度測定プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオン濃度測定においては、測定対象であるサンプル液の電気伝導率によって測定値に誤差が生じてしまう場合がある。
サンプル液の電気伝導率による測定値への影響を低減する方法としては、特許文献1に記載されているように、サンプル液の導電率を測定する導電率計を備え、この導電率計から出力される導電率を用いてイオン濃度を補正することが考えられる。
【0003】
しかしながら、この従来の方法では、まず導電率計によって導電率を測定し、この導電率を用いてイオン濃度を補正するため、装置構成が複雑になるという問題がある。複雑な算出手段を必要とするためにイオン濃度測定装置を小型化することが難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4-27856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、より簡単な構成でイオン濃度を精度よく測定することができるイオン濃度測定装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係るイオン濃度測定装置は、サンプル溶液に接するように配置されてサンプル液中のイオン濃度に応じた測定電位を出力する作用電極と、前記サンプル液に接するように配置されて基準電位を出力する比較電極と、前記サンプル液の抵抗値を測定する抵抗値測定部と、前記測定電位と前記基準電位との間の電位差と前記抵抗値とに基づいて前記イオン濃度を算出する算出部とを備えることを特徴とするものである。
【0007】
このように構成されたイオン濃度測定装置によれば、抵抗値を用いて前記イオン濃度を算出するので、導電率を算出する必要が無い。また、前記抵抗値測定部は導電率計である必要は無く、抵抗値を測定できさえすればよい。そのため、所望の測定精度を実現しながらも、できるだけ簡単な構成のイオン濃度測定装置とすることが可能である。
【0008】
前記抵抗値測定部が、前記比較電極を抵抗値測定用電極として用いるものであれば、イオン濃度を測定するために必要な部品のみを用いて、抵抗値を測定することができる。
【0009】
本発明の具体的な実施態様としては、前記算出部が、前記抵抗値を用いて前記電位差を補正するものを挙げることができる。
【0010】
測定対象となるイオンの種類は特に限定されないが、カルシウムイオン又はアンモニウムイオンはサンプル液の電気伝導率によるイオン濃度測定への影響が比較的大きいために、前記作用電極がカルシウムイオン又はアンモニウムイオンを測定するものである場合には、本発明の効果が顕著に奏される。
【0011】
前記サンプル液の電気伝導率が10mS/cm以上25mS/cm以下の範囲である場合に、本発明の効果が特に顕著に発揮される。
【0012】
前記サンプル液の抵抗値を測定するための前記抵抗値測定用電極の表面に汚れが付着すると、前記抵抗値測定部によって測定される抵抗値が変化してしまう恐れがある。そこで、前記抵抗測定用電極の表面を洗浄する洗浄機構をさらに備えているものとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、抵抗値測定部によって測定された抵抗値を用いて前記イオン濃度を補正するので、イオン濃度を精度よく測定しながらも、抵抗値を導電率に換算する手間を省くことができる。また、イオン濃度測定装置が抵抗値測定部を備えているので、導電率計を別途用意する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るイオン濃度測定装置の全体摸式図。
図2】本実施形態に係るイオン濃度測定装置のセンサ部の構造を示す摸式図。
図3】本実施形態に係るイオン濃度測定装置におけるイオン濃度の算出方法を示すフロー図。
図4】本発明の他の実施形態に係るイオン濃度測定装置のセンサ部の構造を示す摸式図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施形態に係るイオン濃度測定装置100について図を参照しながら説明する。
【0016】
本実施形態に係るイオン濃度測定装置100は、例えば、工業排水や水処理施設からの放流水、河川水や沼湖水、地下水などのサンプル液中の、例えば、各種イオン濃度を測定するものである。
【0017】
このイオン濃度測定装置100は、例えば図1に示すように、作用電極1と、比較電極2と、これら作用電極1と比較電極2との間の電位差に基づいてイオン濃度を算出する算出部3と、該算出部3によって算出されたイオン濃度等を表示する表示部4とを備えている。
【0018】
前記作用電極1は、サンプル液に接するように配置されることによって、サンプル液中の特定のイオンの濃度に応じた測定電位を出力するものである。本実施形態に係る作用電極1は、例えば、図2に示すように、樹脂からなる円筒状の作用電極筐体11と、該作用電極筐体11の内部に配置された測定用内部電極(不図示)と、前記作用電極筐体11の先端に前記サンプル液に接するように取り付けられたイオン応答膜12と、前記作用電極筐体11の内部に収容されて、前記測定用内部電極と前記イオン応答膜12とを電気的に接続する測定用内部液とを備えている。前記イオン応答膜12は、例えば、カルシウムイオンに応答するものである。前記測定用内部電極は、例えば、銀/塩化銀電極であり、前記測定用内部液は、例えば、塩化カリウム水溶液である。
【0019】
前記比較電極2は、前記作用電極1から出力される測定電位に対する基準電位を出力するものであり、例えば、図2に示すように、樹脂からなる比較電極筐体21と、該比較電極筐体21の内部に収容された比較用内部電極(不図示)と、該比較電極筐体21を厚み方向に貫通して、前記比較電極筐体21の試料と接する表面に開口するように形成された貫通孔と該貫通孔の内部に取り付けられた多孔質セラミック等とからなる液絡部22と、前記比較電極筐体21の内部に収容されて、前記比較電極用内部電極と前記液絡部22とを電気的に接続する比較電極用内部液とを備えている。前記測定用内部電極は、例えば、銀/塩化銀電極であり、前記測定用内部液は、例えば、塩化カリウム水溶液である。
【0020】
前記算出部3は、例えば、前記作用電極1と前記比較電極2との間に配置されて、これら作用電極1と比較電極2との間の電位差を検出する電位計5から出力される前記電位差に基づいてイオン濃度を算出するものであり、例えば、CPU、メモリ、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ等を備えた情報処理回路が、前記メモリの所定領域に格納されたプログラムに従ってCPUや周辺機器が協働することによりその機能を発揮するように構成されている。
【0021】
しかして、本実施形態に係るイオン濃度測定装置100は、図1に示すように、サンプル液の抵抗値を測定する抵抗値測定部6をさらに備えるものである。
前記抵抗値測定部6は、抵抗値測定用電極61と、アース極62と、抵抗値出力部63とを備えている。
前記抵抗値出力部63は、サンプル液に浸漬されている前記抵抗値測定用電極61と前記アース極62との間において検出される抵抗値(例えば、抵抗カウント値)を前記算出部3に対して出力するものである。
【0022】
本実施形態では、図2に示すように、前記比較電極2を前記抵抗値測定用電極61として用いている。
前記算出部3は、前述したように前記作用電極1と前記比較電極2との間の電位差に基づいてイオン濃度を算出する際に、前記抵抗値測定部6によって測定された抵抗値をも参照してイオン濃度を算出するものである。
【0023】
前記算出部3が、前記電位差及び前記抵抗値に基づいてイオン濃度を算出する具体的な方法は、例えば、図3に示すようなものである。
【0024】
前記電位計5から出力される前記作用電極1と前記比較電極2との間の電位差と、前記抵抗値測定部6から出力される抵抗値を受け付けて、該電位差を前記抵抗値で補正するようにしている。
【0025】
より具体的には、あるサンプル液の電気伝導率と同じサンプルについて抵抗値測定部6によって測定される抵抗カウント値との間の相関関係を表す相関関係式を予め求めておく。この電気伝導率と抵抗カウント値と間の相関関係は、各イオン濃度測定装置100における個体差が比較的小さいため、予め求めた相関関係式をイオン濃度測定装置100の出荷時に記憶させておくものとしても良い。
【0026】
また、例えば、測定対象であるイオンの濃度が既知の標準サンプル液を用いて、イオン濃度一定のままで電気伝導率を変化させた場合に前記電位計5から出力される電位差を計測し、電気伝導率(導電率)と電位差との間の相関関係を表す相関関係式を予め求めておく。
【0027】
前述したような手順で予め求めておいた2つの相関関係式を用いて、前記抵抗カウントと前記電位差との相関関係式を作成し、これをイオン濃度測定装置に記憶させておく。
【0028】
その後、イオン濃度及び電気伝導率が未知のサンプル液について、前記電位差及び前記抵抗カウント値を測定し、これらを受け付けた算出部3は、抵抗カウント値と電位差との相関関係式を用いて、前記電位差を前記抵抗カウント値で補正する。
この補正後の電位差とネルンストの式に基づいて、算出部3がイオン濃度を算出する。
【0029】
本実施形態に係るイオン濃度測定装置100及びイオン濃度測定方法によれば、算出部3が作用電極1と比較電極2との間の電位差を、前記抵抗値測定部6によって測定された抵抗値によって補正し、この補正後の電位差を用いてイオン濃度を算出するので、サンプル液の電気伝導率の変化によるイオン濃度の変動をできるだけ抑えることができる。
【0030】
前記算出部3が、前記抵抗値測定部6によって測定された抵抗カウント値をそのまま用いて、前記電位差を補正するので、前記抵抗カウント値から電気伝導率(導電率)を算出するための装置構成を省くことができる。
【0031】
前記抵抗値測定用電極61として、イオン濃度測定装置100が必ず備えている比較電極2を用いているので、イオン濃度測定装置100の部品点数を増やす必要がない。
【0032】
<本発明に係るその他の実施形態>
本発明は前記実施形態に限られるものではない。
抵抗値測定用電極の表面が汚れると測定される抵抗値が変動してしまう可能性がある。そこで、抵抗値測定用電極の表面を洗浄する洗浄機構7をさらに備えるものとすることが好ましい。
【0033】
前記洗浄機構7としては、例えば、図4に示すように、前記比較電極の表面に対して紫外線を照射する光源71を備えるものや、前記比較電極の表面に形成された二酸化チタンなどのセルフクリーニング効果を有する防汚被膜を備えるものとしても良いし、前記比較電極の表面から汚れを物理的に擦り落とす洗浄部材を備えるものなどとしても良い。
【0034】
前記抵抗値測定用電極は、前記比較電極に限らず、例えば温度センサ等のイオン濃度測定装置が備えている他の電極や部品等がその機能を兼ねるものとしても良い。
また、アース極を別途設けることなく、前記アース極の機能を他の電極などが兼ねるものとしても良い。
【0035】
温度を測定する温度センサをさらに備え、この温度センサから出力される温度に関する情報に基づいて、イオン濃度測定結果をさらに補正するものとしても良い。
【0036】
前記実施形態においては、前記作用電極がカルシウムイオン濃度に応じた電位を出力するものである場合について説明したが、前記作用電極がアンモニウムイオンに応答するものであっても良いし、水素イオンやカリウムイオン、ナトリウムイオンなど他の種類のイオンに応答するものである場合であっても良い。
【0037】
前述した実施形態においては、作用電極と比較電極との筐体が一体となっている複合電極である場合について説明したが、これら作用電極と比較電極とは互いに独立した筐体を有するものとしても良い。
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、種々の変形や実施形態の組合せを行ってもかまわない。
【実施例0038】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限られるものではない。
【0039】
この実施例においては、前記実施形態で詳述したイオン濃度測定装置を使用して、カルシウムイオン濃度測定を行い、本発明に係るイオン濃度測定方法によって、イオン濃度測定の精度が向上することを確かめた。具体的な実験手順は以下の通りである。
【0040】
サンプル液としては、カルシウムイオン濃度が40mg/Lの水溶液を用いた。
この水溶液に、塩化カリウムを添加して、カルシウムイオン濃度は一定のままで電気伝導率が異なる複数のサンプル液を調製した。
【0041】
前述した電気伝導率の異なる複数のサンプル液について、比較電極とアース極との間で測定された抵抗カウント値と、作用電極及び比較電極との間で実際に測定された出力電位と、比抵抗カウント値を用いて補正された補正後の電位差と、補正後の電位差に基づいて算出されたカルシウムイオン濃度をそれぞれ求めた。
【0042】
前述した実験の結果から、カルシウムイオン濃度が一定であるにも関わらず、電気伝導率が異なる各サンプルについての前記出力電位は、電気伝導率が上がるにつれて徐々に低下していることが分かった。また、同じ実験結果から、前記抵抗カウント値についてもサンプルの電気伝導率が上がるにつれて徐々に低下していることが分かった。これら結果を評価した結果、抵抗カウント値の変化量と出力電位の変化量との間には、比較的高い相関関係があることが分かった。そこで、この相関関係を用いて補正された補正後の電位差は、サンプルの電気伝導率を変化させた場合の変化量が前記出力電位の変化量よりも明らかに小さくなり、安定していることが分かった。また、この補正後の電位差とネルンスト式に基づいて算出されるカルシウムイオン濃度についても、安定して40mg/L付近の値を示すことが確かめられた。このように補正後の電位差を用いて算出したカルシウムイオン濃度の誤差は許容範囲内のものであることが確認されている。
【0043】
また、前記実験の結果から、前述した抵抗カウント値と出力電位との相関関係は、特にサンプル液の電気伝導率が10mS/cm以上25mS/cm以下の範囲において、高く相関していることが分かった。そのため、電気電度率が前述した範囲内のサンプル液においては、より本発明に係るイオン濃度測定装置及びイオン濃度測定方法による効果が顕著に発揮されることが推測される。
【符号の説明】
【0044】
100・・・イオン濃度測定装置
1 ・・・作用電極
2 ・・・比較電極
3 ・・・算出部
6 ・・・抵抗値測定部
7 ・・・洗浄機構
図1
図2
図3
図4